【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づき、高分子化合物の合成、高分子化合物を用いた有機薄膜太陽電池の特性について説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(高分子化合物P1の合成)
下記スキームに基づいて、順次合成を行い、高分子化合物P1を合成した。
【0032】
【化11】
【0033】
(化合物2(2−ブロモ−3−(2−デシルテトラデシル)チオフェン)の合成)
なお、原料となる3−(2−デシルテトラデシル)チオフェン(化合物1)は、「M. S. Wong et al. ACS Appl. Mater. Interfaces, 10, 34355 (2018)」に基づいて合成し、用いた。
100mLのナスフラスコに化合物1(3.00g,7.13mmol)、クロロホルム(20mL)、酢酸(4mL)を入れ0℃に冷却したのち、N−ブロモスクシンイミド(1.27g,7.13mmol)を3回に分けて加え5時間撹拌した。
反応溶液に水を加えてクエンチしたのち、ヘキサンで三回抽出した。
有機層を水および、食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
濾過、濃縮を行い、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物2(2.26g,4.52mmol,収率92%)を得た。
【0034】
(化合物3(3−(2−デシルテトラデシル)―2−エチニルチオフェン)の合成)
100mLの三口フラスコに化合物2(2.26g,4.50mmol)、ヨウ化銅(I)(42.9mg,0.225mmol)、トリフェニルホスフィン(71.0mg,0.025mmol)、トリメチルシリルアセチレン(666mg,6.78mmol)を入れ、還流管を接続後、三回アルゴン置換した。
次にトリエチルアミン(10mL)、テトラヒドロフラン(10mL)を加え、30分アルゴンバブリングした後、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを加えて90℃で12時間攪拌した。
室温まで放冷したのち、反応溶液にテトラブチルアンモニウムフロリド(5.08g,19.4mmol)を加え一晩撹拌した。
続いて、水を加えてヘキサンで三回抽出した。
有機層を水および、食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。
その後濾過、濃縮を行い、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、化合物3(1.49g,3.35mmol,収率74%)を得た。
【0035】
化合物3の物性データは次の通りである。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.15 (d, J = 4.0Hz, 1H), 6.82 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 3.41 (s, 1H), 2.63 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 1.67 (m, 1H), 1.32-1.25 (m, 40H), 0.90-0.83 (t, 6H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 148.36, 128.75, 126.04, 117.80, 83.20, 39.17, 34.21, 33.61, 32.11, 30.16, 29.91, 29.88, 29.86, 29.84, 29.83, 29.54, 29.53, 26.72, 22.86, 14.17, [M + H]
+, m/z 1193.6680, Found 1193.66418
【0036】
(化合物5(5,10−ビス((3−(2−デシルテトラデシル)チオフェン−2−イル)エチニル)ナフト[1,2−c:5,6−c’]ビス[1,2,5]チアジアゾール)の合成)
原料となる4, 8−ジブロモ−ナフト[1,2−c:5,6−c’]ビス[1,2,5]チアジアゾール(化合物4)は、「S. Mataka et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, 68 (1991)」に基づいて合成し、用いた。
100mL三口フラスコに化合物4(539mg, 1.34mmol)、ヨウ化銅(I)(25.5mg,0.134mmol)、トリフェニルホスフィン(4.2mg,0.161mmol)、化合物3(1.49g,445mmol)を入れ、還流管を接続後、三回アルゴン置換した。
次に、テトラヒドロフラン(27mL)、トリエチルアミン(27mL)の混合溶媒を加え、30分アルゴンバブリングを行った。
その後、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(155mg,0.134mmol)を加え、90℃で12時間撹拌した。
反応溶液を室温まで放冷し、クロロホルムを加えた後、水および、食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
その後、濾過、濃縮し、クロロホルム:ヘキサン=1:3の混合溶媒を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、メタノールで再沈殿することで、化合物5(1.06g,0.938mmol,収率70%)を得た。
【0037】
得られた化合物5の物性データは次の通りである。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 9.01 (s, 2H), 7.32 (d, J = 4.0 Hz, 2H), 6.94 (d, J = 4.4 Hz, 2H), 2.89 (d, J = 5.6 Hz, 4H), 1.83 (m, 2H), 1.57-1.15 (m, 80H), 0.87-0.83 (m, 12H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3) δ 154.30, 152.54, 149.38, 129.34, 129.20, 127.58, 125.61, 118.28, 117.32, 91.68, 91.50, 39.53, 34.57, 33.65, 32.07, 32.05, 32.04, 32.03, 30.27, 30.19, 29.87, 29.85, 29.84, 29.82, 29.81, 29.79, 29.49, 29.48, 29.46, 26.79, 22.83, 22.81, 14.26, 14.24, [M + H]
+, m/z 1193.6680, Found 1193.66418
【0038】
(化合物6(5,11−ビス((3−(2−デシルテトラデシル)チオフェン−2−イル)ジチエノ[3’,2’:3,4;3”,2”:7,8]ナフト[1,2−c:5,6−c’]ビス[1,2,5]チアジアゾール)の合成)
20mLマイクロウェーブチューブに化合物5(282mg,0.250mmol)、硫黄(257mg,1.00mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド10mLを入れ、密栓した。
マイクロウェーブ反応装置を用いて、200℃で45分反応させた。
その後、室温まで冷却し、反応溶液に水を加え、ヘキサンで三回抽出した。
有機層を水、食塩水、および、5wt%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
その後濾過、濃縮を行い、ジクロロメタンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製、濃縮後にヘキサンからヘキサン:ジクロロメタン10:1を展開溶媒としたグラジエントカラムにより精製することで、化合物6(128mg,0.069mmol,収率28%)を得た。
【0039】
化合物6の物性データは次の通りである。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 8.20 (s, 2H), 7.35 (d, J = 4.8 Hz, 2H), 7.03 (d, J = 4.8 Hz, 2H), 2.95 (d, J = 4.8 Hz, 4H), 1.80 (m, 4H), 1.29-1.12 (m, 80H), 0.87-0.82 (m, 12H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 150.42, 150.39, 142.12, 140.58, 136.80, 131.32, 130.80, 130.34, 125.07, 120.81, 118.50, 39.20, 34.33, 33.73, 32.07, 32.05, 32.04, 32.03, 30.31, 30.19, 29.89, 29.86, 29.84, 29.80, 29.50, 29.49, 26.78, 26.73, 22.83, 22.82, 14.25; APCI-MS, calculated for C
70H
104N
4S
6 ([M] = 1192.6587), [M + H]
+, m/z 1193.6680, Found 1193.66418
【0040】
(化合物7(5,11−ビス((5−ブロモ−3−(2−デシルテトラデシル)−チオフェン−2−イル)ジチエノ[3’,2’:3,4;3”,2”:7,8]ナフト[1,2−c:5,6−c’]ビス[1,2,5]チアジアゾール)の合成)
100mL三口フラスコに化合物6(91.1mg,0.077mmol)を加え、三回アルゴン置換した。
0℃まで冷却し、クロロホルム(10mL)、N−ブロモスクシンイミド(36mg,0.20mmol)を5時間かけて少量ずつ加えた。
その後、反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、クロロホルムで三回抽出した。水および食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、濃縮を行った。
ヘキサン:酢酸エチル=50:1の混合溶媒を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに、分取HPLCにより精製した。
酢酸エチルを用いて再結晶を行うことで化合物7(80.5mg,0.056mmol,収率73%)を得た。
【0041】
化合物7の物性データは次の通りである。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 8.00 (s, 2H), 6.98 (s, 2H), 2.86 (d, J = 2.4 Hz, 4H), 1.76-1.74 (m, 2H), 1.30-1.13 (m, 80H), 0.87-0.82 (m, 12H).
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 150.38, 150.35, 141.32, 140.90, 137. 02, 133.87, 132.25, 130.34, 121.24, 118.56, 112.36, 39.23, 34.29, 33.62, 32.08, 32.06, 32.05, 32.04, 30.25, 29.88, 29.85, 29.84, 29.80, 29.51, 29.50, 26.68, 14.25
【0042】
(高分子化合物P1の合成)
2mLマイクロウェーブチューブに化合物7(67.6mg, 0.05mmol)、ヘキサメチルジチン(16.4mg,0.05mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.16mg,0.001mol)、トルエン(2mL)を入れ、窒素封入し、密栓した。
マイクロウェーブ反応装置を用いて、200℃で3時間反応させた。
その後、室温まで冷却後、反応液を5%塩酸/メタノール溶液に注ぎ込み、3時間撹拌した。沈殿した固体を濾取し、ソックスレー抽出器を用いて、メタノール、n−ヘキサンで洗浄した後、クロロホルムで抽出した。
得られた溶液を一部濃縮し、メタノールに再沈殿することで、高分子化合物P1(57mg,収率95%)を暗緑色固体として得た(数平均分子量20,000)。
【0043】
(高分子化合物P1の特性評価)
高分子化合物P1の最高被占有分子軌道(HOMO)準位、最低空分子軌道(LUMO)準位、およびバンドギャップをサイクリックボルタンメトリーにより評価した。HOMO準位は−5.32eV、LUMO準位は−3.42eV、HOMO−LUMOギャップは1.90eVを示した。
【0044】
また、比較例として、非特許文献1に開示の高分子化合物(PNTz4T)についても上記と同様に評価し、表1にまとめた。高分子化合物P1では、PNTz4Tに比べ、HOMO準位が低くなっており、バンドギャップが大きく、n型有機半導体材料と組み合わせた際に、出力電圧が向上することが示される。
【0045】
【表1】
【0046】
続いて合成した高分子化合物P1を用いて太陽電池素子を作製し、光電変換効率を評価した。
【0047】
(高分子化合物P1を用いた太陽電池素子の作製)
ITO膜がパターンニングされたガラス基板を十分洗浄後、UVオゾン処理を行った。次に、酸化亜鉛のメタノール溶液を1200rpmで10秒間スピンコートし、電子取り出し層を形成した。
電子取り出し層を成膜した基板をグローブボックス内に持ち込み、高分子化合物P1及びフラーレン誘導体であるPC
61BM(Phenyl C
61−butyric acid methyl ester)を3vol%の1,8−ジヨードオクタンを添加したクロロベンゼン溶液(高分子化合物P1/PC
61BMの重量比=1/2)を用いて、スピンコートにより光活性層を形成した(膜厚340nm)。
さらに、活性層上に、正孔取り出し層として厚さ7.5nmの三酸化モリブデン(MoO
3)膜を、次いで電極層として厚さ100nmの銀膜を、抵抗加熱型真空蒸着法により順次成膜し、4mm角の有機薄膜太陽電池素子を作製した。
【0048】
(高分子化合物P1を用いた太陽電池素子の評価)
得られた有機薄膜太陽電池にソーラシミュレーター(AM1.5Gフィルター、放射照度100mW/cm
2)を用いて一定の光を照射し、発生する電流と電圧を測定した。
図1に電流密度−電圧特性のグラフを示す。
【0049】
得られた
図1から短絡電流密度Jsc(mAcm
−2)、開放電圧Voc(V)、曲線因子FFを求めた。高分子化合物P1について、Jsc=16.9mA/cm
2、Voc=0.85V、FF=0.76であり、光電変換効率(η)を、式η=(Jsc×Voc×FF)/100より算出したところ、11.0%であった。
【0050】
また、比較例として、高分子化合物P1を非特許文献1に開示の高分子化合物(PNTz4T)を用いる以外、上記と同様にして、有機薄膜太陽電池素子(光活性層の膜厚350nm)を作製し、その特性を評価した。
【0051】
高分子化合物P1、及び、PNTz4Tを用いて得られた有機薄膜太陽電池の特性を表2にまとめた。高分子化合物P1を用いて得られた有機薄膜太陽電池は、PNTz4Tを用いて得られた有機薄膜太陽電池に比べて、高い光電変換効率を示し、良好な特性を有していることがわかる。
【0052】
【表2】