【解決手段】筒状に延びる側壁11を有し側壁の先端側が開放された燃焼室10と、側壁の基端側を閉塞する閉塞壁20とを備え、燃焼室の長手方向を軸方向とする管状火炎を燃焼室内に形成可能なバーナであって、側壁に内接する内接円の接線方向に向けて側壁に形成され、燃焼室の基端側に位置する挿通孔42,42と、軸方向に向けて閉塞壁に挿通され、先端部が挿通孔より基端側に位置するノズル50と、を有し、ノズルから先端側へ向けて軸方向に液体燃料を噴出するとともに、挿通孔から軸方向と略直交する方向へ助燃ガスを吹き込むことにより、前記燃焼室内に旋回気流を発生させて管状火炎を形成可能である。
筒状に延びる側壁を有し該側壁の先端側が開放された燃焼室と、該側壁の基端側を閉塞する閉塞壁とを備え、該燃焼室の長手方向を軸方向とする管状火炎を該燃焼室内に形成可能なバーナであって、
前記側壁に内接する内接円の接線方向に向けて該側壁に形成され、前記燃焼室の基端側に位置する挿通孔と、
前記軸方向に向けて前記閉塞壁に挿通され、先端部が前記挿通孔より基端側に位置するノズルと、を有し、
前記ノズルから先端側へ向けて前記軸方向に液体燃料を噴出するとともに、前記挿通孔から該軸方向と略直交する方向へ助燃ガスを吹き込むことにより、前記燃焼室内に旋回気流を発生させて管状火炎を形成可能であることを特徴とするバーナ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
FSP法で使用されるバーナは、二流体ノズルによって噴霧した前駆体溶液を酸素によって分散させるものであるため、その火炎は純酸素燃焼による乱流火炎となる。安定な火炎ではないため、乱流火炎を高精度で制御して微粒子合成を行うことは困難である。また、その燃焼過程において、多くの未燃炭化水素が合成粒子表面に析出してしまうことから、その除去のための焼成後処理が不可欠となることが問題である。そこで、燃焼過程の把握が可能な管状火炎燃焼を、FSP法で利用することが望まれる。
【0008】
非特許文献2に記載の管状火炎による微粒子合成プロセスでは、一般的には気体燃料を燃焼させる管状火炎バーナを用いて、原料を含む液体燃料を燃焼させなければならない。液体燃料による管状火炎燃焼として、(a)予蒸発させて空気に混ぜバーナに供給する方法や、(b)液膜状態で供給するFilm combustion、(c)微粒化された燃料液滴をバーナ接線方向から導入し燃焼する方法があるが、(a)と(b)では燃焼可能な液体燃料の流量に制限があり、特に(b)では原料含有溶液が燃焼管管壁を伝わり蒸発して燃焼するため、蒸発する過程で壁面に粒子が析出する可能性がある。また、(c)では、流量が多い場合、微粒化された液滴がバーナ壁面に衝突してしまうことが懸念されるなど、多くの課題がある。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、液体燃料を用いて、容易に制御可能な安定した火炎を形成するバーナおよびバーナを用いた微粒子合成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、筒状に延びる側壁を有し該側壁の先端側が開放された燃焼室と、該側壁の基端側を閉塞する閉塞壁と、を備え、該燃焼室の長手方向を軸方向とする管状火炎を該燃焼室内に形成可能なバーナであって、前記側壁に内接する内接円の接線方向に向けて該側壁に形成され、前記燃焼室の基端側に位置する挿通孔と、前記軸方向に向けて前記閉塞壁に挿通され、先端部が前記挿通孔より基端側に位置するノズルと、を有し、前記ノズルから先端側へ向けて前記軸方向に液体燃料を噴出するとともに、前記挿通孔から該軸方向と略直交する方向へ助燃ガスを吹き込むことにより、前記燃焼室内に旋回気流を発生させて管状火炎を形成可能であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、ノズルから軸方向に噴出された液体燃料に、燃焼室の接線方向に設けられた挿通孔から助燃ガスを吹き込むことによって、燃焼室内で管状火炎を形成し、層流燃焼によって燃料を効率よく燃焼させることが可能である。簡易な構成にもかかわらず、予蒸発などの前処理や、未燃炭化水素の除去などの後処理を必要としないため、従来の燃焼合成のプロセスに組み込まれた際には燃焼設備の小型化や大幅な工数削減が期待される。液体燃料の流量を変化させた場合も広い範囲で安定した火炎を形成することが可能であり、従来の管状火炎バーナの課題の1つである大流量の液体燃料の燃焼を可能にした。また、挿通孔から吹き込む助燃ガスの流量や、ノズルから噴出する液体燃料と挿通孔から吹き込む気体燃料との当量比を変化させることで火炎の長さを変化させることもできるため、火炎を高精度で制御可能である。
【0012】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記助燃ガスに気体燃料を混合させた混合ガスを前記挿通孔から吹き込むことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、助燃ガスに気体燃料を混合させた混合ガスを挿通孔から燃焼室へ吹き込み、この混合ガスによって燃焼室内に旋回気流を起こすことによって、より均一で安定した管状火炎を形成することが可能であり、より高精度に火炎の制御を行うことが可能となる。
【0014】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、前記ノズルは、前記液体燃料を霧状の液滴として噴出することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、液体燃料に微粒子合成の原料を混合させて燃焼室内に噴霧することが可能となり、高精度に制御可能な火炎によって、微粒子合成を高効率かつ高精度に行うことができる。
【0016】
また、第4の発明は、第3の発明を用いた微粒子合成方法であり、前記液体燃料に原料を混合させて原料混合溶液を準備する準備工程と、前記原料混合溶液を前記ノズルから噴出させて前記燃焼室内において燃焼させる燃焼工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、火炎の制御を高精度に行い、さまざまな条件下で気相燃焼合成法による微粒子合成を行うことができるため、合成粒子の化学組成、粒子径、結晶子サイズもしくは比表面積、または材料特性などを制御可能である。
【発明の効果】
【0018】
本実施形態によれば、液体燃料を用いて、容易に制御可能な安定した火炎を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本実施形態、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0021】
(実施形態)
はじめに、本発明の実施形態に係るバーナ1の構成について説明する。なお、以下の説明において、燃焼室および側壁の「先端側」とは燃料が流れる下流側であり、「基端側」とは燃料が流れる上流側である。
【0022】
<バーナの構成>
本発明の実施形態に係るバーナ1は、筒状に延びる側壁11を有し側壁11の先端側が開放された燃焼室10と、燃焼室10の基端側を閉塞する閉塞壁20と、を備え、燃焼室10の長手方向を軸方向とする管状火炎を燃焼室10内に形成可能である。
【0023】
燃焼室10は、本実施形態において、円筒状の筒状部材30と略直方体状に形成された燃料供給部材40とから構成されている。具体的には、燃焼室10の先端側に配置された筒状部材30が、基端側に配置された燃料供給部材40に設けられた連結孔41の連結部41aに挿入されており、筒状部材30の内壁面31とそれに連接する連結孔41の内壁面41bとが燃焼室10の側壁11を構成している。側壁11は内径約26mmの円筒状である。側壁11は、円筒状に限定されることはなく、例えば三角形や四角形などの多角形の断面形状を有する角筒状であってもよい。側壁11の長手方向が燃焼室10の長手方向であり、燃焼室10内に形成される管状火炎の軸方向となる。
【0024】
本実施形態において、筒状部材30には内径26mm、長さ300mmの円筒状の石英管が用いられているが、これに限定されない。燃料供給部材40は、例えばアルミニウム合金によって略直方体状に形成されたものであり、側壁11の長手方向に沿って挿通された連結孔41が設けられている。連結孔41の一端部には筒状部材30が挿入される連結部41aが形成されており、連結孔41の他端部は閉塞壁20によって閉塞されている。
【0025】
筒状部材30よりも基端側に位置する連結孔41の内壁面41bには、側壁11に内接する内接円の接線方向に向けて挿通孔42,42が形成されている。なお、本実施形態では側壁11が円筒状であるため、挿通孔42,42は単に側壁11の接線方向に向けて形成されているが、側壁の断面形状が多角形である場合は、その多角形に内接する円を想定し、その内接円の接線方向に向けて挿通孔が形成される。側壁が多角形の断面形状を有する場合であっても、挿通孔がその内接円の接線方向に向けて形成されていれば、燃焼室内において管状火炎が形成され易くなる。
【0026】
挿通孔42,42は、内径約3mmの孔であり、
図2に示すように、間隔をあけて約180°離れた位置に2つ設けられている。なお、挿通孔42は2つには限定されず、1つでも、3つ以上でもよい。なお、
図3に示すように、挿通孔42と連通する孔が筒状部材30に設けられているような構成であってもよい。また、側壁11には、燃焼室10内の温度を測定するための測定孔Z1,Z2,Z3,Z4が軸方向に間隔をあけて複数設けてあってもよい。
【0027】
閉塞壁20は、例えば金属製の板状部材であって、軸方向に向けて閉塞壁20に挿通され、先端部が挿通孔42,42より基端側に位置するノズル50が設けられている。
【0028】
ノズル50は、液体燃料を霧状の液滴として噴出する。
図3に示すように、本実施形態では、ノズル50として二流体ノズル(AM6S-IDVL,ATOMAX社製)を用い、液体燃料とともに助燃ガスを噴出させて液体燃料を噴霧する構成としたが、超音波霧化や静電霧化によって液体燃料を噴霧するものであってもよい。挿通孔42,42からの助燃ガスの吹き込みがない場合においては、ノズル50から噴出される液体燃料は、ノズル50の先端部から略円錐形に広がり、
図1中の二点鎖線で示したように側壁11に衝突する。このように、液体燃料が直接側壁11に衝突することを防ぐために、挿通孔42,42は液体燃料が衝突する位置よりも基端側に位置することが望ましい。この構成によって、側壁11の劣化を防ぐことができる。
【0029】
このような構成により、バーナ1は、ノズル50から先端側へ向けて軸方向に液体燃料を噴出するとともに、挿通孔42,42から軸方向と略直交する方向へ助燃ガスを吹き込むことにより、燃焼室10内に旋回気流を発生させて管状火炎を形成可能である。
【0030】
ノズル50から噴出される液体燃料として、本実施形態ではエタノールを使用しているが、特に限定されるものではなく、他のアルコール類や、石油系燃料、植物油等であってもよい。また、この液体燃料に燃焼合成のための原料を混合させ、原料混合溶液として用いてもよい。
図3に示すように、液体燃料または原料混合溶液は、シリンジポンプ70によってノズル50へ供給される。
【0031】
挿通孔42,42から吹き込まれる助燃ガスは、例えば酸素、空気等である。また、助燃ガスに気体燃料を混合させた混合ガスをノズル50から吹き込んでもよい。助燃ガスに混合させる気体燃料として、本実施形態ではメタンを使用しているが、特に限定されるものではなく、他の天然ガスや、液化石油ガス等であってもよい。
図3に示すように、助燃ガスおよび気体燃料は、それぞれ浮き子式面積流量計61,62によって流量を測定された後、混合されて挿通孔42,42から吹き込まれてもよい。なお、ノズル50から吹き込まれる助燃ガスも同様に浮き子式面積流量計63によって流量を測定されてもよい。
【0032】
<火炎の評価>
バーナ1の火炎の評価を行うため、
図4に示す種々の条件において、火炎を形成させた。
図4中、Qairは挿通孔42,42から吹き込まれる助燃ガス(空気)の流量であり、QCH
4は挿通孔42,42から吹き込まれる助燃ガスに混合する気体燃料(メタン)の流量であり、Qethanolはノズル50から噴出される液体燃料(エタノール)の流量を表している。ここで、
図4に示すすべての条件において、挿通孔42,42から吹き込まれる空気の流量を4.0m
3/hとしているが、これは、
図5に示した予備実験の結果に基づくものである。
【0033】
図5は、ノズル50からのエタノールの流量と、挿通孔42,42から吹き込まれる空気の流量について、メタンとエタノールの完全燃焼を仮定した総括当量比をΦtotalとして、燃焼限界測定結果を示すグラフである。挿通孔42,42から吹き込まれる空気の流量を、2.0m
3/h、4.0m
3/h、6.0m
3/hとした場合のそれぞれの安定燃焼範囲について評価した。過濃側はメタン/空気可燃限界である1.68付近まで燃焼し、旋回空気流量が大きくなるにつれて上限界は拡張している。これは、混合ガス中のエタノール割合が増加したためと考えられる。注目すべきは希薄下において可燃限界を超えても消炎していない点である。総括当量比が可燃限界を下回り燃焼が維持されているため、予混合燃焼ではなく、旋回空気との拡散燃焼が行われていると考えられる。これにより、バーナ1は、気体燃料の従来の管状火炎バーナと同様に広い流量範囲・燃料濃度範囲において安定的に燃焼可能なため、ガスタービン燃焼などへの応用が期待できることが確認された。この予備実験により、本実施形態のバーナ1において、挿通孔42,42から吹き込まれる空気の流量を少なくとも2.0m
3/hから6.0m
3/hの範囲で安定した管状火炎を形成し、その流量が大きくなるほど火炎の長さは長くなることがわかった。また、接線方向から導入する空気は4.0m
3/hでもっとも火炎を安定化させたため、
図4の比較例および実施例において全て挿通孔42,42から吹き込まれる空気の流量はQair=4.0m
3/hで一定とした。
【0034】
また、
図4中、当量比をΦと表記し、特に、接線方向から導入されるメタン/空気の予混合気に対する当量比をΦTFと表す。さらに、メタン、エタノールおよび空気の完全混合を仮定した総括当量比Φtotalとした。なお、qTFとqAXはメタンおよびエタノールの低発熱量を表している。
【0035】
(比較例1および比較例2)
まず、ノズル50を用いない条件における本発明のバーナ1の火炎を評価した。具体的には、比較例1は、空気流量4mL/min、エタノール流量0mL/min、メタン流量0.42m
3/h(Φ=1.0)、比較例2は、空気流量4mL/min、エタノール流量0mL/min、0.25m
3/h(Φ=0.59)の条件で挿通孔42,42から空気とメタンの混合予混合気を吹き込んで着火した。
図6に示すように、比較例1では、従来の管状火炎バーナと同様に円形断面を持つ、円筒状の火炎帯が形成されていることがわかった。その状態から燃料濃度を低下させた状態(比較例2)では、火炎直径が減少し、火炎長が増加した。管状火炎は、未燃ガスが既燃ガスを覆う構造を持つため、その自己冷却作用から側壁11は低温に保たれるが、火炎の先端部から燃焼室の先端側では燃焼ガスが側壁11と接触するために熱伝達率が急増し、石英管(筒状部材30)が加熱されたため、火炎長以上でガラス管の赤熱による赤色の発光が見られた。
【0036】
(実施例1から実施例5)
次に、ノズル50を用いて軸方向から液体燃料(エタノール)を供給し、管状火炎を形成させた。具体的には、実施例1から実施例5は、空気流量4.0m
3/h、メタン流量0.42m
3/hに固定し、エタノール流量を3mL/min、4mL/min、6mL/min、8mL/min、10mL/minと変えてその火炎の状態を評価した。なお、ノズル50には、分散ガスとして助燃ガス(空気)を0.1MPaで供給した。また、実施例1から実施例5において、メタンおよびエタノール、空気の完全混合が仮定した総括当量比Φtotalはそれぞれ1.19、1.27、1.43、1.59、1.74であるため燃焼室10内は燃料過剰状態にある。
図7に示すように、エタノール流量の増加に伴って火炎長は増加し、火炎直径は減少する傾向が得られ、気体燃料のみの管状火炎の結果(比較例1および比較例2)と定性的に一致し、いずれの条件下においても安定した火炎の形成が確認された。また、燃焼室先端部から外方には余剰の燃料と周囲空気による拡散火炎が観察された。特に実施例3、4および5では、火炎は緑がかっており、相当に燃料が過剰であることが示唆された。
【0037】
図8に示すように、実施例2では、ノズル50による液体燃料の噴霧火炎は確認されず、管状の火炎Fが形成されていた。これにより、ノズル50により軸方向に噴出された液体燃料は、接線方向から導入される未燃混合気と混合され、均一な管状火炎Fが形成されたことが確認された。
【0038】
スワーラーなどを用いて噴流火炎に旋回をかける場合、スワール数(旋回度合を表す無次元数)が6以上の強い旋回となると、側壁11に沿った順流と、軸中心部に広い逆流領域をもつサイクロン型の流れが生じる。本実施形態による管状火炎では、接線方向の挿通孔42,42ら空気とメタンの混合ガスを吹き出して旋回気流を生じさせており、バーナ形状より算出したスワール数は40である。よって、バーナ底部からノズル50により噴出されたエタノールは、接線方向から導入される未燃混合ガスと混合され、均一な管状火炎が形成されていると考えられる。
【0039】
(実施例6から実施例10)
続いて、挿通孔42,42から吹き込まれる空気流量を一定のまま、その空気に混合させるメタン流量を0.25m
3/hとして、火炎の観察を行った。具体的には、実施例6から実施例10は、空気流量4.0m
3/h、メタン流量0.25m
3/hに固定し、エタノール流量を3mL/min、4mL/min、6mL/min、8mL/min、10mL/minと変えてその火炎の状態を評価した。管状火炎のみを形成させた比較例2の当量比は0.59であったが、実施例6から実施例10の総括当量比Φtotalは、0.81、0.88、1.04、1.20、1.36である。
図9に示すように、いずれの条件下においても安定した火炎の形成が確認されたが、完全燃焼条件に近い総括当量比Φtotal=1.04である実施例8では、最も火炎長が短い、滑らかで均一な火炎面をもつ管状火炎が形成された。実施例6,7のような燃料希薄な条件では、わずかに火炎長が長くなった青炎が観察された。これに対し、実施例9,10のような燃料濃度を増加させた条件では、火炎長が長くなった輝度の低い青緑色の火炎が形成された。メタンとエタノールの完全燃焼を仮定した総括当量比Φtotalと形成された管状火炎の直径や火炎長の関係性は、当量比Φに対する気体燃料予混合型管状火炎の振る舞いと類似しており、バーナ底部においてエタノールが分散および混合され、メタン/エタノール/空気の急速混合燃焼による管状火炎が形成されていることが示唆された。
【0040】
(実施例11から実施例15)
次に、空気流量を一定のままメタン流量を0 m
3/hにして、エタノールと空気のみで燃焼を行った。具体的には、実施例11から実施例15は、空気流量4.0m
3/h、メタン流量0m
3/hに固定し、エタノール流量を3mL/min、4mL/min、6mL/min、8mL/min、10mL/minと変えてその火炎の状態を評価した。なお、実施例11から実施例15の当量比Φはそれぞれ、0.24、0.31、0.47、0.63、0.79である。
【0041】
図10に示すように、実施例15において管状の青炎が形成された。この条件から燃料濃度を低下させると、火炎長は長くなり、気体燃料の管状火炎と同様の傾向を示している(実施例14)。しかし、実施例11から実施例13に示すように、さらに燃料濃度を低下させると火炎長は短くなっており、形状は管状ではなく円錐状であった。さらに、火炎端の中心部に黄赤色の明るい輝炎発光が確認されることから、すすの発生が示唆される。これは、気体燃料の管状火炎には見られない特徴であり、火炎構造が異なっていることは明らかである。また、実施例11では、当量比が0.24と燃料が非常に希薄な条件ではあるが、バーナ内での燃焼は安定に行われていた。これは、接線方向から吹き出している空気によるスワール数=40の強い旋回により、ノズル50から噴出されるエタノールの燃焼が安定化していると考えられる。これらの結果から、挿通孔42,42から助燃ガスのみを吹き込み、ノズル50から噴出される液体燃料の流量を変化させた場合、いずれの条件下においても安定した火炎を形成可能であるが、均一で滑らかな管状火炎をより安定に形成するためには、実施例1から11のように、挿通孔42,42から吹き込むのは、助燃ガスに気体燃料を混合させた混合ガスであることが望ましいことが確認された。
【0042】
(火炎長さと当量比または総括当量比による評価)
図11は、実施例1から実施例15で形成された管状火炎の火炎長さと当量比または総括当量比との関係を示すグラフである。従来の管状火炎バーナによる管状火炎の火炎長は、燃料量が一定の場合、当量比が1.0付近で最も短くなり、当量比が1.0からずれるほど長くなることが知られている。
図11に示すように、本実施形態のバーナによる管状火炎においても同様の傾向がみられ、いずれの条件下においても安定した火炎の形成が確認された。ただし、挿通孔42,42から吹き込む助燃ガスに気体燃料を混合させていない場合は、燃料が希薄な条件下で円錐状の火炎が形成されている(
図11中、円で囲まれた領域)。総括当量比が同じ場合で比較すると、メタン/エタノールの比の違いやそれぞれの混合の程度が火炎長に深く関わっている。また、
図11におけるQCH
4=0.25m
3/h(実施例6から10)の結果から分かるように、Φtotalが1.0付近で火炎長は最短となっており、管状火炎の燃焼特性に総括当量比が深く関わっていることは明らかである。
【0043】
管状火炎の火炎長は、管状火炎を組み込んだデバイスへの伝熱特性を把握する上でも大変重要である。バーナ1の燃焼室10内には、管状火炎が形成される火炎領域と燃焼反応終了後の燃焼ガス領域の2つが存在する。火炎領域では常温の未燃混合気が側壁11と接しているため、石英管への伝熱がほとんどない。対して、燃焼ガス領域では側壁11と燃焼ガスが接するために高い伝熱特性を示す。さらに先端側では、旋回強度が弱まるために伝熱特性は低下する。これらの2つの領域は火炎長によって変化し、それを予測することが実用的観点から求められる。
【0044】
(火炎の温度分布による評価)
次に、燃焼室10内の半径方向および軸方向温度分布を測定して、温度分布によって火炎の評価を行った。
図1に示すように、側壁11に複数の測定孔Z1,Z2,Z3,Z4が開けられ、その測定孔に素線径0.2mmのR型熱電対(Pt/Pt-13%Rh)(図示しない)を挿入して、半径方向および軸方向温度分布を測定した。測定孔Z1,Z2,Z3,Z4の位置は、吹き出し部端面Z0からの距離(z)が、それぞれ55mm、125mm、200mm、275mmである。
【0045】
図12は、メタン流量を0.42m
3/h、空気流量を4.0m
3/hに固定し、液体燃料流量を変化させて総括当量比Φtotalを変化させた場合(実施例1から実施例5)のZ1の位置における半径方向の温度分布を測定した結果を示す。縦軸は温度[℃]、横軸は半径方向距離[mm]である。側壁11をr=0mmとし、筒状部材30の内径が26mmであるので、r=13mmが燃焼室10の中心軸にあたる。また温度には、被覆された素線径200μmの熱電対に対し補正式により輻射補正を行った結果を用いている。ここで、輻射率εは被覆された白金熱電対に対する値として0.22を用い、燃焼ガスの物性値は、気体分子運動論で与えられる推定式を適用して求めた。燃焼ガス速度には、混合気流量とバーナ断面積から得られる軸方向平均速度を用いた。液体燃料を導入しない場合(比較例1)では、側壁11で既に1403℃と高く、火炎帯に向かってさらに上昇し、側壁11から7mmの位置において最高温度1767℃をとる。ただし、輻射熱損失により軸中心に向けて約130℃低下している。この条件下の火炎長が51.6mmであり、測定位置がz=55mmであることから燃焼ガス領域の温度分布が得られているということになる。したがって未燃ガス領域は存在せず、側壁温度も高温となっている。一方、液体燃料を導入した場合、火炎長が増加し測定位置が火炎領域に入るため、側壁近傍では急激に温度が低下する。総括当量比Φtotalが1からずれるほど、最高温度が低下する傾向にある。また、側壁から軸中心部に向かって温度が急増する位置は、総括当量比が大きくなるにしたがって管中心軸側へ移動し、火炎直径が小さくなっていることが示唆される。
【0046】
気相燃焼合成において、温度分布はもっとも重要なファクターのひとつである。管状火炎は層流燃焼であるため、厳密に管理された温度条件のもと微粒子の合成が可能であり、その制御も可能である。また、乱流燃焼ではスケール効果という問題があり、バーナサイズが2倍になれば発熱量が2倍になるという簡単な相似則が成り立たないという問題がある。管状火炎ではバーナサイズと発熱量が簡単な関係にあることが期待されることに加え、乱流モデルにとらわれることなく数値解析が可能であり、気相中で析出した微粒子および汚染物質の挙動を的確に把握できる可能性を有し、環境に適合したプロセスの設計を目指すうえで有利と考えられる。
【0047】
(火炎の最高温度による評価)
次に、空気流量を4.0m
3/h、エタノール流量を6mL/minに固定して、メタン流量を変化させた場合(実施例3、8および13)のz= 55,125,200,275mmの位置における最高温度を測定した結果を
図13に示す。図中の斜線部は、火炎端の位置を示している。メタン流量が0.42m
3/h(実施例3)のときは、z=55mmから275mmにかけて約1550℃から1750℃で燃焼室10内が高温に保たれている。Z2(125mm)の位置で最高温度をとるが、これは火炎端の位置(z=161mm)が近いことに起因している。
【0048】
メタン流量が0.25m
3/h(実施例8)のとき、Z1(55mm)で最高温度をとる。この条件での総括当量比Φtotalは1.04であり、完全燃焼に近い状態になっていることから温度が増加したと考えられる。一方で火炎長は約80mmであり、火炎端から離れるにつれて最高温度は低下している。火炎端より先端側では、未燃ガス領域が存在せず燃焼ガスが石英管と接するために系外への熱損失が大きくなるためである。
【0049】
メタン流量が0m
3/h(実施例13)のとき、管状火炎は形成されず円筒状の火炎が形成される(
図10)。総括当量比は0.47であり平衡計算により求めた断熱火炎温度は1186℃であるが、測定した温度はz=55mmで最大値1660℃をとり、先端側へ行くにしたがって温度は低下し、z=275mmでは600℃と著しい熱の損失が確認できる。この条件において形成される円筒状の火炎は、火炎端が中心軸に向かって閉じており輝炎発光も確認できていることから、管状火炎とは全く違う構造の拡散火炎が形成されていることが考えられる。
【0050】
以上の結果により、本発明の実施形態に係るバーナ1では、ノズル50から軸方向に噴出された液体燃料に、燃焼室10の接線方向に設けられた挿通孔42,42から助燃ガスを吹き込むことによって、燃焼室10内で管状火炎を形成し、層流燃焼によって燃料を効率よく燃焼させることが可能であることがわかった。簡易な構成にもかかわらず、予蒸発などの前処理や、未燃炭化水素の除去などの後処理を必要としないため、従来の燃焼合成のプロセスに組み込まれた際には燃焼設備の小型化や大幅な工数削減が期待される。液体燃料(エタノール)の流量を3mL/minから10mL/minの範囲で変化させたところ、いずれの条件でも安定した火炎を形成した。燃料が希薄な状態であっても、または、燃料が過剰な状態であっても、安定した火炎を形成することが可能であり、従来の管状火炎バーナの課題の1つである大流量の液体燃料の燃焼を可能にした。また、挿通孔42,42から吹き込む助燃ガス(空気)の流量や、ノズル50から噴出する液体燃料(エタノール)と挿通孔42,42から吹き込む気体燃料(メタン)との当量比を変化させることで火炎の長さを変化させることもできるため、火炎を高精度で制御可能である。さらに、助燃ガスに気体燃料を混合させた混合ガスを挿通孔42,42から燃焼室へ吹き込み、この混合ガスによって燃焼室内に旋回気流が起こることによって、より均一で安定した管状火炎を形成することが可能であり、より高精度に火炎の制御を行うことが可能となる。
【0051】
<微粒子合成方法>
本実施形態によるバーナ1を用いて微粒子合成を行った。微粒子合成は、液体燃料に原料を混合させて原料混合溶液を準備する準備工程と、原料混合溶液をノズル50から噴出させて燃焼室10内において燃焼させる燃焼工程とを少なくとも含む。具体的には、酸化チタンの原料として、TTIP(Ti[OCH(CH
3)
2]
4, Kanto Chemical Co. Inc, purity 97%)を用い、エタノール中で0.1Mになるように調整した。
図3に示すように、この0.1Mの原料混合溶液をノズル50から噴出させ、酸化チタン粒子の合成を行った。なお、挿通孔42,42から燃焼室10へ吹き込むメタンガス(0.25m
3/h)および助燃ガス(4.0m
3/h)の流量は一定とし、原料混合溶液の流量は4mL/minにて合成を行った。
【0052】
燃焼室10内で析出した粒子は真空ポンプ100で捕集し、ガラス繊維フィルタ200で分離した。合成した粒子の粒子形態および粒子サイズをSEM(S-5200, Hitachi, operated at 20 kV)により測定した。また、粒子の結晶相はXRD(D2PHASER, 40 kV and 30 mA, Bruker Corp.)により評価した。
【0053】
図14には、合成した酸化チタン粒子のSEM画像を示す。酸化チタン粒子はナノ粒子凝集体が溶融したミクロンオーダーの球形粒子であることが確認できた。また、
図15には、合成した酸化チタン粒子のXRDパターンを示す。本発明の実施形態に係るバーナ1により合成した酸化チタン粒子はアナターゼ型TiO
2とルチル型TiO
2を含むことがわかった。
【0054】
また、液体燃料であるエタノール内にHMDSO((CH
3)
3SiOSi(CH
3)
3; Sigma-Aldrich Co., USA; purity 98.5%)を溶解させ、0.1Mになるように調整し、酸化チタン粒子の合成と同様の方法によって、シリカ粒子を合成した。合成したシリカ粒子は、
図16に示すように、一次粒子径が数十ナノオーダーのナノ粒子凝集体であった。
【0055】
本発明の実施形態に係るバーナ1によれば、原料を変えることで酸化チタン粒子やシリカ粒子以外の微粒子を合成することも可能である。簡易な構成にも関わらず、高精度に制御可能な層流燃焼を可能とし、さまざまな条件下で気相燃焼合成法による微粒子合成を行うことができるため、合成粒子の化学組成、粒子径、結晶子サイズもしくは比表面積、または材料特性などを制御可能である。