特許第5649342号(P5649342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649342
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】金属錯体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 63/24 20060101AFI20141211BHJP
   C07C 51/41 20060101ALI20141211BHJP
   C07C 7/12 20060101ALI20141211BHJP
   C07C 15/06 20060101ALI20141211BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20141211BHJP
   C07D 213/22 20060101ALI20141211BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20141211BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20141211BHJP
   C07F 3/06 20060101ALN20141211BHJP
【FI】
   C07C63/24CSP
   C07C51/41
   C07C7/12
   C07C15/06
   C07C9/04
   C07D213/22
   B01J20/22 A
   B01J20/30
   !C07F3/06
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-153928(P2010-153928)
(22)【出願日】2010年7月6日
(65)【公開番号】特開2012-17268(P2012-17268A)
(43)【公開日】2012年1月26日
【審査請求日】2013年6月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 康貴
(72)【発明者】
【氏名】三津家 由子
(72)【発明者】
【氏名】岸田 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】西口 靖子
(72)【発明者】
【氏名】北川 進
(72)【発明者】
【氏名】堀毛 悟史
(72)【発明者】
【氏名】福島 知宏
【審査官】 太田 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−180202(JP,A)
【文献】 Inorganic Chemistry,2009年,Vol.48, No.5,p.2043-7
【文献】 Journal of the American Chemical Society,2008年,Vol.130, No.3,p.800-1
【文献】 CrystEngComm,2009年,Vol.11,No.5,p.777-83
【文献】 CrystEngComm,2009年,Vol.11, No.1,p.109-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 63/24
B01J 20/22
B01J 20/30
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−tert−ブチルイソフタル酸と、亜鉛と、亜鉛に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体であって、その組成が
【化1】
(式中、Mは亜鉛を示し、Aは5−tert−ブチルイソフタル酸を示し、Bは二座配位可能な有機配位子を示す。)で表され、一次元細孔を有しており、5−tert−ブチルイソフタル酸中のtert−ブチル基が細孔内部に露出した構造である金属錯体。
【請求項2】
該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4'−ビピリジル、2,2'−ジメチル−4,4'−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2'−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4'−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である請求項に記載の金属錯体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属錯体からなる吸着材。
【請求項4】
該吸着材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸着するための吸着材である請求項に記載の吸着材。
【請求項5】
請求項1または2に記載の金属錯体からなる吸蔵材。
【請求項6】
該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である請求項に記載の吸蔵材。
【請求項7】
5−tert−ブチルイソフタル酸と、亜鉛塩と、亜鉛に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、特定のジカルボン酸化合物と、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、亜鉛及びカドミウムから選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として好ましい。また、本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材としても好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、高分子金属錯体が開発されている(非特許文献2参照)。高分子金属錯体は、(1)広い表面積と高い空隙率、(2)高い設計性、(3)外部刺激による動的構造変化、といった特徴を有しており、既存の吸着材にはない吸着特性が期待される。
【0005】
高分子金属錯体の例として、イソフタル酸誘導体、2,7−ナフタレンジカルボン酸誘導体または4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、吸着材や吸蔵材としての利用を考えた場合、吸着量の増加が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−247884公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】竹内雍監修、「最新吸着技術便覧」第1版、エヌ・ティー・エス、 84−163頁(1999年)
【非特許文献2】S.Kitagawa、Bulletin of Japan S ociety of Coordination Chemistry、第51巻、 13−19頁(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来よりも優れたガス吸着特性を有する吸着材、従来よりも有効吸蔵量が大きいガス吸蔵材として使用することができる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討し、特定のジカルボン酸化合物と、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、亜鉛及びカドミウムから選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)下記一般式(I);
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、Xはアルキル基を示す。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、亜鉛及びカドミウムから選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体であって、その組成が
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、Mはマグネシウム、カルシウム、アルミニウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、亜鉛及びカドミウムから選択される少なくとも1種の金属を示し、Aはジカルボン酸化合物(I)を示し、Bは二座配位可能な有機配位子を示す。)で表される金属錯体。
(2)ジカルボン酸化合物(I)が5−tert−ブチルイソフタル酸である(1)に記載の金属錯体。
(3)該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)該金属が亜鉛である(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる吸着材。
(6)該吸着材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸着するための吸着材である(5)に記載の吸着材。
(7)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
(8)該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である(7)に記載の吸蔵材。
(9)下記一般式(I);
【0016】
【化3】
【0017】
(式中、Xはアルキル基を示す。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、亜鉛塩及びカドミウム塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、特定のジカルボン酸化合物と、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、亜鉛及びカドミウムから選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を提供することができる。
【0019】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸着性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として使用することができる。
【0020】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスの吸蔵性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
図2】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
図3】比較合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
図4】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
図5】比較合成例2で得た金属錯体の結晶構造である。
図6】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
図7】比較合成例3で得た金属錯体の結晶構造である。
図8】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
図9】比較合成例4で得た金属錯体の結晶構造である。
図10】比較合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
図11】合成例1、比較合成例1、比較合成例2、比較合成例3及び比較合成例4で得た金属錯体について、トルエンの298Kにおける吸着等温線を容量法により測定した結果である。
図12】合成例1で得た金属錯体について、メタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
図13】比較合成例1で得た金属錯体について、メタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
図14】比較合成例2で得た金属錯体について、メタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
図15】比較合成例3で得た金属錯体について、メタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
図16】比較合成例4で得た金属錯体について、メタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に用いる金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、亜鉛及びカドミウムから選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる。
【0023】
金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、亜鉛塩及びカドミウム塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ジカルボン酸化合物(I)及び二座配位可能な有機配位子を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0024】
本発明に用いられるジカルボン酸化合物(I)は下記一般式(I);
【0025】
【化4】
【0026】
で表される。式中、Xはアルキル基を示す。
【0027】
上記置換基Xとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は1〜5個が好ましい。
【0028】
ジカルボン酸化合物(I)としては、5−tert−ブチルイソフタル酸が好ましい。
【0029】
金属錯体の製造に用いる金属塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、亜鉛塩及びカドミウム塩から選択される金属塩を使用することができ、亜鉛塩が好ましい。金属塩は、単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。また、本発明の金属錯体は、単一の金属からなる金属錯体を2種以上混合して使用することもできる。これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0030】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子としては、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドを使用することができ、4,4’−ビピリジルが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属に対して配位する部位を2箇所以上有する中性配位子を意味する。
【0031】
金属錯体を製造するときのジカルボン酸化合物(I)と二座配位可能な有機配位子との混合比率は、ジカルボン酸化合物(I):二座配位可能な有機配位子=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0032】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0033】
金属錯体を製造するための混合溶媒におけるジカルボン酸化合物(I)のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0034】
金属錯体を製造するための混合溶媒における金属塩のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0035】
金属錯体を製造するための混合溶媒における二座配位可能な有機配位子のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0036】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0037】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0038】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)の置換基Xが細孔内部に露出した構造をとる。その結果、細孔表面は疎水性となり、疎水性のガスに対して優れた吸着特性を示す。
【0039】
前記の吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸着性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0041】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスの吸蔵性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材としても好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
(1)単結晶X線結晶構造解析
得られた単結晶をゴニオヘッドにマウントし、単結晶X線回折装置を用いて測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製R−AXIS RAPID II
X線源:MoKα(λ=0.71073Å) 40kV 30mA
集光ミラー:VariMax
検出器:イメージングプレート
コリメータ:Φ0.8mm
解析ソフト:CrystalStructure 3.8
【0043】
(2)粉末X線回折パターンの測定
粉末X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=2〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0044】
(3)トルエンの吸着等温線の測定
高精度ガス/蒸気吸着量測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、2Paで12時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−max
平衡待ち時間:300秒
【0045】
(4)メタンの吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着量測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間乾燥し、吸着水などを除去した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0046】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−tert−ブチルイソフタル酸3.76g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した結晶の一部を取出し、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。本錯体の骨格の組成は、亜鉛:5−tert−ブチルイソフタル酸:4,4’−ビピリジル=2:2:1であった。また、結晶構造を図1に示す。図1より、本錯体はc軸方向(紙面に垂直)に対して一次元細孔を有しており、tert−ブチル基が細孔内部に露出した構造をとっていることが分かる。
Tetragonal(I4mm)
a=32.7473(17)Å
b=32.7473(17)Å
c=9.4794(6)Å
α=90.000°
β=90.000°
γ=90.000°
V=10165.6(10)Å
Z=16
R=0.1188
Rw=0.3299
析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.16g(収率84%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0047】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸3.54g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.53g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。本錯体の骨格の組成は、亜鉛:5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸:4,4’−ビピリジル=2:2:1であった。また、結晶構造を図3に示す。図3より、本錯体はc軸方向(紙面に垂直)に対して一次元細孔を有しており、N,N−ジメチルアミノ基が細孔内部に露出した構造をとっていることが分かる。
Tetragonal(I4mm)
a=32.625(11)Å
b=32.625(11)Å
c=9.166(3)Å
α=90.00°
β=90.00°
γ=90.00°
V=9756(6)Å
Z=16
R=0.1375
Rw=0.3725
析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.19g(収率88%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。
【0048】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、イソフタル酸2.80g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。本錯体の骨格の組成は、亜鉛:イソフタル酸:4,4’−ビピリジル=1:1:1であった。また、結晶構造を図5に示す。図5より、本錯体はインターデジテイト型構造を形成していることが分かる。
Monoclinic(P2/c)
a=10.082(5)Å
b=11.384(5)Å
c=15.744(8)Å
α=90.00°
β=103.917(8)°
γ=90.00°
V=1753.9(14)Å3
Z=2
R=0.0600
Rw=0.1368
析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.35g(収率98%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。
【0049】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、硝酸コバルト六水和物0.300g(1.0mmol)、5−tert−ブチルイソフタル酸0.220g(0.99mmol)及び4,4’−ビピリジル0.160g(1.0mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド20mLに溶解させ、393Kで6時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。本錯体の骨格の組成は、コバルト:5−tert−ブチルイソフタル酸:4,4’−ビピリジル=1:1:1であった。また、結晶構造を図7に示す。図7より、本錯体はインターデジテイト型構造を形成していることが分かる。
Monoclinic(C2/m)
a=21.690(3)Å
b=11.3991(14)Å
c=9.9980(12)Å
α=90.00°
β=102.578(1)°
γ=90.00°
V=2412.644Å
Z=4
R=0.0813
Rw=0.0813
析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体0.283g(収率65%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。
【0050】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、2,7−ナフタレンジカルボン酸3.68g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。本錯体の骨格の組成は、亜鉛:2,7−ナフタレンジカルボン酸:4,4’−ビピリジル=1:1:1であった。また、結晶構造を図9に示す。図9より、本錯体はインターデジテイト型構造を形成していることが分かる。
Monoclinic(C2/c)
a=16.14(4)Å
b=11.35(3)Å
c=24.67(9)Å
α=90.00°
β=102.11(7)°
γ=90.00°
V=4419(22)Å
Z=8
R=0.0652
Rw=0.1829
析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体7.02g(収率95%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図10に示す。
【0051】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、298Kにおけるトルエンの吸着等温線を測定した。結果を図11に示す。
【0052】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、298Kにおけるトルエンの吸着等温線を測定した。結果を図11に示す。
【0053】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、298Kにおけるトルエンの吸着等温線を測定した。結果を図11に示す。
【0054】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、298Kにおけるトルエンの吸着等温線を測定した。結果を図11に示す。
【0055】
<比較例4>
比較合成例4で得た金属錯体について、298Kにおけるトルエンの吸着等温線を測定した。結果を図11に示す。
【0056】
図11より、本発明の金属錯体は相対圧が低い領域からトルエンの吸着量が大きいので、本発明の金属錯体がトルエンの吸着材として優れていることは明らかである。
【0057】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図12に示す。
【0058】
<比較例6>
比較合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図13に示す。
【0059】
<比較例6>
比較合成例2で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図14に示す。
【0060】
<比較例7>
比較合成例3で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図15に示す。
【0061】
<比較例8>
比較合成例4で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図16に示す。
【0062】
図12図13図14図15及び図16の比較より、本発明の金属錯体はメタンの有効吸蔵量が大きいので、メタンの吸蔵材として優れていることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16