【解決手段】アンモニア水浄化方法は、アンモニアを吸蔵する吸蔵材を用いてアンモニア水からアンモニアを除去する。アンモニア水浄化方法は、吸蔵材として、プロトンを有する固体酸を主成分とする吸蔵材を用い、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係に基づいて、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が規定値以下となるようなアンモニア吸蔵量が得られるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材を準備し、当該吸蔵材をアンモニア水に添加する。
前記プロトンを有する固体酸として、リン酸ジルコニウム、モルデナイト型ゼオライト、Y型ゼオライト及び添着活性炭の何れかを使用する請求項1記載のアンモニア水浄化方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、アンモニアの吸蔵量を加味した除湿脱臭剤の添加量について何らの考慮もなされていない。このため、アンモニア水中のアンモニア濃度を十分に低減することができない。
【0005】
本発明の目的は、アンモニア水中のアンモニア濃度を十分に低減することができるアンモニア水浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、アンモニア水からのアンモニアの除去について鋭意検討を重ねた結果、プロトンを有する固体酸を主成分とする吸蔵材を用いてアンモニアを除去する場合、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が高くなるほど、吸蔵材のアンモニア吸蔵量が多くなるのが一般的であることに着目し、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係から、アンモニア水中のアンモニア量に応じた吸蔵材の適切な添加量が求められることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明の一態様は、アンモニアを吸蔵する吸蔵材を用いてアンモニア水からアンモニアを除去するアンモニア水浄化方法であって、吸蔵材として、プロトンを有する固体酸を主成分とする吸蔵材を用い、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係に基づいて、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が規定値以下となるようなアンモニア吸蔵量が得られるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材を準備し、当該吸蔵材をアンモニア水に添加する。
【0008】
このようなアンモニア水浄化方法においては、プロトンを有する固体酸を主成分とする吸蔵材を用いて、アンモニア水の浄化が行われる。具体的には、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材をアンモニア水に添加することにより、アンモニア水中のアンモニアが吸蔵材に吸蔵されるため、アンモニア水からアンモニアが除去される。このとき、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係に基づいて、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が規定値以下となるようなアンモニア吸蔵量が得られるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材が準備される。これにより、アンモニア水中のアンモニア濃度が十分に低減される。
【0009】
プロトンを有する固体酸として、リン酸ジルコニウム、モルデナイト型ゼオライト、Y型ゼオライト及び添着活性炭の何れかを使用してもよい。この場合には、比較的手に入れやすい固体酸を使用することができる。また、そのような固体酸を使用することにより、アンモニア水中のアンモニア濃度が確実に十分に低減される。
【0010】
規定値が2ppmであってもよい。悪臭防止法に基づく悪臭物質の規制基準として、敷地境界線でのアンモニア濃度は2ppm以下とされている。従って、アンモニア水中のアンモニア濃度を敷地境界線における悪臭物質の規制基準以下まで低減することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アンモニア水中のアンモニア濃度を十分に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るアンモニア水浄化方法の工程を示すフローチャートである。
図1において、本実施形態のアンモニア水浄化方法は、アンモニアを吸蔵する吸蔵材をアンモニア除去剤として用いて、アンモニア水からアンモニアを除去することにより、アンモニア水を浄化する方法である。
【0015】
吸蔵材は、水に難溶なプロトンを有する固体酸を主成分としている。つまり、吸蔵材は、プロトンを有する固体酸のみからなっていてもよいし、或いはプロトンを有する固体酸に他の成分が多少含まれていてもよい。プロトンを有する固体酸としては、例えば層状リン酸ジルコニウム、プロトン交換モルデナイト型ゼオライト、プロトン交換Y型ゼオライト及び添着活性炭が挙げられる。
【0016】
図2は、プロトンを有する固体酸の一例としてα型層状リン酸ジルコニウム(α−ZrP)の結晶の構造モデルを示す図である。
図2において、α型層状リン酸ジルコニウム1は、ジルコニウム層2の上下にHPO
4基3が3点で結合した二次元ヘテロポリマー層4を基本シートとし、リン原子に結合したOH基が隣接する基本シートの方向へ垂直に突き出ている。ここで、PO
4基が結合したH
+(水素原子)がプロトンである。
【0017】
図1に戻り、本実施形態のアンモニア水浄化方法では、まず水に難溶なプロトンを有する固体酸を主成分とする吸蔵材を準備する準備工程(S1)が実施される。そして、準備工程において準備された吸蔵材をアンモニア水に添加する添加工程(S2)が実施される。
【0018】
準備工程では、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係に基づいて、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が規定値以下となるようなアンモニア吸蔵量が得られるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材が準備される。
【0019】
図3は、プロトンを有する固体酸として層状リン酸ジルコニウムを使用した場合に、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係を表したリン酸ジルコニウム−アンモニア系の濃度−組成等温線データを示すグラフである。このような濃度−組成等温線データは、20℃〜21℃の温度条件下での実験によって作成されている。なお、アンモニア平衡濃度は、アンモニア水に吸蔵材を添加してから安定状態となった時のアンモニア濃度である。
【0020】
層状リン酸ジルコニウム(α−ZrP)は、化学式:Zr(HPO
4)
2・H
2O、第一稀元素化学 CZP−100、分子量:301、カチオン交換容量:6.6mmol/gである。
【0021】
このとき、約1gの層状リン酸ジルコニウムを試料として使用した。また、50mlのアンモニア水を使用した。そして、アンモニア水の初期濃度を約200ppm〜3000ppmとなるように調製した。アンモニア水の調製には、イオン交換水、及び第三類医薬品 日本薬局方 アンモニア水(健栄製薬株式会社)を使用した。
【0022】
50mlのアンモニア水に約1gの試料を加え、500rpmで撹拌を行いながら、溶液中のアンモニア濃度を測定した。アンモニア濃度の測定には、アンモニア計を用いた。アンモニア計としては、Thermo scientific orion製 本体Orion Star A324 pH/ISE Portable Meter 電極Ammonia combination electrode951201を使用した。そして、試料のアンモニア濃度差からアンモニア吸蔵量を算出した。アンモニア吸蔵量は、試料1gに対するアンモニアの吸蔵量(g)である。
【0023】
図3から分かるように、リン酸ジルコニウム−アンモニア系の濃度−組成等温線データでは、吸蔵材のアンモニア吸蔵量が約0.10gを超えるまでは、アンモニア水のアンモニア平衡濃度は2ppm以下である。吸蔵材のアンモニア吸蔵量が約0.12gであるときは、アンモニア水のアンモニア平衡濃度は100ppmよりも高くなる。
【0024】
図4は、プロトンを有する固体酸としてプロトン交換モルデナイト型ゼオライトを使用した場合に、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係を表したモルデナイト型ゼオライト−アンモニア系の濃度−組成等温線データを示すグラフである。このような濃度−組成等温線データは、23℃〜25℃の温度条件下での実験によって作成されている。
【0025】
プロトン交換モルデナイト型ゼオライトは、東ソー HSZ−620HOA、市販品:カチオンはプロトン、細孔径:0.7nm、カチオン交換容量:2.0mmol/gである。
【0026】
このとき、約1gのモルデナイト型ゼオライトを試料として使用した。また、50mlのアンモニア水を使用した。そして、アンモニア水の初期濃度を約100ppm〜1500ppmとなるように調製した。アンモニア水の調製方法、溶液中のアンモニア濃度及びpHの測定方法、並びにアンモニア吸蔵量の算出方法については、上記と同様である。
【0027】
図4から分かるように、モルデナイト型ゼオライト−アンモニア系の濃度−組成等温線データでは、吸蔵材のアンモニア吸蔵量が約0.015gを超えるまでは、アンモニア水のアンモニア平衡濃度は2ppm以下である。吸蔵材のアンモニア吸蔵量が約0.02g以上であるときは、アンモニア水のアンモニア平衡濃度は30ppmよりも高くなる。
【0028】
図5は、プロトンを有する固体酸としてプロトン交換Y型ゼオライトを使用した場合に、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係を表したY型ゼオライト−アンモニア系の濃度−組成等温線データを示すグラフである。このような濃度−組成等温線データも、23℃〜25℃の温度条件下での実験によって作成されている。
【0029】
プロトン交換Y型ゼオライトは、東ソー HSZ−331HSA、市販品:カチオンはプロトン、細孔径:0.9nm、カチオン交換容量:2.0mmol/gである。
【0030】
このとき、約1gのY型ゼオライトを試料として使用した。また、50mlのアンモニア水を使用した。そして、アンモニア水の初期濃度を約100ppm〜1500ppmとなるように調製した。アンモニア水の調製方法、溶液中のアンモニア濃度及びpHの測定方法、並びにアンモニア吸蔵量の算出方法については、上記と同様である。
【0031】
図5から分かるように、Y型ゼオライト−アンモニア系の濃度−組成等温線データでは、吸蔵材のアンモニア吸蔵量が約0.012gを超えるまでは、アンモニア水のアンモニア平衡濃度は2ppm以下である。吸蔵材のアンモニア吸蔵量が約0.02g以上であるときは、アンモニア水のアンモニア平衡濃度は30ppmよりも高くなる。
【0032】
図6は、プロトンを有する固体酸として添着活性炭を使用した場合に、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係を表した添着活性炭−アンモニア系の濃度−組成等温線データを示すグラフである。このような濃度−組成等温線データも、23℃〜25℃の温度条件下での実験によって作成されている。
【0033】
添着活性炭は、大阪ガスケミカル 粒状白鷺GT
SX4/6、粒度:3.35mm〜4.75mm(95%)である。
【0034】
このとき、約1gのY型ゼオライトを試料として使用した。また、50mlのアンモニア水を使用した。そして、アンモニア水の初期濃度を約100ppm〜1500ppmとなるように調製した。アンモニア水の調製方法、溶液中のアンモニア濃度及びpHの測定方法、並びにアンモニア吸蔵量の算出方法については、上記と同様である。
【0035】
図6から分かるように、添着活性炭−アンモニア系の濃度−組成等温線データでは、吸蔵材のアンモニア吸蔵量が約0.05gを超えるまでは、アンモニア水のアンモニア平衡濃度は2ppm以下である。吸蔵材のアンモニア吸蔵量が約0.06g以上であるときは、アンモニア水のアンモニア平衡濃度は5ppmよりも高くなる。
【0036】
以上のような測定結果から、
図1における準備工程S1では、規定値を2ppmとしている。つまり、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が2ppm以下となるようなアンモニア吸蔵量が得られるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材が準備される。
【0037】
なお、2ppmという数値は、工業専用地域における悪臭防止法に基づく悪臭物質の規制基準に相当する。このため、悪臭防止法に基づく悪臭物質の規制基準として、敷地境界線でのアンモニア濃度は2ppm以下とされている。
【0038】
従って、吸蔵材として層状リン酸ジルコニウムを使用する場合には、
図3に示されるように、吸蔵材1gに対するアンモニアの吸蔵量が約0.105g以下となるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を決定する。
【0039】
具体的には、例えば吸蔵材1gに対するアンモニアの吸蔵量とアンモニア水中のアンモニア量と吸蔵材の添加量との関係を表した添加量マップデータを、実験等により予め設定しておく。そして、添加量マップデータに従って、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を求める。また、吸蔵材1gに対するアンモニアの吸蔵量及びアンモニア水中のアンモニア量をパラメータとした所定の計算式を用いて、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を求めてもよい。なお、アンモニア水中のアンモニア量が不明である場合には、例えば質量計等によりアンモニア量を計測してもよい。
【0040】
また、吸蔵材としてプロトン交換モルデナイト型ゼオライトを使用する場合には、
図4に示されるように、吸蔵材1gに対するアンモニアの吸蔵量が約0.015g以下となるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を決定する。
【0041】
吸蔵材としてプロトン交換Y型ゼオライトを使用する場合には、
図5に示されるように、吸蔵材1gに対するアンモニアの吸蔵量が約0.012g以下となるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を決定する。
【0042】
吸蔵材として添着活性炭を使用する場合には、
図6に示されるように、吸蔵材1gに対するアンモニアの吸蔵量が約0.055g以下となるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を決定する。
【0043】
その後の添加工程S2では、準備工程S1で決定された添加量を有する吸蔵材をアンモニア水に添加する。これにより、アンモニア水中のアンモニアが吸蔵材に適切に吸蔵(吸着)されるようになる。
【0044】
ところで、アンモニアは、水に大量に溶解する。
図7は、室温(25℃)におけるアンモニア水中のアンモニア濃度とアンモニア蒸気濃度との関係を示すグラフ(化学工学便覧 改訂6版 他 (社)化学工学会、丸善((株)) p.81 1999年)である。
図7から分かるように、アンモニア蒸気濃度とアンモニア水中のアンモニア濃度とは同程度であることから、水を使ってアンモニア蒸気濃度を低減するためには、大量の水が必要となる。従って、アンモニア水中のアンモニア濃度を十分に低減することができるアンモニア除去剤の開発が望まれている。
【0045】
これに対し、本実施形態では、プロトンを有する固体酸を主成分とする吸蔵材を用いて、アンモニア水の浄化が行われる。具体的には、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材をアンモニア水に添加することにより、アンモニア水中のアンモニアが吸蔵材に吸蔵されるため、アンモニア水からアンモニアが除去される。このとき、アンモニア水のアンモニア平衡濃度と吸蔵材のアンモニア吸蔵量との相関関係に基づいて、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が規定値以下となるようなアンモニア吸蔵量が得られるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材が準備される。これにより、アンモニア水中のアンモニア濃度が十分に低減される。その結果、大量の水を必要としなくても、アンモニア水中のアンモニア濃度を十分に低減することができる。
【0046】
また、本実施形態では、プロトンを有する固体酸として、リン酸ジルコニウム、モルデナイト型ゼオライト、Y型ゼオライト及び添着活性炭の何れかが使用される。従って、比較的手に入れやすい固体酸を使用することができる。また、そのような固体酸を使用することにより、アンモニア水中のアンモニア濃度が確実に十分に低減される。
【0047】
また、本実施形態では、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が2ppm以下となるようなアンモニア吸蔵量が得られるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材が準備される。従って、アンモニア水中のアンモニア濃度を敷地境界線における悪臭物質の規制基準以下まで低減することができる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、プロトンを有する固体酸として、リン酸ジルコニウム、モルデナイト型ゼオライト、Y型ゼオライト及び添着活性炭の何れかが使用されているが、これ以外にも、例えばリン酸チタニウム、リン酸錫、リン酸セリウム、リン酸ハフニウム、リン酸アルミニウムの水和物及びプロトン交換モンモリナイト等を使用してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、アンモニア水のアンモニア平衡濃度が2ppm以下となるようなアンモニア吸蔵量が得られるように、アンモニア水中のアンモニア量に応じた添加量を有する吸蔵材が準備されているが、アンモニア水のアンモニア平衡濃度の規定値としては、特に2ppmには限られず、プロトンを有する固体酸の種類に応じて適宜変更可能である。