【解決手段】 平均粒子径が5〜100nmのニッケルナノ粒子及びバインダー樹脂を非極性溶媒中に分散させたニッケルナノ粒子ペーストに、水又は1wt%以上の過酸化水素水を接触させることによって、前記ニッケルナノ粒子の表面に皮膜を生成させるとともに、ニッケルナノ粒子同士を直接又は前記皮膜を介して凝集させて得られるニッケルナノ粒子凝集体。
平均粒子径が5〜100nmのニッケルナノ粒子及びバインダー樹脂を非極性溶媒中に分散させたニッケルナノ粒子ペーストに、水又は1wt%以上の過酸化水素水を接触させることによって、前記ニッケルナノ粒子の表面に皮膜を生成させるとともに、ニッケルナノ粒子同士を直接又は前記皮膜を介して凝集させて得られるニッケルナノ粒子凝集体。
前記ニッケルナノ粒子が、ニッケル単独又は、ニッケルと、リチウム、銅、鉄、コバルト、金、白金及びパラジウムから選ばれる1種以上の金属との合金からなる、請求項1から3のいずれか1項に記載のニッケルナノ粒子凝集体。
前記ニッケルナノ粒子が、ニッケルナノ粒子中に含まれる金属成分の99wt%以上がニッケルである、請求項1から4のいずれか1項に記載のニッケルナノ粒子凝集体。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
本発明のニッケルナノ粒子凝集体は、平均粒子径が5〜100nmのニッケルナノ粒子及びバインダー樹脂を非極性溶媒中に分散させたニッケルナノ粒子ペーストに、水又は1wt%以上の過酸化水素水を接触させることによって、前記ニッケルナノ粒子の表面に皮膜を生成させるとともに、ニッケルナノ粒子同士を直接又は前記皮膜を介して凝集させて得られるものである。
【0019】
ここで、上記ニッケルナノ粒子は、上記平均粒子径のものであれば、気相法で合成された粒子、液相法で合成された粒子等、公知の製法で製造された粒子を適用することができるが、好ましくは、ニッケルカチオンが生成し易いという理由から、液相法で合成された粒子である。
【0020】
また、下記式(1)で計算される計算値Vが3以上のニッケルナノ粒子であることが好ましい。
V=A×D
3/S/10000000 ・・・(1)
{式中、AはJIS K 0102 59.1に規定するニッケルの測定法で検出されるニッケルジメチルグリオキシムの検出量[ppm]を意味し、Sはガス吸着法で測定されるニッケル粒子の比表面積[m
2/g]を意味し、Dは走査型電子顕微鏡(SEM)で測定されるニッケル粒子の平均粒子径[nm]を意味する。}
この範囲であれば、皮膜を形成するニッケルカチオンが十分に生成するという利点があり、凝集体を形成しやすくなる。
【0021】
また、本発明のニッケルナノ粒子凝集体は、ニッケルナノ粒子表面に水酸化ニッケルが生成することが、凝集体形成のために必要である。従って、ニッケルナノ粒子の材質は、粒子表面に水酸化ニッケルが生成し得る、ニッケル単独又は、ニッケルと、リチウム、銅、鉄、コバルト、金、白金及びパラジウムから選ばれる1種以上の金属との合金であることが好ましい。
また、上記理由から、ニッケルナノ粒子中のニッケル濃度が高い方が好ましく、具体的には、ニッケルナノ粒子中に含まれる金属成分の99wt%以上がニッケルであることが好ましい。
【0022】
以下に、ニッケルナノ粒子の好ましい製造方法について例示する。
本実施の形態で用いるニッケルナノ粒子は、下記の工程A及び工程B;
A)ニッケル塩及び還元剤を混合して錯化反応液を得る工程、
B)錯化反応液を加熱して、該錯化反応液中のニッケル成分を還元し、ニッケルナノ粒子のスラリーを得る工程、
を含む方法によって製造できる。好ましくは、さらに、次の工程C;
C)ニッケルナノ粒子スラリーを洗浄溶媒にて洗浄する工程、
を実施してもよい。そして、合成するニッケルナノ粒子の粒子径を制御することを目的として、工程Aから、工程Bで錯化反応液を加熱するまでの間のいずれかのタイミングで有機金属化合物を所定量添加しても良い。
【0023】
[工程A]
工程Aは、ニッケル塩及び還元剤を混合してニッケル錯化反応液を得る工程である。
【0024】
<ニッケル塩>
ニッケル塩としては、公知のニッケル塩を挙げることができる。ここで、ニッケル塩としては、例えば、カルボン酸ニッケル塩などの有機酸ニッケル塩や、塩化ニッケル塩、硫酸ニッケル塩、硝酸ニッケル塩、炭酸ニッケル塩などの無機金属塩を挙げられ、これら一種以上の金属塩から選択される。この中でも、粒子径や粒子径分布を制御し易い、COOH基を除く部分の炭素数が1〜12のカルボン酸ニッケル塩が好ましく、酢酸ニッケルとギ酸ニッケルが好ましい。
【0025】
<還元剤>
本実施の形態に用いられる還元剤としては、金属との錯体を形成できるものであれば特に制限はないが、例えば、1級アミンが好適に用いられる。1級アミンは、金属との錯体を形成することができ、ニッケル錯体に対する還元能を効果的に発揮できるため好ましい。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、ニッケル錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンは金属の還元能を有しないため、いずれも単独では使用できないが、1級アミンを使用する上で、生成するニッケルナノ粒子の形状に支障を与えない範囲でこれらを併用することは差し支えない。
【0026】
還元剤は、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、金属錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0027】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するニッケルナノ粒子の分散性を制御することができ、分散性が要求される用途において有利である。ニッケルナノ粒子のスラリー状態での凝集を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミンを挙げることができる。オレイルアミン及びドデシルアミンは、ニッケルナノ粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液で反応を効率的に進行できるので特に好ましい。さらに好ましくは、オレイルアミンである。
【0028】
1級アミンは、ニッケルナノ粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、当該1級アミンの除去後においてもスラリー状態での二次凝集を抑制できる。また、1級アミンは、工程Bにおける還元反応後に、生成したニッケルナノ粒子の固体成分と溶剤または未反応の1級アミンを分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。1級アミンの量は、金属の1molに対して、金属の価数×1倍mol以上の倍率で用いることが好ましく、価数×1.1倍mol以上用いることがより好ましく、価数×2倍mol以上用いることがさらに好ましい。1級アミンの量が、金属の価数×1倍mol未満では、得られるニッケルナノ粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは、金属の価数×10倍mol以下とすることが好ましい。
【0029】
工程Aにおける錯化反応液の形成条件、すなわち、ニッケル塩及び還元剤の混合条件は、ニッケル塩としてカルボン酸ニッケル、還元剤として1級アミンを用いる場合を例に挙げて説明する。この場合、錯形成反応は、室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、例えば100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して反応を行うことが好ましい。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、カルボン酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、錯体配位子としての水分子を解離させることができ、さらにその水を系外に出すことができるので、効率よくアミンとの錯体を形成させることができる。また、カルボン酸ニッケルとしてギ酸ニッケル2水和物を用いる場合は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個のギ酸が存在した錯体構造をとっているため、この2つの配位水と1級アミンの配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱し、錯体配位子としての水分子を解離させることが好ましい。加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができる。加熱時間の上限は特にないが、不必要に長時間熱処理することはエネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。
【0030】
工程Aにおける加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイル温調などの熱媒体や電気ヒーターによる加熱であっても、マイクロ波照射や超音波照射による加熱であってもよい。
【0031】
工程Aでは、均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒をニッケル塩及び還元剤と同時に混合してもよいが、ニッケル塩及び還元剤を先ず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、還元剤が効率的にニッケル原子に配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、ニッケル塩と還元剤との錯形成を阻害しないもので生成したニッケルを酸化しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒等を使用することができる。また、加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましい。このような有機溶媒の具体例としては、パラフィン油が挙げられる。
【0032】
[工程B]
工程Bでは、錯形成反応によって得られたニッケル錯化反応液を加熱し、錯化反応液中のニッケルを還元してニッケルナノ粒子のスラリーを得る。工程Bにおける加熱温度は、得られるニッケルナノ粒子の粒子径、粒子径分布等によって異なるが、吸熱が伴う反応が生じる温度で保持することが好ましい。反応温度を大幅に超えて十分に加熱すると生成したニッケルの触媒作用により炭化水素が分解され、ニッケルナノ粒子表面に炭素が析出し覆うようになるため、ニッケル表面でのニッケルイオンの生成が抑制され、接合性が低下するため好ましくない。
【0033】
加熱時間は特に制限はないが、例えば笠原理化工業株式会社製のニッケル濃度計Ni−5Zを用いて反応液のニッケル濃度を測定して、ニッケルが検出されなくなる時間まで加熱することが好ましい。加熱時間がこれより短いと目的とする粒子径の粒子が得られ難く、更に分散性が低下し易いので好ましくない。また、加熱時間の上限は、粒子径によって加熱時間が変化するため制限は特にないが、反応が終了した後の長時間の加熱は、ニッケル表面に炭素が析出して、ニッケルイオンの生成が抑制され、凝集性が低下するため好ましくない。
【0034】
工程Bにおける生産プロセスとしては、ステンレス製容器を加熱するバッチ方式や連続反応機が用いられ、加熱手段としては、オイル温調などの熱媒体、電気、マイクロ波、超音波を用いた加熱法などが挙げられる。生産コストの観点からオイル温調などの熱媒体、電気を用いた加熱方式が好適に用いられる。また、マイクロ波照射や超音波照射による加熱であってもよい。
【0035】
工程Bでは、ニッケルナノ粒子の分散性を改善したり、酸化を防止するための防錆剤等の機能を付与したりするために、分散剤や機能付与のための添加剤が接合性を妨げない範囲にて添加することができる。
【0036】
[有機金属化合物の添加]
本実施の形態に使用される有機金属化合物は、求核試薬と同様の性質(求核性)を有し、金属錯体に作用するものであれば特に制約がない。好ましい有機金属化合物として、ニッケルナノ粒子の粒子径や粒子径分布の制御しやすさ、安全性、簡便さ、生産性の観点から、アルカリ金属に、アルキル基、アルコキシ基等の有機基が配位したアルカリ金属系有機金属化合物、及び、アルカリ土類金属に、前記有機基が配位したアルカリ土類金属系有機金属化合物を挙げることができる。以下、アルカリ金属系有機化合物及びアルカリ土類金属系有機化合物を総称して、「本有機金属化合物」という。本有機金属化合物は、塩素、臭素、沃素等のハロゲン化物を含有する有機金属ハロゲン化物であってもよい。この場合、それぞれ、アルカリ金属系有機金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属系有機金属ハロゲン化物ともいう。アルカリ金属系有機金属ハロゲン化物はアルカリ金属系有機金属化合物の一形態であり、アルカリ土類金属系有機金属ハロゲン化物はアルカリ土類金属系有機金属化合物の一形態である。
【0037】
アルカリ金属系有機金属化合物を構成するアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを挙げることができ、反応性が高いリチウムを含有する有機リチウムが好適に用いられる。
また、アルカリ土類金属系有機金属化合物を構成するアルカリ土類金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを挙げることができ、反応性が良いマグネシウムを含有する有機マグネシウムハロゲン化物が好適に用いられる。なお、アルミニウムにアルキル基が配位したアルキルアルミニウムは、発火性が強いため、安全性及び簡便さの観点から、アルカリ金属系、及びアルカリ土類金属系の有機金属化合物が、より好適に用いられる。
【0038】
本有機金属化合物は、例えばテトラヒドロフラン、ヘキサン、トルエン、シクロヘキサン、ブチルエーテル、ジブチルエーテル等の有機溶媒によって希釈した希釈溶液として用いることが好ましい。希釈溶液の濃度に制限はないが、微量で粒子径に影響する場合は低濃度の方が制御し易いので好ましい。
【0039】
アルカリ金属系有機金属化合物としては、安価で汎用的なn−ブチルリチウムやフェニルリチウムが好適に用いられ、これらのトルエン溶液やn−ヘキサン溶液が、安全性及び簡便さの観点から特に好適である。
また、アルカリ土類金属系有機金属化合物として、エチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムクロリド、2−ブチルマグネシウムクロリド−塩化リチウム錯体、ブチルマグネシウムブロミドが好適に用いられ、これらのテトラヒドロフラン溶液が特に好適に用いられる。
【0040】
本有機金属化合物の添加量は、目的とする粒子径に応じた添加量を選定すればよいため、特に制限はない。具体的には、有機金属化合物の添加量は、以下に例示するとおりである。
【0041】
本有機金属化合物は、工程Aから、工程Bで錯化反応液を加熱するまでの間のいずれかのタイミングで添加すればよい。例えば、有機金属化合物は、工程Aでニッケル塩及び還元剤を混合して余分な水分を除去した後に添加してもよいし、錯化反応液を調製した後で添加してもよい。また、本有機金属化合物は、水分によって失活し効果を失い易いことから、工程Bで錯化反応液を加熱する直前に添加することが好ましい。本有機金属化合物を添加することによって、ニッケルナノ粒子の粒子径を顕著に小さくすることができる。その作用機構は未だ明らかではないが、おそらく、求核性を有する有機金属化合物が、ニッケル錯体に作用し、ニッケル核の生成を促すものと推測される。吸湿の影響により効果が失活することで、粒度分布の制御が困難になるため、有機金属化合物を、工程Bで錯化反応液を加熱する直前に添加することが好ましい。
【0042】
[ニッケルナノ粒子]
以上のようにして、ニッケルナノ粒子を含有する合成液スラリーを得ることが出来る。なお、得られたニッケルナノ粒子合成液スラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、ニッケルナノ粒子表面のニッケルイオンの活性低下をおさえるため、洗浄溶媒にて洗浄・置換することが好ましい(工程C)。この工程Cで用いる洗浄溶媒中には、水酸基を含有しないことが好ましい。したがって、洗浄溶媒としては、0.1wt%以上の水分を含まない溶媒を用いることが好ましく、この条件を満たすトルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの有機溶媒を好ましく利用できる。なお、炭素数3以下の親水性アルコールは、通常、0.1wt%以上の水分を含有するため、洗浄溶媒として好ましくない。
また、ニッケルナノ粒子は、酸素、水素、炭素、窒素、等の金属元素以外の元素を少量含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。さらに、単一のニッケルナノ粒子で構成されていてもよく、2種以上のニッケルナノ粒子を混合したものであってもよい。
【0043】
また、ニッケルナノ粒子に含まれる金属成分としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属、銅、鉄、コバルト等の卑金属、白金、金、パラジウム、銀等の貴金属を含んでもよい。
【0044】
本ニッケルナノ粒子の製造方法では、得られるニッケルナノ粒子の平均粒子径に特に制限はないが、本有機金属化合物の添加によって、平均粒子径を例えば5nm〜100nmの範囲内で所望の大きさに制御することができる。
【0045】
[ニッケルナノ粒子インクもしくはペースト組成]
以上のようにして、得られたニッケルナノ粒子を含有するスラリーをインク化もしくはペースト化するためには、水や炭素数が3以下の親水性のアルコールを含まない溶媒を用いることが好ましく、例えば、デカン、テトラデカン、パラフィンオイル、石油系炭化水素などの脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの脂環式炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジヒドロターピニルアセテート、イソボニルアセテート、イソボニルプロキネート、イソボニルブチレート、イソボニルイソブチレート等のエステル系、α−テルピネオール、ブチルカルビトール等の長鎖系、長鎖アルコールとカルボン酸とのエステル等など非水系の溶媒が好ましい。これらの中でも、脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素などの非極性溶媒を用いることがより好ましい。
【0046】
本実施の形態でインク化もしくはペースト化のために用いる分散剤に特に制限はないが、非水溶系の溶媒を好適に使用することから非水系高分子分散剤が好ましく、市販の分散剤であっても良い。
【0047】
本実施の形態で用いる非水系高分子分散剤の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜200,000の範囲内、より好ましくは5,000〜100,000の範囲内がよい。重量平均分子量が、上記下限未満であると、低極性溶媒に対し分散安定性が十分ではない場合があり、上記上限を超えると、粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になる場合がある。
【0048】
好適に使用することができる市販の非水系高分子分散剤としては、例えば、日本ルーブリゾール社製のSolsperse3000(商品名)Solsperse8000(商品名)、Solsperse9000(商品名)、Solsperse11200(商品名)、同Solsperse13940(商品名)、同Solsperse13240(商品名)、ビッグケミー・ジャパン社製のDISPERBYK−161(商品名)、同DISPERBYK−163(商品名)、DISPERBYK−2164(商品名)、DISPERBYK−2155(商品名)等が挙げられる。
【0049】
本実施の形態で用いる非水系高分子分散剤の添加量は、粒子径によって適量は異なるが、ニッケルナノ粒子100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲内、好ましくは0.1〜5質量部の範囲内がよい。添加量が上記下限未満ではペースト中での分散性が低下する傾向があり、上記上限を超えると、ペースト中で凝集が生じ易くなる傾向がある。
【0050】
本実施の形態で用いるバインダー樹脂に特に制限はなく、粘度特性を調整でき、良好な塗布膜を形成できるものであれば良い。バインダー樹脂の種類や添加量は使用する溶媒によって異なるため、適宜調整すればよい。
【0051】
[凝集方法]
本発明のニッケルナノ粒子凝集体は、上記の通り得られたニッケルナノ粒子ペーストに、水又は1wt%以上の過酸化水素水(以下、「凝集用液」という。)を接触させてニッケルナノ粒子同士を、直接又はそれらの皮膜を介して接合させて得られる。
凝集用液は、ニッケルナノ粒子表面でニッケルイオンと反応し、水酸基が生成し易い溶液である必要がある。凝集用液としては、例えば、水または1wt%以上の過酸化水素水を用いることができる。上記ニッケルナノ粒子インクまたはペーストを基板上に塗布成形した膜等に、霧吹きなどにより凝集用液を噴霧してニッケルナノ粒子に接触させることによって、ニッケルナノ粒子表面に水酸化ニッケルや酸化ニッケルの皮膜が形成されるとともに、ニッケルナノ粒子同士を直接又は前記皮膜を介して凝集させ、ニッケルナノ粒子凝集体を形成させることができる。凝集用液として過酸化水素水を用いる場合の濃度は、1wt%以上であればよく、30wt%〜35wt%の範囲内のものが好ましい。
また、凝集用液を接触させる前に、ニッケルナノ粒子ペーストを乾燥させてニッケルナノ粒子ペースト中の非極性溶媒の含有量を低減させておくことが好ましい。ニッケルナノ粒子ペーストの乾燥処理は、常温でも可能であるが、例えば150℃以下、好ましくは70℃〜150℃の範囲内の温度で熱処理することがよい。
また、ニッケルナノ粒子の凝集は、常温でも可能であるが、水又は1wt%以上の過酸化水素水を接触させた後で、例えば150℃以下、好ましくは70℃〜150℃の範囲内の温度で熱処理することによって、凝集に要する時間を短縮することができる。樹脂基板上にニッケルナノ粒子凝集体を形成する場合、当該樹脂基板へのダメージを抑えるため、熱処理温度は、70℃〜120℃の範囲内であることがより好ましい。
【0052】
凝集用液を接触させる方法に特に制限はないが、大量に且つ長時間浸漬するとニッケルナノ粒子表面に水酸化ニッケルと思われる粒状の付着物が発生し皮膜が形成され難くなる。また、水酸化ニッケルの析出量が多くなり過ぎると磁性や導電性などニッケル固有の特性が失われるため好ましくない。従って、例えば、噴霧、塗布などの方法で適量の凝集溶液をニッケルナノ粒子ペーストに接触させることが好ましい。また、上記の通り、凝集用液をニッケルナノ粒子に接触させた後70℃以上で熱処理することが好ましい。
【0053】
上記基板としては、金属基板、ガラス基板、セラミック基板等の耐熱性の高い無機基板だけでなく、無機基板より耐熱性の劣る、樹脂基板を適用することができる。樹脂基板は、公知の樹脂が適用でき、例えば、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリカーボネート、液晶ポリマーなどが挙げられる。
これらの基板上に上記ニッケルナノ粒子ペーストを塗布乾燥し、上記凝集用液を接触させ、乾燥させることにより、基板上にニッケルナノ粒子凝集体を形成し、ニッケルナノ粒子と基板との複合体(ニッケルナノ粒子複合基板)を好適に得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り測定、評価は下記によるものである。
【0055】
[平均粒子径の測定]
平均粒子径の測定は、SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径を算出した。また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0056】
[ニッケルナノ粒子ペーストの塗布]
松浪硝子工業(株)製スライドガラスS1112(76mm×26mm×t1.1mm)2枚をアセトンで湿らせた脱脂綿にて汚れを拭き取り乾燥させた。1枚のスライドガラス中央にニッケルナノ粒子ペーストを約0.05g秤量し、他の1枚のスライドガラスにて挟んだ後、側面からはみ出ない程度に加圧しながら刷り延ばし、スライドガラスを並行方向にスライドさせることによって平滑な塗膜面が得られる。
【0057】
[凝集性の評価]
スライドガラスに塗布したニッケルナノ粒子ペーストに、濃度30−35wt%過酸化水素(富士フィルム和光純薬株式会社製)を含む溶液、もしくは水を10wt%含むイソプロパノール溶液を霧吹きにて吹きかけ、約1分間含浸させた後、80℃の卓上オーブンにて乾燥させ、光学顕微鏡、及び電子顕微鏡を用いて凝集性の評価を行った。
【0058】
[ニッケルの定量]
JIS K 0102 59.1に規定するニッケルの測定法により、検出されるニッケルジメチルグリオキシムの検出量を求め、ニッケルイオンの検出量とした。
【0059】
[比表面積の測定]
ガス吸着法によりニッケル粒子の比表面積[m
2/g]を測定した。
【0060】
[元素分析]
1.H、C、NはJIS8819 石炭及びコークス類-機器分析装置による元素分析方法により測定した。
2.OはJIS8813 石炭及びコークス類-元素分析方法により測定した。
【0061】
[計算値V]
下記式(1)に基づき、計算値Vを求めた。
V=A×D
3/S/10000000 ・・・(1)
{式中、AはJIS K 0102 59.1に規定するニッケルの測定法で検出されるニッケルジメチルグリオキシムの検出量[ppm]を意味し、Sはガス吸着法で測定されるニッケル粒子の比表面積[m
2/g]を意味し、Dは走査型電子顕微鏡(SEM)で測定されるニッケル粒子の平均粒子径[nm]を意味する。}
【0062】
[有機金属化合物]
有機金属化合物(1):富士フィルム和光純薬株式会社製、フェニルリチウムの約19%ジブチルエーテル溶液(約1.9mol/L)
【0063】
ニッケルナノ粒子スラリーを作製するために使用した各材料とその略号は以下のとおりである。
【0064】
溶剤(1):デカヒドロナフタレン(富士フィルム和光純薬(株)製;1級)
溶剤(2):テルピネオール
【0065】
分散剤(1):脂肪族系高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製、商品名;Solsperse9000)
分散剤(2):ポリエステル系高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製、商品名;Solsperse13240)
【0066】
バインダー樹脂(1):脂肪族飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業(株)製、商品名;アルコン P−100)/デカヒドロナフタレン=2/1重量部
バインダー樹脂(2):セルロース系樹脂/テルピネオール=1/10重量部(日新化成(株)製、商品名;EC−100FTP)
【0067】
(合成例1)
600gのオレイルアミンに246.8gの酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下で140℃、3時間加熱することで錯化反応液1(ニッケルイオン濃度;7.5重量%)を得た。この錯化反応液1を約60℃に冷却した後に有機金属化合物(1)を0.10g加え、215℃で7分間反応させた後、急冷しニッケルナノ粒子スラリー1を得た。得られたニッケルナノ粒子スラリー1の分析結果を表1と表2に示した。また、得られたニッケルナノ粒子1の一部を80℃で1時間乾燥させた後、水を10wt%含むイソプロパノール溶液を霧吹きにて吹きかけ、80℃で1時間乾燥させた後に分析した結果を表3に示した。
【0068】
(合成例2)
600gのオレイルアミンに246.8gの酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下で140℃、3時間加熱することで錯化反応液2(ニッケルイオン濃度;7.5重量%)を得た。この錯化反応液2を約60℃に冷却した後に有機金属化合物(1)を1.10g加え、212℃で5分間反応させた後、急冷しニッケルナノ粒子スラリー2を得た。得られたニッケルナノ粒子スラリー2の分析結果を表1と表2に示した。また、得られたニッケルナノ粒子2の一部を80℃で1時間乾燥させた後、水を10wt%含むイソプロパノール溶液を霧吹きにて吹きかけ、80℃で1時間乾燥させた後に分析した結果を表3に示した。
【0069】
(合成例3)
600gのオレイルアミンに246.8gの酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下で140℃、3時間加熱することで錯化反応液1(ニッケルイオン濃度;7.5重量%)を得た。この錯化反応液1を約60℃に冷却した後に有機金属化合物(1)を3.0g加え、212℃で5分間反応させた後、急冷しニッケルナノ粒子スラリー3を得た。得られたニッケルナノ粒子スラリー3の分析結果を表1と表2に示した。また、得られたニッケルナノ粒子3の一部を80℃で1時間乾燥させた後、水を10wt%含むイソプロパノール溶液を霧吹きにて吹きかけ、80℃で1時間乾燥させた後に分析した結果を表3に示した。
【0070】
(合成例4)
600gのオレイルアミンに246.8gの酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下で140℃、3時間加熱することで錯化反応液1(ニッケルイオン濃度;7.5重量%)を得た。この錯化反応液1を約60℃に冷却した後に有機金属化合物(1)を0.10g加え、215℃で30分間反応させた後、急冷しニッケルナノ粒子スラリー4を得た。得られたニッケルナノ粒子スラリー4の分析結果を表1と表2に示した。また、得られたニッケルナノ粒子4の一部を80℃で1時間乾燥させた後、水を10wt%含むイソプロパノール溶液を霧吹きにて吹きかけ、80℃で1時間乾燥させた後に分析した結果を表3に示した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
(実施例1)
合成例1で得られたニッケルナノ粒子スラリー1をネオジウム磁石にて沈降させ、上澄み液廃棄後、約50gのトルエン洗浄溶媒を加え、振とう機を用いて10分間シェークした後、ネオジウム磁石にて沈降させ上澄みを廃棄することを3回繰り返し、ニッケルナノ粒子トルエンスラリーを得た。このスラリー液からニッケルナノ粒子約1gを採取し、分散剤(1)を0.2g加え超音波で10分間処理した後、ネオジウム磁石を用いて上澄み液を廃棄した後、溶剤(1)を約15cc足した後、超音波10分、上澄み廃棄を3回繰り返し、ニッケルナノ粒子デカヒドロナフタレンスラリーを得た。このスラリー液をニッケルナノ粒子固形分が85%になるように調整した後、バインダー樹脂(1)を0.05g加え、攪拌装置(商品名:練太郎、株式会社シンキー製)を用いて10分間撹拌することでペースト1が得られた。このペースト1をスライドガラスに塗布し、80℃で乾燥させた。この乾燥ペーストの状態をSEMにて観察した結果を
図1に示した。
乾燥後、30−35wt%過酸化水素水を霧吹きで吹きかけ、80℃にて乾燥させSEMにて観察した結果を
図2に示した。
図1と
図2の比較から、
図2ではニッケルナノ粒子の周りに水酸化ニッケルもしくは酸化ニッケルと推察される皮膜が生成し、良好な凝集体が形成されていることを確認した。
【0075】
(実施例2)
ニッケルナノ粒子スラリー2を使用した他は、実施例1と同様にして、乾燥ペースト及び凝集体を作製し、SEMにて観察した結果を
図3(乾燥ペースト)及び
図4(凝集体)に示した。
図3と
図4の比較から、
図4ではニッケルナノ粒子の周りに皮膜が生成し、良好な凝集体が形成されていることを確認した。
【0076】
(実施例3)
ニッケルナノ粒子スラリー3を使用した他は、実施例1と同様にして、乾燥ペースト及び凝集体を作製し、SEMにて観察した結果を
図5(乾燥ペースト)及び
図6(凝集体)に示した。
図5と
図6の比較から、
図6では、ニッケルナノ粒子の周りに皮膜が生成し、良好な凝集体が形成されることを確認した。
【0077】
(実施例4)
実施例1の溶剤(1)を溶剤(2)に、分散剤(1)を分散剤(2)に、バインダー樹脂(1)をバインダー樹脂(2)にそれぞれ変更し、バインダー樹脂(2)の使用量を0.03gとした他は、実施例1と同様にして、乾燥ペースト及び凝集体を作製した。得られた凝集体をSEMにて観察した結果を
図7に示した。
図7から、ニッケルナノ粒子の周りに皮膜が生成し、良好な凝集体が形成されることを確認した。
【0078】
(実施例5)
実施例1の接合性の評価で使用した30−35%過酸化水素水を水10wt%含むイソプロパノール溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして、乾燥ペースト及び凝集体を作製した。得られた凝集体をSEMにて観察した結果を
図8に示した。
図8から、ニッケルナノ粒子の周りに皮膜が生成し、良好な凝集体が形成されることを確認した。
【0079】
(比較例1)
合成例1と同様にしてニッケルナノ粒子の合成を別途行い、平均粒子径43.5nmのニッケルナノ粒子スラリーを得た。得られたニッケルナノ粒子スラリー2の分析結果を表2に示した。このニッケルナノ粒子スラリーを使用し、トルエン洗浄溶媒をメタノール/トルエン=1/4混合溶媒に変更した以外は、実施例1と同様にして、乾燥ペーストを作製し、さらに過酸化水素水により処理して凝集体の作製を試みた。SEMにて観察した結果を
図9(乾燥ペースト)及び
図10(過酸化水素水処理後)に示した。
図9及び
図10の比較から、ニッケルナノ粒子の表面に皮膜が生成されず、凝集体が得られないことを確認した。
また、得られたニッケルナノ粒子の一部を80℃で1時間乾燥させた後、水を10wt%含むイソプロパノール溶液を霧吹きにて吹きかけ、80℃で1時間乾燥させた後に分析した結果を表3に示した。
【0080】
(比較例2)
ニッケルナノ粒子スラリー4を使用した他は、実施例1と同様にして、乾燥ペーストを作製し、さらに過酸化水素水により処理して凝集体の作製を試みた。SEMにて観察した結果を
図11(乾燥ペースト)及び
図12(過酸化水素水処理後のペースト)に示した。
図11及び
図12の比較から、皮膜が形成されている箇所とされない箇所が混在し、良好な凝集体が得られないことを確認した。
【0081】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。