【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 第24回生体機能関連化学シンポジウム第12回バイオテクノロジー部会シンポジウム講演要旨集(平成21年9月13日)九州大学先導物質化学研究所発行第202頁に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成21年9月14日に開催された第24回生体機能関連化学シンポジウム第12回バイオテクノロジー部会シンポジウムで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 The 4th International Symposium on Atomic Technologies Program and Book of Abstracts(平成21年11月18日)ISAT−4組織委員会発行第75頁に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成21年11月19日に開催されたThe 4th International Symposium on Atomic Technologiesで発表
【文献】
H.Kitagishi, et al,Angewandte Chemie International Edition,2009年,Vol.48,p.1271-1274
【文献】
A.T.Gates, et al,Langmuir Article,2009年,Vol.25, No.16,p.9346-9351
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、白金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子、硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子、セレン化カドミウム(CdSe)ナノ粒子、テルル化カドミウム(CdTe)ナノ粒子、硫化亜鉛(ZnS)ナノ粒子、セレン化亜鉛(ZnSe)ナノ粒子、もしくはテルル化亜鉛(ZnTe)ナノ粒子または、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)およびテルル化亜鉛(ZnTe)からなる群から選択される2種類から構成されるコア/シェル型のナノ粒子である請求項1または2に記載の複合体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記のように、複数の金属ナノ粒子とヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質との複合体であって、前記金属ナノ粒子は、式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾され、前記金属ナノ粒子を修飾した式(I)および/または式(II)で表される基に含まれるヘムと、ヘムが除去された前記ヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質とが結合することにより、複数の前記金属ナノ粒子と前記タンパク質とが結合した複合体である。
【0012】
また、本発明において、前記ヘムタンパク質2量体は、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビンまたはペルオキシダーゼの2量体であるのが好ましい。
【0013】
また、本発明において、前記金属ナノ粒子は、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、白金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子、硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子、セレン化カドミウム(CdSe)ナノ粒子、テルル化カドミウム(CdTe)ナノ粒子、硫化亜鉛(ZnS)ナノ粒子、セレン化亜鉛(ZnSe)ナノ粒子、もしくはテルル化亜鉛(ZnTe)ナノ粒子または、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)およびテルル化亜鉛(ZnTe)からなる群から選択される2種類から構成されるコア/シェル型のナノ粒子であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明は、本発明の複合体の製造方法であって、
複数の金属ナノ粒子と式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体と反応させて、金属ナノ粒子を式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾し、
複数の前記修飾された金属ナノ粒子と、ヘムが除去されたヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質とを反応させ、前記金属ナノ粒子を修飾した式(I)および/または式(II)で表される基に含まれるヘムと、ヘムが除去された前記ヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質とが結合することにより、複数の前記金属ナノ粒子と前記タンパク質とが結合した複合体を得る。
【0016】
式(I)および/または式(II)で表される基は、1箇所以上、金属ナノ粒子を修飾してもよい。前記基で2箇所以上金属ナノ粒子を修飾する場合、全ての種類が式(I)で表される基、または全ての種類が式(II)で表される基、または、式(I)で表される基と式(II)で表される基の混合物であってもよい。
【0017】
本発明において、「低級」は特に指示がなければ、炭素原子が1〜6個、好ましくは炭素原子1〜4個を意味する。
【0018】
「低級アルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等のような直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1〜6のアルカンの残基を意味する。低級アルキル基の好ましい例としては、炭素数1〜5のアルキルが挙げられる。好ましい炭素数1〜5のアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第三級ブチル、ペンチル、ネオペンチル等が挙げられる。
【0019】
「低級アルケニル基」としては、ビニル、アリル、イソプロペニル、1−、2−もしくは3−ブテニル、1−、2−、3−もしくは4−ペンテニル、1−、2−、3−、4−もしくは5−へキセニル等の炭素数2〜6個を有する直鎖または分枝鎖アルケニル基が挙げられる。好ましい低級アルケニル基としては、ビニルが挙げられる。
【0020】
前記複合体としては、前記式(I)および式(II)中、Yが−Z1−Y1−Z2−Y2−で表される場合、Yとしては、例えば、以下の表で表されるNo.1〜No.27の式が挙げられる。
【0022】
Yが−Z1−Y1−Z2−Y2−で表される場合、前記表1中のNo.1、2、3、10、11、12、19、20、21の式で表される基が好ましく、No.1、2、3の式で表される基がより好ましい。
【0023】
前記複合体としては、前記式(I)および式(II)中、Yが−Z1−Y1−で表される場合、Yとしては、例えば、以下の表で表されるNo.30〜No.35の式が挙げられる。
【0025】
Yが−Z1−Y1−で表される場合、前記表2中のNo30、31の式で表される基が好ましく、No.30の式で表される基がより好ましい。
【0026】
また、前記複合体としては、前記式(I)および式(II)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、−Z1−Y1−Z2−Y2−または−Z1−Y1−で表される基であり、ただし、Z1は式(I)および式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、
Y1およびY2は、独立に、−(CH
2)
n1−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−または−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−O−(CH
2)
n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3、およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
Z1は、O、NHおよびSからなる群から選択され、
Z2は、NHCO、CONHおよびNHからなる群から選択され、
Mは、Fe
2+、Fe
3+、Zn
2+、Co
2+、Co
3+、Mn
2+およびMn
3+からなる群から選択され、
前記ヘムタンパク質2量体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えた変異体が好ましい。
【0027】
本発明における複合体は、溶媒和物の形をとることもありうるが、これも本発明の範囲に含まれる。溶媒和物としては、好ましくは、水和物、エタノール和物、ジメチルスルフィド和物、ジメチルホルムアミド和物、ピリジン和物が挙げられる。
【0028】
前記「ヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質」は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えた変異体である。この天然のヘムタンパク質は、ヘムを1以上有するタンパク質であれば特に限定されないが、例えば、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビン、またはペルオキシダーゼが挙げられる。前記シトクロムとしては、例えばシトクロムb
562、シトクロムb
5、シトクロムP450
CAMが挙げられ、中でもシトクロムb
562が好ましい。前記ヘモグロビンとしては、例えばヘモグロビン(human)、ヘモグロビン(bovine)、ヘモグロビン(equine)、ヘモグロビン(rat)が挙げられ、中でもヘモグロビン(human)が好ましい。前記ミオグロビンとしては、例えばミオグロビン(sus scrofa)、ミオグロビン(equine)、ミオグロビン(human)、ミオグロビン(sperm whale)が挙げられ、中でもミオグロビン(sperm whale)およびミオグロビン(sus scrofa)が好ましい。前記ペルオキシダーゼとしては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、クロロペルオキシダーゼ、カタラーゼが挙げられ、中でも西洋ワサビペルオキシダーゼが好ましい。
【0029】
本発明において、前記天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えた変異体は、例えば、シトクロムの場合、(a)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムとして機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号1で表わされるアミノ酸配列は、天然のシトクロムb
562のアミノ酸配列である。天然のシトクロムb
562のアミノ酸配列は、配列番号1で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1QPU(1999年6月2日付)のものが挙げられ、前記配列番号1で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1QPUのものに対応する。システインに置き換えられる前記1つのアミノ酸残基は、前記シトクロムが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記シトクロムに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。このような置換を行うため、例えば配列番号1のアミノ酸配列において、第1〜106番目のアミノ酸残基、好ましくは第60、62、63、66、67、70、73、74、76、78、89、90、96、99および100番目のアミノ酸残基、より好ましくは第60、第63、第66、第67および第100番目のアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えることができる。
【0030】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、ヘモグロビンの場合、(a)配列番号9または配列番号10で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号9または配列番号10で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヘモグロビン(human)として機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号9で表わされるアミノ酸配列は、天然のヘモグロビンαサブユニットのアミノ酸配列であり、前記配列番号10で表わされるアミノ酸配列は、天然のヘモグロビンのβサブユニットのアミノ酸配列である。天然のヘモグロビンのアミノ酸配列は、配列番号9および配列番号10で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1GZX(2002年7月8日付)のものが挙げられ、前記配列番号9および配列番号10で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1GZXのものに対応する。システインに置き換えらえる前記1つのアミノ酸残基は、前記ヘモグロビンが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記ヘモグロビンに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。
【0031】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、ミオグロビンの場合、(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号2で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつミオグロビンとして機能するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号2で表わされるアミノ酸配列は、野生型のミオグロビン(sperm whale)のアミノ酸配列である。前記配列番号2で表わされるアミノ酸配列は、天然型のアミノ酸配列(実際に鯨から抽出したタンパク質のアミノ酸配列)の第1番目のアミノ酸残基Valの前に、アミノ酸残基としてMetをさらに含むものである。さらに、天然型のアミノ酸配列の第122番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸は、前記配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第123番目に対応するが、そのアミノ酸残基は、アスパラギンに置き換えられている。野生型のミオグロビンのアミノ酸配列は、配列番号2で表わされるアミノ酸配列に限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号2MBW(1996年6月20日付)のものが挙げられ、前記配列番号2で表わされるアミノ酸配列は、ID番号2MBWのものに対応する。システインに置き換えらえる前記1つのアミノ酸残基は、前記ミオグロビンが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記ミオグロビンに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。このような置換を行うため、例えば配列番号2のアミノ酸配列において、第1〜154番目のアミノ酸残基、好ましくは第9、13、17、54,103,107,114、118、122、126、127、134、141および148番目のアミノ酸残基、より好ましくは第126および第134番目のアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えることができる。
【0032】
また、このようなヘムタンパク質の変異体は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼの場合、(a)配列番号3で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)配列番号1で表わされるアミノ酸配列の1つのアミノ酸がシステインに置換されたアミノ酸配列において、1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ西洋ワサビペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質を意味する。なお、前記配列番号3で表わされるアミノ酸配列は、天然の西洋ワサビペルオキシダーゼのアミノ酸配列である。天然の西洋ワサビペルオキシダーゼのアミノ酸配列は、配列番号3で表わされるものに限定されず、Protein Data Bankにおいて、適切なものを選択すればよい。具体的には、ID番号1ATJ(1998年2月4日付)のものが挙げられ、前記配列番号3で表わされるアミノ酸配列は、ID番号1ATJのものに対応する。システインに置き換えられる前記1つのアミノ酸残基は、前記西洋ワサビペルオキシダーゼが立体構造をとる際、構造の外側に配置されるようなアミノ酸残基が好ましい。また、システイン残基に置き換えられたことにより、前記西洋ワサビペルオキシダーゼに含まれるヘムの構造に影響を与えない必要がある。
【0033】
前記複合体としては、前記のように、前記ヘムタンパク質2量体が、シトクロム、ヘモグロビン、ミオグロビンまたはペルオキシダーゼの2量体であるのが好ましく、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるか、または、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を有するミオグロビンであり、前記1つのアミノ酸残基が第126番目のアラニンであるのがより好ましい。
【0034】
前記金属ナノ粒子としては、市販のものを使用してもよいし、文献を参考にして製造して入手してもよい。そのような文献としては、例えばG. Frens, Nature (London) Phys. Sci. 1973, 241, 20が挙げられる。
【0035】
前記複合体としては、前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、白金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子、硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子、セレン化カドミウム(CdSe)ナノ粒子、テルル化カドミウム(CdTe)ナノ粒子、硫化亜鉛(ZnS)ナノ粒子、セレン化亜鉛(ZnSe)ナノ粒子、もしくはテルル化亜鉛(ZnTe)ナノ粒子または、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)およびテルル化亜鉛(ZnTe)からなる群から選択される2種類から構成されるコア/シェル型のナノ粒子であるのが好ましい。
【0036】
前記金属ナノ粒子の粒径は、例えば1nm〜2500nm、好ましくは1nm〜100nm、より好ましくは1nm〜20nmである。
【0037】
また、前記複合体としては、前記式(I)および/または式(II)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Yは、式−NH−(CH
2)
n1−NH−CO−(CH
2)
n2−で表わされる基であり、ここでn1およびn2は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、−NH−は式(I)および/または式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、前記ヘムタンパク質2量体が、シトクロムまたはミオグロビンの2量体であり、前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子または銀ナノ粒子であるのがより好ましい。
【0038】
また、前記複合体としては、前記式(I)および/または式(II)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Yは、式−NH−(CH
2)
n1−NH−CO−(CH
2)
n2−で表わされる基であり、ここでn1およびn2は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、−NH−は式(I)および/または式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、前記ヘムタンパク質2量体が、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるか、または、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を有するミオグロビンであり、前記1つのアミノ酸残基が第126番目のアラニンである2量体であり、前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子または銀ナノ粒子であるのがさらに好ましい。
【0039】
次に、本発明の複合体の製造方法の一例を説明する。
【0040】
前記のように、本発明の複合体は、(a)複数の金属ナノ粒子と式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体と反応させて、金属ナノ粒子を式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾し、(b)複数の前記修飾された金属ナノ粒子と、ヘムが除去されたヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質とを反応させ、前記金属ナノ粒子を修飾した式(I)および/または式(II)で表される基に含まれるヘムと、ヘムが除去された前記ヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質とが結合することにより、複数の前記金属ナノ粒子と前記タンパク質とが結合した複合体を得ることができる。
【0041】
前記(a)複数の金属ナノ粒子と式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体と反応させて、金属ナノ粒子を式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾する工程は、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0042】
まず、複数の金属ナノ粒子、例えばクエン酸で保護された金属ナノ粒子の溶液をアルカリ性にし、そこへ、過剰量の式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体と、過剰量のリポ酸とを混合して、インキュベートする。その後、未反応の式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体と、未反応のリポ酸とを除去して、金属ナノ粒子を式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾することができる。これは、金属ナノ粒子とジスルフィド化合物(ジスルフィド体やリポ酸)とを混合すると、ジスルフィド結合が切断され、「−S−」結合を介して金属ナノ粒子とリポ酸とが結合することが知られていることに基づく。
【0043】
前記(a)工程において、金属ナノ粒子と式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体との反応は、不活性ガス(例えばアルゴン、窒素等)雰囲気下に溶媒中で行うことができる。
【0044】
前記(a)工程において、反応溶媒は限定されないが、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液)等が挙げられる。
【0045】
前記(a)工程において、反応温度は限定されないが、例えば0℃〜100℃、好ましくは4℃〜40℃、より好ましくは4℃〜10℃である。前記(a)工程において、反応時間は限定されないが、例えば1分〜60時間、好ましくは1時間〜12時間、より好ましくは6時間〜10時間である。
【0046】
前記(a)工程において、過剰量の式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体と、過剰量のリポ酸とを混合する際、リポ酸の代わりに、金属ナノ粒子を修飾することが可能な他の保護剤を用いてもよい。そのような保護剤として、例えば、アルカンチオール、メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
【0047】
前記(a)工程において用いられる式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体は、例えば以下のようにして製造することができる。簡便化のため、式(I’)で表されるジスルフィド体の例のみ示すが、位置異性体である式(II’)で表されるジスルフィド体の場合にも、同様にして製造できる。
【0049】
前記式中、
R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、−Z1−Y1−Z2−Y2−または−Z1−Y1−で表される基であり、ただし、Z1は式(I)および式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、
Y1およびY2は、独立に、−(CH
2)
n1−、−(C
6H
4)
n5−、−(CH
2)
n1−(C
6H
4)
n5−、−(C
6H
4)
n5−(CH
2)
n1−、−(CH
2)
n1−(C
6H
4)
n5−(CH
2)
n2−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−または−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−O−(CH
2)
n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3、n4およびn5は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
Z1は、O、NHおよびSからなる群から選択され、
Z2は、NHCO、CONHおよびNHからなる群から選択され、
Mは、Fe
2+、Fe
3+、Zn
2+、Co
2+、Co
3+、Mn
2+およびMn
3+からなる群から選択され、
−O(P)は、カルボキシル基の保護基である。
【0050】
式(III)で表されるヘム体とジスルフィド体(IV)とをカップリングさせて式(V)で表される化合物を得る。この式(V)の化合物からO(P)を脱保護し、ついでMをヘムに導入して式(I’)で表されるジスルフィドを得ることができる。
【0051】
天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えた前記変異体の遺伝子は、天然のヘムタンパク質の遺伝子の塩基配列に基づいて、モルモットのトータルRNA等を利用してクローニングしてもよく、また、ホスホロアミダイト法を利用して化学的にDNA合成してもよい。前記クローニングの方法は特に制限されず、例えば、市販のクローニングキット等を利用して行える。また、前記変異体の遺伝子を宿主細胞内に導入すればよい。
【0052】
前記宿主細胞としては、例えば、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、酵母、細菌等が挙げられる。前記遺伝子導入方法としては、例えば、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポソームを用いた方法、エレクトロポレーション、ウイルスベクターを用いる方法、マイクロピペットインジェクション法等があげられる。または、宿主染色体への組込み型もしくは自律複製・分配可能な人工染色体もしくはプラスミド型を用いて、それを導入してよい。
【0053】
前記宿主細胞内に導入する遺伝子は、宿主細胞内で恒常的または任意に発現するように、必要な調節配列と作動的に連結されていることが好ましい。前記調節配列とは、宿主細胞内において、作動的に連結された前記遺伝子の発現に必要な塩基配列であって、例えば、真核細胞に適した調節配列としては、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、エンハンサー等があげられる。前記作動的に連結とは、各構成要素が機能を果たすことができるように並置していることを意味する。
【0054】
本発明の複合体は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、2次元的に広がっていた(
図9(d)参照)。このTEMによる観察から、本発明の複合体は、例えば、以下のような網目構造をとっていることが推測できる。
【0056】
本発明の複合体は、前記のように2次元的に広がった構造をとることから、例えば基板上に載せた場合、薄く2次元的に広がる可能性がある。基板上の複合体を焼成、プラズマ照射、酸性水溶液による洗浄等の処理によりタンパク質を除去すると、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、白金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子、硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子、セレン化カドミウム(CdSe)ナノ粒子、テルル化カドミウム(CdTe)ナノ粒子、硫化亜鉛(ZnS)ナノ粒子、セレン化亜鉛(ZnSe)ナノ粒子、もしくはテルル化亜鉛(ZnTe)ナノ粒子または、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)およびテルル化亜鉛(ZnTe)からなる群から選択される2種類から構成されるコア/シェル型のナノ粒子などの金属ナノ粒子のみが基板上に残る。そうすると、間隔を空けて配置された金属ナノ粒子が配置された基板を得ることが可能である。このような基板は、金属の表面積が大きく、触媒として用いる場合に金属の量を節約することが可能である。
また、基板上の複合体は導電性を有することが期待され、分子ダイオード、分子回路等への応用も期待される。
【0057】
さらに、基板上の複合体は、金属ナノ粒子が間隔(好ましくは等間隔)を空けて配置されていることから、金属ナノ粒子として硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子、硫化亜鉛(ZnS)ナノ粒子等を用いた場合、半導体超微粒子(量子ドット)への応用も期待される。
【0058】
また、本発明は、金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質との複合体であってもよい。具体的には、金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質との複合体は、前記金属ナノ粒子が式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾され、前記金属ナノ粒子を修飾した式(I)および/または式(II)で表される基に含まれるヘムと、ヘムが除去された前記ヘムタンパク質由来のアポタンパク質とが結合することにより、金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質とが結合した複合体である。
【0060】
前記式(I)および式(II)中、
R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、−Z1−Y1−Z2−Y2−または−Z1−Y1−で表される基であり、ただし、Z1は式(I)および式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、
Y1およびY2は、独立に、−(CH
2)
n1−、−(C
6H
4)
n5−、−(CH
2)
n1−(C
6H
4)
n5−、−(C
6H
4)
n5−(CH
2)
n1−、−(CH
2)
n1−(C
6H
4)
n5−(CH
2)
n2−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−または−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−O−(CH
2)
n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3、n4およびn5は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
Z1は、O、NHおよびSからなる群から選択され、
Z2は、NHCO、CONHおよびNHからなる群から選択され、
Mは、Fe
2+、Fe
3+、Zn
2+、Co
2+、Co
3+、Mn
2+およびMn
3+からなる群から選択される。
【0061】
前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質との複合体において、式(I)および/または式(II)におけるR
1、R
2、R
3、R
4、Yおよび金属ナノ粒子については、複数の金属ナノ粒子とヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質との複合体におけるR
1、R
2、R
3、R
4、Yおよび金属ナノ粒子と同様である。また、「ヘムタンパク質由来のアポタンパク質」については、前記「ヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質」と同様である。
【0062】
前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質との複合体としては、前記式(I)および/または式(II)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Yは、式−NH−(CH
2)
n1−NH−CO−(CH
2)
n2−で表わされる基であり、ここでn1およびn2は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、−NH−は式(I)および/または式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、前記ヘムタンパク質が、シトクロムまたはミオグロビンであり、前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子または銀ナノ粒子であるのがより好ましい。
【0063】
また、前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質との複合体としては、前記式(I)および/または式(II)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Yは、式−NH−(CH
2)
n1−NH−CO−(CH
2)
n2−で表わされる基であり、ここでn1およびn2は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、−NH−は式(I)および/または式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、前記ヘムタンパク質が、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるか、または、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を有するミオグロビンであり、前記1つのアミノ酸残基が第126番目のアラニンであり、前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子または銀ナノ粒子であるのがさらに好ましい。
【0064】
次に、前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質との複合体の製造方法の一例を説明する。
【0065】
前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質との複合体は、
(a)複数の金属ナノ粒子と式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体と反応させて、金属ナノ粒子を式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾し、(b)複数の前記修飾された金属ナノ粒子と、ヘムが除去されたヘムタンパク質由来のアポタンパク質とを反応させ、前記金属ナノ粒子を修飾した式(I)および/または式(II)で表される基に含まれるヘムと、ヘムが除去された前記ヘムタンパク質由来のアポタンパク質とが結合することにより、前記金属ナノ粒子と前記タンパク質とが結合した複合体を得ることができる。
【0066】
ヘムが除去されたヘムタンパク質由来のアポタンパク質は、文献公知の方法、例えば、Teale, F. W. J. Biochim. Biophys. Acta.1959, 35, 543.やE. Itagaki, and L. P. Hager, J. Biol. Chem. 1966, 241, 3687.に記載の方法に従い、製造することができる。
【0067】
また、金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとの複合体は、前記金属ナノ粒子が式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾され、前記金属ナノ粒子を修飾した式(I)および/または式(II)で表される基に含まれるヘムと、ヘムが除去された前記ヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとが結合することにより、金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとが結合した複合体である。
【0069】
前記式(I)および式(II)中、
R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、
Yは、−Z1−Y1−Z2−Y2−または−Z1−Y1−で表される基であり、ただし、Z1は式(I)および式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、
Y1およびY2は、独立に、−(CH
2)
n1−、−(C
6H
4)
n5−、−(CH
2)
n1−(C
6H
4)
n5−、−(C
6H
4)
n5−(CH
2)
n1−、−(CH
2)
n1−(C
6H
4)
n5−(CH
2)
n2−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−または−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−O−(CH
2)
n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3、n4およびn5は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
Z1は、O、NHおよびSからなる群から選択され、
Z2は、NHCO、CONHおよびNHからなる群から選択され、
Mは、Fe
2+、Fe
3+、Zn
2+、Co
2+、Co
3+、Mn
2+およびMn
3+からなる群から選択される。
【0070】
前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとの複合体において、式(I)および/または式(II)におけるR
1、R
2、R
3、R
4、Yおよび金属ナノ粒子については、複数の金属ナノ粒子とヘムタンパク質2量体由来のアポタンパク質との複合体におけるR
1、R
2、R
3、R
4、Yおよび金属ナノ粒子と同様である。また、「ヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマー」は、例えば、以下の式を有するタンパク質ポリマーが挙げられる。
【0072】
前記式(IA)および(IB)中、
R
11、R
12、R
13およびR
14は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基を意味し、
Zは、−Y11−Y12−で表される基であり、ただし、Y11は、式(IA)および式(IB)中、−CO−と結合する基を意味し、
Y11は、O、NHおよびSからなる群から選択され、
Y12は、式−(CH
2)
n1−、−(C
6H
4)
n5−、−(CH
2)
n1−(C
6H
4)
n5−、−(C
6H
4)
n5−(CH
2)
n1−、−(CH
2)
n1−(C
6H
4)
n5−(CH
2)
n2−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−または−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−O−(CH
2)
n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3、n4およびn5は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
M
1は、Fe
2+、Fe
3+、Zn
2+、Co
2+、Co
3+、Mn
2+およびMn
3+からなる群から選択され、
mおよびnはそれぞれ整数であり、1≦m+n≦1000であり、
X
1は、ヘムタンパク質の変異体中のタンパク質部分を意味し、前記ヘムタンパク質の変異体は式(VII)で表わされ、
【0074】
前記変異体は、天然のヘムタンパク質のアミノ酸配列中、1つのアミノ酸残基をシステイン残基に置き換えたものである。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、前記Hemeは、天然ヘムを意味し、式HS−X
1は、前記変異体のアポ体を意味する。
【0075】
本発明において、一般式(IA)および(IB)で表わされるタンパク質ポリマーは、ランダム共重合体およびブロック共重合体のいずれも含み、いずれか一方に限定されない。
【0076】
前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとの複合体としては、前記式(I)および/または式(II)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Yは、式−NH−(CH
2)
n1−NH−CO−(CH
2)
n2−で表わされる基であり、ここでn1およびn2は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、−NH−は式(I)および/または式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、
ヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーが、式(IA)で表されるポリマーであり、
前記式(IA)中、R
11、R
12、R
13およびR
14は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Y11は、O、NHおよびSからなる群から選択され、
Y12は、式−(CH
2)
n1−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−または−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−O−(CH
2)
n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質が、シトクロムまたはミオグロビンであり、前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子または銀ナノ粒子であるのがより好ましい。
【0077】
また、前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとの複合体としては、前記式(I)および/または式(II)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Yは、式−NH−(CH
2)
n1−NH−CO−(CH
2)
n2−で表わされる基であり、ここでn1およびn2は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、−NH−は式(I)および/または式(II)中、−CO−と結合する基を意味し、
ヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーが、式(IA)で表されるポリマーであり、
前記式(IA)中、R
11、R
12、R
13およびR
14は、それぞれ独立して、低級アルキル基または低級アルケニル基を意味し、Y11は、OまたはNHであり、Y12は、式−(CH
2)
n1−、−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−または−(CH
2)
n1−O−(CH
2)
n2−O−(CH
2)
n3−O−(CH
2)
n4−で表わされる基であり、ここでn1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立して1〜20の整数を意味し、
前記ヘムタンパク質が、配列番号1で表わされるアミノ酸配列を有するシトクロムであり、前記1つのアミノ酸残基が第63番目のヒスチジンであるか、または、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を有するミオグロビンであり、前記1つのアミノ酸残基が第126番目のアラニンであり、前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子または銀ナノ粒子であるのがさらに好ましい。
【0078】
次に、前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとの複合体の製造方法の一例を説明する。
【0079】
前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとの複合体は、
(a)複数の金属ナノ粒子と式(I’)および/または式(II’)で表されるジスルフィド体と反応させて、金属ナノ粒子を式(I)および/または式(II)で表される基により1箇所以上修飾し、(b)複数の前記修飾された金属ナノ粒子と、ヘムが除去されたヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとを反応させ、前記金属ナノ粒子を修飾した式(I)および/または式(II)で表される基に含まれるヘムと、ヘムが除去された前記ヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとが結合することにより、前記金属ナノ粒子と前記アポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとが結合した複合体を得ることができる。
【0080】
ヘムが除去されたヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーは、文献公知の方法、例えば、Angew. Chem., Int. Ed., 48, 1271-1274(2009)に記載の方法に従い、製造することができる。
【0081】
前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質との複合体は、ヘムタンパク質の活性部位となる補因子ヘムが金属ナノ粒子と近接した構造をとる。したがってこの複合体は、ヘムタンパク質がもつ電子伝達の機能を利用して効率よく金属ナノ粒子への電子移動を行うことが可能である。また、この複合体は、ヘムタンパク質とその変異体が有する機能(酸素分子など気体分子との結合、電子伝達、酸化反応をはじめとする触媒反応)と金属ナノ粒子の特性を複合化したバイオ電極材料の分野での適用が考えられる。
【0082】
前記金属ナノ粒子とヘムタンパク質由来のアポタンパク質を末端にもつヘムタンパク質ポリマーとの複合体は、緩く集合した構造をとる。換言すれば、この複合体は、金属ナノ粒子同士の距離が比較的遠い配置をとる。例えばこの複合体を基板上に載せた場合、金属ナノ粒子が適度な距離を保って2次元的に広がる可能性がある。基板上の複合体を焼成、プラズマ照射、酸性水溶液による洗浄等の処理によりタンパク質を除去すると、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、白金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子、硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子、セレン化カドミウム(CdSe)ナノ粒子、テルル化カドミウム(CdTe)ナノ粒子、硫化亜鉛(ZnS)ナノ粒子、セレン化亜鉛(ZnSe)ナノ粒子、もしくはテルル化亜鉛(ZnTe)ナノ粒子または、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)およびテルル化亜鉛(ZnTe)からなる群から選択される2種類から構成されるコア/シェル型のナノ粒子などの金属ナノ粒子のみが基板上に残る。そうすると、数十nmから100nm程度の幅広い間隔を空けて金属ナノ粒子が配置された基板を得ることが可能である。このような基板は、金属ナノ粒子を広い部分に配置して、触媒として用いる場合に金属の量を節約することが可能である。
【0083】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
種々のスペクトルは、以下の機器を用いて測定した。
核磁気共鳴(NMR)スペクトルはBruker DPX-400核磁気共鳴装置(400MHz)を用いて測定し、測定溶媒の残存シグナルを内部基準として使用した。エレクトロスプレーイオン化法による飛行時間型質量分析(ESI−TOF−MS)はアプライド・バイオシステム・マリナー(Applied Biosystems Mariner)API−TOFワークステーション(Workstation)を用いて測定した。紫外可視吸収スペクトルは島津製作所製自記分光光度計UV−2550もしくはUV−3150を用いて測定した。水溶液のpHは堀場製作所製pHメーターF−52を用いて測定した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)はGEヘルスケア社製AKTA
FPLCシステム(排除限界1.0×10
5Da)を接続し、検出にはUPC−900検出器を用いて測定した。電気泳動測定には、GEヘルスケア社製全自動電気泳動システムPhastsystemを用いて測定した。透過型電子顕微鏡(TEM)は、日立製日立H−7650 ZeroA を用いて測定した。
【0084】
また、出発原料は、以下の文献を参考にして製造した。
プロトポルフィリンIXモノt−ブチルエステル2:T. Matsuo, T. Hayashi, Y. Hisaeda, J. Am. Chem. Soc. 124, 11234 (2002)。
その他の一般試薬は市販品をそのまま用いた。
【実施例1】
【0085】
(1)式1で表す化合物およびその位置異性体の製造
式1で表す化合物およびその位置異性体は、以下のスキーム2に従い製造した。
【0086】
【化9】
【0087】
スキーム2中、それぞれの「位置異性体」は、以下のとおり。化合物6の位置異性体は化合物6’、化合物7の位置異性体は化合物7’および化合物7’’、化合物8の位置異性体は化合物8’および化合物8’’、化合物1の位置異性体は化合物1’および化合物1’’である。
【0088】
【化10】
【0089】
(i)化合物2およびその位置異性体の合成
R. Schneider, F. Schmitt, C. Frochot, Y. Fort, N. Lourette, F. Guillemin, J.-F. Mueller, M. Barberi-Heyob, Bioorg. Med. Chem. 2005, 13, 2799-2808に従い、化合物2を合成した。
【0090】
(ii)化合物3およびその位置異性体の合成
B. Danieli, A. Giardini, G. Lesma, D. Passarella, B. Peretto, A. Sacchetti, A. Silvani, G. Pratesi, F. Zunino, J. Org. Chem. 2006, 71, 2848-2853に従い、化合物3を合成した。
【0091】
(iii)化合物4およびその位置異性体の合成
窒素雰囲気下、化合物2およびその位置異性体(152mg,9.51x10
−4mol)、化合物3およびその位置異性体(100mg,4.76x10
−4mol)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(170μL,9.76x10
−4mol)を塩化メチレン(20mL)に溶解させた。その溶液を氷浴によって冷却し、そこへ1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)(182mg,9.51x10
−4mol)の塩化メチレン溶液(20mL)を加えた。この溶液を室温にて、18時間攪拌した。この溶液を10%クエン酸水溶液(50mL)で5回、炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)で5回、水(50mL)で5回洗浄した。有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去して化合物4およびその位置異性体を得た(140mg,60%、無色、固体)。
【0092】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ 7.91 (s, 2H), 6.75 (s, 2H), 3.03 (m, 4H), 2.95 (m, 4H), 2.86 (t, 4H, J = 5.94 Hz), 2.43 (t, 4H, J = 5.94 Hz)。
【0093】
(iv)化合物5およびその位置異性体の合成
窒素雰囲気下、化合物4およびその位置異性体(100mg,2.02x10
−4mol)を塩化メチレン(35mL)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(6mL)を加えた。この溶液を室温にて30分間攪拌した。この溶液から溶媒を減圧留去して化合物5およびその位置異性体を得た。
【0094】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ 8.12 (s, 2H), 7.74 (s, 6H), 3.26 (m, 4H), 2.88 (m, 4H), 2.85 (t, 4H, J = 7.39 Hz), 2.45 (t, 4H, J = 7.39 Hz)。
【0095】
(v)化合物6およびその位置異性体の合成
T. Matsuo, T. Hayashi, Y. Hisaeda, J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 11234-11235に従い、化合物6およびその位置異性体を合成した。
【0096】
(vi)化合物7およびその位置異性体の合成
窒素雰囲気下、化合物6(42mg,8.10x10
−5mol)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)(123mg,3.24x10
−4mol)、DIPEA(120μL,6.89x10
−4mol)および1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(43mg,3.24x10
−4mol)をDMF(15mL)に溶解させた。その溶液を氷浴によって冷却し、そこへ化合物5およびその位置異性体(42mg,8.10x10
−5mol)のDMF溶液(10mL)を滴下して加えた。この溶液を室温にて18時間攪拌した。この溶液を塩化メチレンにより希釈し、5%クエン酸水溶液(50mL)で3回、炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)で3回、水(50mL)で3回洗浄した。有機層を分離後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl
3/MeOH=40/1)によって精製し、化合物7およびその位置異性体を得た(40mg,33%、紫色、固体)。
【0097】
1H NMR (400 MHz, ピリジン-d
5) δ10.2-10.7 (m, 8H), 8.40-8.21 (m, 4H), 6.40-6.21 (m, 4H), 6.18-6.10 (m, 4H), 4.40-4.31 (m, 8H), 3.65-3.25 (m, 40H), 2.78-2.70 (m, 4H), 2.20-2.10 (m, 4H), 1.24 (s, 18H), −3.85 (br, 4H)。
【0098】
(vii)化合物8およびその位置異性体の合成
化合物7(40mg,2.67x10
−5mol)を塩化メチレン(20mL)に溶解させ、そこへトリフルオロ酢酸(4mL)を加えた。この溶液を室温にて7時間攪拌した。この溶液から溶媒を減圧留去し、得られた残渣をエーテルで洗浄して化合物8およびその位置異性体を得た(29mg,80%、紫色、固体)。
【0099】
1H NMR (400 MHz, ピリジン-d
5) δ10.0-9.82 (m, 8H), 8.33-8.28 (m, 4H), 6.36-6.28 (m, 4H), 6.11-6.08 (m, 4H), 4.37-4.33 (m, 8H), 3.60-3.28 (m, 40H), 2.81-2.80 (m, 4H), 2.20-2.15 (m, 4H), -3.85 (br, 4H);
UV-vis (MeOH) λmax / nm (吸光度) 628 (0.0077), 577 (0.015), 540 (0.020), 508 (0.024), 404 (0.30)。
【0100】
(viii)化合物1およびその位置異性体の合成
化合物8およびその位置異性体(29mg,2.10x10
−4mol)、塩化鉄(II)一水和物(150mg,7.54x10
−4mol)および炭酸水素ナトリウム(10mg)を窒素飽和にしたクロロホルムとメタノールの混合溶媒(CHCl
3/MeOH=2/1、40mL)に溶解させ、加熱還流を行った。3時間後、反応混合物を室温まで冷却し、溶媒を減圧留去した。残渣を0.1M塩酸で洗浄した後、エーテルで洗浄して化合物1およびその位置異性体を得た(25mg,80%、紫色、固体)。
【0101】
ESI-TOF MS (positive mode) m/z 1490.33 (M+H)
+, C
78H
82Fe
2N
12O
8S
2として計算値は1490.45;
UV-vis (pyridine) λmax / nm (吸光度) 555 (0.013), 522 (0.014), 407 (0.12)。
【0102】
(2)化合物1およびその位置異性体で修飾された金ナノ粒子の合成
(i)クエン酸で修飾された金ナノ粒子の合成
使用する全てのガラス器具を王水(濃塩酸:濃硝酸=3:1)で洗浄した。1mMの塩化金酸水溶液(100mL)を還流加熱した。この水溶液に38.8mMのクエン酸ナトリウム水溶液(10mL)を素早く加え、さらに還流を30分間行った。反応混合物を室温で放冷して、クエン酸で保護された金ナノ粒子を得た。表面プラズモンに特徴的な520nm付近に吸収極大をもつUV−visスペクトルを得たことにより金ナノ粒子の生成を確認した(
図1)。また透過型電子顕微鏡写真からも金ナノ粒子の生成が確認された(
図2)。
【0103】
(ii)化合物1およびその位置異性体で修飾された金ナノ粒子の合成
クエン酸により保護された金ナノ粒子の溶液に、1Mの水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH11に調整した。DMSO(1mL)に溶解させた化合物1およびその位置異性体(940μg,6.29x10
−7mol)とリポ酸(2340μg,1.03x10
−5mol)を金ナノ粒子の溶液(約13nM、40mL)に加え、室温暗所で終夜インキュベートした。この溶液を14000rpmで15分間遠心分離し、過剰に加えた化合物1およびその位置異性体とリポ酸を除去した。残渣へpH11の水酸化ナトリウム水溶液を加えヘム修飾金ナノ粒子を再分散させた。この洗浄操作を計5回繰り返すことにより化合物1およびその位置異性体で修飾された金ナノ粒子を得た。得られた化合物1およびその位置異性体で修飾された金ナノ粒子のUV−visスペクトルを
図3に、透過型電子顕微鏡写真を
図4に示す。
【0104】
修飾された金ナノ粒子上の化合物1およびその位置異性体の定量をUV−vis測定により行った。シアン化カリウムを修飾された金ナノ粒子溶液に加えると、金ナノ粒子がK[Au(CN)
4]に分解されることで表面プラズモンに由来する強い吸収が消失する。修飾された金ナノ粒子溶液(30μL)に1Mシアン化カリウム水溶液(30μL)を加え、2分間インキュベートして反応を完了させた。反応液のUV−visスペクトルにより金ナノ粒子に由来する520nm付近の吸収が消失し、化合物1およびその位置異性体のヘムのビスシアニド錯体の吸収が確認された(
図5)。ヘムのビスシアニド錯体の421nmにおける吸光係数が6.8x10
4M
−1cm
−1であることから、金ナノ粒子表面を修飾している化合物1およびその位置異性体は37個と定量された。
【0105】
(3)シトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質の合成
(i)シトクロムb
562変異体(H63C)の調製
部位特異的変異体の生成は、タカラ(TaKaRa)社製LA PCRインビトロ突然変異生成キット(in vitro Mutagenesis)を用いて、付属のプロトコルに従い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行った。野生型シトクロムb
562(以下b
562と略す)の発現プラスミド(pUC118)を持つ大腸菌TG1を大量培養してプラスミドを調製し、H63C変異体を調製するためのテンプレートとした。変異部位導入プライマー(配列番号5)
【0106】
【化11】
【0107】
(下線部がミスマッチ塩基対)とM13プライマーM4(配列番号6)(5’−GTTTTCCCAGTCACGAC−3’)、もしくはM13プライマーRV配列番号7(5’−CAGGAAACAGCTATGAC−3’)とMUT4プライマー配列番号8(5’−GGCCAGTGCCTAGCTTACAT−3’)を用い、それぞれの系でPCRによる第1段階のDNA増幅を行った。これら2つの第1段階PCR産物からヘテロな2本鎖DNAを調製し、M13プライマーRVとM13プライマーM4を用いて、このヘテロな2本鎖DNAのPCRによる第2段階の増幅を行った。b
562変異体の塩基配列を持つDNA断片を、制限酵素EcoRIとHindIIIによって切り出し、pUC118ベクターのEcoRI/HindIII部位に特異的に連結した。その後、大腸菌(Escherichia coli)菌株TG1を得られた発現プラスミドによって形質転換した。H63C変異体の塩基配列はDNAシークエンシングにより確認した(配列番号4)。その際、Ala37の位置にも変異が見られたが、無変化の変異であった(GCCがGCGに変異)。変異体タンパク質は大腸菌株TG1を用い、文献(Y. Kawamata, S. Machida, T. Ogawa, K. Horie, T. Nagamune, J. Lumin. 98, 141 (2002))に従って野生型b
562の発現と同様の操作で大量発現した。発現したタンパク質は、陽イオン交換カラム(CM−52、2.7cm×18cm)とゲル濾過カラム(セファデックスG−50、1.5cm×100cm)によって精製し、Rz=A
418/A
280≧6.0のフラクション(H63Cのストック溶液)を回収して以下の実験に使用した。
【0108】
(ii)シトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質の合成
H63Cの精製段階で、タンパク質のほとんどがシステイン残基によるジスルフィドを形成し、2量体として存在している。シトクロムb
562変異体の2量体をSuperdex7510/300GLカラムを用いてサイズ排除クロマトグラフィーにより分取した(
図6)。得られたシトクロムb
562変異体の2量体の溶液に100mMのヒスチジン溶液を加え、pH1.8になるまで0.1Mの塩酸を加え、シトクロムb
562変異体の2量体に含まれるヘミンを遊離させた。2−ブタノンによりヘミンを抽出し、50mMのトリス塩酸緩衝液で透析を行うことにより、シトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質を得た(
図7)。
【0109】
(4)金ナノ粒子とシトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質との複合体の合成
50mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.3)に溶解したシトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質(約100μM、8μL)に化合物1およびその位置異性体で修飾された金ナノ粒子の溶液(金ナノ粒子約3μM、2μL)を加え、金ナノ粒子とシトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質との複合体を得た。
【0110】
[比較例1]
金ナノ粒子とシトクロムb
562からヘムが除去されたアポタンパク質との複合体の合成
50mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.3)に溶解したシトクロムb
562からヘムが除去されたアポタンパク質(約10μM、8μL)に化合物1およびその位置異性体で修飾された金ナノ粒子溶液(金ナノ粒子約3μM、2μL)を加え、金ナノ粒子とシトクロムb
562からヘムが除去されたアポタンパク質との複合体を得た。
【0111】
[実施例1(4)で得られた複合体と、比較例1で得られた複合体の物性]
(1)アガロースゲル電気泳動
実施例1(4)で得られた複合体をアガロースゲル電気泳動により確認した。複合体を含む溶液にグリセロールを10%加え、TBE緩衝液中の1.5%アガロースに添加した。100V、80mAで30分間電気泳動を行った。得られた電気泳動のゲルを
図8に示す。
図8中、レーン1は化合物1およびその位置異性体で修飾された金ナノ粒子(実施例1(2))、レーン2は比較例1で得られた複合体、レーン3は実施例1(4)で得られた複合体の電気泳動である。
図8から、本発明の複合体が、金ナノ粒子とシトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質との複合体であることが確認できた。
【0112】
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)による測定
コロジオン支持膜が担持された銅グリッド上に実施例1(4)で得られた複合体の溶液を滴下し、充分乾燥させた。超純水をグリッド上に滴下し、ろ紙で吸水させた。この操作を2回繰り返し、塩を取り除いた。このグリッドをTEM測定装置にセットし、加速電圧100kVにて測定した。得られたTEM写真を
図9(a)〜(d)に示す。
図10は、比較例1で得られた複合体のTEM写真である。
図9から、ヘムタンパク質2量体のアポ体により金ナノ粒子が会合していること、また、金ナノ粒子間に2−5nmの隙間が観察されたことから、ヘムタンパク質2量体を介した金ナノ粒子集合体であることが確認できた。
【0113】
(3)走査型電子顕微鏡(SEM)による測定
エラスチックカーボン支持膜が担持された銅グリッドに実施例1(4)で得られた複合体の溶液を滴下し、十分乾燥させた。超純水をグリッド上に滴下し、ろ紙で吸水させた。この操作を2回繰り返し、塩を取り除いた。このグリッドをSEM測定装置(JEOL JSM−6701F)にセットし、加速電圧5.0 kV にて測定した。得られたSEM写真を
図11に示す。
図12は比較例1で得られた複合体のSEM写真である。
図11から、ヘムタンパク質2量体のアポタンパク質が存在する場合では、金ナノ粒子が凝集しているのに対して、2量体でない場合には凝集はほとんど観測されないことが確認できた。
【実施例2】
【0114】
(1)式(III−3)で表す化合物の製造は、国際特許出願(出願番号PCT/JP2009/054569号、国際公開番号WO2009/113551号)の実施例3を参考に下記スキーム3に従い製造した。
【0115】
【化12】
【0116】
【化13】
【0117】
前記変異体(VII−2)は、シトクロムb
562変異体(H63C、実施例1(3)(i)で製造)である。前記変異体中、−SHは、前記システイン残基の側鎖チオール基を意味し、前記Hemeは、天然ヘムを意味し、式HS−X’’は、前記変異体のアポ体を意味する。
【0118】
スキーム3中、それぞれの「位置異性体」は、以下のとおり。化合物1(8)の位置異性体は化合物1(8)’、化合物(I−4)の位置異性体は化合物(I−4)’、化合物(II−4)の位置異性体は化合物(II−4)’である。
【0119】
【化14】
【0120】
また、前記ポリマー(III−3)は、以下の式で表される。
【化15】
【0121】
前記式中、mおよびnは整数であり、m+nは10である。
【0122】
(2)シトクロムb
562ポリマーの合成
50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.3)に溶解したシトクロムb
562(H63C)の二量体(200mL)に10mMのジチオスレイトール(3mL)を加えることでH63Cに含まれるシステイン残基によるジスルフィド結合を還元し、H63Cの単量体(VII−2)を得た。10mMのジチオスレイトール50mMを含んだ50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.3)で2回、50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.3)で1回限外濾過を行い、過剰のジチオスレイトールをゲル濾過カラムで取り除いた。次に還元体のH63C溶液(3.4mL)にDMSOに溶解したマレイミドヘム(スキーム3中の1(8)およびその位置異性体、1.6x10
−6mol)を加え、室温にて2時間攪拌した。このシトクロムb
562モノマー(I−4)およびその位置異性体を含む反応溶液に塩酸水溶液をpH1.8になるまで加え、天然のヘムを遊離し、シトクロムb
562モノマー(II−4)およびその位置異性体を得た。2−ブタノンで遊離したヘムを抽出した。抽出は5回繰り返した。50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.3)で透析することでマレイミドヘムによって表面修飾されたシトクロムb
562ポリマー(III−3)を得た。
図16に示すUV−visスペクトルより、シトクロムb
562ポリマーを形成していることが確認できた。
【0123】
(3)金ナノ粒子とシトクロムb
562ポリマーとの複合体の合成
50mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.3)に溶解したシトクロムb
562ポリマー(約200μM)8μLに化合物1で修飾された金ナノ粒子溶液(金ナノ粒子約3μM、2μL)を加えることで金ナノ粒子表面にシトクロムb
562ポリマーが積層した複合体を得た。
【0124】
[実施例2(3)で得られた複合体と、比較例1で得られた複合体の物性]
(1)アガロースゲル電気泳動
金ナノ粒子表面にシトクロムb
562ポリマーが積層した複合体をアガロースゲル電気泳動により確認した。複合体を含む溶液にグリセロールを10%加え、TBE緩衝液中の1.5%アガロースに添加した。100V、80mAで30分間電気泳動を行った。得られた電気泳動のゲルを
図13に示す。
図13中、レーン1は、リポ酸のみで修飾された金ナノ粒子、レーン2は化合物1およびその位置異性体で修飾された金ナノ粒子(実施例1(2))、レーン3は比較例1で得られた複合体、レーン4は実施例2(3)で得られた複合体の電気泳動である。
図13から、本発明の複合体が、金ナノ粒子とシトクロムb
562ポリマーとの複合体であることが確認できた。
【0125】
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)による測定
コロジオン支持膜が担持された銅グリッド上に実施例2(3)で得られた複合体の溶液を滴下し、充分乾燥させた。超純水をグリッド上に滴下し、ろ紙で吸水させた。この操作を2回繰り返し、塩を取り除いた。このグリッドをTEM測定装置にセットし、加速電圧100kVにて測定した。得られたTEM写真を
図14に示す。
図14から、シトクロムb
562ポリマーが金ナノ粒子に結合し、金ナノ粒子間の会合せずに数十nm以上の間隔を保っていることが確認できた。
【0126】
(3)動的光散乱(DLS)による測定
リポ酸で修飾した金ナノ粒子、比較例1で得られた複合体、実施例2(3)で得られた複合体のDLSの測定結果を、それぞれ
図15(a)、
図15(b)、
図15(c)に示す。それぞれの粒子の平均半径は、27nm、53nwm、75nmであり、実施例2(3)で得られた複合体はシトクロムb
562ポリマーが金ナノ粒子に結合していることが確認できた。
【実施例3】
【0127】
(1)化合物1で修飾された銀ナノ粒子の合成
(i)クエン酸で修飾された銀ナノ粒子の合成
使用する全てのガラス器具を王水(濃塩酸:濃硝酸=3:1)で洗浄した。0.25mMの硝酸銀水溶液(100mL)と0.31mMのクエン酸ナトリウム水溶液(100mL)を4℃に冷却後、混合し、攪拌した。0.25mMの水素化ホウ素ナトリウム水溶液(6mL)をこの水溶液に加え、4℃で10分間攪拌した。室温で放冷した後、反応混合物を90分間還流した。反応混合物を室温で放冷して、クエン酸で保護された銀ナノ粒子を得た。表面プラズモンに特徴的な396nm付近に吸収極大をもつUV−visスペクトルを得たことにより銀ナノ粒子の生成を確認した(
図17)。また透過型電子顕微鏡写真からも銀ナノ粒子の生成が確認された(
図18)。
【0128】
(ii)化合物1およびその位置異性体で修飾された銀ナノ粒子の合成
クエン酸により保護された銀ナノ粒子の溶液を遠心分離操作により、過剰のクエン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウムを除去した。遠心分離後に得られた残渣に水酸化ナトリウム水溶液を加え、得られた溶液のpHを11に調整した。DMSO(1mL)に溶解させた化合物1およびその位置異性体(1mg,6.69x10
−7mol、実施例1(1)で製造)とリポ酸(2340μg,1.76x10
−5mol)を銀ナノ粒子の溶液(8nM、80mL)に加え、4℃、暗所で終夜インキュベートした。この溶液を4400rpmで遠心分離して銀ナノ粒子の溶液を濃縮した。得られた濃縮液をLH20を用いてゲル濾過することで過剰の化合物1およびその位置異性体とリポ酸を除去し、化合物1で修飾された銀ナノ粒子を得た。得られた化合物1およびその位置異性体で修飾された銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真を
図19に示す。
【0129】
修飾された銀ナノ粒子上の化合物1およびその位置異性体の存在をUV−vis測定により確認した。シアン化カリウムを修飾された銀ナノ粒子溶液に加えると、銀ナノ粒子がK[Ag(CN)
2]に分解されることで表面プラズモンに由来する強い吸収が消失する。修飾された銀ナノ粒子溶液(25μL)に1Mシアン化カリウム水溶液(75μL)を加え、5分間インキュベートして反応を完了させた。反応液のUV−visスペクトルにより銀ナノ粒子に由来する400nm付近の吸収が消失し、化合物1のヘムのビスシアニド錯体の吸収が確認された(
図20)。従って、
図20より、修飾された銀ナノ粒子上の化合物1の存在を確認できた。
【0130】
(2)銀ナノ粒子とシトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質との複合体の合成
50mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.3)に溶解したシトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質(約2μM、24μL、実施例1(3)(ii)で製造)に化合物1およびその位置異性体で修飾された銀ナノ粒子の溶液(銀ナノ粒子約900nM、5μL)を加え、銀ナノ粒子とシトクロムb
562変異体の2量体からヘムが除去されたアポタンパク質との複合体を得た。
【0131】
[比較例2]
50mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.3)に溶解したシトクロムb
562からヘムが除去されたアポタンパク質(約2μM、24μL)に化合物1およびその位置異性体で修飾された銀ナノ粒子の溶液(5μL)を加え、銀ナノ粒子とシトクロムb
562からヘムが除去されたアポタンパク質との複合体を得た。
【0132】
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)による測定
コロジオン支持膜が担持された銅グリッド上に実施例3(2)で得られた複合体の溶液を滴下し、充分乾燥させた。超純水をグリッド上に滴下し、ろ紙で吸水させた。この操作を2回繰り返し、塩を取り除いた。このグリッドをTEM測定装置にセットし、加速電圧100kVにて測定した。得られたTEM写真を
図21(a)および
図21(b)に示す。また、
図22は、比較例2で得られたヘムタンパク質のアポ体との複合体のTEM写真である。
図22では、銀ナノ粒子の集合体の形成は確認できなかった。一方、
図21(a)および
図21(b)において、銀ナノ粒子がヘムタンパク質2量体により会合していること、また、銀ナノ粒子間に2−5nmの隙間が観察されたことから、ヘムタンパク質を介した銀ナノ粒子集合体であることが確認できた。