【解決手段】制御系は、コントローラモデルとプラントモデルとを含む制御系のシミュレーションモデルを作成し、コンピュータシミュレーションによって制御器11を設計するモデルベース設計によって設計される。また、制御器11は、制御器11の特性を表すコントローラパラメータ、制御対象の特性を表すプラントパラメータ及び制御出力を含む複数のデータセットからなるデータセット群に基づいて学習されるデータベース駆動型制御器として設計される。
コントローラモデルとプラントモデルとを含む制御系のシミュレーションモデルを作成し、コンピュータシミュレーションによって制御器を設計するモデルベース設計において、
前記制御器は、前記制御器の特性を表すコントローラパラメータ、制御対象の特性を表すプラントパラメータ及び制御出力を含む複数のデータセットからなるデータセット群に基づいて学習されるデータベース駆動型制御器として設計される、
ことを特徴とする制御系の設計方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
適応調節機構を備える適応学習制御器は、所望の制御特性を達成し続けるため、常に適応調節機構を働かせるので、動作の安定性が担保できず、実装することが難しい。したがって、既に設計が完了している制御対象、特に、自動車のように複雑なユニットの複合体として設計された制御対象に対して、制御特性のよい制御器を設計することは難しい。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、複雑な制御対象であっても、システムパラメータの変化に対して制御性能の低下を抑制することができる制御系の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明に係る制御系の設計方法は、
コントローラモデルとプラントモデルとを含む制御系のシミュレーションモデルを作成し、コンピュータシミュレーションによって制御器を設計するモデルベース設計において、
前記制御器は、前記制御器の特性を表すコントローラパラメータ、制御対象の特性を表すプラントパラメータ及び制御出力を含む複数のデータセットからなるデータセット群に基づいて学習されるデータベース駆動型制御器として設計される。
【0009】
また、前記制御対象は、補償要素を含み、
前記補償要素は、前記プラントパラメータと、制御入力と、制御出力とを含む複数のプラントデータセットからなるプラントデータセット群に基づいて学習される、データベース駆動型アプローチによって設計される、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記補償要素は、
前記プラントモデルが、予め定められた理想特性との誤差を表す評価関数を最小化するように設計される、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記補償要素は、
固定パラメータによって表される受動要素としてモデル化される、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記プラントモデルを含む複数の制御ユニットからなる統合システムにおいて、前記制御ユニットの機能目標を設定する機能目標設定ステップと、
前記機能目標を、
プラント設計によって達成するか、
プラント設計及び固定制御器設計によって達成するか、
プラント設計及びデータベース駆動型制御器設計によって達成するか、を選択する選択ステップと、を含み、
少なくとも1つの前記制御ユニットは、
請求項1から4のいずれか一項に記載の設計方法で設計されるデータベース駆動型制御器を備える、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の制御系の設計方法によれば、コントローラパラメータ、プラントパラメータ及び制御出力を含む複数のデータセットからなるデータセット群に基づいて、コントローラモデル及びプラントモデルを設計するので、複雑な制御対象であっても、システムパラメータの変化に対して制御性能の低下を抑制できる制御系を設計することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る制御系の設計方法について説明する。
【0016】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る制御系の設計方法では、モデルベース設計の手法にデータベース駆動型アプローチを適用して、制御器の設計を行う。また、本実施の形態に係る制御系の設計方法では、データベース駆動型アプローチによって、制御対象の特性改善を行う。
【0017】
図1のフローチャートに示すように、本実施の形態に係る制御系の設計方法は、制御対象の特性改善を行うプラント設計ステップと、制御器11の設計を行うコントローラ設計ステップとを含む。
【0018】
まず、プラント設計ステップとして、モデルベース設計においてコンピュータシミュレーションに用いるプラントモデルの最適化が行われる。
【0019】
具体的には、制御対象の特性を表すプラントモデルを作成する(ステップS11)。本実施の形態では、
図2に示す液位制御系1を設計する場合を例として説明する。
【0020】
図2に示すように、本例の液位制御系1は、タンク高さH、断面積Cのタンク21に、ポンプ13から流入流量q
1(t)で水を流入させる。また、タンク21の下面部に設けられた2つの流出孔21a、21bから、それぞれ流出流量q
2(t)、q
3(t)でタンク21内の水が流出する。これらの条件の下で、制御器11によって、ポンプ13からの流入流量q
1(t)を操作して、タンク21の液位h(t)を制御する場合を考える。
【0021】
この場合、制御対象の特性は、流入流量q
1(t)、制御量(プラント出力)である液位h(t)、操作量である流入流量q
1(t)、流出流量q
2(t)を規定する流量抵抗R
1、流出流量q
3(t)を規定する流量抵抗R
2、を用いて、以下の式のように表される。
【0022】
【数1】
ただし、f(・)は非線形関数を表す。
【0023】
続いて、制御器11による制御対象の制御特性を向上させるため、プラントモデルの最適化を行う。すなわち、通常、経年劣化による特性変化等の非線形要素を含む制御対象の特性を、予め定められた理想特性に近づけるように、補償要素22の追加及び特性評価を行う。理想特性は、例えば、線形特性であり制御対象の特性が変化した場合であっても制御器11による制御がより容易となるように設定される特性である。
【0024】
具体的には、ステップS11で作成したプラントモデルに、調整可能な要素を補償要素22として追加する(ステップS12)。補償要素22の追加は、制御対象において調整可能な可変要素をモデル化することにより行う。
【0025】
例えば、タンク高さH等のタンク形状、ポンプ13からの流入流量q
1(t)は、設計上の制約等から、既に決定されているものとする。そして、
図2に示すように、流出孔21aに、流出流量q
2(t)を可変とし、流量抵抗をR
1(t)とする排出バルブを補償要素22として追加する。
【0026】
ここで、本実施の形態に係る補償要素22は、制御入力である操作量uに影響を及ぼす能動要素ではなく、制御対象の内部特性として制御出力に影響を及ぼす要素であることから、半受動要素と呼ぶ。
【0027】
補償要素22は、制御対象によって適宜設定することができ、例えば、自動車のように様々なユニットが組み合わされて構成される複雑な制御対象において、その一部であるサスペンション特性等、追加可能な可変要素を採用することができる。
【0028】
続いて、作成したプラントモデルに対して、入力であるポンプ13からの流入流量q
1(t)、半受動要素である排出バルブの流量抵抗R
1を変化させつつ、出力である液位hをコンピュータシミュレーションによって算出する。これにより、所望の入出力特性のデータ、すなわちプラントパラメータである流出流量q
2(t)、q
3(t)、制御入力であるq
1(t)、制御出力である液位hを含むプラントデータセットを得る(ステップS13)。ステップS13で得られた複数のプラントデータセットからなるプラントデータセット群は、データベース12に記憶される。
【0029】
補償要素22である排出バルブの流量抵抗R
1は、データベース駆動型アプローチにより、プラントデータセット群に基づいて学習される(ステップS14)。学習は、予め定められた評価関数を用いて行われる。
【0030】
評価関数は、例えば、以下の式で表される理想特性y
rと補償要素22を追加した場合の特性y
*との誤差Jを最小化するように設定する。
【数2】
【0031】
操作量uと出力y(=h)との関係の例を
図3に示す。
図3の例に示すように、補償要素22を追加する前の特性と比較して、補償要素22を追加した制御対象の特性y
*は、より線形の理想特性y
rに近づいており、制御器11による制御が容易で、制御対象の経年劣化等による特性変化が生じる場合であっても制御性能を高めることができる。
【0032】
また、補償要素22を現実の制御対象で実現する際、設計上の制約から、可変構造とすることが難しい場合(ステップS15のNO)には、モデルベースのコンピュータシミュレーション結果と評価関数とに基づいて、適正な固定のプラントパラメータを有する要素として実現してもよい。すなわち、制御対象内部の特性を可変とする半受動要素から、
図4に示すように、固定パラメータによって表される特性を有する受動要素に置き換える受動要素化を行う(ステップS16)。
【0033】
これにより、実機作成前に行うモデルベース設計において、データベース駆動型アプローチの手法を用いて、容易に制御対象の開ループ特性を改善することができるので、制御器11と制御対象とを含む制御系の制御特性を向上させることが可能となる。言い換えれば、モデルベース設計において、制御特性を向上させる制御対象の設計の改善を容易に行うことができる。
【0034】
現実の制御対象をシミュレーションと同様に可変構造とすることが可能な場合(ステップS15のYES)には、学習された半受動要素としての補償要素22を、可変要素として実現すればよい。
【0035】
続いて、コントローラ設計ステップとして、プラント設計ステップで設計された制御対象のシミュレーションモデルであるプラントモデルと、制御器11のシミュレーションモデルであるコントローラモデルとからなる制御系モデルを作成し(ステップS17)、コントローラの設計を行う。
【0036】
制御器11の構造は特に限定されないが、本実施の形態に係る制御器11は、PID制御器である。制御器11は、データベース駆動型アプローチの手法を用いて設計される。具体的には、制御出力である液位h(t)、流入流量q
1(t)、プラントパラメータである流出流量q
2(t)、q
3(t)、コントローラパラメータであるPIDゲインK
P(t),K
I(t),K
D(t)を含む、以下の式で表されるデータセットΦ(t)を用いたデータ駆動型制御器として設計される。
【0038】
データセットΦ(t)は、過去の操業データまたはコンピュータシミュレーションに基づくものであり、複数のデータセットΦ(t)からなるデータセット群が、データベース12に記憶されている。制御器11は、予め定められた制御則に従って、例えばJust-in-Timeアプローチによって最適なコントローラパラメータを抽出するように学習される(ステップS18)。そして、制御器11は、ポンプ13を制御することで、制御系として、所望の性能を達成する(
図5)。
【0039】
上記のように、制御器11をデータベース駆動型制御器とすることにより、プラントの経時劣化による特性変化に対しても適当な制御性能を達成する制御性能を維持することができる。また、複雑な構造の制御対象に対しても、制御器11を容易に設計することができる。
【0040】
図6(A)のグラフに示すように、固定パラメータによるPI制御器では、コントローラパラメータの設計によっては、制御対象の非線形性等から応答が不安定となる場合がある。一方、
図6(B)のグラフに示すように、本実施の形態に係るデータベース駆動型アプローチによる制御器11では、容易に特性のよい制御系を設計することができる。
【0041】
以上、説明したように、本発明に係る制御系の設計方法によれば、モデルベース設計において、コントローラパラメータ、プラントパラメータ及び制御出力を含む複数のデータセットからなるデータセット群に基づいて、データベース駆動型アプローチでコントローラモデルを設計するので、複雑な制御対象であっても、プラントパラメータを含むシステムパラメータの変化に対して制御性能の低下を抑制できる制御系を設計することが可能である。
【0042】
また、モデルベース設計において、プラントモデルに可変の補償要素22を追加して、データベース駆動型アプローチによる制御特性の改善を行うことにより、設計段階で制御特性を考慮した設計を行うことができるので、制御特性のよい制御系を設計することが可能である。
【0043】
本実施の形態ではコンピュータシミュレーションによりプラントデータセット及びデータセットを得ることとしたが、過去の操業データに基づくプラントデータセット及びデータセットを用いることとしてもよい。これにより、より現実に近いデータで制御系を設計することができる。また、過去の操業データを蓄積しておくことにより、コンピュータシミュレーションによるデータ収集の手間を省略することができる。
【0044】
また、本実施の形態では、Just-in-Timeアプローチを用いて、制御器11を学習させることとしたが、これに限られない。例えば、ニューラルネットワークを用いた機械学習に基づく手法であってもよい。これにより、過去の入出力データをデータベース12に格納することなく、各ニューロンの重み係数を学習することによってJust-in-Timeと同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、制御器11としてPID制御器を用いることとしたが、これに限られない。例えば、状態フィードバック制御器でもよい。状態フィードバック制御の導入により、PID制御では十分な制御性能の獲得が困難な高次システムに対しても、制御性能を達成することが可能となる。
【0046】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、コントローラモデルとプラントモデルとを含む、1つの制御系について、データベース駆動型制御器を設計することとしている。しかしながら、多くの制御システムでは、要素ごとに分けてプラントモデルを構築し、これらが統合された統合システムとして全体の制御が行われる。
【0047】
統合システムでは、プラントを含む制御ユニットごとに、適切な制御方法を選択し、設計することが求められる。以下、複数の制御ユニットからなる統合システムに係る制御系の設計方法について具体的に説明する。
【0048】
本実施の形態に係る制御対象は、例えば、
図7に示す掃除ロボットのように、複数の制御ユニットが統合されたシステム(統合システム)として表される。
図8のフローチャートに示すように、本実施の形態に係る制御系の設計方法では、まず、機能目標設定ステップとして、各制御ユニットの機能目標を設定する(ステップS31)。
【0049】
図7に示すように、機能目標は、統合システムとしての理想動作モデルに基づいて、各ユニットの理想機能を設定することによって表される。また、機能目標は、各制御ユニットとして、適切なプラントモデルを作成可能な単位で設定される。したがって、複数段階の目標設定により各制御ユニットの機能目標が設定されることとしてもよい。
【0050】
より具体的には、統合システムとしての掃除ロボットの理想動作を実現するために、バッテリマネジメントユニット、走行制御ユニット等の理想機能が設定される。そして、バッテリマネジメントユニットを構成する制御ユニットとして、モニタリング・診断ユニット、回生ユニット等があり、制御ユニットごとに理想機能が設定される。制御ユニットであるモニタリング・診断ユニットは、プラントとしてのバッテリ等を含む。
【0051】
また、機能目標は、具体的には、システムの要求仕様に基づいて動特性を有する数理モデルとして設定される。数理モデルは、例えば、以下の式に示す伝達関数として表される。
【数4】
ただし、Kはゲイン、Tは時定数、nは任意定数である。
【0052】
続いて、選択ステップとして、各制御ユニットの設計方法が選択される。具体的には、統合システムから選択された1つの制御ユニットについて、設定された機能目標を、プラントモデルのみで達成可能か否か判定する(ステップS32)。プラントモデルの設計のみで達成できる場合(ステップS32のYES)、プラントモデルの設計を行う(ステップS33)。
【0053】
プラントモデルの設計のみでは機能目標を達成できない場合(ステップS32のNO)、プラント設計と固定制御器設計との組み合わせで、機能目標を達成可能か否か判定する(ステップS34)。プラントモデルと固定コントローラとの組み合わせで、機能目標を達成することができる場合(ステップS34のYES)、プラントモデルと固定コントローラとを設計する(ステップS35)。固定コントローラの種類は特に限定されないが、例えば、公知の方法で設計された線形時不変のPID制御器である。
【0054】
固定コントローラによって制御ユニットの機能目標を達成することが難しい場合(ステップS34のNO)、プラント設計及びデータベース駆動型制御器設計を行う(ステップS36)。ステップS36のデータベース駆動型制御器による制御ユニットの設計は、実施の形態1に係る制御系の設計方法によって行う。
【0055】
より具体的には、プラント設計ステップとして、制御ユニットに含まれるプラントモデルの基本設計及び適当な初期制御器パラメータを有する制御器を設計する。続いて、コントローラ設計ステップとして、コンピュータシミュレーションによって、入出力データを取得し、データセットΦ(t)を生成する。入出力データは、コンピュータシミュレーションによって取得するものに限られず、過去の操業データを用いることとしてもよい。そして、データセットΦ(t)が蓄積されたデータベースに基づいてプラントパラメータ及び制御パラメータを調整するデータベース駆動型制御器を設計する。
【0056】
以下、統合システム中の全ての制御ユニットの設計が完了するまで(ステップS37のNO)、各制御ユニットについて(ステップS38)、選択ステップを繰り返し、制御ユニットに係る制御系設計を行う。各制御ユニットの設計が終了すると(ステップS37のYES)、統合システム全体の制御系設計は終了する。
【0057】
本実施の形態では、各制御ユニットのうち、少なくとも1つの制御ユニットはデータベース駆動型制御器を用いた制御系として設計される。例えば、プラントの特性が経時的に変化する制御ユニットのうち、制御出力の変動が大きく、統合システムの制御性能に与える影響が大きいと考えられる制御ユニットについて、優先的にデータベース駆動型制御器を用いる。これにより、各制御ユニットの制御性能とともに、統合システム全体としての制御性能を向上させることができる。
【0058】
以上、説明したように、本実施の形態に係る制御系の設計方法によれば、各制御ユニットについて設定された機能目標に基づいて、制御ユニットごとに適切な制御系の設計方法が選択される。これにより、経時変化も考慮した高性能な制御が求められる制御ユニットについて、適切なデータベース駆動型制御器を設計するとともに、プラント設計のみで足りる制御ユニットの構成を簡素化することができる。したがって、効率的に、高性能な統合システムの制御系を設計することが可能である。