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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-196552(P2021-196552A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】光変換素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20211129BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20211129BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
   G02B5/20
   H05B33/14 B
   H01L31/04 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-104543(P2020-104543)
(22)【出願日】2020年6月17日
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】平本 昌宏
【テーマコード(参考)】
2H148
3K107
5F151
【Fターム(参考)】
2H148AA05
2H148AA11
2H148AA19
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC04
3K107DD51
3K107DD58
3K107FF13
3K107FF19
3K107FF20
5F151AA11
5F151CB13
5F151CB14
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA03
5F151HA13
5F151HA17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】太陽光等の比較的低強度の光でもアップコンバージョンが可能であり、且つエネルギー効率に優れる光変換素子を提供すること。
【解決手段】第1の有機半導体材料を含む第1の有機半導体層1と、第2の有機半導体材料を含む第2の有機半導体層2とを備える光変換素子10であって、第1の有機半導体層1と第2の有機半導体層2とが接合面を形成し、第2の有機半導体材料の発光スペクトルの最大波長が、第1の有機半導体材料の吸収スペクトルの最大波長よりも短波長側にあり、第1の有機半導体材料のHOMO準位は、第2の有機半導体材料のHOMO準位より低く、第2の有機半導体材料は、三重項−三重項消滅を生じる材料であり、第2の有機半導体材料の励起三重項準位Tは、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位のエネルギー差より小さい、光変換素子。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の有機半導体材料を含む第1の有機半導体層と、第2の有機半導体材料を含む第2の有機半導体層とを備える光変換素子であって、
第1の有機半導体層と第2の有機半導体層とが接合面を形成し、
第2の有機半導体材料の発光スペクトルの最大波長が、第1の有機半導体材料の吸収スペクトルの最大波長よりも短波長側にあり、
第1の有機半導体材料のHOMO準位は、第2の有機半導体材料のHOMO準位より低く、
第2の有機半導体材料は、三重項−三重項消滅を生じる材料であり、第2の有機半導体材料の励起三重項準位Tは、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位のエネルギー差より小さい、光変換素子。
【請求項2】
第2の有機半導体材料の励起三重項準位Tと、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位のエネルギー差との差が、0.5eV未満である、請求項1に記載の光変換素子。
【請求項3】
第2の有機半導体材料におけるHOMO準位及びLUMO準位のエネルギー差が、2eV以上である、請求項1又は2に記載の光変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
アップコンパージョン(UC)(「フォトンアップコンバージョン」ともいう)とは低エネルギー(長波長)の光を高エネルギー(短波長)の光に変換する技術であり、低エネルギーの近赤外光を有効利用し、太陽電池や光触媒の効率を向上させる方法として期待されている。近年では、比較的弱い光でもアップコンバージョンできるものとして、三重項−三重項消滅(Triplet-Triplet Annihilation:TTA)を経る発光メカニズムが注目されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、感光体、発光体として働く所定の2種類の分子を有機溶媒に溶解させた溶液等を用いたアップコンバージョンが紹介されている。この溶液に長波長の光を照射すると、感光体が光吸収し分子内で一重項から三重項へ内部転換を起こし、そのエネルギーが発光体に移動し分子内でTTAを起こすことで高エネルギーの励起状態が生成し、短波長の光を発する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nobuhiro Yanai, Nobuo Kimizuka, Acc. Chem. Res. 2017, 50, 10, 2487-2495.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非特許文献1等の従来のアップコンバージョン技術では、一般的に、内部転換やエネルギー移動に伴うエネルギー損失が存在する。またこれらの過程の量子効率が低いため、レーザー光等の高強度の光が必要である。
【0006】
そこで本発明は、太陽光等の比較的低強度の光でもアップコンバージョンが可能であり、且つエネルギー効率に優れる光変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明者等は鋭意検討を行った結果、所定の構成を有する光変換素子を見出すに至った。すなわち本発明は、以下の[1]〜[3]を提供する。
[1] 第1の有機半導体材料を含む第1の有機半導体層と、第2の有機半導体材料を含む第2の有機半導体層とを備える光変換素子であって、
第1の有機半導体層と第2の有機半導体層とが接合面を形成し、
第2の有機半導体材料の発光スペクトルの最大波長が、第1の有機半導体材料の吸収スペクトルの最大波長よりも短波長側にあり、
第1の有機半導体材料のHOMO準位(最高被占軌道準位)は、第2の有機半導体材料のHOMO準位より低く、
第2の有機半導体材料は、三重項−三重項消滅を生じる材料であり、第2の有機半導体材料の励起三重項準位Tは、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位(最低空軌道準位)のエネルギー差より小さい、光変換素子。
[2] 第2の有機半導体材料の励起三重項準位Tと、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位のエネルギー差との差が、0.5eV未満である、[1]に記載の光変換素子。
[3] 第2の有機半導体材料におけるHOMO準位及びLUMO準位のエネルギー差が、2eV以上である、[1]又は[2]に記載の光変換素子。
【0008】
これらの光変換素子により、アップコンバージョンが生じる機構は必ずしも明らかではないが、発明者等による考察を図1〜3に基づいて説明する。
【0009】
図1は、本発明の光変換素子によりアップコンバージョンが生じる機構を示す概念図である。図1において、光変換素子10は、第1の有機半導体層1と、第1の有機半導体層1と界面(接合面)を形成する第2の有機半導体層2とを有する。
【0010】
光変換素子10に、長波長の励起光(例えば近赤外光)を照射すると、第1の有機半導体層1中の第1の有機半導体材料(アクセプター)により励起光が吸収され、励起状態(S)が生成する。第1の有機半導体層1と第2の有機半導体層2との接合面で電荷分離が起き、電子(−)・ホール(+)対が生成する。生成した電子(−)・ホール(+)対が、チャージトランスファー(CT)状態を経て、電荷再結合することによって、第2の有機半導体層2中で第2の有機半導体材料(ドナー)の三重項状態(T)が生成する。第2の有機半導体層2中でTTAを起こすことで、高エネルギーの励起状態(S)が生成し、第2の有機半導体材料に由来する短波長の発光(アップコンバージョン発光)が生じる。
【0011】
図2は、実施例で用いたルブレン、Y6及びITIC−Clのエネルギー準位を示す図である。Y6及びITIC−Clは第1の有機半導体材料に、ルブレンは第2の有機半導体材料、それぞれ相当する。第1の有機半導体材料のHOMO準位は、第2の有機半導体材料のHOMO準位より低いため、第1の有機半導体層1中で光吸収により生成した励起状態を、第1の有機半導体層1と第2の有機半導体層2との接合面で電荷分離し、電子・ホール対を生成することができると考えられる。
【0012】
図3は、実施例で作製した光変換素子によるアップコンバージョンエネルギーダイアグラムを示す模式図である。図3において、第1の有機半導体材料(Y6)の励起エネルギー(S−S=1.55eV)は、第1の有機半導体材料におけるHOMO準位及びLUMO準位のエネルギー差に相当し、チャージトランスファー状態のエネルギー準位(CT又はCT=1.26eV)は、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位のエネルギー差に相当し、第2の有機半導体材料の励起三重項準位TはT(1.14eV)に相当する。第2の有機半導体材料の励起三重項準位Tが、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位のエネルギー差より小さいため、電子(−)・ホール(+)対が、CT状態を経て、第2の有機半導体層2中で第2の有機半導体材料の三重項状態を生成させることができると考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、太陽光等の比較的低強度の光でもアップコンバージョンが可能であり、且つエネルギー効率に優れる光変換素子を提供することができる。また、本発明の光変換素子は、全固体(薄膜)であるため、溶液によるアップコンバージョンと比べて広範な応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の光変換素子によりアップコンバージョンが生じる機構を示す概念図である。
図2】実施例で用いたルブレン、Y6及びITIC−Clのエネルギー準位を示す図である。
図3】実施例で作製した光変換素子によるアップコンバージョンエネルギーダイアグラムを示す模式図である。
図4】実施例で用いた化合物の吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図である。
図5】850nmの単色LEDによって、異なる光強度で照射されたルブレン/Y6二層薄膜からのUC発光の発光スペクトルである。
図6】750nmの単色LEDによって、4種の光変換素子からのUC発光の発光スペクトルである。
図7】ルブレン/Y6及びルブレン/ITIC−Clの二層薄膜における入射光パワー密度の関数としてのUC発光のQEを示す。
図8】Y6又はITIC−Clを用いたOPVデバイスについて、それぞれ擬似太陽光照射下又は非照射下で、J−V特性を測定して得られたJ−V曲線を示す図である。
図9】Y6又はITIC−Clを用いたOPVデバイスについて、EQEを測定して得られたEQEスペクトルを示す図である。
図10図10(a)は、Y6を用いたOLEDデバイスについて、1.5V又は1VのDC電圧を印加して測定したEL発光スペクトルを示す図であり、図10(b)は、ITIC−Clを用いたOLEDデバイスについて、1.5V、1.2V又は1VのDC電圧を印加して測定したEL発光スペクトルを示す図である。
図11図11は、ドーパントを用いた光変換素子を用いて観測されたUC発光の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の光変換素子は、第1の有機半導体材料を含む第1の有機半導体層と、第2の有機半導体材料を含む第2の有機半導体層とを備える。第1の有機半導体層と第2の有機半導体層とは接合面を形成する。
【0017】
第1の有機半導体層は、第1の有機半導体材料のみから形成されていてもよく、アップコンバージョンを著しく阻害しない範囲で、第1の有機半導体材料以外の材料を含んでいてもよい。第2の有機半導体層は、第2の有機半導体材料のみから形成されていてもよく、アップコンバージョンを著しく阻害しない範囲で、第2の有機半導体材料以外の材料を含んでいてもよい。
【0018】
第2の有機半導体材料の発光スペクトルの最大波長は、第1の有機半導体材料の吸収スペクトルの最大波長よりも短波長側にある。有機半導体材料の発光スペクトル及び吸収スペクトルは、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。第1の有機半導体材料の吸収スペクトルの最大波長と第2の有機半導体材料の発光スペクトルの最大波長との差は、100nm以上であると好ましく、200nm以上であるとより好ましく、300nm以上であると更に好ましい。当該最大波長の差が大きいと、光変換素子によるアップコンバージョンのエネルギー利得が大きくなる。当該最大波長の差の上限は、特に限定されないが、例えば600nm以下とすることができる。
【0019】
第1の有機半導体材料のHOMO準位は、第2の有機半導体材料のHOMO準位より低い。第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のHOMO準位のエネルギー差は、0.5eV以下であると好ましく、0.4eV以下であるとより好ましく、0.3eV以下であると更に好ましい。これらの差が小さいと、アップコンバージョンの際のトータルのエネルギー損失が減少する。
【0020】
第2の有機半導体材料は、三重項−三重項消滅を生じる材料であり、第2の有機半導体材料の励起三重項準位Tは、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位のエネルギー差より小さい。第2の有機半導体材料の励起三重項準位Tと、第2の有機半導体材料のHOMO準位及び第1の有機半導体材料のLUMO準位のエネルギー差との差は、0.5eV未満であると好ましく、0.35eV未満であるとより好ましく、0.2eV未満であると更に好ましい。これらの差が小さいと、アップコンバージョンの際のトータルのエネルギー損失が減少する。
【0021】
第1の有機半導体材料におけるHOMO準位及びLUMO準位のエネルギー差は、2.5eV未満であると好ましく、2eV未満であるとより好ましく、1.7eV未満であると更に好ましい。なお、当該エネルギー差の下限は特に限定されないが、例えば1eV以上とすることができる。これらの差が小さいと、より長波長(低エネルギー)の光を変換できる。
【0022】
第1の有機半導体材料の吸収スペクトルの最大波長は、例えば、400nm〜1200nmとすることができる。
【0023】
第1の有機半導体材料としては、例えば、有機太陽電池においてアクセプターとして用いられる化合物を採用することができる。その具体例としては、以下に示す化合物が挙げられる。
【化1】
【0024】
これらの化合物のエネルギー準位は、置換基の有無や置換基の種類によって調製することができる。また、これらの化合物のHOMO準位、LUMO準位等のエネルギー準位は材料に固有なものであり、文献値等を参照することができる。
【0025】
第2の有機半導体材料におけるHOMO準位及びLUMO準位のエネルギー差は、1.5eV以上であると好ましく、1.75eV以上であるとより好ましく、2eV以上であると更に好ましく、2.1eV以上であると特に好ましい。なお、当該エネルギー差の上限は特に限定されないが、例えば4.5eV以下である。これらの差が大きいと、より短波長(高エネルギー)の光に変換できる。
【0026】
第2の有機半導体材料の発光スペクトルの最大波長は、例えば300nm〜900nmとすることができる。
【0027】
第2の有機半導体材料としては、例えば、TTAを生じることが報告されている以下に示す化合物を採用することができる。
【0028】
【化2】

(Chem. Rev. 2015, 115, 395-465参考)
【0029】
これらの化合物のHOMO準位、LUMO準位、励起三重項準位T等のエネルギー準位は材料に固有なものであり、文献値等を参照することができる。
【0030】
第2の有機半導体層は、第2の有機半導体材料に加えてドーパントを含んでいてもよい。ドーパントとしては、従来公知の発光材料を用いることができる。第2の有機半導体材料におけるHOMO準位及びLUMO準位のエネルギー差よりも、ドーパントのHOMO準位及びLUMO準位のエネルギー差が小さいことが好ましい。ドーパントの具体例としては、テトラフェニルジベンゾペリフランテン(DBP)等が挙げられる。ドーパントを用いると、第2の有機半導体材料からドーパントへのエネルギー移動が生じ、ドーパント由来の発光を実現することができる。さらに、ドーパントを用いることにより、逆エネルギー移動が抑制され、アップコンバージョン発光の発光強度を向上させることができる。
【0031】
第2の有機半導体層におけるドーパントの含有量は、例えば、第2の有機半導体材料100体積部に対して、0.1〜10体積部とすることができる。
【0032】
本実施形態の光変換素子によれば、有害元素や希少なレアメタルを用いなくとも、アップコンバージョンのエネルギー効率に優れる。
【0033】
本実施形態の光変換素子は、従来公知の方法、例えば蒸着、スピンコーティング等の方法で、第1及び第2の有機半導体層を形成することにより製造することができる。具体的には、例えば、基板上に、第1の有機半導体層及び第2の有機半導体層を、この順で積層することにより、本実施形態の光変換素子を製造することができる。それぞれの有機半導体層の形成方法は、化合物に合わせて適宜選択することができる。基板としては、例えば、石英基板や、PETフィルム等を用いたフレキシブル基板等を採用することができる。
【0034】
本実施形態の光変換素子における第1及び第2の有機半導体層の厚さは、特に限定されないが、例えば2nm〜200nmとすることができる。
【0035】
本実施形態の光変換素子は、単体で用いてもよく、従来公知の装置、例えば太陽電池(特に有機薄膜太陽電池:OPV)に組み込んで用いてもよい。特に、太陽光は、長波長の低エネルギー近赤外光を多く含むため、光変換素子を組み込み短波長の高エネルギー光に変換することにより、太陽電池等の太陽光を用いる装置の高効率化が期待される。
【0036】
また、本実施形態の光変換素子によれば、近赤外線光を可視光に変換できるため、近赤外光を利用したバイオイメージング等への応用が期待される。
【0037】
その他、本実施形態の光変換素子は、光触媒、生体内光治療、有機EL素子(OLED)、アップコンバージョンの特長を活かした工芸的なディスプレイ等への応用が期待される。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例で用いた化合物の構造をそれぞれ以下に示す。
【化3】
【0039】
<吸収(ABS)スペクトル及び発光(PL)スペクトルの測定>
ルブレン、Y6又はITIC−Clを2.5g/L含むクロロホルム溶液を、グローブボックス(UNICO社製)内で30秒間、1000rpmの回転速度で石英基板にスピンコーティングし、単層の薄膜を形成した。層の厚さは約23nmであった。各薄膜についてABSスペクトル及びPLスペクトルを以下の方法で測定した。その結果を図4に示す。なお、図4中、実線は吸収スペクトルを、破線は発光スペクトルを示す。
吸収スペクトルは、分光計(V−570、Jasco社製)で測定した。
発光スペクトルは、分光蛍光光度計(Fluorolog, HORIBA社製)で測定した。
【0040】
図4から明らかであるように、ルブレン(第2の有機半導体材料)の発光スペクトルの最大波長(約565nm)は、Y6及びITIC−Cl(第1の有機半導体材料)の吸収スペクトルの最大波長(それぞれ約840nm及び約770nm)よりも短波長側にある。
【0041】
<光変換素子の作製>
Y6、ITIC−Cl、ITIC−F又はITICを2.5g/L含むクロロホルム溶液を、グローブボックス(UNICO社製)内で30秒間、1000rpmの回転速度で石英基板にスピンコーティングした。層の厚さは約23nmであった。ルブレン層(100nm、0.1nm/s)は、グローブボックス(DSO−1.5S MS3−P、美和製作所製)に収納された真空蒸着システム(VTS−350M、ULVAC社製)を用いて、高真空(〜10−5Pa)下で熱蒸着により堆積した。薄膜表面を、グローブボックス内で、ガラス基板及びエポキシ樹脂によって封入し、光変換素子を得た。
【0042】
<UC発光スペクトルの測定(1)>
上記で得られた光変換素子(ルブレン/Y6二層薄膜)のルブレン側表面に、ソースメーター(2450、ケースレインスツルメンツ社製)によって制御される定電流フローを備えた単色NIR LED(LED850LN、ソーラボ社製)を用いて、波長850nmの光を照射した。LEDライトは非球面レンズによって薄膜に焦点を合わせた。光が当たる部分の直径は5.5mmとした。なお、LEDの発光強度は、パワーメーター(3A−P、Ophir Photonics社製)で測定し、観測されるUC発光の発光スペクトルは、分光蛍光光度計(Fluorolog, HORIBA社製)で測定した。その結果を図5に示す。
【0043】
図5は、850nmの単色LEDによって、異なる光強度で照射されたルブレン/Y6二層薄膜からのUC発光の発光スペクトルである。なお、図5中で示した光強度の単位はmW/cmである。
【0044】
図5から、UC発光のピークトップ(約565nm)は、照射光の波長(850nm)よりも短波長側にあり、発光がUC発光であることは明らかである。また、UC発光のスペクトルは、図4に示したルブレンの発光スペクトルと同様の形状を有する。
【0045】
なお、上述の二層薄膜に代えて、ルブレンの単層薄膜を用いて同様の試験を行ったところ、波長850nmの光を照射しても、発光ピークは観測されなかった。
【0046】
また、ルブレン及びY6を混合した単層の薄膜を作製し、同様の試験を行った。具体的には、ルブレン及びY6をそれぞれ5g/L含むクロロホルム溶液を、グローブボックス(UNICO社製)内で30秒間、1000rpmの回転速度で石英基板にスピンコーティングすることにより得られた単層の薄膜について、波長850nm、光強度87.3mW/cmの光を照射した。その結果、得られたUC発光の強度は、二層薄膜を用いた場合の1000分の1未満であった。
【0047】
<UC発光スペクトルの測定(2)>
光強度を37.8mW/cmとし、単色NIR LEDとしてLED750L(ソーラボ社製)を用い波長を750nmとした他は、上記UC発光スペクトルの測定(1)と同様の条件で、上記で得られた4種の光変換素子について同様の試験を行った。その結果を図6に示す。
【0048】
図6は、4種の光変換素子から観測されたUC発光の発光スペクトルである。図6から明らかであるように、いずれの場合にもUC発光が観察された。
【0049】
<量子効率(QE)の測定>
対照としてルブレンのPLを使用して、波長750nmのLED照射によるルブレン/ITIC−ClからのUC発光、及び波長850nmのLED照射によるルブレン/Y6二層薄膜からのUC発光のQEを計算した。積分球を備えた分光計システムで測定された、465nmの励起波長を持つルブレン薄膜の絶対PL QEは61.6%であった。465nmの単色LEDで励起されたルブレン単層のPL発光を、上記分光計システムで測定した。UC発光のQEは、分光蛍光光度計のルブレン薄膜とルブレン/ITIC−Cl及びルブレン/Y6二層薄膜との間のPL発光ピーク強度を比較し、465と750/850nmの間の入射LED光の光子数、および吸収された光子比(吸収された光子束/入射光子束)は、それぞれルブレン、Y6及びITIC−Clの単層薄膜の465nm及び750/850nmでの吸光度によって計算される。
【数1】
【0050】
図7は、ルブレン/Y6及びルブレン/ITIC−Clの二層薄膜における入射光パワー密度の関数としてのUC発光のQEを示す。図7から明らかであるように、QEは照射光のパワー密度とともに増加し、その後飽和した。飽和領域で1.7%と0.3%の高〜中程度のQEが、ルブレン/ITIC−Cl及びルブレン/Y6二層薄膜でそれぞれ観察された。ルブレン/ITIC−Cl及びルブレン/Y6二層薄膜の飽和光パワー密度は、それぞれ約30mW/cmと50mW/cmと非常に小さく、以前に報告された一般的な固体UCシステムの値(一般にW/cmオーダーの光パワー密度が必要)よりも10〜1000倍小さい。
【0051】
<OPV及びOLEDデバイスの作製>
OPVおよびOLEDデバイスを、インジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされたガラス基板(ITOの厚さ:150nm、シート抵抗:10.3Ω−1、テクノプリント社製)上に製造した。ITO基板をUV−O処理で20分間洗浄しました。ポリエチレンイミン(PEIE)80%エトキシ化溶液(Aldrich社製)を2−メトキシエタノール(Wako)で希釈し、その溶液をITO基板に5000rpmの回転速度で50秒間スピンコートし、100℃で10分間乾燥させた。5g/LのY6又はITIC−Clを含むクロロホルム溶液を、グローブボックス内で30秒間、1000rpmの回転速度でITO/PEIE基板にスピンコートした。層の厚さは約40nmであった。ルブレン層(50nm、0.1nm/s)、MoO正孔輸送層(10nm、0.01nm/s)、Ag電極(100nm、0.03nm/s)を、グローブボックスに収納された真空蒸着システム内で、高真空下(〜10−5Pa)で熱蒸着した。デバイスを、グローブボックス内で、ガラス基板及びエポキシ樹脂によって封入した。
【0052】
<OPVデバイスのJ−V特性の評価>
OPVデバイスのJ−V特性は、ソースメーター(R6243、アドバンテスト社製)を用いて、300Wキセノンランプ(HAL−320、朝日分光社製)によるソーラーシミュレーターからの擬似太陽光照射(AM1.5G,100mW/cm)下で測定した。その結果を図8に示す。
【0053】
図8は、Y6又はITIC−Clを用いたOPVデバイスについて、それぞれ擬似太陽光照射下(実線)又は非照射下(破線)で、J−V特性を測定して得られたJ−V曲線を示す図である。
【0054】
得られたJ−V曲線から、太陽電池の短絡電流密度、開放端電圧、曲線因子、光電変換効率を算出した。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
<OPVデバイスのEQEの評価>
光の強度は、標準のシリコン太陽電池(CS−20、朝日分光社製)を使用して補正した。デバイスのアクティブ領域は、0.04cmのフォトマスクを使用して限定した。OPVデバイスのEQEは、SM−250Fハイパーモノライトシステム(分光計器社製)で測定した。その結果を図9に示す。
【0057】
図9は、Y6又はITIC−Clを用いたOPVデバイスについて、EQEを測定して得られたEQEスペクトルを示す図である。
【0058】
<OLEDデバイスの発光スペクトル測定>
OLEDデバイスのエレクトロルミネセンス(EL)発光スペクトルは、InGaAs検出器を備えた分光蛍光光度計で、DC電源(2450、ケースレインスツルメンツ社製)によってデバイスに一定のDC電圧を印加して測定した。その結果を図10(a)及び(b)に示す。
【0059】
図10(a)は、Y6を用いたOLEDデバイスについて、1.5V又は1VのDC電圧を印加して測定したEL発光スペクトルを示す図である。なお、1Vで測定されたEL発光スペクトルに関しては、図の見やすさを考慮して、EL強度を50倍してグラフ化した。
図10(b)は、ITIC−Clを用いたOLEDデバイスについて、1.5V、1.2V又は1VのDC電圧を印加して測定したEL発光スペクトルを示す図である。なお、1Vで測定されたEL発光スペクトルに関しては、図の見やすさを考慮して、EL強度を10倍してグラフ化した。
【0060】
<ドーパントを用いた光変換素子の作製>
ITIC−Clを2.5g/L含むクロロホルム溶液を、グローブボックス(UNICO社製)内で30秒間、1000rpmの回転速度で石英基板にスピンコーティングした。層の厚さは約23nmであった。さらに、ルブレンを1Å/sで真空蒸着するのと同時にDBPを0.01Å/sで共蒸着した。ルブレン、DBP混合層の厚さは101nmであった。得られた光変換素子に、上記UC発光スペクトルの測定(2)と同様の条件で、750nmの波長のLED光を照射し、アップコンバージョン発光を観測した。
【0061】
図11は、観測されたUC発光の発光スペクトルである。図11から明らかであるように、ルブレン、DBP混合層を備える光変換素子では、発光ピークがルブレンを単独で用いた場合の565nmから610nmにシフトするとともに、発光ピーク強度が約10倍に向上した。これは、ルブレンからDBPにエネルギー移動が生じ、アップコンバージョン発光がドーパントであるDBP由来のものとなるとともに、逆エネルギー移動が抑制されることで発光強度が向上したものと考えられる。
【0062】
<フレキシブル基板を用いた光変換素子の作製>
石英基板に代えてITOコーティング付きPETフィルムを用いた他は、上記光変換素子の作製と同様の方法で、ルブレン/ITIC−Clの二層薄膜を形成した。更に封止材として、70nmのAl層を真空蒸着(3Å/s)で製膜し、光変換素子を作製した。
【0063】
得られた光変換素子に、750nmのLED光(不可視の近赤外光)をフォトマスクでパターン化して照射したところ、フォトマスクのパターンに対応したUCの面発光(可視光)が観測された。この結果から、フレキシブル基板を用いても、光変換素子を作製できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0064】
1…第1の有機半導体層、2…第2の有機半導体層、10…光変換素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11