【解決手段】Si(111)基板と、前記Si(111)基板の上に設けられた、窒化物系材料及び/又はアルミニウムからなる第1の薄膜と、前記第1の薄膜の上に設けられた、窒化物系材料からなる第2の薄膜と、を備える積層膜構造体であって、前記Si(111)基板上に厚さが0nm以上1.0nm未満の非層結晶が存在し、前記積層膜構造体の表面の(0002)面のロッキングカーブの半値幅(FWHM)が1.50°以下である、積層膜構造体。
前記構造体は、その最表面が六方晶窒化ガリウム層で構成され、前記窒化ガリウム層の表面がガリウム(Ga)極性である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の積層膜構造体。
前記第1の薄膜を成膜する際、成膜室内にアルゴンガスのみを導入して膜厚1〜10nmの薄膜を成膜し、その後、成膜室内に窒素を含んだガスを導入して成膜を続行する、請求項12又は13に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の手法で製造された窒化物系薄膜には課題がある。デバイスの特性を良好にするには、デバイスを構成する窒化物系薄膜の結晶性の高いことが望ましい。ここで結晶性が高いとは、薄膜内での結晶配向が高度に揃った状態のことをいう。また窒化物系薄膜をパワーデバイス等の用途に用いる場合には、大口径化が可能で低コストのSi基板が最も有効な基板である。
【0008】
しかしながらMOCVD法ではSi基板上に高結晶性の窒化物系薄膜(例えば窒化ガリウム薄膜)を成膜することが困難である。すなわち、MOCVD法で高結晶性の薄膜を成長させるには、基板温度を1000℃程度にまで上げ、その温度で成膜することが必要である。そのため成膜時に薄膜中の金属成分(例えばガリウム)がSi基板と反応する現象、すなわちメルトバックエッチングが起こるとの問題がある。また、窒化ガリウムは、その熱膨張率がSi基板とは大きく異なる。そのため成膜後の降温過程で窒化ガリウム薄膜にクラックが入りやすいとの問題がある。このような問題があるため、MOCVD法ではSi基板を用いることができず、サファイア基板や窒化ガリウム単結晶基板などの高価な基板を使う必要がある。
【0009】
一方でスパッタリング法を用いた場合には、1000℃未満の低温での成膜が可能である。そのためメルトバックエッチングやクラックの問題を引き起こさずに、Si基板上に薄膜を成膜することが可能である。しかしながらスパッタリング法で成膜された従来の窒化物系薄膜は、その結晶性に改善の余地がある。そのため高結晶性の窒化物系薄膜をSi基板上に備えた積層膜構造体を作製するには、薄膜の成膜条件や積層膜構造体の界面構造の更なる検討が望まれる。
【0010】
このような問題点に鑑みて本発明者らが検討を行ったところ、窒化物系材料及び/又はアルミニウムからなる薄膜をSi基板上に設けた積層膜構造体において、Si基板表面近傍の状態が薄膜の結晶性に重要な役割を果たしており、これを制御することが高結晶性窒化物系薄膜を得る上で重要であるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、高い結晶性及び平坦性を有する積層膜構造体及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は下記(1)〜(15)の態様を包含する。なお、本明細書において「〜」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち、「X〜Y」は「X以上Y以下」と同義である。また「X及び/又はY」は「X及びYの少なくとも一方(X及びYの一方又は両方)」と同義である。
【0013】
(1)Si(111)基板と、
前記Si(111)基板の上に設けられた、窒化物系材料及び/又はアルミニウムからなる第1の薄膜と、
前記第1の薄膜の上に設けられた、窒化物系材料からなる第2の薄膜と、
を備える積層膜構造体であって、
前記Si(111)基板上に厚さが0nm以上1.0nm未満の非層結晶が存在し、前記積層膜構造体の表面の(0002)面のロッキングカーブの半値幅(FWHM)が1.50°以下である、積層膜構造体。
【0014】
(2)前記非晶質層の厚さが0nmであり、前記第1の薄膜が他の層を介さずに前記Si(111)基板と直に接している、上記(1)の積層膜構造体。
【0015】
(3)前記Si(111)基板表面から10nm以内における酸素含有量が5at%以下である、上記(2)の積層膜構造体。
【0016】
(4)前記Si(111)基板表面から10nm以内における窒化ケイ素含有量が5at%以下である、上記(2)又は(3)の積層膜構造体。
【0017】
(5)前記非晶質層の厚さが0nm超1.0nm未満である、上記(1)の積層膜構造体。
【0018】
(6)Si(111)基板表面から10nm以内の窒化ケイ素含有量が5at%以下である、上記(5)の積層膜構造体。
【0019】
(7)前記積層膜構造体の表面の算術平均粗さ(Ra)が10.0nm以下である、上記(1)〜(6)のいずれかの積層膜構造体。
【0020】
(8)前記第1の薄膜が窒化アルミニウム薄膜であり、前記第2の薄膜が窒化ガリウム薄膜である、上記(1)〜(7)のいずれかの積層膜構造体。
【0021】
(9)前記構造体は、その最表面が六方晶窒化ガリウム層で構成され、前記窒化ガリウム層の表面がガリウム(Ga)極性である、上記(1)〜(8)のいずれかの積層膜構造体。
【0022】
(10)上記(1)〜(9)のいずれかの積層膜構造体を備えた半導体素子。
【0023】
(11)上記(10)の半導体素子を含む電子機器。
【0024】
(12)上記(1)〜(9)のいずれかの積層膜構造体の製造方法であって、以下の工程:
Si(111)基板を準備する工程と、
前記Si(111)基板を洗浄液に浸漬する工程と、
浸漬後の前記Si(111)基板の上に、スパッタリング法により第1の薄膜を成膜する工程と、
前記第1の薄膜の上に、スパッタリング法により第2の薄膜を成膜する工程と、を含み、
前記第1の薄膜を成膜する際、式:Es=[投入電力(単位:W/cm
2)]/[導入ガス圧力(単位:Pa)]
2で表されるスパッタエネルギー(Es)を0.1W/cm
2Pa
2以上150W/cm
2Pa
2以下とし、
前記第2の薄膜を成膜する際、式:Es=[投入電力(単位:W/cm
2)]/[導入ガス圧力(単位:Pa)]
2で表されるスパッタエネルギー(Es)を0.04W/cm
2Pa
2以上150W/cm
2Pa
2以下とする、方法。
【0025】
(13)前記第1の薄膜を成膜する際、成膜直前の成膜装置内の真空度を1×10
−4Pa以下とする、上記(12)の方法。
【0026】
(14)前記第1の薄膜を成膜する際、成膜室内にアルゴンガスのみを導入して膜厚1〜10nmの薄膜を成膜し、その後、成膜室内に窒素を含んだガスを導入して成膜を続行する、上記(12)又は(13)の方法。
【0027】
(15)前記第1の薄膜の膜厚が20nm以上である、上記(12)〜(14)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高い結晶性及び平坦性を有する積層膜構造体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0031】
[積層膜構造体]
本実施形態の積層膜構造体は、Si(111)基板と、このSi(111)基板の上に設けられた、窒化物系材料及び/又はアルミニウムからなる第1の薄膜と、この第1の薄膜の上に設けられた、窒化物系材料からなる第2の薄膜と、を備える。またSi(111)基板上に厚さが0nm以上1.0nm未満の非層結晶が存在する。さらに積層膜構造体の表面の(0002)面のロッキングカーブの半値幅(FWHM)が1.50°以下である。
【0032】
本実施形態の積層膜構造体は、高平坦な表面を有し、且つ第1の薄膜及び第2の薄膜の結晶性が高い。例えば第1の薄膜及び第2の薄膜の結晶性をX線回折法で評価すると、(0002)面のロッキングカーブ半値幅(FWHM)が1.50°以下であり、好ましくは1.00°以下、さらに好ましくは0.95°以下、特に好ましくは0.50°以下、最も好ましくは0.10°以下である。そのため積層膜構造体を、LED等の発光素子やパワーデバイス用素子をSi基板上に作製する際の下地層に好適に用いることができる。また積層膜構造体を高結晶性窒化ガリウム薄膜成長用のテンプレート基板として好適に用いることができる。
【0033】
本発明者らの知る限り、このような高平坦且つ高結晶性の窒化物系薄膜をSi基板上に備えた積層膜構造体の報告はない。例えば特許文献1はMOCVD法により窒化ガリウム(GaN)をサファイア基板上に成長させることを開示するが、用いられる基板はSi基板ではない。特許文献2は低酸素含有量のスパッタリングターゲット用窒化ガリウム焼結体を提案しているが、Si基板上窒化ガリウムの結晶性に関する記載はない。特許文献3はSi基板上に窒化ガリウムを成長させるにあたり、窒化ガリウムをバッファ層として装入する方法を開示するが、Si基板と窒化アルミニウムバッファ層との間の構造に関する詳細な記載はない。
【0034】
Si(111)基板は、その主面の結晶面方位が(111)面であるSi基板である。Si(111)基板の製法は限定されず、チョクラルスキー(CZ)法やフローティングゾーン(FZ)法により製造されたものであってもよく、あるいはこれらの方法で製造されたSi単結晶基板上に、Si単結晶層をエピタキシャル成長させたSiエピ基板であってもよい。またSi(111)基板はその表面及び/又は内部にドナーやアクセプター等のドーパント元素を含んでいてもよく、あるいは含まなくともよい。
【0035】
Si(111)基板の上には第1の薄膜が設けられる。第1の薄膜は窒化物系材料及び/又はアルミニウムからなる。窒化物系材料は、窒化物系化合物である限り限定されない。窒化物系材料及び/又はアルミニウムは、ドーパント元素を含んでいてもよく、あるいは含まなくともよい。第1の薄膜として、例えば窒化ガリウム薄膜、窒化アルミニウム薄膜、窒化チタン薄膜、窒化インジウム薄膜、窒化アルミニウムガリウム薄膜、窒化インジウムガリウム薄膜が挙げられる。なお窒化物系化合物は化学量論組成のものに限定されない。例えば窒化ガリウム(GaN)は、化学量論組成ではガリウム(Ga)と窒素(N)の比が1:1であるが、窒化ガリウムの結晶構造を維持している限り、化学量論組成からのずれは許容される。また第1の薄膜は、窒化物系材料及び/又はアルミニウムからなる限り、その態様は限定されない。窒化物系材料のみからなってもよく、アルミニウムのみからなっていてもよい。あるいは窒化物系材料とアルミニウムとの混相からなってもよく、窒化物系材料からなる層とアルミニウムからなる層との積層膜であってもよい。
【0036】
第1の薄膜は、薄膜と見なすことができる限り、その厚さは限定されない。しかしながら、膜厚が過度に薄いと、第1の薄膜及び第2の薄膜の結晶性や積層膜構造体の表面平坦性が劣ることがある。したがって膜厚は20nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、40nm以上がさらに好ましい。膜厚の上限は限定されない。膜厚は1000nm以下であってよく、500nm以下であってよく、250nm以下であってよい。膜厚は、同条件でスパッタした膜を複数用意し、接触式膜厚測定機や光学式膜厚測定機で膜厚を求め、それらから求めた成膜レートを用いて算出してもよい。
【0037】
第1の薄膜の上には、窒化物系材料からなる第2の薄膜が設けられる。第2の薄膜を構成する材料は、窒化物系化合物である限り限定されない。窒化物系化合物はドーパント元素を含んでいてもよく、あるいは含まなくともよい。第2の薄膜として、例えば窒化ガリウム薄膜、窒化アルミニウム薄膜、窒化チタン薄膜、窒化インジウム薄膜、窒化アルミニウムガリウム薄膜、窒化インジウムガリウム薄膜が挙げられる。また第2の薄膜は、薄膜と見なすことができる限り、その厚さは限定されない。しかしながら、膜厚は10nm以上が好ましく、20nm以上がさらに好ましく、30nm以上がより好ましい。膜厚の上限は限定されない。膜厚は1000nm以下であってよく、500nm以下であってよく、300nm以下であってよい。膜厚は、同条件でスパッタした膜を複数用意し、接触式膜厚測定機や光学式膜厚測定機で膜厚を求め、それらから求めた成膜レートを用いて算出してもよい。
【0038】
本実施形態の積層膜構造体は、その表面、例えば第2の薄膜の表面の算術平均粗さ(Ra)が10.0nm以下であることが好ましい。このように表面粗さを小さくすることで、第1の薄膜及び第2の薄膜の結晶性及び平坦性を高くすることができる。また第2の薄膜の表面粗さを小さくすることで、その上にさらに薄膜をエピタキシャル成長させて、良好な特性を有する半導体素子等のデバイスを作製することが可能となる。算術平均粗さ(Ra)は8.0nm以下が好ましく、5.0nm以下がより好ましく、1.0nm以下がさらに好ましい。算術平均粗さ(Ra)の下限は限定されない。算術平均粗さ(Ra)は0.1nm以上であってよく、0.3nm以上であってよく、0.5nm以上であってよい。
【0039】
本実施形態の積層膜構造体は、Si(111)基板上の非晶質層の厚さが0nm以上1.0nm未満である。すなわちSi(111)基板上に非晶質層を備えてもよく、あるいは備えなくともよい。ただし非晶質層を備える場合には、その厚さが1.0nm未満である。非晶質層を備えない場合(第1の態様)と備える場合(第2の態様)のそれぞれについて、以下に説明する。
【0040】
まず、第1の態様を、
図1を用いて説明する。
図1は第1の態様における積層膜構造体の断面模式図である。この積層膜構造体(1)は、Si(111)基板(2)と、Si(111)基板(2)の上に設けられた第1の薄膜(3)と、第1の薄膜(3)の上に設けられた第2の薄膜(4)とを備える。第1の態様では非晶質層は存在しない。すなわち非晶質層の厚さが0nmであり、第1の薄膜(3)が他の層を介さずにSi(111)基板(2)と直に接している。
【0041】
第1の薄膜(3)がSi(111)基板(2)と直に接していることで、第1の薄膜(3)及び第2の薄膜(4)の結晶性を高くすることができる。すなわちSi(111)基板(2)は結晶性が高い。第1の薄膜(3)が高結晶性のSi(111)基板(2)と直に接触していることで、その結晶性が第1の薄膜(3)に引き継がれる。そして第1の薄膜(3)の結晶性が第2の薄膜(4)に引き継がれる。製法由来の表現をすれば、第1の薄膜(3)及び第2の薄膜(4)が良好にエピタキシャル成長している。これに対して、Si(111)基板(2)の上に過度に厚い非晶質層が存在すると、第1の薄膜(3)のエピタキシャル成長が阻害され、第1の薄膜(3)及び第2の薄膜(4)の結晶性が低くなる。
【0042】
第1の態様では、第2の薄膜(4)の高結晶性が維持される限り、第1の薄膜(3)と第2の薄膜との間に他の層が存在していてもよい。しかしながら、結晶性の観点から、他の層が存在せず、第2の薄膜(4)が第1の薄膜(3)と直に接していることが好ましい。
【0043】
第1の態様では、好ましくはSi(111)基板表面から10nm以内における酸素含有量が5at%(原子%)以下である。ここで酸素含有量は、ケイ素と酸素と窒素の合計量に対する酸素量である。また基板表面から10nm以内の酸素含有量とは、基板表面から高さ方向で10nm以内の領域における酸素含有量である。また高さ方向とは、基板表面に垂直で且つ基板から離れる方向のことである。また基板の中央から、基板半径の10%以内の範囲における任意の位置で測定する。この含有酸素は、積層膜構造体製造に用いるSi(111)基板表面の自然酸化膜に由来する。すなわちSi基板は、一般には入手したばかりの状態では、その表面を自然酸化膜が覆っている。この自然酸化膜は非晶質であり、その厚さが1〜3nm程度である。自然酸化膜が残存するSi基板をそのまま用いると、基板表面から10nm以内における酸素量が過度に増大し、第1の薄膜と第2の薄膜の結晶性が低下する恐れがある。これに対して、自然酸化膜をより完全に近い状態で除去したSi基板を用いると、基板表面から10nm以内における酸素量が抑えられ、第1の薄膜と第2の薄膜の結晶性をより一層に高めることが可能となる。結晶性の観点から、酸素量は少ない方が好ましい。したがって酸素量含有量は4at%以下がより好ましく、3at%以下がさらに好ましい。酸素含有量は、その下限が0at%であってもよいが、典型的には1at%以上である。
【0044】
第1の態様では、好ましくはSi(111)基板表面から10nm以内における窒化ケイ素含有量が5at%(原子%)以下である。ここで窒化ケイ素含有量は、ケイ素と酸素と窒素の合計量に対する窒化ケイ素量である。この窒化ケイ素は、積層膜構造体製造時の第1の薄膜成膜工程で用いる雰囲気ガス(導入ガス)に由来する。すなわちSi(111)基板上に第1の薄膜を成膜する際に、成膜初期の段階で雰囲気ガスに窒素が含まれていると、Si基板表面で窒化反応が起こり、非晶質の窒化ケイ素が形成されてしまう場合がある。このような窒化ケイ素がSi基板表面に多量に存在すると、第1の薄膜と第2の薄膜の結晶性が低下する恐れがある。これに対して、第1の薄膜を成膜する際の雰囲気ガスを制御することで、Si基板表面に形成される窒化ケイ素の量を抑制することができる。結晶性の観点から、基板表面から10nm以内における窒化ケイ素量は少ない方が好ましい。したがって、窒化ケイ素含有量は4at%以下がより好ましく、3at%以下がさらに好ましく、2at%以下が特に好ましい。窒化ケイ素含有量は、その下限が0at%であってもよいが、典型的には1at%以上である。
【0045】
次に、第2の態様を、
図2を用いて説明する。
図2は第2の態様における積層膜構造体の断面模式図である。この積層膜構造体(1)は、Si(111)基板(2)と、Si(111)基板(2)の上に設けられた第1の薄膜(3)と、第1の薄膜(3)の上に設けられた第2の薄膜(4)とを備える。また第2の態様ではSi(111)基板(2)と第1の薄膜(3)との間に非晶質層(5)が存在している。しかしながらその厚さは1.0nm未満である。すなわち非晶質層(5)の厚さが0nm超1.0nm未満である。
【0046】
このように非晶質層(5)の厚さを限定することで、非晶質層(5)が存在したとしても、第1の薄膜(3)及び第2の薄膜(4)の結晶性を高くすることができる。これに対して、非晶質層(5)が過度に厚いと、第1の薄膜(3)の結晶配向が揃わず、多結晶状の薄膜になってしまう。なお非晶質層は、その材質が特に限定されない。しかしながら典型的には二酸化ケイ素、窒化ケイ素及び/又は酸化マグネシウムからなり、より典型的には二酸化ケイ素からなる。また非晶質層(5)の厚さは、0.5nm以上1.0nm未満であってもよい。
【0047】
第2の態様では、第1の薄膜(3)の高結晶性が維持される限り、Si(111)基板(2)と第1の薄膜(3)との間に非晶質層(5)以外の他の層が存在してもよい。しかしながら非晶質層(5)以外の他の層が存在しないことが好ましい。また第2の薄膜(4)の高結晶性が維持される限り、第1の薄膜(3)と第2の薄膜の間に他の層が存在していてもよい。しかしながら他の層が存在せず、第2の薄膜(4)が第1の薄膜(3)と直に接していることが好ましい。
【0048】
第2の態様では、好ましくは基板表面から10nm以内の酸素含有量が5at%(原子%)以下である。ここで酸素含有量は、ケイ素と酸素と窒素の合計量に対する酸素量である。また基板表面から10nm以内の酸素含有量とは、基板表面から10nm以内の領域であって非晶質層を含めた部分における酸素含有量である。この含有酸素は、第1の態様の場合と同様に、Si(111)基板表面の自然酸化膜に由来するものである。自然酸化膜をより完全に近い状態で除去したSi(111)基板を用いると、基板表面から10nm以内に含まれる酸素量が抑えられ、第1の薄膜と第2の薄膜の結晶性をより一層に高めることが可能となる。酸素量含有量は4at%以下がより好ましく、3at%以下がさらに好ましい。酸素含有量は、その下限が0at%であってもよいが、典型的には1at%以上である。
【0049】
第2の態様では、好ましくは基板表面から10nm以内の窒化ケイ素含有量が5at%(原子%)以下である。この窒化ケイ素は、第1の態様の場合と同様に、第1の薄膜成膜工程で用いる雰囲気ガスに由来する。基板表面から10nm以内の窒化ケイ素量を抑えることで、第1の薄膜と第2の薄膜の結晶性をより一層に高めることが可能となる。結晶性の観点から、窒化ケイ素量は少ない方が好ましい。したがって、窒化ケイ素含有量は4at%以下がより好ましく、3at%以下がさらに好ましく、2at%以下が特に好ましい。窒化ケイ素含有量は、その下限が0at%であってもよいが、典型的には1at%以上である。
【0050】
第1の態様及び第2の態様のいずれも、第1の薄膜並びに第2の薄膜を構成する材料の組み合わせは限定されない。第1の薄膜と第2の薄膜を構成する材料が同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。また第1の薄膜及び/又は第2の薄膜は、単層であってよく、あるいは複数の層から構成されていてもよい。第1の薄膜/第2の薄膜の組み合わせとして、窒化アルミニウム薄膜/窒化ガリウム薄膜、窒化チタン薄膜/窒化ガリウム薄膜、窒化アルミニウム薄膜/窒化インジウムガリウム薄膜、窒化アルミニウムガリウム薄膜/窒化アルミニウム薄膜、窒化アルミニウムガリウム薄膜/窒化ガリウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化ガリウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化インジウムガリウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化アルミニウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化アルミニウム薄膜/窒化ガリウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化チタン薄膜/窒化ガリウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化アルミニウム薄膜/窒化インジウムガリウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化アルミニウムガリウム薄膜/窒化アルミニウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化アルミニウムガリウム薄膜/窒化ガリウム薄膜が挙げられ、この中でも窒化アルミニウム薄膜/窒化ガリウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化ガリウム薄膜、アルミニウム薄膜/窒化アルミニウム薄膜/窒化ガリウム薄膜の組み合わせが好ましく、特に窒化アルミニウム薄膜/窒化ガリウム薄膜の組み合わせが好ましい。
【0051】
特に、第1の薄膜が窒化アルミニウム(AlN)薄膜であり、第2の薄膜が窒化ガリウム(GaN)薄膜であることが好ましい。窒化ガリウム(GaN)は、青色発光ダイオード(LED)や青色レーザーダイオード(LD)といった発光素子や、パワーデバイスといった半導体素子の材料として有用である。第2の薄膜を窒化ガリウム(GaN)で構成することで、積層膜構造体自体を発光素子や半導体素子といった電子デバイスに適用することができる。また積層膜構造体を下地基板とし、その上にさらに窒化ガリウム(GaN)を形成することも可能である。積層膜構造体上に形成された窒化(GaN)はエピタキシャル成長しているため、良好な特性を有するデバイスとすることが可能である。
【0052】
さらに第1の薄膜を窒化アルミニウム(AlN)で構成することで、第2の薄膜を構成する窒化ガリウム(GaN)の結晶性をより一層に高めることが可能となる。すなわち、Si(111)基板上に窒化ガリウム(GaN)を直に成膜すると、成膜条件によっては、ケイ素(Si)とガリウム(Ga)とが反応する現象、すなわちメルトバックエッチングが起こることがある。これに対して、Si(111)基板上に窒化アルミニウム(AlN)を設けることで、メルトバックエッチングの抑制をより一層顕著にすることが可能となる。
【0053】
積層膜構造体は、その最表面、例えば第2の薄膜の表面が六方晶窒化ガリウム層で構成され、この窒化ガリウム層の表面がガリウム(Ga)極性であることが好ましい。最表面をガリウム(Ga)極性とすることで、積層膜構造体の上にさらに窒化ガリウム(GaN)を形成した際に、デバイス作製を困難にする六角形ファセットの形成を抑制することができる。
【0054】
[半導体素子及び電子機器]
本実施形態の半導体素子は上記積層膜構造体を備える。また本実施形態の電子機器は 上記半導体素子を含む。半導体素子として、例えば、青色発光ダイオード(LED)や青色レーザーダイオード(LD)等の発光素子や、ダイオードやトランジスタ等のパワーデバイス等が例示される。半導体素子は、本実施形態の積層膜構造体を下地層とし、その上に設けた窒化ガリウム(GaN)等の窒化物系材料からなる薄膜及び/又は厚膜を備えてよい。また半導体素子や電子機器は、積層膜構造体以外の他の機能部品を含んでもよい。積層膜構造体を構成する窒化物系薄膜の高結晶性に由来して、この半導体素子や電子機器は良好な特性を示す。
【0055】
[積層膜構造体の製造方法]
本実施形態の積層膜構造体は、その製造方法が限定されない。しかしながら、以下の方法にしたがって好適に製造することができる。
【0056】
本実施形態の積層膜構造体の製造方法は、以下の工程:Si(111)基板を準備する工程(基板準備工程)と、前記Si(111)基板を洗浄液に浸漬する工程(ウェットエッチング工程)と、浸漬後のSi(111)基板の上に、スパッタリング法により第1の薄膜を成膜する工程(第1の薄膜成膜工程)と、この第1の薄膜の上に、スパッタリング法により第2の薄膜を成膜する工程(第2の薄膜成膜工程)と、を含む。また第1の薄膜を成膜する際、式:Es=[投入電力密度(単位:W/cm
2)]/[導入ガス圧力(単位:Pa)]
2で表されるスパッタエネルギー(Es)を0.1W/cm
2Pa
2以上150W/cm
2Pa
2以下とし、第2の薄膜を成膜する際、式:Es=[投入電力密度(単位:W/cm
2)]/[導入ガス圧力(単位:Pa)]
2で表されるスパッタエネルギー(Es)を0.04W/cm
2Pa
2以上150W/cm
2Pa
2以下とする。各工程の詳細について以下に説明する。
【0057】
<基板準備工程>
基板準備工程では、Si(111)基板を準備する。Si(111)基板の製法は限定されず、チョクラルスキー(CZ)法やフローティングゾーン(FZ)法により製造されたものであってもよく、あるいはこれらの方法で製造されたSi単結晶基板上に、Si単結晶層をエピタキシャル成長させたSiエピ基板であってもよい。またSi(111)基板は、その表面及び/又は内部にドナーやアクセプター等のドーパント元素を含んでいてもよく、あるいは含まなくともよい。
【0058】
<ウェットエッチング工程>
ウェットエッチング工程では、準備したSi(111)基板を洗浄液に浸漬する。浸漬する際に用いる洗浄液としては、フッ化水素酸水溶液、硫酸、塩酸、過酸化水素、水酸化アンモニウム、トリクロロエチレン、アセトン、メタノール、イソプロパノール等が挙げられ、その中でもフッ化水素酸水溶液が好ましい。また洗浄液に浸漬させる際には超音波洗浄機を併用してもよい。Si(111)基板は、一般には入手したばかりの状態では、その表面を汚染物質や自然酸化膜が覆っている。この自然酸化膜は非晶質であり、その厚さが1〜3nm程度である。汚染物質や自然酸化膜が残存するSi(111)基板をそのまま用いると、基板表面から10nm以内における酸素含有量が過度に増大し、第1の薄膜と第2の薄膜の結晶性が低下する恐れがある。したがって、ウェットエッチング工程を設けて、Si(111)基板表面の酸化膜の除去処理(洗浄処理)を行う。洗浄液としてフッ化水素酸水溶液を用いる場合にはフッ化水素酸濃度は5〜10質量%が好ましい。フッ化水素酸濃度を5質量%以上とすることで、水素を表面に修飾することが可能となる。また10質量%を超える高濃度では表面粗さが増大する可能性がある。
【0059】
Si(111)基板の浸漬時間は5〜100秒が好ましい。浸漬時間を5秒以上とすることで、酸化膜の除去が十分となり、製造後の積層膜構造体において非晶質層の厚さを小さくすることが可能となる。また浸漬時間を100秒以下とすることで、エッチングする際の表面粗さの低下を抑制することが可能となる。浸漬時間は20秒以上100秒以下であってもよい。これにより非晶質層の厚さ0nm(非晶質が存在しない)の第1の態様の積層膜構造体を作製することができる。浸漬時間は5秒以上20秒未満であってもよい。これにより非晶質層の厚さ0nm超1.0nm未満の第2の態様の積層膜構造体を作製することができる。
【0060】
洗浄液に浸漬した後に、基板表面の残留液滴を除去する。残留液滴の除去は、窒素ガスを用いた表面ブローなどの手法で行うことができる。ウェットエチング処理後のSi(111)基板は、かなりの程度に酸化膜が除去されており且つその表面が平坦である。処理後のSi(111)は、その算術平均粗さ(Ra)が0.5nm以下、好ましくは0.3nm以下である。残留液滴除去後に雰囲気中の不純物により基板表面が汚染されやすいため、24時間以上時間をあけず、第1の薄膜成膜工程へ進むことが好ましい。ウェットエッチング工程終了後、5時間以内に第1の薄膜成膜工程に移ってもよく、1時間以内に移ってもよい。
【0061】
<第1の薄膜成膜工程>
第1の薄膜成膜工程では、浸漬後のSi(111)基板の上に、スパッタリング法により第1の薄膜を成膜する。スパッタリング法としては公知の手法を採用すればよい。このような公知の手法として、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ACスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、パルススパッタ法、及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。しかしながら、大面積に均一且つ高速で成膜が可能なDCマグネトロンスパッタリング法又はRFマグネトロンスパッタリング法が好ましい。
【0062】
スパッタリングターゲットとして、窒化物系薄膜やアルミニウム薄膜の成膜に使用される公知のターゲットを用いることができる。このようなターゲットとして、金属ターゲットや窒化物系ターゲットが挙げられる。また、膜全体の結晶性を高める観点から、スパッタリングターゲットの酸素量は低いほど好ましい。酸素含有量は3at%(原子%)以下が好ましく、1at%以下がさらに好ましい。さらにターゲット面積が大きいほど、大面積基板への成膜が可能になるとともに、膜厚や膜質の均一性が向上する。したがって、ターゲット面積は18cm
2以上が好ましく、100cm
2以上がより好ましい。なおターゲット面積とは、ターゲットの主面の一方の面積のことである。
【0063】
第1の薄膜の成膜に際し、成膜直前の成膜装置内の到達真空度を1×10
−4以下とすることが好ましく、7×10
−5Pa以下とすることがより好ましく、2×10
−5Pa以下とすることがより好ましく、9×10
−6Pa以下とすることがさらに好ましく、5×10
−6Pa以下とすることが特に好ましい。成膜前の装置内の真空度を高めることで、成膜時に残留気体が不純物になって堆積膜(窒化物系薄膜)中に混入することが抑制され、その結果、堆積膜の結晶性がより一層に向上する。残留気体を除去する目的で、成膜前の装置にベーキング処理を施してもよい。またスパッタリング成膜は、基板を加熱した状態で行うことが好ましい。これにより、基板上に堆積した粒子のマイグレーションを促進し、安定な結晶状態の堆積膜を形成することができる。基板加熱温度(成膜温度)は100〜800℃が好ましく、200〜600℃がより好ましい。成膜温度は低温から段階的にかけることが好ましい。また成膜初期の成膜温度は200〜500℃が好ましい。これにより過度なマイグレーションを抑制し平坦な膜を得ることができる。更に300〜600℃で成膜し、更に500〜800℃と段階的に成膜することで、平坦性と結晶性を両立することが可能となる。
【0064】
スパッタリング時の導入ガスとして、窒化物系薄膜成膜に用いられる公知のガスを用いることができる。このようなガスとしてアルゴン(Ar)及び窒素(N
2)の混合ガスが挙げられる。また必要に応じてアンモニアなどの他のガスを導入してよい。しかしながら、第1の薄膜を成膜する際は、成膜室内にアルゴン(Ar)ガスのみを導入して膜厚3〜10nmの薄膜を成膜し、その後、成膜室内に窒素(N
2)を含んだガスを導入して成膜を続行することが好ましい。例えば金属ターゲット(金属アルミニウムターゲット等)を用いて成膜する場合には、成膜初期にアルゴン(Ar)ガスのみを導入して、厚さ1〜10nmの金属膜(アルミニウム膜等)を成膜する。その後、窒素(N
2)含有ガス(例えば窒素とアルゴンの混合ガス)を導入して逐次成膜を行うと、金属膜が窒化されて窒化物膜(窒化アルミニウム膜等)に変換されるとともに、その上にさらに窒化物が堆積される。これにより結晶性が高く且つ窒素欠陥の少ない窒化物系薄膜(窒化アルミニウム薄膜等)を得ることができる。これに対して、成膜初期に窒素(N
2)含有ガスを導入すると、Si基板表面が窒化され、非晶質の窒化ケイ素が形成される場合がある。またアルゴン(Ar)ガスのみを導入した場合であっても、成膜初期の金属膜の膜厚が1nm未満であると、逐次成膜時に導入した窒素(N
2)により、Si基板表面に窒化ケイ素が形成されてしてしまうことがある。窒化ケイ素が基板表面に形成されてしまうと、第1の薄膜のヘテロエピタキシャル成長が阻害されることがある。一方で、成膜初期の金属膜の膜厚が10nm超であると、逐次成膜時に金属膜を十分に窒化することが困難になる場合がある。したがって窒素含有ガス導入前の成膜初期の膜厚は1〜10nmが好ましい。成膜初期の膜厚は1〜5nmであってもよい。
【0065】
第1の薄膜を成膜する際のスパッタエネルギー(Es)は0.1W/cm
2Pa
2以上150W/cm
2Pa
2以下である。ここでスパッタエネルギー(Es)は、スパッタ成膜時におけるスパッタ粒子のエネルギーであり、式:Es=[投入電力密度(単位:W/cm
2)]/[導入ガス圧力(単位:Pa)]
2で定義される。投入電力密度とは、実際の投入電力をスパッタリングターゲットの面積で除したときの単位面積あたりの投入エネルギーのことである。これにより結晶性の高い第1の薄膜を成膜することが可能となる。その詳細な理由は確かではないが、スパッタエネルギー(Es)の大小により、基板に到達したスパッタ粒子の付着力や、スパッタ粒子が基板上でマイグレーションする際の拡散長及び/又はすでに堆積している膜中への侵入深さといったスパッタ粒子の特性が変化し、それにより窒化物系薄膜の結晶性に影響が及ぶと推察される。Esは0.5W/cm
2Pa
2以上であってよく、1W/cm
2Pa
2以上であってよく、2W/cm
2Pa
2以上であってよく、5W/cm
2Pa
2以上であってよく、10W/cm
2Pa
2以上であってよく、15W/cm
2Pa
2以上であってよく、20W/cm
2Pa
2以上であってよく、25W/cm
2Pa
2以上であってもよい。またEsは100W/cm
2Pa
2以下であってよく、60W/cm
2Pa
2以下であってよく、30W/cm
2Pa
2以下であってよく、25W/cm
2Pa
2以下であってよく、20W/cm
2Pa
2以下であってよく、15W/cm
2Pa
2以下であってよく、10W/cm
2Pa
2以下であってもよい。
【0066】
なお成膜初期にアルゴン(Ar)ガスのみを導入して、逐次成膜時に窒素(N
2)含有ガスを導入して成膜を行う場合には、成膜初期と逐次成膜時のスパッタエネルギー(Es)を同一にしてもよく、あるいは異ならせてもよい。
【0067】
第1の薄膜の膜厚は20nm以上が好ましい。第1の薄膜の膜厚が過度に薄い場合には、第1の薄膜及び第2の薄膜の結晶性や積層膜構造体の表面平坦性が劣ることがある。そのため、第1の薄膜の膜厚は程度に厚いことが望ましい。第1の薄膜の膜厚は30nm以上であってよく、40nm以上であってよく、50nm以上であってよく、60nm以上であってよく、70nm以上であってよく、80nm以上であってもよい。膜厚は90nm以下であってよく、80nm以下であってよく、70nm以下であってよく、60nm以下であってよく、50nm以下であってもよい。
【0068】
<第2の薄膜成膜工程>
第2の薄膜成膜工程では、第1の薄膜の上に、スパッタリング法により第2の薄膜を成膜する。スパッタリング法として、大面積に均一且つ高速で成膜が可能なDCマグネトロンスパッタリング法、パルススパッタリング法、又はRFマグネトロンスパッタリング法が好ましい。またスパッタリングターゲットとして、窒化物系薄膜の成膜に使用される公知のターゲットを用いることができる。しかしながら窒化物系ターゲット(例えば窒化ガリウムターゲット)を用いることが好ましい。またスパッタリングターゲットの酸素含有量は3at%(原子%)以下が好ましく、1at%以下がさらに好ましい。さらにターゲット面積は18cm
2以上が好ましく、100cm
2以上がより好ましい。
【0069】
スパッタリング成膜は、第1の薄膜の成膜と同様に、基板を加熱した状態で行うことが好ましい。基板加熱温度(成膜温度)は、100〜800℃が好ましく、300〜800℃がより好ましい。またスパッタリング時の導入ガスとして、窒化物系薄膜成膜に用いられる公知のガスを用いることができる。このようなガスとして、アルゴン(Ar)及び窒素(N
2)の混合ガスが挙げられる。また必要に応じてアンモニアなどの他のガスを導入してよい。
【0070】
第2の薄膜を成膜する際にはスパッタエネルギー(Es)を0.04W/cm
2Pa
2以上150W/cm
2Pa
2以下にする。これにより結晶性の高い第2の薄膜を成膜することが可能となる。Esは0.1W/cm
2Pa
2以上であってよく、0.5W/cm
2Pa
2以上であってよく、1W/cm
2Pa
2以上であってよく、5W/cm
2Pa
2以上であってよく、10W/cm
2Pa
2以上であってよく、20W/cm
2Pa
2以上であってもよく、25W/cm
2Pa
2以上であってよく、30W/cm
2Pa
2以上であってもよい。またEsは100W/cm
2Pa
2以下であってよく、70W/cm
2Pa
2以下であってよく、35W/cm
2Pa
2以下であってよく、30W/cm
2Pa
2以下であってよく、25W/cm
2Pa
2以下であってもよい。
【0071】
必要に応じて、第2の薄膜の上に、他の窒化物系薄膜をさらに積層する工程を設けてもよい。例えば第2の薄膜として窒化ガリウム系薄膜をスパッタリング法で成膜した後に、さらにその上に窒化ガリウム系薄膜をMOCVD法で成膜してもよい。
【0072】
このようにして、本実施形態の積層膜構造体が製造される。
【実施例】
【0073】
本発明を以下の実施例及び比較例を用いて更に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[例1]
例1の積層膜構造体の作製と評価を以下のようにして行った。
【0075】
(1)積層膜構造体の作製
<準備工程>
Si基板としてn型Si(111)基板(株式会社松崎製作所、オフ角:無)を準備した。この基板は、その直径が50±0.5mmφ、厚さが425±25μmであり、抵抗率1000Ω・cm以上であった。
【0076】
<ウェットエッチング工程>
準備したSi基板にウェットエッチング処理(洗浄処理)を施した。まずフッ化水素酸(関東化学株式会社、Ultrapureグレード)を超純水(関東化学株式会社、Ultrapureグレード)で希釈して、濃度5質量%の希釈フッ化水素酸水溶液を調整した。次に、調整した希釈フッ化水素酸水溶液にSi基板を30秒間浸漬し、この基板をフッ化水素酸水溶液から引き上げた。その後、窒素ガスをブローして基板表面に残存する液滴を除去した。これにより洗浄処理を施したSi基板を得た(Ra:0.15nm)。その後、時間をあけずに、第1の薄膜の成膜工程へ進んだ。
【0077】
<第1の薄膜の成膜工程>
マグネトロンスパッタ装置を用いて、ウェットエッチング処理を施したSi基板の上に第1の薄膜を成膜した。まずスパッタリングターゲットとして金属アルミニウム(Al)ターゲット(純度99.99質量%)を用意した。Si基板をこのターゲットとともにスパッタリング装置の成膜室内に配置し、成膜室内の真空引きを行った。成膜室内の真空度(成膜前到達真空度)が1.9×10
−6Paになった後に、成膜を開始した。
【0078】
第1の薄膜の成膜は次のようにして行った。まず成膜室内への導入ガスをアルゴン(流量:20sccm)のみとして膜厚3nmの薄膜を成膜した。この際、基板温度を300℃、スパッタエネルギー(Es)を20W/cm
2Pa
2とした。次に導入ガスを窒素(流量:3sccm)とアルゴン(流量:17sccm)の混合ガスに切り替えて膜厚47nmの薄膜を成膜した。この際、基板温度を750℃、スパッタエネルギー(Es)を5W/cm
2Pa
2とした。これにより膜厚50nmの窒化アルミニウム薄膜を成膜した。
【0079】
<第2の薄膜の成膜工程>
マグネトロンスパッタ装置を用いて、成膜した第1の薄膜(窒化アルミニウム薄膜)の上に第2の薄膜を成膜した。まずスパッタリングターゲットとして窒化ガリウム(GaN)ターゲット(純度99.99質量%)を用意した。第1の薄膜を成膜したSi基板をこのターゲットとともに成膜室内に配置した。成膜室内への導入ガスを窒素(流量:10sccm)とアルゴン(流量:10sccm)の混合ガスとし、基板温度750℃、スパッタエネルギー20W/cm
2Pa
2の条件で成膜を行った。これにより膜厚50nmの窒化ガリウム(GaN)薄膜を成膜した。
【0080】
このようにしてSi基板上に窒化アルミニウム薄膜(第1の薄膜)と窒化ガリウム薄膜(第2の薄膜)を設けた積層膜構造体を作製した。なお第1の薄膜と第2の薄膜の成膜条件のそれぞれを表1〜表3にも示す。
【0081】
(2)評価
得られた積層膜構造体の評価を次のようにして行った。
【0082】
<構造解析>
Si基板と第1の薄膜との間の解析を行い、これにより非晶質層の有無やその厚さを調べた。解析は次のようにして行った。まず積層膜構造体の表面に保護膜としてカーボンコートを設けた後に、収束イオンビーム(FIB)加工を施して観察用試料を作製した。次に電界放出形透過電子顕微鏡(FE−TEM;日本電子株式会社製JEM−2100F)を用いて試料の断面観察を行った。この際、電子線加速電圧は200kVとした。
【0083】
<酸素量及び窒化ケイ素量>
X線光電子分光法(ESCA;Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)により、非晶質層を含むSi基板から10nm以内における酸素含有量と窒化ケイ素含有量を測定した。深さ方向の分析を行うにあたり、アルゴン(Ar)モノマーイオンにより膜試料をイオンミリングして測定した。測定では、O1s、N1s及びSi2pのピーク面積を用いて各元素(O、N、Si)の含有量を算出し、ケイ素(Si)、酸素(O)及び窒素(N)の合計濃度に対する原子濃度として酸素量及び窒化ケイ素量を定量した。なお測定条件の詳細は以下に示すとおりにした。
【0084】
‐X線源 :モノクロAl−Kα線(25W、15kW)
‐照射X線径 :100μmφ
‐Pass Energy :93.9eV(O1s、N1s)
11.75eV(Si2p)
‐Step Size :0.1eV
【0085】
<薄膜の結晶性>
X線回折装置(Bruker AXS製、D8 DISCOVER)を用いて、第1の薄膜及び第2の薄膜の結晶性を評価した。分析は40kV、40mAの条件で、HIGH RESOLUTIONモードにて行った。またCuKα2を除去するためにモノクロメーターを使用し、ωスキャンを実行した。(0002)面のロッキングカーブを測定して、半値幅(FWHM)を求め、これを薄膜の結晶性の指標とした。なお分析条件の詳細は以下に示すとおりにした。
【0086】
‐線源 :CuKα線(λ=0.15418nm)
‐モノクロメーター :Ge(220)
‐パスファインダー :Crystal3B
‐測定モード :ωスキャン
‐測定間隔 :0.01°
(半価幅0.1°以下の場合は0.0005°)
‐計測時間 :0.5秒
‐測定範囲 :ω=0°〜35°
【0087】
<窒化ガリウム薄膜の極性及び結晶性>
飛行時間型原子散乱表面分析装置(株式会社パスカル、TOFLAS−3000)を用いて、窒化ガリウム薄膜の極性及び結晶相を評価した。積層膜構造体をその成膜面が上面となるように装置にセットして、測定を行った。測定により得られた極点図を、シミュレーションにより得られた表層4層までの各結晶相及び極性の極点図と比較することで、窒化ガリウム薄膜の極性及び結晶相を判断した。なお測定条件の詳細は以下に示すとおりにした。
【0088】
‐プローブ :He(原子散乱)
‐エネルギー :3keV
‐ビーム源−ターゲット間距離:805mm
‐ターゲット−検出器間距離 :395mm
‐分析室真空度 :2×10
−3Pa以下
【0089】
<積層膜構造体の表面粗さ>
積層膜構造体表面の算術平均粗さ(Ra)を測定した。測定は、走査型プローブ顕微鏡(Bruker AXS、NanoScopeIIIa)を用い、タッピングモードAFMにて2μm×2μmの視野にて行った。
【0090】
[例2及び例3]
第1の薄膜と第2の薄膜の成膜条件を表1〜表3に示すとおりにした。それ以外は例1と同様にして積層膜構造体の作製及び評価を行った。
【0091】
[例4]
ウェットエッチング処理の際にSi基板の浸漬時間を5秒間とし、第1の薄膜と第2の薄膜の成膜条件を表1〜表3に示すとおりにした。それ以外は例1と同様にして積層膜構造体の作製及び評価を行った。
【0092】
[例5]
第1の窒化物系薄膜の成膜時に初期以降の成膜を500℃で3nm、750℃で44nmとし、第2の窒化物系薄膜の成膜条件を表3に示すとおりにした。それ以外は例1と同様にして積層膜構造体の作製及び評価を行った。
【0093】
[例6〜例17]
第1の薄膜と第2の薄膜の成膜条件を表1〜表3に示すとおりにした。それ以外は例1と同様にして積層膜構造体の作製及び評価を行った。
【0094】
[例18(比較)]
ウェットエッチング処理の際にSi基板の浸漬時間を2秒間とし、第1の薄膜と第2の薄膜の成膜条件を表1〜表3に示すとおりにした。それ以外は例1と同様にして積層膜構造体の作製及び評価を行った。
【0095】
[例19(比較)]
第1の薄膜と第2の薄膜の成膜条件を表1〜表3に示すとおりにした。それ以外は例1と同様にして積層膜構造体の作製及び評価を行った。
【0096】
[例20(比較)]
ウェットエッチング処理後、大気雰囲気下で1日保管し、さらに第1の薄膜と第2の薄膜の成膜を行った。第1の薄膜と第2の薄膜の成膜条件は表1〜表3に示すとおりにした。それ以外は例1と同様にして積層膜構造体の作製及び評価を行った。
【0097】
[例21〜例25(比較)]
第1の薄膜と第2の薄膜の成膜条件を表1〜表3に示すとおりにした。それ以外は例1と同様にして積層膜構造体の作製及び評価を行った。
【0098】
(3)結果
例1〜例25について得られた評価結果を表4に示す。なお例1〜例17は実施例であり、例18〜例25は比較例である。
【0099】
表4に示されるように、実施例たる例1〜例17のサンプルは、非晶質層の厚さが0.9nm以下と小さかった。また半値全幅(FWHM)が0.98°以下と小さく、算術平均粗さ(Ra)が8.1nm以下と小さかった。これより例1〜例17では、高平坦・結晶性であり且つ六方晶を有するGa極性の窒化ガリウム薄膜(窒化物系薄膜)の作製に成功した。
【0100】
これに対して、比較例たる例18〜例20のサンプルは、非晶質層の厚さが2.0nmと大きかった。そのため半値全幅(FWHM)及び算術平均粗さ(Ra)が大きく、結晶性及び表面平坦性に劣っていた。例えばSi基板の浸漬時間が2秒間であった例18では、Si基板と第1の薄膜との間に自然酸化膜と考えられる非結晶質が2.0nm残存し、求める特性の膜を得ることができなかった。アルゴン及び窒素で10秒間の成膜を行った例19では、Si基板と第1の薄膜との間にガス中不純物に起因する酸化膜と考えられる非結晶質が2.0nm残存し、求める特性の膜を得ることができなかった。第1の薄膜の成膜前に1日大気雰囲気下で保管した例20も同様に、大気中不純物に起因する自然酸化膜と考えられる非結晶質が2.0nm残存し、求める特性の膜を得ることができなかった。第1の薄膜、及び第2の薄膜を成膜する際のスパッタエネルギー(Es)を200W/cm
2Pa
2とした例21や、第1の薄膜の膜厚を10nmとした例22では、求める特性の膜を得ることができなかった。第1の薄膜の成膜前の到達真空度を2.3×10
−4Paとした例23では、Si表面から10nm以内における酸素量が多く、求める特性の膜を得ることができなかった。第1の薄膜のスパッタエネルギー(Es)を0.05W/cm
2Pa
2とした例24や、第2の薄膜のスパッタエネルギー(Es)を0.03W/cm
2Pa
2とした例25では、求める特性の膜を得ることができなかった。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】