【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・刊行物名 「日本食品工学会 第19回(2018年度)年次大会 講演要旨集」 発行日 平成30年7月25日 発行者 一般財団法人 日本食品工学会 ・研究集会名 日本食品工学会 第19回(2018年度)年次大会 開催場所 つくば国際会議場 開催日 平成30年8月9〜11日 ・刊行物名 「日本農芸化学会中四国支部第53回講演会 講演要旨集」 発行日 平成31年1月26日 発行者 日本農芸化学会中四国支部事務局 ・研究集会名 日本農芸化学会中四国支部第53回講演会 開催場所 高知大学 物部キャンパス 開催日 平成31年1月26日
【解決手段】下記(i)または(ii)の工程を含む冷凍魚の縦割り方法。(i)延性が残っているが脆性が優位である温度域の冷凍魚の背面に、二山型治具を当てて加圧する工程;(ii)延性が残っているが脆性が優位であり、かつ冷凍魚の背面に当接させた一山型治具13を冷凍魚に挿すことができる温度域の、背面に切り欠きのない冷凍魚の背面に、一山型治具13を当てて加圧する工程。
上記(ii)の工程において、上記延性が残っているが脆性が優位であり、かつ当該冷凍魚の背面に当接させた上記治具を上記加圧に伴って当該冷凍魚に挿すことができる温度域は、−60℃〜−40℃である、請求項1に記載の冷凍魚の縦割り方法。
上記(i)の工程において、上記治具として、上記凸が並んでいる方向を第1の軸方向としたときに、各上記凸の先端が上記加圧方向および上記第1の軸方向のいずれに対しても垂直である第2の軸方向に沿って連続した稜線を形成している治具を用い、第2の軸方向に上記冷凍魚の脊椎骨が沿うように上記冷凍魚を設置して、上記加圧する、請求項1または2に記載の冷凍魚の縦割り方法。
上記(ii)の工程において、上記治具として、上記くさび型の凸が、上記加圧方向に対して垂直である第1の軸方向に沿って一つあって、当該凸の先端が、上記加圧方向および上記第1の軸方向のいずれに対しても垂直である第2の軸方向に沿って連続した稜線を形成している治具を用い、上記第2の軸方向に上記冷凍魚の脊椎骨が沿うように上記冷凍魚を設置して、上記加圧する、請求項1または3に記載の冷凍魚の縦割り方法。
上記第1の軸方向に沿って二つ並んだ上記くさび型の凸における各々の先端から上記加圧方向に延びる延長線上に上記冷凍魚の担鰭骨が位置するように、あるいは各々の延長線の間に上記冷凍魚の担鰭骨が位置するように上記冷凍魚を設置して、上記加圧することにより、当該冷凍魚を縦割りにするとともに、上記担鰭骨を分離する、請求項4に記載の冷凍魚の縦割り方法。
上記治具は、上記凸が並んでいる方向を第1の軸方向としたときに、各上記凸の先端が上記加圧方向および上記第1の軸方向のいずれに対しても垂直である第2の軸方向に沿って連続した稜線を形成している治具であり、
上記第2の軸方向に上記冷凍魚の脊椎骨が沿うようにして上記冷凍魚を上記一対の加圧板の間に設置する構成となっている、請求項7に記載の冷凍魚の縦割り装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明は以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0012】
本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0013】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0014】
本発明の一実施形態に係る縦割り方法および縦割り装置について、
図1〜
図6を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る縦割り装置および縦割り方法によって加工される冷凍魚の模式図である。
図2の上段(i)および中段(ii)は、割裂破壊の概略について示す図であり、
図2の下段(iii)は、加圧による冷凍魚の縦割り方法の概略について示す図である。
図3は、本発明の一形態に係る冷凍魚の縦割り装置の一例について示す模式図である。
図4は、本発明の一形態に係る冷凍魚の縦割り装置に用いる治具の一例の三面図である。
図5は、本発明の実施形態1に係る冷凍魚の縦割り装置の一例について示す模式図である。
【0015】
(1)対象とする冷凍魚
本実施形態に係る縦割り装置および縦割り方法の対象となる冷凍魚としては、特に限定されないが、一例として鰹、銀鮭、または鯖などの中大型の魚のほか、鰯、または秋刀魚のような小型の魚であってよい。
【0016】
また、
図1に示すように、対象となる冷凍魚1のサイズが大きい場合は、冷凍魚1を適当なサイズに輪切りにしたものを、本実施形態に係る縦割り装置および縦割り方法の対象とすることができる。以下では、冷凍魚1における内臓を含む腹部の位置において所定の長さで輪切りにした試料2を例にとり説明する。なお、本実施形態に係る縦割り装置および縦割り方法の対象となる試料は、内臓を必ずしも含んでいなくてもよく、例えば、
図1に示す試料2よりも尾側に寄った位置の、内臓を含まない輪切り試料であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態に係る縦割り方法および縦割り装置は、脊椎骨を含む冷凍魚を、腹側と背側とから加圧して縦割りする技術である。本明細書において「縦割り」とは、冷凍魚の腹側から背側に向かって脊椎骨の片側に沿って身と脊椎骨との境目および身と内臓との境目において亀裂を発生させて割ることを意味し、いわゆる二枚おろしにすることをいう。また、場合によっては、本発明の一実施形態に係る縦割り方法および縦割り装置は、二枚おろしになったものから脊椎骨が外れて、いわゆる三枚おろしになることもある。
【0018】
以下では、本発明の一実施形態に係る縦割り方法および縦割り装置において行う縦割りを、割裂破断と称することがある。
【0019】
(2)割裂破断のメカニズム
以下では、まず、縦割り(割裂破断)のメカニズムについて、
図2を用いて説明する。
【0020】
図2の上段(i)には、横倒しにした冷凍魚の輪切り試料を模した円柱状試料50を2枚の加圧板で上下から圧縮している様子を示している。
図2の(i)の左から右に向かって時間の経過順に示している。
図2の(i)の左側の図の状態から、2枚の加圧板で上下から圧縮すると、円柱状試料50の戴荷線(円柱状試料50と加圧板との接点を結んだ線)を境に、円柱状試料50に左右への引張り力(割裂破断応力)が加わる(
図2の(i)の中央の図)。そして、最終的には円柱状試料50が切断される(
図2の(i)の右側の図)。
【0021】
このときの割裂破断応力St(単位:Pa)は、
St=2F/(πdl) (式1)
で表すことができる。なお、式1中のF、dおよびlは、
図2の中段(ii)に示す、荷重F(単位:N)、円柱状試料50の平均直径d(単位:m)、および円柱状試料50の延伸方向の長さl(単位:m)である。
【0022】
本発明者らは、冷凍魚に関して身と脊椎骨と内臓とは同じ温度下に置いてもそれぞれ凍結状態が異なることに着目した。そして、これと先述の割裂破断のメカニズムを利用すれば、凍結状態の異なる組織の周囲(身4と脊椎骨5との境目および身4と内臓6との境目など)に応力が集中することを見出し、本発明を想起するに至った。
【0023】
このような組織による凍結状態の違いは、魚体に含まれる脂肪の量などによって発生する。魚体に含まれる脂肪は、融点が極めて低い、EPA(イコサペンタエン酸)などの不飽和脂肪酸を多く含む。そのため、脂肪含有量の多い組織(例えば内臓6など)では、不飽和脂肪酸を多く含むため極めて低温で冷却しなければ完全に凍結しない。一方、脂肪含有量の少ない組織(例えば脊椎骨5など)では、不飽和脂肪酸をほとんど含まないため、脂肪含有量の高い組織に比べ、高い温度で完全に凍結する。このように組織に含まれる脂肪の含有量の違いにより凍結状態の異なる組織が形成される。
【0024】
以下に、脊椎骨を含む冷凍魚を、良好に縦割りする縦割り装置および縦割り方法の一形態を説明するが、割裂破断のメカニズムとしては先述と同じである。つまり、概要としては、
図2の下段(iii)に示すように、冷凍魚を背側と腹側とから圧縮して((iii)の左側の図)、身4と脊椎骨5との境目および身4と内臓6との境目において亀裂を発生させて、良好な縦割りを実現させる((iii)の右側の図)。なお、
図2の(iii)は、説明の便宜上、以下で説明する治具については図示していない。
【0025】
(3)縦割り装置
(3.1)主要部の構成
図3は、本実施形態の縦割り装置20の主要部の構成の斜視図である。
【0026】
縦割り装置20は、
図3に示すように一対の加圧板(上加圧板11および下加圧板12)を備え、上加圧板11に一山型治具13(くさび型の凸を1つ有する治具)が設けられている。なお、
図3は、主要部のみを示しており、縦割り装置20の他の構成については、
図5とともに後述する。
【0027】
一対の加圧板を構成する上加圧板11および下加圧板12は、試料2へ加圧できれば、素材および形状は特に限定されず、
図3に示す様に板状であってよい。また、大きさについても特に限定されず、試料2または縦割り装置20にあわせて適宜調節してよい。また、上加圧板11と下加圧板12の素材および形状は異なってよい。
【0028】
上加圧板11には、後述する一山型治具13が設けられていて、試料2の背側から加圧する構成となっている。一方の下加圧板12は、試料2の腹側から加圧する構成となっている。なお、縦割り装置20は、一対の加圧板が上下方向に配置されているが、本発明はこれに限定されるものではない。要するに、試料2の背側と腹側とを挟み込むことができれば、一対の加圧板の配列方向は特に限定されるものではない。要するに、
図3に示すところの上下に配置された加圧板が、左右に配置していて、左側に、一山型治具が設けられた加圧板があり、右側にもう一方の加圧板があって、左に背側、右に腹側を向けた試料2を置いて挟み込むような態様であってもよい。
【0029】
下加圧板12には、上加圧板11との対向面における、一山型治具13に対向する位置に、スリット状の溝12aが設けられている。スリット状の溝12aには、試料2の腹側を嵌めることができ、これにより輪切りの試料2を固定して倒れないようにすることができる。スリット状の溝12aの大きさとしては、例えば幅15mm、深さ3mm、長さ100mmとすることができるが、これに限定されない。
【0030】
一対の加圧板によって試料2にかかる加圧の大きさおよび時間は、特に限定されず、魚種、試料2の大きさ、および冷凍温度などに応じて適宜変更してよい。例えば鰹を−60℃〜−40℃で冷凍した場合における、試料2にかかる割裂破断応力の大きさは、0.6MPa以下であることが好ましい。試料2にかかる割裂破断応力の大きさが0.6MPa以下であることにより、比較的小さい力で良好な試料2の縦割りを実現することができる。なお、割裂破断応力の大きさは一例であり、冷凍魚1を割裂破断する装置などによっては割裂破断応力の大きさが0.6MPa以上となる場合もありうる。
【0031】
以下に、上加圧板11に設けられた一山型治具13について、
図3に示すXYZ座標系を用いて説明する。このXYZ座標系は、一対の加圧板の加圧方向に沿った軸をY軸とし、各加圧板の対向面をXZ平面とし、先述の下加圧板12に設けられた溝12aの延設方向に沿った軸をZ軸として定義したXYZ座標系である。
【0032】
一山型治具13は、上加圧板11における下加圧板12との対向面に設けられており、加圧方向に沿った断面であるXY切断面の形状をみると、上加圧板11の加圧方向に突出したくさび型の凸を一つ有した形状となっている。このくさび型の凸の先端部13a(先端)は、加圧方向(Y軸)およびX軸(第1の軸方向)のいずれに対しても垂直であるZ軸(第2の軸方向)に沿って連続した稜線を形成している。XY切断面の形状をみると一つの山があるように見えるので、一山型治具13と称する。
【0033】
一山型治具13は、一対の加圧板の間に試料2が配置された場合に、試料2の背面に対向する。より具体的には、一山型治具13のくさび型の凸の先端部13aの稜線と、試料2の脊椎骨とがY軸方向に平行となるように、一対の加圧板の間に試料2が配置される。これにより、試料2の身4と脊椎骨5との境目に応力を加えやすくなる。ただし、一山型治具13の先端部13aと、試料2の脊椎骨とはY軸方向に完全に平行である必要はなく、脊椎骨に沿って背側から腹側に割裂破断することができれば、本発明の一形態に含まれる。
【0034】
一山型治具13は、試料2の背面から脊椎骨に向かって試料2に加圧できれば、本実施形態のように上加圧板11側に設置してよい。仮に背面を鉛直方向の下方に向けて試料2を一対の加圧板の間に設置する態様なのであれば、一山型治具は下加圧板12側に設置すればよい。
【0035】
また、一山型治具13の大きさは特に限定されず、加圧する試料2の大きさおよび縦割り装置20の大きさなどにあわせて適宜調節してよい。
【0036】
ここで、
図4に、一山型治具13の三面図とともに、大きさの一例を示す。
図4の(i)には、一山型治具13のXY側面を示しており、
図4の(ii)には、一山型治具13のXZ側面のくさび型の凸がある側を示しており、
図4の(iii)には、一山型治具13のXZ側面のくさび型の凸がある側の面の裏面を示している。なお、
図4中に記載している数値はあくまでも一例であるが、例えば背腹方向の平均径が約φ90mmであり、体長が約60mmである試料2に対して加圧する場合に用いる一山型治具13の実寸である。なお、背腹方向の平均径とは、円錐台状試料の両端(頭部側および尾部側)の断面の径を平均したものである。
【0037】
一山型治具13は、上加圧板11が試料2に向かって加圧することで、先ず試料2に当接し、続いて食い込み、更には挿し込まれる。そして、一山型治具13がそのまま加圧方向に押し込まれることにより、試料2に、一山型治具13のくさび型の凸の先端部13aから試料2の左右(水平方向)へ引っ張るように力を加わり、試料2を割裂破壊する。そのため、一山型治具13のくさび型の凸の先端部13aの角度(
図4の(i)に示す角度θ)は、30°〜120°であることが好ましく、60°〜90°であることがより好ましい。角度θが30°よりも小さいと、一山型治具13が試料2に食い込む距離は長くなるが、試料2を左右へ引っ張るように加わる力は小さくなり、身4と脊椎骨5との境目などに加圧され難くなる。また、角度θが120°よりも大きいと、試料2を左右に引っ張るように加わる力は大きくなるが、一山型治具13が試料2に食い込む距離は短くなり、身4と脊椎骨5との境目などに加圧され難くなる。
【0038】
なお、本実施形態では1つのくさび型の凸が設けられた一山型治具13について説明した。しかしながら、本発明の一形態はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態において説明した1つのくさび型の凸を有していれば、XY切断面の形状において2つ以上の山がある治具であってもよい。
【0039】
(3.2)その他の構成
縦割り装置20には、以上で説明した主要構成の他に、
図5に示す構成を含む。
【0040】
縦割り装置20は、
図5に示すように、一山型治具13を設けた上加圧板11、および下加圧板12に加えて、冷却装置19と、加圧機構17と、圧力測定器18とを更に備えている。
【0041】
冷却装置19は、縦割り装置20の内部の温度を所望の温度に冷却できれば特に限定されず、一例として
図5に液体窒素格納容器14、およびヒータ15を備える冷却装置19を示す。
【0042】
図5に示す冷却装置19は、液体窒素格納容器14に格納された液体窒素をヒータ15で加熱し、液体窒素の蒸発時に発生する潜熱を利用することにより、縦割り装置20内部の温度を一定に維持する。そのため、蒸発した窒素を撹拌するための撹拌機を備えてよい。また、縦割り装置20の内部温度を測定する温度計(不図示)を備え、ヒータ15による液体窒素の加熱温度を適宜変更してよい。
【0043】
なお、
図5に示す例では、縦割り装置20内部に冷却装置19を備えているが、縦割り装置20内部に冷却装置19を備えなくてよい。例えば、冷凍魚1を保管する冷凍施設(不図示)内部に、上述の縦割り装置20における冷却装置19以外の構成を設置する態様も可能である(この場合は当該冷凍施設を冷却装置19とみなすことができる)。
【0044】
また、本発明の一形態に係る縦割り装置は、一対の加圧板による加圧時点で試料2が後述する所望の温度になっていれば、冷却装置19を備えなくてよい。例えば、冷凍魚1を予め保管されている冷凍施設から取り出し、加圧時点での冷凍魚1の温度が所望の温度より高温なるまでに縦割りするなどの態様であれば、冷却装置19を備えなくてよい。
【0045】
加圧機構17は、試料2を加圧できれば特に限定されず、
図5に示すようにジャッキまたは加圧ローラなどを用いて下加圧板12を持ち上げることにより試料2を加圧してよい。また、
図5では下加圧板12に加圧機構17を備える図を示すが、上加圧板11に加圧機構17を備えてよい。
【0046】
圧力測定器18は、試料2に加圧される力を測定できれば特に限定されず、
図5に示す様にロードセルであってよい。圧力測定器18としてロードセルを用いた場合では、加圧機構17により加圧される側の加圧板(
図5では下加圧板12)に対向する側の加圧板(
図5では上加圧板11)に備えればよい。
【0047】
(4)縦割り方法
本実施形態に係る冷凍魚の縦割り方法は、上述の縦割り装置20を用いておこなうことができる。
【0048】
要するに、本実施形態に係る冷凍魚の縦割り方法は、冷凍魚1(試料2)の背面に一山型治具13を当てて加圧して、当該冷凍魚1(試料2)を背側と腹側の間で縦割りにする冷凍魚1(試料2)の縦割り方法である。特に、本実施形態に係る縦割り方法は、冷凍魚1(試料2)の背面における脊椎骨に沿った位置に、加圧方向に突出したくさび型の凸を一つ有する一山型治具13の当該凸を当てて加圧して当該冷凍魚1(試料2)を縦割りにする工程を含む。このとき、冷凍魚1(試料2)は、延性が残っているが脆性が優位である温度域であって、かつ当該冷凍魚1(試料2)の背面に当接させた一山型治具13を脊椎骨に向かって挿すことができる温度域にあり、背面に切り欠きが設けられていない。
【0049】
ここで、「延性が残っているが脆性が優位である温度域」とは、試料2の魚体の一部が脆化しているが、魚体全体は完全に脆化していない温度域である。仮に、延性が優位である場合や、延性のみを呈する場合には、冷凍魚が塑性破壊(延性変形)することで魚体全体が大きく圧し潰され、著しく破損する。一方で、魚体全体が完全に脆化していると、魚肉が脆く壊れやすくなり、割裂には至らない。脆化に関しては、先述した組織による凍結状態の違いにあるように、部位や組織ごとに脆化温度が異なる。そこで、試料2の魚体の一部が脆化しているが、魚体全体は完全に脆化していない温度域とする。この温度域は、例えば−70℃〜−40℃であってよい。
【0050】
また、「冷凍魚の背面に当接させた一山型治具13を脊椎骨に向かって挿すことができる温度域」は、試料2の背面に一山型治具13を当てて加圧した際に、一山型治具13が試料2の背面に食い込み、続けて挿し込むことができる温度域である。換言すれば、試料2の背面に一山型治具13を当てて加圧した際に、試料2の背面の表面にて一山型治具13が滑って食い込まない、あるいは食い込んでも加圧方向から外れて一山型治具13あるいは試料2が逃げるといったことがない温度域である。このように滑って食い込まなかったり逃げたりする現象は、試料2が過度に低温になっている場合に起こり得る。したがって、冷凍魚の背面に当接させた一山型治具13を脊椎骨に向かって挿すことができる温度域であることが重要である。なお、この温度域は、例えば−60℃〜−40℃であってよい。
【0051】
以上のように、「延性が残っているが脆性が優位である温度域であって、かつ当該冷凍魚の背面に当接させた一山型治具13を脊椎骨に向かって挿すことができる温度域」にて凍結している試料2を用いれば、試料2を良好に縦割りできる。
【0052】
また、本実施形態によれば、冷凍魚1の背面に切り欠きを設けなくとも、一山型治具13を当てて加圧することにより、良好な縦割りを実現することができる。そのため、切り欠きを形成する工程が不要であり、縦割り加工の作業効率のアップに寄与することができる。
【0053】
(5)一山型治具による効果
一山型治具13を加圧板に設けることにより、一山型治具を設けていない一対の加圧板によって試料2を加圧して縦割りする場合に比べて、加圧の大きさを小さく抑えることができる。
【0054】
これは、一山型治具13が試料2に食い込んだ時点から、試料2における一山型治具13のくさび型の凸の先端部13aが破壊の起点として作用し、起点から引っ張り応力が生じたためである。
【0055】
具体的には、一山型治具13を加圧板に設けることにより、一山型治具を設けていない一対の加圧板によって試料2を加圧して縦割りする場合に比べて、割裂破断応力を50〜70%低減することができる。
【0056】
ここで、一例であるが、一山型治具13を用いた場合における、割裂破断応力に与える影響について
図6に示す。
【0057】
図6の上側に示すグラフG1aは、背腹方向の平均径が約φ80mmであり、体長が約58mmである試料2(鰹)を用い、−40℃および−70℃に冷凍された試料2について、割裂破断応力を測定した結果を示す。グラフG1aは、各温度ともに、左から比較態様1、比較態様2、本実施形態1の割裂破断応力をそれぞれ示す。比較態様1は、いずれの加圧板にも一山型治具が設けられていない点以外は
図3と同じ縦割り装置を使用し、かつ冷凍魚の試料に切り欠きが形成されていない態様である。比較態様2は、
図3の縦割り装置を使用するものの、
図16に示すように冷凍魚の背側に切り欠きが設けられた試料を使用した態様である。そして本実施形態1とは、
図3の縦割り装置を使用し、切り欠きの無い試料2を使用した態様である。また、
図6の下側に示すグラフG1bは、背腹方向の平均径が約φ74mmであり、体長が約66mmである試料2(鰹)を用いて、一山型治具13を用いた場合における、割裂破断応力に与える影響をみた結果を示す。
【0058】
図6のグラフG1aおよびグラフG1bからも、比較態様1に比べて、本実施形態の場合には、割裂破断応力を50〜70%低減できることがわかる。さらに、試料2の破断時に身4(
図2の(iii))から破片の発生を抑制できる。
【0059】
本実施形態の態様では、加圧により加圧軸上に試料2を割裂破壊させる力が加わる。試料2では、加圧軸上に脊椎骨および内臓など凍結状態の異なる組織が存在する。この時、凍結状態の異なる組織の境目に割裂破断させる力が集中するため、加圧により試料2に加えられる力の大部分が、上記組織の境目を割裂破断させる力として作用する。換言すれば、本実施形態の態様における割裂破断させる力とは、試料2の凍結状態の異なる組織の接着面を剥離させる、ないしは凍結状態の異なる組織を切断するための力である。一方、比較態様1では、加圧により試料に加えられる力は、上加圧板および下加圧板に施されたスリット溝加工と、試料の腹面および背面との4つの接触点のうち、試料を介して向かい合う接触点がそれぞれ2本の加圧軸として作用する。その結果、加圧により試料に加えられる力は、上述する2本の加圧軸上で分散する。そのため、本実施形態の態様では、比較態様1に比べ、試料2全体に分散した力を削減でき、割裂破断応力を50〜70%低減できる。
【0060】
また、上述のように本実施形態の態様では、試料2に加えられる力が凍結状態の異なる組織の周囲に集中することにより、凍結状態の異なる組織の周囲以外(凍結状態の同じ組織)に試料2に加えられる力が伝わりにくい。それにより、凍結状態の異なる組織の周囲以外では組織の切断が発生しにくく、肉片の発生を抑制できる。
【0061】
〔変形例1〕
図7に、本発明の一変形例に係る縦割り装置30を示す。
図7は、上述の実施形態1の
図5に対応している。
【0062】
本変形例1に係る縦割り装置30は、
図7に示すように、一山型治具13を一対の加圧板(上加圧板11および下加圧板12´)にそれぞれ設けている。
【0063】
本変形例1によれば、一層、良好な縦割りを実現することができる。
【0064】
〔変形例2〕
図8に、本発明の別の変形例として、一山型治具13の別の形状を挙げる。
図8に示す一山型治具13´は、
図3および
図4に示したようなくさび型の凸の先端部13aがZ軸に沿って稜線を形成しているのではなく、Z軸に沿って複数の歯状の構造物が並んでいる。歯の形状は特に限定されず、
図8に示すような略円錐形状であってよく、略四角錐形状または略三角錐形状であってよい。本変形例2の一山型治具13´を備えている態様であっても、上述の一山型治具13と同様に、歯の配列方向を冷凍魚の背面における脊椎骨の長手方向に沿って平行に対向させ、各歯の先端を冷凍魚の背面に食い込ませて加圧する。これにより、良好な縦割りを実現することができる。
【0065】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施の形態について、
図9〜
図11を用いて以下に説明する。
【0066】
図9は、本発明の実施形態2に係る冷凍魚の縦割り装置の一例について示す模式図である。
図10は、本発明の実施形態2に係る冷凍魚の縦割り装置に用いる治具の一例の三面図である。
図11は、本発明の実施形態2に係る冷凍魚の縦割り装置を用い、冷凍魚の冷凍温度と圧力との関係を示す図である。
【0067】
なお、本実施形態の縦割り装置40(
図9)および縦割り方法を適用する冷凍魚としては、上述の実施形態1の「(1)対象とする冷凍魚」の項において説明したものと同じであるため、ここでは説明を省略する。また、本実施形態の縦割り装置40(
図9)および縦割り方法における冷凍魚の割裂破断のメカニズムについても、上述の実施形態1の「(2)割裂破断のメカニズム」の項において説明したものと同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0068】
(1)縦割り装置(主要部の構成)
図9は、本実施形態の縦割り装置40の主要部の構成の斜視図である。
【0069】
縦割り装置40は、
図9に示すように一対の加圧板(上加圧板11および下加圧板12)を備え、上加圧板11に二山型治具43(くさび型の凸を2つ有する治具)が設けられている。なお、
図9は、主要部のみを示しており、縦割り装置40の他の構成については、上述の実施形態1の「(3.2)その他の構成」の項において説明したものと同じであるため、説明を省略する。
【0070】
一対の加圧板を構成する上加圧板11および下加圧板12は、試料2へ加圧できれば、素材および形状は特に限定されず、
図9に示す様に板状であってよい。また、大きさについても特に限定されず、試料2または縦割り装置20にあわせて適宜調節してよい。また、上加圧板11と下加圧板12の素材および形状は異なってよい。
【0071】
上加圧板11には、後述する二山型治具43が設けられていて、試料2の背側から加圧する構成となっている。一方の下加圧板12は、試料2の腹側から加圧する構成となっている。なお、縦割り装置40は、一対の加圧板が上下方向に配置されているが、本発明はこれに限定されるものではない。要するに、試料2の背側と腹側とを挟み込むことができれば、一対の加圧板の配列方向は特に限定されるものではない。要するに、
図9に示すところの上下に配置された加圧板が、左右に配置していて、左側に、二山型治具が設けられた加圧板があり、右側にもう一方の加圧板があって、左に背側、右に腹側を向けた試料2を置いて挟み込むような態様であってもよい。
【0072】
なお、下加圧板12には、上加圧板11との対向面における、二山型治具43に対向する位置に、スリット状の溝12aが設けられている。スリット状の溝12aには、試料2の腹側を嵌めることができ、これにより、輪切りの試料2を固定して倒れないようにすることができる。スリット状の溝12aの大きさとしては、例えば幅15mm、深さ3mm、長さ100mmとすることができるが、これに限定されない。
【0073】
一対の加圧板によって試料2にかかる加圧の大きさおよび時間は、特に限定されず、魚種、試料2の大きさ、および冷凍温度などに応じて適宜変更してよい。例えば鰹を−70℃〜−40℃で冷凍した場合における、試料2にかかる割裂破断応力の大きさは、0.6MPa以下であることが好ましい。試料2にかかる割裂破断応力の大きさが0.6MPa以下であることにより、比較的小さい力で良好な試料2の縦割りを実現することができる。なお、割裂破断応力の大きさは一例であり、冷凍魚1を割裂破断する装置などによっては割裂破断応力の大きさが0.6MPa以上となる場合もありうる。
【0074】
以下に、上加圧板11に設けられた二山型治具43について、
図9に示すXYZ座標系を用いて説明する。このXYZ座標系は、一対の加圧板の加圧方向に沿った軸をY軸とし、各加圧板の対向面をXZ平面とし、先述の下加圧板12に設けられた溝12aの延設方向に沿った軸をZ軸として定義したXYZ座標系である。
【0075】
二山型治具43は、上加圧板11における下加圧板12との対向面に設けられており、加圧方向に沿った断面であるXY切断面の形状をみると、上加圧板11の加圧方向に突出したくさび型の凸を2つ有した形状となっている。2つの凸はX軸に沿って並んでいる。それぞれのくさび型の凸の先端部43a(先端)は、加圧方法(Y軸)およびX軸(第1の軸方向)のいずれに対しても垂直であるZ軸(第2の軸方向)に沿って連続した稜線を形成している。XY切断面の形状をみると2つの山があるように見えるので、二山型治具43と称する。
【0076】
二山型治具43は、一対の加圧板の間に試料2が配置された場合に、試料2の背面に対向する。より具体的には、二山型治具43の2つのくさび型の凸の並び方向(X軸方向)に対して直交する方向(Z軸方向)に、試料2の脊椎骨がのびているように、試料2を配置する。換言すれば、二山型治具43の2つのくさび型の凸の先端部43aの稜線と、試料2の脊椎骨とが、Y軸方向に平行となる。これにより、試料2の身4と脊椎骨5との境目に応力を加えやすくなる。ただし、2つのくさび型の凸の先端部43aと、試料2の脊椎骨とはY軸方向に完全に平行である必要はなく、脊椎骨に沿って背側から腹側に割裂破断することができれば、本発明の一形態に含まれる。
【0077】
より具体的には、二山型治具43の一方のくさび型の凸の先端部43aと他方のくさび型の凸の先端部43aとの間に設けられた先端間スリット43cに、冷凍魚(試料2)の背面の中心線(背鰭の位置)が入る。そして、当該中心線よりも左側に一方のくさび型の凸の先端部43aが、当該中心線よりも右側に他方のくさび型の凸の先端部43aが当接するように構成する。一方のくさび型の凸の先端部43aと他方のくさび型の凸の先端部43aとの距離は、冷凍魚(試料2)の背面の中心線を挟む程度に狭く構成されている。更に具体的には、一方のくさび型の凸の先端部43aと他方のくさび型の凸の先端部43aとの距離は、冷凍魚(試料2)の背面側に当該中心線に沿って延びる担鰭骨の径と同じ程度に構成されている。このように先端部43a間の距離が構成されていることにより、縦割りと同時に、担鰭骨を分離することができるというメリットがある。要するに、二山型治具43は、
図9に示す2つ並んだくさび型の凸における各々の先端部43aから加圧方向に延びる延長線上に試料2の担鰭骨が位置するように先端部43a間の距離が設計されている。あるいは、二山型治具43は、各々の当該延長線の間に試料2の担鰭骨が位置するように、先端部43a間の距離が設計されている。先端部43a間の距離は、例えば5mm程度とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0078】
ここで、
図10に、二山型治具43の三面図とともに、大きさの一例を示す。
図10の(i)には、二山型治具43のXY側面を示しており、
図10の(ii)には、二山型治具43のXZ側面のくさび型の凸がある側の面を示しており、
図10の(iii)には、二山型治具43のXZ側面のくさび型の凸がある側の面の裏面を示している。なお、
図10中に記載している数値はあくまでも一例であるが、例えば背腹方向の平均径が約φ90mmであり、体長が約60mmである試料2に対して加圧する場合に用いる二山型治具43の実寸である。なお、背腹方向の平均径とは、円錐台状試料の両端(頭部側および尾部側)の断面の径を平均したものである。
【0079】
二山型治具43は、上加圧板11が試料2に向かって加圧することで、先ず試料2に当接し、続いて食い込み、更には挿し込まれる。そして、二山型治具43がそのまま加圧方向に押し込まれることにより、試料2に、二山型治具43のくさび型の凸の先端部43aの各々から試料2の左右(水平方向)へ引っ張るように力を加わり、試料2を割裂破壊する。そのため、二山型治具43のくさび型の凸の先端部43aの角度(
図10の(i)に示す角度θ)は、15°〜60°であることが好ましく、30°〜45°であることがより好ましい。角度θが15°よりも小さいと、二山型治具43が試料2に食い込む距離は長くなるが、試料2を左右へ引っ張るように加わる力は小さくなり、身4と脊椎骨5との境目に加圧され難くなる。また、角度θが60°よりも大きいと、試料2を左右に引っ張るように加わる力は大きくなるが、二山型治具43が試料2に食い込む距離は短くなり、身4と脊椎骨5との境目に加圧され難くなる。
【0080】
また、二山型治具43は、くさび型の凸の各々における、先端間スリット43c側とは反対側の面である側面43bが面取り加工を施されている。二山型治具43の側面43bに面取り加工が施されることにより、試料2に食い込んだ位置において応力集中しやすいという効果を奏する。
【0081】
なお、二山型治具43は、試料2の背面から試料2に加圧できれば、本実施形態のように上加圧板11側に設置してよく、仮に背面を鉛直方向の下方に向けて試料2を一対の加圧板の間に設置する態様なのであれば、二山型治具は下加圧板12側に設置すればよい。
【0082】
なお、二山型治具43は、
図10に示すように第2の軸方向に沿って連続した稜線を形成しなくてもよく、第2の軸方向に、複数の凸を有してもよく、複数の凸は例えば略円錐形状であってよい。
【0083】
なお、本実施形態では2つのくさび型の凸が設けられた二山型治具43について説明した。しかしながら、本発明の一形態はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態において説明した2つのくさび型の凸を有していれば、XY切断面の形状において3つ以上の山がある治具であってもよい。
【0084】
(2)縦割り方法
本実施形態に係る冷凍魚の縦割り方法は、上述の縦割り装置40を用いておこなうことができる。
【0085】
要するに、本実施形態に係る冷凍魚の縦割り方法は、冷凍魚1(試料2)の背面に、二山型治具43を当てて加圧して、当該冷凍魚1(試料2)を背側と腹側の間で縦割りにする冷凍魚1(試料2)の縦割り方法である。特に、本実施形態に係る縦割り方法は、加圧方向に突出したくさび型の凸が二つ並んでいる二山型治具43の当該凸を、当該凸が並んでいる方向に対して略垂直に脊椎骨が沿うように配置した試料2の背面に当てて加圧して当該冷凍魚を縦割りにする工程を含む。このとき、試料2は、延性が残っているが脆性が優位である温度域にある。
【0086】
ここで、「延性が残っているが脆性が優位である温度域」とは、試料2の魚体の一部が脆化しているが、魚体全体は完全に脆化していない温度域である。仮に、延性が優位である場合や、延性のみを呈する場合には、冷凍魚が塑性破壊(延性変形)することで魚体全体が大きく圧し潰され、著しく破損する。一方で、魚体全体が完全に脆化していると、魚肉が脆く壊れやすくなり、割裂には至らない。脆化に関しては、先述した組織による凍結状態の違いにあるように、部位や組織ごとに脆化温度が異なる。そこで試料2の魚体の一部が脆化しているが、魚体全体は完全に脆化していない温度域とする。この温度域は、例えば−70℃〜−40℃であってよい。
【0087】
以上のように、「延性が残っているが脆性が優位である温度域」にて凍結している試料2を用いれば、試料2を良好に縦割りできる。
【0088】
また、本実施形態によれば、冷凍魚1の背面に切り欠きを設けなくとも、二山型治具43を当てて加圧することにより、良好な縦割りを実現することができる。そのため、切り欠きを形成する工程が不要であり、縦割り加工の作業効率のアップに寄与することができる。
【0089】
ただし、試料2の背面に切り欠きが設けられていてもよい。
【0090】
先述のように、本実施形態では、2つのくさび型の凸の先端部43aのそれぞれを、冷凍魚(試料2)の背面の中心線(背鰭の位置)の左右に近接した位置に当接させて、加圧をおこなう。これにより、各々の位置からそれぞれ亀裂が発生し、担鰭骨の先で亀裂が合流して、脊椎骨に向かって進展する。これにより、担鰭骨の分離と、縦割りとを良好に実現することができる。
【0091】
(3)二山型治具による効果
二山型治具43を加圧板に設けることにより、二山型治具を設けていない一対の加圧板によって試料2を加圧して縦割りする場合に比べて、縦割り加工に要する荷重を抑えることができる。
【0092】
これは、二山型治具43が試料2に食い込んだ時点から、試料2における二山型治具43のくさび型の凸の先端部43aそれぞれが破壊の起点として作用し、起点から引っ張り応力が生じたためである。
【0093】
具体的には、二山型治具43を加圧板に設けることにより、二山型治具を設けていない一対の加圧板によって試料2を加圧して縦割りする場合に比べて、割裂破断応力を50〜70%低減することができる。
【0094】
ここで、一例であるが、二山型治具43を用いた場合における、割裂破断応力に与える影響について
図11に示す。
【0095】
図11に示すグラフG2は、背腹方向の平均径が約φ80mmであり、体長が約58mmである試料2(鰹)を用い、−40℃および−70℃に冷凍された試料2について、割裂破断応力を測定した結果を示す。グラフG2は、各温度ともに、左から比較形態、本実施形態2の割裂破断応力をそれぞれ示す。ここで、比較形態は、いずれの加圧板にも二山型治具が設けられていない点以外は
図9に示す主要部を具備した縦割り装置を使用し、かつ冷凍魚の試料に切り欠きが形成されていない態様である。そして、本実施形態2は、
図9に示す主要部を具備した縦割り装置を使用し、切り欠きの無い試料2を使用した態様である。
【0096】
図11に示すグラフG2からも、比較態様1に比べて、本実施形態の場合には、割裂破断応力を50〜70%低減できることがわかる。さらに、試料2の破断時に身4(
図2の(iii))から破片の発生を抑制できる。
【0097】
本実施形態の態様では、加圧により加圧軸上に試料2を割裂破壊させる力が加わる。試料2では、加圧軸上に脊椎骨および内臓など凍結状態の異なる組織が存在する。この時、凍結状態の異なる組織の境目に割裂破断させる力が集中するため、加圧により試料2に加えられる力の大部分が、上記組織の境目を割裂破断させる力として作用する。換言すれば、本実施形態の態様における割裂破断させる力とは、試料2の凍結状態の異なる組織の接着面を剥離させる、ないしは組織を切断するための力である。一方、比較態様1では、加圧により試料に加えられる力は、上加圧板および下加圧板に施されたスリット溝加工と、試料の腹面および背面と、の4つの接触点のうち、試料を介して向かい合う接触点がそれぞれ2本の加圧軸として作用する。その結果、加圧により試料に加えられる力は、上述する2本の加圧軸上で分散する。そのため、本実施形態の態様では、比較態様1に比べ、試料2全体に分散した力を削減でき、割裂破断応力を50〜70%低減できる。
【0098】
また、上述のように本実施形態の態様では、試料2に加えられる力が、凍結状態の異なる組織の周囲に集中することにより、凍結状態の異なる組織の周囲以外(凍結状態の同じ組織)に試料2に加えられる力が伝わりにくい。それにより、凍結状態の異なる組織の周囲以外では組織の切断が発生しにくく、肉片の発生を抑制できる。
【実施例】
【0099】
〔実施例1〕
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0100】
(試料の調製)
本実施例1では、縦割りする試料2(
図1)として、鰹の腹部の輪切り(背腹方向の平均径φ94mm)を準備した。試料2は、−60℃に設定した冷凍庫内に一晩静置しておき、試料2自体の温度を−60℃となるようにした。
【0101】
(試験方法)
試料2を
図3に示す状態となるよう一対の加圧板の間セットした。このとき、試料2の脊椎骨が下加圧板12に設けられたスリット状の溝12aの延設方向に平行になるように、試料2の向きを調整し、試料の腹側をスリット状の溝12aに嵌めた。これにより、上加圧板11に設けられた一山型治具13の先端部13aの稜線が、試料2の脊椎骨と平行になるように位置する。
【0102】
一対の加圧板の間にセットした試料2に対して、上加圧板11を10mm/minにて下加圧板12に向かって移動させて試料2に加圧をおこなった。そして加圧により破断した腹部試料について目視により観察し、破断面、脊椎骨または内臓の分離の有無、および亀裂の発生状況について評価した。
【0103】
(結果)
図12に、加圧によって割裂破断した試料2を撮影した写真を示す。脊椎骨の片面側にて身と脊椎骨とが分離していることがわかる。また、脊椎骨が身と分離した方向において、内臓も身と分離することができた。さらに、破断面以外に大きな亀裂は形成されず、試料を良好に2枚おろしすることができた。
【0104】
〔実施例2〕
実施例2では、縦割りする試料2(
図1)として、鰹の腹部の輪切り(背腹方向の平均径φ94mm)を準備した。試料2は、−40℃に設定した冷凍庫内に一晩静置しておき、試料2自体の温度を−40℃となるようにした。
【0105】
(試験方法)
試料2を
図9に示す状態となるよう一対の加圧板の間セットした。このとき、試料2の脊椎骨が下加圧板12に設けられたスリット状の溝12aの延設方向に平行になるように、試料2の向きを調整し、試料の腹側をスリット状の溝12aに嵌めた。これにより、二山型治具43の2つ並んだくさび型の凸における各々の先端部43aから加圧方向に延びる延長線の間に試料2の担鰭骨が位置するように、二山型治具43の凸の先端部43a(稜線)が試料2の背面に脊椎骨に沿って当接するように配置した。
【0106】
一対の加圧板の間にセットした試料2に対して、上加圧板11を10mm/minにて下加圧板12に向かって移動させて試料2に加圧をおこなった。そして加圧により破断した腹部試料について目視により観察し、破断面、脊椎骨または内臓の分離の有無、および亀裂の発生状況について評価した。
【0107】
(結果)
図13に、加圧によって割裂破断した試料2を撮影した写真を示す。脊椎骨の片面側にて身と脊椎骨とが分離していることがわかる。また、
図13の写真の左側に映っているものは、担鰭骨である。本実施例によれば、破断面以外に大きな亀裂は形成されず、試料を良好に2枚おろしすることができるだけでなく、担鰭骨を分離することができた。
【0108】
〔実施例3〕
実施例3として、試料2を鰹から鯖に変更した点以外は実施例2と同様の方法により試料を調製した。そして、加圧により破断した腹部試料について目視により観察し、破断面、脊椎骨または内臓の分離の有無、および亀裂の発生状況について評価した。
【0109】
(結果)
図14に、加圧によって割裂破断した鯖の試料2を撮影した写真を示す。
図14に示すように、試料2の背側から加えられた応力により、脊椎骨の片面側に、背側から腹側にかけて亀裂が生じていた(
図14中の(i))。
図14中の(i)の写真では多少解り難いが、亀裂がしっかり形成されていることから、この状態から手で簡単に
図14中の(ii)に示すように三枚おろし(二枚おろしの状態から更に内臓が分離した状態)にすることができた。さらに、
図14中の(i)の写真では解り難いが、担鰭骨の周辺にも亀裂が確認でき、これも手で簡単に分離することができた(
図14中の(ii)の写真の上側に写っているものが担鰭骨)。
【0110】
〔実施例4〕
実施例4として、試料2を鰹から銀鮭に変更した点以外は実施例2と同様の方法により試料を調製した。そして、加圧により破断した腹部試料について目視により観察し、破断面、脊椎骨または内臓の分離の有無、および亀裂の発生状況について評価した。
【0111】
(結果)
図15に、加圧によって割裂破断した銀鮭の試料2を撮影した写真を示す。
図15に示すように、銀鮭においても、背側から腹側に亀裂が形成され、試料2を良好に2枚おろしすることができていることが示された。さらに、
図15の写真上部にあるように担鰭骨も分離することができた。