【実施例】
【0119】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0120】
(実施例1)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法を用いた綿100%メリヤス生地(セルロース繊維)の親水性化処理と、得られた生地(親水性セルロース繊維)の機能性評価を行った。
【0121】
[試験条件]
(a)試験工程
試験では、生成りのサンプル生地(セルロース繊維)をTEMPO酸化させる第1の酸化工程ST11と、酸化セルロース繊維をさらに酸化させる第2の酸化工程ST12と、酸化セルロース繊維から塩素を除去する脱ハロゲン工程ST13と、処理後のサンプル生地を乾燥させる乾燥工程と、を順に行った。
【0122】
なお、本実施例では、TEMPO酸化を行う第1の酸化工程ST11において、生地内部にまで薬剤を浸透できているか確認するために、第1の反応溶液に浸透剤を添加したものと、添加しないものとを用いてそれぞれ親水性化処理を行った。
【0123】
(b)TEMPO酸化(第1の酸化工程ST11)
下記表1に示す条件で、生地のTEMPO酸化処理を行った。
【0124】
図3(a)は、第1の酸化工程ST11で用いた処理装置の概略を示す図である。
図3(a)に示すように、サンプル生地215は第1の反応溶液210とともに攪拌子223を備えるビーカー200Aに入れられ、開放系で酸化処理を施される。ビーカー200Aは温度制御機能を備えたウオーターバス222に入れられ、所定の反応温度に維持される。
【0125】
ビーカー200AにTEMPO触媒、臭化ナトリウム、浸透剤(シントールG29(商品名;高松油脂社製))を添加した処理浴を調製した。処理浴にサンプル生地215を投入し、サンプル生地215に薬剤を十分に浸透させた。その後、処理浴に次亜塩素酸ナトリウム(4.9%水溶液)を添加し、さらに0.5M塩酸により処理浴(第1の反応溶液210)のpHを10に調整した。そして、処理浴がpH10となるように1.0M水酸化ナトリウムを滴下しながら酸化反応を進行させ、反応時間15分で停止させた。
【0126】
なお、浸透剤を添加しない場合の条件についても、浸透剤以外の条件は表1と同条件として第1の酸化工程ST11を実行した。
【0127】
【表1】
【0128】
(c)酸化工程(第2の酸化工程ST12)
下記表2に示す条件で、サンプル生地(酸化セルロース繊維)の酸化処理を行い、TEMPO酸化によってセルロースに導入されたアルデヒド基をさらにカルボキシル基に酸化させた。
【0129】
図3(b)は、第2の酸化工程ST12で用いた実験装置の概略を示す図である。
図3(b)に示すように、第1の酸化工程ST11でTEMPO酸化処理された後のサンプル生地(酸化セルロース繊維)315を、第2の反応溶液310とともにチャック付のビニールバッグ300Aに入れて密閉した。
【0130】
ビニールバッグ300Aに封入した内容物は、以下の手順で作製した。
【0131】
亜塩素酸ナトリウム(25%水溶液)と亜塩素漂白用キレート剤ネオクリスタルCG1000(日華化学社製)とを含む第2の反応溶液310を調製し、第2の反応溶液310に第1の酸化工程ST11でTEMPO酸化処理した後のサンプル生地315を60g投入して攪拌した後、ビニールバック300Aをチャックで密閉した。
【0132】
次に、ビニールバッグ300Aを、内側をフッ素樹脂コーティングされた3L用ステンレスポット318に入れて密閉した。そして、サンプル生地315を封入したステンレスポット318を80℃に保持した油浴320Aに入れ、ステンレスポット318を回転させることで、温度、時間を制御しながら内容物を攪拌して酸化反応を進行させ、反応時間90分で反応を停止させた。
【0133】
【表2】
【0134】
(d)脱塩素工程(脱ハロゲン工程ST13)
下記表3に示す条件で、第2の酸化工程ST12で酸化処理した後のサンプル生地から塩素を取り除いた。
【0135】
過酸化水素(35%水溶液)とポリカルボン酸系キレート剤ネオレートPLC7000(日華化学社製)とを含む反応溶液を調製し、この反応溶液に第2の酸化工程ST12で酸化処理した後のサンプル生地(酸化セルロース繊維)60gを投入した。そして、反応溶液の温度を70℃に保持しつつ攪拌しながら反応を進行させ、反応時間20分で反応を停止させた。
【0136】
なお、第2の酸化工程ST12による効果を検証するために、第2の酸化工程ST12をスキップし、第1の酸化工程ST11の後に脱塩素工程ST13を実行したサンプルも作製した。
【0137】
【表3】
【0138】
(e)洗浄・乾燥工程
脱塩素処理が終了したサンプル生地を、水洗い(5分間×1回)、湯洗い(60℃、10分間×1回)、水洗い(5分間×2回)を行った。その後、サンプル生地を40℃の乾燥室で乾燥させた。
【0139】
[評価結果]
表4に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(1−1,1−2,2−1,2−2)についての吸湿率及び白度の評価結果を示す。
【0140】
なお、サンプル1−1及び1−2は、第1の酸化工程ST11において浸透剤を用いない条件で処理したサンプル生地である。一方、サンプル2−1及び2−2は、第2の酸化工程ST11において浸透剤を用いた条件で処理したサンプル生地である。
【0141】
また、サンプル1−1及び2−1は、第2の酸化工程ST12を実行することなく、脱塩素工程ST13及び乾燥工程を実施したサンプル生地である。一方、サンプル1−2及び2−2は、第2の酸化工程ST12を実行する条件で処理したサンプルである。
【0142】
白度は、CIELAB表色系より、L*−3b*として算出(Kollmorgen Instruments Corporation製 Macbeth WHITE-EYE3000微小面積にて測色)した。また、絶乾後白度は、「JIS L-0105 4.3」に基づいて絶乾重量を測定した後の白度である。
【0143】
【表4】
【0144】
表4に示すサンプル1−1と1−2との比較、及び、サンプル2−1と2−2との比較から、第2の酸化工程ST12による酸化処理を行うことで吸湿率が増加することが確認できる。このことから、第1の酸化工程ST11の副生成物であるアルデヒド基を、第2の酸化工程ST12でカルボキシル基に酸化することができていると考えられる。
【0145】
また、サンプル1−2と、2−2とを比較すると、浸透剤を添加してTEMPO酸化処理を施したサンプル2−2の方が吸湿性が増加しており、セルロース繊維の内部にまで第1の反応溶液が浸透してTEMPO酸化されていることが確認できる。
【0146】
(実施例2)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法のうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)の反応時間の長さによる加工度、生地物性への影響を検討した。
【0147】
[試験条件]
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11における反応時間を変化させた。具体的には、反応時間1分、2.5分、5分、10分、15分で反応を停止させて各サンプルを作製した。
【0148】
なお、比較のために、TEMPO触媒を含まない条件で第1の酸化工程ST11を実施したサンプルも作製した。
【0149】
[評価結果]
表5に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(3−1〜3−5、及び、TEMPO無し、生成り、未加工区)についての吸湿率、白度、破裂強度、及び重合度の評価結果を示す。
【0150】
なお、サンプル3−1〜3−5は、第1の酸化工程ST11の反応時間を変えてTEMPO酸化処理したサンプル生地である。
【0151】
サンプル「TEMPO無し」は、第1の酸化工程ST11においてTEMPO触媒を含まない第1の反応溶液を用いて酸化処理したサンプル生地である。
【0152】
サンプル「生成り」及び「未加工区」は、それぞれ、生成りのサンプル生地と未加工のセルロース繊維である。
【0153】
白度の測定方法は実施例1と同様である。
破裂強度は、「JIS L-1018 8.17A法」に基づいて測定した。
重合度は、以下の方法により測定した。
【0154】
本願明細書において、重合度とは「1本のセルロース分子中に含まれるの平均グルコース成分の数」であり、重合度に162をかければ分子量となる。本実施例では、各サンプル生地から採取した繊維を前もって水素化ホウ素ナトリウムで還元することで残存アルデヒド基をアルコールに還元し、これを0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させ、粘度法にて重合度を求めた。
【0155】
銅エチレンジアミン溶液はアルカリ性であり、酸化セルロース中にアルデヒド基が残存していた場合には、溶解過程でベータ脱離反応が起こって分子量が低下してしまう可能性があるため、予め還元処理してアルデヒド基をアルコール性水酸基に変換した。
【0156】
0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させたセルロースの粘度から、セルロースの重合度を求める式については、以下の文献を参考にした。
【0157】
(文献)Isogai, A., Mutoh, N., Onabe, F., Usuda, M., “Viscosity measurements of cellulose/SO
2-amine-dimethylsulfoxide solution”, Sen’i Gakkaishi, 45, 299-306 (1989).
【0158】
【表5】
【0159】
表5に示すように、反応時間を1分間(サンプル3−1)とした場合でも、生成りのサンプル生地よりも吸湿率が増加しており、親水性が向上することが確認できる。
【0160】
また、いずれのサンプルでも絶乾後の白度が低下しており、加熱により黄変が確認されたが、その程度は白度で5ポイント程度であった。
【0161】
また、重合度については、反応時間を長くするほど低くなる傾向にあったが、反応時間1分の条件(サンプル3−1)において、従来の処理方法で親水性化処理したサンプル生地に対して約2倍の重合度を保つことができ、生地強度低下を抑制できることが確認された。
【0162】
なお、従来の処理方法は、特許文献1に記載のセルロースの酸化処理方法を適用してサンプル生地の親水性化処理を実施する方法であり、本発明に係る第1の酸化工程ST11のみによって構成される親水性化処理方法に相当する。
【0163】
(実施例3)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法のうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)における再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度による加工度、生地物性への影響を検討した。
【0164】
[試験条件]
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いる第1の反応溶液の次亜塩素酸ナトリウムの濃度を変化させた。
【0165】
試験水準は、次亜塩素酸ナトリウムの4.9%水溶液の添加量を、6.7g/L、11.3g/L、22.5g/L、45g/L、90g/L、とした。
【0166】
[評価結果]
表6に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(4−1〜4−5、及び、生成り、未加工区)についての吸湿率、白度、破裂強度、重合度、及びカルボキシル基量の評価結果を示す。また、
図4(a)に、吸湿率と次亜塩素酸ナトリウム濃度の相関をプロットしたグラフを示し、
図4(b)には、破裂強度及び重合度と次亜塩素酸ナトリウム濃度の相関をプロットしたグラフを示す。
【0167】
なお、カルボキシル基量は、電導度滴定により測定した。
【0168】
サンプル4−1〜4−5は、第1の反応溶液中の次亜塩素酸ナトリウムの濃度を変えてTEMPO酸化処理したサンプル生地である。サンプル「生成り」及び「未加工区」は、それぞれ、生成りのサンプル生地と未加工のセルロース繊維である。
【0169】
【表6】
【0170】
表6に示すように、第1の反応溶液における次亜塩素酸ナトリウムの濃度を増加させるに伴い、セルロース繊維に導入されるカルボキシル基量を増加させることができることが確認できる。そして、カルボキシル基量が多いものほど、洗浄中に付着するNaイオンやCaイオンの量が増加し、吸湿率が大幅に増加する傾向にあった。
【0171】
一方、重合度及び生地強度は、次亜塩素酸ナトリウムの濃度を増加させるほど低下する傾向にあったが、次亜塩素酸ナトリウム(4.9%水溶液)の濃度が22.5g/L(約15mmol/L)までの範囲であれば、大きな強度低下は生じないことが確認できる。
【0172】
(実施例4)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法のうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)におけるTEMPO触媒の濃度及び再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度による生地強度への影響を検討した。
【0173】
[試験条件]
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いる第1の反応溶液のTEMPO濃度と次亜塩素酸ナトリウムの濃度とを変化させた。
【0174】
試験水準を以下の表7に示す。
【0175】
【表7】
【0176】
[評価結果]
表8に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(a−1〜d−1、a−2〜d−2、及び、生成り、従来品)についての吸湿率、カルボキシル基量、重合度、白度、破裂強度、剛軟度の評価結果を示す。剛軟度測定は、「JIS L-1018 8.22E法」に基づいて測定を実施した。
【0177】
サンプル番号におけるa〜dはTEMPO濃度の試験水準に対応し、1,2はNaClO濃度の試験水準に対応する。つまり、サンプルa−1は、TEMPO濃度が0.33g/L(水準a)、NaClO濃度が22.5g/L(水準1)のサンプルである。
【0178】
サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地である。
【0179】
サンプル「従来品」は、サンプル生地を、モノクロル酢酸(200g/L)と水酸化ナトリウム(50g/L)とからなる反応溶液に浸漬し、反応温度:25℃、反応時間:24時間の条件で部分カルボキシメチル化処理したものである。
【0180】
【表8】
【0181】
表8に示すように、TEMPO濃度を変えて作製したサンプルa−1〜d−1、及び、サンプルa−2〜d−2の比較から、TEMPO触媒濃度を変えてもサンプル生地の加工度に著しい傾向は見られないことが確認できる。
【0182】
また、重合度については、サンプルa−1〜d−1はいずれもサンプル「従来品」よりも高く、風合いの改善も見られた。
【0183】
破裂強度については、いずれのサンプルでも大きな強度低下は見られなかった。
【0184】
(実施例5)
第1の酸化工程ST11は、
図2(a)や
図3(a)に示したように、オープン系の反応であるため、反応途中で有効活用されていない次亜塩素酸ナトリウムが存在する。
【0185】
そこで本実施例では、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)において、TEMPO触媒と臭化ナトリウムとを含む処理浴にサンプル生地を浸透させ、かかる処理浴に次亜塩素酸ナトリウムをpH=10になるように滴下する処理方法について検討した。
【0186】
[試験条件]
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1と同様であるが、TEMPO触媒濃度を0.33g/L、臭化ナトリウム濃度を3.3g/Lに変更した。また、サンプル毎に第1の酸化工程ST11の反応時間と反応温度を変化させた。試験水準を以下の表9に示す。
【0187】
【表9】
【0188】
[評価結果]
表10に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(A−1〜C−1、A−2〜C−2、A−3〜C−3、及び、生成り、未加工区)についてのカルボキシル基量、重合度、白度,及び吸湿率の評価結果を示す。
【0189】
サンプル番号におけるA〜Cは、反応温度の試験水準に対応し、1〜3は反応時間の試験水準に対応する。つまり、サンプルA−1は、反応温度が15℃(水準A)、反応時間が1分(水準1)のサンプルである。
【0190】
サンプル「生成り」及び「未加工区」は、それぞれ、生成りのサンプル生地と未加工のセルロース繊維である。
【0191】
【表10】
【0192】
表10に示すように、本実施例では、反応温度を高くするとセルロースへのカルボキシル基の導入量が増加する一方で、各サンプルの重合度低下の度合は極めて小さくなっている。
【0193】
これは、本実施例の親水性化処理方法が、反応温度を上げてカルボキシル基が導入されやすい状態とし、そこへ酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムを徐々に最小限に添加するようにしているためであると考えられる。
【0194】
また,本実施例の親水性化処理方法によれば、次亜塩素酸ナトリウムを含む第1の反応溶液を調整し、これにサンプル生地を浸漬する方法に比して次亜塩素酸ナトリウムの使用量を2/3程度にまで減少させることができる。
【0195】
(実施例6)
本実施例では、第1及び第2の酸化工程により、セルロース繊維のC6位がカルボキシル基に酸化されるが、該酸化工程により、セルロース繊維のC2位やC3位も酸化され、ケトンが一部生成されていると考えられる。そこで、第2の工程の後(脱ハロゲン化処理後)に、さらに、還元剤による還元処理を行い、セルロース繊維のC2位やC3位で生成したケトンをアルコールに還元し、得られた生地(親水性セルロース繊維)の機能性評価を行った。
【0196】
[試験条件]
(a)試験工程
先の実施例1と同様の方法により、表11〜14の条件で、生成りのサンプル生地(セルロース繊維)をTEMPO酸化させる第1の酸化工程ST11、酸化セルロース繊維をさらに酸化させる第2の酸化工程ST12、酸化セルロース繊維から塩素を除去する脱ハロゲン工程ST13を行った。得られた脱ハロゲン化処理した酸化セルロース繊維を、さらに、NaBH
4による還元処理し、処理後のサンプル生地を乾燥させる乾燥工程を順に行った。
【0197】
(b)TEMPO酸化(第1の酸化工程ST11)
下記表11に示す条件で、生地のTEMPO酸化処理を行い、実施例1と同様の方法にて、酸化処理を行った。
【0198】
【表11】
【0199】
(c)酸化工程(第2の酸化工程ST12)
下記表12に示す条件で、サンプル生地(酸化セルロース繊維)の酸化処理を行い、実施例1と同様に、TEMPO酸化によってセルロースに導入されたアルデヒド基をさらにカルボキシル基に酸化させた。
【0200】
【表12】
【0201】
(d)脱塩素工程(脱ハロゲン工程ST13)
下記表13に示す条件で、実施例1と同様の方法により、第2の酸化工程ST12で酸化処理した後のサンプル生地から塩素を取り除いた。
【0202】
【表13】
【0203】
・還元工程
下記表14に示す条件で、脱塩素化処理を施したサンプル生地を、さらに、NaBH
4によって、セルロース繊維に含まれるケトンを還元した。
【0204】
【表14】
【0205】
(e)洗浄・乾燥工程
還元処理が終了したサンプル生地を、水洗い(5分間×1回)、湯洗い(60℃、10分間×1回)、水洗い(5分間×2回)を行った。その後、サンプル生地を40℃の乾燥室で乾燥させた。
【0206】
[評価結果]
表15に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(4−1〜4−5)についての白度の評価結果を示す。
【0207】
なお、サンプル4−1〜4−5は、還元工程におけるNaBH
4の含有割合を変化させ、還元処理を施したサンプル生地である。
【0208】
なお、表15に示すカルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO
2漂白後、さらにH
2O
2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0209】
【表15】
【0210】
表15に示すように、NaBH
4による還元処理を行わないサンプル4−1は、熱による白度低下が大きいが、NaBH
4の濃度を変えて還元処理を行ったサンプル4−2〜4−5では、白度低下が抑えられたことから、還元剤を用いることによって、黄変原因となる生成したケトンを還元することができたものと考えられる。
【0211】
(実施例7)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法のうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)における再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度、及びその後の還元処理の有無による生地強度への影響を検討した。
【0212】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例6と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いる第1の反応溶液の次亜塩素酸ナトリウムの濃度を変化させ、その後のNaBH
4処理の有無での実施を行った。
【0213】
試験水準を以下の表16に示す。なお、サンプル5−4は、実施例4で実施したサンプルd−2と同じである。
【0214】
【表16】
【0215】
[評価結果]
表16に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(5−1〜5−6)についての吸湿率、カルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0216】
なお、吸湿率、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO
2漂白後、さらにH
2O
2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0217】
表16に示すように、NaClO濃度を変えて作製したNaBH
4による処理を施したサンプル5−1、5−3、及び5−5、並びにNaBH
4による処理を施していないサンプル5−2、5−4、及び5−6の比較から、NaClO濃度を変えてもNaBH
4による処理を施したサンプルの方が、白度低下が小さいことが確認できる。
【0218】
(実施例8)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法ののうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)における助触媒の種類を変え、さらにその後の還元処理の有無による生地強度への影響を検討した。
【0219】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例6と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いる助触媒の種類を変え、その後のNaBH
4処理の有無での実施を行った。
【0220】
試験水準を以下の表17に示す。
【0221】
【表17】
【0222】
[評価結果]
表17に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(6−1〜6−6)についてのカルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0223】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO
2漂白後、さらにH
2O
2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0224】
表17に示すように、助触媒としてNaClや硫酸ナトリウム(芒硝)を用いてもセルロース繊維中にCOOH基を導入できることが確認できた。助触媒としてNaClや硫酸ナトリウム(芒硝)を用いた場合、重合度は低下しやすい傾向にあるが、NaClや硫酸ナトリウム(芒硝)は、NaBrを用いた場合と比較して、ケトンを生成しにくく、熱による黄変(白度低下)が生じにくいため有用であるといえる。
【0225】
(実施例9)
本実施例では、第1の酸化工程において用いるTEMPO触媒に代えて、TMPO誘導体を用いた場合についての機能性評価を行った。
【0226】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例6と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いるTEMPO触媒の種類を変え、実施した。
【0227】
用いたTEMPO誘導体を表18に示し、試験水準を以下の表19に示す。
【0228】
【表18】
【0229】
【表19】
【0230】
[評価結果]
表19に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(7−1〜7−7)についてのカルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0231】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO
2漂白後、さらにH
2O
2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0232】
表19に示すように、TEMPOは、最もCOOH基を導入でき、重合度の低下も抑制できることが確認できた。
【0233】
また、4−アセトアミドTEMPOと4−メトキシTEMPOは、挙動が類似しているが、4−メトキシTEMPOの方が4−アセトアミドTEMPOよりもわずかに重合度低下が抑制され、また、白度低下も抑制できていることが分かる。
【0234】
以上より、TEMPO以外のTEMPO誘導体についてもCOOH基を導入できることが確認できた。
【0235】
(比較例)
前記実施例9の製造工程において、第2の酸化工程、脱塩素工程を行わない場合のカルボキシル基、重合度、及び白度への影響についての機能性評価を行った。
【0236】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例8と同様であるが、第2の酸化工程、脱塩素工程を行わず、第1の酸化工程の後、サンプル生地を、水洗い(5分間×3回)を行った。その後、サンプル生地を40℃の乾燥室で乾燥させた。
【0237】
試験水準を以下の表20に示す。
【0238】
【表20】
【0239】
[評価結果]
表20に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(1〜7)についてのカルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0240】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO
2漂白後、さらにH
2O
2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0241】
表20及び表19との比較より、第2の酸化工程、脱塩素工程を行わない場合、重合度が大きく低下することがわかる。また、セルロース繊維のアルデヒド基及びケトン基の生成量が異なるため、白度低下には差があるが、表19の実施例8と比較した場合、白色度が大きく低下していることがわかる。
【0242】
(実施例10)
本実施例では、第1の酸化工程において用いるTEMPOに代えて、4−メトキシTEMPOを用い、4−メトキシTEMPOの濃度、助触媒(NaBr)の濃度、及び再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度による生地強度への影響を検討した。
【0243】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例6と同様であるが、TEMPOに代えて、4−メトキシTEMPOを用い、サンプル毎に4−メトキシTEMPOの濃度、助触媒(NaBr)の濃度、及び再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度を変え実施した。
【0244】
試験水準を以下の表21に示す。
【0245】
【表21】
【0246】
[評価結果]
表21に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(8−1〜8−7)についてのカルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0247】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO
2漂白後、さらにH
2O
2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0248】
表21に示すように、4−メトキシTEMPOの濃度を低くすると、重合度低下が抑えられることがわかる。また、TEMPOよりもCOOH基量が導入しやすい傾向にある。
【0249】
(実施例11)
本実施例では、TEMPO酸化後の反応溶液を再利用して、何回まで使用が可能であるかの確認試験を行った。
【0250】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1の方法で下記表21に示すTEMPO触媒及び反応条件で実施した。また、TEMPO酸化後の反応溶液を回収し、別のセルロース繊維を用いて2回目(サンプル9−2)、3回目(サンプル9−3)のTEMPO酸化を行った。
【0251】
【表22】
【0252】
【表23】
【0253】
[評価結果]
表23に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(9−1〜9−3)についてのカルボキシル基量、重合度、白度、及び反応効率の評価結果を示す。
【0254】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、反応効率は、1回目のカルボキシル基量を100%としてカルボキシル基量生成の割合を表した値である。
【0255】
サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO
2漂白後、さらにH
2O
2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0256】
表23に示すように、TEMPO触媒の反応溶液の再利用回数が3回までは、反応効率が90%以上と高く、再利用が可能であることが確認できた。