特許第5649072号(P5649072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649072
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子及びその製法
(51)【国際特許分類】
   C01G 3/12 20060101AFI20141211BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20141211BHJP
   C01B 19/00 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   C01G3/12
   C01G19/00 A
   C01G19/00 Z
   C01B19/00 G
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-501629(P2011-501629)
(86)(22)【出願日】2010年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2010052917
(87)【国際公開番号】WO2010098369
(87)【国際公開日】20100902
【審査請求日】2013年2月22日
(31)【優先権主張番号】特願2009-46785(P2009-46785)
(32)【優先日】2009年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】803000115
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 健一
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 嵩哲
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 進
(72)【発明者】
【氏名】工藤 昭彦
【審査官】 壺内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/026746(WO,A1)
【文献】 特表2004−510678(JP,A)
【文献】 特開2002−020740(JP,A)
【文献】 特開2008−057041(JP,A)
【文献】 特開2005−325016(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/075886(WO,A2)
【文献】 国際公開第2009/006910(WO,A2)
【文献】 T. TODOROV et al.,Cu2ZnSnS4 films deposited by a soft-chemistry method,Thin Solid Films,2009年 2月 2日,Vol.517, No.7,p.2541-2544
【文献】 Electrical, Magnetic, and EPR Studies of the Quaternary Chalcogenides Cu2AIIBIVX4 Prepared by Iodine Transport,L. GUEN et al.,Journal of Solid State Chemistry,1980年11月 1日,Vol.35, No.1,p.10-21
【文献】 I. D. OLEKSEYUK et al.,Single crystal preparation and crystal structure of the Cu2Zn/Cd,Hg/SnSe4 compounds,Journal of Alloys and Compounds,2002年 6月26日,Vol.340, No.1-2,p.141-145
【文献】 E. MELLIKOV et al.,Monograin materials for solar cells,Solar Energy Materials and Solar Cells,2009年 1月,Vol.93, No.1,p.65-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
C01G1/00−23/08
H01L31/04−31/06
H02S10/00−10/40,30/00−99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu又はAgの単体又はその化合物、Znの単体又はその化合物、Snの単体又はその化合物及びS又はSeの単体又はその化合物を、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含窒素化合物に入れた混合液を用意し、該混合液を240〜300℃で加熱することにより半導体ナノ粒子を得る、半導体ナノ粒子の製法。
【請求項2】
前記加熱後の混合液を冷却したあと生成物を分離し、該分離した生成物を有機溶媒に入れて半導体ナノ粒子溶液とする、
請求項1に記載の半導体ナノ粒子の製法。
【請求項3】
前記加熱後の混合液を冷却したあと生成物を分離し、該分離した上澄み液にナノ粒子が不溶又は難溶な溶媒を添加して沈殿を発生させ、該沈殿を集めて有機溶媒に入れて半導体ナノ粒子溶液とする、
請求項1に記載の半導体ナノ粒子の製法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子の製法により製造された半導体ナノ粒子。
【請求項5】
周期表第11族元素としてCu又はAg、周期表第12族元素としてZn、周期表第14族元素としてSn及び周期表第16族元素としてS又はSeで構成され
スタンナイト型、ケステライト型、ウルツ−スタンナイト型、閃亜鉛鉱型若しくはウルツ鉱型の結晶構造を持つか、又は、スタンナイト型、ケステライト型、ウルツ−スタンナイト型、閃亜鉛鉱型若しくはウルツ鉱型の結晶構造のうち前記周期表第11族元素及び前記周期表第14族元素の一部が前記周期表第12族元素に置換されたる結晶構造を持つ
半導体ナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
高効率太陽電池の作成を目指して、様々な材料探索がなされている。近年、化合物半導体であるCuInSe2(CIS)などのカルコパイライト系半導体を用いて、高効率太陽電池が作成できることが報告され、シリコン太陽電池に変わる次世代太陽電池として注目されている。例えば、特許文献1では、高品位なカルコパイライトナノ粒子の製造方法が提案されている。カルコパイライトナノ粒子を利用すれば、光電変換素子等の作製が容易になると考えられるものの、希少元素であるInを含むために、将来の安定的な供給に不安があり、代替材料の探索が続けられている。
【0003】
ごく最近、注目されている材料として、Cu2ZnSnS4(CZTS)半導体がある。これは、CIS半導体のInをZnとSnとで置換した構造をとり、高効率太陽電池材料として注目されている。例えば、非特許文献1では、CZTS半導体を利用した太陽電池を次のように作製している。すなわち、まず、ソーダライムガラス基板にモリブデンをスパッタコートし、その上にCZTS薄膜を硫化法で作製した後、CdSからなるバッファー層を溶液成長法で、ZnO:Alからなる窓層をrfスパッタ法で、Alからなる櫛形集電極を真空蒸着法で積層している。硫化法によるCZTS薄膜の作製は、三元同時スパッタ装置を用いてCu−Zn−Sn−S系のプリカーサを作製した後、アニール室に搬送し、硫化水素雰囲気中で熱処理する二段階作製法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−192542
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】監修:和田隆博、化合物薄膜太陽電池の最新技術、p192−197、2007年6月30日第1刷発行、株式会社シーエムシー出版
【発明の開示】
【0006】
上述したように、CZTS薄膜を作製するためには、これまでスパッタ法など限られた物理的手法しか知られていなかった。このため、より簡便な方法でCZTS薄膜を作製することが望まれていた。また、CZTSは、正方晶系のスタンナイト型結晶構造をとるが、これと類似の結晶構造をとる材料についても、やはり簡便な方法で薄膜を作製することが望まれていた。そこで、CZTS及びこれと類似の結晶構造をとる材料の薄膜化の一手法として、これらの材料のナノ粒子の溶液を基板上に滴下して乾燥させることが考えられるが、それには、これらの材料のナノ粒子が必要になる。しかしながら、本発明者らの知る限り、これまでのところこうしたナノ粒子の報告例はない。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、CZTS及びこれと類似の結晶構造をとる材料のナノ粒子を提供することを主目的とする。
【0008】
上述した主目的を達成すべく、本発明者らは鋭意研究を行ったところ、オレイルアミンにCu2+,Zn2+,Sn4+を含む塩と硫黄を加えて200〜300℃で加熱することにより、粒径がnmオーダーのCZTSナノ粒子が得られること、また、このナノ粒子の溶液を電極に塗布したあと乾燥して作製したCZTS薄膜電極に光照射したところp型半導体としての特性が発現することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の半導体ナノ粒子の製法は、周期表第11族元素の単体又はその化合物、周期表第12族元素の単体又はその化合物、周期表第14族元素の単体又はその化合物及び周期表第16族元素の単体又はその化合物を脂溶性溶媒に入れた混合液を用意し、該混合液を加熱することにより半導体ナノ粒子を得るものである。
【0010】
本発明の半導体ナノ粒子は、周期表第11族元素、周期表第12族元素、周期表第14族元素及び周期表第16族元素で構成される結晶構造を持つものである。
【0011】
本発明の半導体ナノ粒子の製法によれば、CZTSに代表される半導体ナノ粒子を簡単に製造することができる。この半導体ナノ粒子を適当な溶媒に入れて半導体ナノ粒子の溶液としたあと、その溶液を電極基板に塗布して乾燥するだけで、半導体薄膜を簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】半導体ナノ粒子溶液の模式図である。
図2】実験例1〜4のTEM像並びにこのTEM像に基づいて算出した平均粒径Dav及び標準偏差σを示す説明図である。
図3】実験例3,5,6のTEM像並びにこのTEM像に基づいて算出した平均粒径Dav及び標準偏差σを示す説明図である。
図4】実験例1〜4,ZnS,CZTS及びCuSのXRDパターンを示す説明図である。
図5】スタンナイト型の結晶構造を示す説明図である。
図6】実験例3のナノ粒子のラマンスペクトルの説明図である。
図7】実験例1〜4の吸収スペクトルのグラフである。
図8】光電流の電流−電位曲線のグラフである。
図9】実験例7〜12の吸収スペクトルのグラフである。
図10】実験例13のCZTSSeナノ粒子のTEM像の写真である。
図11】実験例13のCZTSSeナノ粒子の粒径分布を示すグラフである。
図12】実験例13のCZTSSeナノ粒子のXRDパターンのグラフである。
図13】実験例13のCZTSSeナノ粒子の吸収スペクトルのグラフである。
図14】実験例14のAZTSナノ粒子のXRDパターンのグラフである。
図15】実験例14のAZTSナノ粒子のTEM像の写真である。
図16】実験例14のAZTSナノ粒子の吸収スペクトルのグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の半導体ナノ粒子の製法は、周期表第11族元素の単体又はその化合物、周期表第12族元素の単体又はその化合物、周期表第14族元素の単体又はその化合物及び周期表第16族元素の単体又はその化合物を脂溶性溶媒に入れた混合液を用意し、該混合液を加熱することにより半導体ナノ粒子を得るものである。
【0014】
ここで、周期表第11族元素としては、例えばCu,Ag,Auが挙げられ、このうちCu,Agが好ましく、Cuが特に好ましい。周期表第12族元素としては、例えばZn又はCdが挙げられ、このうちZnが好ましい。周期表第14族元素としては、例えばSi,Ge,Sn又はPbが挙げられ、このうちSnが好ましい。周期表第16族元素としては、例えばO,S,Se又はTeが挙げられ、これらは混在していてもよい。この周期表第16族元素としてはS又はSeが好ましく、SとSeとが混在しているものも好ましい。なお、周期表第11族元素の化合物、第12族元素の化合物及び第14族元素の化合物の少なくとも1つが周期表第16族元素を含んでいる場合には、別途、周期表第16族元素の単体又はその化合物を混合液に入れる必要はない。例えば、周期表第11族元素の化合物が第16族元素も含んでいる場合、その化合物は第11族元素の化合物であると同時に第16族元素の化合物でもあることになる。具体例を挙げると、亜鉛のジエチルジチオカルバミド酸塩Zn(S2CN(C2522 は、Zn化合物であると同時にS化合物でもある。
【0015】
脂溶性溶媒としては、例えば炭素数4〜20の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含酸素化合物などが挙げられる。炭素数4〜20の炭化水素基としては、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、ナフチルメチル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としてはアミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としてはチオール類などが挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。このような脂溶性溶媒のうち、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含窒素化合物が好ましく、例えばn−ブチルアミン、イソブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキルアミンや、オレイルアミンなどのアルケニルアミンが好ましい。こうした脂溶性溶媒は、粒子表面に結合可能であり、その結合の様式は、例えば共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合、ファンデルワールス結合等の化学結合が挙げられる。
【0016】
混合液の加熱温度は、使用する単体や化合物の種類によって適宜設定すればよいが、例えば、130〜300℃の範囲で設定することが好ましく、240〜300℃の範囲で設定することがより好ましい。加熱温度が低すぎると結晶構造が単一化しにくいため好ましくない。また、加熱時間も、使用する単体や化合物の種類、加熱温度によって適宜設定すればよいが、通常は数秒〜数時間の範囲で設定するのが好ましく、1〜60分の範囲で設定するのがより好ましい。
【0017】
本発明の半導体ナノ粒子の製法において、加熱後の混合液を冷却したあと上澄み液と沈殿に分離し、該分離した沈殿を有機溶媒(例えばクロロホルム、トルエン、ヘキサン、n−ブタノールなど)に入れて半導体ナノ粒子溶液としてもよい。あるいは、加熱後の混合液を冷却したあと上澄み液と沈殿に分離し、該分離した上澄み液にナノ粒子が不溶又は難溶な溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリルなど)を添加して沈殿を発生させ、該沈殿を集めて前出の有機溶媒に入れて半導体ナノ粒子溶液としてもよい。
【0018】
本発明の半導体ナノ粒子は、周期表第11族元素、周期表第12族元素、周期表第14族元素及び周期表第16族元素で構成される結晶構造を持つものである。こうした半導体ナノ粒子は、例えば、上述した半導体ナノ粒子の製法により製造することができる。また、半導体ナノ粒子の粒径サイズは、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下が更に好ましい。ここで、周期表第11族元素、周期表第12族元素、周期表第14族元素及び周期表第16族元素としては、上述した半導体ナノ粒子の製法において説明したものと同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0019】
本発明の半導体ナノ粒子は、スタンナイト(stannite)型もしくはそれと類似の結晶構造を持つか、又は、スタンナイト型もしくはそれと類似の結晶構造のうち前記周期表第11族元素及び前記周期表第14族元素の一部が前記周期表第12族元素に置換された構造を持つことが好ましい。スタンナイト型結晶構造を持つものとしては、Cu2ZnSnS4,Cu2ZnSnSe4,Cu2ZnGeSe4,Cu2CdSnS4,Cu2CdSnSe4,Cu2CdGeSe4などが挙げられる。スタンナイト型結晶構造と類似の結晶構造としては、ケステライト(kesterite)、ウルツ−スタンナイト(wurtz−stannite)型や閃亜鉛鉱(zincblende)型、ウルツ鉱(wurtz)型などが挙げられる。ウルツ−スタンナイト型構造を持つものとしては、Cu2ZnGeS4,Cu2CdGeS4,Ag2CdGeS4など挙げられ、閃亜鉛鉱型構造を持つものとしては、Ag2ZnGeSe4などが挙げられ、ウルツ鉱型構造を持つものとしては、Ag2CdSnS4,Ag2CdSnSe4などが挙げられる。また、スタンナイト型結晶構造のうち周期表第11族元素及び第14族元素の一部が周期表第12族元素に置換された構造としては、例えば、Cu2ZnSnS4のうちCuとSnの一部(Cuの一部か、Snの一部か、Cuの一部とSnの一部)がZnに置換された構造などをいう。
【実施例】
【0020】
[実験例1〜6]
1.半導体ナノ粒子の作製
金属イオンの全量が2.0×10-4molおよび各イオンのモル比がCu:Zn:Sn=2:1:1となるように、酢酸銅(II)、酢酸亜鉛(II)、酢酸スズ(IV)をはかり取り、これにオレイルアミン2.0cm3を加えた混合液を作製した。これとは別に、2.0×10-4molの硫黄粉末にオレイルアミン1.0cm3を加えた混合液を用意した。それぞれの混合溶液を、別々に60℃で暖めて均一に溶解させた。室温で2つの溶液を混合し、試験管内部を減圧後、窒素充填した。実験例1では反応温度120℃、実験例2では反応温度180℃、実験例3では反応温度240℃、実験例4では反応温度300℃とし、それぞれ30分加熱後、室温になるまで放置した。一方、実験例5、6では、反応温度240℃で60分、120分加熱後、室温になるまで放置した。各実験例で得られた生成物を遠心分離し、上澄み液と沈殿とを分離した。分離した上澄み液をろ過し、そのろ液にメタノールを加えて沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にクロロホルムを加えて沈殿を溶解させ、半導体ナノ粒子溶液とした。このときの半導体ナノ粒子溶液の模式図を図1に示す。また、実験例1〜6の製造条件を表1にまとめて示す。
【0021】
【表1】
【0022】
2.半導体ナノ粒子の特性
(1)TEM観察
実験例1〜4で得られた半導体ナノ粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立ハイテクノロジーズ、形式H−7650)を用いて観察を行った。TEMグリッドとして、市販のエラスティックカーボン支持膜付き銅グリッド(応研商事)を用いた。得られたTEM像並びにこのTEM像に基づいて算出した平均粒径Dav及び標準偏差σを図2に示す。図2の反応温度別のTEM像を比較すると、反応温度が120℃、180℃の方が、240℃、300℃に比べて、生成する粒子のサイズが大きくなる傾向が見られた。これは、反応温度が低温では結晶成長が進み、高温では結晶成長よりも核形成が優先されたためと思われる。
【0023】
反応温度240℃で、反応時間を30分(実験例3)、60分(実験例5)、120分(実験例6)と延ばしたときに得られたCZTSナノ粒子のTEM像並びにこのTEM像に基づいて算出した平均粒径Dav及び標準偏差σを図3に示す。図3のTEM像から、反応時間を30分から60分に延ばしたとき、粒径が1nm以上増加したが、反応時間を60分から120分に延ばしても、粒径にそれほど差が見られなかったことから、反応温度240℃のとき、反応時間を60分以上に長くしても粒子は成長しないと考えられる。
【0024】
(2)XRDパターン
実験例1〜4で得られた半導体ナノ粒子について、XRDパターンを測定し、ZnS,Cu2ZnSnS4(CZTS)及びCuSのXRDパターンと比較した。その様子を図4に示す。図4のXRDパターンから明らかなように、反応温度が120℃のときの主生成物はCuSであり、反応温度を上げると、180℃ではCuSとCZTSの混合物となり、240℃以上ではCZTSのプロファイルと一致した。この結果から、CZTSナノ粒子を高収率で得るには、反応温度を240〜300℃の範囲で設定するのが好ましいといえる。CZTSは、図5に示すスタンナイト型の結晶構造をとる。ところで、CZTSとZnSのXRDパターンはほとんど同じであるが、実験例3のナノ粒子のラマンスペクトルを測定したところ、図6に示すように、CZTSに帰属されるシグナルは現れたものの、ZnSに帰属されるものは全く現れなかった。このことから、このナノ粒子のXRDパターンはCZTSであることを確認した。また、蛍光X線分析((株)リガク社製、エネルギー分散型蛍光X線分析装置 EDXL300)により、実施例3で得られたCZTSナノ粒子の組成を分析したところ、このナノ粒子は金属イオンとして、Cu,Zn,Snを含み、そのモル比はCu:Zn:Sn=0.38:0.48:0.19と求まった。CZTSの理論組成は、Cu:Zn:Sn=0.50:0.25:0.25であることから考えると、ナノ粒子の結晶構造は図5に示すスタンナイト型の結晶構造の原子配置とは若干のずれがあり、Cuの一部及び/又はSnの一部がZnに置換されていることが示唆された。
【0025】
(3)吸収スペクトル
実験例1〜4で得られた半導体ナノ粒子について、吸収スペクトルを測定した。その結果を図7に示す。図7の吸収スペクトルより、反応温度を高温にするほど長波長側(800nm以上)のCuS由来の吸収が減少し、240℃以上ではそのCuS由来の吸収がほぼ消失しており、XRDパターンの結果と一致した。
【0026】
(4)CZTSナノ粒子の電気化学特性
FTO基板をアセトンとエタノールの混合溶液で超音波洗浄後、UV−オゾン処理を施した。洗浄したFTO基板上に実験例5の半導体ナノ粒子溶液を適量滴下して、減圧乾燥させることにより、FTO基板上に半導体薄膜を形成した。このFTO基板を作用極として、三極セルを用いて光電気化学特性評価を行った。以下に測定条件を示す。また、測定結果を図8に示す。
電解質溶液:0.2 mol・dm-3硝酸ユウロピウム水溶液
光源:キセノンランプ光/熱線カットフィルター(IRA−25S)
対極:白金線、
参照電極:Ag/AgCl(飽和KCl)
【0027】
CZTSナノ粒子を固定した電極の光電流−電位曲線を図8に示す。0Vvs.Ag/AgClの電位よりも電極電位が負電位側に行くに従って、カソード光電流が増大した。このことから、得られたCZTSナノ粒子はp型半導体類似の特性を示し、粒子中に光生成した正孔が電極へ移動し、粒子中の光励起電子が溶液中の化学種を還元したことがわかる。
【0028】
[実験例7]
実験例7では、実験例5において、Sn源として酢酸スズ(IV)の代わりに酢酸スズ(II)を用いたところ、実験例5と同様の半導体ナノ粒子が得られた。具体的には、半導体ナノ粒子の粒径が6.7±1.3nm、XRDによる結晶構造がCZTS、吸収スペクトルの形状が図9(a)に示すように800nm以上の長波長側にピークを有さない形状であった。なお、実験例7で、溶媒としてオレイルアミン3mlの代わりにオクタデセン3mlとヘキサデシルアミン1gを用いたところ、実験例7と同様の半導体ナノ粒子が得られた。具体的には、半導体ナノ粒子の粒径が7.3±1.8nm、吸収スペクトルの形状が図9(b)に示すように800nm以上の長波長側にピークを有さない形状であった。
【0029】
[実験例8]
実験例8では、実験例2において、Cu源としてCu(S2CNEt22、Zn源としてZn(S2CNEt22、Sn源としてSn(S2CNEt24の前駆体粉末を、各元素のモル比がCu:Zn:Sn=2:1:1となるようにはかり取り、さらなるS源を添加せずに反応させたところ、実験例3と同様の半導体ナノ粒子が得られた。具体的には、半導体ナノ粒子の粒径が12.3±3.5nm、XRDによる結晶構造がCZTS、吸収スペクトルの形状が図9(c)に示すように800nm以上の長波長側にピークを有さない形状であった。
【0030】
[実験例9]
実験例9では、実験例3において、Cu源として塩化銅(II)、Zn源として塩化亜鉛、Sn源として塩化スズ(IV)・5水和物、S源として硫黄粉末を用い、各元素のモル比がCu:Zn:Sn:S=2:1:1:4となるようにはかり取り反応させたところ、実験例3と同様の半導体ナノ粒子が得られた。具体的には、半導体ナノ粒子の粒径が6.9±1.8nm、吸収スペクトルの形状が図9(d)に示すように800nm以上の長波長側にピークを有さない形状であった。
【0031】
[実験例10]
実験例10では、実験例3においてS源を硫黄粉末からチオアセトアミドに代えたところ、実験例3と同様の半導体ナノ粒子が得られた。具体的には、半導体ナノ粒子の粒径が6.0±1.2nm、吸収スペクトルの形状が図9(e)に示すように800nm以上の長波長側にピークを有さない形状であった。
【0032】
[実験例11]
実験例11では、実験例3においてS源を硫黄粉末からチオ尿素に代えたところ、実験例3と同様の半導体ナノ粒子が得られた。具体的には、半導体ナノ粒子の粒径が5.7±1.1nm、吸収スペクトルの形状が図9(f)に示すように800nm以上の長波長側にピークを有さない形状であった。
【0033】
[実験例12]
実験例12では、実験例5において、金属銅粉末、金属亜鉛粉末、金属スズ粉末、硫黄粉末を用い、各元素のモル比がCu:Zn:Sn:S=2:1:1:4となるようにはかり取り、反応させたところ、実験例5と同様の半導体ナノ粒子が得られた。具体的には、半導体ナノ粒子の粒径が13.6±3.4nm、吸収スペクトルの形状が図9(g)に示すように800nm以上の長波長側にピークを有さない形状であった。また、得られた粒子のXRDパターンは、2θで29°、47°および56°に回折ピークが観察され、スタンナイト型CZTSの結晶構造から期待される回折ピークと良く一致したことから、得られた粒子はスタンナイト型CZTSであることが示された。
【0034】
[その他]
なお、実験例3においてCu源を酢酸銅(II)から酢酸銅(I)に代えたり、溶媒にドデカンチオールを添加して反応時間を60分にしたりしても、実験例3と同様の半導体ナノ粒子が得られた。また、各実験例につき、加熱した混合液を室温になるまで放置したあと生成した沈殿についても、クロロホルムを加えて半導体ナノ粒子溶液を得ることができた。
【0035】
[実験例13]
1.CZTSSe(Cu2ZnSnS4xSe4(1-x):xは固溶体比)ナノ粒子の作製
酢酸銅(II)を0.1mmol、酢酸亜鉛(II)を0.05mmol、酢酸スズ(IV)を0.05mmolはかり取り、これにオレイルアミン2.0cm3 を加え、60℃に温めて溶解させた(第1溶液)。一方、表2に示すように、固溶体比xの値に応じてS原子およびSe原子の総和が2.0×10-4 molとなるように硫黄粉末とセレノウレアをはかり取り、これにオレイルアミン1.0cm3を加えた(第2溶液)。そして、第1溶液と第2溶液とを混合し、試験管内部を窒素充填した。反応温度240℃で60分加熱することにより反応させた後、室温になるまで放置した。得られた生成物を遠心分離し、上澄みと沈澱を分離した。生成物の上澄み液をろ過し、メタノールを加えてナノ粒子を沈殿させた。遠心分離で上澄み液を捨て沈澱にクロロホルムを加えて沈殿を溶解させ、CZTSSeナノ粒子溶液とした。
【0036】
【表2】
2.CZTSSeナノ粒子の特性
上記1.で調製したCZTSSeナノ粒子のTEM像と粒径分布をそれぞれ図10図11に示す。粒子の組成xが1から0になるにつれて、粒子サイズが大きくなる傾向が見られた。これはセレノウレアの熱分解が比較的遅く、セレンをゆっくりと供給するために、セレノウレアの比率の多いほど大きな粒子が成長しやすいと考えられる。
【0037】
CZTSSeナノ粒子のXRDパターンと吸収スペクトルをそれぞれ図12図13に示す。図12から明らかなように、x=1の粒子はCZTSのXRDパターン(ICSDコレクションコード:171983)とよく一致し、x=0の粒子はCZTSe(Cu2ZnSnSe4)のXRDパターン(ICSDコレクションコード:095117)とよく一致した。x=0.5の粒子の回折パターンはx=0とx=1の粒子の回折ピークの中間に各ピークが観察されたことから、x=0.5 の粒子はCZTSとCZTSeとの間の固溶体であることがわかった。吸収スペクトル(図13)から、x=1とx=0の粒子の吸収端は、それぞれ900nmと1200nm付近であることがわかった。一方、x=0.5の粒子の吸収端は、x=0の粒子の吸収端とほぼ同じである1200nm付近であった。
【0038】
CZTSSeナノ粒子をEDXで組成分析した結果を表3に示す。金属比だけを見ると、Cu、Zn、Snの比が2:1:1に近い値になっていて、Seの増加とともにCuが減り、Snが増加する傾向が見られる。またアニオンに注目すると、Sの量が少ない。x=1、0.5の粒子中に含まれるSeの比率はほぼ理論値に近いので、Sが検出されにくいか、実際に不足していることが示唆される。
【0039】
【表3】
【0040】
[実験例14]
1.AZTS(Ag2ZnSnS4)ナノ粒子の作製
(1)Ag(S2CNEt2)、Zn(S2CNEt22、Sn(S2CNEt24錯体の作製
0.050 mol・dm-3のN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム(NaS2CNEt2)水溶液(50cm3)に、0.050mol・dm-3硝酸銀水溶液、0.025mol・dm-3硝酸亜鉛水溶液又は0.0125mol・dm-3塩化スズ水溶液(50cm3)を、常温で攪拌しながら加えたのち、30分間攪拌し、沈殿を作製した。この沈澱を遠心分離(4000rpm,5min)により単離し、水による洗浄を4回、メタノールによる洗浄を2回行い、一晩減圧乾燥させることによって、Ag(S2CNEt2)錯体、Zn(S2CNEt22錯体又はSn(S2CNEt24錯体の粉末を得た。
【0041】
(2)オレイルアミン修飾AZTSナノ粒子の作製
Ag原子の量が0.10mmol、Zn原子の量が0.050mmol、Sn原子の量が0.050mmolとなるように、上記(1)で作製した各錯体をはかり取り、オレイルアミン3.0cm3を加え、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら、300℃で30分間加熱した。得られた沈殿を遠心分離により分離した。この沈殿にクロロホルム1.0cm3を加えて溶解させた後、溶解しなかった残渣を遠心分離により除去した。得られたクロロホルム溶液にメタノールを3.0cm3を加えて沈殿させ、目的とする粒子を得た。また、吸収スペクトルは、この粒子を、再度、クロロホルム1.0cm3に溶解させて測定した。
【0042】
2.AZTSナノ粒子の特性
上記1.(2)で得た粒子のXRDパターンを図14に示す。比較のために、AZTS、Ag8SnS6及び立方晶ZnSの回折パターンも示してある。図14から明らかなように、この粒子の回折パターンは、AZTSの回折パターンとよく一致していた。図15に、この粒子のTEM像を示す。図15から明らかなように、サイズが10〜30nmの球状粒子が生成していることが分かった。以上のことから、反応温度300℃で加熱することで、AZTSナノ粒子が生成することが明らかとなった。
【0043】
上記1.(2)で作製したAZTSナノ粒子の吸収スペクトルを図16に示す。図16から明らかなように、この吸収スペクトルでは、600nm付近からの急峻な吸収の立ち上がりが確認され、さらに550nm付近にエキシトンピークが観察された。吸収端から見積もったナノ粒子のバンドギャップエネルギー(Eg)は、2.1eVであった。バルクのAZTSのEgは、2.0eVと報告されていることから、本実験で得られたAZTSナノ粒子は、バルクとほぼ同じ電子エネルギー構造をもつことが示唆される。
【0044】
本出願は、2009年2月27日に出願された日本国特許出願第2009−046785号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、例えば太陽電池の材料に利用可能である。
図1
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