【解決手段】本発明に係る金属化合物の製造方法は、(A)金属粒子と(B)溶媒とを、(C)粉砕機を用いて混合し、メカノケミカル反応により(D)金属化合物を製造する。これにより、メカノケミカル反応により常温で安価かつ簡易に金属化合物を製造することが可能である。特に、反応性が高く、安定性に欠ける金属水酸化物を容易に合成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したケイ素化合物のように、従来の金属化合物の製造方法では、合成工程が長く、複雑であり、製造効率が低い。また、従来の金属化合物の製造方法では、反応性に優れた金属化合物、特に水酸化物を得ることは難しい。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、メカノケミカル反応により、簡易且つ安価な手法で金属化合物、特に反応性の高い水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る金属化合物の製造方法では、
(A)金属粒子と(B)溶媒とを、
(C)粉砕機を用いて混合し、
メカノケミカル反応により(D)金属化合物を製造する。
【0009】
また、前記(A)金属粒子は、
ケイ素(Si)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ゲルマニウム(Ge)及び錫(Sn)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記(B)溶媒は、
水、アルコールまたは水/アルコールの混合溶媒から選択される、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記(B)溶媒は、アルカリ溶液である、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記アルカリ溶液の濃度は、
0.01〜6Mである、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記(C)粉砕機は、
ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ジェットミル、SAGミル、ROMミル、回転式石臼から選択される、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記(A)金属粒子を用いて、(E)一般式(1)で表される金属化合物を製造する、
こととしてもよい。
(XO)
aMO
(b−a)/2 (1)
(式中、Mは金属、Xは水素、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の原子または有機基であり、aは0〜4の整数、bは3(a=0〜3の場合)か4(a=0〜4の場合)の整数である。)
【0015】
また、前記(A)金属粒子がケイ素(Si)であり、(E)一般式(2)で表されるケイ素化合物を製造する、
こととしてもよい。
(XO)
aSiO
(4−a)/2 (2)
(式中、Xは水素、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の原子または有機基であり、aは0〜4の整数である。)
【0016】
また、前記(A)金属粒子がチタン(Ti)であり、(E)一般式(3)で表されるチタン化合物を製造する、
こととしてもよい。
(XO)
aTiO
(4−a)/2 (3)
(式中、Xは水素、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の原子または有機基であり、aは0〜4の整数である。)
【0017】
また、前記(E)一般式(1)から(3)で表される金属化合物が、金属酸化物、金属水酸化物、金属アルコキシドから選ばれた金属化合物である、
こととしてもよい。
【0018】
また、前記(A)金属粒子、前記(B)溶媒とともに、メカノケミカル反応を促進する(F)添加物を、
前記(C)粉砕機を用いて混合する、
こととしてもよい。
【0019】
また、前記(F)添加物は、銅(Cu)である、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、メカノケミカル反応により常温で安価かつ簡易に金属化合物を製造することが可能である。特に、反応性が高く、安定性に欠ける金属水酸化物を容易に合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る金属化合物の製造方法、すなわち(A)金属粒子と(B)溶媒とを、(C)粉砕機を用いて混合し、メカノケミカル反応により(D)金属化合物を製造する方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
(実施の形態1)
<(A)金属粒子>
(A)金属粒子は、メカノケミカル反応によって目的の金属化合物を生成するための原料となる金属であり、第13族(ホウ素族元素)、第14族(炭素族元素)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)などである。(A)金属粒子は、例えば、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ゲルマニウム(Ge)及び錫(Sn)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属である。(A)金属粒子は、好ましくは、ケイ素、チタン、アルミニウムであり、より好ましくはケイ素、チタンである。
【0024】
<(B)溶媒>
(B)溶媒は、例えば、水、アルコールまたは水/アルコールの混合溶媒である。水/アルコールの混合溶媒を用いる場合における水/アルコールの混合割合は、特に限定されず、選択される(A)金属粒子の種類、(A)金属粒子の投入量と(B)溶媒の投入量との関係、生成する(D)金属化合物の種類等により、適宜設定される。
【0025】
水としては、例えば、蒸留水、海水等を使用することが可能であり、水のpHは5以上であることが好ましい。なお、この「海水」とは塩分を3%以上含む水を示し、本発明では、特に塩化ナトリウムを3%以上含有する水溶液のことを示す。
【0026】
アルコールは、下記の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素系アルコール群から選択される。アルコールは、単独又は複数のアルコールを混合して使用することができる。アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロパノール、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等が代表例であるが、水との相溶性、金属との反応性及びアルコキシ基含有金属化合物の加水分解、反応性から炭素数の少ないアルコールが好ましく、さらにメチルアルコール、エチルアルコールが好ましい。
【0027】
また、水/アルコール混合系でメカノケミカル反応により生成する金属アルコキシド生成量を制御するために、使用するアルコールの水分含有量は、50ppm以下であることが好ましい。より具体的には、通常市販品のアルコールを使用する場合、アルコールを、予めモレキュラシーブなどにより脱水して使用することが好ましい。
【0028】
また、(B)溶媒として、アルカリ溶液を用いてもよい。アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液、塩化ナトリウム水溶液等を挙げることができる。これらのうち、金属粒子表面に不動態膜が形成されることを抑制して、金属化合物生成反応の効率を向上させることから、水酸化ナトリウム水溶液を使用することが好ましい。
【0029】
また、アルカリ溶液濃度は、0.01〜6Mが好ましい。この範囲のアルカリ溶液濃度の(B)溶媒は、化合物イオンにより、酸化皮膜を形成する金属粒子の酸化物(例えば、SiO
2)の溶解度を上昇させるので、金属化合物の生成速度を向上させるものと考えられる。
【0030】
<(C)粉砕機>
(C)粉砕機は、(A)金属粒子を粉砕し、(A)金属粒子と(B)溶媒に付与される機械的エネルギーにより、(A)金属粒子と(B)溶媒の活性を高めて、メカノケミカル反応を生じさせるものであればよく、その動作原理、規模等の種類は特に限定されない。(C)粉砕機は、例えば、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ジェットミル、SAG(Semi-Autogenous Grinding)ミル、ROM(Run Of Mine)ミル、回転式石臼等である。特に、遊星ボールミルは、メカノケミカル反応の効率がよいので、金属化合物の製造に好ましい。
【0031】
<(D)金属化合物>
生成される(D)金属化合物は、(A)金属粒子と(B)溶媒により異なるが、金属酸化物、金属水酸化物、金属アルコキシドを合成することができる。例えば、(A)金属粒子がケイ素(Si)で、(B)溶媒が水単独系の場合、酸化ケイ素(シリカ:SiO
2)と水酸化ケイ素(Si
n(OH)
4−n)及び水酸化ケイ素オリゴマーが生成される。
【0032】
(B)溶媒として、アルカリ溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、Na含有の水ガラス化合物類似のケイ酸化合物が生成される。また、例えば、(B)溶媒がメチルアルコール単独系である場合、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane:Si(OCH
3)
4)が生成される。また、(B)溶媒が水/アルコール(例えば、メチルアルコール)混合系である場合、酸化ケイ素、テトラメトキシシラン、トリメトキシシラノールシラン、ジメトキシジシラノールシラン、トリシラノールメトキシシランの混合物、これらの二量体、三量体などの重合体(例えば、同種のテトラメトキシシラン)と2種以上からなる二量体、三量体などの重合体(例えば、テトラメトキシシランとジメトキシシランからの二量体、三量体及びこれらの複合体)が生成される。
【0033】
(A)金属粒子がケイ素(Si)以外の金属粒子、例えば、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ゲルマニウム(Ge)及び錫(Sn)である場合も同様に、使用される(A)金属粒子に対応する金属酸化物、金属水酸化物、金属アルコキシドが生成される。
【0034】
例えば、金属酸化物として、酸化チタン(TiO
2、TiO、Ti
2O、Ti
3O、Ti
2O
3)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、Al
2O、AlO)、酸化クロム(III)(Cr
2O
3)、酸化クロム(II)(CrO)、酸化クロム(IV)(CrO
2)、酸化クロム(VI)(CrO
5、CrO
3)、酸化マンガン(IV)(MnO
2)、酸化マンガン(II)(MnO)、酸化マンガン(III)(Mn
2O
3)、酸化マンガン(VI)(MnO
3)、酸化マンガン(VII)(Mn
2O
7)、酸化マンガン(II、III)(Mn
3O
4)、酸化鉄(III)(Fe
2O
3におけるα、β、γ、ε型)、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(II、III)(Fe
3O
4)、酸化ゲルマニウム(GeO
2)、酸化錫(SnO
2)が生成される。また、例えば、金属水酸化物として、Ti(OH)
2、Al(OH)
3、Mn(OH)
2、Fe(OH)
3、Fe(OH)
2、FeOOH(α、β、γ、δ型のオキシ水酸化鉄)、Ge(OH)
2、Sn(OH)
2が生成される。Crの水酸化物は、クロム酸(H
2CrO
4)となる。
【0035】
金属アルコキシドとしては、Ti(OCH
3)
4、Ti(Ot-C
4H
9)
4、Ge(OC
2H
5)
4、Sn(On-C
4H
9)
4、Sn(Ot-C
4H
9)
4が生成されるが、(A)金属粒子としてケイ素を用いた場合に比べて反応性が低く、酸化物合成の方が容易である。
【0036】
また、選択される(A)金属粒子により、ポリ酸「M
xO
y」(Mは、Si、Ti、Al、W、Mo、V、Nb、Zr等)が、(D)金属化合物として生成される。これらの(D)金属化合物は、触媒、磁性材料、医薬品等に利用される。また、この反応では、容器12、粉砕媒体21に上記Si、Ti、W、Zr等の金属を用いることとしてもよく、二種以上の金属を用いてもよい。すなわち、遊星ボールミル装置1の動作中に、容器12、粉砕媒体21から削られた金属を基に(D)金属化合物としてポリ酸が生成されるよう構成してもよい。また、(A)金属粒子としてマグネシウム(Mg)を用いることにより、グリニャール試薬、W(CH
3)
6等の有機金属化合物を生成させることとしてもよい。
【0037】
<金属化合物の製造方法>
続いて、金属化合物の製造方法について説明する。本実施の形態では、(C)粉砕機として遊星ボールミル装置1を用いた方法を例として説明する。遊星ボールミル装置1は、
図1の概念図に示すように、回転駆動される中心軸11と、中心軸11と一体に回転するテーブル13と、テーブル13に回転可能に支持された複数の容器12を備える。
【0038】
容器12は、中心軸11の周りを、
図1、
図2に示すように、図中の矢印aの方向に公転しながら、容器12の中心軸12aのまわりを図中の矢印bの方向に自転する。これにより、各容器12内で、粉砕媒体21により、(A)金属粒子が粉砕される。この時、(A)金属粒子と(B)溶媒に付与される機械的エネルギーにより、(A)金属粒子と(B)溶媒の活性が高まり、メカノケミカル反応が生じて、金属化合物が生成される。
【0039】
本実施の形態に係る金属化合物の製造処理では、
図3のフローチャートに示すように、まず、容器12に粉砕媒体21を投入する(ステップS11)。
【0040】
容器12は、粉砕する(A)金属粒子、(B)溶媒等を収容するものであり、例えば円筒形状の蓋付き容器である。容器12は、上述のように、遊星ボールミル装置1にセットされ、遊星ボールミル装置1の動作によって回転する。これにより、容器12内部の(A)金属粒子と(B)溶媒にメカノケミカル反応が生じる。
【0041】
容器12の材質は、特に限定されず、例えば、炭化タングステン(WC)、ステンレス鋼、ジルコニア(ZrO
2)等であるが、(A)金属粒子よりも硬度の高い材質を用いることが好ましい。本実施の形態に係る容器12の材質は、炭化タングステン(WC)である。容器12の容量は特に限定されず、製造する金属酸化物の量、反応時の許容温度等によって適宜選択すればよい。
【0042】
粉砕媒体21は、(A)金属粒子、(B)溶媒とともに容器12に収容され、遊星ボールミル装置1の回転によって(A)金属粒子を粉砕する媒体である。粉砕媒体21の形状は、ボール状、ロッド状等、特に限定されず、その大きさも特に限定されないが、(A)金属粒子に十分な機械的エネルギーを付与して粉砕するため、(A)金属粒子より大きいことが好ましい。また、粉砕媒体21の材質は、一般的に、容器12の材質と同じである。より詳細には、粉砕媒体21の材質は、一般的に、(A)金属粒子、(B)溶媒等が接する容器12内部の材質と同じである。本実施の形態に係る粉砕媒体21は、直径約1.6mmの炭化タングステン製ボールである。また、容器12内に投入される粉砕媒体21の重量は、約100gである。
【0043】
続いて、容器12に(A)金属粒子を投入する(ステップS12)。(A)金属粒子は、容器12内で粉砕されるとともにメカノケミカル反応を生じる金属材料である。(A)金属粒子の形状、大きさ等は特に限定されない。本実施の形態に係る(A)金属粒子はケイ素(Si)の粉末(シグマアルドリッチ社製)であり、粒径は大凡20μm〜60μmである。また、容器12内に投入される(A)金属粒子の量は、特に限定されないが、本実施の形態では、0.1gである。
【0044】
続いて、容器12に(B)溶媒を投入する(ステップS13)。(B)溶媒は、上述の通り、水、アルコール又は水/アルコールの混合溶媒等である。本実施の形態では、モレキュラシーブによって脱水した(静置法)、メチルアルコールを(B)溶媒として用いる。また、容器12内に投入される(B)溶媒の量は、10mlである。(A)金属粒子と(B)溶媒とは、容器12へ投入する前に、予め混合されていてもよい。
【0045】
(A)金属粒子、(B)溶媒が投入された後、容器12は、蓋を閉められて密閉される。本実施の形態では、密閉前に容器12内をアルゴンガス雰囲気に調整している。これにより、容器12内に存在する気体がメカノケミカル反応に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0046】
密閉された容器12は、
図1に示すように、遊星ボールミル装置1にセットされる(ステップS14)。本実施の形態で用いる遊星ボールミル装置1は、ドイツ・フリッチュ社製の遊星ボールミル(商品名:プレミアムラインP−7)である。
【0047】
容器12を遊星ボールミル装置1にセットした後、遊星ボールミル装置1の動作を開始する(ステップS15)。遊星ボールミルの回転速度、すなわち容器12の回転速度を変化させることにより、容器12の内容物にかかる加速度が変化する。したがって、粉砕媒体21の質量と容器12の回転速度とによって、(A)金属粒子に加えられる機械的エネルギーの大きさを調整し、メカノケミカル反応による(D)金属化合物の生成速度を制御することができる。
【0048】
具体的には、遊星ボールミル装置1の回転半径R(mm)、容器12の回転速度N(rpm)を用いて、容器12の内容物にかかる相対遠心加速度G(G)は、以下の式で求められる。
G=1.118×R×N
2×10
−6
【0049】
本実施の形態に係る遊星ボールミル装置1の回転半径(遊星ボールミル装置1の中心軸11と容器12の中心軸12aとの距離)は、70mmであるので、例えば、回転速度N=500rpmの場合、相対遠心加速度Gは約19.6Gとなる。また、回転速度N=300rpmの場合、相対遠心加速度Gは約7.04Gとなる。本実施の形態に係る遊星ボールミル装置1の容器12の回転速度は、好ましくは100〜700rpmである。また、本実施の形態における具体的な容器12の回転速度は、200rpmとする。
【0050】
容器12が回転することによって(A)金属粒子がミリング(破砕)される。この際、(A)金属粒子と(B)溶媒に機械的なエネルギーが付与されて、(A)金属粒子と(B)溶媒の活性が高まり、メカノケミカル反応が生じる。これにより、下記の(E)一般式(1)で表される金属化合物が生成される(ステップS16)。
(XO)
aMO
(b−a)/2 (1)
(式中、Mは金属、Xは水素、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の原子または有機基であり、aは0〜4の整数、bは3(a=0〜3の場合)か4(a=0〜4の場合)の整数である。)
【0051】
図4は、上記の方法でミリングした溶液の成分を核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)を用いて分析した結果である。NMRで分析した溶液は、ミリングした溶液を、15000rpmで30分間遠心分離した後、上澄みを抽出したものである。この上澄み溶液について、
29Si NMRにより分析を行った。NMR測定の条件は、共鳴周波数:119.24MHz、パルス:45deg/5.5μs、パルス間隔:2s、積算回数:1000回、試料管:テフロン(登録商標)管(5mmφ)、である。
【0052】
図4に示すように、−30〜−90ppmの範囲に生成された金属化合物のピークが検出されている。本実施の形態の(A)金属粒子はケイ素(Si)であり、生成される金属化合物は、以下の一般式(2)で表される。
(XO)
aSiO
(4−a)/2 (2)
(式中、Xは水素、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の原子または有機基であり、aは0〜4の整数である。)
【0053】
一般式(2)のケイ素化合物は、酸化ケイ素(シリカ:SiO
2)を主成分として生成される。また、水/アルコール(例えば、メチルアルコール)混合系では、酸化ケイ素、テトラメトキシシラン、トリメトキシシラノールシラン、ジメトキシジシラノールシラン、トリシラノールメトキシシランの混合物が生成される。代表的には、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane:Si(OCH
3)
4)が生成される。
図4に示される金属化合物によるピークは、上記金属化合物の化学シフトに一致しており、これらの金属化合物が生成されていると考えられる。
【0054】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態では、(A)金属粒子と(B)溶媒とを(C)粉砕機を用いて混合し、メカノケミカル反応により(D)金属化合物を製造するので、常温で安価かつ簡易に金属化合物を製造することが可能である。特に、反応性が高く、安定性に欠ける金属水酸化物を容易に合成することができる。
【0055】
本実施の形態では、(A)金属粒子はケイ素であることとしたが、これに限られず、上述の通り、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ゲルマニウム(Ge)及び錫(Sn)等であってもよく、これらの金属を複数含むこととしてもよい。
【0056】
例えば、(A)金属粒子として、チタンを用いた場合、生成される金属化合物は、以下の一般式(3)で表されるチタン化合物となる。
(XO)
aTiO
(4−a)/2 (3)
(式中、Xは水素、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の原子または有機基であり、aは0〜4の整数である。)
【0057】
一般式(3)で表されるチタン化合物は、例えば、テトラメトキシチタン(Ti(OCH
3)
4)である。(A)金属粒子としてチタンを用いた場合、メカノケミカル反応による酸化反応、還元反応が行われ、本発明に係る金属化合物の生成が効率よく行われると考えられる。
【0058】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る金属化合物の製造方法では、(A)金属粒子、(B)溶媒とともに、(F)添加物を容器12内に投入する点で、実施の形態1と異なる。その他の構成は実施の形態1と同様であるので、同じ符号を付す。
【0059】
本実施の形態に係る金属化合物の製造処理の流れは、実施の形態1に係る
図3のフローチャートと同様である。
【0060】
容器12及び粉砕媒体21の材質、大きさ等は、実施の形態1と同様である。具体的には、容器12及び粉砕媒体21の材質は、炭化タングステン(WC)である。また、粉砕媒体21の大きさは、直径約1.6mm、投入量は、約100gである。
【0061】
粉砕媒体21は、(A)金属粒子とともに、容器12に投入される。本実施の形態に係る(A)金属粒子は、ケイ素(Si)の粉末であり、粒径は大凡20μm〜60μmである。また、容器12内に投入される(A)金属粒子の量は、特に限定されないが、本実施の形態では、0.5gである。
【0062】
本実施の形態では、(A)金属粒子とともに、(F)添加物が容器12に投入される。(F)添加物は、(A)金属粒子との間で電荷を授受し、金属化合物の生成を促進する物質であり、例えば、金(Au)、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、テクネチウム(Tc)、コバルト(Co)等である。本実施の形態に係る(F)添加物は、銅(Cu)の粉末であり、粒径は大凡200μm〜500μmである。また、容器12内に投入される(F)添加物の量は、特に限定されないが、本実施の形態では、0.05gである。
【0063】
続いて、容器12に(B)溶媒を投入する。(B)溶媒は、実施の形態1と同様に、モレキュラシーブによって脱水したメチルアルコールである。また、容器12内に投入される(B)溶媒の量は、10mlである。(A)金属粒子、(F)添加物及び(B)溶媒は、容器12へ投入する前に、予め混合されていてもよい。
【0064】
(A)金属粒子、(B)溶媒及び(F)添加物が投入された後、容器12は、蓋を閉められて密閉され、遊星ボールミル装置1にセットされる。容器12を遊星ボールミル装置1にセットした後、遊星ボールミル装置1の動作を開始する。本実施の形態では、遊星ボールミルの回転速度、すなわち容器12の回転速度は、300rpmであり、ミリング時間は2時間である。
【0065】
容器12が回転することによって(A)金属粒子がミリング(破砕)される。この際、(A)金属粒子と(B)溶媒に機械的なエネルギーが付与されて、(A)金属粒子と(B)溶媒の活性が高まり、メカノケミカル反応が生じる。これにより、下記の(E)一般式(2)で表される金属化合物が生成される。
(XO)
aSiO
(4−a)/2 (2)
(式中、Xは水素、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の原子または有機基であり、aは0〜4の整数である。)
【0066】
図5(a)は、(F)添加物としての銅を添加してミリングした場合のNMRの例である。NMRを行う試料は、実施の形態1と同様に遠心分離(15000rpmで30分間)した後の上澄み溶液を採取したものである。また、NMRの条件も、実施の形態1と同様である。
図5(b)に示す(F)添加物を添加しなかった場合のNMRの結果と比較して、多くの金属化合物が生成されていることがわかる。
【0067】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態では、(A)金属粒子、(B)溶媒とともに、(F)添加物を混合し、メカノケミカル反応により(D)金属化合物を製造するので、より効率的に金属化合物を製造することが可能である。
【0068】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。