【実施例】
【0043】
以下に、本発明に係る標識化解析対象タンパク質の安定発現細胞株、その製造方法及びそれを製造するためのキットについて詳細に説明するための実施例を示す。
【0044】
[実施例1]
(Cas9/ガイドRNA発現ベクターの作製)
まず、BROAD Instituteが提供しているガイドRNA(gRNA)設計ウェブサイト(https://portals.broadinstitute.org/gpp/public/analysis-tools/sgrna-design)に解析対象タンパク質(本実施例においてはStam1、α−tubulin及びArl13b)をコードする遺伝子座における5’非翻訳領域(5’UTR)を含む核酸配列を5’UTR配列全てと翻訳開始点であるスタートコドンATGの下流20塩基程度までを入力し、gRNAの標的配列の候補を得た。
【0045】
得られた候補リストの中から、ATGよりも上流の5’UTRでCas9が切断するもの且つ切断効率スコアの高いものを選択した。選択した配列が標的配列となる。以下に、Stam1、α−tubulin及びArl13bの標的配列を示す。
Stam1:GTCACCCCTAGAGTGCCGCGGGG(配列番号1)
α−tubulin:CCTCGCCTCCGCCATCCACCCGG(配列番号2)
Arl13b:ACGTCAGCACGTCGACGCGGGGG(配列番号3)
【0046】
標的配列として選択した配列について,プラスミドベクターに組み込むためにオーバーハング配列(センス鎖:CCG/アンチセンス鎖:AAC)を5’末端に負荷し、5’末端をリン酸化した相補的なオリゴDNAをアニーリングにより二本鎖DNAにしてプラスミドベクター(ATUM社,カタログ番号PD1301−AD,CMV−Cas9−2A−GFP Cas9−ElecD)に挿入してCas9及びgRNAを発現するプラスミドベクター(以下Cas9/gRNA発現ベクター)を構築した。以下に、Stam1、α−tubulin及びArl13bの標的配列に対応する上記オリゴDNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖の配列を示す。
Stam1:
センス鎖:[Phos]CCGGTCACCCCTAGAGTGCCGCG(配列番号4)
アンチセンス鎖:[Phos]AACCGCGGCACTCTAGGGGTGAC(配列番号5)
α−tubulin:
センス鎖:[Phos]CCGCCTCGCCTCCGCCATCCACC(配列番号6)
アンチセンス鎖[Phos]AACGGTGGATGGCGGAGGCGAGG(配列番号7)
Arl13b:
センス鎖:[Phos]CCGACGTCAGCACGTCGACGCGG(配列番号8)
アンチセンス鎖:[Phos]AACCCGCGTCGACGTGCTGACGT(配列番号9)
【0047】
(ドナーベクターの作製)
標識化Stam1、標識化α−tubulin又は標識化Arl13bを発現するプラスミドベクター(pCMV−EGFP−Stam1−Neo、pCVM−EGFP−α−tubulin−Neo、pCMV−Arl13b−venus−Neo)を準備した。pCVM−EGFP−α−tubulin−Neoは、Clontech社から入手した(型番632349)。
【0048】
pCMV−EGFP−Stam1−Neoは、次の通りに作成した。まず、以下のプライマーセット(配列番号10及び11)を設計し、高精度DNAポリメラーゼ(東洋紡社、KOD Plus Neo)を用いたPCRによりStam1コーディング領域の核酸配列を増幅した。続いて、制限酵素EcoRI及びSalIを用いて、上記DNA断片とpEGFP−C2(Clontech社、型番6084−2)を消化し、Ligation High(東洋紡社、LGK−101)を用いてベクターにStam1配列を挿入し、pCMV−EGFP−Stam1−Neoを得た。
フォワード側:GAATTCatgCCTCTCTTTGCCACCAA(配列番号10)
リバース側:GTCGACctaTAGCAGAGCCTTCTGAGA(配列番号11)
【0049】
pCMV−Arl13b−venus−Neoは、次の通りに作成した。まず、下記プライマーセット(配列番号12及び13)を設計し、高精度DNAポリメラーゼを用いたPCRによりArl13bコーディング領域の核酸配列を増幅した。続いて、制限酵素XhoI及びBamHIを用いて、上記DNA断片とpmCherry−N1(Clontech社、型番632523)を消化し、Ligation Highを用いてベクターにArl13b配列を挿入し、pmCherry−Arl13bを得た。
フォワード側:CTCGAGgccaccATGTTCAGTCTGATGGCCAACT(配列番号12)
リバース側:GGATCCcgTGAGATCGTGTCCTGAGCATC(配列番号13)
【0050】
次に、下記プライマーセット(配列番号14及び15)を設計し、高精度DNAポリメラーゼを用いたPCRによりvenusをコードする核酸配列を増幅した。その後、制限酵素AgeI及びNotIを用いて、上記DNA断片とpmCherry−Arl13bを消化し、pmCherry−Arl13bのmcherry配列をvenus配列と置換し、pCMV−Arl13b−venus−Neoを得た。
フォワード側:ACCGGTcgccaccATGgtgagcaagggcgagg(配列番号14)
リバース側:GCGGCCGCtttacttgtacagctcgtccat(配列番号15)
【0051】
上記pCMV−EGFP−Stam1−Neo、pCVM−EGFP−α−tubulin−Neo及びpCMV−Arl13b−venus−Neoの各プラスミドベクターのCMVプロモーターを、上記の通りに構築した各解析対象タンパク質遺伝子に対するgRNA標的配列に置換した。具体的に、AseIおよびNheIの2つの制限酵素でCMVプロモーター配列を除去し、それぞれの解析対象タンパク質のgRNA標的配列にAseIおよびNheIで消化した断片になるように5’側および3’側に核酸配列を付加したオリゴDNAをアニーリングにより二本鎖DNAにして、CMVプロモーターを除去したプラスミドベクターに挿入してドナーベクターを構築した。以下に、各解析対象タンパク質遺伝子の標的配列に、AseIおよびNheIで消化した断片になるように5’側および3’側に核酸配列を付加したオリゴDNA配列を示す。
Stam1:
センス鎖:[phos]taatGTCACCCCTAGAGTGCCGCGGGGg(配列番号16)
アンチセンス鎖:[phos]ctagcCCCCGCGGCACTCTAGGGGTGACat(配列番号17)
α−tubulin:
センス鎖:[Phos]taatCCTCGCCTCCGCCATCCACCCGGg(配列番号18)
アンチセンス鎖:[Phos]ctagcCCGGGTGGATGGCGGAGGCGAGGat(配列番号19)
Arl13b:
センス鎖:[Phos]taatACGTCAGCACGTCGACGCGGGGGg(配列番号20)
アンチセンス鎖:[Phos]ctagcCCCCCGCGTCGACGTGCTGACGTat(配列番号21)
【0052】
(細胞へのベクターの導入)
まず、60mmプラスチック培養皿に播種したmIMCD−3細胞(ATCC CRL−2123)又はNIH/3T3細胞(ATCC CRL−1658)に対して、2μgの上記Cas9/gRNA発現ベクター、2μgの上記ドナーベクター(mIMCD−3細胞にはEGFP−Stam1又はEGFP−α−tubulinを含むドナーベクター、NIH/3T3細胞にはArl13b−venusを含むドナーベクター)及び12μgのpolyethyleneimine MAX(以下PEI−MAX;Polysciences,Inc.製)を300μLのPBS中で混合し、室温で20分間反応させた後、3mLの培養液(mIMCD−3細胞では10%牛胎児血清含有DMEM/F12培地、NIH/3T3細胞では10%牛胎児血清含有DMEM培地)が入っている培養皿に滴下し、培地とよく混合した。その半日後に培地を交換し、発現ベクターとPEI−MAXを除去して更に1日培養した。
【0053】
(導入細胞の選択)
上記培養後、1mg/mLの濃度でG418を添加した培地に交換し、更に5日〜10日培養した。途中で1〜2回、1mg/mLのG418を含む新鮮な培地に交換した。
【0054】
(本実施例によるノックイン細胞株の取得率の評価)
Cas9/gRNA発現ベクター、上記ドナーベクター及びPEI−MAXを加えられた後にG418で選択されたmIMCD−3又はNIH/3T3に対して、0.25%(mIMCD−3)又は0.05%(NIH/3T3)のトリプシン溶液を用いて培養皿から細胞を剥がし取り、1ウェル当たり0.2〜0.5細胞の密度で0.2〜0.5mg/mLのG418を含む80μLの培地とともに96ウェル培養プレートに播いた。
【0055】
96ウェルで培養してから10日〜2週間経過したのち、コロニーを形成しているウェルから上記と同様にトリプシンを用いて細胞を剥がし取り、0.2mg/mLのG418を含む1mLの培地で満たした12ウェルプレートのウェルにそれぞれ播いた。
【0056】
プレート中の細胞がウェルの100%を占めるまで増えた後、40〜60μLのSDS−PAGE用のサンプルバッファーで細胞を溶解し、SDS−PAGEでタンパク質を泳動したのち、PVDF膜にタンパク質を転写して、各解析対象タンパク質に対する抗体(Stam1:抗Stam1抗体;Cell Signaling Technology社 13053、Arl13b:抗Arl13b抗体;ProteinTech社 17711−1−AP)又は抗GFP抗体(MBL社 598)を用いてノックインが成功した細胞をスクリーニングした。
【0057】
mIMCD−3細胞に対して、標識化解析対象タンパク質としてEGFP−Stam1の導入を行った場合におけるスクリーニング結果を
図2に示す。
図2に示すように、22細胞株中10細胞株(
図2において↓が付いたレーン)にEGFP−Stam1のノックインが認められた。すなわちノックイン株取得率は45%であった。
【0058】
mIMCD−3細胞に対して、標識化解析対象タンパク質としてEGFP−α−Tubulinの導入を行った場合におけるスクリーニング結果を
図3に示す。
図3に示すように、20細胞株中11細胞株(
図3において↓が付いたレーン)にEGFP−α−Tubulinのノックインが認められた。すなわちノックイン株取得率は55%であった。
【0059】
NIH/3T3細胞に対して、標識化解析対象タンパク質としてArl13b−venusの導入を行った場合におけるスクリーニング結果を
図4に示す。
図4に示すように、23細胞株中19細胞株(
図4において↓が付いたレーン)にArl13b−venusのノックインが認められた。すなわちノックイン株取得率は83%であった。
【0060】
[比較例1]
上記の通り、本発明の方法を利用することにより、高い効率で標識化解析対象タンパク質発現細胞株が得られたが、上記の通り示された取得率が極めて高いものであることを証明するために、従来の方法としてのHITI法を利用し、薬剤による選択を利用しない場合のノックイン株取得率を以下の通りに評価した。
【0061】
(Cas9/ガイドRNA発現ベクターの作製)
まず、上記BROAD Instituteが提供しているgRNA設計ウェブサイトに解析対象タンパク質としてArl13bのNCBI geneID(68146)を入力し、gRNAの標的配列の候補リストを得た。得られた候補リストの中から、Cas9切断部位が翻訳領域にあるもの且つ切断効率スコアの高いものの中からできるだけ終止コドンに近いものを標的配列として選択した。標的配列として選択した配列は、以下の通りである。
GCTGTGCGACAGAGACCTAACGG(配列番号22)
【0062】
上記選択した配列について、プラスミドベクターに組み込むためにオーバーハング配列(センス鎖:CCG/アンチセンス鎖:AAC)を5’末端に付加し、5’末端をリン酸化した相補的なオリゴDNAをアニーリングにより二本鎖DNAにしてプラスミドベクター(ATUM社,カタログ番号PD1301−AD,CMV−Cas9−2A−GFP Cas9−ElecD)に挿入してCas9およびgRNAを発現するプラスミドベクター(以下Cas9/gRNA発現ベクター)を構築した。上記選択した配列にオーバーハング配列を付加した相補的なオリゴDNAの配列は以下の通りである。
センス鎖:[Phos] CCGGCTGTGCGACAGAGACCTAA(配列番号23)
アンチセンス鎖:[Phos] AACTTAGGTCTCTGTCGCACAGC(配列番号24)
【0063】
(ドナーベクターの作製)
次に、Arl13bのカルボキシ末端にHAタグ及びGFPを連結した標識を融合させるためのドナーベクターを構築した。まず、GFP配列の5’末端側にHAタグ配列(TACCCATACGATGTTCCAGATTACGCT:配列番号25)を3’末端側に上記の通り選択したgRNA標的配列の相補配列(CCGTTAGGTCTCTGTCGCACAGC:配列番号26)を持つHA−GFP−gRNA(Rv)配列DNA断片を作成した。具体的に、フォワード側プライマーとしてHAタグ配列とGFPのアミノ末端領域をコードする核酸配列を連結したもの(TACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTatggtgagcaagggcgaggag:配列番号27)、リバース側プライマーとして上記選択したgRNA標的配列(GCTGTGCGACAGAGACCTAACGG:配列番号22)にGFPのカルボキシ末端領域をコードする核酸配列の相補配列を連結したもの(GCTGTGCGACAGAGACCTAACGGttacttgtacagctcgtccatgccgagagtgatCCCGGCGGCGGTCACGAACT:配列番号28)を設計し、高精度DNAポリメラーゼ(東洋紡社 KOD Plus Neo)を用いたPCRによりDNA断片を増幅した。
【0064】
得られたHA−GFP−gRNA(Rv)配列DNA断片を鋳型に、上記選択したgRNA標的配列に基づいてCas9が切断する部位からArl13bのカルボキシ末端までの配列から終止コドンを除去した配列(ctaacggtgatgctcaggacacgatctca:配列番号29)の3’側にHAタグ配列(TACCCATACGATGTTCCAGATTACGCT:配列番号25)を連結し、5’側に上記で選択したgRNA標的配列の相補配列(CCGTTAGGTCTCTGTCGCACAGC:配列番号26)を連結させた配列(CCGTTAGGTCTCTGTCGCACAGCctaacggtgatgctcaggacacgatctcaTACCCATACGATGTTCCAGATTACGCT:配列番号30)をフォワード側プライマーとし、前述のリバース側プライマー(配列番号28)とともにKOD Plus Neoを用いてPCR反応により目的のDNA断片を増幅した。得られたDNA断片をpCR−Blunt II−TOPOベクターに挿入し、ドナーベクターを構築した。
【0065】
(細胞へのベクターの導入)
60mmプラスチック培養皿に播種したmIMCD−3細胞(ATCC CRL−2123)、2μgのCas9/gRNA発現ベクター、2μgのドナーベクター、及び12μgのPEI−MAXを300μLのPBS中で混合し、室温で20分間反応させた後、3mLの培養液(10%牛胎児血清含有DMEM/F12培地)の入っている培養皿に滴下し,培地とよく混合した。その半日後に培地を交換し発現ベクターとPEI−MAXを除去して更に1日培養した。
【0066】
(導入細胞の選択)
0.25%トリプシン溶液で細胞を剥がし取り、蛍光細胞分離装置(BD FACS Area)を用いて緑色蛍光を示す遺伝子導入された細胞を分取し、35mmプラスチック培養皿で1週間培養した。
【0067】
(比較例1によるノックイン細胞株の取得率の評価)
上記培養後、培養皿から0.25%トリプシン溶液を用いて細胞を剥がし取り、1ウェル当たり0.2細胞の密度で80μLの培地とともに96ウェル培養プレートに播いた。96ウェルで培養してから2週間経過したのち、コロニーを形成しているウェルから上記と同様にトリプシンを用いて細胞を剥がし取り、1mLの培地で満たした12ウェルプレートのウェルにそれぞれ播いた。
【0068】
スクリーニング用プレート中の細胞がウェルの100%を占めるまで増えた後、40〜60μLのSDS−PAGE用のサンプルバッファーで細胞を溶解し、SDS−PAGEでタンパク質を泳動したのち、PVDF膜にタンパク質を転写して、抗体(Arl13b: anti−Arl13b抗体;ProteinTech社 17711−1−AP)を用いてノックインが成功した細胞をスクリーニングした。その結果を
図5に示す。
【0069】
図5に示すように、比較例1の方法を用いて、標識化解析対象タンパク質としてArl13b−GFPの導入を行った場合、95細胞株中1細胞株(
図5において星印が付いたレーン)にArl13b−GFPのノックインが認められた。すなわちノックイン株取得率は1.05%であった。
【0070】
以上の通り、実施例1と比較例1との結果を対比すると、本発明に係る方法を用いた実施例1の方が極めて高い効率で標識化解析対象タンパク質のノックイン細胞株が得られた。すなわち、本発明に係る方法によると、標識化解析対象タンパク質のノックイン細胞株を高効率で得られることが明らかとなった。
【0071】
[比較例2]
さらに、本発明に係る方法による標識化解析対象タンパク質発現細胞株の取得率が極めて高いものであることを証明するために、HITI法を利用して本発明とは異なる遺伝子座に標識化解析対象タンパク質の発現ユニットを挿入した場合のノックイン株取得率を以下の通りに評価した。
【0072】
(Cas9/ガイドRNA発現ベクターの作製)
まず、上記BROAD Instituteが提供しているgRNA設計ウェブサイトに、恒常的に発現が見られてノックイン先として従来から用いられているRosa26のイントロン配列3999塩基を入力し、gRNAの標的配列の候補リストを得た。得られた候補リストの中から、切断効率スコアの高いものを標的配列として選択した。標的配列として選択した配列は、以下の通りである。
CGATGGAAAATACTCCCAGGCGG(配列番号31)
【0073】
上記選択した配列について、プラスミドベクターに組み込むためにオーバーハング配列(センス鎖:CCG/アンチセンス鎖:AAC)を5’末端に付加し、5’末端をリン酸化した相補的なオリゴDNAをアニーリングにより二本鎖DNAにしてプラスミドベクター(ATUM社,カタログ番号PD1301−AD,CMV−Cas9−2A−GFP Cas9−ElecD)に挿入してCas9およびgRNAを発現するプラスミドベクター(以下Cas9/gRNA発現ベクター)を構築した。上記選択した配列にオーバーハング配列を付加した相補的なオリゴDNAの配列は以下の通りである。
センス鎖:[Phos] CCGCGATGGAAAATACTCCCAGG(配列番号32)
アンチセンス鎖:[Phos] AACCCTCGGAGTATTTTCCATCG(配列番号33)
【0074】
(ドナーベクターの作製)
次に、Stam1のアミノ末端にHAタグを連結したHA標識Stam1をターゲットサイトにノックインするためのドナーベクターを構築した。まず、実施例1で作成したpCMV−EGFP−Stam1−NeoのCMVプロモーター配列の上流に上記の通り選択したgRNA標的配列を挿入した。具体的に、制限酵素AseIでpCMV−EGFP−Stam1−Neoを消化し、gRNA標的配列にAseIで消化した断片になるように5’側および3’側に核酸配列を付加したオリゴDNAをアニーリングにより二本鎖DNAにして、AseIで消化した上記のプラスミドベクターに挿入してドナーベクターを構築した。以下に、gRNA標識配列にAseIで消化した断片になるように5’側および3’側に核酸配列を付加したオリゴDNA配列を示す。
センス鎖:[phos]taatCGATGGAAAATACTCCGAGGCGGaccgtattaccgccatgcattagttAT(配列番号34)
アンチセンス鎖:[phos]TAATaactaatgcatggcggtaatacggtCCGCCTCGGAGTATTTTCCATCGat(配列番号35)
【0075】
上記で作成したベクターのEGFP配列をHA配列に置換しドナーベクターを構築した。具体的に、NheIおよびEcoRIの2つの制限酵素でEGFP配列を除去し、HA配列にNheIおよびEcoRIで消化した断片になるように5’側および3’側に核酸配列を付加したオリゴDNAをアニーリングにより二本鎖DNAにして、EGFP配列を除去したプラスミドベクターに挿入してドナーベクターを構築した。HA配列にNheIおよびEcoRIで消化した断片になるように5’側および3’側に核酸配列を付加したオリゴDNA配列を示す。
センス鎖:[phos]CTAGCgctaccggtcGCCACCatgTACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTg(配列番号36)
アンチセンス鎖:[phos]aattcAGCGTAATCTGGAACATCGTATGGGTAcatGGTGGCgaccggtagcG(配列番号37)
【0076】
(細胞へのベクターの導入)
60mmプラスチック培養皿に播種したmIMCD−3細胞(ATCC CRL−2123)、2μgのCas9/gRNA発現ベクター、2μgのドナーベクター、及び12μgのPEI−MAXを300μLのPBS中で混合し、室温で20分間反応させた後、3mLの培養液(10%牛胎児血清含有DMEM/F12培地)の入っている培養皿に滴下し,培地とよく混合した。その半日後に培地を交換し発現ベクターとPEI−MAXを除去して更に1日培養した。
【0077】
(導入細胞の選択)
上記培養後、1mg/mLの濃度でG418を添加した培地に交換し、更に5日〜10日培養した。途中で1〜2回、1mg/mLのG418を含む新鮮な培地に交換した。
【0078】
(比較例2によるノックイン細胞株の取得率の評価)
Cas9/gRNA発現ベクター、上記ドナーベクター及びPEI−MAXを加えられた後にG418で選択されたmIMCD−3に対して、0.25%のトリプシン溶液を用いて培養皿から細胞を剥がし取り、1ウェル当たり0.2〜0.5細胞の密度で0.2〜0.5mg/mLのG418を含む80μLの培地とともに96ウェル培養プレートに播いた。
【0079】
96ウェルで培養してから10日〜2週間経過したのち、コロニーを形成しているウェルから上記と同様にトリプシンを用いて細胞を剥がし取り、0.2mg/mLのG418を含む1mLの培地で満たした12ウェルプレートのウェルにそれぞれ播いた。
【0080】
スクリーニング用プレート中の細胞がウェルの100%を占めるまで増えた後、40〜60μLのSDS−PAGE用のサンプルバッファーで細胞を溶解し、SDS−PAGEでタンパク質を泳動したのち、PVDF膜にタンパク質を転写して、抗HA抗体(BioLegend社 901502)を用いてノックインが成功した細胞をスクリーニングした。その結果を
図6に示す。
【0081】
図6に示すように、比較例2の方法を用いて、標識化解析対象タンパク質としてHA標識Stam1の導入を行った場合、77細胞株中5細胞株(
図6において矢印が付いたレーン)にHA標識Stam1のノックインが認められた。すなわちノックイン株取得率は6.49%であった。比較例2では、恒常的な発現が見られ、遺伝子サイレンシングが起こり難いと考えられるRosa26のイントロンにノックインしたが、完全には遺伝子サイレンシングが抑えられず、ノックイン細胞株が十分に増殖するまでの過程で解析対象タンパク質の発現が低下したため、高い取得率が得られなかったと考えられる。また、この他に、外来プロモーター(CMV)による強制発現は細胞にとって大きなストレスとなるため、解析対象タンパク質を過剰発現する状態のままとなった細胞では、その増殖速度が低下する又は増殖せず死滅することにより、高い所得率が得られなかったと考えられる。
【0082】
以上の通り、実施例1と比較例2との結果を対比すると、本発明に係る方法を用いた実施例1の方が極めて高い効率で標識化解析対象タンパク質のノックイン細胞株が得られた。すなわち、本発明に係る方法によると、標識化解析対象タンパク質の発現に内在のプロモーターが用いられ、遺伝子サイレンシング等の影響を受け難いため、標識化解析対象タンパク質を安定的に発現するノックイン細胞株を高効率で得られることが明らかとなった。
【0083】
[実施例2]
次に、本実施例1で得られた細胞株における標識化解析対象タンパク質の発現についての長期安定性を評価した。その方法及び結果を以下に示す。なお、用いた細胞株は、実施例1において標識化解析対象タンパク質としてEGFP−Stam1のノックインが確認されたmIMCD−3細胞株である。
【0084】
凍結保存した上記ノックインが確認されたmIMCD−3細胞株を凍結保存状態から起こし、3日から4日間隔で継代を行いながら58日間培養し、59日目の継代で底がカバーガラスになっている35mm培養皿(以下ガラスボトムディッシュ;松浪 D11130H)に細胞を播種して3日間培養した。当該細胞が培養開始から58日間経過した59日目に、新たに上記ノックイン細胞を凍結保存状態から起こし、1日後の継代でガラスボトムディッシュに播種して2日間培養した。培養開始から61日間および3日間経過した上記ノックイン細胞を培養している培地をフェノールレッド色素と血清の含まない培地(DMEM/F12)に交換した。培地交換後5時間経過したのち、100倍油浸レンズを装着した倒立型蛍光顕微鏡(ライカDMI3000B)およびCMOSカメラを用いて細胞の蛍光画像を取得した。その結果を
図7に示す。
【0085】
図7に示すように、培養継代期間が3日間の細胞と、61日間の細胞との両方でGFPによる蛍光が見られた。また、その蛍光の平均輝度を測定したところ、培養継代期間が3日間の細胞では平均輝度が50.6であり、61日間の細胞では平均輝度が54.7であった。これらの結果から、上記ノックイン細胞を長期培養してもGFPの蛍光が低減せず、すなわち、ノックインされた標識化された解析対象タンパク質が安定的に発現されているといえる。
【0086】
以上から、本発明によると、標識化解析対象タンパク質を生理的発現レベルで安定的に発現することができて、所望の解析対象タンパク質の生きた細胞内での挙動をより正確に解析することを可能とする細胞株を、簡便な方法で高い効率で得ることができる。