特許第5649578号(P5649578)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5649578セルロース繊維の親水性化処理方法、及び親水性化セルロース繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649578
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】セルロース繊維の親水性化処理方法、及び親水性化セルロース繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/00 20060101AFI20141211BHJP
   D06M 11/30 20060101ALI20141211BHJP
   D06M 11/50 20060101ALI20141211BHJP
   D06M 13/355 20060101ALI20141211BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20141211BHJP
【FI】
   D06M11/00 130
   D06M11/30
   D06M11/50
   D06M13/355
   D06M101:06
【請求項の数】9
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2011-528800(P2011-528800)
(86)(22)【出願日】2010年8月24日
(86)【国際出願番号】JP2010064275
(87)【国際公開番号】WO2011024807
(87)【国際公開日】20110303
【審査請求日】2013年4月12日
(31)【優先権主張番号】特願2009-194866(P2009-194866)
(32)【優先日】2009年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 明
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 継之
(72)【発明者】
【氏名】田中 千晶
(72)【発明者】
【氏名】由井 美也
【審査官】 家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−512540(JP,A)
【文献】 特開2003−073402(JP,A)
【文献】 特開昭56−079787(JP,A)
【文献】 特表平10−504858(JP,A)
【文献】 特開2001−131867(JP,A)
【文献】 特開2003−183302(JP,A)
【文献】 特開2005−054349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00−15/715
D21H11/00−27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を、N−オキシル化合物及び前記N−オキシル化合物の再酸化剤とを含む第1の反応溶液中で酸化させる第1の酸化工程
記第1の酸化工程で得られた酸化セルロース繊維を、アルデヒド基を酸化する酸化剤を含む第2の反応溶液中で酸化させる第2の酸化工程
前記再酸化剤又は前記アルデヒド基を酸化する酸化剤がハロゲン酸系酸化剤であり、
前記第2の酸化工程で得られた酸化セルロース繊維の脱ハロゲン化処理を行う脱ハロゲン化工程、並びに
脱ハロゲン化工程後の前記第2の酸化工程によって得られた酸化セルロース繊維を、さらに還元剤を含む反応溶液中で還元させる還元工程
を含むことを特徴とする親水性化セルロース繊維の製造方法。
【請求項2】
前記第1の反応溶液のpHを8以上12以下とし、前記第2の反応溶液のpHを3以上7以下とすることを特徴とする請求項1に記載の親水性化セルロース繊維の製造方法。
【請求項3】
前記再酸化剤が次亜ハロゲン酸又はその塩であり、前記アルデヒド基を酸化する酸化剤が亜ハロゲン酸又はその塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の親水性化セルロース繊維の製造方法。
【請求項4】
前記第2の反応溶液に、さらに緩衝液を添加することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の親水性化セルロース繊維の製造方法。
【請求項5】
前記第1の反応溶液に浸透剤を添加することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の親水性化セルロース繊維の製造方法。
【請求項6】
前記第1の酸化工程において、
前記N−オキシル化合物を含む溶液の処理浴に前記セルロース繊維を浸漬し、前記処理浴に必要量の前記再酸化剤を添加することで前記酸化処理を実行することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の親水性化セルロース繊維の製造方法。
【請求項7】
前記再酸化剤を、前記処理浴のpHを一定に保持するように添加することを特徴とする請求項に記載の親水性化セルロース繊維の製造方法。
【請求項8】
還元工程における還元剤が、チオ尿素、ハイドロサルファイト、亜硫酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、及び水素化ホウ素リチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜のいずれかに記載の親水性化セルロース繊維の製造方法。
【請求項9】
セルロース繊維を、N−オキシル化合物と前記N−オキシル化合物の再酸化剤とを含む第1の反応溶液中で酸化させる第1の酸化工程と、
前記第1の酸化工程で得られた酸化セルロース繊維を、アルデヒド基を酸化する酸化剤を含む第2の反応溶液中で酸化させる第2の酸化工程と、
前記再酸化剤又は前記アルデヒド基を酸化する酸化剤がハロゲン酸系酸化剤であり、
前記第2の酸化工程で得られた酸化セルロース繊維の脱ハロゲン化処理を行う脱ハロゲン化工程と、
脱ハロゲン化工程後の前記第2の酸化工程によって得られた酸化セルロース繊維を、さらに還元剤を含む反応溶液中で還元させる還元工程
を有することを特徴とするセルロース繊維の親水性化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維の親水性化処理方法、及び親水性化セルロース繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、肌着等の綿衣料製品(セルロース繊維製品)では、高い吸湿性と放湿性とが求められており、同分野の製品における差別化要素となっている。セルロース繊維の親水性化処理方法としては、種々のものが知られており、代表的な例としては、セルロースの水酸基をカルボキシル基に酸化する方法がある。
【0003】
例えば特許文献1,2に記載の処理方法は、主酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いてβ−グルコースの1級水酸基をカルボキシル基に酸化するものである。この処理方法によれば、アルカリとモノクロロ酢酸を用いる部分カルボキシメチル化や、クロロホルム中にNを添加するカルボキシル化のように毒物や劇物を使用しないため、安全で効率的にカルボキシル基を導入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−251302号公報
【特許文献2】特開2001−49591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の処理方法では、触媒量のNaBrとTEMPOを含むセルロース繊維の水分散液に、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液を主酸化剤として加えて酸化反応(TEMPO触媒酸化反応)を進める。この処理方法では、反応中にカルボキシル基の生成によってpHが低下するため、希水酸化ナトリウム水溶液(通常、0.5M程度のNaOH)を常に添加して反応系のpHを8〜11に維持する。
【0006】
図5、6に、次亜塩素酸ナトリウムを主酸化剤とし、臭化ナトリウム(NaBr)とTEMPOを触媒量加えることによって、セルロースの1級水酸基をアルデヒド基を経てカルボキシル基に酸化する機構を示す。
【0007】
天然セルロースは、図7(a)に示すように、結晶性のミクロフィブリル(結晶化度は65〜95%、セルロース分子30〜100本より成る)を構成単位としている。上記の方法では、この高結晶性のセルロースミクロフィブリルの構造を維持しながら、天然セルロースのミクロフィブリルの表面に位置するC6位の1級水酸基のみを、選択的にカルボキシル基あるいはアルデヒド基に酸化する。これにより、セルロース繊維を親水性化することができる。
【0008】
しかし、本発明者らがさらに研究を重ねたところ、上記従来の処理方法及びこれにより得られるセルロース繊維における課題も明らかになってきた。かかる課題について以下に示す。
【0009】
(1)まず、従来の処理方法により得られる親水性セルロース繊維では、処理前よりも大きく強度が低下してしまうことが判明した。
【0010】
そこで本発明は、強度を保持しつつセルロース繊維を親水性化する処理方法、及び親水性化セルロース繊維の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0011】
(2)また、従来の処理方法により得られる親水性セルロース繊維では、加熱により着色が発生することが判明した。このような着色は、白色性が要求される衣料等の用途では品質上の問題となりうる。
【0012】
そこで本発明は、加熱処理を施しても着色の生じない親水性セルロース繊維が得られる親水性化処理方法、及び親水性化セルロース繊維の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0013】
(3)さらに、前記第1及び第2の酸化工程並びに脱ハロゲン工程によって、セルロース繊維により多くのカルボキシル基をセルロース繊維表面に導入することができる一方、前記酸化工程により、セルロース繊維のC6位のカルボキシル化だけでなく、C2位やC3位も一部酸化され、ケトンが生成されるという問題がある。
【0014】
そこで本発明は、前記工程の後に、さらに、還元剤による還元処理を行い、生成したケトンを還元する親水性化処理方法、及び親水性化セルロース繊維の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のセルロース繊維の親水性化処理方法、及び親水性化セルロース繊維の製造方法は、上記課題を解決するために、セルロース繊維を、N−オキシル化合物と前記N−オキシル化合物の再酸化剤とを含む第1の反応溶液中で酸化させる第1の酸化工程と、前記第1の酸化工程で得られた酸化セルロース繊維を、アルデヒド基を酸化する酸化剤を含む第2の反応溶液中で酸化させる第2の酸化工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
この方法によれば、第1の酸化工程においてセルロースC6位の水酸基を酸化させてアルデヒド基及びカルボキシル基をセルロースに導入し、さらに第2の酸化工程において第1の酸化工程で生成されたアルデヒド基をカルボキシル基に酸化するので、セルロース繊維の特性上必要な酸化処理を第1の酸化工程で迅速に行うことができ、低分子化や着色の原因となるアルデヒド基を第2の酸化工程でカルボキシル基に置換することができる。これにより、上記(1)(2)に示した課題を解決できるセルロース繊維の親水性化処理方法、及び親水性化セルロース繊維の製造方法が実現される。
【0017】
ここで、従来の処理方法では、pH8〜11の弱アルカリ性条件で所望の親水性が得られるまでTEMPO触媒酸化を行うため、図8中央に示すように、C6位にアルデヒド基(CHO基)が中間体として生成する。そして、このアルデヒド基には、pH8〜11の条件で極めて容易にベータ脱離反応が起こるため、図8右側に示すように、セルロースの分子鎖が切断され、得られるセルロース繊維の強度が低下すると考えられる。
【0018】
また、従来の処理方法では、セルロースのミクロフィブリルの表面に生成するアルデヒド基は、0.5mmol/g以下(通常0.3mmol/g以下)とカルボキシル基に比べて少量であるが、洗浄後のセルロース繊維の表面にも残存している。そのために、アルデヒド基を有する還元糖におけるキャラメル化と同様の反応により着色が生じると考えられる。
【0019】
これに対して本発明の方法では、第1の酸化工程においてアルデヒド基が生成したとしても、第2の酸化工程で迅速にアルデヒド基を酸化させ、アルデヒド基をほぼ含まない酸化セルロースとすることができる。したがって本発明によれば、アルデヒド基の反応によるセルロース分子鎖の切断を防ぐことができ、優れた強度を発現する親水性セルロース繊維を得ることができる。また本発明の方法により得られる親水性セルロース繊維はアルデヒド基を含まないものとなり、これを加熱処理や加熱乾燥処理に供しても着色を生じることはない。よって本発明によれば、高い白度を有する親水性セルロース繊維を得ることができる。
【0020】
前記第1の反応溶液のpHを8以上12以下とし、前記第2の反応溶液のpHを3以上7以下とすることが好ましい。
【0021】
この方法によれば、第1の酸化工程ではセルロースC6位の水酸基を酸化させる反応を効率良く進行させ、第2の酸化工程ではアルデヒド基を酸化してカルボキシル基とする反応を効率良く進行させることができる。これにより、強度を保持し加熱時の着色を防止しつつセルロース繊維を親水性化することができる。特に、第2の酸化工程における第2の反応溶液を酸性〜中性の範囲とすることで、弱アルカリ〜強アルカリ性で起きるベータ脱離反応が起きるのを防止できるため、第1の酸化工程で導入されたアルデヒド基に起因するセルロース繊維の強度低下が第2の酸化工程中に生じるのを防止することができる。
【0022】
前記再酸化剤又は前記アルデヒド基を酸化する酸化剤としてハロゲン酸系酸化剤を用い、前記第2の酸化工程で得られた酸化セルロース繊維の脱ハロゲン化処理を行う脱ハロゲン化工程をさらに有することも好ましい。
【0023】
このような方法によれば、親水性化処理後のセルロース繊維に塩素を残留させないため、残留塩素に起因するセルロース繊維の白度低下や脆化が生じるのを防ぐことができる。
【0024】
前記再酸化剤として次亜ハロゲン酸又はその塩を用い、前記アルデヒド基を酸化する酸化剤として亜ハロゲン酸又はその塩を用いることが好ましい。
【0025】
これらの酸化剤を用いることで、第1の酸化工程におけるセルロースC6位の1級水酸基の酸化反応を効率良く進行させることができるとともに、第2の酸化工程においてC6位のアルデヒド基をカルボキシル基に酸化する反応を効率良く進行させることができる。
【0026】
なお、アルデヒド基を酸化する酸化剤としては、過酸化水素と酸化酵素の混合物、あるいは過酸を用いることもできる。
【0027】
前記第2の反応溶液に緩衝液を添加することも好ましい。
【0028】
このような方法とすることで、pH維持のために酸やアルカリを添加する必要が無くなり、pHメーターも不要になる。
【0029】
これにより、第2の酸化工程において反応容器を密閉することもできる。反応容器を密閉すれば、反応系に対する加温や加圧が可能である。また反応溶液から発生するガスが系外に放出されることがないため安全面でも優れた親水性化処理方法となる。また酸化剤の分解によって生じるガスが大気に放散されることがないため、酸化剤の使用量を少なくすることができるという利点もある。
【0030】
前記第1の反応溶液に浸透剤を添加することも好ましい。
【0031】
このような方法とすることで、第1の酸化工程においてセルロース繊維の内部にまで酸化処理を施すことができ、親水性化の程度を向上させることができる。
【0032】
前記第1の酸化工程において、前記N−オキシル化合物を含む溶液の処理浴に前記セルロース繊維を浸漬し、前記処理浴に必要量の前記再酸化剤を添加することで前記酸化処理を実行することもできる。
【0033】
このような方法とすることで、第1の酸化工程において系に投入される再酸化剤の量を実質的に反応に寄与する分量に近づけることができる。これにより、再酸化剤の使用量を低減でき、親水性化処理のコストを低減することができる。
【0034】
前記再酸化剤を、前記処理浴のpHを一定に保持するように添加することが好ましい。
【0035】
このように処理浴のpHに基づいて再酸化剤を添加することで、セルロース繊維の酸化反応の進行に伴い必要となる分だけ再酸化剤を補充することができ、再酸化剤の使用効率を高めることができる。
【0036】
前記第2の酸化工程によって得られた酸化セルロース繊維を、さらに還元剤を含む反応溶液中で還元させる還元工程を含むことが好ましい。
【0037】
このような工程を行うことにより、セルロース繊維のC2位やC3位の一部に生成されたケトンを還元し、ケトンを還元することができるという利点を有する。
【0038】
還元工程における還元剤が、二酸化チオ尿素、ハイドロサルファイト、亜硫酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、及び水素化ホウ素リチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0039】
このような特定の還元剤を用いることによって、セルロース繊維のC6位のカルボキシル基を還元することなく、C2位やC3位のケトン基を還元することができる。
【0040】
本発明の方法によって得られる親水性セルロース繊維は、セルロースのミクロフィブリル表面に位置する水酸基の少なくとも一部が、カルボキシル基のみで酸化されているものである。
【0041】
上記親水性セルロース繊維において、カルボキシル基のみで酸化されている状態は、アルデヒド基の含有量が、0.05mmol/g未満である状態である。
【0042】
上記親水性セルロース繊維は、親水性化処理を施さない場合と同等の強度及び白度を得られ、しかも吸湿性を大きく向上させたセルロース繊維となる。
【0043】
上記の親水性セルロース繊維は、種々の繊維製品に適用することができる。本発明の処理方法によって得られるセルロース繊維を原料として使用することで、強度及び白度を維持しつつ吸湿性を向上させた衣料用品、雑貨用品、インテリア用品、寝具用品、産業用資材等の繊維製品を提供することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のセルロース繊維の親水性化処理方法によれば、セルロース繊維のミクロフィブリル表面に位置する1級水酸基をカルボキシル基のみに酸化することができるので、強度の低下を抑えつつ、加熱しても着色の生じないセルロース繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明に係る親水性化処理方法とカルボキシル基の生成機構を示す図
図2】本発明に係る親水性化処理方法で使用される処理装置を示す図
図3】実施例に係る実験装置を示す図
図4】表に対応するグラフ
図5】従来の処理方法におけるセルロースの酸化機構を示す図
図6】従来の処理方法におけるセルロースの酸化機構を示す図
図7】セルロースのミクロフィブリルの構造モデルを示す図
図8】ベータ脱離反応による分子鎖の切断を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0047】
本実施形態の親水性化セルロース繊維(セルロースナノファイバー)の製造方法は、図1(a)に示すように、セルロース繊維を、N−オキシル化合物と前記N−オキシル化合物の再酸化剤とを含む第1の反応溶液中で酸化させる第1の酸化工程ST11と、前記第1の酸化工程で得られた酸化セルロース繊維を、アルデヒド基を酸化する酸化剤を含む第2の反応溶液中で酸化させる第2の酸化工程ST12と、第2の酸化工程ST12で得られた酸化セルロース繊維に脱ハロゲン処理を施す脱ハロゲン工程ST13と、を有する。
【0048】
図1(b)に示すように、第1の酸化工程ST11は、セルロース繊維のミクロフィブリル表面に位置するグルコース成分の1級水酸基を選択的にアルデヒド基又はカルボキシル基に酸化させる。第2の酸化工程ST12では、第1の酸化工程ST11において生成されたアルデヒド基を選択的にカルボキシル基に酸化させる。本発明は、これらの工程によりアルデヒド基を含まない酸化セルロース繊維を得るものである。
【0049】
<第1の酸化工程>
まず、第1の酸化工程ST11について説明する。
【0050】
本発明に係る処理方法に供されるセルロース繊維としては、植物、動物、バクテリア産生ゲル等の天然セルロース繊維のほか、再生セルロース繊維であってもよい。具体的には、綿、麻、パルプ、バクテリアセルロース等の天然セルロース繊維や、レーヨンやキュプラ等の再生セルロース繊維を用いることができる。
【0051】
なお、原料セルロース繊維の形態としては、織編物や不織布等の布帛に限らず、フィラメント、ステープル、紐等の糸状物であってもよい。また、繊維の構造組織としては、混繊、混紡、混織、交織、交編したものであってもよい。
【0052】
反応溶液における溶媒は、典型的には水である。反応溶液に添加される触媒としては、N−オキシル化合物が用いられている。N−オキシル化合物としては、下記一般式で示される物質である。
【0053】
【化1】
(式中R〜Rは同一又は異なる炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。)
【0054】
N−オキシル化合物の具体例としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンーN−オキシル)及びC4位に各種の官能基を有するTEMPO誘導体(4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシTEMPO、4−フォスフォノオキシTEMPO、4−アミノ−TEMPO、4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO、4−ヒドロキシTEMPO、4−オキシTEMPO、4−メトキシTEMPO、2−アザアダマンタンN−オキシル等)を用いることができる。特に、TEMPO、4−メトキシTEMPO及び4−アセトアミドTEMPOは、反応速度において好ましい結果が得られている。
【0055】
N−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、具体的には、反応溶液に対して0.01〜3g/Lの範囲で添加すればよい。N−オキシル化合物の添加量は親水性化処理の程度や、得られるセルロース繊維の品質に大きく影響しないため、0.1〜2g/Lの添加量範囲とするのが経済的である。
【0056】
第1の酸化工程ST11における酸化剤としては、次亜ハロゲン酸又はその塩が用いられる。
第1の反応溶液における酸化剤の含有量は、0.05〜5g/Lの範囲とすることが好ましい。
【0057】
次亜ハロゲン酸におけるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、具体的には、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸が挙げられる。
【0058】
次亜ハロゲン酸塩を形成する金属塩としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属塩などが挙げられる。また、アンモニウムと次亜ハロゲン酸との塩も挙げられる。
【0059】
より具体的には、次亜塩素酸の場合に、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸ストロンチウム等、次亜塩素酸アンモニウム等を例示することができる。また、これらに対応する次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0060】
上記のうちでも、第1の酸化工程ST11における好ましい酸化剤は次亜ハロゲン酸アルカリ金属塩であり、より好ましい酸化剤は次亜塩素酸アルカリ金属塩(次亜塩素酸ナトリウム等)である。
【0061】
さらに、第1の酸化工程ST11では、N−オキシル化合物に、助触媒を組み合わせた触媒成分を用いてもよい。助触媒としては例えば、ハロゲンとアルカリ金属との塩、ハロゲンとアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩、硫酸塩などが挙げられる。前記ハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ。アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム等が挙げられる。
【0062】
より具体的には、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム等が挙げられる。
【0063】
また、アンモニウム塩としては、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、塩化アンモニウムがあげられる。また、硫酸塩としては、硫酸ナトリウム(芒硝)、硫酸水素ナトリウム、ミョウバン等の硫酸塩などが挙げられる。これらの助触媒は単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0064】
第1の酸化工程ST11では、第1の反応溶液のpHは、酸化されたTEMPOがセルロース繊維に作用するのに適したpH8〜12の範囲に保持されることが好ましい。さらには、pH10〜11の範囲に保持することがより好ましい。
【0065】
反応溶液のpHは、塩基性物質(アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)又は酸性物質(酢酸、シュウ酸、コハク酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸、あるいは硝酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸)を適宜添加することで調整することができる。
【0066】
また、第1の酸化工程ST11で用いられる第1の反応溶液ST11に、浸透剤を添加してもよい。浸透剤としては、セルロース繊維に用いられる公知のものを適用することができ、具体的には、アニオン系界面活性剤(カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等)や非イオン界面活性剤(ポリエチレングルコール型、他価アルコール型等)等が挙げられ、例えば、シントール(商品名:高松油脂社製)等を用いることができる。
【0067】
第1の反応溶液に浸透剤を添加することで、セルロース繊維の内部にまで薬剤を浸透させ、より多くのカルボキシル基(アルデヒド基)をセルロース繊維表面に導入することができる。これにより、セルロース繊維の親水性(吸湿性)を高めることができる。
【0068】
図2(a)は、第1の酸化工程ST11で用いる処理装置の一例を示す図である。
【0069】
第1の酸化工程ST11では、反応容器200に、N−オキシル化合物(TEMPO等)及び助触媒としてのアルカリ金属臭化物と、再酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸塩)とを水に溶解させた第1の反応溶液210を調製する。処理装置にはpH調整装置250が併設されている。pH調整装置250にはpH測定用のpH電極251及びpH調整用の希水酸化ナトリウム水溶液を供給するノズル252が設けられており、pH電極251及びノズル252は、反応容器200上部の開口部を介して第1の反応溶液210中に設置されている。そして、この第1の反応溶液210にセルロース繊維215を浸漬し、0℃〜室温(10℃〜30℃)の温度条件下、必要に応じて攪拌しながら酸化反応を進行させる。
【0070】
第1の酸化工程ST11では、反応の進行に伴ってカルボキシル基が生成するために反応溶液のpHが低下する。そこで、酸化反応を十分に進行させるために、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属成分を含む水溶液等を第1の反応溶液210に添加し、反応系をアルカリ性領域(pH8〜12、好ましくはpH10〜11)の範囲に維持する。また第1の酸化工程ST11では、酸化反応が進行している間だけ反応溶液のpHが低下するため、pH低下の進行が認められなくなった時点を反応終点とすることができる。
【0071】
反応終了後は、必要に応じて酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム等)を分解する処理を行い、その後、水洗を繰り返すことで、酸化セルロース繊維を得る。
【0072】
なお、第1の酸化工程ST11における反応温度は室温より高くすることもでき、高温で反応させることで反応効率を高めることができる。その一方で、次亜塩素酸ナトリウムから塩素ガスが発生しやすくなるので、高温で反応させる場合には塩素ガスの処理装置を用意することが好ましい。
【0073】
上記の例では、N−オキシル化合物とアルカリ金属臭化物(臭化ナトリウム等)と再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)とを含む第1の反応溶液に、セルロース繊維を浸漬させる場合について説明したが、第1の酸化工程ST11における処理方法はこれに限定されない。
【0074】
例えば、N−オキシル化合物とアルカリ金属臭化物とを含む溶液の処理浴を用意し、かかる処理浴にセルロース繊維を浸漬した状態で、次亜塩素酸ナトリウム(再酸化剤)を順次添加する処理方法も採用できる。このとき、処理浴のpHを監視し、pHが一定(例えば10)になるように次亜塩素酸ナトリウムを滴下する。
【0075】
このような処理方法とすることで、セルロース繊維の酸化反応に必要な分だけの次亜塩素酸ナトリウムが処理浴に供給されるため、反応に寄与しない次亜塩素酸ナトリウムの量を削減することができ、親水性化処理のコストを低減することができる。
【0076】
<第2の酸化工程>
次に、第2の酸化工程ST12について説明する。
【0077】
第2の酸化工程ST12に供される原料は、先の第1の酸化工程ST11によって得られた酸化セルロース繊維である。すなわち、各種のセルロース繊維を原料とし、N−オキシル化合物とその再酸化剤(次亜ハロゲン酸又はその塩)とを含む第1の反応溶液中で酸化処理された酸化セルロース繊維である。
【0078】
第2の酸化工程ST12で用いられる酸化剤は、アルデヒド基を酸化してカルボキシル基に変換することができる酸化剤である。具体的には、亜ハロゲン酸又はその塩(亜塩素酸又はその塩、亜臭素酸又はその塩、亜ヨウ素酸又はその塩等)、過酸(過酸化水素、過酢酸、過硫酸、過安息香酸等)が含まれる。これらの酸化剤は単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。また、ラッカーゼ等の酸化酵素と組み合わせて用いてもよい。酸化剤の含有量は適宜に設定することができるが、セルロース繊維に対して0.01〜50mmol/gの範囲とすることが好ましい。
【0079】
亜ハロゲン酸塩におけるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる、亜ハロゲン酸塩を形成するための塩としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。より具体的には、例えば亜塩素酸の場合、亜塩素酸リチウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸ストロンチウム等、亜塩素酸アンモニウム等を例示することができる。また、これらに対応する亜臭素酸塩、亜ヨウ素酸塩を用いることもできる。
【0080】
第2の酸化工程ST12における好ましい酸化剤としては、亜ハロゲン酸アルカリ金属塩であり、亜塩素酸アルカリ金属塩を用いることがより好ましい。
【0081】
第2の酸化工程ST12では、上記のアルデヒド基をカルボキシル基に酸化することができる酸化剤を含む第2の反応溶液に、第1の酸化工程ST11で得られた酸化セルロース繊維を浸漬し酸化させることで、第1の酸化工程ST11においてセルロースのC6位に生成したアルデヒド基をカルボキシル基に変換する。これにより、アルデヒド基によって引き起こされるベータ脱離反応や加熱時の着色を防止することができ、原料の強度を損なうことなく親水性化されたセルロース繊維を得ることができる。
【0082】
第2の酸化工程ST12では、反応溶液のpHは中性から酸性の範囲で維持される。より具体的には、3以上7以下のpH範囲とすることが好ましい。特に、反応溶液のpHが8以上とならないように留意すべきである。このようなpH範囲とすることで、第1の酸化工程ST11で生成されたセルロースのC6位のアルデヒド基によるベータ脱離反応を生じないようにしつつアルデヒド基をカルボキシル基に酸化することができ、セルロース繊維の強度低下を回避しつつ親水性化することができる。
【0083】
また、第2の反応溶液に緩衝液を添加することも好ましい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液等、種々の緩衝液を用いることができる。
【0084】
緩衝液を用いて反応中のpH変化を抑えるようにすることで、pHを維持するための酸やアルカリの連続的な添加が不要になり、またpHメーターの設置も不要になる。そして、酸やアルカリの添加が不要であることから、反応容器を密閉することができる。
【0085】
図2(b)は、第2の酸化工程ST12で用いる処理装置の一例を示す図である。
【0086】
第2の酸化工程ST12では、反応容器300に、酸化剤としての亜塩素酸ナトリウム(亜塩素酸塩)を含む第2の反応溶液310を調製する。そして、第2の反応溶液310に第1の酸化工程ST11で得られた酸化セルロース繊維315を浸漬し、キャップ301により反応容器300を密閉する。その後、温浴槽320のような加熱装置を用いて第2の反応溶液310を室温〜100℃程度の温度に保持し、かかる条件の下、必要に応じて攪拌しながら酸化反応を進行させる。酸化反応終了後は、必要に応じて酸化反応を停止させ、水洗を繰り返すことで酸化セルロース繊維を得る。
【0087】
なお、第2の酸化工程ST12では反応容器300を密閉可能であることから、反応容器300の内部を加圧する加圧装置を併設してもよい。
【0088】
<脱ハロゲン工程>
次に、脱ハロゲン工程ST13について説明する。
【0089】
脱ハロゲン工程ST13に供される原料は、先の第2の酸化工程ST12によって得られた酸化セルロース繊維である。すなわち、第1の酸化工程ST11でTEMPO酸化され、さらに第2の酸化工程ST12でアルデヒド基をカルボキシル基に変換された酸化セルロース繊維である。
【0090】
本実施形態の処理方法では、第2の酸化工程ST12において、酸化剤として亜ハロゲン酸又はその塩が用いられ、第1の酸化工程ST11においても再酸化剤として次亜ハロゲン酸又はその塩が用いられている。そのため、酸化処理の後の酸化セルロース繊維には、亜ハロゲン酸又は次亜ハロゲン酸に由来するハロゲン元素が付着あるいは結合している。典型的には、第1の酸化工程ST11では次亜塩素酸ナトリウムが用いられ、第2の酸化工程ST12では亜塩素酸ナトリウムが用いられるため、酸化処理後の酸化セルロース繊維には塩素が付着又は結合している。
【0091】
本実施形態の処理方法では、このように酸化セルロース繊維に残留したハロゲン元素を除去する目的で、脱ハロゲン処理(脱塩素処理)を実行する。脱ハロゲン処理には、過酸化水素溶液やオゾン溶液に酸化セルロース繊維を浸漬することで行う。
【0092】
具体的には、例えば、濃度が0.1〜100g/Lの過酸化水素溶液に酸化セルロース繊維を浴比1:5〜1:100程度、好ましくは、1:10〜1:60程度(重量比)の条件で浸漬する。過酸化水素溶液の濃度は、好ましくは1〜50g/Lであり、より好ましくは5〜20g/Lである。過酸化水素溶液のpHは8〜11であることが好ましく、9.5〜10.7であることがより好ましい。
【0093】
以上に説明した本実施形態の親水性化処理方法において、まず、第1の酸化工程ST11では、第1の反応溶液にTEMPOの再酸化剤となる次亜ハロゲン酸又はその塩を用いており、これらの酸化剤が効率良く作用するpH8〜11の環境下で反応を進行させるので、セルロース繊維のTEMPO酸化処理を効率良く進行させることができる。本発明における第1の酸化工程ST11は、用いる再酸化剤の量やセルロース繊維の処理量にもよるが、数分から20分程度で処理を終了させることができる。
【0094】
一方、第1の酸化工程ST11では、アルデヒド基を含む酸化セルロース繊維が生成する。すなわち、再酸化剤によって酸化されたTEMPOはセルロースC6位の一級水酸基をアルデヒド基に酸化させ、このアルデヒド基の一部は酸化されてカルボキシル基となるが、すべてのアルデヒド基が酸化されることはなく、必ず残存してしまう。酸化セルロース繊維中にアルデヒド基が残存していると、アルカリ性の第1の反応溶液中でアルデヒド基に起因するベータ脱離反応が生じ、セルロースの分子鎖が切断されて酸化セルロースの重合度が低下し、酸化セルロース繊維の強度が低下してしまう。また、アルデヒド基を含む酸化セルロースは加熱時に着色が生じてしまう。
【0095】
そこで本発明では、第2の酸化工程ST12において、第1の酸化工程ST11で得られた酸化セルロースのアルデヒド基を酸化させることとしている。この第2の酸化工程ST12によって、アルデヒド基をほぼ含まない酸化セルロース繊維を得ることができ、アルデヒド基のベータ脱離反応に起因する酸化セルロース繊維の強度低下や、アルデヒド基に起因する加熱時の着色を防止することができる。さらに本発明では、第2の反応溶液はpH3〜7に調製されるため、第2の酸化工程ST12の処理中にもアルデヒド基のベータ脱離反応が生じるのを防止することができる。
【0096】
このように、本実施形態の親水性化処理方法によれば、短い時間で効率良くセルロース繊維を親水性化処理することができる。また、本実施形態の親水性化処理で得られる親水性セルロース繊維は、強度に優れるとともに、加熱による着色も防止されたものとなる。
【0097】
<還元処理>
前記第1及び第2の酸化工程並びに脱ハロゲン工程によって、セルロース繊維により多くのカルボキシル基をセルロース繊維表面に導入することができるが、前記酸化工程によって、さらに黄変(白度低下)する場合がある。これは、セルロース繊維のC6位のカルボキシル化だけでなく、C2位やC3位も一部酸化され、ケトンが生成されるためであると考えられる。そのため、前記工程の後に、さらに、還元剤による還元処理を行うことによって、生成したケトンを還元し、親水性セルロース繊維の黄変(白度低下)を抑制することができる。
【0098】
還元剤としては、部分的に生成したケトン基をアルコールに還元することができ、かつ生成したカルボキシル基については、還元させないものが挙げられ、具体的には、チオ尿素、ハイドロサルファイト、亜硫酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム等が挙げられる。これらの中で、初期白度と白度低下抑止において優れているという観点から、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムが好ましい。
【0099】
還元剤を含む反応溶液における溶媒としては、蒸留水、イオン交換水、井戸水、水道水等、一般的な水及び水全般が用いられる。反応溶液に含まれる還元剤の濃度は、0.02〜4g/Lが好ましく、0.2〜2g/Lがより好ましい。前記範囲の濃度に設定することにより、過剰な還元剤による生地脆化を抑えるという効果が得られる。
【0100】
前記還元剤による還元処理を行うときの反応溶液のpHとしては、還元剤活性維持において良好であるという点から、7程度以上が好ましく、7.5程度以上がより好ましく、8程度以上がさらに好ましい。また、前記還元剤による還元処理を行うときの反応溶液のpHとしては、アルカリ性側による生地脆化を抑えることができるという点から、12程度以下が好ましく、11程度以下がより好ましく、10程度以下がさらに好ましい。反応溶液のpHは、アンモニア水、塩酸、ソーダ灰、NaOH,KOH等を適宜添加することで調整することができる。
【0101】
還元剤による還元処理の反応温度は、還元剤の種類や添加量によって、適宜変更されるが、例えば、10〜80℃程度が好ましく、20〜40℃程度がより好ましい。
【0102】
以上に説明した本発明の親水性化処理方法により得られる親水性セルロース繊維(酸化セルロース繊維)は、セルロースのミクロフィブリル表面に位置する水酸基の少なくとも一部が、カルボキシル基のみで酸化されているものである。あるいは、アルデヒド基の含有量が、0.05mmol/g未満であるセルロース繊維として特定することができる。
【0103】
すなわち、上記の親水性セルロース繊維は、セルロースのミクロフィブリル表面におけるC6位のアルデヒド基が全く無い、あるいは全く無いとみなせるものである。なお、アルデヒド基が全く無いとみなせる場合というのは、アルデヒド基の含有量が0.05mmol/g未満であることに対応する。このような範囲とすることで、アルデヒド基に起因する繊維強度(破裂強度)の低下や加熱時の着色を抑える効果を得ることができる。アルデヒド基の量は、より好ましくは0.01mmol/g以下であり、さらに好ましくは、0.001mmol/g以下である。
【0104】
なお、現在知られている測定方法におけるアルデヒド基の検出限界が0.001mmol/g程度であるから、望ましい態様としては、測定を行ってもアルデヒド基が検出されない親水性セルロース繊維である。
【0105】
また、従来の処理方法では、TEMPO触媒酸化において、必ずカルボキシル基とアルデヒド基の双方が生成する。したがって本発明の親水性セルロース繊維は、上記の特徴によって従来の処理方法で得られるセルロース繊維とは明確に異なるものとして特定することができる。
【0106】
アルデヒド基の量は、例えば以下の手順により測定することができる。
【0107】
まず、乾燥重量を精秤した親水性セルロース繊維の試料を水に入れ、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度を測定する。測定はpHが11になるまで続ける。そして、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(水酸化ナトリウム溶液量)(V)から、下式を用いて官能基量を決定する。この官能基量がカルボキシル基の量である。
【0108】
(式) 官能基量(mmol/g)=V(ml)×0.05/セルロースの質量(g)
【0109】
その後、カルボキシル基量の測定に供した親水性セルロース繊維の試料を、酢酸でpH4〜5に調整した2%亜塩素酸ナトリウム水溶液中でさらに48時間常温で酸化し、上記手法によって再び官能基量を測定する。測定された官能基量から上記カルボキシル基の量を引いた量がアルデヒド基の量である。
【0110】
本発明の親水性化処理方法により得られる親水性セルロース繊維は、C6位のアルデヒド基を含まないものであるから、加熱処理を施しても、アルデヒド基由来の着色成分は生成しない。したがって、上記の親水性セルロース繊維は、高い白度を要求される肌着等の衣料用途に好適な素材である。また、熱による品質低下が生じないことから、加工に際しての制限が無く、取り扱いが容易な素材である。
【0111】
さらに、上記の親水性セルロース繊維は、その親水性化処理過程において、アルデヒド基によるセルロースミクロフィブリルの切断が生じないため、原料セルロース繊維の強度をほとんど損なわずに吸湿性を高めたものとなっている。
【0112】
このようにセルロースミクロフィブリルの1級水酸基がカルボキシル基に酸化されている親水性セルロース繊維は、その高い吸湿性により高い放熱効果や発熱効果を得られるものであり、種々の繊維製品に好適に用いることができる。
【0113】
かかる繊維製品としては、例えば、衣料用品、雑貨用品、インテリア用品、寝具用品、産業用資材等が挙げられる。
【0114】
上記衣料用品としては、外出着衣料、スポーツウェア、ホームウェア、リラックスウェア、パジャマ、寝間着、肌着、オフィスウェア、作業服、食品白衣、看護白衣、患者衣、介護衣、学生服、厨房衣等が挙げられ、肌着としては、例えばシャツ、ブリーフ、ショーツ、ガードル、パンティストッキング、タイツ、ソックス、レギンス、腹巻き、ステテコ、パッチ、ペチコート等が挙げられる。
【0115】
上記雑貨用品としては、エプロン、タオル、手袋、マフラー、帽子、靴、サンダル、かばん、傘等が挙げられる。
【0116】
上記インテリア用品としては、カーテン、じゅうたん、マット、こたつカバー、ソファーカバー、クッションカバー、ソファー用側地、便座カバー、便座マット、テーブルクロス等が挙げられる。
【0117】
上記寝具用品としては、布団用側地、布団用詰めわた、毛布、毛布用側地、枕の充填材、シーツ、防水シーツ、布団カバー、枕カバー等が挙げられる。
【0118】
上記産業用資材としては、フィルター等が挙げられる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0120】
(実施例1)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法を用いた綿100%メリヤス生地(セルロース繊維)の親水性化処理と、得られた生地(親水性セルロース繊維)の機能性評価を行った。
【0121】
[試験条件]
(a)試験工程
試験では、生成りのサンプル生地(セルロース繊維)をTEMPO酸化させる第1の酸化工程ST11と、酸化セルロース繊維をさらに酸化させる第2の酸化工程ST12と、酸化セルロース繊維から塩素を除去する脱ハロゲン工程ST13と、処理後のサンプル生地を乾燥させる乾燥工程と、を順に行った。
【0122】
なお、本実施例では、TEMPO酸化を行う第1の酸化工程ST11において、生地内部にまで薬剤を浸透できているか確認するために、第1の反応溶液に浸透剤を添加したものと、添加しないものとを用いてそれぞれ親水性化処理を行った。
【0123】
(b)TEMPO酸化(第1の酸化工程ST11)
下記表1に示す条件で、生地のTEMPO酸化処理を行った。
【0124】
図3(a)は、第1の酸化工程ST11で用いた処理装置の概略を示す図である。図3(a)に示すように、サンプル生地215は第1の反応溶液210とともに攪拌子223を備えるビーカー200Aに入れられ、開放系で酸化処理を施される。ビーカー200Aは温度制御機能を備えたウオーターバス222に入れられ、所定の反応温度に維持される。
【0125】
ビーカー200AにTEMPO触媒、臭化ナトリウム、浸透剤(シントールG29(商品名;高松油脂社製))を添加した処理浴を調製した。処理浴にサンプル生地215を投入し、サンプル生地215に薬剤を十分に浸透させた。その後、処理浴に次亜塩素酸ナトリウム(4.9%水溶液)を添加し、さらに0.5M塩酸により処理浴(第1の反応溶液210)のpHを10に調整した。そして、処理浴がpH10となるように1.0M水酸化ナトリウムを滴下しながら酸化反応を進行させ、反応時間15分で停止させた。
【0126】
なお、浸透剤を添加しない場合の条件についても、浸透剤以外の条件は表1と同条件として第1の酸化工程ST11を実行した。
【0127】
【表1】
【0128】
(c)酸化工程(第2の酸化工程ST12)
下記表2に示す条件で、サンプル生地(酸化セルロース繊維)の酸化処理を行い、TEMPO酸化によってセルロースに導入されたアルデヒド基をさらにカルボキシル基に酸化させた。
【0129】
図3(b)は、第2の酸化工程ST12で用いた実験装置の概略を示す図である。図3(b)に示すように、第1の酸化工程ST11でTEMPO酸化処理された後のサンプル生地(酸化セルロース繊維)315を、第2の反応溶液310とともにチャック付のビニールバッグ300Aに入れて密閉した。
【0130】
ビニールバッグ300Aに封入した内容物は、以下の手順で作製した。
【0131】
亜塩素酸ナトリウム(25%水溶液)と亜塩素漂白用キレート剤ネオクリスタルCG1000(日華化学社製)とを含む第2の反応溶液310を調製し、第2の反応溶液310に第1の酸化工程ST11でTEMPO酸化処理した後のサンプル生地315を60g投入して攪拌した後、ビニールバック300Aをチャックで密閉した。
【0132】
次に、ビニールバッグ300Aを、内側をフッ素樹脂コーティングされた3L用ステンレスポット318に入れて密閉した。そして、サンプル生地315を封入したステンレスポット318を80℃に保持した油浴320Aに入れ、ステンレスポット318を回転させることで、温度、時間を制御しながら内容物を攪拌して酸化反応を進行させ、反応時間90分で反応を停止させた。
【0133】
【表2】
【0134】
(d)脱塩素工程(脱ハロゲン工程ST13)
下記表3に示す条件で、第2の酸化工程ST12で酸化処理した後のサンプル生地から塩素を取り除いた。
【0135】
過酸化水素(35%水溶液)とポリカルボン酸系キレート剤ネオレートPLC7000(日華化学社製)とを含む反応溶液を調製し、この反応溶液に第2の酸化工程ST12で酸化処理した後のサンプル生地(酸化セルロース繊維)60gを投入した。そして、反応溶液の温度を70℃に保持しつつ攪拌しながら反応を進行させ、反応時間20分で反応を停止させた。
【0136】
なお、第2の酸化工程ST12による効果を検証するために、第2の酸化工程ST12をスキップし、第1の酸化工程ST11の後に脱塩素工程ST13を実行したサンプルも作製した。
【0137】
【表3】
【0138】
(e)洗浄・乾燥工程
脱塩素処理が終了したサンプル生地を、水洗い(5分間×1回)、湯洗い(60℃、10分間×1回)、水洗い(5分間×2回)を行った。その後、サンプル生地を40℃の乾燥室で乾燥させた。
【0139】
[評価結果]
表4に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(1−1,1−2,2−1,2−2)についての吸湿率及び白度の評価結果を示す。
【0140】
なお、サンプル1−1及び1−2は、第1の酸化工程ST11において浸透剤を用いない条件で処理したサンプル生地である。一方、サンプル2−1及び2−2は、第2の酸化工程ST11において浸透剤を用いた条件で処理したサンプル生地である。
【0141】
また、サンプル1−1及び2−1は、第2の酸化工程ST12を実行することなく、脱塩素工程ST13及び乾燥工程を実施したサンプル生地である。一方、サンプル1−2及び2−2は、第2の酸化工程ST12を実行する条件で処理したサンプルである。
【0142】
白度は、CIELAB表色系より、L*−3b*として算出(Kollmorgen Instruments Corporation製 Macbeth WHITE-EYE3000微小面積にて測色)した。また、絶乾後白度は、「JIS L-0105 4.3」に基づいて絶乾重量を測定した後の白度である。
【0143】
【表4】
【0144】
表4に示すサンプル1−1と1−2との比較、及び、サンプル2−1と2−2との比較から、第2の酸化工程ST12による酸化処理を行うことで吸湿率が増加することが確認できる。このことから、第1の酸化工程ST11の副生成物であるアルデヒド基を、第2の酸化工程ST12でカルボキシル基に酸化することができていると考えられる。
【0145】
また、サンプル1−2と、2−2とを比較すると、浸透剤を添加してTEMPO酸化処理を施したサンプル2−2の方が吸湿性が増加しており、セルロース繊維の内部にまで第1の反応溶液が浸透してTEMPO酸化されていることが確認できる。
【0146】
(実施例2)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法のうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)の反応時間の長さによる加工度、生地物性への影響を検討した。
【0147】
[試験条件]
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11における反応時間を変化させた。具体的には、反応時間1分、2.5分、5分、10分、15分で反応を停止させて各サンプルを作製した。
【0148】
なお、比較のために、TEMPO触媒を含まない条件で第1の酸化工程ST11を実施したサンプルも作製した。
【0149】
[評価結果]
表5に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(3−1〜3−5、及び、TEMPO無し、生成り、未加工区)についての吸湿率、白度、破裂強度、及び重合度の評価結果を示す。
【0150】
なお、サンプル3−1〜3−5は、第1の酸化工程ST11の反応時間を変えてTEMPO酸化処理したサンプル生地である。
【0151】
サンプル「TEMPO無し」は、第1の酸化工程ST11においてTEMPO触媒を含まない第1の反応溶液を用いて酸化処理したサンプル生地である。
【0152】
サンプル「生成り」及び「未加工区」は、それぞれ、生成りのサンプル生地と未加工のセルロース繊維である。
【0153】
白度の測定方法は実施例1と同様である。
破裂強度は、「JIS L-1018 8.17A法」に基づいて測定した。
重合度は、以下の方法により測定した。
【0154】
本願明細書において、重合度とは「1本のセルロース分子中に含まれるの平均グルコース成分の数」であり、重合度に162をかければ分子量となる。本実施例では、各サンプル生地から採取した繊維を前もって水素化ホウ素ナトリウムで還元することで残存アルデヒド基をアルコールに還元し、これを0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させ、粘度法にて重合度を求めた。
【0155】
銅エチレンジアミン溶液はアルカリ性であり、酸化セルロース中にアルデヒド基が残存していた場合には、溶解過程でベータ脱離反応が起こって分子量が低下してしまう可能性があるため、予め還元処理してアルデヒド基をアルコール性水酸基に変換した。
【0156】
0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させたセルロースの粘度から、セルロースの重合度を求める式については、以下の文献を参考にした。
【0157】
(文献)Isogai, A., Mutoh, N., Onabe, F., Usuda, M., “Viscosity measurements of cellulose/SO2-amine-dimethylsulfoxide solution”, Sen’i Gakkaishi, 45, 299-306 (1989).
【0158】
【表5】
【0159】
表5に示すように、反応時間を1分間(サンプル3−1)とした場合でも、生成りのサンプル生地よりも吸湿率が増加しており、親水性が向上することが確認できる。
【0160】
また、いずれのサンプルでも絶乾後の白度が低下しており、加熱により黄変が確認されたが、その程度は白度で5ポイント程度であった。
【0161】
また、重合度については、反応時間を長くするほど低くなる傾向にあったが、反応時間1分の条件(サンプル3−1)において、従来の処理方法で親水性化処理したサンプル生地に対して約2倍の重合度を保つことができ、生地強度低下を抑制できることが確認された。
【0162】
なお、従来の処理方法は、特許文献1に記載のセルロースの酸化処理方法を適用してサンプル生地の親水性化処理を実施する方法であり、本発明に係る第1の酸化工程ST11のみによって構成される親水性化処理方法に相当する。
【0163】
(実施例3)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法のうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)における再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度による加工度、生地物性への影響を検討した。
【0164】
[試験条件]
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いる第1の反応溶液の次亜塩素酸ナトリウムの濃度を変化させた。
【0165】
試験水準は、次亜塩素酸ナトリウムの4.9%水溶液の添加量を、6.7g/L、11.3g/L、22.5g/L、45g/L、90g/L、とした。
【0166】
[評価結果]
表6に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(4−1〜4−5、及び、生成り、未加工区)についての吸湿率、白度、破裂強度、重合度、及びカルボキシル基量の評価結果を示す。また、図4(a)に、吸湿率と次亜塩素酸ナトリウム濃度の相関をプロットしたグラフを示し、図4(b)には、破裂強度及び重合度と次亜塩素酸ナトリウム濃度の相関をプロットしたグラフを示す。
【0167】
なお、カルボキシル基量は、電導度滴定により測定した。
【0168】
サンプル4−1〜4−5は、第1の反応溶液中の次亜塩素酸ナトリウムの濃度を変えてTEMPO酸化処理したサンプル生地である。サンプル「生成り」及び「未加工区」は、それぞれ、生成りのサンプル生地と未加工のセルロース繊維である。
【0169】
【表6】
【0170】
表6に示すように、第1の反応溶液における次亜塩素酸ナトリウムの濃度を増加させるに伴い、セルロース繊維に導入されるカルボキシル基量を増加させることができることが確認できる。そして、カルボキシル基量が多いものほど、洗浄中に付着するNaイオンやCaイオンの量が増加し、吸湿率が大幅に増加する傾向にあった。
【0171】
一方、重合度及び生地強度は、次亜塩素酸ナトリウムの濃度を増加させるほど低下する傾向にあったが、次亜塩素酸ナトリウム(4.9%水溶液)の濃度が22.5g/L(約15mmol/L)までの範囲であれば、大きな強度低下は生じないことが確認できる。
【0172】
(実施例4)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法のうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)におけるTEMPO触媒の濃度及び再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度による生地強度への影響を検討した。
【0173】
[試験条件]
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いる第1の反応溶液のTEMPO濃度と次亜塩素酸ナトリウムの濃度とを変化させた。
【0174】
試験水準を以下の表7に示す。
【0175】
【表7】
【0176】
[評価結果]
表8に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(a−1〜d−1、a−2〜d−2、及び、生成り、従来品)についての吸湿率、カルボキシル基量、重合度、白度、破裂強度、剛軟度の評価結果を示す。剛軟度測定は、「JIS L-1018 8.22E法」に基づいて測定を実施した。
【0177】
サンプル番号におけるa〜dはTEMPO濃度の試験水準に対応し、1,2はNaClO濃度の試験水準に対応する。つまり、サンプルa−1は、TEMPO濃度が0.33g/L(水準a)、NaClO濃度が22.5g/L(水準1)のサンプルである。
【0178】
サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地である。
【0179】
サンプル「従来品」は、サンプル生地を、モノクロル酢酸(200g/L)と水酸化ナトリウム(50g/L)とからなる反応溶液に浸漬し、反応温度:25℃、反応時間:24時間の条件で部分カルボキシメチル化処理したものである。
【0180】
【表8】
【0181】
表8に示すように、TEMPO濃度を変えて作製したサンプルa−1〜d−1、及び、サンプルa−2〜d−2の比較から、TEMPO触媒濃度を変えてもサンプル生地の加工度に著しい傾向は見られないことが確認できる。
【0182】
また、重合度については、サンプルa−1〜d−1はいずれもサンプル「従来品」よりも高く、風合いの改善も見られた。
【0183】
破裂強度については、いずれのサンプルでも大きな強度低下は見られなかった。
【0184】
(実施例5)
第1の酸化工程ST11は、図2(a)や図3(a)に示したように、オープン系の反応であるため、反応途中で有効活用されていない次亜塩素酸ナトリウムが存在する。
【0185】
そこで本実施例では、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)において、TEMPO触媒と臭化ナトリウムとを含む処理浴にサンプル生地を浸透させ、かかる処理浴に次亜塩素酸ナトリウムをpH=10になるように滴下する処理方法について検討した。
【0186】
[試験条件]
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1と同様であるが、TEMPO触媒濃度を0.33g/L、臭化ナトリウム濃度を3.3g/Lに変更した。また、サンプル毎に第1の酸化工程ST11の反応時間と反応温度を変化させた。試験水準を以下の表9に示す。
【0187】
【表9】
【0188】
[評価結果]
表10に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(A−1〜C−1、A−2〜C−2、A−3〜C−3、及び、生成り、未加工区)についてのカルボキシル基量、重合度、白度,及び吸湿率の評価結果を示す。
【0189】
サンプル番号におけるA〜Cは、反応温度の試験水準に対応し、1〜3は反応時間の試験水準に対応する。つまり、サンプルA−1は、反応温度が15℃(水準A)、反応時間が1分(水準1)のサンプルである。
【0190】
サンプル「生成り」及び「未加工区」は、それぞれ、生成りのサンプル生地と未加工のセルロース繊維である。
【0191】
【表10】
【0192】
表10に示すように、本実施例では、反応温度を高くするとセルロースへのカルボキシル基の導入量が増加する一方で、各サンプルの重合度低下の度合は極めて小さくなっている。
【0193】
これは、本実施例の親水性化処理方法が、反応温度を上げてカルボキシル基が導入されやすい状態とし、そこへ酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムを徐々に最小限に添加するようにしているためであると考えられる。
【0194】
また,本実施例の親水性化処理方法によれば、次亜塩素酸ナトリウムを含む第1の反応溶液を調整し、これにサンプル生地を浸漬する方法に比して次亜塩素酸ナトリウムの使用量を2/3程度にまで減少させることができる。
【0195】
(実施例6)
本実施例では、第1及び第2の酸化工程により、セルロース繊維のC6位がカルボキシル基に酸化されるが、該酸化工程により、セルロース繊維のC2位やC3位も酸化され、ケトンが一部生成されていると考えられる。そこで、第2の工程の後(脱ハロゲン化処理後)に、さらに、還元剤による還元処理を行い、セルロース繊維のC2位やC3位で生成したケトンをアルコールに還元し、得られた生地(親水性セルロース繊維)の機能性評価を行った。
【0196】
[試験条件]
(a)試験工程
先の実施例1と同様の方法により、表11〜14の条件で、生成りのサンプル生地(セルロース繊維)をTEMPO酸化させる第1の酸化工程ST11、酸化セルロース繊維をさらに酸化させる第2の酸化工程ST12、酸化セルロース繊維から塩素を除去する脱ハロゲン工程ST13を行った。得られた脱ハロゲン化処理した酸化セルロース繊維を、さらに、NaBHによる還元処理し、処理後のサンプル生地を乾燥させる乾燥工程を順に行った。
【0197】
(b)TEMPO酸化(第1の酸化工程ST11)
下記表11に示す条件で、生地のTEMPO酸化処理を行い、実施例1と同様の方法にて、酸化処理を行った。
【0198】
【表11】
【0199】
(c)酸化工程(第2の酸化工程ST12)
下記表12に示す条件で、サンプル生地(酸化セルロース繊維)の酸化処理を行い、実施例1と同様に、TEMPO酸化によってセルロースに導入されたアルデヒド基をさらにカルボキシル基に酸化させた。
【0200】
【表12】
【0201】
(d)脱塩素工程(脱ハロゲン工程ST13)
下記表13に示す条件で、実施例1と同様の方法により、第2の酸化工程ST12で酸化処理した後のサンプル生地から塩素を取り除いた。
【0202】
【表13】
【0203】
・還元工程
下記表14に示す条件で、脱塩素化処理を施したサンプル生地を、さらに、NaBHによって、セルロース繊維に含まれるケトンを還元した。
【0204】
【表14】
【0205】
(e)洗浄・乾燥工程
還元処理が終了したサンプル生地を、水洗い(5分間×1回)、湯洗い(60℃、10分間×1回)、水洗い(5分間×2回)を行った。その後、サンプル生地を40℃の乾燥室で乾燥させた。
【0206】
[評価結果]
表15に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(4−1〜4−5)についての白度の評価結果を示す。
【0207】
なお、サンプル4−1〜4−5は、還元工程におけるNaBHの含有割合を変化させ、還元処理を施したサンプル生地である。
【0208】
なお、表15に示すカルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO2漂白後、さらにH2O2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0209】
【表15】
【0210】
表15に示すように、NaBHによる還元処理を行わないサンプル4−1は、熱による白度低下が大きいが、NaBHの濃度を変えて還元処理を行ったサンプル4−2〜4−5では、白度低下が抑えられたことから、還元剤を用いることによって、黄変原因となる生成したケトンを還元することができたものと考えられる。
【0211】
(実施例7)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法のうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)における再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度、及びその後の還元処理の有無による生地強度への影響を検討した。
【0212】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例6と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いる第1の反応溶液の次亜塩素酸ナトリウムの濃度を変化させ、その後のNaBH処理の有無での実施を行った。
【0213】
試験水準を以下の表16に示す。なお、サンプル5−4は、実施例4で実施したサンプルd−2と同じである。
【0214】
【表16】
【0215】
[評価結果]
表16に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(5−1〜5−6)についての吸湿率、カルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0216】
なお、吸湿率、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO2漂白後、さらにH2O2漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0217】
表16に示すように、NaClO濃度を変えて作製したNaBHによる処理を施したサンプル5−1、5−3、及び5−5、並びにNaBHによる処理を施していないサンプル5−2、5−4、及び5−6の比較から、NaClO濃度を変えてもNaBHによる処理を施したサンプルの方が、白度低下が小さいことが確認できる。
【0218】
(実施例8)
本実施例では、本発明に係る親水性化処理方法ののうち、第1の酸化工程ST11(TEMPO酸化)における助触媒の種類を変え、さらにその後の還元処理の有無による生地強度への影響を検討した。
【0219】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例6と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いる助触媒の種類を変え、その後のNaBH処理の有無での実施を行った。
【0220】
試験水準を以下の表17に示す。
【0221】
【表17】
【0222】
[評価結果]
表17に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(6−1〜6−6)についてのカルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0223】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO漂白後、さらにH漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0224】
表17に示すように、助触媒としてNaClや硫酸ナトリウム(芒硝)を用いてもセルロース繊維中にCOOH基を導入できることが確認できた。助触媒としてNaClや硫酸ナトリウム(芒硝)を用いた場合、重合度は低下しやすい傾向にあるが、NaClや硫酸ナトリウム(芒硝)は、NaBrを用いた場合と比較して、ケトンを生成しにくく、熱による黄変(白度低下)が生じにくいため有用であるといえる。
【0225】
(実施例9)
本実施例では、第1の酸化工程において用いるTEMPO触媒に代えて、TMPO誘導体を用いた場合についての機能性評価を行った。
【0226】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例6と同様であるが、サンプル毎に第1の酸化工程ST11で用いるTEMPO触媒の種類を変え、実施した。
【0227】
用いたTEMPO誘導体を表18に示し、試験水準を以下の表19に示す。
【0228】
【表18】
【0229】
【表19】
【0230】
[評価結果]
表19に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(7−1〜7−7)についてのカルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0231】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO漂白後、さらにH漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0232】
表19に示すように、TEMPOは、最もCOOH基を導入でき、重合度の低下も抑制できることが確認できた。
【0233】
また、4−アセトアミドTEMPOと4−メトキシTEMPOは、挙動が類似しているが、4−メトキシTEMPOの方が4−アセトアミドTEMPOよりもわずかに重合度低下が抑制され、また、白度低下も抑制できていることが分かる。
【0234】
以上より、TEMPO以外のTEMPO誘導体についてもCOOH基を導入できることが確認できた。
【0235】
(比較例)
前記実施例9の製造工程において、第2の酸化工程、脱塩素工程を行わない場合のカルボキシル基、重合度、及び白度への影響についての機能性評価を行った。
【0236】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例8と同様であるが、第2の酸化工程、脱塩素工程を行わず、第1の酸化工程の後、サンプル生地を、水洗い(5分間×3回)を行った。その後、サンプル生地を40℃の乾燥室で乾燥させた。
【0237】
試験水準を以下の表20に示す。
【0238】
【表20】
【0239】
[評価結果]
表20に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(1〜7)についてのカルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0240】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO漂白後、さらにH漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0241】
表20及び表19との比較より、第2の酸化工程、脱塩素工程を行わない場合、重合度が大きく低下することがわかる。また、セルロース繊維のアルデヒド基及びケトン基の生成量が異なるため、白度低下には差があるが、表19の実施例8と比較した場合、白色度が大きく低下していることがわかる。
【0242】
(実施例10)
本実施例では、第1の酸化工程において用いるTEMPOに代えて、4−メトキシTEMPOを用い、4−メトキシTEMPOの濃度、助触媒(NaBr)の濃度、及び再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度による生地強度への影響を検討した。
【0243】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例6と同様であるが、TEMPOに代えて、4−メトキシTEMPOを用い、サンプル毎に4−メトキシTEMPOの濃度、助触媒(NaBr)の濃度、及び再酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)の濃度を変え実施した。
【0244】
試験水準を以下の表21に示す。
【0245】
【表21】
【0246】
[評価結果]
表21に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(8−1〜8−7)についてのカルボキシル基量、重合度、白度の評価結果を示す。
【0247】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO漂白後、さらにH漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0248】
表21に示すように、4−メトキシTEMPOの濃度を低くすると、重合度低下が抑えられることがわかる。また、TEMPOよりもCOOH基量が導入しやすい傾向にある。
【0249】
(実施例11)
本実施例では、TEMPO酸化後の反応溶液を再利用して、何回まで使用が可能であるかの確認試験を行った。
【0250】
(a)試験工程
試験工程は、先の実施例1の方法で下記表21に示すTEMPO触媒及び反応条件で実施した。また、TEMPO酸化後の反応溶液を回収し、別のセルロース繊維を用いて2回目(サンプル9−2)、3回目(サンプル9−3)のTEMPO酸化を行った。
【0251】
【表22】
【0252】
【表23】
【0253】
[評価結果]
表23に、上記の試験工程で作製した複数のサンプル(9−1〜9−3)についてのカルボキシル基量、重合度、白度、及び反応効率の評価結果を示す。
【0254】
なお、カルボキシル基量、重合度、及び白度は、前記実施例と同様の方法で測定した値であり、反応効率は、1回目のカルボキシル基量を100%としてカルボキシル基量生成の割合を表した値である。
【0255】
サンプル「生成り」は生成りのサンプル生地であり、「漂白後生地」は、生成りを精練し、NaClO漂白後、さらにH漂白をおこなった生地によって得られた生地である。
【0256】
表23に示すように、TEMPO触媒の反応溶液の再利用回数が3回までは、反応効率が90%以上と高く、再利用が可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0257】
200,300 反応容器
200A ビーカー
210,310 反応溶液
215,315 セルロース繊維(サンプル生地)
222,320 温浴槽(加熱装置)
223 攪拌子
251 pH電極
252 ノズル
300A ビニールバッグ
301 キャップ
318 ステンレスポット
320A 油浴(加熱装置)
ST11 第1の酸化工程
ST12 第2の酸化工程
ST13 脱ハロゲン工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8