【解決手段】油圧ショベル1は、操作レバー41と上部旋回体と取得部61と演算部63とを備える。データベースDBには、事前に実施された旋回動作の目標値、操作量及び旋回角度を含む比較用データとオペレータの技量を示す特徴量とが関連付けられた演算用データが蓄積されている。取得部61は、評価対象オペレータによる旋回動作の目標値、操作量及び旋回角度を評価用データとして取得する。演算部63は、取得部61で取得した評価用データとデータベースDB内の比較用データとの各距離を演算し、評価用データに近い所定数の比較用データを特定し、所定数の比較用データの各特徴量に基づいて評価対象オペレータによる旋回動作の技量を演算する。
前記演算部は、前記所定数の比較用データの各特徴量を前記評価対象データと前記所定数の比較用データとの各距離に基づいて重み付けし、重み付けされた各特徴量に基づいて前記評価対象オペレータによって実施された前記所定の動作の技量を演算することを特徴とする請求項1に記載の操作対象装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.実施形態>
本発明の実施形態による操作対象装置及び建設機械について、
図1から
図8を参照しながら説明する。以下では、操作対象装置及び建設機械の一例として、
図1に示す油圧ショベル1を例示する。
【0015】
図1に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に設けられた上部旋回体3とを備えて構成される。
【0016】
上部旋回体3は、オペレータが油圧ショベル1を操作(操縦)するための運転室(キャブ)4を備えている。
【0017】
運転室4の内部には、操作レバー41(
図2参照)や表示ディスプレイ43(
図2参照)等が設けられている。なお、運転室4の内部には、操作レバー41や表示ディスプレイ43以外にも操作ペダル等の他の機器も設けられているが、本発明とは直接関係しないため、説明を省略する。
【0018】
操作レバー41は、本発明に係る操作部の一例であり、上部旋回体3を旋回動作させる際にオペレータによって操作される部位である。上部旋回体3は、本発明に係る動作部の一例であり、操作レバー41に対する操作量に応じた旋回角度だけ旋回する。なお、旋回角度は本発明に係る動作量の一例である。
【0019】
本実施形態では、本発明に係る「所定の動作」の一例として、上部旋回体3の「90度旋回動作」を例示する。
図3に示すように、90度旋回動作は、オペレータが操作レバー41を操作することにより、上部旋回体3を下部走行体2に対して90度旋回させる動作である。90度旋回動作が実施されると、上部旋回体3は、
図3(A)に示す状態から
図3(B)に示す状態を経て、最終的に
図3(C)に示す状態に遷移する。
【0020】
以下の説明では、90度旋回操作に関して、操作レバー41に対する操作された操作量を「操作量u」、操作量uに応じた旋回角度を「旋回角度y」、目標値(目標角度)を「目標値r」とも称する。
【0021】
また、90度旋回動作における各時刻tの操作量uを操作量u(t)、90度旋回動作における各時刻tの旋回角度yを旋回角度y(t)、90度旋回動作における各時刻tの目標値rを目標値r(t)とも称する。
【0022】
図4のグラフは、熟練オペレータによって実施された90度旋回動作に関するデータ(下記の表1に示されるデータ)をプロットしたものである。具体的には、
図4の上側のグラフが90度旋回動作について目標値r(t)及び旋回角度y(t)をプロットしたものであり、
図4の下側のグラフが90度旋回動作について操作量u(t)をプロットしたものである。
【表1】
【0023】
なお、目標値r(t)は、
図4及び表1に示すように、操作開始時(開始時刻t=6.4)に0度から90度に変化した後は一定である。
【0024】
また、
図5のグラフは、非熟練オペレータによって実施された90度旋回動作に関するデータをプロットしたものである。
図4のグラフと同様に、
図5の上側のグラフが90度旋回動作について目標値r(t)及び旋回角度y(t)をプロットしたものであり、
図5の下側のグラフが90度旋回動作について操作量u(t)をプロットしたものである。
【0025】
90度旋回動作のうち前半が加速区間AS、後半が減速区間DSとした場合、
図4及び
図5に示すように、加速区間ASにおいては熟練オペレータと非熟練オペレータとのデータに大きな差はない。一方、減速区間DSにおいては熟練オペレータと非熟練オペレータとのデータに顕著な差が生じる。換言すれば、加速区間ASでは旋回角度y(t)や操作量u(t)に基づき技量(熟練オペレータであるか、非熟練オペレータであるか)を判定し難いものの、減速区間DSでは旋回角度y(t)や操作量u(t)に基づき技量を判定することが可能である。
【0026】
再度
図2を参照し、その他の構成について説明する。
図2に示すように、油圧ショベル1は、上述した操作レバー41及び表示ディスプレイ43に加え、通信部5及びコントローラ6を備えている。
【0027】
通信部5は、本発明に係るアクセス部の一例であり、ネットワーク(有線、無線を問わない)を介してデータベースDBにアクセスするための処理部である。データベースDBには、熟練オペレータによる90度旋回動作に関する熟練OPデータや非熟練オペレータによる90度旋回動作に関する非熟練OPデータが演算用データとして蓄積されている。なお、本実施形態では、データベースDBが油圧ショベル1の外部に設けられ、ネットワークを介してアクセス可能に構成される場合を例示するが、これに限定されず、油圧ショベル1の内部の記憶装置にデータベースDBを構築するようにしてもよい。
【0028】
コントローラ6は、油圧ショベル1の各種動作を制御する制御部であり、取得部61と演算部63と表示制御部65とを備えて構成される。
【0029】
取得部61は、本発明に係る取得部の一例であり、オペレータによって実施される90度旋回動作の目標値r(t)、操作レバー41に対する操作量u(t)及び上部旋回体3の旋回角度y(t)、y(t−1)、y(t−2)を取得する処理部である。
【0030】
演算部63は、本発明に係る演算部の一例であり、データベースDBに蓄積された演算用データと取得部61で取得した評価用データとに基づいて評価対象オペレータによって実施された90度旋回動作の技量を演算する処理部である。
【0031】
表示制御部65は、演算部63で演算した技量を表示ディスプレイ43に表示する処理部である。
【0032】
データベースDBには、熟練オペレータ及び非熟練オペレータによって事前に行われた90度旋回動作に関する演算用データΦ(t)が複数蓄積されている。
【0033】
演算用データΦ(t)は、比較用データφ(t)と特徴ベクトルθ(t)とが紐付けられたデータであり、下記の数式1によって定義される。
【数1】
【0034】
上記の数式1において、比較用データφ(t)は、熟練オペレータ及び非熟練オペレータによって事前に実施された90度旋回動作において取得部61が取得した目標値r(t)、旋回角度y(t)、y(t−1)、y(t−2)、操作量u(t−1)を要素とするものであり、下記の数式2によって定義される。
【数2】
【0035】
また、上記の数式1において、特徴ベクトルθ(t)は、本発明に係る特徴量の一例であり、オペレータの技量を数字で表現したものである。詳細には、特徴ベクトルθ(t)には、オペレータの技量が熟練の場合には「1」が入力され、オペレータの技量が非熟練の場合には「0」が入力される。
【0036】
なお、特徴ベクトルθ(t)として、オペレータ自身が主観的に判断した技量の値が入力されるようにしてもよく、管理者等の第三者によって評価された客観的な技量の値が入力されるようにしてもよい。あるいは、特徴ベクトルθ(t)として、AI技術等を用いて自動的に判別された技量の値が入力されるようにしてもよい。
【0037】
上記の数式2において、1番目の要素r(t)は時刻tの目標値rである。また、2番目の要素y(t)は時刻tの旋回角度y、3番目の要素y(t−1)は時刻t−1の旋回角度y、4番目の要素y(t−2)は時刻t−2の旋回角度yである。更に、5番目の要素u(t−1)は時刻t−1の操作量uである。旋回角度yに関し、y(t),y(t−1),y(t−2)の3つを比較用データφ(t)の要素しているのは、動的な挙動(ダイナミクス)を考慮しているからである。なお、ダイナミクスは下記の数式3を用いて線形近似することが可能である。
【数3】
【0038】
データベースDBには、上述した演算用データΦ(t)がN個蓄積されており、上述した比較用データφ(t)もN個蓄積されている。以下では、N個の比較用データφ(t)を比較用データφ(j)(j=1,2,…,N)と定義して説明を行う。
【0039】
続いて、データベースDBに蓄積された演算用データΦ(t)を用いて、90度旋回動作を実施する評価対象オペレータの技量を評価する方法について詳細に説明する。
【0040】
評価対象オペレータによって90度旋回動作が実施される期間中、取得部61は、目標値r(t)、旋回角度y(t)、y(t−1)、y(t−2)及び操作量u(t)を評価用データφ(t)として随時取得する。
【0041】
また、演算部63は、取得部61で取得した評価用データφ(t)と比較用データφ(j)(j=1,2,…,N)との距離d(φ(t),φ(j))を随時演算する。距離d(φ(t),φ(j))は、下記の数式4に基づいて算出される。
【数4】
【0042】
上記の数式4において、φ(t)は評価用データであり、φ(j)はデータベースDBに蓄積された比較用データである。φ
l(t)は評価用データのl番目の要素であり、φ
l(j)は比較用データのl番目の要素に対応する。例えば、φ
2(t)は評価用データφ(t)の2番目の要素y(t−1)に対応し、φ
2(j)は比較用データφ(j)の2番目の要素y(t−1)に対応する。
【0043】
また、上記の数式4において、maxφ
l(m)はl番目の要素の最大値であり、minφ
l(m)はl番目の要素の最小値である。φ
l(t)とφ
l(j)との差分をmaxφ
l(m)とminφ
l(m)との差分で除算することで各要素間の値を正規化している。
【0044】
また、n
rは目標値rの要素数、n
yは旋回角度yの要素数、n
uは操作量uの要素数である。ここでは、目標値rの要素数が「1」、旋回角度yの要素数が「3」、操作量uの要素数が「1」であるから、n
r+n
y+n
u=5である。
【0045】
次に、演算部63は、上記の数式4で算出された距離d(φ(t),φ(j))に基づいて、評価用データφ(t)に近いk個(本実施形態では5個)の比較用データφ(j)を特定する。
【0046】
k個の比較用データφ(j)を特定した後、演算部63は、k個の比較用データφ(j)にそれぞれ紐付けられた特徴ベクトルθ(i)(i=1,2,…,k)を参照し、下記の数式5に従って定量的な技量μ(t)を演算する。
【数5】
【0047】
上記の数式5において、ω
iは、特徴ベクトルθ(i)を距離d(φ(t),φ(j))に応じて重み付けするための重み付け係数であり、下記の数式5で定義される。
【数6】
【0048】
上記の数式5によれば、技量μ(t)の演算において、特徴ベクトルθ(i)に距離d(φ(t),φ(j))に応じたω
i(上記の数式6)が積算される。そのため、距離d(φ(t),φ(j))が大きい、すなわち、比較用データφ(j)が評価用データφ(t)から遠い場合には特徴ベクトルθ(i)の重み付け係数ω
iが小さくなる。逆に、距離dが小さい、すなわち、比較用データφ(j)が評価用データφ(t)から近い場合には、特徴ベクトルθ(i)の重み付け係数ω
iが大きくなる。
【0049】
下記の表2の例では、非熟練オペレータ(θ(5))に対応するω
5が「1/20」である一方、熟練オペレータ(θ(1)、θ(2)、θ(3)、θ(4))に対応するω
1、ω
2、ω
3、ω
4がそれぞれ「1/20」、「2/10」、「4/10」「3/10」である。つまり、重み付けω
1を除き、熟練オペレータの重み付けω
2,ω
3,ω
4は非熟練オペレータの重み付けω
5よりも大きい。そのため、下記の表2の例では、熟練オペレータのデータが含まれているものの、最終的な技量μ(t)の値は「9.5/10」(熟練を示す「1」に近い値)となり、技量が「熟練」と判断される。
【表2】
【0050】
図6は、熟練の評価対象オペレータによって実施された90度旋回動作について演算部63で演算した技量をプロットしたグラフである。また、
図7は、非熟練の評価対象オペレータによって実施された90度旋回動作について演算部63で演算した技量をプロットしたグラフである。
【0051】
図6及び
図7を比較すると、加速区間ASにおいては両者の技量に大きな差は見られないが、減速区間DSにおいては熟練オペレータのスコアが「1」に近く、非熟オペレータのスコアが「0」に近くなっている。
【0052】
評価対象オペレータによる90度旋回動作が終了すると、表示制御部65は、
図8に示すような評価画像GA1や評価画像GA2を表示ディスプレイ43に表示する。
【0053】
評価画像GA1及び評価画像GA2は、演算部63で演算した技量を示す画像の一例である。評価画像GA1及び評価画像GA2には、技量をプロットしたグラフと当該技量の平均値(「52.37」や「60.01」)とが含まれる。なお、評価画像GA1及び評価画像GA2では、ユーザが認識し易いように技量が0から100のスケール(パーセント)で表示されている。
【0054】
上述した実施形態によれば、データベースDBに蓄積された演算用データΦ(t)と取得部61で取得した評価用データφ(t)とに基づいて評価対象オペレータによって実施された90度旋回動作の技量が演算される。詳細には、評価用データφ(t)に近いk個の比較用データφ(j)を特定し、特定したk個の比較用データφ(j)にそれぞれ紐付けられた特徴ベクトルθ(t)に基づいて技量が演算される。k個の比較用データφ(j)の特定において、評価用データφ(t)と比較用データφ(j)との距離d(φ(t),φ(j))が算出される。距離d(φ(t),φ(j))の計算においては、両者の目標値r(t)が比較されるため、データベースDBに旋回動作以外の他の動作に対応する演算用データΦ(t)が含まれていたとしても当該他の動作のデータは自動的に除外される。つまり、本実施形態では、距離d(φ(t),φ(j))の計算において目標値r(t)を比較することで、評価対象オペレータによる各種の動作が自動的に峻別される。そのため、汎用性が高く、評価対象オペレータによる所定の動作の技量を簡易に評価することが可能である。
【0055】
また、上述した実施形態によれば、評価対象オペレータによって90度旋回動作が実施されている期間中、目標値r(t)、旋回角度y(t)、y(t−1)、y(t−2)及び操作量u(t)が評価用データφ(t)として随時取得される。また、評価用データφ(t)と比較用データφ(j)(j=1,2,…,N)との距離d(φ(t),φ(j))も随時演算される。そのため、評価対象オペレータによる90度旋回動作をリアルタイムに評価することが可能である。
【0056】
また、上述した実施形態によれば、技量μ(t)の演算において、特徴ベクトルθ(i)が重み付け係数ω
iによって重み付けされる。そのため、本来の技量とは異なる技量の比較用データφ(j)が評価用データφ(t)の近傍データとして局所的に特定されたとしても、他の近傍データよりも距離が遠ければ、重み付け係数ω
iが小さくなるため、正確な技量を算出することが可能である。
【0057】
<2.変形例>
本発明による操作対象装置及び建設機械は上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、評価対象オペレータによる90度旋回動作が終了した後に
図8に示す評価画像GA1や評価画像GA2が表示される場合を例示したが、これに限定されない。評価対象オペレータによって90度旋回動作が実施されている最中に、演算部63で演算された技量をリアルタイムに表示するようにしてもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、評価対象オペレータの技量が評価画像GA1や評価画像GA2として一律に表示される場合を例示したが、これに限定されない。熟練オペレータといった技量評価を必要としないオペレータが90度旋回動作を実施する場合、評価画像GA1や評価画像GA2が表示されないように、事前に表示有無を選択できるようにしてもよい。具体的には、90度旋回動作を実施する前に、技量評価の表示可否を選択するための選択画面を表示ディスプレイ43に表示し、当該選択画面を介してオペレータが技量評価を表示することを選択した場合にのみ当該技量評価を表示するようにしてもよい。当該変形例によれば、技量評価を確認したい評価対象オペレータに対してのみ技量評価に関する画面を表示することが可能である。
【0060】
また、上述した実施形態では、演算用データφ(t)が5つの要素(r(t)、y(t)、y(t−1)、y(t−2)、u(t−1))で構成される場合を例示したが、これに限定されず、演算用データφ(t)がより多くの要素を備えて構成されるようにしてもよい。例えば、演算用データφ(t)が7つの要素(r(t)、y(t)、y(t−1)、y(t−2)、y(t−3)、u(t−1)、u(t−2))で構成されるようにしてもよい。その場合、動的な挙動(ダイナミクス)は、下記の数式7を用いて線形近似することが可能である。
【数7】
【0061】
また、上述した実施形態では、特徴ベクトルθ(t)に熟練を示す「1」又は非熟練を示す「0」が入力されている場合を例示したが、これに限定されず、熟練を示す「1」及び非熟練を示す「0」に加え、中級レベルを示す「0.5」が入力されるようにしてもよい。
【0062】
また、上述した実施形態では、
図1に示す油圧ショベル1に本発明の思想を適用する場合を例示したが、これに限定されず、各種操作に応じて所定の動作を行う装置(油圧ショベル1以外の操作対象装置)に本発明を適用するようにしてもよい。