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特開2021-20822SiO2−Auナノ粒子の製造方法およびSiO2−Auナノ粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-20822(P2021-20822A)
(43)【公開日】2021年2月18日
(54)【発明の名称】SiO2−Auナノ粒子の製造方法およびSiO2−Auナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20210122BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20210122BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20210122BHJP
【FI】
   C01B33/18 Z
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-137066(P2019-137066)
(22)【出願日】2019年7月25日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】周 淑君
(72)【発明者】
【氏名】久保 優
(72)【発明者】
【氏名】島田 学
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA28
4G072AA38
4G072BB05
4G072CC13
4G072DD06
4G072EE01
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH30
4G072JJ11
4G072JJ47
4G072KK17
4G072MM01
4G072PP17
4G072QQ09
4G072QQ20
4G072RR05
4G072RR12
4G072TT30
4G072UU15
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】従来よりも工程数の少ないSiO−Auナノ粒子の製造方法を提供する。また、上記の製造方法により得られる、新規なSiO−Auナノ粒子を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るSiO−Auナノ粒子(10)の製造方法は、塩基性アミノ酸と、金(1)前駆体と、二酸化ケイ素(2)前駆体とを水中で混合する混合工程を含む。本発明の他の態様に係るSiO−Auナノ粒子(10)は、複数の二酸化ケイ素ナノ(2)粒子が金(1)に包接されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性アミノ酸と、金前駆体と、二酸化ケイ素前駆体とを溶媒中で混合する混合工程を含む、SiO−Auナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
上記混合工程には、上記金前駆体の濃度が0.07mmol/L以上であり、かつ、上記二酸化ケイ素前駆体の濃度が13.6mmol/L以上である時点が含まれる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
下記(a)〜(c)のうち、1以上の条件を満たす、請求項1または2に記載の製造方法:
(a)上記塩基性アミノ酸が、アルギニンである;
(b)上記金前駆体が、テトラクロロ金(III)酸である;
(c)上記二酸化ケイ素前駆体が、オルトケイ酸テトラエチルおよび/またはオルトケイ酸テトラメチルである。
【請求項4】
複数の二酸化ケイ素ナノ粒子が金に包接されている、SiO−Auナノ粒子。
【請求項5】
上記SiO−Auナノ粒子は、塩基性アミノ酸をさらに含んでいる、請求項4に記載のSiO−Auナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSiO−Auナノ粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金と他の材料とを複合体化させた金複合化ナノ粒子は、優れた特性を示すことから、種々の用途での活用することが期待されている。とりわけ、金と二酸化ケイ素とを複合体化させたナノ粒子(SiO−Auナノ粒子)は、SiOのもたらす好影響(安定性の向上、操作性の向上、表面特性の改善など)を利用できる上に、新規なプラズモン材料としても注目を集めている。
【0003】
例えば、非特許文献1は、様々な形状のSiO−Auナノ粒子について報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Christoph Hanske et al. (2018) "Silica‐Coated Plasmonic Metal Nanoparticles in Action," ADVANCED MATERIALS, Vol.30(Issue 27), 1707003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術に開示されているSiO−Auナノ粒子の製造方法は、金ナノ粒子および/または二酸化ケイ素ナノ粒子を作製する工程、金ナノ粒子および/または二酸化ケイ素ナノ粒子に表面修飾を施す工程、複合体化させたナノ粒子を得る工程など、多数の工程が必要であった。それゆえ、従来の製造方法は、手間やコストを要するものであった。
【0006】
本発明の一態様は、従来よりも工程数の少ないSiO−Auナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。本発明の他の態様は、上記の製造方法により得られる新規なSiO−Auナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明には、以下の構成が包含される。
【0008】
<1>
塩基性アミノ酸と、金前駆体と、二酸化ケイ素前駆体とを溶媒中で混合する混合工程を含む、SiO−Auナノ粒子の製造方法。
【0009】
<2>
上記混合工程には、上記金前駆体の濃度が0.07mmol/L以上であり、かつ、上記二酸化ケイ素前駆体の濃度が13.6mmol/L以上である時点が含まれる、<1>に記載の製造方法。
【0010】
<3>
下記(a)〜(c)のうち、1以上の条件を満たす、<1>または<2>に記載の製造方法:
(a)上記塩基性アミノ酸が、アルギニンである;
(b)上記金前駆体が、テトラクロロ金(III)酸である;
(c)上記二酸化ケイ素前駆体が、オルトケイ酸テトラエチルおよび/またはオルトケイ酸テトラメチルである。
【0011】
<4>
複数の二酸化ケイ素ナノ粒子が金に包接されている、SiO−Auナノ粒子。
【0012】
<5>
上記SiO−Auナノ粒子は、塩基性アミノ酸をさらに含んでいる、<4>に記載のSiO−Auナノ粒子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、従来よりも工程数の少ないSiO−Auナノ粒子の製造方法が提供される。本発明の他の態様によれば、新規なSiO−Auナノ粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の製造方法の、推定メカニズムを説明する模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の電子顕微鏡像である。
図3】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の電子顕微鏡像である。加熱時間を種々に変更してある。
図4】SiO−Auナノ粒子の製造工程における加熱時間と、得られるSiO−Auナノ粒子の吸光スペクトルとの関係を表すグラフである。
図5】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の電子顕微鏡像である。加熱温度を種々に変更してある。
図6】SiO−Auナノ粒子の製造工程における加熱温度と、得られるナノ粒子の吸光スペクトルとの関係を表すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の電子顕微鏡像である。塩基性アミノ酸(アルギニン)の濃度を種々に変更してある。
図8】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の電子顕微鏡像である。原料として加える二酸化ケイ素前駆体(TEOS)の量を種々に変更してある。
図9】SiO−Auナノ粒子の製造工程において、原料として加える二酸化ケイ素前駆体の量と、得られるSiO−Auナノ粒子の吸光スペクトルとの関係を表すグラフである。
図10】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の電子顕微鏡像である。原料として加える金前駆体(HAuCl)の量を種々に変更してある。
図11】SiO−Auナノ粒子の製造工程において、原料として加える金前駆体の量と、得られるSiO−Auナノ粒子の吸光スペクトルとの関係を表すグラフである。金前駆体の量によって、吸光ピークが遷移することがわかる。
図12】SiO−Auナノ粒子の製造工程において、原料として加える金前駆体の量と、得られるSiO−Auナノ粒子の粒度分布との関係を示すグラフである。
図13】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の電子顕微鏡像である。原料として、他の二酸化ケイ素前駆体(TMOS)を使用している。
図14】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子が、二色性を示すことを表す写真である。
図15】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子を濾紙上に担持させたものの顕微鏡像である。
図16】本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子による、表面増強ラマン散乱(SERS)の効果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明は以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0016】
本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0017】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0018】
〔1.SiO−Auナノ粒子の製造方法〕
本発明の一態様に係るSiO−Auナノ粒子の製造方法は、塩基性アミノ酸と、金前駆体と、二酸化ケイ素前駆体とを溶媒中で混合する混合工程を含む。なお、本発明の一態様に係る製造方法によって製造されるSiO−Auナノ粒子の形状は、特に限定されない。一実施形態においては、製造されるSiO−Auナノ粒子は、複数の二酸化ケイ素ナノ粒子が金に包接されているものである(詳細は〔2〕節を参照)。
【0019】
上記の製造方法は、SiO−Auナノ粒子の製造方法は、金と二酸化ケイ素とを複合体化させるための、金ナノ粒子および/または二酸化ケイ素ナノ粒子の表面処理工程を含まない。表面処理工程を含まないことにより、SiO−Auナノ粒子の製造に必要な工程数を削減できる。それゆえ、製造工程が簡略化され、製造のスケールアップも容易になる。表面処理工程の例としては、金ナノ粒子および/または二酸化ケイ素ナノ粒子を表面処理剤で処理する方法が挙げられる。
【0020】
金ナノ粒子を処理する表面処理剤の例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(3-aminopropyl-trimethoxysilane;APTMS)、4メルカプトフェニル酢酸(4-mercaptophenylacetic acid;4-MPAA)、ポリ(アクリル酸)(poly(acrylic acid);PAA)などが挙げられる。APTMSを使用する例は、Luis M. Liz-Marzan et al. (1996) "Synthesis of Nanosized Gold-Silica Core-Shell Particles," Langmuir, Vol.12(Issue 18), 4329-4335.を参照。また、4-MPAAまたはPAAを使用する例は、Tao Chen et al. (2010) "Scalable Routes to Janus Au-SiO2 and Ternary Ag-Au-SiO2 Nanoparticles," Chemistry of Materials, Vol.22(Issue 13), pp.3826-3828.を参照。
【0021】
二酸化ケイ素ナノ粒子を処理する表面処理剤の例としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(3-aminopropyl-triethoxysilane;APTES)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(3-aminopropyl-trimethoxysilane;APTMS)などのシランカップリング剤が挙げられる。また、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(poly(diallydimethylammonium chloride);PDDA)、ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(poly(sodium 4-styrenesulfonate);PSS)などの高分子電解質を使用して、金粒子を吸着させる方法も知られている。APTESを使用する例は、Victor Sebastian et al. (2014) "Engineering the synthesis of silica-gold nano-urchin particles using continuous synthesis," Nanoscale, Vol.6(Issue21), pp.13228-13235.を参照。APTMSを使用する例は、Jerzy Choma et al. (2011) "Preparation and properties of silica-gold core-shell particles," Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, vol.373(Issue 3) pp.167-171.を参照。PDDAまたはPSSを使用する例は、A. Le Beulze et al. (2017) "Robust raspberry-like metallo-dielectric nanoclusters of critical sizes as SERS substrates," Nanoscale, Vol.9(Issue 17), pp.5725-5736.を参照。
【0022】
[原料など]
塩基性アミノ酸の種類は特に限定されない。塩基性アミノ酸の例としては、アルギニン、リジン、ヒスチジンが挙げられる。一実施形態において、塩基性アミノ酸は、アルギニンである。
【0023】
混合工程における塩基性アミノ酸の濃度は、特に限定されない。ザクロ状のSiO−Auナノ粒子を得るためには、塩基性アミノ酸の濃度は、反応系のpHが10.4〜10.9になるように調節することが好ましく、10.6〜10.7になるように調節することがより好ましい。この条件は、アルギニンの濃度に換算すると、5〜20mMが好ましく、8〜16mMがより好ましいことになる。なお、ザクロ状以外の形状を有するSiO−Auナノ粒子を得ようとする場合には、塩基性アミノ酸の濃度を、上述の好ましい範囲外に設定してもよい(実施例の[1−4]節を参照)。
【0024】
金前駆体の種類は、特に限定されない。金前駆体の例としては、テトラクロロ金(III)酸(HAuCl)、四臭化金酸(HAuBr)、酢酸金(III)(Au(OCCH)、塩化金(III)カリウム(KAuCl)、四臭化金(III)カリウム(KAuBr)、金塩化ナトリウム(NaAuCl)、四臭化金ナトリウム(NaAuBr)、四シアン化金カリウム(K[Au(CN)])などが挙げられる。
【0025】
二酸化ケイ素前駆体の種類は、特に限定されない。二酸化ケイ素前駆体の例としては、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラブチル(TBOT)、トリメチルシラノール(TMS;TMSiOH)、トリエチルシラノール(TES;TESiOH)、エチレンビス(トリエトキシシラン)(BTESE)などが挙げられる。上述した二酸化ケイ素前駆体の中では、TEOSおよびTMOSが好適に用いられる。
【0026】
混合工程の開始時点(SiO−Auナノ粒子の合成反応の開始前)においては、反応系内の金前駆体の濃度が0.07mmol/L以上であり、かつ、二酸化ケイ素前駆体の濃度が13.6mmol/L以上であることが好ましい。金前駆体および二酸化ケイ素前駆体が上記の濃度範囲であれば、加熱・攪拌することにより、SiO−Auナノ粒子の合成反応が進行する。
【0027】
混合工程における溶媒は、塩基性アミノ酸、金前駆体および二酸化ケイ素前駆体を溶解または分散させることができる溶媒であれば、特に限定されない。溶媒の例としては水系溶媒が挙げられ、より具体的には、水、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)、水溶性の有機溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)など)などが挙げられる。溶媒の全重量を100重量%とすると、水が80重量%以上であることが好ましい。
【0028】
[混合工程]
塩基性アミノ酸、金前駆体、および二酸化ケイ素前駆体を混合する方法は、特に限定されない。例えば、マグネチックスターラーなどを使用して混合することができる。また、混合工程においては、反応系を油浴するなどして、適宜加熱してもよい。
【0029】
混合工程における反応系の温度は、特に限定されない。この温度は、20〜120℃であることが好ましく、40〜90℃であることがより好ましい。
【0030】
混合工程における混合時間は、特に限定されない。反応系の温度が上述した範囲である場合は、混合時間を24時間以上に設定すれば、SiO2−Auナノ粒子が充分に形成される。なお、反応系の温度が高いほど、混合時間を短くすることができる。例えば、反応系の温度を80℃とする場合、混合時間は、120分間が好ましく、180分間がより好ましく、240分間がさらに好ましい(詳細は[1−2]を参照)。
【0031】
混合工程において、塩基性アミノ酸、金前駆体および二酸化ケイ素前駆体を混合する順序は、特に限定されない。例えば、(i)塩基性アミノ酸と金前駆体とを混合した後に、二酸化ケイ素前駆体を加えて混合してもよいし、(ii)塩基性アミノ酸と二酸化ケイ素前駆体とを混合した後に、金前駆体を加えて混合してもよいし、(iii)塩基性アミノ酸、金前駆体および二酸化ケイ素前駆体を同時に反応系に加えて混合してもよい。また、混合工程は、バッチ反応であってもよいし、連続反応であってもよい。
【0032】
[推定反応機構]
本発明の一態様に係るSiO−Auナノ粒子の製造方法の推定反応機構を、図1に基づいて説明する。なお、この反応機構は、本発明の理解の一助とすることを目的としているのであり、本発明を限定するものではないことに留意されたい。
【0033】
反応前、金(1)および二酸化ケイ素(2)は、前駆体として存在している(図1左上図)。ここで、反応系中に含まれる塩基性アミノ酸は、2種類の反応を促進する。すなわち、金前駆体を金(1)に還元する反応と、二酸化ケイ素前駆体を加水分解および縮合させて二酸化ケイ素(2)ナノ粒子を生じさせる反応である。このようにして発生した金(1)の一次粒子は、集合して樹状構造を取る(図1右上図)。さらに、樹状構造は縮んで、より安定な形状となる(図1右下図)。塩基性の反応溶液中では、金(1)と二酸化ケイ素(2)ナノ粒子との間に静電相互作用が働くので、縮みゆく金(1)は、周囲の二酸化ケイ素(2)ナノ粒子を取り込み、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子(10)が形成される(図1左下図)。
【0034】
次に、本願実施例で使用した物質に即して、より微視的な視座から反応機構を説明する。なお、以下の説明では具体的な物質名を挙げているが、適切に選択された金前駆体、二酸化ケイ素前駆体および塩基性アミノ酸ならば、同様の機構が働くことは、当業者にとって明らかである。
【0035】
アルギニンはAuClと相互作用して複合体を形成し、AuClを還元して金を生成させる。このとき、アルギニンは金の表面に吸着して、グアニジン基を水性溶媒に対して露出させる。ここで、反応溶液の液性は、アルギニンの溶解によって塩基性になっている。そして、グアニジン基のpKは約13.8と高い値であるから、この基はプロトン化する。その結果、金の表面は正の電荷を有するようになる。
【0036】
一方、アルギニンはTEOSの加水分解・縮合反応を触媒して、二酸化ケイ素ナノ粒子を形成させる。二酸化ケイ素の等電点はpH2〜3程度であるから、塩基性の反応溶液中では、二酸化ケイ素ナノ粒子表面のシラノール基は脱プロトン化する。つまり、二酸化ケイ素ナノ粒子の表面は負の電荷を有するようになる。
【0037】
このように、金と二酸化ケイ素ナノ粒子とは、互いに逆の表面電荷を有するようになるから、静電相互作用によって会合し、ザクロ状構造を形成するのだと考えられる。
【0038】
〔2.SiO−Auナノ粒子〕
本発明の一態様に係るSiO−Auナノ粒子は、複数の二酸化ケイ素ナノ粒子が金に包接されているナノ粒子である。「複数の二酸化ケイ素ナノ粒子が金に包接されているナノ粒子」とは、複数の二酸化ケイ素ナノ粒子を取り巻くように金が分布しており、かつ、全体として一つの粒子を形成している構造を言う(図1の左下図を参照。また、図2も参照)。この構造のことを、本明細書では「ザクロ状」とも表現する。ザクロ状のSiO−Auナノ粒子においては、金がナノ粒子の概形を形成する基部となっており、当該ナノ粒子の内部にある凹部に、二酸化ケイ素ナノ粒子が埋め込まれた状態になっている。
【0039】
ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の粒径は、特に限定されない。一実施形態において、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の粒径は、10〜300nmの範囲である。
【0040】
一実施形態において、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の形状は、略球状である。一実施形態において、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子は、表面に隆起を有している。ザクロ状のSiO−Auナノ粒子1個当たりの隆起の数は、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子10nmあたり12〜15個でありうる(例えば、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の直径が50nm程度である場合には、9〜12個の隆起が存在することになる)。この隆起の直径は、10〜30nmでありうる。この隆起の高さは、1〜15nmでありうる。
【0041】
一実施形態において、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子に含まれている二酸化ケイ素ナノ粒子の数は、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の単位体積(10nm)あたり、0.8〜1.0個でありうる(例えば、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の直径が50nm程度である場合には、4〜8個の二酸化ケイ素ナノ粒子が内部に含まれていることになる)。一実施形態において、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子に含まれている二酸化ケイ素ナノ粒子の粒径は、10〜16nmでありうる。ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の粒径と、当該ナノ粒子に含まれている二酸化ケイ素ナノ粒子の粒径との比率は、(2.5〜25):1でありうる。
【0042】
なお、上述したSiO−Auナノ粒子の形態上の特徴は、例えば、当該ナノ粒子の電子顕微鏡像(TEM像、SEM像など)に基づいて判断することができる。また、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子に含まれている二酸化ケイ素ナノ粒子の寸法は、当該ナノ粒子の内部にある凹部(金が存在しない部分)の大きさに基づいて測定することができる。この凹部の大きさも、電子顕微鏡像から測定することができる。
【0043】
一実施形態において、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子は、塩基性アミノ酸を含んでいる。この塩基性アミノ酸の含有率は、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の全重量を基準とすると、1重量%以下でありうる。一実施形態において、塩基性アミノ酸は、金の表面に分布しており、とりわけ、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の外表面に分布している。一実施形態においては、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子に含まれている塩基性アミノ酸の、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上または80重量%以上が、当該ナノ粒子の外表面に分布している。塩基性アミノ酸の存在は、FT−IR分光法などによって判断することができる。塩基性アミノ酸の含有率は、CHN元素分析などによって判断することができる。塩基性アミノ酸の分布は、原子間力顕微鏡(AFM)および走査型トンネル顕微鏡(STM)などによって判断することができる。
【0044】
上述したザクロ状のSiO−Auナノ粒子は、本発明の一態様に係る製造方法によって作製することもできるし、他の方法によって作製することもできる。例えば、予め二酸化ケイ素ナノ粒子を作製した後に、金前駆体および塩基性アミノ酸と溶媒中で混合することによっても、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子を作製することができる(このとき、二酸化ケイ素ナノ粒子には、表面処理を施さない)。より詳細には、実施例の[1−5]および図8fを参照。
【0045】
〔3.SiO−Auナノ粒子の特性〕
本発明の一態様に係る製造方法により得られるSiO−Auナノ粒子、および、本発明の一態様に係るSiO−Auナノ粒子は、いずれも、様々な有利な物性を示す。
【0046】
例えば、上記SiO−Auナノ粒子は、可視光領域に吸光ピークを有している。また、原料として投入する金前駆体の量(ナノ粒子に含有されている金の量)を調節することによって、吸光ピークを遷移させることができる(詳細は、実施例の[1−6]節を参照)。さらに、上記SiO−Auナノ粒子は、背景の色に応じて色調が異なって見える二色性を示す。このような性質から、上記SiO−Auナノ粒子を、インクなどの顔料としての応用することができる。
【0047】
他の例としては、上記SiO−Auナノ粒子は、高い表面増強ラマン散乱活性を有している。そのため、微量の物質を検出することが可能であり、センサなどへの応用も考えられる。また、上記SiO−Auナノ粒子は、金の含有量を変化させることによって、プラズモン共鳴特性を変化させることができる。そのため、使用するレーザ源の波長に応じて、最適な検出条件となるように、センサを構成することができる。
【実施例】
【0048】
以下の実施例において、顕微鏡観察には、透過型顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製JEM−2010)、電界放出走査型顕微鏡(FE−SEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ製S−5200)、または、電界放出透過型電子顕微鏡(FE−TEM;日本電子株式会社製JEM−3000F)を用いた。実施例中、大きさに関する記載(粒径など)は、電子顕微鏡像に基づいて測定した値である。
【0049】
〔1.SiO−Auナノ粒子の製造〕
製造条件を様々に変更しながら、本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の製造方法によって、SiO−Auナノ粒子を製造した。
【0050】
[1−1.製造例]
金前駆体としては、テトラクロロ金(III)酸四水和物(HAuCl・4HO;富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた。二酸化ケイ素前駆体としては、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS;東京化成工業株式会社製)を用いた。塩基性アミノ酸としては、L−アルギニン(ナカライテスク株式会社製)を用いた。実験の溶媒には、全て脱イオン水を用いた。
【0051】
L−アルギニン水溶液(8mM、35.2mL)に、HAuCl水溶液(24mM、1.0mL)を加えた後、TEOS(2.40mmol)をさらに加えた。この混合物を、80℃の油浴中にて24時間攪拌し(攪拌速度:500rpm)、SiO−Auナノ粒子を得た。この反応では、副生成物として二酸化ケイ素ナノ粒子が生じるので、懸濁液を洗浄してこれを除去した。具体的には、8000rpmにて10分間遠心分離し、上澄み液を捨て、脱イオン水に再分散させた。
【0052】
精製したSiO−Auナノ粒子の電子顕微鏡像を、図2に示す。TEM像から判るように、得られたSiO−Auナノ粒子の内部には複数の凹部が認められた(図2aおよびb)。高分解能TEM像から判るように、凹部の周囲の壁および粒子表面は、結晶性であった(図2c)。結晶格子の面間距離は約2.37Åであり、これは金結晶の(111)平面に対応していた(d)。XRD分析の結果、この結晶は面心立方構造であることを確認した(不図示)。また、SEM像からは、SiO−Auナノ粒子の表面には複数の隆起が見られ、各隆起の直径は約20nmであることが判った。
【0053】
また、SiO−Auナノ粒子を元素分析したところ、金原子の分布は、SiO−Auナノ粒子の輪郭とよく一致していることが判った(図2fおよびg)。このことは、粒子表面が結晶性の金であるとの観察結果(図2c)とも整合している。一方、ケイ素および酸素は一様に分布していることから、粒子内部にSiOが存在していることが示唆される。また、電子エネルギー損失スペクトルによると、ケイ素のピークは金の谷間に当たる箇所であった(図2j)。このことから、SiOが金の凹部に存在し、作製したSiO−Auナノ粒子は、複数の二酸化ケイ素ナノ粒子が金に包接されている形状(ザクロ状)であることが強く示唆される。
【0054】
[1−2.加熱時間の変更]
[1−1]に示した製造方法において、加熱時間を変更することによる影響を検討した(これにより、SiO−Auナノ粒子の形成機構が推察される)。具体的には、[1−1]に示した製造方法において、加熱時間を10分間、30分間、60分間、90分間、120分間、150分間、180分間、240分間または300分間に変更した(加熱温度:80℃)。それぞれの製造方法における産物の電子顕微鏡像を、図3に示す(図3a〜i)。
【0055】
加熱時間を10分間とした条件では、ばらばらな金ナノ結晶が形成された(図3a)。加熱時間を30分間とした条件では、不定形状の粒子が形成された(図3b)。加熱時間を60分間とした条件では、樹状構造を取るようになった(図3c)。以上の結果から、金ナノ粒子の凝集は、拡散による粒子の衝突が律速段階となる、拡散律速凝集(diffusion-limited aggregation; DLA)であると推定される。
【0056】
加熱時間を90分間とした条件では、樹状構造が縮んで緻密なコアが形成され、樹状構造は周辺部のみになった(図3d)。このとき、いくつかの粒子は、コア内部がザクロ状になっていた(図3dの差込み図)。加熱時間を120分間とした条件では、SiO−Auナノ粒子の形成が見られた(図3e)。この段階では、凹部のある中間生成物も同時に観察された。この凹部の大きさ(約15nm)は、[1−1]において副生成物として得られた二酸化ケイ素ナノ粒子の粒径(約16nm)と概ね同じである。このことから、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子における金の構造は、二酸化ケイ素ナノ粒子の影響を受けていることが示唆される。
【0057】
加熱時間を150分間とした条件では、これまでの段階がさらに進展した構造のSiO−Auナノ粒子が得られた(図3f)。すなわち、コア構造と樹状構造が見られた。このことから、金の核形成および凝集が進行していることが判る。加熱時間を180分間以上とした条件では、ほぼ完全に形成されたSiO−Auナノ粒子が観察された(図3g〜i)。このように、加熱時間を150分以上にしても、金前駆体の消費量ほどは、SiO−Auナノ粒子の粒径は成長しない。このことは、SiO−Auナノ粒子の大きさが多分散である事実を支持している(本願実施例の[1−6]節および図12を参照)。
【0058】
図4は、SiO−Auナノ粒子の製造工程における加熱時間と、得られるナノ粒子の吸光スペクトルとの関係を表すグラフである。このグラフによると、加熱後240分が経過すると、SiO−Auナノ粒子の吸光スペクトルが安定するようになる。これは、金前駆体の還元が完了したことを示唆している。
【0059】
[1−3.加熱温度の変更]
[1−1]に示した製造方法において、加熱温度を変更することによる影響を検討した。具体的には、[1−1]に示した製造方法において、加熱温度を40℃または90℃に変更した。その結果得られたSiO−Auナノ粒子の顕微鏡像を、図5に示す。また、このナノ粒子の吸光スペクトルを、図6に示す(加熱温度80℃のデータとして、[1−1]で作製したナノ粒子の吸光スペクトルも併記している)。
【0060】
同図から判るように、本発明の一実施形態に係るSiO−Auナノ粒子の製造方法は、温度への依存性は低いようである。一般的に、40〜90℃の範囲において、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子が形成された。
【0061】
[1−4.塩基性アミノ酸濃度の変更]
[1−1]に示した製造方法において、塩基性アミノ酸の濃度を変更することによる影響を検討した。具体的には、[1−1]に示した製造方法において、アルギニン濃度を2.4mM、4mM、16mMまたは24mMに変更した。その結果得られたSiO−Auナノ粒子の顕微鏡像を、図7に示す(a:16mM、b:2.4mM、c:4mM、d:24mM)。
【0062】
同図から、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子を得るためのアルギニンの最適濃度は、8〜16mMであることが判った(図7a)。アルギニン濃度が8mMよりも低いと、オタマジャクシ状(図7b)または分枝状(図7c)のナノ粒子が形成された。これらの図から判断すると、少なくとも分枝状のナノ粒子は、SiO−Auナノ粒子(金と二酸化ケイ素との複合粒子)であると考えられる。一方、アルギニン濃度が16mMよりも高いと、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の融合が見られた(図7d)。
【0063】
なお、アルギニン溶液のpHは、2.4mMのときに10.0であり、4mMのときに10.2であり、8mMのときに10.6であり、16mMのときに10.7であり、24mMのときに11.0であった。それゆえ、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子を得るための最適pHは、10.6〜10.7であると判った。
【0064】
[1−5.二酸化ケイ素前駆体の量の変更]
[1−1]に示した製造方法において、原料として加える二酸化ケイ素前駆体の量を変更することによる影響を検討した。具体的には、[1−1]に示した製造方法において、加えるTEOSの量を、0mmol(TEOSなし)、0.48mmol(13.63mM)、1.20mmol(34.09mM)または3.84mmol(109.09mM)に変更した。その結果得られたSiO−Auナノ粒子の顕微鏡像を、図8a〜dに示す(a:0mmol、b:0.48mmol、c:1.20mmol、d:3.84mmol)。また、このナノ粒子の吸光スペクトルを、図9に示す([1−1]で作製したナノ粒子の吸光スペクトルも併記している)。
【0065】
TEOSを加えずに製造した条件では、HAuClがアルギニンによって金に還元され、反応容器の内面に青紫色の層として析出した。一方、反応容器内の液相は無色透明であった(図8aの差込み図)。TEM像によると、ごく少数の金の凝集体が観察された(a)。0.48mmolのTEOSを加えて製造した条件では、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子の形成が見られたが、金の大部分は反応容器の内面に析出した(図8b)。1.20mmol以上のTEOSを加えて製造した条件では、充分な収率でザクロ状のSiO−Auナノ粒子を得ることができた(図8c)。ただし、TEOSの量が多すぎると、副生成物である二酸化ケイ素ナノ粒子の量が増加した(図8dの矢印)。
【0066】
図9は、SiO−Auナノ粒子の製造工程において、原料として加える二酸化ケイ素前駆体の量と、得られるSiO−Auナノ粒子の吸光スペクトルとの関係を表すグラフである。このグラフによると、TEOSの添加量が1.20〜3.84mmolの範囲では、得られるSiO−Auナノ粒子は概ね同じである。したがって、二酸化ケイ素前駆体の量は、SiO−Auナノ粒子の形状および吸光スペクトルには影響を及ぼさないと考えられる。
【0067】
(TEOSの機能の検討)
TEOSは、ザクロ状構造の形成に寄与している可能性がある。つまり、TEOSと金前駆体水溶液との混合物は、反応前には2相系であるが、これを攪拌することによってTEOSが小さな油滴となり、ザクロ状構造の鋳型となっている可能性がある。この可能性を検討するために、TEOSの代わりに同体積のシクロヘキサンを原料として、[1−1]と同じ条件でナノ粒子を作製した。その結果、TEOSを加えずに反応させた条件と同様に、反応容器の内壁に青紫色の金が析出し、液相は無色透明だった(図8eの差込み図)。TEM像によると、金の凝集体しか観察されなかった(図8e)。この結果から、TEOSの油滴が、ザクロ状構造の鋳型になっている訳ではないことが示唆された。
【0068】
アルギニンによる金の還元と並行して、TEOSから二酸化ケイ素ナノ粒子への変換も、アルギニンによって触媒される。そこで、二酸化ケイ素ナノ粒子の役割を検討するために、TEOSを予め作製した二酸化ケイ素ナノ粒子に変更して、[1−1]と同様の条件でナノ粒子を作製した。その結果、濃紫色の均質な懸濁液が得られ、TEM像によるとナノ粒子はザクロ状構造であった(図8f)。このナノ粒子には、14nm程度の凹部があり、この大きさは予め作製した二酸化ケイ素ナノ粒子と同程度であった。したがって、ザクロ状構造の形成には、金による二酸化ケイ素ナノ粒子の封じ込めが関与していると考えられる。
【0069】
[1−6.金前駆体濃度の変更]
[1−1]に示した製造方法において、原料として加える金前駆体の量を変更することによる影響を検討した。具体的には、[1−1]に示した製造方法において、加えるHAuCl水溶液(24mM)の量を、0.2mL(0.14mM)〜2.0mL(1.38mM)まで様々に変化させた。その結果得られたSiO−Auナノ粒子の顕微鏡像を、図10に示す(b:0.2mL、c:0.5mL、d:1.5mL、e:2.0mL)。また、このナノ粒子の吸光スペクトルを、図11に示す([1−1]で作製したナノ粒子の吸光スペクトルも併記している)。
【0070】
原料として加えるHAuCl水溶液の量が[1−1]の製造条件よりも遥かに少ない場合は、SiO−Auナノ粒子の他に、不定形の金ナノ粒子が形成された(図10aの矢印)。HAuCl水溶液の量が増加するにつれて、不定形の金ナノ粒子は顕著に減少した(図10b)。原料として加えるHAuCl水溶液の量が[1−1]の製造条件よりも多い場合は、形成されるSiO−Auナノ粒子の粒径が大きくなる傾向にあった(図10cおよびd)。
【0071】
また、図11から判るように、原料に加えるHAuClの量が増加すると、得られるSiO−Auナノ粒子の吸光スペクトルのピークは長波長側に変位した。これによって、可視領域に含まれる580〜730nmまで、ピークを調節することができた。
【0072】
SiO−Auナノ粒子の粒径は、多分散であった(このことには、上述した形成機構が寄与していると考えられる)。さらに、本発明者らは、100個程度のSiO−Auナノ粒子の粒径を計測し、統計的な推定を試みた。その結果を図12に示す。原料として加える金前駆体の量が多くなるほど、SiO−Auナノ粒子の粒径が大きくなる傾向が確認された。
【0073】
[1−7.異なる二酸化ケイ素前駆体の使用]
[1−1]に示した製造方法において、二酸化ケイ素前駆体として、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の代わりにオルトケイ酸テトラメチル(TMOS、東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0074】
L−アルギニン水溶液(8mM、35.2mL)に、HAuCl水溶液(24mM、1.0mL)を加えた後、油浴内で数分間予熱した。その後、加熱・攪拌下にて、TMOS(0.5mL、3.28mmol)をさらに加えた。この混合物を、80℃の油浴中にて24時間攪拌し(攪拌速度:500rpm)、SiO−Auナノ粒子を得た。得られたナノ粒子の顕微鏡像を、図13に示す。同図から判るように、二酸化ケイ素前駆体としてTMOSを使用した場合にも、ザクロ状のSiO−Auナノ粒子を製造することができた。
【0075】
〔2.SiO−Auナノ粒子の性質〕
[2−1.光学的性質]
[1−6]節で説明した通り、原料として加える金前駆体の量を変化させることによって、得られるSiO−Auナノ粒子の吸光スペクトルのピークは長波長側に変位した。つまり、原料として加える金前駆体の量を変化させることによって、SiO−Auナノ粒子を含む懸濁液の色調は変化した(図14)。興味深いことに、この懸濁液は二色性を示し、背景が白い場合と黒い場合とでは、異なる色調を帯びていた。
【0076】
[2−2.表面増強ラマン散乱]
SiO−Auナノ粒子の表面増強ラマン散乱(SERS)活性を、濾紙で担持する方法で検討した。
【0077】
(SiO−Auナノ粒子を担持させた濾紙の作製)
[1−1]で作製したSiO−Auナノ粒子を含んでいる懸濁液(3mL)に、1cm×1cmに切断した濾紙(Advantech製、No. 5C)を、3日間含浸させた。その後、80℃にて濾紙を乾燥させた。その結果、濾紙にSiO−Auナノ粒子が担持され、色調が青紫色になった。SiO−Auナノ粒子を含浸させる前後における濾紙のSEM像を、図15aおよびbに示す(a:含浸前、b:含浸後)。
【0078】
(SERSの測定方法)
SERS測定のモデル物質には、チオフェノール(TP;ナカライテスク株式会社製)を使用した。5mLのチオフェノールのエタノール溶液(濃度:10−5〜10−8M)に、SiO−Auナノ粒子を担持させた濾紙を1時間含浸させた。その後、エタノールで軽くすすいでから、風を当てて乾燥させた。SERSスペクトルの測定には、ポータブルラマン分光器(Ocean Optics製、QE65000)を使用した。レファレンスとしては、チオフェノールを含ませていないSiO−Auナノ粒子を担持させた濾紙を使用した。6箇所の異なる点におけるスペクトルを測定し、その平均を最終的な測定結果とした。
【0079】
また、質量に関する検出限界を評価する実験として以下を行った。まず、0.9μLのチオフェノールのエタノール溶液(濃度:10−3M、10−4M、0.5×10−4M、および10−5M)を、SiO−Auナノ粒子を担持させた濾紙に滴下した。その後、溶媒を蒸発させて、チオフェノールが含まれているスポットを作製した。各スポットに含まれているチオフェノールの量は、それぞれ、100ng、10ng、5ng、および1ngである。3つの異なるスポットについてSERSスペクトルを測定し、その平均を最終的な測定結果とした。
【0080】
(結果)
チオフェノールのラマンスペクトルを、図16の上段に示す。通常、チオフェノール分子のラマンシフトは、976cm−1、1001cm−1、1068cm−1、および1560cm−1に観察される。一方、SiO−Auナノ粒子を担持させた濾紙で、チオフェノールのSERSスペクトルを測定したところ、973cm−1、997cm−1、1047cm−1、および1549cm−1に顕著なピークが見られた。これは、上述のチオフェノールのラマンシフトに対応していた。
【0081】
チオフェノール溶液の濃度を下げながらSERS測定を行ったところ、濃度10−7M(14ppm)まではチオフェノール由来のピークを検出できた(図16上段)。また、既知量のチオフェノールの検出限界を検討したところ、約1ngのチオフェノールを検出することができた(図16中段)。これらの結果は、SiO−Auナノ粒子を担持させた濾紙が、約1ng程度のチオフェノールを検出できる程度に高いSERS活性を有していることを示している。
【0082】
また、原料として加える金前駆体の量を変化させて製造したSiO−Auナノ粒子について、同様の方法でSERS活性を検討した(図16下段)。上述のように、原料として加える金前駆体の量を変化させることにより、SiO−Auナノ粒子のプラズモン共鳴特性を変化させることができる。このことは、適切なSiO−Auナノ粒子を選択することにより、使用するレーザ源の波長に応じた検出条件の最適化が可能であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、例えば、SiO−Auナノ粒子の製造に利用できる。また、本発明によって製造されたSiO−Auナノ粒子は、例えば、プラズモン材料、センサ、バイオマーカ検出系、触媒として利用できる。
【符号の説明】
【0084】
1:金
2:二酸化ケイ素
10:SiO−Auナノ粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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