【実施例】
【0040】
以下に、本発明に係るアセトンを生成する組換え好熱性細菌及びそれを用いたアセトンの製造方法について詳細に説明するための実施例を示す。
【0041】
[使用菌株、プラスミド及びプライマー]
本実施例で使用した菌株、プラスミド及びPCRプライマーをそれぞれ下記表1〜表3に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
[基本培地及び基本溶液の調製]
(モーレラ細菌用基本培地の調製)
本実施例では、C. ljungdahliiの培養に用いられるATCC 1754 PETC培地を改変したものを基本培地として用いた。改変として、塩酸システイン・一水和物の最終濃度を1.2g/Lに減らし、Na
2S・9H
2Oを除いた。培地の作製において、還元剤(システイン及びTi(III)クエン酸)及び基質(フルクトース等)は別に調製した。嫌気的に培地を調製する方法として、Hungateの方法(Hungate, R. E., 1969, Methods Microbiol., 3B: 117-132)を改変したMillerらの方法(Miller, T. L. et al., 1974, Appl. Microbiol., 27: 985-987)を用いた。各成分の組成は以下の通りである。1.0gのNH
4Cl、0.1gのKCl、0.2gのMgSO
4・7H
2O、0.8gのNaCl、0.1gのKH
2PO
4、0.02gのCaCl
2・2H
2O、1.0gの酵母エキス(酵母エキス無添加の場合は0.01gのウラシル)、2.0gのNaHCO
3、10mlの微量元素溶液、10mlのビタミン溶液、1000mlのイオン交換水、(必要に応じて20gのアガー)、(必要に応じて2.0gのフルクトース)。調製手順は以下の通りである。まず、上記各成分を混合し、5NHClでpH6.9に調整後、イオン交換水で900mLにメスアップし、培地を湯浴でボイル(20分間)した。その後、N
2/CO
2(80:20)を注入しながら氷中で冷却(20分間)し、予めN
2/CO
2を注入しておいた125mLバイアル瓶に45mLずつ分注し、さらに、N
2/CO
2を3分間注入した後、ブチルゴム栓及びアルミシールで密閉した。その後、当該バイアル瓶をオートクレーブ(121℃、15分)した。
【0046】
(微量元素溶液の調製)
イオン交換水に以下の成分を溶解後、1Lにフィルアップした。2.0gのニトリロトリ酢酸(ニトリロトリ酢酸を溶解させた後、KOHでpH6.0に調整)、1.0gのMnSO
4・H
2O、0.8gのFe(SO
4)
2(NH
4)
2・6H
2O、0.2gのCoCl
2・6H
2O、0.2mgのZnSO
4・7H
2O、20.0mgのCuCl
2・2H
2O、20.0mgのNiCl
2・6H
2O、20.0mgのNa
2MoO
4・2H
2O、20.0mgのNa
2SeO
4、20.0mgのNa
2WO
4。溶液は遮光し4℃で保存した。
【0047】
(ビタミン溶液の調製)
イオン交換水に以下の成分を溶解後、1Lにフィルアップした。2.0mgのビオチン、2.0mgの葉酸、10.0mgのピリドキシン塩酸塩、5.0mgのチアミン・HCl、5.0mgのリボフラビン、5.0mgのニコチン酸、5.0mgのカルシウム D−(+)−パントテン酸、0.1mgのビタミンB12、5.0mgのp−アミノ安息香酸、5.0mgのチオクト酸。溶液は遮光し4℃で保存した。
【0048】
(フルクトース溶液(200g/L)の調製)
フルクトースをイオン交換水と混合して200g/Lの濃度で調製し、バイアル瓶に分注した後、20分間ボイルした。その後、N
2ガスを注入しながら氷冷し20分間冷却後、ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉した。その後、オートクレーブ(121℃、15分)を行った後、室温保存した。
【0049】
(還元剤システイン(60g/L)の調製)
L−システイン・HCl・H
2Oをイオン交換水と混合して60g/Lの濃度で調製し、バイアル瓶に分注した後、20分間ボイルした。その後、N
2ガスを注入しながら氷冷し20分間冷却後、ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉した。その後、オートクレーブ(121℃、15分)を行った後、遮光し室温保存した。培地使用前に1/50量を添加した。
【0050】
(還元剤Ti(III)クエン酸溶液の調製)
イオン交換水にクエン酸ナトリウム二水和物(11.76g)を加えて、200mLにメスアップした。20分間ボイルして脱気後、N
2を注入しつつ氷中で20分間冷却した。その後、20%塩化チタン(III)水溶液(ナカライテスク)(10.6mL)を混合し、湯煎で沈殿を溶解させた飽和炭酸ナトリウム水溶液でpH6.0に調整後、予めN
2を注入しておいた125mLバイアル瓶に80mLずつ分注した。さらにN
2を3分間注入した後、ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉した。オートクレーブ(121℃、15分)後に遮光し室温保存した。これを培地に対して1、2滴添加した。
【0051】
(ウラシル溶液(10mg/mL)の調製)
ウラシル(300mg)をジメチルスルホオキシド(DMSO)(30mL)に溶解した。バイアル瓶に移し、ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉、遮光し室温保存した。
ウラシル溶液は、ウラシル要求性変異株(ΔpyrF株)培養時のみ培地に対して1/1000量を添加した。
【0052】
(モーレラ属細菌用エレクトロポレーション・バッファー(272mMスクロース溶液)の調製)
スクロースをミリQ水に溶解し、272mM溶液を調製した。20分間ボイルして脱気後、N
2を注入しつつ氷中で20分間冷却した。ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉し、オートクレーブ(121℃、15分)後に室温保存した。
【0053】
(LB培地の作製)
10gのトリプトン(ナカライテスク)、5gの酵母エキス(ナカライテスク)、10gのNaClを1000mLのイオン交換水に溶かしてオートクレーブした。プレート作成時には寒天末を1.5%添加した。
【0054】
(2×YT培地の作製)
16gのトリプトン(ナカライテスク)、10gの酵母エキス(ナカライテスク)、5gのNaClを1000mLのイオン交換水に溶かしてオートクレーブした。プレート作成時には寒天末を1%添加した。
【0055】
(SOB培地の作製)
950mLのイオン交換水に対して、20gのトリプトン(ナカライテスク)、 5gの酵母エキス(ナカライテスク)、 0.5gのNaCl、及び10mLの250mM KClを溶解後、pHを7.0に調整し、イオン交換水で1000mLにメスアップした。オートクレーブ後、使用直前にオートクレーブ滅菌した2MMgCl
2(5mL)を添加した。
【0056】
(Inoueトランスフォーメーションバッファーの調製)
まず以下の手順で、0.5MPIPES(piperazine−1,2−bis[2−ethanesulfonicacid])を準備した。PIPES(15.1g)をミリQ水(80mL)に溶解し、5NKOHを用いてpHを6.7に調整後、ミリQ水で100mLにメスアップした。その後、0.45μmフィルターで濾過滅菌し、−20℃で保存した。次に、以下の試薬をミリQ水(800mL)に溶解して、Inoueトランスフォーメーションバッファーを調製した。10.88gのMnCl
2・4H
2O、2.20gのCaCl
2・2H
2O、18.65gのKClを溶解後、0.5MPIPES(20mL)を添加し、ミリQ水で1000mLにメスアップした。その後、0.45μmフィルターで濾過滅菌し、−20℃で保存した。
【0057】
[使用機器]
本実施形態において使用した機器は以下の通りである。
インキュベーター
BR−43FH(タイテック):振とう培養(55℃、180rpm)
TVA660DA(アドバンテック):静置培養(55℃)
IS−61(ヤマト科学):静置培養(37℃)
遠心分離機 MX300(トミー精工) Centrifuge5410(エッペンドルフ)
吸光光度計 Ultrospec 3300pro(アマシャムバイオサイエンス):菌体濃度測定
DNA、RNA濃度測定 UV−1600(島津製作所):酵素活性測定
pHメーター F−21(堀場製作所):電極はCM057−BNC(CEMCO)を使用
PCR装置 PC808(アステック) GeneAmpPCR System 2400(パーキンエルマー)
ブロックインキュベーター BI−525A (アステック)
超音波破砕機 Digital Sonifier(ブランソン)
qRT−PCR Light Cycler 1.5(ロシュ・ダイアグノスティックス)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置(詳細は後に説明する。)
ガスクロマトグラフィー(GC−MS)装置(詳細は後に説明する。)。
【0058】
HPLCのシステムは、以下の通りである。
PU−2080 Plus(HPLCポンプ)、RI−2031 Plus(RIディテクター)、CO−2065 Plus(カラムオーブン)、AS−2057 Plus(オートサンプラー)を用いた(いずれもJASCO)。移動相は0.1%(v/v)H
3PO
4を用い、0.7mL/分の流速で流した。分離カラムには、RSpakKC−811(Shodex)を用いた。また、ガードカラムとして、RSpak KC−G(Shodex)を分離カラムの前に設置した。カラムオーブンの温度は、60℃に設定した。測定時にはサンプルの上清に、内部標準として100mMのクロトン酸を含む0.2%(v/v)H
3PO
4を1:1で混合し、酢酸セルロース親水性フィルター0.20μm(Dismic(登録商標)−13CP)で濾過してから測定を行った。オートサンプラーのインジェクションボリュームは10μLとした。
【0059】
GC−MSのシステムは、Agilent 7000 GC/MS Triple Quad(Agilent社)を用いた。移動相はヘリウムを用い、0.7ml/minの流速で流した。分離カラムには、J&W GC columns DB−WAX (Agilent社)を用いた。分析は40℃で4分間保持した後、5℃/minで100℃まで加熱、さらに10℃/minで200℃まで加熱後、10分間保持することにより行った。注入口温度は250℃とした。
【0060】
[組換え細菌(モーレラ・サーモアセチカ)の作製]
(大腸菌の培養)
大腸菌をLB培地、2×YT培地及びSOB培地を使用し、37℃で培養した。カナマイシン耐性株のスクリーニングはカナマイシン(50μg/mL)を含むプレートを、クロラムフェニコール耐性株のスクリーニングにはクロラムフェニコール(10μg/mL)を含むプレートを使用した。
【0061】
(大腸菌コンピテントセルの作製)
ヒートショックによる形質転換に用いるコンピテントセルの作製は、井上法(Inoue et al., 1990, Gene 96: 23-28)を参考に、以下の手順で行った。まず、大腸菌を寒天入りLB培地に塗布し、37℃で1晩培養した。得られたシングルコロニーを2×YT(5mL)に植菌し、6〜8時間振とう培養(37℃、280rpm)した。さらに、得られた培養液(2mL)をSOB培地(100mL)に植菌し、OD600=0.55程度になるまで振とう培養(18℃、120rpm)した。得られた培養液を50mlずつ分注し、10分間氷上静置した。10分後、遠心分離(2500×g、4℃)し、上清を取り除いた後、氷冷した Inoueトランスフォーメーションバッファー(16mL)で菌体ペレットをタッピングにより静かに懸濁した。懸濁後、氷上で10分間静置し、遠心分離(2500×g、4℃)した。遠心分離後、上清を取り除き、氷冷したInoueトランスフォーメーションバッファー(4mL)で菌体ペレットをタッピングにより静かに懸濁した。DMSO(ジメチルスルホオキシド)(300μL)を添加し、混合した後、適当量分注し、液体窒素により急速冷凍した。作製したコンピテントセルは−80℃で保存した。エレクトロポレーションによる形質転換に用いるコンピテントセルの作製は、上記と同様に培養した菌体を滅菌水にて2回洗浄後、菌体量と同量の10%グリセロールに懸濁し行った。作製したコンピテントセルは−80℃で保存した。
【0062】
(プラスミドの構築)
モーレラ・サーモアセチカ細菌の内在性ホスホアセチルトランスフェラーゼ発現遺伝子(PduL2)の破壊、及び外来のアセトン合成遺伝子(チオラーゼ、CoAトランスフェラーゼ、及びアセト酢酸デカルボキシラーゼの発現遺伝子)導入用のプラスミドpK18−ΔpduL2::acetoneは以下の手順で構築した。プライマーセットJK50、JK51を用いてG3PDプロモーターとそれに続く4つのアセトン合成遺伝子群をKOD plus ver.2(TOYOBO)を用いてPCR法により増幅した。ここで、4つのアセトン合成遺伝子群としては、Caldanaerobacter subterraneus subsp. tengcongensis由来のチオラーゼ(thl、遺伝子番号TTE0549:配列番号7)、Thermosipho melanesiensis由来のCoAトランスフェラーゼ(ctfA及びctfBにコードされる2つのタンパク質による複合体ctfAB、遺伝子番号Tmel_1135:配列番号8及びTmel_1136:配列番号9)、Clostridium acetobutylicum由来のアセト酢酸デカルボキシラーゼ(adc、遺伝子番号CA_P0165:配列番号10)を用いた。プロトコルは添付のマニュアルに従った。鋳型となるDNAは人工遺伝子合成(GenScript)により用意し、それぞれの遺伝子の配列はモーレラ・サーモアセチカ細菌での発現に最適となるようコドン最適化を行ったものを用いた(thl:配列番号11、ctfA:配列番号12、ctfB:配列番号13、adc:配列番号14)。同様に、プライマーセットJK52、JK53を用いてpduL2の上流と下流それぞれ約1kbp、及びウラシル選択制のマーカーであるpyrFマーカーがpK18mobベクターにつながれた配列を同様にPCR法により増幅した。鋳型としてはpK18−ΔpduL2::ldh(Iwasaki et al.,2017, Appl.Environ. Microbiol. 83(8) e00247-17)を用いた。これら2つのPCR増幅DNA断片をIn−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いてつなげ、大腸菌HST08株を形質転換することでクローニングした。得られたDNAコンストラクト(
図1(a)のpduL2::acetone導入用プラスミドを参照)はサンガーシーケンスによりPCRエラーなどがないことを確認した。参考として、得られたプラスミドにおけるpduL2上流からpduL2下流までの配列は、配列表に配列番号15として示す。
【0063】
(モーレラ・サーモアセチカへのアセトン合成遺伝子群導入)
Kita et al.,2013, J. Biosci.Bioeng. 115(4):347-352にて確立された方法に従いモーレラサーモアセチカ(ATC39073株)の形質転換を行った。構築したプラスミドpK18−ΔpduL2::acetoneは、モーレラサーモアセチカ(ATC39073株)のDNAメチラーゼ遺伝子を導入したプラスミドpBAD1281とともに大腸菌Top10株にエレクトロポレーション法により導入した。この大腸菌よりDNAを調整することでモーレラ・サーモアセチカ(ATC39073株)型にメチル化されたDNAを取得した。モーレラサーモアセチカ(ATC39073株)の形質転換法は、以下の点を改変した。ウラシル要求性をマーカーとして用いるため、菌株はΔpyrF株を用いた。菌体は、上述の基本培地に糖源として終濃度11mMフルクトースを添加し、47℃〜55℃で培養、吸光度OD600の値が0.3〜1.1程度となった培養から用意した。添加したDNA量は10〜30μgとした。形質転換により得られたクローンはPCR法によってpduL2領域のDNAを増幅し、遺伝子導入により相当の大きさにサイズが変化したことにより確認した(
図1(a)及び(b)を参照)。
図1(b)に示すように、野生型(ここではΔpyrF株)では増幅サイズが960bpだが、遺伝子群の導入により4854bpにサイズが増大することが示された。
【0064】
以上のようにして、モーレラ・サーモアセチカを親株とし、内在性PduL2が欠損し、thl、ctfAB及びadcを発現する組換え株(pduL2::acetone)を得た。なお、この株は受領番号NITE AP−03217として寄託されている。
【0065】
[組換え株のアセトン生成能の評価]
上記のようにして得られた組換え株(pduL2::acetone)のアセトン生成能を以下の通りに評価した。
【0066】
まず、モーレラ属が資化する糖の1種であるフルクトースを基質として、組換え株(pduL2::acetone)と、コントロールとして内在性PduL2の遺伝子座に、相同組換えにより外来のアセトン合成遺伝子の代わりに乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子ldhが導入されたpduL2::ldh株とを培養した。用いた培地は上述の基本培地であり、フルクトース濃度は2.0g/Lとし、培養温度は55℃とした。72時間の培養後にその培養上清を回収し、それぞれ培養上清及び市販のアセトン標品をHPLCにより解析し、それらの結果を比較した。
図2に示すように、pduL2::acetone株の培養上清において、標品のアセトンと同じ保持時間に検出されるピークを確認した。このピークはpduL2::ldh株では検出されないため、pduL2::acetone株に特異的なピークであり、pduL2::acetone株のアセトン生成を示すものである。
【0067】
さらに、これらの培養上清について、GC−MSによる解析も行った。その結果、
図3に示すように、アセトンを示す質量電荷比58のピークが、アセトン標品とpduL2::acetone株の培養上清で同じ保持時間に検出された。なお、pduL2::ldh株ではピークは検出されなかった。これらのピークについてMS/MS解析を行うとアセトンに特徴的な質量電荷比58、43のピークが検出された。これらの結果から本発明で構築したpduL2::acetone株はアセトンを生成しているといえる。
【0068】
次に、pduL2::acetone株について、炭素源としてフルクトースを加えた培養の菌体増殖、及び生産物の生成量の測定を経時的に行った。培養条件は上記HPLC及びGC−MS試験での培養条件と同様の条件とした。菌体増殖は吸光光度計による菌体濁度OD600をもとに菌体重量を算出して評価した。具体的に、OD600と乾燥菌体重量(dry cell weight)は正比例の関係にあり、OD600=1.0のとき0.383g/Lである(Iwasaki et al.,2017, Appl.Environ. Microbiol. 83(8) e00247-17)ため、関係式に基づき、測定したODより乾燥菌体重量を算出した。一方、生産物の測定はHPLCにより糖及び生産物濃度を経時的に測定した。その結果、
図4(a)に示すように、pduL2::acetone株の菌体重量は24時間まで増加を続け、その後、緩やかに低減した。これは、基質であるフルクトースを全て消費したためと考えられる。また、
図4(b)に示すように、培養開始から約20時間後にpduL2::acetone株は13.3mMのフルクトースを完全に消費し、アセトン19.6mMを生産した。副生物の酢酸は4.7mM生産された。以上の結果から、pduL2::acetone株は、糖を基質としてアセトンを生成でき、また、副生物として酢酸を生成することが示された。
【0069】
次に、pduL2::acetone株について、CO、H
2、CO
2から構成される合成ガスの存在下での菌体増殖、並びにアセトン、酢酸及びギ酸の生成量を経時的に測定した。測定方法は、上記試験と同様に、菌体増殖は菌体濁度OD600をもとに菌体重量を算出して評価し、生産物の測定はHPLCにより生産物濃度を経時的に測定した。まず、ヘッドスペースに注入したH
2とCOとの比が1:1(それぞれ0.4気圧)、CO
2が培地中の炭酸水素ナトリウム(2.0g/L)から供給される系で培養すると、pduL2::acetone株は、
図5(a)に示すように、菌体重量は60時間まで増加を続け、その後、緩やかに低減した。また、この系においてpduL2::acetone株は、
図5(b)に示すように、5.2mMのアセトンを生産し、7.0mMの酢酸を生産した。エネルギー源となるH
2を添加しない条件でも同様に測定を行ったところ、
図5(c)に示すように、水素添加時と同様に菌は増殖したが、
図5(d)に示すように物質生産は低下し、最終生産量はアセトン1.8mM、副生物の酢酸は4.2mMであった。また、COを添加しない条件でも測定を行い、ヘッドスペースにCO
2+H
2ガスを比1:4で合計2気圧注入し測定を行った。
図5(e)に示すように、この場合の菌体増殖はわずかであり、
図5(f)に示すように、アセトンの生産は1.8mM、酢酸は3.3mM生産した。この場合、ギ酸(formate)も生産物として蓄積したことから、ATPが不足したために固定したCO
2の代謝が途中からギ酸で停止したこと、及びATP不足が増殖が少なかった原因であることが考えられた。
【0070】
そこで、次に、CO
2+H
2に加えて少量のフルクトースを添加し、ATP生成を補い経時的に生産物を定量した。比較はCO
2+H
2培養にフルクトース4mMを添加した場合と、フルクトース4mMのみの場合で行った。CO
2+H
2培養にフルクトース4mMを添加した場合では、
図6(a)に示すように、菌体重量は24時間まで増加を続け、その後、緩やかに低減した。また、この系においてpduL2::acetone株は、
図6(b)に示すように、フルクトースを完全に消費し、アセトンの最終濃度は5.8mM、酢酸は5.3mMであった。一方、フルクトースのみで培養を行った場合、
図6(c)に示すように、菌体増殖はCO
2+H
2培養にフルクトース4mMを添加した場合と同様の結果であったが、
図6(d)に示すように、アセトン4.0mM、酢酸4.5mMであった。この場合も、フルクトースは完全に消費した。最終生産物量を比較するとCO
2+H
2を添加した場合は明らかに酢酸およびアセトンの生産量が増加していた。この生産物量増加はCO
2を資化して酢酸およびアセトンを合成したものに由来し、ATP生成が担保されれば副生物は酢酸のみでギ酸の蓄積はおこらないことが示された。
【0071】
以上から、本発明に係る組換え細菌によると、糖やCO等の炭素源からアセトンを高い効率で生成できることが示された。また、糖やH
2の存在下ではATP生成が担保されて、より高い効率でアセトンを生成できて好ましいといえる。