【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例で用いた化合物の構造をそれぞれ以下に示す。
【化3】
【0039】
<吸収(ABS)スペクトル及び発光(PL)スペクトルの測定>
ルブレン、Y6又はITIC−Clを2.5g/L含むクロロホルム溶液を、グローブボックス(UNICO社製)内で30秒間、1000rpmの回転速度で石英基板にスピンコーティングし、単層の薄膜を形成した。層の厚さは約23nmであった。各薄膜についてABSスペクトル及びPLスペクトルを以下の方法で測定した。その結果を
図4に示す。なお、
図4中、実線は吸収スペクトルを、破線は発光スペクトルを示す。
吸収スペクトルは、分光計(V−570、Jasco社製)で測定した。
発光スペクトルは、分光蛍光光度計(Fluorolog, HORIBA社製)で測定した。
【0040】
図4から明らかであるように、ルブレン(第2の有機半導体材料)の発光スペクトルの最大波長(約565nm)は、Y6及びITIC−Cl(第1の有機半導体材料)の吸収スペクトルの最大波長(それぞれ約840nm及び約770nm)よりも短波長側にある。
【0041】
<光変換素子の作製>
Y6、ITIC−Cl、ITIC−F又はITICを2.5g/L含むクロロホルム溶液を、グローブボックス(UNICO社製)内で30秒間、1000rpmの回転速度で石英基板にスピンコーティングした。層の厚さは約23nmであった。ルブレン層(100nm、0.1nm/s)は、グローブボックス(DSO−1.5S MS3−P、美和製作所製)に収納された真空蒸着システム(VTS−350M、ULVAC社製)を用いて、高真空(〜10
−5Pa)下で熱蒸着により堆積した。薄膜表面を、グローブボックス内で、ガラス基板及びエポキシ樹脂によって封入し、光変換素子を得た。
【0042】
<UC発光スペクトルの測定(1)>
上記で得られた光変換素子(ルブレン/Y6二層薄膜)のルブレン側表面に、ソースメーター(2450、ケースレインスツルメンツ社製)によって制御される定電流フローを備えた単色NIR LED(LED850LN、ソーラボ社製)を用いて、波長850nmの光を照射した。LEDライトは非球面レンズによって薄膜に焦点を合わせた。光が当たる部分の直径は5.5mmとした。なお、LEDの発光強度は、パワーメーター(3A−P、Ophir Photonics社製)で測定し、観測されるUC発光の発光スペクトルは、分光蛍光光度計(Fluorolog, HORIBA社製)で測定した。その結果を
図5に示す。
【0043】
図5は、850nmの単色LEDによって、異なる光強度で照射されたルブレン/Y6二層薄膜からのUC発光の発光スペクトルである。なお、
図5中で示した光強度の単位はmW/cm
2である。
【0044】
図5から、UC発光のピークトップ(約565nm)は、照射光の波長(850nm)よりも短波長側にあり、発光がUC発光であることは明らかである。また、UC発光のスペクトルは、
図4に示したルブレンの発光スペクトルと同様の形状を有する。
【0045】
なお、上述の二層薄膜に代えて、ルブレンの単層薄膜を用いて同様の試験を行ったところ、波長850nmの光を照射しても、発光ピークは観測されなかった。
【0046】
また、ルブレン及びY6を混合した単層の薄膜を作製し、同様の試験を行った。具体的には、ルブレン及びY6をそれぞれ5g/L含むクロロホルム溶液を、グローブボックス(UNICO社製)内で30秒間、1000rpmの回転速度で石英基板にスピンコーティングすることにより得られた単層の薄膜について、波長850nm、光強度87.3mW/cm
2の光を照射した。その結果、得られたUC発光の強度は、二層薄膜を用いた場合の1000分の1未満であった。
【0047】
<UC発光スペクトルの測定(2)>
光強度を37.8mW/cm
2とし、単色NIR LEDとしてLED750L(ソーラボ社製)を用い波長を750nmとした他は、上記UC発光スペクトルの測定(1)と同様の条件で、上記で得られた4種の光変換素子について同様の試験を行った。その結果を
図6に示す。
【0048】
図6は、4種の光変換素子から観測されたUC発光の発光スペクトルである。
図6から明らかであるように、いずれの場合にもUC発光が観察された。
【0049】
<量子効率(QE)の測定>
対照としてルブレンのPLを使用して、波長750nmのLED照射によるルブレン/ITIC−ClからのUC発光、及び波長850nmのLED照射によるルブレン/Y6二層薄膜からのUC発光のQEを計算した。積分球を備えた分光計システムで測定された、465nmの励起波長を持つルブレン薄膜の絶対PL QEは61.6%であった。465nmの単色LEDで励起されたルブレン単層のPL発光を、上記分光計システムで測定した。UC発光のQEは、分光蛍光光度計のルブレン薄膜とルブレン/ITIC−Cl及びルブレン/Y6二層薄膜との間のPL発光ピーク強度を比較し、465と750/850nmの間の入射LED光の光子数、および吸収された光子比(吸収された光子束/入射光子束)は、それぞれルブレン、Y6及びITIC−Clの単層薄膜の465nm及び750/850nmでの吸光度によって計算される。
【数1】
【0050】
図7は、ルブレン/Y6及びルブレン/ITIC−Clの二層薄膜における入射光パワー密度の関数としてのUC発光のQEを示す。
図7から明らかであるように、QEは照射光のパワー密度とともに増加し、その後飽和した。飽和領域で1.7%と0.3%の高〜中程度のQEが、ルブレン/ITIC−Cl及びルブレン/Y6二層薄膜でそれぞれ観察された。ルブレン/ITIC−Cl及びルブレン/Y6二層薄膜の飽和光パワー密度は、それぞれ約30mW/cm
2と50mW/cm
2と非常に小さく、以前に報告された一般的な固体UCシステムの値(一般にW/cm
2オーダーの光パワー密度が必要)よりも10〜1000倍小さい。
【0051】
<OPV及びOLEDデバイスの作製>
OPVおよびOLEDデバイスを、インジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされたガラス基板(ITOの厚さ:150nm、シート抵抗:10.3Ω
−1、テクノプリント社製)上に製造した。ITO基板をUV−O
3処理で20分間洗浄しました。ポリエチレンイミン(PEIE)80%エトキシ化溶液(Aldrich社製)を2−メトキシエタノール(Wako)で希釈し、その溶液をITO基板に5000rpmの回転速度で50秒間スピンコートし、100℃で10分間乾燥させた。5g/LのY6又はITIC−Clを含むクロロホルム溶液を、グローブボックス内で30秒間、1000rpmの回転速度でITO/PEIE基板にスピンコートした。層の厚さは約40nmであった。ルブレン層(50nm、0.1nm/s)、MoO
3正孔輸送層(10nm、0.01nm/s)、Ag電極(100nm、0.03nm/s)を、グローブボックスに収納された真空蒸着システム内で、高真空下(〜10
−5Pa)で熱蒸着した。デバイスを、グローブボックス内で、ガラス基板及びエポキシ樹脂によって封入した。
【0052】
<OPVデバイスのJ−V特性の評価>
OPVデバイスのJ−V特性は、ソースメーター(R6243、アドバンテスト社製)を用いて、300Wキセノンランプ(HAL−320、朝日分光社製)によるソーラーシミュレーターからの擬似太陽光照射(AM1.5G,100mW/cm
2)下で測定した。その結果を
図8に示す。
【0053】
図8は、Y6又はITIC−Clを用いたOPVデバイスについて、それぞれ擬似太陽光照射下(実線)又は非照射下(破線)で、J−V特性を測定して得られたJ−V曲線を示す図である。
【0054】
得られたJ−V曲線から、太陽電池の短絡電流密度、開放端電圧、曲線因子、光電変換効率を算出した。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
<OPVデバイスのEQEの評価>
光の強度は、標準のシリコン太陽電池(CS−20、朝日分光社製)を使用して補正した。デバイスのアクティブ領域は、0.04cm
2のフォトマスクを使用して限定した。OPVデバイスのEQEは、SM−250Fハイパーモノライトシステム(分光計器社製)で測定した。その結果を
図9に示す。
【0057】
図9は、Y6又はITIC−Clを用いたOPVデバイスについて、EQEを測定して得られたEQEスペクトルを示す図である。
【0058】
<OLEDデバイスの発光スペクトル測定>
OLEDデバイスのエレクトロルミネセンス(EL)発光スペクトルは、InGaAs検出器を備えた分光蛍光光度計で、DC電源(2450、ケースレインスツルメンツ社製)によってデバイスに一定のDC電圧を印加して測定した。その結果を
図10(a)及び(b)に示す。
【0059】
図10(a)は、Y6を用いたOLEDデバイスについて、1.5V又は1VのDC電圧を印加して測定したEL発光スペクトルを示す図である。なお、1Vで測定されたEL発光スペクトルに関しては、図の見やすさを考慮して、EL強度を50倍してグラフ化した。
図10(b)は、ITIC−Clを用いたOLEDデバイスについて、1.5V、1.2V又は1VのDC電圧を印加して測定したEL発光スペクトルを示す図である。なお、1Vで測定されたEL発光スペクトルに関しては、図の見やすさを考慮して、EL強度を10倍してグラフ化した。
【0060】
<ドーパントを用いた光変換素子の作製>
ITIC−Clを2.5g/L含むクロロホルム溶液を、グローブボックス(UNICO社製)内で30秒間、1000rpmの回転速度で石英基板にスピンコーティングした。層の厚さは約23nmであった。さらに、ルブレンを1Å/sで真空蒸着するのと同時にDBPを0.01Å/sで共蒸着した。ルブレン、DBP混合層の厚さは101nmであった。得られた光変換素子に、上記UC発光スペクトルの測定(2)と同様の条件で、750nmの波長のLED光を照射し、アップコンバージョン発光を観測した。
【0061】
図11は、観測されたUC発光の発光スペクトルである。
図11から明らかであるように、ルブレン、DBP混合層を備える光変換素子では、発光ピークがルブレンを単独で用いた場合の565nmから610nmにシフトするとともに、発光ピーク強度が約10倍に向上した。これは、ルブレンからDBPにエネルギー移動が生じ、アップコンバージョン発光がドーパントであるDBP由来のものとなるとともに、逆エネルギー移動が抑制されることで発光強度が向上したものと考えられる。
【0062】
<フレキシブル基板を用いた光変換素子の作製>
石英基板に代えてITOコーティング付きPETフィルムを用いた他は、上記光変換素子の作製と同様の方法で、ルブレン/ITIC−Clの二層薄膜を形成した。更に封止材として、70nmのAl層を真空蒸着(3Å/s)で製膜し、光変換素子を作製した。
【0063】
得られた光変換素子に、750nmのLED光(不可視の近赤外光)をフォトマスクでパターン化して照射したところ、フォトマスクのパターンに対応したUCの面発光(可視光)が観測された。この結果から、フレキシブル基板を用いても、光変換素子を作製できることが明らかとなった。