【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス https://motor−fan.jp/article/10007360 https://motor−fan.jp/article/10007360?page=2 掲載日 平成31年1月6日
【解決手段】対向ピストンエンジン(1A)は、シリンダ(20)と、排気側ピストン(21)および吸気側ピストン(22)と、機械式過給機(61)と、排気側クランクシャフト(31)および吸気側クランクシャフト(32)の互いの回転の位相関係を決定する回転伝達機構と、を備え、排気側クランクシャフト(31)の回転の位相が吸気側クランクシャフト(32)よりも遅角している。
前記排気流路形成部は、主要な運転領域での運転中に、前記負圧波の第2波が、前記第2の期間に前記排気ポートに到達するような長さの前記排気流路を形成していることを特徴とする請求項2または4に記載の対向ピストンエンジン。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、奥行き、幅等)は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化と簡略化とのために適宜変更している。
【0015】
始めに、本発明の実施の形態における対向ピストンエンジンの理解を容易にするために、本発明の知見について従来技術との対比を含めて以下に概略的に説明する。
【0016】
<発明の知見の概略的な説明>
一般に自動車に搭載されているレシプロエンジンは、複数のシリンダがシリンダヘッドに覆われてシリンダブロック内に格納された多気筒の構造となっており、熱効率の向上のために様々な技術が開発されている。
【0017】
これに対して、対向ピストンエンジンは、一般的なレシプロエンジンとは異なる基本構造を有している。対向ピストンエンジンの基本構造については、例えば特許文献1、2等の記載、または公知の資料等を参照して理解することができる。明細書の冗長化を避けるために、ここで基本構造および各種の補機について詳細に説明することは省略するが、従来の対向ピストンエンジンの一例について
図9を参照して以下に概略的に説明する。
【0018】
(従来の対向ピストンエンジンの概要)
図9は、従来の対向ピストンエンジン100の構造を概略的に示す断面図である。
【0019】
図9に示すように、従来の対向ピストンエンジン100は、シリンダ110に吸気ポート111および排気ポート112が形成されており、シリンダ110内を対向して往復運動する一対のピストン121・122の動作に伴って各ポートが開閉するようになっている。吸気ポート111には過給機(図示省略)から圧送された空気が送給される。一対のピストン121・122にはそれぞれコンロッド131・132を介してクランクシャフト141・142が接続されている。また、シリンダ110には燃料噴射器115が設けられている。
【0020】
図9では、ピストン121・122が下死点(ピストンのストロークにおけるシリンダ110の中心から最遠の位置)近傍に位置する状態を示しており、この場合、吸気ポート111および排気ポート112は完全に開状態となっている。一般に、排気側のピストン122が上死点(シリンダ110の中心に最近接した位置)から下死点へと動作して排気ポート112が開き始めた時点では、吸気ポート111は閉状態のままとなっており、シリンダ110内における燃料の燃焼により生成した高温高圧の燃焼ガスが排気ポート112を通じてシリンダ110の外部(排気管)へと排出され始める(この現象を排気ブローダウンと称する)。その後、吸気側のピストン121の動作に伴って吸気ポート111が開き始めることにより、新気が吸気ポート111を通じてシリンダ110内に流入し、シリンダ110内の気体が排気ポート112から更に流出する。
【0021】
このような構造を有する対向ピストンエンジン100では、(i)ピストン121とピストン122との位相関係(すなわち、クランクシャフト141の回転とクランクシャフト142の回転との互いの位相関係)を変化させる、または、(ii)吸気ポート111若しくは排気ポート112のポート高さ(シリンダ110の軸方向における長さ)を変化させると、実質的な圧縮比および掃気効率等が変化する。
【0022】
例えば、特許文献1、2に記載の技術では、
図9に例示する構造を参照して説明すると、シリンダ110内で燃料が燃焼してピストン121・122が互いに離れるように動作する膨張行程において、排気ポート112が吸気ポート111よりも早く開き排気ブローダウンを生じさせる。次いで、排気ポート112および吸気ポート111が全開状態となった後、ピストン121・122が互いに近づくように動作する圧縮行程において、排気ポート112および吸気ポート111がほぼ同タイミングで完全閉状態となるようになっている。
【0023】
上記のようなポートタイミングとするために、特許文献1、2に記載の技術では、排気ポート112のポート高さが吸気ポート111よりも少し高くなっている(一般的に1.5倍程度であり、2倍未満)とともに、排気側のクランクシャフト142の回転の位相を吸気側のクランクシャフト141の回転の位相よりも進角させている。
【0024】
ここで、排気側と吸気側とでクランクシャフトの回転に位相差を付けると、有効ストローク(燃焼室の最大容積と最小容積の差=排気量)が縮小する。その一方で、排気ブローダウンの期間を長くして掃気効果を高めること、および排気側のクランクシャフトの回転の位相を進角させて排気ポート112および吸気ポート111を同時に完全閉状態とすることにより、有効な吸気容積(新気を閉じ込めたときのシリンダ内容積)を増加させるとともに実質的な圧縮比を高めることができる。このような方策により、従来の対向ピストンエンジンでは出力の向上を図っている。
【0025】
(熱効率の向上に関する本発明者らの見出した知見)
一般に、対向ピストンエンジンは、シリンダ内のストローク/ボア比を高くすることができるとともに、シリンダヘッドが不要であることから冷却損失を低減することができる。また、ロングストロークであることから厚い燃焼室を形成できるので、容積比(≒幾何学的圧縮比)が高いにも関わらずS/V比(表面積/体積)を小さくすることができる。そのため、最高熱効率を高めることについて高いポテンシャルを有している。
【0026】
対向ピストンエンジンは、2ストロークを採用する方式のエンジンであるためシリンダ内の残留ガスが多くなりがちである。それゆえ、対向ピストンエンジンは、残留ガスによる弊害が大きいガソリンエンジンよりも、その弊害が小さく熱効率の観点で優位なディーゼルエンジンとして用いられる場合が多い。しかしながら、ディーゼルエンジンは排ガスに対する高度な処理が要望され、排ガス規制の強化に対応する観点から、対向ピストンエンジンをガソリンエンジンとして用いる場合における最大熱効率を向上させることが好ましい。
【0027】
本発明者らは、詳しくは後述するように、自動車エンジンモデルを用いたエンジン性能シミュレーションの結果を参照しつつ、ガソリンを燃料とする対向ピストンエンジンの熱効率を向上させるべく鋭意検討を行った。その結果、高い容積比を有する対向ピストンエンジンにおいて、下記(1)および(2)の少なくともいずれかの構成とすることによって、圧縮温度を低減(ノッキングを抑制)して、最大熱効率を向上させ得ることを見出した。
【0028】
(1)排気側のクランクシャフトの回転の位相を吸気側のクランクシャフトの回転の位相よりも遅角させる(従来技術とは逆の位相関係)。
【0029】
(2)排気側の流路を長くすることにより、排気の負圧波を利用して掃気効率を向上させるとともに筒内圧力および筒内温度を低下する。
【0030】
なお、上記(1)および(2)の構成において、前提として吸気ポートのポート高さよりも排気ポートのポート高さの方が高くなっており、対向ピストンエンジンの動作中に、吸気ポートが開いている期間よりも排気ポートが開いている期間の方が長くなっている。
【0031】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、
図1〜7に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0032】
本実施形態では、本発明の一態様における対向ピストンエンジンと、発電モータとを備える発電装置を例示して説明する。このような発電装置は、シリーズ方式のハイブリッド車に好適に搭載することができる。尚、本発明の一態様における対向ピストンエンジンの用途は必ずしもこれに限定されず、その他、原動機が搭載されている各種の機器に適用することができる。例えば、住宅や施設等に設置される定置型若しくは可搬型のガソリン発電機、送水または排水用のポンプシステム、航空機、大型車両、船舶、等に適用することもできる。
【0033】
(対向ピストンエンジンおよび発電装置の構成)
本実施形態の対向ピストンエンジンを備える発電装置の構成について、
図1に基づいて説明する。
図1における符号1001で示す図は、本実施形態の対向ピストンエンジン1Aを備える発電装置10Aの概略的な構成を示す平面図であり、構造を分かり易く示すため、シリンダ20の筐体部の一部を透過して示している。
図1における符号1002で示す図は、本実施形態の対向ピストンエンジン1Aの概略的な構成を示す側面図である。
【0034】
図1に示すように、発電装置10Aは、対向ピストンエンジン1Aと、2つの発電モータ11および発電モータ12とを備えている。なお、本明細書では、各種の補機を含めて対向ピストンエンジン1Aと称する。
【0035】
対向ピストンエンジン1Aは、シリンダ20と、シリンダ20内を挿通する2つの排気側ピストン21および吸気側ピストン22と、2つのピストンにそれぞれ接続されたコンロッドおよびクランクシャフト(クランク軸)の組と、を備えている。
【0036】
具体的には、シリンダ20内にて、排気側ピストン21と吸気側ピストン22とが互いに対向するように往復運動することにより対向ピストンエンジン1Aが動作する。シリンダ20内には燃焼室23が形成されている。燃焼室23は、排気側ピストン21が有するピストンヘッド21a、吸気側ピストン22が有するピストンヘッド22a、およびシリンダ20の内壁20aによって囲まれて形成される。
図1に示す図は、排気側ピストン21および吸気側ピストン22が上死点近傍に位置する状態の対向ピストンエンジン1Aを示している。
【0037】
本実施形態の対向ピストンエンジン1Aは、シリンダ20にインジェクタ(燃料噴射器)28および2つの点火プラグ29が設けられている。インジェクタ28から燃焼室23内に燃料が噴射され、当該燃料は点火プラグ29によって火花着火される。本実施形態では、上記燃料はガソリンであり、対向ピストンエンジン1Aはガソリンエンジンとなっている。上記燃料は、図示しない燃料タンクからインジェクタ28に供給される。
【0038】
図中、燃焼室23内に記載の星形マークは、シリンダ20の中心位置CPを示しており、燃料の理想的な点火位置を示している。燃焼室23内にて燃料が燃焼することにより、排気側ピストン21および吸気側ピストン22が互いに対向して往復運動する。
【0039】
対向ピストンエンジン1Aは、シリンダ20の中心位置CPから軸方向に互いに離れた位置に排気ポート81および吸気ポート86がそれぞれ設けられている。排気ポート81および吸気ポート86は、典型的には、シリンダ20に形成された開口部である。排気ポート81は排気側ピストン21の往復運動に対応して開閉し、吸気ポート86は吸気側ピストン22の往復運動に対応して開閉する。
【0040】
対向ピストンエンジン1Aは、排気流出部82と給気部87とを備えている。
【0041】
排気流出部82は、排気ポート81の近傍かつシリンダ20の周囲に環状に設けられ、排気ポート81を介してシリンダ20内に連通する空間が形成されている。シリンダ20には排気ポート81として複数の開口部が形成されている。給気部87は、吸気ポート86の近傍かつシリンダ20の周囲に環状に設けられ、吸気ポート86を介してシリンダ20内に連通する空間が形成されている。シリンダ20には吸気ポート86として複数の開口部が形成されている。排気ポート81および吸気ポート86としての開口部の数は特に限定されない。排気ポート81および吸気ポート86について、詳しくは後述する。
【0042】
また、対向ピストンエンジン1Aは、排気管(排気流路形成部)83を備えており、排気管83は、一端が排気流出部82に接続され、他端が触媒コンバータ(別部材)84に接続されている。排気管83は、排気流路が内部に形成されており、上記排気流路は、排気流出部82の出口から触媒コンバータ84の入口までの長さExLが、詳しくは後述する所定の条件を満たすようになっている。なお、管状の排気管83において、上記排気流路の長さExLは、排気流出部82から触媒コンバータ84までの排気管83の長さとみなすことができる。
【0043】
排気管83は、上記排気流路の途中において、排気再循環(EGR)のための外部EGR装置85に接続するように分岐している。外部EGR装置85は、排気管83内の上記排気流路を流れる排気ガスExh1の一部を吸気側のシステムに送給するようになっており、この送給量は適宜調整可能となっている。また、外部EGR装置85は、いわゆる低圧EGR方式の装置であり、EGRクーラーを備えていることが好ましい。
【0044】
排気管83内の上記排気流路を流れて触媒コンバータ84に流入した排気ガスExh1は、触媒コンバータ84内の例えば酸化触媒によって浄化される。触媒コンバータ84は、NOx吸蔵触媒、選択還元触媒、またはGPF(Gasoline Particulate Filter)等が格納されていてもよく、三元触媒が格納されていてもよい。触媒コンバータ84により浄化された排気ガスExh2は例えば図示を省略するマフラー(消音器)へと流出する。
【0045】
対向ピストンエンジン1Aは、機械式過給機(過給機)61と、送気管62と、インタークーラ(給気冷却器)63と、を備えている。機械式過給機61は、対向ピストンエンジン1Aにて発生した動力を利用して作動するメカニカルスーパーチャージャーであり、吸気ポート86を介してシリンダ20内に空気を圧送する。このような機械式過給機61は、回転するローターを内部に備えている。機械式過給機61は、空気Int1および外部EGR装置85から送給された排気ガスExh1を吸気して圧縮した後、該圧縮した空気Int2を、送気管62を通じてインタークーラ63に送る。インタークーラ63を通過して冷却された空気Int3は、給気部87に圧送され、吸気ポート86を介してシリンダ20に給気される。
【0046】
対向ピストンエンジン1Aは、排気側ピストン21が排気側コンロッド26を介して排気側クランクシャフト(排気側クランク軸)31のクランクピン31aと接続されており、吸気側ピストン22が吸気側コンロッド27を介して吸気側クランクシャフト(吸気側クランク軸)32のクランクピン32aと接続されている。
【0047】
図1に示すように、対向ピストンエンジン1Aが動作する場合、排気側ピストン21の往復運動と連動して、排気側クランクシャフト31が第1の回転方向に回転するとともに、吸気側ピストン22の往復運動と連動して、吸気側クランクシャフト32が第2の回転方向に回転する。ここでは、図中、上記第1の回転方向は時計回りの方向であり、上記第2の回転方向は反時計回りの方向である。
【0048】
排気側クランクシャフト31は、バランスウェイト31bを備えている。排気側クランクシャフト31の回転軸の方向の一端部に、フライホイール41aが同軸に設置されている。フライホイール41aは、排気側クランクシャフト31の回転と同方向に同じ回転速度(回転数)にて回転する。
【0049】
吸気側クランクシャフト32は、バランスウェイト32bを備えているとともに、回転軸の方向の一端部に過給器駆動用のプーリー(ベルト車)42bが同軸に設置され、プーリー42bの近傍にフライホイール42aが同軸に設置されている。フライホイール42aおよびプーリー42bは、吸気側クランクシャフト32の回転と同方向に同じ回転速度(回転数)にて回転する。
【0050】
発電装置10Aが含む発電モータ11・12は、対向ピストンエンジン1Aの側方部に設けられている。発電モータ11・12は、公知の発電機を用いればよく、例えば車両用発電機(オルタネータ)を大きくしたものである。
【0051】
発電モータ11は回転軸11aを備え、該発電モータ11から突出する回転軸11aの先端が対向ピストンエンジン1Aの方向に向くように配置されている。回転軸11aには、発電モータ11から遠い順に、連動ギア71およびチェーン受け部52aが設けられている。連動ギア71およびチェーン受け部52aは、回転軸11aと同軸に設けられており、回転軸11aと連動して回転する、すなわち発電モータ11と同方向に同じ回転速度(回転数)にて回転する。
【0052】
発電モータ12は回転軸12aを備え、該発電モータ12から突出する回転軸12aの先端が対向ピストンエンジン1Aの方向に向くように配置されている。回転軸12aには、発電モータ12から遠い順に、連動ギア72およびチェーン受け部52bが設けられている。連動ギア72およびチェーン受け部52bは、回転軸12aと同軸に設けられており、回転軸12aと連動して回転する、すなわち発電モータ12と同方向に同じ回転速度(回転数)にて回転する。
【0053】
フライホイール41aおよびフライホイール42aは、それぞれ外周に歯が形成されている。フライホイール41aとチェーン受け部52aとは、増速チェーン56を介して互いに接続されている。フライホイール42aとチェーン受け部52bとは、増速チェーン57を介して互いに接続されている。
【0054】
発電モータ11は、フライホイール41aと増速チェーン56とチェーン受け部52aとの組合せ(第1の動力伝達部)が有する所定の増速比にて増速されて、フライホイール41aと連動して第1の回転方向に回転する。
【0055】
発電モータ12は、フライホイール42aと増速チェーン57とチェーン受け部52bとの組合せ(第2の動力伝達部)が有する所定の増速比にて増速されて、フライホイール42aと連動して第2の回転方向に回転する。
【0056】
排気側ピストン21(排気側クランクシャフト31)、吸気側ピストン22(吸気側クランクシャフト32)、フライホイール41a・42a、プーリー42b、並びに発電モータ11・12は、各種の動力伝達部によって接続されて互いに連動するようになっている。発電モータ11と発電モータ12とは、連動ギア71と連動ギア72とが歯合(係合)しており、互いに逆の回転方向に同じ回転速度で回転して連動するようになっている。
【0057】
対向ピストンエンジン1Aは、連動ギア71および連動ギア72に駆動トルクがほとんどかからないとともに、連動ギア71および連動ギア72の周速が速い。そのため、連動ギア71および連動ギア72に歯打ち音が発生し難い。また、連動ギア71および連動ギア72は、大きなトルクがかからないことからアンチバックラッシュギアを用いることができ、この場合、機械的なエネルギー損失を抑制しつつ静音性を高めることができる。
【0058】
また、機械式過給機61は、増速ベルト42cを介してプーリー42bと接続されており、所定の増速比にて増速されて、プーリー42bと連動して第2の回転方向に回転する。
【0059】
排気側クランクシャフト31、吸気側クランクシャフト32、発電モータ11、発電モータ12、および機械式過給機61は、回転軸方向が互いに平行となっている。
【0060】
ここで、対向ピストンエンジン1Aは、発電モータ11の回転軸11aに位相可変部材75が取り付けられている。位相可変部材75は、連動ギア71とチェーン受け部52aとの位相関係(位相角)を変化させる(調整する)ことができる。位相可変部材75を用いることにより、排気側クランクシャフト31の回転と吸気側クランクシャフト32の回転との互いの位相関係を変化させることができる。
【0061】
本実施形態において、位相可変部材75、連動ギア71・72、フライホイール41aと増速チェーン56とチェーン受け部52aとの組合せ、および、フライホイール42aと増速チェーン57とチェーン受け部52bとの組合せは、排気側クランクシャフト31の回転と吸気側クランクシャフト32の回転との互いの位相関係を調整するクランク位相可変機構(位相可変機構)として機能する。
【0062】
また、連動ギア71・72、フライホイール41aと増速チェーン56とチェーン受け部52aとの組合せ、および、フライホイール42aと増速チェーン57とチェーン受け部52bとの組合せは、排気側クランクシャフト31の回転と吸気側クランクシャフト32の回転との互いの位相関係を決定する回転伝達機構として機能する。
【0063】
対向ピストンエンジン1Aは、2つのクランクの回転について互いに位相差がない場合、連動ギア71および連動ギア72に駆動トルクがかからない。ただし、2つのクランクの回転について互いに位相差が有る場合、進角側のクランクのトルクが遅角側のクランクのトルクよりも増加するので、それらの差分のトルク(駆動トルク)が連動ギア71・72に負荷される。この場合、進角側の発電モータの発電量を増加することで駆動トルクを抑制することができる。
【0064】
そのため、対向ピストンエンジン1Aでは、許容トルク(位相変化に要する駆動トルクおよび位相関係の保持に要する保持トルク)の小さい位相可変部材75を使用することができる。このような位相可変部材75としては公知の部材を用いることができ、例えば、一般にカムシャフトの位相を変化させるために用いられる位相変化型可変バルブタイミング機構を適用することができる。すなわち、例えば、回転軸11aの回転が油圧室を介して連動ギア71に伝達するように、位相可変部材75を設ける。進角側または遅角側の油圧室の片側に油圧をかけることで、回転軸11aの回転に対して連動ギア71の回転を進角または遅角させることができる。
【0065】
位相可変部材75は、排気側クランクシャフト31と吸気側クランクシャフト32との位相関係を変化させることができるようになっていればよく、具体的な構成は特に限定されず、配置も特に限定されない。
【0066】
対向ピストンエンジン1Aは、前述のように、主要な運転領域(エンジン回転数・負荷域)において最大熱効率が高いことが重要である。この主要な運転領域としては、用途(すなわちエンジンが搭載される動力発生機構)に応じて様々であり、主要な運転領域の数値範囲を具体的に規定することは難しい。本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、熱効率の高い回転数・負荷域(例えば中速中負荷域)で運転する用途(例えば発電用)を想定し、総合的なエンジン性能が高い運転領域での使用頻度が高くなるように設定した。総合的なエンジン性能は、熱効率や排気ガス、騒音などによって評価される。
【0067】
ここで、エンジン性能はエンジン回転数の感度が高いので、主要な運転領域はエンジン回転数によって規定することができる。そのような主要な運転領域にて必要な出力が得られるように負荷を調整する。一般的に、低負荷の場合を除いて、負荷によるエンジン性能への影響は小さい。
【0068】
換言すれば、「主要な運転領域」とは、エンジンの通常の使い方において、長時間にわたって運転される、エンジンの総合性能が高いエンジン回転数の領域である。一例では、シリーズ方式のハイブリッド車に搭載される対向ピストンエンジン1Aは、主要な運転領域が例えば1500rpm以上3000rpm以下であり、好ましくは2000rpm以上2500rpm以下である。
【0069】
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、幾何学的圧縮比が15以上であり、18以上であってよく、20以上であってもよい。本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、幾何学的圧縮比が24とすることができる。対向ピストンエンジン1Aは、例えば、ボアが86mmであり、片方のピストンあたりのストロークが103mmであり、この場合の両方のピストンの下死点BDCおよび上死点TDCに基づく基準排気量(幾何学的排気量)は1196ccである。2つのクランクの回転について互いに位相差が有る場合、対向ピストンエンジン1Aの有効排気量(燃焼室23の最大容積と最小容積との差)は基準排気量よりも少し小さくなる。なお、対向ピストンエンジン1Aのボアおよびストロークの具体的な値は、対向ピストンエンジン1Aの全体サイズに応じて適宜決定されるものであり、上記のような幾何学的圧縮比となっていれば特に限定されるものではない。
【0070】
上記「幾何学的圧縮比」とは、排気側クランクシャフト31と吸気側クランクシャフト32とのクランク位相が揃っている(位相差が無い)状態において、下死点容積を上死点容積で割ることにより得られる値である。幾何学的圧縮比は、対向ピストンエンジン1Aの構造(シリンダ20の容積、排気側ピストン21および吸気側ピストン22のボアおよびストローク)によって決定される。
【0071】
ここで、対向ピストンエンジン1Aでは位相可変部材75によってクランク位相が可変であることから、本明細書において、「容積比」とは、排気側ピストン21と吸気側ピストン22とが最も遠ざかった時点におけるシリンダ20内の容積(燃焼室23の最大容積)を、排気側ピストン21と吸気側ピストン22とが最も近づいた時点におけるシリンダ20内の容積(燃焼室23の最小容積)で割ることにより得られる値を意味し、位相差に応じて値が異なる。幾何学的圧縮比と容積比とはほぼ同等の値であり、エンジンの性能を評価する上では、容積比がより重要となる。
【0072】
また、本明細書において、「有効圧縮比」とは、排気ポート81が全閉した時点におけるシリンダ20内の容積(燃焼室23の容積)を、排気側ピストン21と吸気側ピストン22とが最も近づいた時点におけるシリンダ20内の容積(燃焼室23の最小容積)で割ることにより得られる値を意味する。
【0073】
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、高容積比であっても、実質的な圧縮比を有効圧縮比よりもさらに低減し、圧縮温度を低下させることによりノッキングの発生を抑制して、最大熱効率を高くすることができる。このことについて、対向ピストンエンジン1Aの動作に関する説明とともに以下に説明する。
【0074】
(エンジンの動作)
対向ピストンエンジン1Aの動作について、
図2および
図3を用いて以下に説明する。
図2における符号2001で示す図は、本実施形態の対向ピストンエンジン1Aにおける排気側ピストン21および吸気側ピストン22が上死点に位置する状態を概略的に示す断面図である。
図2における符号2002で示す図は、本実施形態の対向ピストンエンジン1Aにおける排気側ピストン21および吸気側ピストン22が下死点に位置する状態を概略的に示す断面図である。構造を分かり易く示すため、シリンダ20の筐体部の一部を透過して示している。また、
図2においては、説明の平明化のために、位相可変部材75によって排気側クランクシャフト31と吸気側クランクシャフト32とのクランク位相を変化させていない状態(クランク位相が揃っている状態)について示している。
【0075】
図2における符号2001で示す図のように、排気側ピストン21のピストンヘッド21aが排気側上死点ExTDCに位置し、吸気側ピストン22のピストンヘッド22aが吸気側上死点InTDCに位置する状態から、燃焼室23内にて燃料が燃焼すると、排気側ピストン21は図中右方向、吸気側ピストン22は図中左方向に、それぞれ運動する。
【0076】
排気側ピストン21の運動に伴って排気ポート81が部分的に開状態となり、排気ガスExh1が排気流出部82に流出する排気ブローダウンが生じる(このとき吸気ポート86は完全閉状態である)。次いで、吸気側ピストン22の運動に伴って吸気ポート86が部分的に開状態となり、空気Int3がシリンダ20内に流入する。
【0077】
その後、
図2における符号2002で示す図のように、排気側ピストン21のピストンヘッド21aが排気側下死点ExBDCに位置し、吸気側ピストン22のピストンヘッド22aが吸気側下死点InBDCに位置する状態となる。
【0078】
ここで、シリンダ20の長手方向をx軸方向とし、該x軸方向における中心位置CPに近づく方向を上、中心位置CPから遠ざかる方向を下と規定する。x軸方向において、排気ポート81の下端部(中心位置CPから最も遠い端部)の位置をExP1とし、排気ポート81の上端部(中心位置CPに最も近い端部)の位置をExP2とする。また、x軸方向において、吸気ポート86の下端部(中心位置CPから最も遠い端部)の位置をInP1とし、吸気ポート86の上端部(中心位置CPに最も近い端部)の位置をInP2とする。
【0079】
x軸方向において、排気ポート81の上端部の位置ExP2と排気側下死点ExBDCとの距離を排気ポート81の高さH1とし、吸気ポート86の上端部の位置InP2と吸気側下死点InBDCとの距離を吸気ポート86の高さH2とする。
【0080】
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aでは、x軸方向において、排気側下死点ExBDCと排気ポート81の下端部の位置ExP1とが同一または略同一であり、吸気側下死点InBDCと吸気ポート86の下端部の位置InP1とが同一または略同一である。なお、排気側ピストン21および吸気側ピストン22のピストン上面が平面ではない場合、ピストンヘッドにおけるトップランドの上端面の位置をピストン上面の位置として、排気側下死点ExBDCおよび吸気側下死点InBDCの位置を決定する。
【0081】
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、排気ポート81の高さH1が吸気ポート86の高さH2の2倍強となっている。これにより、対向ピストンエンジン1Aの動作中において、吸気ポート86が開状態となっている期間よりも排気ポート81が開状態となっている期間の方が長くなっている。排気ポート81の高さH1は、吸気ポート86の高さH2の2倍以上となっていることが好ましく、吸気ポート86の高さH2の例えば2倍以上3倍以下となっていてもよい。この上限値は、圧縮比の確保、構造上の制約、等の観点から規定され得る値であって、必須の限定事項ではない。
【0082】
本実施形態の対向ピストンエンジン1Aは、排気側ピストン21と吸気側ピストン22との間の容積が膨張する行程と、排気側ピストン21と吸気側ピストン22との間の容積が収縮する行程と、の2行程(ストローク)にて1サイクル動作する。膨張の終期と圧縮の初期にかけて、シリンダ20内の空気を排気するとともにシリンダ20内に新気を吸気する、掃気期間が存在する。
【0083】
(1.排気側クランクシャフトと吸気側クランクシャフトとの回転角の位相差)
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、位相可変部材75によって、排気側クランクシャフト31の回転の位相が吸気側クランクシャフト32の回転の位相よりも遅角するようになっている。このことについて、
図3を用いて以下に説明する。
【0084】
図3は、対向ピストンエンジン1Aの動作中における、排気ポート81および吸気ポート86の開閉タイミングについて、燃焼室23の容積が最小となる時点を0°(基準)とするクランク角度に基づいて示すグラフである。燃焼室23の容積が最小となる時点とは、換言すれば、排気側ピストン21と吸気側ピストン22とが、それぞれ上死点近傍に位置し、互いに最も近づいた時点である。上記の基準によれば、排気側クランクシャフト31の回転と吸気側クランクシャフト32の回転との位相差に関わらず、排気側クランクシャフト31および吸気側クランクシャフト32の回転について、排気側クランクシャフト31および吸気側クランクシャフト32に共通のクランク角度(以下、最小容積基準クランク角度と称する)によって表すことができる。
【0085】
図3において、横軸は、最小容積基準クランク角度であって、0°〜180°が膨張行程、180°〜360°が圧縮行程に対応し、0°は燃焼室23の容積が最小となる状態である。なお、180°は燃焼室23の容積が最大になる状態である。換言すれば、
図3の横軸における左から右へと向かう方向は、時間の経過に対応する。また、
図3において、縦軸は、排気ポート81または吸気ポート86のポート開口面積を示している。
図3のグラフG1は排気ポート81に対応し、グラフG2は吸気ポート86に対応する。
【0086】
図3に示すように、上に凸の形状を有するグラフG1の頂点の位置は180°より大きく、同じく上に凸の形状を有するグラフG2の頂点の位置は180°よりも小さくなっており、本実施形態ではそれぞれ183°、177°である。グラフG2における頂点の位置は、吸気側クランクシャフト32の回転に対応して吸気側ピストン22が吸気側下死点InBDCに位置する状態であり、最小容積基準クランク角度では177°で示されているが、吸気側クランクシャフト32の回転の位相角で表せば180°に対応する。
【0087】
吸気側クランクシャフト32の回転に対応して吸気側ピストン22が吸気側下死点InBDCに位置する状態(最小容積基準クランク角度が177°の状態)から、両クランクが6°回転する(時間が経過する)と、排気側クランクシャフト31の回転に対応して排気側ピストン21が排気側下死点ExBDCに位置する状態になってグラフG1の頂点の位置になる。すなわち、排気側クランクシャフト31の回転の位相角が吸気側クランクシャフト32の回転の位相角よりも6°遅角している。
【0088】
なお、本実施形態における対向ピストンエンジン1Aにおいて、吸気側クランクシャフト32の回転の位相角に対して排気側クランクシャフト31の回転の位相角が遅角している位相差PS1は、6°に限定されず、例えば、0°より大きく以上15°以下であってよく、5°以上10°以下であることが好ましい。5°以上10°以下の場合、上記位相差PS1を設けることによる効果を比較的高いものとすることができる。また、位相差PS1が15°を超えると、上記位相差PS1を設けることによる効果が小さくなり得る。
【0089】
ここで、
図3の横軸を時間とみなして、以下のように用語を定義する。すなわち、グラフG1の立ち上がりの位置(約110°)からグラフG2の立ち上がりの位置(約130°)までの間を、排気ポート81が開き始めている(開放面積が増大しつつある)一方で吸気ポート86は完全閉状態となっているブローダウン期間(第1の期間)T1とする。そして、グラフG2の立ち上がりの位置からグラフG2のポート面積が0となる位置(約230°)までの間を、排気ポート81および吸気ポート86の両方が開状態となっておりシリンダ20内に新気が流入して掃気される主掃気期間T2とする。さらに、グラフG2のポート面積が0となる位置からグラフG1のポート面積が0となる位置(約260°)までの間を、吸気ポート86が完全閉状態となっている一方で排気ポート81は閉まる途中であり(開放面積が減少しつつあり)完全閉状態となっていない副掃気期間(第2の期間)T3とする。副掃気期間T3では、排気ポート81を介した排気によってシリンダ20内の気体が更に掃気可能である。
【0090】
一般に、副掃気期間T3は、排気側ピストン21および吸気側ピストン22の動作によってシリンダ20内の空気が押し出されて排気が生じ得る期間であるが、その効果は限定的であると考えられることから重視されていない。前述のように、従来技術においては、ブローダウン期間T1および主掃気期間T2を長くし、副掃気期間T3は設けられていないことがある。そして、前述の従来技術では、排気側クランクシャフト31を吸気側クランクシャフト32よりも進角していた。
【0091】
これに対し、本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、副掃気期間T3を設けているとともに、排気側クランクシャフト31を吸気側クランクシャフト32よりも遅角している。そして、前述のように、排気ポート81の高さH1は、吸気ポート86の高さH2の2倍以上となっている。これにより、副掃気期間T3がブローダウン期間T1よりも長くなっている。
【0092】
(2.排気流路の長さ)
さらに、本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、副掃気期間T3において、排気流路の負圧波を用いて、シリンダ20内の排気を効果的に行うようになっている。この点について、
図4〜6を用いて以下に説明する。
【0093】
図4における符号4001で示す図は、最小容積基準クランク角度に対応する、シリンダ20、排気ポート81、および吸気ポート86のそれぞれの圧力を示すグラフであり、符号4002で示す図は、上記グラフの要部拡大図である。
図4において、本実施形態における対向ピストンエンジン1A(本発明例)に対応する線を実線にて示し、比較例として排気側クランクシャフト31および吸気側クランクシャフト32の回転に位相差がなく、かつ一般的な短い排気管の長さ(例えば200mm)とした例を破線にて示している。なお、
図4に示すグラフは、エンジン性能シミュレーション(詳しくは後述)の結果について示しており、このことは、本明細書において以下に説明する図でも同様である。
図4では、発明例および比較例のエンジン回転数はそれぞれ2400rpmとし、対向ピストンエンジン1Aの排気管83の長さ(排気流路の長さExL)は1000mmとした例について示している。
【0094】
図4に示すように、本実施形態における対向ピストンエンジン1Aでは、副掃気期間T3においてシリンダ20内の圧力が比較例に比べて効果的に低下していることがわかる。これは、上述のように、副掃気期間T3において排気ポート81(排気流出部82とも言える)に排気の負圧波が到達するように排気流路の長さExLが設定されていることによる。
【0095】
具体的には、
図4における符号4001で示す図のように、ブローダウン期間T1において、排気ポート81に大きな排気のブローダウン圧力が生じる。この排気のブローダウン圧力は、排気流出部82および排気管83を通じて、触媒コンバータ84に到達する。排気のブローダウン圧力が触媒コンバータ84により反射されることによって、負圧波が形成され、その負圧波が排気管83および排気流出部82を通じて排気ポート81に到達する。通常、排気のブローダウン圧力および負圧波は音速で伝播する。
図4に示す例では、副掃気期間T3において、排気ポート81に負圧波の第2波が到達している(圧力波が排気管83内を2往復している)。
【0096】
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、主要な運転領域での運転中に、負圧波の第n波(nは1以上の整数)のうちいずれか1つが、副掃気期間T3内に排気ポート81に到達するように排気流路の長さExLが設定されている。これにより、掃気効率を効果的に高めることができ、シリンダ20内の圧力が効果的に低下する。上記負圧波の第n波と排気流路の長さExLとの関係について、
図5に基づいて以下に説明する。
【0097】
図5は、最小容積基準クランク角度に対応する排気管83の入口(すなわち排気流出部82または排気ポート81)における圧力を示す図であって、図中、排気の流れる方向に進行する圧力波(進行波)の圧力を点線、下流から上流に向かう方向の圧力波(後退波)の圧力を破線、上記進行波と後退波とが重なって生じた圧力を直線で示している。なお、進行波および後退波の圧力は、シミュレーションの過程で算出される圧力である。進行波の圧力および後退波の圧力が合わさって、排気管83の入口における合計圧力となる。この合計圧力は、例えば排気管83の入口に圧力センサを設置した場合に、該圧力センサで測定される値であると言える。排気ポート81における排気の流れは、上記合計圧力とシリンダ20内の圧力との差によって生じる。
【0098】
また、
図4と同様に、エンジン回転数は2400rpmとし、排気管83の長さ(排気流路の長さExL)は1000mmとした例について示している。
【0099】
ここで、エンジン回転数が2400rpmの場合、最小容積基準クランク角度が50°進行することは、換算すると時間が3.5ms経過することに相当する。そして、排気の温度を500℃と仮定すると、この温度に対応する音速は550m/sとなり、排気管83内の圧力波は、最小容積基準クランク角度が50°進行する間に排気管83内を約1.9m伝播する。
【0100】
図5に示すように、大きなブローダウン圧力が発生した時点から最小容積基準クランク角度が約50°進んだ時点において、圧力波が排気管83内を往復して、排気管83の入口に負圧波の第1波が到達していることがわかる。そして、最小容積基準クランク角度がさらに約50°進んだ時点(副掃気期間T3)において、排気管83の入口に負圧波の第2波が到達していることがわかる。
【0101】
例えば、エンジン回転数および排気管83の長さを変更することによって、副掃気期間T3において、排気管83の入口に負圧波の第1波または第3波が到達するようにすることも可能である。
【0102】
図6は、エンジン回転数が2400rpmの条件で、排気管83の長さを変えた場合の熱効率およびCA50の変化について示す図である。CA50とは燃焼割合が50%となる最小容積基準クランク角度である。CA50は、燃焼室23での燃料の点火時期と関連し、一般に、ノッキングが発生しにくい条件では、点火進角できるのでCA50の値は小さくなる。また、CA50が8度程度の場合に熱効率が最良になる。
【0103】
図6に示すように、排気管83の長さが約700mm、約1000mm、または約2000mmの場合に、熱効率が比較的高くなっている(上に凸のグラフになっている)ことがわかる。排気管83の長さが約2000mmであることは、副掃気期間T3において、排気管83の入口に負圧波の第1波が到達することに対応している。すなわち、副掃気期間T3において、排気管83の入口に負圧波の第n波(nは1以上の整数)のうちいずれか1つが到達するようになっていることで、熱効率が向上することがわかる。
【0104】
また、副掃気期間T3において、排気管83の入口に負圧波の第n波(nは1以上の整数)のうちいずれか1つが到達するようになっていることにより、CA50の値を比較的小さくすることができる(点火時期を早めることができる)ことがわかる。
【0105】
本発明の一態様における対向ピストンエンジン1Aとしては、副掃気期間T3において、負圧波の第1波または負圧波の第2波が排気管83の入口に到達するようになっていることが好ましい。これにより、負圧波の第3波を利用する場合よりも熱効率を高くすることができる。そして、例えば、排気管83の長さを長くしたり利用するエンジン回転数を高くしたりすることによって、副掃気期間T3において、排気管83の入口に負圧波の第1波が到達するようにすれば、熱効率をより一層向上させることができる。
【0106】
例えば、排気管83の長さが1000mmであれば、エンジン回転数を4800rpmとすると、副掃気期間T3において、排気管83の入口に負圧波の第1波が到達する。また、エンジン回転数を1600rpmとすると、副掃気期間T3において、排気管83の入口に負圧波の第3波が到達する。
【0107】
負圧波の第n波におけるnは、好ましくは3以下の整数であり、より好ましくは1または2である。なお、例えば自動車等への用途としては、排気管83の長さには構造上の制約があり、また、エンジン回転数を高くすると熱効率が悪化する。そのため、負圧波の第2波を利用することが好ましい。すなわち、対向ピストンエンジン1Aは、排気管83が、主要な運転領域での運転中に、負圧波の第2波が、副掃気期間T3に排気ポート81に到達するような長さの排気流路を形成していることが好ましい。
【0108】
(本実施形態の対向ピストンエンジンの利点)
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aの利点について、
図7を用いて以下に説明する。
図7における符号7001で示す図は、エンジンのサイクルにおけるシリンダ20内の容積および圧力を示すグラフであり、符号7002で示す図は、上記グラフの要部拡大図である。また、
図7における符号7003で示す図は、最小容積基準クランク角度に対応する、シリンダ20内の温度を示すグラフである。
【0109】
図7において、本発明例1として本実施形態における対向ピストンエンジン1Aに対応する線を実線にて示している。本発明例2として排気側クランクシャフト31および吸気側クランクシャフト32の回転に位相差がない一方で、排気管83の構成(1000mmの長さ)を採用した例を白抜き破線にて示している。本発明例3として排気側クランクシャフト31が吸気側クランクシャフト32に対して遅角している一方で、一般的な排気管の長さ(200mmの長さ)とした例を点線にて示している。また、比較例1として排気側クランクシャフト31および吸気側クランクシャフト32の回転に位相差がなく一般的な排気管の長さとした例を破線にて示している。
【0110】
図7に示すように、本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、非常に高い幾何学的圧縮比(容積比と略同義)でありながら、排気ポート81が比較的遅く閉じることにより、排気ポート81が完全閉状態となった時点におけるシリンダ20内の容積が減少し、有効圧縮比が低下する。そして、排気側クランクシャフト31が吸気側クランクシャフト32に対して遅角していることにより、排気ポート81が開き始めるタイミングが少し遅れる。これにより、位相差の設定に伴って容積比が低下することによる膨張比の低下を防止することができる。例えば位相差が0の場合に容積比が24.5であるとすると、位相差を6°に設定した場合の容積比は24.0となるが、位相差が0の場合より膨張比はわずかに増加する。具体的には、位相差が0の場合には有効圧縮比および膨張比はともに17.9である。これに対し、位相差を6°に設定した場合の有効圧縮比は17.5、膨張比は18.1となる。
【0111】
ここで、本明細書において、吸気および排気の動的効果の影響を加味した実質的な圧縮比を「等価圧縮比」と称する。この等価圧縮比は、排気ポート81が完全閉状態となった時点のシリンダ20内の容積に基づく有効圧縮比よりも少し低い値となる。一般に、有効圧縮比によって性能が評価されるようなレシプロエンジンを、ミラーサイクルエンジンと称することがある。本実施形態における対向ピストンエンジン1Aについても、レシプロエンジンと同様にミラーサイクルという用語を使用して説明することとし、「幾何学的圧縮比の値」に対する「等価圧縮比の値」の比をミラーサイクル比と称する。
【0112】
例えば、シリンダ20内の圧力が給気部87の圧力(例えば1.41バール)と同等になった時点を基準とし、シリンダ20内の最大容積をVmaxとすると、本実施形態の対向ピストンエンジン1Aでは、シリンダ20内の容積Vが0.6Vmaxとなった時点が基準となり、この場合、ミラーサイクル比は0.6である。例えば、対向ピストンエンジン1Aの容積比が24.0であるとすると、等価圧縮比は14.4となる。
【0113】
対向ピストンエンジン1Aは、副掃気期間T3において、ブローダウン圧力が反射した負圧波が排気ポートに到達して筒内圧力を低下する結果、上記のように等価圧縮比が効果的に低下する。そして、主掃気期間T2の後半および副掃気期間T3の間において、新気が吹き抜ける(例えば10%)ように掃気をすることにより、残留ガスを低減することができ、残留ガス量を例えば3%以下、好ましくは2.5%以下とすることができる。これにより、
図7において符号7003で示す図のように、シリンダ20内の温度が低下するので、ノッキングの発生を回避して好適に燃料を燃焼することができる。
【0114】
より詳しくは、
図7に示すように、圧縮上死点近傍の温度を比較すると、本発明の一態様における対向ピストンエンジン1A(本発明例1)では比較例より温度が低下している。そして、燃焼温度が上昇する時期を見ると、本発明例1では、点火時期リタードが生じることなく、適正な燃焼時期とすることができ、高容積比の利点を生かしてエンジン動作が可能であることがわかる。
【0115】
また、本発明例2、3では、点火リタードが生じることなく、本発明例1よりも少し熱効率が低いが、好適な燃焼を行うことができる。
【0116】
一方で、排気側クランクシャフト31および吸気側クランクシャフト32の回転に位相差がなく、一般的な排気管の長さとしたこと以外は、本発明例1と同様の構成を有する比較例では、高容積比であることからシリンダ20内の圧力および温度が高くなり、ノッキングの発生を回避するために点火時期リタードが生じている。そのため、燃焼時期が遅れることに伴って熱効率が低下する。
【0117】
以上のように、本発明の一態様における対向ピストンエンジンによれば、熱効率の高い運転領域(例えば2400rpm)での運転時における、熱効率(正味熱効率)を更に向上させることができる。具体的には、比較例に比べて、発明例2,3は熱効率が4〜5%向上し、発明例1では熱効率が8%向上した。
【0118】
例えばシリーズ方式のハイブリッド車に搭載されるエンジンとしては、最高速や登坂走行を維持できる連続高出力運転も求められる。本発明の一態様における対向ピストンエンジンは、熱効率の高い運転領域(例えば2400rpm)以外の運転領域(例えば高出力運転時)であっても、負圧波の第1波を利用したり、排気クランクの遅角を最適化したりすることによって、高容積比および低S/V比であることを利用して、従来のレシプロエンジンと同等またはそれ以上の熱効率にて運転することもできる。
【0119】
(シミュレーション結果)
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aに関するシミュレーション結果について、以下に説明する。
【0120】
本発明者らは、エンジン性能シミュレーションツール(GT-POWER)を用いるとともに、条件最適化の支援ツール(modeFRONTIER)を用いた。その際、外部冷却EGRを採用するとともに、Wiebeの燃焼モデルにおける10−90燃焼期間をCA50の関数として設定した。また、ノッキング予測モデルを用いて、ノッキングを発生しない条件で最小燃費率を得るCA50を設定した。
【0121】
対向ピストンエンジンのボアを86mm、各ピストンのストロークを103mmに設定した(この場合、幾何学的排気量は1196ccとなる)。GT-POWERの掃気モデルは、上記のボアおよびストロークに近い条件の対向ピストンエンジンに関する技術文献(Mattarelli, E., et al., "Scavenge Ports Ooptimization of a 2-Stroke Opposed Piston Diesel Engine", SAE Technical Paper 2017-24-0167, 2017年9月4日, 〈DOI:https://doi.org/10.4271/2017-24-0167〉)のシミュレーション結果を引用し、一次元モデルにより計算した。燃費率(BSFC)を最小化することを目的関数とし、10の変数について、ノッキングが発生しないという制約条件下で遺伝アルゴリズムを用いて最適化を行った。上記変数について、下表1において※を付記して示している。
【0122】
本発明者らは、本シミュレーションを行う過程において、従来のように排気クランクの回転の位相が吸気クランクの回転よりも進角している条件範囲で検討を行った結果、クランク位相差が0である条件にて良い結果が得られることがわかった。そして、本発明者らは、従来とは逆に、排気クランクの回転の位相が遅角している条件も含むように条件範囲を変更して鋭意検討を行った結果、排気クランクの回転の位相が遅角している条件が適正であることを見出した。
【0123】
シミュレーションにより得られた結果を下記表1に示す。なお、表1に示していないパラメータについては、一般的な値またはシミュレーションにより収束した一定の値に固定した(例えば排気管径は50mm)。
【0125】
表1に示すように、非常に高い幾何学的圧縮比(24.5)を有する対向ピストンエンジンについて、排気側クランクシャフト31の回転の位相角を吸気側クランクシャフト32よりも6°遅角し(これにより容積比は24.0となっている)、排気管83の長さExLを1000mmと長くし、排気ポート81の高さH1を吸気ポート86の高さH2の2倍以上とすることにより、容積比と比べて低い等価圧縮比(約14)とすることができる(前述の
図4〜7に基づく説明を参照)。そのため、ノッキングの発生を抑制しつつ高い膨張比にて運転することができる。
【0126】
また、機械式過給機61によるトラップ率(供給した新気のうちシリンダ内に取り込んだ割合)が90.7%であり、シリンダ20内を新気が約10%吹き抜けるような掃気となっている。その結果、シリンダ20内の残留ガスが2.4%と極めて低い値になっている。
【0127】
その結果、
図7に示すような本発明例1のPV線図となり、正味平均有効圧(BMEP)が7.7barの条件で、高い最大熱効率48%となった。これに対し、
図7に示す比較例では、ノッキングを避けるために大幅に点火時期を遅角しているために、BMEP7.1barで最大熱効率が44%に低下してしまう。
【0128】
(その他の構成)
上記表1に示すように、給気部87の容積は、排気流出部82の容積よりも大きくなっていることが好ましい。これは、排気ポート81につながる排気流出部82は、ブローダウン圧力を減衰しないために比較的小さな容積であることが好ましく、吸気ポート86につながる給気部87は、ある程度の容積を確保して吸気しやすいようにすることが好ましいためである。
【0129】
また、
図1に示すように、対向ピストンエンジン1Aは、シリンダオフセットを有する構造となっていてもよい。
図2および
図3を用いた説明では、平明化のためにシリンダオフセットが無い場合の対向ピストンエンジン1Aについて説明した。シリンダオフセットを有する構造であるとは、例えば、
図1の符号1002で示す図において、排気側クランクシャフト31および吸気側クランクシャフト32の回転中心を結ぶ線が、シリンダ20の長手方向の中心軸よりも、紙面の下側にずれた構造となっていることを意味する。
【0130】
なお、
図1の符号1002で示す図では、排気側コンロッド26が水平であるのに対して吸気側コンロッド27が水平よりも少し右に傾いており、このことが、排気側クランクシャフト31の回転の位相が吸気側クランクシャフト32の回転の位相よりも遅角していることに対応している。
【0131】
(変形例)
(a)対向ピストンエンジン1Aでは、x軸方向において、排気側下死点ExBDCと排気ポート81の一方の端部の位置ExP1とが略同一であり、吸気側下死点InBDCと吸気ポート86の一方の端部の位置InP1とが略同一であるが、これに限定されない。
図2を参照して、本発明の一態様における対向ピストンエンジンは、x軸方向において、排気ポート81の下端部の位置ExP1が排気側下死点ExBDCよりも中心位置CPに近く位置するようになっていてもよく、吸気ポート86の下端部の位置InP1が吸気側下死点InBDCよりも中心位置CPに近く位置するようになっていてもよい。
【0132】
(b)本発明の一態様における対向ピストンエンジンは、過給機として、機械式過給機61の代わりに、排気の流れを利用するターボチャージャーを備える構成であってもよく、電磁駆動の過給機を備える構成であってもよく、それらを組み合わせた構成であってもよい。過給機は、給気部87に空気を圧送することができればよく、具体的な構成は特に限定されない。
【0133】
(c)本発明の一態様における対向ピストンエンジンは、ディーゼルエンジンに適用してもよく、この場合はノッキングを避けるのではなく、燃焼温度を低下してNOx排出量を低下するために好適に利用し得る。また、燃料は例えば軽油であり、シリンダ20内に点火プラグ29が設けられていなくてもよく、点火プラグ29の代わりにシリンダ20内の予熱用にグロープラグが設けられていてもよい。また、本発明の一態様における対向ピストンエンジンは、燃料として、水素を含む混合燃料、バイオエタノール燃料、その他の燃料、等を用いてもよく、燃料の種類に対応するように公知の燃焼方式となっていればよい。
【0134】
(d)対向ピストンエンジン1Aでは、排気流出部82および給気部87がシリンダ20の周囲に環状に形成されており、複数の開口としての排気ポート81および吸気ポート86がシリンダ20の周方向に配列して設けられている構成であったが、これに限定されない。排気流出部82は排気ポート81を介して排気が流出する空間を形成していればよく、給気部87は例えば過給機から圧送された空気を吸気ポート86に導く空間を形成していればよく、排気流出部82および給気部87の具体的な形状は特に限定されない。
【0135】
(e)燃焼室23内における燃料の燃焼方式は特に限定されず、例えばレーザー点火を用いて実現してもよい。
【0136】
(f)上記実施形態1では、対向ピストンエンジン1Aが各種の補機を含むように説明を行ったが、これに限定されない。対向ピストンエンジン1Aと各種の補機とを含む構成は動力発生機構と表現することもできる。
【0137】
(g)上記実施形態1では、排気管83は別部材としての触媒コンバータ84に接続されていたが、これに限定されない。本発明の一態様における対向ピストンエンジンは、例えばモーターサイクルに搭載される用途であって、別部材としてのチャンバーに排気管83が接続されていてもよい。この場合、チャンバーの中に触媒を格納することもできる。
【0138】
(h)本発明の一態様における対向ピストンエンジンは、必ずしも位相可変部材75を備えていなくてもよい。この場合、吸気側クランクシャフト32における第1の回転方向の回転と、排気側クランクシャフト31における第2の回転方向の回転とは連動するようになっており、吸気側クランクシャフト32の回転と排気側クランクシャフト31の回転との互いの位相関係を決定する回転伝達機構を備えていればよい。
【0139】
この回転伝達機構は、吸気側クランクシャフト32の回転を伝達する各部(例えばフライホイール42a、増速チェーン57、チェーン受け部52b、回転軸12a、連動ギア72)、および排気側クランクシャフト31の回転を伝達する各部(例えばフライホイール41a、増速チェーン56、チェーン受け部52a、回転軸11a、連動ギア71)を含み、具体的な構成は限定されない。
【0140】
回転伝達機構において、例えば連動ギア71と連動ギア72との歯の噛み合わせによって、吸気側クランクシャフト32の回転と排気側クランクシャフト31の回転との互いの位相関係を決定してもよい。
【0141】
或いは、例えば回転軸11aと連動ギア71との結合ピンまたはキイの位相を変えてもよく、チェーンスプロケットの取り付け角を変えてもよい。回転伝達機構において、歯車を決めた角度で固定できるようになっていればよい。
【0142】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0143】
本実施形態における発電装置10Bを備えるシリーズ方式のハイブリッド車のパワートレインについて
図8に基づいて説明する。
図8は、発電装置10Bを備えるシリーズ方式のパワートレイン90の概略的な構成を示す図である。
【0144】
図8に示すように、パワートレイン90は、発電装置10B、パワーコントロールユニット(PCU)7、バッテリー8、および駆動モータ9を備えている。発電装置10Bは、対向ピストンエンジン1Bと発電モータ11および発電モータ12と筐体3とを含む。対向ピストンエンジン1B、発電モータ11、および発電モータ12は、図示しない支持構造体によって筐体3に剛体結合されている。
【0145】
対向ピストンエンジン1Bは、前記実施形態1における対向ピストンエンジン1Aに加えて、エンジン動作によって出力されるトルクを検出する検出部91、および、検出部91の検出結果に基づいて位相可変部材75を制御する位相制御装置92を備えている。
【0146】
検出部91は、エンジン動作によって出力されるトルクを検出することに限定されず、エンジンの動作にかかる負荷を検出するようになっていてもよい。例えば、一定の回転数で運転している状態において、上記トルクと上記負荷とは互いに釣り合っている。また、検出部91は、トルクの代わりに燃料噴射量を検出してもよい。
【0147】
位相制御装置92は、検出部91によって検出された前記負荷または前記トルクの値が所定値よりも低い場合、例えば排気側クランクシャフト31の回転の位相と吸気側クランクシャフト32の回転の位相との位相差が0に近づくように、位相可変部材75を制御する。結果として容積比および有効圧縮比が高まるので、希薄燃焼や大量EGRの場合も燃焼速度が速くなって熱効率が向上する。上記所定値は、具体的な値は特に限定されるものではなく、適宜設定された値であってよい。
【0148】
位相制御装置92は、位相可変部材75を連続的に制御してもよく、段階的に制御してもよい。また、位相制御装置92は、前記負荷または前記トルクの値が所定値よりも低いことが検出されたことに基づいて、位相可変部材75を1回だけ制御してもよく、前記負荷または前記トルクの値の変化に対応して複数回制御するようになっていてもよい。
【0149】
位相制御装置92は、例えば、正味平均有効圧(BMEP)が5bar以下となった場合に、前記負荷または前記トルクの値の変化に応じて、位相可変部材75を連続的に、位相差が0になるまで制御するようになっていてもよい。
【0150】
PCU7は、インバータおよびコンバータ等の各種の電気制御系を含んでいるとともに、駆動モータ9の制御等を行う。発電モータ11・12にて発生した電力はPCU7を介してバッテリー8に充電される。PCU7は、バッテリー8から給電される電力を用いて駆動モータ9を動作させる。駆動モータ9は図示しない駆動ユニットを介して車両の車輪を駆動する。
【0151】
発電モータ11・12、PCU7、バッテリー8、および駆動モータ9は、シリーズ方式のハイブリッド車のパワートレインが備える公知の機器を用いることができる。また、検出部91および位相制御装置92としては、公知の機器を用いることができる。そのため、記載の冗長化を避けるために、これらに関する詳細な説明は省略する。
【0152】
〔附記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。