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特開2021-189040インスリンの検出方法および検出キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-189040(P2021-189040A)
(43)【公開日】2021年12月13日
(54)【発明の名称】インスリンの検出方法および検出キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20211115BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20211115BHJP
   G01N 33/566 20060101ALI20211115BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20211115BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20211115BHJP
【FI】
   G01N33/53 B
   G01N33/483 F
   G01N33/566
   G01N33/543 525E
   G01N27/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-94490(P2020-94490)
(22)【出願日】2020年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 久景
(72)【発明者】
【氏名】黒田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉哉
【テーマコード(参考)】
2G045
2G060
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA54
2G045FB05
2G060AA07
2G060AA15
2G060AD06
2G060AF03
2G060AF06
2G060AG03
2G060AG15
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】 本発明は、試料に含まれる微量のインスリンを検出できる手段を提供する。
【解決手段】 サンプルを、インスリンの部位を特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極に添加して、インスリンと前記インスリン結合タンパク質との複合体形成に伴う電気化学的変化を検出することを有し、前記インスリン結合タンパク質は、インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域およびインスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域を含み、前記第1領域および前記第2領域のいずれか一方が前記電極の表面に固定される、インスリンの検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを、インスリンを特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極に添加して、インスリンと前記インスリン結合タンパク質との複合体の形成にともなう電気化学的変化を検出することを有し、
前記インスリン結合タンパク質は、インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域およびインスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域を含み、前記第1領域および前記第2領域のいずれか一方が前記電極の表面に固定される、インスリンの検出方法。
【請求項2】
前記第1領域および前記第2領域はリンカーを介して連結し、かつ前記第2領域が前記電極の表面に固定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1領域および前記第2領域はリンカーを介して連結し、かつ前記第1領域が前記電極の表面に固定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2領域は、インスリンレセプターのCRドメインを更に含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
インスリンと、前記インスリン結合タンパク質との複合体形成にともなう電気化学的変化は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)により検出される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
インスリンの部位を特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極を有し、
前記インスリン結合タンパク質は、インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域およびインスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域を含み、前記第1領域および前記第2領域のいずれか一方が前記電極の表面に固定される、インスリンの検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インスリンの検出方法および検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、インスリンの作用低下や分泌不足により、血液中のグルコース濃度(血糖値)が高い状態が継続する疾患である。高血糖状態が長期間にわたって持続すると、腎症、網膜症、神経障害といった細小血管障害が発生するだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞といった大血管障害の危険因子となる。このため、糖尿病の診断、予防および治療の最適化には、血糖値だけでなく、糖尿病に関わる因子の血中成分濃度を把握することが有用である。例えば、特許文献1には、インスリンレセプターのα−CTセグメントおよび発光物質または蛍光物質を含む第1の複合体と、インスリンレセプターのL1ドメインおよび蛍光物質または発光物質を含む第2の複合体を用いて、発光物質と蛍光物質との間で生じる発光共鳴エネルギー転移によって発生する蛍光を検出することを含むインスリンの検出方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−109666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の方法によると、精度よくインスリンを定量できるが、インスリン検出限界濃度は50nMや800nMであった(段落「0148」)。一方、生体試料中のインスリン濃度は上記よりかなり低く、より低濃度のインスリンを検出できる方法が求められていた。
【0005】
したがって、本開示は、上記事情を鑑みてなされたものであり、試料に含まれる微量のインスリンを検出できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、インスリンレセプターのα−CTセグメントおよびL1ドメインを備えるインスリン結合タンパク質を固定化した電極を用いてインスリンを電気化学的に検出することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、上記目的は、サンプルを、インスリンを特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極に添加して、インスリンと前記インスリン結合タンパク質との複合体の形成に伴う電気化学的変化を検出することを有し、前記インスリン結合タンパク質は、インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域およびインスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域を含み、前記第1領域および前記第2領域のいずれか一方が前記電極の表面に固定される、インスリンの検出方法によって達成できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、試料に含まれる微量のインスリンを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1の電極を示す概略図である。
図2図2は、実施例2の電極を示す概略図である。
図3図3は、実施例1の電極を用いたインスリン濃度の測定結果である。
図4図4は、実施例2の電極を用いたインスリン濃度の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態を説明する。なお、本開示は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0011】
本開示の第1の形態は、サンプルを、インスリンを特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極に添加して、インスリンと前記インスリン結合タンパク質との複合体の形成に伴う電気化学的変化を検出することを有し、前記インスリン結合タンパク質は、インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域およびインスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域を含み、前記第1領域および前記第2領域のいずれか一方が前記電極の表面に固定される、インスリンの検出方法である。
【0012】
本開示の第2の形態は、インスリンの部位を特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極を有し、前記インスリン結合タンパク質は、インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域およびインスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域を含み、前記第1領域および前記第2領域のいずれか一方が前記電極の表面に固定される、インスリンの検出キットである。
【0013】
本明細書において、「インスリンレセプターのα−CTセグメント」を単に「α−CTセグメント」または「α−CT」または「αCT」とも称する。また、「インスリンレセプターのβサブユニット」を単に「βサブユニット」とも称する。さらに、「インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域」を単に「第1領域」とも称する。同様にして、本明細書において、「インスリンレセプターのL1ドメイン」を単に「L1ドメイン」または「L1」とも称する。また、「インスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域」を単に「第2領域」とも称する。さらに、インスリンの部位を特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定される前の電極を単に「電極」とも称する。インスリンの部位を特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極を単に「インスリン結合タンパク質固定化電極」とも称する。
【0014】
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)の条件で行った。
【0015】
<インスリンの検出方法(本開示の第1の形態)>
本開示の第1の形態は、サンプルを、インスリンを特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極に添加して、インスリンと前記インスリン結合タンパク質との複合体の形成に伴い生じる電気化学的変化を検出することを有し、前記インスリン結合タンパク質は、第1領域および第2領域を含み、前記第1領域および前記第2領域のいずれか一方が前記電極の表面に固定される、インスリンの検出方法である。
【0016】
本開示の方法によると、電極表面に固定されたインスリン結合タンパク質がインスリンと特異的に結合することで、インスリンとインスリン結合タンパク質との複合体(以下、「インスリン−インスリン結合タンパク質複合体」とも称する)を形成する。すなわち、本開示の方法は、一次構造中に第1領域および第2領域を有するインスリン結合タンパク質を電極表面に固定化することで、インスリンとインスリン結合タンパク質との複合体形成に伴う電極表面の変化を効率よく捉えることを可能とするものである。当該インスリン結合タンパク質によるインスリンの認識メカニズムは、まず、インスリンをα−CTセグメントが認識し、結合する。次に、L1ドメインが、インスリンとインスリンと結合したα−CTセグメントを認識することで、インスリン−インスリン結合タンパク質複合体を形成するものである。したがって、本開示の方法において、インスリンとインスリン結合タンパク質とは、少なくともインスリン−α−CTセグメント間、インスリン−α−CTセグメント−L1ドメイン間で結合することで、複合体を形成する。この複合体形成の過程で、インスリン結合タンパク質には構造変化が起こる。インスリン結合タンパク質固定化電極に電圧を印加すると、インスリンの認識・結合に伴うインスリン結合タンパク質の構造変化が誘起する電極表面状態の変化を検出することができる。より詳細には、複合体が形成されると、インスリン結合タンパク質がインスリンと未結合の場合に比して、電気が流れにくくなる(例えば、抵抗値が上昇する)。この状態変化を、電気化学的手法(例えば、[Fe(CN)−4/[Fe(CN)−3を用いた電気化学インピーダンス分光法)により、電気的な変化(例えば、インピーダンスの変化)として測定することで、インスリン量を検出できる。また、上記電気的な変化から、必要に応じて適切な補正を行うことにより、インスリン濃度を算出できる。このため、本開示の方法によれば、サンプル中のインスリン濃度を定量できる。また、電気化学的手法による検出は、非常に短時間(例えば、1〜30分程度)で実行可能であることに加えて、光学的手法に比べて検出機器をコンパクトな設計とすることが可能である。このため、本開示の方法は、診療所、在宅、病院の診察室やベッドサイド、また手術室やICUなど、診療の現場で行うポイント・オブ・ケア・テスティング(Point of Care Testing;POCT)に好適である。
【0017】
なお、本開示に係る検出方法は、インスリンの存在/不存在を調べる(試験方法)およびサンプル中に含まれるインスリン量を測定する(測定方法)双方を包含する。
【0018】
(インスリンを含むサンプル)
本開示の方法で使用されるサンプルは、インスリンの存在/不存在を調べるためまたはサンプル中に含まれるインスリン量を測定するための検出対象として使用される。当該サンプルとしては、以下に制限されないが、被検試料(血液、血漿、血清、組織、間質液、尿、リンパ液等の生体試料)、細胞(培養細胞、細胞株等)、その培養上清、それらの抽出物、それらの部分精製画分、さらには人工的に作製されたサンプル(例えば、糖尿病治療薬等の薬剤やインスリン水溶液)などが挙げられる。被検試料の由来も特に制限されず、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等の齧歯類;ヒツジ、ブタ、ウシやウマ等の家畜;ウサギ、ネコ、イヌ等のペット;アカゲザル、ミドリザル、カニクイザル、チンパンジー等の霊長類)由来のいずれであってもよい。これらのうち、有益性(例えば、診断目的)などを考慮すると、インスリンを含むサンプルは、被検試料が好ましく、血液(例えば、全血、血漿、血清など)、間質液および尿がより好ましい。すなわち、本開示の好ましい形態によると、サンプルは、血液、間質液および尿からなる群より選択される。
【0019】
なお、サンプルは精製(抽出)せずに、そのまま使用しても、または精製(抽出)した後使用してもよい。例えば、被検者の血液、血漿、血清、組織、間質液、尿、リンパ液等の生体成分等の被検試料を用いてもよい。この際、被検試料に対して、希釈、精製等の処理を行ってもよい。または、公知のタンパク質の精製方法または当該方法を適宜修飾した方法が使用できる。具体的には、例えば、哺乳動物の組織または細胞を、適切なバッファーの存在下でホモジナイズし、得られる組織の粗抽出物画分を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー等に付すことにより、精製したものをサンプルとして使用してもよい。また、サンプルに含まれるインスリンは、内因性、外因性のインスリンを問わない。すなわち、サンプル中に、市販のインスリン製剤由来のインスリンが含まれていてもよい。
【0020】
(インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域(第1領域))
インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域(第1領域)は、インスリンレセプターのα−CTセグメントを含むポリペプチドである。α−CTセグメントは、インスリンレセプターの細胞外ドメインであるαサブユニットの部分領域であって、インスリン結合能を有するとともに、膜貫通領域は含んでいない。なお、本開示におけるα−CTセグメントの具体的な構成は特に限定されず、周知のあらゆるα−CTセグメントであり得る。
【0021】
本開示に係る第1領域は、インスリンレセプターのβサブユニットは含まない。βサブユニットは、インスリンレセプターの細胞内ドメインであって、膜貫通領域と、細胞外ドメインの一部とを含む。そして、当該膜貫通領域の作用によって、インスリンレセプターは、細胞内で膜タンパク質として存在し得る。なお、本開示におけるβサブユニットの具体的な構成は特に限定されず、周知のあらゆるβサブユニットであり得る。
【0022】
本開示に係る第1領域は、膜貫通領域を含まない(即ち、可溶性タンパク質(非膜タンパク質)であり得る)。このため、インスリン結合タンパク質の精製が容易であり、純度の高いタンパク質を得ることができる。また、水溶液や水分を多く含むサンプル中で容易にインスリンと結合し、複合体(インスリン−インスリン結合タンパク質複合体)を形成することができる。
【0023】
なお、本明細書において、「膜貫通領域」とは、膜タンパク質が細胞膜上に配置されたときに、細胞膜の内部に埋め込まれるように配置される膜タンパク質内の部分領域を意図する。多くの膜貫通領域は、疎水性アミノ酸によって形成された構造(例えば、疎水性アミノ酸によって形成されたαへリックス構造)を有しているが、当該構造には限定されない。
【0024】
本開示に係る第1領域のアミノ酸数は、例えば、16個であるが、当該アミノ酸数はこれに限られない。第1領域は、α−CTセグメント(16アミノ酸)が含まれており、かつ、インスリン結合タンパク質の表面に露出する高次構造を取る配列であればよい。
【0025】
本開示に係る第1領域は、α−CTセグメント以外の構成をさらに含んでもよいが、好ましくは、第1領域は、α−CTセグメントから実質的に構成される。ここで、「第1領域がα−CTセグメントから実質的に構成される」とは、第1領域が、ネイティブのα−CTセグメントと比較して同程度のインスリン結合能を有する配列であることを含み得る。
【0026】
第1領域がインスリンレセプターのα−CTセグメント以外の構成を含む場合の他の構成は、膜貫通領域を含まない限り、限定されない。例えば、α−CTセグメントと電極や下記に詳述するリンカーとを連結するための連結部などがある。ここで、連結部は、ペプチド性のリンカーであってもよいし、非ペプチド性のリンカー(例えば、架橋剤)であってもよい。
【0027】
(インスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域(第2領域))
第2領域は、インスリンレセプターのL1ドメインを含むポリペプチドである。ここで、L1ドメインは、インスリンレセプターの細胞外ドメインであるαサブユニットの部分領域であって、インスリンに結合する能力を有しているとともに、膜貫通領域を含まない。なお、本開示におけるL1ドメインの具体的な構成は特に限定されず、周知のあらゆるL1ドメインであり得る。
【0028】
本開示に係る第2領域は、インスリンレセプターのβサブユニットは含まない。βサブユニットは、インスリンレセプターの細胞内ドメインであって、膜貫通領域および細胞外ドメインの一部を含む。そして、当該膜貫通領域の作用によって、インスリンレセプターは、細胞内で膜タンパク質として存在し得る。なお、本開示におけるβサブユニットの具体的な構成は特に限定されず、周知のあらゆるβサブユニットであり得る。
【0029】
本開示に係る第2領域は膜貫通領域を含まない(即ち、可溶性タンパク質(非膜タンパク質)であり得る)。このため、インスリン結合タンパク質の精製が容易であり、純度の高いタンパク質を得ることができる。また、第2領域は、水溶液や水分を多く含むサンプル中で、容易にインスリン及び第1領域を認識して複合体(インスリン−インスリン結合タンパク質複合体)を形成することができる。
【0030】
本開示に係る第2領域は、L1ドメイン以外の構成をさらに含んでもよいが、好ましくは、第2領域は、L1ドメインから実質的に構成される。ここで、「第2領域がL1ドメインから実質的に構成される」とは、ネイティブのL1ドメインと比較して同程度のインスリン結合能を有するものを含み得る。
【0031】
本開示に係る第2領域は、インスリンレセプターのCRドメインをさらに含み得る。CRドメインは、L1ドメインに隣接するシステインリッチ領域である。なお、本開示におけるCRドメインの具体的な構成は特に限定されず、周知のあらゆるCRドメインであり得る。
【0032】
本開示に係る第2領域のアミノ酸数は、例えば、L1ドメインのアミノ酸数と同じ155以上である。また、第2領域に後述のCRドメインも含む場合のアミノ酸数は、例えば、310以上である。
【0033】
第2領域がインスリンレセプターのL1ドメイン以外の構成を含む場合の他の構成は、膜貫通領域を含まない限り、限定されない。例えば、L1ドメインと電極や下記に詳述するリンカーとを連結するための連結部などがある。ここで、連結部は、ペプチド性のリンカーであってもよいし、非ペプチド性のリンカー(例えば、架橋剤)であってもよい。
【0034】
(第1領域および第2領域の配置)
本開示に係るインスリン結合タンパク質は、第1領域および第2領域のいずれか一方において電極の表面に固定される。ここで、インスリン結合タンパク質の電極表面への固定は、上記いずれかの一端側が電極表面に固定されるとともに、他端が自由状態となっている。具体的には、(a)第1領域(α−CTセグメント)及び第2領域(L1ドメイン)を連結させてインスリン結合タンパク質(L1ドメイン−(必要であればリンカー)−α−CTセグメント)を形成し、第1領域(α−CTセグメント)側が電極表面に固定される形態(L1ドメイン−(必要であればリンカー)−α−CTセグメント−電極);および(b)第1領域(α−CTセグメント)及び第2領域(L1ドメイン)を連結させてインスリン結合タンパク質(α−CTセグメント−(必要であればリンカー)−L1ドメイン)を形成し、第2領域(L1ドメイン)側が電極表面に固定される形態(α−CTセグメント−(必要であればリンカー)−L1ドメイン−電極)が挙げられる。これらのうち、(a)が好ましい。このように、第1領域(α−CTセグメント)および第2領域(L1ドメイン)がリンカーを介して接続し、いずれか一方の領域の端部が電極表面に固定されることにより、リンカーを介して結合する2つの領域の各々が、インスリンを挟み込むように結合して、インスリン−インスリン結合タンパク質複合体を形成する。このため、インスリンをより効率よくかつより確実に捕捉できるとともに、インスリンの結合に伴う構造変化を電気的な変化としてより確実に捉えることができる。ゆえに、より少量(低濃度)のインスリンをより高精度に検出できる。特に上記(a)の形態では、α−CTセグメントに比して分子量が大きなL1ドメインが、インスリン結合タンパク質の非固定端側に存在する。このため、電極上に固定されたインスリン結合タンパク質は、インスリン未結合状態とインスリン結合状態とで立体構造の差異が大きくなる。このため、インスリンとインスリン結合タンパク質との複合体形成に伴う電気信号変化を感度よく捉えることができ、さらにより少量(低濃度)のインスリンを検出することが可能になる。
【0035】
上記(a)、(b)に規定されるように、第1領域(α−CTセグメント)と第2領域(L1ドメイン)とは、リンカーを介して互いに接続したタンパク質とされるのが好ましい。当該形態によれば、リンカーによって、第1領域(α−CTセグメント)と第2領域(L1ドメイン)との距離を適切に調節できる。ゆえに、第1領域と第1領域内のインスリン結合部位に結合したインスリンとを、第2領域がより効率よく認識できる。これにより、第1領域(α−CTセグメント)と第2領域(L1ドメイン)とで、インスリンをより効率よく、より確実に結合することができる。ゆえに、当該形態によれば、より少量(低濃度)のインスリンに対しても、インスリンをより高精度に検出できる。すなわち、本開示の好ましい形態では、第1領域および第2領域はリンカーを介して連結される。本開示のより好ましい形態では、第1領域および第2領域はリンカーを介して連結し、かつ第2領域が電極の表面に固定される、または第1領域および第2領域はリンカーを介して連結し、かつ第1領域が電極の表面に固定される。本開示の特に好ましい形態では、第1領域および第2領域はリンカーを介して連結し、かつ第1領域が電極の表面に固定される。
【0036】
第1領域および第2領域がリンカーを介して連結する形態において、使用できるリンカーは、第1領域および第2領域と結合できるものであれば特に制限されず、使用する第1領域や第2領域の構造に応じて適宜選択できる。具体的には、リンカーとして、ポリペプチドを好ましく挙げることができる。このようにポリペプチドをリンカーとして用いることにより、第1領域と第2領域とがインスリンに対して、適切な位置に配置されるように自由に折れ曲がることを可能とする構造を実現できるだけでなく、インスリン結合タンパク質を1つのタンパク質(第1領域−リンカー−第2領域の融合タンパク質)として構成できる。ゆえに、当該形態であれば、所望の融合タンパク質を有する発現ベクターを周知の方法により作製し、当該発現ベクターを所望の宿主に導入することによって、融合タンパク質を容易に作製できる。
【0037】
リンカーとしてポリペプチドを用いる場合、より低濃度のインスリンを検出するという観点から、リンカーを構成するアミノ酸の数は、好ましくは15以上、より好ましくは20以上である。このような長さのリンカーであれば、第1領域内のα−CTセグメントがより効率よくインスリンを認識できる。加えて、インスリン−インスリン結合タンパク質複合体を形成した場合に、第1領域(α−CTセグメント)と第2領域(L1ドメイン)とが、インスリンの周囲を回りこむようにインスリンを挟み込むことができる。これにより、電極表面近傍における、インスリン結合タンパク質の構造変化によって発生する電気化学的な変化を捉えることができる。ゆえに、当該形態によれば、より少量(低濃度)のインスリンであっても、インスリンを高感度に検出できる。リンカーを構成するアミノ酸の数の上限は、特に制限されないが、反応性などの観点から、50以下、好ましくは40以下である。
【0038】
リンカーが短すぎる(例えば、リンカーを構成するアミノ酸数が15未満)と、第1領域と第2領域とがインスリンを挟みこむように認識することができない可能性がある。リンカーによって、第1領域と第2領域との間にインスリンを配置するための距離が確保されることで、より感度良くインスリンを認識できるという観点から、リンカーは、上述した長さを有するものであることが好ましい。
【0039】
また、リンカーとしてポリペプチドを用いる場合において、リンカーを構成するアミノ酸の種類は、特に限定されない。より少量(低濃度)のインスリンの濃度を測定するという観点から、リンカーは、立体構造の自由度が高いアミノ酸によって構成されることが好ましい。より具体的に、リンカーは、(i)グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン等の、脂肪酸の側鎖を有するアミノ酸;ならびに(ii)セリン、スレオニンおよびチロシン等の、水酸基を含む側鎖を有するアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むことが好ましい。上記に加えて、リンカーは、(iii)アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸およびグルタミン等の、酸またはアミドを含む側鎖を有するアミノ酸を有していてもよい。好ましくは、リンカーは、上記(i)及び(ii)から構成される。
【0040】
本開示において、第1領域(α−CTセグメント)、第2領域(L1ドメイン)または第1領域(α−CTセグメント)と第2領域(L1ドメイン)との複合体(α−CTセグメント−(必要であればリンカー)−L1ドメイン複合体)(以下、一括して、「複合体等」とも称する)の調製方法は、特に制限されず、公知の方法が同様にして、または公知の方法を適宜修飾してできる。例えば、複合体等を含む発現ベクターを細胞に導入し、所望の複合体等を細胞内で発現させ、これを培地中に分泌させてもよい。上記分泌を誘導・促進するために、細胞外分泌シグナルを複合体等のC末端またはN末端に結合することが好ましい。または、精製が容易にできるように、複合体等をタグ付きタンパク質(例えば、ヒスチジンタグまたはGST融合タンパク質)として発現させてもよい。
【0041】
(電極)
本開示に係る第1領域および第2領域は、いずれか一方を有する端部が電極の表面に固定される。ここで、電極としては、特に制限されず、インスリン−インスリン結合タンパク質複合体の電気化学的検出方法に応じて適宜選択され得る。具体的には、金電極、白金電極などの金属電極、炭素電極などが使用できる。
【0042】
また、第1または第2領域の電極表面への固定方法は、特に制限されず、公知の方法と同様にして、または公知の方法を適宜修飾して適用できる。例えば、金電極を含む貴金属電極に結合させる場合、公知の金結合ペプチド(Gold Binding Peptide)(例えば、アミノ酸配列:MHGKTQATSGTIQS)を電極に固定化する側のポリペプチド末端に付加する方法;金結合能を有する含硫アミノ酸残基(例えば、システイン残基やメチオニン残基)を、電極に固定化する側のポリペプチドの末端に付加する方法などの公知の方法が使用できる。なお、所望の結合力で電極へ固定させるために、金結合ペプチドの繰り返し配列を用いることができる。また、固定方法に応じて、電極の表面処理(例えば、表面研磨、酸溶液でのサイクリックボルタンメトリー処理、洗浄)を行ってもよい。
【0043】
電極の大きさや形状は、特に制限されず、用途などに応じて適宜選択できる。
【0044】
(電気化学的検出)
本開示では、上記のようにして作製したインスリンの部位を特異的に認識する結合タンパク質が表面に固定されてなる電極(インスリン結合タンパク質固定化電極)に、サンプルを添加して、インスリン−インスリン結合タンパク質複合体の形成に伴う電気化学的変化を検出する。ここで、電気化学的検出方法は、特に制限されず、公知の方法が同様にして、または公知の方法を適宜修飾してできる。例えば、電気化学インピーダンス分光法(EIS)、などが使用できる。これらのうち、電気化学インピーダンス分光法(EIS)が好ましく使用できる。すなわち、本開示の好ましい形態では、インスリン−インスリン結合タンパク質複合体は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)により、電気化学的に検出される。電気化学インピーダンス分光法(EIS)は、2つの電極間に小さな正弦波振幅(例えば、約10mV)のAC電圧摂動を印加し、AC周波数の関数として電極間で得られる電流を測定し、周波数の関数としてインピーダンスを計算することができる。そのようなインピーダンススペクトルの変化は、標識を用いずに高感度で測定することができるため好ましい。
【0045】
ここで、既知の量(濃度)のインスリンを用いて電気化学的にシグナル強度を検出して(例えば、EISでは、インピーダンスを測定して)、検量線を作成する。当該検量線に基づいて、サンプルで検出されたシグナル強度(例えば、EISでは、インピーダンス)を比較することで、サンプル中のインスリン量(インスリン濃度)を正確に測定できる。すなわち、本開示の好ましい形態によると、予め量(濃度)が既知のインスリンを用いて、インスリン量(濃度)に対するシグナル強度の検量線を作成し、検量線および検出されたサンプルのシグナル強度に基づいて、前記サンプル中に含まれるインスリンの量(濃度)を測定する。
【0046】
インスリンの定量は、例えば、既知濃度のインスリンが含まれる標準試料を用いて得られたシグナル強度(例えば、相対インピーダンス)を利用して検量線を作成することによって、サンプル中に含まれるインスリンの量(濃度)を簡便に定量する。本開示により求められる検量線は、外来要因にはよらず、定常的なものであるため、検量線として有効である。このため、この検量線を利用することにより、サンプル中に実際に存在するインスリン量を正確に測定できる。上記検出方法は、臨床検査において非常に有用なアッセイ手段となる。
【0047】
<インスリンの検出キット(本開示の第2の形態)>
本開示の第2の形態は、インスリンの部位を特異的に認識するインスリン結合タンパク質が表面に固定されてなる電極を有し、前記インスリン結合タンパク質は、インスリンレセプターのα−CTセグメントを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第1領域およびインスリンレセプターのL1ドメインを含みかつインスリンレセプターのβサブユニットを含まない第2領域を含み、前記第1領域および第2領域のいずれか一方が前記電極の表面に固定される、インスリンの検出キットである。
【0048】
第1領域(α−CTセグメント)と第2領域(L1ドメイン)とを含むインスリン結合タンパク質が表面に固定された電極が1つの容器に入れられていてもよい。または、該電極が緩衝液と共に容器に入れられてもよい。検出キットは、該電極溶液と、アッセイ用の緩衝液またはその濃縮ストック溶液などを含んでもよい。
【0049】
本形態の検出キットは、インスリン量(濃度)が既知である標準物質およびこれを含む容器をさらに含んでいてもよい。検出キットに含まれる各試薬は、1試料測定分毎に容器に分注されて提供されていてもよく、複数試料測定分が試薬毎に纏めて個々の容器に含まれて提供されてもよい。後者の場合は、用時に各試薬を所定の測定用容器に分注して使用する。試薬が1試料測定分毎に提供される場合は、各試薬を含む容器はカートリッジとして一体成形されてもよく、そのカートリッジの異なる区画に各試薬が格納されていてもよい。検出キットに含まれてもよい容器は、第1領域や第2領域と相互作用せず、検出に利用される反応、例えば、インスリン−インスリン結合タンパク質複合体形成反応を妨害しない材料であればどんな材質のものでもよい。必要であればそのような相互作用を起こさないように、容器表面を予め処理して提供されてもよい。検出キットには、通常取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0050】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0051】
<実施例1のタンパク質の調製>
実施例1(簡略化のため、以下、実施例1のタンパク質を、「3GαL」または「3GαLタンパク質」とも称する)のアミノ酸配列を、下記アミノ酸配列(配列番号1)に示す。なお、下記アミノ酸配列において、一重下線部分(アミノ酸配列:METDTLLLWVLLLWVPGSTGDQL)は細胞外分泌シグナルを表わし;点下線部分(アミノ酸配列:MHGKTQATSGTIQSの3回繰返し構造)は金結合ペプチド(Gold Binding Peptide;GBP)を表わし;中抜き部分(アミノ酸配列:TFEDYLHNVVFVPRPS)はインスリンレセプターα−CTセグメントを表わし;長点下線部分(アミノ酸配列:ASSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSAGSGGLE)はリンカーを表わし;二重下線部分(アミノ酸配列:HLYPGEVCPGMDIRNNLTRLHELENCSVIEGHLQILLMFKTRPEDFRDLSFPKLIMITDYLLLFRVYGLESLKDLFPNLTVIRGSRLFFNYALVIFEMVHLKELGLYNLMNITRGSVRIEKNNELCYLATIDWSRILDSVEDNYIVLNKDDNEECGDVCPGTAKGKTNCPATVINGQFVERCWTHSHCQKVCPTICKSHGCTAEGLCCHKECLGNCSEPDDPTKCVACRNFYLDGQCVETCPPPYYHFQDWRCVNFSFCQDLHFKCRNSRKPGCHQYVIHNNKCIPECPSGYTMNSSNLMCTPCLGPCPK)はインスリンレセプターL1ドメインとCRドメインを表わし;浮き彫り部分(アミノ酸配列:HHHHHH)はヒスチジンタグを表わす。下記アミノ酸配列において、ヒスチジンタグは、精製を容易にするためにL1ドメイン−CRドメインのC末端に連結されている。また、細胞外分泌シグナルは、分泌される際に、METDTLLLWVLLLWVPGSTGとDとの間で切断されるため、精製後取得されるタンパク質(3GαL)は、下記配列番号1におけるDQLMから開始するアミノ酸配列を有すると考えられる。
【0052】
【化1】
【0053】
まず、周知の方法にしたがって、上記配列番号1のアミノ酸配列に対応するDNA配列(配列番号2)を増幅し、当該DNA配列を動物細胞用の発現プラスミド(pcDNA3.1/myc−His B(Life Technologies)内にクローニングした。なお、ヒスチジンタグ部分は発現プラスミド由来のDNA配列を利用した。
【0054】
【化2】
【0055】
次いで、このようにして得られたプラスミド、および、Expi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific製)を用いて、3GαLタンパク質を培地中に分泌・発現させた。なお、3GαLタンパク質は、分泌シグナルによって培地中へ放出されると共に、細胞外分泌シグナル部分は切断される。
【0056】
詳細には、まず、製造社のプロトコルに従い、30mLの培地を用いて培養中のExpi293細胞(7.5×10cells)を、上記にて得られたプラスミドを用いてトランスフェクションした。トランスフェクションしてから7日間培養した後に、培地約30mLを回収し、4,000×g、10分間、4℃の条件で遠心分離を行い、培養液の上清を回収した。次に、この上清を、透析Buffer(PBS、pH 7.4)中で透析した。この際、透析1時間後、1時間後及び2時間後に、透析Buffer(PBS、pH 7.4)を交換し、さらに17時間透析した。
【0057】
次に、上清に対し、HisTrap FF crudeカラム(GEヘルスケアライフサイエンス製)に供し、透析後の上清に含まれている目的のタンパク質(3GαLタンパク質)をHis-Trap EF columnに吸着させた。その後、イミダゾール濃度勾配法によって、His-Trap FF columnから目的タンパク質(3GαLタンパク質)を溶出させた。溶出精製後、溶出物に対し、再び透析Buffer(PBS、pH 7.4)中で透析を行った。この際、透析1時間後、2時間後に、透析Buffer(PBS、pH 7.4)を交換し、さらに18時間透析して、3GαLタンパク質を含む溶液を得た。透析後は、Micro BCATMProtein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific製)を用いてタンパク質濃度を決定し、4℃で保管した。
【0058】
<実施例2のタンパク質の調製>
実施例2(簡略化のため、以下、実施例2のタンパク質を、「αL3G」または「αL3Gタンパク質」とも称する)のアミノ酸配列を、下記アミノ酸配列(配列番号3)に示す。
【0059】
なお、下記アミノ酸配列において、一重下線部分(アミノ酸配列:METDTLLLWVLLLWVPGSTGDQL)は細胞外分泌シグナルを表わし;中抜き部分(アミノ酸配列:MTFEDYLHNVVFVPRPS)はインスリンレセプターα−CTセグメントを表わし;長点下線部分(アミノ酸配列:ASSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSAGGSAGSGGLE)はリンカーを表わし;二重下線部分(アミノ酸配列:HLYPGEVCPGMDIRNNLTRLHELENCSVIEGHLQILLMFKTRPEDFRDLSFPKLIMITDYLLLFRVYGLESLKDLFPNLTVIRGSRLFFNYALVIFEMVHLKELGLYNLMNITRGSVRIEKNNELCYLATIDWSRILDSVEDNYIVLNKDDNEECGDVCPGTAKGKTNCPATVINGQFVERCWTHSHCQKVCPTICKSHGCTAEGLCCHKECLGNCSEPDDPTKCVACRNFYLDGQCVETCPPPYYHFQDWRCVNFSFCQDLHFKCRNSRKPGCHQYVIHNNKCIPECPSGYTMNSSNLMCTPCLGPCPK)はインスリンレセプターL1ドメインとCRドメインを表わし;点下線部分(アミノ酸配列:MHGKTQATSGTIQSの3回繰返し構造)は金結合ペプチド(Gold Binding Peptide;GBP)を表わし;浮き彫り部分(アミノ酸配列:HHHHHH)はヒスチジンタグを表わす。下記アミノ酸配列において、ヒスチジンタグは、精製を容易にするためにGBPのC末端に連結されている。また、細胞外分泌シグナルは、分泌される際に、METDTLLLWVLLLWVPGSTGとDとの間で切断されるため、精製後取得されるタンパク質(αL3G)は、下記配列番号1におけるDQLMから開始するアミノ酸配列を有すると考えられる。
【0060】
【化3】
【0061】
まず、周知の方法にしたがって、上記配列番号3のアミノ酸配列に対応するDNA配列(配列番号4)を増幅し、当該DNA配列を動物細胞用の発現プラスミド(pcDNA3.1/myc−His B(Life Technologies))内にクローニングした。なお、ヒスチジンタグ部分は発現プラスミド由来のDNA配列を利用した。
【0062】
【化4】
【0063】
次いで、このようにして得られたプラスミド、および、Expi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific製)を用いて、αL3Gタンパク質を培地中に分泌・発現させた。なお、αL3Gタンパク質は、分泌シグナルによって培地中へ放出されると共に、細胞外分泌シグナル部分は切断される。
【0064】
詳細には、まず、製造社のプロトコルに従い、30mLの培地を用いて培養中のExpi293細胞(7.5×10cells)を、上記にて得られたプラスミドを用いてトランスフェクションした。トランスフェクションしてから7日間培養した後に、培地約30mLを回収し、4,000×g、10分間、4℃の条件で遠心分離を行い、培養液の上清を回収した。次に、この上清を、透析Buffer(PBS、pH 7.4)中で透析した。この際、透析1時間後、1時間後及び2時間後に、透析Buffer(PBS、pH 7.4)を交換し、さらに17時間透析した。
【0065】
次に、上清に対し、HisTrap FF crudeカラム(GEヘルスケアライフサイエンス製)に供し、透析後の上清に含まれている目的のタンパク質(αL3Gタンパク質)をHis-Trap EF columnに吸着させた。その後、イミダゾール濃度勾配法によって、His-Trap FF columnから目的タンパク質(αL3Gタンパク質)を溶出させた。溶出精製後、溶出物に対し、再び透析Buffer(PBS、pH 7.4)中で透析を行った。この際、透析1時間後、2時間後に、透析Buffer(PBS、pH 7.4)を交換し、さらに18時間透析して、αL3Gタンパク質を含む溶液を得た。透析後は、Micro BCATMProtein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific製)を用いて濃度を決定し、4℃で保管した。
【0066】
<実施例1:3GαL電極の作製>
以下の方法に従い、図1に示されるような、3GαLタンパク質が表面に固定された電極(3GαL電極)を作製した。
【0067】
合成例1で得られた3GαL溶液を、10ng/μLの濃度になるように、PBS(pH 7.4)で希釈して、3GαL溶液を調製した。
【0068】
SAUE金電極(BAS製、外径:3mm、内径:1.6mm)の電極表面を0.05μm研磨用アルミナ(BAS製)を用いて研磨した。次に、きれいな状態の酸化還元波が得られるまで、1N 硫酸中でサイクリックボルタンメトリーを行った(電位範囲:0〜1.6V vs. Ag/AgCl、scan rate:100mV/s)。その後、1mLのMilliQで3回電極を洗浄して、金電極を準備した。
【0069】
洗浄直後の金電極の表面に、上記で調製した10ng/μLの3GαL溶液 4μLを滴下して、4℃で2時間、3GαLタンパク質を金電極上に集積して、3GαL電極を得た。
【0070】
<実施例2:αL3G電極の作製>
以下の方法に従い、図2に示されるようなαL3Gが表面に固定された電極(αL3G電極)を作製した。
【0071】
合成例2で得られたαL3G溶液を、10ng/μLの濃度になるように、PBS(pH 7.4)で希釈して、αL3G溶液を調製した。
【0072】
SAUE金電極(BAS製、外径:3mm、内径:1.6mm)の電極表面を0.05μm研磨用アルミナ(BAS製)を用いて研磨した。次に、きれいな状態の酸化還元波が得られるまで、1N 硫酸中でサイクリックボルタンメトリーを行った(電位範囲:0〜1.6V vs. Ag/AgCl、scan rate:100mV/s)。その後、1mLのMilliQで3回電極を洗浄して、金電極を準備した。
【0073】
洗浄直後の金電極の表面に、上記で調製した10ng/μLのαL3G溶液 4μLを滴下して、25℃で17時間、αL3Gタンパク質を金電極上に集積して、αL3G電極を得た。
【0074】
<電極評価>
上記実施例1〜2で得られた3GαL電極およびαL3G電極について、下記方法により、インスリンを検出した。
【0075】
3GαL電極およびαL3G電極を、それぞれ、1mLのPBS(pH 7.4)で3回洗浄した。次に、各電極を、各5mMの[Fe(CN)3−/4−を含むPBS溶液(pH 7.4)中に1時間浸漬した。所定時間浸漬した後、電気化学測定システムHZ7000(北斗電工製)を用いたElectrochemical Impedance Spectroscopy(EIS)測定により、各電極でインスリンを検出した。上記EIS測定は、測定周波数=100mHz−100kHz、AC振幅=Rest potential±10mVの条件下で行った。インスリンの濃度依存性は以下のように評価した。まず、各5mMの[Fe(CN)3−/4−を含むPBS中でインピーダンスを測定した。この時、10Hzにおけるインピーダンスを基準とした。次に、各5mMの[Fe(CN)3−/4−を含むPBSに、当該溶液中のインスリン終濃度が1nM、10nM、100nM、1000nMとなるようにインスリンを順次添加して、インスリン水溶液を調製した。各電極を10分間各インスリン水溶液に浸漬した後、上記と同様にしてEIS測定を行った。10Hzにおけるインピーダンスを相対値(相対インピーダンス)として評価した。
【0076】
結果を、図3(3GαL電極)および図4(αL3G電極)に示す。
【0077】
図3及び図4に示されるように、3GαL電極(図3)およびαL3G電極(図4)ともに、インスリン濃度の増加に伴い、相対インピーダンスが上昇していることがわかる。これにより、本発明に係る電極を用いることにより、試料中のインスリン濃度を定量できることが考察される。また、図3図4との比較により、3GαL電極の方がより低濃度で高い相対インピーダンスを示している。これから、3GαL電極は、αL3G電極に比べてより低濃度のインスリンを検出するのに適しており、例えば、血液中に含まれるインスリンを検出できる可能性を十分に有する。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]