【解決手段】演算装置(13)は、スペクトラムアナライザ(12)にて測定されたスペクトルをフーリエ変換するフーリエ変換ステップ(S11)と、フーリエ変換ステップ(S11)にて得られた時間領域波形から、各伝搬モードに対応するピークの波形を抽出するフィルタリングステップ(S12)と、フィルタリングステップ(S12)にて得られた波形を逆フーリエ変換することによって、マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との干渉波形を得る逆フーリエ変換ステップ(S13)と、逆フーリエ変換ステップ(S13)にて得られた干渉波形から、マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を算出する群遅延差算出ステップ(S14)と、を実行する。
マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を、前記マルチモードファイバを伝搬した光と空気中を伝搬した光とを合波することにより得られた干渉光のスペクトルに基づいて算出可能である演算装置であって、
前記干渉光のスペクトルをフーリエ変換するフーリエ変換ステップと、
前記フーリエ変換ステップにて得られた時間領域波形から、各伝搬モードに対応するピークの波形を抽出するフィルタリングステップと、
前記フィルタリングステップにて得られた波形を逆フーリエ変換することによって、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との干渉波形を得る逆フーリエ変換ステップと、
前記逆フーリエ変換ステップにて得られた干渉波形から、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差の波長依存性を算出する群遅延差算出ステップと、が実行可能である、
ことを特徴とする演算装置。
更に、前記群遅延差算出ステップにて算出された各伝搬モードの群遅延差の波長依存性から、その伝搬モードの波長分散の波長依存性を算出する波長分散算出ステップが実行可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の演算装置。
更に、前記群遅延差算出ステップにて算出された2つの伝搬モードの群遅延差の波長依存性から、それらの伝搬モードのモード間群遅延差の波長依存性を算出するモード間群遅延差算出ステップが実行可能である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の演算装置。
マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を、前記マルチモードファイバを伝搬した光と空気中を伝搬した光とを合波することにより得られた干渉光のスペクトルに基づいて算出する演算方法であって、
前記干渉光のスペクトルをフーリエ変換するフーリエ変換ステップと、
前記フーリエ変換ステップにて得られた時間領域波形から、各伝搬モードに対応するピークの波形を抽出するフィルタリングステップと、
前記フィルタリングステップにて得られた波形を逆フーリエ変換することによって、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との干渉波形を得る逆フーリエ変換ステップと、
前記逆フーリエ変換ステップにて得られた干渉波形から、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を算出する群遅延差算出ステップと、を含んでいる、
ことを特徴とする演算方法。
マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を、前記マルチモードファイバを伝搬した光と空気中を伝搬した光とを合波することにより得られた干渉光のスペクトルに基づいて算出する演算方法であって、
前記干渉光のスペクトルをフーリエ変換するフーリエ変換ステップと、
前記フーリエ変換ステップにて得られた時間領域波形から、各伝搬モードに対応するピークの波形を抽出するフィルタリングステップと、
前記フィルタリングステップにて得られた波形を逆フーリエ変換することによって、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との干渉波形を得る逆フーリエ変換ステップと、
前記逆フーリエ変換ステップにて得られた干渉波形から、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を算出する群遅延差算出ステップと、を含んでいる、演算方法を、汎用計算機に実行させる演算プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る測定システム1の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、測定システム1の構成を示すブロック図である。
【0015】
測定システム1は、マルチモードファイバMMFの各伝搬モードと波長分散、及び、マルチモードファイバMMFの各伝搬モード間の群遅延差の両方を測定するためのシステムである。測定システム1は、
図1に示すように、二光束干渉計11と、スペクトラムアナライザ12と、演算装置13と、を備えている。
【0016】
二光束干渉計11は、マルチモードファイバMMF中を伝搬した光と空気中を伝搬した光とを合波することによって、干渉光を生成するための構成である。本実施形態においては、二光束干渉計11として、光源LSと、2つのシングルモードファイバSMF1,SMF2と、2つの偏光子P1,P2と、2つのハーフミラーHM1,HM2と、3つのミラーM1,M2,M3と、により構成される光学系を用いている。
【0017】
光源LSは、測定に用いる光を生成する。本実施形態においては、光源LSとして、ブロードなスペクトルを有するSLD(Super Luminescent Diode)を用いている。光源LSにて生成された光は、シングルモードファイバSMF1に入射する。
【0018】
シングルモードファイバSMF1は、光源LSにて生成された光を導波する。シングルモードファイバSMF1を導波された光は、偏光子P1に入射する。偏光子P1は、シングルモードファイバSMF1を導波された光に含まれる偏光成分のうち、特定の偏光方向を有する偏光成分を選択的に透過させる。偏光子P1を透過した光は、ハーフミラーHM1に入射する。ハーフミラーHM1は、偏光子P1を透過した光の一部を透過させると共に、偏光子P1を透過した光の残りの部分を反射する。
【0019】
ハーフミラーHM1を透過した光は、マルチモードファイバMMFに入射する。マルチモードファイバMMFは、ハーフミラーHM1を透過した光を導波する。マルチモードファイバMMFを導波された光は、ハーフミラーHM2に入射する。ハーフミラーHM2は、マルチモードファイバMMFを導波された光(の一部)を透過する。以上の光路を通った光のことを、以下、「マルチモードファイバMMFを伝搬した光」とも記載する。
【0020】
一方、ハーフミラーHM1にて反射された光は、ミラーM1に入射する。ミラーM1は、ハーフミラーHM1にて反射された光を更に反射する。ミラーM1にて反射された光は、ミラーM2に入射する。ミラーM2は、ミラーM1にて反射された光を更に反射する。ミラーM2にて反射された光は、ハーフミラーHM2に入射する。ハーフミラーHM2は、ミラーM2にて反射された光(の一部)を透過する。ハーフミラーHM2を透過した光は、ミラーM3に入射する。ミラーM3は、ハーフミラーHM2を透過した光を反射する。ミラーM3にて反射された光は、ハーフミラーHM2に再び入射する。ハーフミラーHM2は、ミラーM3にて反射された光(の一部)を反射する。以上の光路を通った光のことを、以下、「空気中を伝搬した光」とも記載する。
【0021】
ハーフミラーHM2は、マルチモードファイバMMFを伝搬した光と、空気中を伝搬した光とを合波することによって、干渉光を生成する。ハーフミラーHM2にて生成されて干渉光は、偏光子P2に入射する。偏光子P2は、ハーフミラーHM2にて生成された干渉光に含まれる偏光成分のうち、特定の偏光方向を有する偏光成分を選択的に透過させる。偏光子P2を透過した光は、シングルモードファイバSMF2に入射する。シングルモードファイバSMF2は、偏光子P2を透過した光を導波する。シングルモードファイバSMF2を導波された光は、スペクトラムアナライザ12に入射する。
【0022】
二光束干渉計11において、ミラーM3は、ハーフミラーHM2から遠ざかる方向及び近づく方向に変位可能である。本実施形態において、ミラーM3の位置は、マルチモードファイバMMFを伝搬した光の光路長と空気中を伝搬した光との光路長とが一致するように調整されている。また、二光束干渉計11において、偏光子P1,P2は、それぞれ、入射する光の光軸を回転軸として回転可能である。本実施形態において、偏光子P1,P2の回転角は、スペクトラムアナライザ12にて測定される干渉光のスペクトルのディップが最大になるように調整されている。
【0023】
スペクトラムアナライザ12は、二光束干渉計11にて生成された干渉光のスペクトルを測定するための構成である。スペクトラムアナライザ12にて測定される干渉光のスペクトルのことを、以下、透過光強度スペクトルI
all(ω)と記載する。
【0024】
演算装置13は、スペクトラムアナライザ12にて測定された透過光強度スペクトルI
all(ω)に基づいて、マルチモードファイバMMFの各伝搬モードと波長分散、及び、マルチモードファイバMMFの各伝搬モード間の群遅延差の両方を算出するための構成である。これらの物理量を算出するために演算装置13が用いる演算方法Sについては、その測定原理を説明した後に詳述する。
【0025】
〔測定原理〕
測定システム1において、スペクトラムアナライザ12にて測定される透過光強度スペクトルI
all(ω)は、式(1)に示すように、マルチモードファイバMMFを伝搬した光の透過光強度スペクトルI(ω)と空気中を伝搬した光の透過強度スペクトルI
c(ω)との和により与えられる。
【数1】
【0026】
まず、マルチモードファイバMMFを伝搬した光の透過強度スペクトルI(ω)について考える。マルチモードファイバMMFの第lモードの電界成分E
l(t、z)は、式(2)のように表すことができる。式(2)において、tは時間であり、zは伝搬距離であり、LはマルチモードファイバMMFのファイバ長であり、cは自由空間中の光速(=3×10
8m/s)であり、ωは角周波数であり、A(ω)は光源LSにて生成された光のスペクトル振幅であり、β
l(ω)はマルチモードファイバMMFの第lモードの伝搬定数である。
【数2】
【0027】
干渉に寄与するN個の伝搬モードの電界成分E
l(t、z)の和ΣE
l(t、z)は、式(3)のように表すことができる。式(3)は、J(ω)=A(ω)exp{i(ω/c)(z−L)}Σexp[i{β
l(ω)L}]のフーリエ変換が和ΣE
l(t、z)に等しいことを意味する。
【数3】
【0028】
簡単のためにN個の伝搬モードが均一に励振されていると仮定すると、透過強度スペクトルI(ω)は、式(4)のように表すことができる。
【数4】
【0029】
式(4)から明らかなように、透過強度スペクトルI(ω)は、伝搬定数差Δβ
lm(ω)=β
l(ω)−β
m(ω)の値に応じて周期的に変化する。
【0030】
式(4)に現れる伝搬定数β
l(ω),β
m(ω)をω=ω
cの近傍でテイラー展開すると、式(5)が得られる。式(5)において、「´」はωで1階微分することを表し、「´´」はωで2階微分することを表す。
【数5】
【0031】
式(5)を用いると、伝搬定数差Δβ
lm(ω)は、式(6)のように表すことができる。式(6)において、AはA=β
l(ω
c)−β
m(ω
c)により定義される定数であり、BはB=β
l´(ω
c)−β
m´(ω
c)により定義される定数であり、CはC=(1/2){β
l´´(ω
c)−β
m´´(ω
c)}により定義される定数である。
【数6】
【0032】
式(4)に現れる光源LSの発光スペクトルS(ω)=|A(ω)|
2は、a=1/2Δω
2として、式(7)に示すように、ガウス型であることを仮定する。
【数7】
【0033】
透過強度スペクトルI(ω)のフーリエ変換p(t)=F[I(ω)]の絶対値|p(t)|は、式(8)のように表すことができる。
【数8】
【0034】
p
0(t)、p
1(t)、p
2(t)を式(9)のように定義すると、透過強度スペクトルI(ω)のフーリエ変換p(t)は、式(10)のように表すことができる。
【数9】
【数10】
【0035】
式(9)により定義されるp
0(t)、p
1(t)、p
2(t)は、それぞれ、式(11)、(12)、(13)のように変形することができる。
【数11】
【数12】
【数13】
【0036】
ここで、式(14)に注意すると、式(12)から式(15)を得ることができ、式(13)から式(16)を得ることができる。
【数14】
【数15】
【数16】
【0037】
式(11)、(15)、(16)を用いると、式(10)は、式(17)のように変形することができる。
【数17】
【0038】
式(18)により定義される複素コヒーレンス度γ
lm(t−Δτ
lmL)を用いると、式(17)は、更に、式(19)のように変形することができる。なお、式(19)において「*」は複素共役を表す。
【数18】
【数19】
【0039】
式(19)の右辺は、位相を含む。また、式(17)の第3式において、[]内の第1項、第2項、及び第3項は、時間領域において互いに重なり合うことはない。したがって、時間領域t>0においては、式(19)の第2項のみを考えれば良い。このため、p(t)の絶対値|p(t)|は、式(20)のように表すことができる。
【数20】
【0040】
光パルス波形は、複素コヒーレンス度の2乗|γ
lm(t−Δτ
lmL)|
2で表されるので、|p(t)|
2は、式(21)のように表すことができる。
【数21】
【0041】
γ
lm(t−Δτ
lmL)とγ
pq(t−Δτ
pqL)とが互いに重なり合うことがない場合(すなわち、干渉が生じない場合)、Σγ
lm(t−Δτ
lmL)γ
pq(t−Δτ
pqL)
*=0が成り立つので、式(21)は、式(22)のように変形することができる。
【数22】
【0042】
次に、空気中を伝搬した光の透過強度スペクトルI
c(ω)について考える。光源LSのスペクトル振幅A(ω)と第lモードの伝搬定数β
l(ω)を用いると、透過強度スペクトルI
c(ω)は、式(23)のように表すことができる。
【数23】
【0043】
式(23)に現れる伝搬定数β
l(ω)をω=ω
cの近傍でテイラー展開すると、式(24)が得られる。なお、式(24)においては、I
c(ω)をゼロ色分散領域に適用することを考えて、3次の群速度分散の項まで考慮している。
【数24】
透過強度スペクトルI
c(ω)のフーリエ変換p
c(t)=F[I
c(ω)]の絶対値の2乗|p
c(t)|
2は、式(25)のように表すことができる。式(25)において、γ
lc(t−Δτ
laL)は、l番目の伝搬モードと空気中を伝搬する光との複素コヒーレンス度であり、γ
mc(t−Δτ
maL)は、m番目の伝搬モードと空気中を伝搬する光との複素コヒーレンス度である。
【数25】
【0044】
複素コヒーレンス度γ
lc(t−Δτ
laL)は、ゼロ色分散領域、すなわち、β´´(ω)≒0となる周波数領域において、式(26)のように表すことができる。式(26)において、Ai(s)は第1種エアリー関数である。また、T=2d/c−(1/v
gl−1/c)L、p={(τ
c2−iβ
2L)/2}
1/2、X=β
3L/(2p
3)、s=(p−XT)/pX
4/3である。また、v
pl及びv
glは、それぞれ、l番目の伝搬モードの位相速度及び群速度であり、τ
cは、低コヒーレンス光源のコヒーレンス時間であり、2dは、l番目の伝搬モードと空気中を伝搬する光との光路長差である。
【数26】
【0045】
γ
lc(t−Δτ
lcL)とγ
mc(t−Δτ
mcL)とが互いに重なり合うことがない場合(すなわち、干渉が生じない場合)、Σγ
lc(t−Δτ
lcL)γ
mc(t−Δτ
mcL)
*=0が成り立つので、式(25)は、式(27)のように変形することができる。
【数27】
【0046】
式(25)及び式(27)からゼロ色分散波長領域において|p
c(t)|
2は、エアリ―関数で表される波形を持つことが分かる。式(22)から、|p(t)|
2についても、同様にエアリ―関数で表される波形を持つことが分かる。
【0047】
以上のように、スペクトラムアナライザ12により測定される透過光強度スペクトルI
all(ω)は、マルチモードファイバMMFを伝搬した光の透過強度スペクトルI(ω)と空気中を伝搬した光の透過強度スペクトルI
c(ω)との和である。そして、マルチモードファイバMMFを伝搬した光の透過強度スペクトルI(ω)のフーリエ変換をp(t)とすると、|p(t)|
2は、エアリ―関数で表される波形を持つ。また、空気中を伝搬した光の透過強度スペクトルI
c(ω)のフーリエ変換をp
c(t)とすると、|p
c(t)|
2は、エアリ―関数で表される波形を持つ。したがって、透過光強度スペクトルI
all(ω)をフーリエ変換して得られる時間領域波形には、マルチモードファイバMMFの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との干渉波形のフーリエ変換に相当するピークが含まれる。このため、マルチモードファイバMMFの各伝搬モードについて、(1)透過光強度スペクトルI
all(ω)をフーリエ変換して得られる時間領域波形からその伝搬モードに対応するピークの波形を抽出し、(2)抽出したピークの波形を逆フーリエ変換すれば、その伝搬モードと空気中を伝搬した光との周波数領域における干渉波形が得られる。
【0048】
マルチモードファイバMMFの任意の伝搬モード(lmモードとする)について、その伝搬モードと空気中を伝搬した光との周波数領域における干渉波形を考える。この干渉波形のピーク波長間隔(周波数領域におけるピーク間隔を波長に換算したもの)Δλ
lm、及び、この干渉波形の中心波長(周波数領域における中心周波数を波長に換算したもの)λ
lmを用いると、その伝搬モードの群遅延τ
lmと空気中を伝搬した光の群遅延τ
airとの群遅延差Δτ
lm-airは、式(28)のように表すことができる。式(28)において、2dは2経路間の光路長差であり、LはマルチモードファイバMMFのファイバ長であり、cは自由空間中の光速(=3×10
8m/s)である。
【数28】
【0049】
2経路の光路長が等しい場合、すなわち、2経路間の光路長差2dが0である場合、式(29)が成り立つ。
【数29】
【0050】
各波長における群遅延差Δτ
lm-airを式(29)に従って算出した後、多項式によるフィッティングを行えば、群遅延差Δτ
lm-airを波長λの関数Δτ
lm-air(λ)として求めることができる。
【0051】
マルチモードファイバMMFの任意の2つの伝搬モード(lmモード及びxyモードとする)に関するモード間群遅延差DGD(τ
lm,τ
xy)は、lmモードに関する群遅延差Δτ
lm-air(λ)及びxyモードに関する群遅延差τ
xy-air(λ)から、式(30)に従って求めることができる。なお、モード間群遅延差DGD(τ
lm,τ
xy)としては、通常、高次モードの群遅延から低次モードの群遅延を引いた差を用いる。
【数30】
【0052】
また、マルチモードファイバMMFの任意の伝搬モード(lmモードとする)に関する波長分散D
lmは、群遅延τ
lm(λ)の微分dτ
lm(λ)/λである。また,局所波長域における空気中の光速は一定と見なせる。したがって、波長分散D
lmは式(31)に従って求めることができる。
【数31】
【0053】
以上のように、マルチモードファイバMMFの任意の伝搬モード(lmモードとする)について、その伝搬モードと空気中を伝搬した光との周波数領域における干渉波形から、式(29)に従って、その伝搬モードの群遅延τ
lmと空気中を伝搬した光の群遅延τ
airとの群遅延差Δτ
lm-air(λ)を算出することができる。そして、マルチモードファイバMMFの任意の2つの伝搬モード(lmモード及びxyモードとする)について、それら2つの伝搬モードの群遅延差τ
lm-air(λ),τ
xy-air(λ)から、式(30)に従って、モード間群遅延差DGD(τ
lm,τ
xy)を算出することができる。また、マルチモードファイバMMFの任意の伝搬モード(lmモードとする)について、その伝搬モードの群遅延差Δτ
lm-air(λ)から、式(31)に従って、波長分散D
lmを算出することができる。
【0054】
〔演算装置が実行する演算処理〕
測定システム1に含まれる演算装置13が実行する演算処理S1について、
図2を参照して説明する。
図2は、演算処理S1の流れを示すフローチャートである。なお、演算装置13のメモリには、透過光強度スペクトルI
all(ω)が記憶されているものとする。
【0055】
演算処理S1は、
図2に示すように、フーリエ変換ステップS11、フィルタリングステップS12、逆フーリエ変換ステップS13、群遅延差算出ステップS14、波長分散算出ステップS15、及びモード間群遅延差算出ステップS16を含んでいる。演算処理S1に含まれる各ステップは、例えば、演算装置13のメモリに格納されたプログラムに従って、演算装置13のプロセッサが実行する処理である。
【0056】
なお、フィルタリングステップS12、逆フーリエ変換ステップS13、群遅延差算出ステップS14、及び波長分散算出ステップS15は、対象とする伝搬モードを尽くすまで繰り返される。例えば、3つの伝搬モードを対象とする場合、フィルタリングステップS12、逆フーリエ変換ステップS13、群遅延差算出ステップS14、及び波長分散算出ステップS15は、3回繰り返される。
【0057】
フーリエ変換ステップS11は、透過光強度スペクトルI
all(ω)をフーリエ変換することによって、時間領域波形を得るステップである。フーリエ変換は、例えば既存の数値計算ライブラリを用いて実現することができるので、そのアルゴリズムについての説明は割愛する。
【0058】
フィルタリングステップS12は、フーリエ変換ステップS11にて得られた時間領域波形から、対象とする伝搬モード(lmモードとする)に対応するピークの波形を抽出するステップである。lmモードに対応するピークの波形の抽出は、例えば、フーリエ変換ステップS11にて得られた時間領域波形において、lmモードに対応するピーク以外のピークをマスクすることによって実現される。
【0059】
逆フーリエ変換ステップS13は、フィルタリングステップS12にて得られた波形を逆フーリエ変換することによって、lmモードと空気中を伝搬した光との干渉波形を得るステップである。逆フーリエ変換は、例えば既存の数値計算ライブラリを用いて実現することができるので、そのアルゴリズムについての説明は割愛する。
【0060】
群遅延差算出ステップS14は、逆フーリエ変換ステップS13にて得られた干渉波形から、lmモードの群遅延τ
lmと空気中を伝搬した光の群遅延τ
airとの群遅延差Δτ
lm-air(λ)を算出するステップである。より具体的に言うと、まず、各波長について、干渉波形から、その干渉波形のピーク波長間隔Δλ
lm及び中心波長λ
lmを特定する。次に、各波長について、干渉波形のピーク波長間隔Δλ
lm及び中心波長λ
lmから、上述した式(29)に従って群遅延差Δτ
lm-airを算出する。次に、群遅延差Δτ
lm-air(λ)として、各波長についての群遅延差Δτ
lm-airを最良近似するλの多項式をフィッティングにより求める。
【0061】
波長分散算出ステップS15は、群遅延差算出ステップS14にて得られた各伝搬モード(lmモードとする)の群遅延差Δτ
lm-air(λ)から、その伝搬モードに関する波長分散D
lmを算出するステップである。より具体的に言うと、群遅延差Δτ
lm-air(λ)から、上述した式(31)に従って波長分散D
lmを算出する。
【0062】
モード間群遅延差算出ステップS16は、群遅延差算出ステップS14にて得られた2つの伝搬モード(lmモード及びxyモードとする)の群遅延差Δτ
lm-air(λ),Δτ
xy-air(λ)から、それらの伝搬モードに関するモード間群遅延差DGD(τ
lm,τ
xy)を算出するステップである。より具体的に言うと、群遅延差Δτ
lm-air(λ),Δτ
xy-air(λ)から、上述した(30)式に従ってモード間群遅延差DGD(τ
lm,τ
xy)を算出する。例えば、3つの伝搬モードを対象とする場合、モード間群遅延差算出ステップS16においては、1番目のモードと2番目のモードとのモード間群遅延差DGD(τ
1,τ
2)、1番目のモードと3番目のモードとのモード間群遅延差DGD(τ
1,τ
3)、及び、2番目のモードと3番目のモードとのモード間群遅延差DGD(τ
2,τ
3)を算出する。
【0063】
なお、マルチモードファイバMMFの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を算出する技術を実現するという課題は、群遅延差算出ステップS14を実行することにより解決される。したがって、その後のステップ、すなわち、波長分散算出ステップS15及びモード間群遅延差算出ステップS16は、省略することも可能である。ただし、波長分散算出ステップS15を実行することによって、マルチモードファイバMMFの各伝搬モードの波長分散を容易に測定することが可能になるという効果を奏する。また、モード間群遅延差算出ステップS16を実行することによって、マルチモードファイバMMFの各伝搬モード間の群遅延差を容易に測定することが可能になるという効果を奏する。また、波長分散算出ステップS15及びモード間群遅延差算出ステップS16の両方を実行することによって、各伝搬モードの波長分散及び各伝搬モードのモード間群遅延差の両方を容易に測定することが可能になるという効果を奏する。
【0064】
〔実施例〕
測定システム1の一実施例について、
図3〜
図8を参照して説明する。本実施例においては、測定対象(
図1におけるマルチモードファイバMMF)として、1.3μm帯でLP01モードとLP11モードとを伝搬する2モードファイバを用いた。
【0065】
図3は、スペクトラムアナライザ12にて測定された透過光強度スペクトルI
all(ω)である。
図4は、
図3に示す透過光強度スペクトルI
all(ω)に対して、フーリエ変換ステップS11を適用することにより得られた時間領域波形である。
図4に示す時間領域波形は、LP01モードに対応するピークとLP11モードに対応するピークとを含んでいることが確かめられる。なお、伝搬モードは,一般的に,高次のモードほど曲げ損失が大きいため,曲げ印加によって各ピークと伝搬モードの対応を同定することができる。
【0066】
図5の(a)は、
図4に示す時間領域波形におけるLP01モードに対応するピークに対して、逆フーリエ変換ステップS13を適用することにより得られた、周波数領域における干渉波形である。
図5の(b)は、
図4に示す時間領域波形におけるLP11モードに対応するピークに対して、逆フーリエ変換ステップS13を適用することにより得られた、周波数領域における干渉波形である。
図5の(a)及び(b)においては、それぞれ、横軸を波長として周波数領域における干渉波形を示している。
【0067】
図6の(a)は、
図5の(a)に示す干渉波形に対して群遅延差算出ステップS14を適用することにより得られた、LP01モードの群遅延τ
01と空気中を伝搬した光の群遅延τ
airとの群遅延差Δτ
01-air(λ)の波長依存性を示すグラフである。
図6の(b)は、
図5の(b)に示す干渉波形に対して群遅延差算出ステップS14を適用することにより得られた、LP11モードの群遅延τ
11と空気中を伝搬した光の群遅延τ
airとの群遅延差Δτ
11-air(λ)の波長依存性を示すグラフである。
【0068】
図7は、波長分散算出ステップS15にて算出された、LP01モードの波長分散D
01及びLP11モードの波長分散D
11の波長依存性を示すグラフである。
図8は、モード間群遅延差算出ステップS16にて算出された、LP01モードとLP11モードとのモード間群遅延差DGD(τ
01,τ
11)の波長依存性を示すグラフである。
【0069】
以上のように、スペクトラムアナライザ12にて測定された透過光強度スペクトルI
all(ω)から、マルチモードファイバMMFの各伝搬モードと波長分散D
01,D
11、及び、マルチモードファイバMMFの各伝搬モード間の群遅延差DGD(τ
01,τ
11)の両方を算出することができた。
【0070】
〔ソフトウェアによる実現例〕
演算方法Sの各ステップは、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0071】
前者の場合、演算装置13は、演算方法Sの各ステップを実行する論理回路を備えた専用計算機として実現される。後者の場合、演算装置13は、演算プログラムを記憶した少なくとも1つのメモリ(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)と、演算プログラムの命令に従って演算方法Sの各ステップを実行する少なくとも1つのプロセッサと、を備えた汎用計算機として実現される。メモリとしては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)を用いることができる。また、演算装置13は、演算プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを更に備えていてもよい。また、演算プログラムは、該演算プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して演算装置13に供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、演算プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0072】
〔付記事項1〕
上述した演算装置13は、以下のように表現することもできる。
【0073】
すなわち、マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を、前記マルチモードファイバを伝搬した光と空気中を伝搬した光とを合波することにより得られた干渉光のスペクトルに基づいて算出可能である演算装置であって、前記干渉光のスペクトルをフーリエ変換するフーリエ変換手段と、前記フーリエ変換ステップにて得られた時間領域波形から、各伝搬モードに対応するピークの波形を抽出するフィルタリング手段と、前記フィルタリングステップにて得られた波形を逆フーリエ変換することによって、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との干渉波形を得る逆フーリエ変換手段と、前記逆フーリエ変換ステップにて得られた干渉波形から、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差の波長依存性を算出する群遅延差算出手段と、を備えている演算装置である。なお、前記演算装置は、前記群遅延差算出手段にて算出された各伝搬モードの群遅延差の波長依存性から、その伝搬モードの波長分散の波長依存性を算出する波長分散算出手段を更に備えていてもよい。また、前記演算装置は、前記群遅延差算出手段にて算出された2つの伝搬モードの群遅延差の波長依存性から、それらの伝搬モードのモード間群遅延差の波長依存性を算出するモード間群遅延差算出手段を更に備えていてもよい。
【0074】
また、上述した演算装置13は、以下のように表現することもできる。
【0075】
すなわち、マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差を、前記マルチモードファイバを伝搬した光と空気中を伝搬した光とを合波することにより得られた干渉光のスペクトルに基づいて算出可能である演算装置であって、少なくとも1つのプロセッサを備え、前記プロセッサは、前記干渉光のスペクトルをフーリエ変換するフーリエ変換ステップと、前記フーリエ変換ステップにて得られた時間領域波形から、各伝搬モードに対応するピークの波形を抽出するフィルタリングステップと、前記フィルタリングステップにて得られた波形を逆フーリエ変換することによって、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との干渉波形を得る逆フーリエ変換ステップと、前記逆フーリエ変換ステップにて得られた干渉波形から、前記マルチモードファイバの各伝搬モードと空気中を伝搬した光との群遅延差の波長依存性を算出する群遅延差算出ステップと、を実行する演算装置である。なお、前記プロセッサは、前記群遅延差算出ステップにて算出された各伝搬モードの群遅延差の波長依存性から、その伝搬モードの波長分散の波長依存性を算出する波長分散算出ステップを更に実行してもよい。また、前記プロセッサは、前記群遅延差算出ステップにて算出された2つの伝搬モードの群遅延差の波長依存性から、それらの伝搬モードのモード間群遅延差の波長依存性を算出するモード間群遅延差算出ステップを更に実行してもよい。
【0076】
なお、この場合、前記演算装置は、前記プロセッサに加えて少なくとも1つのメモリを備え、前記プロセッサは、前記メモリに格納されたプログラムに従って、前記フーリエ変換ステップ、前記フィルタリングステップ、前記逆フーリエ変換ステップ、及び前記群遅延差算出ステップを実行してもよい。
【0077】
〔付記事項2〕
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。上述した実施形態に含まれる各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。