【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業センター・オブ・イノベーションプログラム「精神的価値が成長する感性イノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】本発明に係る血管剛性推定方法は、容積脈波と血圧との関係で表され、容積脈波の二階微分を含む慣性項、容積脈波の一階微分を含む粘性項及び容積脈波の指数関数を含む剛性項を含む血管剛性モデルに基づいて、容積脈波の二階微分の係数である慣性パラメータ、容積脈波の一階微分の係数である粘性パラメータ、剛性項を線形近似して得られる容積脈波の係数である剛性パラメータ及び定数項を最小二乗法によって推定する、第1推定工程と、慣性パラメータ及び粘性パラメータを血管剛性モデルに代入して、最小二乗法を用いることにより、血管剛性を推定する、第2推定工程と、を含む。
容積脈波と血圧との関係で表され、前記容積脈波の二階微分を含む慣性項、前記容積脈波の一階微分を含む粘性項及び前記容積脈波の指数関数を含む剛性項を含む血管剛性モデルに基づいて、前記容積脈波の二階微分の係数である慣性パラメータ、前記容積脈波の一階微分の係数である粘性パラメータ、前記剛性項を線形近似して得られる前記容積脈波の係数である剛性パラメータ及び定数項を最小二乗法によって推定する、第1推定工程と、
前記慣性パラメータ及び前記粘性パラメータを前記血管剛性モデルに代入して、最小二乗法を用いることにより、血管剛性を推定する、第2推定工程と、を含む、
ことを特徴とする血管剛性推定方法。
容積脈波と血圧との関係で表され、前記容積脈波の二階微分を含む慣性項、前記容積脈波の一階微分を含む粘性項及び前記容積脈波の指数関数を含む剛性項を含む血管剛性モデルに基づいて、血管剛性を推定する演算部を備え、
前記演算部は、
前記血管剛性モデルのうち、前記容積脈波の二階微分の係数である慣性パラメータ、前記容積脈波の一階微分の係数である粘性パラメータ、前記剛性項を線形近似して得られる前記容積脈波の係数である剛性パラメータ及び定数項を最小二乗法によって推定し、
推定された前記慣性パラメータ及び前記粘性パラメータを前記血管剛性モデルに代入して、最小二乗法を用いることにより、前記血管剛性を推定する、
ことを特徴とする血管剛性推定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1では、血管剛性として、血圧と指尖容積脈波との関係に基づく対数線形化末梢血管粘弾性モデルを用いて推定される末梢の血管剛性を用いることとしている。また、非特許文献1の血管剛性推定方法では、指数関数となる指尖容積脈波を含む剛性項を消去して血管剛性を算出するため、心拍を基準とした差分計算を行っているので、心拍1拍ごとに血管剛性が推定される。
【0005】
しかしながら、身体の状態を精度よく把握するためには、血管剛性をより細かく、すなわち高いサンプリング周波数で推定することが求められる。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、心拍より高いサンプリング周波数で血管剛性を推定可能な血管剛性推定方法、血管剛性推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る血管剛性推定方法は、
容積脈波と血圧との関係で表され、前記容積脈波の二階微分を含む慣性項、前記容積脈波の一階微分を含む粘性項及び前記容積脈波の指数関数を含む剛性項を含む血管剛性モデルに基づいて、前記容積脈波の二階微分の係数である慣性パラメータ、前記容積脈波の一階微分の係数である粘性パラメータ、前記剛性項を線形近似して得られる前記容積脈波の係数である剛性パラメータ及び定数項を最小二乗法によって推定する、第1推定工程と、
前記慣性パラメータ及び前記粘性パラメータを前記血管剛性モデルに代入して、最小二乗法を用いることにより、血管剛性を推定する、第2推定工程と、を含む。
【0008】
また、前記血管剛性モデルは、以下に示す対数線形化末梢血管粘弾性モデル
【数1】
ただし、μは血管壁の慣性、ηは血管壁の粘性、βは血管壁の剛性、P
b(t)は時刻tにおける動脈血圧、P
l(t)は時刻tにおける容積脈波、P
bβ0は基準血圧、P
bβnl(P
l(t))は静脈影響
である、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記血管剛性は、心拍より高いサンプリング周波数で推定される、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記第2推定工程では、
平均血圧以上の範囲で最小二乗法を適用することにより、
前記血管剛性を推定する、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記第1推定工程及び前記第2推定工程の最小二乗法の窓幅は、
心拍間隔よりも長い、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記血圧と前記容積脈波との時間差を補正する時間差補正工程を含む、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記時間差補正工程では、
心拍ごとに、対応する個別時間差を算出し、前記第1推定工程の最小二乗法の窓幅に対する各心拍の影響度合いに基づいた重みを前記個別時間差に乗じて得られる調整後個別時間差に基づいて、前記時間差を算出する、
こととしてもよい。
【0014】
また、本発明の第2の観点に係る血管剛性推定装置は、
容積脈波と血圧との関係で表され、前記容積脈波の二階微分を含む慣性項、前記容積脈波の一階微分を含む粘性項及び前記容積脈波の指数関数を含む剛性項を含む血管剛性モデルに基づいて、血管剛性を推定する演算部を備え、
前記演算部は、
前記血管剛性モデルのうち、前記容積脈波の二階微分の係数である慣性パラメータ、前記容積脈波の一階微分の係数である粘性パラメータ、前記剛性項を線形近似して得られる前記容積脈波の係数である剛性パラメータ及び定数項を最小二乗法によって推定し、
推定された前記慣性パラメータ及び前記粘性パラメータを前記血管剛性モデルに代入して、最小二乗法を用いることにより、前記血管剛性を推定する。
【0015】
また、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
容積脈波と血圧との関係で表され、前記容積脈波の二階微分を含む慣性項、前記容積脈波の一階微分を含む粘性項及び前記容積脈波の指数関数を含む剛性項を含む血管剛性モデルに基づいて、
前記容積脈波の二階微分の係数である慣性パラメータ、前記容積脈波の一階微分の係数である粘性パラメータ、前記剛性項を線形近似して得られる前記容積脈波の係数である剛性パラメータ及び定数項を最小二乗法によって推定し、
前記慣性パラメータ及び前記粘性パラメータを前記血管剛性モデルに代入して、最小二乗法を用いることにより、血管剛性を推定する演算部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の血管剛性推定方法、血管剛性推定装置およびプログラムによれば、サンプリング時刻ごとに、最小二乗法を用いて慣性パラメータ及び粘性パラメータを推定し、推定された慣性パラメータ及び粘性パラメータを用いて血管剛性を推定する。したがって、心拍より高いサンプリング周波数で血管剛性を推定することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る血管剛性推定装置1について説明する。
図1のブロック図に示すように、血管剛性推定装置1は、センサ10、推定装置本体20を備える。
【0019】
センサ10は、取得する生体信号の種類に合わせて選択される検出器である。取得する生体信号は、血管剛性βを算出するために用いられる時系列信号であり、例えば、心臓の活動を示す心電、血圧、血管の容積変化を示す容積脈波等である。
【0020】
推定装置本体20は、例えばコンピュータ装置であり、制御部21、記憶部22、表示部23、入力部24を備える。
【0021】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、水晶発振器等から構成されており、血管剛性推定装置1の動作を制御する。また、制御部21は、センサ10で取得された生体信号と、予め記憶部22に記憶されている血管剛性βの算出モデル(以下、血管剛性モデルという。)とに基づいて、血管剛性βを算出する。制御部21は、制御部21のROM、記憶部22等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、
図1に示す制御部21の各機能を実現させる。これにより、制御部21は、生体信号取得部211、演算部212として動作する。
【0022】
生体信号取得部211は、センサ10を制御して、被験者の生体信号を取得する。また、取得した生体信号を記憶部22へ送信し、記憶させる。本実施の形態では、複数のセンサ10を用いて、同時に複数の生体信号、すなわち心電、血圧、容積脈波等が取得される。
【0023】
演算部212は、生体信号取得部211でセンサ10から取得した生体信号と血管剛性モデルとに基づいて、血管剛性βを算出する。また、演算部212は、算出された血管剛性βを推定結果として記憶部22に記憶させる。血管剛性βの推定方法の詳細については、後述する。
【0024】
記憶部22は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、血管剛性モデル、演算部212で算出された血管剛性βの推定結果等を記憶する。
【0025】
表示部23は、コンピュータ装置である推定装置本体20に備えられた表示用デバイスであり、例えば液晶パネルである。表示部23は、センサ10で取得された生体信号、演算部212で推定された血管剛性β等を表示する。
【0026】
入力部24は、生体信号取得の開始、終了指示、血管剛性βを推定するためのパラメータ等を入力するための入力デバイスである。入力部24は、推定装置本体20に備えられたキーボード、マウス等である。
【0027】
続いて、血管剛性推定装置1を用いた血管剛性推定方法について、
図2のフローチャートを参照しつつ、具体的に説明する。本実施の形態では、心電、動脈血圧及び指尖容積脈波を生体信号として取得して、生体信号と血管剛性算出モデルとに基づいて血管剛性βを推定する場合を例として説明する。
【0028】
まず、測定工程として、医師等の測定者は、心電、動脈血圧及び指尖容積脈波を測定するためのセンサ10を、被験者に装着する。そして、測定者は、入力部24を操作して、心電、動脈血圧及び指尖容積脈波の取得を開始する。生体信号取得部211は、生体信号の取得開始指示により、センサ10を制御して、被験者の心電、動脈血圧及び指尖容積脈波を取得する(ステップS11)。生体信号取得部211は、取得した生体信号のデータを記憶部22へ送信し、記憶部22に記憶させる(ステップS12)。
【0029】
続いて、第1推定工程として、演算部212は、生体信号取得部211で取得した生体信号のデータと、記憶部22に予め記憶されている血管剛性βの算出モデルに基づいて、パラメータ推定を行う(ステップ13)。
【0030】
ここで、第1推定工程に係るパラメータ推定について詳細に説明する。本実施の形態に係る血管剛性βの算出モデルは、以下の式(1)に示す対数線形化末梢血管粘弾性モデルである。
【数2】
ここで、μは血管壁の慣性、ηは血管壁の粘性、βは血管壁の剛性(血管剛性)を表す。また、P
b(t)は時刻tにおける動脈血圧、P
l(t)は時刻tにおける血管の容積変化(指尖容積脈波)、P
bβ0は基準血圧、P
bβnl(P
l(t))は静脈影響を表す。
【0031】
静脈影響項P
bβnl(P
l(t))は、被験者の動脈で計測される動脈血圧、指尖容積脈波に対する影響を考慮するためのパラメータであり、例えば、高血圧、うっ血性心不全などの心臓の影響、駆血、重力などの静脈の影響等が考慮される。静脈影響P
bβnl(P
l(t))は、被験者及び計測状況に応じて適宜調整される。
【0032】
式(1)の血管剛性モデルは、容積脈波と血圧との関係で表され、容積脈波の二階微分を含む慣性項、容積脈波の一階微分を含む粘性項及び容積脈波の指数関数を含む剛性項を含む。
【0033】
式(1)の指数項について、P
l(t)=0まわりでマクローリン展開を行い、線形近似すると、以下の式(2)となる。
【数3】
ただし、β
Aは以下の式のとおりである。
【数4】
【0034】
慣性μ、粘性η、exp{P
bβnl+P
bβnl(0)}、剛性パラメータβ
Aは、任意の窓幅wの血圧P
b(t)、容積脈波P
l(t)を用いて、式(2)に基づき線形最小二乗法を実行することによって推定することができる。
【0035】
本実施の形態に係る演算部212は、窓幅wとして、センサ10で測定された動脈血圧P
b(t)、容積脈波P
l(t)を用い、上記で推定した容積脈波の二階微分の係数である慣性パラメータのμ、容積脈波の一階微分の係数である粘性パラメータのη、剛性項を線形近似して得られる容積脈波の係数である剛性パラメータのβ
A、定数項であるexp{P
bβnl+P
bβnl(0)}を最小二乗法によって推定する。窓幅w及びサンプリング周波数は、特に限定されないが、上記複数のパラメータを最小二乗法で推定するのに適した値に設定することが好ましい。
【0036】
これにより、血管剛性推定装置1は、任意の窓幅wでパラメータ推定を行うことができ、心拍より高いサンプリング周波数でパラメータ推定を行うことが可能である。すなわち、以下の式に示す従来のパラメータ推定方法のように、心拍(R波)でタイミングを調整し、異なる時刻の差分から、指数項を消去してパラメータ推定を行う必要がないので、本発明の方法では、より高いサンプリング周波数でパラメータ推定を行うことができる。
【数5】
【0037】
図2のフローチャートに戻り、第2推定工程として、演算部212は、第1推定工程で推定された慣性μ、粘性ηを用いて、血管剛性βを推定する(ステップS14)。具体的な推定方法は以下の通りである。
【0038】
式(1)を指数項とそれ以外の項で整理し、両辺に自然対数をとると、以下の式(3)となる。
【数6】
【0039】
ここで、右辺の各項は、第1推定工程で推定された慣性μ、粘性ηと測定データから数値として求めることができる。演算部212は、式(3)に慣性μ、粘性ηを代入して、最小二乗法を適用することにより血管剛性βを推定する。
【0040】
また、最小二乗法は、静脈影響を受けない範囲で行う。具体的には、血圧P
b(t)が、平均血圧以上となる範囲で最小二乗法による推定を行う。これにより、式(3)の左辺第3項を0として、血管剛性β、基準血圧P
bβ0を推定することができる。そして、演算部212は、推定された血管剛性βと対応するサンプリング時刻とを記憶部22に記憶させる。
【0041】
演算部212は、血管剛性推定処理が、予め定められた終了条件に達するまで(ステップS15のNO)、サンプリングステップを進めて窓幅wをずらしながら(ステップS16)、ステップS13からS14の血管剛性βの推定処理を繰り返す。
【0042】
また、制御部21は、血管剛性推定処理が、予め定められた所定の終了条件に達した場合(ステップS15のYES)、血管剛性βの推定を終了する。そして、制御部21は、推定結果としての血管剛性βを表示部23に表示させるとともに、記憶部22に記憶させる(ステップS17)。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態に係る血管剛性推定方法では、第1推定工程において、心拍数に拘束されることなく、最小二乗法によって各項のパラメータを推定する。また、第2推定工程として、第1推定工程で推定された慣性μ、粘性ηを用いて血管剛性βを推定するので、心拍より高いサンプリング周波数で血管剛性を推定することが可能である。
【0044】
(実施の形態2)
実施の形態1では、式(1)の血管剛性モデルで用いられる血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との時刻の差は考慮せず、計測された時刻tにおける血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)とを用いて血管剛性βを推定することとした。一般的に、血圧P
b(t)の測定箇所と容積脈波P
l(t)の測定箇所とは同一の箇所ではなく、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)とは、被験者の体に別個の測定器具を取り付けて測定される。
【0045】
したがって、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との間には血流による変化に時間的な誤差が生じる。血管剛性βの推定間隔を小さくし、サンプリング周波数を高めると、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との間の時間的な誤差の影響が大きくなると考えられる。よって、精度よく血管剛性βを推定するためには、血圧P
b(t)の変化と容積脈波P
l(t)の変化との間の時間差を補正することが求められる。本実施の形態では、血管剛性βの推定を行う前に、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との間の時間差を補正する場合について説明する。
【0046】
本実施の形態に係る血管剛性推定装置1では、演算部212が、測定された血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)とに基づいて、血管剛性βを推定する前に、時間差補正工程として、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との時間差を補正する点で、実施の形態1と異なる。その他、血管剛性推定装置1に係るセンサ10、推定装置本体20の記憶部22、表示部23等の構成については、実施の形態1と同様であるので同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0047】
図3のフローチャートを参照しつつ、本実施の形態に係る血管剛性推定方法について具体的に説明する。ステップS31〜S32に係る測定工程は、実施の形態1に係るステップS11〜S12の計測工程と同様である。続いて、演算部212は、時間差補正工程として、記憶部22に記憶されている測定データに基づいて、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との時間差を補正する。時間差補正に用いる測定データは、例えば、
図4に示すように、心電、血圧P
b(t)、容積脈波P
l(t)とする。
【0048】
本実施の形態に係る窓幅w、すなわち第1推定工程、第2推定工程の最小二乗法で用いられる窓時間は、1.2秒としている。したがって、通常、窓幅wは、心拍間隔よりも長いので、窓幅w内には、心電データから得られる心拍、すなわちR波は、1つ又は2つ存在する。演算部212は、時間差補正工程として、血管剛性推定を行う対象の窓幅w内にR波がいくつあるかを示す心拍回数P
kを算出する(ステップS33)。
【0049】
続いて、演算部212は、窓幅wにおいて、窓の開始時刻から、窓幅w内の最初のR波ピークまでの時間である重みw
1を算出する(ステップS34)。
【0050】
心拍回数P
kが1である場合(ステップS35のYES)、演算部212は、最初のR波ピークから窓の終了時刻までの時間である重みw
2を算出するとともに、重みw
3=0と設定する(ステップS36)。
【0051】
心拍回数P
kが2である場合(ステップS35のNO)、演算部212は、最初のR波ピークから、2つ目のR波ピークまでの時間である重みw
2を算出する。さらに、演算部212は、2つ目のR波ピークから窓の終了時刻までの時間である重みw
3を算出する(ステップS37)。
【0052】
続いて、演算部212は、血圧P
b(t)の変曲点の時刻を算出する。変曲点は、血圧P
b(t)の1階微分の値が極大となる時刻である。また、演算部212は、変曲点の時刻として、窓の開始時刻以前で、窓の開始時刻から最も近い変曲点の時刻(φb
1)、窓の開始時刻以降で窓の開始時刻から最も近い変曲点の時刻(φb
2)、及びφb
2の次の変曲点の時刻(φb
3)の3つを算出する(ステップS38)。
【0053】
また、演算部212は、容積脈波P
l(t)の変曲点の時刻を算出する。変曲点は、容積脈波P
l(t)の1階微分の値が極大となる時刻である。また、演算部212は、変曲点の時刻として、窓の開始時刻以前で、窓の開始時刻から最も近い変曲点の時刻(φl
1)、窓の開始時刻以降で窓の開始時刻から最も近い変曲点の時刻(φl
2)、及びφl
2の次の変曲点の時刻(φl
3)の3つを算出する(ステップS39)。
【0054】
演算部212は、上記で算出した変曲点ごとの血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との時間差を算出する(ステップS40)。具体的には、φb
1とφl
1との差を第1の個別時間差φ1、φb
2とφl
2との差を第2の個別時間差φ2、φb
3とφl
3との差を第3の個別時間差φ3とする。
【0055】
演算部212は、算出した個別時間差φ1〜φ3、重みw
1〜w
3に基づいて、以下の式(4)から、補正値τを算出する。
【数7】
【0056】
すなわち、演算部212は、心拍ごとに、対応する個別時間差φ1〜φ3を算出する。そして、演算部212は、窓幅wに対する各心拍の影響度合いに基づいた重みw
1〜w
3を個別時間差に乗じて、式(4)の各項に対応する調整後個別時間差を算出する。演算部212は、調整後個別時間差に基づいて、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との時間差である補正値τを算出する。
【0057】
以下、血管剛性推定装置1は、実施の形態1と同様の第1推定工程(ステップS41)、第2推定工程(ステップS42)で、血管剛性βの推定を行う。この際、演算部212は、ステップS40で算出した補正値τを用いて、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との時間差を補正して用いる。具体的には、以下の式(5)に示すように、P
b(t)と容積脈波P
l(t−τ)とを用いて血管剛性βを推定する。
【数8】
【0058】
血管剛性推定装置1は、予め定められた所定の終了条件に達するまで(ステップS43のNO)、サンプリングステップを進めて窓幅wをずらす(ステップS44)。そして、各サンプリングステップで、時間差補正工程、第1推定工程及び第2推定工程を実施して、血管剛性βの推定処理を行う。予め定められた所定の終了条件に達すると(ステップS43のYES)、血管剛性推定装置1は、推定結果を表示部23に表示させるとともに、記憶部22に記憶させる(ステップS45)。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態に係る血管剛性推定装置1では、血圧P
b(t)と容積脈波P
l(t)との時間差を補正して血管剛性βを推定するので、血圧P
b(t)の測定箇所と容積脈波P
l(t)の測定箇所との距離にかかわらず、精度よく血管剛性βを推定することが可能である。
【0060】
本実施の形態では、第1推定工程に係る窓幅wと第2推定工程の窓幅wは同じであることとしたが、これに限られない。例えば、第1推定工程の窓幅wと第2推定工程の窓幅wとが異なる場合、いずれかの工程の窓幅wを適宜選択して、時間差を表す補正値τを算出すればよい。
【0061】
また、本実施の形態では、3つの個別時間差に基づいて補正値τを算出することとしたが、これに限られない。例えば、窓幅wをより大きく設定した場合、被験者の心拍数が大きい場合等、窓幅wに係る心拍数に応じて個別時間差の数を増加させることとしてもよい。
【0062】
(数値例)
以下、実施の形態2の血管剛性推定方法を用いて、血管剛性βを推定し、血管剛性βのパワースペクトル密度(PSD:Power Spectral Density)を算出した例について説明する。本例では、胸腔鏡下交感神経遮断術を受ける患者15名を被験者とし、サンプリング周波数を5Hzとして生体情報を取得して、右手の血管剛性βを推定した。解析区間は、
図5に示す期間のうち右交感神経幹遮断直前の30秒間(第1解析区間)と、右交感神経幹遮断60秒後からの30秒間(第2解析区間)である。また、PSD算出法として、Burg法を用いる。
【0063】
図6(A)は、右交感神経刺激中である第1解析区間のPSDを示している。より詳細には、
図6(A)に示すグラフは、全体のパワー値の合計で除することにより、正規化されたPSDに基づいて、被験者15名分の正規化PSDを示している。また、被験者15名分の正規化PSDの平均を太線で示している。従来の血管剛性推定方法では、心拍1拍ごとに、血管剛性βを推定していたので、血管剛性βの時間変化に含まれる周波数成分を詳細に分析することは難しかった。しかしながら、
図6(A)、(B)のPSDのグラフに示すように、本発明に係る血管剛性推定方法によれば、詳細な周波数成分分析を行うことができる。例えば、
図6(A)、(B)のグラフから、1〜1.5Hz付近にピークを確認することができ、血管剛性βが、心拍リズムを反映していると推測できる。
【0064】
また、0.2Hz付近のピークから、血管剛性βが、呼吸リズムを反映していると推測できる。さらに、0.1Hz付近のピークから、血管剛性βと収縮期血圧の低周波成分との相関関係を分析することができる。
【0065】
以上、説明したように、本発明に係る血管剛性推定方法及び血管剛性推定装置によれば、心拍のタイミングに拘束されず、心拍より高いサンプリング周波数で血管剛性βを推定することができるので、より詳細に身体状態の分析を行うことができる。
【0066】
また、本実施の形態に係る血管剛性推定方法は、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、上記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、USBメモリ、DVD−ROM等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、コンピュータ装置を上記の血管剛性推定方法を実行する推定装置として機能させることができる。
【0067】
また、本実施の形態では、センサ10で取得した生体信号である動脈血圧、指尖容積脈波から、推定装置本体20で血管剛性βを推定することとしたが、これに限られない。例えば、過去に取得され、記憶部22に記憶されている生体信号を、演算部212に読み込んで、血管剛性βの推定を行うこととしてもよい。また、遠隔地の被験者に装着されたセンサ10から、推定装置本体20へネットワークを介して生体信号を読み込んで、血管剛性βを推定することとしてもよい。