特許第5649304号(P5649304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649304
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】クオラムセンシング阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/90 20060101AFI20141211BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20141211BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20141211BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20141211BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20141211BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   A01N43/90 103
   A01P3/00
   C07D471/04 117A
   C07D471/04CSP
   A61K31/519
   A61P1/02
   A61P31/04
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2009-541151(P2009-541151)
(86)(22)【出願日】2008年11月12日
(86)【国際出願番号】JP2008070583
(87)【国際公開番号】WO2009063901
(87)【国際公開日】20090522
【審査請求日】2011年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2007-294817(P2007-294817)
(32)【優先日】2007年11月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 裕明
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 潤
【審査官】 太田 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭62−006554(JP,B1)
【文献】 米国特許第04022897(US,A)
【文献】 Journal of Heterocyclic Chemistry,1979年,Vol.16, No.3,p.457-60
【文献】 MESZAROS,Zoltan et al.,4-Oxo-4H-pyrido[1,2-a]pyrimidines,Chemical Abstracts,1976年10月11日,Volume 85, Number 15,p.465, the abstract number 108662m
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/90
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
[式中、RはC1−5アルキル基又はフェニル基を示し、Rは水素原子又はC1−5アルキル基を示す。但し、Rが水素原子を示す場合、Rはメチル基であってはならない。]
で表されるピリミジノン化合物を含有する、緑膿菌及び/又は歯周病原性細菌が行うバイオフィルムの形成阻害及び/又は剥離剤。
【請求項2】
がC2−5アルキル基、Rが水素原子を示すピリミジノン化合物を含有する、請求項1に記載のバイオフィルムの形成阻害及び/又は剥離剤。
【請求項3】
がC1−3アルキル基、RがC1−5アルキル基を示すピリミジノン化合物を含有する、請求項1に記載のバイオフィルムの形成阻害及び/又は剥離剤。
【請求項4】
一般式(1)
【化2】
[式中、RはC1−5アルキル基又はフェニル基を示し、Rは水素原子又はC1−5アルキル基を示す。但し、Rが水素原子を示す場合、Rはメチル基であってはならない。]
で表されるピリミジノン化合物を含有する農園芸用細菌性病害防除剤。
【請求項5】
がC2−5アルキル基、Rが水素原子を示すピリミジノン化合物を含有する、請求項に記載の農園芸用細菌性病害防除剤。
【請求項6】
がC1−3アルキル基、RがC1−5アルキル基を示すピリミジノン化合物を含有する、請求項に記載の農園芸用細菌性病害防除剤。
【請求項7】
がメチル基である、請求項に記載の農園芸用細菌性病害防除剤。
【請求項8】
一般式(1)
【化3】
[式中、RはC1−5アルキル基又はフェニル基を示し、Rは水素原子又はC1−5アルキル基を示す。但し、Rが水素原子を示す場合、Rはメチル基であってはならない。]
で表されるピリミジノン化合物を栽培植物に施用する工程を含む、農園芸用細菌性病害を防除する方法。
【請求項9】
一般式(1)
【化4】
[式中、Rは直鎖状のCアルキル基を示し、Rはメチル基を示す。]
で表されるピリミジノン化合物。
【請求項10】
一般式(1)
【化5】
[式中、Rはメチル基を示し、Rはn−ブチル基を示す。]
で表されるピリミジノン化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クオラムセンシング阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の細菌には自らの細菌数を感知しその病原性の発現を制御する遺伝子ネットワーク(クオラムセンシング)が存在し、日和見感染菌に代表される多くの細菌はクオラムセンシングを利用することで、宿主の防御機構や敵対生物からの攻撃に耐えられるだけの細菌数を確保した後、毒素などの病原性の発現を行うという、集団レベルでの活動を行うことが知られている。
【0003】
一方、細菌性の植物病害は、難防除病害として知られている。一般に市販されているカビ(糸状菌)による植物病害に有効な薬剤は、その大半が細菌性病害に対して有効でなく、僅かに無機又は有機の銅剤、ストレプトマイシン剤、オキソリニック酸、生物農薬等が細菌性病害防除剤として使用されるに止まっている。しかも、これら防除剤を使用しても、作物によっては必ずしも満足できる防除効果が得られていない。さらに、近年、オキソリニック酸の耐性モミ枯細菌病菌の発生が報告される等、細菌性植物病害の防除がますます困難な状況となってきている。なお、細菌性植物病害の原因菌の一種であるモミ枯細菌は、稲に感染後はクオラムセンシングを利用して一斉に毒素を排出し、病害を引き起こすことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、ある種のピリミジノン化合物が中枢神経系興奮剤として使用できることが報告されている。しかしながら、該文献には、細菌性植物病害に対する該ピリミジノン化合物の防除効果について一切記載されておらず、事実、後記試験例1から明らかなように、該文献に具体的に記載されているピリミジノン化合物は細菌性病害に対して防除効果を全く有していない。
【0005】
特許文献2には、ある種のピリミジノン化合物が鎮痛作用を有していることが記載されているが、該文献には、細菌性植物病害に対する該ピリミジノン化合物の防除効果について一切教示していない。
【0006】
特許文献3には、ある種のアミド化合物が細菌類のバイオフィルム(生物膜)形成を調整する作用を有することが報告されている。しかしながら、該文献には、細菌性植物病害に対する該アミド化合物による防除効果について一切記載されておらず、事実、後記試験例から明らかなように、該文献記載のアミド化合物は細菌性病害に対して防除効果を有していない。
【0007】
細菌性植物病害に有効な薬剤の種類が不足している今日において、細菌性植物病害に対して優れた防除効果を有する薬剤の開発が強く要望されているのが実情である。
【特許文献1】特開昭48−36193号公報
【特許文献2】特開昭54−48795号公報
【特許文献3】特表2006−512290号公報
【非特許文献1】Molecular Microbiology, 54(4), 921-934(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細菌性病害に対して極めて有効な防除剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、ある種のピリミジノン化合物が、ある種の細菌類のクオラムセンシングを阻害する効果を有し、より具体的には、細菌の毒素産生を抑制する作用、細菌のバイオフィルムの形成を阻害する作用、及び既に形成されたバイオフィルムを剥離除去する作用を有しており、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、この様な知見に基づき完成されたものである。
【0010】
本発明は、一般式(1)
【0011】
【化1】
【0012】
[式中、RはC1−5アルキル基又はフェニル基を示し、Rは水素原子又はC1−5アルキル基を示す。但し、Rが水素原子を示す場合、Rはメチル基であってはならない。]
で表されるピリミジノン化合物を含有するクオラムセンシング阻害剤を提供する。
【0013】
本発明は、上記一般式(1)で表されるピリミジノン化合物を含有する農園芸用細菌性病害防除剤を提供する。
【0014】
本発明は、上記一般式(1)で表されるピリミジノン化合物を含有するバイオフィルム形成阻害剤を提供する。
【0015】
本発明は、上記一般式(1)で表されるピリミジノン化合物を含有するバイオフィルム剥離剤を提供する。
【0016】
上記一般式(1)において、C1−5アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチル−n−ブチル、2−メチル−n−ブチル、3−メチル−n−ブチル、1,1−ジメチル−n−プロピル、1,2−ジメチル−n−プロピル、2,2−ジメチル−n−プロピル、1−エチル−n−プロピル基等の炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0017】
本発明の有効成分である上記一般式(1)で表されるピリミジノン化合物は、Rが直鎖もしくは分枝鎖状のC2−5アルキル基、Rが水素原子を示すピリミジノン化合物が好ましい。特に、Rが直鎖状のC3−5アルキル基、Rが水素原子を示す一般式(1)で表されるピリミジノン化合物が好ましい。
【0018】
また、本発明の有効成分である上記一般式(1)で表されるピリミジノン化合物は、Rが直鎖もしくは分枝鎖状のC1−3アルキル基、Rが直鎖もしくは分枝鎖状のC1−5アルキル基を示すピリミジノン化合物が好ましく、Rが直鎖状のC1−3アルキル基、Rがメチル基を示すピリミジノン化合物がより好ましい。
【0019】
本発明の有効成分である上記一般式(1)で表されるピリミジノン化合物は、例えば、下記反応式−1に示す方法に従い、化合物(2)と化合物(3)とを、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等)等の溶媒中、還流下に反応させることにより製造され、具体的には後述する製造例に準じて製造することができる。
【0020】
反応式−1
【0021】
【化2】
【0022】
[式中、R及びRは、前記に同じ。RはC1−5アルキル基を示す。]
【0023】
本発明のピリミジノン化合物は、エルヴィニア属、シュードモナス属又はキサントモナス属に属する細菌、例えば、イネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)、イネもみ枯細菌病菌(Pseudomonas glumae)、イネ苗立枯細菌病菌(Pseudomonas plantarii)、キュウリ斑点細菌病菌(Pseudomonas syringae)、カンキツかいよう病菌(Xanthomonas campestris pv. citri)、リンゴ火傷病菌(Erwinia amylovora)、モモ/アンズ穿孔細菌病菌(Xanthomonas campestris pv. pruni)、ウメかいよう病菌(Pseudomonas syringae pv.morsprunorum)、キャベツ黒腐病(Xanthomonas campestris)、アブラナ科野菜の黒斑細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. maculicola)、はくさい軟腐病菌(Erwinia carotovora)、レタス腐敗病(Pseudomonas cicihorii,P. marginars,P. viridiflava)、コンニャクの腐敗病菌(Erwinia carotovora subsp. cartovora)、トマト/なす青枯病菌(Pseudomonas solanacearum)等による病害に対して有効であり、シュードモナス属、特にイネもみ枯細菌病菌に対して優れた防除効果を発揮する。
【0024】
本発明のピリミジノン化合物は、イネもみ枯れ細菌病害菌の毒素産生を阻害する効果を有している(後記試験例9参照)。また、イネもみ枯れ細菌病害菌は、クオラムセンシングにより細菌の酸素耐性機構に関わっているahpF(alkyl hydroperoxide reductase subunit F)と呼ばれる酵素産生を調整しており、それ故、本発明のピリミジン化合物は、イネもみ枯れ細菌病害菌のahpF発現量を阻害し、空気酸化によりもみ枯れ細菌病害菌を自滅させる効果を有している。
【0025】
一般式(1)のピリミジノン化合物を農園芸用細菌性病害防除剤として使用する場合、他の成分を加えずにそのまま防除剤として使用しても良いが、例えば、固体状、液体状、ガス状等の各種担体と混合し、更に必要に応じて界面活性剤、固着剤、分散剤、安定剤等の製剤用補助剤等を添加して、乳剤、水和剤、ドライフロアブル剤、フロアブル剤、水溶剤、粒剤、微粒剤、顆粒剤、粉剤、塗布剤、スプレー用製剤、エアゾール製剤、マイクロカプセル製剤、燻蒸用製剤、燻煙用製剤等の各種製剤形態に製剤して用いても良い。
【0026】
これらの製剤において、有効成分である一般式(1)のピリミジノン化合物の含有量は、その製剤形態、使用場所等の各種条件に応じて、幅広い範囲から適宜選択すれば良いが、製剤全体量に対して、通常0.01〜95重量%程度、好ましくは0.1〜50重量%程度とすれば良い。
【0027】
本発明の製剤中に混合され得る固体状の担体としては、例えば、カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等の粘土類、タルク類、セラミック、セライト、石英、硫黄、活性炭、炭酸シリカ、水和シリカ等の無機鉱物、化学肥料等の微粉末、粒状物等が挙げられる。
【0028】
また、本発明の製剤中に混合され得る液体状の担体としては、例えば、水、アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;n−ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等の脂肪族乃至脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル;ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の酸アミド;ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;ジメチルスルホキシド、大豆油、綿実油等の植物油等が挙げられる。
【0029】
本発明の製剤中に混合され得るガス状の担体としては、一般に噴射剤として用いられているものを用いればよく、例えば、ブタンガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、炭酸ガス等が挙げられる。
【0030】
製剤中に混合され得る界面活性剤としては、例えば、ボリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン界面活性剤;アルキルベンゼンスルホネート、アルキルスルホサクシネート、アルキルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート、アリルスルホネート、リグニン亜硫酸塩等の陰イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
固着剤及び分散剤としては、例えば、カゼイン、ゼラチン、多糖類(澱粉、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、糖類、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)等が挙げられる。
【0032】
安定剤としては、例えば、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノールと3−tert−ブチル−4−メトキシフェノールとの混合物)、植物油、鉱物油、界面活性剤、脂肪酸又はそのエステル等が挙げられる。
【0033】
本発明の製剤は、有機染料及び/又は無機染料を用いて着色しても良い。
【0034】
本発明の製剤は、そのまま用いても良いし、水等の溶媒で希釈して用いても良い。粒剤、粉剤等の場合は、通常、希釈することなくそのまま使用される。また、乳剤、水和剤、フロアブル剤等を水等の溶媒で希釈して使用する場合には、通常、有効成分濃度が0.0001〜100重量%程度、好ましくは0.001〜10重量%程度となるようにすれば良い。
【0035】
本発明の農園芸用細菌性病害防除剤は、他の除草剤、殺虫剤、殺線虫剤、殺ダニ剤、殺菌剤、植物成長調節剤、共力剤、土壌改良剤等と予め混合して製剤化しても良い。また、本発明の製剤と上記各剤とを、使用の際に併用しても良い。
【0036】
本発明の農園芸用細菌性病害防除剤を栽培植物に施用する方法としては、例えば、地上液剤散布、地上固形散布、空中液剤散布、空中固形散布、液面散布、施設内施用、土壌混和施用、土壌潅中施用、表面処理(種子粉衣、塗布処理等)、育苗箱施用、単花処理、株元処理等の方法を挙げることができる。従来、細菌性植物病害に対しては予防的に種子処理(消毒)されることが多いが、本発明の農園芸用細菌性病害防除剤は、発生が観察された時点で茎葉散布によっても効果を発現することができ、多様な処理方法を選択できる。
【0037】
本発明の農園芸用細菌性病害防除剤に使用されるピリミジノン化合物の施用量は、特に制限されず、製剤の形態、施用方法、施用時期、施用場所、施用作物の種類、細菌の種類等の各種条件に応じて広い範囲から適宜選択されるが、通常、100mあたり0.1g〜1000g程度、好ましくは10〜500g程度である。また、乳剤、水和剤、フロアブル剤等を水で希釈して用いる場合は、その施用濃度は、通常1〜1000ppm程度、好ましくは10〜500ppm程度である。粒剤、粉剤等は、通常、希釈することなく製剤のままで施用される。
【0038】
本発明のクオラムセンシング阻害剤は、農園芸用細菌性病害菌に対する防除効果に止まらず、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、歯周病原性細菌(Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythensis、Actinobacillus actinomycetemcomitans、Prevotella intermedia、Eikenella corrodens、Campyrobacter rectus、Fusobacterium necleatum、Treponema denticola、Actinomyces naeslundii、Streptococcus mutans)、鼻疽菌(Burkholderia mallei)及び類鼻疽菌(Burkholderia mallei)等に対しても防除効果を発現することができる。
【0039】
緑膿菌及び歯周病原性細菌は、クオラムセンシングによりバイオフィルム(「生物膜」とも呼ばれる)を形成することが知られている。バイオフィルムは、微生物が分泌生成する粘液質のフィルムで、その中に複数種類の微生物が共存して複合体(群生)を形成し、固体の表面に付着した状態のものをいう。言い換えれば、バイオフィルムは、微生物が分泌排泄するスライムで囲まれた微生物の集合体である。本発明のピリミジン化合物は、緑膿菌もしくは歯周病原性細菌が行うバイオフィルムの形成を阻害する効果(バイオフィルム形成阻害効果)又は既に形成されたバイオフィルムを剥離除去する効果(バイオフィルム剥離効果)を有している。一方、鼻疽菌及び類鼻疽菌は、もみ枯れ細菌病害菌と同様に明確なバイオフィルム形成は行わないが、クオラムセンシングにより毒素産生を調整している。本発明のピリミジン化合物は、鼻疽菌及び類鼻疽菌のクオラムセンシングを阻害する効果を有している。
【0040】
バイオフィルム形成を阻害し、更にはその形成したバイオフィルムを除去剥離するという特有の効果を有するため、適用範囲が広範囲に亘り、中でも難治性のバイオフィルム感染症に対して有効に使用することができ、当該感染症の根本的治療への多大な貢献が期待できる。
【0041】
例えば、緑膿菌は自然環境中に常に存在しており、わずかな有機物と水分があれば増殖してバイオフィルムを形成するため、院内感染、菌交代症、日和見感染等を起こす原因となったり、水道管等の配管、貯水槽内等の衛生環境の悪化原因となっている。また、歯周病原性細菌が形成するプラークはバイオフィルムの形態をとっており、う蝕、歯周病、歯槽膿漏等の口腔内疾患及び口臭等の病因となっており、かかるプラークを除去することが口腔衛生及びこれらの口腔内疾患の治療において重要であることは従来より周知となっているが、バイオフィルムは、殺菌剤等の薬剤に対して防御膜のような働きがあり、その薬剤の効力が発揮されにくいという問題がある。
【0042】
本発明のクオラムセンシング阻害剤を使用することにより、病院施設;家庭、工場等の配管;貯水槽内等で緑膿菌のバイオフィルム形成を阻害し、また既に形成したバイオフィルムの除去を促進して、衛生環境を整え、院内感染、その他種々の障害を効果的に予防又は治療することが可能となる。また、本発明のクオラムセンシング阻害剤は、歯、歯肉、口腔内の歯科材料等で歯周病原性細菌のバイオフィルムの形成を阻害し、また表面に付着形成したバイオフィルムの除去を促進して、う蝕等の歯科疾患、歯周炎、歯槽膿漏等の歯周疾患、口内炎等の口腔内疾患等を効果的に予防又は治療することが可能となる。
【0043】
一般式(1)で表されるピリミジノン化合物は、後述する試験例で示すようにバイオフィルムの除去作用及びバイオフィルム形成阻害作用を有する。従って、一般式(1)で表されるピリミジノン化合物は、バイオフィルムの除去剥離又は形成阻害を目的に使用される組成物(バイオフィルム剥離剤又はバイオフィルム形成阻害剤)の有効成分として有用である。
【0044】
一般式(1)で表されるピリミジノン化合物は、バイオフィルムを形成する細菌及び形成したバイオフィルムに対して有効であるが、特に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)や歯周病原性細菌及びそれらが形成するバイオフィルムに対して優れたバイオフィルム剥離効果及びバイオフィルム形成阻害効果を発揮する。
【0045】
従って、一般式(1)で表されるピリミジノン化合物を有効成分とするバイオフィルム剥離剤又はバイオフィルム形成阻害剤を提供する(以下、これらバイオフィルム剥離剤又はバイオフィルム形成阻害剤を総称して、「製剤」ともいう)。
【0046】
本製剤は、一般式(1)で表されるピリミジノン化合物だけからなるものであってもよいし、又は、任意の担体や添加剤と組み合わせて、従来公知の方法で所望の用途に適した形態に調製した組成物であってもよい。本製剤の形態としては、制限されないが、例えば錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤、粉末シロップ剤及びカプセル剤(硬カプセル及び軟カプセル)等の固体状の製剤;クリーム、軟膏及びジェル等のペースト状又はゲル状の製剤;液剤、懸濁剤、乳液剤、シロップ、エリキシル剤、噴霧剤及びエアゾール等の液体状の製剤、等とすることができる。
【0047】
本製剤に配合する一般式(1)で表されるピリミジノン化合物の割合としては、バイオフィルム除去剥離作用又はバイオフィルム形成阻害作用を発揮する割合であれば特に制限されず、製剤100重量%中、0.001〜99重量%、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.05〜10重量%の範囲で適宜設定調製することができる。
【0048】
本製剤は、一般式(1)で表されるピリミジノン化合物を、バイオフィルム除去剥離効果又はバイオフィルム形成阻害効果を発揮する割合で含むものであればよく、この効果を妨げない範囲で他成分を配合することもできる。かかる他成分は、バイオフィルム剥離剤又はバイオフィルム形成阻害剤の使用目的や使用対象の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、制限されないが、かかる他成分には、賦形剤、結合剤、分散剤、増粘剤、滑沢剤、pH調整剤、可溶化剤等の一般に製剤の製造に使用される担体のほか、抗生物質、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、ビルダー、漂白剤、酵素、キレート剤、消泡剤、着色料(染料、顔料等)、柔軟剤、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、矯味剤、矯臭剤、溶媒等が含まれる。
【0049】
本製剤は、一般式(1)で表されるピリミジノン化合物に加えて、例えば塩酸ミノサイクリン等のテトラサイクリン系殺菌剤、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム等のカチオン性殺菌剤、マクロライド系抗生物質等の抗菌又は殺菌剤を含有することが好ましい。
【0050】
また本製剤には、かかる抗菌又は殺菌剤の活性を向上させる化合物、例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸;ファルネソール、トランスグルコシダーゼ、CGTase等のデンプン改変酵素、α−アミラーゼ等のデンプン加水分解酵素の酵素を併用して配合することもできる。
【0051】
本製剤は、バイオフィルムが形成され、当該バイオフィルムの形成によって障害を生じる場所に対して広く適用することができる。
【0052】
使用方法としては、産業用設備や循環式浴槽等におけるバイオフィルムに対しては、懸濁剤、水和剤、水溶剤を配管等に循環させたり、局所的にスプレーする方法やタンクや浴槽等に高濃度液や錠剤、粉剤、粒剤等の固形剤を投入してタンク内等の水で希釈又は溶解して施用する方法等が考えられる。また、医薬として使用する場合には、経口、非経口又は局所投与に適したいずれかの適当な形、特に口腔用の場合には洗口剤とすることができる。
【0053】
本製剤の使用量は、使用する場所、剤形、特に徐放性剤の場合等によって異なるため、一概に規定することはできないが、例えば本製剤をバイオフィルム感染症の予防又は治療目的で使用する場合、適当な1日の投与量としては、上記本発明のアミド化合物又はその塩の投与量に換算して、通常、1ng/ml〜100mg/ml、好ましくは10ng/ml〜10mg/ml程度の範囲で適宜設定調整することができる (例えば、ヒトの場合には総量およそ300mg)。
【0054】
本発明は、上記バイオフィルム剥離剤又はバイオフィルム形成阻害剤を含有する口腔用組成物を提供する。本発明は、一般式(1)で表されるピリミジノン化合物を有効成分とするバイオフィルム剥離剤又はバイオフィルム形成阻害剤が、特に口腔内細菌が有する口腔内細菌が形成するバイオフィルムを除去剥離する作用又は口腔内細菌のバイオフィルム形成能を阻害する作用を有することに基づくものである。
【0055】
ここで本発明が対象とする口腔用組成物としては、練歯磨剤、粉歯磨剤、液状歯磨剤、潤製歯磨剤等の歯磨剤;トローチ状、錠剤状、液状、ガム状、グミ状、フィルム状等の口中清涼剤や洗口剤;クリーム状、軟膏状又はジェル状の形態を有する歯肉用の製剤;トローチ;チューインガム;液状又は粉末や錠剤のうがい薬;錠剤や発泡剤等の義歯や歯科材料用の洗浄剤等が含まれる。
【0056】
口腔用組成物に配合するバイオフィルム剥離剤又はバイオフィルム形成阻害剤の割合としては、バイオフィルム剥離剤又はバイオフィルム形成阻害剤の有効成分である一般式(1)で表されるピリミジノン化合物の含有量(総量)が、組成物100重量%中に0.001〜99重量%以上、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.05〜10重量%の割合を挙げることができる。
【0057】
本口腔用組成物 には、その種類や形態に応じて、上記成分に加えて、必要により以下の成分を通常の使用量の範囲内で配合することができる。
【0058】
<研磨剤>
シリカゲル、沈降性シリカ、火成性シリカ、含水ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸チタニウム、ゼオライト、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤;第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム二水和物、第二リン酸カルシウム無水和物、ピロリン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カルシウム、酸化チタン、及び合成樹脂系研磨剤等。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。かかる研磨剤を配合する場合(例えば、歯磨剤等)、配合量は特に制限されないが、口腔用組成物100重量%中に3〜80重量%、好ましくは10〜50重量%の範囲を例示することができる。
【0059】
<湿潤剤又は粘稠剤>
グリセリン、濃グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール;キシリトール、マルチトール、ラクトール等の糖アルコール等。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0060】
<粘結剤>
アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルシウム含有アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩及びその誘導体;カラギーナン(ι、λ、κ)、キサンタンガム、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、グァーガム等のガム類;カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロースナトリウム等のセルロース類;ゼラチン、寒天、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、カーボポール、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、増粘性シリカ等。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。かかる粘結剤を配合する場合(例えば、歯磨剤等)、配合量は特に制限されないが、口腔用組成物100重量%中に0.1〜10重量%程度の範囲を例示することができる。
【0061】
<発泡剤>
ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸モノグリセリンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、N-アシルグルタメート等のN-アシルアミノ酸塩、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、マルチトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0062】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤のいずれもが使用できる。
【0063】
アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、N−ミリストイルザルコシン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタルミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタメート、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム等のN−アシルタウレート等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ラクトール脂肪酸エステル等の糖アルコール脂肪酸エステル、アルキロールアマイド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ラウリル酸モノ又はジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プルロニック等が挙げられる。また、両性イオン界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−ラウリルジアミノエチルグリシン、N−ミリスチルジアミノエチルグリシン等のN−アルキルジアミノエチルグリシンあるいはN−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウム等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0064】
<甘味剤>
サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、グリチルチリン、ソーマチン等。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0065】
<防腐剤>
メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類;安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0066】
<香料成分>
1−メントール、アネトール、メントン、シネオール、リモネン、カルボン、メチルサリシレート、エチルブチレート、オイゲノール、チモール、n−デシルアルコール、シトロネロール、α−テレピネオール、シトロネリルアセテート、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、チモール、ペパーミント、シンナミックアルデヒド、トランス-2-ヘキセナール等。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。なお、これらの成分は純品(精製物)として用いることもできるが、これに限らず、これらを含有する精油等の粗精製物の状態で配合することもできる(例えば、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、桂皮油、ピメント油、桂葉油、シソ油、冬緑油、チョウジ油、ユーカリ油等)。
【0067】
また、上記香料成分に加え、脂肪族アルコールやそのエステル、テルペン系炭化水素、フェノールエーテル、アルデヒド、ケトン、ラクトン等の香料成分や精油を本発明の効果を妨げない範囲で配合してもよい。香料成分を配合する場合、その配合量としては、口腔用組成物全体100重量%中0.02〜2重量%の範囲を例示することができる。
【0068】
<抗菌成分>
銀、銅及び亜鉛等の抗菌性金属又はその水難溶性金属塩(例えば、酸化銀、塩化銀、炭酸銀、リン酸銀、水酸化銅、グルコン酸銅、酸化亜鉛、クエン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛、水酸化亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛等);銅クロロフィル、セチルピリジウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、ヒノキチオール、塩化リゾチーム等。
【0069】
<防腐成分>
各種パラベン、安息香酸ナトリウム、トリクロサン等の非イオン性抗菌剤;塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性抗菌剤等。
【0070】
<口腔用有効成分>
塩化リゾチーム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール,ポリビニルピロリドン、ヒノキチオール、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩類、クロルヘキシジン塩類、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ビサボロール、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、酢酸トコフェロール、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アルミニウムヒドロキシルアラントイン、乳酸アルミニウム、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸塩類、銅クロロフィリン塩、塩化ナトリウム、グァイアズレンスルホン酸塩、デキストラナーゼ、塩酸ピリドキシン、トラネキサム酸、塩化ナトリウム、ビタミンCやE、各種酵素(例えば、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテナーゼ、ムタナーゼ、ペクチナーゼ等)、アズレン、ポリリン酸塩等の歯石予防剤、ポリエチレングリコールやポリビニルピロリドン等のタバコヤニ除去剤、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム等の近く過敏予防剤等。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0071】
<その他>
青色1号等の色素、酸化チタン等の顔料、ジブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤、チャ乾留液、グルタミン酸ナトリウム等の矯味剤等。
【0072】
なお、本口腔用組成物は、常法に従って製造することができ、その製造方法は特に限定されるものではない。また、得られた練歯磨剤等の口腔用組成物は、アルミニウムチューブ、ラミネートチューブ、ガラス蒸着チューブ、プラスチックチューブ、プラスチックボトル、エアゾール容器等に充填された形で製造され、また販売され、使用時にそれから取りだして使用することができる。
【0073】
本口腔用組成物によれば、口腔内細菌による口腔内でのバイオフィルム形成を抑制し、また形成されたバイオフィルムを除去することができるため、細菌叢の生成を防止し、また抗菌剤を同時に配合する場合には当該抗菌効果を高めることによって、プラーク形成抑制効果及び抗菌効果に優れた口腔用組成物を提供することができる。従って、本発明の口腔用組成物は、う蝕(虫歯)、歯周炎や歯周疾患(例えば、歯槽膿漏等)の口腔用疾患の予防又は治療に有効に利用することができる。また本発明の口腔用組成物は、う蝕(虫歯)、歯周炎や歯周疾患(例えば、歯槽膿漏等)の原因とする口臭の予防又は除去に有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0074】
一般式(1)のピリミジノン化合物は、難防除である細菌性植物病害に対して優れた防除効果を有している。一般式(1)のピリミジノン化合物は、特に、もみ枯細菌等の毒素産生を極めて効果的に抑制できる。従って、一般式(1)のピリミジノン化合物は、農園芸用細菌性病害防除剤として好適に使用され得る。
【0075】
更に、一般式(1)のピリミジノン化合物は、緑膿菌、歯周病原性細菌等のクオラムセンシングに作用し、バイオフィルム形成阻害剤又はバイオフィルム剥離剤として好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1図1は、試験例2において、24時間及び36時間培養後の培養液中に存在する生菌数を示すグラフである。
図2図2は、試験例3において、化合物(1)の供試濃度毎の培養時間と生菌数との関係を示すグラフである。
図3図3は、試験例4において、化合物(1)についての供試濃度(μM)と毒素量(μg/ml)との関係を示すグラフである。
図4図4は、試験例7及び試験例8で使用されるフローセルシステムを示す概略図である。
図5図5は、試験液を用いた場合のバイオフィルム形成状況を対照試験液用いた場合のバイオフィルムの形成状況(control)と対比した試験例7の結果を示す図面である。
図6図6は、試験例9において、化合物(1)及び比較化合物(5)についての供試濃度(μM)と毒素量(μg/ml)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1:培地瓶(Nunc社製品)
2:ポンプ(4チャンネルペリスタポンプ、ISMATEC社製品ISM935)
3:空気除去部(コック付きガラスカラムを転用)
4:ガラスセル(観察用ガラスキャピラリ1mm×1mm×14mm、BioSurface Technology社製品FC91)
5:廃液タンク(Nunc社製品)
6:シリコンチューブ(φ1.5mm)
7a、7b:三方活栓(テルモ社製品)
8a、8b:メンブレンフィルター(0.44μm、ミリポア社製品)
9:培地
10:廃液
【実施例】
【0078】
以下に、一般式(1)のピリミジノン化合物の製造例及び試験例を挙げて、本発明を一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
製造例1 2−n−プロピル−9−ヒドロキシ−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(1)」という)の合成
3−ヒドロキシ−2−アミノピリジン3.13g(28.5mmol)及び3−オキソヘキサン酸エチルエステル4.50g(28.5mmol)をキシレン15mlに溶解し、得られる溶液を室温で約12時間撹拌した後、加温して還流下に約16時間反応させた。反応液を冷却した後、反応液を減圧濃縮し、得られた残渣を酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=9/1)で精製して、化合物(1)を得た。
【0080】
【化3】
【0081】
収量:3.8g(18.5mmol)
収率:65%
H−NMR(CDCl,500MHz):1.01ppm(t,3H),1.76ppm(m,2H),2.66ppm(m,2H),6.32ppm(s,1H),7.02ppm(m,1H),7.14ppm(m,1H),7.26ppm(s,1H),8.53ppm(m,1H)。
【0082】
製造例2 9−ヒドロキシ−2−n−ペンチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(2)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに3−オキソオクタン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(2)を得た。
【0083】
【化4】
【0084】
収量:3.0g(13.1mmol)
収率:46%
H−NMR(CDCl,500MHz):0.92ppm(t,3H),1.37ppm(m,4H),1.74ppm(m,2H),2.67ppm(m,2H),6.32ppm(s,1H),7.03ppm(m,1H),7.13ppm(m,1H),7.26ppm(s,1H),8.52ppm(m,1H)。
【0085】
製造例3 3−エチル−9−ヒドロキシ−2−メチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(3)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに2−アセチルブタン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(3)を得た。
【0086】
【化5】
【0087】
収量:3.7g(18.0mmol)
収率:63%
H−NMR(CDCl,500MHz):1.22ppm(t,3H),2.55ppm(s,3H),2.77ppm(m,2H),7.02ppm(m,1H),7.10ppm(m,1H),7.31ppm(s,1H),8.51ppm(m,1H)。
【0088】
製造例4 3−n−ブチル−9−ヒドロキシ−2−メチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(4)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに2−アセチルヘキサン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(4)を得た。
【0089】
【化6】
【0090】
収量:4.4g(18.8mmol)
収率:66%
H−NMR(CDCl,500MHz):0.98ppm(t,3H),1.45ppm(m,2H),1.56ppm(m,2H),2.52ppm(s,3H),2.72ppm(m,2H),6.99ppm(m,1H),7.06ppm(m,1H),7.28ppm(s,1H),8.48ppm(m,1H)。
【0091】
製造例5 9−ヒドロキシ−2−イソプロピル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(5)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに3−オキソ−4−メチル−ペンタン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(5)を得た。
【0092】
【化7】
【0093】
収量:1.9g(9.1mmol)
収率:32%
H−NMR(CDCl,500MHz):1.30ppm(m,6H),2.97ppm(m,1H),6.18ppm(s,1H),7.02ppm(m,1H),7.13ppm(m,1H),7.34ppm(s,1H),8.50ppm(m,1H)。
【0094】
製造例6 9−ヒドロキシ−2−tert−ブチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(6)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに3−オキソ−4、4−ジメチル−ペンタン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(6)を得た。
【0095】
【化8】
【0096】
収量:4.7g(21.7mmol)
収率:76%
H−NMR(CDCl,500MHz):1.39ppm(m,9H),6.53ppm(s,1H),7.02ppm(m,1H),7.16ppm(m,1H),7.49ppm(s,1H),8.52ppm(m,1H)。
【0097】
製造例7 9−ヒドロキシ−2−フェニル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(7)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに3−オキソ−3−フェニル−プロパン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(7)を得た。
【0098】
【化9】
【0099】
収量:547mg(2.3mmol)
収率:8%
H−NMR(CDCl,500MHz):7.00ppm(s,1H),7.10ppm(m,1H),7.21ppm(m,1H),7.52ppm(m,3H),8.08ppm(m,2H),8.58ppm(m,1H)。
【0100】
製造例8 9−ヒドロキシ−2−エチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(8)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに3−オキソペンタン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(8)を得た。
【0101】
【化10】
【0102】
収量:2.6g(13.7mmol)
収率:48%
H−NMR(CDCl,500MHz):1.33ppm(t,3H),2.61ppm(m,2H),6.28ppm(s,1H),6.85ppm(m,1H),7.04ppm(m,1H),8.52ppm(m,1H)。
【0103】
製造例9 9−ヒドロキシ−2−n−ブチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(9)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに3−オキソヘプタン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(9)を得た。
【0104】
【化11】
【0105】
収量:2.4g(11.1mmol)
収率:39%
H−NMR(CDCl,500MHz):0.96ppm(t,3H),1.41ppm(m,2H),1.73ppm(m,2H),2.68ppm(m,2H),6.32ppm(s,1H),7.02ppm(m,1H),7.15ppm(m,1H),8.52ppm(m,1H)。
【0106】
製造例10 9−ヒドロキシ−2−イソブチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(10)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに5−メチル−3−オキソヘキサン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(10)を得た。
【0107】
【化12】
【0108】
収量:3.7g(16.8mmol)
収率:59%
H−NMR(CDCl,500MHz):0.97ppm(m,6H),2.18ppm(m,1H),2.54ppm(m,2H),6.30ppm(s,1H),7.04ppm(m,1H),7.10ppm(m,1H),8.53ppm(m,1H)。
【0109】
製造例11 2−sec−ブチル−9−ヒドロキシ−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(11)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに4−メチル−3−オキソヘキサン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(11)を得た。
【0110】
【化13】
【0111】
収量:2.6g(11.8mmol)
収率:41%
H−NMR(CDCl,500MHz):0.89ppm(t,3H),1.28ppm(t,3H),1.62ppm(m,1H),1.78ppm(m,1H),2.67ppm(m,1H),6.33ppm(s,1H),7.03ppm(m,1H),7.11ppm(m,1H),8.52ppm(m,1H)。
【0112】
製造例12 9−ヒドロキシ−2−(2−ペンチル)−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「化合物(12)」という)の合成
3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに4−メチル−3−オキソヘプタン酸エチルエステルを使用する以外は製造例1と同様に操作して、化合物(12)を得た。
【0113】
【化14】
【0114】
収量:1.9g(8.0mmol)
収率:28%
H−NMR(CDCl,500MHz):0.90ppm(t,3H),1.29ppm(m,4H),1.55ppm(m,1H),1.73ppm(m,1H),2.77ppm(m,1H),6.32ppm(s,1H),7.02ppm(m,1H),7.09ppm(m,1H),8.52ppm(m,1H)。
【0115】
比較製造例1 2−n−プロピル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「比較化合物(1)」という)の合成
3−ヒドロキシ−2−アミノピリジンの代わりに2−アミノピリジンを使用し、反応溶媒をキシレンの代わりにポリリン酸を使用する以外は製造例1と同様に操作して、比較化合物(1)を得た。
【0116】
【化15】
【0117】
収量:1.3g(6.8mmol)
収率:24%
H−NMR(CDCl,500MHz):1.00ppm(t,3H),1.80ppm(m,2H),2.67ppm(m,2H),6.36ppm(s,1H),7.11ppm(m,1H),7.61ppm(m,1H),7.74ppm(m,1H),9.05ppm(m,1H)。
【0118】
比較製造例2 2−n−ペンチル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「比較化合物(2)」という)の合成
3−ヒドロキシ−2−アミノピリジンの代わりに2−アミノピリジンを使用し、3−オキソヘキサン酸エチルエステルの代わりに3−オキソオクタン酸エチルエステルを使用し、反応溶媒をキシレンの代わりにポリリン酸を使用する以外は製造例1と同様に操作して、比較化合物(2)を得た。
【0119】
【化16】
【0120】
収量:1.7g(8.0mmol)
収率:28%
H−NMR(CDCl,500MHz):0.89ppm(t,3H),1.36ppm(m,4H),1.74ppm(m,2H),2.67ppm(m,2H),6.37ppm(s,1H),7.11ppm(m,1H),7.60ppm(m,1H),7.71ppm(m,1H),9.02ppm(m,1H)。
【0121】
比較製造例3 9−メトキシ−2−n−プロピル−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン(以下この化合物を「比較化合物(3)」という)の合成
3−ヒドロキシ−2−アミノピリジンの代わりに3−メトキシ−2−アミノピリジンを使用し、反応溶媒をキシレンの代わりにポリリン酸を使用する以外は製造例1と同様に操作して、比較化合物(3)を得た。
【0122】
【化17】
【0123】
収量:1.6g(7.4mmol)
収率:26%
H−NMR(CDCl,500MHz):1.00ppm(m,3H),1.79ppm(m,2H),2.74ppm(m,2H),4.06ppm(s,1H),6.39ppm(s,1H),7.00ppm(m,2H),8.69ppm(m,1H)。
【0124】
試験例1
もみ枯細菌(Pseudomonas(=Burkholderia) glumae)をLB培地(BD社製 Difco LB Broth:tryptone 10.0g,Yeast Extract 5.0g,Sodium Chloride 10.0g)に接種し、37℃で一晩培養した。培養した菌液を遠心機にかけて集菌した後、2回新しいLB培地で洗浄し、化合物(1)の40μMもしくは60μMの0.4%ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液又は比較試験用に化合物(1)を含まない0.4%DMSOを加えたLB培地を加えて12又は24時間振とう培養した。各菌液を0.22μmのメンブレンフィルターで濾過し、細菌を取り除いた0.5mlの上清液に0.5mlの酢酸エチルを加え、クオラムセンシング(QS)シグナル分子を酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を減圧濃縮し、残渣を再度20μlのメタノールに溶解し、これを試験液とした。
【0125】
1μlの試験液をTLCにスポットし、展開溶媒:メタノール/水=70/30の条件でQSシグナル分子であるC6−HSLとC8−HSLを分離した。展開後はTLC板をよく乾燥し、予めLB培地培養したQSシグナル分子検出細菌(Chromobacterium violaceum CV026株)と寒天を含んだ培養液をTLC板に塗布して、C6−HSLとC8−HSLの検出を行った。Chromobacterium violaceumはQSを利用して紫色の色素(violacein)を産生する細菌として知られており、CV026株を用いるとQSシグナル分子の検出の利用に用いることができる(Microbiology, (1997), 143, 3703-3711、(2004), 54(4), 921-934、(2007), 64(1), 165-179)。検出細菌塗布後、28℃で一晩培養し、violaceinによる検出を行った。定量には予め化学合成したC6−HSLとC8−HSLからviolacein産生の検量線を作成し、その検量線からそれぞれのQSシグナル分子の産生量を求めた。結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
試験例2
もみ枯細菌をLB培地に接種し、37℃で一晩培養した。培養液を遠心機にかけて集菌した後、菌体を新しいLB培地で2回洗浄した。その菌体に新しいLB培地を加え、約3.0×10cfu/mlに調整した後、製造例1〜5で製造した化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)、化合物(5)、化合物(8)及び化合物(9)をそれぞれ最終濃度が100μM濃度となるように加えて36時間振とう培養した。24時間及び36時間におけるその培養液中に存在する生菌数を次の方法で求めた。即ち、培養液を一部抜き取り1千倍希釈した後にLB培地寒天プレートに撒き、そのコロニー数を数えて換算した。
【0128】
また、比較試験として、参考例1〜3で製造した比較化合物(1)〜(3)及び上記特許文献1に記載の下記化合物(比較化合物(4))を用い、同様に試験を行い、生菌数を求めた。結果を図1に示す。
【0129】
【化18】
【0130】
図1から、本発明のピリミジノン化合物(化合物(1)〜化合物(5)、化合物(8)及び化合物(9))は、もみ枯細菌に対して優れた防除活性を発現し、36時間培養後ではもみ枯細菌を殆ど死滅できること及び比較化合物(1)〜比較化合物(4)は、もみ枯細菌に対して防除活性を殆ど発現していないことが分かる。
【0131】
試験例3
もみ枯細菌をLB培地に接種し、37℃で一晩培養した。培養液を遠心機にかけて集菌した後、菌体を新しいLB培地で2回洗浄した。その菌体に新しいLB培地を加え、約3.0×10cfu/mlに調整した後、製造例1で製造した化合物(1)を最終濃度が所定濃度(0、80及び100μM)となるように加えて40時間振とう培養した。所定時間後(20、24、28、32、36及び40時間後)におけるそれぞれの培養液中に存在する生菌数を次の方法で求めた。即ち、培養液を一部抜き取り1千倍希釈した後にLB培地寒天プレートに撒き、そのコロニー数を数えて換算した。結果を図2に示す。
【0132】
図2から、本発明のピリミジノン化合物(化合物(1))は、もみ枯細菌に対して優れた防除活性を有していることが分かる。
【0133】
試験例4
もみ枯細菌をLB培地に接種し、37℃で一晩培養した。培養液を遠心機にかけて集菌した後、菌体を新しいLB培地で2回洗浄した。その菌体に新しいLB培地を加え、次いで製造例1で製造した化合物(1)を最終濃度が所定濃度(0、20、40、60、80及び100μM)となるように加えて20時間振とう培養した。その培養液中に菌体が産生する毒素(toxoflavin)量を以下の手順で求めた。
【0134】
各培養液を0.22μmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を1ml採り、クロロホルム1mlを加えて、抽出した。得られたクロロホルム層を減圧濃縮し、残渣に80%(V/V)メタノール水溶液を加えて溶解させた。その溶解液の吸光度(260nm)を測定し、化学合成された毒素標品から得られた検量線から毒素量を算出した。
【0135】
結果を図3に示す。
【0136】
図3から、製造例1で製造した化合物(1)をもみ枯細菌に加えた場合、細菌が産生する毒素量は、化合物(1)の濃度を高くするに従い顕著に減少することが分かる。
【0137】
試験例5
化合物(1)のジメチルホルムアミド1000ppm溶液を所定濃度(50、100及び200μM)となるように水で希釈して試験液を調製した。一方、もみ枯細菌をLB培地に接種し、37℃で一晩培養して、感染用培養液を調製した。
【0138】
温室で開花時期まで栽培したイネ(韓国品種、Milyang 23)に、各試験液を10ml噴霧した。1時間後、そのイネに感染用培養液を噴霧し、7日間栽培後のもみ枯細菌病の発症状態を評価した。
【0139】
評価は、1株から任意に穂1本、計3本を採り、個々の花房(子実)において、もみ枯細菌の産生する毒素(toxoflavin)によって病害の発症した(茶色く変色した)部分の占める割合を目視で以下の基準によって評点し、全花房中の各評点の割合を示すことで発症状態を示した。
【0140】
(評点の基準)
発症した部分の占める割合が
0.1%未満のとき:0
0.1%以上20%未満のとき:1
20%以上40%未満のとき:2
40%以上60%未満のとき:3
60%以上80%未満のとき:4
80%以上100%のとき:5
【0141】
この評価では、同じ条件を3個用意して行い、3回繰り返して再現性を確認した。また、比較試験として、試験液を水に代えて同様に処理した。更に、ブランクとして、試験液及び感染用培養液を水に代えて同様に処理した。
結果を表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
表2から次のことがわかる。化合物(1)を含む試験液をイネに噴霧した場合、そのイネにもみ枯細菌を含む感染用培養液を噴霧した場合でも、もみ枯細菌病の発生を抑えることができた。一方、イネに水を噴霧した後に、もみ枯細菌を含む感染用培養液を噴霧した比較試験の場合、多くのイネでもみ枯菌病が発生した。
【0144】
試験例6
試験例5と同様にして試験液及び感染用培養液を調製した。温室で開花時期まで栽培したイネ(韓国品種、Milyang 23)に、感染用培養液を噴霧し、1時間後、各試験液を10ml噴霧した。そのイネに7日間栽培後のもみ枯細菌病の発症状態を試験例4と同様に評価した。また、比較試験として、試験液を水に代えて同様に処理した。更に、ブランクとして、試験液及び感染用培養液を水に代えて同様に処理した。結果を表3に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
表3から次のことが分かる。イネにもみ枯細菌を含む感染用培養液を噴霧した後に、化合物(1)を含む試験液をイネに噴霧した場合も、上記試験例4と同様に、もみ枯細菌病の発生を抑えることができた。一方、イネにもみ枯細菌を含む感染用培養液を噴霧した後に、イネに水を噴霧した比較試験の場合、多くのイネでもみ枯菌病が発生した。
【0147】
試験例7
図4に示すフローセルシステムを用いて、上記製造例2で製造した化合物(2)の緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)バイオフィルム形成阻害作用を評価した。
【0148】
<フローセルシステム>
培地瓶(1)、ペリスタポンプ(2)、ガラスセル(4)及び廃液瓶(5)をシリコンチューブ(6)で結び、培地瓶(1)中の培地(9)をペリスタポンプ(2)によってガラスセル(4)内に送ることができる。ペリスタポンプ(2)と活栓(7a)との間には、混入する空気を除去する空気除去部(3)を備えている。本フローセルシステムに用いる器具はあらかじめガンマ線滅菌又はオートクレーブ滅菌したものを用いた。
【0149】
後述するように、ガラスセル(4)内で細菌を培養してセルの内壁にバイオフィルムを形成させ、そこに上記の各アミド化合物を含有する試験液を流したときのバイオフィルムの様子を観察することによって、当該化合物のバイオフィルム形成阻害作用を評価することができる。なお、バイオフィルムの様子は、蛍光共焦点顕微鏡(Leica TCS SP2, ライカ社製)で観察することができる。
【0150】
<材料>
細菌:緑膿菌PAO1株に、エレクトロポレーション法によってpTdk-LVAgfpプラスミドを導入してGreen Fluorescent Proteinを発現するように形質転換した緑膿菌PAO1株(以下、「gfp発現PAO1株」と称す。)を用いた(Teresa R. De Kievit et al., Applied and Environmental Microbiology, Apr. 2001, p.1865-1873参照)。
【0151】
培地:前培養には30mMグルコース含有FAB培地、本培養には0.3mMグルコース含有FAB培地を用いた。
【0152】
グルコース含有FAB培地:30mMグルコースあるいは0.3mMグルコース、15mM硫酸アンモニウム、33.7mMリン酸水素二ナトリウム二水和物、22.1mMリン酸二水素カリウム、51.7mM塩化ナトリウム、0.47mM塩化マグネシウム、0.08mM塩化カルシウム及び下記0.1%トレースメタルソリューションで構成される水溶液に、200μg/mlのカルベシニリンを加えて調製した。
【0153】
トレースメタルソリューション:1.16mM硫酸カルシウム二水和物、0.72mM硫酸鉄七水和物、0.08mM硫酸マンガン一水和物、0.08mM硫酸銅五水和物、0.07mM硫酸亜鉛七水和物、0.04mM硫酸コバルト七水和物、0.04mM過マンガン酸ナトリウム一水和物、及び0.08mMホウ酸を含有する水溶液。
【0154】
菌液:30mMグルコース含有FAB培地に、gfp発現PAO1株を植え付け、37℃恒温漕中で一晩振盪培養して得たオーバーナイトカルチャー液を、OD590=0.1となるように30mMグルコース含有FAB培地で希釈して調製した。
【0155】
試験液及び対照試験液:
試験液:実施例2で製造した化合物(2)を、100μMのDMSO溶液とし、次いで化合物の濃度が0.1%(v/v)となるように、0.3mMグルコース含有FAB培地に加えて試験液とした。
対照試験液:上記化合物を含まないDMSOを用いて試験液と同様に調製して対照試験液とした。
【0156】
<試験方法>
フローセルシステム系内を70容量%エタノールで満たし、12時間以上静置して系内を滅菌した。次いでフローセルシステム系内にペリスタポンプ(2)でメンブレンフィルター(8a)を通過した空気を送って、系内を乾燥させた後、0.3mMグルコース含有FAB培地で満たした。菌液500μlをガラスセル(4)内に上面から注射器を用いて注入し、3方活栓(7a,7b)を閉めてガラスセルを密栓して室温で1時間静置培養した。
【0157】
静置培養後、2箇所の3方活栓(7a,7b)を開き、各試験液又は対照試験液を流速200μL/分で流して、ガラスセル内壁に付着した緑膿菌(gfp発現PAO1株)がバイオフィルムを形成する様子を、ガラスセルの上方から蛍光共焦点顕微鏡で三次元的に経時観察した(1時間後、48時間後、60時間後、72時間後、84時間後)。なお、試験液及び対照試験液は、36時間ごとに新鮮なものに取り替えた。
【0158】
試験液を用いた場合のバイオフィルムの形成状況を、対照試験液を用いた場合のバイオフィルムの形成状況(control試験)と対比した結果を、図5に示す。なお、図5は、ガラスセル内壁に付着した緑膿菌(gfp発現PAO1株)の状態を、ガラスセル内壁表面図と断面図(横断面と縦断面)から三次元的に示したものである。
【0159】
結果からわかるように、対照試験液を用いたcontrol試験では、緑膿菌(gfp発現PAO1株)は厚みのある巨大なバイオフィルムを形成していたが、試験液を用いた場合にはいずれもこうしたバイオフィルムの形成は認められなかった。このことから、化合物(2)に、バイオフィルム形成阻害作用又は形成されたバイオフィルムを除去する作用があるものと認められる。
【0160】
試験例8
図4のフローセルシステムを用いて上記製造例2で製造した化合物(2)の歯周病原性細菌バイオフィルム形成阻害作用を評価した。
【0161】
<材料>
細菌:歯周病原性細菌Porphyromonas gingivalis 381株(臨床株)を用いた。
培地:ヘミン5μg/L及びメナジオン1μg/Lを含むGAM培地を用いた。
菌液:前記GAM培地に、当該菌株を植え付け、定常期(OD550=1.8)まで培養し、前記GAM培地で約20倍に希釈した。
試験液及び対照試験液:
試験液:化合物(2)を、100μMとなるようにDMSOに溶解させてDMSO溶液とし、次いで化合物の濃度が0.1%(v/v)となるように、前記菌液に加えて試験液とした。
対照対象液:化合物(2)を含まないDMSOを用いて試験液と同様に調製して対照試験液とした。
【0162】
<試験方法>
フローセルシステムのガラスセル(4)をステンレスセル(3x7x120mm)に替え、当該セル内にハイドロキシアパタイト(HA)ディスク(直径6mm、厚さ1mm)を10個設置した。HAディスクは一晩唾液処理したものを用いた。
【0163】
試験液又は対照試験液を流速8ml/分で14日間流した。なお、試験液及び対照試験液は、2日ごとに新鮮なものに取り替えた。
【0164】
培養終了後、滅菌蒸留水300μl中にHAディスクを浸漬し、4℃で30分間超音波処理して、HAディスクに形成したバイオフィルムを剥ぎとり、蒸留水中に懸濁させた。当該懸濁液100μLをとり、濁度を吸光度計(型式C07500 colorimeter、フナコシ社製)で測定(測定波長:550nm)した。
【0165】
得られたOD値の中で、最大値と最小値を除外して平均OD値を求めた。
また、対象試験液を用いた試験での濁度を平均対照OD値とし、同様に平均値を求め、下記式よりバイオフィルム形成阻害率(阻害率)を求めた。
阻害率(%)=100−{(平均OD値)/(平均対照OD値)}×100
結果を表4に示す。
【0166】
【表4】
【0167】
試験例9
もみ枯細菌(Pseudomonas(=Burkholderia) glumae)をLB培地(BD社製 Difco LB Broth:トリプトン10.0g,酵母エキス5.0g,塩化ナトリウム10.0g)に接種し37℃で一晩培養した。培養液を遠心機にかけて集菌した後、菌体を新しいLB培地で2回洗浄した。その菌体に新しいLB培地を加え、次いで製造例1で製造した化合物(1)を最終濃度が所定濃度(0、20、40、60、80及び100μM)となるように加えて20時間振とう培養した。その培養液中に菌体が産生する毒素(toxoflavin)量を以下の手順で求めた。
【0168】
各培養液を0.22μmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を1ml採り、クロロホルム1mlを加えて、抽出した。得られたクロロホルム層を減圧濃縮し、残渣に80%(V/V)メタノール水溶液を加えて溶解させた。その溶解液の吸光度(260nm)を測定し、化学合成された毒素標品から得られた検量線から毒素量を算出した。
【0169】
また、比較試験として、上記特許文献3に記載の下記化合物(比較化合物(5))を用い、同様に試験した。結果を図6に示す。
【0170】
【化19】
【0171】
図6から分かるように、製造例1で製造した本発明のアミド化合物(1)をもみ枯細菌に加えた場合、細菌が産生する毒素量は、アミド化合物(1)の濃度を高くするに従い顕著に減少した。一方、比較化合物(5)をもみ枯細菌に加えた場合には、比較化合物(5)の濃度を高めても、細菌が産生する毒素量はほとんど変化しなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6