【解決手段】配向膜作製方法は、平滑な基板上に、多糖類系高分子の溶液を一方向に塗布して下地層を形成する下地層形成工程と、下地層上に、配向される配向材の溶液を塗布して配向材層を形成する配向材層形成工程と、を含む。これにより、多糖類系高分子で形成され、テンプレート機能を有する下地層と、配向された高分子で形成される配向材層とが積層された配向膜を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る配向膜作製方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
本実施の形態では、多糖類系高分子としてメチルセルロースを用いて下地層31を形成し、下地層31と下地層31上に形成された高分子の配向材層32とを備える配向膜30を作製する方法について説明する。
【0020】
図1のフローチャートに示すように、本実施の形態に係る配向膜作製処理では、まず、下地層形成工程として、多糖類系高分子の溶液であるメチルセルロース溶液Msを繊維布11に含浸させる(ステップS11)。
【0021】
メチルセルロース溶液Msは、例えば熱水分散法により、メチルセルロースを水に溶解させた水溶液である。具体的には、
図2に示すように、80℃に加熱した熱水にメチルセルロース(シグマアルドリッチ社:M0512)を添加し、攪拌する。
【0022】
続いて、攪拌された混合液に、冷水を投入して混合する。また、混合液を収容した容器を氷水で約40分冷却し、混合液の温度を0〜5℃程度に冷却する。冷却された混合液を約30分攪拌し、メチルセルロース溶液Msが生成される。メチルセルロース溶液Msの濃度は、形成される下地層31のテンプレートとして求められる性能、積層される高分子の特性等により、調整すればよく、好ましくは0.6〜5.2wt%、より好ましくは3.3wt%程度である。
【0023】
本実施の形態では、多糖類系高分子としてメチルセルロースを用いることとしたが、これに限られず、例えば、グアガム、キサンタンガム等であってもよい。
【0024】
生成されたメチルセルロース溶液Msを、繊維布11に含浸させる。繊維布11の材質は特に限定されず、例えば、コットン、ポリエステル等を用いることができる。本実施の形態に係る繊維布11は、セルロースを主成分とするベルベット生地(セルロース97%、ポリウレタン3%)であり、幅約20μm、長さ約3mmの糸を、概ね300本/1mm
2の面密度で織った構造の布である。また、本実施の形態では、2cm×3cmの矩形状の繊維布11に、0.15gのメチルセルロース溶液Msを含浸させる。
【0025】
続いて、
図3に示すように、繊維布11は、棒12に巻き付けられる(ステップS12)。本実施の形態に係る棒12は、直径1.2cmの円柱形状の金属棒である。棒12を用いて繊維布11を掃引することにより、均一にメチルセルロース溶液Msを塗布することができる。
【0026】
棒12に巻き付けられた繊維布11は、基板13上を一方向に掃引される(ステップS13)。基板13の種類は特に限定されず、メチルセルロース溶液Msが浸透しない材料であり、平滑な板状部材であればよい。基板13として、例えば、ガラス板、有機フィルム等を用いることができる。本実施の形態に係る基板13は、厚さ1mmで、大きさ2cm×2cmの矩形状のガラス板であり、表面粗さは概ね10nmである。
【0027】
図3に示すように、繊維布11は、基板13の表面に垂直な方向に押圧された状態で、一方向に掃引される。押圧力は0.4kgf/cm
2であり、掃引速度は、1cm/sである。
【0028】
繊維布11を基板13上で掃引した後、3分から1時間程度、常温で放置してメチルセルロース溶液Msを乾燥、硬化させることにより、下地層31が形成される(ステップS14)。
【0029】
図4(A)、(B)は、メチルセルロース溶液Msの濃度を3.3wt%とした場合(
図4(A))と5.2wt%とした場合(
図4(B))の下地層表面の顕微鏡写真である。
図4(A)、(B)に示されるように、繊維布11を一方向に掃引することにより、下地層31の表面に凹凸パターンが形成されており、メチルセルロース溶液Msの濃度によって、凹凸パターン、すなわち、凹部の幅、間隔等の形状が異なっている。いずれの場合も、基板13上に隙間なく下地層31が形成されており、テンプレートとして均一で安定した性能を発揮し得ることがわかる。
【0030】
下地層31表面の凹凸パターンは、繊維布11の掃引速度、押圧力等によって変化するものと考えられる。上記の掃引条件では、メチルセルロース溶液Msの濃度3.3wt%、分子量88000の場合に、凹部の幅が50〜100μm、間隔50〜150μmとなり好ましい凹凸パターンを有する下地層31を形成することができる。
【0031】
続いて、配向材層形成工程として、下地層形成工程で形成された下地層31の表面に、配向させる配向材の溶液である配向材溶液Osを塗布する(ステップS15)。配向材は、特に限定されず、例えば、導電性高分子であるポリフルオレン(PFO:polyfluorene)、ポリ[(9,9-ジ-n-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-alt-(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール-4,8-ジイル)](F8BT)、ポリ[2,7-(9,9-ジ-オクチル-フルオレン)-alt-4,7-ビス(チオフェン-2-イル)ベンゾ-2,1,3-チアジアゾール](PF0−DBT)、ポリ[9,9-ビス-(2-エチルヘキシル)-9H-フルオレン-2,7-ジイル](PFO2)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシロキシ)-1,4-フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[2,5-ビスオクチルオキシ-1,4-フェニレンビニレン](BO−PPV)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)、色素であるローダミンB、ローダミン6G、メチルオレンジ、メチレンブルー、クリスタルバイオレット、βカロテン、有機EL(electro-luminescence)材料である1,4-ビス[2-(9-エチルカルバゾール-3-イル)ビニル]ベンゼン(BCzVB)、4,4'-ビス(N-カルバゾリル)-1,1'-ビフェニル(CBP)等を用いることができる。
【0032】
本実施の形態では、配向材として導電性高分子であるPFOを用い、濃度0.5wt%のPFO溶液を配向材溶液Osとして下地層31上に塗布する。より具体的には、大きさ2cm×2cmの矩形状のガラス板である基板13に形成された下地層31上に、配向材溶液Osを40μl滴下し、基板13を回転させてスピンコートする。
【0033】
配向材溶液Osが塗布された基板13を170±5℃程度で加熱した後、30分放冷することにより、塗布されたPFOは硬化する。これにより、配向されたPFOの層である配向材層32が形成される(ステップS16)。
【0034】
以上の処理により、配向膜30が作製される。作製された配向膜30は、基板13とともに使用することとしてもよいし、基板13から取り外して、より薄く、柔軟性のある配向膜30として使用することとしてもよい。
【0035】
図5は、上述した条件により、メチルセルロースの下地層31上に、PFOの配向材層32を積層した配向膜30の配向特性の例を示している。本実施の形態では、
図6に示すように、偏光子を通して偏光された光を、作製した配向膜30の試料に入射し、試料を透過した光を測定することとした。そして、入射光が、下地層31を形成する際の繊維布11の掃引方向に対して平行な方向に偏光されている場合の吸光度と、繊維布11の掃引方向に対して直交する方向に偏光されている場合の吸光度とを計測し、これらの比(吸光度比)を、配向度を示す指標として評価した。
【0036】
図5に示すように、本実施の形態に係る配向膜30について、入射光の波長が300nm〜600nmの範囲での吸収ピークにおける吸光度比Rを算出した。複数の測定点、試料で測定した値の平均である平均吸光度比はR
AVE=5.7であり、配向膜30が高い配向度を有することがわかる。また、
図5に示されるように、配向される配向材として、PFO2を用いた場合の平均吸光度比はR
AVE=5.7、F8BTを用いた場合の平均吸光度比はR
AVE=4.0、PFO−DBTを用いた場合の平均吸光度比はR
AVE=4.7であり、それぞれの場合で高い配向度が得られている。
【0037】
図7は、繊維布11の掃引速度を1〜50mm/sの範囲で変化させた場合の吸光度比を示すグラフである。掃引速度以外の条件、すなわち、下地層31の材料となるメチルセルロース溶液Msの濃度(3.3wt%)、配向材層32の材料(PFO)及び溶液濃度(0.5wt%)等は上述の実施の形態と同様である。
図7に示すように、繊維布11の掃引速度が1〜20mm/sの範囲において、平均吸光度比R
AVEは2以上となっており、好ましいことがわかる。また、繊維布11の掃引速度が5〜10mm/sの範囲において、最大吸光度比R
MAXは5.5以上となっており、より好ましいことがわかる。
【0038】
下記の表1は、繊維布11の押圧力を0.03〜1.35kg/cm
2の範囲で変化させた場合の吸光度比を示すものである。押圧力以外の条件、すなわち、下地層31の材料となるメチルセルロース溶液Msの濃度(3.3wt%)、配向材層32の材料(PFO)及び溶液濃度(0.5wt%)等は上述の実施の形態と同様である。表1に示すように、繊維布11の押圧力が0.07〜1.35kg/cm
2の範囲において、平均吸光度比R
AVEは4以上となっており、好ましいことがわかる。また、繊維布11の押圧力が0.42〜1.35kg/cm
2の範囲において、平均吸光度比R
AVEは4.5以上となっており、より好ましいことがわかる。
【0040】
また、下記の表2は、押圧力を0.42kg/cm
2として、繊維布11の掃引回数、すなわちメチルセルロース溶液Msの塗布回数を増加させた場合の吸光度比の変化を示すものである。表2に示すように、掃引回数が1回の場合よりも3回及び5回の場合で吸光度比が高くなっているが、いずれの場合も平均吸光度比R
AVEは4.2以上となっており、1回の掃引でも十分な配向特性を得られることがわかる。すなわち、多糖類系高分子の溶液を1回塗布するだけの簡便な方法で、被覆率の高い下地層31を形成することができる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係る配向膜作製方法によれば、基板13上に多糖類系高分子の溶液を一方向に塗布して形成した下地層31上に、配向される配向材の溶液を塗布して配向材層32を形成することにより、配向膜30を形成する。したがって、常温で簡便な方法により、被覆率の高い下地層31を形成することが可能であり、配向特性の高い配向膜30を作成することができる。
【0043】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、多糖類系高分子の溶液を含浸させた繊維布11を、基板13上で掃引することにより、下地層31を形成することとしたが、他の塗布方法を用いて下地層31を形成することもできる。本実施の形態では、バーコート法により、基板13上に多糖類系高分子の溶液を塗布する点で、実施の形態1と異なる。
【0044】
本実施の形態では、実施の形態1と同様に、多糖類系高分子の溶液として、メチルセルロースの水溶液であるメチルセルロース溶液Msを用いる。メチルセルロース溶液Msの濃度は3.3wt%である。
【0045】
生成されたメチルセルロース溶液Msは、基板13上に滴下される。基板13は表面が平滑なガラス板であり、大きさは2cm×2cm、厚みは1mmである。
図8(A)に示すように、基板13の1辺の近傍で、辺に沿って4箇所にメチルセルロース溶液Msを滴下する。滴下量は、約20mgである。
【0046】
続いて、メチルセルロース溶液Msを滴下した辺から対向する辺に向けて、バーコート法により、メチルセルロース溶液Msを塗布する。具体的には、金属棒15を、基板13のメチルセルロース溶液Msが滴下された位置に載せて、基板13上を一方向に移動させることにより、メチルセルロース溶液Msは塗布される。
【0047】
金属棒15は、バーコート法で一般的に用いられるような、ワイヤーが巻かれたバーコーターでなくてもよい。本実施の形態に係る金属棒15は、ステンレス製の直径1.2cmの円柱形状であり、表面粗さは数10μm程度である。
【0048】
塗布されたメチルセルロース溶液Msは、実施の形態1と同様に、3分から1時間程度常温で放置して乾燥、硬化され、下地層31が形成される。
【0049】
続いて、下地層31上に配向材を塗布して配向材層32を形成する。本実施の形態では、配向材として導電性高分子であるPFOを用い、濃度0.5wt%のPFO溶液を配向材溶液Osとして下地層31上に塗布する。より具体的には、基板13の下地層31上に、配向材溶液Osを40μl滴下し、基板13を回転させてスピンコートする。
【0050】
配向材溶液Osが塗布された基板13を170±5℃程度で加熱した後、30分放冷することにより、塗布された高分子材料は硬化する。これにより、配向されたPFOの層である配向材層32が形成されて、配向膜30が作製される。
【0051】
図8(A)は、上記の条件でバーコート法により、下地層31を形成した場合の、吸光度を示すグラフである。吸光度の計測方法は、実施の形態1の
図6で説明した方法と同様である。
図8(A)に示すように、平均吸光度比は、R
AVE=3.3であり、十分な配向特性を得られていることがわかる。
【0052】
図9は、金属棒15の直径を変化させた場合の吸光度を示すグラフである。本例では、
図8(B)に示すように、メチルセルロース溶液Msは、40mg(8滴)滴下された後にバーコート法により、塗布されることとしている。
図9に示すように、金属棒15の直径6mm〜20mmの範囲において、吸光度比に大きな差はなく、いずれの場合も十分な配向特性を得られていることがわかる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態に係る配向膜作製方法によれば、基板13上に滴下した多糖類系高分子の溶液を、バーコート法により、塗布して下地層31を形成するので、より簡便な方法で、下地層31の被覆率が高く、配向特性の高い配向膜30を作製することが可能である。
【0054】
本実施の形態では、金属棒15を用いてメチルセルロース溶液Msを塗布することとしたが、これに限られない。例えば、ガラス棒、樹脂棒等を用いることとしてもよく、形状変形可能なゴム製の棒を用いてもよい。また、金属棒15に代えて、板状の部材を用いることとしてもよく、例えばニトリルゴムのヘラを用いることができる。
【0055】
上記各実施の形態では、基板13はガラス板であることとしたが、これに限られない。例えば、基板13は、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)等のポリマーフィルムであることとしてもよい。
図10は、PENフィルムを基板13として用い、メチルセルロースの下地層31、PFOの配向材層32を形成して、配向膜30とした場合の吸光度を示すグラフである。PENフィルムの場合の吸光度比はR=5.2±0.5であり、十分な配向特性を得られていることがわかる。これにより、より柔軟で、配向度の高い配向膜30を作製することができる。
【0056】
また、
図11は、基板13をPIフィルムとして作製した配向膜30を、半径2.5mmとなるように、繰り返し折り曲げた場合の配向度(Orientation factor=(R−1)/(R+1))の変化を示すグラフである。
図11に示すように、配向膜30を繰り返し折り曲げても、配向度は保たれていることがわかる。
【0057】
また、上記各実施の形態では、多糖類系高分子としてメチルセルロースを用いることとしたが、これに限られない。例えば、グアガム、キサンタンガムを用いて下地層31を形成することとしてもよい。
図12は、グアガムの下地層31とした場合の吸光度と、キサンタンガムの下地層31とした場合の吸光度とを示すグラフである。配向材層32は、いずれもPFO2である。
図12に示すように、いずれもR
MAX=1.4以上の最大吸光度比であり、配向性を有していることがわかる。