【解決手段】TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を、被験物質に曝露する曝露工程と、上記細胞における特定の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する、被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法。
以下の(a)〜(n)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子またはタンパク質に特異的に結合するプローブを備えている、被験物質の皮膚への刺激性を評価するための評価キット。
(a)CXCケモカイン
(b)CXCケモカイン受容体
(c)CCケモカイン
(d)CCケモカイン受容体
(e)Cケモカイン受容体
(f)CX3Cケモカイン
(g)CX3Cケモカイン受容体
(h)非定型ケモカイン受容体
(i)EGR
(j)FOS
(k)MIF
(l)IL−6
(m)M−CSF
(n)SCF
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。本発明は、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「X〜Y」は、「X以上Y以下」を意図する。
【0022】
〔1.被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法〕
本発明に係る被験物質の評価方法は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を、被験物質に曝露する曝露工程と、上記細胞における、特定の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する。本発明に係る被験物質の評価方法であれば、急性の刺激反応だけでなく、遅延性の刺激反応も評価することができる。
【0023】
〔1−1.曝露工程〕
曝露工程は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を、被験物質に曝露する工程である。なお、曝露する時間は、限定されず、適宜設定され得る。
【0024】
(細胞)
本発明において用いられる細胞は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞である。当該細胞は、例えば、生体から採取された野生型の細胞、生体から採取された細胞を株化した細胞、または、これらの形質転換細胞であってもよい。
【0025】
本発明において用いられるTRPV1活性を有する細胞は、TRPV1の生理学的機能を発現する細胞である。上記TRPV1の生理学的機能としては、例えば、カプサイシン、カンフル、プロトン等による化学刺激、熱覚刺激(例えば、43℃前後の刺激)、痛み刺激、機械刺激等の刺激による細胞外から細胞内へのナトリウムイオン、カルシウムイオン等の陽イオンの透過等が挙げられる。
【0026】
上記TRPV1活性を有する細胞としては、内因性TRPV1を発現している野生型の細胞、TRPV1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞等が挙げられる。上記TRPV1活性を有する細胞のなかでは、かかるTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象を簡便な操作で測定する観点から、TRPV1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞(以下、「外因性TRPV1発現細胞」ともいう)が好ましい。
【0027】
上記内因性TRPV1を発現している野生型の細胞としては、特に限定されないが、例えば、感覚神経の細胞、脳の細胞、膀胱上皮の細胞等が挙げられる。
【0028】
本発明において用いられるTRPA1活性を有する細胞は、TRPA1の生理学的機能を発現する細胞である。上記TRPA1の生理学的機能としては、例えば、AITC、シナモンアルデヒド、カルバクロール、アリシン、パラオキシ安息香酸エステル、メントール、ニコチン、フルフェナム酸等による化学刺激、冷覚刺激(例えば、17℃前後での刺激)、痛み刺激、機械刺激等の刺激による細胞外から細胞内へのナトリウムイオン、カルシウムイオン等の陽イオンの透過等が挙げられる。
【0029】
上記TRPA1活性を有する細胞としては、内因性TRPA1を発現している野生型の細胞、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞等が挙げられる。上記TRPA1活性を有する細胞のなかでは、かかるTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を簡便な操作で測定する観点から、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞(以下、「外因性TRPA1発現細胞」ともいう)が好ましい。
【0030】
上記内因性TRPA1を発現している野生型の細胞としては、特に限定されないが、例えば、感覚神経の細胞、内耳の細胞等が挙げられる。
【0031】
本発明において用いられるTRPV1活性およびTRPA1活性を有する細胞は、TRPV1の生理学的機能およびTRPA1の生理学的機能の両方を発現する細胞である。
【0032】
上記TRPV1活性およびTRPA1活性を有する細胞としては、内因性TRPV1および内因性TRPA1の両方を発現している野生型の細胞、TRPV1をコードする核酸およびTRPA1をコードする核酸がいずれも発現可能に宿主細胞に導入されたTRPA1−TRPV1共発現細胞等が挙げられる。なお、宿主細胞が、元々、TRPV1の生理学的機能またはTRPA1の生理学的機能の一方を発現する細胞である場合には、TRPV1をコードする核酸またはTRPA1をコードする核酸の何れか一方が発現可能に宿主細胞に導入されたTRPA1−TRPV1共発現細胞を用いることも可能である。
【0033】
上記TRPA1−TRPV1共発現細胞においては、TRPV1をコードする核酸およびTRPA1をコードする核酸は、同一の発現プロモーターの制御下にあってもよいし、別々の発現プロモーターの制御下にあってもよい。被験物質によりTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象と、被験物質によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象とを、それぞれ区別して測定する観点から、TRPV1をコードする核酸およびTRPA1をコードする核酸は、それぞれ別々の発現プロモーターの制御下にあることが好ましい。発現プロモーターは、用いられる宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
【0034】
上記外因性TRPV1発現細胞、外因性TRPA1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞は、染色体外要素として上記核酸が存在している細胞であってもよく、上記核酸が染色体に組み込まれている細胞であってもよい。
【0035】
上記外因性TRPA1発現細胞は、例えば、TRPA1をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。また、上記外因性TRPV1発現細胞は、TRPV1をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。上記TRPA1−TRPV1共発現細胞は、例えば、TRPA1をコードする核酸およびTRPV1をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。
【0036】
上記TRPA1をコードする核酸は、ヒトTRPA1をコードする核酸であってもよく、他の動物のTRPA1をコードする核酸であってもよい。また、上記TRPV1をコードする核酸は、ヒトTRPV1をコードする核酸であってもよく、他の動物のTRPV1をコードする核酸であってもよい。
【0037】
上記TRPV1をコードする核酸は、被験物質のヒトの皮膚への刺激性を的確に評価する観点から、ヒトTRPV1をコードする核酸であることが好ましい。当該ヒトTRPV1をコードする核酸としては、例えば、アクセッション番号NM_080704.3としてGenBankに登録されている核酸が挙げられる。
【0038】
上記TRPV1をコードする核酸は、ヒトTRPV1をコードする核酸のスプライシングバリアントであってもよい。上記スプライシングバリアントとしては、例えば、アクセッション番号NM_018727.5、NM_080705.3、NM_080706.3等としてGenBankに登録されている核酸が挙げられる。
【0039】
上記TRPV1をコードする核酸は、当該核酸によりコードされるポリペプチドが上記生理学的機能を発現するものであればよく、上記アクセッション番号としてGenBankに登録されている核酸の変異型核酸であってもよいし、上記アクセッション番号としてGenBankに登録されている核酸のスプライシングバリアントであってもよい。
【0040】
上記TRPA1をコードする核酸は、被験物質のヒトの皮膚への刺激性を的確に評価する観点から、ヒトTRPA1をコードする核酸であることが好ましい。当該ヒトTRPA1をコードする核酸としては、例えば、アクセッション番号NM_007332としてGenBankに登録されている核酸が挙げられる。
【0041】
上記TRPA1をコードする核酸は、ヒトTRPA1をコードする核酸のスプライシングバリアントであってもよい。
【0042】
上記TRPA1をコードする核酸は、当該核酸によりコードされるポリペプチドが上記生理学的機能を発現するものであればよく、上記アクセッション番号としてGenBankに登録されている核酸の変異型核酸であってもよいし、上記アクセッション番号としてGenBankに登録されている核酸のスプライシングバリアントであってもよい。
【0043】
TRPV1をコードする核酸としては、例えば、
(i)アクセッション番号NM_080704.3、NM_018727.5、NM_080705.3、または、NM_080706.3に示される塩基配列からなる核酸、
(ii)アクセッション番号NM_080704.3、NM_018727.5、NM_080705.3、または、NM_080706.3に示される塩基配列に対して、BLASTアルゴリズムにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件でアライメントして算出される配列同一性の値が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である塩基配列からなり、かつコードされるポリペプチドが少なくとも上記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸、
(iii)アクセッション番号NM_080704.3、NM_018727.5、NM_080705.3、または、NM_080706.3に示される塩基配列からなる核酸と相補的な核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、コードされるポリペプチドが、上記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸
等が挙げられる。
【0044】
また、TRPA1をコードする核酸としては、例えば、
(iv)アクセッション番号NM_007332に示される塩基配列からなる核酸、
(v)アクセッション番号NM_007332に示される塩基配列に対して、BLASTアルゴリズムにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件でアライメントして算出される配列同一性の値が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である塩基配列からなり、かつコードされるポリペプチドが少なくとも上記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸、
(vi)アクセッション番号NM_007332に示される塩基配列からなる核酸と相補的な核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、コードされるポリペプチドが、陽イオンを透過させる機能を発現するポリペプチドである核酸
等が挙げられる。
【0045】
なお、本明細書において、上記ストリンジェントな条件としては、例えば、所望の核酸と当該核酸に対応するハイブリダイゼーション対象の核酸とを、ハイブリダイゼーション用溶液〔組成:6×SSC(組成:0.9M塩化ナトリウム、0.09Mクエン酸ナトリウム、pH7.0に調整)、0.5質量%ドデシル硫酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、100μg/mL変性サケ精子DNA、50体積%ホルムアミド〕中で、室温以上の温度、よりストリンジェントな条件として42℃以上の温度、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で10時間インキュベーションし、次に、例えば、2×SSC、よりストリンジェントな条件として0.1×SSCのイオン強度条件下で、かつ室温以上の温度、よりストリンジェントな条件として42℃以上の温度、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で洗浄を行なう条件等が挙げられる。
【0046】
上記宿主細胞としては、上記TRPV1をコードする核酸および/またはTRPA1をコードする核酸が効率よく発現され、かつ培養が容易なものであればよく、特に限定されない。上記宿主細胞としては、例えば、動物細胞、細菌細胞、植物細胞、昆虫細胞等が挙げられる。これらのなかでは、ヒトにおけるTRPV1および/またはTRPA1の生理学的機能を十分に再現する観点から、動物細胞であることが好ましい。動物細胞としては、例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター細胞、マウス細胞等が挙げられる。ヒト細胞としては、特に限定されないが、例えば、HepG2細胞、HEK293細胞、HeLa細胞等が挙げられる。サル細胞としては、特に限定されないが、例えば、COS−7細胞等が挙げられる。ハムスター細胞としては、特に限定されないが、例えば、CHO細胞等が挙げられる。マウス細胞としては、特に限定されないが、例えば、NIH3T3細胞等が挙げられる。上記宿主細胞のなかでは、取扱いが容易であることから、HepG2細胞、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞およびNIH3T3細胞が好ましい。これらのなかでは、TRPチャネルがほとんど発現しておらず、外因性のTRPV1および/またはTRPA1の活性化を容易にかつ選択的に測定することができることから、HEK293細胞が好ましい。
【0047】
上記組換えベクターは、TRPV1をコードする核酸および/またはTRPA1をコードする核酸と慣用のベクターとを連結させることによって得られるベクターである。上記ベクターは、その調製が容易であり、効率よく宿主細胞に導入することができ、かつ宿主細胞内でTRPV1および/またはTRPA1を効率よく発現させることができるベクターであればよい。上記ベクターは、形質転換後に、組換えベクターを保持する細胞を容易に選択する観点から、選択マーカー遺伝子を有するベクターであることが好ましい。ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。これらのベクターは、用いられる宿主細胞に応じて適宜選択することができる。なお、上記外因性TRPV1発現細胞および外因性TRPA1発現細胞を作製するための組換えベクターに用いられるベクターは、発現プロモーターを有していてもよい。
【0048】
上記組換えベクターを用いた形質転換は、用いられる宿主細胞の種類に応じて、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、トランスフェクション法、パーティクルガン法等の形質転換方法によって行なうことができる。これらの形質転換方法は、例えば、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)〔ザンブルーク(Sambrook)ら、コールド スプリング ハーバー プレス(Cold Spring Harbor Press)、1989年発行〕等の記載に準じて行なうことができる。形質転換後の細胞からの外因性TRPV1発現細胞、外因性TRPA1発現細胞およびTRPV1−TRPA1共発現細胞の選択は、例えば、用いられた組換えベクターが選択マーカー遺伝子を有する場合、選択マーカー遺伝子に応じた選択培地で培養すること等によって行なうことができる。
【0049】
得られた細胞が、TRPV1の生理学的機能を発現している細胞であることの確認は、例えば、細胞を100nM〜10μMカプサイシンと接触させ、後述の細胞内カルシウムイオン濃度の測定方法により、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を測定することによって行なうことができる。細胞がTRPV1の生理学的機能を発現している場合、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度は、カプサイシンと接触させていない細胞の細胞内カルシウムイオン濃度よりも高くなる。また、得られた細胞が、TRPA1の生理学的機能を発現している細胞であることの確認は、例えば、細胞を1〜10mM AITCと接触させ、後述の細胞内カルシウムイオン濃度の測定方法により、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を測定することによって行なうことができる。細胞がTRPA1の生理学的機能を発現している場合、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度は、AITCと接触させていない細胞の細胞内カルシウムイオン濃度よりも高くなる。
【0050】
曝露工程において、被験物質に曝露する細胞は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する1種の細胞のみからなるものであっても、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する2種以上の細胞の組み合わせであってもよい。また、被験物質に曝露する細胞は、TRPV1活性およびTRPA1活性を有しない細胞を含んでいてもよい。
【0051】
本発明の一実施形態において、被験物質に曝露する細胞は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する1種の細胞のみからなる。細胞が、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する1種の細胞からなることにより、培養系を容易に構築することができ、また、単位細胞数あたりの遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を容易に測定することができる。
【0052】
本発明の一実施形態において、被験物質に曝露する細胞は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する2種以上の細胞の組み合わせである。細胞が、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する2種以上の細胞の組み合わせであることにより、異種の細胞間のクロストークを評価することが可能である。すなわち、異種の細胞間または組織間に起こると考えられる包括的な生体反応を評価することができる。たとえば、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞とTRPV1活性およびTRPA1活性を有しない細胞との組み合わせを用いることにより、被験物質の皮膚への刺激性を、生体内の環境により近い条件下で、評価することができる。
【0053】
(被験物質)
本発明において用いられる被験物質としては、特に制限されず、化合物であってもよいし、組成物であってもよい。組成物としては、例えば、化粧品、医薬部外品、医薬品などの皮膚外用剤が挙げられる。また、化合物としては、上記皮膚外用剤に含まれる各成分が挙げられる。
【0054】
(曝露方法)
上記細胞を被験物質に曝露する方法は、特に限定されず、公知の方法であってよい。例えば、細胞を培養する培地に、被験物質を添加してインキュベーションする方法、または、当該細胞に被験物質を直接添加する方法等が挙げられる。
【0055】
培地に被験物質を添加してインキュベーションする方法は、用いられる細胞の種類に応じて適宜に選択することができ、かかる方法としては、単層静置培養法、浮遊培養法、回転培養法、三次元担体培養法等が挙げられる。
【0056】
上記培地としては、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞が生育するのに適した成分、例えば、グルコース、アミノ酸、ペプトン、ビタミン、細胞増殖促進因子(例えば、細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、脂質)、血清(例えば、FBS、FCS等)、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を含む培地を用いることができる。上記培地は、市販されている培地であってもよい。TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞の培養に用いられる培地としては、かかる細胞に適した培地であればよく、特に限定されないが、MEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地等が挙げられる。例えば、用いられる宿主細胞がHEK293細胞である場合、10質量%FBS含有DMEM培地等が用いられ得る。
【0057】
また、インキュベーション温度、二酸化炭素濃度等の条件は、用いられる細胞に応じて適宜設定される。例えば、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞として、HEK293細胞から得られた細胞を用いる場合、かかる細胞は、通常、5体積%二酸化炭素を含む雰囲気中で、36〜38℃、好ましくは36.5〜37.5℃でインキュベーションすればよい。
【0058】
本発明に係る評価方法において、用いられる細胞が、TRPV1および/またはTRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入されている細胞であって、TRPV1および/またはTRPA1の一過性発現を行なう細胞である場合には、被験物質により引き起こされるTRPV1および/またはTRPA1を介する生理学的事象を十分に評価する観点から、好ましくは、TRPV1および/またはTRPA1をコードする核酸を導入した後24時間〜48時間に、曝露工程を行うことが望ましい。
【0059】
被験物質に接触させる細胞の量は、試験データの信頼性の観点から、被験物質100μLあたり、それぞれ1×10
1細胞以上が好ましく、1×10
2細胞以上がより好ましく、細胞の間隔を確保し、細胞が密になりすぎないようにする観点から、3×10
2細胞以下が好ましく、2×10
2細胞以下がより好ましい。
【0060】
細胞に被験物質を直接添加する方法としては、特に限定されず、塗布、パッチ、滴下、噴霧等であってよい。細胞に接触させる被験物質の量は、被験物質の種類に応じて適宜設定することができる。
【0061】
なお、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞は、当該細胞を上記生理学的事象を測定するのに適した状態に維持するために、当該細胞に適した条件下で、予めインキュベーションしておいてもよい。
【0062】
(曝露時間)
本発明に係る評価方法により、被験物質の遅延性の刺激反応を評価する場合、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を被験物質に曝露する曝露時間は、細胞内シグナル伝達に要する時間を考慮して、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは6時間以上であり、また、細胞毒性の影響を考慮して、好ましくは72時間以内であり、より好ましくは24時間以内である。
【0063】
本発明に係る評価方法により、被験物質の急性の刺激反応を評価する場合、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を被験物質に曝露する曝露時間は、一過的細胞内シグナル伝達に要する時間を考慮して、好ましくは1秒以上であり、より好ましくは1分以上であり、また、指標の遺伝子発現のタイミングを考慮して、好ましくは24時間以内であり、より好ましくは1時間以内である。
【0064】
〔1−2.培養工程〕
本発明に係る評価方法は、必要に応じて、上記曝露工程の後に、被験物質に曝露された細胞を、被験物質を含まない培地中で所定時間培養する培養工程をさらに含んでもよい。
【0065】
曝露工程において細胞を被験物質に曝露することにより、指標となる遺伝子発現および/またはタンパク質産生に変化が生じ、当該変化が測定可能なレベルに到達するまでには、一定の時間がかかる場合がある。この場合は、曝露工程の後に、培養工程を行うことが好ましい。
【0066】
細胞を培養する培養方法は、特に限定されず、用いられる細胞の種類に応じて適宜に選択することができ、かかる方法としては、単層静置培養法、浮遊培養法、回転培養法、三次元担体培養法等が挙げられる。
【0067】
上記培地としては、上記曝露工程について上述したものと同様の培地を用いることができる。また、インキュベーション温度、二酸化炭素濃度等の条件は、用いられる細胞に応じて適宜設定される。例えば、外因性TRP発現細胞として、HEK293細胞から得られた細胞を用いる場合、かかる細胞は、通常、5体積%二酸化炭素を含む雰囲気中で、36〜38℃、好ましくは36.5〜37.5℃でインキュベーションすればよい。
【0068】
培養時間は、用いられる細胞および測定する指標に応じて適宜設定されるが、例えば、転写開始に要する時間を考慮して、1時間以上であり、より好ましくは6時間以上であり、また、細胞毒性の影響を考慮して、好ましくは72時間以内であり、より好ましくは24時間以内である。
【0069】
〔1−3.測定工程〕
測定工程は、上記曝露工程において被験物質に曝露されたTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における、特定の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する工程である。
【0070】
(指標)
本発明において用いられる指標は、以下の(a)〜(n)からなる群より選択される少なくとも1種であり、測定工程では、当該指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が測定される。
【0071】
(a)CXCケモカイン(αケモカイン)
(b)CXCケモカイン受容体(αケモカイン受容体)
(c)CCケモカイン(βケモカイン)
(d)CCケモカイン受容体(βケモカイン受容体)
(e)Cケモカイン受容体(γケモカイン受容体)
(f)CX3Cケモカイン(δケモカイン)
(g)CX3Cケモカイン受容体(δケモカイン受容体)
(h)非定型ケモカイン受容体
(i)EGR(Early growth response)
(j)FOS
(k)MIF(Macrophage migration inhibitory factor)
(l)IL−6(Interleukin-6)
(m)M−CSF(Macrophage colony stimulating factor)
(n)SCF(skip1-cul1-F-box-protein)
CXCケモカインは、CXCケモカインファミリーを意図しており、αケモカイン(またはそのファミリー)とも称する。CXCケモカインとしては、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL16、CXCL17等が挙げられ、好ましくは、CXCL1、CXCL5、およびCXCL8である。
【0072】
CXCケモカイン受容体は、CXCケモカイン受容体ファミリーを意図しており、例えば、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCL6等が挙げられ、好ましくは、CXCR2、およびCXCR4である。
【0073】
CCケモカインは、CCケモカインファミリーを意図しており、βケモカイン(またはそのファミリー)とも称する。CCケモカインとしては、CCL1、CCL2、CCL3、CCL3L3、CCL3L1、CCL4L2、CCL4、CCL4L1、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28等が挙げられ、好ましくは、CCL2、CCL3、CCL4L2、CCL4L1、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL16、CCL18、CCL19、およびCCL22であり、より好ましくは、CCL2、CCL7、およびCCL8である。
【0074】
CCケモカイン受容体は、CCケモカイン受容体ファミリーを意図しており、例えば、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CCRL2、NCCRP1等が挙げられ、好ましくは、CCR6である。
【0075】
Cケモカインは、γケモカインとも称する。Cケモカイン受容体としては、XCR1等が挙げられる。
【0076】
CX3Cケモカインは、δケモカインとも称する。CX3Cケモカインとしては、CX3CL1等があげられる。CX3Cケモカイン受容体としては、CX3CR1等が挙げられる。
【0077】
非定型ケモカイン受容体としては、Atypical chemokineファミリー受容体が挙げられ、例えば、ACKR1、ACKR2、ACKR3、ACKR4等が挙げられ、好ましくは、ACKR1およびACKR3である。
【0078】
EGRとしては、EGR1、EGR2、EGR3、EGR4等が挙げられ、好ましくは、EGR1、EGR2、およびEGR3である。
【0079】
FOSとしては、FOSB、FOS、FOSL1、FOSL2等が挙げられ、好ましくは、FOSB、FOS、およびFOSL1である。
【0080】
上記指標となるタンパク質および遺伝子のアクセッション番号を、以下の表1〜表6に示す。
【0087】
本発明に係る評価方法により、被験物質の遅延性の刺激反応を評価する場合、上記指標としては、CXCケモカイン、CXCケモカイン受容体、CCケモカイン、CCケモカイン受容体、Cケモカイン受容体、CX3Cケモカイン、CX3Cケモカイン受容体、非定型ケモカイン受容体、MIF、IL−6、M−CSFおよびSCFを好適に用いることができる。
【0088】
上記指標のうち、CXCL8、CCL2、CCL7、MIF、IL−6、M−CSFおよびSCFのタンパク質は、細胞外に分泌され、測定が容易である等の利点を有するため、特に好ましい。
【0089】
本発明に係る評価方法により、急性の刺激反応を評価する場合、上記指標としては、EGR、およびFOS、並びにそれらをコードする遺伝子を好適に用いることができる。
【0090】
上記指標のうち、CXCL1、CXCL5、CXCL8、CXCR2、CXCR4、CCL2、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL18、CCL22、CCR6、ACKR1、IL−6、M−CSF、SCF、EGR1、EGR2、EGR3、FOSB、FOS、およびFOSL1は、TRPV1活性を有する細胞を用いる評価方法において、指標として好ましく用いることができる。これらのうち、CXCL1、CXCL5、CXCR2、CXCR4、CCL2、CCL5、CCL8、CCL11、CCL18、CCR6、ACKR1、EGR2、EGR3、およびFOSは、TRPV1活性を有する細胞に特異的な指標である。
【0091】
上記指標のうち、CXCL8、CCL4L1、CCL4L2、CCL3、CCL7、CCL16、CCL19、CCL22、XCR1、CX3CR1、ACKR3、MIF、IL−6、M−CSF、SCF、EGR1、FOSB、およびFOSL1は、TRPA1活性を有する細胞を用いる評価方法において、指標として好ましく用いることができる。これらのうち、CCL4L1、CCL4L2、CCL3、CCL16、CCL19、XCR1、CX3CR1、ACKR3およびMIFは、TRPA1活性を有する細胞に特異的な指標である。
【0092】
上記指標のうち、CXCL8、CCL7、CCL22、IL−6、M−CSF、SCF、EGR1、FOSBおよびFOSL1は、TRPV1活性を有する細胞およびTRPA1活性を有する細胞のいずれにおいても、好適に用いることができる。
【0093】
(測定方法)
指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する方法は、特に限定されず、指標となるタンパク質の産生、または、遺伝子の発現を測定する公知の方法であってよい。遺伝子の発現量の測定は、例えば、mRNAの発現を測定する方法を挙げることができる。
【0094】
mRNAの発現を測定する方法としては、例えば、細胞からtotal RNAを抽出して、リアルタイムRT−PCR法、RNA分解酵素プロテクションアッセイ法、ノーザンブロット解析法、ドットブロット法、RNA−sequence解析、マイクロアレイ、FISH(fluorescence in situ hybridization)等により測定する方法が挙げられる。
【0095】
タンパク質の発現を測定する方法としては、例えば、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、ELISA法、RIA法、EIA法、バイオアッセイ法等が挙げられる。
【0096】
上述した測定方法は、in vitroまたはex vivoで行うこともでき、in vivoで行うこともできる。また、複数の遺伝子・タンパク質等の発現量を測定する場合、それらの発現量は、例えば、それぞれ別個に測定してもよく、まとめて同時に測定してもよい。
【0097】
〔1−4.評価工程〕
本発明に係る評価方法は、上記測定工程において測定された遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量に基づき、被験物質の皮膚への刺激性を評価する評価工程をさらに含んでもよい。
【0098】
評価工程において、被験物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を、対照における発現量および/または産生量と比較することで当該被験物質の皮膚への刺激性を評価することができる。
【0099】
対照としては、被験物質に曝露前のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照A)、既知の非皮膚刺激性物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照B)、被験物質に曝露後のTRPV1活性およびTRPA1活性を有しない対照細胞(対照C)、既知の皮膚刺激性物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照D)、既知の皮膚刺激性物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有しない細胞(対照E)等を用いることができる。
【0100】
既知の非皮膚刺激性物質とは、皮膚への刺激性を有しないことが既に知られている物質である。また、既知の皮膚刺激性物質とは、皮膚への刺激性を有することが既に知られている物質である。既知の皮膚刺激性物質としては、TRPV1および/またはTRPA1に対する既知のアゴニストを使用することができる。TRPV1に対する既知のアゴニストとしては、例えば、カプサイシン、カンフル等が挙げられる。また、TRPA1に対する既知のアゴニストとしては、例えば、AITC、マスタード、シナモンアルデヒド、カルバクロール、アリシン、パラオキシ安息香酸エステル、メントール、ニコチン、フルフェナム酸等が挙げられる。
【0101】
刺激性の評価としては、例えば、対照A、対照Bまたは対照Cを対照とする場合であって、被験物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照A〜C)における発現量または産生量と比べて同等、または少ない場合、被験物質が皮膚への刺激性を有しない、または刺激性を有するが少ないと評価することができる。一方、被験物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照A〜C)における発現量または産生量と比べて多い場合、被験物質が皮膚への刺激性を有すると評価することができる。
【0102】
また、例えば、対照Dまたは対照Eを対照とする場合であって、被験物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照D〜E)における発現量または産生量と比べて同等、または多い場合、被験物質が皮膚への刺激性を有すると評価することができる。一方、被験物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照D〜E)における発現量または産生量と比べて少ない場合、被験物質が皮膚への刺激性を有しない、または有するが低いと評価することができる。
【0103】
なお、本願明細書において、発現量または産生量が少ないとは、被験物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が、対照における発現量または産生量と比較して、1.0倍未満であり、好ましくは1/2以下であり、より好ましくは1/5以下であり、最も好ましくは1/10以下であることを指す。
【0104】
また、本願明細書において、発現量または産生量が多いとは、被験物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が、対照における発現量または産生量と比較して、1.0倍超であり、好ましくは1.1倍以上であり、より好ましくは1.3倍以上であり、より好ましくは1.5倍以上であり、より好ましくは2.0倍以上であり、より好ましくは5.0倍以上であり、最も好ましくは10倍以上であることを指す。
【0105】
〔2.皮膚刺激性物質のスクリーニング方法〕
本発明はまた、皮膚刺激性物質のスクリーニング方法を提供する。本発明に係る皮膚刺激性物質のスクリーニング方法は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を、皮膚刺激性物質の候補物質に曝露する曝露工程と、上記細胞における、上述した(a)〜(n)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する。本発明に係る皮膚刺激性物質のスクリーニング方法によれば、急性および/または遅延性の刺激反応を引き起こす皮膚刺激性物質をスクリーニングすることができる。
【0106】
なお、本明細書において「皮膚刺激性物質」とは、皮膚において、急性および/または遅延性の刺激反応を引き起こす物質を意図する。
【0107】
当該スクリーニング方法において用いられる細胞、曝露方法、曝露時間、指標、および測定方法は、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法において用いられるものと同様である。
【0108】
また、皮膚刺激性物質の候補物質としては、特に限定されず、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法において挙げられる被験物質と同様のものを使用することができる。
【0109】
当該スクリーニング方法は、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法と同様に、必要に応じて、曝露工程の後に、皮膚刺激性物質の候補物質に曝露された細胞を、候補物質を含まない培地中で細胞を培養する培養工程をさらに含んでもよい。
【0110】
また、当該スクリーニング方法は、測定工程において測定された遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量に基づき、皮膚刺激性物質をスクリーニングするスクリーニング工程をさらに含んでもよい。
【0111】
スクリーニング工程において、候補物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を、対照における発現量または産生量と比較し、対照に比べて上記発現量または産生量が多い場合に、当該候補物質を、皮膚刺激性物質としてスクリーニングすることができる。
【0112】
対照としては、被験物質に曝露前のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照A)、既知の非皮膚刺激性物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照B)、被験物質に曝露後のTRPV1活性およびTRPA1活性を有しない対照細胞(対照C)等を用いることができる。TRPV1活性および/またはTRPA1活性を介した刺激性を評価するという観点から、対照Cを用いることが好ましく、対照Aまたは対照Bに加えて対照Cを用いることがより好ましい。
【0113】
〔3.非皮膚刺激性物質のスクリーニング方法〕
本発明はまた、非皮膚刺激性物質のスクリーニング方法を提供する。本発明に係る非皮膚刺激性物質のスクリーニング方法は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を、非皮膚刺激性物質の候補物質に曝露する曝露工程と、上記細胞における、上述した(a)〜(n)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する。本発明に係る非皮膚刺激性物質のスクリーニング方法によれば、急性および/または遅延性の刺激反応を引き起こさない非皮膚刺激性物質をスクリーニングすることができる。
【0114】
なお、本明細書において「非皮膚刺激性物質」とは、皮膚において、急性および/または遅延性の刺激反応を引き起こさない物質を意図する。
【0115】
当該スクリーニング方法において用いられる細胞、曝露方法、曝露時間、指標、および測定方法は、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法において用いられるものと同様である。
【0116】
また、非皮膚刺激性物質の候補物質としては、特に限定されず、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法において挙げられる被験物質と同様のものを使用することができる。
【0117】
当該スクリーニング方法は、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法と同様に、必要に応じて、曝露工程の後に、非皮膚刺激性物質の候補物質に曝露された細胞を、候補物質を含まない培地中で細胞を培養する培養工程をさらに含んでもよい。
【0118】
また、当該スクリーニング方法は、測定工程において測定された遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量に基づき、非皮膚刺激性物質をスクリーニングするスクリーニング工程をさらに含んでもよい。
【0119】
スクリーニング工程において、候補物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を、対照における発現量または産生量と比較し、対照に比べて上記発現量または産生量が同等または低い場合に、当該候補物質を、非皮膚刺激性物質としてスクリーニングすることができる。
【0120】
対照としては、被験物質に曝露前のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照A)、既知の非皮膚刺激性物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照B)、被験物質に曝露後のTRPV1活性およびTRPA1活性を有しない対照細胞(対照C)等を用いることができる。TRPV1活性および/またはTRPA1活性を介した刺激性を評価するという観点から、対照Cを用いることが好ましく、対照Aまたは対照Bに加えて対照Cを用いることがより好ましい。
【0121】
〔4.低皮膚刺激性物質のスクリーニング方法〕
本発明はまた、低皮膚刺激性物質のスクリーニング方法を提供する。本発明に係る低皮膚刺激性物質のスクリーニング方法は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を、低皮膚刺激性物質の候補物質に曝露する曝露工程と、上記細胞における、上述した(a)〜(n)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する。本発明に係る低皮膚刺激性物質のスクリーニング方法によれば、急性および/または遅延性の刺激反応が対照に比べて低い低皮膚刺激性物質をスクリーニングすることができる。
【0122】
なお、本明細書において「低皮膚刺激性物質」とは、皮膚において、急性および/または遅延性の刺激反応が対照に比べて低い物質を意図する。
【0123】
当該スクリーニング方法において用いられる細胞、曝露方法、曝露時間、指標、および測定方法は、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法において用いられるものと同様である。
【0124】
また、低皮膚刺激性物質の候補物質としては、特に限定されず、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法において挙げられる被験物質と同様のものを使用することができる。
【0125】
当該スクリーニング方法は、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法と同様に、必要に応じて、曝露工程の後に、低皮膚刺激性物質の候補物質に曝露された細胞を、候補物質を含まない培地中で細胞を培養する培養工程をさらに含んでもよい。
【0126】
また、当該スクリーニング方法は、測定工程において測定された遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量に基づき、低皮膚刺激性物質をスクリーニングするスクリーニング工程をさらに含んでもよい。
【0127】
スクリーニング工程において、候補物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を、対照における発現量または産生量と比較することで、当該候補物質を、低皮膚刺激性物質としてスクリーニングすることができる。
【0128】
対照としては、被験物質に曝露前のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照A)、既知の非皮膚刺激性物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照B)、被験物質に曝露後のTRPV1活性およびTRPA1活性を有しない対照細胞(対照C)、既知の皮膚刺激性物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞(対照D)、既知の皮膚刺激性物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有しない細胞(対照E)等を用いることができる。TRPV1活性および/またはTRPA1活性を介した刺激性を評価するという観点から、対照Cおよび対照Eを用いることが好ましく、対照A、対照Bまたは対象Dに加えて対照Cおよび対照Eを用いることがより好ましい。
【0129】
例えば、対照A、対照Bまたは対照Cを対照とする場合であって、候補物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照A〜C)における発現量または産生量と比べて同等、または少ない場合、候補物質を、低皮膚刺激性物質としてスクリーニングすることができる。
【0130】
また、例えば、対照Dまたは対照Eを対照とする場合であって、候補物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照D〜E)における発現量または産生量と比べて少ない場合、候補物質を、低皮膚刺激性物質としてスクリーニングすることができる。
【0131】
〔5.抗皮膚刺激性物質のスクリーニング方法〕
本発明はまた、抗皮膚刺激性物質のスクリーニング方法を提供する。本発明に係る抗皮膚刺激性物質のスクリーニング方法は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を、抗皮膚刺激性物質の候補物質および皮膚刺激性物質に曝露する曝露工程と、前記細胞における、上述した(a)〜(n)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する。本発明に係る抗皮膚刺激性物質のスクリーニング方法によれば、皮膚刺激性物質により引き起こされる急性および/または遅延性の刺激反応を抑制する抗皮膚刺激性物質をスクリーニングすることができる。
【0132】
なお、本明細書において「抗皮膚刺激性物質」とは、皮膚刺激性物質により引き起こされる、皮膚における急性および/または遅延性の刺激反応を抑制する物質を意図する。
【0133】
上記曝露工程は、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を、(i)抗皮膚刺激性物質の候補物質に曝露した後で、既知の皮膚刺激性物質に曝露することによって、(ii)既知の皮膚刺激性物質に曝露した後で、抗皮膚刺激性物質の候補物質に曝露することによって、または、(iii)抗皮膚刺激性物質の候補物質および既知の皮膚刺激性物質に同時に曝露することによって、行うことができる。
【0134】
抗皮膚刺激性物質の候補物質としては、特に限定されず、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法において挙げられる被験物質と同様のものを使用することができる。
【0135】
細胞に対する抗皮膚刺激性物質の候補物質の添加量は、指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が測定可能な程度に変化する範囲であれば特に限定されるものではない。また、細胞に対する既知の皮膚刺激性物質の添加量は、指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が測定可能な程度に変化する範囲であれば特に限定されるものではない。
【0136】
皮膚刺激性物質の遅延性の刺激反応を抑制する抗皮膚刺激性物質をスクリーニングする場合、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を既知の皮膚刺激性物質に曝露する曝露時間は、細胞内シグナル伝達に要する時間を考慮して、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは6時間以上であり、また、細胞毒性の影響を考慮して、好ましくは72時間以内であり、より好ましくは24時間以内である。
【0137】
皮膚刺激性物質の急性の刺激反応を抑制する抗皮膚刺激性物質をスクリーニングする場合、TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を既知の皮膚刺激性物質に曝露する曝露時間は、一過性シグナル伝達に要する時間を考慮して、好ましくは1秒以上であり、より好ましくは5分以上であり、また、指標の遺伝子発現のタイミングを考慮して、好ましくは24時間以内であり、より好ましくは1時間以内である。
【0138】
TRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を抗皮膚刺激性物質の候補物質に曝露する曝露時間は、指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が測定可能な程度に変化する範囲であれば特に限定されるものではない。
【0139】
当該スクリーニング方法において用いられる細胞、曝露方法のその他の構成、曝露時間、指標、および測定方法は、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法において用いられるものと同様である。
【0140】
当該スクリーニング方法は、上述の被験物質の皮膚への刺激性を評価する方法と同様に、必要に応じて、曝露工程の後に、抗皮膚刺激性物質の候補物質および皮膚刺激性物質に曝露された細胞を、当該候補物質および皮膚刺激性物質を含まない培地中で培養する培養工程をさらに含んでもよい。
【0141】
また、当該スクリーニング方法は、測定工程において測定された遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量に基づき、抗皮膚刺激性物質をスクリーニングするスクリーニング工程をさらに含んでもよい。
【0142】
スクリーニング工程において、候補物質に曝露後のTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を、対照における発現量または産生量と比較し、対照に比べて上記発現量または産生量が少ない場合に、当該候補物質を、抗皮膚刺激性物質としてスクリーニングすることができる。
【0143】
対照としては、既知の皮膚刺激性物質のみに曝露したTRPV1活性および/またはTRPA1活性を有する細胞を用いることができる。
【0144】
〔6.被験物質の皮膚への刺激性を評価するための評価キット〕
本発明の一実施形態は、上記指標のmRNAまたはタンパク質に特異的に結合するプローブを備えている、被験物質の皮膚への刺激性を評価するための評価キット(例えば、マイクロアレイ用キット、PCR用キット)を提供する。本発明に係る被験物質の皮膚への刺激性を評価するための評価キットによれば、急性の刺激反応だけでなく、遅延性の刺激反応も評価することができる。また、本評価キットは、上述した皮膚刺激性物質、非皮膚刺激性物質、低皮膚刺激性物質または抗皮膚刺激性物質のスクリーニング方法に使用し得る。
【0145】
mRNAに特異的に結合するプローブとしては、当該mRNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド等が挙げられる。また、タンパク質に特異的に結合するプローブとしては、当該タンパク質に特異的に結合する抗体等が挙げられる。
【0146】
上記プローブは、任意の固相に固定化して用いることもできる。このため、本評価キットは、上記プローブを固定化した、マイクロアレイチップ、DNAチップ、タンパク質チップ等として提供するものであってもよい。上記固相としては、プローブを固定化できるものであれば特に制限されないが、ガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリー等の基板を挙げることができる。
【0147】
本発明に係る評価キットは、更に、プローブに捕捉されたmRNAまたはタンパク質を定量するために、当該mRNAまたはタンパク質に特異的に結合する第2のプローブであって、標識化されている第2のプローブを備えていてもよい。第2のプローブとしては、mRNAに特異的にハイブリダイズする標識化されたポリヌクレオチド、タンパク質に特異的に結合する標識化された抗体を挙げることができる。なお、標識化する方法としては、特に限定されず、例えば、蛍光色素などを用いて標識化することができる。
【0148】
本発明に係る評価方法および評価キットによれば、急性の刺激反応を起こす被験物質、および、遅延性の刺激反応を起こす被験物質を評価することができる。
【0149】
また、本発明に係る皮膚刺激性物質のスクリーニング方法によれば、例えば、急性および/または遅延性の刺激反応により炎症を引き起こすような物質をスクリーニングすることができる。
【0150】
また、本発明に係る非皮膚刺激性物質のスクリーニング方法によれば、例えば、急性および/または遅延性の刺激反応を引き起こさない物質をスクリーニングすることができる。
【0151】
また、本発明に係る低皮膚刺激性物質のスクリーニング方法によれば、例えば、急性および/または遅延性の刺激反応が対照に比べて低い物質をスクリーニングすることができる。
【0152】
また、本発明に係る抗皮膚刺激性物質のスクリーニング方法によれば、例えば、急性および/または遅延性の刺激反応により炎症を抑えるような物質をスクリーニングすることができる。
【0153】
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0154】
(製造例1)
ヒトTRPV1をコードするcDNA〔GenBankアクセッション番号:MN_080704.3に示される塩基配列の276位〜2795位のポリヌクレオチド〕を、哺乳動物細胞用ベクター〔インビトロジェン社製、商品名:pcDNA3.1(+)〕のクローニングサイトに挿入し、ヒトTRPV1発現ベクターを得た。得られたヒトTRPV1発現ベクター5μgを滅菌水10μLに懸濁し、混合物Iを得た。
【0155】
また、5体積%二酸化炭素の雰囲気中、37℃に維持された直径100mmのシャーレ上の10質量%FBS含有DMEM培地中において、HEK293細胞を70%のコンフルエンシーになるまで培養し、エレクトロポレーションによる遺伝子導入試薬〔Thermo Fisher社製、商品名:Neon Transfection System 100μLキット、カタログ番号:MPK10025〕中に付属のR buffer100μLに懸濁し、細胞懸濁液Iを得た。
【0156】
混合物Iと細胞懸濁液Iとを混合し、NeonTransfection System〔Thermo Fisher社製、カタログ番号:MPK5000〕を用いて、Plus Voltage 1100V、Plus Width20ms、Plus Number2で遺伝子導入を実施した。遺伝子導入を実施した翌日に、1mg/mLのG418硫酸塩を添加した10質量%FBS含有DMEM培地に変換し、2日ごとに培地交換を続け、5体積%二酸化炭素の雰囲気中で3週間培養を続けることによって、HEK293細胞に上記ヒトTRPV1発現ベクターが導入された外因性TRPV1発現細胞を得た。
【0157】
(製造例2)
製造例1において、ヒトTRPV1をコードするcDNAの代わりに、ヒトTRPA1をコードするcDNA〔GenBankアクセッション番号:NM_007332に示される塩基配列の63位〜3888位のポリヌクレオチド〕を用いた以外は、製造例1と同様にして外因性TRPA1発現細胞を得た。
【0158】
(製造例3)
製造例1において、ヒトTRPV1発現ベクターの代わりに、ヒトTRPV1をコードするcDNAを含まない空の哺乳動物細胞用ベクター〔インビトロジェン社製、商品名:pcDNA3.1(+)〕を用いた以外は、製造例1と同様にしてMOCK細胞(HEK293_MOCK)を得た。
【0159】
〔1:プロテオーム解析による、TRPV1活性を有する細胞における細胞内変動タンパク質の探索および定量〕
製造例1で得られた外因性TRPV1発現細胞(HEK293_TPRV1)を、5体積%二酸化炭素の雰囲気中、37℃に維持された直径35mmのシャーレ上の10質量%FBS含有DMEM培地中において、5×10
5細胞の外因性TRPV1発現細胞を70%のコンフルエンシーになるまで培養した。
【0160】
次いで、上記10質量%FBS含有DMEM培地に、TRPV1に対する既知のアゴニストであるカプサイシンを、以下の表7に示される濃度となるように添加し、試料1〜5を得た。
【0161】
上記で得られた試料1〜3については、カプサイシンを培地に添加してから10分後に、カプサイシン非含有の10質量%FBS含有DMEM培地で洗浄後、当該カプサイシン非含有の培地において培養を6時間続けた。次いで、外因性TRPV1発現細胞を回収し、プロテオーム解析を行った。
【0162】
上記で得られた試料4および5については、カプサイシンを培地に添加してから6時間後に、外因性TRPV1発現細胞を回収し、プロテオーム解析を行った。
【0163】
対照(NT)として、カプサイシン非含有の10質量%FBS含有DMEM培地中で6時間培養した外因性TRPV1発現細胞(比較試料1)を使用した。
【0164】
プロテオーム解析において、ペプチドの質量分析は、質量分析装置(Q−Exactive HF−X、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて行った。
【0165】
プロテオーム解析の結果、対照における発現量に比較して発現量が有意に多いタンパク質として、EGR1およびFOSBを見出した。
【0166】
試料1〜5について測定されたEGR1およびFOSBのタンパク質の発現量の、対照における発現量に対する比を、以下の表8に示す。
【0167】
【表7】
【0168】
【表8】
【0169】
表8に示されるとおり、試料1〜5において、EGR1のタンパク質の発現量の有意な増加が認められた。また、試料1〜4において、FOSBのタンパク質の発現量の有意な増加が認められた。
【0170】
〔2:TRPV1活性を有する細胞における細胞外放出タンパク質の定量〕
上記〔1〕と同様にして、外因性TRPV1発現細胞(HEK293_TPRV1)を培養し、培地にカプサイシンを以下の表9に示される濃度となるように添加し、試料6〜9を得た。
【0171】
上記で得られた試料6〜8については、カプサイシンを培地に添加してから6時間後に、培地上清を回収し、当該培地上清における種々のサイトカインの量をBio−Plexヒトサイトカインアッセイキットを用いて測定した。また、試料9については、カプサイシンを培地に添加してから24時間後に、培地上清を回収し、同様に種々のサイトカインの量を測定した。
【0172】
対照として、MOCK細胞(HEK293_MOCK)(比較試料2〜7)、および、カプサイシン非含有の10質量%FBS含有DMEM培地中で6時間または24時間培養した外因性TRPV1発現細胞(比較試料8、9)を使用した。
【0173】
【表9】
【0174】
測定の結果、対照における発現量に比較して発現量が有意に多いタンパク質として、CCケモカイン(CCL2、CCL7)、CXCケモカイン(CXCL8)、M−CSF、SCFおよびIL−6を見出した。各タンパク質の定量結果を、
図1〜6に示す。また、MIFの定量結果を
図7に示す。
【0175】
図1〜6に示されるとおり、CCケモカイン、CXCケモカイン、IL−6、M−CSFおよびSCFのタンパク質の発現量の有意な増加が認められた。一方、MIFについては、対照における発現量と比較して、有意な増加は認められなかった。
【0176】
〔3:プロテオーム解析による、TRPA1活性を有する細胞における細胞内変動タンパク質の探索および定量〕
製造例1で得られた外因性TRPV1発現細胞の代わりに、製造例2で得られた外因性TRPA1発現細胞(HEK293_TPRA1)を用いた以外は、上記〔1〕と同様にして、外因性TRPA1発現細胞を培養した。
【0177】
次いで、10質量%FBS含有DMEM培地に、TRPA1に対する既知のアゴニストであるAITCを、以下の表10に示される濃度となるように添加し、試料10〜12を得た。
【0178】
上記で得られた試料10については、AITCを培地に添加してから10分後に、AITC非含有の10質量%FBS含有DMEM培地で洗浄後、当該AITC非含有の培地において培養を6時間続けた後、外因性TRPA1発現細胞を回収し、プロテオーム解析を行った。
【0179】
上記で得られた試料11および12については、AITCを培地に添加してから6時間後に、外因性TRPA1発現細胞を回収し、プロテオーム解析を行った。
【0180】
対照(NT)として、AITC非含有の10質量%FBS含有DMEM培地中で6時間培養した外因性TRPA1発現細胞(比較試料10)を使用した。
【0181】
プロテオーム解析は、上記〔1〕と同様にして行った。
【0182】
プロテオーム解析の結果、対照における発現量に比較して発現量が有意に多いタンパク質として、EGR1およびFOSBを見出した。
【0183】
試料10〜12について測定されたEGR1およびFOSBのタンパク質の発現量の、対照における発現量に対する比を、以下の表11に示す。
【0184】
【表10】
【0185】
【表11】
【0186】
表11に示されるとおり、試料10〜12において、EGR1およびFOSBのタンパク質の発現量の有意な増加が認められた。
【0187】
〔4:TRPA1活性を有する細胞における細胞外放出タンパク質の定量〕
上記〔2〕と同様にして、外因性TRPA1発現細胞(HEK293_TPRA1)を培養し、培地にAITCを以下の表12に示される濃度となるように添加し、試料13〜16を得た。
【0188】
上記で得られた試料13〜15については、AITCを培地に添加してから6時間後に、培地上清を回収し、当該培地上清における種々のサイトカインの量をBio−Plexヒトサイトカインアッセイキットを用いて測定した。また、試料16については、AITCを培地に添加してから24時間後に、培地上清を回収し、同様に種々のサイトカインの量を測定した。
【0189】
対照として、MOCK細胞(HEK293_MOCK)(比較試料11〜16)、および、AITC非含有の10質量%FBS含有DMEM培地中で6時間または24時間培養した外因性TRPA1発現細胞(比較試料17、18)を使用した。
【0190】
【表12】
【0191】
測定の結果、対照における発現量に比較して発現量が有意に多いタンパク質として、CXCケモカイン(CXCL8)、CCケモカイン(CCL7)、IL−6、MIF、M−CSFおよびSCFを見出した。各タンパク質の定量結果を、
図8〜13に示す。また、CCL2の定量結果を
図14に示す。
【0192】
図8〜13に示されるとおり、CXCケモカイン、CCケモカイン、IL−6、MIF、M−CSFおよびSCFのタンパク質の発現量の有意な増加が認められた。
【0193】
〔5:TRPV1活性またはTRPA1活性を有する細胞における遅延性の刺激反応によるmRNA発現量の変動解析〕
上記〔1〕と同様にして、外因性TRPV1発現細胞を培養し、培地にカプサイシンを10nMとなるように添加し、試料17を得た。また、同様にして外因性TRPV1発現細胞を培養し、培地にカプサイシン非含有培地を添加し、比較試料19を得た。
【0194】
上記で得られた試料17については、カプサイシンを培地に添加してから6時間後に、比較試料19については、カプサイシン非含有培地を添加してから6時間後に、外因性TRPV1発現細胞を回収し、カプサイシンへの曝露による、mRNA発現量の変動を、Clariom
TMSアッセイ(Thermo Fisher Scientific製)を用いて解析した。
【0195】
同様に、上記〔3〕と同様にして、外因性TRPA1発現細胞を培養し、培地にAITCを10μMとなるように添加し、試料18を得た。また、同様にして外因性TRPA1発現細胞を培養し、培地にAITC非含有培地を添加し、比較試料20を得た。
【0196】
上記で得られた試料18については、AITCを培地に添加してから6時間後に、比較試料20については、AITC非含有培地を添加してから6時間後に、外因性TRPA1発現細胞を回収し、AITCへの曝露による、mRNA発現量の変動を、Clariom
TMSアッセイ(Thermo Fisher Scientific製)を用いて解析した。
【0197】
対照として、MOCK細胞(HEK293_MOCK)を培養し、培地にカプサイシンを10nMとなるように添加し、比較試料21を得た。また、同様にしてMOCK細胞を培養し、培地にカプサイシン非含有培地を添加し、比較試料22を得た。同様に、上記MOCK細胞を培養し、培地にAITCを10μMとなるように添加し、比較試料23を得た。また、同様にしてMOCK細胞を培養し、培地にAITC非含有培地を添加し、比較試料24を得た。
【0198】
上記試料17および18、並びに比較試料19〜24について、使用した細胞株、カプサイシンまたはAITCの添加の有無および添加濃度、曝露時間、並びに細胞生存率を、以下の表13および表14にまとめる。
【0199】
【表13】
【0200】
【表14】
【0201】
CXCケモカイン、CXCケモカイン受容体、CCケモカイン、CCケモカイン受容体、Cケモカイン受容体、CX3Cケモカイン受容体および非定型ケモカイン受容体についての解析結果を、以下の表15に示す。表中のmRNA値は、10質量%FBS含有DMEM培地中で6時間培養した外因性TRPV1発現細胞、外因性TRPA1発現細胞またはMOCK細胞(NT)におけるmRNA発現量に対する比として表示した。
【0202】
【表15】
【0203】
表15に示されるとおり、外因性TRPV1発現細胞および/または外因性TRPA1発現細胞において、カプサイシンまたはAITCによる遅延性の刺激反応により、CXCケモカイン、CXCケモカイン受容体、CCケモカイン、CCケモカイン受容体、Cケモカイン受容体、CX3Cケモカイン受容体および非定型ケモカイン受容体のmRNAの発現量の顕著な増加が認められた。
【0204】
〔6:TRPV1活性またはTRPA1活性を有する細胞における急性の刺激反応によるmRNA発現量の変動解析〕
上記〔5〕と同様にして、外因性TRPV1発現細胞および外因性TRPA1発現細胞を培養し、培地にカプサイシンまたはAITCを添加した。
【0205】
カプサイシンまたはAITCを培地に添加してから10分後に、10質量%FBS含有DMEM培地で洗浄後、当該培地において6時間続けた後、細胞を回収し、上記〔5〕と同様にして、カプサイシンまたはAITCへの曝露によるmRNA発現量の変動を解析した。
【0206】
対照として、MOCK細胞(HEK293_MOCK)を使用した。
【0207】
EGRおよびFOSについての解析結果を、以下の表16に示す。表中のmRNA値は、10質量%FBS含有DMEM培地中で6時間培養した外因性TRPV1発現細胞、外因性TRPA1発現細胞またはMOCK細胞(NT)におけるmRNA発現量に対する比として表示した。
【0208】
【表16】
【0209】
表16に示されるとおり、外因性TRPV1発現細胞および/または外因性TRPA1発現細胞において、カプサイシンまたはAITCによる急性の刺激反応により、EGRおよびFOSのmRNAの発現量の顕著な増加が認められた。