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特開2021-189432円二色性フィルタ、光学素子、ディスプレイ及び円二色性フィルタの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-189432(P2021-189432A)
(43)【公開日】2021年12月13日
(54)【発明の名称】円二色性フィルタ、光学素子、ディスプレイ及び円二色性フィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20211115BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20211115BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G09F9/00 313
   G09F9/00 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2021-39476(P2021-39476)
(22)【出願日】2021年3月11日
(31)【優先権主張番号】特願2020-90468(P2020-90468)
(32)【優先日】2020年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】古澤 岳
(72)【発明者】
【氏名】矢野 達也
(72)【発明者】
【氏名】関谷 隆司
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩昭
【テーマコード(参考)】
2H149
5G435
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB01
2H149AB23
2H149BA05
2H149BB28
5G435AA01
5G435AA18
5G435BB05
5G435EE12
5G435FF05
5G435GG11
5G435HH02
5G435KK07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】可視や近赤外域で動作可能であり、反射が抑制され、円偏光の選択吸収性に優れ、厚さを薄くでき、製造が容易な高性能円二色性フィルタを提供する。
【解決手段】平面状に並設された複数の構造体を含む円二色性フィルタであって、前記構造体は、前記平面と交差する方向に互いに異なる位置に配置された2つの基端部からそれぞれ伸びる2つの腕部を備える、円二色性フィルタ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状に並設された複数の構造体を含む円二色性フィルタであって、
前記構造体は、前記平面と交差する方向に互いに異なる位置に配置された2つの基端部からそれぞれ伸びる2つの腕部を備え、
(i)前記2つの腕部の前記基端部間が前記平面と交差する方向に中心軸を有する支柱により連結されているか、
(ii)前記2つの腕部の前記基端部が前記平面と交差する方向に互いに接触しているか、又は
(iii)前記2つの腕部が互いに分離され、かつ前記2つの腕部の前記基端部間の離間距離が、前記平面と交差する方向に見たときの前記構造体の高さの0.2倍以下であり、
前記平面と交差する方向に見たときに、前記2つの腕部の開き角2αが0°<2α<180°の条件を満たす
円二色性フィルタ。
【請求項2】
前記複数の構造体が4個1組でC回転対称に配置されている、請求項1に記載の円二色性フィルタ。
【請求項3】
前記4個1組の構造体からなるユニットセルの、前記平面内の繰り返しピッチをPとし、円二色性が最大となる動作電磁波の波長をλとするとき、P/λが0.3〜1.2である、請求項2に記載の円二色性フィルタ。
【請求項4】
前記腕部の長さをL、前記構造体の高さをHとするとき、L/Hの値が0.5〜2である、請求項1〜3のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項5】
前記支柱の中心軸が前記複数の構造体が並設される平面に略垂直である、請求項1〜4のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項6】
前記2つの腕部が前記支柱の一端及び他端のそれぞれから伸びる、請求項1〜5のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項7】
前記2つの腕部がそれぞれ板状である、請求項1〜6のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項8】
前記2つの腕部の板面が互いに略平行である、請求項7に記載の円二色性フィルタ。
【請求項9】
前記2つの腕部の板面が前記複数の構造体が並設される平面に略平行である、請求項7又は8に記載の円二色性フィルタ。
【請求項10】
前記平面と交差する方向に見たときに、前記2つの腕部の形状がそれぞれ半長方形、長方形又は小判型である、請求項1〜9のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項11】
前記2つの腕部の開き角2αが15°≦2α≦120°の条件を満たす、請求項1〜10のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項12】
前記2つの腕部の開き角2αが30°≦2α≦90°の条件を満たす、請求項1〜11のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の円二色性フィルタを備える、光学素子。
【請求項14】
請求項13に記載の光学素子を備える、ディスプレイ。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の円二色性フィルタを製造する、円二色性フィルタの製造方法であって、
前記構造体の前記2つの腕部のうち一方の腕部を作製すること、及び
前記構造体の前記2つの腕部のうち他方の腕部を作製すること、
をこの順で含む、円二色性フィルタの製造方法。
【請求項16】
前記構造体の前記2つの腕部のうち一方の腕部を作製すること、
前記構造体の前記支柱を作製すること、及び
前記構造体の前記2つの腕部のうち他方の腕部を作製すること、
をこの順で含む、請求項15に記載の円二色性フィルタの製造方法。
【請求項17】
複数の前記構造体の前記一方の腕部を作製すること、及び
複数の前記構造体の前記他方の腕部を作製すること、
をこの順で含む、請求項15に記載の円二色性フィルタの製造方法。
【請求項18】
複数の前記構造体の前記一方の腕部を作製すること、
複数の前記構造体の前記支柱を作製すること、及び
複数の前記構造体の前記他方の腕部を作製すること、
をこの順で含む、請求項17に記載の円二色性フィルタの製造方法。
【請求項19】
前記構造体の作製にリソグラフィを用いる、請求項15〜18のいずれかに記載の円二色性フィルタの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円二色性フィルタ、光学素子、ディスプレイ及び円二色性フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円二色性とは、ある種の媒質を円偏光が透過する際、左回り円偏光(「LCP」と表記する場合がある)と右回り円偏光(「RCP」と表記する場合がある)との吸光度に差が生じる現象である。円二色性により、直線偏光を楕円偏光(含円偏光)に変換する、あるいは偏光面を回転させる(旋光性)等の光学操作が可能になる。また、物質の円二色性の測定は、当該物質の構造同定やカイラリティの分析、純度分析等に大いに活用されている。さらに後述するように、光学素子やディスプレイの反射防止にも適用可能である。
【0003】
通常の物質の円二色性はさほど大きくなく、左右の円偏光の吸収差を十分に得るには、ある程度の光学的厚みが必要であり、光学装置の小型化や平面ディスプレイ、可撓性ディスプレイへの実装は困難である。そこで、メタマテリアルを用いた円二色性フィルタが希求されている。メタマテリアルは、対象となる電磁波の波長より小さい人工構造体からなり、負の屈折率等の特異な特性を示すことから、新規な光学設計技術として大いに注目されている。特に、構造体を平面状に配置することで、光の波長より薄い(サブ波長)膜によって巨大な複屈折や旋光性の発現が可能なことから、極薄の光学機能フィルムや超小型光学素子の実現に期待が高まっている。また構造体が微小であるため、繰り返し屈曲や、折り曲げに強い極薄光学フィルムを実現できる可能性がある。
【0004】
比較的簡単な平面状メタマテリアル(「コ」の字型の扁平な構造を持つ)の繰り返し構造を用いて、円二色性を実現する技術が提案されている(特許文献1)。また、負の誘電率を有する金属材料を用いて、サブ波長の薄い円二色性フィルタを実現する技術が提案されている(特許文献2)。特許文献3には、微小ならせん構造又はすだれ構造を有するメタマテリアルからなる円二色性フィルタを、有機ELディスプレイの反射防止に適用する技術が提案されている。
【0005】
また、複数の導電性ナノらせんが面状に並設された面状構造体を含み、前記複数の導電性ナノらせんは、右巻き又は左巻きのいずれか一方に偏っており、前記複数の導電性ナノらせんの少なくとも一部は、前記面状構造体が形成する面の法線に対して傾斜したらせん軸を有する、円二色性フィルタが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018−138985号公報
【特許文献2】特開2012−123327号公報
【特許文献3】特開2019−66633号公報
【特許文献4】特開2020−160440号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.K.Gansel,et al., Science,325,1513(2009)
【非特許文献2】H.M.Li,et al., J.Phys.D:Appl.Phys.,47,185102(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、光学素子には薄型化や小型化への強い要請がある。また、例えば有機ELディスプレイでは、曲げられること(フレキシブル、ベンダブル)や折り曲げられること(フォルダブル)が要求される。しかしながら、従来の外光反射防止に用いられている円偏光板は、直線偏光板と1/4波長板の積層体からなり、直線偏光板は、例えばヨウ素で染色された延伸ポリビニルアルコールフィルムをトリアセチルセルロースフィルムで挟持した構造を有することから、一定の厚さがあり、屈曲性にも欠ける。また1/4波長板には、例えばポリカーボネート等の高分子の延伸フィルムや配向した高分子液晶フィルム等が用いられており、高分子材料の複屈折はさほど大きくないため、必要な位相差を実現するにはある程度の厚みが必要であり、屈曲性も低い。このように、従来の外光反射防止フィルタでは、薄型化と屈曲性付与に限界があった。
【0009】
円二色性の利用を試みた例として特許文献1記載の技術が挙げられるが、円二色性を発現するためには、平面基板に対して入射光線の入射角が基板法線方向から傾斜している必要があり、光学配置が限定され、一般的な平面型のディスプレイに適用するのは困難である。また、特許文献2記載の技術は、異方性透過板と1/4波長板の積層を必要とするため構造が複雑である。
【0010】
微小ならせん構造を用いて、円偏光を選択透過させる技術が提案されている(非特許文献1)。しかしながら、例えば右回り円偏光を透過させる場合、左回り円偏光は反射してしまうため、反射防止機構には適用できない。また当該技術は円偏光の選択反射を用いたものであり、厳密には円二色性というより、コレステリック液晶で良く知られた円偏光の選択反射に近い。
【0011】
特許文献3に記載の技術は、微小ならせん構造等の三次元的に複雑な構造を用いるものであり、そのような微小構造を大面積に均一に作製することは容易ではない。
【0012】
L字型の構造を卍型に配置し、向きを変えて2重に積層したメタマテリアルを2次元平面状に配置した円二色性フィルタが提案されている(非特許文献2)。しかし構造が複雑で製造が難しく、また単純なスケールダウンでは可視域での有効な応答を得ることができず、可視や近赤外域で動作する光学素子への適用は困難である。
【0013】
本発明の目的は、可視光線領域や近赤外線領域で動作可能であり、反射が抑制され、円偏光の選択吸収性に優れ、厚さを薄くでき、製造が容易な高性能円二色性フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題に鑑みて本発明者らが鋭意検討した結果、円二色性フィルタを、平面状に並設された複数の構造体を含み、前記構造体が、前記平面と交差する方向に互いに異なる位置に配置された2つの基端部からそれぞれ伸びる2つの腕部を備え、これら2つの腕部の配置が特定の条件を満たし、かつ前記平面と交差する方向に見たときに前記2つの腕部の開き角2αが0°<2α<180°の条件を満たす構成とすることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明によれば、以下の円二色性フィルタ等を提供できる。
1.平面状に並設された複数の構造体を含む円二色性フィルタであって、
前記構造体は、前記平面と交差する方向に互いに異なる位置に配置された2つの基端部からそれぞれ伸びる2つの腕部を備え、
(i)前記2つの腕部の前記基端部間が前記平面と交差する方向に中心軸を有する支柱により連結されているか、
(ii)前記2つの腕部の前記基端部が前記平面と交差する方向に互いに接触しているか、又は
(iii)前記2つの腕部が互いに分離され、かつ前記2つの腕部の前記基端部間の離間距離が、前記平面と交差する方向に見たときの前記構造体の高さの0.2倍以下であり、
前記平面と交差する方向に見たときに、前記2つの腕部の開き角2αが0°<2α<180°の条件を満たす
円二色性フィルタ。
2.前記複数の構造体が4個1組でC回転対称に配置されている、1に記載の円二色性フィルタ。
3.前記4個1組の構造体からなるユニットセルの、前記平面内の繰り返しピッチをPとし、円二色性が最大となる動作電磁波の波長をλとするとき、P/λが0.3〜1.2である、2に記載の円二色性フィルタ。
4.前記腕部の長さをL、前記構造体の高さをHとするとき、L/Hの値が0.5〜2である、1〜3のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
5.前記支柱の中心軸が前記複数の構造体が並設される平面に略垂直である、1〜4のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
6.前記2つの腕部が前記支柱の一端及び他端のそれぞれから伸びる、1〜5のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
7.前記2つの腕部がそれぞれ板状である、1〜6のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
8.前記2つの腕部の板面が互いに略平行である、7に記載の円二色性フィルタ。
9.前記2つの腕部の板面が前記複数の構造体が並設される平面に略平行である、7又は8に記載の円二色性フィルタ。
10.前記平面と交差する方向に見たときに、前記2つの腕部の形状がそれぞれ半長方形、長方形又は小判型である、1〜9のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
11.前記2つの腕部の開き角2αが15°≦2α≦120°の条件を満たす、1〜10のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
12.前記2つの腕部の開き角2αが30°≦2α≦90°の条件を満たす、1〜11のいずれかに記載の円二色性フィルタ。
13.前記1〜12のいずれかに記載の円二色性フィルタを備える、光学素子。
14.13に記載の光学素子を備える、ディスプレイ。
15.1〜12のいずれかに記載の円二色性フィルタを製造する、円二色性フィルタの製造方法であって、
前記構造体の前記2つの腕部のうち一方の腕部を作製すること、及び
前記構造体の前記2つの腕部のうち他方の腕部を作製すること、
をこの順で含む、円二色性フィルタの製造方法。
16.前記構造体の前記2つの腕部のうち一方の腕部を作製すること、
前記構造体の前記支柱を作製すること、及び
前記構造体の前記2つの腕部のうち他方の腕部を作製すること、
をこの順で含む、15に記載の円二色性フィルタの製造方法。
17.複数の前記構造体の前記一方の腕部を作製すること、及び
複数の前記構造体の前記他方の腕部を作製すること、
をこの順で含む、15に記載の円二色性フィルタの製造方法。
18.複数の前記構造体の前記一方の腕部を作製すること、
複数の前記構造体の前記支柱を作製すること、及び
複数の前記構造体の前記他方の腕部を作製すること、
をこの順で含む、17に記載の円二色性フィルタの製造方法。
19.前記構造体の作製にリソグラフィを用いる、14〜18のいずれかに記載の円二色性フィルタの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可視や近赤外域で動作可能であり、反射が抑制され、円偏光の選択吸収性に優れ、厚さを薄くでき、製造が容易な円二色性フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る円二色性フィルタに含まれる構造体の一例を説明する図である。
図2】第1実施形態に係る円二色性フィルタに含まれ得るユニットセルの一例を説明する図である。
図3】第1実施形態に係る円二色性フィルタの一例を説明する図である。
図4】構造体の構成例(半長方形型)を説明する図である。
図5】構造体の構成例(長方形型)を説明する図である。
図6】構造体の構成例(小判型)を説明する図である。
図7】構造体の構成例(楕円型)を説明する図である。
図8】第2実施形態に係る円二色性フィルタに含まれる構造体の一例を説明する図である。
図9】第2実施形態に係る円二色性フィルタに含まれ得るユニットセルの一例を説明する図である。
図10】第3実施形態に係る円二色性フィルタに含まれる構造体の一例を説明する図である。
図11】第3実施形態に係る円二色性フィルタに含まれ得るユニットセルの一例を説明する図である。
図12】構造体を作製する方法の一例を説明する図である。
図13】本発明の円二色性フィルタを有機EL素子に用いた場合の外光反射防止の原理を示す図である。
図14図13の有機EL素子の有機EL層で発光した光が、円二色性フィルタを透過して取り出される原理を示す図である。
図15】実施例1のユニットセルを説明する図である。
図16】実施例1の計算結果を示す図である。
図17】実施例2の計算結果を示す図である。
図18】実施例3のユニットセルを説明する図である。
図19】実施例3の計算結果を示す図である。
図20】実施例4の計算結果を示す図である。
図21】実施例5の計算結果を示す図である。
図22】実施例6の計算結果を示す図である。
図23】実施例7の計算結果を示す図である。
図24】実施例8の計算結果を示す図である。
図25】実施例9の計算結果を示す図である。
図26】実施例10の計算結果を示す図である。
図27】比較例1の構造体を説明する図である。
図28】比較例1の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の円二色性フィルタ、光学素子、ディスプレイ及び円二色性フィルタの製造方法について詳述する。
本明細書において、「x〜y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、以下に記載される本発明の個々の形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の形態である。
本明細書において、「略平行」とは、完全な平行に加えて、実質的な平行、即ち、製造誤差や配置誤差等により完全な平行から±10°の範囲でずれた場合を許容するものである。
本明細書において、「略垂直」とは、完全な垂直に加えて、実質的な垂直、即ち、製造誤差や配置誤差等により完全な垂直から±10°の範囲でずれた場合を許容するものである。
【0019】
1.円二色性フィルタ
本発明の一態様に係る円二色性フィルタは、平面状に並設された複数の構造体を含む円二色性フィルタであって、前記構造体は、前記平面と交差する方向に互いに異なる位置に配置された2つの基端部からそれぞれ伸びる2つの腕部を備え、
(i)前記2つの腕部の前記基端部間が前記平面と交差する方向に中心軸を有する支柱により連結されているか、
(ii)前記2つの腕部の前記基端部が前記平面と交差する方向に互いに接触しているか、又は
(iii)前記2つの腕部が互いに分離され、かつ前記2つの腕部の前記基端部間の離間距離が、前記平面と交差する方向に見たときの前記構造体の高さの0.2倍以下であり、
前記平面と交差する方向に見たときに、前記2つの腕部の開き角2αが0°<2α<180°の条件を満たす。
かかる円二色性フィルタによれば、可視や近赤外域で動作可能であり、反射が抑制され、円偏光の選択吸収性に優れる。また、構造体を構成する各要素の形状が単純であり、しかも平面構造を中心とするので、例えばリフトオフのような既存の確立されたリソグラフィによって容易に製造可能である。さらに、円二色性フィルタの厚さを薄くすることにも適している。
【0020】
以下の説明では、上記(i)〜(iii)の各実施形態を第1〜3実施形態という。
【0021】
(i)第1実施形態
第1実施形態において、円二色性フィルタは、平面状に並設された複数の構造体を含む円二色性フィルタであって、前記構造体は、支柱と、前記支柱から伸びる2つの腕部とを備え、前記支柱の中心軸方向に見たときに、前記2つの腕部の開き角2αが0°<2α<180°の条件を満たす。
【0022】
(構造体)
図1は第1実施形態に係る円二色性フィルタに含まれる構造体の一例を説明する図であり、(A)は斜視図、(B)は平面図(上面図)、(C)は側面図である。
【0023】
図1に示すように、構造体1は、支柱4と、支柱4から伸びる2つの板状の腕部2、3とを備える。構造体1は、通常、導電性材料により構成される。
【0024】
2つの板状の腕部2、3は、それぞれ直方体をなすように、支柱4から伸びている。2つの板状の腕部2、3の板面は互いに略平行である。ここでいう「板面」は、上面及び下面(底面)の少なくとも一方、好ましくは両方である。図示の例では、2つの板状の腕部2、3の上面が互いに略平行で、かつ、底面も互いに略平行に配置されている。
円二色性の発現において、2つの腕部が互いに板面を略平行に保つことは必須ではないが、構造体の作製の容易さを考慮すると、略平行であることが好ましい。2つの腕部の板面が略平行ではない場合、これらが成す角は、例えば、30°以下又は20°以下である。
尚、本明細書において、「板状」の腕部という場合、該腕部の上面及び下面が互いに略平行であることを意味する。腕部の上面及び下面を略平行に保つこと(腕部が板状であること)は必須ではないが、構造体の作製の容易さを考慮すると、略平行であることが好ましい。腕部の上面及び下面が略平行ではない場合、これらが成す角は、例えば、30°以下又は20°以下である。
【0025】
図示の例では、支柱4は円柱である。2つの板状の腕部2、3は、支柱4の一端及び他端のそれぞれから伸びている。ここで、2つの板状の腕部2、3のそれぞれは、支柱4の一端及び他端のそれぞれに該支柱4の中心軸方向(後述するx−y平面と交差する方向)に隣接するように設けられた基端部から伸びているということもできる。この基端部は、腕部2、3の構成要素とみなすことができる。2つの基端部は、後述するx−y平面と交差する方向(支柱4の中心軸方向)に互いに異なる位置に配置されている。
【0026】
支柱4の中心軸(図1中、一点鎖線で示す。)方向(後述するx−y平面と交差する方向)に見たときに2つの板状の腕部2、3の開き角2αは、0°<2α<180°の条件を満たす。これにより、左右円偏光の選択性が発現する。
図1(B)の例では、「腕部2、3の開き角2α」は、支柱4の中心軸を通り、該中心軸に垂直かつ一方の(上側の)腕部2が成す直方体の長辺に平行な線分(腕部2の長軸)をa、他方の(下側の)腕部3が成す直方体の長辺に平行な線分(腕部3の長軸)をbとしたときに、長軸a、bに挟まれる角の角度に相当する。
【0027】
腕部2、3の開き角2αは、例えば、15°≦2α≦120°の条件又は30°≦2α≦90°の条件を満たす。
第1実施形態において、腕部2、3の開き角2αは、好ましくは15°≦2α≦90°であり、より好ましくは30°≦2α≦60°である。これにより、左右円偏光の選択性がさらに向上する。
【0028】
図1(B)に示すように、線分a、bに挟まれる角度2α(0°<2α<180°)の角を二等分する線分であって、支柱4の中心から外側に向かうベクトルをcとする。このベクトルcの向きを、構造体の向きと呼ぶ。支柱4の中心から、後述する「回転軸」に下した垂線をdとし、ベクトルcと線分dのなす角をβとする。βは反時計周りを正、時計回りを負の値で測り、−180°<β≦180°である。
【0029】
一実施形態において、構造体1について以下の構造パラメータが定義される。構造体のパラメータは、構造体が円二色性フィルタとして動作する電磁波波長に依存するが、近紫外線領域から可視光線領域を含み近赤外線領域までの動作に適するパラメータとしては、例えば以下のようになる。
支柱4を含む腕部2、3の長さ(支柱4部分から腕部2、3の先端までの長さ)をLとする。Lは、例えば、20nm〜10μmであり得る。
腕部2、3の幅をWとする。Wは、例えば、20nm〜5μmであり得る。
腕部2、3の厚さをtとする。tは、例えば、5nm〜3μmであり得る。
腕部2、3間のギャップをgとする。第1実施形態において、gは、例えば、5nm〜3μmであり得る。
支柱4の直径をDとする。Dは、例えば、10nm〜5μmであり得る。
構造体1の高さ(第1実施形態では腕部2、3の基端部を含む支柱4の高さに相当)をHとする。Hは、例えば、15nm〜9μmであり得る。構造体1の高さは、後述するx−y平面と交差する方向(第1実施形態では支柱4の中心軸方向に相当)における構造体1の高さ(長さ)である。
【0030】
腕部2、3の長さL、幅W及び厚さtのそれぞれは、腕部2と腕部3とで同じであってもよく、異なってもよい。
【0031】
図1の例では、腕部2、3の幅Wと、支柱4の直径Dとは、W=Dであるが、W>Dであってもよく、W<Dであってもよい。
【0032】
図1の例では、支柱4が円柱の場合を示したが、支柱4の形状は円柱に限らない。例えば、三角柱、四角柱、n角柱(nは、5以上の自然数)等であってもよく、側面が底面に垂直な直角柱であってもよい。支柱4の直径Dは、支柱4が円柱でない場合は、支柱4の中心軸に垂直な断面積を円換算したときの直径とする。
以下、主に支柱4が円柱である場合について説明するが、直角柱等の他の形状の場合も同様である。
【0033】
一実施形態において、腕部2、3の厚さt、腕部2、3間のギャップg及び構造体1の高さHは、H=2t+gの条件を満たす。
【0034】
図1において、上方の腕部2と下方の腕部3との位置関係は、平面視した場合に、腕部3が腕部2に対して時計回り方向に角度2αの位置に配置されている(ねじれている)が、逆に腕部3が腕部2に対して反時計回り方向に2αの位置に配置されていてもよい。これにより、左右円偏光に対する選択性を逆転させることができる。
【0035】
(ユニットセル)
図2は、第1実施形態に係る円二色性フィルタに含まれ得るユニットセルの一例を説明する図であり、(A)は斜視図、(B)は平面図(上面図)である。
【0036】
図2の例において、1組のユニットセル5は、4個の構造体1を含む。構造体1は図1に示したものと同じである。
【0037】
4個の構造体1は、二次元平面(x−y平面)に沿うように平面状に配置されている。構造体1の支柱4の中心軸は、この平面(x−y平面)と交差する方向に配向され、ここではx−y平面に略垂直(z方向)に配向されている例を示している。また、構造体1の2つの板状の腕部2、3の板面は、x−y平面に略平行である。
【0038】
1組のユニットセル5に含まれる4個の構造体1は、それぞれ回転軸を中心として、4回転対称(C回転対称)になるように配置されている。即ち、回転軸を中心に90°回転した配置は、もとの配置に重なる(言い換えれば、4個の構造体1は、そのような回転軸を仮想できるような配置関係にある)。
【0039】
構造体1が備える2つの板状の腕部2、3の底面は、回転軸に対して略垂直である。1組のユニットセル5に含まれる4つの構造体1の形成面(ユニットセル5の底面ともいう。)は、回転軸に対して略垂直である。
【0040】
図1を参照して説明した構造体1の向きを表すβの値は特に限定されず、いずれの角度においても良好な円偏光選択性を示す。図2はβ=0°の場合を示している。
【0041】
円二色性フィルタにおいて、複数の構造体1は、x−y平面におけるx軸方向及びy軸方向のそれぞれに所定の構造体間距離pで配置される。構造体間距離pは、支柱4の中心間距離として求めることができる。
pは、例えば、20nm〜10μmであり得る。
円二色性フィルタにおいて、ユニットセル5は、x−y平面におけるx軸方向及びy軸方向のそれぞれに所定のピッチ(「ユニットセルピッチ」あるいは「ユニットセルの繰り返し幅」ともいう。)Pで繰り返し配置される。
Pは、例えば、40nm〜50μmであり得る。
【0042】
(円二色性フィルタ)
図3は第1実施形態に係る円二色性フィルタの一例を説明する図である。
図3に示す円二色性フィルタ6は、x−y平面に沿うように平面状に並設された複数の構造体1を含む。図3の例では、円二色性フィルタ6は、x−y平面に沿うように平面状に並設された複数のユニットセル5を含む、ということもできる。
構造体1の集合体として形成される平面構造を支持(固定)する手段は格別限定されない。平面構造は、例えばなんらかの基板の上に設けられていてもよく、また誘電体媒質中に封入されていてもよい。
【0043】
構造体1は、図1図3に示したものに限定されない。構造体1は、板状(扁平棒状)の2つの腕部2、3が、ある角度(2α)をもってねじれた配置にあり、それらが端部において支柱4で結合(連結)されていて、光学的にキラルな形態をとることが好ましい。これによって、左右円偏光に対する選択的吸収が発現する。
【0044】
図4図7は構造体の構成例を説明する図である。ここでは主に腕部2、3の形状を例示する。ここで、腕部2、3の形状は、主に上述したx−y平面と交差する方向に見たときの形状(平面形状)である。
【0045】
図4に示す構造体1は、図1図3に示したものであり、「半長方形型」と呼ぶ(長方形の一端側が円弧状)。図4の例では、腕部2、3における支柱4との接合部分(基端部側)が円弧状に形成される場合について示しているが、基端部側が矩形状、先端側が円弧状に形成されてもよい。
【0046】
図5に示す構造体1は、腕部2、3の先端側と基端部側の両方が矩形であり、「長方形型」と呼ぶ。
【0047】
図6に示す構造体1は、図5に示した構造体1における腕部2、3が成す長方形の角に丸みを付与したものであり、「小判型」と呼ぶ(「角丸長方形」と呼ばれる場合もある。)。
【0048】
図7に示す構造体1は、腕部2、3が楕円形をしており、「楕円型」と呼ぶ。
【0049】
図4図7に例示した構造体1は、いずれも円二色性フィルタを構成する場合は、これらが4個1組でC回転対称に配置されたユニットセルが、平面状に繰り返し配置され得る。
【0050】
図4図7に例示した構造体1は、いずれも上面から見たときに、上方の腕部2に対し下方の腕部3が時計回り方向にねじれているが、逆に反時計回りにねじれていてもよい。これにより、左右円偏光に対する選択性を逆転させることができる。
【0051】
本態様に係る円二色性フィルタは、紫外、可視、近赤外の電磁波に対して有効である。構造体やユニットセルのサイズは、円二色性を発現させたい電磁波の波長λに応じて適宜選択できる。
【0052】
ユニットセルの繰り返しピッチPは、目的とする動作波長(円二色性が最大となる共鳴波長)λと同程度か、それ以下である。具体的には、P/λは、好ましくは0.3〜1.2、より好ましくは0.4〜1.0である。P/λが1.2以下であることによって、光の透過成分を低減でき、十分な円二色性が好適に得られる。P/λが0.3以上であることによって、構造体同士が離間されるため、反射成分が大きくなることが防止され、構造体間の干渉が抑制され、十分な円二色性が好適に得られ、さらに吸収スペクトルが複雑になることを防止できる。
【0053】
構造体における支柱を含む腕部の長さLの動作波長λに対する比L/λは、好ましくは0.1〜0.5であり、より好ましくは0.1〜0.3である。L/λが0.5以下であることによって、構造体による光の回折が防止され、反射成分を低減できる。L/λが0.1以上であることによって、左右円偏光の十分な選択性が好適に得られる。
【0054】
構造体の形状の指標として、アスペクト比L/H(Hは構造体の高さ)をとると、0.5〜2が好適である。より好ましくは、0.8〜1.7である。
【0055】
上下の腕部間のギャップgに関しては、構造体の高さHとの関係で、g/Hが好ましくは0.1〜0.6、より好ましくは0.2〜0.4である。この範囲であれば、上下の腕部の共鳴効果が強まり、左右円偏光の選択性が向上する。
【0056】
(ii)第2実施形態
第2実施形態において、円二色性フィルタは、平面状に並設された複数の構造体を含む円二色性フィルタであって、前記構造体は、前記平面と交差する方向に互いに異なる位置に配置された2つの基端部からそれぞれ伸びる2つの腕部を備え、前記2つの腕部の前記基端部が前記平面と交差する方向に互いに接触しており、前記平面と交差する方向に見たときに、前記2つの腕部の開き角2αが0°<2α<180°の条件を満たす。
【0057】
図8は第2実施形態に係る円二色性フィルタに含まれる構造体の一例を説明する図であり、図9は第2実施形態に係る円二色性フィルタに含まれ得るユニットセルの一例を説明する図である。
【0058】
第2実施形態に係る円二色性フィルタは、第1実施形態に係る円二色性フィルタにおいて、構造体1の支柱4(腕部2、3間(ギャップg)に対応する部分)を省略し、構造体1の腕部2、3間のギャップgを0にしたものである。
【0059】
第2実施形態において、腕部2の基端部の下面(腕部3側の面)と、腕部3の基端部の上面(腕部2側の面)とは互いに向かい合って接触していて、電気的に接合している(導体として一体化している)。
【0060】
第2実施形態において、腕部2、3の開き角2αは、好ましくは15°≦2α≦120°であり、より好ましくは30°≦2α≦90°である。これにより、左右円偏光の選択性がさらに向上する。
【0061】
第2実施形態に係る円二色性フィルタのその他の構成については、第1実施形態についてした説明を援用し、ここでの詳細な説明は省略する。
【0062】
(iii)第3実施形態
第3実施形態において、円二色性フィルタは、平面状に並設された複数の構造体を含む円二色性フィルタであって、前記構造体は、前記平面と交差する方向に互いに異なる位置に配置された2つの基端部からそれぞれ伸びる2つの腕部を備え、前記2つの腕部が互いに分離され、かつ前記2つの腕部の前記基端部間の離間距離が、前記平面と交差する方向に見たときの前記構造体の高さの0.2倍以下であり、前記平面と交差する方向に見たときに、前記2つの腕部の開き角2αが0°<2α<180°の条件を満たす。
【0063】
図10は第3実施形態に係る円二色性フィルタに含まれる構造体の一例を説明する図であり、図11は第3実施形態に係る円二色性フィルタに含まれ得るユニットセルの一例を説明する図である。
【0064】
第3実施形態に係る円二色性フィルタは、第1実施形態に係る円二色性フィルタにおいて、構造体1の支柱4(腕部2、3間(ギャップg)に対応する部分)を省略し、腕部2、3の基端部間がギャップgに対応する離間距離で分離されたものである。図10を参照してさらに説明すると、離間距離はギャップgに相当し、構造体1の高さHは、2つの腕部2、3の厚みtとギャップgとを合わせた長さ、即ちH=2t+gに相当する。従って、上述した「前記2つの腕部が互いに分離され、かつ前記2つの腕部の前記基端部間の離間距離が、前記平面と交差する方向に見たときの前記構造体の高さの0.2倍以下である」ということは、「離間距離gが、2つの腕部2、3を含む構造体1の高さHに対し、0<g/H≦0.2である」と言い換えることができる。腕部2、3が互いに分離されていても、離間距離が上記の範囲であれば、これら腕部2、3は1つの構造体1を成すものとみなす。
【0065】
第3実施形態において、離間距離(ギャップg)は目的の動作光波長に応じて適宜設定できるが、例えば、5μm以下、3μm以下、1μm以下又は0.5μm以下であり得る。下限は限定されず、g>0であればよい。尚、g=0の場合は第2実施形態に相当する。
【0066】
第3実施形態において、腕部2の基端部の下面(腕部3側の面)と、腕部3の基端部の上面(腕部2側の面)とは互いに向かい合って上述した離間距離で分離されており、電気的に接続されていない(導体として一体化されていない)。
【0067】
一実施形態において、腕部2の基端部の下面と、腕部3の基端部の上面とはそれぞれ平坦な面として形成され、互いに平行である。
【0068】
第3実施形態において、腕部2、3の開き角2αは、好ましくは15°≦2α≦120°であり、より好ましくは30°≦2α≦90°である。これにより、左右円偏光の選択性がさらに向上する。
【0069】
第3実施形態に係る円二色性フィルタのその他の構成については、第1実施形態についてした説明を援用し、ここでの詳細な説明は省略する。
【0070】
2.円二色性フィルタの製造方法
本発明の一態様に係る円二色性フィルタの製造方法は、本発明の一態様に係る円二色性フィルタを製造する、円二色性フィルタの製造方法であって、構造体の2つの腕部のうち一方の腕部を作製すること、及び構造体の2つの腕部のうち他方の腕部を作製すること、をこの順で含む。
【0071】
以下、上述した第1〜3実施形態に係る円二色性フィルタのそれぞれを製造するための第1〜3実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法について順に説明する。
【0072】
(i)第1実施形態
第1実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法は、第1実施形態に係る円二色性フィルタを製造する、円二色性フィルタの製造方法であって、構造体の2つの腕部のうち一方の腕部を作製すること、構造体の支柱を作製すること、及び構造体の2つの腕部のうち他方の腕部を作製すること、をこの順で含む。
【0073】
一実施形態において、円二色性フィルタの製造方法は、複数の構造体の一方の腕部を作製すること、複数の構造体の支柱を作製すること、及び複数の構造体の他方の腕部を作製すること、をこの順で含む。
【0074】
構造体を作製する方法は格別限定されず、例えば、リソグラフィを用いることが好ましい。リソグラフィとしては、自体公知の手法を用いることができる。
【0075】
図12は、構造体を作製する方法の一例を説明する図である。ここでは、図1に示したものと同様の構造体1を作製する場合を例に説明する。
【0076】
まず、図12(A)に示すように、基板7上に、構造体1の下方の腕部3に相当する型を成すようにレジスト8を形成する。
【0077】
次いで、図12(B)に示すように、レジスト8が形成された基板7上に、構造体1の材料となる導電性材料(ここでは金属)9を付与(製膜)する。導電性材料の製膜方法は格別限定されず、例えば、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、メッキ法等のような自体公知の方法を用いることができる。
【0078】
次いで、図12(C)に示すように、レジスト8を除去(剥離、リフトオフ)する。基板7上には、導電性材料9からなる下方の腕部3が残る。
【0079】
次いで、図12(D)に示すように、下方の腕部3が形成された基板7を埋め込み材10で被覆する。埋め込み材の製膜方法は格別限定されず、例えば、塗布プロセス(塗布法)を用いることができる。塗布プロセスとしては、例えば、スピンコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、エアロゾル噴霧法等のような自体公知の方法(例えば塗布プロセス)を用いることができる。
【0080】
次いで、図12(E)に示すように、ドライエッチング、機械的研磨等のような自体公知の除去加工により、下方の腕部3の上面が露出し、かつ全体が平坦になるまで、埋め込み材10を除去する(削る)。
【0081】
次いで、図12(F)に示すように、構造体1の支柱4部分に相当する型を成すようにレジスト11を形成する。
【0082】
次いで、図12(G)に示すように、レジスト11が形成された基板7上に、導電性材料(ここでも金属)12を付与(製膜)する。
【0083】
次いで、図12(H)に示すように、レジスト11を除去(剥離、リフトオフ)する。基板7上には、下方の腕部3、支柱4(導電性材料12)及び埋め込み材10が残る。
【0084】
次いで、図12(I)に示すように、下方の腕部3及び支柱4が形成された基板7を埋め込み材13で再度被覆する。
【0085】
次いで、図12(J)に示すように、除去加工により、支柱4の上面が露出し、かつ全体が平坦になるまで、埋め込み材13を除去する(削る)。
【0086】
次いで、図12(K)に示すように、構造体1の上方の腕部2に相当する型を成すようにレジスト14を形成する。
【0087】
次いで、図12(L)に示すように、レジスト14が形成された基板7上に、導電性材料(ここでも金属)15を付与(製膜)する。
【0088】
次いで、図12(M)に示すように、レジスト14を除去(剥離、リフトオフ)する。基板7上には、下方の腕部3、支柱4、上方の腕部2(導電性材料15)、埋め込み材10及び埋め込み材13が残る。このようにして、構造体1を形成することができる。
【0089】
さらに、図12(N)に示すように、構造体1が形成された基板7を埋め込み材16で再度被覆する。このようにして、構造体1が埋め込み材10、13及び16に埋設されたメタマテリアル構造を形成することができる。
【0090】
上記のもの(基板7を含むもの)を円二色性シートとすることもできるが、必要に応じて基板7を除去(剥離)して、埋め込み材中に構造体1が埋設された円二色性シートとすることもできる。
【0091】
図12では、1つの構造体1が作製される過程を示したが、当該構造体1と共に円二色性フィルタを構成するための他の複数の構造体1についても、同一の基板7上において、当該構造体1と同様に、当該構造体1と同時に、作製することができる。
【0092】
構造体は導電性材料で構成される。導電性材料は格別限定されず、例えば、金属、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性酸化物(導電性金属酸化物)、及びカーボンナノチューブ、グラフェン等の導電性炭素材料等が挙げられる。金属は格別限定されず、銀、金、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタン、タングステン、こられの合金、及びこれら金属の組み合わせであり得る。上述した導電性材料は、1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。また、構造体の腕部と支柱とで、異なる材料を用いても良い。
【0093】
複数の構造体は、基板を支持体としてその上面に沿って配置されていてもよい。基板は、複数の構造体を保持することができる。基板は、透明であって、薄く、均一で、光学異方性の少ないものが適する。基板は誘電体(絶縁体)によって形成される。
【0094】
基板の材質は格別限定されず、例えば、ポリマー、ガラス等を用いることができる。ポリマーは格別限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)等が挙げられる。また、ガラスとしては、薄く柔軟なガラス基板等が挙げられる。
【0095】
基板は透明ポリイミドを含む。透明ポリイミドは、透明性に優れるだけでなく、例えば、円二色性フィルタによる円偏光吸収に伴う発熱等に対して良好な耐熱性を発揮する。
【0096】
基板の形状は格別限定されないが、例えばシート状等とすることができる。基板として、例えば、シート状に形成されたポリマー(「フィルム」ともいう)を用いることができる。シート状の基板の厚みは格別限定されないが、屈曲性を付与する観点で薄いことが好ましく、例えば、100μm以下、70μm以下、又は50μm以下であり得る。下限は格別限定されず、例えば、10μm以上であり得る。
【0097】
構造体は、埋め込み材の中に保持されていても良い。埋め込み材は、構造体の配置を適切に保持すると同時に、環境の酸素や水等から、構造体の材質を保護する役目も担う。
【0098】
埋め込み材を構成する媒質として、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂等が挙げられる。また柔軟性をさほど要しないような用途には、ガラス材料も好適である。
【0099】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリウレタン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンル、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフロオロエチレンコポリマー、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレンコポリマー、エチレン・四フッ化エチレンコポリマーを含む)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド(ナイロン、アラミドを含む)、ポリブチレン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタラートを含む)、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、環状ポリオレフィン、ポリエチルビニルアセテート、SMA(スチレン−マレイン酸無水物)樹脂、石油樹脂、天然ゴム、合成ゴム(イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムを含む)等が挙げられる。
【0100】
硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズオキサイミダゾール、ポリフェニレンベンゾビスチアゾール、硬化性ポリフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、硬化性ポリイミド、硬化性アクリル樹脂、硬化性メタクリル樹脂、シリコーン(ケイ素)樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。後硬化可能な、ポリイミドワニスなどが、特に好適である。
【0101】
埋め込み材として、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性のレジスト材、シリコーンゴム等を用いる場合は、構造体を被覆するように媒質を液状で塗布して薄膜を形成し、次いで、何れかの刺激(例えば、加熱、あるいは紫外線等のような活性エネルギー線の照射等)によって薄膜を硬化することができる。また、構造体を含む硬化後の薄膜(媒質)を剥離して、他の所望される部材に貼合することもできる。
【0102】
構造体の作製方法において言及したレジストには、リソグラフィに用いられる通常のものを用いることができる。フォトレジスト用、電子線レジスト用などが好適である。
【0103】
(ii)第2実施形態
第2実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法は、第1実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法において、構造体の支柱を作製することを省略したものである。
【0104】
第2実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法は、構造体の2つの腕部のうち一方の腕部を作製すること、及び構造体の2つの腕部のうち他方の腕部を作製すること、をこの順で含む。このとき、2つの腕部の基端部が互いに接触するようにする。
【0105】
例えば、図12を参酌して説明した製造方法において、図12(F)〜(J)に示される工程を省略することで、第2実施形態に係る円二色性フィルタを製造できる。この場合、図12(E)で示される工程において腕部3を表面に露出させ、次いで、図12(K)以降で示される工程において腕部3上に腕部2を形成する。
【0106】
第2実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法のその他の構成については、第1実施形態についてした説明を援用し、ここでの詳細な説明は省略する。
【0107】
(iii)第3実施形態
第3実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法は、第1実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法において、構造体の支柱を作製することを省略したものである。
【0108】
第3実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法は、構造体の2つの腕部のうち一方の腕部を作製すること、及び構造体の2つの腕部のうち他方の腕部を作製すること、をこの順で含む。このとき、一方の腕部と他方の腕部との基端部間の離間距離が、構造体(最終的に形成される、2つの腕部を含む構造体)の高さの0.2倍以下になるようにする。
【0109】
例えば、図12を参酌して説明した製造方法において、図12(F)〜(H)及び(J)に示される工程を省略することで、第3実施形態に係る円二色性フィルタを製造できる。この場合、図12(E)で示される工程において腕部3を表面に露出させ、次いで、図12(I)で示される工程において腕部3上に埋め込み材13の層を形成する。次いで、図12(K)以降で示される工程において埋め込み材13の層上に腕部2を形成する。ここでは、埋め込み材13の層の厚さが上述した離間距離(ギャップg)に対応するため、この層の厚さを調整することで離間距離(ギャップg)を調整することができる。
【0110】
以上のようにして、2つの腕部2、3間(第1実施形態において支柱4が設けられていた部分を含む)に埋め込み材(例えば上述した埋め込み材13の層)を介在させることができる。埋め込み材としては第1実施形態について説明した媒質を用いることができる。
【0111】
第3実施形態に係る円二色性フィルタの製造方法のその他の構成については、第1実施形態についてした説明を援用し、ここでの詳細な説明は省略する。
【0112】
3.反射防止の原理
本発明の一態様に係る円二色性フィルタを光学素子の反射防止に用いる場合の原理を、有機EL素子への適用を例に説明する。図13は、本発明の円二色性フィルタを有機EL素子に用いた場合の外光反射防止の原理を示す図である。図13中の「1」及び「0.5」は、入射光強度を1とした場合の概略の光強度を示す。また、図13では、左回り円二色性フィルタ(左回り円偏光を選択吸収する)を用いた場合を例示するが、右回り円二色性フィルタ(右回り円偏光を選択吸収する)用いる場合においても、以下の議論は「左」と「右」を入れ替えることで同様に成り立つ。
【0113】
外光入射光は、無偏光、すなわちランダムな方向に偏光した直線偏光の集まりと見なせる。個々の直線偏光は、それぞれ強度の等しい右回り円偏光と左回り円偏光の和と考えられる。外光入射光のうち、右回り円偏光の成分は、円二色性フィルタとは相互作用せず、通過する。一方、左回り円偏光は円二色性フィルタによって吸収され、熱に変換され、減衰する。円二色性フィルタを通過した右回り円偏光は、有機EL層を通過した後、反射層に達する。右回り円偏光は、反射によって左回り円偏光に変換され、有機EL層を再度通過したあと、円二色性フィルタで吸収され、減衰する。
【0114】
図14は、図13の有機EL素子の有機EL層で発光した光が、円二色性フィルタを透過して取り出される原理を示す図である。有機ELの発光は概略無偏光であり、当該無偏光は、右回り円偏光と左回り円偏光の和と考えることができる。図14において、有機EL層で発光した光(無偏光)は、反射層で反射される分も含めて、円二色性フィルタ方向(−z軸方向)に向かう光のうち、右回り円偏光成分は円二色性フィルタを通過して外に取り出すことができるが、左回り円偏光は吸収を受け、減衰する。
【0115】
本態様の円二色性フィルタを備える有機EL素子を、直線偏光板及び1/4波長板からなる従来型の外光反射防止フィルタを備える有機EL素子と比較した場合、ELの発光の概略半分を取り出す点で共通するが、外光反射防止フィルタを薄型化でき、有機EL素子に柔軟性や屈曲性を与えることができる点で優れる。また、本発明の円二色性フィルタは超小型の光学センサーやレーザー装置などに組み込むのにも好適である。
【0116】
4.光学素子
本発明の一態様に係る光学素子は、本発明の一態様に係る円二色性フィルタを備える。これにより、反射が抑制され、円偏光の選択吸収性に優れ、厚さを薄くでき、製造が容易になる。
【0117】
5.ディスプレイ
本発明の一態様に係るディスプレイは、本発明の一態様に係る光学素子を備える。これにより、反射が抑制され、円偏光の選択吸収性に優れ、厚さを薄くでき、製造が容易になる。
ディスプレイの形態は格別限定されず、例えば有機ELディスプレイ(有機EL素子)等であり得る。
【実施例】
【0118】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。各実施例、比較例に用いた構造体の腕部の形状、構造パラメータ、計算結果の概要(共鳴波長及び左右円偏光の共鳴点における吸収量、及び吸収量の比)を表1に示す。
【0119】
(実施例1)
図15に示すユニットセルを定義し、電磁界シミュレータ(COMSOL,Inc.社製「COMSOL Multiphysics(登録商標)」)を用いてその光学特性を計算した。当該構造体の腕部は図4に示す半長方形型であり、支柱は円筒形状である。構造体の材質は金と設定した。構造体を取り囲む気体は空気と設定した。基板は省略した。上下腕部の位置関係は、平面視した場合に、下側の腕が上側の腕に対して時計回りに20°回転した位置となる配置である。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図16(A)に示す。共鳴点である波長625nmにおいて左回り円偏光の87%が吸収されたことが分かる(図中、「LCP吸収」と表記した)。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図16(B)に示す。波長625nmにおいて右回り円偏光の吸収が10%であったことが分かる(図中、「RCP吸収」と表記した)。
円二色性の指標である左回り円偏光と右回り円偏光との最大吸収の比は9.1であり、良好な選択吸収特性が得られた。
【0120】
図16(A)中の「LCP反射」は、左回り円偏光が入射した場合の反射成分を表す。計算結果によれば、光の伝搬方向を考慮した円偏光の定義に則ると、反射成分は右回り円偏光である。図16(A)において、「LCP反射」、「LCP透過」、「LCP吸収」の強度の和は1であるため、左回り円偏光の反射成分はほぼ0であった。同様に、図16(B)中の「RCP反射」の成分は左回り円偏光であり、右回り円偏光の反射成分はほぼ0であった。当該事項は後述する実施例及び比較例においても同じである。
【0121】
(実施例2)
構造体の腕部の形状を図5に示す長方形型とし、構造パラメータを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同じ方法で光学特性を計算した。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図17(A)に示す。共鳴点である波長12.94μmにおいて、左回り円偏光の90%が吸収されたことが分かる。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図17(B)に示す。波長12.94μmにおいて、右回り円偏光の吸収は7%であったことが分かる。
左回り円偏光と右回り円偏光との最大吸収の比は13.5であり、良好な選択吸収特性が得られた。また、構造体のサイズを大きくすることで、赤外線領域にも好適に適用できることが分かった。
【0122】
(実施例3)
図18に示すユニットセルを定義した。即ち、構造体の腕部の形状を図6に示す小判型とし、構造パラメータを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同じ方法で光学特性を計算した。上下腕部の位置関係は、平面視した場合に、下側の腕が上側の腕に対して反時計回りに30°回転した位置となる配置である。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図19(A)に示す。共鳴点である波長526nmにおいて、左回り円偏光の93%が吸収されたことが分かる。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図19(B)に示す。波長526nmにおいて、右回り円偏光の吸収は4%であったことが分かる。
左回り円偏光と右回り円偏光との最大吸収の比は22.6であり、良好な選択吸収特性が得られた。
【0123】
(実施例4)
上下腕部の位置関係を実施例3とは逆に変更した。即ち、平面視した場合に、下側の腕が上側の腕に対して時計回りに30°回転した位置となるように変更した以外は、実施例3と同じ方法で光学特性を計算した。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図20(B)に示す。共鳴点である波長526nmにおいて、右回り円偏光の93%が吸収されたことが分かる。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図20(A)に示す。波長526nmにおいて、左回り円偏光の吸収は4%であったことが分かる。
左回り円偏光と右回り円偏光との最大吸収の比は21.5であり、良好な選択吸収特性が得られた。実施例3と4との比較により、腕部のねじれの関係を逆にすることで、左右円偏光に対する透過特性及び吸収特性が入れ替わることが分かる。
【0124】
(実施例5)
構造パラメータを表1に示すように変更した以外は、実施例3と同じ方法で光学特性を計算した。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図21(A)に示す。共鳴点である波長428nmにおいて、左回り円偏光の45%が吸収されたことが分かる。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図21(B)に示す。波長428nmにおいて、右回り円偏光の吸収は2%であったことが分かる。
左回り円偏光が入射した場合の透過成分の増大がみられるが、左回り円偏光と右回り円偏光との最大吸収の比は25.1と良好であった。構造体のサイズを小さくすることで、紫色領域の光にも適用可能であることが分かった。
【0125】
(実施例6)
上下の腕部の開き角2αを、0〜180°まで変化させた以外は、実施例3と同じ方法で光学特性を計算した。
2αを変化させた場合の吸収強度、透過強度、反射強度、及び、共鳴波長と吸収量の比を図22(A)〜(D)に示す。2α=45°において、左回り円偏光の95%が吸収されたのに対し、右回り円偏光の吸収は3%であった(図22(A))。これに呼応して、2α=45°における透過成分は、左回り円偏光2%、右回り円偏光94%であった(図22(B))。この時、反射成分は最も少なくなり、左右円偏光ともに2%であった(図22(C))。2αが45°より大きくても小さくても左右円偏光の選択性は減少した。また、開き角が大きくなるにつれて、共鳴波長は、漸減した(図22(D))。
2αが15≦2α≦90°である場合、左回り円偏光と右回り円偏光との最大吸収の比は3.6以上であり、左右円偏光の選択性が極めて良好であった。一方、2α=0°及び180°では左右円偏光の吸収に対する選択性が得られないことが分かる。構造体がキラリティを失うためである(図22(D))。
【0126】
(実施例7)
構造体の向きβを0〜180°まで変化させた以外は、実施例3と同じ方法で光学特性を計算した。
βを変化させた場合の吸収強度、透過強度、反射強度、及び、共鳴波長と吸収量の比を図23(A)〜(D)に示す。図23(A)、(B)より、β=45°において若干の左右円偏光の選択性の低下がみられるものの実用性は十分に満たすものであり、図23(C)に示されるようにβの全領域で反射成分は10%以下であり、かつ図23(D)に示されるようにβの全領域で吸収量の比は22.5以上であり、良好な特性を示した。
【0127】
(実施例8)
構造パラメータを表1に示すように変更した以外は、実施例3と同じ方法で光学特性を計算した。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図24(A)に示す。共鳴点である波長12.2μmにおいて、左回り円偏光の76%が吸収されたことが分かる。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図24(B)に示す。波長12.2μmにおいて、右回り円偏光の吸収は5%であったことが分かる。
支柱が省略され、ギャップgが0の場合においても本発明の効果が発揮されることが分かった。
【0128】
(実施例9)
構造パラメータを表1に示すように変更した以外は、実施例2と同じ方法で光学特性を計算した。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図25(A)に示す。共鳴点である波長12.2μmにおいて、左回り円偏光の68%が吸収されたことが分かる。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図25(B)に示す。波長12.2μmにおいて、右回り円偏光の吸収は4%であったことが分かる。
支柱が省略され、ギャップgが0の場合においても本発明の効果が発揮されることが分かった。
なお、本実施例と実施例8との相違は、腕部形状である(実施例8:小判型、実施例9:長方形)。
【0129】
(実施例10)
構造パラメータを表1に示すように変更した以外は、実施例2と同じ方法で光学特性を計算した。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図26(B)に示す。共鳴点である波長554nmにおいて、右回り円偏光の83%が吸収されたことが分かる。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図26(A)に示す。波長554nmにおいて、左回り円偏光の吸収は2%であったことが分かる。
本実施例において、基端部間の離間距離gは10nm、構造体の高さHは150nmであり、その比g/Hは0.067である。
支柱が省略された場合においても、2つの腕部の基端部間の離間距離(ギャップg)が、腕部を含む構造体の高さHの0.2倍以下であれば本発明の効果が発揮されることが分かった。
【0130】
(比較例1)
支柱を除いた以外は、実施例3と同じ方法で光学特性を計算した。定義した構造体を図27に示す。
左回り円偏光が入射した場合の計算結果を図28(A)に示す。共鳴点である波長461nmにおいて、左回り円偏光の65%が吸収されたことが分かる。
右回り円偏光が入射した場合の計算結果を図28(B)に示す。右回り円偏光の吸収は23%であったことが分かる。
左回り円偏光と右回り円偏光との最大吸収の比は2.9と低く、左右円偏光の選択性が大幅に低下し、また共鳴点付近のスペクトルが複雑化することが分かる。実施例10と比較すると、本比較例では、2つの腕部の基端部間の離間距離(ギャップg)が、腕部を含む構造体の高さHの0.2倍を超える(0.33倍に相当)ため、良好な選択性が得られないことが分かる。
【0131】
【表1】
【符号の説明】
【0132】
1:構造体
2、3:腕部
4:支柱
5:ユニットセル
6:円二色性フィルタ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
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図26
図27
図28