【解決手段】荷電粒子線装置は、ネットリストのノードと試料SPL上の座標との対応関係を表す対応データ(210)と、試料に荷電粒子線をパルス状に照射する際のパルス化条件(205)等を用いて試料の電気特性を推定する。荷電粒子線光学系(223)は、試料上の所定の座標に対し、パルス化条件に基づく荷電粒子線を照射し、検出器219は、それに応じた電子の放出量を実測する。放出量演算部227は、所定の座標に対応するネットリスト上のノードに対してパルス化条件に基づき荷電粒子線を照射した条件で、それに伴う帯電状態の時間的変化に応じた電子の放出量を演算する。比較器230は、検出器219による実測結果と放出量演算部227による演算結果とを比較する。
試料のデバイス構造の等価回路を表すネットリストと、前記ネットリストのノードと前記試料上の座標との対応関係を表す対応データと、荷電粒子線をパルス状に照射する際のパルス化条件を定めるパルス化条件データと、を用いて前記試料の電気特性を推定する荷電粒子線装置と、
学習済みネットワークデータベースを作成する計算機と、
を有する荷電粒子線検査システムであって、
前記荷電粒子線装置は、
前記試料上の所定の座標に対し、前記パルス化条件に基づく荷電粒子線を照射する荷電粒子線光学系と、
前記荷電粒子線光学系による荷電粒子線の照射に応じた電子の放出量を実測する検出器と、
前記所定の座標に対応する前記ネットリスト上のノードに対して、前記パルス化条件に基づく荷電粒子線を照射した条件で、当該照射に伴う帯電状態の時間的変化に応じた電子の放出量を、前記ネットリストに含まれる素子パラメタ値を変更しながら演算する放出量演算部と、
前記検出器による実測結果と、前記放出量演算部による演算結果とを比較する比較器と、
を有し、
前記計算機は、前記パルス化条件および前記検出器による実測結果と、前記ネットリストとの対応関係を人工知能を用いて学習し、当該学習した対応関係を表すニューラルネットワークを前記学習済みネットワークデータベースに登録し、
前記放出量演算部は、前記パルス化条件および前記検出器による実測結果を用いて前記学習済みネットワークデータベースを参照することで、演算で使用する前記ネットリストを取得する、
荷電粒子線検査システム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(実施の形態1)
《電気特性(容量特性)の推定原理》
図1は、本発明の実施の形態1による荷電粒子線装置において、試料の電気特性(容量特性)の検出原理を説明する図である。
図1の例では、導体105aと導体105bが絶縁体106を挟んで配置された正常構造の試料SPL1に対して電子線(一次電子)100が照射され、これに応じて放出される二次電子(または反射電子)101が検出される。二次電子101の放出量は、電子線100の照射によって生じる試料SPL1の表面電位が高くなるほど(蓄積電荷量が多くなるほど)少なくなる。また、同様にして、欠陥107が含まれる欠陥構造の試料SPL2に対しても、電子線100の照射および二次電子101の検出が行われる。
【0016】
ここで、
図1においては、照射期間T1および遮断期間T2を適宜設定することで電子線100がパルス化(変調)され、当該パルス化された電子線100が正常構造の試料SPL1と欠陥構造の試料SPL2に照射される。この場合、各試料SPL1,SPL2内の抵抗(寄生抵抗)Rおよび容量(寄生容量)Cに応じて、各試料SPL1,SPL2の帯電状態(表面電位)に時間的変化(過渡応答)が発生する。
【0017】
抵抗Rおよび容量Cの値が小さい正常構造の試料SPL1の場合、時定数が小さいため、前回の電子線100の照射に伴い試料SPL1内に蓄積された電荷は、次回の電子線100の照射前に十分に放電される。このため、電子線100を照射する各回において、二次電子101の放出量は特に変化しない。一方、欠陥107に伴い抵抗Rおよび容量Cの値が大きくなった欠陥構造の試料SPL2の場合、時定数が大きいため、前回の照射に伴い試料SPL2内に蓄積された電荷が十分に放電される前に、次回の照射が行われる。その結果、二次電子101の放出量は、電子線100を照射する毎に減少する。
【0018】
このため、例えば、欠陥構造の試料SPL2において各サンプリング点121,122,123で得られた二次電子放出量の合計は、正常構造の試料SPL1において各サンプリング点111,112,113で得られた二次電子放出量の合計よりも小さくなる。このように、パルス化された電子線100を用いて、帯電状態(表面電位)の時間的変化に応じた二次電子101の放出量を検出することで、容量Cに紐づく時定数を取得できる。そして、取得した時定数に基づいて、各試料SPL1,SPL2における容量特性を含む電気特性を推定可能になる。
【0019】
なお、帯電状態の時間的変化に応じた二次電子101の放出量の実測方法に関しては、他にも様々な方法を用いることができる。例えば、サンプリング点を、照射期間T1の終点ではない他の箇所に定めてもよい。また、ここでは、複数回の照射毎に得られる二次電子放出量の合計値を二次電子放出量の最終的な実測値に定めたが、当該最終的な実測値は、合計値に限らず、合計値に比例する値であればよい。例えば、N回の照射の中のN回目で検出された二次電子放出量(サンプリング点113,123)や、または、N回の照射の中の予め定めたM(<N)回で検出された二次電子放出量の合計値(例えば、サンプリング点121とサンプリング点123の合計値等)を用いても、
図1で説明した合計値に比例する値が得られる。
【0020】
また、電子線100のパルス化(変調)方法に関し、例えば、
図1の試料SPL1に対して、電子線100を右方向に一定速度でスキャンする場合、電子線100が導体105aの左端に到達してから導体105aの右端を超えるまでに、所定の期間を要する。この場合、この所定の期間の中に、
図1のような電子線100の照射期間T1および遮断期間T2を複数設ければよい。あるいは、例えば、電子線100のスキャン領域をある程度小さくした状態で、他の箇所への電子線100の照射を挟んだ所定の時間間隔で導体105aに電子線100の照射が行われるような方法を用いてもよい。さらには、スキャンを一時的に停止して同一箇所に照射する方法であってもよい。
【0021】
《荷電粒子線装置の構成》
図2Aは、本発明の実施の形態1による荷電粒子線装置の主要部の構成例を示す概略図である。
図2Bは、
図2Aにおける計算機および表示器周りの主要部の構成例を示す概略図である。明細書では、荷電粒子線装置が、電子線を用いる電子顕微鏡装置である場合を例とするが、これに限らず、例えば、イオン線を用いるイオン顕微鏡装置等であってもよい。
図2Aに示す荷電粒子線装置は、電子顕微鏡本体201と、計算機202と、表示器203と、記憶装置204と、入出力装置200とを備える。入出力装置200は、例えば、キーボードやマウス等のユーザインタフェースである。
【0022】
電子顕微鏡本体201は、電子源216と、パルス変調器217と、偏向器218と、検出器219と、絞り220と、対物レンズ221と、ステージ222と、これらを制御する電子顕微鏡制御器215とを備える。ステージ222上には試料SPLが搭載される。パルス変調器217は、予め定められたパルス化条件に基づいて、電子源216からの電子線(荷電粒子線)をパルス化(変調)して試料SPLへ照射する。偏向器218は、試料SPL上で電子線をスキャンする。検出器219は、電子線の照射に応じた試料SPLからの電子(二次電子、反射電子)の放出量を実測する。
【0023】
図2Bには、電子顕微鏡本体201として、
図2Aに示した電子顕微鏡制御器215、電子源216、パルス変調器217、偏向器218および検出器219が示される。この内、電子源216、パルス変調器217および偏向器218等は、電子線光学系(荷電粒子線光学系)223と呼ばれる。電子線光学系223は、試料SPL上の所定の座標に対し、パルス化条件に基づく電子線を照射する。検出器219は、当該電子線光学系223による電子線の照射に応じた電子の放出量を実測する。
【0024】
ここで、例えば、
図2Aの記憶装置204は、予め、
図2Bに示される電子線パルス化条件データ205、電子線光学条件データ206、電子線スキャン条件データ207、デバイス座標データ208、ネットリスト209および座標・ネットリスト対応データ210を保持する。これらのデータは、入出力装置200を介してユーザによって入力されてもよい。デバイス座標データ208は、試料SPL上に座標を設定する。ネットリスト209は、試料SPLのデバイス構造の等価回路を表す。座標・ネットリスト対応データ210は、ネットリスト209のノードと試料SPL上の座標(チップレイアウト上の座標)との対応関係を表す。
【0025】
電子線光学条件データ206は、例えば、加速電圧、リターディング電圧、照射電流(プローブ電流)、スキャン速度、スキャン間隔、倍率、開き角、ワーキングディスタンス等である。リターディング電圧は、図示は省略されるが、試料SPLに電圧を印加することで、試料SPL直前で電子線の速度を減速させるための電圧である。電子線スキャン条件データ207は、例えば、試料SPLの平面上におけるスキャン範囲や、当該スキャン範囲における電子線の動かし方(例えば、右方向、左方向、上方向、下方向等)などを定める。すなわち、電子線スキャン条件データ207は、どの時点でどの座標にプローブ電流をフォーカスするか(ただし、フォーカスするが実際に照射するとは限らない)を定める。
【0026】
電子線パルス化条件データ(電子線変調条件データ)205は、試料SPLに電子線をパルス状に照射する際のパルス化条件を定め、所定の制御周期においてどの時点からどの期間だけ電子線の照射をオンにするかを定める。すなわち、電子線パルス化条件データ205は、電子線スキャン条件データ207に基づきフォーカスされた先で実際に照射を行うか否かを定める。電子線パルス化条件データ205として、具体的には、オンパルス期間、デューティ比(=オンパルス期間/制御周期)、周波数(=1/制御周期)等が挙げられる。オンパルス期間は、
図1の照射期間T1に該当する。また、電子線パルス化条件データ205として、オンパルス期間やデューティ比を時系列的に順次変化させるような条件が含まれてもよい。
【0027】
電子顕微鏡本体201内の電子顕微鏡制御器215は、このような電子線パルス化条件データ205、電子線光学条件データ206、電子線スキャン条件データ207およびデバイス座標データ208に基づき、電子線光学系223を制御する。また、電子顕微鏡制御器215は、電子線光学系223の制御に同期して検出器219を制御する。例えば、電子顕微鏡制御器215は、
図1に示したように、試料SPLに対する電子線100の照射期間T1で、検出器219を活性化するように制御する。
【0028】
計算機202は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等を含むコンピュータシステムによって構成される。計算機202は、演算用ネットリスト生成部225と、演算用ネットリスト更新部226と、放出量演算部227と、推定照射結果記憶部228と、電子線照射結果記憶部229と、比較器230と、推定ネットリスト記憶部231とを備える。例えば、各記憶部(228,229,231)は、計算機202内の揮発性メモリまたは不揮発性メモリや、
図2Aの記憶装置204等によって実現され、各処理部(225,226,227,230)は、CPU等によるプログラム処理によって実現される。
【0029】
ここで、例えば、電子線光学系223が、試料SPL上の所定の座標に対し、パルス化条件に基づく電子線を照射する場合を想定する。この場合、演算用ネットリスト生成部225は、ネットリスト209および座標・ネットリスト対応データ210に基づき、当該所定の座標に対応するネットリスト209上のノードに、電子線の照射を反映した回路素子(例えば可変電流源)を追加する。また、演算用ネットリスト生成部225は、当該所定の座標に対応するネットリスト209上のノードに、二次電子の放出量を表す回路素子(例えば可変電流源)を追加する。
【0030】
この際に、二次電子の放出量は、
図1で述べたように、電子線の照射に伴う帯電状態(表面電位)の時間的変化の影響を受けるため、二次電子の放出量を表す回路素子には、この帯電状態の時間的変化の影響も反映させる。このようにして、演算用ネットリスト生成部225は、ネットリスト209に対して電子線の照射および二次電子の放出量を反映させた演算用ネットリストを生成する。
【0031】
演算用ネットリスト更新部226は、演算用ネットリスト生成部225で生成された演算用ネットリストに対して、演算用ネットリスト内の素子パラメタ値(例えば、抵抗値または容量値)を逐次変更することで演算用ネットリストを更新する。この更新は、比較器230によって一致の比較結果が得られるまで行われる。放出量演算部227は、演算用ネットリスト更新部226で更新された演算用ネットリストを用いて二次電子の放出量を演算する。すなわち、放出量演算部227は、前述した所定の座標に対応するネットリスト上のノードに対して、パルス化条件に基づき荷電粒子線を照射した条件で、当該照射に伴う帯電状態の時間的変化に応じた電子の放出量を演算する。
【0032】
推定照射結果記憶部228は、放出量演算部227による演算結果を記憶する。この演算結果は、帯電状態の時間的変化に応じた電子の放出量であり、
図1の例では、例えば、サンプリング点111,112,113の合計値に対応するものである。ただし、推定照射結果記憶部228が記憶する演算結果は、このような電子の放出量そのものに限らず、当該電子の放出量を二次電子像(電位コントラスト像)に変換したものであってもよい。
【0033】
電子線照射結果記憶部229は、電子顕微鏡本体201内の検出器219による実測結果を記憶する。この実測結果は、推定照射結果記憶部228の場合と同様に、帯電状態の時間的変化に応じた電子の放出量であり、
図1の例では、例えば、サンプリング点111,112,113の合計値に対応するものである。ただし、推定照射結果記憶部228の場合と同様に、電子線照射結果記憶部229が記憶する演算結果も、電子の放出量そのものに限らず、当該電子の放出量を二次電子像(電位コントラスト像)に変換したものであってもよい。
【0034】
比較器230は、推定照射結果記憶部228に格納される演算結果(すなわち放出量演算部227による演算結果)と、電子線照射結果記憶部229に格納される実測結果(すなわち検出器219による実測結果)とを比較する。ここで、比較器230によって不一致の比較結果が得られた場合、演算用ネットリスト更新部226によって演算用ネットリスト内の素子パラメタ値が更新され、更新された演算用ネットリストを用いて前述した放出量演算部227から比較器230までの処理が再度行われる。一方、比較器230によって一致の比較結果が得られた場合、演算用ネットリスト更新部226は、現在の素子パラメタ値を含むネットリストを推定ネットリストとして推定ネットリスト記憶部231に格納する。
【0035】
表示器203は、推定照射結果表示部235と、電子線照射結果表示部236と、推定ネットリスト/回路パラメタ/電子デバイス構造表示部237とを備える。推定照射結果表示部235は、比較器230による比較結果の一致/不一致に関わらず、推定照射結果記憶部228に格納される演算結果を表示する。同様に、電子線照射結果表示部236は、比較器230による比較結果の一致/不一致に関わらず、電子線照射結果記憶部229に格納される実測結果を表示する。推定ネットリスト/回路パラメタ/電子デバイス構造表示部237は、比較器230による比較結果が一致した場合に推定ネットリスト記憶部231に格納される推定ネットリスト、およびそれに対応する回路パラメタやデバイス構造を表示する。
【0036】
《ネットリストと演算用ネットリスト》
図3Aは、
図2Bにおいて、試料に対してパルス化条件に基づき電子線が照射される際の状況の一例を示す図である。
図3Bは、
図3Aにおける各プローブ電流の一例を示す波形図である。
図3Cは、
図3Aにおける電子線照射時の試料の等価回路の一例を示す回路図である。
図3Dは、
図3Cの等価回路に対応するネットリストと演算用ネットリストの構成例を示す図である。
【0037】
図3Aには、3個のコンタクトプラグ301a,301b,301cを備えた試料SPL3aのデバイス構造(正常構造)の一例が示される。このようなデバイス構造は、抵抗および容量を含んだ等価回路で表現可能である。そして、このような試料SPL3aに対して、
図2Bの電子線パルス化条件データ205等に基づいて電子線が照射される。この例では、複数のパルス化条件[1],[2]が定められる。
【0038】
パルス化条件[1]では、電子線のスキャン方向に沿って、順に、コンタクトプラグ301aとコンタクトプラグ301cに電子線が照射される。パルス化条件[2]では、電子線のスキャン方向に沿って、順に、コンタクトプラグ301bと、その先の部材(例えば図示しないコンタクトプラグ)に電子線が照射される。この照射される電子線は、プローブ電流源IP1,IP2,IP3で表現される。
【0039】
例えば、プローブ電流源IP1は、コンタクトプラグ301aに対応する電流源であり、プローブ電流源IP2は、コンタクトプラグ301bに対応する電流源である。このプローブ電流源IP1,IP2,IP3は、
図2Bの電子線パルス化条件データ205や電子線スキャン条件データ207(すなわち電子線の動かし方)等に基づいて、時間軸で見ると、
図3Bに示されるように、所定の時間間隔で電流を所定の期間注入するような特性となる。
【0040】
図3Aおよび
図3Bに基づくと、
図3Cに示されるような等価回路を作成することができる。
図3Cにおいて、ノードN5,N6,N7は、それぞれ、
図3Aのコンタクトプラグ301a,301b,301cの表面位置に該当する。そして、例えば、ノードN5と接地電位GNDとの間には、電子線照射を表すプローブ電流源IP1が接続される。また、ノードN5と接地電位GNDとの間には、電子線照射に伴う二次電子(反射電子)の放出量を表す放出電流源IE1が接続される。
【0041】
放出電流源IE1の特性は、例えば、所定の二次電子放出モデルに基づいて定められる。この際に、二次電子の放出量は、電子線照射に伴う帯電状態(例えば、ノードN5の表面電位等)の影響を受けて変化する。このため、放出電流源IE1の特性は、このような表面電位の関数として定められる。
【0042】
ここで、例えば、
図3Aのコンタクトプラグ301aに電子線が照射された場合を想定する。この場合、
図3Cにおいて、プローブ電流源IP1は、活性状態となり、ノードN5にプローブ電流を注入し、プローブ電流源IP2,IP3は、非活性状態(例えば開放状態)となる。この状態で、表面電位(例えば、ノードN5の電位等)が定められ、表面電位に応じて放出電流源IE1からの放出電流が定められる。この放出電流源IE1からの放出電流は、
図2Bの検出器219で実測される二次電子の放出量に対応する。
【0043】
図3Dには、
図2Bにおけるネットリスト209の一例と、演算用ネットリスト生成部225によって生成される演算用ネットリストの一例とが示される。
図3Dのネットリスト209aは、
図3Cの等価回路の中からプローブ電流源IP1,IP2,IP3および放出電流源IE1,IE2,IE3を省いた回路を表し、当該回路を構成する各回路素子と各回路素子間の接続関係とをリストとして表現したものである。ネットリスト209aでは、例えば、ノードN1とノードN4との間に10kΩの抵抗素子R1が接続される、といったことが表現される。ネットリスト209aは、
図3Aに示した試料SPL3aのデバイス構造等に基づいて予め生成される。
【0044】
図2Bの演算用ネットリスト生成部225は、このようなネットリスト209aに対して、
図3Cに示したようなプローブ電流源IP1,IP2,IP3および放出電流源IE1,IE2,IE3を加えることで
図3Dに示されるような演算用ネットリスト305aを生成する。例えば、プローブ電流源IP1は、接地電位GNDとノードN5との間に接続され、
図3Bに示したように時間tの関数式“f1(t)”として定義される。関数式は、シミュレータの記述言語で記載される。
【0045】
また、放出電流源IE1は、ノードN5と接地電位GNDとの間に接続され、表面電位(例えば、ノードN5の電位V(N5)、ノードN6の電位V(N6),…)の関数式“g1(V(N5),V(N6),…)”として定義される。ここで、二次電子の放出量は、通常、所定の領域における表面電位の影響を受けて変化する。したがって、放出電流源IE1は、ノードN5の電位V(N5)のみの関数でもよいが、ここでは、ノードN5,ノードN6,…が所定の領域に含まれる場合を想定して、ノードN6の電位V(N6)等を含めた関数となっている。
【0046】
さらに、
図2Bの演算用ネットリスト生成部225は、例えば、入出力装置200を介したユーザからの指示に基づき、演算用ネットリスト305aに含まれる所定の素子パラメタを変数に定める。
図3Dの例では、抵抗素子R1,R2および容量素子C1,C2が変数に定められる。ユーザは、変数を指示すると共に、変数値の可変設定範囲も指示する。
図2Bの演算用ネットリスト更新部226は、このようなユーザの指示に基づき、逐次、指示された変数の変数値を変えながら、放出量演算部227に演算用ネットリスト305a内の放出電流源IE1,IE2,IE3の放出電流値を演算させる。
【0047】
《荷電粒子線装置の動作》
図4Aは、
図2Bの荷電粒子線装置の動作例を示すフローチャートであり、
図4Bは、
図4Aに続くフローチャートである。
図4AのステップS101a〜S101eでは、
図2Bで述べたように、演算用ネットリスト生成部225に、電子線光学条件データ206、電子線パルス化条件データ205、電子線スキャン条件データ207、デバイス座標データ208および座標・ネットリスト対応データ210が入力される。また、ステップS105a,S105bでは、演算用ネットリスト生成部225に、ネットリスト209が入力される。
【0048】
ステップS101a〜S101dで入力される各種データに関しては、例えば、予め検査用レシピとして、
図2Aの記憶装置204に格納される。また、ネットリスト209に関しては、ステップS105a,S105bに示されるように、正常構造のネットリストと、予め想定される欠陥を反映した欠陥構造のネットリストとが入力される。そして、当該ネットリストに対応するように自動または手動で座標・ネットリスト対応データ210が生成され、当該データが、ステップS101eで演算用ネットリスト生成部225に入力される。
【0049】
図5Aは、
図4Aにおける欠陥構造のネットリストに対応するデバイス構造の一例を示す図である。
図5Bは、
図5Aのデバイス構造に対応する演算用ネットリストの等価回路の一例を示す回路図である。
図5Cは、
図5Bの等価回路に対応する演算用ネットリストの構成例およびその元となる欠陥構造のネットリストの構成例を示す図である。
図5Aに示す欠陥構造の試料SPL3bでは、例えば、
図3Aに示した正常構造の試料SPL3aと比較して、コンタクトプラグ301bとコンタクトプラグ301cとの間に導電体の欠陥502が存在している。
【0050】
図5Bに示す等価回路は、
図5Aの欠陥502を反映した抵抗素子RDEFを備える。また、
図5Cに示す欠陥構造のネットリスト209bおよび演算用ネットリスト305bでは、
図3Dに示した正常構造のネットリスト209aおよび演算用ネットリスト305aと比較して、ノードN2とノードN3との間に抵抗素子RDEFが加わっている。この抵抗素子RDEFの抵抗値は、欠陥502の形状・素材等に応じて様々な値を採り得るため、
図5Cの演算用ネットリスト305bでは、抵抗素子RDEFは変数に設定される。このようにして、予め想定される欠陥の位置(およびその種別(容量性、抵抗性等))毎に、欠陥を反映した単数または複数の欠陥構造のネットリストが予め作成される。
【0051】
ここで、
図4Aに戻り、正常構造および欠陥構造のネットリストを作成する際(ステップS105a,S105b)には、主に、2通りの方法が考えられる。1つ目は、ステップS102a,S102b,S104aに示されるように、
図3Aに示したような正常構造のデバイス構造や、
図5Aに示したよな欠陥構造のデバイス構造を入力として、デバイスシミュレーションによって作成する方法である。2つ目は、ステップS103a,S103b,S104bに示されるように、ユーザによって作成された正常構造の等価回路(例えば、
図3Dのネットリスト209aに対応する等価回路)や、欠陥構造の等価回路を入力として、所定のツールを用いてネットリスト(例えば
図3Dのネットリスト209a)を抽出する方法である。なお、ユーザがネットリストを直接作成する方法を用いてもよい。
【0052】
また、
図3C等で述べたように、放出電流源IE1〜IE3を生成するためには、二次電子放出モデルが必要とされる。
図4Aの例では、ステップS106,S107に示されるように、電子線散乱シミュレーション(荷電粒子線散乱シミュレーション)に、ステップS102aでの正常構造のデバイス構造と、ステップS101aでの電子線光学条件データ(主に加速電圧等)とを入力することで、表面電位に依存した二次電子放出モデルが生成される。これに伴い、
図2Bの放出量演算部227は、当該電子線散乱シミュレーションに基づく二次電子放出モデルを用いて二次電子の放出量を演算することになる。
【0053】
なお、電子線散乱シミュレーションを用いる方法の代わりに、例えば、予め用意された複数の計算式から構成される電子線散乱モデルの一覧から選択する方法や、構造データに対して電磁界シミュレーションを行う方法、また、それらを組み合わせた方法であってもよい。
【0054】
図2Bの演算用ネットリスト生成部225は、ステップS101a〜S101eで入力された各種データや、ステップS107で生成された二次電子放出モデルを用いて、例えば、電子線が照射される座標やタイミングをネットリストのノードに対応付ける等といった各種変換処理を行う(ステップS108)。そして、これによって、演算用ネットリスト生成部225は、
図3Dに示したような正常構造に対応する演算用ネットリスト305a、および
図5Cに示したような欠陥構造に対応する演算用ネットリスト305bを生成する(ステップS109)。
【0055】
続いて、
図4Bにおいて、
図2Bの演算用ネットリスト更新部226は、演算用ネットリスト生成部225によって生成され得る複数の演算用ネットリストの中のいずれかの演算用ネットリストを選択する(ステップS110)。この際に、演算用ネットリストの選択肢としては、正常構造のものと、欠陥構造のものとが含まれる。すなわち、等価回路上は正常構造であるが、当該等価回路上の素子パラメータ値に異常が生じる場合や、欠陥によって前提となる等価回路自体が変わる場合がある。
【0056】
次いで、演算用ネットリスト更新部226は、選択した演算用ネットリストに対して、
図3Dで述べたように、変数に定められた素子パラメタの中のいずれかの素子パラメータ値を初期値に設定する(ステップS111)。
図2Bの放出量演算部227は、このように定められた素子パラメータ値を含む演算用ネットリストを対象に、二次電子の放出量(例えば、
図3Cの放出電流源IE1〜IE3の放出電流値)を演算(シミュレーション)する(ステップS112)。
【0057】
一方、
図4BのステップS201において、
図2Bの電子顕微鏡本体201には、電子線光学条件データ206、電子線パルス化条件データ205および電子線スキャン条件データ207を含む検査条件セットが入力される。検査条件セット内のデータと、
図4AのステップS101a,S101b,S101cで入力されるデータとは、電子顕微鏡本体201による実測と放出量演算部227による演算とで同じ前提条件を用いる必要があるため同一である。
【0058】
ステップS202において、電子顕微鏡本体201は、
図2Bのデバイス座標データ208に基づき、検査座標原点へステージ222を動かすか、または電子線プローブをシフトさせる。その後、電子顕微鏡本体201は、ステップS201で入力された条件に基づいて、試料SPL上で電子線をスキャンしながら検出器219を用いて実測を行う(ステップS203)。
【0059】
続いて、電子顕微鏡本体201は、ステップS204において、全検査条件セットでの実測が終了するまでステップS201〜S203の処理を繰り返す。すなわち、この例では、ステップS201における検査条件セットとして複数の検査条件セットが設けられる。各検査条件セットは、特に、電子線パルス化条件データ205で定められるパルス化条件が異なっている。具体的には、パルス化条件データでは、オンパルス期間(
図1の照射期間T1に対応)またはデューティ比(
図1の照射期間T1/(照射期間T1+遮断期間T2)に対応)が異なる複数のパルス化条件が定められる。
【0060】
図2Bの電子線光学系223は、ステップS201〜S203の処理を繰り返す過程で、当該複数のパルス化条件毎に電子線を照射し、検出器219も、当該複数のパルス化条件毎に二次電子の放出量を実測する。そして、このようなステップS201〜S203の処理を経て、計算機202は、電子顕微鏡本体201による検査条件セット毎(特にパルス化条件毎)の実測結果を表す実測データベースを作成し、電子線照射結果記憶部229に格納する(ステップS205)。
【0061】
一方、
図2Bの演算用ネットリスト生成部225も、ステップS109において、このような複数の検査条件セットにそれぞれ対応する複数の演算用ネットリストを生成する。そして、
図2Bの放出量演算部227も、ステップS112において、複数の検査条件セット毎(特にパルス化条件毎)に電子線を照射した条件で、複数の検査条件セット毎(パルス化条件毎)に二次電子の放出量を演算する。
【0062】
その後、ステップS113において、
図2Bの比較器230は、ステップS205で作成された実測データベースと、ステップS112での演算結果とを比較する。すなわち、比較器230は、検出器219による複数のパルス化条件毎の実測結果と、放出量演算部227による複数のパルス化条件毎の演算結果とを比較する。この際には、複数のパルス化条件毎の実測結果の特性と、複数のパルス化条件毎の演算結果の特性との類似性が、ある一定レベル以上であれば、比較結果は一致とみなされる。
【0063】
ここで、ステップS113での比較結果が不一致の場合(ステップS114の“NO”時)、演算用ネットリスト更新部226は、パラメタ更新の打ち切り条件に達したか否かを判定する(ステップS118)。演算用ネットリスト更新部226は、打ち切り条件に未達の場合には、ステップS111に戻って素子パラメタの種類を変更するか、または、素子パラメタの種類を維持して素子パラメータ値を変更する。一方、演算用ネットリスト更新部226は、打ち切り条件に達した場合には、ステップS110に戻って、別の演算用ネットリスト(例えば、前回とは欠陥箇所が異なる欠陥構造の演算用ネットリスト)を選択する。
【0064】
以上のようなループ処理に伴い、放出量演算部227は、ステップS112において、複数の演算用ネットリストと、複数の演算用ネットリストに含まれる素子パラメタ値とを変更しながら二次電子の放出量を演算することになる。なお、ステップS118においてパラメタ更新の打ち切り条件に達する場合とは、例えば、変数とした素子パラメタの可変設定範囲を全て網羅した場合や、または、ステップS111に戻るループ回数が予め定めた上限回数に達した場合等である。
【0065】
一方、ステップS113での比較結果が一致の場合(ステップS114の“YES”時)、その時点での素子パラメータ値を含むネットリストが
図2Bの推定ネットリスト記憶部231に格納される。
図2Bの計算機202は、当該ネットリストを検査座標に対応付け(ステップS115)、当該ネットリストの種類(正常構造、欠陥構造)および当該ネットリスト内の素子パラメータ値に基づいて、当該検査座標における容量特性を含んだ電気特性を推定する(ステップS116)。そして、計算機202は、推定欠陥構造および素子パラメータ値等を表示器203等に出力する(ステップS117)。
【0066】
なお、この例では、ステップS112において、放出量演算部227は、比較器230によって一致の比較結果が得られるまで、複数の演算用ネットリストと、複数の演算用ネットリストに含まれる素子パラメタ値とを順次変更しながら、二次電子の放出量を演算した。一方、比較結果の一致/不一致に関わらず、予めネットリストおよび素子パラメタ値を順次変更しながら放出量演算部227に演算を行わせ、当該演算結果と、ネットリストおよび素子パラメタ値との対応関係を予め演算データベースとして登録しておく方法を用いてもよい。この場合、比較器230は、演算データベースの中から、ステップS205で得られた実測データベース内の実測結果に最も近い演算結果を探索し、当該演算結果に対応するネットリストおよび素子パラメタ値を取得すればよい。
【0067】
《演算用ネットリスト生成部の詳細》
図6は、
図2Bにおける演算用ネットリスト生成部の処理内容の一例を示すフロー図である。
図6のステップS301において、演算用ネットリスト生成部225は、電子線光学条件データ206と、電子線パルス化条件データ205と、電子線スキャン条件データ207と、デバイス座標データ208とに基づいて、照射点毎の電子線プローブ条件(時間波形)を算出する。
【0068】
具体例として、電子線光学条件データ206内の照射電流(プローブ電流)に基づいて、プローブ電流の電流値が判る。また、電子線スキャン条件データ207(および電子線光学条件データ206内のスキャン速度等)に基づいて、どの時点でどの座標にプローブ電流がフォーカスされるかが判る。さらに、電子線パルス化条件データ205に基づいて、どの時点からどの期間だけ実際にプローブ電流が照射されるかが判る。これらによって、試料SPL上の座標毎に、電子線プローブ条件を計算することができる。電子線プローブ条件とは、どの時点からどの期間だけ、どの大きさのプローブ電流が照射されるかを定めた条件であり、前回の照射時点から次回の照射時点までの時間間隔も含まれる。
【0069】
続いて、ステップS302において、演算用ネットリスト生成部225は、ステップS301で算出した各照射点座標と電子線プローブ条件との対応関係と、座標・ネットリスト対応データ210とに基づいて、ネットリストのノードと電子線プローブ条件との対応関係を得ることができる。演算用ネットリスト生成部225は、この対応関係に基づいて、ネットリストのノードに電子線プローブ条件に相当する電子線プローブモデル(すなわち、
図3C等のプローブ電流源IP1〜IP3)を挿入する。なお、モデルは、
図3Dに示したような周期波形を示す関数式に限らず、データ列のような形式であってもよい。
【0070】
次いで、ステップS303において、演算用ネットリスト生成部225は、電子線プローブモデルが挿入されたノードに、二次電子放出モデル(すなわち、
図3C等の放出電流源IE1〜IE3)を挿入する。二次電子放出モデルは、
図4Aで述べたように電子線光学条件(主に加速電圧等)から計算される。モデルは、予め決められた式でもよいし、デバイス構造と、電子線散乱シミュレーションから求めたデータベース(例えば、加速電圧や試料の表面電位毎に、二次電子の放出量を定めたようなもの)であってもよい。
【0071】
《表示器の表示内容》
図7は、
図2Bにおける表示器の表示内容の一例を示す図である。
図7の表示器203の表示内容には、例えば、
図2Bに示した各種データ(205〜210)に対応する表示項目701と、推定パラメタ値を指定する表示項目702と、推定結果等の表示項目703と、推定された構造の表示項目704とが含まれる。例えば、
図2Bに示した各種データ(205〜210)のそれぞれには、複数の選択肢が含まれており、ユーザは、表示項目701を介して、複数の選択肢の中のいずれかを選択可能となっている。
【0072】
表示項目702は、
図3D等で述べたように、ユーザが変数に定める素子パラメタを指定できるようになっている。この例では、抵抗素子R1,R2および容量素子C1,C2が変数に指定される。また、この例では、この変数に定めた素子パラメタの推定値が併せて表示される。この推定値は、
図4Aおよび
図4Bの処理によって得られる。
【0073】
表示項目703は、この例では、パルス化条件と二次電子放出量との相関関係を表示し、実測した相関関係(点で示す)と、放出量演算部227によって素子パラメタ値(ここでは容量素子C1の容量値)を変えて演算された相関関係(実線で示す)とを表示している。当該表示項目703は、
図2Bの推定照射結果表示部235および電子線照射結果表示部236に対応する。パルス化条件は、例えば、オンパルス期間(
図1の照射期間T1)を短くしていく、または、オフパルス期間(
図1の遮断時間T2)を長くしていくような条件に定められる。
【0074】
この例では、容量素子C1を1pFに定めた場合の演算結果(相関関係)と、実測結果(相関関係)とが最も類似している。その結果、容量素子C1の値は、1pFと推定される。なお、このような相関関係同士の比較ではなく、ある一点のパルス化条件で実測結果と演算結果とを比較するような方法であってもよい。ただし、
図1に示したように、特に、RCの過渡応答に基づいて電気特性を推定する場合、一点のパルス化条件のみでは高精度な推定結果が得られない場合がある。そこで、このように、相関関係同士を比較する方法を用いることが有益となる。
【0075】
表示項目704では、
図4Aおよび
図4Bの処理によって選択されたネットリストに対応する構造情報が表示されている。当該表示項目704は、
図2Bの推定ネットリスト/回路パラメタ/電子デバイス構造表示部237に対応する。表示項目704に表示される推定構造は、ネットリストそのものでもよいし、対応する等価回路を図示したものや、デバイス構造を図示したものであってよい。
【0076】
図8は、
図2Bにおける表示器の表示内容の他の一例を示す図である。
図8の表示器203の表示内容には、パルス化条件の表示項目801と、二次電子像の表示項目802とが含まれる。表示項目801には、
図3Bに示したようなプローブ電流源IP1〜IP3の波形が表示される。表示項目802には、表示項目801に表示されたパルス化条件で実測を行った際に、検出器219の実測結果から得られる二次電子像が表示される。例えば、ユーザは、表示項目802の二次電子像を観察しながら、適切なパルス化条件をデバックすることができる。
【0077】
《実施の形態1の主要な効果》
以上、実施の形態1の荷電粒子線装置を用いることで、代表的には、抵抗特性のみならず、容量特性を含めた試料の電気特性を推定可能になる。その結果、例えば、製造工程での不具合の原因や、または、製品設計上の不具合の原因等を早期に究明することが可能になり、製品開発期間の短縮や、製品の信頼性向上や、各種コストの低減等が実現可能になる。
【0078】
(実施の形態2)
《荷電粒子線検査システムの構成》
図9Aは、本発明の実施の形態2による荷電粒子線検査システムの主要部の構成例を示す概略図である。
図9Bは、
図9Aにおける電子顕微鏡装置周りの主要部の構成例を示す概略図である。実施の形態1では、予め想定される欠陥に基づいて、例えば、人手を介して欠陥構造ネットリストが作成された。しかし、欠陥構造は、様々なものが存在し得るため、実施の形態1では、対応する欠陥構造ネットリストを予め設けることが困難となる恐れがある。このような場合に、実施の形態2の方式を用いることが有益となる。
【0079】
図9Aに示す荷電粒子線検査システムは、電子顕微鏡装置(荷電粒子線装置)900と、断面観察装置901と、計算機902と、サーバ903とを備える。計算機902は、入力用実測データ910と欠陥構造ネットリスト(NL)912との対応関係を人工知能を用いて学習する。入力用実測データ910は、電子線光学条件、電子線スキャン条件、電子線パルス化条件およびデバイス座標を含む検査条件セットと、当該検査条件セットを用いて電子顕微鏡装置900によって実測された電子線照射結果(すなわち検出器による実測結果)とを含む。
【0080】
そして、計算機902は、当該学習した対応関係を表す欠陥構造分類ネットワーク911(具体的にはニューラルネットワーク)をサーバ903の学習済み欠陥構造分類ネットワークデータベース(学習済みネットワークデータベース)920に登録する。一方、電子顕微鏡装置900は、検査条件セット(特にパルス化条件)および検出器による実測結果を含む実測データを用いて、通信インタフェース906を介して学習済み欠陥構造分類ネットワークデータベース920を参照することで、二次電子放出量演算等で使用するネットリストを取得する。
【0081】
ここで、欠陥構造分類ネットワーク911(ニューラルネットワーク)の学習方法について説明する。まず、ある欠陥構造を電子線により検査した際の実測データ(検査条件セットおよび実測結果)と、その欠陥構造を断面観察装置901によって解析した結果である断面解析データ(ひいては、断面解析データから自動または手動で抽出される欠陥構造ネットリスト)とを用意する。当該断面解析データは、教師データ用断面構造観察結果915となる。
【0082】
計算機902は、実測データを欠陥構造分類ネットワーク911に入力し、そこから得られる欠陥構造ネットリスト912の分類結果913と、教師データ用断面構造観察結果915とを比較・ネットワーク係数更新部914を用いて比較する。比較・ネットワーク係数更新部914は、分類結果913が正しくなるように、欠陥構造分類ネットワーク911内の係数を更新する。
【0083】
さらに、別の欠陥構造を電子線により検査した際の実測データ(検査条件セットおよび実測結果)と、その欠陥構造の断面解析データとを用意し、同様にして欠陥構造分類ネットワーク911(ニューラルネットワーク)の係数更新を行う。このような処理を繰り返すことで、ニューラルネットワークの学習が進んでいく。計算機902は、例えば、学習がある程度収束した段階で、当該欠陥構造分類ネットワーク911を学習済み欠陥構造分類ネットワークとして、サーバ903の学習済み欠陥構造分類ネットワークデータベース(学習済みネットワークデータベース)920に登録する。
【0084】
図9Bに示す電子顕微鏡装置900は、
図2Bに示した構成例と比較して、計算機905の内部構成が異なり、さらに、
図2Bのネットリスト209が削除された構成となっている。計算機905は、
図2Bの計算機202と比較して、さらに、サーバ903と通信を行う通信インタフェース906と、学習済み欠陥構造分類ネットワーク(NW)記憶処理部925と、学習済み情報取得部926とを備える。
【0085】
学習済み情報取得部926は、通信インタフェース906を介して、サーバ903から学習済み欠陥構造分類ネットワーク(ニューラルネットワーク)を取得し、それを、学習済み欠陥構造分類ネットワーク記憶処理部925に格納する。学習済み欠陥構造分類ネットワーク記憶処理部925は、電子線照射結果記憶部229に格納される検出器219の実測結果と、検査条件セット(電子線光学条件、電子線スキャン条件、電子線パルス化条件含む)とに基づいてネットリスト(例えば欠陥構造ネットリスト)を生成する。演算用ネットリスト生成部225は、当該学習済み欠陥構造分類ネットワーク記憶処理部925からのネットリストを用いて演算用ネットリストを生成する。
【0086】
《荷電粒子線装置の動作》
図10Aは、
図9Bの荷電粒子線装置(電子顕微鏡装置)の動作例を示すフローチャートであり、
図10Bは、
図10Aに続くフローチャートである。
図10Aのフローチャートは、
図4Aのフローチャートと異なり、ステップS401に示されるように、ステップS105a,S105bにおける正常構造および欠陥構造のネットリストを学習済み欠陥構造分類ネットワーク(ニューラルネットワーク)から生成している。また、この例では、ステップS107における二次電子放出モデルも学習済み欠陥構造分類ネットワークから生成している。
【0087】
図10Bのフローチャートは、
図4Bのフローチャートと比較して、ステップS402,S501の処理が追加された点と、
図4BにおけるステップS118からステップS110に戻るループ経路(すなわち、ネットリストを入れ替える経路)が削除された点とが異なる。ステップS501の処理は、ステップS205において、電子線照射結果記憶部229に実測データベースが格納されたのちに行われる。
【0088】
ステップS501において、電子線照射結果記憶部229は、実測データベースを学習済み欠陥構造分類ネットワーク記憶処理部925へ出力する。これに応じて、ステップS110において、ネットリストが選択される。詳細には、学習済み欠陥構造分類ネットワーク記憶処理部925によってネットリストが生成される。
【0089】
また、ステップS402の処理は、ステップS118においてパラメタ更新打ち切り条件に達した場合に行われる。ステップS402において、演算用ネットリスト更新部226は、パラメタ更新打ち切り条件に達したことを表す推定不可結果通知を発行する。この推定不可結果通知が発行された場合(言い換えれば、比較器230によって一致の比較結果が得られなかった場合)、試料SPLが自動または手動で
図9Aの断面観察装置901に搬送される。
【0090】
そして、断面観察装置901は、当該試料SPLの断面構造を自動または手動で観察することで、観察結果となる断面構造データを作成する。
図9Aの計算機902は、当該断面観察装置901の観察結果に基づいて新たな欠陥構造ネットリストを作成し、当該作成したネットリストと、実測データ(検査条件セットおよび実測結果)との対応関係を欠陥構造分類ネットワーク911(ニューラルネット)に学習する。これによって、欠陥構造分類ネットワーク911は、新たな欠陥構造にも対応するように更新される。
【0091】
《実施の形態2の主要な効果》
以上、実施の形態2の荷電粒子線検査システムを用いることで、実施の形態1で述べた各種効果と同様の効果が得られる。また、実施の形態1の場合と比較して、ネットリストを変更しながら演算を行う必要性が無くなることから、検査時間の短縮等が実現可能になる。さらに、対応する欠陥構造が自動的に(または半自動的に)更新されるため、検査システムの自動化に寄与することができる。
【0092】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前述した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。