(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI;Large Scale Integration)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅は益々狭く微細なものとなっている。半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)を用い、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置によって、ウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。こうした微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造に電子ビーム描画装置が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置は、利用する電子ビームが荷電粒子ビームであるため本質的に優れた解像度を有し、また、焦点深度を大きく確保することができるので、高い段差上でも寸法変動を抑制できるという利点を有する。特許文献1には、電子ビーム描画装置を用いた半導体集積回路装置の製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、電子ビームによる露光技術は、光による一括露光に比べて、スループットが低いという問題を有する。そこで、従来より、種々の方法によってスループットを向上する試みがなされている。
【0005】
具体的には、円形断面電子ビームではなく、可変成形ビームを用いることによって、露光回数を少なくしたり、ステージの移動を、ステップアンドリピート方式に代えて連続移動方式にしたり、さらには、電子ビームの偏向方式をベクタ走査方式にしたりすることが行われている。
【0006】
上記の技術を組み合わせることにより、スループットを大きく向上させることが可能になる。しかし、ベクタ走査方式では、フレーム内でのサブフィールドの位置に応じて、サブフィールド内における電子ビームの偏向角度が異なるために、描画パターンの形状、位置および寸法精度が劣化するという問題が生じ得る。これに対しては、特許文献2に、電子ビームの主偏向位置に依存して生じる副偏向の感度ずれを描画前に検出し、検出した値を描画時に補正する方法が記載されている。
【0007】
スループットを向上させるには、高速且つ高精度に電子ビームを偏向することも必要となる。しかし、偏向アンプで偏向器を駆動する際には、その負荷に応じた出力電圧のセトリング時間(整定時間)が必要になる。すなわち、目標とする偏向位置に整定するには、所定のセトリング時間を要する。また、セトリング時間中に試料面へ電子ビームを照射すると描画結果に悪影響を及ぼすので、この間は、ブランキング機構を作動させて、電子ビームによる照射が行われないようにしなければならない。
【0008】
特許文献3には、直交する2つの直線上に配置されたコンタクトホールパターンに電子ビームを照射して、偏向器による電子ビームの照射位置を評価する方法が記載されている。具体的には、特許文献3の
図4において、2つの直線A、Bの交点の照射位置(101)に電子ビームを照射した後、直線A上で、この照射位置(101)に最も近接する照射位置(102)に電子ビームを移動させて照射する。次いで、直線B上における次の照射位置(103)まで電子ビームを移動させて照射した後、直線B上で、この照射位置(103)に最も近接する照射位置(104)に電子ビームを移動させて照射する。次に、直線A上における次の照射位置(105)まで電子ビームを移動させて照射した後、以降も同様の操作を繰り返し、各直線上における各照射位置(106、107、108および109)を順に電子ビームで照射する。そして、所望とする照射位置と実際の照射位置とのずれ量を計測することにより、最適なセトリング時間を求めることができる。尚、説明の都合上、特許文献3の
図4で使用されている符号をカッコ内に記載した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最近では、電子ビーム描画装置の高精度化に伴って、主偏向領域や副偏向領域の縮小化が進んでいる。このため、特許文献3に記載の評価方法では、次のような問題が生じる。
【0011】
特許文献3では、上述したように、直交する2つの直線上に配置されたコンタクトホールパターンに電子ビームを照射して、偏向器による電子ビームの照射位置を評価する。ここで、コンタクトホールパターンのサイズは同じで副偏向領域が小さくなると、副偏向領域内に収まる評価点数が少なくなる。スループットの向上によりショットサイズの微小化も進んでいるが、ショットサイズを小さくしたとしても、評価点数の減少は改善できない。このため、電子ビームの照射位置について、正確な評価をすることが困難になるという問題があった。
【0012】
一方、コンタクトホールパターンのサイズを小さくすることにより、副偏向領域に収まる評価点数が減少しないようにすることも考えられる。しかしながら、コンタクトホールパターンは、完全な矩形ではなく、四隅で丸みを帯びている。このため、四隅を避けて測定することが好ましい。しかし、パターンサイズが小さくなると、測定エリア内に四隅が入り、測定誤差が大きくなるという問題がある。
【0013】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、偏向領域のサイズにかかわらず、電子ビームの照射位置について正確な評価が可能な電子ビーム描画装置と電子ビーム描画装置の評価方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、荷電粒子ビームの光路上に配置された偏向器により荷電粒子ビームの位置を制御して、試料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置において、
一方向に隣接する少なくとも2つの矩形パターンが、この一方向と直交する方向に偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい長さまで連続して配置された複数のラインパターンに対し、荷電粒子ビームによって、
第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンを構成し且つ第1の矩形パターンに隣接する第2の矩形パターンをショットする工程と、
第1の矩形パターンをショットした後に、第2のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットする工程とを繰り返すよう構成されたことを特徴とするものである。
【0016】
本発明の第1の態様において、ラインパターンは3以上あって、第1のラインパターンと第2のラインパターンとは隣接しているものとすることができる。
あるいは、第1のラインパターンから第2のラインパターンまでの寸法を偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい寸法とすることができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、荷電粒子ビームの光路上に配置された偏向器により荷電粒子ビームの位置を制御して、試料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置において、
一方向に隣接する矩形パターンが、この一方向と直交する方向に偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい長さまで連続して配置された複数のラインパターンに対し、荷電粒子ビームによって、
第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程と、
第2の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンを構成し且つ第1の矩形パターンに隣接する第3の矩形パターンをショットする工程とを繰り返すよう構成されたことを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第2の態様において、ラインパターンは3以上あって、第1のラインパターンと第2のラインパターンとは隣接しているものとすることができる。
あるいは、第1のラインパターンから第2のラインパターンまでの寸法を偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい寸法とすることができる。
【0019】
本発明の第3の態様は、荷電粒子ビームの光路上に配置された偏向器により荷電粒子ビームの位置を制御して、試料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置において、
一方向に隣接する少なくとも2つの矩形パターンが、この一方向と直交する方向に偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい長さまで連続して配置された3以上のラインパターンに対し、荷電粒子ビームによって、
第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接しない第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程と、
第1のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接する第3のラインパターンを構成する第4の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程とを行うよう構成されたことを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第3の態様において、第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接しない第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行ってから、第1のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接する第3のラインパターンを構成する第4の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行うことができる。
あるいは、第1のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接する第3のラインパターンを構成する第4の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行ってから、第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接しない第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行うこともできる。
【0021】
本発明の第4の態様は、荷電粒子ビームの光路上に配置された偏向器により荷電粒子ビームの位置を制御して、試料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置の評価方法において、
一方向に隣接する少なくとも2つの矩形パターンが、この一方向と直交する方向に偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい長さまで連続して配置された複数のラインパターンに対し、荷電粒子ビームによって、
第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンを構成し且つ第1の矩形パターンに隣接する第2の矩形パターンをショットする工程と、
第1の矩形パターンをショットした後に、第2のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットする工程とを有することを特徴とするものである。
【0022】
本発明の第4の態様において、ラインパターンは3以上あって、第1のラインパターンと第2のラインパターンとは隣接しているものとすることができる。
あるいは、第1のラインパターンから第2のラインパターンまでの寸法を偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい寸法とすることができる。
【0023】
本発明の第5の態様は、荷電粒子ビームの光路上に配置された偏向器により荷電粒子ビームの位置を制御して、試料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置の評価方法において、
一方向に隣接する矩形パターンが、この一方向と直交する方向に偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい長さまで連続して配置された複数のラインパターンに対し、荷電粒子ビームによって、
第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程と、
第2の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンを構成し且つ第1の矩形パターンに隣接する第3の矩形パターンをショットする工程とを有することを特徴とするものである。
【0024】
本発明の第5の態様において、ラインパターンは3以上あって、第1のラインパターンと第2のラインパターンとは隣接しているものとすることができる。
あるいは、第1のラインパターンから第2のラインパターンまでの寸法を偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい寸法とすることができる。
【0025】
本発明の第6の態様は、荷電粒子ビームの光路上に配置された偏向器により荷電粒子ビームの位置を制御して、試料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置の評価方法において、
一方向に隣接する少なくとも2つの矩形パターンが、この一方向と直交する方向に偏向器の最大偏向幅と実質的に等しい長さまで連続して配置された3以上のラインパターンに対し、荷電粒子ビームによって、
第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接しない第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程と、
第1のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接する第3のラインパターンを構成する第4の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程とを有することを特徴とするものである。
第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接しない第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行ってから、第1のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接する第3のラインパターンを構成する第4の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行うことができる。
あるいは、第1のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接する第3のラインパターンを構成する第4の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行ってから、第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接しない第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行うことができる。
【0026】
本発明の第6の態様において、第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接しない第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行ってから、第1のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接する第3のラインパターンを構成する第4の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行うことができる。
あるいは、第1のラインパターンを構成する第3の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接する第3のラインパターンを構成する第4の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行ってから、第1のラインパターンを構成する第1の矩形パターンをショットした後に、第1のラインパターンに隣接しない第2のラインパターンを構成する第2の矩形パターンをショットする工程を繰り返す工程を行うこともできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、偏向領域のサイズにかかわらず、電子ビームの照射位置について正確な評価が可能な電子ビーム描画装置と電子ビーム描画装置の評価方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施の形態1.
本実施の形態では、電子ビーム描画装置の評価方法について説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態における評価パターンを示したものである。評価パターンは、副偏向領域F内に設けられる。副偏向領域Fは、例えば、一辺が50μm〜100μmの矩形であり、副偏向器の偏向幅に応じてサイズが決められる。
【0031】
図1に示すように、評価パターンは、複数のラインパターン(L1、L2、L3、L4、L5)からなっている。各ラインパターンは、X方向に隣接する2つのコンタクトホールパターンが、Y方向に副偏向器の偏向幅いっぱいまで複数連続して配置された構成となっている。尚、本実施の形態においては、Y方向に隣接する2つのコンタクトホールパターンが、X方向に副偏向器の偏向幅いっぱいまで複数連続して配置された構成であってもよい。
【0032】
図1中に示す1、2、3・・・などの数値は、副偏向セトリング時間を決定する際の副偏向による電子ビームのショット順序を表している。この例では、まず、ラインパターンL2を構成するパターン101をショットする。1ショットのサイズは、副偏向領域のサイズに応じて小さくすることが好ましく、例えば、一辺が50nmの矩形とすることができる(以下に同じ)。次いで、パターン101に隣接するパターン102をショットする。次に、ラインパターンL2に隣接するラインパターンL3にショット位置を移動させる。具体的には、パターン103をショットし、次いで、パターン103に隣接するパターン104をショットする。次に、再び、ラインパターンL2にショット位置を移動させる。そして、パターン105をショットし、次いで、パターン105に隣接するパターン106をショットする。その後、またラインパターンL3に移動して、パターン107をショットする。次いで、パターン107に隣接するパターン108をショットする。以上の工程を繰り返し、
図1におけるパターン180までショットする。尚、
図1では、9番目のショットから79番目のショットまでのショット順序とパターンに関する表記を省略している。
【0033】
電子ビームの照射は、所定のセトリング時間において所望の偏向位置に整定した後に行われる。しかし、セトリング時間が不十分であると、目標とする偏向位置からずれた位置に電子ビームが照射される。この場合、次の電子ビームの照射については、それ以前の照射位置を基準として偏向が行われるため、照射位置のずれ量は次第に大きくなる。すると、セトリング時間と照射位置のずれ量を正確に知ることができず、セトリング時間の最適化が困難となる。
【0034】
図1の例では、ラインパターンL2とラインパターンL3とをショットする工程において、電子ビームの移動距離が小さいショットと、大きいショットとが交互に入れ替わっている。すなわち、パターン101からパターン102への移動距離は小さいが、パターン102からパターン103への移動距離は大きい。また、パターン103からパターン104への移動距離は小さいが、パターン104からパターン105への移動距離は大きい。
【0035】
移動距離と偏向量は相関する。移動距離の小さいショットでは、偏向量が小さく、照射位置のずれは殆どない。したがって、その後の移動距離の大きいショットに与える影響は殆どない。一方、移動距離の大きいショットは、偏向量が大きく、照射位置のずれ量も大きくなる。しかし、次のショットの移動距離が小さければ、照射位置のずれはリセットされてしまい、次の移動距離の大きいショットへ及ぼす影響は殆どなくなる。
【0036】
図1の例では、パターン101からパターン102への移動距離は小さいので、パターン102における照射位置のずれは殆どない。したがって、次のショット、すなわち、パターン103における照射位置のずれ量を正確に測定することができる。
【0037】
一方、パターン102からパターン103への移動距離は、先の移動距離、すなわち、パターン101からパターン102への移動距離より大きくなる。したがって、パターン103における照射位置のずれ量も大きくなる。しかし、次の移動距離、すなわち、パターン103からパターン104への移動距離は小さいので、パターン103で生じた照射位置のずれ量は次のショットでリセットされる。よって、さらに次のショット、すなわち、パターン105における照射位置のずれ量を正確に測定することができる。
【0038】
パターン104からパターン105への移動距離は、パターン103からパターン104への移動距離より大きいので、パターン105における照射位置のずれ量は、パターン104における照射位置のずれ量より大きくなる。しかし、次のショット、すなわち、パターン105に隣接するパターン106へのショットは、移動距離が小さくて済むので、パターン105で生じた位置ずれ量はリセットされる。したがって、次のショット、すなわち、パターン107における照射位置のずれ量を正確に求めることができる。
【0039】
このように、移動距離の大きいショットと、移動距離の小さいショットとが繰り返されることにより、移動距離の大きいショットで生じた位置ずれ量がその都度リセットされる。したがって、電子ビームの照射位置のずれ量を正確に求めることが可能となる。
【0040】
ところで、電子ビームの移動距離は単一ではない。そこで、次に、上述した移動距離の大きいショットよりさらに移動距離の大きいショットについて考える。便宜上、前者を「短距離移動」と称し、後者を「長距離移動」と称す。本実施の形態において、「短距離」とは、隣接するラインパターン間の寸法を言い、「長距離」とは、副偏向領域内の最大寸法を言う。また、これらの間の寸法を「中距離」と称す。
【0041】
図1において、ラインパターンL1とラインパターンL5との間におけるショットを考える。
【0042】
まず、ラインパターンL1を構成するパターン201をショットする。次いで、パターン201に隣接するパターン202をショットする。次に、ラインパターンL5にショット位置を移動させる。具体的には、パターン203をショットし、次いで、パターン203に隣接するパターン204をショットする。次に、再び、ラインパターンL1にショット位置を移動させる。そして、パターン205をショットし、次いで、パターン205に隣接するパターン206をショットする。その後、またラインパターンL5に移動して、パターン207をショットする。次いで、パターン207に隣接するパターン208をショットする。以上の工程を繰り返し、
図1におけるパターン280までショットする。尚、
図1では、89番目以降のショット順序と、89番目から152番目のパターンに関する表記を省略している。
【0043】
ラインパターンL1とラインパターンL5とをショットする工程においても、電子ビームの移動距離が小さいショットと、大きいショットとが交互に入れ替わっている。すなわち、パターン201からパターン202への移動距離は小さいが、パターン202からパターン203への移動距離は大きい。また、パターン203からパターン204への移動距離は小さいが、パターン204からパターン205への移動距離は大きい。
【0044】
具体的には、パターン201からパターン202への移動距離は小さいので、パターン202における照射位置のずれは殆どない。したがって、次のショット、すなわち、パターン203における照射位置のずれ量を正確に測定することができる。
【0045】
一方、パターン202からパターン203への移動距離は、先の移動距離、すなわち、パターン201からパターン202への移動距離より大きくなる。したがって、パターン203における照射位置のずれ量も大きくなる。しかし、次の移動距離、すなわち、パターン203からパターン204への移動距離は小さいので、パターン203で生じた照射位置のずれ量はリセットされる。よって、次のショット、すなわち、パターン205における照射位置のずれ量を正確に測定することができる。
【0046】
パターン204からパターン205への移動距離は、パターン203からパターン204への移動距離より大きいので、パターン205における照射位置のずれ量は、パターン204における照射位置のずれ量より大きくなる。しかし、次のショット、すなわち、パターン205に隣接するパターン206へのショットは、移動距離が小さくて済むので、パターン205で生じた位置ずれ量は次のショットでリセットされる。したがって、さらに次のショット、すなわち、パターン207における照射位置のずれ量を正確に求めることができる。
【0047】
このように、ラインパターンL1とラインパターンL5との間のショットにおいても、移動距離の大きいショットと、移動距離の小さいショットとが繰り返されることにより、移動距離の大きいショットで生じた位置ずれ量がその都度リセットされる。したがって、電子ビームの照射位置のずれ量を正確に求めることが可能となる。
【0048】
短距離移動時の最適な副偏向セトリング時間は、次のようにして求める。
【0049】
本実施の形態では、ラインパターンL2とラインパターンL3とを描画して得られた結果から、短距離移動における電子ビーム照射位置のずれ量を測定し、最適なセトリング時間を求めることができる。
【0050】
具体的には、副偏向のセトリング時間を任意の値に設定し、副偏向器で電子ビームを偏向しながら、ラインパターンL2とL3を上記のようにして描画する。次に、描画された各パターンの位置または寸法を計測器により測定する。例えば、
図1において、パターン102の一端から、パターン103の対応する一端までの寸法を、寸法測定器で測定する。あるいは、各パターンの端部(但し、四隅は除く。)または中心の座標を、座標測定器で測定する。そして、得られた寸法または座標の設計値からのずれ量を求めた後、これらの値から平均の位置ずれ量を求める。
【0051】
上記と同様にして、副偏向のセトリング時間を変えたときの平均の位置ずれ量を求める。次いで、副偏向のセトリング時間に対して、平均の位置ずれ量をプロットし、得られた関係から、短距離移動時における最適のセトリング時間を決定する。例えば、位置ずれ量が最少となるセトリング時間を最適値とすることができる。スループットの観点からは、セトリング時間と平均の位置ずれ量との関係を表す曲線の傾きがゼロになるセトリング時間を最適値とすることが好ましい。
【0052】
長距離移動時の最適な副偏向セトリング時間も同様にして求めることができる。すなわち、ラインパターンL1とL5とを描画し、得られた各パターンの位置または寸法を計測器により測定する。例えば、
図1において、パターン202の一端から、パターン203の対応する一端までの寸法を、寸法測定器で測定する。あるいは、パターン202の一端(または中心)の座標と、パターン203の対応する一端(または中心)の座標を、座標測定器で測定する。そして、各測定値における設計位置からの位置ずれ量を求めた後、これらの値から平均の位置ずれ量を求める。
【0053】
上記と同様にして、副偏向のセトリング時間を変えたときの平均の位置ずれ量を求める。次いで、副偏向のセトリング時間に対して、平均の位置ずれ量をプロットし、得られた関係から、長距離移動時における最適のセトリング時間を決定する。例えば、位置ずれ量が最少となるセトリング時間を最適値とすることができる。スループットの観点からは、セトリング時間と平均の位置ずれ量との関係を表す曲線の傾きがゼロになるセトリング時間を最適値とすることが好ましい。
【0054】
また、副偏向セトリング時間を一定として、副偏向による電子ビームの移動距離と位置ずれ量との関係をプロットする。すなわち、上記のようにして、短距離移動時の位置ずれ量と、長距離移動時の位置ずれ量とが測定により分かっているので、これらの値を補間することで、中距離移動時の位置ずれ量も求めることができる。尚、例えば、
図1の評価パターンで、L2とL4を描画して中距離移動時の位置ずれ量を求め、これを上記プロットに加えてもよい。
【0055】
本実施の形態の構成によれば、評価パターンは複数のラインパターンからなり、これらのラインパターンは、Y方向(またはX方向)に平行に配置され、各ラインパターンを構成するコンタクトホールパターンのサイズは、副偏向領域のサイズに応じて任意に変えることができる。したがって、直交する2つの直線上にコンタクトホールが配置される特許文献3の評価用パターンに比べると、副偏向領域に収まるコンタクトホールの数、すなわち、評価点数の数を多くすることができる。つまり、従来より小さい副偏向領域であっても、評価点数の減少を抑制できるので、電子ビームの照射位置について正確な評価を行うことが可能である。
【0056】
また、本実施の形態では、X方向(またはY方向)に隣接する2つのコンタクトホールパターンが、Y方向に複数連続して配置されてラインパターンを構成している。この構成によれば、移動距離の大きいショットと、移動距離の小さいショットとが繰り返されるので、移動距離の大きいショットで生じた位置ずれ量をその都度リセットすることができる。したがって、電子ビームの照射位置のずれ量を正確に求めることができる。
【0057】
実施の形態2.
本実施の形態では、電子ビーム描画装置の別の評価方法について説明する。
【0058】
図2は、本実施の形態における評価パターンを示したものである。評価パターンは、副偏向領域F内に設けられる。副偏向領域Fは、例えば、一辺が50μm〜100μmの矩形であり、副偏向器の偏向幅に応じてサイズが決められる。
【0059】
図2に示すように、評価パターンは、複数のラインパターン(L11、L12、L13、L14、L15、L16)からなっている。各ラインパターンは、単一のコンタクトホールパターンが、Y方向に副偏向器の偏向幅いっぱいまで複数連続して配置された構成となっている。尚、本実施の形態においては、単一のコンタクトホールパターンが、X方向に副偏向器の偏向幅いっぱいまで複数連続して配置された構成であってもよい。
【0060】
図2中に示す1、2、3・・・などの数値は、副偏向セトリング時間を決定する際の副偏向による電子ビームのショット順序を表している。この例では、まず、ラインパターンL13を構成するパターン301をショットする。1ショットのサイズは、副偏向領域のサイズに応じて小さくすることが好ましく、例えば、一辺が50nmの矩形とすることができる(以下に同じ)。次いで、ラインパターンL13に隣接するラインパターンL14にショット位置を移動させる。具体的には、パターン302をショットし、次いで、再び、ラインパターンL13にショット位置を移動させる。そして、パターン303をショットした後、またラインパターンL14に移動して、パターン304をショットする。以上の工程を繰り返し、
図2におけるパターン340までショットする。尚、
図2では、11番目のショットから38番目のショットまでのショット順序と、3番目以降のパターンに関する表記を省略している。
【0061】
図2の評価パターンは、
図1の評価パターンで求めたセトリング時間が適当であるか否かの確認に適している。つまり、
図2の評価パターンは、各ショット間の距離が略等しく、実際に描画されるパターンに近いものとなっている。この評価パターンでは、
図1で述べた評価パターンと異なり、移動距離の大きいショットで生じた照射位置のずれ量を、次の移動距離の小さいショットによってリセットすることができない。すなわち、セトリング時間が不十分であり、目標とする偏向位置からずれた位置に電子ビームが照射されると、この位置ずれ量は、次のショットによってリセットされず、次第に大きくなる。したがって、
図1で見積もったセトリング時間を用いて、
図2の評価パターンで描画することにより、このセトリング時間が適当であるか否かを容易に判断することができる。
【0062】
上記したラインパターンL13とL14の間のショットの移動を、本実施の形態では、「短距離移動」と称す。次に、「長距離移動」のショットについて述べる。尚、本実施の形態において、「短距離」とは、隣接するラインパターン間の寸法を言い、「長距離」とは、副偏向領域内の最大寸法を言う。また、これらの間の寸法を「中距離」と称す。
【0063】
図1の評価パターンで求めた短距離移動時のセトリング時間の評価は、ラインパターンL13とL14を描画することで行える。一方、
図1の評価パターンで求めた長距離移動時のセトリング時間の評価は、ラインパターンL11とL16を描画することで行える。
【0064】
図2において、ラインパターンL11とラインパターンL16との間のショットを考える。
【0065】
まず、ラインパターンL11を構成するパターン401をショットする。次いで、ラインパターンL16にショット位置を移動させる。具体的には、パターン402をショットし、次に、再び、ラインパターンL11にショット位置を移動させる。そして、パターン403をショットした後、またラインパターンL16に移動して、パターン404をショットする。以上の工程を繰り返し、
図2におけるパターン480までショットする。尚、
図2では、46番目のショットから79番目のショットまでのショット順序と、403番目から479番目までのパターンに関する表記を省略している。
【0066】
上記したラインパターンL11とL16の描画を、
図1で求めた長距離移動時のセトリング時間を用いて行う。セトリング時間が不十分であり、目標とする偏向位置からずれた位置に電子ビームが照射されると、この位置ずれ量は、次のショットによってリセットされず、次第に大きくなる。したがって、
図1で見積もったセトリング時間が適当であるか否かを容易に判断することができる。
【0067】
図2の評価パターンを用いた際の電子ビームの照射位置のずれ量は、次のようにして求める。
【0068】
例えば、ラインパターンL12とL13を上記のようにして描画する。次に、描画された各パターンの中心の座標を、座標測定器で測定する。そして、得られた座標の設計位置からの位置ずれ量を求めた後、これらの値から平均の位置ずれ量を求める。
【0069】
また、副偏向セトリング時間を一定として、副偏向による電子ビームの移動距離と位置ずれ量との関係をプロットする。すなわち、
図2の評価用パターンによれば、短距離移動時の位置ずれ量と、長距離移動時の位置ずれ量とが測定により分かるので、これらの値を補間することで、中距離移動時の位置ずれ量も求めることができる。尚、例えば、
図2の評価パターンで、L12とL15を描画して中距離移動時の位置ずれ量を求め、これを上記プロットに加えてもよい。
【0070】
図2の評価パターンを描画した結果、セトリング時間が適当でないと判断されたときは、
図1の評価用パターンを描画して、再現性を確認するか、または、再度セトリング時間の最適化を図る。
【0071】
本実施の形態の構成によれば、評価パターンは複数のラインパターンからなり、これらのラインパターンは、Y方向(またはX方向)に平行に配置され、各ラインパターンを構成するコンタクトホールパターンのサイズは、副偏向領域のサイズに応じて任意に変えることができる。したがって、直交する2つの直線上にコンタクトホールが配置される特許文献3の評価用パターンに比べると、副偏向領域に収まるコンタクトホールの数、すなわち、評価点数の数を多くすることができる。つまり、従来より小さい副偏向領域であっても、評価点数の減少を抑制できるので、電子ビームの照射位置について正確な評価を行うことが可能である。
【0072】
また、本実施の形態では、X方向(またはY方向)に隣接するコンタクトホールはなく、1つのコンタクトホールが一方向に並んでラインパターンを構成している。この評価パターンでは、移動距離の大きいショットで生じた照射位置のずれ量を、次の移動距離の小さいショットによってリセットすることができない。すなわち、セトリング時間が不十分であり、目標とする偏向位置からずれた位置に電子ビームが照射されると、この位置ずれ量は、次のショットによってリセットされず、次第に大きくなる。したがって、この評価パターンによれば、セトリング時間が適当であるか否かを容易に判断することができる。
【0073】
実施の形態3.
本実施の形態では、電子ビーム描画装置の他の評価方法について説明する。
【0074】
図3は、本実施の形態における評価パターンを示したものであり、実施の形態2で述べた評価パターンと同様とすることができる。
【0075】
評価パターンは、副偏向領域F内に設けられる。副偏向領域Fは、例えば、一辺が50μm〜100μmの矩形であり、副偏向器の偏向幅に応じてサイズが決められる。
【0076】
図3に示すように、評価パターンは、複数のラインパターン(L21、L22、L23、L24、L25、L26)からなっている。各ラインパターンは、単一のコンタクトホールパターンが、Y方向に副偏向器の偏向幅いっぱいまで複数連続して配置された構成となっている。尚、本実施の形態においては、単一のコンタクトホールパターンが、X方向に副偏向器の偏向幅いっぱいまで複数連続して配置された構成であってもよい。
【0077】
図3中に示す1、2、3・・・などの数値は、副偏向セトリング時間を決定する際の副偏向による電子ビームのショット順序を表している。この例では、まず、ラインパターンL21を構成するパターン501をショットする。1ショットのサイズは、副偏向領域のサイズに応じて小さくすることが好ましく、例えば、一辺が50nmの矩形とすることができる(以下に同じ)。次いで、ラインパターンL26にショット位置を移動させる。そして、パターン502をショットした後、またラインパターンL21に移動して、パターン503をショットする。以上の工程を繰り返し、
図3におけるパターン520までショットする。
【0078】
次に、ラインパターンL21を構成するパターン521をショットする。次いで、ラインパターンL21に隣接するラインパターンL22にショット位置を移動させる。具体的には、パターン522をショットし、次いで、再び、ラインパターンL21にショット位置を移動させる。そして、パターン523をショットした後、またラインパターンL22に移動して、パターン524をショットする。以上の工程を繰り返し、
図3におけるパターン540までショットする。
【0079】
尚、
図3では、504番目から519番目までと、525番目から539番目までのパターンに関する表記を省略している(以下に同じ)。
【0080】
上記したラインパターンL21とL26の間のショットの移動を、本実施の形態では、「長距離移動」と称す。また、ラインパターンL21とL22の間のショットの移動を、「短距離移動」と称す。ここで、「短距離」とは、隣接するラインパターン間の寸法を言い、「長距離」とは、副偏向領域内の最大寸法を言う。また、これらの間の寸法を「中距離」と称す。
【0081】
図3の例では、最初に長距離移動のショットを続けた後、途中から短距離移動のショットに変更している。セトリング時間が不十分である場合、長距離移動のショットを続けると、この位置ずれ量は、次のショットによってリセットされないため次第に大きくなる。長距離移動のショットを続けている間は、この位置ずれ量は見え難いが、
図3の例のように短距離移動のショットに変えると、顕著に位置ずれ量が認められるようになる。そして、短距離移動のショットを続けて行くうちに、やがてこの位置ずれ量はリセットされる。
【0082】
上記のように、長距離移動のショットを続けた後、短距離移動のショットに変えると、ショットの移動距離が切り替わったところで、位置ずれ量が明確に分かるようになる。したがって、本実施の形態によれば、目視で位置ずれを把握することができるので、寸法測定器や座標測定機を用いた測定を行うことなく、位置ずれによる不良の発生を把握することができる。
【0083】
本実施の形態においては、最初に短距離移動のショットを続けた後、途中から長距離移動のショットに変更することもできる。
【0084】
例えば、ラインパターンL21を構成するパターン523をショットする。次いで、ラインパターンL21に隣接するラインパターンL22にショット位置を移動させる。具体的には、パターン524をショットし、次いで、再び、ラインパターンL21にショット位置を移動させる。そして、パターン521をショットした後、またラインパターンL22に移動して、パターン522をショットする。以上の工程を繰り返し、
図3におけるパターン512までショットする。
【0085】
次に、ラインパターンL21を構成するパターン509をショットする。次いで、ラインパターンL26にショット位置を移動させる。そして、パターン510をショットした後、またラインパターンL21に移動して、パターン507をショットする。以上の工程を繰り返し、
図3におけるパターン502までショットする。
【0086】
最初に短距離移動のショットを続けた後、途中から長距離移動のショットに変更する場合、位置ずれ量は次のようになる。すなわち、短距離移動のショットでは、位置ずれが殆どないので、明確な位置ずれ量を認めることはできない。しかしながら、長距離移動のショットでは、短距離移動のショットより位置ずれが大きくなる。そして、長距離移動のショットを続けていくと、この位置ずれがリセットされずに蓄積された状態となるため、位置ずれ量は次第に大きくなる。
【0087】
したがって、短距離移動のショットを続けた後、長距離移動のショットに切り替えても、位置ずれがあればこれを容易に視認することができる。つまり、この方法によっても、寸法測定器や座標測定機を用いた測定を行うことなく、位置ずれによる不良の発生を把握することが可能である。
【0088】
実施の形態4.
本実施の形態では、本発明による電子ビーム描画装置の一形態について述べる。
【0089】
図4は、本実施の形態の電子ビーム描画装置について、主として描画制御部の構成を示す図である。
【0090】
図4において、電子ビーム描画装置30の試料室31内には、試料であるマスク基板32が設置されたステージ33が設けられている。ステージ33は、ステージ駆動回路34によりX方向(紙面における左右方向)とY方向(紙面における垂直方向)に駆動される。ステージ33の移動位置は、レーザ測長計等を用いた位置回路35により測定される。
【0091】
試料室31の上方には、電子ビーム光学系40が設置されている。この電子ビーム光学系40は、電子銃100、各種レンズ37、38、39、41、42、ブランキング用偏向器43、成形偏向器44、ビーム走査用の主偏向器45、ビーム走査用の副偏向器46、および、2個のビーム成形用アパーチャ47、48等から構成されている。
【0092】
図5は、本実施の形態における電子ビーム描画方法の説明図である。この描画方法は、本実施の形態の電子ビーム描画装置30を使用することにより実現される。
【0093】
図5に示すように、マスク基板32上に描画されるパターン81は、短冊状のフレーム領域82に分割されている。電子ビーム描画装置30の電子銃100によって放出される電子ビーム20による描画は、ステージ33が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、フレーム領域82毎に行われる。フレーム領域82は、さらに副偏向領域83に分割されており、電子ビーム20は、副偏向領域83内の必要な部分のみを描画する。尚、フレーム領域82は、主偏向器45の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、副偏向領域83は、副偏向器46の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0094】
図4および
図5を参照して、副偏向領域83内での電子ビーム20の位置決めは、副偏向器46で行われる。副偏向領域83の位置制御は、主偏向器45によってなされる。すなわち、主偏向器45によって、副偏向領域83の位置決めがされ、副偏向器46によって、副偏向領域83内でのビーム位置が決められる。さらに、成形偏向器44とビーム成形用アパーチャ47、48によって、電子ビーム20の形状と寸法が決められる。そして、ステージ33を一方向に連続移動させながら、副偏向領域83内を描画し、1つの副偏向領域83の描画が終了したら、次の副偏向領域83を描画する。フレーム領域82内の全ての副偏向領域83の描画が終了したら、ステージ33を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、フレーム領域82を順次描画して行く。
【0095】
電子ビームによる描画を行う際には、まず、CADシステムを用いて設計された半導体集積回路などのパターンデータ(CADデータ)が、
図4の電子ビーム描画装置30に入力することのできる形式のデータ(レイアウトデータ)に変換される。次いで、レイアウトデータが変換されて描画データが作成された後、描画データは実際に電子ビーム20がショットされるサイズに分割された後、ショットサイズ毎に描画が行われる。
【0096】
レイアウトデータから変換された描画データは、記憶媒体である入力部51に記録された後、制御計算機50によって読み出され、
図5のフレーム領域82毎に、パターンメモリ52に一時的に格納される。パターンメモリ52に格納されたフレーム領域82毎のパターンデータ、すなわち、描画位置や描画図形データ等で構成されるフレーム情報は、データ解析部であるパターンデータデコーダ53と描画データデコーダ54に送られる。次いで、これらを介して、副偏向領域偏向量算出部60、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57、副偏向器ドライバ58に送られる。
【0097】
パターンデータデコーダ53からの情報は、ブランキング回路55とビーム成形器ドライバ56に送られる。具体的には、パターンデータデコーダ53で描画データに基づいてブランキングデータが作成され、ブランキング回路55に送られる。また、描画データに基づいて所望とするビーム寸法データも作成されて、副偏向領域偏向量算出部60とビーム成形器ドライバ56に送られる。そして、ビーム成形器ドライバ56から、電子ビーム光学系40の成形偏向器44に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム20の形状と寸法が制御される。
【0098】
副偏向領域偏向量算出部60は、パターンデータデコーダ53で作成したビーム形状データから、副偏向領域83における、1ショット毎の電子ビームの偏向量(移動距離)を算出する。算出された情報は、セトリング時間決定部61に送られ、副偏向による移動距離に対応したセトリング時間が決定される。
【0099】
セトリング時間決定部61で決定されたセトリング時間は、偏向制御部62へ送られた後、パターンの描画のタイミングを計りながら、偏向制御部62より、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57、副偏向器ドライバ58のいずれかに適宜送られる。
【0100】
描画データデコーダ54では、描画データに基づいて副偏向領域83の位置決めデータが作成され、このデータは、主偏向器ドライバ57と副偏向器ドライバ58に送られる。そして、主偏向器ドライバ57から、電子ビーム光学系40の主偏向器45に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム20が所定の主偏向位置に偏向走査される。また、副偏向器ドライバ58から、副偏向器46に所定の副偏向信号が印加されて、
図5の副偏向領域83内での描画が行われる。この描画は、具体的には、設定されたセトリング時間が経過した後、電子ビーム20を繰り返し照射することによって行われる。
【0101】
本実施の形態においては、電子ビーム描画装置30を評価する評価部63が、制御計算機50に接続していることを特徴とする。評価部63では、実施の形態1〜3で説明した評価パターンと電子ビームのショット順序とが格納されている。そして、目的に応じて選択された評価パターンとショット順序に関する情報が、評価部63から偏向制御部62に送られる。
【0102】
例えば、電子ビーム照射位置のずれ量を測定し、その結果から、短距離移動時の副偏向セトリング時間を求める場合には、実施の形態1で述べた評価パターンを用い、ラインパターンL2、L3の間における移動距離の小さいショットと移動距離の大きいショットとが繰り返されるショット順序を選択することができる。選択された情報は偏向制御部62へ送られ、この情報にしたがって、偏向制御部62により、ビーム成形器ドライバ56と、主偏向器ドライバ57と、副偏向器ドライバ58とが制御される。また、セトリング時間決定部61で決定されたセトリング時間にしたがって、偏向制御部62によりブランキング回路55が制御される。
【0103】
以上の条件下で描画されたパターンにおける電子ビーム照射位置のずれ量を測定することにより、現在のセトリング時間が適正であるか否かを評価することができる。例えば、あるパターンの一端から、次にショットされたパターンの対応する一端までの寸法を、寸法測定器で測定する。あるいは、これらのパターンの各端部(但し、四隅は除く。)または各中心の座標を、座標測定器で測定する。そして、得られた寸法または座標の設計値からのずれ量を求めた後、これらの値から平均の位置ずれ量を求める。この値が閾値より大きいか否かによって、現在のセトリング時間の適否が評価される。
【0104】
適正な副偏向セトリング時間は、次のようにして求められる。
【0105】
セトリング時間決定部61で決定されるセトリング時間を変え、上記と同様にしてパターンを描画する。すなわち、偏向制御部62から、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57および副偏向器ドライバ58へ、セトリング時間、パターン形状およびショット順序などの情報が送られて描画が行われる。
【0106】
副偏向のセトリング時間と平均の位置ずれ量との関係を求め、この関係から最適のセトリング時間を決定する。例えば、位置ずれ量が最少となるセトリング時間を最適値とすることができる。スループットの観点からは、セトリング時間と平均の位置ずれ量との関係を表す曲線の傾きがゼロになるセトリング時間を最適値とすることが好ましい。
【0107】
本実施の形態の電子ビーム描画装置は、電子ビーム照射位置のずれ量を評価するための評価部を有しているので、セトリング時間の適否を評価することができるとともに、その結果から適正なセトリング時間を求めることができる。また、評価部に格納されている評価パターンは、複数のラインパターンからなり、これらのラインパターンは、Y方向(またはX方向)に平行に配置され、各ラインパターンを構成するコンタクトホールパターンのサイズは、副偏向領域のサイズに応じて任意に変えることができる。したがって、直交する2つの直線上にコンタクトホールが配置される従来の評価用パターンに比べると、副偏向領域に収まるコンタクトホールの数、すなわち、評価点数の数を多くすることができる。つまり、従来より小さい副偏向領域であっても、評価点数の減少を抑制できるので、電子ビームの照射位置について正確な評価を行うことが可能である。
【0108】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0109】
例えば、上記各実施の形態では、副偏向のセトリング時間について述べたが、主偏向のセトリング時間についても同様に考えることができる。
【0110】
また、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明は、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた荷電粒子銃のコンディショニング方法やこの荷電粒子銃を備えた荷電粒子ビーム描画装置にも適用可能である。