【解決手段】 長茎植物の茎又は株元の保温に使用される植物保温シートであって、樹脂マトリクス中に蓄熱材を含有する蓄熱層を有し、JIS K5600−5−1(1999)に準拠した耐屈曲性試験において割れの生じるマンドレル直径が25mm以下の植物保温シートにより、低コストで製造可能でありながら、加温や保温のエネルギーを使用しなくとも長茎植物の育成温度を好適に保持できる。
長茎植物の茎又は株元の保温に使用される植物保温シートであって、樹脂マトリクス中に蓄熱材を含有する蓄熱層を有し、JIS K5600−5−1(1999)に準拠した円筒マンドレルを使用した180°屈曲性試験において、割れの生じるマンドレル直径が25mm以下であることを特徴とする植物保温シート。
前記樹脂マトリクスに使用する樹脂が塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂又はウレタン樹脂から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載の植物保温シート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の植物保温シートは、樹脂マトリクス中に蓄熱材を含有する蓄熱層を有し、JIS K5600−5−1(1999)に準拠した円筒マンドレルを使用した180°屈曲性試験において、割れの生じるマンドレル直径が25mm以下であり、長茎植物の茎又は株元の保温に用いられるシートである。
【0012】
[樹脂マトリクス]
本発明の植物保温シートは、樹脂マトリクス中に蓄熱材を含有する蓄熱層を有するシートであり、当該樹脂マトリクスに使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等の各種樹脂を使用できる。なかでも、塗膜形成が容易であることから熱可塑性樹脂を好ましく使用できる。塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合、スチレン・ブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、1,2−ポリブタジエン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂等を例示できる。なかでも、低温下での成形性や蓄熱材の分散性、塗膜の柔軟性等を得やすいことから塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂を使用することが好ましい。
【0013】
塩化ビニル系樹脂を使用する場合には、塩化ビニル樹脂粒子を使用したビニルゾル塗工液を用いて、ゾルキャスト膜を形成することで、低温下での蓄熱シートの形成が可能となるため好ましい。ビニルゾル塗工液は、塩化ビニル樹脂粒子及び可塑剤を含有する樹脂組成物中に蓄熱材が分散、懸濁されたペースト状の塗工液である。
【0014】
本発明における蓄熱層は、断熱性や柔軟性を向上させるために、空隙部を有した蓄熱層とすることも好ましい。空隙部を有した発泡蓄熱層を形成する際には、空隙部を有する構造を形成できる樹脂であれば特に制限なく使用できる。なかでも、蓄熱材の全体構造を好適に形成しやすく、また良好な空隙部の形成や空隙率の確保が容易であることから、機械発泡により空隙部を形成できるエマルジョン樹脂を好ましく使用できる。当該エマルジョン樹脂としては、例えば、アクリル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、エチレン酢酸ビニル系エマルジョン、塩化ビニル系エマルジョン、エポキシ系エマルジョン等が例示でき、なかでも、アクリル系エマルジョンは耐熱性や断熱性に優れ、ウレタン系エマルジョンは柔軟性に優れることから、特に好ましく使用できる。
【0015】
[蓄熱材]
蓄熱材としては、蓄熱性を有するものであれば特に制限されず、潜熱型の蓄熱性材料、顕熱型の蓄熱性材料等を使用できる。なかでも、潜熱型の蓄熱性材料は、小さい体積で多くのエネルギーを確保しやすく、吸放熱温度を調整しやすいため好ましい。
【0016】
潜熱型の蓄熱性材料(潜熱蓄熱材)としては、相変化による溶融時の染み出し等の問題や、混入時の分散性を考慮して、有機材料等からなる外殻中にパラフィンなどの潜熱蓄熱材料を内包した、カプセル化された蓄熱粒子が好ましい。
【0017】
このような蓄熱粒子としては、例えば、メラミン樹脂からなる外殻を用いたものとして、三菱製紙社製サーモメモリーFP−16,FP−27,FP−31、三木理研工業社製リケンレジンPMCD−15SP,25SP,32SP、Microtek社製MPCM18D,MPCM24D,MPCM28D等が例示できる。また、シリカからなる外殻を用いたものとして、三木理研工業社製リケンレジンLA−15,LA−25,LA−32等、ポリメチルメタクリレート樹脂からなる外殻を用いたものとして、Microtek社製Micronal24D,28D等が例示できる。
【0018】
蓄熱粒子の粒径は、特に限定されないが、10〜1000μm程度であることが好ましく、50〜500μmであることがより好ましい。蓄熱粒子の粒子径は、その一次粒子の粒子径が上記範囲であることも好ましいが、一次粒子径が1〜50μm、好ましくは2〜10μmの粒子が凝集して二次粒子を形成し、当該二次粒子の粒径が上記範囲となった蓄熱粒子であることも好ましい。このような蓄熱粒子は、圧力やシェアにより破損しやすいが、本発明の構成によれば、当該蓄熱粒子の破損を好適に抑制でき、蓄熱材料の染み出しや漏れが生じにくくなる。なお、植物保温シート中に使用する全蓄熱粒子の粒子径が上記範囲でなくともよく、蓄熱層中の蓄熱粒子の80質量%以上が上記範囲の蓄熱粒子であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0019】
潜熱蓄熱材は、特定の温度の融点において相変化する。すなわち、環境温度が融点を超えた場合は、固体から液体へ相変化し、環境温度が凝固点より下がった場合は、液体から固体へ相変化する。潜熱蓄熱材の融点は、植物の種類及び品種により好適な育成温度によって自由に選択できるが、0℃〜40℃程度の温度範囲にて固/液相転移を示すものを適宜使用でき、なかでも、10〜30℃程度の範囲にある潜熱蓄熱材を使用することが好ましい。
【0020】
潜熱蓄熱材の種類としては、例えば、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−ヘプタデカン、n−オクタデカン、n−エイコサン、n−ノナデカン、n−イコサン、n−ヘンイコサン、n−ドコサン、n−トリコサン、n−テトラコサン、n−ペンタコサン、n−ヘキサコサン、n−ヘプタコサン、n−オクタコサン、n−ノナコサン、パラフィンワックス等のパラフィン系化合物;カプロン酸、カプリル酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸等の脂肪酸又はこれらの脂肪酸のメチルエステル化合物又はエチルエステル化合物;テトラデカノール、ドデカノール等のアルコール類;塩化カルシウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、酢酸カリウム水和物、水酸化ナトリウム水和物、水酸化カリウム水和物、水酸化ストロンチウム水和物、水酸化バリウム水和物、塩化ナトリウム水和物、塩化マグネシウム水和物、塩化亜鉛水和物、硝酸リチウム水和物、硝酸マグネシウム水和物、硝酸カルシウム水和物、硝酸アルミニウム水和物、硝酸カドミウム、硝酸鉄水和物、硝酸亜鉛水和物、硝酸マンガン水和物、硫酸リチウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、硫酸マグネシウム水和物、硫酸カルシウム水和物、硫酸カリウムアルミニウム水和物、硫酸アルミニウムアンモニウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、リン酸カリウム水和物、リン酸ナトリウム水和物、リン酸水素カリウム水和物、リン酸水素ナトリウム水和物、ホウ酸ナトリウム水和物、臭化カルシウム水和物、フッ化カリウム水和物、炭酸ナトリウム水和物、塩化カルシウム六水塩、硫酸ナトリウム十水塩等の無機水和物等が挙げられる。これらは、単体で使用しても適宜混合して使用してもよい。
【0021】
蓄熱層中の蓄熱材の含有量は10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜70質量%であることがさらに好ましい。当該範囲とすることで、屈曲性や剛軟度を本発明の範囲に調整しやすくなると共に、良好な蓄熱効果や成形性が得られやすくなる。
【0022】
[濃色着色剤]
本発明に使用する蓄熱層中には、屋外での太陽光や赤外線の吸収効率を向上させるために、濃色着色剤を含有することも好ましい。濃色着色剤としては、各種の顔料や染料を使用でき、例えば、カーボンブラック、チタンカーボン、黒系酸化鉄、アニリンブラック、サルファ−ブラック等の黒色系着色剤、酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄、カドミウムレッド、キナクリドンレッド等の赤色系着色剤、コバルトブルー、プルシアンブルー、シアニンブルー、フタロシアニンブルー、メチレンブルー、インディゴ等の青色系着色剤、コバルトグリーン、酸化クロム、フタロシアニングリーン、ナフトールグリーン等の緑色系着色剤等があげられる。なかでも、顔料系の着色剤は耐候性や耐光性に優れるため好ましい。また、黒色系着色剤は太陽光や赤外線の吸収効率を向上させやすいことから、着色剤を添加した際にも蓄熱粒子の好適な含有量を確保しやすいため好ましい。
【0023】
濃色着色剤の含有量は、蓄熱層の780nm波長光の分光反射率が後述する範囲となる量であれば、使用する着色剤種類に応じて適宜の範囲で使用すればよいが、例えば、蓄熱層中の0.005〜1.0質量%であることが好ましく、0.01〜0.5質量%であることがより好ましく、0.015〜0.2質量%であることがさらに好ましい。当該含有量とすることで、好適な光や熱の吸収性と、好適な蓄熱性とを兼備しやすくなる。
【0024】
[蓄熱層]
本発明に使用する蓄熱層は、上記樹脂マトリクス中に、上記蓄熱材を含有する層である。蓄熱層単体をシート状に成形した蓄熱シートからなる層であっても、蓄熱層と他の層とを一体的に成形した単離できない層であってもよい。なかでも、植物保温シートの特性や製造条件等を調整しやすいことから、蓄熱シートを蓄熱層として使用することが好ましい。
【0025】
本発明に使用する蓄熱層は、蓄熱層表面の780nm波長光の分光反射率が50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが特に好ましい。当該反射率とすることで、吸熱効果が高まり、好適な蓄熱性を得やすくなる。また、
【0026】
780nmの光反射率は、JIS Z8722に準じて測定される。具体的には、蓄熱層単体をシート状に形成した蓄熱シートについて、日本電色工業株式会社製測色試験器「SE−2000」を用い、標準白色版を標準試料として、780nm波長光の分光反射率を測定する。
【0027】
本発明に使用する蓄熱層は、0℃から40℃の潜熱量が15kJ/m
2以上であることが好ましく、30kJ/m
2以上がより好ましく、50kJ/m
2以上がさらに好ましく、80kJ/m
2以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、適切に株元に追従させるには、500kJ/m
2以下程度が好ましい。当該潜熱量とすることで、好適な蓄熱効果が得やすくなる。
【0028】
0℃から40℃の潜熱量は、JSTM O6101に準じて測定される。具体的には、蓄熱層単体をシート状に形成した蓄熱シート2枚を等温制御の熱板で挟み、等速で温度変化させる。その時、試験体に作用した熱流密度(W/m
2)を試験体と熱板の間に設置した熱流計で計測し、同時に熱電対で試験体温度(℃)を計測する。この試験体の温度変化と試験体に作用した熱流の関係から単位面積当たりの比エンタルピを求め、そこから1℃ごとの見かけの比熱を算出する。算出された1℃ごとの見かけ比熱から、潜熱域以外(固相域及び液相域)の見かけの比熱を除いた値がその温度における潜熱量となり、0℃から40℃の潜熱量を積算することで求めることができる。
【0029】
単位面積当たりの比エンタルピQ
na,i(J/m
2)は以下の式により算出する。
【0030】
【数1】
q
L,n:表面部(左側)の熱流密度(W/m
2)
q
R,n:表面部(右側)の熱流密度(W/m
2)
N:試験体の枚数
Δt:測定時間間隔(s)
【0031】
単位面積当たりの見かけ比熱c’
a(θ
M)(J/(m
2・K))は以下の式により算出する。
【0032】
【数2】
Q
na,j:測定時間jにおける単位面積当たりの比エンタルピ(J/m
2)
Q
na,i:測定時間iにおける単位面積当たりの比エンタルピ(J/m
2)
Δθ:温度差(K)
θ
Mj:測定時刻jにおける試験体中心部の温度(℃)
θ
Mi:測定時刻iにおける試験体中心部の温度(℃)
【0033】
特定温度範囲の単位面積当たりの潜熱量Q
pa(J/m
2)は以下の式により算出する。
【0034】
【数3】
c’(θ
M): 試験体温度θにおける単位面積当たりの見かけの比熱(J/(m
2・K))
c’
a,s:固相域での単位面積あたりの見かけ比熱(J/(m
2・K))
c’
a,l:液相域での単位面積あたりの見かけ比熱(J/(m
2・K))
Δθ:温度差(K)
θ
M,ts:温度範囲の始点の温度(℃)
θ
M,te:温度範囲の終点の温度(℃)
【0035】
本発明に使用する蓄熱層は、蓄熱層単体の引張強さを0.1MPa以上とすることで、柔軟性を有しながらも強靭な層とすることができ、加工時や搬送時等にも割れが生じにくく、好適な加工性や取扱い性、搬送適正、曲げ適性等を得やすくなるため好ましい。引張強さは0.2MPa以上であることがより好ましい。引張強さの上限は特に制限されるものではないが、15MPa以下程度であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましく、5MPa以下であることが特に好ましい。
【0036】
また、蓄熱層単体の引張破断時の伸び率を10%以上とすることで、シートの脆化を抑制でき、加工時や搬送時等に曲げや歪みが生じた場合にも、割れや欠けが生じにくいため好ましい。引張破断時の伸び率は30%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましい。伸び率の上限は1000%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましく、300%以下であることが更に好ましい。伸び率を当該範囲とすることで、強靭でありながら好適な柔軟性を実現でき、良好な加工性や取扱い性、搬送適正、植物への装着性や追性等を得やすくなる。
【0037】
引張強さ、引張破断時の伸び率は、JIS K6251に準じて測定される。具体的には、蓄熱層単体をシート状に形成した蓄熱シートをダンベル状2号形に切り出し、初期の標線間距離を20mmとして2本の標線をつけた試験片を作成する。この試験片を引張り試験機に取り付け、速度200mm/minで引張って破断させる。この時、破断までの最大の力(N)、及び破断時の標線間距離(mm)を測定し、以下の式により引張り強さと引張り破断時の伸び率を算出する。
【0038】
引張強さTS(MPa)は以下の式により算出する。
TS=Fm/Wt
Fm:最大の力(N)
W:平行部分の幅(mm)
t:平行部分の厚さ(mm)
【0039】
引張り破断時の伸び率Eb(%)は以下の式により算出する。
Eb=(Lb−L0)/L0×100
Lb:破断時の標線間距離(mm)
L0:初期の標線間距離(mm)
【0040】
本発明に使用する蓄熱層は、空隙を有する発泡系の蓄熱層とすることで、好適な柔軟性や植物生育時の追従性、植物への装着性等を得やすいため好ましい。また、非発泡系の蓄熱層とすることで、強靭性を得やすいため好ましい。
【0041】
発泡系の蓄熱層とする場合には、その比重が0.1〜0.8が好ましく、0.2〜0.6がより好ましい。当該比重とすることで、好適な柔軟性や植物生育時の追従性、植物への装着性等をより得やすいため好ましい。また、当該比重とすることで、シート内に好適に空隙を確保でき、保温効果の向上に貢献できる。
【0042】
蓄熱層の厚みは、使用態様に応じて適宜調整すればよいが、好適な保温性と、植物とを兼備しやすいことから100μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましい。厚みの上限は特に制限されるものではないが、好適な柔軟性や取扱い性を得やすいことから20mm以下で成形することが好ましく、10mm以下がより好ましく、6mm以下がさらに好ましい。上記物性値の蓄熱層を使用することで、例えば500μm以上、さらには1mm以上のような厚みが厚い蓄熱層とした際にも、優れた加工性や取扱い性、植物への好適な装着性や追従性を得やすくなる。なかでも、発泡系蓄熱層とする場合には、2〜10mmとすることが好ましく、3〜6mmとすることがより好ましい。非発泡系蓄熱層とする場合には、500μm〜3mmとすることが好ましく、1〜2mmとすることがより好ましい。
【0043】
[植物保温シート]
本発明の植物保温シートは、上記蓄熱層を有するシートであり、蓄熱層のみからなる構成であっても、蓄熱層に他の層が積層されている構成であってもよい。蓄熱層のみからなる構成は、製造コストが安価であると共に、熱や光の吸収効率を向上させやすいため好ましい。また、断熱層等の各種機能層を積層することで、保温性の向上等、各種機能向上が可能となるため、他の層を設けることも好ましい。
【0044】
本発明の植物保温シートは、JIS K5600−5−1(1999)に準拠した耐屈曲性試験において割れの生じるマンドレル直径が25mm以下、好ましくは20mm以下、より好ましくは16mm以下とすることで、長茎植物の茎や株元への好適な装着性や追従性を実現できる。植物保温シートがシート状の蓄熱層のみからなる場合には、蓄熱層が当該マンドレル直径の範囲である必要があるが、他の層を積層する場合にも、蓄熱層単体が当該マンドレル直径の範囲であると、好適な装着性や追従性を得やすくなるため好ましい。
【0045】
また、植物保温シートのJIS L1913(2010)に規定するガーレ法に準拠して測定した剛軟度が0.1〜40mNであることが好ましく、0.5〜30mNであることがより好ましく、3〜15mNであることが更に好ましい。剛軟度を当該範囲とすることで、長茎植物の茎や株元への巻き付けによる装着性や、植物生育時の成長にともなう追従性等を得やすくなる。植物保温シートがシート状の蓄熱層のみからなる場合には、蓄熱層が当該剛軟度の範囲であることが好ましいが、他の層を積層する場合にも、蓄熱層単体が当該剛軟度の範囲であると、特に優れた好適な装着性や追従性を得やすくなるため好ましい。
【0046】
植物保温シートの厚みは、長茎植物への巻き付け等による装着性が得られれば特に制限されないが、500μm〜20mmであることが好ましく、1〜10mmであることがより好ましい。
【0047】
植物保温シートに他の層を積層する場合には、例えば、断熱層を好ましく使用できる。当該断熱層としては、熱伝導率が0.1W/m・K未満の層を好ましく使用できる。当該断熱層は、例えば、発泡樹脂シート、断熱材料を含有する樹脂シート、気泡緩衝材等を適宜使用できる。なかでも、気泡緩衝材は入手が容易であり、安価であるため好ましい。
【0048】
断熱層はシート状とすることで施工性を確保しやすくなるが、なかでも、上記と同様に測定されるマンドレル直径が2〜25mmであることが好ましい。
【0049】
断熱層の層厚は、特に限定されないが、植物保温シートとしての湾曲性や早着性を保有する為には、3〜10mm程度である事が好ましい。
【0050】
蓄熱層以外の他の層を形成する場合には、蓄熱層の少なくとも一方の表層が植物保温シートの最外層を構成するか、あるいは、蓄熱層の少なくとも一方の表層が視認できるよう透明な層が積層されていることが好ましい。透明な層を積層する場合には、780nm波長光の分光透過率が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。当該分光透過率は、上記分光反射率の測定装置を用いて測定可能である。
【0051】
[製造方法]
植物保温シートを形成する蓄熱層は、樹脂と蓄熱材とを含有する樹脂組成物からなる塗工液を塗布、あるいは任意の形状の型枠へ投入した後、加熱や乾燥させることで得ることができる。好ましい製造例としては、樹脂と蓄熱材とを含有する樹脂組成物からなる塗工液を調整し、支持体上に当該塗工液を塗布して塗工膜を形成した後、塗工膜温度が150℃以下となる温度で加熱してシート状の蓄熱層を形成する方法である。
【0052】
また、発泡系の蓄熱層を製造する場合には、樹脂、蓄熱材及び水性媒体を含有するエマルジョン樹脂組成物を機械発泡させた後、塗布や注型し、乾燥して製造する方法を使用できる。当該製造に際しては、乾燥後に必要に応じて熱や紫外線等により硬化してもよい。
【0053】
これら製法により製造されたシート状の蓄熱層を植物保温シートとして使用してもよく、蓄熱層に他の層を積層して植物保温シートを形成してもよい。植物保温シートを製造する際に、支持体を使用する場合には、植物保温シートを剥離して流通、使用等する場合には、得られる植物保温シートを剥離可能で、加熱工程の温度での耐熱性を有するものを適宜使用できる。また、蓄熱層以外の層を積層する場合には、不燃紙などの不燃層や断熱層など、他の機能層を支持体として、当該支持体上に蓄熱層を形成して植物保温シートを積層してもよい。
【0054】
植物保温シートを剥離する場合の支持体としては、例えば、各種の工程フィルムとして使用される樹脂フィルムを好ましく使用できる。当該樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム等のポリエステル樹脂フィルムなどが挙げられる。樹脂フィルムの厚みは特に制限されないが、25〜100μm程度のものが取扱いや入手が容易である。
【0055】
[栽培方法]
本発明の植物保温シートは、長茎植物の茎や株元、特に、株元の地際から主茎の第1側枝節又は第10節までの主幹部分である株元部分に装着して使用することで、長茎植物の収率向上に好適に寄与できる。長茎植物への装着方法は特に制限されないが、茎や株元への巻き付けによる装着が、簡易かつ効果的である。巻き付けによる装着に際しては、植物保温シートを茎又は株元に一重以上巻き付ければよいが、好適な蓄熱効果を得るためには、巻き付けた際の総厚みが1mm以上とすることが好ましく、3mm以上とすることがより好ましく、5mm以上とすることがさらに好ましく、8mm以上とすることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、コスト面から20mm以下が好ましい。
【0056】
また巻き付け時の固定方法は特に制限されるものではないが、ゴム状の伸縮性のある部材を外周に巻き付けて固定する方法や、面ファスナー、針金、ビニールタイにより外周を巻き付けて固定する方法、ピンチ式の治具で固定する方法等、適宜の方法により固定すればよい。また、あらかじめこれら固定部材を植物保温シートに一体化して形成してもよい。
【0057】
本発明の植物保温シートは、加温や保温のためのエネルギーを使用しなくとも、夜間の温度低下等が生じた場合にも、長茎植物の育成に好適な温度を保持できることから、省エネルギー性に優れる。また、樹脂マトリクス中に蓄熱材と濃色着色剤とを含有する蓄熱性のシートからなるため、長茎植物の各個体の太さに応じて好適に巻き付け可能である。また、開口部や分離部等の機械的構造を設ける必要がないことから、安価に製造できる。さらに、株元や茎への巻き付け時の固定手段として、ゴム等の伸縮性のある部材により固定することで、生育による太さの変化に対しても好適に追従可能となる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
重合度900のポリ塩化ビニル樹脂粒子(新第一塩ビ社製 ZEST PQ92)90質量部、ポリエステル系可塑剤(DIC社製 ポリサイザーW−230H:粘度220mPa・s、ゲル化終点温度136℃)70質量部、熱安定剤(大協化成工業社製 MTX−11P)1質量部、分散剤(BYK社製 Disperplast−1150)5質量部、カーボンブラックを濃度10質量%で可塑剤に混錬した着色剤(1)1.6質量部、脂肪酸エステルをマイクロカプセル化した潜熱蓄熱材(平均粒子径150μm、凝固点25℃)60質量部を配合し、プラスチゾル塗工液を作成した。これをPETフィルム上にアプリケーター塗工機にて塗布した後、150℃のドライヤー温度で8分間加熱してゲル化させ、PETフィルムを剥離して、厚さ3mmの非発泡系蓄熱シートを形成した。得られた蓄熱シートの比重は1.0、屈曲性試験において割れが生じるマンドレル直径は25mm、ガーレ法による剛軟度は50mN、780nm波長光の光反射率は1.6、0℃から40℃の潜熱量は85kJ/m
2、引張り強さは1.2MPa、引張り破断時の伸び率は35%であった。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様に作成したプラスチゾル塗工液をPETフィルム上にアプリケーター塗工機にて塗布した後、150℃のドライヤー温度で8分間加熱してゲル化させ、PETフィルムを剥離して、厚さ1.5mmの非発泡系蓄熱シートを形成した。得られた蓄熱シートの比重は1.0、屈曲性試験において割れが生じるマンドレル直径は10mm、ガーレ法による剛軟度は7mN、780nm波長光の光反射率は1.6、0℃から40℃の潜熱量は43kJ/m
2、引張り強さは2.2MPa、引張り破断時の伸び率は70%であった。
【0060】
(実施例3)
実施例1と同様に作成したプラスチゾル塗工液を厚さ150μm不燃紙上にアプリケーター塗工機にて塗布した後、150℃のドライヤー温度で8分間加熱してゲル化させ、厚さ1.5mmの非発泡系蓄熱シートを形成した。得られた蓄熱シートの比重は1.0、屈曲性試験において割れが生じるマンドレル直径は10mm、ガーレ法による剛軟度は35mN、780nm波長光の光反射率は1.6、0℃から40℃の潜熱量は41kJ/m
2、引張り強さは2.1MPa、引張り破断時の伸び率は70%であった。
【0061】
(実施例4)
水分散アクリルエマルジョン樹脂(DIC社製 DICNAL MF−342 カイ15:不揮発分55%)100質量部、アニオン界面活性剤6質量部、増粘剤3質量部、カーボンブラック濃度20質量%の水分散着色剤(2)1.1質量部、有機系潜熱蓄熱材をウレタン樹脂からなる外殻を用いてマイクロカプセル化した蓄熱性粒子(平均一次粒子径150μm、凝固点25℃)110質量部を配合し、ディスパーにて攪拌混合し(2000rpm、10分)、機械発泡用バインダーを作成した。これをPETフィルム上にアプリケーターにて塗布した後、予備乾燥として100℃のドライヤー温度で5分間加熱後、140℃のドライヤー温度で10分間熱処理して硬化させ、厚さ3mmの発泡系蓄熱材を形成した。この蓄熱材の比重は0.4、屈曲性試験において割れが生じるマンドレル直径は2mm、ガーレ法による剛軟度は6mN、780nm波長光の光反射率は4.1、0℃から40℃の潜熱量は103kJ/m
2、引張り強さは0.3MPa、引張り破断時の伸び率は70%であった。
【0062】
(比較例1)
実施例1にて使用したポリ塩化ビニル樹脂粒子90質量部にかえて、ポリアクリル粒子(三菱ケミカル社製 ダイヤナールLP−3106)90質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、厚さ3mmの非発泡系蓄熱シートを形成した。得られた蓄熱シートは、屈曲性試験においてマンドレル直径32mmでも割れが生じた。
【0063】
上記実施例及び比較例のシートにつき、以下の評価を行った。評価方法及び得られたシート等の評価結果は下記のとおりである。
【0064】
<株元への装着性試験>
実施例及び比較例にて作成したシートを100mm×300mmサイズにカットし、試験体を作成した。作成した試験体を株元に見立てた直径25mmの木製丸棒に巻きつけ、ピンチ式の固定治具で設置した際の装着性について評価した。3名の試験者が各シートにつき3回ずつ評価を行い、試験体と丸棒との隙間が最大5mm以下となるように巻きつけるのに要した作業時間を計測し、以下の基準にて評価した。
◎:20秒未満で装着できた。
〇:20秒以上1分未満で装着できた。
△:1分以上5分未満で装着できた。
×:5分作業しても最大隙間5mm以下にできなかった、又は試験体が割れた。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1〜4のシートは株元への装着時にほとんど割れが生じず、株元ヘの巻き付けが可能であった。なかでも実施例2〜4のシートは良好に装着でき、特に実施例2及び実施例4のシートは柔軟で装着性に優れるものであった。一方、比較例1のシートは株元への装着時に割れが生じ、巻き付けができないものであった。
【0067】
(実施例5)
実施例1にて使用した着色剤(1)1.6質量部にかえて、同着色剤を0.8質量部使用した以外は実施例1と同様にして、厚さ3mmの非発泡系蓄熱シートを形成した。得られた蓄熱シートの比重は1.0、屈曲性試験において割れが生じるマンドレル直径は25mm、ガーレ法による剛軟度は50mN、780nm波長光の光反射率は3.8、0℃から40℃の潜熱量は85kJ/m
2、引張り強さは1.2MPa、引張り破断時の伸び率は35%であった。
【0068】
(実施例6)
実施例1にて使用した着色剤(1)1.6質量部にかえて、同着色剤を0.16質量部使用した以外は実施例1と同様にして、厚さ3mmの非発泡系蓄熱シートを形成した。得られた蓄熱シートの比重は1.0、屈曲性試験において割れが生じるマンドレル直径は25mm、ガーレ法による剛軟度は50mN、780nm波長光の光反射率は17.4、0℃から40℃の潜熱量は85kJ/m
2、引張り強さは1.2MPa、引張り破断時の伸び率は35%であった。
【0069】
(実施例7)
実施例1にて使用した着色剤(1)1.6質量部を除いた以外は実施例1と同様にして、厚さ3mmの非発泡系蓄熱シートを形成した。得られた蓄熱シートの比重は1.0、屈曲性試験において割れが生じるマンドレル直径は25mm、ガーレ法による剛軟度は50mN、780nm波長光の光反射率は80.0、0℃から40℃の潜熱量は85kJ/m
2、引張り強さは1.2MPa、引張り破断時の伸び率は35%であった。
【0070】
(比較例2)
厚さ5mm、熱抵抗値0.143m
2K/W、0℃から40℃の潜熱量は0kJ/m
2の黒色系発泡断熱シートを比較例2のシートとした。
【0071】
<温度保持性評価試験>
実施例及び比較例にて作成したシートを5cm角にカットし、試験体を作成した。作成した試験体をペルチェ式温度変化プレートに設置し、プレートと接触した面の反対側に熱電対をセットしてプレートに設置した試験体を上から断熱材で覆った。熱電対の温度変化はデータロガーで記録した。プレートの温度を35℃に設定し、30分間保持して恒温状態とした。その後、プレートの温度を35℃から10℃に1分かけて変化させたときの熱電対の温度変化を測定した。プレート温度変化開始時から、熱電対の温度が15℃に到達するまでの時間を算出し、以下の基準にて保温性を評価した。
◎:15℃に到達するまでの時間が5分以上
○:15℃に到達するまでの時間が3分以上
△:15℃に到達するまでの時間が2分以上
×:15℃に到達するまでの時間が2分未満
【0072】
【表2】
【0073】
実施例1〜7のシートは良好な蓄熱性を有し、なかでも実施例1、4〜7のシートは特に優れた温度保持が可能であった。一方、比較例2のシートは温度保持性に劣るものであった。
【0074】
<吸熱性試験>
実施例及び比較例にて作成したシートを50mm角にカットして試験体を作成し、断熱材(50mmのスタイロフォーム)上に設置した。試験体の断熱材と接触した面に熱電対をセットし、熱電対の温度変化はデータロガーで記録した。試験体を設置した断熱材を20℃恒温室内で60分間静置し、恒温状態とした。その後、日射の当たる屋外(晴天、外気温20℃〜23℃)に30分間静置し、熱電対の温度変化を測定した。試験体温度が35℃に到達するまでの時間を測定し、以下の基準にて吸熱性を評価した。
◎:35℃に到達するまでの時間が10分未満
〇:35℃に到達するまでの時間が10分以上30分未満
△:35℃に到達するまでの時間が30分以上
【0075】
【表3】
【0076】
実施例1、4〜6のシートは、特に優れた吸熱性を有し、特に優れた温度保持性が得やすいものであることが確認された。