【実施例】
【0019】
以下、図面を用いて、少フレーム画像から多フレーム画像を推定する方法、非一時的コンピューター可読媒体、及びシステムについて説明する。
【0020】
図1は、荷電粒子線装置の構成例を示す図である。
図1に例示するように、荷電粒子線装置100は、大きく分ければ荷電粒子光学系装置10と、制御コンピューター20とを含んでいる。荷電粒子光学系装置10は、荷電粒子源1、集束レンズ3、偏向レンズ4、対物レンズ5、二次電子検出器6などを含んでいる。
【0021】
荷電粒子源1から放出された荷電粒子ビーム2を、集束レンズ3で集束させ、更に偏向器4で走査、偏向させ、対物レンズ5で試料8の表面に集束させる。試料8は、試料ステージ7上に搭載されている。
【0022】
偏向器7による荷電粒子ビーム2の走査によって、試料から二次電子9や後方散乱電子が放出され、これら電子は二次電子検出器6(或いは図示しない後方散乱電子検出器)によって検出される。
【0023】
そして、二次電子検出器6によって検出された二次電子9は、二次電子検出器6内に設けられたシンチレータによって光に変換され、ライトガイドを通じて光電子増倍管に導かれ、そこで光の強度に応じた光電子に変換された後、ダイノードに衝突する。ダイノードは二次電子放出効率の高い物質が塗布された電極で、二次電子信号の増幅が可能である。増幅された信号は、信号電流(検出信号)として取り出される。更に、の検出信号は、図示しない増幅器、A/D(Analog to Digital)変換器などを介して画像処理装置22へ送信される。画像処理装置22は、二次電子検出器6からの検出信号と偏向器4の走査制御信号とに基づいて、試料8表面の二次電子9に基づく画像を、観察画像として生成するとともに、生成した観察画像を表示装置23に表示する。
【0024】
制御コンピューター20は、試料8のパターン設計についての設計データ21(例えばCADデータや設計データに基づいて生成されるレイアウトデータ)を含む情報を記憶した記憶装置を有するとともに、画像処理装置22、表示装置23、キーボード、マウスなど入力装置24に接続され、さらに、図示しない制御装置を介して荷電粒子光学系装置10に接続されている。
【0025】
このとき、制御コンピューター20は、入力装置24を介してユーザが入力する観察画像取得のための様々な情報(観察領域、倍率、明るさなど)を取得して、その情報に基づき、前記した図示しない制御装置を介して、荷電粒子光学系装置10内の荷電粒子源1、集束レンズ3、偏向器4、対物レンズ5、試料ステージ7などの動作を制御する。また、制御コンピューター20は、画像処理装置22により生成された観察画像に対し、さらに処理を加えて、より高度な観察、測長、検査のための画像を生成し、その結果を表示装置23に表示する。
【0026】
画像処理装置22では、複数の走査によって得られた画像信号の積算を行い、積算画像を生成し、その積算画像を、表示装置23に表示する。
【0027】
図2は荷電粒子線装置100(画像生成ツール)と、データ処理システム101を含むシステム例を示す図である。荷電粒子線装置100と、データ処理システム101は例えばLANにて接続される。データ処理システム101は、機械学習部102と画像推定部103を含んでいる。荷電粒子線装置100から画像ファイル104がデータ処理システム101に転送される仕組みとする。複数台の荷電粒子線装置100と、データ処理システム101を接続するようにしても良い。機械学習部102は、データ処理システム101に機械学習データ105を蓄積し、画像推定部103は機械学習データ105を参照するように構成されている。
【0028】
荷電粒子線装置100と機械学習部102にて実行する学習器(学習モデル)の学習工程を、
図3に例示するフローチャートを用いて説明する。
【0029】
まず、電子顕微鏡の試料室(真空チャンバ)に試料導入(S101)し、所定のパターンに視野合わせ(S102)を行い、フレーム数f1でビーム走査(S103)してフレーム数f1の画像形成(S104)を行う。複数回(複数フレーム)の走査によって得られた画像信号を積算して、積算画像を生成する。ここで得られるのが多フレーム画像である。
【0030】
次にフレーム数f2(f1>f2)でビーム走査(S105)し、フレーム数f2の画像形成(S106)を行う。ここでは(S103)でのフレーム数より、ビーム走査数を少なくする。ここで得られるのが低フレーム画像である。
【0031】
データ処理システム101に含まれる機械学習部102は、荷電粒子線装置100から送信される、2種類の走査に基づいて得られる画像信号をそれぞれ合成したフレーム数f1とf2の画像を受信する。機械学習部102はフレーム数f1の画像を正解画像(出力)、フレームf2の画像を元画像(入力)として機械学習(S108)を行う。この学習結果は機械学習データ105に蓄積される。荷電粒子線装置100からフレーム数f1とf2の画像を送信(S107)する方法に特に制限はなく、既存の種々の送信技術の適用が可能である。フレーム数f1とf2の画像データのセットは、教師データとして所定の記憶媒体に記憶され、学習器の学習に供される。
【0032】
次に、上述のような学習が施された学習器を用いた画像推定工程を、
図4に例示するフローチャートを用いて説明する。荷電粒子線装置100の試料室内に、評価対象となる試料を導入した後、試料ステージ7や視野移動用の偏向器を用いて、所定の対象パターンに視野(電子ビームの走査領域)を位置付け(S201)、フレーム数f2でビーム走査を行うことによって、フレーム数f2の画像を生成する(フレーム数が1より大きい場合は積算画像を生成)(S202、203)。
【0033】
荷電粒子線装置100は、フレーム数f2の走査によって得られた画像データを、画像推定部103に送信する(S204)。フレーム数f2の画像は、フレーム数f1の画像に対し、相対的に少フレームの画像である。この少フレーム画像を元画像(入力)とする。画像推定部103では、入力された元画像から機械学習データ105を用いて、多フレーム(f1)画像を推定する(S205)。この推定画像が、本来、多くのフレーム画像を積算して得られる多フレーム画像に相当する。
【0034】
入力画像が1以上の少ないフレームの画像であったとしても、多フレームの積算画像を用いた計測、検査と同等の精度で計測・検査を行うことができる。
【0035】
なお、教師データ(入力画像と出力画像のデータセット)を生成する際に、ビーム照射に起因するシュリンクや帯電のないタイミングでの走査に基づいて、画像を生成することが望ましい。より具体的には、シュリンクが発生する撮像の初期段階と、ビーム照射によって帯電が蓄積し、その影響が顕著になると考えられる撮像の最後の段階以外の撮像段階で得られる画像信号から、教師データを生成することが望ましい。具体的には、例えば全走査の中で、最初のoフレーム(oは1以上の整数)の走査によって得られる画像信号を含めないで(除外して)積算画像を生成することが考えられる。また、全走査回数の最後のpフレーム(pは1以上の整数)の走査によって得られる画像信号を含めないで積算画像を生成することが考えられる。
【0036】
図5は、撮像回数(撮像の順番:X軸)と、パターンの寸法値(CD値:Y軸)との関係を示す図である。撮像回数とは1フレーム以上の走査に基づいて画像を生成する回数である。図示するように、同一箇所で撮像を繰り返すと撮像初期では電子線照射よるパターンシュリンクが発生し、パターンの寸法が徐々に小さくなる(シュリンク発生期間202)。その後、シュリンクは収まるが、撮像回数が嵩み、蓄積される帯電が大きくなると、その影響でビームが偏向され、寸法値が変動する(帯電の影響が顕著になる期間203)。
【0037】
そこで、機械学習対象期間204を、教師データを生成するための走査期間とすることで、シュリンクや帯電の影響を考慮することなく、学習用データを取得することが可能となる。
【0038】
図6は積算対象となるフレーム数とCD値の関係を示す図である。
図6に例示するように、初期フレーム212ではCD値の変動が大きいので、CD値の変動がある程度緩和した中間フレーム213の走査によって得られる画像信号から正解画像を生成するようにすると良い。CD値の変動が許容できる範囲で、正解画像生成用の範囲を拡げるようにしても良い。
【0039】
図7は、得られた情報から学習モデルを生成し、当該学習モデルを用いてシミュレーション出力(例えば疑似画像)を発生するコンピューターシステムの一例を示す図である。また、コンピューターシステム20は、学習モデルに対して少フレーム画像を入力することによって、多フレーム画像を出力する。学習器として機能するコンピューターシステム20は、予め学習用の少フレーム画像(フレーム数f2)と学習用の多フレーム画像(フレーム数f1(>f2))のセット(教師データ)から、学習モデルを生成する学習部701と、学習モデルを用いて、入力された少フレーム画像から、多フレーム画像に相当する画像を推定する推定部702を含んでいる。
【0040】
学習部701は、所定の記憶媒体に記憶、或いは走査電子顕微鏡等から出力される少フレーム画像(例えばフレーム数f2)のような第1のデータと、多フレーム画像(例えばフレーム数f1(>f2))のような第2のデータから、教師データとなるデータセットを生成し、当該データセットに基づいて学習モデルを生成する。推定部702は、学習部701にて生成された学習モデルを用いて、外部から入力される入力画像(少フレーム画像)から、多フレーム画像を推定する。
【0041】
図8は、
図7に例示するコンピューターシステムを備えた画像生成システムの一例を示す図である。
図8に例示するシステムには、コンピューターシステム20と、バス、或いはネットワークを介して接続される画像生成ツール100(例えば走査電子顕微鏡)と、半導体デバイス等の設計データが記憶されている設計データ記憶媒体1004が含まれている。コンピューターシステム20は、1以上のコンピューターサブシステムによって構成されている。
【0042】
なお、
図8に例示するように、コンピューターシステム20には、コンピューター可読媒体802、当該コンピューター可読媒体802に記憶されている各コンポーネントを実行する処理ユニット801、及び画像生成に必要な条件や学習モデルの取得条件を入力する入出力装置24が含まれている。
【0043】
コンピューター可読媒体802には、例えば入出力装置24から入力される画像生成条件(ビーム照射個所の座標情報、電子ビームの照射条件等)等に基づいて、画像生成ツール100を自動的に動作させる動作プログラム(レシピ)を生成するレシピ生成コンポーネント803、上述の学習モデルを生成するモデル生成コンポーネント804、及び生成されたモデルを用いて画像を推定する推定コンポーネント805が記憶されている。レシピ生成コンポーネント803は、例えば入出力装置24の表示装置に表示されたGUI画面等から入力される画像生成条件に基づいて、レシピを生成する。
【0044】
図9は、入出力装置25の表示画面に表示されるGUI画面の一例を示す図である。
図9に例示するGUI画面は、学習モデル(学習モデルを生成するための教師データ)を生成するための画像取得条件を設定するように構成されている。GUI画面上には、画像生成の対象となるパターン(ターゲット)名、及び当該パターンの座標を設定する設定ウィンドウ(901、902)が設けられている。レシピ生成コンポーネント803は、設定されたパターン名に対応する座標を設計データ記憶媒体21から読み出し、画像生成対象となるパターンに画像生成ツール100の視野が位置付けられるようなステージ等の動作条件を設定する。また、設定ウィンドウ902から入力される座標データに基づいて、ステージ等の動作条件を設定するようにしても良い。
【0045】
設定ウィンドウ903、904、905はそれぞれ電子顕微鏡の視野サイズ(走査領域の大きさ)、ビームの加速電圧、及びビーム電流を設定するために設けられている。レシピ生成コンポーネント803は、これらの設定に基づいて、レシピを生成し、画像生成ツール100に設けられた制御装置は、レシピに設定されたビーム条件でビームを走査するように、走査電子顕微鏡本体を制御する。
【0046】
また、設定ウィンドウ906は、フレーム数を設定するために設けられている。フレーム数とは設定された視野を走査する回数のことであり、
図9に例示するように、フレーム数が128と設定されている場合は、同一の視野に128回の2次元走査が行われる。なお、フレーム数は設定された視野に対するビームの照射量に比例する値であり、フレーム数に替えて、当該設定欄に照射量に応じて変化する他のパラメータ(例えば照射時間、ドーズ量、撮像回数)を設定するようにしても良い。画像生成装置100は、設定された照射量に応じて変化するパラメータに基づいて、試料に対してビームを照射する。
【0047】
設定ウィンドウ907は、荷電粒子線装置に内蔵された検出器の種類を設定するために設けられている。画像生成ツール100には、例えば2次電子(Secondary Electron:SE)を検出するための2次電子検出器と、後方散乱電子(Backscattered Electron:BSE)を検出する後方散乱電子検出器が内蔵されており、必要に応じて、一方或いは両方の検出器を用いた画像生成を行う。
図9の例では、後方散乱電子検出器が選択されており、後方散乱電子の検出に基づいて、機械学習用の学習データを生成する。
【0048】
設定ウィンドウ908、909は、学習用画像データを生成するフレーム数を入力するために設けられている。画像生成ツール100は、設定ウィンドウ908で設定されたフレーム数(5フレーム)と範囲(124フレームから128フレームまで)に基づいて、5フレーム分の画像信号を積算した積算画像を生成し、所定の記憶媒体に記憶させる。また、画像生成ツール100は、設定ウィンドウ909で設定されたフレーム数(124フレーム)と範囲(5フレームから128フレームまで)に基づいて、124フレーム分の画像信号を積算した積算画像を生成し、所定の記憶媒体に記憶させる。
【0049】
なお、
図9のGUI画面では、第1のタイミングの走査(教師データの出力画像を取得するための走査)の対象フレームとして、5〜128フレームが選択され、第2のタイミングの走査(教師データの入力画像を取得するための走査)の対象フレームとして、124〜128が選択されている。コンピューターシステム20は、この2つの設定によって得られた画像のデータセットを、学習器の教師データとして、学習モデルを構築する。
【0050】
なお、データセットを取得するための条件の1つは、出力画像のためのフレーム数より、入力画像のためのフレーム数の方が少ないことである。これは、少フレームの走査によって得られる画像から多フレームの走査によって得られる画像を推定するための学習モデルを構築するためである。
【0051】
また、データセットを取得するための条件の更なる1つは、出力画像を取得するための走査より、入力画像を取得するための走査を後にする、及び出力画像を取得するための走査内の複数の走査の後の走査を、入力画像のための走査とすることの少なくとも一方を含むことである。
【0052】
「出力画像を取得するための走査より、入力画像を取得するための走査を後にする」、とは、例えば総フレーム数が128である場合、出力画像のためのフレームを例えば1〜124と設定し、入力画像のためのフレームを125〜128と設定する場合が含まれる。また、「出力画像を取得するための走査内の複数の走査の後の走査を、入力画像のための走査とする」、とは、
図9のGUI画面で設定されているように、出力画像のためのフレームが5〜128と設定されている場合、5〜128フレーム内の124〜128フレーム(5〜123フレームの走査の後の走査)を、入力画像のための走査とすることを含んでいる。
【0053】
入力画像取得のための走査を、出力画像取得ための走査の後、或いは出力画像取得のための走査の後半とするのは、ビーム照射に起因するパターンのシュリンク状態を、出力画像と入力画像との間で実質的に一致させるためである。入力画像に対して相対的に多フレーム走査を行う出力画像の走査によって、シュリンクを発生させた状態で、少フレーム走査に基づく画像形成を行うことによって、シュリンクの程度が実質的に同じ入力画像と出力画像を形成することが可能となる。
【0054】
なお、
図9に例示するようなGUI画面上で、上記条件とは異なる設定がされたときに、その旨を警告する、或いは上記条件に適合しない設定を禁止するようにしても良い。
【0055】
画像生成ツール100は、選択されなかったフレームの画像信号を含めないで積算画像を生成し、所定の記憶媒体に記憶させ、コンピューターシステム20は、記憶媒体に記憶された画像から学習器を学習させるための教師データを生成する。具体的にはコンピューターシステム20は、5フレームの積算画像を入力、124フレームの積算画像を出力とするデータセットを教師データとして学習器を学習させる。
【0056】
以上のように、複数回のビームの2次元走査を行う画像生成ツールと、画像セットを含む教師データによって学習された学習器を有するコンピューターシステムを含むシステムであって、画像生成ツールは、複数の走査によって得られた画像信号の内、第1のタイミングの複数の走査に基づいて取得された画像信号を積算して第1の画像を生成し、第1のタイミングより後の走査、及び当該第1のタイミング内の複数の走査の後の走査の少なくとも一方の走査に基づいて取得された画像信号から第2の画像を生成し、学習器は、第1の画像と第2の画像を教師データとして学習されているシステムによれば、少フレーム画像から多フレーム画像を再現することが可能となる。
【0057】
また、第1のタイミングより第2のタイミングの走査回数を少なくすることによって、少フレーム走査で得られた積算画像から、多フレーム積算画像を再現することが可能となる。