(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5647750
(24)【登録日】2014年11月14日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】希土類元素含有合金からの希土類回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20141211BHJP
C25B 1/00 20060101ALI20141211BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20141211BHJP
C22B 9/02 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
C22B59/00
C25B1/00 Z
C22B3/00 J
C22B9/02
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-505444(P2014-505444)
(86)(22)【出願日】2013年7月11日
(86)【国際出願番号】JP2013068963
(87)【国際公開番号】WO2014013929
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2014年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-160681(P2012-160681)
(32)【優先日】2012年7月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】日野 英治
(72)【発明者】
【氏名】新藤 裕一朗
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−285680(JP,A)
【文献】
特開2012−087329(JP,A)
【文献】
特開2011−122242(JP,A)
【文献】
特開平07−048688(JP,A)
【文献】
特開2009−287119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C25B 1/00
C25C 1/22, 3/34
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素含有合金の金属粉を含有する電解液中で電解して、希土類元素を溶出させることを特徴とする希土類元素の回収方法。
【請求項2】
電解液に電導塩を添加することを特徴とする請求項1記載の希土類元素の回収方法。
【請求項3】
電解液のpHを2〜8、電解液の液温を10〜90℃とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項4】
攪拌しながら電解を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項5】
希土類元素が溶出した溶液から、希土類元素を回収することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項6】
希土類元素が溶出した溶液から、溶媒抽出あるいは結晶化法により希土類元素を回収することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の希土類元素の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素含有合金からの希土類元素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石は飛躍的な進歩に端を発して様々な分野へ応用され、その性能の向上と新しい機器の開発が日々刻々となされている。特に、省エネや環境対策の観点から、IT、自動車、家電、FA分野などへの普及が急激に伸びている。
永久磁石の用途として、パソコンでは、ハードディスクドライブ用ボイスコイルモーターやDVD/CDの光ピックアップ用部品、携帯電話では、マイクロスピーカーやバイブレーションモーター、家電や産業機器関連では、サーボモーターやリニアモーターなどの各種モーターがある。また、HEVなどのハイブリッド電気自動車には、1台当たり100個以上の永久磁石が使用されている。
【0003】
永久磁石として、アルニコ(Alnico)磁石、フェライト(Feerrite)磁石、サマコバ(SmCo)磁石、ネオジム(NdFeB)磁石などが知られている。近年、特にネオジム磁石の研究開発が活発であり、高性能化に向けて様々な取り組みが行われている。
ネオジム磁石は、通常、強磁性のNd
2Fe
14B金属間化合物を主相とし、非磁性のBリッチ相、非磁性のNdリッチ相、さらに不純物としての酸化物などから構成されている。さらに、これに種々の元素を添加するなどして、磁気特性を改善させる取り組みが行われている。
【0004】
ネオジム磁石はその性能の高さから、その需要は今後も大幅に増大すると予想される。しかし、ネオジム磁石に含まれるNdやDy等の希土類金属は資源供給上の問題があり、希土類金属の需要が大きくなれば、それらの金属の価格が急騰することが予想される。そのため、このような希土類磁石からの希土類金属の回収方法・分離方法に関する技術開発が活発に行われている。
例えば、特許文献1には、希土類元素−鉄含有合金を加熱して空気酸化した後、強酸を用いた酸浸出法により、希土類元素塩を生成して濾液中に溶解し、これを濾別して分離して、希土類元素を回収することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、希土類元素・鉄系磁石材料を鉱酸溶液中に溶解し、次いで、フッ酸イオン含有溶液を添加して希土類フッ化物を沈殿生成し、沈殿物を分離して、希土類元素を回収することが記載されている。
また、特許文献3には、希土類−遷移金属合金スクラップを、鉱酸アンモニウム塩水溶液に浸漬し、これに酸素を含む気体を流通させて、スクラップを酸化させて酸化物及び水酸化物の粉末を含む沈殿物を得て、これを鉱酸アンモニウム塩水溶液から分離して、この分離した沈殿物から希土類元素を回収する方法が記載されている。
また、特許文献4には、溶融塩電解浴に希土類酸化物スクラップを投入し、電解浴中にこのスクラップを希土類酸化物と磁石合金部に溶融分離させ、電解浴に溶解した希土類酸化物を電解により希土類金属に還元し、磁石合金部を希土類金属と合金化させ、希土類金属−遷移金属−ボロン合金として再生することが記載されている。
また、特許文献5には、希土類元素含有合金を陽極として、直接電解法により陰極にCo、Ni、Feの合金を析出させるとともに、希土類元素を含有する電解液に蓚酸を添加することで蓚酸塩を沈殿分離し、これを大気中で焼成して、希土類元素を分離回収することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−14777号公報
【特許文献2】特開昭62−83433号公報
【特許文献3】特許第4287749号明細書
【特許文献4】特開2002−60855号公報
【特許文献5】特開昭59−67384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、希土類磁石から希土類元素が回収する場合、塩酸、硝酸、硫酸などの酸を用いて、希土類を浸出させることが行われている。しかし、このような酸浸出によると、鉄が溶出しやすく、希土類の浸出率を上げると、浸出液中の鉄濃度が上昇して脱鉄がうまく行われないといった問題がある。また、沈降性及び濾過性の悪い水酸化鉄ができやすいといった問題がある。さらに、希土類磁石の全てを溶解するためには、多量の酸を使用しなければならないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、希土類元素含有合金の金属粉を電解液に混合し、これを電解することにより、希土類元素を極めて簡便かつ効率良く回収することができることを見出した。
【0009】
このような知見に基づき、本発明は、
1)希土類元素含有合金の金属粉を含有する電解液中で電解して、希土類元素を溶出させることを特徴とする希土類元素の回収方法、
2)電解液に電導塩を添加することを特徴とする上記1)記載の希土類元素の回収方法、
3)電解液のpHを2〜8、電解液の液温を10〜90℃とすることを特徴とする上記1)又は2)に記載の希土類元素の回収方法、
4)攪拌しながら電解を行うことを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載の希土類元素の回収方法、
5)希土類元素が溶出した溶液から、希土類元素を回収することを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一に記載の希土類元素の回収方法、
6)希土類元素が溶出した溶液から、溶媒抽出あるいは結晶化法により希土類元素を回収することを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一に記載の希土類元素の回収方法、
【発明の効果】
【0010】
本発明は、使用済みの永久磁石又は製造時に発生する端材(スクラップ)等から得られる希土類元素含有合金の金属粉を含有する電解液中で、電解するだけなので、希土類元素を極めて簡便かつ効率良く回収することができるという優れた方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、永久磁石などに含まれる希土類元素含有合金の金属粉を電解液中に混合し、これを電解により、希土類元素を溶出することを特徴とする希土類元素含有合金からのからの希土類元素の回収方法、を提供する。
本発明の回収方法は、希土類永久磁石であれば、公知の希土類磁石に適用することができ、その成分組成に特に制限はない。公知の希土類磁石としては、例えば、Nd−Fe−B系希土類永久磁石があり、これは、Nd、Fe、Bを典型的な成分とし、必要に応じて、Dy、Pr、Tb、Ho、Smなどの希土類元素や、Co、Cu、Cr、Ni、Alなどの遷移金属元素を含むものである。
【0012】
本発明の希土類元素含有合金の金属粉は、例えば、希土類磁石の製造時等に発生する端材(スクラップ)から得ることができる。スクラップが、粉砕粉や研磨粉などの細かいものであれば、直接使用してもよいが、使用済みの永久磁石などの形状のある大きなものは細かく粉砕してから、使用するのが好ましい。また、金属粉の一部分が酸化物となっていた場合でも、本発明の回収方法を適用することができる。また、有機物を含有する場合には、温度200℃以上で大気等の雰囲気下で焙焼等によって除去することが好ましい。
【0013】
この金属粉を電導塩と純水で調合した電解液に混合して電解する。電導塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどを用いることができる。また、電極には、陰極として、ステンレス、Ti、グラファイト等を用い、陽極として、不溶性アノード等を用いることができる。
【0014】
このとき、電解液のpHは2〜8に調整することが好ましい。pHが低い(酸性)と、Feが多く溶け出し残渣のろ過性が悪くなり、pHが高い(アルカリ性)と希土類金属の溶出率が低下するからである。また、電解液の液温は、コストなどを考慮すると、10〜90℃に調整することが好ましい。電解温度が10℃未満では希土類金属の溶出率が低下し、90℃超では電解液の蒸発等で電解が困難となるからである。
但し、上記で示した電解条件は材料の種類、性質、量などによって異なるため、適宜選択して実施することができる。
【0015】
本発明は、金属粉を含む電解液を電解することで、希土類元素をイオンとして溶出させる一方で、鉄などの金属を電解液中に溶出して水酸化鉄として沈殿させるか、又は、その一部をカソードに電析させることで、電解液から除去することができる。
このような電気的化学的な反応を効率的に進めるために、金属粉がアノードとできるだけ接触するようにすることが大切である。したがって、例えば、電解液を攪拌することで接触回数を増やしたり、アノードの面積を大きくして接触面積を広げたり、することが有効である。
【0016】
得られた希土類元素をイオンとして溶出し、希土類元素が溶出した溶液を濾過、分離し、これを溶媒抽出あるいは結晶化法により希土類元素を回収することができる。
溶媒抽出法は、希土類イオンが溶出した濾液に、抽出剤を溶解させた有機溶液を添加することで、抽出剤と希土類イオンが錯体を形成して有機溶液中に抽出、分離するものである。抽出剤として、例えば、2−エチルヘキシル−2−エチルヘキシル−ホスホン酸[2-ethylhexyl-2-ethylhexyl-phosphonic acid]を用いることができる。
また、結晶化法は、硫酸系(例えば硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム)の電解液に対して、温度の違いによって硫酸希土類塩の溶解度が異なるので、電解液の液温を高温にすることで、硫酸希土類塩のみを結晶化させ、溶液から分離するものである。
【実施例】
【0017】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0018】
(実施例1)
Feを含有する希土類含有スクラップ(希土類元素:Nd、Dy、Pr含有)を、塩化ナトリウムを含有する純水1Lでスラリー化して電解液とし、電解を行った。このとき電解条件は、pH:2〜3、電解温度:20℃、電流:10A、電解時間20時間とした。この結果、Ndの溶出率は95%、Dyの溶出率は98%、Prの溶出率は94%であった。Feについては、水酸化鉄として沈殿した。
次に、電解終了後、溶液中の残渣をろ過除去して、この濾液を抽出剤:2−エチルヘキシル−2−エチルヘキシル−ホスホン酸[2-ethylhexyl-2-ethylhexyl-phosphonic acid] (大八化学工業社製、商品名「PC88A」)を用いて、溶媒抽出法により、希土類元素分離して、Nd、Dy、Prの希土類金属を回収した。この回収率は98%であった。
以上より、希土類含有スクラップからNd、Dy、Prの希土類金属を、効率的に回収することができ、また、良好なろ過性を得ることができた。そして、このNd、Dy、Prは再生永久磁石の原料として使用可能であった。
なお、溶出率(%)とは、スクラップ中の金属含有重量:A、電解後の残渣中の金属含有重量:Bとし、該金属が溶液中に溶け出した割合を示すものであり、溶出率(%)=(A−B)/ A×100で計算される(以下、実施例、比較例も同様とする)。
【0019】
(実施例2)
Feを含有する希土類含有スクラップ(希土類元素:Nd、Dy、Pr含有)を、硫酸ナトリウムを含有する純水1Lでスラリー化して電解液とし、電解を行った。このとき電解条件は、pH:4、電解温度:20℃、電流:5A、電解時間20時間とした。この結果、Ndの溶出率は98%、Dyの溶出率は99%、Prの溶出率は95%であった。Feについては、カソードに電着していた。
次に、電解終了後、溶液中の残渣をろ過除去して、希土類含有のろ過後液を得た。このろ過後液を用い、再度希土類含有スクラップを添加スラリー化し、上記と同条件で再度電解し、液中のNd濃度をおよそ100g/l(溶解度)まで上昇させた。
その後、溶液中の残渣をろ過除去し、この濾液60℃まで加温して、Ndの希土類硫酸塩が結晶化させ、この塩を回収した。このとき回収率は69%であった。なお、結晶化後の液にはまだ希土類を含んでいるが、電解槽にこの液を再利用できるので、希土類イオンの損失は基本的にゼロと考えることができる。
また、このような電解を繰り返していくと、Dyの濃度が上昇し、およそ100g/l(溶解度)まで上昇すると、その後の60℃の加温処理によりDyの硫酸塩が結晶化する。これによりDyはNdと同時に回収できる。このときDyの回収率は70%であった。
さらに、このようなろ過電解を繰り返していくと、Prの濃度が上昇し、およそ130g/lまで上昇すると、その後の60℃加熱処理によりPrの硫酸塩が結晶化する。これによりPrもDyやNdとともに回収できる。このときPrの回収率は68%であった。
以上より、希土類含有スクラップからNd、Dy、Prの希土類金属を、効率的に回収することができ、また、良好なろ過性を得ることができた。そして、このNd、Dy、Prは再生永久磁石の原料として使用可能であった。
【0020】
(比較例1)
Feを含有する希土類含有スクラップ(希土類元素:Nd、Dy、Pr含有)を、多量の塩酸を用いて酸浸出を行った。その結果、Nd,Dy,Prの溶出率は70〜80%であったが、Feも80%溶出していた。さらに、酸浸出では、残渣のろ過性が非常に悪く、溶け出したFeの処理も問題となった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、使用済みの永久磁石又は製造時に発生する端材等のスクラップから得られる希土類元素含有合金の金属粉を使用し、この金属粉を含む電解液を電解するだけなので、希土類元素を極めて簡便かつ効率良く回収することができる点で、大きな産業上の利点がある。