【解決手段】数平均繊維長が2mm以上の繊維状充填剤前駆体を、平均粒径が10μm以下の粒子の存在下で、ボールミル粉砕機を用いて粉砕する粉砕工程を備え、前記粒子の存在量は、前記繊維状充填剤前駆体100質量部に対して0.01質量部以上100質量部以下であり、前記粒子の形成材料のモース硬度が、前記繊維状充填剤前駆体の形成材料のモース硬度よりも高いことを特徴とする、短繊維状充填剤の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において繊維状充填剤前駆体の「数平均繊維長」は、JIS R3420「7.8 チョップドストランドの長さ」に記載の方法で測定された値を意味する。
本明細書において、「平均粒径」はレーザー回折法又は電子顕微鏡観察を用いて、測定した値とする。
本明細書において、「モース硬度」とは、10種の基準となる鉱物と比較することによって鉱物の硬度を求める経験的な尺度である。基準となる鉱物はやわらかいもの(モース硬度1)から硬いもの(モース硬度10)の順に、タルク、石膏、方解石、ホタル石、燐灰石、正長石、石英、黄玉、鋼玉、ダイヤモンドで、硬度を測りたい試料物質で基準の鉱物をこすり、ひっかき傷の有無で硬度を測定する。例えば、ホタル石では傷が付かず、燐灰石で傷が付く場合、モース硬度は4.5(4と5の間の意)となる。
【0008】
<短繊維状充填剤の製造方法>
本実施形態は、短繊維状充填剤の製造方法に関する。
本実施形態の短繊維状充填剤の製造方法は、数平均繊維長が2mm以上の繊維状充填剤前駆体を、平均粒径が10μm以下の粒子の存在下で、ボールミル粉砕機を用いて粉砕する粉砕工程を備える。粒子の存在量は、前記繊維状充填剤前駆体100質量部に対して0.01質量部以上100質量部以下である。さらに粒子の形成材料は、そのモース硬度が繊維状充填剤前駆体の形成材料のモース硬度よりも高いものを使用する。
【0009】
本明細書において、「繊維状充填剤前駆体」とは、数平均繊維長が2mm以上の繊維状充填剤であって、数平均繊維長が10mm以下程度に粗く粉砕されたものが好ましい。
本明細書において、「短繊維状充填剤」とは、数平均繊維長が1500μm以下のものを意味する。
【0010】
≪粉砕工程≫
粉砕工程は、繊維状充填剤前駆体を平均粒径が10μm以下の粒子の存在下で、ボールミル粉砕機を用いて粉砕する工程である。
【0011】
・任意工程
本実施形態においては、粉砕工程の前に繊維状充填剤を粗く粉砕し、繊維状充填剤前駆体を得る任意工程を有していてもよい。この任意工程は、切削ミル、ギロチンカッター、ハンマミル等を用いることができる。繊維状充填剤前駆体の数平均繊維長が約10mm以下程度になるまで粉砕すればよい。
【0012】
繊維状充填剤前駆体は、数平均繊維長が2mm以上であり、8mm以下が好ましく、6mm以下がより好ましく、4mm以下が特に好ましい。
繊維状充填剤前駆体を、前記任意工程を実施することにより上記上限値以下の繊維長とすることにより、粉砕工程を短時間で実施することができる。
【0013】
繊維状充填剤前駆体を粉砕する工程には、ボールミル粉砕機を用い、平均粒径が10μm以下の粒子の存在下で実施する。
【0014】
ボールミルに用いるメディアとしては、種々の微小ビーズ(以下、ボールと呼ぶことがある)が用いられる。微小ビーズの素材としては、例えばアルミナ、アルミニウム、酸化チタン、ジルコニア等が挙げられる。
メディアの粒径は、平均粒径がメジアン径で1mm以上40mm以下の範囲であることが好ましい。
メディアの充填率は、ミル容積の10体積%以上70体積%以下が好ましい。
粉砕工程が終了した後、メディアは分離除去する。
【0015】
・繊維状充填剤前駆体
本実施形態に用いる繊維状充填剤前駆体は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース繊維等が使用できる。本実施形態においては、ガラス繊維を好適に短繊維化できる。
【0016】
ガラス繊維としては、Eガラス組成型のガラス繊維や、Sガラス組成型のガラス繊維のいずれも使用できる。
Eガラス組成型は、ガラス繊維の全量に対し52.0〜56.0質量%の範囲のSiO
2と、12.0〜16.0質量%の範囲のAl
2O
3と、合計で20.0〜25.0質量%の範囲のMgO及びCaOと、5.0〜10.0質量%の範囲のB
2O
3とを含む組成である。
Sガラス組成型は、ガラス繊維の全量に対し64.0〜66.0質量%の範囲のSiO
2と、24.0〜26.0質量%の範囲のAl
2O
3と、9.0〜11.0質量%の範囲のMgOとを含む組成である。
【0017】
・粒子
本実施形態において、繊維状充填剤前駆体を、平均粒径が10μm以下の粒子の存在下でボールミル粉砕機を用いて粉砕する。
粒子の形成材料は、そのモース硬度が繊維状充填剤前駆体の形成材料のモース硬度よりも高いものを使用する。
例えば、繊維状充填剤前駆体にモース硬度が5であるガラス繊維を用いた場合、粒子の形成材料のモース硬度は7以上が好ましい。
このような粒子の形成材料としては、シリカ(モース硬度7)、ジルコニア(モース硬度7)、チタニア(モース硬度7.5)、アルミナ(モース硬度9)、酸化チタン(モース硬度7〜7.5)、非晶質シリカ(モース硬度7)が挙げられる。
これらの粒子は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、粒子の平均粒径は、通常10nm以上である。
【0018】
繊維状充填剤前駆体のモース硬度は、以下の方法により測定できる。
まず、繊維状充填剤前駆体を約100本の束にする。
その後、滑石からダイヤモンドまでの10段階の基本となる鉱物(標準サンプル)を用いて、束にした繊維状充填剤前駆体を引っかく。
その後、標準サンプルに傷がついているか否かをマイクロスコープで確認する。
【0019】
本実施形態において、粒子の形成材料はアルミナ、酸化チタン、非晶質シリカ又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0020】
本実施形態において、粒子の形成材料としてシリカを使用する場合、非晶質シリカを用いることが好ましい。非晶質シリカとしては、溶融シリカを用いることができる。
非晶質シリカの平均粒径は、20nm以上80nm以下であることが好ましい。
【0021】
粒子の平均粒径とは、粒子径分布測定において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となるときの粒径とする。当該粒径は、界面活性剤を含む水に該粒子を分散させ、レーザー回折式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、商品名:LA−950V2等)で測定することができる。なお、粒径が1μm以下の粒子の平均粒径は、電子顕微鏡観察を用い、1000サンプルの粒子の粒径を測定して平均する事で算出できる。
【0022】
粒子の平均円形度は0.2以上1.0以下であることが好ましい。平均円形度(R)は下記の式(1)により算出できる円形度の平均値である。
R=4πA/L
2 (1)
(L:粒子投影面の周囲の長さ。A:粒子の投影面積)
【0023】
・配合割合
本実施形態において、粒子の存在量は、前記繊維状充填剤前駆体100質量部に対して0.01質量部以上100質量部以下となるように混合し、粉砕工程を実施する。
繊維状充填剤前駆体100質量部に対して0.6質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましく、0.8質量部以上がさらに好ましく、1.0質量部以上が特に好ましい。
粒子の添加量が上記下限値以上であることにより、短い粉砕時間で、短繊維を製造することができる。
【0024】
粒子の添加量の上限値は特に限定されないが、繊維状充填剤前駆体100質量部に対して20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
粒子の添加量の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
粒子の添加量の組みわせとしては、繊維状充填剤前駆体100質量部に対して0.6質量部以上20質量部以下が好ましく、0.7質量部以上15質量部以下がより好ましく、0.8質量部以上10質量部以下がさらに好ましく、1.0質量部以上5質量部以下が特に好ましい。
【0025】
・粉砕条件
本実施形態においてボールミル粉砕機を用いて粉砕する時間は、目的とする短繊維の繊維長や、添加する粒子の配合量によって適宜調整すればよい。
例えば、繊維状充填剤前駆体100質量部に対して、粒子を1.0質量部配合し、60rpmの回転数で粉砕した場合を例に挙げる。この場合、数平均繊維長が3mmの繊維状充填剤前駆体を、10時間粉砕処理することで、数平均繊維長を500μm〜700μmにまで短繊維化できる。さらに、粉砕時間を20時間とすると、数平均繊維長を70μm〜90μm未満にまで短繊維化できる。
【0026】
粒子の添加量を多くすれば粉砕時間はより短縮できる。
例えば、繊維状充填剤前駆体100質量部に対して、粒子を3. 0質量部配合し、60rpmの回転数で粉砕した場合を例に挙げる。この場合、数平均繊維長が3mmの繊維状充填剤前駆体を、10時間粉砕処理することで、数平均繊維長を90μm〜120μmにまで短繊維化できる。さらに、粉砕時間を20時間とすると、数平均繊維長を40μm〜80μm未満にまで短繊維化できる。
【0027】
本実施形態により製造される短繊維状充填剤は、アスペクト比が3以上150以下であることが好ましい。
【0028】
粉砕工程の後、短繊維状充填剤は適宜分級される。
【0029】
本実施形態により製造される短繊維状充填剤は、粉砕工程において使用した粒子が残留している。粒子の成分はフィラーとして作用できる。
【0030】
本実施形態の短繊維状充填剤の製造方法は上記のような粉砕工程を有することにより、短時間で短繊維を製造できる。
繊維状充填剤前駆体よりも硬度が高い粒子と接触することで、繊維状充填剤前駆体の表面にクラックが形成され、粉砕が促進されると考えられる。
ボールミル粉砕機は、ミル壁面が平滑であり、ボールとミル壁面との間の滑りが大きい傾向にある。粉砕工程において特定の量の粒子を添加すると、ボールとミル壁面との間の滑りが減ると考えられる。これにより、ボールの持ち上げられる高さが高くなることでボール運動が激しくなり、繊維状充填剤前駆体とボールとの接触が促進されると考えられる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0032】
<実施例1〜5、比較例1〜2>
数平均繊維長が3.0mmのガラス繊維(オーウェンスコーニング(株)製、CS03−JAPx−1(数平均繊維径10μm、モース硬度5))100質量部に、下記表1に示す粒子1〜5を下記表1に示す配合割合(質量部)でそれぞれ混合し、ボールミル粉砕機を用いて粉砕した。
粉砕には、ポリプロピレンの容器(容量1000mL、胴内径92mm)を用いた。ボールには球状のアルミナを使用した。ボールの直径は15mm、ボール量は1000gとし、回転数は60rpmで粉砕工程を実施した。粉砕時間は10時間又は20時間とした。
また、粉砕時間が10時間又は20時間の時のガラス繊維の平均繊維長は、電子顕微鏡観察を用い、繊維1000本の繊維長を測定し、その平均値とした。
【0033】
【表1】
【0034】
表1中、粒子1〜5は下記の材料を意味する。
粒子1:アルミナ(微粒低ソーダアルミナAL−45−2(昭和電工社製))、モース硬度5.5、粒径0.8μm。
粒子2:アエロジル(日本アエロジル株式会社製、アエロジル(登録商標)RX−50)、モース硬度7、粒径50nm。
粒子3:アドバンスドアルミナ1.6(住友化学(株)製)、モース硬度9、粒径1.7μm。
粒子4:アドバンスドアルミナ18(住友化学(株)製)、モース硬度9、粒径20.0μm。
粒子5:タルクミクロエースP−3(日本タルク(株)製)、モース硬度1、粒径5.0μm。
「*」の表記があるデータは、繊維が絡まり綿状の凝集体となっていた。このため、凝集体を解して平均繊維長を測定した。
【0035】
表1に記載の結果のとおり、本発明を適用した実施例1〜5は、比較例よりも短時間で短繊維化することができた。
また、実施例1〜2の結果から、実施例3〜5についても粉砕時間を20時間とした場合に短繊維化できることが推察できる。