特開2021-72818(P2021-72818A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-72818(P2021-72818A)
(43)【公開日】2021年5月13日
(54)【発明の名称】終脳又はその前駆組織の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20210416BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20210416BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20210416BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20210416BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/0793
   C12N5/079
   C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2021-7463(P2021-7463)
(22)【出願日】2021年1月20日
(62)【分割の表示】特願2019-47511(P2019-47511)の分割
【原出願日】2014年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-242394(P2013-242394)
(32)【優先日】2013年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】笹井 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】門嶋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】坂口 秀哉
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB25
4B065BB40
4B065BC03
4B065BC06
4B065BC07
4B065CA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】哺乳動物の多能性幹細胞から、より成熟した終脳又はその前駆組織をインビトロで誘導する方法を提供する。
【解決手段】多能性幹細胞の凝集塊を、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存在下で浮遊培養することにより、終脳マーカー陽性凝集塊を得て、更に終脳マーカー陽性凝集塊を、高酸素分圧条件下で更に浮遊培養することを特徴とする、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織を含む細胞凝集塊の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞の凝集塊を、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存在下で浮遊培養することにより、終脳マーカー陽性凝集塊を得ること、及び該終脳マーカー陽性凝集塊を、高酸素分圧条件下で更に浮遊培養することを含む、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織を含む細胞凝集塊の製造方法。
【請求項2】
得られる細胞凝集塊が、大脳皮質、大脳基底核、海馬及び脈絡膜からなる群から選択されるいずれかの終脳部分組織、又はその前駆組織を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
高酸素分圧条件下での浮遊培養を、Wntシグナル増強剤の存在下で行う、請求項1又は
2記載の製造方法。
【請求項4】
高酸素分圧条件下での浮遊培養を、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経
路活性化物質の存在下で行う、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項5】
(I)多能性幹細胞の凝集塊を、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存在下で浮遊培養することにより、終脳マーカー陽性凝集塊を得ること、
(II)(I)で得られた該終脳マーカー陽性凝集塊を、Wntシグナル増強剤及び骨形成
因子シグナル伝達経路活性化物質の存在下で更に浮遊培養すること、及び
(III)(II)で得られた細胞凝集塊をWntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル
伝達経路活性化物質の不在下で更に浮遊培養すること
を含む、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織を含む細胞凝集塊の製造方法。
【請求項6】
製造される細胞凝集塊が、連続した神経上皮中に、大脳皮質組織又はその前駆組織、脈絡膜組織又はその前駆組織、及び海馬組織又はその前駆組織を含む、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
製造される細胞凝集塊が、連続した神経上皮中に、歯状回組織又はその前駆組織、及びアンモン角組織又はその前駆組織を含む、海馬組織またはその前駆組織を含む、請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
海馬組織または前駆組織が、連続した神経上皮中に、皮質ヘムを更に含む、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
製造される細胞凝集塊が、アンモン角組織又はその前駆組織を含む、請求項5記載の製造方法。
【請求項10】
(II)及び(III)における浮遊培養を高酸素分圧条件下で行う、請求項5記載の製造方法。
【請求項11】
細胞凝集塊を、shhシグナル作動薬で処理することを含む、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項12】
細胞凝集塊を、FGF8で処理することを含む、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項13】
得られる細胞凝集塊が、表層から深部に向かって、辺縁帯、皮質板、サブプレート、中間帯、脳室下帯及び脳室帯を含む多層構造を有する、大脳皮質組織又はその前駆組織を含む、請求項2記載の製造方法。
【請求項14】
得られる細胞凝集塊が、大脳基底核又はその前駆組織を含む、請求項11記載の製造方法。
【請求項15】
得られる細胞凝集塊が、吻側化大脳皮質又はその前駆組織を含む、請求項12記載の製造方法。
【請求項16】
多能性幹細胞が胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である、請求項1〜15のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項17】
多能性幹細胞がヒト由来である、請求項1〜16のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項18】
浮遊培養をフィーダー細胞の非存在下で行う、請求項1〜17のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項記載の製造方法により得られる細胞凝集塊。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか1項記載の製造方法により得られる、海馬又はその前駆組織を含む細胞凝集塊を分散すること、及び分散した細胞を更に接着培養し、該細胞から成熟した海馬ニューロンを誘導することを含む、成熟した海馬ニューロンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロにおいて、多能性幹細胞から終脳又はその前駆組織への分化を誘導する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ほ乳類の大脳皮質は多層構造(I-VI層)を有し、これは胎児の大脳皮質形成期から徐々に形成される(非特許文献1)。大脳皮質は背側終脳(外套)の神経上皮から生み出され、徐々
に外転しながら両側に半球状の脳胞を形成する (図17A) (非特許文献2)。大脳皮質の後尾側は皮質ヘムが隣接し、一方吻腹側は古皮質を介して外側基底核原基(LGE, 線条体原基
)や隔膜が隣接している。成体の6層の中には、その大部分が皮質ヘムや隔膜などの隣接する組織に由来し(非特許文献3)、主にリーリン陽性のカハールレチウス細胞から形成さ
れる最表層のI層 (胎生時期の原基は辺縁帯と呼ばれる; 図17B)が存在する (ヒトの大脳
皮質の場合、リーリン陽性細胞の一部は大脳皮質神経上皮からも直接生み出される) (非
特許文献4)。残りの皮質板の層は、時間および空間的に規則正しく神経細胞が生み出され配置される特徴的なパターンを有していている。これはインサイド−アウトパターンと呼ばれ、より深い層の神経細胞がより早く神経前駆細胞から生みだされる(図17B) (非特許
文献5, 6)。
【0003】
多くの情報を得ることができるマウスの大脳皮質の発生とは異なり、ヒトの大脳皮質の発生はヒト胎児の脳組織の利用が限られるために詳しくは理解されていない。これまでに本発明者らは、マウスおよびヒトのES細胞を用いた3次元培養法(SFEBq法)を樹立し、
この凝集塊が大脳皮質の発生の初期過程を再現することを示した (非特許文献7-9)。この方法はヒトiPS細胞の適応も可能であることが報告されている (非特許文献10)。この自己組織化されたヒトES細胞由来の浮遊細胞塊の中には、大脳皮質神経上皮が自発的に形成され、培養40-45日後には脳室帯や皮質板および辺縁帯も自発的に形成される。この大脳皮
質神経上皮は、ヒト妊娠初期の大脳皮質形成を再現したが、多くの点で未成熟であった (図17C) (非特許文献7)。
【0004】
最近、ヒト多能性幹細胞由来の多層構造を有した大脳皮質組織の中で、外側放射状グリア細胞(oRG)が誘導できたという結果が報告された (非特許文献11)。この研究は確率論的に脳領域の特異性が得られる非選択的な分化方法を用いている。この分化方法は、凝集塊をスピナーフラスコを用いて旋回培養することを特徴とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Molyneaux BJ, Arlotta P, Menezes JR, Macklis JD. (2007) Neuronal subtype specification in the cerebral cortex. Nat Rev Neurosci. 8:427-437.
【非特許文献2】Hebert JM, Fishell G. (2008) The genetics of early telencephalon patterning: some assembly required. Nat Rev Neurosci 9:678-685.
【非特許文献3】Bielle F, et al. (2005) Multiple origins of Cajal-Retzius cells at the borders of the developing pallium. Nat Neurosci. 8:1002-1012.
【非特許文献4】Bystron I, Blakemore C, Rakic P. (2008) Development of the human cerebral cortex: Boulder Committee revisited. Nat Rev Neurosci. 9:110-122.
【非特許文献5】Rakic P. (1974) Neurons in rhesus monkey visual cortex: systematic relation between time of origin and eventual disposition. Science. 183:425-427.
【非特許文献6】Shen Q. et al. (2006) The timing of cortical neurogenesis is encoded within lineages of individual progenitor cells. Nat Neurosci 9:743-751.
【非特許文献7】Eiraku M. et al. (2008) Self-organized formation of polarized cortical tissues from ESCs and its active manipulation by extrinsic signals. Cell Stem Cell 3: 519-532.
【非特許文献8】Watanabe K. et al. (2005) Directed differentiation of telencephalic precursors from embryonic stem cells. Nat Neurosci 8:288-296.
【非特許文献9】Nasu M, et al. (2012) Robust formation and maintenance of continuous stratified cortical neuroepithelium by laminin-containing matrix in mouse ES cell culture. PLoS One 7:e53024.
【非特許文献10】Mariani J. et al. (2012) Modeling human cortical development in vitro using induced pluripotent stem cells. Proc Natl Acad Sci USA.109:12770-12775.
【非特許文献11】Lancaster M. et al. (2013) Cerebral organoids model human brain development and microcephaly. Proc Natl Acad Sci USA. 109:12770-12775.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、哺乳動物の多能性幹細胞から、より成熟した終脳又はその前駆組織をインビトロで誘導する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ヒト立体大脳皮質の自己組織化誘導方法の培養条件を改良することにより、より選択的で長期間にわたり大脳皮質組織の立体誘導を行うことに成功した。この方法によって、自己組織化された大脳皮質の中に、生体の胚の中で見られる背腹軸および前後軸の極性を自発的に起こらせることに成功した。また、外因性のシグナル因子によって、背腹軸あるいは前後軸に沿った特定の神経領域を選択的に分化誘導すること、生体内と同様の位置関係で大脳皮質組織を隣接する組織と連続的に立体形成させること、周辺組織を選択的に自己組織化させることにも成功した。
【0008】
更に、大脳皮質組織の培養を続けることで、ヒト妊娠中期の大脳皮質に見られる多層構造(脳室帯、脳室下帯、外側脳室下帯、中間帯、サブプレート、深部皮質板、浅部皮質帯、辺縁帯)を、表層から深層軸に沿って立体形成することに成功した。
【0009】
更に、培養条件を工夫することにより、大脳皮質以外に、大脳基底核、海馬、脈絡膜等の組織の立体誘導を行うことにも成功した。
【0010】
本発明者らは、上記知見に基づき更に検討を加え、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の通りである:
【0011】
[1]多能性幹細胞の凝集塊を、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存在下で浮遊培養することにより、終脳マーカー陽性凝集塊を得ること、及び該終脳マーカー陽性凝集塊を、高酸素分圧条件下で更に浮遊培養することを含む、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織を含む細胞凝集塊の製造方法。
[2]得られる細胞凝集塊が、大脳皮質、大脳基底核、海馬及び脈絡膜からなる群から選択されるいずれかの終脳部分組織、又はその前駆組織を含む、[1]記載の製造方法。
[3]高酸素分圧条件下での浮遊培養を、Wntシグナル増強剤の存在下で行う、[1]又
は[2]記載の製造方法。
[4]高酸素分圧条件下での浮遊培養を、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝
達経路活性化物質の存在下で行う、[1]又は[2]記載の製造方法。
[5](I)多能性幹細胞の凝集塊を、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存
在下で浮遊培養することにより、終脳マーカー陽性凝集塊を得ること、
(II)(I)で得られた該終脳マーカー陽性凝集塊を、Wntシグナル増強剤及び骨形成
因子シグナル伝達経路活性化物質の存在下で更に浮遊培養すること、及び
(III)(II)で得られた細胞凝集塊をWntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル
伝達経路活性化物質の不在下で更に浮遊培養すること
を含む、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織を含む細胞凝集塊の製造方法。[6]製造される細胞凝集塊が、連続した神経上皮中に、大脳皮質組織又はその前駆組織、脈絡膜組織又はその前駆組織、及び海馬組織又はその前駆組織を含む、[5]記載の製造方法。
[7]製造される細胞凝集塊が、連続した神経上皮中に、歯状回組織又はその前駆組織、及びアンモン角組織又はその前駆組織を含む、海馬組織またはその前駆組織を含む、[5]記載の製造方法。
[8]海馬組織または前駆組織が、連続した神経上皮中に、皮質ヘムを更に含む、[7]記載の製造方法。
[9]製造される細胞凝集塊が、アンモン角組織又はその前駆組織を含む、[5]記載の製造方法。
[10](II)及び(III)における浮遊培養を高酸素分圧条件下で行う、[5]記載の製造方法。
[11]細胞凝集塊を、shhシグナル作動薬で処理することを含む、[1]又は[2]記載の製造方法。
[12]細胞凝集塊を、FGF8で処理することを含む、[1]又は[2]記載の製造方法。[13]得られる細胞凝集塊が、表層から深部に向かって、辺縁帯、皮質板、サブプレート、中間帯、脳室下帯及び脳室帯を含む多層構造を有する、大脳皮質組織又はその前駆組織を含む、[2]記載の製造方法。
[14]得られる細胞凝集塊が、大脳基底核又はその前駆組織を含む、[11]記載の製造方法。
[15]得られる細胞凝集塊が、吻側化大脳皮質又はその前駆組織を含む、[12]記載の製造方法。
[16]多能性幹細胞が胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である、[1]〜[15]のいずれかに記載の製造方法。
[17]多能性幹細胞がヒト由来である、[1]〜[16]のいずれかに記載の製造方法。
[18]浮遊培養をフィーダー細胞の非存在下で行う、[1]〜[17]のいずれかに記載の製造方法。
[19][1]〜[18]のいずれかに記載の製造方法により得られる細胞凝集塊。
[20][1]〜[18]のいずれかに記載の製造方法により得られる、海馬又はその前駆組織を含む細胞凝集塊を分散すること、及び分散した細胞を更に接着培養し、該細胞から成熟した海馬ニューロンを誘導することを含む、成熟した海馬ニューロンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多能性幹細胞から、選択的で長期間に亘り、終脳若しくはその部分組織(大脳皮質、大脳基底核、海馬、脈絡膜等)、或いはその前駆組織を誘導することができる。
【0013】
本発明によれば、多能性幹細胞から、選択的に、背腹軸及び前後軸の極性を有する大脳皮質組織又はその前駆組織を誘導することができる。
【0014】
本発明によれば、多能性幹細胞から、選択的に妊娠中期の多層構造を有する大脳皮質組織又はその前駆組織を誘導することができる。
【0015】
本発明によれば、多能性幹細胞から、連続した神経上皮中に、大脳皮質組織又はその前駆組織、脈絡膜組織又はその前駆組織、及び海馬組織又はその前駆組織を隣接する組織として自己組織化することが可能である。
【0016】
本発明によれば、多能性幹細胞から、連続した神経上皮中に、歯状回組織又はその前駆組織、及びアンモン角組織又はその前駆組織を含む、海馬組織又はその前駆組織を誘導することが可能である。
【0017】
本発明によれば、ヒト胎児の大脳皮質に豊富に存在し、マウスの大脳皮質では存在しない、外側放射状グリア細胞(oRG)の特徴を有する神経前駆細胞を、ヒト多能性幹細胞か
ら脳室下帯外側に特異的に誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ヒト多能性幹細胞からの大脳皮質前駆組織の分化誘導。(A) Day 26の細胞凝集塊におけるFoxg1::venus発現。(B)Day 34の凝集塊中の細胞におけるFoxg1::venus発現。(C) 細胞凝集塊内部に形成された、脳室様の空洞を有する、半球上の神経上皮様構造。(D) 神経上皮構造の内腔側におけるPax6発現。(E) 神経上皮構造の内腔側におけるSox2発現。(F) 神経上皮構造の最も内腔側における、リン酸化ヒストンH3(pH3)発現。(G) 脳室帯に類似した細胞層の外側における、Tuj1発現。(H) 脳室帯に類似した細胞層の外側における、Ctip2発現。(I) 脳室帯に類似した細胞層の外側におけるReelin陽性カハールレチウス細胞の出現。(J) 凝集塊の表層近くにおけるLaminin発現。
図2】ヒト多能性幹細胞からの大脳基底核前駆組織の分化誘導。(A) 終脳神経上皮に形成されたGsh2を発現するLGE。(B) LGE神経上皮の直下に存在するGAD65陽性のGABA作動性神経細胞。(C) 終脳神経上皮に形成されたNkx2.1を発現するMGE。(D) MGEを形成した細胞凝集塊におけるPax6発現。
図3】大脳皮質と大脳基底核の連続的な立体形成。(A) 終脳神経上皮に形成されたGsh2を発現するLGE。(B) 終脳神経上皮に形成されたLGEにおけるGAD65発現。(C) LGE神経上皮と連続して形成されたPax陽性大脳皮質神経上皮。
図4】ヒト多能性幹細胞からの脈絡膜組織の分化誘導。(A) 多能性幹細胞から誘導された脈絡膜組織におけるTTR及びLmx1a発現。(B) 多能性幹細胞から誘導された脈絡膜組織におけるOtx2発現。Foxg1::venusの発現は認められない。
図5】ヒト多能性幹細胞からの皮質ヘムの分化誘導。(A) 多能性幹細胞から誘導された皮質ヘムにおけるLmx1a発現。TTRの発現は認められない。(B) 多能性幹細胞から誘導された皮質ヘムにおけるOtx2発現。Foxg1::venus弱陽性である神経上皮が主体の凝集塊が形成された。
図6】脈絡膜、海馬前駆組織及び大脳皮質前駆組織の連続的形成。(A) Foxg1::venus陽性の神経上皮とFoxg1::venus陰性の神経上皮の両者を含む細胞凝集塊。(B) 脈絡膜、海馬前駆組織及び大脳皮質前駆組織を含む細胞凝集塊におけるBf1(Foxg1)::venus発現。(C) 脈絡膜、海馬前駆組織及び大脳皮質前駆組織を含む細胞凝集塊におけるLmx1a及びLef1の発現。
図7】ヒト多能性幹細胞からの海馬前駆組織の分化誘導。(A-D) Day 61の細胞凝集塊におけるBf1(Foxg1)::venus (A)、Lmx1a (B)、 Prox1 Zbtb20 (C)及びNrp2 (D)の発現を示す。(E-H) Day 75の細胞凝集塊におけるFoxg1::venus、Lmx1a及びLef1 (E)、Zbtb20 (F)、 Prox1 (G)及びProx1及びZbtb20 (H)の発現を示す。
図8】ヒトES細胞から誘導した3次元の海馬組織の平面分散培養。(A)神経の樹状突起を示すMAP2陽性の細胞における、海馬マーカーであるZbtb20の発現。(B)Zbtb20陽性細胞におけるBf1(Foxg1)::venus発現。(C)グリア細胞様の形をしたZbtb20陽性細胞での、アストロサイトマーカーであるGFAPの発現。(D)海馬領域のうち、歯状回の顆粒細胞マーカーであるProx1とCA3の錐体細胞マーカーであるKA1の分散培養での発現パターン。Prox1は細胞体の直径が5-10μm程度の小型の細胞で、KA1は細胞体の直径が10-20μmの大型で錐体細胞様の形態をした細胞で発現が見られる。(E)図Dでみられた細胞でのBf1(Foxg1)::venusの発現を示す。Bar: 200μm(A,B), 100μm(C), 10μm(D, E)。
図9】海馬前駆組織を分散培養にて長期培養した際のカルシウムイメージング及び電気生理的解析。(A-A’)カルシウムイメージングの際のシグナル発現像とその明視野像。(B)カルシウムシグナルの細胞ごとでの様々な経時的応答パターンを示す。(C-C’)電気生理試験の際の明視野像。(D)ナトリウム-カリウム電流応答。(E)誘発性活動電位。(F)sEPSCとDNQXによるその阻害。Bar: 50μm(C, C’)。
図10】ヒト多能性幹細胞からの妊娠中期型の多層構造を持つ大脳皮質前駆組織の分化誘導。(A及びA’) Day 70のヒト多能性幹細胞由来大脳皮質神経上皮の切片。A’はCtip2及びPax6の免疫染色を示す。低拡大観察においても、脳室帯(Pax6+)、脳室下帯、中間帯、及び皮質板(Ctip2+)の明確な分離が見られた。(B-H”) Day 70の大脳皮質の層特異的マーカーによる免疫染色。(I) Days 70及び91における大脳皮質神経上皮の全厚(Cortical NE)及び脳室帯(VZ)及び皮質板(CP)の厚さ。(J-P) Day 91大脳皮質神経上皮の帯特異的マーカーによる免疫染色。(Q) ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮の長期培養において見られる層構造の模式図。
図11】大脳皮質の自発的な軸形成と外因性因子による制御。(A-F) Day 42の細胞凝集塊におけるCoup-TF1 (A), Lhx2 (B), Coup-TF1及びLhx2 (C), Coup-TF1及びZic1 (D), Coup-TF1及びOtx2 (E), CoupTF1及びリン酸化Erk (F)の発現。(G) FGF8b処理によるCoupTF1発現の減弱。(H) FGF8b処理による、Sp8発現の脳室帯全体に渡る上昇。(I) FGF8b処理による、Coup-TF1及びSp8発現パターンの変化。
図12】ヒトES細胞から自己組織化された大脳皮質神経上皮の軸極性。(A) foxg1::Venusで可視化した大脳皮質神経上皮を含むヒトES細胞凝集塊 (Day 26)。 (B) foxg1::Venus陽性細胞の代表的なFACS解析。(C-J) foxg1::venus ヒトES細胞から自己形成された半球状大脳皮質構造の免疫染色。VZ、脳室帯。(K-N) ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮において観察される軸極性の自己形成。皮質ヘム様組織(Otx2+; M)は、大脳皮質神経上皮の後尾側マーカーCoup-TF1 (K)及びLhx2の発現が強い側に隣接する領域に局在した。Coup-TF1発現と逆側でより高いレベルのpErkシグナルが観察された (N)。発現の勾配及び極性を三角で示す。矢頭、脳室帯 (VZ)(マーカー発現の勾配が脳室帯中に見られることに留意されたい)。(O及びP)Fgf8処理は、CoupTF1を抑制し、吻腹側マーカーSp8の発現を拡大させた(スケールバー、Aにおいては1mm; C-Pにおいては200μm。)核対比染色(青)、DAPI。
図13】自己組織化された神経上皮における非対称的な湾曲形態形成。(A-I) ヒトES細胞由来神経上皮の非対称的な湾曲形態形成。Aにおいて、矢は、神経上皮領域の境界を示す。B-Dにおいて、矢は、湾曲した上皮を示す。Eにおいて、矢頭は、湾曲する上皮を示す。F-Iにおいて、矢は、回転運動を示す。(J-L) 神経上皮の回転に対するROCK阻害剤 Y-27632の効果。(L) ROCK阻害剤による、回転形態形成の抑制。***:Fisher の抽出検定における分割表解析(2 × 2)においてP < 0.001。処置群、n = 187神経上皮領域;対照群;n = 130 (M及びN) 回転形態は、Otx2及びCoup-TF1(後尾側マーカー)の強い発現を有する側において優先的に観察された。(O-Q) Day 35の神経上皮構造における、大脳皮質(Pax6+)及びLGE (Gsh2+ ; GAD65+ GABA作動性神経細胞を直下に伴う)の隣接した形成。LGE領域に接する大脳皮質側は、強い回転を伴う側(矢)とは反対に位置した。(R) Day 24のヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮における分裂中の核の上下運動(二光子イメージング)。pax6::venus レポーターヒトES細胞と非標識ヒトES細胞とを一部混合して可視化した。頂端側及び基底側の両方の突起を有する2つの娘細胞が頂端側の分裂前駆細胞から発生した。(スケールバー、Aにおいては200 μm、B-H及びJ-Nにおいては100μm、O-Qにおいては200 μm。)核対比染色(青)、DAPI。
図14】ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮における多層構造の自己形成。 (A及びA') Day70のヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮の切片。低拡大観察においても、脳室帯(Pax6+)、脳室下帯、中間帯、及び皮質板(Ctip2+)の明確な分離が見られた。(B-H'') Day 70の大脳皮質神経上皮の層特異的マーカーによる免疫染色。(I) Days 70及び91における大脳皮質神経上皮の厚さ(Cortical NE)及び脳室帯(VZ)及び皮質板(CP)の厚さ。**P < 0.01; ***P < 0.001、Day 70大脳皮質神経上皮と、Day 91大脳皮質神経上皮(それぞれ、n = 6)との間のStudent t 検定。(J-O) Day 91大脳皮質神経上皮の層特異的マーカーによる免疫染色。(P) ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮の長期培養において見られる層構造の模式図。(スケールバー、Aにおいて400 μm;B-H″において50 μm;J-Oにおいて100 μm。)グラフ中のバー、SEM。核対比染色(青)、DAPI。
図15】皮質板におけるSatb2+及びBrn2+大脳皮質神経細胞の基底側に偏った局在。(A-H) Satb2及びBrn2(表層マーカー)陽性の大脳皮質神経細胞は、Day 91培養において、ヒトES細胞由来大脳皮質板の基底(表層)部に優先的に局在した。基底側に局在したSatb2+細胞のほとんどは、深層マーカーTbr1陰性であった。(H) 皮質板内におけるマーカー陽性神経細胞の分布。相対的な位置付けのため、皮質板の頂端側及び基底側の境界を、それぞれ、0及び100と定義した。***P <0.001. Mann-Whitney検定。赤線:中央値。定量した神経細胞数:Tbr1+ (n =105), Satb2+ (n = 58), Ctip2+ (n = 87), 及び Brn2+ (n = 86). (I-L) EdU(Day 50;赤;n = 36)及びBrdU (Day 70; 白; n = 53)を用いた二重パルス標識試験。Day 91に免疫染色により解析した。Hと同様に統計学的解析を行った。(M-O) Day 112において、成熟大脳皮質神経細胞マーカーCaMKIIαは、皮質板のより深い部分に局在するTbr1+ 神経細胞において優先的に発現していた。成熟した神経細胞の生存を維持するため、大脳皮質神経細胞を78日目から112日目の間、トランスウェルフィルター上で培養した。(O) Hと同様にプロットを行った。***P < 0.001、事後多重比較検定とともに、Kruskal-Wallis検定。定量した神経細胞の数:Tbr1+ (n = 293)、Satb2+ (n = 177)、及びCaMKIIα+ (n = 132)。(P) Day 91及び112のヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮における神経細胞分布の模式図。(スケールバー、A-C、E-G及びI-Kにおいて100 μm;Dにおいて50 μm;M及びNにおいて200 μm。)核対比染色(青)、DAPI。
図16】oRG様神経幹/前駆の出現。(A-F) Day 70 (C)及び Day 91 (D-F)のヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮における、垂直方向(60-90°の分割角度)及び非垂直方向(0-30°及び30-60°)の分割(A及びB)を有する頂端側神経幹/前駆細胞の百分率。p-Vimentin、M期マーカー。矢頭、ペリセントリン。解析された細胞:n = 42 (Day 70) 及びn = 33 (Day 91)。(G-I) Day 91培養のSVZにおける、基底側神経幹/前駆細胞(Pax6+, Sox2+)及びintermediate神経幹/前駆細胞(Tbr2+)。(H) 皮質板における全ての神経幹/前駆細胞(Sox2+及び/又は Tbr2+)中のSox2+/Tbr2-及びSox2-/Tbr2+神経幹/前駆細胞の百分率。Day 70からDay 91にかけて、Sox2+/Tbr2-神経幹/前駆細胞の百分率が増加したが、Sox2-/Tbr2+神経幹/前駆細胞は、それに比例して減少した。***P < 0.001、Day 70試料とDay 91試料との間のStudent t検定。各日における4つの大脳皮質神経上皮領域からの脳室帯外部の神経幹/前駆細胞を数えた。(I) Day 91において、Sox2+/Tbr2-神経幹/前駆細胞は、Sox2-/Tbr2+神経幹/前駆細胞(右)よりも、脳室表面からより遠くに局在する傾向を示した。***P < 0.001、Mann-Whitney検定。赤線、中央値。(J-M) Pax6+ p-Vimentin+神経幹/前駆細胞は、軟膜へと伸びる長い基底膜側の突起を有するが、頂端側の突起は有しておらず(J及びJ′)、これらの神経幹/前駆細胞はTbr2陰性であった(K 及びK′)。基底膜側の突起を有するこれらの神経幹/前駆細胞の大部分(>70%)は、水平方向の分割角度(60-90°; L及びM)を示した(n = 37)。(スケールバー、Dにおいては100 μm;Eにおいては25 μm;G, J, 及び Kにおいては50 μm;Lにおいては10 μm。)グラフ中のバー、SEM。核対比染色(青)、DAPI。
図17】胎児大脳皮質神経上皮の発生。(A)発生中の胎児終脳の模式図。(B)ヒト妊娠第2期初期(約13胚週齢)の胎児大脳皮質神経上皮の多層化した構造の模式図。(C) 以前のヒトES細胞の自己組織化培養において誘導された層状大脳皮質神経上皮構造の模式図。その構造は、妊娠初期の間のヒト大脳皮質組織に似ている。
図18】ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮における軸極性。(A)改良された培養方法の模式図。(A′) Day 7におけるヒトES細胞の凝集塊形成の比較。(上)本発明者らの以前の培養;(下)改良された培養、それは分散したヒトES細胞から、分割していない滑らかな凝集塊の形成を促進した。(B)foxg1::Venusシグナルを有する神経上皮を含むヒトES細胞凝集塊 (Day 26)の百分率。***P < 0.001、Student t検定。(C) foxg1::Venus+集団についての代表的なFACS解析。灰色、コントロール(培養1日目);赤、以前の条件下での培養34日目。(D) Day 42大脳皮質神経上皮の皮質板におけるTbr1の免疫染色シグナル。(E及びF) マウス胎児終脳(Foxg1+; E)における領域マーカーの局在。大脳皮質神経上皮におけるCoup-TF1発現は、後尾側領域において強いが、腹側領域において弱かった(F)。(G) CoupTF1とLhx2の二重免疫染色の結果、これらの発現パターンは同様の偏りがあることが示された。(H-J) E12.5のマウス終脳の傍矢状切片。Gsh2、LGE (外側基底核隆起)マーカー(H);Lmx1a、皮質ヘム及び脈絡膜マーカー (H);Otx2 及びZic1、皮質ヘムマーカー(I及びJ)。 (K) Coup-TF1とZic1の二重免疫染色の結果、皮質ヘムマーカーZic1は、大脳皮質神経上皮に隣接した組織のCoup-TF1発現が強い側において発現することが示された。 (L) Fgf8処理 (Days 24-42)のCoupTF1及びSp8発現への効果。大脳皮質神経上皮の横断面(最長軸部分のもの)において、分極化した発現(黒)、ブロードな発現(灰色)及び検出できないシグナル(白)の百分率をカウントした。このような方法でカウントを行ったため、分極化した発現パターンの百分率は、少し過小評価かもしれない。(スケールバー、A′ and Bにおいて1 mm);D, G, and I-Kにおいて200 μm;E, F, and Hにおいて500 μm)グラフ中のバー、SEM。
図19】大脳皮質神経上皮における、湾曲形態形成及び頂端側分割。 (A) ヒトES細胞凝集塊における大脳皮質神経上皮領域の自発的な湾曲形態形成:(上)Day 24;(下)Day 27。aPKC、頂端側マーカー。(B) ヒトES細胞 に由来する、Foxg1+終脳神経上皮におけるPax6+(大脳皮質)及びGsh2+ (外側基底核原基)神経上皮の百分率。低濃度のSAG (30 nM; Days 15-21; 灰色カラム)は、Pax6+神経上皮の割合を部分的に抑制しGsh2+神経上皮の割合を上昇させた。この条件下、Pax6+ NE及びGsh2+ NEの比較的大きな領域はしばしば隣り合って見出された。500 nMでは、SAG処理は、効率的にPax6 及びGsh2の発現を抑制した。**P < 0.01 及び ***P < 0.001、Dunnettの検定。(C) 500 nM SAGで処理した神経上皮における内側基底核原基マーカーNkx2.1の発現。Nkx2.1+ 神経上皮は、Foxg1+終脳NEの40-50%を占めた。(D)胎児大脳皮質と比較した、ヒトES細胞培養における大脳皮質形態形成の模式図。 (E) Days 28-29における管腔側(頂端側)表面近くの頂端側前駆細胞の対称分裂、これらの細胞は、垂直的な分裂角度(定義のために図14を参照のこと)での細胞分裂の前に管腔側表面へと近づき、そして共に基底側へ移動した。pax6::venus ヒトES細胞により可視化(部分的に野生型ヒトES細胞と混合)。(スケールバー、A及びCにおいて200 μm。)グラフ中のバー:SEM。
図20】ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮におけるサブプレート形成。(A-E) Day 70 ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮の免疫染色。(A及びB) アセチル化チューブリン(AcTubulin;安定化微小管)、DAPI(核染色)、及びネスチン(神経幹細胞の中間型フィラメント)による単純染色によっても、大脳皮質神経上皮において明確な形態学的な層の分離が観察された。(C-E)大脳皮質神経上皮の中間帯(E)におけるcalretinin+神経細胞(C)、MAP2+神経突起(D)、及びCSPG蓄積の、高拡大観察。(F) E14.5マウス胎児大脳皮質の層マーカーの免疫染色。 (G) Day 70 ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮の免疫染色。皮質板におけるGAD65+介在神経細胞の蓄積又はTAG1+大脳皮質下行性の軸索は、ほとんど観察されなかった。(H-J) Day 91 ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮の免疫染色。大脳皮質神経上皮はよく発達し、多層化した構造はより厚くなった(H 及びI)。皮質板には、いくらかの数のBrn2+表層性神経細胞が含まれていた (J)。(K) Day 112 ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮のTbr1の免疫染色シグナル。(L 及びM) Day 112 ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮の皮質板における成熟化した大脳皮質神経細胞マーカーCaMKIIαの発現。CaMKIIα陽性神経細胞の大部分がTbr1(L)を共発現したが、Satb2 (M)は共発現しなかった。(スケールバー、A, B, G, L, 及びMにおいて50 μm;C-Eにおいて20 μm;F and H-Jにおいて100 μm;Kにおいて200 μm。)
図21】oSVZにおけるoRG様神経幹/前駆細胞。(A-C) Day 91のヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮中の頂端側及び基底側 (SVZ) 神経幹・前駆細胞におけるPax6及びSox2の免疫染色。Sox2陽性細胞の大部分はPax6を発現した(C)。(D-F) Notchシグナル阻害による、大脳皮質神経上皮における神経幹/前駆細胞及び神経細胞マーカーの発現に対する効果。Notch阻害剤処理(10 μM DAPT、Days 70-77)により、Sox2- Tbr2+ intermediate神経幹・前駆細胞が増加したが、Sox2+ Tbr2-細胞は処理後も稀なままだった(D and E)。Satb2+神経細胞も、DAPT処理により増加した(D and E)。処理後において、大脳皮質神経上皮の厚さの上昇も観察された (F)。***P < 0.001、DAPT処理(n = 6)とDAPT非処理(n = 5)との間のStudent t検定。(G)ヒト胎児oSVZにおけるoRG神経幹/前駆細胞の模式図。(H 及び H′) SVZにおけるリン酸化vimentin+神経幹/前駆細胞はSox2を発現した。(I) SVZにおける軟膜表面へ伸びる長い頂端側突起を有するリン酸化vimentin+神経幹/前駆細胞。(J)基底側への突起を有するリン酸化vimentin+神経幹/前駆細胞は、pericentrin+中心体を神経細胞体内に有していた。分裂の間、2つのpericentrin+中心体が、分裂細胞において見出された。(K-K″) oRG様神経幹/前駆細胞とは異なり、ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮中のTbr2+、リン酸化vimentin+神経幹/前駆細胞は、基底膜側に突起を有していなかった(頂端側の突起も同様)。(スケールバー、A-E において100 μm; H-K において25 μm。)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、多能性幹細胞の凝集塊を、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存在下で浮遊培養することにより、終脳マーカー陽性凝集塊を得ること、及び該終脳マーカー陽性凝集塊を、更に浮遊培養することを含む、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織を含む細胞凝集塊の製造方法を提供するものである。更なる浮遊培養は、好適には、高酸素分圧条件下で行われる。
以下、本発明の詳細を説明する。
【0020】
(1)多能性幹細胞
「多能性幹細胞」とは、生体を構成するすべての細胞に分化しうる能力(分化多能性)と、細胞分裂を経て自己と同一の分化能を有する娘細胞を生み出す能力(自己複製能)とを併せ持つ細胞をいう。
【0021】
分化多能性は、評価対象の細胞を、ヌードマウスに移植し、三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)のそれぞれの細胞を含むテラトーマ形成の有無を試験することにより、評価することができる。
【0022】
多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等を挙げることができるが、分化多能性及び自己複製能を併せ持つ細
胞である限り、これに限定されない。本発明においては、胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞が好適に用いられる。
【0023】
胚性幹細胞(ES細胞)は、例えば、着床以前の初期胚、当該初期胚を構成する内部細胞塊、単一割球等を培養することによって樹立することができる(Manipulating the Mouse
Embryo A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press
(1994);Thomson, J. A. et al., Science, 282, 1145-1147 (1998))。初期胚として、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を用いてもよい(Wilmut et al. (Nature, 385, 810 (1997))、Cibelli et al. (Science, 280, 1256 (1998))、入谷明ら
(蛋白質核酸酵素, 44, 892 (1999))、Baguisi et al. (Nature Biotechnology, 17, 456 (1999))、Wakayama et al. (Nature, 394, 369 (1998); Nature Genetics, 22, 127 (1999); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 14984 (1999))、Rideout III et al. (Nature Genetics, 24, 109 (2000) 、Tachibana et al. (Human Embryonic Stem Cells Derived by Somatic Cell Nuclear Transfer, Cell (2013) in press)。初期胚として、単為発生
胚を用いてもよいKim et al. (Science, 315, 482-486 (2007))、Nakajima et al. (Stem Cells, 25, 983-985 (2007))、Kim et al. (Cell Stem Cell, 1, 346-352 (2007)
)、Revazova et al. (Cloning Stem Cells, 9, 432-449 (2007))、Revazova et al.
(Cloning Stem Cells, 10, 11-24 (2008))。
【0024】
ES細胞と体細胞の細胞融合によって得られる融合ES細胞も、本発明の方法に用いられる胚性幹細胞に含まれる。
【0025】
胚性幹細胞は、所定の機関より入手でき、また、市販品を購入することもできる。例えば、ヒト胚性幹細胞であるKhES-1、KhES-2及びKhES-3は、京都大学再生医科学研究所より入手可能である。
【0026】
胚性生殖細胞(EG細胞)は、始原生殖細胞を、LIF, bFGF, SCFの存在下で培養すること等により樹立することができる(Matsui et al., Cell, 70, 841-847 (1992)、Shamblott
et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(23), 13726-13731 (1998)、Turnpenny et al., Stem Cells, 21(5), 598-609, (2003))。
【0027】
誘導多能性幹細胞(iPS細胞)とは、体細胞(例えば線維芽細胞、皮膚細胞、リンパ球
等)へ核初期化因子を接触させることにより、人為的に分化多能性及び自己複製能を獲得した細胞をいう。iPS細胞は、体細胞(例えば線維芽細胞、皮膚細胞等)にOct3/4、Sox2
、Klf4およびc-Mycからなる核初期化因子を導入する方法で初めて見出された(Cell, 126: p. 663-676, 2006)。その後、多くの研究者により、リプログラム因子の組み合わせや因子の導入法について様々な改良が進められており、多様な誘導多能性幹細胞の製造法が報告されている。
【0028】
核初期化因子は、線維芽細胞等の体細胞から分化多能性および自己複製能を有する細胞を誘導することができる物質(群)であれば、タンパク性因子またはそれをコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)、あるいは低分子化合物等のいかなる物質から構成されてもよい。核初期化因子がタンパク性因子またはそれをコードする核酸の場合、好ましくは以下の組み合わせが例示される(以下においては、タンパク性因子の名称のみを記載する)。
(1) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), N-Myc, L-Mycで置換可能である。)
(2) Oct3/4, Klf4, Sox2
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(4) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28
(6) Oct3/4, Klf4, Sox2, bFGF
(7) Oct3/4, Klf4, Sox2, SCF
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, bFGF
(9) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SCF
【0029】
これらの組み合わせの中で、得られるiPS細胞を治療用途に用いることを念頭においた
場合、Oct3/4, Sox2及びKlf4の3因子の組み合わせが好ましい。一方、iPS細胞を治療用途に用いることを念頭に置かない場合(例えば、創薬スクリーニング等の研究ツールとして用いる場合など)は、Oct3/4, Klf4, Sox2及びc-Mycの4因子か、それにLin28またはNanogを加えた5因子が好ましい。
【0030】
自家移植用途にはiPS細胞が好適に用いられる。
【0031】
染色体上の遺伝子を公知の遺伝子工学の手法を用いて改変した多能性幹細胞も、本発明において使用できる。多能性幹細胞は、公知の方法を用いて、分化マーカーをコードする
遺伝子に標識遺伝子(例えばGFP等の蛍光タンパク質)をインフレームにノックインする
ことにより、標識遺伝子の発現を指標として対応する分化段階に達したことを識別可能とした細胞であってもよい。
【0032】
多能性幹細胞としては、例えば温血動物、好ましくは哺乳動物の多能性幹細胞を使用できる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類を挙げることができる。多能性幹細胞は、好ましくは、げっ歯類(マウス、ラット等)又は霊長類(ヒト等)の多能性幹細胞であり、最も好ましくはヒト多能性幹細胞である。
【0033】
多能性幹細胞は、自体公知の方法により維持培養できる。例えば、臨床応用の観点では、多能性幹細胞は、KnockoutTMSerum Replacement(KSR)などの血清代替物を用いた
無血清培養や、無フィーダー細胞培養により維持することが好ましい。
【0034】
本発明において使用される多能性幹細胞は、好ましくは単離されている。「単離」とは、目的とする細胞や成分以外の因子を除去する操作がなされ、天然に存在する状態を脱していることを意味する。「単離されたヒト多能性幹細胞」の純度(総細胞数に占めるヒト多能性幹細胞数の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは99%以上、最も好ましくは100%である。
【0035】
(2)多能性幹細胞の凝集塊の形成
多能性幹細胞の凝集塊は、分散させた多能性幹細胞を、培養器に対して、非接着性の条件下で培養し(即ち、浮遊培養し)、複数の多能性幹細胞を集合させて凝集塊を形成させることにより、得ることができる。
【0036】
この凝集塊形成に用いる培養器としては、特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マイクロポア、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。非接着性の条件下での培養を可能とするため、培養器は、細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞非接着性となるように人工的に処理されているものや、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)されていないもの等を使用することができる。
【0037】
凝集塊の形成時に用いられる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、Ham’s F−12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0038】
多能性幹細胞から、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導に、悪影響を与えない観点から、凝集塊の形成時に用いられる培地は、好ましくは、無血清培地である。無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味する。精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、サイトカイン)を含有する培地は無血清培地に該当するものとする。
【0039】
凝集塊の形成時に用いられる培地は、血清代替物を含有していてもよい。血清代替物は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。かかる血清代替物は、例えば、WO98/30679記載の方法により調製できる。また、本発明の方法をより簡便に実施するために、血清代替物は市販のものを利用できる。かかる市販の血清代替物としては、例えば、KSR(knockout serum replacement)(Invitrogen社製)、Chemically-defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutamax(Gibco社製)が挙げられる。
【0040】
凝集塊の形成に用いられる培地は、多能性幹細胞から、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導に、悪影響を与えない範囲で、他の添加物を含むことができる。添加物としては、例えば、インスリン、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d−ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
また、凝集塊の形成に用いられる培地は、後述する、多能性幹細胞から、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導において用いられる培地であってもよい。
【0042】
多能性幹細胞の凝集塊の形成に際しては、まず、多能性幹細胞を継代培養から回収し、これを、単一細胞、又はこれに近い状態にまで分散する。多能性幹細胞の分散は、適切な細胞解離液を用いて行われる。細胞解離液としては、例えば、EDTA;トリプシン、コラゲナーゼIV、メタロプロテアーゼ等のタンパク分解酵素等を単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。なかでも細胞障害性が少ないものが好ましく、このような細胞解離液として、例えば、ディスパーゼ(エーディア)、TrypLE (Invitrogen)又はアキュターゼ(MILLIPORE)等の市販品が入手可能である。分散された多能性幹細胞は上記培地中に懸濁される。
【0043】
分散により誘導される多能性幹細胞(特に、ヒト多能性幹細胞)の細胞死を抑制するために、Rho-associated coiled-coilキナーゼ(ROCK)の阻害剤を培養開始時から添加することが好ましい(特開2008-99662)。ROCK阻害剤を培養開始から例えば15日以内、好ましくは10日以内、より好ましくは6日以内添加する。ROCK阻害剤としては、Y−27632((+)−(R)−trans−4−(1−aminoethyl)−N−(4−pyridyl)cyclohexanecarboxamide dihydrochloride)等を挙げることができる。浮遊培養に用いられるROCK阻害剤の濃度は、分散により誘導される多能性幹細胞の細胞死を抑制し得る濃度である。例えば、Y−27632について、このような濃度は、通常約0.1〜200μM、好ましくは約2〜50μMである。ROCK阻害剤の濃度を添加する期間内で変動させてもよく、例えば期間の後半で濃度を半減させることができる。
【0044】
分散された多能性幹細胞の懸濁液を、上記培養器中に播き、分散させた多能性幹細胞を、培養器に対して、非接着性の条件下で培養することにより、複数の多能性幹細胞を集合させて凝集塊を形成する。この際、分散された多能性幹細胞を、10cmディッシュのような、比較的大きな培養器に播種することにより、1つの培養コンパートメント中に複数の多能性幹細胞の凝集塊を同時に形成させてもよいが、こうすると凝集塊ごとの大きさや、中に含まれる多能性幹細胞の数に大きなばらつきが生じ、このばらつきが原因で、多能性幹細胞から、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化の程度に、凝集塊間で差が生じ、結果として分化誘導の効率が低下してしまう。そこで、分散した多能性幹細
胞を迅速に凝集させて、1つの培養コンパートメント中に1つの凝集塊を形成することが好ましい。このような分散した多能性幹細胞を迅速に凝集させる方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる:
(1)比較的小さな体積(例えば、1ml以下、500μl以下、200μl以下、100μl以下)の培養コンパートメント中に、分散した多能性幹細胞を閉じ込め、該コンパートメント中に1個の凝集塊を形成する方法。好ましくは分散した多能性幹細胞を閉じ込めた後、培養コンパートメントを静置する。培養コンパートメントとしては、マルチウェルプレート(384ウェル、192ウェル、96ウェル、48ウェル、24ウェル等)、マイクロポア、チャンバースライド等におけるウェルや、チューブ、ハンギングドロップ法における培地の液滴等を挙げることができるが、これらに限定されない。該コンパートメントに閉じ込められた分散した多能性幹細胞が、重力にうながされて1箇所に沈殿し、或いは細胞同士が接着することにより、1つの培養コンパートメントにつき、1つの凝集塊が形成される。マルチウェルプレート、マイクロポア、チャンバースライド、チューブ等の底の形状は、分散した多能性幹細胞が1箇所へ沈殿するのが容易となるように、U底又はV底とすることが好ましい。
(2)遠心チューブに分散した多能性幹細胞を入れ、これを遠心し、1箇所に多能性幹細胞を沈殿させることにより、該チューブ中に1個の凝集塊を形成する方法。
【0045】
1つの培養コンパートメント中に播く多能性幹細胞の数は、1つの培養コンパートメントにつき1つの凝集塊が形成され、且つ本発明の方法によって、該凝集塊において、多能性幹細胞から、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導が可能であれば、特に限定されないが、1つの培養コンパートメントにつき、通常約1×10〜約5×10個、好ましくは約1×10〜約2×10個、より好ましくは約2×10〜約1.2×10個の多能性幹細胞を播く。そして、多能性幹細胞を迅速に凝集させることにより、1つの培養コンパートメントにつき、通常約1×10〜約5×10個、好ましくは約1×10〜約2×10個、より好ましくは約2×10〜約1.2×10個の多能性幹細胞からなる細胞凝集塊が1個形成される。
【0046】
凝集塊形成までの時間は、1つのコンパートメントにつき1つの凝集塊が形成され、且つ本発明の方法によって、該凝集塊において、多能性幹細胞から、大脳皮質又はその前駆組織への分化誘導が可能な範囲で適宜決定可能であるが、この時間を短くすることにより、目的とする大脳皮質組織又はその前駆組織への効率よい分化誘導が期待できるため、この時間は短いほうが好ましい。好ましくは、24時間以内、より好ましくは12時間以内、さらに好ましくは6時間以内、最も好ましくは、2〜3時間で、多能性幹細胞の凝集塊を形成する。この凝集塊形成までの時間は、細胞を凝集させる用具や、遠心条件などを調整することで当業者であれば適宜調節することが可能である。
【0047】
また凝集塊形成時の培養温度、CO濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。
【0048】
更に、同一培養条件の培養コンパートメントを複数用意し、各培養コンパートメントにおいて、1個の多能性幹細胞の凝集塊を形成させることにより、質的に均一な、多能性幹細胞の凝集塊の集団を得ることができる。多能性幹細胞の凝集塊が質的に均一であることは、凝集塊のサイズおよび細胞数、巨視的形態、組織染色解析による微視的形態およびその均一性、分化および未分化マーカーの発現およびその均一性、分化マーカーの発現制御およびその同期性、分化効率の凝集塊間の再現性などに基づき、評価することが可能である。一態様において、本発明の方法に用いる、多能性幹細胞の凝集塊の集団は、凝集塊中に含まれる多能性幹細胞の数が均一である。特定のパラメーターについて、多能性幹細胞の凝集塊の集団が「均一」とは、凝集塊の集団全体のうちの90%以上の凝集塊が、当該
凝集塊の集団における当該パラメーターの平均値±10%の範囲内、好ましくは、平均値±5%の範囲内であることを意味する。
【0049】
(3)終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織の誘導
本発明の製造方法は、多能性幹細胞の凝集塊を、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存在下で浮遊培養することにより、終脳マーカー陽性凝集塊を得ること(第1の培養工程)、及び該終脳マーカー陽性凝集塊を、更に浮遊培養すること(第2の培養工程)を含む。第2の培養工程における浮遊培養は、好適には、高酸素分圧条件下で行われる。第1の培養工程により、多能性幹細胞から、終脳領域への分化方向をコミットすることにより、終脳マーカー遺伝子の発現が誘導され、得られた終脳マーカー陽性凝集塊を第2の培養工程に付すことにより、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への更なる分化が誘導される。
【0050】
終脳マーカーとしては、Foxg1(Bf1とも呼ばれる)、Six3等を挙げることができるが、これらに限定されない。終脳マーカー陽性凝集塊は、少なくとも1つの終脳マーカーを発現する細胞を含有する。好ましい態様において、終脳マーカー陽性凝集塊は、Foxg1陽性
凝集塊である。終脳マーカー陽性凝集塊においては、例えば、該凝集塊に含まれる細胞の30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上が、終脳マーカー陽性である。
【0051】
終脳の部分組織としては、大脳皮質、大脳基底核、海馬、脈絡膜等を挙げることができる。
【0052】
本発明によれば、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織が、多能性幹細胞の凝集塊内に自己組織化される。本発明の一態様によれば、多能性幹細胞の凝集塊を、Wntシ
グナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存在下で浮遊培養することにより、終脳マーカ
ー陽性凝集塊(例、Foxg1陽性凝集塊)を得て、該終脳マーカー陽性凝集塊(例、Foxg1陽性凝集塊)を、(好適には、高酸素分圧条件下で)更に浮遊培養することにより、該凝集塊中に、終脳マーカー陽性の神経上皮様構造が形成される。一態様において、神経上皮様構造を含む凝集塊に含まれる細胞の70%以上が終脳マーカー陽性(例、Foxg1陽性)で
ある。一態様において、凝集塊中に形成された、神経上皮様構造は、内部に脳室様の空洞を有した多列円柱上皮構造を呈する。一態様において、該神経上皮構造は、内腔側にPax6陽性およびSox2陽性の細胞層を有し、最も内腔の部分にリン酸化Histone H3陽性の有糸分裂細胞を含む。これらの構造は、ヒト妊娠初期の大脳皮質の脳室帯に類似する。一態様において、脳室帯に類似した神経上皮様の細胞層の外側には、有糸分裂後の神経細胞のマーカーであるTuj1を発現し、大脳皮質の初期皮質板マーカーであるCtip2とTbr1を発現する
細胞が含まれる。これらは、大脳皮質の第1層の神経細胞であるReelin陽性カハールレチウス細胞を含み、表層近くにはLamininを多く含んだ層を有し得る。つまり、好ましい態
様において、本発明の製造方法により得られる凝集塊には、大脳皮質前駆組織が含まれる。
【0053】
多能性幹細胞の凝集塊を「浮遊培養する」とは、多能性幹細胞の凝集塊を、培地中において、培養器に対して非接着性の条件下で培養することをいう。これにより、従来の接着培養では困難であった立体形成が可能になる。
【0054】
浮遊培養に用いられる培地は、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤を含む。Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の作用により、多能性幹細胞から終脳領域への分化誘導を効率的に行うことが出来る。
【0055】
Wntシグナル阻害剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものであ
る限り特に限定されない。Wntシグナル阻害剤としては、例えば、IWR-1-endo(4-[(3aR,4S,7R,7aS)-1,3,3a,4,7,7a-hexahydro-1,3-dioxo-4,7-methano-2H-isoindol-2-yl]-N-8-quinolinyl-benzamide)、IWP-2、XAV939、Dkk1、Cerberus蛋白、Wnt受容体阻害剤、可溶型Wnt受容体、Wnt抗体、カゼインキナーゼ阻害剤、ドミナントネガティブWnt蛋白が挙げられるがこれらに限定されない。なかでも、IWR-1-endoが好ましい。
【0056】
TGFβシグナル阻害剤は、TGFβにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。TGFβシグナル阻害剤としては、SB431542(4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド)、LY-364947、SB-505、A-83-01等が挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、SB431542が好ましい。
【0057】
好ましいWntシグナル阻害剤とTGFβシグナル阻害剤の組み合わせは、IWR-1-endo及
びSB431542である。
【0058】
培地中のWntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の濃度は、凝集塊において、
多能性幹細胞から終脳領域への分化誘導を可能な範囲で、適宜設定することができるが、Wntシグナル阻害剤としてIWR-1-endoを用いる場合、その濃度は、通常、0.1〜50 μM
、好ましくは0.3〜5 μMである。TGFβシグナル阻害剤としてSB431542を用いる場合、そ
の濃度は、通常、0.1〜100 μM、好ましくは1〜10 μMである。
【0059】
凝集塊の浮遊培養に用いられる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、Ham’s F−12培地、RPMI
1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。好ましくは、Glasgow MEM培地が用いられる。
【0060】
多能性幹細胞から、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導に、悪影響を与えない観点から、凝集塊の浮遊培養に用いられる培地は、好ましくは、無血清培地である。
【0061】
凝集塊の浮遊培養に用いられる培地は、血清代替物を含有していてもよい。血清代替物は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。かかる血清代替物は、例えば、WO98/30679記載の方法により調製できる。また、本発明の方法をより簡便に実施するために、血清代替物は市販のものを利用できる。かかる市販の血清代替物としては、例えば、KSR(knockout serum replacement)(Invitrogen社製)、Chemically-defined Lipid concentrated(Gibco社製)
、Glutamax(Gibco社製)が挙げられる。
【0062】
凝集塊の浮遊培養に用いられる培地は、多能性幹細胞から、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導に、悪影響を与えない範囲で、他の添加物を含むことができる。添加物としては、例えば、インスリン、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコ
ルビン酸、d−ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
一態様において、凝集塊の浮遊培養に用いられる培地は、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導に悪影響を与えない観点から、成長因子を含まない化学合成培地(growth-factor-free Chemically Defined Medium; gfCDM)に、血清代替物(K
SR等)を添加したものである。ここにいう「成長因子」には、Fgf、Wnt、Nodal、Notch、Shh等のパターン形成因子;インスリン及びLipid-rich albuminが包含される。
【0064】
凝集塊の浮遊培養における培養温度、CO濃度、O濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。CO濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。O濃度は、例えば約20%である。
【0065】
第一の培養工程は、終脳領域への分化方向がコミットされて、終脳マーカー陽性凝集塊(例、Foxg1陽性凝集塊)が誘導されるのに十分な期間実施される。終脳マーカー陽性凝
集塊は、例えば、RT-PCRや、終脳マーカー特異的抗体を用いた免疫組織化学により検出することができる。例えば、培養中の細胞凝集塊のうち50%以上、好ましくは70%以上の細胞凝集塊が終脳マーカー陽性となるまで実施される。培養期間は、多能性幹細胞の動物種や、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の種類に応じて変動し得るので
、一概に特定することは出来ないが、例えば、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、第一の培養工程は、15〜20日(例、18日)である。
【0066】
第二の培養工程においては、第一の培養工程で得られた終脳マーカー陽性凝集塊を、更に浮遊培養することにより、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織を含む細胞凝集塊を得る。第二の培養工程における浮遊培養は、好適には高酸素分圧条件下で行われる。高酸素分圧条件下で終脳マーカー陽性凝集塊を更に浮遊培養することにより、凝集塊に含まれる脳室帯の長期間の維持培養が達成され、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織への効率的な分化誘導が可能となる。
【0067】
高酸素分圧条件とは、空気中の酸素分圧(20%)を上回る酸素分圧条件を意味する。第二の培養工程における酸素分圧は、例えば、30〜60%、好ましくは35〜60%、より好ましくは38〜60%である。
【0068】
第二の培養工程に用いられる培地は、第一の培養工程に用いられる培地と同様に、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、Ham’s F−12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。好ましくは、DMEM培地が用いられる。
【0069】
第二の培養工程においては、第一の培養工程に用いられた、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤は不要である。一態様において、第二の培養工程に用いられる培地には、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤が含まれない。
【0070】
第二の培養工程に用いられる培地は、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織へ
の分化誘導を促進するため、血清代替物としてN2サプリメントを含有することが好ましい。N2サプリメントは、インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、プトレスシン及び亜セレン酸ナトリウムを含む、公知の血清代替用組成物であり、Gibco/Invitrogen社等から購入可能である。N2サプリメントの添加量は、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導が促進されるように、適宜設定することができる。
【0071】
また、第二の培養工程に用いられる培地は、脳室帯の長期間の維持培養のため、化学的に決定された脂質濃縮物(Chemically Defined Lipid Concentrate)を含有することが好ましい。Chemically Defined Lipid Concentrateは、それぞれ精製された、コレステロール、DL-α−トコフェロール、アラキドン酸、リノレン酸、リノール酸、ミリスチン酸、
オレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、及びステアリン酸を含む脂質混合物である。 Chemically Defined Lipid Concentrateは市販のものを使用することができ、例え
ば、Gibco/Invitrogen社等から購入可能である。
【0072】
凝集塊の浮遊培養に用いられる培地は、多能性幹細胞から、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導に、悪影響を与えない範囲で、他の添加物を含むことができる。添加物としては、例えば、インスリン、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d−ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
一態様において、第二の培養工程において用いられる培地は、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導に、悪影響を与えない観点から、成長因子を含まない化学合成培地(growth-factor-free Chemically Defined Medium; gfCDM)に、血清代替
物(KSR等)を添加したものである。ここにいう「成長因子」には、Fgf、Wnt、Nodal、Notch、Shh等のパターン形成因子;インスリン及びLipid-rich albuminが包含される。
【0074】
好ましい態様において、第二の培養工程における培地は、N2サプリメント及びChemically Defined Lipid Concentrateを含有する。
【0075】
一態様において、第二の培養工程における培地は、無血清培地である。
【0076】
一態様において、第二の培養工程における培地は、血清を含んでいてもよい。血清は、脳室帯の長期間の維持培養に寄与し得る。血清としては、FBS等が挙げられるが、これに
限定されない。血清は非動化されていることが好ましい。培地中の血清濃度は、脳室帯の長期間の維持培養に寄与しうる範囲で適宜調整することができるが、通常1〜20%(v/v)である。
【0077】
一態様において、第二の培養工程における培地は、ヘパリンを含んでいてもよい。ヘパリンは、脳室帯の長期間の維持培養に寄与し得る。培地中のヘパリン濃度は、脳室帯の長期間の維持培養に寄与しうる範囲で適宜調整することができるが、通常0.5〜50μg/m
l、好ましくは1〜10μg/ml(例、5μg/ml)である。
【0078】
一態様において、第二の培養工程における培地は、細胞外マトリクス成分を含んでいてもよい。細胞外マトリクスは、脳室帯の長期間の維持培養に寄与し得る。「細胞外マトリクス成分」とは、細胞外マトリクス中に通常見出される各種成分をいう。本発明の方法で
は、基底膜成分を用いることが好ましい。基底膜の主成分としては、例えばIV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンが挙げられる。培地に添加する細胞外マトリクス成分としては市販のものが利用でき、例えば、Matrigel(BD Bioscience)、ヒト型ラミニン(シグマ)などが挙げられる。Mat
rigelは、Engelbreth Holm Swarn(EHS)マウス肉腫由来の基底膜調製物である。Matrigelの主成分はIV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンであるが、これらに加えてTGF−β、線維芽細胞増殖因子(FGF)、組織プラスミノゲン活性化因子、EHS腫瘍が天然に産生する増殖因子が含まれる。Matrigelのgrowth factor reduced製品は、通常のMatrigelよりも増殖因子の濃度が低く、その標準的な濃度はEGFが<0.5ng/ml、NGFが<0.2ng/ml、PDGFが<5pg/ml、IGF−1が5ng/ml、TGF−βが1.7ng/mlである。本発明の方法では、growth factor reduced製品の使用が好ましい。
【0079】
培地中の細胞外マトリクス成分の濃度は、脳室帯の長期間の維持培養に寄与しうる範囲で適宜調整することができるが、Martigelを用いる場合には培養液の1/500-1/20の容量、さらに好ましくは1/100の容積で添加することが好ましい。
【0080】
一態様において、第二の培養工程における培地は、N2サプリメント及びChemically Defined Lipid Concentrateに加えて、血清及びヘパリンを含有する。該態様においては、該培地に細胞外マトリクスを更に含んでいてもよい。本態様の培地は、長期間にわたる終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織の分化誘導を観察するのに適している。この場合、第二の培養工程の全範囲にわたり、N2サプリメント、Chemically Defined Lipid Concentrate、血清及びヘパリン(任意で更に細胞外マトリクス)を含有する培地を用いてもよいが、一部の期間のみ、当該態様の培地を用いてもよい。一態様において、第二の培養工程において、まず、N2サプリメント及びChemically Defined Lipid Concentrateを含み、血清、ヘパリン及び細胞外マトリクスを含有しない培地を用い、途中から(例えば、Foxg1陽性凝集塊中に、脳室様の空洞を有した半球上の神経上皮様構造(多列円柱上皮)が
形成された段階以降において)、N2サプリメント、Chemically Defined Lipid Concentrate、血清、ヘパリン、(任意で、細胞外マトリクス)を含有する培地へ切り替えてもよい。
【0081】
第2の培養工程における培養温度、CO濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。CO濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。
【0082】
第2の培養工程は、少なくとも、Foxg1陽性凝集塊中に、脳室様の空洞を有した半球上
の神経上皮様構造(多列円柱上皮)が形成されるのに十分な期間実施される。当該神経上皮様構造は、顕微鏡観察により確認することが可能である。培養期間は、多能性幹細胞の動物種や、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の種類等に応じて変動し得る
ので、一概に特定することは出来ないが、例えば、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、第2の培養工程は、少なくとも15〜20日(例、17日)である。
【0083】
本発明の方法においては、第2の培養工程を長期間(例、20日以上、好ましくは50日以上、より好ましくは70日以上)に亘り実施することにより、細胞凝集塊内において、安定的な終脳の自己組織化を誘発することが可能であり、第2の培養工程を継続して実施すると、時間の経過とともに、細胞凝集塊内に含まれる終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織の分化段階が進んでいく。そのため、所望の分化段階に到達するまで、第2の培養工程を継続して実施するのが好ましい。
【0084】
一態様において、第2の培養工程を、細胞凝集塊中に、大脳皮質組織又はその前駆組織が、表層から深部に向かって、辺縁帯、皮質板、サブプレート、中間帯、脳室下帯及び脳室帯を含む多層構造を呈するまで実施する。重要なことに、本発明の方法においては、該多層構造を呈する大脳皮質又はその前駆組織が自己組織化される。該多層構造を呈するまでに要する培養期間は、多能性幹細胞の動物種や、Wntシグナル阻害剤及びTGFβシグ
ナル阻害剤の種類等に応じて変動し得るので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、第2の培養工程を、例えば、52日以上実施する。辺縁帯には、一般的に、Reelin陽性のカハールレチウス細胞及びラミニンが含まれる。皮質板には、Tbr1陽性、Ctip2陽性の深部皮質板、及びSatb2を発現した神経細胞を含む浅部皮質板が包含され、浅部皮質板が辺縁帯と接する。大脳皮質前駆組織の分化が十分に進んでいない場合には、浅部皮質板が明確に形成されていない場合もあるが、分化が十分に進むと(例えば、第2の培養工程を73日以上実施すると)、深部皮質板及び浅部皮質板の双方が明確に形成される。サブプレートは、皮質板の直下に形成され、Calretinin陽性かつMAP2陽性の多くの神経突起を含んだ細胞を含む。中間帯は、脳室下帯と皮質板との間の、細胞がまばらな層である。脳室下帯はTbr2陽性で特徴付けられる。脳室帯は、Sox2陽性かつPax6陽性で特徴付けられる。一態様において、第2の培養工程は、細胞凝集塊中に、大脳皮質組織又はその前駆組織が、表層から深部に向かって、辺縁帯、浅部皮質板、深部皮質板、サブプレート、中間帯、外側脳室下帯、脳室下帯及び脳室帯を含む多層構造を呈するまで(例、73日以上)実施する。このような多層構造は、インビボにおいては、ヒト妊娠中期の大脳皮質に見られるものである。
【0085】
興味深いことに、本発明の方法において、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、外側脳室下帯(oSVZ)に、リン酸化Vimentin陽性、Tbr2陰性、Sox2陽性、Pax6陽性の神経幹・前駆細胞が含まれる。該神経幹・前駆細胞は、ヒト胎児の大脳皮質に豊富に存在し、マウス大脳皮質ではほとんど存在しない外側放射状グリア細胞(oRG)と同じ特徴を有する。即ち、
本発明によれば、oRG様細胞の外側脳室下帯における出現という、ヒトに特異的な現象を
インビトロにおいて再現することができる。
【0086】
重要なことに、本発明の方法においては、大脳皮質の背腹軸及び前後軸が自発的に形成される。例えば、一態様において、第2の培養工程において得られる、細胞凝集塊に含まれる、大脳皮質脳室帯において、背尾側マーカー(CoupTF1、Lhx2等)の発現が、片側で
はより強く、反対側では弱いという勾配を示し、吻腹側マーカー(例、Sp8)の発現が、
背尾側マーカーと逆の勾配を示す。或いは、一態様において、大脳皮質脳室帯における背尾側マーカー(例、CoupTF1、Lhx2)が強く発現する領域が皮質ヘムマーカー(例、Zic1
、Otx2)を発現する領域と隣接して形成される。
【0087】
本発明の方法を通じ、多能性幹細胞から終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化誘導が可能な限り、フィーダー細胞の存在下/非存在下いずれの条件で凝集塊の浮遊培養を行ってもよいが、未決定因子の混入を回避する観点から、フィーダー細胞の非存在下で凝集塊の浮遊培養を行うのが好ましい。
【0088】
本発明の方法において、凝集塊の浮遊培養に用いる培養器としては、特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マイクロポア、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。非接着性の条件下での培養を可能とするため、培養器は、細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞非接着性となるように人工的に処理されているものや、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)されていないもの等を使用することができる。
【0089】
凝集塊の浮遊培養に用いる培養器として、酸素透過性のものを用いても良い。酸素透過性の培養器を用いることにより、凝集塊への酸素の供給が向上し、脳室帯の長期間の維持培養に寄与しうる。特に、第2の培養工程においては、細胞凝集塊が大きく成長し、凝集塊の中の細胞(例えば脳室帯の細胞)にまで、十分な酸素が供給されなくなるリスクがあるため、酸素透過性の培養器の使用が好ましい。
【0090】
凝集塊の浮遊培養に際しては、凝集塊の培養器に対する非接着状態を維持できる限り、凝集塊を静置培養してもよいし、旋回培養や振とう培養により凝集塊を意識的に動かしてもよいが、本発明においては、旋回培養や振とう培養により凝集塊を意識的に動かす必要はない。即ち、一態様において、本発明の製造方法における浮遊培養は、静置培養により行われる。静置培養とは、凝集塊を意識的に移動させない状態で培養する培養法のことをいう。すなわち、例えば、局所的な培地温度の変化に伴って、培地が対流し、その流れによって、凝集塊が移動することがあるが、意識的に凝集塊を移動させていないことから、この様な場合も含めて、本発明では静置培養というものとする。浮遊培養の全期間を通じて静置培養を実施してもよいし、一部の期間のみ静置培養を実施してもよい。例えば、上記の第1の培養工程及び第2の培養工程のいずれか一方のみを静置培養とすることができる。好ましい態様において、浮遊培養の全期間を通じて、静置培養を行う。静置培養は装置が不要であり、細胞塊のダメージも少ないことが期待され、培養液の量も少なくできる点で有利である。
【0091】
好ましい態様において、質的に均一な、多能性幹細胞の凝集塊の集団を、Wntシグナル
阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤を含む培地中で浮遊培養する。質的に均一な、多能性幹
細胞の凝集塊の集団を用いることにより、終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織への分化の程度についての凝集塊間での差を最小限に抑制し、目的とする分化誘導の効率を向上することができる。質的に均一な、多能性幹細胞の凝集塊の集団の浮遊培養には、以下の態様が包含される。
(1)複数の培養コンパートメントを用意し、1つの培養コンパートメントに1つの多能性幹細胞の凝集塊が含まれるように、質的に均一な、多能性幹細胞の凝集塊の集団を播く。(例えば、96ウェルプレートの各ウェルに1つずつ、多能性幹細胞の凝集塊を入れる。)そして、各培養コンパートメントにおいて、1つの多能性幹細胞の凝集塊をWntシグ
ナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤を含む培地中で浮遊培養する。
(2)1つの培養コンパートメントに複数の多能性幹細胞の凝集塊が含まれるように、質的に均一な、多能性幹細胞の凝集塊の集団を1つの培養コンパートメントに播く。(例えば、10cmディッシュに、複数の多能性幹細胞の凝集塊を入れる。)そして、該コンパートメントにおいて、複数の多能性幹細胞の凝集塊をWntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤を含む培地中で浮遊培養する。
【0092】
本発明の方法を通じて、(1)及び(2)のいずれの態様を採用してもよく、また、培養の途中で態様を変更してもよい((1)の態様から(2)の態様へ、或いは(2)の態様から(1)の態様へ)。一態様において、第一の培養工程においては(1)の態様を採用し、第二の培養工程において(2)の態様を採用する。
【0093】
上述の通り、本発明の方法においては、細胞凝集塊内において、終脳の自己組織化が誘発されるので、時間の経過とともに、細胞凝集塊内に含まれる終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織の分化段階が進んでいく。従って、目的とする終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織に応じて、培養期間や培養条件を適宜調節することが好ましい。以下(4)〜(11)において、本発明の一態様を説明するが、これらは本発明の例示であって、本発明を限定するものではない。
【0094】
(4)脈絡膜の誘導
本発明の方法の第2の培養工程において、浮遊培養を、Wntシグナル増強剤及び骨形成
因子シグナル伝達経路活性化物質の存在下で行うことにより、細胞凝集塊中に脈絡膜又はその前駆組織を誘導することができる。
【0095】
Wntシグナル増強剤としては、上記方法において用いた場合、脈絡膜又はその前駆組織
を誘導することが可能である限り、特に限定されず、例えば、GSK-3β阻害剤、組み換え
型Wnt3a、Wnt agonist (化合物)、Dkk (Wnt阻害タンパク質の阻害剤)、R-Spondin等が挙
げられる。GSK-3β阻害剤としては、例えば、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(5-methyl-1H-imidazol-2-yl)-2-pyrimidinyl]amino]ethyl]amino]-3-pyridinecarbonitrile)、Kenpaullone、6-Bromoindirubin-3'-oxime(BIO)等を挙げることができる
。Wntシグナル増強剤は、好ましくはGSK-3β阻害剤であり、より好ましくはCHIR99021で
ある。
【0096】
Wntシグナル増強剤の濃度は、上記方法において用いた場合、脈絡膜又はその前駆組織
を誘導することが可能である限り、特に限定されない。CHIR99021を用いる場合、通常、
約0.1μM 〜30μM、好ましくは約1μM〜10μM(例、3μM)である。
【0097】
本明細書において、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質は、骨形成因子と受容体との結合によってシグナルが伝達される経路を活性化する任意の物質を意味する。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の例としてはBMP2、BMP4、BMP7、GDF5などが挙げられる。好ましくは、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質はBMP4である。以下、主にBMP4について記載するが、本発明において使用される骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質はBMP4に限定されない。BMP4は、公知のサイトカインであり、そのアミノ酸配列も公知である。本発明に用いるBMP4は、哺乳動物のBMP4である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類を挙げることができる。BMP4は、好ましくは、げっ歯類(マウス、ラット等)又は霊長類(ヒト等)のBMP4であり、最も好ましくはヒトBMP4である。ヒトBMP4とは、BMP4が、ヒトが生体内で天然に発現するBMP4のアミノ酸配列を有することを意味する。ヒトBMP4の代表的なアミノ酸配列としては、NCBIのアクセッション番号で、NP_001193.2(2013年6月15日更新)、NP_570911.2(2013年6月15日更新)、NP_570912.2(2013年6月15日更新)、これらのアミノ酸配列のそれぞれからN末端シグナル配列(1-24)を除いたアミノ酸配列(成熟型ヒトBMP4アミノ酸配列)等を例示することができる。
【0098】
培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度は、凝集塊において、多能性幹細胞から脈絡膜又はその前駆組織への分化を誘導可能な範囲で、適宜設定することができるが、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる場合、その濃度は、通常、0.05〜10 nM、好ましくは0.1〜2.5 nM(例、0.5 nM)である。
【0099】
好ましい態様において、脈絡膜又はその前駆組織の誘導に用いる培地には、N2サプリメント、Chemically Defined Lipid Concentrate、血清及びヘパリンが含まれ得る。
【0100】
Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地
中での培養は、必ずしも第2の培養工程において、脈絡膜又はその前駆組織が誘導されるまでの全ての期間に亘って行う必要はなく、その一部の期間において行えばよい。例えば、第2の培養工程の開始から、3日間以上、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル
伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養を行えば、脈絡膜又はその前駆組織を誘導するに十分であり、その後、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経
路活性化物質(BMP4等)を含まない培地に切り替えた上で、浮遊培養を継続してもよい。
【0101】
ここで、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を
含む培地中での培養期間が長いほど、脈絡膜選択的な分化を誘導することができる(即ち、同一細胞凝集塊内に、脈絡膜以外の終脳組織(例、大脳皮質、海馬)への分化が生じにくい)。一態様において、細胞凝集塊の集団の8割以上において、脈絡膜又はその前駆組織を誘導することができる。一方、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路
活性化物質(BMP4等)を含む培地中での培養期間が短い場合、同一細胞凝集塊内に、脈絡膜以外の終脳組織(例、大脳皮質、海馬)への分化が生じやすくなり、脈絡膜又はその前駆組織に加え、大脳皮質又はその前駆組織及び/又は海馬又はその前駆組織を同一細胞凝集塊内に含む、細胞凝集塊を得ることができる(後述)。
【0102】
脈絡膜組織が誘導されたことは、脈絡膜マーカー(TTR、Lmx1a、Otx2等)の発現や、終脳マーカー(Foxg1等)の非発現、ひだ状の単層上皮の形態を指標に確認することができ
る。脈絡膜組織の誘導に要する時間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、第2の培養工程の開始から、例えば24日後までには、凝集塊の内部に、脈絡膜組織が誘導される。得られた細胞凝集塊の集団の中から、脈絡膜又はその前駆組織が誘導された細胞凝集塊を選択することにより、脈絡膜又はその前駆組織を含む細胞凝集塊を得ることができる。
【0103】
(5)海馬の誘導
本発明の方法の第2の培養工程において、浮遊培養を、Wntシグナル増強剤の存在下で
行うことにより、細胞凝集塊中に海馬又はその前駆組織(皮質ヘム等)を誘導することができる。
【0104】
Wntシグナル増強剤としては、上記方法において用いた場合、海馬又はその前駆組織を
誘導することが可能である限り、特に限定されず、例えば、GSK-3β阻害剤、組み換え型Wnt3a、Wnt agonist (化合物)、Dkk (Wnt阻害タンパク質の阻害剤)、R-Spondin等が挙げられる。GSK-3β阻害剤としては、例えば、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(5-methyl-1H-imidazol-2-yl)-2-pyrimidinyl]amino]ethyl]amino]-3-pyridinecarbonitrile)、Kenpaullone、6-Bromoindirubin-3'-oxime(BIO)等を挙げることができる。Wntシグナル増強剤は、好ましくはGSK-3β阻害剤であり、より好ましくはCHIR99021である。
【0105】
Wntシグナル増強剤の濃度は、上記方法において用いた場合、海馬又はその前駆組織を
誘導することが可能である限り、特に限定されない。CHIR99021を用いる場合、通常、約0.1μM 〜30μM、好ましくは約1μM〜10μM(例、3μM)である。
【0106】
好ましい態様において、海馬又はその前駆組織の誘導に用いる培地には、N2サプリメント、Chemically Defined Lipid Concentrate、血清及びヘパリンが含まれ得る。
【0107】
Wntシグナル増強剤を含む培地中での培養は、必ずしも第2の培養工程において、海馬
又はその前駆組織が誘導されるまでの全ての期間に亘って行う必要はなく、その一部の期間において行えばよい。例えば、第2の培養工程の開始から、3日間以上、Wntシグナル
増強剤を含む培地中で浮遊培養を行えば、海馬又はその前駆組織を誘導するに十分であり、その後、Wntシグナル増強剤を含まない培地に切り替えた上で、浮遊培養を継続しても
よい。
【0108】
ここで、Wntシグナル増強剤を含む培地中での培養期間が長いほど、海馬選択的な分化
を誘導することができる(即ち、同一細胞凝集塊内に、海馬組織以外の終脳組織(例、大脳皮質、脈絡膜)への分化が生じにくい)。一態様において、細胞凝集塊の集団の8割以
上において、海馬又はその前駆組織を誘導することができる。一方、Wntシグナル増強剤
を含む培地中での培養期間が短い場合、同一細胞凝集塊内に、海馬以外の終脳組織(例、大脳皮質、脈絡膜)への分化が生じやすくなり、海馬組織又はその前駆組織に加え、大脳皮質又はその前駆組織及び/又は脈絡膜又はその前駆組織を同一細胞凝集塊内に含む、細胞凝集塊を得ることができる。
【0109】
一態様において、海馬又はその前駆組織の誘導に用いる培地には、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)が含まれない。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含まない培地を用いることにより、脈絡膜への分化誘導を抑制し、海馬組織又はその前駆組織の選択的な誘導が可能となる。
【0110】
別の態様において、海馬又はその前駆組織の誘導に用いる培地には、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)が含まれていてもよい。この場合、分化の海馬選択性が低下する一方、同一細胞凝集塊内に、海馬以外の終脳組織(例、脈絡膜)への分化が生じやすくなる。
【0111】
海馬又はその前駆組織が誘導されたことは、皮質ヘムマーカー(Lmx1a、Otx2等)の発
現、終脳マーカー(Foxg1等)の発現を指標に確認することができる。海馬又はその前駆
組織の誘導に要する時間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、第2の培養工程の開始から、例えば24日後までには、凝集塊の内部に、海馬又はその前駆組織が誘導される。得られた細胞凝集塊の集団の中から、海馬又はその前駆組織が誘導された細胞凝集塊を選択することにより、海馬又はその前駆組織を含む細胞凝集塊を得ることができる。
【0112】
(6)脈絡膜、海馬前駆組織及び大脳皮質前駆組織の誘導
本発明の方法の第2の培養工程において、浮遊培養を、一過性に、Wntシグナル増強剤
及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の存在下で行うことにより、1つの細胞凝集塊中に、脈絡膜(又はその前駆組織)と海馬(又は前駆組織)と大脳皮質(又はその前駆組織)を誘導することができる。
【0113】
即ち、第2の培養工程において、浮遊培養を、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグ
ナル伝達経路活性化物質の存在下で行い、得られた細胞凝集塊を、Wntシグナル増強剤及
び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の不在下で更に培養する。その結果、得られた細胞凝集塊に含まれる連続した神経上皮中に、脈絡膜(又はその前駆組織)、海馬組織(又は前駆組織)及び大脳皮質組織(又はその前駆組織)が形成される。一態様において、細胞凝集塊の集団の8割以上において、連続した神経上皮中に、脈絡膜(又はその前駆組織)、海馬組織(又は前駆組織)及び大脳皮質組織(又はその前駆組織)を誘導することができる。
【0114】
理論には束縛されないが、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化
物質処理による、脈絡膜組織の形成、その後のこれらの因子の除去という一連の操作(添加による促進、及び除去による揺り戻し)(induction-reversal method)によってオー
ガナイザー活性と称するシグナルが流れて、脈絡膜組織、皮質ヘム、歯条回組織、アンモン角組織の適切な自己組織化が達成され得る。
【0115】
Wntシグナル増強剤としては、上記方法において用いた場合、1つの細胞凝集塊中に、
脈絡膜(又はその前駆組織)、海馬(又は前駆組織)及び大脳皮質(又はその前駆組織)を誘導することができる限り、特に限定されず、例えば、GSK-3β阻害剤、組み換え型Wnt3a、Wnt agonist (化合物)、Dkk (Wnt阻害タンパク質の阻害剤)、R-Spondin等が挙げられ
る。GSK-3β阻害剤としては、例えば、CHIR99021、Kenpaullone、6-Bromoindirubin-3'-oxime(BIO)等を挙げることができる。Wntシグナル増強剤は好ましくは、GSK-3β阻害剤
であり、より好ましくはCHIR99021である。
【0116】
Wntシグナル増強剤の濃度は、上記方法において用いた場合、1つの細胞凝集塊中に、
脈絡膜(又はその前駆組織)、海馬(又は前駆組織)及び大脳皮質組織(又はその前駆組織)を誘導することができる限り、特に限定されない。CHIR99021を用いる場合、通常、
約0.1μM 〜100μM、好ましくは約1μM〜30μM(例、3μM)である。
【0117】
骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の例としてはBMP2、BMP4、BMP7、GDF5などが挙げられる。好ましくは、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質はBMP4である。
【0118】
培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度は、上記方法において用いた場合、1つの細胞凝集塊中に、脈絡膜(又はその前駆組織)、海馬(又は前駆組織)及び大脳皮質(又はその前駆組織)を誘導することができる限り、特に限定されないが、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる場合、その濃度は、通常、0.05〜10
nM、好ましくは0.1〜2.5 nM(例、0.5 nM)である。
【0119】
好ましい態様において、本方法論における第2の培養工程に用いる培地には、N2サプリメント、Chemically Defined Lipid Concentrate、血清及びヘパリンが含まれ得る。
【0120】
Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地
中での培養の期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、通常、1〜7日、好ましくは2〜4日(例、3日)である。
【0121】
Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を除去した
後の培養期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、通常、10日以上、好ましくは14日以上である。
【0122】
1つの細胞凝集塊中に、脈絡膜(又はその前駆組織)、海馬(又は前駆組織)及び大脳皮質組織(又はその前駆組織)が連続的に形成されたことは、各組織のマーカーの発現を指標に確認することができる。例えば、生体と類似した互いに隣接した配置で、Lmx1aが
陽性でFoxg1が陰性の脈絡膜領域、Lmx1a、Otx2を発現しFoxg1弱陽性である皮質ヘムの領
域、Lef1陽性でFoxg1が陽性の海馬前駆組織の領域、Lef1陰性かつFoxg1陽性の大脳皮質前駆組織が、同一神経上皮上に連続的に形成される。
【0123】
得られた細胞凝集塊の集団の中から、連続した神経上皮中に、脈絡膜(又はその前駆組織)、海馬(又は前駆組織)及び大脳皮質(又はその前駆組織)が形成された細胞凝集塊を選択することにより、目的とする細胞凝集塊を得ることができる。
【0124】
(7)海馬組織内の各領域の連続的な立体形成
(6)と同様に、本発明の方法の第2の培養工程において、浮遊培養を、一過性に、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の存在下で行うことにより
、1つの細胞凝集塊中に、歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)を連続的に含む、海馬組織又はその前駆組織を誘導することができる。これまでに、多能性幹細胞からアンモン角組織(又はその前駆組織)を分化させたという報告はない。
【0125】
即ち、第2の培養工程において、浮遊培養を、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグ
ナル伝達経路活性化物質の存在下で行い、得られた細胞凝集塊を、高酸素分圧条件下、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の不在下で更に培養する。
その結果、得られた細胞凝集塊における連続した神経上皮中に、歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)を含む海馬組織又はその前駆組織が形成される。また、この培養の結果、アンモン角組織(又はその前駆組織)を含む細胞凝集塊を得ることができる。
【0126】
理論には束縛されないが、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化
物質処理による、脈絡膜組織の形成、その後のこれらの因子の除去という一連の操作(添加による促進、及び除去による揺り戻し)(induction-reversal method)によってオー
ガナイザー活性と称するシグナルが流れて、脈絡膜組織、皮質ヘム、歯条回組織、アンモン角組織の適切な自己組織化が達成され得る。
【0127】
Wntシグナル増強剤としては、上記方法において用いた場合、1つの細胞凝集塊中に、
歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)を誘導することができる限り、特に限定されず、例えば、GSK-3β阻害剤、組み換え型Wnt3a、Wnt agonist (化合物)、Dkk (Wnt阻害タンパク質の阻害剤)、R-Spondin等が挙げられる。GSK-3β
阻害剤としては、例えば、CHIR99021、Kenpaullone、6-Bromoindirubin-3'-oxime(BIO)等を挙げることができる。Wntシグナル増強剤は、好ましくはGSK-3β阻害剤であり、より好ましくはCHIR99021である。
【0128】
Wntシグナル増強剤の濃度は、上記方法において用いた場合、1つの細胞凝集塊中に、
歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)を誘導することができる限り、特に限定されない。CHIR99021を用いる場合、通常、約0.1μM 〜30μM、好ましくは約1μM〜10μM(例、3μM)である。
【0129】
骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の例としてはBMP2、BMP4、BMP7、GDF5などが挙げられる。好ましくは、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質はBMP4である。
【0130】
培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度は、上記方法において用いた場合、1つの細胞凝集塊中に、歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)を誘導することができる限り、特に限定されないが、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる場合、その濃度は、通常、0.05〜10 nM、好まし
くは0.1〜2.5 nM(例、0.5 nM)である。
【0131】
好ましい態様において、本方法論における第2の培養工程に用いる培地には、N2サプリメント、Chemically Defined Lipid Concentrate、血清及びヘパリンが含まれ得る。
【0132】
別の態様において、本方法論における第2の培養工程に用いる培地には、B27サプリメ
ント、Lグルタミン及び血清が含まれ得る。
【0133】
Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地
中での培養の期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、通常、1〜7日、好ましくは2〜4日(例、3日)である。
【0134】
Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を除去した
後の培養期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、通常、40日
以上、好ましくは51日以上である。
【0135】
1つの細胞凝集塊中に、歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)が連続的に形成されたことは、各組織のマーカーの発現を指標に確認することができる。例えば、歯状回組織(又はその前駆組織)は、Lef1(海馬前駆組織マーカー)陽性、Zbtb20陽性、Prox1陽性等で特定され得る。アンモン角(又はその前駆組織)は
、Lef1(海馬前駆組織マーカー)陽性、Zbtb20弱陽性等で特定され得る。
【0136】
一態様において、本発明により得られる細胞凝集塊においては、細胞凝集塊における連続した神経上皮中に、歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)に加えて、皮質ヘムが更に含まれる。即ち、連続した神経上皮中に、歯状回組織(又はその前駆組織)、アンモン角組織(又はその前駆組織)及び皮質ヘムを含む、海馬組織又はその前駆組織を誘導することができる。
【0137】
一態様において、本方法により得られる細胞凝集塊においては、Lef1陽性神経上皮でもZbtb20の発現は脈絡膜(Lmx1a陽性、Foxg1陰性)や皮質ヘム(Lmx1a陽性、Foxg1弱陽性)の領域と隣接する部分(歯状回組織又はその前駆組織)で強く、これらから離れるに従って弱くなるという発現強度の勾配が見られる。
【0138】
別の態様において、歯状回組織又はその前駆組織(例、Zbtb20陽性、Prox1陽性)が、
アンモン角組織又はその前駆組織(例、Zbtb20弱陽性)と、皮質ヘムおよび脈絡膜の間に形成される。即ち、生体と類似した互いに隣接した配置で、歯状回組織(又はその前駆組織)、アンモン角組織(又はその前駆組織)及び皮質ヘムが連続した神経上皮中に形成される。
【0139】
得られた細胞凝集塊の集団の中から、連続した神経上皮中に、歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)が形成された細胞凝集塊を選択することにより、目的とする細胞凝集塊を得ることができる。
【0140】
(8)大脳基底核組織の誘導
本発明の方法において、細胞凝集塊を、ソニックヘッジホッグ(Shh)シグナル作動薬で処理することにより、細胞凝集塊中に大脳基底核又はその前駆組織を誘導することができる。
【0141】
Shhシグナル作動薬としては、上記方法において用いた場合、大脳基底核組織又はその前駆組織を誘導することが可能である限り、特に限定されず、例えば、Hedgehogファミリーに属する蛋白(例えば、Shh)、Shh受容体アゴニスト、Purmorphamine、SAG(N-Methyl-N′-(3-pyridinylbenzyl)-N′-(3-chlorobenzo[b]thiophene-2-carbonyl)-1,4-diaminocyclohexane)等を挙げることができる。Shhシグナル作動薬は、好ましくはSAGである。
【0142】
Shhシグナル作動薬の濃度は、上記方法において用いた場合、大脳基底核組織又はその前駆組織を誘導することが可能である限り、特に限定されない。SAGを用いる場合、通
常、1nM 〜10μMである。
【0143】
ここで、SAGを比較的低濃度(例えば1nM〜75nM、好ましくは25nM〜50nM)で用いる場合、大脳基底核のうち、外側基底核原基(LGE)が、終脳神経上皮上に優先的に誘導される
。一方、SAGを比較的高濃度(例えば100nM〜10μM、好ましくは250nM〜1μM)で用いる場合、大脳基底核のうち、内側基底核原基(MGE)が、終脳神経上皮上に優先的に誘導され
る。
【0144】
Shhシグナル作動薬処理に付す細胞凝集塊は、好ましくは、終脳マーカー陽性細胞凝集塊である。Shhシグナル作動薬処理(Shhシグナル作動薬を含む培地中での培養)は、第1の培養工程、第2の培養工程のいずれか一方においてのみ行ってもよく、その両方において行ってもよい。Shhシグナル作動薬を含む培地中での培養は、大脳基底核組織が誘導されるまでの全ての期間に亘って行ってもよいし、その一部の期間のみにおいて行ってもよい。
【0145】
一態様において、Shhシグナル作動薬処理は、細胞凝集塊中に終脳マーカーが発現する、第1の培養工程の後半から、第2の培養工程の前半にかけての3〜10日間(例、7日間)に亘り、一過性に行われる。
【0146】
大脳基底核又はその前駆組織が誘導されたことは、大脳基底核組織マーカーの発現を指標に確認することができる。外側基底核原基(LGE)マーカーとしては、Gsh2、GAD65を挙げることができる。内側基底核原基(MGE) マーカーとしては、Nkx2.1を挙げることができる。
【0147】
大脳基底核又はその前駆組織の誘導に要する時間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、第2の培養工程の開始から、例えば24日後までには、凝集塊の内部に、大脳基底核又はその前駆組織が誘導される。一態様において、細胞凝集塊の集団の7割以上において、大脳基底核又はその前駆組織を誘導することができる。得られた細胞凝集塊の集団の中から、大脳基底核又はその前駆組織が誘導された細胞凝集塊を選択することにより、大脳基底核又はその前駆組織を含む細胞凝集塊を得ることができる。
【0148】
好ましい態様において、本方法により誘導される大脳基底核(又はその前駆組織)(例、LGE、MGE)は、大脳皮質(又はその前駆組織)と、1つの細胞凝集塊中に、連続して形成される。即ち、得られた細胞凝集塊における連続した神経上皮中に、大脳基底核(又はその前駆組織)(例、LGE、MGE)及び大脳皮質(又はその前駆組織)が形成される。一態様において、細胞凝集塊の集団の5割以上において、連続した神経上皮中に、大脳基底核(又はその前駆組織)(例、LGE、MGE)及び大脳皮質(又はその前駆組織)を誘導することができる。
【0149】
(9)大脳皮質における軸形成の外因性制御
上述の通り、本発明の方法においては、大脳皮質の背腹軸及び前後軸が自発的に形成される。一態様において、第2の培養工程において得られる、細胞凝集塊に含まれる、大脳皮質脳室帯において、背尾側マーカー(CoupTF1、Lhx2等)の発現が、片側ではより強く
、反対側では弱いという勾配を示し、吻腹側マーカー(例、Sp8)の発現が、背尾側マー
カーと逆の勾配を示す。ここに、大脳皮質の吻腹側の特異性の獲得に重要であることが知られるFGF8を作用させることにより、大脳皮質脳室帯全体を吻側化させることができる。
【0150】
FGF8処理は、第2の培養工程においてFGF8を含む培地を用いることにより行うことができる。培地中のFGF濃度は、吻側化の達成に十分な濃度であり、通常、10〜1000ng/ml、好ましくは50〜300ng/mlである。
【0151】
FGF8処理は、第2の培養工程の全部又は一部において実施される。
【0152】
大脳皮質脳室帯全体が吻側化されたことは、背尾側マーカー(CoupTF1、Lhx2等)の発
現の全体的減弱、及び吻腹側マーカー(例、Sp8)の脳室帯全体にわたる上昇等によって
確認することができる。これは、FGF8処理により、大脳皮質の背腹軸に沿った前頭葉と後
頭葉等の領域を選択的に制御して誘導できる可能性を示す。
【0153】
(10)海馬ニューロンの誘導
上記(5)〜(7)のいずれかの方法により得られる海馬又はその前駆組織を含む細胞凝集塊を分散し、分散した細胞を更にインビトロで接着培養することにより、成熟した海馬ニューロンを得ることが出来る。本発明は、このような海馬ニューロンの製造方法をも提供する。
【0154】
当該製造方法においては、好ましくは、上記(7)の方法により得られる海馬又はその前駆組織を含む細胞凝集塊(歯状回組織(又はその前駆組織)及びアンモン角組織(又はその前駆組織)を連続的に含む、海馬組織又はその前駆組織を含む細胞凝集塊)が用いられる。
【0155】
海馬又はその前駆組織を含む細胞凝集塊を、適切な細胞解離液で処理し、単一細胞、又はこれに近い状態にまで分散する。細胞解離液としては、例えば、EDTA等のキレート;パパイン、トリプシン、コラゲナーゼIV、メタロプロテアーゼ等のタンパク分解酵素等を単独で又は適宜組み合わせて含む生理的水溶液を用いることができる。
【0156】
分散された細胞を、該細胞を培養するための適切な培地中に懸濁し、培養容器中に播種する。培養容器としては、細胞の接着培養に一般的に用いられる接着性の培養器材を用いることができる。培養器材としては、例えば、シャーレ、ペトリデッシュ、フラスコ、マルチウェルプレート、チャンバースライド等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0157】
細胞との接着性を向上させるため、培養容器の表面を、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、基底膜標品等の細胞外マトリクス;ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ポリ−L−オルニチン等のポリマーによるコーティングしてもよい。一態様において、培養容器の表面を直接又は間接的にラミニン及びフィブロネクチンによりコートする。間接的なコーティングは、例えば、培養容器の表面をまず、ポリ−L−リジンでコートすることにより、ポリ−L−リジンの下地を形成し、その下地の上に、ラミニン及びフィブロネクチンをコートすることにより行うことができる。
【0158】
分散された細胞の接着培養に用いる培地は、動物細胞(好ましくは神経細胞)の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばDMEM、Ham’s F−12、Neurobasal、IMDM、M199、EMEM、αMEM、Fischer’s Mediumおよびこれらの混合培地など、動物細胞(好ましくは神経細胞)の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。好ましくは、Neurobasalが用いられる。
【0159】
該培地は、海馬ニューロンの成熟を促進するため、血清代替物としてB27サプリメント
を含むことが好ましい。B27サプリメントは、ビオチン、L−カルニチン、コルチコステ
ロン、エタノールアミン、D(+)ガラクトース、還元型グルタチオン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレッシン、レチニル酢酸、セレン、トリオド−l−チロミン、ビタミンE、ビタミンE酢酸塩、ウシアルブミン、カタラーゼ、インスリン、スーパーオキシドジスムターゼ、トランスフェリン等を含む公知の組成物である。尚、海馬ニューロンの成熟を阻害しないため、該組成物からレチニル酢酸を除いた、ビタミンAフリーのB27サプリメントを用いることが好ましい。B27サプリメントの添加量は、海馬ニューロンの成熟が促進されるように、適宜設定することができる。
【0160】
一態様において、海馬ニューロンの成熟を促進するため、該培地はBDNFを含んでも
よい。BDNFを含む場合、培地中のBDNF濃度は、海馬ニューロンの成熟を促進する限り特に限定されないが、通常1ng/ml以上、好ましくは10ng/ml以上、より好ましくは20ng/ml以上である。BDNF濃度の上限値は、海馬ニューロンの成熟を促進する限り特に
限定されないが、過剰に添加しても活性が飽和するため、通常1000ng/ml以下、好ましく
は100ng/ml以下の濃度とすることが好ましい。BDNFは、好ましくは単離されている。
【0161】
一態様において、海馬ニューロンの成熟を促進するため、該培地はNT−3を含んでもよい。NT−3を含む場合、培地中のNT−3濃度は、海馬ニューロンの成熟を促進する限り特に限定されないが、通常1ng/ml以上、好ましくは10ng/ml以上、より好ましくは20ng/ml以上である。NT−3濃度の上限値は、海馬ニューロンの成熟を促進する限り特に
限定されないが、過剰に添加しても活性が飽和するため、通常1000ng/ml以下、好ましく
は100ng/ml以下の濃度とすることが好ましい。NT−3は、好ましくは単離されている。
【0162】
一態様において、該培地は、血清を含んでいてもよい。血清は、海馬ニューロンの成熟に寄与し得る。血清としては、FBS等が挙げられるが、これに限定されない。血清は非動
化されていることが好ましい。培地中の血清濃度は、脳室帯の長期間の維持培養に寄与しうる範囲で適宜調整することができるが、通常1〜20%(v/v)である。
【0163】
一態様において、該培地は、海馬ニューロンの成熟に悪影響を与えない範囲で、他の添加物を含むことができる。添加物としては、例えば、インスリン、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d−ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0164】
好ましい態様において、分散された細胞の接着培養に用いる培地は、B27サプリメント
を含む。該B27サプリメントは、好ましくは、ビタミンAフリーである。該培地は、更に
、FBS及びL−グルタミンを含み得る。
【0165】
別の好ましい態様において、分散された細胞の接着培養に用いる培地は、B27サプリメ
ント、BDNF及びNT−3を含む。該B27サプリメントは、好ましくは、ビタミンAフ
リーである。該培地は、更に、FBS及びL−グルタミンを含み得る。
【0166】
分散した細胞の細胞死を抑制するために、Rho-associated coiled-coilキナーゼ(ROCK)の阻害剤を接着培養開始時から添加してもよい。ROCK阻害剤を培養開始から例えば15日以内、好ましくは10日以内、より好ましくは6日以内添加する。ROCK阻害剤としては、Y−27632((+)−(R)−trans−4−(1−aminoethyl)−N−(4−pyridyl)cyclohexanecarboxamide dihydrochloride)等を挙げることができる。接着培養に用いられるROCK阻害剤の濃度は、細胞死を抑制し得る濃度である。例えば、Y−27632について、このような濃度は、通常約0.1〜200μM、好ましくは約2〜50μMである。ROCK阻害剤の濃度を添加する期間内で変動させてもよく、例えば期間の後半で濃度を半減させることができる。
【0167】
分散した細胞の接着培養における培養温度、CO濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。CO濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。
【0168】
接着培養を開始して、2〜3日以内に、播種した細胞は培養容器の表面に接着し、神経突起を伸ばし始める。
【0169】
分散した細胞の接着培養の期間は、分散した細胞の成熟した海馬ニューロンへの分化に十分な期間である限り、特に限定されないが、通常50日以上、好ましくは80日以上、より好ましくは100日以上である。
【0170】
一態様において、分散した細胞の接着培養を、成熟した海馬ニューロンが出現するまで行う。成熟した海馬ニューロンの出現は、海馬ニューロン特異的なマーカーにより確認することが出来る。成熟した海馬ニューロンは、例えば、Zbtb20及びFoxg1陽性であり、か
つMAP2陽性の樹状突起を有する細胞として特定できる。従って、一態様において、Zbtb20及びFoxg1陽性であり、かつMAP2陽性の樹状突起を有する細胞の出現が確認されるまで、
分散した細胞の接着培養が行われる。
【0171】
上記成熟した海馬ニューロンには、海馬歯状回の顆粒細胞(Prox1陽性、円形で比較的
小さな細胞)、及び海馬CA3領域の錐体細胞(KA1陽性、比較的大きい細胞)が包含される。
【0172】
海馬ニューロンに加えて、Zbtb20及びGFAP陽性のアストロサイトが誘導されることがある。本発明は、当該アストロサイトの製造方法をも提供する。
【0173】
単一に分散した細胞は小さな塊を形成しやすく、誘導された成熟した海馬ニューロン間で神経突起が伸長される。
【0174】
このようにして誘導された成熟した海馬ニューロンは機能的であり、電位刺激によるナトリウム・カリウム電流応答、誘発性活動電位、及び/又は自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)を生じる。これらの神経活動は、パッチクランプ法を用いて確認することが出
来る。
【0175】
誘導された成熟した海馬ニューロンは、そのまま機能解析等に用いることもできるし、適切な細胞解離液で培養容器から剥離し、単離することも出来る。
【0176】
(11)細胞凝集塊、単離された終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織の用途
更なる局面において、上記により得られた細胞凝集塊から終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織を単離することができる。本発明は上記本発明の方法により得られる細胞凝集塊、終脳若しくはその部分組織、及びその前駆組織を提供する。更なる態様において、本発明は上記本発明の方法により得られる海馬ニューロンを提供する。
【0177】
本発明の方法により得られた細胞凝集塊、終脳若しくはその部分組織、それらの前駆組織、及び海馬ニューロンは、移植医療のために使用することができる。例えば、終脳(大脳皮質、大脳基底核、脈絡膜、海馬等)の障害に基づく疾患の治療薬として、或いは終脳(大脳皮質、大脳基底核、脈絡膜、海馬等)の損傷状態において、該当する損傷部分を補充するために、本発明の方法により得られた細胞凝集塊、終脳若しくはその部分組織(大脳皮質、大脳基底核、脈絡膜、海馬等)、それらの前駆組織、又は海馬ニューロンを用いることができる。終脳の障害に基づく疾患、又は終脳の損傷状態の患者に、本発明により得られた細胞凝集塊、終脳若しくはその部分組織(大脳皮質、大脳基底核、脈絡膜、海馬等)、それらの前駆組織、又は海馬ニューロンを移植することにより、終脳の障害に基づく疾患、又は終脳の損傷状態を治療することができる。終脳の障害に基づく疾患としては、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、てんかん、脳外傷、運動神経疾患、神経変性疾患などが挙げられる。さらに、こ
れら細胞の補充が所望される状態としては、脳外科手術後(例えば、脳腫瘍摘出後)が挙げられる。
【0178】
移植医療においては、組織適合性抗原の違いによる拒絶がしばしば問題となるが、移植のレシピエントの体細胞から樹立した多能性幹細胞(例、誘導多能性幹細胞)を用いることで当該問題を克服できる。即ち、好ましい態様において、本発明の方法において、多能性幹細胞として、レシピエントの体細胞から樹立した多能性幹細胞(例、誘導多能性幹細胞)を用いることにより、当該レシピエントについて免疫学的自己の終脳若しくはその部分組織、それらの前駆組織、又は海馬ニューロンを製造し、これが当該レシピエントに移植される。
【0179】
さらに、本発明により得られた細胞凝集塊、終脳若しくはその部分組織、又それらの前駆組織、又は海馬ニューロンを薬物のスクリーニングや評価のために使用することができる。特に、本発明により得られる終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織は、生体における終脳若しくはその部分組織、又はその前駆組織と極めて類似した高次構造を有するので、終脳の障害に基づく疾患や、終脳の損傷状態の治療薬のスクリーニング、医薬品の副作用・毒性試験(例、角膜刺激試験の代替試験)、終脳における疾患の新たな治療方法の開発などに適用することができる。
【0180】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0181】
[実施例1]
ヒト多能性幹細胞からの選択的な大脳皮質前駆組織の立体形成
(方法)
ヒトES細胞(KhES-1;終脳特異的遺伝子Foxg1に蛍光タンパク遺伝子Venusをノックインしたもの)をトリプシン処理により単一細胞に分散し、SFEBq法(Nakano et al, Cell Stem Cell, 2012)に準じて凝集塊を形成し、分化誘導のための浮遊凝集塊培養を37℃、5% CO2存在下に行った。分散した9000個のヒトES細胞を、低細胞吸着性の表面コートをし
たV底型96ウェルプレートの各ウェルに播種し、分化誘導用の培養液は成長因子を含ま
ないG-MEM培地(Gibco/Invitrogen社)に20%KSR (Knockout Serum Replacement)、0.1mM
非必須アミノ酸溶液(Gibco/Invitrogen社)、1mM ピルビン酸ナトリウム溶液(Sigma社)、0.1 mM 2-メルカプトエタノールを添加したものを用いた。分化誘導の最初の3日間は分散惹起性細胞死を抑制するためにROCK阻害剤Y-27632を20 μM添加し、次の3日間はその濃
度を半減させて作用させた。分化誘導開始後0日目から18日目までWntシグナル阻害剤IWR-1-endを3 μM、TGFβシグナル阻害剤SB431542 を5 μM 添加して作用させた。分化誘
導開始後18日目に、これらの凝集塊を低細胞吸着性の表面コートをした9 cm ペトリ皿
に移し、浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2存在下に行った。18日目から35日目まではDMEM/F12培地(Gibco/Invitrogen社)に1%のN2サプリメント (Gibco/Invitrogen社)、1%
の脂質濃縮物(Chemically defined lipid concentrate、Gibco/Invitrogen社)を添加したものを用いた。35日目以降は、これらの培養液に、さらに10%FBS、5 μg/mlのヘパ
リン、1%のマトリゲル グロースファクター リデュースト(BD Bioscience社)を添加した
ものを用いた。これらの凝集塊は、分化誘導開始後1日目および34日目にFACSで解析を行い、42日目に免疫組織染色で解析した。
【0182】
(結果)
分化誘導開始18日後より、凝集塊にFoxg1::venusの蛍光が強く観察された。分化誘導開始26日後には、9割以上の凝集塊で再現性良くFoxg1::venusの蛍光が強く観察された(図
1A)。分化誘導開始34日後には、全細胞の7.5割以上の細胞でFoxg1::venusの蛍光が観察
された。またすべての凝集塊はFoxg1::venus 陽性であった(図1B)。Foxg1:venus陽性凝
集塊は、内部に脳室様の空洞を有した半球上の神経上皮様構造(多列円柱上皮)を示した。これらの神経上皮構造は、内腔側にPax6陽性およびSox2陽性の細胞密度が高い細胞層を有し(図1D、E)、最も内腔の部分にリン酸化Histone H3陽性の有糸分裂細胞を認めた(図1F)。これらの構造はヒト妊娠初期の大脳皮質の脳室帯に類似していた。脳室帯に類似
した細胞層の外側には、有糸分裂後の神経細胞のマーカーであるTuj1を発現し、大脳皮質の初期皮質板マーカーであるCtip2とTbr1を発現していた。またこれらは、大脳皮質の第
1層の神経細胞であるReelin陽性カハールレチウス細胞を含み、表層近くにはLamininを
多く含んだ層を有していた。つまり、このように培養した凝集塊の中に大脳皮質前駆組織が形成されていることが判った。このようにヒト妊娠初期の大脳皮質前駆組織を自己形成することが再現性良く認められた。
【0183】
[実施例2]
ヒト多能性幹細胞からの大脳基底核前駆組織の立体形成
(方法)
分化誘導35日目まで実施例1の培養条件と同様に培養した。即ち、ヒトES細胞凝集塊を分化誘導18日後までV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊凝集塊を細胞非吸着性の
ペトリ皿(直径9 cm)に移し、分化誘導18日から35日目までの浮遊培養を37℃、5%
CO2、40% O2存在下で行った。ただし、実施例1の培養液に15日目から21日目の期間のみ、Sonic hedgehog (Shh)シグナル作動薬SAGを30 nMまたは500 nMの最終濃度で添加して作用させた。これらの凝集塊は、35日目に免疫組織染色で解析した。
【0184】
(結果)
Shhシグナル作動薬SAGを30 nMを作用させた場合、Foxg1::venus陽性の終脳神経上皮に
は、Gsh2を発現する外側基底核原基(LGE)が形成された(図2A,Bの矢頭)。Gsh2陽性のLGE神経上皮はこの条件下において7割以上の凝集塊で再現性良く認められた。胎児のLGEはGABA作動性神経細胞である線条体神経細胞を生み出す。同様に、ヒトES細胞由来のLGE神経上皮の直下には、GAD65陽性のGABA作動性神経細胞が認められた(図2B)。
【0185】
一方、Shhシグナル作動薬SAGを500 nMを作用させた場合、凝集塊のFoxg1::venus陽性の終脳神経上皮は、Nkx2.1を発現する内側基底核原基(MGE)を形成した(図2C,D)。Foxg1::venus陽性かつNkx2.1陽性のMGE 神経上皮はこの条件下において8割以上の凝集塊で再現性良く認められた。胎児脳では、MGEは淡蒼球や大脳皮質介在神経細胞の前駆組織である。こ
のように、本培養法により大脳基底核前駆組織であるLGEやMGEを高効率に誘導できることが示された。
【0186】
[実施例3]
大脳皮質と大脳基底核の連続的な立体形成
(方法)
分化誘導35日目まで実施例2の培養条件と同様に培養した。即ち、ヒトES細胞凝集塊を
分化誘導18日後までV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊凝集塊を細胞非吸着性の
ペトリ皿(直径9 cm)に移し、分化誘導18日から35日目までの浮遊培養を37℃、5%
CO2、40% O2存在下で行った。分化培養15日目から21日目の期間のみ、Shhシグナル作動
薬SAGを30 nMの濃度で培養液に添加した。これらの凝集塊は、35日目に免疫組織染色で解析した。
【0187】
(結果)
実施例2で示したように、Shhシグナル作動薬SAGを30 nMを作用させた場合、終脳神経上皮はFoxg1::venus陽性かつ、外側基底核原基(LGE)のマーカーであるGsh2,GAD65を発現し
た(図3A,B)。これらのLGE 神経上皮は、Gsh2陰性かつ大脳皮質のマーカーであるPax6陽性
の大脳皮質神経上皮と連続して形成されていた(図3C)。つまりこれらの結果は、大脳皮質と大脳基底核が一つの凝集塊の中に連続して形成されていることを示している。このように、大脳皮質と大脳基底核が一つの凝集塊の中に連続して自己形成することは、5割以上の凝集塊で再現性良く認められた。
【0188】
[実施例4]
ヒト多能性幹細胞からの選択的な脈絡膜組織の立体形成
(方法)
分化誘導18日後まで実施例1の培養条件でV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊
凝集塊を細胞非吸着性のペトリ皿(直径9 cm)に移し、浮遊培養を37℃、5% CO2,40% O2存在下で行った。培養液は、18日目から42日目までは、DMEM/F12培地(Gibco/Invitrogen社)に1% N2サプリメント(Gibco/Invitrogen社)、1% 脂質濃縮物(Chemically defined lipid concentrate、Gibco/Invitrogen社)、10%FBS、5 μg/ml ヘパリン、3 μM GSK-3β阻害剤CHIR99021、0.5 nM BMP4を加えたものを用いて培養し、42日目に免疫組織染色で解析した。
【0189】
(結果)
上記の条件で培養した場合、分化誘導開始18日目以降も凝集塊にBf1(Foxg1)::venusの
強い蛍光は観察されなかった。これらの凝集塊はひだ状の単層上皮となり、脈絡膜のマーカーであるTTR、Lmx1a、Otx2を発現している(図4A,B)ことから、脈絡膜組織を誘導できたと考えられた。この条件下で脈絡膜組織を自己形成することは、8割以上の凝集塊で再現性良く認められた。
【0190】
[実施例5]
ヒト多能性幹細胞からの選択的な皮質ヘム(海馬采の前駆組織)の形成
(方法)
分化誘導18日後まで実施例1の培養条件でV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊
凝集塊を細胞非吸着性のペトリ皿(直径9 cm)に移し、浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2存在下で行った。培養液は、18日目から42日目までは、DMEM/F12培地(Gibco/Invitrogen社)に1% N2サプリメント (Gibco/Invitrogen社)、1% 脂質濃縮物(Chemically defined lipid concentrate、Gibco/Invitrogen社)、10%FBS、5 μg/ml ヘパリン、3 μM GSK-3β阻害剤CHIR99021(Wntシグナル増強剤)を加えたものを用いて培養し、42日目に免疫組織染色で解析した。
【0191】
(結果)
上記のように18日目以降Wntシグナルを増強した条件で培養した場合、皮質ヘムのマ
ーカーのLmx1a、Otx2を発現し、Foxg1::venus弱陽性である神経上皮が主体である凝集塊
が形成された(図5A,B)。この神経上皮は脈絡膜マーカーのTTRを発現しなかった(図5A)。
これらのマーカー発現プロフィールから、この条件では海馬采の前駆組織である皮質ヘムが選択的に誘導されたと考えられる。この条件下で、皮質ヘムの選択的な形成することは、8割以上の凝集塊で再現性良く認められた。
【0192】
[実施例6]
脈絡膜と海馬前駆組織と大脳皮質前駆組織の連続的な立体形成
(方法)
分化誘導18日後まで実施例1の培養条件でV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊
凝集塊を細胞非吸着性のペトリ皿(直径9 cm)に移し、浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2存在下で行った。培養液は、18日目から35日目までは、DMEM/F12培地(Gibco/Invitrogen社)に1% N2サプリメント(Gibco/Invitrogen社)、1% 脂質濃縮物(Chemically defined
lipid concentrate、Gibco/Invitrogen社)、10%FBS、5 μg/ml ヘパリンを加えたもの
を用いて培養した。ただし、18日目から21日目の期間のみ、これらの培養液に3 μM GSK-3β阻害剤CHIR99021、0.5 nM BMP4を添加し作用させた。これらの物質は、実施例4と5
にあるように、脈絡膜や皮質へムへの分化を促進するが、実施例6の培養では、これらの作用を3日間に限定し、21日目以降の培養からはこれらを除いた。これらの凝集塊は35日目に免疫組織染色で解析した。
【0193】
(結果)
上記のように、一過性にのみWntシグナルとBMPシグナルを増強して、その後にそれらを除去した条件で培養した場合、培養21-27日目の凝集塊には、Foxg1::venus陽性の神
経上皮とFoxg1::venus陰性の神経上皮の両者が形成され(図6A)、それらは連続した神経上皮を構成していた。このようなFoxg1::venus陽性と陰性の神経上皮の両者を隣接して含む状態は、8割以上の凝集塊で再現性良く認められた。Foxg1::venus陰性の神経上皮は、凝
集塊から外へ突出する構造を取り、その先端は半球様の構造を有していた。分化誘導開始35日目において、これらの凝集塊では、Lmx1aが陽性でFoxg1::venusが陰性の脈絡膜領域
、Lmx1a、Otx2を発現しFoxg1::venus弱陽性である皮質ヘムの領域、Lef1陽性でFoxg1::venusが陽性の海馬前駆組織の領域、Lef1陰性かつFoxg1::venus陽性の大脳皮質前駆組織が
連続的に形成されていた(図6B,C)。このように、脈絡膜と海馬前駆組織と大脳皮質前駆組織が一つの凝集塊の中に連続して自己形成することは、8割以上の凝集塊で再現性良く認められた。
【0194】
[実施例7−1]
海馬組織内の各領域の連続的な立体形成
(方法)
分化誘導18日後まで実施例1の培養条件でV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊
凝集塊を細胞非吸着性のペトリ皿(直径9 cm)に移し、浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2存在下で行った。培養液は、18日目以降は、下記の2つの培地のいずれかを用いて培養を行った。
1) DMEM/F12培地(Gibco/Invitrogen社)に1% N2サプリメント (Gibco/Invitrogen社)、1% 脂質濃縮物(Chemically defined lipid concentrate、Gibco/Invitrogen社)、10%FBS
及び5 μg/ml ヘパリンを加えたもの
2) Neurobasal培地(Gibco/Invitrogen社)に2% B27サプリメント ビタミンA無し(Gibco/Invitrogen社)、2mM L-グルタミン及び10% FBSを加えたもの
ただし、実施例6と同様に、18日目から21日目の期間のみ、これらの培養液に3 μM GSK-3β阻害剤CHIR99021、0.5 nM BMP4を添加し作用させた。これらの凝集塊は61日目及び75日目に免疫組織染色で解析した。
【0195】
(結果)
上記の1)および2)のいずれの培養液を用いた培養でも、61日目まで継続して培養した場合、凝集塊には海馬前駆組織マーカーであるLef1陽性かつFoxg1::venus陽性の神経上皮が形成された(図7A, B)。これらの神経上皮は海馬前駆組織マーカーであるNrp2陽性の
神経細胞を多く含んでいた(図7D)。また神経上皮は海馬神経細胞および前駆細胞のマーカーであるZbtb20陽性の細胞も多く含んでいた(図7C)。胎児の海馬前駆組織では、神経上皮の脳室帯および脳室下帯のZbtb20の発現は歯状回(脈絡膜や皮質ヘムに隣接する部分)の前駆組織に強く、アンモン角(脈絡膜や皮質ヘムから遠い部分)の前駆組織に弱いという発現強度の勾配が見られる。同様に、ヒトES細胞から形成したLef1陽性神経上皮でもZbtb20の発現は脈絡膜(Lmx1a陽性、Foxg1::venusは陰性)や皮質ヘム(Lmx1a陽性、Foxg1::venusは弱陽性)の領域と隣接する部分で強く、これらから離れるに従って弱くなるという発現強度の勾配が見られた(図7A, B, C)。さらに培養を同条件で75日目まで継続すると、歯状回神経細胞に特徴的なZbtb20とProx1をともに発現する領域(図7E, DG)が、Zbtb20
が弱陽性のアンモン角領域(図7E, CA)と、皮質ヘム(図7E, hem)および脈絡膜(図7E, C
P)の間に形成が確認された。これらは海馬組織内において歯状回組織、アンモン角組織
になり得る領域が連続的に形成されていることを示している。
【0196】
[実施例7−2]
海馬組織内の各領域の連続的な立体形成を分散培養し得られる成熟した海馬ニューロン
(方法)
実施例7−1の方法により連続した海馬組織を誘導し、Day60-90の間で得られた細胞凝集塊をパパイン酵素液(SUMITOMO BAKELITE, MB-X9901)などの細胞解離液にて単一細胞に
分散させ、その細胞をガラス製のdishやslideなどに播種して平面培養を行った。培養を
行う前にガラスの表面をpoly-D-Lysine 200μg/mlで4℃にて一晩、Laminin 20μg/ml/Fibronectin 8μg/mlで37℃にて一晩コーティングした。
培養液はNeurobasal培地(Gibco/Invitrogen社)に2% B27サプリメント ビタミンA無し(Gibco/Invitrogen社)、2mM L-グルタミン及び10% FBSを加えたものを用いた。これらの
平面条件で培養した細胞は、分散後2-3日以内にガラスの表面に張り付き、神経突起を延
ばし始めた。d140からd197の間に免疫組織染色で解析した。
【0197】
(結果)
単一に分散した細胞は小さな凝集塊を形成しやすく、そのニューロン間で神経突起が伸長されていた(図8A)。ほとんどの細胞で海馬マーカーであるZbtb20は陽性であり(図8B)、Foxg1::venusもDay197時点で陽性であった(図8B)。MAP2陽性の樹状突起を認めるニューロン以外に散在する細胞がみられたが、これらの細胞もZbtb20(+)で、細胞の形はグリア細
胞様で、GFAP陽性であることより、アストロサイトであると示唆された(図8C)。Zbtb20陽性細胞の中には、海馬の歯状回マーカーであるProx1陽性細胞と海馬のCA3領域マーカーであるKA1が陽性の細胞が見られ、Prox1陽性細胞は顆粒細胞を示唆する円形で比較的小さな細胞である一方、KA1陽性細胞は比較的大きめの錐体細胞様の形をしていた(図8D-E)。こ
れは生体内で見られる歯状回では顆粒細胞が、CA領域では錐体細胞が形成される事と矛盾していないと考えられた。Zbtb20陽性の細胞割合は8割前後で、この発現率は再現良く認められた。
これらの結果から、マーカーの発現と細胞形態上、海馬歯状回の顆粒細胞及び海馬CA3
領域の錐体細胞が誘導できたことが示唆された。
【0198】
[実施例7−3]
3次元で誘導した海馬組織を分散培養し得られる成熟した海馬ニューロンの機能解析
(方法)
実施例7−1と同様の方法により、連続した海馬組織を分散培養した。本試験においてはガラス製もしくはプラスチック製のdishやslideなどに播種して平面培養を行った。培
養にはガラスもしくはプラスチックの表面をpoly-D-Lysine 100μg/mlで37℃にて3時間
、Laminin 20μg/ml/Fibronectin 8μg/mlで37℃にて一晩コーティングした。
培養液は分散1〜2日目はNeurobasal培地(Gibco/Invitrogen社)に2% B27サプリメント
ビタミンA無し(Gibco/Invitrogen社)、2mM L-グルタミン、1% FBS、20ng/ml BDNF、20ng/ml NT-3、及び10μM Y-27632を加えたものを用いた。培養3日目以降は、Neurobasal
培地(Gibco/Invitrogen社)に2% B27サプリメント ビタミンA無し(Gibco/Invitrogen社)、2mM L-グルタミン、10% FBS、BDNF 20ng/ml、及びNT-3 20ng/mlを加えた培地を用いて
、半量培地交換を3日に1回行った。分散後30-60日の間に、細胞をfluo4-AM(life technologies、F-14201) 5μM中で37℃にて45分インキュベートし、培地で洗浄後にLCMを用い
たカルシウムイメージングによる機能解析を行った。また、同じ方法で分散培養した細胞でパッチクランプ法による電気生理的解析を行った。測定はwhole cell patch clampにておこない、ガラス電極(電極抵抗値3-6MΩ)内を内液用バッファー(120mM K-Gluconate
、10mM KCl、10mM EGTA、及び10mM Hepes含有バッファーをKOHにてpH7.2に調整)で、チ
ャンバー内を外液用バッファー(140mM NaCl、2.5mM CaCl2、2mM MgCl2、10mM Glucose、
1mM NaH2PO4、及び10mM Hepes含有バッファーをNaOHにてpH7.4に調整)で満たして使用した。測定はEPC10(HEKA)にて行った。全ての試験は室温で実施した。膜容量成分補正を
行い、直列抵抗値は電極抵抗値の3倍以内となる条件下で試験を実施した。電位依存性の
ナトリウム、カリウム電流は、-60mVで電位を保持し、-80mVから+60mVまで-10mV刻みでの刺激時の測定を行った。sEPSCは-60mVにて電圧を保持した際の経時的な電流を測定し、薬剤はDNQX(sigma, D0540)を終濃度10μMで使用した。活動電位は過分極刺激を行った際
の膜電位を測定した。
【0199】
(結果)
分散後30-31日経過後のカルシウムイメージングでは、多くの神経がカルシウム流入に
伴う発火活動を示しており(図9A, A’)、各細胞の多様な経時的活動パターンが確認でき
た(図9B)。分散後53日目に施行したパッチクランプでは、電位刺激によるナトリウム・カリウム電流応答、誘発性活動電位、及び自発性興奮性シナプス後電流(spontaneous excitatory postsynaptic current; sEPSC)が認められた(図9C-E)。このsEPSCはAMPA型グル
タミン酸受容体アンタゴニストであるDNQXによる阻害が確認された(図9F)。
これらの実験により、実施例7で得られた神経細胞では自発的な神経活動が見られ、かつその細胞では刺激に応じた活動を示しており、シナプスネットワークも有する機能的な神経が得られていることが示唆された。
【0200】
[実施例8]
ヒト多能性幹細胞からの妊娠中期型の多層構造を持つ大脳皮質の立体形成
(方法)
分化誘導35日目まで実施例1の培養条件と同様に培養した。即ち、ヒトES細胞凝集塊を分化誘導18日後までV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊凝集塊を細胞非吸着性の
ペトリ皿(直径9 cm)に移し、分化誘導18日目以降の浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2存在下で行った。長期間において凝集塊を健康に維持するために35日目以降は、2週間
に1度凝集塊を半分割し、実施例1で記載した培養液で培養を継続した。分化誘導56日目
以降は、酸素透過性の高い細胞非吸着性培養皿(直径6cm, SARSTEDT社)に細胞塊を移し
培養を継続した。分化誘導70日目以降は、マトリゲル グロースファクター リデュースト(BD Bioscience社)の濃度を2%に変更して培養を継続した。これらの凝集塊は、70日目お
よび91日目に免疫組織染色で解析した。
【0201】
(結果)
上記の条件で培養した場合、分化誘導開始70日目で凝集塊は形態的に明らかな層構造を示した(図10A-B’)。この層構造の最も表層にはLamininが蓄積し、Reelin陽性のカハールレチウス細胞を含んだ辺縁帯が形成されていた(図10C,C’)。辺縁帯の直下にはTbr1陽性
、Ctip2陽性の深部皮質板の神経細胞を含む皮質板が観察された(図10D,D’)。この時点では浅部皮質板のマーカーであるSatb2を発現した神経細胞は少なかった(図10E)。内腔側には細胞密度が高くPax6陽性およびSox2陽性の神経前駆細胞を含んだ細脳室帯(図10F,F’)
と、その上部にTbr2陽性の細胞を含んだ脳室下帯が形成されていた(図10G)。皮質板と脳
室下帯の間は細胞がまばらな、妊娠中期の中間帯と良く似た領域が発達していた。皮質板の直下にはCalretinin陽性かつMAP2陽性の多くの神経突起を含んだ細胞層が形成されていた(図10H,H’)。この細胞層はコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の蓄積が観
察される(図10H”)ことからもサブプレートが形成されていることが示唆された。分化誘
導開始91日目には、この多層構造を持った大脳皮質組織はさらに分厚くなり(図10I)、こ
の時期においても発達したSox2陽性かつPax6陽性の脳室帯およびTbr2陽性の脳室下帯を有していた(図10J,K,M)。皮質板も同様に分厚くなり(図10I)、Tbr1陽性、Ctip2陽性の深部
皮質板の神経細胞だけでなく、Satb2陽性、Brn2陽性の浅部皮質板の神経細胞も多く含ま
れていることが明らかになった(図10L-O)。この時点においてもCalretinin陽性のサブプ
レートは皮質板の直下に観察された(図10P)。このように、本培養法によって、図10Qに示
すような表層-深部軸に沿ってヒト妊娠中期の大脳皮質に見られる多層構造を有する組織
を立体形成することが可能となった。
【0202】
[実施例9]
大脳皮質の自発軸形成とその外因性の制御
(方法)
分化誘導42日目まで実施例1の培養条件と同様に培養した。即ち、ヒトES細胞凝集塊を分化誘導18日後までV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊凝集塊を細胞非吸着性の
ペトリ皿(直径9 cm)に移し、分化誘導18日から42日目までの浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2存在下で行った。培養液は実施例1と同じものを用いた。外因性因子の影響を検
討する際には24日目から42日目にこの培養液に200 ng/mLのFGF8bを添加し作用させた。いずれの条件においても、凝集塊は42日目に免疫組織染色で解析した。
【0203】
(結果)
妊娠初期の大脳皮質脳室帯において発現が背尾側から吻腹側にかけて勾配を形成する背尾側マーカーとしてCoupTF1やLhx2が知られている。一方で逆の勾配を示す吻腹側マーカ
ーとしてSp8が知られている。外因性因子を作用させない場合には、ヒト多能性幹細胞か
ら誘導した大脳皮質脳室帯でも背尾側マーカーのCoupTF1が、片側ではより強く、反対側
では弱く発現していた(図11A)。吻腹側マーカーであるSp8の発現はCoupTF1と逆の勾配を
示し(図11A)、他の背尾側マーカーであるLhx2の発現はCoupTF1と同じ勾配を示した(図11B,C)。生体内の終脳組織では大脳皮質の背尾側は皮質ヘムに隣接するが、ヒト多能性幹細
胞から誘導した大脳皮質脳室帯も、背尾側マーカーのCoupTF1やLhx2が強く発現する領域
が皮質ヘムマーカーであるZic1やOtx2を発現する領域と隣接して形成されていた(図11D,E)。これらは、この条件下においてヒト多能性幹細胞から誘導した大脳皮質は自発的に背
尾側から吻腹側への極性を自己組織化的に獲得したことを示唆している。
【0204】
生体内において大脳皮質の吻側の特異性の獲得にはFGF8が重要であることが知られている。凝集塊の培養では、外因性因子を作用させない場合、背尾側マーカーCoupTF1の発現
の弱い吻腹側でFGFシグナルにより生じるリン酸化Erkが強く蓄積した(図11F)。一方、外
因性のFGF8bを作用させた場合には、CoupTF1の発現が全体に減弱し、逆にSp8の発現が脳
室帯全体に渡って上昇した(図11G-I)。これらは、外因性にシグナルを与えることで、大
脳皮質の背腹軸あるいは前後軸に沿った前頭葉と後頭葉などの領域性を選択的に制御して、誘導できることを示唆する。
【0205】
[実施例10]
(方法)
ヒトES細胞の維持培養と分化
ヒトES細胞(KhES-1)は日本政府のヒトES細胞研究指針に従って使用した。ヒトES細胞はマイトマイシンCによって不活性化されたMEF細胞をフィーダーとして、DMEM/F12 (Sigma)に 20% (vol/vol) Knockout Serum Replacement (KSR, Gibco/Invitrogen社), 2 mM グルタミン, 0.1 mM非必須アミノ酸溶液 (Gibco/Invitrogen社), 5 ng/ml ヒト組換えbFGF (Wako), 0.1 mM 2-メルカプトエタノール (2-ME), 50 U/ml ペニシリン、 50 μg/ml スト
レプトマイシンを加えたものを培地として用いて、37℃, 2% CO2 存在下で培養を行った
。細胞の継代は、ヒトES細胞を0.25%トリプシン、0.1 mg/ml コラゲナーゼIV、20% KSR、1 mM CaCl2を含むPBSで37℃で7分間反応させて、塊のままフィーダー細胞から剥がした。剥がしたヒトES細胞の塊は、緩やかにピペッティングして小さな細胞の塊 (数十個の細胞)にした。細胞の継代は3〜4分の1で行った。
【0206】
SFEBq培養では、ヒトES細胞を0.05 mg/ml DNase I (Roche) と10 μM Y-27632を含んだTrypLE Express (Gibco/Invitrogen社)で単一細胞に分散し、20 μM Y-27632を含んだ大
脳皮質分化用培地を用いて低細胞吸着性の表面コートをしたV底型96ウェルプレートの
各ウェルに播種し凝集塊を形成した。大脳皮質分化用培地は、G-MEM培地(Gibco/Invitrogen社)に20%KSR (Knockout Serum Replacement)、0.1mM 非必須アミノ酸溶液(Gibco/Invitrogen社)、1mM ピルビン酸ナトリウム溶液(Sigma社)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール
、100 U/ml ペニシリン、 100 μg/ml ストレプトマイシンを添加したものを用いた。SFEBq培養を開始した日を0日目とし、IWR1e (Wnt阻害剤) 及び SB431542 (TGFβ 阻害剤)を
それぞれ3 μM 及び 5 μMになるように培養0日目から18日目に添加した。
【0207】
ヒトES細胞から誘導した大脳皮質神経上皮は、次の条件で培養を行った。培養18日目に、細胞凝集塊を低細胞吸着性の表面コートをした9 cm ペトリ皿に移し、DMEM/F12培地(Gibco/Invitrogen社)に1%のN2サプリメント (Gibco/Invitrogen社)、1%の脂質濃縮物(Chemically defined lipid concentrate、Gibco/Invitrogen社)、0.25mg/mLのファンギゾン
、100 U/ml ペニシリン、 100 μg/ml ストレプトマイシンを添加したものを用いて37
℃、5% CO2、40% O2存在下で培養した。培養35日目からは、10%FBS、5 μg/mlのヘパリ
ン、1%のマトリゲル グロースファクター リデュースト(BD Bioscience社)を培地に加え
た。細胞凝集塊の中心部分の細胞死を抑制するために、培養35日目以降は2週間毎に実体
顕微鏡下で鋭利なピンセットを用いて半割し、培養56日目以降はlumox培養皿(SARSTEDT; O2透過性)を用いた。培養70日目以降は、マトリゲルの濃度を増加させ(最終2%)、B27添加物(Gibco/Invitrogen社)を培地に加えた。
【0208】
大脳皮質神経上皮の前方化は、培養24-42日の間にヒト組換えFGF8b (Gibco, 200ng/mL)を添加することにより行った。細胞凝集塊は、培養42日目に固定した。
【0209】
大脳皮質神経上皮の腹側化は、培養15-21日の間にヘッジホッグ作動薬SAG (30 nM または500 nM)を添加することにより行った。細胞凝集塊は、培養35日目に固定した。
【0210】
(結果)
自己組織化した大脳皮質神経上皮の極性
SFEBq培養法を改良するために (図18 A 及び A′)、分散した9000個のヒトES細胞を、
低細胞吸着性のV底型96ウェルプレート (文献15) の各ウェルに播種し、Rho-キナーゼ
阻害剤(Y-27632)(文献16) を含んだGMEM-KSR培地で培養を行った (図18A)。その後、細胞塊を低細胞吸着性9cm培養皿に移し、40% O2存在下で培養した。脂質濃縮物(18日目)、10%FBS、ヘパリン、低濃度のマトリゲル(1%)(35日目)の添加は脳室帯の長期間の維持
培養のために、最初の18日間のTGFβ阻害剤(SB43152)とWnt阻害剤(IWR1e)の添加は終脳領域の効率的な誘導のために添加した。
【0211】
この改良した培養条件下において、すべてのヒトES細胞由来細胞塊は培養26日目にはfoxg1::venus(終脳マーカー) (文献2) 陽性の神経上皮を有し (図12A 及び 図18B)、培養34日目には全細胞の75%以上の細胞がfoxg1::venusを発現した。一方、以前の方法ではfoxg1::venus陽性細胞は全細胞の30-40%の効率であった (図12B 及び 図18C)。foxg1::venus陽性の神経上皮は、内部に脳室様の空洞を有した半球上の神経上皮様構造(多列円柱上皮)を示した (図12C; 培養42日目)。これらの神経上皮構造は、内腔側にPax6陽性およびSox2陽性の細胞密度が高い細胞層を有し (図12 D 及び E) 、最も内腔の部分にリン酸化Histone H3陽性の有糸分裂細胞を認めた (図12F)。これらの構造はヒト妊娠初期の大脳皮質の
脳室帯に類似していた。この脳室帯に類似した細胞層の外側には、有糸分裂後の神経細胞のマーカーであるTuj1を発現し (CP; 図12G)、大脳皮質の初期皮質板マーカーであるCtip2とTbr1を発現していた (文献1, 2) (図12H 及び 図18D)。またこれらの神経細胞層はReelin陽性カハールレチウス細胞を含み (図12I)、表層近くにはLamininを多く含んだ層を有していた (図12J)。つまりヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮内に、自己組織化した層構造が形成されていた。
【0212】
興味深いことに、自己組織化した大脳皮質神経上皮は高頻度に軸極性を有していた。胎児脳において後尾側から吻腹側に発現勾配を示す (図18 E 及び F) CoupTF1の脳室帯での発現は、ヒトES細胞由来の神経上皮の片側で発現が高く (図12K, 赤)、反対に吻腹側のマーカーであるSp8の発現は、CoupTF1とは相反する発現勾配を示した (図12K, 白)。この現象と一致するように、Lhx2の発現(生体内では背側から腹側にかけて発現勾配を示す)もCoupTF1と同じ側で強い発現を示した (図12L 及び 図18G)。CoupTF1とSp8の相反する発
現勾配は培養35日目には既に観察されていた。マウス胎児では、大脳皮質の後尾側は、将来海馬領域の海馬采を生み出す皮質ヘムに隣接している (図18 H-J)。この現象と一致す
るように、皮質マーカーであるOtx2とZic1は大脳皮質神経上皮のCoupTF1が強く発現する
側に隣接する領域で発現していた (図12M 及び 図18K)。
【0213】
これらの結果は、ヒトES細胞由来の神経上皮は皮質内の後尾側から吻腹側の極性を自発的に獲得することを示している。マウス胎児では、FGF8が大脳皮質の吻側化を誘導する(
文献17)。興味深いことに、リン酸化Erk(FGFシグナルの下流で機能する)の強いシグナ
ルが、ヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮ではCoupTF1の発現と逆側で観察された (図12N)。また、ヒトES細胞由来の大脳皮質に外因性のFGF8を作用させると、CoupTF1の発現が失われ、Sp8の発現が広範囲に誘導された (図12 O 及び P 及び 図18L)。これらの結果はFGF−MAPKシグナルがこの自己組織化に関与していることを示している。
【0214】
自己組織化した大脳皮質神経上皮の領域特異的な湾曲を伴う形態変化
ヒトES細胞由来の神経上皮(N-cadherin陽性かつSox2陽性)において、終脳マーカーFoxg1の発現は培養18-20日くらいに観察され始める。神経上皮の頂端側(aPKC陽性)は細胞塊の外周に位置した (図13A, 下)。培養21日目にはこの神経上皮は部分的に非連続的にいくつかの大きな神経上皮に分かれた (図13A)。その後、これらの分割された大脳皮質神経上皮は頂端側がくぼんだ湾曲を示した (図13 B-D 及び 図19A, 上)。
【0215】
大脳皮質神経上皮のそれぞれの分割された部分は非対称性の湾曲構造を示した。神経上皮の片側は回転端の特徴を持ち (図13 B-D, 矢印)、もう片側は丸い特徴がある。活性化
ミオシン(リン酸化MLC2で示される)は大脳皮質領域の頂端側の表層に丸い側も含めて一様に蓄積した (図13C)。ライブイメージングでは、大脳皮質領域の回転端が反対側に近づき、最終的に接着した(図13 E 及び F)。この過程において大脳皮質領域神経上皮の本体
は回転端と同じ方向に動いていた (図13 E-H)。この回転を伴った形態変化は最終的に培
養27日目に内腔が内側に位置する半球状の大脳皮質構造を形成した(図13I 及び 図19A,
下)。
【0216】
大脳皮質領域の回転を伴う形態変化は、頂端側の収縮に必要なRho-ROCK-myosin経路の
阻害剤であるRock阻害剤の添加により抑制された (図13 J-L)。回転端の神経上皮では後
尾側マーカー(Otx2およびCoupTF1; 図13 M 及び N)が発現していることから、回転端は大脳皮質神経上皮の後尾側と考えられた。
【0217】
神経上皮を弱くヘッジホッグ作動薬(培養15-20日目に30 nM SAGを作用させる)で腹側化すると (文献18, 19)、foxg1::venusを発現する神経上皮の多くの部分がLGEマーカーであるGsh2 (文献20)を発現した (図13 O, 矢頭, 及び 図19 B)。生体内で見られるように
、多量のGAD65陽性GABA作動性神経細胞がLGE神経上皮の直下に誘導された (文献19) (図11P, 赤)。一方で終脳神経上皮の残りの領域の多くは大脳皮質のマーカーであるPax6陽性
であった (図13 Q)。高濃度のSAG添加によって、Pax6やGsh2の発現が抑制され、MGEマー
カーであるNkx2.1が誘導された (図19 B 及び C)。重要なことに、弱いSAGを作用させた
神経上皮は、生体内で見られるように、大脳皮質(Pax6陽性)とLGE(Gsh2陽性)の領域
が連続的に形成され、このことは改良した培養条件下では、自己組織化によって、ひとつ
の凝集塊の中で外套と外套下部が連続的に形成されていることを示している。この連続した神経上皮の中で、大脳皮質神経上皮の回転端 (図13 O-Q, 矢印)は大脳皮質―LGE連結部とは反対側に位置し、これは回転端および非回転端がそれぞれ大脳皮質神経上皮の背側と腹側に相当することと一致している。
【0218】
胎児では、外套神経上皮の強い湾曲によって発生中の大脳皮質が外転するが、胎児の外套そのものは、その端が他の組織によって固定されているために動かない。胎児神経上皮の皮質正中部(海馬領域)から大脳皮質背側の領域の湾曲は特に強力である (図17 A)。
本立体培養系では、ヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮の後尾側の端が固定されずに動くことができるので回転を伴う形態変化を起こす。これは胎児の大脳皮質背側の強い湾曲作用を反映していると推察することが出来る (図19 D)。
【0219】
これらの結果は、ヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮が自発的に後尾から吻腹にかけて軸極性を獲得し、それに沿った非対称的な回転を伴う形態変化を起こすことでドーム様の神経上皮を自発的に形成することを示している。このような形態変化によって、神経上皮の頂端側表面が大脳皮質半球の内側に位置するようになる。ライブイメージングでは、胎児の脳室帯で見られるように、神経幹細胞が核の上下運動を繰り返しながら内腔面で頻繁に分裂していた (図13 R, 及び 図19 E;この時期の分裂は大部分が対称分裂であった。)
【0220】
3つの皮質神経細胞層への形態的な分離
改良した培養条件下では、ヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮は培養42日以降も成長を続けた。培養70日ではヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮の厚さは200μm以上になった (図14 A 及び A′)。この時期になると、神経上皮は形態的に脳室帯、脳室下帯、中間帯、皮質板、辺縁帯の多層構造を示した (図14 B-G 及び 図20 A 及び B)。辺縁帯の最表層にはLamininが蓄積し、リーリン陽性の細胞(CR細胞)を含んでいた (図14 C 及び C′)。
辺縁帯の直下には皮質板が形成され、Tbr1陽性、Ctip2陽性の深部皮質板の神経細胞を含
んでいた (図14 D 及び D′)。この時期には浅部皮質板のマーカーであるSatb2 (文献21)を発現した神経細胞は少なかった (図14 E)。内腔側の脳室帯は、培養70日目には約100μmの厚さで、Pax6陽性およびSox2陽性の神経幹/前駆細胞 (図14 F 及び F′)、または放射状グリア (文献22)と呼ばれる細胞を含んでいた。その上部にTbr2陽性の細胞から成る脳
室下帯が形成されていた (図14 G)。
【0221】
この時期になると、皮質板と脳室下帯の間は細胞がまばらな、妊娠中期の中間帯と良く似た領域が発達していた。皮質板の直下にはCalretinin陽性で、中間帯に多くのMAP2陽性の神経突起を伸ばした一層の細胞層が形成されていた (図14 H 及び H′ 及び 図20 C 及び D)。これらの特徴は、ヒトの胎児の大脳皮質に顕著に見られるサブプレートにある神
経細胞(視床と大脳皮質を連結する初期パイオニア神経細胞)と類似している (文献23-25)。胎児のサブプレートとその直下の中間帯にはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の蓄積が観察される (図20 F, 右下, 括弧) (文献26)。同様に、ヒトES細胞由来大脳皮質神経上皮の同じ領域にも強いCSPGの蓄積が観察された (図14 H″及び 図20 E)。これらの結果はヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮が、皮質板や辺縁帯だけでなくサブプレートや中間帯も、内腔から頂端に向かって胎児と同じ並びで自己組織化し得ることを示している。この時期には、大脳皮質で明らかなGAD65陽性の介在神経細胞やTAG1陽性の皮質
下行性の神経軸索の蓄積は観察されなかった (図20 G)。
【0222】
培養91日目には、大脳皮質神経上皮の厚さは300-350μmになり、この時期にもよく発達した脳室帯を有していた (図14 I-K 及び 図20 H 及びI)。皮質板も分厚くなり(150μm
程度;図14 I)、Tbr1陽性、Ctip2陽性の深部皮質板の神経細胞だけでなく、浅部皮質板
の神経細胞 (Satb2陽性、Brn2陽性)も多く含んでいた(図14 L-N 及び 図20 J)。サブプレ
ートの神経細胞(Calretinin陽性) はこの時期にも皮質板の直下に観察された(図14 O)。
【0223】
長期間培養することによって見られた形態的な層構造の分離 (図14 Pに要約)は、ヒト
胎児大脳皮質の妊娠中期の始めに見られる組織に類似している (文献25, 27)。さらに、
ヒトES細胞由来の皮質板の中で、表層神経細胞 (Satb2陽性、Brn2陽性)が深層神経細胞 (Tbr1陽性、Ctip2陽性)よりも優先的に表層側に位置していた (図15 A-H)。さらに、培養50日目にEdUおよび70日目にBrdUを用いて細胞を1日ラベルすると、培養91日目にはEdUとBrdUでラベルされた細胞が優先的にそれぞれ深層と表層側に位置していた(図15 I-L)。これらの結果は胎児の大脳皮質発生時のインサイド−アウトパターン(文献5, 6)、つまり遅生まれの大脳皮質神経細胞は外側に、早生まれの大脳皮質神経細胞は内側に位置するというパターンに類似して神経細胞が位置する傾向を持っていることを示している。この考えに一致するように、培養112日では、成熟した神経細胞のマーカーであるCaMKIIαがより優
先的に、ヒトES細胞由来の大脳皮質の内腔側の2/3の部分に観察され、その領域はSatb2ではなくTbr1を主に発現していた (図15 M-O 及び 図20 K)。実際、細胞レベルでも、CaMKIIα陽性の神経細胞の大部分はSatb2ではなくTbr1を共発現していた(図20 L 及び M; 図15
Pに要約)。
【0224】
oSVZにおけるヒト特有の神経幹/前駆細胞の出現
最後に、長期間培養したヒトES細胞由来大脳皮質における大脳皮質神経幹/前駆細胞の
動態を検討した。過去のin vivo研究によって、発生がより進んだ時期では内腔側の神経
幹細胞の非垂直の分裂が増加し、この非対称的な分裂によって頂端側の神経前駆細胞が生み出されることが明らかになっている (文献28, 29)。本培養において、培養70日での内
腔側神経幹細胞は垂直の分裂面(60-90度)を優位に示した (図16 A-C)。この分裂では内腔表面に対して平行に娘細胞の分裂が起こる。一方、培養91日では分裂中の神経幹細胞(リン酸化Vimentin陽性)は非垂直の分裂をより高頻度に示した (図16 D-F)。
【0225】
培養70および91日の両方で、SVZにはTbr2陽性、Sox2陰性、Pax6陰性の多くのIntermediate progenitorsが含まれていた (図14 G 及び M)。興味深いことに、培養91日では、SVZの外側にIntermediate progenitorsとは異なる種類の、リン酸化Vimentin陽性かつTbr2陰性、Sox2陽性、Pax6陽性である神経幹/前駆細胞が蓄積していた (図16 G-G″ 及び 図21 A-C)。この種類の細胞は培養70日での割合は比較的小さく、培養91日で顕著になった (図16 H)。培養91日には、このTbr2陰性かつSox2陽性の細胞はより頂端側に位置し、一方でTbr2陽性かつSox2陰性のIntermediate progenitorsはより内腔側に位置していた (図16 I,
右)。興味深いことに、これらの神経幹/前駆細胞は、早期の神経分化を誘導することに
より内腔側の神経幹/前駆細胞を強力に減少させるNotchシグナル阻害剤に対して異なる反応性を示した。Notchシグナル阻害剤はTbr2陽性かつSox2陰性のIntermediate progenitorsを増加させたが、Tbr2陰性かつSox2陽性の細胞はその処理後にはほとんど残っていなか
った (図21 D-F)。
【0226】
最近の研究では、発生が進んだ時期のヒト大脳皮質形成oSVZにはTbr2陽性のIntermediate progenitorsとは種類の異なるTbr2陰性、Sox2陽性、Pax6陽性の神経幹/前駆細胞が蓄
積していることが報告されている (図21 G) (文献11, 12)。oRG(またはOSVZ幹細胞)と呼
ばれるこれらの神経幹/前駆細胞 (文献11, 12) は、ヒト大脳皮質に特徴的な表層神経細
胞の膨大な数の産生に寄与していると考えられている。このoRG細胞は頂端側表層に向け
た突起を有するが、内腔の神経幹細胞とは異なり内腔側への突起は持っていない。同様に培養91日目のヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮のTbr2陰性、Sox2陽性、Pax6陽性の神経幹/前駆細胞は頂端側の突起を持つが、内腔側への突起は持っていない (図16 J-K′ 及び
図21 H, H′, 及び I)。これらの細胞はSVZでもpericentrin陽性の基底小体を細胞体の
中に持っている (図21 J)。これは内腔近傍に基底小体を有する内腔側の神経幹細胞とは
異なる。生体内のoRGと同様に、ヒトES細胞由来のoRG様の細胞は水平に分裂する傾向を示
した(図16 L 及び M)。Tbr2陽性の細胞(リン酸化Vimentin陽性)は、生体内のIntermediate progenitorsと同様に頂端側への突起は持っていなかった(図21 K-K″)。
【0227】
まとめると、これらの結果は自己組織化された大脳皮質神経上皮はヒトの大脳皮質形成のより発生の進んだ時期に見られるような、oRG様の細胞の出現も含めて神経幹/前駆細胞の動態を模倣していることを示している。
【0228】
この研究で、ヒト胎児脳で見られる軸極性と多層構造の分離を、ヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮が内在性のプログラムによって自己組織化でき得ることが示された。本発明の培養系では、ヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮は13週以上もの長期間において浮遊培養条件下で健康的に成長することが出来る。そして、約350μmの厚さになり、ヒト妊娠中期 (胎生11週から)の胎児大脳皮質で見られる多層構造を有するようになる(文献30)。こ
の結果は、従前の3次元培養の限界、つまりヒト妊娠初期に相当する成熟さの組織までし
か大脳皮質神経上皮を維持できなかったことと明らかに異なる。本発明の培養法は、さらにヒト妊娠中期の大脳皮質発生に特徴的な現象、つまり培養91日(13週)でのoRG様の神
経幹/前駆細胞の出現までも再現することが出来た。これらの結果は、本発明の方法にお
ける自己組織化した組織の発生スピードは、胎児の脳の発生とほぼ同等であることも示唆している。
【0229】
この培養で重要な効果の一つは、長い培養期間において継続的に拡大する神経上皮の中でも、内在的にプログラムされた大脳皮質の発生が実行されるということである。皮質内での極性形成が自発的に形成されるメカニズムは将来の研究に向けて興味深い問題である。さらにヒトES細胞由来の大脳皮質神経上皮は回転を伴うような形態変化は、自発的に形成された極性に沿った非対称性の動きを示した。
【0230】
大脳皮質神経上皮の極性に加えて、本発明の培養系は終脳全体の背腹軸の特異性に関する研究に対しても用いることが出来る。特に部分的に腹側化させた条件 (図13 O-Q),では、ヒトES細胞由来の神経上皮の自己組織化によって、生体内で見られるように大脳皮質とLGE (線条体原基)を隣接した位置関係で再現した。一方でより強力なヘッジホッグシグナルによってMGEの形成を誘導した。
【0231】
この試験で示した改良された培養系では、大脳皮質の複雑な層形成、つまり脳室帯、脳室下帯、中間帯、サブプレート、皮質板、辺縁帯の形成も再現することが可能になった。サブプレートは霊長類では特に優位な構造(時に、VII層と呼ばれる)で、大脳皮質の初
期神経細胞 (pioneer neuron)で形成されると考えられている (文献24, 25)。しかしながらサブプレートは胎児脳では一時的にのみ出現する構造で、サブプレートに派生した一部が成体脳の白質の介在神経細胞に存在する (文献33)。サブプレートは生後には無くなっ
てしまうため、その研究は特にヒトにおいては容易ではなく、それ故に我々の系はこの理解が進んでいない神経細胞層の研究では重要であろう。さらに、我々の培養系は、滑脳症の原因を含めて、ヒト胎児大脳皮質のインサイド−アウトの層形成の研究にも応用できるであろう。
【0232】
最後に、本発明の培養系は、ヒトの大脳皮質形成でのoRG神経幹/前駆細胞の役割を研究する上で大きな利点を持っている。しわのあるヒトの大脳皮質にとって、何度も分裂を繰り返しながら多くの表層神経細胞を生み出すこの神経幹/前駆細胞を有することは、恐ら
く大きな利点だと考えられる。これまでに、oRGと定義付けるための特異的なマーカーは
報告されていないし、oRGと内腔側の神経幹細胞 (どちらもSox2陽性、Pax6陽性、Tbr2陰
性)を区別するには、細胞形態と、その動きと場所に主に依存している。それ故に、位置
関係が失われてしまう分散培養を用いたoRGの研究は極めて限定的になってしまっている
。一方で、本発明の培養系は、発生中のヒトの大脳皮質の3次元の位置関係を有するので
、この点で大きな利点を持っている。ごく最近、ヒト多能性幹細胞由来の多層構造を有した大脳皮質組織の中で、oRGが誘導できたという同様の結果が報告された (文献34)。この研究は確率論的に脳領域の特異性が得られる非選択的な分化方法を用いている(我々は再
現性の高い大脳皮質特異的な分化法である)。
【0233】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
【0234】
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0235】
参考文献
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27 Bayer SA and Altman J. (2005) Atlas of Human Central Nervous System Development, volume 3: The Human Brain During the Second Trimester (CRC Press, Boca Raton)
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32 Rakic S, Zecevic N. (2003) Emerging complexity of layer I in human cerebral cortex. Cereb Cortex.13:1072-1083.
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34 Lancaster MA, et al. (2013) Cerebral organoids model human brain development and microcephaly. Nature. 501:373-379.
35 Bayer SA and Altman J. (2004) Atlas of Human Central Nervous System De
velopment, volume 2: The Human Brain During the Third Trimester (CRC Press, Boca
Raton)
【産業上の利用可能性】
【0236】
本発明によれば、生体内の終脳と同様の高次構造を有する終脳若しくはその部分組織(大脳皮質、大脳基底核、海馬、脈絡膜等)、或いはその前駆組織を、インビトロにおいて多能性幹細胞誘導することができる。従って、本発明は、脳神経領域における再生医療の実施に有用である。
【0237】
本出願は日本で出願された特願2013−242394(出願日:2013年11月22日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【手続補正書】
【提出日】2021年2月15日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び(2)を含む、終脳若しくはその部分組織、或いはその前駆組織を含む細胞凝集塊の製造方法;
(1)多能性幹細胞をWntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の存在下で、50%以上の細胞凝集塊が終脳マーカー陽性となるまで浮遊培養することにより、終脳マーカー陽性凝集塊を得る工程であって、ここにおいてWntシグナル阻害剤が、0.3〜5μMのIWR-1-endoに相当する濃度で存在し、TGFβシグナル阻害剤が、1〜10μMのSB431542に相当する濃度で存在する、第一工程、及び
(2)第一工程で得られた細胞凝集塊をWntシグナル阻害剤及びTGFβシグナル阻害剤の不在下で、細胞凝集塊中に、脳室様の空洞を有した半球状の神経上皮様構造が形成されるのに十分な期間浮遊培養する第二工程。
【請求項2】
細胞凝集塊が、大脳皮質、大脳基底核、海馬及び脈絡膜からなる群から選択されるいずれかの終脳部分組織、又はその前駆組織を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
終脳マーカーがFoxg1である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第一工程において、浮遊培養期間が15〜20日間である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
第一工程において、Wntシグナル阻害剤が、約3μMのIWR-1-endoに相当する濃度で存在し、TGFβシグナル阻害剤が、約5μMのSB431542に相当する濃度で存在し、浮遊培養期間が、約18日間である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
浮遊培養開始から10日を超えない範囲で、Rho-associated coiled-coilキナーゼ阻害剤の存在下で培養することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
浮遊培養開始から約6日間、Rho-associated coiled-coilキナーゼ阻害剤の存在下で培養することを含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
第二工程の浮遊培養期間が、15〜20日間である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
細胞凝集塊に、終脳マーカー陽性の神経上皮様構造が形成され、当該細胞凝集塊に含まれる細胞の70%以上が終脳マーカー陽性である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
内腔側にPax6陽性及びSox2陽性の細胞層を有し、外側にTuj1およびCtip2とTbr1を発現する細胞を含む層を有する構造を形成する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
第二工程の浮遊培養期間が、20日以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
第二工程の浮遊培養期間が、50日以上である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
第二工程の浮遊培養が、Reelin陽性のカハールレチウス細胞及びラミニンを含む辺縁帯、並びに、Tbr1陽性及びCtip2陽性の深部皮質板、及びSatb2陽性神経細胞を含む浅部皮質板を包含する皮質板が、浅部皮質板が辺縁帯と接する形態で形成される期間まで実施される、請求項11又は12に記載の製造方法。
【請求項14】
得られる細胞凝集塊が、表層から深部に向かって、辺縁帯、皮質板、サブプレート、中間帯、脳室下帯及び脳室帯を含む多層構造を有する、大脳皮質組織又はその前駆組織を含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
第二工程の浮遊培養を、無血清培地中で行う、請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
第二工程の浮遊培養を、Wntシグナル増強剤の存在下で行う、請求項1〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
第二工程の浮遊培養を、Wntシグナル増強剤及び骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の存在下で行う、請求項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
細胞凝集塊を、Shhシグナル作動薬で処理することを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
細胞凝集塊を、FGF8で処理することを含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
得られる細胞凝集塊が、吻側化大脳皮質又はその前駆組織を含む、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
多能性幹細胞が胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項22】
多能性幹細胞がヒト由来である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項23】
浮遊培養をフィーダー細胞の非存在下で行う、請求項1〜22のいずれか1項に記載の製造方法。