【解決手段】被覆層を有するリチウム遷移金属複合酸化物正極活物質であって、物質量比Li:Ni:Co:Mがt:1−x−y:x:y(式中、MはMg等より選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15)で表され、被覆層はリチウムジルコニウム化合物を含み、正極活物質の表面に存在する、Zrの物質量と、Ni、Co、Zrの物質量の和との比が、0.80以上0.97以下である。
前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の炭素含有量が0.05質量%以上0.40質量%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の体積平均粒子径が2μm以上20μm以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
前記リチウム遷移金属複合酸化物合成工程は、酸素雰囲気下、700℃以上800℃以下の温度で焼成する、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
前記被覆工程は、前記リチウム化合物と前記ジルコニウム化合物を前記被覆層の前記リチウムジルコニウム化合物中のLiとZr量の物質量比(Li/Zr)が1.8以上2.2以下となるように添加することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
前記被覆剤は、前記被覆工程に使用する前記リチウム化合物と前記ジルコニウム化合物が溶媒に溶解したもの、並びに常温で液状である、又は前記被覆工程の熱処理で融解する低融点の、前記リチウム化合物および前記ジルコニウム化合物の混合物を含むことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
前記被覆工程に使用する前記ジルコニウム化合物がジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシドなどのアルコキシド類の1種以上であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
前記熱処理は、酸素雰囲気で、300℃以上600℃以下の温度で、1時間以上5時間以下行う、請求項7乃至12のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部をリチウムジルコニウム化合物を含む被覆層で被覆し、遷移金属元素に対するジルコニウムの存在割合および表面積当たりのジルコニウムの存在量を制御することで、電解液を用いたリチウムイオン二次電池が示す充放電容量と同等の充放電容量を有する全固体リチウムイオン二次電池を提供しえるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0039】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。また、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0040】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池について、下記の順に説明する。
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
1−1.リチウム遷移金属複合酸化物の粒子
1−2.被覆層
1−3.正極活物質の特性
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
2−1.前駆体晶析工程
2−2.酸化焙焼工程
2−3.リチウム遷移金属複合酸化物合成工程
2−4.被覆工程
3.リチウムイオン二次電池
3−1.正極
3−2.負極
3−3.固体電解質
3−4.二次電池の形状、構成
3−5.二次電池の特性
【0041】
<1.リチウムイオン二次電池用正極活物質>
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の一構成例について説明する。
【0042】
本実施形態の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子と、該粒子表面の少なくとも一部を被覆した被覆層とを有する。そして、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)と、元素M(M)とを、物質量比が、Li:Ni:Co:M=t:1−x−y:x:yとなるように含むことができる。ただし、0.95≦t≦1.20、0<x≦0.22、0≦y≦0.15を満たすことが好ましい。また、元素Mは、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)から選択される少なくとも1種の元素とすることができる。
【0043】
被覆層はリチウムジルコニウム化合物を含み、被覆前のリチウム遷移金属複合酸化物の表面積1m
2当り、0.13mmol以上0.30mmol以下の割合でジルコニウムを含有できる。また、リチウムジルコニウム化合物としてジルコン酸リチウムを用いてもよい。
【0044】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、表面に存在するZrの物質量とZr、Ni、Coの物質量の和との比(Zrs/(Nis+Cos+Zrs))が、0.80以上0.97以下とすることができる。
【0045】
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)について具体的に説明する。
【0046】
本実施形態の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子と、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の少なくとも一部を被覆した被覆層とを有することができる。以下にリチウム遷移金属複合酸化物の粒子、および被覆層について説明する。
【0047】
<1−1.リチウム遷移金属複合酸化物の粒子>
リチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)とを、物質量比が、Li:Ni:Co:M=t:1−x−y:x:yとなるように含むことができる。
【0048】
上述のリチウム遷移金属複合酸化物中の各元素の物質量比を表す式中、リチウム(Li)の含有量を示すtの値は0.95以上1.20以下とすることができ、0.98以上1.10以下が好ましく、1.00以上1.10以下がより好ましい。
【0049】
tの値を0.95以上とすることで、該リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の内部抵抗を抑制し、出力特性を向上させることができる。また、tの値を1.20以下とすることで、該リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量を高く維持することができる。すなわち、tの値を上述の範囲とすることで、該リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の出力特性、および容量特性を向上させることができる。
【0050】
上述のリチウム遷移金属複合酸化物のニッケル(Ni)は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の高容量化に寄与する元素である。
【0051】
上述のリチウム遷移金属複合酸化物のコバルト(Co)は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池の不可逆容量の低減に寄与する元素である。コバルトの含有量を示すxの値は0を超えて0.22以下とすることができ、0.10以上0.22以下が好ましく、0.10以上0.20以下がより好ましい。
【0052】
上記のxの値を0超とすることで、該リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を用いた二次電池において、充電容量と放電容量の差分である不可逆容量を低減することができる。また、xの値を0.22以下とすることで高い電池容量を得ることができる。
【0053】
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、上記金属元素に加えて、添加元素である元素Mを含有してもよい。上述の元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)から選択される少なくとも1種の元素を用いることができる。元素Mは、正極活物質を用いて構成される二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択されるものである。
【0054】
元素M自身は酸化還元反応に寄与しないものがあるので、元素Mの含有量を示すyの値は0.15以下とすることができ、0.10以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物は、元素Mを含有しなくても良いことから、元素Mの含有量を示すyの下限値は0とすることができる。
【0055】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、X線回折(XRD)測定を行った場合に得られる回折パターンから、「R−3m」構造の層状岩塩型結晶構造に帰属されるピークが検出されることが好ましい。特に、回折パターンから、「R−3m」構造の層状岩塩型結晶構造に帰属されるピークのみが検出されることがより好ましい。これは、「R−3m」構造の層状岩塩型酸化物は、該リチウム遷移金属複合酸化物粒子を含む正極活物質を二次電池とした場合に、特に内部抵抗を抑制することができ好ましいからである。
【0056】
ただし、層状岩塩型の結晶構造を持つリチウム遷移金属複合酸化物を単相では得られず、不純物が混入する場合がある。このように不純物が混入する場合であっても、これらの「R−3m」構造の層状岩塩型構造以外の異相ピークの強度は、「R−3m」構造の層状岩塩型構造に帰属されるピーク強度を上回らないことが好ましい。
【0057】
リチウム遷移金属複合酸化物の粒子はSEMやTEMなどの電子顕微鏡で観察すると、粒径が0.1μm以上2.0μm以下の一次粒子が多数凝集して形成された粒径が3.0μm以上15.0μm以下の二次粒子や、1.0μm以上7.0μm以下の粒径をもつ単独の一次粒子、またはそれらの混合物であることが好ましい。それぞれの粒子の内部には、1以上の一次粒子により囲まれた空間、空隙があってもよい。
【0058】
本実施形態のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折散乱式の粒度分布計で測定した場合、2μm以上20μm以下であることが好ましく、2μm以上15μm以下であることがより好ましく、3μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の体積平均粒子径が2μm以上20μm以下の場合、該リチウム遷移金属複合酸化物の粒子を含む正極活物質を正極に用いた二次電池では体積当たりの電池容量を十分に大きくすることができ、かつ高安全性、高出力等の優れた電池特性が得られるからである。
【0059】
<1−2.被覆層>
被覆層はジルコニウムを含む化合物、すなわちジルコニウム化合物を含み、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の少なくとも一部を被覆している。被覆層は、例えばジルコン酸リチウム等が挙げられる、リチウムジルコニウム化合物から構成することもできる。被覆層を配置することで、本実施形態の正極活物質を含む正極を備えた二次電池において、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗の増加を抑制することができる。
【0060】
被覆層と、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子とは明確な境界線を有している必要はない。このため、被覆層とは、本実施形態の正極活物質の表面側の領域において、被被覆物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子、すなわち中心領域よりも、ジルコニウム濃度が高い部位、領域のことを指す。被覆層は部分的にリチウム遷移金属複合酸化物と固溶していてもよい。
【0061】
被覆層のジルコニウムの含有量は特に限定されないが、被覆されるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の比表面積に応じて、その含有量を調整することが好ましい。具体的には被覆層は例えば、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面積1m
2当り、0.13mmol以上0.30mmol以下の割合でジルコニウムを含有することが好ましく、0.15mmol以上0.25mmol以下の割合でジルコニウムを含有することがより好ましい。
【0062】
これは、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面積(比表面積)1m
2当りのジルコニウム含有量0.13mmol以上とすることで、該被覆層をリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面全体に均一に配置できていることを示すからである。
【0063】
また、被覆層を設けることで正極活物質と固体電解質間の界面抵抗の増加を抑制することができるが、同時に内部抵抗が増加し、また、放電容量が低下する恐れもある。そして、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面積(比表面積)1m
2当りのジルコニウム含有量を0.30mmol以下とすることで、被覆層が、リチウム遷移金属複合酸化物へのリチウムのインターカレーション/デインターカレーションの反応の障害になることを抑制し、内部抵抗を低減でき、また、放電容量の低下を抑制できるため好ましい。
【0064】
被覆層のジルコニウムの含有量の評価、算出方法は特に限定されるものではないが、その方法の一例を以下に示す。まずリチウムジルコニウム化合物による被覆処理を施した後の正極活物質1g中のジルコニウム含有量(mmol/g)を化学分析等の方法で測定する。例えばICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分光分析等により測定を行うことができる。また、リチウムジルコニウム化合物による被覆処理を施す前のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の比表面積(m
2/g)を窒素吸着によるBET法等により測定する。そして、リチウムジルコニウム化合物による被覆処理を施した後の正極活物質1g中のジルコニウム含有量(mmol/g)を、被覆処理前のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の比表面積(m
2/g)で割ることで、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面積1m
2当りのジルコニウム含有量(mmol/m
2)を算出できる。
【0065】
リチウムジルコニウム化合物による被覆処理を施した後の正極活物質1g中のジルコニウム含有量と、被覆層の無い、被覆処理前のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の比表面積とでは分母が異なるので厳密な値ではないが、被覆に用いられたジルコニウム量はわずかなので、近似的にリチウム遷移金属複合酸化物の表面積1m
2当りのジルコニウムの担持量として用いることができる。
【0066】
被覆処理前のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子がジルコニウムを含有する場合、被覆に用いられたジルコニウム量として、被覆処理前後のジルコニウム含有量の差分を用いることが好ましい。
【0067】
被覆層のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子に対する被覆面積の程度はX線光電子分光法(XPS:X―ray Photoelectron Spectroscopy)による半定量分析から知られる表面に存在するZrの物質量とZr、Ni、Coの物質量の和との比(Zrs/(Nis+Cos+Zrs))(以下、「被覆金属表面量の比」とも記載する)から知ることができる。
【0068】
XPSは特性上、測定対象の表面1nm以上5nm以下の情報を選択的に得ることができるため、材料の表層の組成比を知ることができる。被覆金属表面量の比は0.80以上であることが好ましい。被覆金属表面量の比を0.80以上とすることで、被覆層として存在する、すなわちリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の側に拡散せず被覆層として存在するジルコニウムが十分に確保されており、活物質と固体電解質間の界面抵抗の増加を抑制することができるのに十分に均一な被覆層が形成されていることを意味するからである。被覆金属表面量の比が0.85以上の場合、特に活物質と固体電解質間の界面抵抗の増加をより抑制することができるため、より好ましい。
【0069】
被覆層にリチウムを導入し、例えばジルコン酸リチウム等のリチウムジルコニウム化合物とすることによって、ジルコニウム化合物を被覆層とした場合よりもリチウムイオン伝導性が向上し、内部抵抗を低減でき、また、放電容量の低下を抑制することができる。
【0070】
被覆層のリチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比(Li/Zr)は、1.8以上2.2以下となることが好ましい。被覆層のリチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比を1.8以上とすることで、リチウムイオン伝導性の高いリチウムジルコニウム化合物が生成するため好ましい。また、被覆層のリチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比を2.2以下とすることで、未反応のリチウム化合物を少なくでき、初期放電容量の低下や正極抵抗の増加などの電池特性の低下を抑制できる。また、リチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比(Li/Zr)を1.8以上2.2以下とすることで、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗の増加を抑制することができる。
【0071】
<1−3.正極活物質の特性>
ここまで、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子と、被覆層とについて説明したが、本実施形態の正極活物質は以下の特性を有することが好ましい。
【0072】
本実施形態の正極活物質は既述のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子と、被覆層とのみから構成されていることが好ましいが、製造の際に不純物が混入する場合もある。特に水分と炭素は被覆処理によって増大する可能性のある不純物である。水分と炭素とは、初期放電容量に影響を及ぼす恐れがあることから、所定の範囲内に制御されていることが好ましい。
【0073】
本実施形態の正極活物質は、炭素含有量が0.05質量%以上0.40質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.08質量%以下であることがさらに好ましい。炭素含有量を0.40質量%以下とすることで、正極活物質と固体電解質界面のリチウムイオンの伝導が阻害されにくく、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗の増加を抑制することができるからである。ただし、炭素は、空気中の二酸化炭素等に起因して本実施形態の正極活物質に混入するため、炭素含有量を0.01質量未満とすることは困難である。このため、炭素含有量の下限値は0.05質量%とすることが好ましい。ここで、正極活物質の炭素含有量とは、正極活物質全体に対する炭素の含有量を質量%で表したものである。本実施形態の正極活物質の炭素含有量は、例えば赤外線吸収法等により評価することができる。
【0074】
また、本実施形態の正極活物質は、水分量(水分含有量)が、0.08質量%以下であることが好ましい。水分量を0.08質量%以下とすることで、該正極活物質を用いた二次電池において、固体電解質の加水分解反応をより確実に抑制することができる。
【0075】
固体電解質が加水分解すると、硫化水素が生じ、劣化して、リチウムイオン伝導性が低下する。しかしながら、上述の様に本実施形態の正極活物質の水分量を0.08質量%以下とすることで固体電解質の加水分解反応をより確実に抑制し、係る劣化を抑制できるため、好ましい。本実施形態の正極活物質の水分量は、例えば加熱温度を300℃としたカールフィッシャー法により評価することができる。
【0076】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質によれば、電解液を用いたリチウムイオン二次電池が示す充放電容量とほぼ同等の充放電容量を示す全固体電池を提供することができる。
【0077】
<2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法>
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について図面を使用しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法の概略を示す工程図である。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子と、該粒子の表面の少なくとも一部を被覆した被覆層とを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0078】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る正極活物質の製造方法は、以下の4工程を有することができる。
【0079】
第1工程:[前駆体晶析工程S1]
前駆体晶析工程S1は、リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体である遷移金属複合水酸化物を晶析反応により調製する。具体的には例えば、各元素の物質量比が、Ni:Co:M=1−x−y:x:yとなるように、水溶性の原料を用いて混合水溶液を作製し、アルカリ金属水溶液等と共に反応槽で反応させて、遷移金属複合水酸化物を得る。なお、上述の式中のx、yについては、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子において説明したx、yと同様の好適な範囲とすることができる。
【0080】
第2工程:[酸化焙焼工程S2]
酸化焙焼工程S2は、遷移金属複合酸化物を調製する。具体的には例えば、前駆体晶析工程S1で得られた遷移金属複合水酸化物を、酸素雰囲気中、500℃以上700℃以下の温度で焼成することによって、遷移金属複合酸化物を得る。
【0081】
第3工程:[リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3]
リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3では、酸化焙焼工程S2で得た遷移金属複合酸化物を、リチウム化合物と混合し、酸素雰囲気下において、700℃以上800℃以下の温度で焼成することによって、リチウム遷移金属複合酸化物を得る。
【0082】
第4工程:[被覆工程S4]
被覆工程S4は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に被覆層を形成する。具体的には例えば、リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3で得たリチウム遷移金属複合酸化物の粒子と、リチウム化合物とジルコニウム化合物を含む液状の被覆剤を混合し、乾燥後、酸素雰囲気中、300℃以上600℃以下の温度で熱処理を行うことによって、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に被覆層を設ける。
【0083】
以下に、本実施形態の正極活物質の製造方法の一構成例をより具体的に説明する。なお、以下の説明は、製造方法の一例であって、製造方法を限定するものではない。
【0084】
<2−1.前駆体晶析工程S1>
前駆体晶析工程S1でははじめに、ニッケルを含有する金属化合物、コバルトを含有する金属化合物、および場合によってはさらに元素M(Mは、Mg、Al、Ca、Si、Mn、Ti、V、Fe、Cu、Cr、Zn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である)を含有する金属化合物を所定の割合で水に溶解させ、混合水溶液を作製する(混合水溶液調製ステップ)。混合水溶液の各金属の組成比が最終的に得られる遷移金属複合水酸化物の組成比と同様となる。そのため、混合水溶液中における各金属の組成比が、目的とする遷移金属複合水酸化物粒子中における各金属の組成比と同じ組成比となるように、水に溶解させる金属化合物の割合を調節して、混合水溶液を調製することが好ましい。金属化合物は水溶性であればよく硫酸塩、塩化物、硝酸塩などを用いることができるが、コストの観点から硫酸塩が好ましい。なお、元素Mなどで水溶性の好適な原料が見出されない場合は、混合水溶液には加えずに後述する酸化焙焼工程S2や、リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3で添加しても良い。
【0085】
次に、反応槽に水を入れ、アルカリ性物質と、アンモニウムイオン供給体を適量加えて初期水溶液を調製する(初期水溶液調製ステップ)。この際、初期水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.2以上12.2以下、アンモニア濃度が2g/L以上15g/L以下となるように調製することが好ましい。
【0086】
前駆体晶析工程S1を行い、遷移金属複合水酸化物を調製する際、用いた混合水溶液に含まれる金属化合物を構成するアニオンに起因する不純物が遷移金属複合水酸化物に混入することがある。しかしながら、初期水溶液のpH値を11.2以上とすることで、係る原料の金属化合物を構成するアニオンに起因する不純物の混入を抑制することができ好ましい。また、初期水溶液のpH値を12.2以下とすることで、得られる遷移金属複合水酸化物粒子について、微粒子化することを抑制し、最適なサイズとすることができ好ましい。
【0087】
また、初期水溶液のアンモニア濃度を2g/L以上とすることで、得られる遷移金属複合水酸化物の粒子について、特に球状形状となり易くすることができるため好ましい。そして、初期水溶液のアンモニア濃度を15g/L以下とすることで、アンモニア錯体を形成する遷移金属の溶解度が過度に上昇することを防止し、得られる遷移金属複合水酸化物の組成をより確実に目標組成とすることができるため、好ましい。
【0088】
なお、初期水溶液を調製する際に用いるアルカリ性物質としては特に限定されるものではないが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選択された1種類以上であることが好ましい。添加量を容易に調整できることから、水溶液の形態で添加することが好ましい。また、アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されるものではないが、炭酸アンモニウム水溶液、アンモニア水、塩化アンモニウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0089】
前駆体晶析工程S1では、初期水溶液に、既述の混合水溶液を滴下し、反応水溶液とすることができるが、係る反応水溶液についてもpH値、およびアンモニア濃度について、既述の好適な範囲を維持することが好ましい。
【0090】
反応槽内の雰囲気は非酸化性雰囲気、例えば酸素濃度が1容量%以下の雰囲気にすることが好ましい。これは、非酸化性雰囲気、例えば酸素濃度を1容量%以下の雰囲気とすることで、原料等が酸化されることを抑制でき好ましいからである。このため、例えば酸化されたコバルトが微粒子として析出すること等を防止することができる。
【0091】
前駆体晶析工程S1での反応槽の温度は40℃以上60℃以下に維持されていることが好ましく、45℃以上55℃以下に維持されていることがより好ましい。なお、反応槽を係る温度域に維持するため、反応槽内に配置される初期水溶液や反応水溶液についても同様の温度範囲内に維持されていることが好ましい。
【0092】
反応槽は反応熱や撹拌のエネルギーにより、自然に温度が上がるため、40℃以上とすることで、冷却に余分にエネルギーを消費することが無いため好ましい。また、反応槽の温度を60℃以下とすることで、初期水溶液や、反応水溶液からのアンモニアの蒸発量を抑制することができ、目標のアンモニア濃度を容易に維持することができるため好ましい。
【0093】
そして、前駆体晶析工程S1では、反応槽に初期水溶液を入れ、温度等の調整をした後、混合水溶液を反応槽に一定速度で滴下して反応水溶液とすることで、前駆体である遷移金属複合水酸化物粒子の晶析を行うことができる(晶析ステップ)。
【0094】
既述のように、反応水溶液についてもpH値、およびアンモニア濃度が初期水溶液について説明した場合と同様の好適な範囲にあることが好ましい。このため初期水溶液、もしくは反応水溶液に混合水溶液を滴下する際においても、アンモニウムイオン供給体や、アルカリ性物質も初期水溶液、もしくは反応水溶液に一定速度で滴下することが好ましい。そして、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で11.2以上12.2以下に、アンモニア濃度を2g/L以上15g/L以下に維持されるように制御することが好ましい。
【0095】
その後、反応槽に設けられたオーバーフロー口より回収されたこの遷移金属複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過し、乾燥することで、前駆体である粉末状の遷移金属複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0096】
<2−2.酸化焙焼工程S2>
次に、酸化焙焼工程S2について説明する。酸化焙焼工程S2では、上記前駆体晶析工程S1で得られた遷移金属複合水酸化物を酸化焙焼して遷移金属複合酸化物を得る。酸化焙焼工程S2では、前駆体晶析工程S1で作製した遷移金属複合水酸化物を、酸素雰囲気中で焼成し、その後室温まで冷却することで、遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【0097】
酸化焙焼工程S2における焙焼条件は特に限定されないが、酸素雰囲気中、例えば空気雰囲気中、500℃以上700℃以下の温度で、1時間以上12時間以下焼成することが好ましい。これは、焼成温度を500℃以上とすることで、遷移金属複合水酸化物粒子を完全に遷移金属複合酸化物へ転化でき好ましいからである。また、焼成温度を700℃以下とすることで、遷移金属複合酸化物の比表面積が過度に小さくなることを抑制でき好ましいからである。
【0098】
焼成時間を1時間以上とすることで、焼成容器内の温度を特に均一にすることができ、反応を均一に進行させることができ、好ましい。また、12時間よりも長い時間焼成を行っても、得られる遷移金属複合酸化物の物性に大きな変化は見られないため、エネルギー効率の観点から、焼成時間は12時間以下とすることが好ましい。
【0099】
焼成の際の酸素雰囲気中の酸素濃度は、空気雰囲気の酸素濃度以上、すなわち酸素濃度が20体積%以上であることが好ましい。酸素雰囲気とすることもできるため、酸素雰囲気の酸素濃度の上限値は100体積%とすることができる。
【0100】
なお、例えば前駆体晶析工程S1で元素Mを含む化合物を共沈できなかった場合、例えば酸化焙焼工程S2に供する遷移金属複合水酸化物に対して、元素Mを含む化合物を目的とした組成比と同じになるように加えて焼成してもよい。加える元素Mを含む化合物としては特に限定されず、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、もしくはその混合物等を用いることができる。
【0101】
酸化焙焼工程S2の終了後、遷移金属複合酸化物粒子に軽度の焼結が見られる場合には、解砕処理を加えてもよい。
【0102】
<2−3.リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3>
リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3は、上記酸化焙焼工程S2で得られた上記遷移金属複合酸化物と、リチウム化合物とを混合し、焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得る。
【0103】
リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3ではまず、酸化焙焼工程S2で得られた遷移金属複合酸化物粒子に、この粒子に含まれる成分金属元素の物質量の総和に対して、リチウムの物質量が95%以上120%以下となるようにリチウム化合物を加えて混合することにより、リチウム混合物を得ることができる(リチウム混合物調製ステップ)。
【0104】
加えるリチウム化合物としては、特に限定されず、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、または炭酸リチウム、もしくはその混合物等を用いることができる。リチウム化合物としては、特に融点が低く反応性が高い水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0105】
次に、得られたリチウム混合物を酸素雰囲気中で焼成した後、室温まで冷却し、リチウムを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる(焼成ステップ)。焼成条件は特に限定されないが、例えば700℃以上800℃以下の温度で、1時間以上24時間以下焼成することが好ましい。
【0106】
なお、酸素雰囲気としては、酸素を80体積%以上含む雰囲気であることが好ましい。これは、雰囲気中の酸素濃度を80体積%以上とすることで、得られるリチウム遷移金属複合酸化物中のLiサイトへNi原子が混合するカチオンミキシングを特に抑制し、二次電池の電池特性の悪化を防ぐことができ好ましいからである。酸素雰囲気とすることもできるため、酸素雰囲気の酸素濃度の上限値は100体積%とすることができる。
【0107】
そして、焼成温度を700℃以上とすることで、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造を安定なものとし、また、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子を十分に成長させることができ好ましい。また、焼成温度を800℃以下とすることで、得られるリチウム遷移金属複合酸化物中のLiサイトへNi原子が混合するカチオンミキシングを抑制し、二次電池の電池特性の悪化を防ぐことができるため、好ましい。
【0108】
焼成時間は、1時間以上とすることで焼成容器内の温度を均一にすることができ、反応を均一に進行させることができるため好ましい。また、24時間よりも長い時間焼成を行っても、得られるリチウム遷移金属複合酸化物に大きな変化は見られないため、エネルギー効率の観点から、焼成時間は24時間以下とすることが好ましい。
【0109】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3の後、得られるリチウム遷移金属複合酸化物に軽度の焼結が見られる場合には、解砕処理を加えてもよい。解砕により、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作をいう。
【0110】
<2−4.被覆工程S4>
被覆工程S4は、上記リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3で得られた上記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部にリチウムジルコニウム化合物を含む被覆層を形成する。
【0111】
被覆工程S4ではまず、リチウム遷移金属複合酸化物合成工程S3で得られたリチウム遷移金属複合酸化物の比表面積を測定し、目標とする被覆層のジルコニウム担持量に応じて、液状の被覆剤を調製することができる(被覆剤調製ステップ)。
【0112】
被覆剤調製ステップでは、ジルコニウム化合物およびリチウム化合物を含有する被覆剤を調製する。ジルコニウム化合物およびリチウム化合物を含有する被覆剤を用いることで、後述する熱処理ステップにおいてリチウムジルコニウム化合物を含む被覆層を生成することができる。そして、上記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面を当該被覆層で均一に被覆することができる。なおジルコニウム化合物を被覆剤とし、後述する乾燥ステップ後にリチウム化合物を添加し、後述する熱処理ステップを行うことも可能であるが、熱処理ステップ時にリチウム化合物が剥離する可能性がある。
【0113】
被覆剤はジルコニウムや、ジルコニウム化合物およびリチウム化合物を含有すれば特に限定されない。被覆剤は、均一な被覆のために、ジルコニウム化合物およびリチウム化合物が溶媒に溶解したものや、常温で液状であったり、低温の熱処理で融解したりする低融点のジルコニウム化合物およびリチウム化合物等を好ましく用いることができる。
【0114】
ジルコニウム化合物としては例えば、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシドなどのアルコキシド類やジルコニウムテトラアセチルアセトネートなどのキレート類、酸化ジルコニウムの微粒子が水溶液中に均一に分散した酸化ジルコニウムゾル水溶液、炭酸ジルコニウムアンモニウム等から選択される1種類以上が挙げられる。リチウム化合物としては、特に限定されず、例えば、水酸化リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、リチウムエトキシド、酢酸リチウム、ギ酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウムまたは炭酸リチウム、もしくはその混合物等を用いることができる。被覆剤としては特に、容易に調製することができ、不純物の混入を抑制できる、ジルコニウムテトラプロポキシドおよびリチウムエトキシドをエタノールとの混合溶液に溶解したものを好ましく用いることができる。
【0115】
被覆剤調製ステップでは、被覆層のリチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比(Li/Zr)が、1.8以上2.2以下となるように、ジルコニウム化合物およびリチウム化合物の添加量を調節することが好ましい。被覆層のリチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比を1.8以上とすることで、リチウムイオン伝導性の高いリチウムジルコニウム化合物が生成するため好ましい。また、被覆層のリチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比を2.2以下とすることで、未反応のリチウム化合物を少なくでき、初期放電容量の低下や正極抵抗の増加などの電池特性の低下を抑制できる。また、リチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比(Li/Zr)を1.8以上2.2以下とすることで、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗の増加を抑制することができる。
【0116】
被覆工程S4では次に、リチウム遷移金属複合酸化物粒子と、被覆剤とを混合することができる。混合には一般的な混合器を用いることができる(混合物調製ステップ)。そして、混合後に乾燥を行い(乾燥ステップ)、さらに熱処理を行いリチウムジルコニウム化合物を被覆層として固定することができる(熱処理ステップ)。
【0117】
乾燥ステップでは、被覆剤の溶媒等を除去できる程度の温度で乾燥を行うことができる。例えば80℃以上300℃未満で乾燥を行うことができる。
【0118】
熱処理ステップの熱処理条件は特に限定されていないが、酸素雰囲気、例えば空気雰囲気中、300℃以上600℃以下、より好ましくは300℃以上450℃以下の温度で、1時間以上5時間以下熱処理を行うことが好ましい。熱処理後は、室温まで冷却し、最終生成物である被覆層を有するリチウム遷移金属複合酸化物の粒子である正極活物質を得ることができる。
【0119】
熱処理の際の酸素雰囲気中の酸素濃度は、空気雰囲気の酸素濃度以上、すなわち酸素濃度が20体積%以上であることが好ましい。熱処理の際の酸素雰囲気を空気雰囲気の酸素濃度以上とすることで、得られる正極活物質内に酸素欠陥が生じることを特に抑制することができ、好ましいからである。酸素雰囲気とすることもできるため、酸素雰囲気の酸素濃度の上限値は100体積%とすることができる。
【0120】
熱処理の際の焼成温度は、300℃以上とすることで被覆剤に含まれていた不純物が正極活物質内に残留することを特に抑制でき、かつ、被覆層のジルコニウム化合物とリチウム化合物が反応しリチウムジルコニウム化合物として存在できるようになるため好ましい。また、焼成温度を600℃以下とすることで、被覆層の成分が過度に拡散されることを抑制し、被覆層の形態を保つことができるため好ましい。なお、熱処理の際の焼成温度は、目標に設定した被覆層のジルコニウム担持量等に応じて、被覆層が十分にその厚みを維持できるように選択することが好ましい。
【0121】
熱処理の焼成時間を1時間以上とすることで、被覆剤に含まれていた不純物が正極活物質内に残留することを特に抑制できるため好ましい。また、5時間よりも長い時間焼成を行っても、得られる正極活物質に大きな変化は見られないことから、エネルギー効率の観点から、焼成時間は5時間以下とすることが好ましい。
【0122】
被覆工程S4後に得られる正極活物質に軽度の焼結が見られる場合には、解砕処理を加えてもよい。
【0123】
以上のように、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によれば、電解液を用いたリチウムイオン二次電池が示す充放電容量と同等の充放電容量を有する全固体電池を提供することができる。
【0124】
<3.全固体リチウムイオン二次電池>
次に、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池の一構成例について説明する。本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」とも記載する)は、既述の正極活物質を用いた正極と、負極と、固体電解質とを備えた構成を有することができる。以下、本実施形態の二次電池の各部材について説明する。なお、以下に説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、本明細書に記載されている実施形態をもとに、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、その用途を特に限定されない。
【0125】
<3−1.正極>
正極は、正極合剤を成型し、形成することができる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、電極密度を高めるためにプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0126】
上述の正極合剤は、粉末状になっている前述の正極活物質と、固体電解質とを混合して形成できる。
【0127】
固体電解質は、電極に適当なイオン伝導性を与えるために添加されるものである。その固体電解質の材料は特に限定されないが、例えばLi
3PS
4、Li
7P
3S
11、Li
10GeP
2S
12などの硫化物系固体電解質や、Li
7La
3Zr
2O
12、Li
0.34La
0.51TiO
2.94などの酸化物系固体電解質やPEOなどのポリマー系電解質を用いることができる。
【0128】
なお、正極合剤には結着剤や導電助剤を添加することもできる。導電剤は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電剤の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0129】
結着剤は、正極活物質をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合剤に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0130】
また、正極合剤における各物質の混合比は特に限定されるものではない。例えば、正極合剤の正極活物質の含有量を50質量部以上、90質量部以下、固体電解質の含有量を10質量部以上、50質量部以下とすることができる。
【0131】
ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0132】
<3−2.負極>
負極は、負極合剤を成型し、形成することができる。負極は、負極合剤を構成する成分やその配合等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
【0133】
負極合剤は、負極活物質と固体電解質とを混合することで調製できる。負極活物質としては例えば、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0134】
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種類以上を用いることができる。係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、固体電解質として、Li
3PS
4等の硫化物電解質を用いることができる。
【0135】
また負極は、例えば金属リチウムやインジウムなどのリチウムと合金化する金属を含有する物質により構成されたシート状の部材とすることもできる。
【0136】
<3−3.固体電解質>
固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0137】
無機固体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が用いられる。
【0138】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、Li
3PO
4N
X、LiBO
2N
X、LiNbO
3、LiTaO
3、Li
2SiO
3、Li
4SiO
4−Li
3PO
4、Li
4SiO
4−Li
3VO
4、Li
2O−B
2O
3−P
2O
5、Li
2O−SiO
2、Li
2O−B
2O
3−ZnO、Li
1+XAl
XTi
2−X(PO
4)
3(0≦X≦1)、Li
1+XAl
XGe
2−X(PO
4)
3(0≦X≦1)、LiTi
2(PO
4)
3、Li
3XLa
2/3−XTiO
3(0≦X≦2/3)、Li
5La
3Ta
2O
12、Li
7La
3Zr
2O
12、Li
6BaLa
2Ta
2O
12、Li
3.6Si
0.6P
0.4O
4等が挙げられる。
【0139】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−SiS
2、LiI−Li
2S−SiS
2、LiI−Li
2S−P
2S
5、LiI−Li
2S−B
2S
3、Li
3PO
4−Li
2S−Si
2S、Li
3PO
4−Li
2S−SiS
2、LiPO
4−Li
2S−SiS、LiI−Li
2S−P
2O
5、LiI−Li
3PO
4−P
2S
5等が挙げられる。
【0140】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li
3N、LiI、Li
3N−LiI−LiOH等を用いてもよい。
【0141】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
【0142】
<3−4.二次電池の形状、構成>
次に、本実施形態の二次電池の部材の配置、構成の例について説明する。以上のように説明してきた正極、負極、固体電解質で構成される本実施形態の二次電池は、コイン型や積層型など、種々の形状にすることができる。いずれの形状をとる場合であっても、正極および負極を、固体電解質を介して積層させることができる。そして、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して二次電池とすることができる。
【0143】
既述の正極活物質を用いた本実施形態の二次電池は、電解液を用いたリチウムイオン二次電池が示す充放電容量と同等の充放電容量を有する全固体リチウムイオン二次電池とすることができる。
【0144】
<3−5.二次電池の特性>
上述の正極活物質を用いた本発明の一実施形態に係る二次電池は、高容量を発現する。具体的には、本実施形態の正極活物質を正極に用いて、図に示す試験用電池を構成し、電流密度を0.2mA/cm
2として、カットオフ電圧3.7V(vs.Li−In)まで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧1.9V(vs.Li−In)まで放電した場合の放電容量である、初期放電容量が132mAh/g以上であることが好ましく、140mAh/g以上であることがより好ましい
【0145】
本実施形態の二次電池の用途は特に限定されるものではなく、各種電源が要求される用途に好適に用いることができる。また、本実施形態の二次電池は電解液を用いたリチウムイオン二次電池が示す充放電容量と同等の充放電容量を有し、小型化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源としても好適である。
【実施例】
【0146】
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池について、実施例により詳しく説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における正極活物質に含有される金属の分析方法および正極活物質の各種評価方法は、以下の通りである。
【0147】
[実施例1]
1.リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の製造
以下の工程を実施することで、正極活物質の製造を行った。
【0148】
(a)前駆体晶析工程
はじめに、反応槽(5L)内に、純水を2.5L入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は、酸素濃度が1容量%以下である窒素雰囲気とした。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、pH値が液温25℃基準で11.5に、アンモニア濃度が5g/Lとなるように初期水溶液を調製した(初期水溶液調製ステップ)。
【0149】
同時に、硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸アルミニウムを、ニッケルとコバルトとアルミニウムの物質量比が、Ni:Co:Al=0.82:0.15:0.03となるように純水に溶解して、2.0mol/Lの混合水溶液を調製した(混合水溶液調製ステップ)。
【0150】
この混合水溶液を、反応槽の初期水溶液に対して一定速度で滴下し、反応水溶液とした。この際、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も一定速度で初期水溶液に滴下し、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.5に、アンモニア濃度が5g/Lに維持されるように制御した。係る操作により、リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体である遷移金属複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)を晶析させた(晶析ステップ)。
【0151】
その後、反応槽に設けられたオーバーフロー口より回収された複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過し、イオン交換水で水溶性の不純物を洗浄除去したのち、乾燥することで、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。
【0152】
(b)酸化焙焼工程
雰囲気焼成炉(株式会社シリコニット製、BM−50100M)を用いて、作製した複合水酸化物粒子を酸素濃度が20体積%である空気雰囲気下、600℃、2時間焼成した後、室温まで冷却し、遷移金属複合酸化物粒子を得た。
【0153】
(c)リチウム遷移金属複合酸化物合成工程
遷移金属複合酸化物粒子に、この複合酸化物粒子に含まれるニッケル、コバルト、アルミニウムの物質量の総和に対して、リチウムの物質量の比が1.02となるように秤量した水酸化リチウム一水和物を加えて、ターブラーシェーカーミキサ(株式会社ダルトン製、T2F)を用いて混合することにより、リチウム混合物を得た(リチウム混合物調製ステップ)。
【0154】
上記リチウム混合物をアルミナ製匣鉢に装入し、雰囲気焼成炉(株式会社シリコニット製、BM−50100M)を用いて、得られたリチウム混合物を、酸素濃度が90体積%以上の酸素雰囲気中、750℃で、10時間焼成した後、室温まで冷却した(焼成ステップ)。これにより、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。
【0155】
2.リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の評価
得られたリチウム遷移金属複合酸化物の粒子に対して、以下の評価を行った。
【0156】
(a)組成
ICP発光分光分析器(VARIAN社製、725ES)を用いた定量分析により、リチウム遷移金属複合酸化物は、Li、Ni、Co、Alの物質量比が、Li:Ni:Co:Al=1.02:0.82:0.15:0.03で表されるものであることを確認した。
【0157】
(b)結晶構造
このリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の結晶構造を、XRD(PANALYTICAL社製、X‘Pert、PROMRD)を用いて測定したところ、回折パターンにR−3m構造に帰属されるピークが検出される層状岩塩型の結晶構造であることが確認された。
【0158】
(c)比表面積
このリチウム遷移金属複合酸化物の粒子のBET比表面積を、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、マックソーブ)を用いて測定した。その結果から0.67m
2/gであることを確認した。
【0159】
(d)体積平均粒子径
このリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の体積平均粒子径を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した。その結果から7.0μmであることを確認した。
【0160】
3.正極活物質の製造
上記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子に対して、以下の被覆工程を実施することで正極活物質の製造を行った。被覆を施す粒子である、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の総重量がもつ全表面積をリチウム遷移金属複合酸化物粒子の比表面積から算出した。そして、該全表面積に対して、1m
2あたりのジルコニウムの物質量が0.15mmolになるように秤量したジルコニウムテトラプロポキシドを、ジルコニウムテトラプロポキシド1gあたり6.5mLのエタノールに入れ、撹拌して、ジルコニウムテトラプロポキシドを溶解した。次に、被覆層のリチウムジルコニウム化合物のLiとZrの物質量比(Li/Zr)が2となるように秤量したリチウムエトキシドを、リチウムエトキシド1gあたり0.05mLのエタノールに入れ、撹拌して、リチウムエトキシドを溶解し、前記ジルコニウムテトラプロポキシドのエタノール溶液と混合した。さらに、被覆剤中のZrのモル濃度が0.08mol/Lとなるようにエタノールを加えて希釈した(被覆剤調製ステップ)。
【0161】
転動流動コーティング装置(株式会社パウレック製、型式:FP−MP−01D)内にリチウム遷移金属複合酸化物粒子500gを入れ、給気温度を80℃に設定し、リチウム遷移金属複合酸化物粒子1gあたり被覆剤を7μL/minの速度で171分添加し、混合しながら乾燥させた。(混合物調製ステップおよび乾燥ステップ)。
【0162】
雰囲気焼成炉(株式会社シリコニット製、型式:BM−50100M)を用いて、酸素雰囲気下、400℃で、5時間熱処理した(熱処理ステップ)。その後、室温まで冷却し、正極活物質である被覆層を有するリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を得た。
【0163】
4.正極活物質の評価
このようにして得られた正極活物質に対して、以下の評価を行った。
【0164】
(a)組成
ICP発光分光分析器(VARIAN社製、725ES)を用いた分析により、この正極活物質は、Zrを0.90質量%含むものであり、被覆処理前の比表面積との比較により、被覆層のジルコニウム担持量は0.15mmol/m
2であることがわかった。
【0165】
(b)表面分析
得られた正極活物質を、XPS(アルバック・ファイ製、Versa ProbeII)を用いて測定し、得られたNi
2P
3/2スペクトル、Co
2P
3/2スペクトル、Zr3dスペクトルのピーク面積から算出された半定量値から正極活物質表面の物質量を得て、上記の組成分析の結果と共に、表面に存在するZrの物質量とNi、Co、Zrの物質量の和との比(Zrs/Nis+Cos+Zrs)は0.85であることがわかった。
【0166】
(c)炭素含有量
得られた正極活物質の炭素含有量を、炭素分析装置(LECO社製 型式:CS−600)を用いて、高周波燃焼赤外吸収法で測定したところ、0.30質量%であることがわかった。
【0167】
(d)水分量
得られた正極活物質の水分量を、カールフィッシャー水分計(京都電子工業株式会社製 型式:MKC210)を用いて加熱温度が300℃の条件で測定したところ、0.05質量%であることがわかった。
【0168】
5.二次電池の作製
得られた正極活物質の容量の評価には、
図2に示す構造の電池(以下、「試験用電池」という)を使用した。試験用電池1は、ケースと、ケース内に収容された圧粉体セル2から構成されている。
【0169】
ケースは、中空かつ一端が開口された負極缶3と、この負極缶3の開口部に配置される正極缶4とを有しており、正極缶4を負極缶3の開口部に配置すると、正極缶4と負極缶3との間に圧粉体セル2を収容する空間が形成されるように構成されている。正極缶4は負極缶3に対して蝶ネジ5とナット6で固定される。
【0170】
負極缶3は負極、正極缶4は正極のそれぞれの不図示の端子を備えている。ケースは絶縁スリーブ7を備えており、この絶縁スリーブ7によって、負極缶3と正極缶4との間が非接触の状態を維持するように固定されている。
【0171】
負極缶3の閉止された一端には、加圧ネジ8が備えられており、正極缶4を負極缶3に固定した後、加圧ネジ8を圧粉体セル収容空間に向けて締めこむことで、半球座金9を通して圧粉体セル2を加圧状態に保持する。負極缶3の加圧ネジ8が存在する一端には、ねじ込み式のプラグ10が備えられている。負極缶3と正極缶4の間および負極缶3とプラグ10の間には、オーリング11が備えられており、負極缶3と正極缶4の間の隙間が密封し、ケース内の気密が維持される。
【0172】
また、圧粉体セル2は、正極層、固体電解質層および負極層とからなり、この順で並ぶように積層されたペレットである。正極層が下部集電体12を通して正極缶4の内面に接触し、負極層が上部集電体13、半球座金9および加圧ネジ8を通して負極缶3の内面に接触するようにケースに収容されている。下部集電体12、圧粉体セル2および上部集電体13はスリーブ14によって正極層、負極層が電気的に接触しないように保護されている。
【0173】
このような試験用電池1を、以下のようにして作製した。
【0174】
初めに、合成した固体電解質80mgをペレット形成器で25MPaで加圧し、固体電解質ペレットを得た。つぎに正極活物質70mgと、固体電解質30mgを乳鉢で混合した。固体電解質ペレットと、正極活物質+固体電解質の混合物15mgをペレット形成器にセットし、360MPaで加圧し、固体電解質ペレット上に正極層を形成した。下から順に、下部電極、正極層を下向きにしたペレット、インジウム箔、上部電極の順に積層し、9kNで加圧し、電極を構成した。電極をケース内に封入し、加圧ネジを6〜7N・mのトルクで締め付けた。試験用電池は、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0175】
6.二次電池の評価
作製した試験用電池の性能を示す充放電容量を以下のように評価した。
【0176】
(a)初期放電容量
初期放電容量は、負極にインジウム箔を用いた試験用電池を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.2mA/cm
2としてカットオフ電圧3.7V(vs.Li−In)まで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧1.9V(vs.Li−In)まで放電したときの放電容量(初期放電容量)を測定することにより評価した。測定結果は140mAh/gであった。
【0177】
[比較例1]
実施例1における被覆工程を実施しなかった点以外には実施例1と同様の条件でリチウム遷移金属複合酸化物の粒子、正極活物質、および該正極活物質を用いた二次電池を得た。なお、被覆工程を実施しなかったため、「1.リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の製造」で得られたリチウム遷移金属複合酸化物の粒子が、正極活物質となる。
【0178】
[比較例2]
「2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法」の被覆工程を実施する際に、被覆剤調製ステップで、目標とする被覆層のジルコニウム担持量を0.15mmol/m
2とし、リチウムエトキシドを溶解させずに被覆剤を調製した点以外は実施例1と同様の条件でリチウム遷移金属複合酸化物の粒子、正極活物質、および該正極活物質を用いた二次電池を得た。
【0179】
実施例、比較例における、被覆工程前のリチウム遷移金属複合酸化物粒子のBET比表面積および体積平均粒子径、被覆層のジルコニウム担持量、正極活物質の表面に存在するZrの物質量とNi、Co、Zrの物質量の和との比(Zrs/Nis+Cos+Zrs)、正極活物質の炭素含有量、正極活物質の水分量および熱処理ステップにおける熱処理温度の条件を表1に示す。
【0180】
【表1】
【0181】
ここで、被覆層のジルコニウム担持量は、正極活物質におけるジルコニウムの含有量(質量%)、ジルコニウムの原子量および、上述したリチウム遷移金属複合酸化物の粒子のBET比表面積(0.67m
2/g)より算出した。
【0182】
実施例および比較例における、被覆層中のリチウムとジルコニウムの物質量比(Li/Zr)、二次電池の初期放電容量の測定結果を表2に示す。
【0183】
【表2】
【0184】
ここで、被覆層中のリチウムとジルコニウムの物質量比(Li/Zr)は、被覆工程の被覆剤調製ステップで添加したジルコニウムの量とリチウムの量から算出した。
【0185】
表1のジルコニウム担持量および表2のLi/Zrの値から、実施例1ではリチウムジルコニウム化合物の被覆層が形成されていることが分かる。また、Li/Zrの値から、リチウムジルコニウム化合物はジルコン酸リチウムと考えられる。
【0186】
そして、比較例1ではリチウム遷移金属複合酸化物の粒子に被覆層が存在しないことが分かる。また、比較例2では被覆層はジルコニウム化合物であり、リチウムジルコニウム化合物でないことが分かる。
【0187】
実施例1の二次電池の初期放電容量は、比較例1よりも高い値となった。これは、正極活物質表面をジルコン酸リチウムで被覆することによって、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗の増加を抑制したためと考えられる。また、実施例1の二次電池の初期放電容量は、比較例2よりも高い値となった。これは、被覆層にリチウムを導入しジルコン酸リチウムとすることによって、ジルコニウム化合物を被覆層とした場合よりもリチウムイオン伝導性が向上したためと考えられる。
【0188】
なお、上記のように本発明の各実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0189】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。またリチウムイオン二次電池用正極活物質、その製造方法、およびリチウムイオン二次電池の構成、動作も本発明の各実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。