【解決手段】本発明の被照射体の飛翔装置は、少なくとも第1の光と第2の光を含む複数の光を照射する光照射部と、前記複数の光を走査させる光走査部と、を備え、前記複数の光のうち、前記第1の光で被照射体を飛翔させる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一の構成部には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
実施形態に係る被照射体の飛翔装置では、少なくとも第1の光と第2の光を含む複数の光を照射する光照射部と、複数の光を走査させる光走査部と、を備え、複数の光のうち、前記第1の光で被照射体を飛翔させる。第1の光と、第2の処理を行うための該第1の光とは異なる第2の光のそれぞれを、共通の光走査部を用いて走査させて被照射体に照射する。これにより、複数の光の照射を簡便に制御できる。
【0010】
従来、2つの光を空間的及び時間的に対応付けて、被照射体に照射するためには、極めて高精度な制御が要求される場合があった。これに対し、本発明は、異なる処理を行う2つの光を空間的及び時間的に対応付けて照射する。
【0011】
(被照射体)
被照射体とは、光の照射によって、飛翔や被付着物への付着等の所望の処理が施される材料をいう。一例として、光吸収材や粉末材料等あげられるが、光によって飛翔される物質であれば特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
【0012】
(被照射体の飛翔装置)
また、被照射体の飛翔装置とは、被照射体を飛翔させる装置をいう。また被付着物に被照射体を付着させる機能を備えることもできる。なお以下では、説明を簡略化するために、被照射体の飛翔装置を、単に飛翔装置という。
【0013】
(光照射部)
光照射部は、少なくとも第1の光と第2の光を含む複数の光を照射する。第1の光と第2の光の光源は同じであってもよいし、異なる光源であってもよい。第1の光は、被照射体を飛翔させる。より具体的には、例えば担持体により担持された被照射体に飛翔用レーザビームを照射して被付着物に飛翔させる。第2の光は、第1の光により飛翔された被照射体を固定する。より具体的には、例えば第1の光により飛翔して被付着物上に着弾した被照射体に固定用レーザビームを照射し、被照射体を加熱,溶融させて被付着物に固定する。
【0014】
(複数の光)
複数の光は、少なくとも第1の光と第2の光を含む。なお以下では、説明を簡略化するために、第1の光と第2の光を合わせて、単に「2つの光」もしくは「ハイブリット光」という。
【0015】
(光走査部)
光走査部は、複数の光を走査させる。また、「2つの光を空間的に対応付けて照射する」とは、2つの光の照射位置を所定の関係にすることをいう。この所定の関係には、2つの光の照射位置が一致する関係や所定量だけずれた関係等が挙げられる。
【0016】
また、「2つの光を時間的に対応付けて照射する」とは、2つの光の照射タイミングを所定の関係にすることをいう。この所定の関係には、2つの光の照射タイミングが一致する関係や所定量だけずれた関係等が挙げられる。
【0017】
[第1実施形態]
<飛翔装置1の構成例>
まず、第1実施形態に係る飛翔装置1について説明する。
図1は飛翔装置1の構成の一例を説明する図である。
【0018】
図1において、飛翔装置1は、光照射部2を有し、光照射部2は、光走査部としてポリゴンミラー27を含む。また、飛翔装置1は、被照射体供給部10と、担持体としての透明シート12と、ステージ4と、ホストコンピュータ41と、露光条件設定部42とを有している。また、光照射部2は、レーザ光源21、レーザ光源22と、導光部としてのファイバコンバイナ23と、コリメートレンズ24と、アパーチャ25と、シリンドリカルレンズ26と、光走査部としてのポリゴンミラー27と、走査レンズ28と、防塵ガラス29を有する。
【0019】
飛翔装置1は、担持体としての透明シート12に担持された被照射体11に飛翔用レーザビーム211を照射し、またy方向に移動可能なステージ4上に載置される被付着物3に固定用レーザビーム221を照射する光照射部2を備える。
【0020】
被照射体11は、被照射体供給部10を構成している透明シート12に担持されて、被付着物3に対向して供給される。なお、透明シート12は、少なくとも飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221に対して透過性を有するシート状部材である。
【0021】
より詳しくは、光照射部2は、被照射体11の光吸収波長に対応する第1の光としてのパルス状の飛翔用レーザビーム211を照射して、透明シート12に担持された被照射体11を飛翔させる。
【0022】
ここで、「被照射体11の光吸収波長に対応する光」とは、被照射体11により光吸収される波長をいい、例えば被照射体11による光吸収が最大となる波長の光である。光吸収がより大きい波長の光であると、被照射体11を飛翔させる処理や被照射体を被付着物に固定する処理を効率的に実行させることができるため、より好適である。
【0023】
光照射部2は、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211と、第2の光として固定用レーザビーム221をそれぞれ照射する。光照射部2は、飛翔用レーザビーム211の照射により飛翔して被付着物3上に着弾した被照射体11に、被照射体11の光吸収波長に対応する第2の光としてのパルス状の固定用レーザビーム221を照射する。固定用レーザビーム221の照射により被付着物3上に着弾した未固定の被照射体11を加熱し、溶融させて、その後の冷却によって被照射体11を被付着物3に固定する。
【0024】
飛翔用レーザビーム211と固定用レーザビーム221は同じ波長の光であるが、これに限定されるものではなく、両者を異ならせてもよい。
【0025】
レーザ光源21は、短パルスレーザであり、固体レーザ方式、ファイバレーザ方式、半導体レーザ方式等で飛翔用レーザビーム211を射出する。レーザ光源22も同様に短パルスレーザであり、固体レーザ方式、ファイバレーザ方式、半導体レーザ方式等で固定用レーザビーム221を射出する。これらを高速周波数制御、又はパワー変調制御を行う場合には、ファイバレーザ方式が適している。
【0026】
レーザ光源21,22のレーザビームの射出口は、導光部の一例としてのファイバコンバイナ23の備える2つの入射ポート(
図1の+x方向側の端部)にそれぞれ接続されている。レーザ光源21,22から射出された飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221は、入射ポートを通してファイバコンバイナ23内に導光される。
【0027】
ファイバコンバイナ23は、導光された飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221を伝搬させ、両者が同軸結合されたハイブリッド光20を生成し、これを出射ポート(
図1の−x方向側の端部)から射出する。
【0028】
ここで、同軸のレーザビームとは、2つのレーザビームの光軸が一致していることをいう。但し、この一致は完全な一致を要求するものではなく、部材の製造誤差に伴う一般に誤差と認められる程度の差は許容される。また
図1では、説明のために、飛翔用レーザビーム211と固定用レーザビーム221とを完全に一致させずに、ずらして表示している。
【0029】
ファイバコンバイナ23から射出され、球面波状に広がるハイブリッド光20は、コリメートレンズ24を透過することで平行光束に変換される。
【0030】
平行光束に変換することで、後段の光学系に対してハイブリッド光20を効率よく伝搬させることが可能になる。なお、装置全体の光学系に鑑みて、平行光よりも発散光、あるいは収束光になるコリメートレンズ24を使用することもできる。
【0031】
平行光束のハイブリッド光20は、空間フィルタとして作用するアパーチャ25を通った後、シリンドリカルレンズ26に到達する。
【0032】
シリンドリカルレンズ26は、y方向に沿う方向にのみ入射光を収束させるレンズであり、ポリゴンミラー27面のy方向に沿う方向における傾きの影響を補正する機能を有する。
【0033】
ハイブリッド光20は、シリンドリカルレンズ26を透過した後、光走査部としてのポリゴンミラー27の光反射面に到達する。
【0034】
ポリゴンミラー27は、複数の光を走査する。ここでは、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211と、第2の光として固定用レーザビーム221を走査させる。ポリゴンミラー27が1つで2つの光を走査させる。ポリゴンミラー27は、モータ等の駆動部によって回転可能なミラーであり、正六角形の断面形状をしている。正六角形の辺(実施形態では六辺)のそれぞれの位置に光反射面を備えている。回転するポリゴンミラー27の位置に達したハイブリッド光20は、それら六つの光反射面の何れか一つの表面上で反射される。反射角は、反射の瞬間における光反射面の角度に応じたものになるが、その角度はポリゴンミラー27の回転に伴って刻々と変化する。これにより、ハイブリッド光20のポリゴンミラー27による反射光は、
図1のx方向に走査される。
【0035】
ポリゴンミラー27の六つの光反射面の何れかで反射したハイブリッド光20の走査光は、走査レンズ28、防塵ガラス29を順次透過する。その後、透明シート12を通過して、透明シート12の被付着物3に対向する側の面に担持された被照射体11に到達する。なお、ポリゴンミラー27の後段には必要に応じて長尺レンズを配置することもできる。
【0036】
ハイブリッド光20のうちの飛翔用レーザビーム211を被照射体11に照射することで、飛翔用レーザビーム211のエネルギーを吸収した被照射体11が透明シート12から被付着物3に向けて(
図1の白抜き矢印方向)飛翔する。飛翔した被照射体11は被付着物3上に着弾する。
【0037】
一方、ハイブリッド光20のうちの固定用レーザビーム221は、透明シート12に担持された被照射体11を通過して、飛翔用レーザビーム211の照射により飛翔して被付着物3上に着弾した被照射体11に照射される。固定用レーザビーム221の照射により、被付着物3上の被照射体11は加熱されて溶融し、その後冷却して被付着物3に固定される。
【0038】
なお、光照射部2は、折り返しミラーやビーム整形光学系等を備えることもでき、また、光走査部における光偏向器は、ポリゴンミラー27に限定されるものではなく、ガルバノミラー等により構成することもできる。
【0039】
ホストコンピュータ41は、CAD(Computer Aided Design)等で作成された画像データ(描画データ)を外部装置等から取得して、取得した描画データに対して画像処理等を施した後、露光条件設定部42に出力する。また、ホストコンピュータ41は、ステージ4に対して座標制御信号を出力してステージ4の移動を制御する。
【0040】
露光条件設定部42は、予めユーザーによって入力された露光領域、走査速度、周波数、ビーム径、光出力強度等の露光パラメータと、ホストコンピュータ41から送られてきた描画データとをレーザ光源21,22のそれぞれに出力する。
【0041】
また、被照射体供給部10としては、光照射部2と被付着物3との間の飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221の光路上に、被照射体11を供給するものであれば、特に制限はない。例えば、飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221の光路上に配置された円筒状の担持体やベルト状の担持体を介して被照射体11を供給することもできる。
【0042】
<被照射体供給部10の構成例>
次に、被照射体供給部10の構成について、
図2を参照して説明する。
図2は被照射体供給部10の構成の一例を説明する図である。
【0043】
被照射体供給部10は、被照射体11を貯留する貯留槽101と、供給ローラ102と、規制ブレード103と、シート送出ローラ104と、シート回収ローラ105を有している。
【0044】
供給ローラ102は、シート送出ローラ104と当接するように配置され、貯留槽101の被照射体11に一部が浸漬されている。供給ローラ102は、回転駆動部によって、又はシート送出ローラ104の回転に従動して、矢印方向(時計回り方向)に回転しながら被照射体11を周面に付着させる。
【0045】
供給ローラ102の周面に付着した被照射体11は、規制ブレード103により平均厚みを均一にされ、シート送出ローラ104から送出される透明シート12上に転移することにより層として供給される。透明シート12は、供給された被照射体11を、被付着物3に対向する側の面に分子間力によって担持する。なお、エア吸着や静電吸着によって、透明シート12による被照射体11の担持力を補強してもよい。
【0046】
シート送出ローラ104には透明シート12が予め巻き付けられており、巻き付けられた透明シート12の一端は、シート送出ローラ104から+y方向に離間して配置されたシート回収ローラ105に接続されている。
【0047】
モータ等の駆動部による回転によって、シート回収ローラ105は透明シート12を巻き取り、この巻き取り動作により透明シート12は+y方向に走行する。シート送出ローラ104は、透明シート12の走行に従動回転するとともに、巻き付けられている透明シート12を、シート回収ローラ105に向けて送り出す。
【0048】
透明シート12は、被照射体11を担持して走行し、シート送出ローラ104とシート回収ローラ105の間に配置された光照射部2に対向する位置で、光照射部2により飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221が照射される。そして、被照射体11を透明シート12から飛翔させる処理と、被付着物3に固定する処理が行われる。
【0049】
透明シート12に供給された被照射体11は、シート送出ローラ104が回転することにより、飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221が照射される位置に連続的に供給される。処理後に、被照射体11は、透明シート12ごとシート回収ローラ105によって回収される。
【0050】
<ハイブリッド光20の一例>
次に、第1実施形態に係るファイバコンバイナ23で生成されるハイブリッド光20の一例について、
図3乃至
図5を参照して説明する。
【0051】
図3はハイブリッド光20の構成の一例を説明する図、
図4はハイブリッド光の生成過程の一例を説明する図である。また、
図5はハイブリッド光による処理例を示す図であり、(a)は飛翔用レーザビーム211による処理例を示す図、(b)は固定用レーザビーム221による処理例を示す図である。
【0052】
図3に示すように、ハイブリッド光20は、短パルスで高ピーク光強度の飛翔用レーザビーム211(斜線ハッチングで示した部分)と、飛翔用レーザビーム211と比較して長パルスで低ピーク光強度の固定用レーザビーム221とを含んで構成されている。なお、
図3の横軸は時間を示し、縦軸は光強度を示している。
【0053】
ここで、飛翔用レーザビーム211のパルス期間(発光期間)は所定時間幅の一例であり、固定用レーザビーム221のパルス期間は所定時間幅以上の時間幅の一例である。
【0054】
また、
図4に示すように、レーザ光源21から射出された飛翔用レーザビーム211は、ファイバコンバイナ23が備える2つの入射ポートのうちの一方に入射される。また、レーザ光源22から射出された固定用レーザビーム221は他方の入射ポートに入射される。
【0055】
ファイバコンバイナ23の分岐が合流する部分で、ファイバコンバイナ23内をそれぞれ伝搬した飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221が合成される。これにより、ハイブリッド光20が生成される。生成されたハイブリッド光20は、ファイバコンバイナ23内を伝搬した後、出射ポートから射出される。
【0056】
また、
図5(a)に示すように、飛翔用レーザビーム211は、透明シート12における被付着物3と対向する面とは反対側の面に照射される。短パルスで高ピーク光強度の飛翔用レーザビーム211を照射することで、短時間で高いエネルギーが透明シート12を介して被照射体11に付与される。
【0057】
このエネルギーの付与によるアブレーション効果または光放射圧によって、被照射体11の透明シート12への付着力(担持力)が開放され、重力により被照射体11が下向きに落下することで、被照射体11を飛翔させることができる。
【0058】
また、
図5(b)に示すように、固定用レーザビーム221は、被付着物3に対向する方向から透明シート12を介して、被付着物3上に着弾した被照射体11に照射される。
【0059】
同軸の飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221を1つのポリゴンミラー27により走査させることで、走査された飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221の照射位置を正確に一致させることができる。
図5(b)では、飛翔用レーザビーム211照射による被照射体11の飛翔で透明シート12上の被照射体11が欠落した部分を、固定用レーザビーム221が通過し、被付着物3上に着弾した被照射体11に到達している。
【0060】
長パルスで低ピーク光強度の固定用レーザビーム221を照射することで、パルス期間分だけの熱エネルギーを、被付着物3上に着弾した被照射体11に付与できる。付与された熱エネルギーで被照射体11の温度が上昇し、融点以上に達すると被照射体11が溶融する。溶融した部分がその後冷却することで、被照射体11は被付着物3上に固定される。
【0061】
ここで、
図3乃至
図4では、飛翔用レーザビーム211と比較して長パルスで低ピーク光強度の固定用レーザビーム221を用いる例を示したが、連続発振するCW(Continuous Wave)光であってもよい。
【0062】
また、2つのレーザ光源21,22を用いる例を示したが、これに限定されるものではない。オフセット信号とパルス信号を重畳させた電流を半導体レーザ等のレーザ光源に入力し、オフセット信号によりCW光を発振させ、パルス信号によりパルス光を発振させて、両者の合成によりハイブリッド光を生成することもできる。
【0063】
また、飛翔用レーザビーム211により飛翔させた被照射体11が被付着物3上に着弾した後で、着弾後の被照射体11に固定用レーザビーム221を照射できるように、短パルスの飛翔用レーザビーム211は、長パルスの固定用レーザビーム221のパルス期間における早いタイミングに照射されることが好ましい。
【0064】
このような飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221の照射タイミングの調整は、レーザ光源21,22の何れか一方の射出タイミングを調整することで容易に行うことができる。
【0065】
<飛翔装置1の作用効果>
以上説明してきたように、飛翔装置1では、透明シート12により担持された被照射体11に飛翔用レーザビーム211を照射して、被照射体11を被付着物3に向けて飛翔させる。また、被付着物3上に着弾した被照射体11に固定用レーザビーム221を照射して、被照射体11を加熱し、溶融させて被付着物3に固定する。着弾した被照射体11に固定用レーザビーム221を照射して、被照射体11を被付着物3に固定するためには、飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221のそれぞれの照射位置と照射タイミングを正確に対応付けることが好ましい。
【0066】
従来技術のように、飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221を別々の光偏向器で走査させると、各走査光による照射位置と照射タイミングを正確に対応付けるために、レーザ光源の射出やポリゴンミラーの回転等を極めて高精度に制御することが要求される。このような制御は、装置構成の複雑化や装置コストの増大を招来させる場合がある。
【0067】
本実施形態では、飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221のそれぞれの走査を、共通の光走査部であるポリゴンミラー27を用いて行う。そのため、それぞれの走査光の照射位置と照射タイミングを正確且つ容易に対応付けることができる。
【0068】
換言すると、被照射体11を飛翔させる処理を行う飛翔用レーザビーム211と、被照射体11を被付着物3に固定する処理を行う固定用レーザビーム221を、空間的及び時間的に正確且つ容易に対応付けて照射することができる。これにより、装置構成の複雑化や装置コストの増大を防止できる。また、ポリゴンミラー27や走査レンズ28等の部材を共通化することによっても、装置コストの低減が図れる。
【0069】
また、本実施形態では、ファイバコンバイナ23により、飛翔用レーザビーム211の光軸と固定用レーザビーム221の光軸を一致させてポリゴンミラー27に導光する。光軸が一致した同軸の飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221を、共通のポリゴンミラー27で走査させることで、各走査光の位置を、特段の制御を行うことなく正確に一致させることができる。
【0070】
ここで、本実施形態では、導光部の一例としてファイバコンバイナ23を用いる例を示したが、これに限定されるものではなく、ビームスプリッタ等の光学素子により導光部を構成することもできる。
【0071】
また、本実施形態では、透明シート12は被付着物3に対向する面に被照射体11を担持し、飛翔用レーザビーム211の走査光を透明シート12の被付着物3に対向する面とは反対側の面に照射する。また、被付着物3に着弾した被照射体11に対し、被付着物3に対向する方向から透明シート12を介して、固定用レーザビーム221の走査光を照射する。このように、透明シート12を介して被付着物3と対向配置で光照射部2による処理を行うことで、飛翔装置1の装置構成を簡略化することができる。
【0072】
また、本実施形態では、短パルスで高ピーク光強度の飛翔用レーザビーム211と、飛翔用レーザビーム211と比較して長パルスで低ピーク光強度の固定用レーザビーム221とを含んで構成したハイブリッド光20を用いて、光照射部2による処理を実行する。これにより、同軸の飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221を容易に生成できる。
【0073】
なお、飛翔用レーザビーム211の収束位置(ビームウエスト位置)は、透明シート12による被照射体11の担持面に略一致するように、走査レンズ28等を設計すると好適である。このようにすることで、担持面内における飛翔用レーザビーム211の照射の空間分解能を向上させ、被付着物3上に被照射体11を固定する密度を上げることができる。また、飛翔用レーザビーム211の収束位置で、被照射体11を飛翔させるための単位面積当たりのエネルギーをより高くすることができる。
【0074】
なお、本実施形態では、被付着物3上に着弾した被照射体11に、固定用レーザビーム221を照射して加熱,溶融させる固定方式の例を示したが、これに限定されるものではない。固定用レーザビーム221を予め被付着物3表面に照射することで溶融させた被付着物3表面に、飛翔用レーザビーム211の照射で飛翔した被照射体11を着弾させ、その後の被付着物3表面の冷却で被照射体11を固定する方式にも、本実施形態を適用できる。この場合は、固定用レーザビーム221の照射タイミングに対して飛翔用レーザビーム211の照射タイミングを遅延させればよい。
【0075】
さらに、被照射体11を被付着物3上に固定する処理は、固定用レーザビーム221により被照射体11又は被付着物3の何れか一方を加熱、溶融させる方式に限定されるものではない。
【0076】
被照射体11をUV(Ultra Violet)硬化樹脂で構成し、レーザ光源22としてUVレーザ光源を用いたり、レーザ光源22に代えてレーザ以外のUV光源を用いたりして、被照射体11をUV硬化させて固定することもできる。
【0077】
また、被照射体11を熱硬化樹脂で構成し、レーザ光源22として該熱硬化樹脂に対して光吸収の大きいレーザ光源を用いたり、レーザ光源22に代えて該熱硬化樹脂に対して光吸収の大きいレーザ以外の光源を用いたりして、被照射体11を熱硬化させて固定することもできる。
【0078】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る飛翔装置1aについて、
図6を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一の構成部には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。飛翔装置1aは、光照射部2aを有し、光照射部2aは、光走査部としてガルバノミラー27aが含まれる。また、飛翔装置1aは、担持体としての透明シート12と、ステージ4を有している。また、光照射部2aは、レーザ光源21aと、コリメートレンズ24と、アパーチャ25と、照射領域設定部として回折光学素子31、走査レンズ28と、防塵ガラス29を有する。光照射部2aは、複数の光を走査する。ここでは少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム2111と、第2の光として固定用レーザビーム2112をそれぞれ照射する。ガルバノミラー27aは、第1の光として飛翔用レーザビーム2111と、第2の光として固定用レーザビーム2112を走査させる。ガルバノミラー27aが1つで2つの光を走査させる。
【0079】
本実施形態では、1つのレーザ光源21aから射出された飛翔用レーザビーム211aを回折光学素子31によって飛翔用レーザビーム2111及び固定用レーザビーム2112にそれぞれ領域を設定する。飛翔用レーザビーム2111は、透明シート12における被照射体11の担持面の所定領域に照射して被照射体11を飛翔させる。また、固定用レーザビーム2112は、被付着物3上の所定領域に照射して被照射体11を被付着物3に固定する。回折光学素子31によって、透明シート12上に飛翔用レーザビーム2111を収束させ、被付着物3上に固定用レーザビーム2112を収束させている。
【0080】
図6は、このような飛翔装置1aの備える光照射部2aの構成の一例を説明する図である。
図6に示すように、光照射部2aは、飛翔用レーザビーム211aを射出するレーザ光源21aと、飛翔用レーザビーム211aを回折させる回折光学素子31とを備えている。
【0081】
回折光学素子31による回折光のうちの0次回折光(透過光)は、回折光学素子31通過後もそのまま直進する平行光束の飛翔用レーザビーム2111になる。飛翔用レーザビーム2111は、ガルバノミラー27aで反射された後、走査レンズ28によって、透明シート12による被照射体11の担持面に収束される。この収束光を照射することで、透明シート12に担持された被照射体11を被付着物3に向けて飛翔させることができる。
【0082】
一方、回折光学素子31による回折光のうちの1次回折光は、回折光学素子31通過後に球面波状に広がる発散光の固定用レーザビーム2112になる。固定用レーザビーム2112は、ガルバノミラー27aで反射された後、走査レンズ28によって、飛翔用レーザビーム2111の収束位置よりも遠方(−z方向側)に収束される。この収束光を照射することで、被付着物3上に着弾した被照射体11を被付着物3に固定できる。
【0083】
ここで、固定用レーザビーム2112は、担持面の位置では収束しないため、照射で付与されるエネルギー(フルエンス)が被照射体11を溶融させるフルエンス閾値より小さくなっている。これにより、担持面における被照射体11への固定用レーザビーム2112の影響を抑えて、被付着物3上に固定用レーザビーム2112を照射できる。
【0084】
また、担持面における被照射体11への固定用レーザビーム2112の影響をより抑制するためには、固定用レーザビーム2112の焦点深度が浅いほうが好ましい。固定用レーザビーム2112の焦点深度を浅くするために、レーザ光源21aとして、以下の(1)式で表される特性値M
2(エムスクエア)が大きいものを用いると好適である。
【0085】
【数1】
ここで、(1)式のDはビームウエストの直径(μm)、θはビーム拡がり全角(rad)、λはレーザ光の波長(μm)を表している。
【0086】
図7は、レーザビームの特性値M
2を説明する図であり、レーザビームのビームウエスト直径Dを所定値に固定した場合の特性値M
2と焦点深度の関係を示す図である。
【0087】
図7において、破線で示した曲線は、特性値M
2が1.3である固定用レーザビーム2112を示し、一点鎖線で示した曲線は、特性値M
2が1である比較例としての固定用レーザビーム2112'を示している。
【0088】
また、直線11Mは透明シート12により担持された被照射体11の位置(担持面の位置)、直線3Mは被付着物3の表面位置をそれぞれ示し、ビームウエスト位置は被付着物3の表面位置に設定されている場合を例示している。
【0089】
特性値M
2が大きいほど焦点深度が狭くなる。そのため、特性値M
2が1である固定用レーザビーム2112'と比較して、特性値M
2が1.3である固定用レーザビーム2112では、ビームウエスト位置から光軸方向に離れるにつれてビーム直径が急激に拡大している。
【0090】
ビーム直径が大きいほど単位面積当たりのフルエンスが低下する。そのため、特性値M
2を大きくすることで、ビームウエスト位置である被付着物3上から離れた被照射体11の位置でのフルエンスを低下させ、被照射体11への固定用レーザビーム2112の影響を抑制できる。
【0091】
所望の特性値M
2の光源をレーザ光源21aとして選定することで、所望の上記抑制効果を得ることができる。なお、特性値M
2は1.3に限定されるものではなく、一般に理想とされる特性値M
2に対して大きい特性値M
2の光源をレーザ光源21aとして選定できる。一般に理想とされる特性値M
2に対して大きい特性値M
2の光源は、特性値M
2が1.3以上のレーザ光源等である。
【0092】
本実施形態による上述した以外の効果は、第1実施形態と同様であるため、ここでは重複した説明を省略する。
【0093】
なお、被照射体11の担持面上での充填率が低く、被照射体11が担持面上にまばらに担持される場合に本実施形態を適用すると、固定用レーザビーム2112が担持面を通過する時に被照射体11の光吸収による損失が抑制されるため、より好適である。
【0094】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の飛翔装置1bについて説明する。
【0095】
本実施形態では、照射領域設定部の一例としての凹レンズと、導光部の一例としてのビームスプリッタとを用いる。2つのレーザ光源から射出されたレーザビームの一方を飛翔用レーザビームとし、透明シート12における被照射体11の担持面の所定領域に照射して被照射体11を飛翔させる。また、他方のレーザビームを固定用レーザビームとし、被付着物3上の所定領域に照射して被照射体11を被付着物3に固定する。
【0096】
図8は、このような変形例に係る飛翔装置1bを説明する図である。飛翔装置1bは、光照射部2bを有し、光照射部2bは、光走査部としてガルバノミラー27aが含まれる。また、飛翔装置1bは、担持体としての透明シート12と、ステージ4を有している。光照射部2bは、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211aと、第2の光として固定用レーザビーム221bをそれぞれ照射する。ガルバノミラー27aは、複数の光を走査する。ここでは、第1の光として飛翔用レーザビーム211aと、第2の光として固定用レーザビーム221bを走査させる。ガルバノミラー27aが1つで2つの光を走査させる。
【0097】
図8に示すように、光照射部2bは、レーザ光源21b,22bと、コリメートレンズ241,242と、アパーチャ251,252と、ミラー32と、凹レンズ33と、ビームスプリッタ34と、走査レンズ28と、防塵ガラス29とを備えている。
【0098】
レーザ光源22bから射出された固定用レーザビーム221b(破線)は、コリメートレンズ242、アパーチャ252を通った後、ミラー32で反射される。その後、凹レンズ33により球面波状に広がる発散光に変換され、ビームスプリッタ34で反射されて、ガルバノミラー27aに到達する。
【0099】
一方、レーザ光源21bから射出された飛翔用レーザビーム211b(実線)は、コリメートレンズ241、アパーチャ251を通った後、ビームスプリッタ34を透過して、ガルバノミラー27aに到達する。
【0100】
飛翔用レーザビーム211bと固定用レーザビーム221bは、ビームスプリッタ34により同軸に結合される。
【0101】
飛翔用レーザビーム211bは、ガルバノミラー27aで反射された後、走査レンズ28によって、透明シート12による被照射体11の担持面に収束される。この収束光を照射することで、透明シート12に担持された被照射体11が被付着物3に向けて飛翔する。
【0102】
一方、固定用レーザビーム221bは、ガルバノミラー27aで反射された後、走査レンズ28によって、飛翔用レーザビーム211bの収束位置よりも遠方(−z方向側)に収束される。この収束光を照射することで、被付着物3上に着弾した被照射体11を被付着物3に固定できる。
【0103】
このように、2つの光源と凹レンズによって、平行光束である飛翔用レーザビーム211bと、発散光である固定用レーザビーム221bとを生成し、これらを用いて上述した第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、本変形例では2つの光源を用いるため、各光源のパルス幅や波長を異ならせたり、レーザ光源22bにCW光を射出するものを用いたりすることも可能になる。
【0104】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態に係る飛翔装置1cについて説明する。
【0105】
本実施形態では、非線形光学結晶素子を用いて基準レーザ光の第2次高調波を発生させる。基準レーザ光を飛翔用レーザビームとし、透明シート12における被照射体11の担持面の所定領域に照射して被照射体11を飛翔させる。また、第2次高調波を固定用レーザビームとし、他方のレーザビームを被付着物3上の所定領域に照射して被照射体11を被付着物3に固定する。
【0106】
図9は、このような飛翔装置1cを説明する図である。飛翔装置1cは、光照射部2cを有し、光照射部2cは、光走査部としてポリゴンミラー27が含まれる。また、飛翔装置1cは、担持体としての透明シート12と、ステージ4を有している。また、光照射部2cは、レーザ光源21cと、コリメートレンズ24と、アパーチャ25と、走査レンズ28と、防塵ガラス29を有する。光照射部2cは、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211cと、第2の光として固定用レーザビーム221cをそれぞれ照射する。ポリゴンミラー27は、複数の光を走査する。ここでは、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211cと、第2の光として固定用レーザビーム221cを走査させる。ポリゴンミラー27が1つで2つの光を走査させる。
【0107】
また、
図9に示すように、レーザ光源21cに対し、温度調節器210を備えている。温度調節器210は、レーザ光源21cの温度を調節する。また、飛翔装置1cにおける透明シート12の被付着物3に対向する側の面には光吸収層13が設けられ、透明シート12は光吸収層13を介して被照射体11を担持する構成となっている。
【0108】
レーザ光源21cは、基準レーザ光である飛翔用レーザビーム211cと、基準レーザ光の第2高調波である固定用レーザビーム221cとを射出する。一例として、飛翔用レーザビーム211cは波長が1064nmの赤外線であり、固定用レーザビーム221cは該赤外線の第2次高調波である波長532nmのGreen光である。ここで、飛翔用レーザビーム211cの波長は第1の波長の一例であり、固定用レーザビーム221cの波長は第2の波長の一例である。
【0109】
飛翔用レーザビーム211c,固定用レーザビーム221cのそれぞれは、コリメートレンズ24、アパーチャ25、シリンドリカルレンズ26を通過してポリゴンミラー27に入射される。その後、ポリゴンミラー27で反射され、走査レンズ28によって、光吸収層13に照射される。
【0110】
光吸収層13は、赤外線よりもGreen光の光吸収率が高いものが設けられており、照射されたレーザビームのうち、Green光である飛翔用レーザビーム211cを選択的に光吸収する。光吸収層13により光吸収されたエネルギーによって、担持された被照射体11が被付着物3に向けて飛翔する。光吸収層13として、Green光を光吸収するポリイミド樹脂等を用いることができる。
【0111】
なお、本実施形態では、透明シート12の被付着物3に対向する側の面に光吸収層13を設けた例を示したが、透明シート12の被付着物3に対向する側とは反対側の面に光吸収層13を設けてもよい。但し、被付着物3に対向する側の面に光吸収層13を設けると、光吸収層13により光吸収されたエネルギーを、担持された被照射体11に直接伝達できるため、より好適である。
【0112】
また、光吸収層13としてGreen光の光吸収率が高いものを設けた例を示したが、これに限定されるものではなく、基準レーザ光の波長以外の波長に対して光吸収率が高いものを設けることができる。
【0113】
一方、固定用レーザビーム221cは、光吸収を受けずに光吸収層13を通過して、被付着物3に照射される。これにより、被付着物3上に着弾した被照射体11が被付着物3に固定される。
【0114】
ここで、
図10は、レーザ光源21cを説明する図であり、(a)はレーザ光源21cの構成の一例を示す図、(b)は温度と第2次高調波の変換効率の関係の一例を示す図である。
【0115】
図10(a)に示すように、レーザ光源21cは、基準レーザ光源201と、非線形光学結晶素子204とを備えている。
【0116】
基準レーザ光源201から射出された基準レーザ光は、非線形光学結晶素子204に入射され、非線形光学結晶素子204から基準レーザ光とその第2次高調波のそれぞれが射出される。
【0117】
非線形光学結晶素子204は、LBO(LiB3O5;リチウムトリボレート)結晶等を含んで構成されている。一般に、基準レーザ光は取り除かれて、第2次高調波だけが利用されるが、本実施形態では、基準レーザ光を飛翔用レーザビーム211cとし、その第2次高調波を固定用レーザビーム221cとして、両方を利用している。
【0118】
また、非線形光学結晶素子204は温度調節器210に接続され、温度調整可能になっている。例えば、非線形光学結晶素子204に接触するようにしてヒータが設けられ、光量比調整部の一例としての温度調節器210はヒータに電圧を印加することで、非線形光学結晶素子204を加熱することができる。LBO結晶の場合、約149度が最適温度であり、この場合の変換効率は50%を超える。
【0119】
ここで、
図10(b)は横軸が温度、縦軸が第2次高調波の変換効率を示している。
図10(b)に示すように、非線形光学結晶素子204の温度Tを調整することで第2次高調波の変換効率α(%)を変化させることができる。この変換効率αは「光量比」の一例である。第2次高調波の変換効率αの場合の基準レーザ光は、1−α(%)の比率の光強度となる。
【0120】
このように、非線形光学結晶素子204の温度Tを調整することで、飛翔用レーザビーム211cと固定用レーザビーム221c間の光強度の比を変化させ、適正化することができる。
【0121】
なお、本実施形態による上述した以外の効果は、第1及び第2実施形態と同様であるため、ここでは重複した説明を省略する。
【0122】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態に係る飛翔装置1dについて説明する。
【0123】
図11は、本実施形態に係る飛翔装置1dを説明する図である。飛翔装置1dは、光照射部2dを有し、光照射部2dは、光走査部としてポリゴンミラー27が含まれる。また、飛翔装置1dは、担持体としての透明シート12と、ステージ4を有している。さらに、光照射部2dは、防塵ガラス29を有する。光照射部2dは、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211と、第2の光として固定用レーザビーム221をそれぞれ照射する。ポリゴンミラー27は、複数の光を走査する。ここでは、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211と、第2の光として固定用レーザビーム221を走査させる。ポリゴンミラー27が1つで2つの光を走査させる。
【0124】
図11において、ステージ4は、載置した被付着物3を+y方向(白抜き矢印の方向)に移動速度vで移動させる。また、光照射部2dにおけるポリゴンミラー27は、ハイブリッド光20をx方向に走査させる。
【0125】
光照射部2dは、第1実施形態で説明した光照射部2と同様に、短パルスで高ピーク光強度の飛翔用レーザビーム211と、飛翔用レーザビーム211と比較して長パルスで低ピーク光強度の固定用レーザビーム221とを含むハイブリッド光20を照射する。
【0126】
この場合、
図12に示すように、飛翔用レーザビーム211のパルス期間の中間タイミングから固定用レーザビーム221のパルス期間の中間タイミングまでには時間差Δtが生じる。
【0127】
被照射体11が透明シート12の担持面から飛翔して被付着物3上に着弾するまでにかかる時間を無視すると、被付着物3上に着弾した被照射体11は、ステージ4の移動により、時間差Δtの期間に移動量v・Δtだけ+y方向に位置がずれる。
【0128】
従って、飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221を同軸で照射すると、被付着物3上の被照射体11に固定用レーザビーム221を適切に照射できず、被照射体11の固定処理を適切に行えなくなる場合がある。
【0129】
そのため、本実施形態では、
図11に示すように、光照射部2dは、ステージ4の移動方向(y方向)と直交する走査方向(x方向)に走査される飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221のそれぞれの光軸を、ステージ4の移動方向及び走査方向のそれぞれに直交する方向(z方向)に対し、ステージ4の移動方向に沿う方向に向けて照射角度φだけ傾けてハイブリッド光20を照射する。ここで、ステージ4の移動方向は所定方向の一例であり、照射角度φは所定角度の一例である。
【0130】
照射角度φだけ傾けて照射することで、担持面における飛翔用レーザビーム211の照射位置に対し、被付着物3上での固定用レーザビーム221の照射位置を、h・tan(φ)だけ+y方向にずらすことができる。ここで、hは、透明シート12の担持面から被付着物3の表面までの距離である。
【0131】
ステージ4の移動による被照射体11の移動量v・Δtと、照射角度φによる照射位置のずれ量h・tan(φ)が一致するように、照射角度φを予め決めておくことで、被付着物3上に着弾した被照射体11に、固定用レーザビーム221を適切に照射できる。
【0132】
このようにして、本実施形態では、飛翔用レーザビーム211と固定用レーザビーム221で照射タイミングに時間差がある場合にも、固定用レーザビーム221を被付着物3上の被照射体11に適切に照射し、固定処理を適切に実行することができる。
【0133】
なお、本実施形態による上述した以外の効果は、第1及び第2実施形態と同様であるため、ここでは重複した説明を省略する。
【0134】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態に係る立体造形装置100について、
図13を参照して説明する。
図13は、立体造形装置100を説明する図である。
【0135】
立体造形装置100は、光照射部2を有し、光照射部2は、光走査部としてポリゴンミラー27を含む。光照射部2は、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211と、第2の光として固定用レーザビーム221をそれぞれ照射する。ポリゴンミラー27は、複数の光を走査する。ここでは、少なくとも第1の光として飛翔用レーザビーム211と、第2の光として固定用レーザビーム221を走査させる。ポリゴンミラー27が1つで2つの光を走査させる。
【0136】
また、立体造形装置100は、被照射体供給部112と、担持体111と、ステージ131と、ステージ加熱ヒータ132している。さらに、被照射体供給部112は、メッシュローラ121と、ブレード122を有する。
【0137】
ステージ131は、造形する造形物(造形過程にある造形物)200を支持する支持部材である。ステージ131は、矢印Y方向に往復移動可能であり、矢印Z方向に例えば造形厚み0.05mmピッチで上下動可能である。
【0138】
ステージ131の下側にはステージ加熱ヒータ132が配置され、ステージ131は造形材としての被照射体11に合わせた温度に制御される。
【0139】
ステージ131の上方には、粒子状の被照射体11を担持する回転部材からなる担持体111が配置されている。担持体111は、被照射体11を担持して矢印方向(移送方向)に回転する回転ドラムで構成され、ステージ131上の造形物200の上方まで被照射体11を移送する。担持体111は、透明な部材であり、円筒形のガラス部材で構成しているが、これに限るものではない。
【0140】
立体造形装置100で用いられる被照射体11は、目的とする造形物200に応じて適宜選択されるべきものであるが、樹脂の場合、例えば、PA12(ポリアミド12)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PSU(ポリスルホン)、PA66(ポリアミド66)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、LCP(液晶ポリマー)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、POM(ポリアセタール)、PSF(ポリサルホン)、PA6(ポリアミド6)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等である。また、本実施形態の被照射体11は、結晶性樹脂のみに限らず、非晶性樹脂であるPC(ポリカーボネート)やABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、PEI(ポリエーテルイミド)、あるいは結晶性と非晶性の混合樹脂であってもよい。
【0141】
また、被照射体11は、樹脂の他、金属、セラミック、液体などの種々の材料を用いることができる。また、被照射体11は、1pa・s以上の粘度を有する材料であってもよい。
【0142】
担持体111の周面による被照射体11の担持は、本実施形態では、分子間力(ファンデルワールス力)によって行っている。また、被照射体11の抵抗値が高い場合、静電的な付着力だけでも担持できる。
【0143】
担持体111の周囲には、担持体111の周面(表面)に被照射体11を供給する被照射体供給部112が配置されている。
【0144】
被照射体供給部112は、内部に被照射体11が供給されて矢印方向に回転するメッシュローラ121と、メッシュローラ121内で被照射体11を摺って擦るブレード122とを備えている。この被照射体供給部112は、ブレード122で被照射体11を摺って擦りながら凝集を解くことで、メッシュローラ121を通過させ、担持体111の周面に被照射体11の薄層を形成する。
【0145】
メッシュローラ121のメッシュの開目は被照射体11の平均粒径より20乃至30%大きいものが好ましい。金属線を編んだものを使用できるが、電鋳などで作製されるフラットなメッシュがより好ましい。
【0146】
被照射体供給部112による供給は、メッシュローラに限定されるものではない。例えば、回転体による接触供給、非接触供給、非接触のメッシュ上からの散布、粉体気流撹拌による流動浸漬なども可能である。
【0147】
担持体111の内側には、担持体111の周面から被照射体11を飛翔させる手段としての光照射部2が配置されている。
【0148】
光照射部2は、上述した各実施形態の何れかと同様の構成であり、担持体111の内側から被照射体11に対してパルス状の飛翔用レーザビーム211,固定用レーザビーム221を照射する。ここで、固定用レーザビーム221の照射位置が造形位置に対応する。
【0149】
被照射体11は、飛翔用レーザビーム211を照射されることで、担持体111の周面から飛翔用レーザビーム211の照射方向に飛翔する。
【0150】
また、固定用レーザビーム221の照射により造形物200に着弾した被照射体11を加熱し、溶融させ、その後、被照射体11が冷却することで造形物200と一体になり、造形物200が少なくとも1被照射体分成長する。
【0151】
このように、担持体111の連続回転によって被照射体11を移送しながら、飛翔用レーザビーム211により被照射体11を飛翔させる処理と、固定用レーザビーム221により着弾した被照射体11を加熱して溶融させ、造形物200の表面に固定する処理を、造形が完了するまで繰り返す。
【0152】
これによって、造形物200を所要の形状まで成長させて立体造形物を造形することができる。
【0153】
なお、本実施形態では、造形物200上に着弾させた被照射体11に、固定用レーザビーム221を照射して溶融させる固定方式の例を示したが、これに限定されるものではない。固定用レーザビーム221を予め造形物200表面に照射することで溶融させた造形物200の表面に、飛翔用レーザビーム211の照射で飛翔させた被照射体11を着弾させ、その後の造形物200表面の冷却により被照射体11を固定する方式においても本実施形態を適用できる。固定用レーザビーム221の照射タイミングに対して飛翔用レーザビーム211の照射タイミングを遅延させることで、このような方式を実行可能である。
【0154】
また、本実施形態では、立体造形装置100が光照射部2を備える構成を例示したが、立体造形装置100は、飛翔装置1,1a,1b,1c,1dの少なくとも1つを備えることもできる。
【0155】
[第7実施形態]
次に、第7実施形態に係る飛翔装置1eについて、
図14を参照して説明する。
図14は、飛翔装置1eにおける飛翔用レーザビームと固定用レーザビームの一例を説明する図である。
図14は、飛翔装置1eを+y方向側から視た図である。
【0156】
図14に示すように、飛翔装置1eは、光照射部2eを備え、光照射部2eは、テレセントリックレンズ30を備える。飛翔用レーザビーム211と固定用レーザビーム221は、それぞれポリゴンミラー27の回転により走査方向271(x方向)に沿って走査され、テレセントリックレンズ30に入射する。飛翔用レーザビーム211と固定用レーザビーム221は、テレセントリックレンズ30により屈曲される。飛翔用レーザビーム211は、透明シート12に照射され、透明シート12に担持された被照射体を飛翔させる。
【0157】
なお、
図14では、飛翔用レーザビーム211の光軸を実線の矢印で表示し、固定用レーザビーム221の光軸を破線の矢印で表示している。
【0158】
テレセントリックレンズ30は、像側(透明シート12側)でその中心軸と主光線が平行になるように設計され、配置されたレンズである。テレセントリックレンズ30は、ポリゴンミラー27により走査される飛翔用レーザビーム211と固定用レーザビーム221を屈曲する光屈曲素子の一例である。テレセントリックレンズ30の材質には特段の制限はなく、ガラスや樹脂等を含んで構成可能である。
【0159】
本実施形態では、テレセントリックレンズ30により屈曲された飛翔用レーザビーム211の光軸と、固定用レーザビーム221の光軸は、走査方向271において相互に平行になるように構成されている。この構成は、例えばテレセントリックレンズ30の焦点距離及び配置位置を決定すること等により実現される。
【0160】
このようにすることで、例えば飛翔用レーザビーム211と固定用レーザビーム221の波長が異なる場合にも、飛翔用レーザビーム211による飛翔方向と、固定用レーザビーム221による照射方向を一致でき、飛翔して着弾した被照射体に、固定用レーザビーム221を確実に照射することができる。
【0161】
[第8実施形態]
次に、第8実施形態に係る飛翔装置1fについて、
図15を参照して説明する。
【0162】
図15は、飛翔装置1fの一例を説明する図である。(a)は走査方向における位置を説明する図である。(b)は飛翔用レーザビームに対する固定用レーザビームの第1の照射タイミングを説明する図である。また(c)は飛翔用レーザビームに対する固定用レーザビームの第2の照射タイミング、(d)は飛翔用レーザビームに対する固定用レーザビームの第3の照射タイミングをそれぞれ説明する図である。
図15(a)に示すように、飛翔装置1fは、光照射部2fを備える。
【0163】
図15(a)において、ハイブリッド光20pは、ポリゴンミラー27の回転により走査方向271に沿って走査されるハイブリッド光のうち、+x方向側に走査されるものである。ハイブリッド光20pは、テレセントリックレンズ30を通過後に、透明シート12上の照射位置12pに到達する。
【0164】
同様に、ハイブリッド光20mは、ポリゴンミラー27の回転により走査方向271に沿って走査されるハイブリッド光のうち、−x方向側に走査されるものである。ハイブリッド光20mは、テレセントリックレンズ30を通過後に、透明シート12上の照射位置12mに到達する。
【0165】
ハイブリッド光20cは、ポリゴンミラー27の回転により走査方向271に沿って走査されるハイブリッド光のうち、中央に走査されるものである。ハイブリッド光20cは、テレセントリックレンズ30を通過後に、透明シート12上の照射位置12cに到達する。
【0166】
本実施形態では、ハイブリッド光における飛翔用レーザビームに対する固定用レーザビームの照射タイミングは、走査方向271沿う位置に応じて異なるように構成されている。
【0167】
具体的には、
図15(b)に示すように、照射位置12mに照射されるハイブリッド光20mでは、固定用レーザビーム221mの照射タイミング(第1の照射タイミング)は、飛翔用レーザビーム211mに対して時間差δtmだけ後になる。
【0168】
また
図15(c)に示すように、照射位置12cに照射されるハイブリッド光20cでは、固定用レーザビーム221cの照射タイミング(第2の照射タイミング)は、飛翔用レーザビーム211cに対して等しくなる。
【0169】
また
図15(d)に示すように、照射位置12pに照射されるハイブリッド光20pでは、固定用レーザビーム221pの照射タイミング(第3の照射タイミング)は、飛翔用レーザビーム211pに対して時間差δtpだけ前になる。
【0170】
なお、照射位置12p,12c,12mは、走査方向271沿う異なる位置に対応する。
【0171】
ここで、飛翔用レーザビームは透明シート12に照射され、固定用レーザビームは被付着物3に照射される。両者でz方向の照射位置が異なるため、これに応じて、飛翔用レーザビームの照射位置と固定用レーザビームの照射位置がx方向にずれる。走査角度が大きいほど照射位置のx方向のずれは大きくなる。
【0172】
飛翔用レーザビームに対する固定用レーザビームの照射タイミングを、走査方向271沿う位置に応じて異ならせることで、飛翔用レーザビームと固定用レーザビームの照射位置のずれを補償できる。これにより飛翔用レーザビームにより飛翔され、被付着物3上に着弾した被照射体に対して、固定用レーザビームを確実に照射することができる。
【0173】
[第9実施形態]
次に、第9実施形態に係る飛翔装置1gについて、
図16を参照して説明する。
図16は、飛翔装置1gの一例について説明する図である。(a)は飛翔用レーザビームと固定用レーザビームの照射角度を説明する図、(b)は所定タイミングにおける飛翔用レーザビームと固定用レーザビームの照射を説明する図、(c)は(a)の時間差Δt2後を説明する図、(d)は(a)の時間差Δt2+Δt3後を説明する図である。
【0174】
図16(a)に示すように、飛翔装置1gは光照射部2gを備え、光照射部2gは、照射レンズ301,302を備える。
【0175】
照射レンズ301は、飛翔用レーザビーム211を透過させるレンズであり、照射レンズ302は、固定用レーザビーム221を透過させるレンズである。何れの材質にも特段の制限はない。
【0176】
本実施形態では、被照射体を担持する透明シート12は所定の移動方向(所定方向)に移動され、飛翔用レーザビーム211と固定用レーザビーム221のそれぞれの光軸は、透明シート12の移動方向において交差するように構成されている。
【0177】
具体的には、
図16(a)に示すように、照射レンズ301を透過後の飛翔用レーザビーム211の光軸211'と、照射レンズ302を透過後の固定用レーザビーム221の光軸221'は、被付着物3の移動方向において角度φ2で交差している。なお、
図16において、v1は透明シート12の移動速度を表し、v2は被付着物3の移動速度を表す。
【0178】
ここで、被飛翔体11aは、所定タイミングで飛翔用レーザビーム211を照射され(
図16(b)参照)、飛翔して透明シート12から被付着物3上に移動する(
図16(c)参照)。被飛翔体11aは、移動時間Δt2で透明シート12から被付着物3上に移動する。なお、
図16(c)における間隙11a'は、被飛翔体11aの飛翔により透明シート12に形成された隙間を示している。
【0179】
飛翔用レーザビーム211の照射後、時間差Δt2+Δt3が経過した後、間隙11a'を通過するようにして、被付着物3上に着弾した被飛翔体11aに固定用レーザビーム221が照射される(
図16(d)参照)。
【0180】
このような構成により、透明シート12及び被付着物3がそれぞれ移動していても、被付着物3上に着弾した被飛翔体11aに固定用レーザビーム221を確実に照射ができる。
【0181】
以上、本発明の実施形態の例について記述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0182】
第1乃至第5実施形態をそれぞれ組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態に係る照射領域設定部を備える構成に、第1実施形態に係るパルス幅の異なるハイブリッド光を適用してもよいし、第4実施形態に係る基準レーザ光とその第2高調波を適用してもよい。
【0183】
また、第1乃至第5実施形態で示した飛翔装置は、第6実施形態で説明した立体造形装置の他、画像形成装置やプリンテッドエレクトロニクスを実行する装置等にも適用可能である。
【0184】
また、実施形態では、担持体により担持された被照射体にレーザビームを照射して飛翔させる処理を第1の処理とし、飛翔して被付着物上に着弾した被照射体を被付着物に固定する処理を第2の処理とする例を説明したが、これに限定されるものではない。レーザ焼結方式や電子線焼結方式を用いた立体造形装置における予備加熱処理等を第1の処理とし、本加熱処理等を第2の処理とすることもできる。また、第1の処理と第2の処理が同じ処理であってもよい。
【0185】
さらに、実施形態は、被照射体の飛翔方法も含む。例えば、少なくとも第1の光と第2の光を含む複数の光を照射する光照射工程と、前記複数の光を走査させる光走査工程と、を行い、前記複数の光のうち、前記第1の光で被照射体を飛翔させる。このような被照射体の飛翔方法により、上述した被照射体の飛翔装置と同様の効果を得ることができる。