【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス https://www.idaj.co.jp/icsc2019/login.html 掲載日 令和1年11月1日 ・研究集会名 IDAJ CAE Solution Conference 2019 開催場所 横浜ベイホテル東急 開催日 令和1年11月15日
【課題】運転条件に応じてHCCI燃焼とSI燃焼を行う2ストロークエンジンと発電機とを備えた発電装置に関し、SI燃焼のときにノッキングの発生を抑制し、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減して適正な燃焼時期を保つ。
【解決手段】本発明の一形態の発電装置(10A)は、対向ピストンエンジン(1A)と発電モータ(11、12)と、対向ピストンエンジン(1A)のシリンダ内での燃料の燃焼態様を、SI燃焼とHCCI燃焼とに切り替える制御装置(92)とを備えている。制御装置は、SI燃焼とHCCI燃焼に応じて過給圧と燃料噴射量を増減するとともに、HCCI運転時は燃料噴射量を増減して燃焼時期を適切に制御する。
前記制御装置は、前記燃焼態様が前記SI燃焼のときに、前記排気側クランク軸の回転の位相を前記吸気側クランク軸の回転の位相よりも遅角させることを特徴とする請求項2に記載の発電装置。
前記制御装置は、前記燃焼態様が前記SI燃焼のときに、排気カムの回転の位相を前記HCCI燃焼のときよりも遅角させることにより、前記排気弁の開閉タイミングの位相を基準クランク角に対して遅角させることを特徴とする請求項3に記載の発電装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、奥行き、幅等)は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化と簡略化とのために適宜変更している。
【0016】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、
図1〜
図7に基づいて説明すれば、以下のとおりである。本実施形態では、本発明の一態様に係る対向ピストンエンジン(2ストロークエンジン)と、該エンジンによって回転することにより電力を生成する発電機(以下、発電モータ)とを備える発電装置を例示して説明する。このような発電装置は、シリーズ方式のハイブリッド車に好適に搭載することができる。なお、本発明の一態様に係る対向ピストンエンジンの用途は必ずしもこれに限定されず、その他、原動機が搭載されている各種の機器に適用することができる。例えば、住宅や施設等に設置される定置型もしくは可搬型のガソリン発電機、送水用または排水用のポンプシステム、航空機、大型車両、および船舶などに適用することもできる。
【0017】
(1)発電装置の構成
図1は、本実施形態の発電装置の概略構成を示すブロック図である。発電装置10Aは、対向ピストンエンジン1Aと、発電モータ(発電機;排気側発電機)11と、発電モータ(発電機;吸気側発電機)12とが、図示しない筐体に搭載されている。なお、本明細書では、各種の補機を含めて対向ピストンエンジン1Aと称する。
【0018】
発電装置10Aは、後述する対向ピストンエンジン1Aと、検出装置91と、制御装置92とを備えている。検出装置91は、対向ピストンエンジン1Aのシリンダ冷却器(不図示)の冷却水の温度(水温)と、エンジン出力値と、燃焼割合が50%となる最小容積基準クランク角度(いわゆる「CA50」)とを少なくとも検出する。検出結果は、制御装置92に送られる。
【0019】
制御装置92は、検出装置91の検出結果を取得して、対向ピストンエンジン1Aを制御する。詳細は後述するが、制御装置92は、対向ピストンエンジン1Aの燃焼態様を、SI燃焼とHCCI燃焼との間で切り替える。また、制御装置92は、対向ピストンエンジン1Aが各燃焼態様において適した条件で動作するように、対向ピストンエンジン1Aを制御する。なお、制御装置92は、対向ピストンエンジン1Aの一部として構成されていてもよい。
【0020】
対向ピストンエンジン1Aについて、
図2に基づいて説明する。
図2における符号101で示す図は、発電装置10Aの対向ピストンエンジン1Aの概略的な構成を示す平面図である。また、同図では、構造を分かり易く示すため、シリンダ20の筐体部の一部を透過して示している。
図2における符号102で示す図は、対向ピストンエンジン1Aの概略的な構成を示す側面図である。なお、説明の便宜上、
図2には制御装置92は示していない。
【0021】
図2における符号101で示す図のように、対向ピストンエンジン1Aは、シリンダ20、排気側・吸気側ピストン(ピストン)21・22、排気側・吸気側コンロッド26・27および排気側・吸気側クランクシャフト(クランク軸)31・32を備える。排気側ピストン21・吸気側ピストン22のそれぞれは、シリンダ20内に挿通される。また、排気側コンロッド26と排気側クランクシャフト31とが一組となって排気側ピストン21に接続される。さらに、吸気側コンロッド27と吸気側クランクシャフト32とが一組となって吸気側ピストン22に接続される。
【0022】
具体的には、シリンダ20内にて、排気側ピストン21と吸気側ピストン22とが互いに対向するように往復運動することにより対向ピストンエンジン1Aが動作する。シリンダ20内には燃焼室23が形成されている。燃焼室23は、排気側ピストン21が有するピストンヘッド21a、吸気側ピストン22が有するピストンヘッド22a、およびシリンダ20の内壁20aによって囲まれて形成される。
図2の符号101で示す図は、排気側ピストン21および吸気側ピストン22が上死点近傍(シリンダ20の中心に最近接した位置)に位置する状態の対向ピストンエンジン1Aを示している。
【0023】
対向ピストンエンジン1Aは、シリンダ20にインジェクタ(燃料噴射器)28を有している。インジェクタ28から燃焼室23内に燃料が噴射される。本実施形態では、前記燃料はガソリンであり、対向ピストンエンジン1Aはガソリンエンジンとなっている。前記燃料は、図示しない燃料タンクからインジェクタ28に供給される。詳細は後述するが、インジェクタ28からの燃料噴射量は、
図1に示した制御装置92によって制御される。
【0024】
対向ピストンエンジン1Aは、シリンダ20に2つの点火プラグ29を有している。点火プラグ29が点火すると、インジェクタ28から燃焼室23内に噴射された燃料に着火して燃焼する。本実施形態では、燃料を点火プラグ29によって火花着火させるSI燃焼と、点火プラグ29を用いず自発着火させるHCCI燃焼とを切り替えて行う。そのため、詳細は後述するが、点火プラグ29の動作は、
図1に示した制御装置92によって制御される。
【0025】
なお、HCCI運転中に点火プラグ29をオンにして火花点火アシストHCCIで運転してもよく、その場合はHCCI運転中も適切な時期に火花を飛ばす。「HCCI運転」は、HCCI燃焼による対向ピストンエンジン1Aの作動のことを指す。
【0026】
図2における符号101で示す図中、燃焼室23内に記載の星形マークは、シリンダ20の中心位置CPを示しており、燃料の理想的な点火位置を示している。燃焼室23内にて燃料が燃焼することにより、排気側ピストン21および吸気側ピストン22が互いに対向して往復運動する。
【0027】
対向ピストンエンジン1Aは、シリンダ20の中心位置CPから軸方向に互いに離れた位置に排気ポート81および吸気ポート86がそれぞれ設けられている。排気ポート81および吸気ポート86は、典型的には、シリンダ20に形成された開口部である。排気ポート81は排気側ピストン21の往復運動に対応して開閉し、吸気ポート86は吸気側ピストン22の往復運動に対応して開閉する。
【0028】
対向ピストンエンジン1Aは、排気流出部82と給気部87とを備えている。排気流出部82は、排気ポート81の近傍かつシリンダ20の周囲に環状に設けられ、排気ポート81を介してシリンダ20内に連通する空間が形成されている。シリンダ20には排気ポート81として複数の開口部が形成されている。給気部87は、吸気ポート86の近傍かつシリンダ20の周囲に環状に設けられ、吸気ポート86を介してシリンダ20内に連通する空間が形成されている。シリンダ20には吸気ポート86として複数の開口部が形成されている。排気ポート81および吸気ポート86としての開口部の数は特に限定されない。
【0029】
また、対向ピストンエンジン1Aは、排気管(排気流路形成部)83を備えており、排気管83は、一端が排気流出部82に接続され、他端が触媒コンバータ(別部材)84に接続されている。排気管83は、排気流路が内部に形成されており、前記排気流路の長さExLは、排気流出部82から触媒コンバータ84までの排気管83の長さとみなすことができる。
【0030】
排気管83内の前記排気流路を流れて触媒コンバータ84に流入した排気ガスExh1は、触媒コンバータ84内の例えば酸化触媒によって浄化される。触媒コンバータ84は、NOx吸蔵触媒、選択還元触媒、またはGPF(Gasoline Particulate Filter)等が格納されていてもよく、三元触媒が格納されていてもよい。触媒コンバータ84により浄化された排気ガスExh2は例えば図示を省略するマフラー(消音器)へと流出する。
【0031】
排気管83には、排気管長(排気流路長)を可変するシャッターバルブ83aが設けられている。具体的には、シャッターバルブ83aは、排気管83の途中において、排気流路を短絡させることができるように配設されている。故に、シャッターバルブ83aが開いていれば排気管83の長さExLは短く(第1の長さ)、シャッターバルブ83aを閉じていれば排気管83の長さExLは長い(第2の長さ)。詳細は後述するが、シャッターバルブ83aの開閉は、
図1に示した制御装置92によって制御される。
【0032】
排気管83は、上記排気流路の途中において、排気再循環(EGR)のために機械式過給機61の吸入口に接続するよう分岐しており、その途中にEGRバルブ85とEGRクーラー88が設けられている。EGRバルブ85を開くことにより、排気管83内の上記排気流路を流れる排気ガスExh1の一部を冷却して吸気側のシステムに送給するようになっており、この送給量はEGRバルブ85の開閉角度により適宜調整可能となっている。詳細は後述するが、吸気側のシステムにおける吸入ガスに対する排気ガスの質量比率(EGR率)(すなわちEGRバルブ85の開度)は、
図1に示した制御装置92によって制御される。
【0033】
対向ピストンエンジン1Aは、更に、機械式過給機(過給機)61と、送気管62と、インタークーラ(給気冷却器)63と、スロットルバルブ64を備えている。スロットルバルブ64は機械式過給機61の吸入口に接続されている。
【0034】
機械式過給機61は、対向ピストンエンジン1Aにて発生した動力を利用して作動するメカニカルスーパーチャージャーであり、吸気ポート86を介してシリンダ20内に空気を圧送する。このような機械式過給機61は、回転するローターを内部に備えている。機械式過給機61は、スロットルバルブ64を介して空気(Int1)を吸気するとともに、EGRバルブ85を通じて送給された排気ガスExh1を吸気して、圧縮した後、該圧縮した空気(Int2)を、送気管62を通じてインタークーラ63に送る。インタークーラ63を通過して冷却された空気(Int3)は、給気部87に圧送され、吸気ポート86を介してシリンダ20に給気される。
【0035】
過給圧について更に説明すると、機械式過給機61の内部のローター(不図示)に連結されているクラッチ付き2ステップベルトドライブ65は、動力伝達部(増速ベルト42c、プーリー42b)を介してフライホイール42aに接続されている。また、クラッチ付き2ステップベルトドライブ65は、前記動力伝達部(増速ベルト42c、プーリー42b)が有する増速比にて増速されることによってフライホイール42aと連動して回転する。
【0036】
具体的には、機械式過給機61のローターに連結されているクラッチ付き2ステップベルトドライブ65は、二組の増速比が異なるプーリベルト機構を備える。また、クラッチ付き2ステップベルトドライブ65は、高速側プーリー内に断続クラッチを備え、低速側プーリー内にワンウェイクラッチを備える。クラッチ付き2ステップベルトドライブ65は、断続クラッチをオフとするとワンウェイクラッチによって低速で駆動される。一方、断続クラッチをオンとすると、クラッチ付き2ステップベルトドライブ65はワンウェイクラッチが空回りすることにより高速で駆動される。これにより、機械式過給機61のローターが所定の回転数にて回転することができ、所定の過給圧にて空気を圧送することができる。
【0037】
更に、機械式過給機61には、送気管62にバイパスバルブ62aが設けられている。バイパスバルブ62aを開けば、機械式過給機61の出口から圧送される空気の一部を機械式過給機61の入り口に戻すことができる。一方、バイパスバルブ62aを閉じれば、機械式過給機61の出口からすべての空気を圧送することができる。このようにバイパスバルブ62aの開閉の具合によって、過給圧を微調整することができる。
【0038】
詳細は後述するが、機械式過給機61の過給圧は、バイパスバルブ62aの開閉の具合を含めて、
図1に示した制御装置92によって制御される。また、対向ピストンエンジン1Aは、排気側ピストン21が排気側コンロッド26を介して排気側クランクシャフト(排気側クランク軸;クランク軸)31のクランクピン31aと接続されている。また、対向ピストンエンジン1Aは、吸気側ピストン22が吸気側コンロッド27を介して吸気側クランクシャフト(吸気側クランク軸;クランク軸)32のクランクピン32aと接続されている。
【0039】
なお、過給機としては機械式の過給機ではなく、電動コンプレッサを用いてもよく、その場合は過給圧の目標値に対して電動コンプレッサの回転速度を変更して過給圧を切り替える。また、必要に応じて回転速度を調整して過給圧を微調整することができる。
【0040】
図2に示すように、対向ピストンエンジン1Aが動作する場合、排気側ピストン21の往復運動と連動して、排気側クランクシャフト31が第1の回転方向に回転する。また、吸気側ピストン22の往復運動と連動して、吸気側クランクシャフト32が第2の回転方向に回転する。ここでは、
図2中、前記第1の回転方向は時計回りの方向であり、前記第2の回転方向は反時計回りの方向である。
【0041】
排気側クランクシャフト31は、バランスウェイト31bを備えている。排気側クランクシャフト31の回転軸の方向の一端部に、フライホイール41aが同軸に設置されている。フライホイール41aは、排気側クランクシャフト31の回転と同方向に同じ回転速度(回転数)にて回転する。吸気側クランクシャフト32は、バランスウェイト32bを備えているとともに、回転軸の方向の一端部に過給機駆動用のプーリー(ベルト車)42bが同軸に設置され、プーリー42bの近傍にフライホイール42aが同軸に設置されている。フライホイール42aおよびプーリー42bは、吸気側クランクシャフト32の回転と同方向に同じ回転速度(回転数)にて回転する。
【0042】
発電装置10Aが含む発電モータ11・12は、対向ピストンエンジン1Aの側方部に設けられている。発電モータ11・12は、公知の発電機を用いればよく、例えば車両用発電機(オルタネータ)を大きくしたものである。発電モータ11は回転軸11aを備え、該発電モータ11から突出する回転軸11aの先端が対向ピストンエンジン1Aの方向に向くように配置されている。回転軸11aには、発電モータ11から遠い順に、連動ギア71およびチェーン受け部52aが設けられている。連動ギア71およびチェーン受け部52aは、回転軸11aと同軸に設けられており、回転軸11aと連動して回転する、すなわち発電モータ11と同方向に同じ回転速度(回転数)にて回転する。
【0043】
発電モータ12は回転軸12aを備え、該発電モータ12から突出する回転軸12aの先端が対向ピストンエンジン1Aの方向に向くように配置されている。回転軸12aには、発電モータ12から遠い順に、連動ギア72およびチェーン受け部52bが設けられている。連動ギア72およびチェーン受け部52bは、回転軸12aと同軸に設けられており、回転軸12aと連動して回転する、すなわち発電モータ12と同方向に同じ回転速度(回転数)にて回転する。
【0044】
フライホイール41aおよびフライホイール42aは、それぞれ外周に歯が形成されている。フライホイール41aとチェーン受け部52aとは、増速チェーン56を介して互いに接続されている。フライホイール42aとチェーン受け部52bとは、増速チェーン57を介して互いに接続されている。
【0045】
発電モータ11は、フライホイール41aと増速チェーン56とチェーン受け部52aとの組合せ(第1の動力伝達部)が有する所定の増速比にて増速されて、フライホイール41aと連動して第1の回転方向に回転する。発電モータ12は、フライホイール42aと増速チェーン57とチェーン受け部52bとの組合せ(第2の動力伝達部)が有する所定の増速比にて増速されて、フライホイール42aと連動して第2の回転方向に回転する。
【0046】
排気側ピストン21、吸気側ピストン22、フライホイール41a・42a、プーリー42b、ならびに発電モータ11・12は、各種の動力伝達部によって接続されて互いに連動するようになっている。また、排気側クランクシャフト31、吸気側クランクシャフト32、フライホイール41a・42a、プーリー42b、ならびに発電モータ11・12は、各種の動力伝達部によって接続されて互いに連動するようになっている。さらに、発電モータ11と発電モータ12とは、連動ギア71と連動ギア72とが歯合(係合)しており、互いに逆の回転方向に同じ回転速度で回転して連動するようになっている。
【0047】
対向ピストンエンジン1Aは、連動ギア71および連動ギア72に駆動トルクがほとんどかからないとともに、連動ギア71および連動ギア72の周速が速い。そのため、連動ギア71および連動ギア72に歯打ち音が発生し難い。また、連動ギア71および連動ギア72は、大きなトルクがかからないことからアンチバックラッシュギアを用いることができ、この場合、機械的なエネルギー損失を抑制しつつ静音性を高めることができる。
【0048】
また、先述のように機械式過給機61は、増速ベルト42cを介してプーリー42bと接続されており、所定の増速比にて増速されて、プーリー42bと連動して第2の回転方向に回転する。排気側クランクシャフト31、吸気側クランクシャフト32、発電モータ11、発電モータ12、および機械式過給機61は、回転軸方向が互いに平行となっている。
【0049】
対向ピストンエンジン1Aは、発電モータ11の回転軸11aに位相可変部材75が取り付けられている。位相可変部材75は、連動ギア71とチェーン受け部52aとの位相関係(位相角)を変化させる(調整する)ことができる。位相可変部材75を用いることにより、排気側クランクシャフト31の回転と吸気側クランクシャフト32の回転との互いの位相関係を変化させることができる。
【0050】
位相可変部材75、連動ギア71・72、フライホイール41aと増速チェーン56とチェーン受け部52aとの組合せ、および、フライホイール42aと増速チェーン57とチェーン受け部52bとの組合せは、クランク位相可変機構として機能する。クランク位相可変機構(位相可変機構)とは、排気側クランクシャフト31の回転と吸気側クランクシャフト32の回転との互いの位相関係を調整するものである。
【0051】
また、連動ギア71・72、フライホイール41aと増速チェーン56とチェーン受け部52aとの組合せ、および、フライホイール42aと増速チェーン57とチェーン受け部52bとの組合せは、回転伝達機構として機能する。回転伝達機構とは、排気側クランクシャフト31の回転と吸気側クランクシャフト32の回転との互いの位相関係を決定するものである。
【0052】
対向ピストンエンジン1Aは、2つのクランクの回転について互いに位相差がない場合、連動ギア71および連動ギア72に駆動トルクがかからない。ただし、2つのクランクの回転について互いに位相差が有る場合、進角側のクランクのトルクが遅角側のクランクのトルクよりも増加するので、それらの差分のトルク(駆動トルク)が連動ギア71・72に負荷される。この場合、進角側の発電モータの発電量を増加することで駆動トルクを抑制することができる。
【0053】
そのため、対向ピストンエンジン1Aでは、許容トルク(位相変化に要する駆動トルクおよび位相関係の保持に要する保持トルク)の小さい位相可変部材75を使用することができる。このような位相可変部材75としては公知の部材を用いることができ、例えば、一般にカムシャフトの位相を変化させるために用いられる位相変化型可変バルブタイミング機構を適用することができる。すなわち、例えば、回転軸11aの回転が油圧室を介して連動ギア71に伝達するように、位相可変部材75を設ける。進角側または遅角側の油圧室の片側に油圧をかけることで、回転軸11aの回転に対して連動ギア71の回転を進角または遅角させることができる。
【0054】
位相可変部材75は、排気側クランクシャフト31と吸気側クランクシャフト32との位相関係を変化させることができるようになっていればよく、具体的な構成は特に限定されず、配置も特に限定されない。詳細は後述するが、位相可変部材75の動作は、
図1に示した制御装置92によって制御される。
【0055】
対向ピストンエンジン1Aは、主要な運転領域(エンジン回転数・負荷域)において最大熱効率が高いことが重要である。この主要な運転領域としては、用途(すなわちエンジンが搭載される動力発生機構)に応じて様々であり、主要な運転領域の数値範囲を具体的に規定することは難しい。本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、熱効率の高い回転数・負荷域(例えば中速中負荷域)で運転する用途(例えば発電用)を想定し、総合的なエンジン性能が高い運転領域での使用頻度が高くなるように設定した。総合的なエンジン性能は、熱効率や排気ガス、騒音などによって評価される。
【0056】
ここで、エンジン性能はエンジン回転数の感度が高いので、主要な運転領域はエンジン回転数によって規定することができる。そのような主要な運転領域にて必要な出力が得られるように負荷を調整する。一般的に、低負荷の場合を除いて、負荷によるエンジン性能への影響は小さい。
【0057】
換言すれば、「主要な運転領域」とは、エンジンの通常の使い方において、長時間にわたって運転される、エンジンの総合性能が高いエンジン回転数の領域である。一例では、シリーズ方式のハイブリッド車に搭載される対向ピストンエンジン1Aは、主要な運転領域が例えば1500rpm以上3000rpm以下であり、好ましくは2000rpm以上2500rpm以下である。
【0058】
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、幾何学的圧縮比が15以上であり、18以上であってよく、20以上であってもよい。本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、幾何学的圧縮比を24とすることができる。対向ピストンエンジン1Aは、例えば、ボアが86mmであり、片方のピストンあたりのストロークが103mmである。この場合の両方のピストンの下死点(シリンダ20の中心から最も離れた位置)BDCおよび上死点TDCに基づく基準排気量(幾何学的排気量)は1196ccである。
【0059】
2つのクランクの回転について互いに位相差が有る場合、対向ピストンエンジン1Aの有効排気量(燃焼室23の最大容積と最小容積との差)は基準排気量よりも少し小さくなる。なお、対向ピストンエンジン1Aのボアおよびストロークの具体的な値は、対向ピストンエンジン1Aの全体サイズに応じて適宜決定されるものであり、前記のような幾何学的圧縮比となっていれば特に限定されるものではない。
【0060】
「基準容積比」は、排気側クランクシャフト31と吸気側クランクシャフト32とのクランク位相が揃っている(位相差が無い)状態において、下死点容積を上死点容積で割ることにより得られる値である。基準容積比は、対向ピストンエンジン1Aの構造(シリンダ20の容積、排気側ピストン21および吸気側ピストン22のボアおよびストローク)によって決定される。
【0061】
ここで、対向ピストンエンジン1Aでは位相可変部材75によってクランク位相が可変である。本明細書において、前記「幾何学的圧縮比」は「容積比」と同義である。また、「容積比」とは、排気側ピストン21と吸気側ピストン22とが最も遠ざかった時点におけるシリンダ20内の容積を、各ピストンが最も近づいた時点におけるシリンダ20内の容積で割ることにより得られる値を意味する。言い換えれば、「容積比」とは、燃焼室23の最大容積を燃焼室23の最小容積で割ることにより得られる値を意味する。また、「容積比」は、位相差に応じて値が異なる。基準容積比は容積比と同等またはわずかに高い値であり、エンジンの性能を評価する上では、容積比がより重要となる。
【0062】
また、本明細書において、「有効圧縮比」とは、排気ポート81が全閉した時点におけるシリンダ20内の容積を、排気側ピストン21と吸気側ピストン22とが最も近づいた時点におけるシリンダ20内の容積で割ることにより得られる値を意味する。言い換えれば、「有効圧縮比」とは、圧縮開始時の燃焼室23の容積を燃焼室23の最小容積で割ることにより得られる値を意味する。
【0063】
本実施形態における対向ピストンエンジン1Aは、高容積比であっても、実質的な圧縮比を有効圧縮比よりもさらに低減し、圧縮温度を低下させることによりノッキングの発生を抑制して、最大熱効率を高くすることができる。このことについて、発電装置10Aの動作に関する説明とともに後述する。
【0064】
(検出装置91)
図1に示した検出装置91は、一般的に装備されている、吸気圧力・温度センサおよびエンジン入口または出口の冷却水の温度を計測する温度センサを有している。また、検出装置91は、エンジン動作によって出力されるトルク(エンジン出力値)を検出するトルク出力センサを有している。トルク出力センサは、後述するPCU7(
図7)からエンジン出力値を取得することができる。なお、トルク出力センサは、エンジンの動作にかかる負荷を検出するようになっていてもよい。例えば、一定の回転数で運転している状態において、前記トルクと前記負荷とは互いに釣り合っている。
【0065】
また、検出装置91は、CA50の角度を検出するCAセンサを有している。具体的には筒内圧力センサを用いて筒内圧力履歴からCA50を算出するが、これに限定されるものではない。例えば、クランク角度センサからの角加速度信号を処理して擬似的なCA50を求めることもできる。さらに、検出装置91は、二つのクランクの角度センサによるタイミング検出センサを有している。本実施形態の対向ピストンエンジン1Aは、排気側ピストン21と吸気側ピストン22との間の容積が膨張する行程と、排気側ピストン21と吸気側ピストン22との間の容積が収縮する行程と、の2行程(ストローク)にて1サイクル動作する。タイミング検出センサでは、このサイクルのタイミングをとってシリンダ容積を算出する。
【0066】
(制御装置92)
図1に示した制御装置92は、シリンダ20内の燃料の燃焼態様を制御する。具体的には、制御装置92は、後述するPCU7(
図7)からの切り替え指令(以下、変更指令と称する)と、検出装置91から取得する検出結果とに基づいて、当該燃焼態様をSI燃焼とHCCI燃焼との間で切り替える。以下に、制御装置92による先述の対向ピストンエンジン1Aの動作の制御内容について、
図4および
図5を用いて説明する。
図4は、HCCI燃焼からSI燃焼への切り替えの際の各構成の、制御装置92による制御内容を示す。また、
図5は、SI燃焼からHCCI燃焼への切り替えの際の各構成の、制御装置92による制御内容を示す。
【0067】
・インジェクタ28の燃料噴射量の制御
制御装置92は、インジェクタ28からの燃料噴射量を制御する。燃料噴射量の制御は従来周知の手法を採用すればよい。具体的には、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、SI燃焼中の燃料噴射量から、噴射量を下げる。例えば、SI燃焼中は1サイクル当たり44gとしていた燃料噴射量を、1サイクル当たり20〜25gまで下げる。
【0068】
また、制御装置92は、HCCI燃焼に切り替えた後(HCCI燃焼中)には、サイクル毎に燃焼噴射量を調整することによって、燃焼時期を制御することができる。制御装置92は、HCCI燃焼中、サイクル毎に、HCCI燃焼の時期(CA50)と燃焼室23内の混合ガスの状態を確認し、この確認結果に基づいて、燃料噴射量を調整する。HCCI燃焼の時期(CA50)について、筒内圧センサの圧力値とクランク角センサからの燃焼室容積値から毎回転算出するCA50の値と目標値とのズレを確認して調整する(フィードバック制御)。更に、混合ガスの状態(圧力、温度、酸素濃度、燃料濃度)から燃焼時期を予測して、その予測値の目標値とのズレに応じて噴射量を調整(予測制御)しても良い。
【0069】
具体的には、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えた後の最初のサイクルでは、インジェクタ28が予め設定された噴射量の燃料を噴射するよう制御する。2回目以降のサイクルでは、制御装置92は、インジェクタ28が燃料を噴射する噴射タイミングよりも前に、不図示の圧力センサ等から取得した1サイクル前の燃焼室23内のCA50に係る値(またはそのサイクルの予測値)が所定の数値範囲内に含まれるか否かを判定する。
【0070】
CA50に係る値が所定の数値範囲の下限値よりも小さいと判定した場合、制御装置92は、1サイクル前のインジェクタ28の燃料噴射量よりも多い噴射量の燃料をインジェクタ28が噴射するよう、当該インジェクタ28を制御する。一方、CA50に係る値が所定の数値範囲の上限値よりも大きいと判定した場合、制御装置92は、1サイクル前のインジェクタ28の燃料噴射量よりも少ない噴射量の燃料をインジェクタ28が噴射するよう、当該インジェクタ28を制御する。CA50に係る値が所定の数値範囲内(CA50に係る値が下限値の場合および上限値の場合の双方を含む)の場合、制御装置92は、1サイクル前の燃料噴射量と同じ噴射量の燃料を噴射するようインジェクタ28を制御する(定常状態の場合)。なお、定常状態ではなく過渡状態の場合は、変更指令に基づく前サイクルからの増減分を付加する必要がある。なお、1サイクル前のインジェクタ28の燃料噴射量と総噴射量はそのままに、分割噴射の回数・時期と噴射量の調整を行ってもよい。
【0071】
なお、制御装置92による上述の燃料噴射量の調整態様はあくまで一例であり、制御装置92は他の調整態様を採ってもよい。つまり、HCCI燃焼中に燃料が適切な時期に燃焼するのであれば、制御装置92はどのような燃料噴射量の調整態様を採ってもよい。また、このとき、後述するEGR率も数サイクル毎に調整する。具体的には、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、EGR率を上昇させ、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、EGR率を減少させる。
【0072】
また、制御装置92は、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、HCCI燃焼中に1サイクル当たり20〜25gとしていた燃料噴射量を、1サイクル当たり44gまで上げる。なお、以上で説明した数値は何れも一例に過ぎない。前記構成によれば、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、インジェクタ28の燃料噴射量を上述のように下げることによって、シリンダ20内の混合ガスをストイキに近い弱リーンからHCCI燃焼に必要な強リーンに切り替えることができる。なお、「混合ガス」は、空気と既燃ガス(EGR含む)、燃料とが混合されたものである。また、混合ガスを燃焼した後に残留するガスを「残留ガス」と称する。
【0073】
また、過早着火防止のため、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときよりも、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときには、燃料噴射量の減少は早めにする。制御装置92による燃料噴射量の制御タイミングとしては、後述するPCU7(
図7)から制御装置92がエンジン出力の変更指令(以下、変更指令と称する)を取得する前から、上述した燃料噴射量の変更を開始する。要するに、変更指令のタイミングの直前に変更準備期間が設けられている。変更準備は、PCU7(
図7)からの指令に基づいて開始する。変更指令が出る時期が、バッテリーの蓄電量と運転状態(速度、加速度、登板など)から変更の必要性を算出して決まり、それが決まると同時に変更準備の開始時期も決まる。準備期間は車両とエンジンの状態とによって異なる。
【0074】
・点火プラグ29の制御
制御装置92は、点火プラグ29のオンオフを制御する。SI燃焼中は、点火プラグ29をオンに制御し、HCCI燃焼中は、点火プラグ29をオフに制御する。なお、HCCI運転中に点火プラグをオンにして火花点火アシストHCCIで運転してもよく、その場合はHCCI運転中も適切な時期に火花を飛ばす。なお、HCCI燃焼にて運転を行うことが可能な状態になったら、自然に自着火が始まる。反対に、SI燃焼にて運転を行うことが可能な状態になったら、自然に自着火が止まる。SI運転中の点火時期は、暖機中は燃焼安定性の許容範囲で遅角制御し、暖機後はMBT(Minimum advance for the Best Torque)またはノック限界に制御される。
【0075】
・排気管83の長さExLの制御
制御装置92は、排気管83の長さExLを制御するために、シャッターバルブ83aの開閉を制御する。具体的には、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、シャッターバルブ83aを開いて排気管の長さExLを第1の長さとする(短くする)。本実施形態では、排気管の長さExLは、第1の長さと第2の長さとを選択可能となっており、第1の長さは、第2の長さよりも短い。これにより、圧縮開始前のシリンダ20内の圧力、シリンダ20内の混合ガスの温度が高い状態となるため、燃焼時期の遅れを低減することができる。
【0076】
なお、HCCI運転あるいはSI運転が可能な状態となったかどうかは、制御パラメータの変更が終了した時期に判断される。「SI運転」は、SI燃焼による対向ピストンエンジン1Aの作動のことを指す。
【0077】
また、制御装置92は、HCCI燃焼に切り替えた後(HCCI燃焼中)には、シャッターバルブ83aを開の状態にしておき、排気管83の長さExLを短い状態(第1の長さ)としておく。これにより、圧縮開始前のシリンダ20内の圧力低下が少なく、シリンダ20内の混合ガスの温度が高い状態となるため、燃焼時期の遅れを低減することができる。
【0078】
また、制御装置92は、暖機運転中にSI燃焼をしている場合、対向ピストンエンジン1Aの冷却水の水温が所定の温度値A以下の場合には、シャッターバルブ83aを開いて排気管の長さExLを第1の長さとする(短くする)。これにより、触媒コンバータ84の触媒を早く温めることができる。一方、SI燃焼中に、対向ピストンエンジン1Aの冷却水の水温が前記所定の温度値Aを超える場合にはHCCI燃焼に切り替える。続いてHCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、制御装置92は、シャッターバルブ83aを閉じて排気管83の長さExLを第2の長さとする(長くする)。これにより、シリンダ20内の圧力を低下させ、シリンダ20内の混合ガスの温度を低下させることができるため、ノッキングの発生を抑制することができる。排気管83の長さExLは、シャッターバルブ83aを閉じた状態で1.0m(第2の長さ)、シャッターバルブ83aを開いた状態で0.3m(第1の長さ)とできるが、この数値はあくまでも一例である。
【0079】
・機械式過給機61の回転数に基づく過給圧の制御
制御装置92は、機械式過給機61の回転数の制御(過給圧の制御)を行う。そのために、先述のようにクラッチ付き2ステップベルトドライブ65の動力伝達部(増速ベルト42c、プーリー42b)の増速比を制御する。具体的には、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、動力伝達部(増速ベルト42c、プーリー42b)の増速比を切り替え前の増速比よりも低くする。これにより、機械式過給機61のローターの回転数を下げて過給圧を切り替え前の過給圧よりも低下させる。例えば、4.0×Neから2.3×Neに該回転数を下げる(なお、Neはエンジン回転数を示す)。過給圧を低下させることにより掃気が不完全になって残留ガス量が増加するので、HCCI燃焼のときに懸念される燃焼時期の遅れを低減することができる。
【0080】
また、制御装置92は、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、前記動力伝達部(増速ベルト42c、プーリー42b)の増速比を切り替え前の該増速比よりも高くする。これにより、機械式過給機61のローターの回転数を上げて、過給圧を切り替え前の過給圧よりも上昇させる。例えば、2.3×Neから4.0×Neに該回転数を上げる。過給圧を上昇させることにより掃気が良好になって残留ガス量が低下するので、SI燃焼のときに懸念されるノッキングの発生を抑制することができる。
【0081】
発電装置10Aは、シリーズハイブリット方式のパワートレインに組み込まれるため、目標トルクの誤差が許容されるため、燃料噴射量を増減することによってサイクル毎の燃焼時期制御が可能である。前記構成によれば、気筒別およびサイクル毎の発生トルクの相違を吸収することができる。また、前記構成によれば、SI燃焼とHCCI燃焼とを切り替えるときに、機械式過給機61の回転数に基づく過給圧を上述のように増減(調整)させることで、SI燃焼時のノッキングの発生を抑制し、HCCI燃焼時の燃焼時期の遅れを抑制することができる。
【0082】
・機械式過給機61のバイパスバルブ62aに基づく過給圧の制御
制御装置92は、機械式過給機61の過給圧を微調整するために、機械式過給機61の送気管62に設けられたバイパスバルブ62aの開閉を制御する。バイパスバルブ62aによる過給圧の微調整は、主にHCCI燃焼をおこなっている間に燃焼時期を調整するために行う。
【0083】
具体的には、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、SI燃焼中には閉じていた(つまり開度0°)バイパスバルブ62aを開いていく。このとき、HCCI燃焼に完全に切り替わるまでの間、機械式過給機61の回転数減少を補うために一旦余分に(例えば開度5°)に開いてもよい。なお、この代替として、スロットルバルブ64を全開から半開にしてもよい。そして、制御装置92は、HCCI燃焼に切り替わった後(HCCI燃焼中)は、開度0°以上10°以下の範囲で調整する。なお、数値は一例に過ぎない。
【0084】
また、制御装置92は、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、開度0°以上10°以下の範囲で調整されていたバイパスバルブ62aを、閉じる(つまり開度0°)。制御装置92によるバイパスバルブ62aの制御タイミングとしては、後述するPCU7(
図7)から制御装置92が変更指令を取得する前から、上述した開度の変更を開始する。要するに、変更指令のタイミングの直前に変更準備期間が設けられている。変更準備は、先述のようにPCU7(
図7)からの指令に基づいて開始する。
【0085】
・位相可変部材75の動作の制御
制御装置92は、位相可変部材75の動作を制御する。具体的には、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、排気側クランクシャフト31の回転の位相の吸気側クランクシャフト32の回転の位相に対する遅角量を減少させる。具体的には、SI燃焼中に排気側クランクシャフト31の回転の位相が吸気側クランクシャフト32の回転の位相に対して所定の角度だけ遅角(例えば6°遅角)していたものを、位相可変部材75を制御することにより位相差がない状態とする。これにより、結果としてHCCI運転の熱効率が向上すると同時に無振動になる。前記所定値は、具体的な値は特に限定されるものではなく、適宜設定された値であってよい。
【0086】
また、制御装置92は、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、排気側クランクシャフト31の回転の位相を吸気側クランクシャフト32の回転の位相に対して所定の角度だけ遅角(例えば6°遅角)させる。具体的には、HCCI燃焼中に位相差がない状態であった排気側クランクシャフト31の回転の位相を、吸気側クランクシャフト32の回転の位相に対して所定の角度だけ遅角(例えば6°遅角)させる。これにより、結果としてノッキングが抑制されて熱効率が向上する。
【0087】
制御装置92は、位相可変部材75を連続的に制御してもよく、段階的に制御してもよい。また、制御装置92は、HCCIの燃焼の時期(CA50)が所定値より早い場合は遅角量を増加し、遅い場合は減少することでHCCI燃焼時期の制御にも利用できるので前記燃焼の時期の値の変化に対応して複数回制御するようになっていてもよい。
【0088】
・EGRバルブ85(EGR率)の制御
制御装置92は、EGRバルブ85を制御して、EGR(exhaust gas recirculation)率を制御する。具体的には、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、SI燃焼中のEGR率から、EGR率を下げる。例えば、SI燃焼中はEGR率36%としていたEGR率を、10%まで下げる。
【0089】
また、制御装置92は、HCCI燃焼に切り替えた後(HCCI燃焼中)には、EGR率(例えば10%)を維持する。また、HCCI燃焼中は、数サイクル毎にEGR率を微調整するとともに、1サイクル毎に燃焼噴射量を調整することによって、燃焼時期が適切な時期になるよう制御することができる。具体的には、制御装置92は、HCCI燃焼のとき、サイクル毎に、燃焼室23内の混合ガスの状態を確認し、この確認結果に基づいて、燃料噴射量を調整する。
【0090】
また、制御装置92は、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、HCCI燃焼中にEGR率10%としていたEGR率を、EGR率36%に上げる。なお、以上で説明した数値は何れも一例に過ぎない。
【0091】
制御装置92によるEGR率の制御タイミングとしては、後述するPCU7(
図7)から制御装置92が変更指令を取得する前から、上述したEGR率の変更を開始する。要するに、変更指令のタイミングの直前に変更準備期間が設けられている。変更準備は、PCU7(
図7)からの指令に基づいて開始する。
【0092】
なお、SI燃焼とHCCI燃焼との間での切り替えが完了したか否かは、切り替え機器の作動完了に基づいて判断できる。ただし燃焼状態が筒内圧力から正常なことを判断する。
【0093】
ここで、上述の各制御対象のパラメータに関し、変更指令に基づいて変更を開始するパラメータを基本パラメータとする一方で、変更指令前から徐々に変更していくパラメータを制御パラメータとすると、
図4および
図5に示すように区分することができる。
【0094】
(2)発電装置の動作
次に、
図3に基づき、発電装置10Aにおいておこなわれる対向ピストンエンジン1Aの燃焼態様の切り替え動作、すなわち、制御装置92の処理フローについて説明する。制御装置92は、処理フローを開始すると、ステップS(以下、「ステップ」を省略する)101において、対向ピストンエンジン1Aの冷却水の温度(水温)を取得し、予め規定されている所定の温度値A(例えば60℃)と、取得した水温とを比較する。比較の結果、水温>60℃であれば、S102に進む。一方、水温≦60℃であれば、S104に進む。
【0095】
次に、S102では、制御装置92は、対向ピストンエンジン1Aに与えるエンジン出力目標値を予め規定されている所定のエンジン出力値(例えば20kW)と比較する。比較の結果、エンジン出力目標値<20kWであれば、S103に進む。一方、エンジン出力目標値≧20kWであれば、S105に進む。
【0096】
次に、S103では、制御装置92は、燃焼室23内の燃料の燃焼態様をHCCI燃焼にして対向ピストンエンジン1Aを作動させる。HCCI運転を開始したら、S106に進む。HCCI運転では、先述のように、機械式過給機61の回転数を低回転とし、排気側クランクシャフト31の回転の位相と吸気側クランクシャフト32の回転の位相との位相差を0とし、排気管83の長さExLを短くするよう、制御装置92が各構成を制御する。
【0097】
次に、S104では、制御装置92は、燃焼室23内の燃料の燃焼態様をSI燃焼にして対向ピストンエンジン1Aの作動を開始し、スタートに戻る(リターン)。また、S105においてもS104と同様に、SI運転を開始し、スタートに戻る(リターン)。SI運転では、先述のように、機械式過給機61の回転数を高回転とし、排気側クランクシャフト31の回転の位相を吸気側クランクシャフト32の回転の位相に対して遅角させるよう、制御装置92が各構成を制御する。
【0098】
S106では、HCCI運転中に、検出装置91から取得したCA50(燃焼割合が50%となる最小容積基準クランク角度)の値を、所定値(例えば8°)と比較し、CA50>8°であれば、S107に進む。一方、CA50≦8°であれば、S108に進む。S107では、取得したCA50の値を別の所定値(例えば10°)と比較し、CA50<10°であれば、条件を継続して運転を続け、スタートに戻る(リターン)。一方、CA50≧10°であれば、S109に進む。なお、S106とS107に関し、閾値をそれぞれ8°、10°としているが、エンジンの燃焼特性と運転条件に応じて適切な値は異なる。
【0099】
S108では、燃焼時期を遅延させて(遅角させて)、S106に戻る。具体的には、S108では、機械式過給機61のバイパスバルブ62aを閉じ、インジェクタ28からの燃料噴射量が低減するよう、制御装置92が各構成を制御する。S109では、燃焼時期を早めて(進角させて)、S106に戻る。具体的には、S109では、機械式過給機61のバイパスバルブ62aを開き、インジェクタ28からの燃料噴射量が増加するよう、制御装置92が各構成を制御する。以上の動作フローを、サイクル毎におこなう。なお、基本的には、先述のようにバッテリーのSOC(蓄電量)が十分な場合は低出力のHCCI運転、不足時は高出力のSI運転を採用する。SOCの状態をPCU7で監視して、運転切替を実行する。SOCの増減速度、それまでの運転状態、登降坂の判定などの条件から切り替え時期を判断する。運転切替時期が決まれば、それに必要な予備操作をあらかじめ決めた時間だけ早く実行する。「変更指示」は主な変更手段(基本パラメーラ)の変更を開始するものであり、それに先立って変更を開始する制御パラメータを「変更準備」と称している。
【0100】
(3)HCCI燃焼のシミュレーション結果
次に、
図6に基づき、HCCI燃焼のシミュレーション結果について説明する。
図6の符号501で示す図は、燃料噴射量を変化させたときの、クランク角度(deg)と、シリンダ20内の圧力(bar)との関係を示すグラフである。燃料噴射量を14〜17(mg/cycle)と増加させるにつれて、燃焼開始時期が早くなるとともにシリンダ20内の圧力は大きくなる。
【0101】
次に、
図6の符号502で示す図は、燃料噴射量の変化と燃焼時期を示すCA50のクランク角度の変化との関係(破線のグラフ)、および燃料噴射量の変化と正味平均有効圧(BMEP)の変化との関係(実線のグラフ)を示すグラフである。同図に示すように、燃料噴射量が大きくなる程、CA50が進角する。また、燃料噴射量が大きくなる程、正味平均有効圧(BMEP)が大きくなる。このことから、発生トルクの変化が許容できれば燃料噴射量によって燃焼時期を効果的に制御できることがわかる。
【0102】
(4)パワートレイン
次に、本実施形態における発電装置10Aを備えるシリーズ方式のハイブリッド車のパワートレインについて
図7に基づいて説明する。
図7は、発電装置10Aを備えるシリーズ方式のパワートレイン90の概略的な構成を示す図である。
図7に示すように、パワートレイン90は、発電装置10A、パワーコントロールユニット(PCU)7、バッテリー8、および駆動モータ9を備えている。発電装置10Aは、対向ピストンエンジン1Aと発電モータ11および発電モータ12と筐体3とを含む。対向ピストンエンジン1A、発電モータ11、および発電モータ12は、図示しない支持構造体によって筐体3に剛体結合されている。
【0103】
次に、PCU7は、インバータおよびコンバータ等の各種の電気制御系を含んでいるとともに、駆動モータ9の制御等を行う。発電モータ11・12にて発生した電力はPCU7を介してバッテリー8に充電される。PCU7は、バッテリー8から給電される電力を用いて駆動モータ9を動作させる。駆動モータ9は図示しない駆動ユニットを介して車両の車輪を駆動する。発電モータ11・12、PCU7、バッテリー8、および駆動モータ9は、シリーズ方式のハイブリッド車のパワートレインが備える公知の機器を用いることができる。そのため、記載の冗長化を避けるために、これらに関する詳細な説明は省略する。
【0104】
本実施形態は、次のように換言することもできる。すなわち、本実施形態の発電装置は、2ストロークエンジンと、該エンジンの燃料燃焼に伴う動力を用いて発電する発電機とを備える。また、2ストロークエンジンには、吸気ポートおよび点火プラグが設けられたシリンダと、吸気ポートを介してシリンダ内に空気を圧送する過給機と、シリンダ内に燃料を噴射するインジェクタと、を少なくとも有している。また、2ストロークエンジンは、点火プラグの点火、過給機の過給圧、およびインジェクタの燃料噴射量を制御(調整)する。これにより、前記燃料燃焼を、SI燃焼と、HCCI燃焼との間で切り替える制御装置92を更に備えている。
【0105】
〔実施形態2〕
次に、
図8に基づき、本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図8の符号701で示す図は、いわゆるユニフロー掃気式の2ストロークエンジン1Bの構造を示す図である。また、
図8の符号702で示す図は、2ストロークエンジン1Bのシリンダ20付近の部分拡大図である。
【0106】
なお、2ストロークエンジンの形態が対向ピストンエンジンであるかユニフロー掃気式のエンジンであるかという違いだけで、基本的な制御アルゴリズムは、実施形態1において説明したものと同様である。要するに、実施形態1の
図1におけるエンジン周辺の構造が異なるだけで、
図1に示した検出装置91および制御装置92は、本実施形態においても適用される。
【0107】
本実施形態のユニフロー掃気式の2ストロークエンジン1Bは、上述した制御装置92による制御により、シリンダ20内の混合ガスの燃焼態様をSI燃焼とHCCI燃焼とに切り替えることが可能になっている。また、
図8の符号702で示す図のように、2ストロークエンジン1Bは、シリンダ20と、シリンダ20内を挿通するピストン21bと、ピストン21bに接続されたコンロッドおよびクランクシャフト(クランク軸)と、を備えている。具体的には、シリンダ20内にて、ピストン21bが往復運動することにより2ストロークエンジン1Bが動作する。シリンダ20内には燃焼室が形成されている。なお、
図8の符号702で示す図では、説明の簡略化のためピストン21bに接続されたコンロッドおよびクランクシャフトのそれぞれを図示していない。
【0108】
また、
図8の符号701で示す図のように、本実施形態の2ストロークエンジン1Bは、シリンダ20にインジェクタ(燃料噴射器)28および点火プラグ29が設けられている。インジェクタ28から燃焼室内に燃料が噴射され、SI燃焼では、当該燃料は点火プラグ29によって火花着火される。なお、HCCI燃焼では、点火プラグ29による火花着火は行われず、自発着火となる。本実施形態では、前記燃料はガソリンであり、2ストロークエンジン1Bはガソリンエンジンとなっている。前記燃料は、図示しない燃料タンクからインジェクタ28に供給される。燃焼室内にて燃料が燃焼することにより、ピストンが往復運動する。
【0109】
図8の符号702で示す図のように、2ストロークエンジン1Bには、吸気ポート86および排気弁81aがそれぞれ設けられている。吸気ポート86は、典型的には、シリンダ20に形成された開口部である。吸気ポート86はピストンの往復運動に対応して開閉する。また、排気カムシャフト89によって排気弁81aを開閉することにより、排気が行われる。吸気ポート86が、実施形態1の吸気側クランクシャフト32と同等の機能を有し、排気弁81aが実施形態1の排気側クランクシャフト31と同等の機能を有する。
【0110】
また、
図8の符号701で示す図のように、2ストロークエンジン1Bは、排気流出部82と給気部87とを備えている。排気流出部82は、排気弁81aの近傍かつシリンダ20の周囲に環状に設けられ、排気流出部82を介してシリンダ20内に連通する空間が形成されている。給気部87は、吸気ポート86の近傍かつシリンダ20の周囲に環状に設けられ、吸気ポート86を介してシリンダ20内に連通する空間が形成されている。シリンダ20には吸気ポート86として複数の開口部が形成されている。吸気ポート86としての開口部の数は特に限定されない。
【0111】
また、2ストロークエンジン1Bは、排気管(排気流路形成部)83を備えており、排気管83は、一端が排気流出部82に接続され、他端が触媒コンバータ(不図示)に接続されている。排気管83は、排気流路が内部に形成されており、前記排気流路の長さExLは、排気流出部82から触媒コンバータまでの排気管83の長さとみなすことができる。また、排気管83は、上記排気流路の途中において、排気再循環(EGR)のために機械式過給機61の吸入口に接続するよう分岐しており、その途中にEGRバルブ85とEGRクーラー88が設けられている。EGRバルブ85を開くことにより、排気管83内の上記排気流路を流れる排気ガスExh1の一部を冷却して吸気側のシステムに送給する。
【0112】
排気管83内の前記排気流路を流れて触媒コンバータに流入した排気ガスExhは、触媒コンバータ84内の例えば酸化触媒によって浄化される。触媒コンバータは、NOx吸蔵触媒、選択還元触媒、またはGPF(Gasoline Particulate Filter)等が格納されていてもよく、三元触媒が格納されていてもよい。
【0113】
また、機械式過給機61は、吸気ポート86を介してシリンダ20内に空気を圧送する。機械式過給機61の内部のローター(不図示)は、増速ベルト42cを介して、フライホイール42aに連結されたクラッチ付き2ステップベルトドライブ65と接続されている。これにより、所定の増速比にて増速されて、クラッチ付き2ステップベルトドライブ65と連動して所定の回転方向に回転する。
【0114】
2ストロークエンジン1Bは、制御装置92により、SI燃焼とHCCI燃焼とを切り替えるときに、機械式過給機61における前記空気を圧送するための過給圧を実施形態1において説明したように増減する。また、2ストロークエンジン1Bは、制御装置92により、インジェクタ28の燃料噴射量を実施形態1において説明したように増減する。また、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えた後(HCCI燃焼中)に、インジェクタ28の燃料噴射量を実施形態1において説明したように増減する。
【0115】
より具体的には、機械式過給機61は、動力伝達部(増速ベルト42c、クラッチ付き2ステップベルトドライブ65)を介してフライホイール42aに接続されている。機械式過給機61は、前記動力伝達部が有する増速比にて増速されることによってフライホイール42aと連動して回転する。
【0116】
制御装置92は、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、前記動力伝達部の前記増速比を切り替え前の該増速比よりも高くすることで機械式過給機61の前記過給圧を上昇させる。一方、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに、前記動力伝達部の前記増速比を切り替え前の該増速比よりも低くすることで機械式過給機61の前記過給圧を低下させる。過給圧を上昇させるとノッキングの発生を抑制することができる一方、過給圧を低下させるとHCCIの燃焼時期が早くなる。このため、前記構成によれば、SI燃焼のときにノッキングの発生を抑制し、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減することができる。
【0117】
本実施形態の発電装置は、2ストロークエンジン1Bと発電モータとで構成されるシリーズハイブリット方式のパワートレインとなるので、気筒別およびサイクル毎の発生トルクの相違を吸収することができる。また、前記構成によれば、SI燃焼とHCCI燃焼とを切り替えるときに、機械式過給機61の過給圧を増減することで、ノッキングの発生を抑制することができる。また、前記構成によれば、SI燃焼とHCCI燃焼とを切り替えるときに、インジェクタ28の燃料噴射量を増減することで、シリンダ20内の混合ガスを弱リーンから強リーンに切り替えることができる。また、前記構成によれば、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えた後に、インジェクタ28の燃料噴射量を増減することで、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減して適正な燃焼時期を保つことができる。
【0118】
また、本実施形態においては、制御装置92は、暖機運転中にSI燃焼している場合、2ストロークエンジン1Bの冷却水の水温が所定の温度値A以下の場合、シャッターバルブ83aを開いて排気管の長さExLを短くする(第1の長さとする)。これにより、触媒コンバータの触媒を早く温めることができる。
【0119】
また、制御装置92は、SI燃焼中に、2ストロークエンジン1Bの冷却水の水温が前記所定の温度値Aを超える場合にはHCCI燃焼に切り替える。続いてHCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、シャッターバルブ83aを閉じて排気管83の長さExLを長くする(第2の長さとする)。これにより、シリンダ20内の圧力を低下させ、シリンダ20内の混合ガスの温度を低下させることができるため、ノッキングの発生を抑制することができる。
【0120】
また、制御装置92は、SI燃焼からHCCI燃焼へ切り替えるときに、シャッターバルブ83aを開いて排気管83の長さExLを短くする(第1の長さとする)。これにより、シリンダ20内の圧力を上昇させ、シリンダ20内の混合ガスの温度を高くすることができるため、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減することができる。なお、本実施形態では、2ストロークエンジン1Bがユニフロー掃気式である場合について説明しているがこれに限定されない。例えば、2ストロークエンジン1Bとしてループ掃気式のエンジンを採用することもできる。
【0121】
また、本実施形態の2ストロークエンジン1Bでは、SI燃焼のときに、位相可変部材75を用いて排気弁81aの開閉タイミングの位相を吸気ポート86の開閉タイミングの位相よりも遅角させる。一方、2ストロークエンジン1Bでは、HCCI燃焼のときに位相可変部材75を用いて前記位相の遅角量を減少させる。これにより容積比が増加して、2ストロークエンジン1Bの熱効率を向上させることができ、SI燃焼時に遅角量を増加することでノッキングの発生を抑制することができる。
【0122】
〔付記事項1〕
本発明の一形態は、2ストロークエンジンと、ガソリンHCCI燃焼とを、シリーズ式のハイブリッド機構と組み合わせている。これにより、それぞれの短所を抑制し、互いに長所を高め、短所を補うことができる。2ストローク対向ピストンエンジンにも利用すると、使用頻度の高いHCCI運転時は位相差をつけないので、無振動を実現することができる。
【0123】
また、本発明の一形態では、SI運転に最適化した高容積比エンジンの基本仕様はそのままに、スーパーチャージャ(機械式過給機)の増速比を低下(プーリー比2段または連続切り替え、または電動スーパーチャージャ)を利用して過給圧を低下する。それと同時に、排気管の長さの短縮(排気管長切り替え)と排気クランクの位相をゼロに戻す(位相クランク機構)。燃料噴射量の低減によってHCCI運転に移行する。HCCI運転のA/F<30に設定すればNOx排出量がゼロに近い運転が可能になる。
【0124】
また、本発明の一形態では、直接燃焼時期を制御するための火花点火を持たないHCCI燃焼は、混合気(シリンダ内の混合ガス)の温度と圧力と、燃料濃度(A/F)と、混合気の酸素濃度(EGR)の設定によって間接的に燃焼時期制御を行う。また、本発明の一形態においても、過給圧を調整(バイパスバルブ62a)することで2ストロークの残留ガス量を制御して同様な効果を得ることができる。なお、HCCI燃焼中に火花点火を併用しても良い。運転条件によっては、火花点火の時期によってHCCI燃焼時期を限られた範囲で調整できる。
【0125】
これらのパラメータは気筒別およびサイクル毎の制御が容易でないため、HCCIの過渡運転の制御は難しいとされている。また、SI燃焼とHCCI燃焼との間の切り替え時の燃焼時期制御は更に難しい。しかしながら、本発明の一形態では、シリーズ式のハイブリッド機構と組み合わせることにより、目標トルクの誤差が許容されるため、燃料噴射量を増減することによってサイクル毎の燃焼時期制御が可能である。さらに、運転負荷変動がほとんど無くなることと、SI運転との切り替え頻度が大きく減少するため、燃焼時期制御の困難性は大幅に緩和される。
【0126】
〔付記事項2〕
本発明の一形態は、以下のように換言することができる。
【0127】
すなわち、本発明の一態様は、シリーズハイブリッドと、通常はHCCI燃焼を行い、暖機中および高負荷運転においてSI燃焼を行う、容積比15以上の2ストロークガソリンエンジンとを組み合わせた発電装置である。また、HCCI運転中に過給機のバイパスバルブ(または電動スーパーチャージャの回転数)で燃焼時期を制御するとともに、燃料噴射量を増減して気筒別およびサイクル毎の燃焼時期制御を行う発電装置であると換言することができる。
【0128】
また、本発明の一態様は、上述の構成において、SI運転時は(過給機の回転数を高くして)過給圧を高めて残留ガスを減少し、HCCI運転時は(過給機の回転数を低下させて)過給圧を低下して残留ガスを増加する構成となっていてもよい。
【0129】
また、本発明の一態様は、上述の構成において、SI運転時は排気管長を長くして排気ブローダウンの負圧波を同調してノックを抑制し、HCCI運転する場合と暖機中には可変排気管長機構を使って排気管長を短縮して圧縮温度を高める構成となっていてもよい。これにより、排気ブローダウンの負圧波の影響を抑制したり正圧波を同調したりするとより効果的に圧縮温度を高めることができる。また、触媒までの排気管長が減少するので触媒暖機を促進できる。
【0130】
また、本発明の一形態は、上述の構成において、エンジンがユニフロー式の2ストロークガソリンエンジンである場合、SI運転時は排気カムの回転の位相をHCCI燃焼のときよりも遅角することにより、排気弁(排気バルブ)の開タイミングの位相と閉タイミングの位相を、基準クランク角に対して遅角する。これによりミラーサイクルを実現してノックを抑制する。また、エンジンがユニフロー式の2ストロークガソリンエンジンである場合、HCCI運転する場合に位相可変機構を使って遅角量を減少して容積比を高める構成となっていてもよい。
【0131】
また、本発明の一形態は、上述の構成において、エンジンが対向ピストンエンジンの構造である場合において、排気側クランクシャフトの位相を進角または遅角する構成となっていてもよい。
【0132】
〔付記事項3〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0133】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御装置92は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0134】
後者の場合、制御装置92は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、前記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、前記コンピュータにおいて、前記プロセッサが前記プログラムを前記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。前記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。前記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、前記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、前記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して前記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、前記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0135】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る発電装置(10A)は、吸気ポート(86)が設けられたシリンダ(20)と、前記シリンダ内を往復運動し、前記吸気ポートを開閉するように動作するピストン(21b,排気側ピストン21,吸気側ピストン22)と、前記吸気ポートを介して前記シリンダ内に空気を圧送する過給機(機械式過給機61)と、前記ピストンの往復運動に対応して回転するクランク軸(排気側クランクシャフト31,吸気側クランクシャフト32)と、前記シリンダ内に燃料を噴射するインジェクタ(28)と、を有する2ストロークエンジン(1B,対向ピストンエンジン1A)と、前記クランク軸と連動して回転する発電機(対向ピストンエンジン1Aの場合は発電モータ11および発電モータ12であり、2ストロークエンジン1Bの場合は1つの発電機)と、前記シリンダ内での前記燃料の燃焼態様を、SI燃焼とHCCI燃焼とに切り替える制御装置(92)と、を備え、前記制御装置は、前記燃焼態様を前記SI燃焼から前記HCCI燃焼に切り替えるときに、前記過給機における前記空気を圧送するための過給圧を切り替え前の前記過給圧よりも低下させ、かつ、前記インジェクタの燃料噴射量を切り替え前の前記燃料噴射量よりも減少させ、前記燃焼態様を前記HCCI燃焼から前記SI燃焼に切り替えるときに、前記過給機の前記過給圧を切り替え前の前記過給圧よりも上昇させ、かつ、前記インジェクタの燃料噴射量を切り替え前の前記燃料噴射量よりも増加させ、前記燃焼態様が前記HCCI燃焼のときに、前記インジェクタの燃料噴射量を前記HCCI燃焼の時期(CA50)とシリンダ内の混合ガスの状態とに基づいて調整する構成である。
【0136】
前記構成によれば、2ストロークエンジンと発電モータとで構成されるシリーズハイブリット方式の発電装置となるので、気筒別およびサイクル毎の燃焼時期の相違を吸収することができる。また、前記構成によれば、HCCI燃焼からSI燃焼に切り替えるときに、過給機の過給圧を切り替え前の過給圧よりも上昇させることで、ノッキングの発生を抑制することができる。
【0137】
また、前記構成によれば、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときに燃料噴射量を切り替え前の燃料噴射量よりも減少させることで、シリンダ内の混合ガスを弱リーンから強リーンに切り替えることができる。また、前記構成によれば、HCCI燃焼のときに、インジェクタの燃料噴射量を前記HCCI燃焼の時期(CA50)とシリンダ内の混合ガスの状態とに基づいて調整することで、適切な時期に燃焼させることが可能になり、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減して適正な燃焼時期を保つことができる。
【0138】
本発明の態様2に係る発電装置は、前記態様1において、前記2ストロークエンジンは、対向ピストンエンジン(1A)であり、前記シリンダ(20)には、さらに排気ポート(81)が設けられ、前記ピストン(排気側ピストン21,吸気側ピストン22)は、前記シリンダ内を対向して往復運動する吸気側ピストン、および排気側ピストンで構成され、前記吸気側ピストンは、前記吸気ポートを開閉するように動作し、前記排気側ピストンは、前記排気ポートを開閉するように動作し、前記クランク軸(排気側クランクシャフト31,吸気側クランクシャフト32)は、前記吸気側ピストンの往復運動に対応して回転する吸気側クランク軸(吸気側クランクシャフト32)、および前記排気側ピストンの往復運動に対応して回転する排気側クランク軸(排気側クランクシャフト31)で構成され、前記発電機(発電モータ11,発電モータ12)は、前記吸気側クランク軸と連動して回転する吸気側発電機(発電モータ12)、および前記排気側クランク軸と連動して回転する排気側発電機(発電モータ11)で構成されていても良い。
【0139】
前記構成によれば、2ストロークエンジンは、対向ピストンエンジンとなる。このため、発電装置の振動を低減させることができる。また、加えて、前記構成によれば、SI燃焼のときにノッキングの発生を抑制し、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減して適正な燃焼時期を保つことができる。
【0140】
本発明の態様3に係る発電装置は、前記態様1において、前記2ストロークエンジン(1B)は、ユニフロー掃気式のエンジンであり、前記シリンダ(20)には、さらに排気弁(81a)が設けられていても良い。前記構成によれば、SI燃焼のときにノッキングの発生を抑制し、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減して適正な燃焼時期を保つことができる。
【0141】
本発明の態様4に係る発電装置は、前記態様1または2において、前記過給機(機械式過給機61)は、当該過給機の内部に設けられたローターの回転数に応じた過給圧にて空気を圧送することができ、前記2ストロークエンジン(対向ピストンエンジン1A)は、前記クランク軸(排気側クランクシャフト31,吸気側クランクシャフト32)に連結されたフライホイール(42a)をさらに有し、前記過給機(機械式過給機61)は、動力伝達部を介して前記フライホイールに接続されており、かつ、前記動力伝達部が有する増速比にて増速されることによって前記フライホイールと連動して前記ローターが回転し、前記制御装置(92)は、前記燃焼態様を前記HCCI燃焼から前記SI燃焼に切り替えるときに、前記動力伝達部の前記増速比を切り替え前の該増速比よりも高くすることで前記過給機の前記過給圧を上昇させ、前記燃焼態様を前記SI燃焼から前記HCCI燃焼に切り替えるときに、前記動力伝達部の前記増速比を切り替え前の該増速比よりも低くすることで前記過給機の前記過給圧を低下させても良い。なお、過給機は電動コンプレッサを用いてもよく、その場合は過給圧の目標値に対して電動コンプレッサの回転速度を変更して過給圧を切り替える。
【0142】
過給圧を上昇させると残留ガスが低下してSI運転のノッキングの発生を抑制することができる。一方、過給圧を低下させると残留ガスが増加してHCCI運転の燃焼時期が早くなる。このため、前記構成によれば、SI燃焼のときにノッキングの発生を抑制し、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減して適正な燃焼時期を保つことができる。
【0143】
本発明の態様5に係る発電装置は、前記態様1〜4の何れかにおいて、前記制御装置(92)は、前記燃焼態様を前記SI燃焼から前記HCCI燃焼に切り替えるときに、前記過給機(機械式過給機61)に設けられた第1のバルブ(バイパスバルブ62a)を開いて、前記過給機の出口から圧送される前記空気の一部を前記過給機の入り口に戻し、前記燃焼態様を前記HCCI燃焼から前記SI燃焼に切り替えるときに、前記第1のバルブを閉じて、前記過給機の出口からすべての前記空気を圧送しても良い。前記構成によれば、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替えるときおよびHCCI運転中に、シリンダ(20)内での燃焼時期の微調整が可能になる。
【0144】
本発明の態様6に係る発電装置は、前記態様1〜5の何れかにおいて、前記2ストロークエンジン(1B,対向ピストンエンジン1A)は、前記燃料の燃焼後に前記シリンダ(20)内に残留する残留ガスを排気するための排気管(83)をさらに有し、前記制御装置(92)は、前記燃焼態様が前記SI燃焼のときに、前記シリンダを冷却する冷却水の水温が所定の温度値以下であれば、前記排気管に設けられた第2のバルブ(シャッターバルブ83a)を開いて前記排気管の長さを第1の長さとし、前記冷却水の前記水温が前記所定の温度値を超えるのであれば、前記第2のバルブを閉じて前記排気管の長さを前記第1の長さよりも長い第2の長さとし、前記燃焼態様を前記SI燃焼から前記HCCI燃焼に切り替えた後に、前記第2のバルブを開いて前記排気管の長さを前記第1の長さとしても良い。
【0145】
前記構成によれば、SI燃焼のときに、シリンダの冷却水の水温が所定の温度値以下の場合、第2のバルブを開いて排気管の長さを第1の長さとする。第1の長さは、第2の長さよりも短い。これにより、触媒を早く温めることができる。また、SI燃焼中に、シリンダの冷却水の水温が前記温度値を超える場合、第2のバルブを閉じて前記排気管の長さを第2の長さとする。第2の長さは、第1の長さよりも長い。これにより、ノッキングの発生を抑制することができる。
【0146】
また、前記構成によれば、前記SI燃焼から前記HCCI燃焼に切り替え後に、第2のバルブを開いて前記排気管の長さを第1の長さとする。これにより、HCCI燃焼のときに燃焼時期の遅れを低減して適正な燃焼時期を保つことができる。
【0147】
本発明の態様7に係る発電装置は、前記態様2において、前記制御装置(92)は、前記燃焼態様が前記SI燃焼のときに、前記排気側クランク軸(排気側クランクシャフト31)の回転の位相を前記吸気側クランク軸(吸気側クランクシャフト32)の回転の位相よりも遅角させても良い。前記構成によれば、対向ピストンエンジンのSI燃焼時の熱効率を向上させることができる。
【0148】
本発明の態様8に係る発電装置は、前記態様3において、前記制御装置(92)は、前記燃焼態様が前記SI燃焼のときに、排気カムの回転の位相を前記HCCI燃焼のときよりも遅角させることにより、前記排気弁(81a)の開閉タイミングの位相を基準クランク角に対して遅角させても良い。前記構成によれば、ユニフロー掃気式の2ストロークエンジンのSI燃焼時の熱効率を向上させることができる。