【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「粒子加速のためのパワーレーザーの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】水晶素子1は、複数の極性反転領域11と、極性非反転領域12とが設けられる主面を有しており、複数の極性反転領域は、極性非反転領域を介して互いに離間し、主面は、平面である。水晶素子の製造方法は、平面である第1主面を有する水晶体、及び、複数の第1凸部が設けられる第1押圧面を有する第1押圧治具を準備する工程と、第1押圧面が第1主面を加熱押圧することによって、複数の第1凸部に対応する複数の極性反転領域を水晶体に形成する工程と、を備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1にて開示される手法では、水晶の表面に対して段差構造を形成するための加工を実施する必要があり、量産性に課題がある。
【0005】
本発明の目的は、量産性を向上可能な水晶素子及びその製造方法、並びに水晶素子を含む光発振装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る水晶素子は、複数の極性反転領域と、極性非反転領域とが設けられる主面を有する水晶素子であって、複数の極性反転領域は、極性非反転領域を介して互いに離間し、主面は、平面である。
【0007】
この水晶素子は、複数の極性反転領域が設けられる主面を有し、且つ、当該主面は平面である。このため、水晶素子の上記主面には、段差構造が形成されることなく、複数の極性反転領域を設けることができる。したがって、水晶の表面に対して段差等を形成するための加工を実施する必要がないので、水晶素子の量産性を向上可能である。
【0008】
主面に交差する第2方向に沿った水晶素子の厚さは、0.1μm以上であり、複数の極性反転領域のそれぞれにおける第2方向に沿った深さは、5μm以上でもよい。この場合、水晶素子の内部を透過する光は、複数の極性反転領域にて良好に位相整合される。
【0009】
複数の極性反転領域のそれぞれにおける第2方向に沿った深さは、100μm以上でもよい。この場合、水晶素子の内部を透過する光は、複数の極性反転領域にてより良好に位相整合される。
【0010】
複数の極性反転領域は、水晶の屈折率分散から導出される所定位置に配列されてもよい。この場合、水晶素子の意図した性能を良好に発揮できる。
【0011】
本発明の別の一側面に係る光発振装置は、上記水晶素子と、水晶素子へレーザー光を出射するレーザー光発生装置と、を備え、レーザー光の強度が、ニオブ酸リチウムの損傷閾値光強度よりも高い。この場合、例えば光学素子としてニオブ酸リチウムを用いる場合と異なり、当該光学素子の損傷を防止できる。
【0012】
本発明のさらに別の一側面に係る水晶素子の製造方法は、平面である第1主面を有する水晶体、及び、複数の第1凸部が設けられる第1押圧面を有する第1押圧治具を準備する工程と、第1押圧面が第1主面を加熱押圧することによって、複数の第1凸部に対応する複数の極性反転領域を水晶体に形成する工程と、を備える。
【0013】
この水晶素子の製造方法では、複数の第1凸部が設けられる第1押圧治具を用いることによって、当該第1凸部に対応する複数の極性反転領域を水晶体に形成する。これにより、水晶体の第1主面に凹凸加工を施すことなく、当該第1主面側から複数の極性反転領域を形成できる。また、第1押圧治具を再利用することによって、高効率で再現性よく複数の水晶素子を製造できる。したがって上記製造方法を実施することによって、水晶素子の量産性を向上可能である。
【0014】
水晶体は、第1主面の反対側に位置する第2主面を有し、水晶体と第1押圧治具を準備する工程では、複数の第2凸部が設けられる第2押圧面を有する第2押圧治具をさらに準備し、第1押圧面が第1主面を加熱押圧するとき、第1凸部と第2凸部とが水晶体を介して対向した状態にて第2押圧面が第2主面を加熱押圧してもよい。この場合、各極性反転領域の幅に対する深さの比を大きくできる。これにより、水晶素子の内部を透過する光は、複数の極性反転領域にて良好に位相整合される。
【0015】
第1押圧面が第1主面を加熱押圧するとき、第1押圧治具の温度は200℃以上573℃以下に設定され、第1押圧治具には、水晶体に向かう100MPa以上の応力が印加されてもよい。この場合、各極性反転領域の幅に対する深さの比を大きくできる。これにより、水晶素子の内部を透過する光は、複数の極性反転領域にて良好に位相整合される。
【0016】
第1押圧治具の線膨張係数と、水晶の線膨張係数との違いは、113%以下でもよい。この場合、第1押圧面が第1主面を加熱押圧するとき、水晶体と第1押圧治具との少なくとも一方における破損を防止できる。
【0017】
第1凸部の硬度は、水晶の硬度以上でもよい。この場合、第1凸部が水晶体によって摩耗しにくくなるので、第1押圧治具を良好に再利用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、量産性を向上可能な水晶素子及びその製造方法、並びに水晶素子を含む光発振装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の一側面に係る実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。なお、本明細書における「同一」及びそれに類似する単語は、「完全同一」のみに限定されない。
【0021】
図1(a)は、本実施形態に係る水晶素子を示す平面図である。
図1(b)は、本実施形態に係る水晶素子を示す側面図である。
図1(a),(b)に示される水晶素子1は、水晶(SiO
2)から構成される素子である。水晶素子1は、例えば、光導波路もしくは波長変換素子などとして機能する光学素子でもよく、発振器もしくは振動子などとして機能する圧電素子でもよい。本実施形態では、水晶素子1は波長変換素子として機能し、例えば、基本波光が水晶素子1に入射されることによって、基本波光が変換された光(波長変換光)が水晶素子1から出射する。波長変換光は、例えば基本波光よりも高次の光である。具体例としては、波長1064nmのレーザー光が水晶素子1に入射された場合、水晶素子1から出射するレーザー光の波長は532nmになる。なお、水晶は、深紫外線(例えば150nm程度)に対して高い透過率を示す。
【0022】
加えて、水晶から構成される水晶素子1は、例えば数100GW/cm
2以上の強度を示すレーザー光が照射されても破壊されにくい性質を示す。このため、本実施形態に係る水晶素子1は、例えば、非線形光学結晶の一種であるニオブ酸リチウム(LiNbO
3)が利用可能な光以上の強度を有する光に対する光学素子として用いることが好適である。ニオブ酸リチウムが利用可能な光の強度は、ニオブ酸リチウムのレーザー損傷閾値(DT:Damage Threshold)から導出される光強度(以下、「損傷閾値光強度I
DT,LN」とする)である。例えば、極性反転を施した周期分極反転マグネシウム添加ニオブ酸リチウム(PPMgLN)のパルス幅10nsに対する損傷閾値光強度I
DT,PPLNは、300MW/cm
2とされる。一般に、損傷閾値光強度は、パルス幅の平方根に逆比例する。よって、任意のパルス幅τ(ns)に対するニオブ酸リチウムの損傷閾値光強度I
DT,LNは、300´(10/τ)
1/2MW/cm
2になる。このため、例えばレーザー光発生装置から発振する光強度が300´(10/τ)
1/2MW/cm
2以上である場合、光学素子の損傷を防止する観点から、水晶素子1を用いることが好適である。換言すると、光学素子に入射される光の強度が、ニオブ酸リチウムの損傷閾値光強度よりも高い場合、光学素子として水晶素子1を用いることが好適である。
【0023】
図1(a),(b)によれば、本実施形態に係る水晶素子1は、板形状を呈する1枚の水晶体10から構成される。水晶体10は、一対の主面10a,10bと、主面10a,10bを結ぶ側面10c〜10fとを有する。主面10a(第1主面)と、主面10b(第2主面)と、側面10c〜10fとのそれぞれは、平面であると共に略矩形状を呈する。側面10cは、水晶素子1における光入射面であり、側面10dは、水晶素子1における光出射面である。以下では、側面10c,10dに直交する方向を方向D1(第1方向)とし、側面10e,10fに直交する方向を方向D2とし、主面10a,10bに直交する方向を方向D3(第2方向)とする。方向D3は、水晶体10の厚さ方向に相当する。また以下では、側面視は方向D1もしくは方向D2から見ることに相当し、平面視は方向D2から見ることに相当する。
【0024】
方向D1に沿った水晶体10の寸法は、例えば0.1mm以上40mm以下であり、方向D2に沿った水晶体10の寸法は、例えば0.1mm以上10mm以下である。方向D3に沿った水晶体10の寸法(すなわち、水晶素子1の厚さ)は、例えば0.1μm以上10mm以下である。
【0025】
水晶体10には、複数の極性反転領域11と、複数の極性非反転領域12とが設けられる。各極性反転領域11は、水晶に対して加熱及び応力印加を実施することによって発生する領域であり、少なくとも主面10aに設けられる。極性反転領域11の極性軸と、極性非反転領域12の極性軸とは、例えば互いに180°反転した状態になっている。極性反転領域11の形成方法については後述する。本実施形態では、各極性反転領域11は、方向D2において側面10eから側面10fにかけて設けられ、且つ、方向D3において主面10aから主面10bにかけて設けられる。この場合、極性反転領域11と極性非反転領域12とが、方向D1において交互に並ぶ。また、各極性反転領域11における方向D2に沿った寸法は、方向D2に沿った水晶体10の寸法に相当し、各極性反転領域11における方向D3に沿った深さは、水晶体10の厚さに相当する。よって本実施形態では、水晶素子1の側面10cから入射し、且つ、水晶素子1の側面10dから出射する光は、複数の極性反転領域11の全てを透過する。
【0026】
複数の極性反転領域11は、極性非反転領域12を介して互いに離間する。すなわち、隣り合う極性反転領域11同士の間には極性非反転領域12が位置している。複数の極性反転領域11は、水晶体10内において、水晶の屈折率分散から導出される所定位置に配列される。本実施形態では、複数の極性反転領域11は、方向D1において周期的に配列される。上記所定位置Λは、水晶素子1が光学素子である場合、例えば式「Λ=(λ/2)/(N
2w-N
w)」にて導出できる。λは基本波光の波長であり、N
wは入力光の屈折率であり、N
2wは波長変換光の屈折率である。上記式を用いることによって、光の波長及び屈折率の変化に応じて、上記所定位置が適宜調整される。例えば本実施形態では、方向D1における極性反転領域11の寸法(極性反転領域11の幅)と、方向D1において隣り合う極性反転領域11同士の間隔(すなわち、方向D1における極性非反転領域12の幅)は、水晶素子1を透過する光の波長に応じて変化する。
【0027】
複数の極性非反転領域12のそれぞれは、水晶体10における極性反転領域11以外の領域である。すなわち、各極性非反転領域12は、水晶体10において少なくとも応力印加されていない領域である。
【0028】
本明細書では、擬似位相整合の周期(QPMピッチ)は、方向D1において互いに隣り合う一つの極性反転領域11の幅と一つの極性非反転領域12の幅との合計値に相当する。
【0029】
図2は、本実施形態に係る水晶素子1を用いた光発振装置の構成を示す概略図である。
図2に示されるように、光発振装置20は、水晶素子1に加えて、パルス光発生装置2及び集光レンズ3を有する。光発振装置20では、パルス光発生装置2、集光レンズ3、水晶素子1が順に配置される。光発振装置20は、ミラー、レンズ、フォトダイオード等の光学素子を別途有してもよい。
【0030】
パルス光発生装置2は、パルス状のレーザー光Lを発振するレーザー光発生装置であり、例えばマイクロチップレーザー光発生装置である。レーザー光Lは、例えばガウシアンビームに近い。レーザー光Lのパルス幅は例えば10ps以上1ns以下であり、レーザー光Lの1パルスあたりのエネルギーは2mJ以上である。このため、水晶素子1に入射されるレーザー光Lの強度は、ニオブ酸リチウムの損傷閾値光強度以上であり、例えば50GW/cm
2以上である。パルス光発生装置2は、例えば、半導体レーザー装置と、Nd:YVO4もしくはNd:YAGから構成される発光結晶(レーザ媒質)と、Cr:YAGから構成される受動Qスイッチとを含む。この場合、半導体レーザー装置から発生した半導体レーザー光が発光結晶を励起する。そして所定の強度に達したレーザー光が受動Qスイッチを透過することによって、パルス光発生装置2からレーザー光Lが出射する。
【0031】
集光レンズ3は、レーザー光Lを水晶素子1の側面10c(光入射面)に集光するための光学素子である。集光レンズ3によって集光して得られるレーザー光Lの最少ビームウエストは、非常に小さい傾向にある。レーザー光Lのパルス幅が短く、且つ、その最少ビームウエストが小さいことによって、水晶素子1の側面10cにおけるレーザー光Lの単位面積あたりの強度は、50GW/cm
2に以上になり得る。
【0032】
次に、
図3(a),(b)及び
図4を参照しながら本実施形態に係る水晶素子1の製造方法について説明する。
図3(a),(b)及び
図4は、本実施形態に係る水晶素子1の製造方法を説明するための図である。
【0033】
まず、
図3(a)に示されるように、平面である主面10a,10bを有する水晶体10を準備する(準備工程)。また、
図3(b)に示されるように、押圧面31(第1押圧面)を有する押圧治具30(第1押圧治具)を準備する。水晶体10の準備と、押圧治具30の準備とは、同時に実施されてもよいし、異なるタイミングにて実施されてもよい。
【0034】
押圧治具30は、その押圧面31にて水晶体10を押圧するためのスタンプ(QPMスタンプ)であり、複数の凸部32(複数の第1凸部)が設けられる押圧面31を含む本体部33を有する。このため、押圧治具30の押圧面31は、凹凸面を含む。複数の凸部32のそれぞれは、本体部33から突出する突出部であり、平面視及び側面視にて略矩形状を呈する。複数の凸部32は、例えば本体部33に対して切削加工、エッチング加工等を実施することによって設けられる。本実施形態では、複数の凸部32は周期的に設けられる。各凸部32の先端面32aは、側面視にて同一平面上に位置する平面である。各凸部32の突出量は、例えば0.1μm以上100μm以下である。各凸部32の幅と、隣り合う凸部32同士の間隔とのそれぞれは、水晶素子1に求められる性能に応じて適宜調整される。各凸部32の突出方向及び幅方向に交差する方向に沿った寸法は、方向D2に沿った水晶体10の寸法と同程度であればよい。押圧治具30の破損防止の観点から、凸部32の硬度は、水晶の硬度以上である。押圧治具30は、例えば、金属製、ステンレス鋼等の合金製、もしくはセラミックス製の治具である。なお、各凸部32のピッチは、水晶素子1のQPMピッチに実質的に相当する。
【0035】
次に、
図4に示されるように、押圧面31が水晶体10の主面10aを加熱押圧することによって、複数の凸部32に対応する複数の極性反転領域11を水晶体10に形成する(極性反転領域形成工程)。この工程では、まず、水晶体10を台座40の平坦な載置面40a上に載置する。このとき、水晶体10は台座40に固定される。次に、予め加熱された押圧治具30の押圧面31を、予め加熱された水晶体10の主面10aに当接させる。この場合、例えば、押圧治具及び水晶体を収容するチャンバ内を加熱することによって、押圧治具30及び水晶体10が加熱される。そして、押圧治具30に対して水晶体10に向かう応力を印加する。このようにQPMスタンプを用いたQPMスタンプ法によって、複数の凸部32に対応する複数の極性反転領域11が設けられる水晶素子1(
図1(a),(b)を参照)を製造する。なお、押圧治具30に対して水晶体10に向かう応力は、例えば100MPa以上である。この場合、各極性反転領域11の幅に対する深さの比を大きくできる。
【0036】
押圧治具30の押圧面31が水晶体10の主面10aを加熱押圧するとき、押圧治具30と水晶体10とは、例えば200℃以上573℃以下に予め加熱される。押圧治具30と水晶体10とが200℃以上に加熱されることによって、水晶体10に極性反転領域11が形成されやすくなる。押圧治具30と水晶体10とが573℃以下に加熱されることによって、水晶体10の意図しない相転移を防止できる。また、水晶体10及び押圧治具30の少なくとも一方における破損防止の観点から、押圧治具30の線膨張係数と、水晶の線膨張係数との違いは、113%以下である。上記違いが下限を有する場合、当該下限は0%でもよく、27%でもよい。上記違いが113%以下である場合、水晶体10への応力印加時等において、押圧治具30及び水晶体10の両方における機械的な破損が抑制される。なお、押圧治具30の線膨張係数をLEC1とし、水晶の線膨張係数をLEC2としたとき、押圧治具30の線膨張係数と、水晶の線膨張係数との違いは、「(LEC1−LEC2)/LEC2」で表される。
【0037】
以上に説明した本実施形態に係る製造方法によって製造される水晶素子1は、複数の極性反転領域11が設けられる主面10aを有し、且つ、当該主面10aは平面である。加えて本実施形態では、複数の凸部32を有する押圧治具30を利用して水晶体10に複数の極性反転領域11を形成する。このため、水晶素子1の主面10aに対して凹凸加工を施すことなく、主面10a側から複数の極性反転領域11を形成できる。換言すると、水晶体10の表面に対して段差等を形成するための加工を実施する必要がない。加えて、押圧治具30を再利用することによって、高効率で再現性よく複数の水晶素子1を製造できる。したがって本実施形態によれば、水晶素子1の量産性を向上可能である。
【0038】
押圧面31が主面10aを加熱押圧するとき、押圧治具30の温度は200℃以上573℃以下に設定され、押圧治具30には、水晶体10に向かう100MPa以上の応力が印加されてもよい。この場合、各極性反転領域11の幅に対する深さの比を大きくできる。これにより、水晶素子1の内部を透過する光は、複数の極性反転領域11にて良好に位相整合される。
【0039】
押圧治具30の線膨張係数と、水晶の線膨張係数との違いは、113%以下でもよい。この場合、押圧面31が主面10aを加熱押圧するとき、水晶体10と押圧治具30との少なくとも一方における破損を防止できる。
【0040】
凸部32の硬度は、水晶の硬度以上でもよい。この場合、凸部32が水晶体10によって摩耗しにくくなるので、押圧治具30を良好に再利用できる。
【0041】
以下では、
図5を参照しながら上記実施形態の変形例に係る水晶素子の製造方法について説明する。
図5は、変形例に係る水晶素子の製造方法を説明するための図である。
【0042】
本変形例では、
図5に示されるように、水晶体10は台座40の代わりに押圧治具50(第2押圧治具)上に載置される。押圧治具50は、押圧治具30と同様にその押圧面51(第2押圧面)にて水晶体10を押圧するための部材である。本実施形態では、押圧治具30,50は、互いに同一形状であるがこれに限られない。押圧治具50の準備は、水晶体10の準備及び押圧治具30の準備と同時に実施されてもよいし、異なるタイミングにて実施されてもよい。
【0043】
ここで、押圧治具50の構成について説明する。押圧治具50は、複数の凸部52(複数の第2凸部)が設けられる押圧面51を含む本体部53を有する。このため、押圧治具50の押圧面51は、凹凸面を含む。複数の凸部52のそれぞれは、本体部53から突出する突出部であり、平面視及び側面視にて略矩形状を呈する。本変形例では、複数の凸部52は、周期的に設けられる。各凸部52の先端面52aは、側面視にて同一平面上に位置する平面である。各凸部52の突出量は、例えば0.1μm以上100μm以下である。各凸部52の幅は、押圧治具30に含まれる各凸部32の幅に一致する。加えて、隣り合う凸部52同士の間隔は、押圧治具30において隣り合う凸部32同士の間隔と一致する。押圧治具50の破損防止の観点から、凸部52の硬度は、水晶の硬度以上である。
【0044】
図5に戻って、押圧治具30の押圧面31にて水晶体10の主面10aを加熱押圧するとき、凸部32と凸部52とが水晶体10を介して対向した状態にて、押圧治具50の押圧面51が水晶体10の主面10bを加熱押圧する。これにより、主面10aと、主面10aの反対側に位置する主面10bとの両方が、加熱押圧される。押圧治具50は、押圧治具30と同様に、例えば200℃以上573℃以下に予め加熱される。また、押圧治具50の線膨張係数と、水晶の線膨張係数との違いは、113%以下である。上記違いが下限を有する場合、当該下限は0%でもよく、27%でもよい。上記違いが113%以下である場合、水晶体10への応力印加時等において、押圧治具50及び水晶体10の両方における機械的な破損が抑制される。押圧治具50は、例えば、金属製、ステンレス鋼等の合金製、もしくはセラミックス製の治具である。なお、押圧治具50の線膨張係数をLEC3としたとき、押圧治具50の線膨張係数と、水晶の線膨張係数との違いは、「(LEC3−LEC2)/LEC2」で表される。
【0045】
水晶体10を押圧治具30,50によって加熱押圧するとき、押圧治具30の各凸部32と、押圧治具50の各凸部52とは、水晶体10の厚さ方向において互いに重なっている。本変形例では、平面視にて凸部32,52は完全に重なっている。この場合、主面10a側から形成される極性反転領域と、主面10b側から形成される極性反転領域とが良好に重なる。これにより、複数の極性反転領域11が、方向D3において主面10aから主面10bにかけて精度よく設けられる。また、各極性反転領域11の形状が、均一化する傾向にある。凸部32,52を良好に一致させる観点から、押圧治具30,50の両方にマーカー、切り欠き等が設けられてもよい。
【0046】
以上に説明した本変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて本変形例では、極性反転領域11が主面10aから主面10bにかけて設けられやすくなる。すなわち、極性反転領域11の幅に対する深さの比を大きくできる。これにより、水晶素子1の内部を透過する光は、複数の極性反転領域11にて良好に位相整合される。
【0047】
本発明の一側面に係る水晶素子及びその製造方法は、上記実施形態及び上記変形例に限定されず、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態及び上記変形例では、複数の極性反転領域が周期的に設けられているが、これに限られず、水晶の屈折率分散から導出される所定位置に設けられればよい。このため、複数の極性反転領域は、水晶体内において非周期的に設けられてもよい。また、複数の極性反転領域は、上記実施形態及び上記変形例にて説明される態様に限定されない。例えば、複数の極性反転領域は、平面視にて、方向D1に沿って周期的に設けられるだけでなく、方向D2に沿って周期的に設けられてもよい。もしくは、複数の極性反転領域は、平面視にて方向D2に沿ってのみ周期的に設けられてもよいし、方向D1,D2のいずれにおいても非周期的に設けられてもよい。また、極性非反転領域は、極性反転領域によって区画されなくてもよい。この場合、水晶素子には、複数の極性反転領域と単一の極性非反転領域とが含まれる。複数の極性反転領域は、平面視にて主面の全体に設けられなくてもよい。例えば、複数の極性反転領域は、平面視にて主面の中央部のみに設けられてもよい。なお、各押圧治具に設けられる凸部の形状及び位置は、水晶素子に設けられる極性反転領域の態様に応じて変化する。よって、各押圧治具における複数の凸部は、平面視にて非周期的に設けられてもよい。
【0048】
上記実施形態及び上記変形例では、各極性反転領域は、水晶体における一方の主面から他方の主面まで延在しているが、これに限られない。
図6(a),(b)は、水晶素子の別例を示す模式側面図である。
図6(a)には、複数の極性反転領域11Aを有する水晶素子1Aが示される。複数の極性反転領域11Aのそれぞれは、方向D3において主面10a側のみに設けられる。複数の極性反転領域11Aのそれぞれにおける方向D3に沿った深さは、5μm以上であればよい。この場合であっても、水晶素子1Aは、光導波路、波長変換素子等として良好に利用できる。具体例としては、水晶素子1Aが波長変換素子として用いられる場合、水晶素子1Aの内部(特に、主面10a及びその近傍)を透過する光は、複数の極性反転領域11Aにて良好に位相整合される。また、
図6(b)には、複数の極性反転領域11Bを有する水晶素子1Bが示される。複数の極性反転領域11Bのそれぞれにおける方向D3に沿った深さは、例えば100μm以上である。この場合もまた、水晶素子1Bは、光導波路、波長変換素子等としてより良好に利用できる。具体例としては、水晶素子1Bが波長変換素子として用いられる場合、水晶素子1Bの内部を透過する光は、複数の極性反転領域11Bにてより良好に位相整合される。
【0049】
上記実施形態及び上記変形例では、押圧治具の本体部と凸部とは一体形成されるが、これに限られない。例えば、凸部は、本体部の押圧面として機能する表面上に堆積される堆積加工体でもよい。この場合、凸部を構成する材料は、本体部を構成する材料と同一でもよいし、異なってもよい。例えば、本体部がセラミックス製である場合、凸部は金属製もしくは合金製でもよい。いずれの場合であっても、水晶体を加熱押圧するとき、凸部は、変形しないもしくは実質的に変形しない性能を有すればよい。
【0050】
上記実施形態及び上記変形例では、押圧治具によって水晶体を加熱押圧するとき、押圧治具及び水晶体は予め加熱されるが、これに限られない。例えば、押圧治具のみが予め加熱されてもよい。この場合、押圧治具を水晶体に接触させた後に押圧治具を加熱してもよいし、押圧治具によって水晶体を押圧しているときに押圧治具を加熱してもよい。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
本実施例では、複数の凸部を有するステンレス鋼製のQPMスタンプを準備した。複数の凸部のピッチは、124μmに設定された。凸部のピッチ(すなわち、124μm)は、第二高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)によって波長:532nmのレーザー光を得る際のQPMピッチに相当する。また、平面である主面を有する板状の水晶体を準備した。平面視における水晶体の寸法は10mm×20mmであり、水晶体の厚さは、1mmであった。
【0053】
次に、水晶体の主面に上記QPMスタンプの凸部を加熱押圧することによって、水晶体の一部を極性反転した。具体的には、300℃以上にて100秒以上、100MPa以上の圧力をQPMスタンプから水晶体の主面に印加した。これにより、上記凸部の位置に応じた極性反転領域を有する水晶素子を製造した。
【0054】
図7は、実施例に係る水晶素子に対して表面エッチング加工を実施した後の表面を示す図である。
図7に示される水晶素子60には、周期的に設けられた複数の極性反転領域61と、極性非反転領域62とが示されている。水晶素子60のQPMピッチPは、124μmであり、QPMスタンプに含まれる凸部のピッチと略同一であった。この結果から、QPMスタンプを用いた実施例においては、水晶素子に実質的に周期的な極性反転領域が形成されることが確認された。なお、表面エッチング加工では、水晶素子の上記主面に対してウェットエッチングすることによって、極性非反転領域のみを除去した。エッチャントはフッ化水素酸を用いた。
【0055】
(比較例)
上記実施例と異なり、極性反転を実施していない水晶体を準備した。このため、比較例では、極性非反転領域のみが含まれる水晶体を水晶素子とした。
【0056】
(SHG実験)
実施例及び比較例の水晶素子に対して、波長1064nmのパルスレーザー(パルス幅〜0.7ns)を照射した。パルスレーザーの励起エネルギーは、0mJから2.5mJまで段階的に上昇させた。そして、水晶素子を透過した波長532nmのレーザー光のエネルギー(第二高調波エネルギー:SHエネルギー)の最大値を検出した。
【0057】
図8は、実施例及び比較例におけるSHエネルギーの最大値の検出結果である。
図8において、縦軸はSHエネルギーの最大値を示し、横軸は励起エネルギーを示す。また、グラフ71は実施例におけるSHエネルギーの最大値を示し、グラフ72は比較例におけるSHエネルギーの最大値を示す。
図8に示されるように、実施例においては、励起エネルギーの上昇に伴って、SHエネルギーも上昇することが確認された。実施例では、励起エネルギーが2.5mJのとき、SHエネルギーは1.26μJであった。一方で比較例においては、励起エネルギーが上昇しても、SHエネルギーがほぼ一定であることが確認された。比較例では、励起エネルギーが2.5mJのとき、SHエネルギーは6.19nJであった。すなわち、実施例において検出される励起エネルギーは、比較例の数百倍を示した。これらの結果から、実施例に係る水晶素子は、比較例と異なり、第二高調波発生を実施できる(すなわち、QPM構造を備える)ことが確認された。