【解決手段】クレーン用荷振れ角度推定装置50は、吊り荷支持部又は吊り荷に装着された音波発信器105と、複数の音波受信器と、音波発信器105が発信した音波を各音波受信器が受信するタイミングの差である時間差を算出する時間差算出部51と、当該時間差及び各音波受信器の位置情報に基づき荷振れ角度を算出する荷振れ角算出部52とを備える。時間差算出部51は、各音波受信器により受信された音響信号に対して周波数変換を行って、各音波受信器の間における音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器の発信周波数とを用いて時間差を算出する。発信周波数をf、各音波受信器のサンプリング周波数及びサンプリングデータ数をfs及びNとすると、fは、n×fs/N(但しn=0,1,2,・・・,N−1)の少なくとも1つと等しく設定される。
前記荷振れ角算出部は、前記時間差算出部により算出された前記時間差に基づいて、前記音波発信器から前記複数の音波受信器のそれぞれまでの距離の差を算出し、当該距離の差と、前記複数の音波受信器の前記位置情報とに基づいて、前記荷振れ角度を算出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のクレーン用荷振れ角度推定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、視覚センサを利用した荷振れ角度測定には、荷振れ角度を画像として取得できる位置に視覚センサを配置しなければならないという制約があるうえに、導入やメンテナンスにもコストがかかってしまうという問題がある。
【0008】
また、GNSSによる吊り荷位置測定については、GNSSの利用可能地域に関する制約に加えて、都市部のビル等の狭間でクレーンによる作業が行われる場合に衛星測位が不十分となって測定精度が悪くなるという問題がある。また、電波による吊り荷位置測定についても法規制等の問題がある。
【0009】
また、非特許文献1に開示された方法では、2つのマイクロホンで取得された音響信号に対して相関計算を行うことによって、2つの音響信号の到来時間差を求めている。具体的には、マイクロホン1で取得される音響信号をs
1(t)、マイクロホン2で取得される音響信号をs
2(t)、マイクロホン1、2間の音響信号の遅れサンプル数をdとして、相関関数Φ(d)=Σs
1(t
k)・s
2(t
k+d)を最大にするdを算出する。これにより、2つのマイクロホンのサンプリング周期をTsとして、2つの音響信号の到来時間差Δτは、Δτ=d×Tsにより算出される。
【0010】
ところが、非特許文献1に開示された方法では、到来時間差Δτの算出精度がサンプリング周期Ts(つまりサンプリング周波数fs(=1/Ts))に依存するという問題がある。例えば、記録媒体であるCD等に用いられるサンプリング周波数(fs=44.1kHz)を用いた場合、距離の差に換算すると(つまり到来時間差Δτに音速を乗じると)、数mm程度の誤差が生じる。その結果、荷振れ角度にも、吊り荷の振れ幅に換算して、数十cm程度の計算誤差が生じてしまう。
【0011】
前記に鑑み、本発明は、クレーンの荷振れ角度を正確且つ低コストに求めることを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置は、吊り荷支持部と、吊り荷支持部を吊り下げる吊り下げ部と、吊り下げ部が取り付けられた支持部とを備えたクレーンに用いられる荷振れ角度推定装置であって、吊り荷支持部又は吊り荷支持部に支持された吊り荷に装着された音波発信器と、所定の方向に沿って配置された複数の音波受信器と、音波発信器が発信した音波を複数の音波受信器のそれぞれが受信するタイミングの差である時間差を算出する時間差算出部と、時間差算出部により算出された時間差、及び、複数の音波受信器の位置情報に基づいて、所定の方向における荷振れ角度を算出する荷振れ角算出部と、を備え、時間差算出部は、複数の音波受信器により受信された音響信号に対して周波数変換を行うことにより、複数の音波受信器の間における音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器の発信周波数とを用いて時間差を算出し、発信周波数をf、複数の音波受信器のサンプリング周波数及びサンプリングデータ数をfs及びNとすると、fは、n×fs/N(但しn=0,1,2,・・・,N−1)の少なくとも1つと等しく設定される。
【0013】
本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置によると、複数の音波受信器により受信された音響信号に対して周波数変換を行うことにより、各音波受信器間における音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器の発信周波数とを用いて、各音波受信器が音響信号を受信するタイミングの差である時間差を算出する。このため、各音波受信器のサンプリング周波数に依存することなく、時間差を算出できるので、算出精度を向上させることができる。
【0014】
また、音波発信器の発信周波数をf、各音波受信器のサンプリング周波数及びサンプリングデータ数をfs及びNとして、fは、n×fs/N(但しn=0,1,2,・・・,N−1)の少なくとも1つと等しく設定される。このため、周波数領域の離散点上に周波数成分(正弦波の発信周波数)を持つ音波が音波発信器から発信されるため、音響信号の位相差の算出誤差が低減されるので。時間差の算出精度をさらに向上させることができる。従って、算出された時間差を用いて、荷振れ角度を高精度で算出可能となる。
【0015】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置によると、吊り荷支持部又は吊り荷に装着された音波発信器を用いて荷振れ角度推定を行うため、地形的制約や法規制等の制約を受けにくい。また、音波受信器として指向性マイク等を用いれば、騒音等の周囲環境の影響も受けにくくなる。さらに、音波受信器として例えば指向性マイクを用いたとしても、従来の視覚センサを用いた場合と比較して、低コストで荷振れ角度を算出することができる。
【0016】
以上のように、本発明に係る音波発信器を含むクレーン用荷振れ角度推定装置によると、クレーンの荷振れ角度を正確且つ低コストで算出することができる。
【0017】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、周波数変換は、フーリエ変換であってもよい。このようにすると、各音波受信器に受信される音響信号の位相差を確実に算出することができる。この場合、フーリエ変換が、高速フーリエ変換であると、音響信号の位相差を迅速に算出することができる。
【0018】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、荷振れ角算出部は、時間差算出部により算出された時間差に基づいて、音波発信器から複数の音波受信器のそれぞれまでの距離の差を算出し、当該距離の差と、複数の音波受信器の位置情報とに基づいて、荷振れ角度を算出してもよい。このようにすると、余弦定理を用いて荷振れ角度を算術的に算出できるので、荷振れ角度を迅速且つ簡単に算出することができる。ここで、音波受信器が3つ以上あれば、音波発信器から各音波受信器までの距離に関して差分が2つ以上得られるので、「ワイヤー等の吊り下げ部の支持点から音波発信器までの距離」が既知でなくても、例えばニュートン法を用いるような複雑な計算を行うことなく、荷振れ角度を算出することができる。
【0019】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、複数の音波受信器は、第1音波受信器、第2音波受信器及び第3音波受信器を含み、時間差算出部は、音波発信器が発信した音波を第1音波受信器が受信するタイミングと当該音波を第2音波受信器が受信するタイミングとの差である第1時間差Δτ
1、及び、当該音波を第1音波受信器又は第2音波受信器が受信するタイミングと当該音波を第3音波受信器が受信するタイミングとの差である第2時間差Δτ
2を算出し、荷振れ角算出部は、音波発信器から第1音波受信器までの距離と音波発信器から第2音波受信器までの距離との差である第1距離差ΔD1を荷振れ角度をパラメータθとする第1関数F1(θ)で表すと共に、音波発信器から第1音波受信器又は第2音波受信器までの距離と音波発信器から第3音波受信器までの距離との差である第2距離差ΔD2を荷振れ角度をパラメータθとする第2関数F2(θ)で表し、音波の音速を未知数Vとして、第1距離差ΔD1について成り立つ音速V×第1時間差Δτ
1=第1関数F1(θ)、及び、第2距離差ΔD2について成り立つ音速V×第2時間差Δτ
2=第2関数F2(θ)を用いて、荷振れ角度を算出してもよい。このようにすると、音速測定の必要なく、荷振れ角度を算出できるため、迅速且つ正確に荷振れ角度を求めることができる。ここで、荷振れ角度と共に音波の音速も算出可能である。また、音速の算出のために温度や風速等の環境条件の計測を行う必要がないため、温度計や風速計等の計測器が不要となるので、さらなる低コスト化を達成できる。また、荷振れ角度の算出には、複数の音波到来時間差に基づいて非線形方程式を解く必要があるが、この非線形方程式は、陽に解くことができないので、例えばニュートン法や二分法をはじめとする繰り返し計算等を利用して、荷振れ角度を算出してもよい。この場合、非線形関数は微分可能であるので、勾配関数(勾配ベクトル)を積極的に利用することにより、演算の高速化を図ることもできる。
【0020】
尚、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、音波受信器は4つ以上配置されていてもよい。このようにすると、故障に対する冗長性が得られるのみならず、4つ以上の音波受信器の中から選択される2つ又は3つの音波受信器の組み合わせが複数存在するので、組み合わせ毎に荷振れ角度を算出し、その平均や多数決を取ること等によって、得られる荷振れ角度の精度を向上させることができる。
【0021】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、音波発信器は、可聴帯域又は超音波等の非可聴帯域の音波を発信してもよい。特に、音波発信器が可聴帯域の音波を発信すると、周辺の人間に吊り荷又は吊り荷支持部の接近を知らせて安全性を確保することができる。
【0022】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、音波発信器は、オン/オフをリモートで制御可能であってもよい。このようにすると、荷振れ角度推定が必要なときのみ、音波を発信することができるので、騒音対策になる。
【0023】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、複数の音波受信器は、指向性を有していてもよい。このようにすると、周囲の騒音の影響を受けにくい状態で荷振れ角度を推定することができる。
【0024】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、各音波受信器は、例えばジブクレーンのジブや本体部等、クレーン自体に取り付けてもよいし、或いは、天井クレーンのような固定クレーンであれば、音波受信器の一部をクレーン外部の所定位置に設置してもよい。また、「所定の方向に沿って音波受信器が配置される」とは、ジブクレーンであれば、例えば、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に沿って各音波受信器が配置されることを意味し、必ずしも、全ての音波受信器が3次元における同一直線上に配置されることまでは必要としない。言い換えると、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に沿って全ての音波受信器が配置されていれば、クレーンを横(「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向)から見たときに各音波受信器が同一直線上に配置されていなくてもよい。
【0025】
特に、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、クレーンが、支持部であるジブと、ジブを支持する本体部とを備えるジブクレーンであり、複数の音波受信器が、ジブに配置されると、ジブクレーンにおいて、「ジブ」の延びる方向に沿った荷振れ角度を推定できる。従って、得られた荷振れ角度に基づいてジブの起伏角を制御することにより、荷振れの発生を防止することができる。例えば、地切りの前に、得られた荷振れ角度に基づいてジブの起伏角を制御することにより、ジブ先端と吊り荷重心とを鉛直線上に位置合わせしておけば、地切りの際に荷振れが発生することを防止することができる。
【0026】
尚、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、所定の方向(以下、第1の方向ということもある)に対して垂直な第2の方向に沿って複数の他の音波受信器を配置し、当該他の音波受信器に対応して、前述の時間差算出部及び荷振れ角算出部をそれぞれ設けてもよい。このようにすると、第2の方向における荷振れ角度を算出できるので、吊り荷の正確な位置を立体的に把握することができる。
【0027】
ここで、「第1の方向に対して垂直な第2の方向に沿って他の音波受信器が配置される」とは、ジブクレーンであれば、例えば、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向に沿って他の音波受信器が配置されることを意味し、必ずしも、全ての他の音波受信器が3次元における同一直線上に配置されることまでは必要としない。言い換えると、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向に沿って全ての他の音波受信器が配置されていれば、クレーンを正面(「ジブ」の延びる方向)から見たときに全ての他の音波受信器が同一直線上に配置されていなくてもよい。
【0028】
また、「第1の方向に沿って配置された複数の音波受信器」のうちの1つの音波受信器と、「第2の方向に沿って配置された複数の他の音波受信器」のうちの1つの音波受信器とは、第1の方向と第2の方向とが交差する箇所に配置された共通の音波受信器であってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、クレーンの荷振れ角度を正確且つ低コストで推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施形態1)
以下、実施形態1に係るクレーン用荷振れ角度推定装置について、図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置によってジブクレーンの荷振れ角度を推定している様子の一例を示す図である。
図1に示すジブクレーンは、吊り荷1の支持部(吊り荷1と一体的に図示)と、当該支持部を吊り下げるワイヤー2と、ワイヤー2が一端Qに取り付けられたジブ3と、ジブ3の他端Oを支持する本体部10とを備えている。吊り荷1は、位置Pに重心を有する。ワイヤー2は、例えばシーブ(図示省略)を介して巻上げ/巻下げ可能にジブ3の一端Qに取り付けられている。
【0033】
本実施形態では、ジブ3は起伏角(ジブ3の延びる方向が地平面となす角度)φで持ち上げられている。吊り荷1は、ジブ3の延びる方向に沿って荷振れを生じており、荷振れ角度はθである。荷振れ角度θは、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線が鉛直方向(重力方向)となす角度であり、本実施形態での推定対象である。
【0034】
図2は、
図1に示すジブクレーンの吊り荷支持部に音波発信器が装着される様子の一例を示す図である。
図2に示すように、吊り荷1を支持する吊り荷支持部101は、ワイヤー2の先端(下端)に取り付けられた吊り具102と、吊り具102に可動接合されたフック103と、フック103により支持され且つ吊り荷1に掛け渡されるロープ104とを有する。
【0035】
本実施形態では、例えば、音波発信器105が吊り具102に装着される。但し、音波発信器105は、フック103又は吊り荷1に装着されてもよい。音波発信器105を用いることにより、音波発信に指向性を持たせることが可能となる。このため、吊り荷1や吊り荷支持部101で自然発生する音を用いる場合と比べて、周囲の騒音の影響を受けにくい状態で荷振れ角度推定を行うことができる。音波発信器105は、可聴帯域又は超音波等の非可聴帯域の音波を発信してもよいが、音波発信器105が可聴帯域の音波を発信すると、周辺の人間に吊り荷1又は吊り荷支持部101の接近を知らせて安全性を確保することができる。また、音波発信器105のオン/オフをリモートで制御できると、荷振れ角度推定が必要なときのみ、音波を発信することができるので、騒音対策になる。
【0036】
尚、本実施形態の荷振れ角度θの算出において、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線上であれば、音波発信器105の配置位置は特に限定されない。
【0037】
図3は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置のブロック図である。
図3に示すように、クレーン用荷振れ角度推定装置50は、音波発信器105と、複数の音波受信器(本実施形態では2つの音波受信器M1、M2)と、時間差算出部51と、荷振れ角算出部52とを備える。
【0038】
音波受信器M1、M2は、本実施形態ではジブ3に互いに離間して配置される。具体的には、
図1に示すように、ジブ3の一端Qに音波受信器M1、音波受信器M1から距離X1離れた箇所に音波受信器M2がそれぞれ配置される。ここで、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1、M2のそれぞれまでの距離は、L、L+ΔD1である。音波受信器M1、M2としては、一般的なマイクロホンが使用可能であるが、集音器等の指向性を持つ音波受信器を使用すると、騒音等の周囲環境の影響を受けにくくなる。
【0039】
以下、簡単のため、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50で用いられる音波発信器105が吊り荷1の重心位置Pにあるものとして、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50による荷振れ角度推定方法について説明する。尚、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線上に音波発信器105があれば、以下の方法によって得られる荷振れ角度θは同じになる。
【0040】
まず、音波発信器105から発生した音を音波受信器M1、M2で受信する。ここで、
図1に示すように、時刻T=tに音波発信器105から所定の音波が発信され、当該音波を音波受信器M1、M2がそれぞれ時刻T=t+τ
1、T=t+τ
2に受信したものとする。すなわち、音波受信器M1、M2が音波を受信する遅れ時間はそれぞれτ
1、τ
2であり、時間差算出部51は、音波受信器M1が音を受信したタイミング(T=t+τ
1)と、音波受信器M2が音を受信したタイミング(T=t+τ
2)との差である時間差Δτ(=τ
2−τ
1)を算出する。
【0041】
時間差Δτの算出は、非特許文献1に開示された方法では、2つの音波受信器における受信音響信号の相関関数を用いて行われた。
【0042】
それに対して、本実施形態の時間差算出部51では、音波受信器M1、M2の受信音響信号に対して周波数変換を行うことにより、音波受信器M1、M2の間における受信音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器105の発信周波数とを用いて、時間差Δτを算出する。
【0043】
具体的には、音波受信器M1、M2の受信音響信号をそれぞれs
1(t)、s
2(t)とすると、例えば、時間tにおいて音波発信器105の発信周波数がf
k(但しk=1、2、・・・、K)のときの受信音響信号s
1(t)、s
2(t)は、正弦波K個の重ね合わせとして、
s
1(t)=Σa1
k・sin(2πf
k(t+τ
1)) ・・・(1)
s
2(t)=Σa2
k・sin(2πf
k(t+τ
2)) ・・・(2)
と表すことができる。ここで、Σは、kについて1からKまでの総和を取ることを意味し、また、a1
k、a2
kは係数(振幅)である。また、式(1)、式(2)は、
s
1(t)=Σa1
k・sin(2πf
kt+θ
1(f
k)) ・・・(3)
s
2(t)=Σa2
k・sin(2πf
kt+θ
2(f
k)) ・・・(4)
と表すことができる。式(3)、式(4)において、θ
1(f
k)は、周波数f
kのときのs
1(t)の位相2πf
kτ
1であり、θ
2(f
k)は、周波数f
kのときのs
2(t)の位相2πf
kτ
2である。
【0044】
従って、時間差Δτは、
Δτ=τ
2−τ
1=(1/2πf
k)・(θ
2(f
k)−θ
1(f
k)) ・・・(5)
と表すことができる。これにより、s
1(t)、s
2(t)のそれぞれの位相θ
1(f
k)、θ
2(f
k)が分かれば、言い換えると、s
1(t)、s
2(t)の位相差Δθ(f
k)(=θ
2(f
k)−θ
1(f
k))が分かれば、時間差Δτを算出することができる。
【0045】
そこで、本実施形態では、s
1(t)、s
2(t)に対して、例えば高速フーリエ変換(FFT)等の周波数変換を行う。s
1(t)、s
2(t)をフーリエ変換したものをそれぞれS
1(f
k)、S
2(f
k)とすると、
S
1(f
k)=A1(f
k)・e
B1 ・・・(6)
S
2(f
k)=A2(f
k)・e
B2 ・・・(7)
と表すことができる。ここで、A1、A2は係数(振幅)であり、B1、B2は、それぞれ、jθ
1(f
k)、jθ
2(f
k)である。但し、eはネイピア数、jは虚数単位(j
2=−1)である。
【0046】
以上のように、s
1(t)、s
2(t)に対して周波数変換を行うことにより、位相θ
1(f
k)、θ
2(f
k)、つまり、位相差Δθ(f
k)(=θ
2(f
k)−θ
1(f
k))が求まるので、式(5)を用いて時間差Δτを算出することができる。
【0047】
次に、本実施形態の荷振れ角算出部52において、時間差Δτに基づいて、音波発信器105から音波受信器M1、M2のそれぞれまでの距離の差分ΔDを算出する。具体的には、音波発信器105が吊り荷1の重心位置Pにあるとした場合、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1までの距離Lと、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M2までの距離L+ΔDとの差分(距離差)ΔDを算出する。距離差ΔDの算出は、例えば、時間差Δτに音速を乗じることにより行ってもよい。
【0048】
次に、荷振れ角算出部52は、算出された距離差ΔD、及び、音波受信器M1、M2のそれぞれの位置情報(音波受信器M1と音波受信器M2との距離X1等)に基づいて、ジブ3の延びる方向に沿った荷振れ角度θを算出する。
【0049】
以下、距離X1、距離差ΔD、ジブ3の起伏角φ、及び、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1までの距離Lが既知であるとして、荷振れ角度θを算出する方法について説明する(
図1参照)。
【0050】
△M1M2Pに余弦定理を用いると、下記の式
(L+ΔD)
2=L
2+X1
2−2L・X1・cos(π/2+θ−φ)
=L
2+X1
2+2L・X1・sin(θ−φ)
が得られる。
【0051】
従って、荷振れ角度θに関し下記の式
sin(θ−φ)=(2L・ΔD+ΔD
2−X1
2)/2L・X1
が得られるので、逆三角関数を適用して荷振れ角度θ(但し−π/2<θ<π/2)を算出することができる。
【0052】
荷振れ角度θが得られれば、当該荷振れ角度θに基づいてジブ3の起伏角φを制御することにより、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせすることができるので、荷振れの発生を防止することができる。例えば、地切りの前に、荷振れ角度θに基づいてジブ3の起伏角φを制御することにより、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせしておけば、地切りの際に荷振れが発生することを防止することができる。
【0053】
以上に説明したように、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50によると、複数の音波受信器M1、M2により受信された音響信号に対して周波数変換を行うことにより、各音波受信器間M1、M2における音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器105の発信周波数とを用いて、各音波受信器M1、M2が音響信号を受信するタイミングの差である時間差Δτを算出する。このため、各音波受信器M1、M2のサンプリング周波数に依存することなく、時間差Δτが算出されるので、算出精度を向上させることができる。従って、算出された時間差Δτを用いて、荷振れ角度θを高精度で算出することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50によると、吊り荷支持部101又は吊り荷1に装着された音波発信器105を用いて荷振れ角度推定を行うため、地形的制約や法規制等の制約を受けにくい。また、音波受信器105として指向性マイク等を用いれば、騒音等の周囲環境の影響も受けにくくなる。さらに、音波受信器105として例えば指向性マイクを用いたとしても、従来の視覚センサを用いた場合と比較して、低コストで荷振れ角度θを算出することができる。
【0055】
以上のように、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50によると、クレーンの荷振れ角度θを正確且つ低コストで算出することができる。
【0056】
また、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50において、音波発信器105の発信周波数をf、各音波受信器M1、M2のサンプリング周波数及びサンプリングデータ数をfs及びNとして、fは、n×fs/N(但しn=0,1,2,・・・,N−1)の少なくとも1つと等しく設定される。このため、周波数領域の離散点上に周波数成分を持つ音波が音波発信器105から発信されるため、音響信号の位相差の算出誤差が低減されるので、時間差Δτの算出精度をさらに向上させ、それにより、荷振れ角度θをより正確に算出することができる。
【0057】
図4は、比較例として、サンプリング周波数fs及びサンプリングデータ数Nとは関係なく音波発信器105の発信周波数fが1000Hzに設定された音響信号s(t)(=sin(2πft+φ):φは位相)、及び、s(t)を周波数変換(FFT)した結果を示す図である。
図5に示す場合、サンプリング周波数fs又はデータ数Nの値によっては周波数領域で所望の離散点上に周波数成分を取れないため、音響信号の位相差の算出結果に誤差が生じる。
【0058】
図5は、本実施形態において音波発信器105の発信周波数fをn×fs/Nに等しく設定した音響信号s(t)(=sin(2π・(n・fs/N)・t+φ):φは位相)、及び、s(t)を周波数変換(FFT)した結果を示す図である。
図5に示す場合、周波数領域で離散点上に周波数成分を持つ音波が音波発信器105から発信されるため、音響信号の位相差の算出精度が向上する。
【0059】
図6は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50における音波受信器M1、M2で取得される音響信号s
1(t)、s
2(t)の波形の一例を示す図である。
図6に示す場合、各音波受信器M1、M2のサンプリング周波数fs及びサンプリングデータ数Nはそれぞれ44100(Hz)、2
13(個)であり、発信周波数fは186×fs/N=1001.2939(Hz)に設定され、s
1(t)=sin(2πft)、s
2(t)=0.7×sin(2πf(t+τ))である。ここで、簡単のため、s
1(t)の遅れ時間を0、s
2(t)の遅れ時間をτとしている。尚、各係数(振幅)の値は、フーリエ変換により得られる位相差の値には影響しない。
【0060】
図6に示すs
1(t)、s
2(t)に対してFFTを行って時間差(つまりs
2(t)の遅れ時間τ)を算出すると、真値1.0×10
-4(秒)に対して1.0000×10
-4(秒)が得られ、真値との誤差は1.0164×10
-17(秒)であった。
【0061】
それに対して、
図6に示すs
1(t)、s
2(t)に対して、非特許文献1に開示された時間領域での相関計算を行って時間差を算出すると、9.0703×10
-5(秒)が得られ、真値との誤差は9.2971×10
-6(秒)と本実施形態よりも11桁ほど大きかった。
【0062】
また、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50において、音波受信器M1、M2により受信された音響信号に対する周波数変換にフーリエ変換を用いるため、各音波受信器M1、M2に受信される音響信号の位相差を確実に算出できる。この場合、フーリエ変換が高速フーリエ変換であると、音響信号の位相差を迅速に算出できる。
【0063】
また、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50において、荷振れ角算出部52は、時間差算出部51により算出された時間差に基づいて、音波発信器105から音波受信器M1、M2のそれぞれまでの距離の差ΔDを算出し、当該距離の差ΔDと、音波受信器M1、M2の位置情報とに基づいて、荷振れ角度θを算出する。このため、余弦定理を用いて荷振れ角度θを算術的に算出できるので、荷振れ角度θを迅速且つ簡単に算出することができる。
【0064】
尚、本実施形態において、クレーン用荷振れ角度推定装置50のうち時間差算出部51及び荷振れ角度算出部52は、例えば、クレーン(本体部10)の運転室内に制御装置(専用装置又は既存装置の一部)として搭載されてもよい。当該制御装置は、コンピュータを備えており、当該コンピュータがプログラムを実行することによって、時間差算出部51及び荷振れ角度算出部52の各機能が実施される。コンピュータは、プログラムに従って動作するプロセッサ、プログラムの実行に必要なデータ(音波受信器M1、M2の位置情報等)を記憶するメモリ等を主なハードウェア構成として備える。プロセッサは、プログラムを実行することによって機能を実現することができれば、その種類は問わないが、例えば半導体集積回路(IC)又はLSI(large scale integration)を含む一つ又は複数の電子回路により構成されていてもよい。プログラムやデータは、コンピュータが読み取り可能なROM、光ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録される。プログラムやデータは、記録媒体に予め格納されていてもよいし、インターネット等を含む広域通信網を介して記録媒体に供給されてもよい。
【0065】
(実施形態1の変形例1)
前述の実施形態1では、クレーン用荷振れ角度推定装置50における音波受信器M1、M2で取得される音響信号s
1(t)、s
2(t)は、単一の発信周波数fを含む信号(式(1)〜(4)でK=1とした場合)であった。
【0066】
それに対して、本変形例では、音波受信器M1、M2で取得される音響信号s
1(t)、s
2(t)は、複数の発信周波数fを含む信号である。
【0067】
図7は、本変形例のクレーン用荷振れ角度推定装置50における音波受信器M1、M2で取得される音響信号s
1(t)、s
2(t)の波形の一例を示す図である。
図7に示す場合、各音波受信器M1、M2のサンプリング周波数fs及びサンプリングデータ数Nはそれぞれ44100(Hz)、2
13(個)であり、s
1(t)、s
2(t)は3つの正弦波の重ね合わせ(式(1)〜(4)でK=3とした場合)であり、第1発信周波数f
1は93×fs/N=500.647(Hz)、第2発信周波数f
2は186×fs/N=1001.294(Hz)、第3発信周波数f
3は372×fs/N=2002.587(Hz)に設定され、s
1(t)=1+sin(2πf
1t)+sin(2πf
2t)+sin(2πf
3t)、s
2(t)=0.7+0.7×sin(2πf
1(t+τ))+0.7×sin(2πf
2(t+τ))+0.7×sin(2πf
3(t+τ))である。ここで、簡単のため、s
1(t)の遅れ時間を0、s
2(t)の遅れ時間をτとしている。尚、各係数(振幅)の値は、フーリエ変換により得られる位相差の値には影響しない。
【0068】
図7に示すs
1(t)、s
2(t)に対してFFTを行って時間差(つまりs
2(t)の遅れ時間τ)を算出すると、真値1.0×10
-4(秒)に対して、第1発信周波数f
1(約500Hz)では1.0000×10
-4(秒)が得られ、真値との誤差は1.6606×10
-16(秒)であり、第2発信周波数f
2(約1000Hz)では1.0000×10
-4(秒)が得られ、真値との誤差は7.2072×10
-17(秒)であり、第3発信周波数f
3(約2000Hz)では1.0000×10
-4(秒)が得られ、真値との誤差は2.2334×10
-17(秒)であった。
【0069】
それに対して、
図7に示すs
1(t)、s
2(t)に対して、非特許文献1に開示された時間領域での相関計算を行って時間差を算出すると、9.0703×10
-5(秒)が得られ、真値との誤差は9.2971×10
-6(秒)と本変形例よりも10〜11桁ほど大きかった。
【0070】
以上のように、本変形例によると、前述の実施形態1と同様の効果に加えて、次のような効果を得ることができる。すなわち、音波受信器M1、M2で取得される音響信号s
1(t)、s
2(t)は、複数の発信周波数fを含む信号であるため、時間差の算出において雑音等の影響を受けにくくなる。尚、原理的には発信周波数fの数が多いほど、時間差の算出において雑音等の影響を受けにくくなる一方、発信周波数fの数が多くなると、音波発信器105での消費電力が増大するので、実用的には、数個程度の発信周波数fを含む音響信号を用いることが好ましい。
【0071】
(実施形態1の変形例2)
本変形例では、前述の実施形態1と同様に、クレーン用荷振れ角度推定装置50における音波受信器M1、M2で取得される音響信号s
1(t)、s
2(t)は、単一の発信周波数fを含む信号であるが、サンプリング周波数fsを前述の実施形態1よりも小さくした。具体的には、各音波受信器M1、M2のサンプリング周波数fs及びサンプリングデータ数Nはそれぞれ8000(Hz)、2
13(個)であり、発信周波数fは1024×fs/N=1000.000(Hz)に設定され、s
1(t)=sin(2πft)、s
2(t)=0.7×sin(2πf(t+τ))である。ここで、簡単のため、s
1(t)の遅れ時間を0、s
2(t)の遅れ時間をτとしている。尚、各係数(振幅)の値は、フーリエ変換により得られる位相差の値には影響しない。
【0072】
前述のs
1(t)、s
2(t)に対してFFTを行って時間差(つまりs
2(t)の遅れ時間τ)を算出すると、真値1.0×10
-4(秒)に対して1.0000×10
-4(秒)が得られ、真値との誤差は1.9109×10
-18(秒)であった。
【0073】
それに対して、前述のs
1(t)、s
2(t)に対して、非特許文献1に開示された時間領域での相関計算を行って時間差を算出すると、1.2500×10
-4(秒)が得られ、真値との誤差は2.5000×10
-5(秒)と本変形例よりも13桁ほど大きかった。
【0074】
以上のように、本変形例によると、サンプリング周波数fsを小さくしても、前述の実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0075】
(実施形態1の変形例3)
本変形例では、前述の実施形態1と同様に、クレーン用荷振れ角度推定装置50における音波受信器M1、M2で取得される音響信号s
1(t)、s
2(t)は、単一の発信周波数fを含む信号であるが、サンプリングデータ数Nを前述の実施形態1よりも小さくした。具体的には、各音波受信器M1、M2のサンプリング周波数fs及びサンプリングデータ数Nはそれぞれ44100(Hz)、2
11(個)であり、発信周波数fは47×fs/N=1012.0605(Hz)に設定され、s
1(t)=sin(2πft)、s
2(t)=0.7×sin(2πf(t+τ))である。ここで、簡単のため、s
1(t)の遅れ時間を0、s
2(t)の遅れ時間をτとしている。尚、各係数(振幅)の値は、フーリエ変換により得られる位相差の値には影響しない。
【0076】
前述のs
1(t)、s
2(t)に対してFFTを行って時間差(つまりs
2(t)の遅れ時間τ)を算出すると、真値1.0×10
-4(秒)に対して1.0000×10
-4(秒)が得られ、真値との誤差は2.4665×10
-18(秒)であった。
【0077】
それに対して、前述のs
1(t)、s
2(t)に対して、非特許文献1に開示された時間領域での相関計算を行って時間差を算出すると、9.0703×10
-5(秒)が得られ、真値との誤差は9.2971×10
-6(秒)と本変形例よりも12桁ほど大きかった。
【0078】
以上のように、本変形例によると、サンプリングデータ数Nを小さくしても、前述の実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0079】
(実施形態2)
以下、実施形態2に係るクレーン用荷振れ角度推定装置について、図面を参照しながら説明する。
【0080】
図8は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置によってジブクレーンの荷振れ角度を推定している様子の一例を示す図である。尚、
図8において、
図1に示す実施形態1と同じ構成要素には同じ符号を付す。
【0081】
本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50が、
図3に示す実施形態1のクレーン用荷振れ角度推定装置50と異なっている点は、複数の音波受信器として、3つの音波受信器M1、M2、M3を備えていることである。
【0082】
音波受信器M1、M2、M3は、本実施形態ではジブ3に互いに離間して配置される。具体的には、
図8に示すように、ジブ3の一端Qに音波受信器M1、音波受信器M1から距離X1離れた箇所に音波受信器M2、音波受信器M2から距離X2離れた箇所に音波受信器M3がそれぞれ配置される。ここで、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1、M2、M3のそれぞれまでの距離は、L、L+ΔD1、L+D2である。音波受信器M1、M2、M3としては、一般的なマイクロホンが使用可能であるが、集音器等の指向性を持つ音波受信器を使用すると、騒音等の周囲環境の影響を受けにくくなる。
【0083】
以下、簡単のため、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50で用いられる音波発信器105が吊り荷1の重心位置Pにあるものとして、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50による荷振れ角度推定方法について説明する。尚、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線上に音波発信器105があれば、以下の方法によって得られる荷振れ角度θは同じになる。
【0084】
まず、音波発信器105から発生した音を音波受信器M1、M2、M3で受信する。ここで、
図8に示すように、時刻T=tに音波発信器105から所定の音波が発信され、当該音波を音波受信器M1、M2、M3がそれぞれ時刻T=t+τ
1、T=t+τ
2、T=t+τ
3に受信したものとする。すなわち、音波受信器M1、M2、M3が音波を受信する遅れ時間はそれぞれτ
1、τ
2、τ
3であり、時間差算出部51は、音波受信器M1が音波を受信したタイミング(T=t+τ
1)と音波受信器M2が音波を受信したタイミング(T=t+τ
2)との差である第1時間差Δτ
1(=τ
2−τ
1)、及び、音波受信器M1が音波を受信したタイミング(T=t+τ
1)と音波受信器M3が音波を受信したタイミング(T=t+τ
3)との差である第2時間差Δτ
2(=τ
3−τ
1)を算出する。尚、時間差算出部51は、第2時間差Δτ
2として、音波受信器M2が音波を受信したタイミング(T=t+τ
2)と音波受信器M3が音波を受信したタイミング(T=t+τ
3)との差「τ
3−τ
2」を算出してもよい。
【0085】
次に、時間差算出部51は、実施形態1(特に式(1)〜(7)参照)と同様に、音波受信器M1、M2、M3の受信音響信号に対して周波数変換、具体的には高速フーリエ変換を行う。これにより、音波受信器M1、M2の間における受信音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器105の発信周波数とを用いて、時間差Δτ
1を算出すると共に、音波受信器M1、M3の間における受信音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器105の発信周波数とを用いて、時間差Δτ
2を算出する。
【0086】
次に、本実施形態の荷振れ角算出部52において、時間差Δτ
1に基づいて、音波発信器105から音波受信器M1、M2のそれぞれまでの距離の差分ΔD1を算出すると共に、時間差Δτ
2に基づいて、音波発信器105から音波受信器M1、M3のそれぞれまでの距離の差分ΔD2を算出する。具体的には、音波発信器105が吊り荷1の重心位置Pにあるとした場合、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1までの距離Lと、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M2までの距離L+ΔD1との差分(第1距離差)ΔD1を算出すると共に、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1までの距離Lと、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M3までの距離L+ΔD2との差分(第2距離差)ΔD2を算出する。ここで、距離差ΔD1、ΔD2の算出は、例えば、時間差Δτ
1、Δτ
2にそれぞれ音速を乗じることにより行ってもよい。尚、荷振れ角算出部52は、第2距離差として、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M2までの距離L+ΔD1と、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M3までの距離L+ΔD2との差分「ΔD2−ΔD1」を算出してもよい。
【0087】
次に、荷振れ角算出部52は、算出された距離差ΔD1、ΔD2、及び、音波受信器M1、M2、M3のそれぞれの位置情報(音波受信器M1と音波受信器M2との距離X1、音波受信器M2と音波受信器M3との距離X2等)に基づいて、ジブ3の延びる方向に沿った荷振れ角度θを算出する。
【0088】
以下、距離X1、X2、距離差ΔD1、ΔD2、及び、ジブ3の起伏角φが既知であるとして、荷振れ角度θを算出する方法について説明する(
図8参照)。尚、本実施形態では、ワイヤー2にはたるみが生じており、その結果、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1までの距離Lは未知であるとする。
【0089】
△M2M1P、△M3M1Pに余弦定理を用いると、下記の二式
(L+ΔD1)
2=L
2+X1
2−2L・X1・cos(π/2+θ−φ)
=L
2+X1
2+2L・X1・sin(θ−φ)
(L+ΔD2)
2 =L
2 +(X1+X2)
2−2L・(X1+X2)・cos(π/2+θ−φ)=L
2+(X1+X2)
2+2L・(X1+X2)・sin(θ−φ)
が得られる。これらより、距離Lに関し、下記の二式
L=(X1
2−ΔD1
2)/(2ΔD1−2X1・sin(θ−φ))
L=((X1+X2)
2−ΔD2
2)/(2ΔD2−2(X1+X2)・sin(θ−φ))
が得られる。従って、距離Lを消去すれば、荷振れ角度θに関し下記の式
sin(θ−φ)=(X1
2・ΔD2−(X1+X2)
2・ΔD1−ΔD1・ΔD2・(ΔD1−ΔD2))/(X1・ΔD2
2−X1・X2・(X1+X2)−(X1+X2)・ΔD1
2)
が得られるので、逆三角関数を適用して荷振れ角度θ(但し−π/2<θ<π/2)を算出することができる。
【0090】
荷振れ角度θが得られれば、当該荷振れ角度θに基づいてジブ3の起伏角φを制御することにより、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせすることができるので、荷振れの発生を防止することができる。例えば、地切りの前に、荷振れ角度θに基づいてジブ3の起伏角φを制御することにより、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせしておけば、地切りの際に荷振れが発生することを防止することができる。
【0091】
以上に説明したように、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50によると、前述の実施形態1と同様の効果を得ることができる。また、3つの音波受信器M1、M2、M3を用いるため、音波発信器105から各音波受信器M1、M2、M3までの距離に関して差分が2つ得られるので、「ワイヤー等の吊り下げ部2の支持点Q(本実施形態では音波受信器M1)から音波発信器105(本実施形態では吊り荷1の重心位置P)までの距離」が既知でなくても、例えばニュートン法を用いるような複雑な計算を行うことなく、荷振れ角度を算出することができる。
【0092】
尚、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50において、音波受信器は4つ以上配置されていてもよい。このようにすると、故障に対する冗長性が得られるのみならず、4つ以上の音波受信器の中から選択される2つ又は3つの音波受信器の組み合わせが複数存在するので、組み合わせ毎に荷振れ角度を算出し、その平均や多数決を取ること等によって、得られる荷振れ角度の精度を向上させることができる。
【0093】
(実施形態2の変形例)
前述の実施形態2においては、荷振れ角算出部52は、時間差算出部51により算出された時間差Δτ
1(=τ
2−τ
1)、Δτ
2(=τ
3−τ
1)にそれぞれ音速を乗じることにより、距離差ΔD1、ΔD2を算出した(
図8参照)。
【0094】
それに対して、本変形例では、以下に説明する方法によって距離差ΔD1、ΔD2を算出する。第2の実施形態と同様に、時間差算出部51が時間差Δτ
1、Δτ
2を算出した後、本変形例の荷振れ角算出部52は、音波発信器105(本変形例では吊り荷1の重心位置P)から音波受信器M1(本変形例ではワイヤー2の取り付け位置であるジブ3の一端Q)までの距離(L)と音波発信器105から音波受信器M2までの距離(L+ΔD1)との差である第1距離差ΔD1を、荷振れ角度θをパラメータとする第1関数F1(θ)で表すと共に、音波発信器105から音波受信器M1までの距離(L)と音波発信器105から音波受信器M3までの距離(L+ΔD2)との差である第2距離差ΔD2を、荷振れ角度θをパラメータとする第2関数F2(θ)で表す。尚、荷振れ角算出部52は、音波発信器105から音波受信器M2までの距離(L+ΔD1)と音波発信器105から音波受信器M3までの距離(L+ΔD2)との差「ΔD2−ΔD1」を第2距離差として、荷振れ角度θをパラメータとする第2関数F2(θ)で表してもよい。
【0095】
ここで、距離X1、X2は固定で予め既知であり、ジブ3の起伏角φ、距離L(ワイヤー2の繰り出し長さ)もクレーンの操作情報として特定可能であるとして、
図8に示す△M2M1P、△M3M1Pに余弦定理を用いると、F1(θ)、F2(θ)はそれぞれ、
ΔD1=(L
2+X1
2+2L・X1・sin(θ−φ))
0.5−L=F1(θ)
ΔD2=(L
2+(X1+X2)
2+2L・(X1+X2)・sin(θ−φ))
0.5−L=F2(θ)
と表される。
【0096】
次に、荷振れ角度算出部52は、音波発信器105で発生した音の音速を未知数Vとして、第1距離差ΔD1について成り立つ「ΔD1=V×ΔT1=F1(θ)」、及び、第2距離差ΔD2について成り立つ「ΔD2=V×ΔT2=F2(θ)」を用いて、荷振れ角度θを算出する。すなわち、荷振れ角度θ及び音速Vを未知数とする2つの連立方程式を解くことによって、荷振れ角度θ及び音速Vを求めることが可能である。ここで、F1(θ)、F2(θ)は非線形であるので、例えばニュートン法や二分法をはじめとする繰り返し計算等を利用して、荷振れ角度θを算出してもよい。この場合、非線形関数は微分可能であるので、勾配関数(勾配ベクトル)を積極的に利用することにより、演算の高速化を図ることもできる。
【0097】
荷振れ角度θが得られれば、当該荷振れ角度θに基づいてジブ3の起伏角φを制御することにより、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせすることができるので、荷振れの発生を防止することができる。例えば、地切りの前に、荷振れ角度θに基づいてジブ3の起伏角φを制御することにより、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせしておけば、地切りの際に荷振れが発生することを防止することができる。
【0098】
以上に説明したように、本変形例によると、前述の実施形態1と同様の効果に加えて、次のような効果を得ることができる。すなわち、音波発信器105から3つの音波受信器M1、M2、M3までの距離同士の差ΔD1、ΔD2を、荷振れ角度θをパラメータとする関数F1(θ)、F2(θ)で表すと共に、当該距離差ΔD1、ΔD2が、時間差ΔT1、ΔT2と音速V(未知数)との積に等しいことを利用して、音速の測定(つまり気温、風速等の測定)を行うことなく、荷振れ角度θを算出する。すなわち、3つの音波受信器M1、M2、M3を用いて求めた2つの時間差ΔT1、ΔT2のそれぞれについて、時間差ΔT1、ΔT2と音速Vとの積が、荷振れ角度θをパラメータとする関数F1(θ)、F2(θ)と等しいという関係を利用して、音速測定の必要なく、荷振れ角度θを算出する。また、荷振れ角度θと共に音速Vも算出可能である。
【0099】
ところで、気温や風速等を正確に計測することが困難な屋外等の環境においては、音速を推定することは困難であるので、音速を用いて荷振れ角度を推定すると、荷振れ角度の推定精度が低下する。それに対して、本変形例では、気温や風速等から音速を計算する必要がないので,屋外等の環境においても荷振れ角度θの推定精度が向上する。すなわち、迅速且つ正確に荷振れ角度θを求めることができる。
【0100】
また、本変形例によると、音速の算出のために温度や風速等の環境条件の計測を行う必要がないため、温度計や風速計等の計測器が不要となるので、さらなる低コスト化を達成できる。
【0101】
尚、本変形例において、音波発信器105(吊り荷1の重心位置P)から音波受信器M1(ジブ3の一端Q)までの距離Lが、ワイヤー2の繰り出し長さに等しいとして、2つの時間差ΔT1、ΔT2、及び、2つの関数F1(θ)、F2(θ)を用いて、荷振れ角度θを算出した。しかし、例えば、ワイヤー2にたるみが生じており、音波発信器105から音波受信器M1までの距離(吊り荷1の重心位置Pからジブ3の一端Qまでの距離)Lが未知数となる場合は、例えばジブ3等の所定の方向に沿った音波受信器の設置数を4つとして、3つの音波到来時間差ΔT1、ΔT2、ΔT3、及び、3つの関数F1(θ)、F2(θ)、F3(θ)を用いて、荷振れ角度θを音速V及び距離Lと共に算出してもよい。
【0102】
(実施形態3)
以下、実施形態3に係るクレーン用荷振れ角度推定装置について、図面を参照しながら説明する。
【0103】
図9は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置によって水平ジブクレーンの荷振れ角度を推定している様子の一例を示す図である。尚、
図9において、
図1、
図8に示す実施形態1、2と同じ構成要素には同じ符号を付す。
【0104】
本実施形態が
図1、
図8に示す実施形態1、2と異なっている点は、
図9に示すように、ジブ3が、地平面に対して水平に支柱15によって固定されている点である。また、ワイヤー2は、ジブ3に沿って移動可能なトロリー4に巻上げ/巻下げ可能に取り付けられている。さらに、ジブ3におけるトロリー4が配置されていない側には、カウンタウェイト16が設けられていると共に、支柱15の上部には、ジブ3の両側を支持するアーム17が設けられている。
【0105】
本実施形態では、吊り荷1は、ジブ3の延びる方向に沿って荷振れを生じており、荷振れ角度はθである。荷振れ角度θは、トロリー4(ジブ3の位置Qに配置)と吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線が鉛直方向(重力方向)となす角度であり、本実施形態での推定対象である。
【0106】
また、本実施形態では、3つの音波受信器M1、M2、M3のうち音波受信器M1はトロリー4に配置され、音波受信器M2、M3はジブ3に配置される。具体的には、
図9に示すように、音波受信器M1から距離X1離れた箇所に音波受信器M2、音波受信器M2から距離X2離れた箇所に音波受信器M3がそれぞれ配置される。ここで、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1、M2、M3のそれぞれまでの距離は、L、L+ΔD1、L+ΔD2である。
【0107】
本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50が、前述の実施形態2の変形例(
図8参照)と異なっている点は、音波受信器M1、M2、M3の取り付け位置、並びに、荷振れ角度算出部52で用いる、荷振れ角度θをパラメータとする関数F1(θ)、F2(θ)の内容である。尚、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50の基本構成は、音波受信器の個数を除いて、
図3に示す実施形態1のクレーン用荷振れ角度推定装置50と同じである。
【0108】
本実施形態においても、まず、音波発信器105(例えば吊り荷1の重心位置Pに位置)から発信した音波を音波受信器M1、M2、M3で受信する。ここで、
図9に示すように、時刻T=tに音波発信器105から所定の音波が発信され、当該音波を音波受信器M1、M2、M3がそれぞれ時刻T=t+τ
1、T=t+τ
2、T=t+τ
3に受信したものとする。すなわち、音波受信器M1、M2、M3が音波を受信する遅れ時間はそれぞれτ
1、τ
2、τ
3であり、時間差算出部51は、音波受信器M1が音波を受信したタイミング(T=t+τ
1)と音波受信器M2が音波を受信したタイミング(T=t+τ
2)との差である第1時間差Δτ
1(=τ
2−τ
1)、及び、音波受信器M1が音波を受信したタイミング(T=t+τ
1)と音波受信器M3が音波を受信したタイミング(T=t+τ
3)との差である第2時間差Δτ
2(=τ
3−τ
1)を算出する。尚、時間差算出部51は、第2時間差Δτ
2として、音波受信器M2が音波を受信したタイミング(T=t+τ
2)と音波受信器M3が音波を受信したタイミング(T=t+τ
3)との差「τ
3−τ
2」を算出してもよい。
【0109】
次に、時間差算出部51は、実施形態1(特に式(1)〜(7)参照)と同様に、音波受信器M1、M2、M3の受信音響信号に対して周波数変換、具体的には高速フーリエ変換を行う。これにより、音波受信器M1、M2の間における受信音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器105の発信周波数とを用いて、時間差Δτ
1を算出すると共に、音波受信器M1、M3の間における受信音響信号の位相差を算出し、当該位相差と音波発信器105の発信周波数とを用いて、時間差Δτ
2を算出する。
【0110】
次に、荷振れ角算出部52は、音波発信器105(本変形例では吊り荷1の重心位置P)から音波受信器M1(本変形例ではワイヤー2が取り付けられたトロリー4の位置Q)までの距離(L)と音波発信器105から音波受信器M2までの距離(L+ΔD1)との差である第1距離差ΔD1を、荷振れ角度θをパラメータとする第1関数F1(θ)で表すと共に、音波発信器105から音波受信器M1までの距離(L)と音波発信器105から音波受信器M3までの距離(L+ΔD2)との差である第2距離差ΔD2を、荷振れ角度θをパラメータとする第2関数F2(θ)で表す。尚、荷振れ角算出部52は、音波発信器105から音波受信器M2までの距離(L+ΔD1)と音波発信器105から音波受信器M3までの距離(L+ΔD2)との差「ΔD2−ΔD1」を第2距離差として、荷振れ角度θをパラメータとする第2関数F2(θ)で表してもよい。
【0111】
ここで、距離X2は固定で予め既知であり、距離X1(音波受信器M2からトロリー4の配置位置Qまでの距離)、距離L(ワイヤー2の繰り出し長さ)もクレーンの操作情報として特定可能であるとして、
図9に示す△PM1M2、△PM1M3に余弦定理を用いると、F1(θ)、F2(θ)はそれぞれ、
ΔD1=(L
2+X1
2+2L・X1・sin(θ))
0.5−L=F1(θ)
ΔD2=(L
2+(X1+X2)
2+2L・(X1+X2)・sin(θ))
0.5−L
=F2(θ)
と表される。
【0112】
次に、荷振れ角度算出部52は、音波発信器105から発生した音の音速を未知数Vとして、第1距離差ΔD1について成り立つ「ΔD1=V×ΔT1=F1(θ)」、及び、第2距離差ΔD2について成り立つ「ΔD2=V×ΔT2=F2(θ)」を用いて、荷振れ角度θを算出する。すなわち、荷振れ角度θ及び音速Vを未知数とする2つの連立方程式を解くことによって、荷振れ角度θ及び音速Vを求めることが可能である。ここで、F1(θ)、F2(θ)は非線形であるので、例えばニュートン法や二分法をはじめとする繰り返し計算等を利用して、荷振れ角度θを算出してもよい。この場合、非線形関数は微分可能であるので、勾配関数(勾配ベクトル)を積極的に利用することにより、演算の高速化を図ることもできる。
【0113】
荷振れ角度θが得られれば、当該荷振れ角度θに基づいてトロリー4の位置を制御することにより、トロリー4(ワイヤー2の取付箇所)と吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせすることができるので、荷振れの発生を防止することができる。例えば、地切りの前に、荷振れ角度θに基づいてトロリー4の位置を制御することにより、トロリー4の位置と吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせしておけば、地切りの際に荷振れが発生することを防止することができる。
【0114】
以上に説明した本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置においても実施形態2の変形例と同様の効果を得ることができる。
【0115】
尚、本実施形態において、音波発信器105(吊り荷1の重心位置P)から音波受信器M1(トロリー4の位置)までの距離Lが、ワイヤー2の繰り出し長さに等しいとして、2つの時間差ΔT1、ΔT2、及び、2つの関数F1(θ)、F2(θ)を用いて、荷振れ角度θを算出した。しかし、例えば、ワイヤー2にたるみが生じており、音波発信器105から音波受信器M1までの距離(吊り荷1の重心位置Pからトロリー4の位置までの距離)Lが未知数となる場合は、例えばジブ3等の所定の方向に沿った音波受信器の設置数を4つとして、3つの音波到来時間差ΔT1、ΔT2、ΔT3、及び、3つの関数F1(θ)、F2(θ)、F3(θ)を用いて、荷振れ角度θを音速V及び距離Lと共に算出してもよい。或いは、距離Lは未知数である一方、音速Vが既知であれば、前述の第2の実施形態のように、荷振れ角算出部52が、時間差算出部51により算出された時間差Δτ
1(=τ
2−τ
1)、Δτ
2(=τ
3−τ
1)にそれぞれ音速を乗じることにより、距離差ΔD1、ΔD2を算出し、算出された距離差ΔD1、ΔD2、及び、音波受信器M1、M2、M3のそれぞれの位置情報(音波受信器M1と音波受信器M2との距離X1、音波受信器M2と音波受信器M3との距離X2等)に基づいて、余弦定理を用いて荷振れ角度θを算術的に算出してもよい。
【0116】
(その他の実施形態)
以上、本発明についての実施形態(変形例を含む)を説明したが、本発明は前述の実施形態のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。すなわち、前述の各実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0117】
例えば、前述の各実施形態では、ジブクレーン(水平ジブクレーンを含む)を例として本発明について説明したが、吊り荷支持部と、吊り荷支持部を吊り下げる吊り下げ部と、吊り下げ部が取り付けられた支持部とを備えた他のタイプのクレーン、例えば天井クレーン、橋形クレーン等にも本発明は広く適用可能である。
【0118】
また、前述の各実施形態では、吊り荷支持部として、フック及び吊り具を例示したが、吊り荷を支持できれば、吊り荷支持部の種類は特に限定されない。また、吊り下げ部として、ワイヤーを例示したが、吊り荷を吊り下げられれば、吊り下げ部の種類は特に限定されず、例えば、ロープやチェーン等であってもよい。
【0119】
また、前述の各実施形態では、複数の音波受信器のうちの1つ(M1)を、ワイヤー2の取り付け位置(
図1、
図8に示すジブ3の一端Qや、
図9に示すトロリー4)に設置したが、所定の方向に沿った設置位置であれば、ワイヤー2の取り付け位置以外の設置位置に全ての音波受信器を設置してもよい。
【0120】
また、前述の各実施形態では、全ての音波受信器をジブ3又はジブ3上のトロリー4に設けたが、所定の方向に沿った設置位置であれば、少なくとも一部の音波受信器を例えばクレーンの本体部等に設置してもよい。また、天井クレーンのような固定タイプのクレーンであれば、音波受信器の少なくとも一部をクレーンの外部に設置してもよい。ここで、「所定の方向に沿って音波受信器が配置される」とは、ジブクレーンであれば、例えば、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に沿って各音波受信器が配置されることを意味し、必ずしも、全ての音波受信器が3次元における同一直線上に配置されることまでは必要としない。言い換えると、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に沿って全ての音波受信器が配置されていれば、クレーンを横(「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向)から見たときに各音波受信器が同一直線上に配置されていなくてもよい。
【0121】
また、前述の各実施形態において、所定の方向(以下、第1の方向という)に対して垂直な第2の方向に沿って複数の他の音波受信器を配置し、当該他の音波受信器に対応して、前述の時間差算出部51及び荷振れ角算出部52と同様の機能部をそれぞれ設けてもよい。このようにすると、第2の方向における荷振れ角度を算出できるので、吊り荷の正確な位置を立体的に把握することができる。
【0122】
ここで、「第1の方向に対して垂直な第2の方向に沿って他の音波受信器が配置される」とは、ジブクレーンであれば、例えば、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向に沿って他の音波受信器が配置されることを意味し、必ずしも、全ての他の音波受信器が3次元における同一直線上に配置されることまでは必要としない。言い換えると、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向に沿って全ての他の音波受信器が配置されていれば、クレーンを正面(「ジブ」の延びる方向)から見たときに全ての他の音波受信器が同一直線上に配置されていなくてもよい。
【0123】
また、「第1の方向に沿って配置された複数の音波受信器」のうちの1つの音波受信器と、「第2の方向に沿って配置された複数の他の音波受信器」のうちの1つの音波受信器とは、第1の方向と第2の方向とが交差する箇所に配置された共通の音波受信器であってもよい。
【0124】
また、前述の各実施形態において、各音波受信器に受信される音響信号の位相差を算出するために、フーリエ変換を使用したが、これに代えて、他の周波数変換法を用いてもよい。
【0125】
また、前述の各実施形態において、法規制等の問題が生じない場合には、音波(音波発信器/音波受信器の組み合わせ)に代えて、電波や光等の電磁波(電磁波発信器/電磁波受信器の組み合わせ)を用いて、荷振れ角度推定を行うことも可能である。