(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5649785
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】油脂含有物あるいは油脂中のドコサヘキサエン酸含有率を増加する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/64 20060101AFI20141211BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20141211BHJP
A23D 9/007 20060101ALN20141211BHJP
【FI】
C12P7/64
C12N1/14 Z
!A23D9/00 516
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2008-555117(P2008-555117)
(86)(22)【出願日】2008年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2008051121
(87)【国際公開番号】WO2008090989
(87)【国際公開日】20080731
【審査請求日】2010年12月15日
【審判番号】不服2013-5144(P2013-5144/J1)
【審判請求日】2013年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2007-16498(P2007-16498)
(32)【優先日】2007年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】林 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 早苗
(72)【発明者】
【氏名】長野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田岡 洋介
【合議体】
【審判長】
鈴木 恵理子
【審判官】
飯室 里美
【審判官】
中島 庸子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−230403(JP,A)
【文献】
Mycoscience,Vol.46(2005)p.358−363
【文献】
Lipids,Vol.26,No.7(1991)p.512−516
【文献】
Biochim.Biophys.Acta,Vol.1299(1996)p.34−38
【文献】
海洋と生物,Vol.23,No.1(2001)p.7−18
【文献】
海洋と生物,Vol.23,No.1(2001)p.52−56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P7/00-7/66
JSTPlus/JMedplus/JST7580(JDream2)
BIOSIS/WPI(DIALOG)
G−search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドコサヘキサエン酸産生能を有し、ラビリンチュラ綱(Labyrinthulea)に分類される微生物をΔ5脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質であるセサミンおよび/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質であるクルクミンを添加した培地を用いて培養し、上記脂肪酸不飽和化酵素阻害物質を添加しない場合に比べて上記微生物のドコサヘキサエン酸産生能を増強させることを特徴とするドコサヘキサエン酸の製造方法。
【請求項2】
Δ5脂肪酸不飽和化酵素および/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を培地中に100ng/ml〜100μg/ml含有する培地を用いる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
微生物を用いてドコサヘキサエン酸を含む油脂含有物あるいはドコサヘキサエン酸を含む油脂を製造するに際し、微生物としてドコサヘキサエン酸産生能を有し、ラビリンチュラ綱(Labyrinthulea)に分類される微生物を用い、該微生物を、培地にΔ5脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質であるセサミンおよび/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質であるクルクミンを添加して培養し、上記脂肪酸不飽和化酵素阻害物質を添加しない場合に比べて上記微生物のドコサヘキサエン酸産生能を増強させることを特徴とする、油脂含有物あるいは油脂中のドコサヘキサエン酸含有率を増加させる方法。
【請求項4】
Δ5脂肪酸不飽和化酵素および/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を培地中に100ng/ml〜100μg/ml含有する培地を用いる、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸産生能を有するストラメノパイルを、脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を含有する培地で培養することを特徴とする、高度不飽和脂肪酸の製造方法、および該方法により得られた高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸含有率の増加した油脂に関する。また、ストラメノパイルを、脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を含有する培地で培養することを特徴とする、ストラメノパイルの高度不飽和脂肪酸産生能の増強方法、および該方法により得られた高度不飽和脂肪酸産生能が増強されたストラメノパイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品あるいは健康食品の素材として魚油に含まれる高度不飽和脂肪酸が注目されており、魚油由来のイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)等が多数上市されている。前述の通り、これらの高度不飽和脂肪酸は主に魚油を主原料としているが、原料の魚類は天然資源であり入手や価格が不安定という側面を有しており、魚油に変わるものとして近年微生物による高度不飽和脂肪酸の生産が行われている。例えば、渦鞭毛藻
Crypthecodinium cohniiによってDHAを生産する方法(非特許文献1)、あるいはモルティエレラ属糸状菌がアラキドン酸高含有油脂を生産する方法(特許文献1、2)等が知られており、これらは既に実用化されている。
【0003】
近年、ストラメノパイル(鞭毛に中空の小毛を持つ単細胞真核生物の一群)であるラビリンチュラに、高度不飽和脂肪酸が蓄積されることが知られている(非特許文献2)。このような中でラビリンチュラによるDHA生産が種々検討され、シゾキトリウム属(非特許文献3)あるいはウルケニア属(非特許文献4)に属する微生物等で実用化されている。しかしながら、脂質蓄積能や総脂肪酸中のDHA含有率に限界があり、微生物で生産したDHAのコストは、魚油由来のDHAと比較して高価になってしまう問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−44891号公報
【特許文献2】特開昭63−12290号公報
【非特許文献1】ツヴィ・コーエン(Zvi Cohen)ら編,「シングル セル オイルズ(Single Cell Oils)」,(米国),エイオーシーエス・プレス(AOCSPress),2005年,p. 86-98
【非特許文献2】中原(Nakahara)ら, ジャーナル・オブ・アメリカン・オイル・ケミスツ・ソサエティー( Journal of theAmerican Oil Chemists’ Society),1996年, 第73巻, p. 1421-1426
【非特許文献3】ツヴィ・コーエン(Zvi Cohen)ら編,「シングル セル オイルズ(Single Cell Oils)」,(米国),エイオーシーエス・プレス(AOCSPress),2005年,p. 36-52
【非特許文献4】ツヴィ・コーエン(Zvi Cohen)ら編,「シングル セル オイルズ(Single Cell Oils)」,(米国),エイオーシーエス・プレス(AOCSPress),2005年,p. 99-106
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り細胞中の脂質蓄積能についてはその向上に限界があり、高度不飽和脂肪酸の微生物生産において画期的なコストダウンを図る方法の一つとして、総脂質中の高度不飽和脂肪酸の含有率を向上させることが必須と考えられる。本発明は、このような事情のもとで、ストラメノパイルを培養して高度不飽和脂肪酸を生産するに当り、高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸含有率の増加した油脂を得るための改良技術を提供することを目的としてなされたものである。
本発明は、高度不飽和脂肪酸産生能を有するストラメノパイルを用いる生産効率を高め、高収率で高度不飽和脂肪を製造する方法、および該方法により得られた高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸含有率の増加した油脂を提供することを課題とする。また、ストラメノパイルの高度不飽和脂肪酸産生能の増強方法、および該方法により得られた高度不飽和脂肪酸産生能が増強されたストラメノパイルを提供することを課題とする。特に該ストラメノパイルがラビリンチュラ綱に分類される微生物である、該高度不飽和脂肪酸の製造方法、該方法により得られたドコサヘキサエン酸含有率の増加した油脂、該高度不飽和脂肪酸産生能の増強方法、および該高度不飽和脂肪酸産生能が増強されたストラメノパイルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ストラメノパイルを培養して、高度不飽和脂肪酸を生産させる際に、培地に脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を添加することにより、従来の該物質を添加しない培地の場合に比べ、ドコサヘキサエン酸の生産性が向上することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
本発明は、以下の(1)〜(
2)の
ドコサヘキサエン酸の製造方法を要旨とする。
(1)ドコサヘキサエン酸産生能を有し、ラビリンチュラ綱(Labyrinthulea)に分類される微生物をΔ5脂肪酸不飽和化酵素
を阻害する物質であるセサミンおよび/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質
であるクルクミンを添加した培地を用いて培養
し、上記脂肪酸不飽和化酵素阻害物質を添加しない場合に比べて上記微生物のドコサヘキサエン酸産生能を増強させることを特徴とするドコサヘキサエン酸の製造方法。
(2)Δ5脂肪酸不飽和化酵素および/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を培地中に100ng/ml〜100μg/ml含有する培地を用いる、
(1)に記載の製造方法。
【0008】
また、本発明は、以下の(
3)〜(
4)の油脂含有物あるいは油脂中のドコサヘキサエン酸含有率を増加
させる方法を要旨とする。
(
3)微生物を用いてドコサヘキサエン酸を含む油脂含有物あるいはドコサヘキサエン酸を含む油脂を製造するに際し、微生物としてドコサヘキサエン酸産生能を有し、ラビリンチュラ綱(Labyrinthulea)に分類される微生物を用い、該微生物を、培地にΔ5脂肪酸不飽和化酵素
を阻害する物質であるセサミンおよび/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質
であるクルクミンを添加して培養し、
上記脂肪酸不飽和化酵素阻害物質を添加しない場合に比べて上記微生物のドコサヘキサエン酸産生能を増強させることを特徴とする、油脂含有物あるいは油脂中のドコサヘキサエン酸含有率を増加させる方法。
(
4)Δ5脂肪酸不飽和化酵素および/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を培地中に100ng/ml〜100μg/ml含有する培地を用いる、
(3)に記載
の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、医薬品あるいは食品素材として用いられる高度不飽和脂肪酸を、効率的に生産する方法、ならびに、高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸含有率の増加した油脂を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
微生物を用いて長鎖高度不飽和脂肪酸を含む油脂含有物あるいは長鎖高度不飽和脂肪酸を含む油脂を製造するに際し、微生物として高度不飽和脂肪酸産生能を有するストラメノパイルを用いる。すなわち、本発明の高度不飽和脂肪酸の製造方法は、長鎖高度不飽和脂肪酸を含む油脂含有物あるいは長鎖高度不飽和脂肪酸を含む油脂を製造する方法である。
本発明の高度不飽和脂肪酸の製造方法は、高度不飽和脂肪酸産生産生能を有するストラメノパイルを、脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を含有する培地で培養することを特徴とする。ストラメノパイルとは、鞭毛に中空の小毛を持つ単細胞真核生物の一群である。本発明におけるストラメノパイルとは、高度不飽和脂肪酸を産生する能力を有するものであり、特に好ましくはラビリンチュラ綱に分類される微生物であり、特に好ましくはラビリンチュラ属(
Labyrinthula)、アルトルニア属(
Althornia)、アプラノキトリウム属(
Aplanochytrium)、イァポノキトリウム属(
Japonochytrium)、ラビリンチュロイデス属(
Labyrinthuloides)、シゾキトリウム属(
Schizochytrium)、ヤブレツボカビ属(
Thraustochytrium)、またはウルケニア属(
Ulkenia)に属する微生物またはそれらの混合物から選択される。微生物は、上述の任意のものに由来する突然変異株、ならびにそれらの混合物から成る群より選択される。
なお、本発明における前記微生物の分類は、「海洋と生物」,生物研究社,2001年,第23巻,第1号,p. 9に記載された分類体系にしたがっている。
【0013】
このストラメノパイルを通常用いられる固体培地あるいは液体培地等で、脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質の存在下にて、常法により培養する。この時、用いられる培地としては、例えば炭素源としてグルコース、フルクトース、サッカロース、デンプン、グリセリン等、また窒素源として酵母エキス、コーンスティープリカー、ポリペプトン、グルタミン酸ナトリウム、尿素、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム等、また無機塩としてリン酸カリウム等、その他必要な成分を適宜組み合わせた培地であり、ラビリンチュラ類を培養するために通常用いられるものであれば特に限定されないが、特に好ましくは酵母エキス・グルコース寒天培地(GY培地)が用いられる。
培地は調製後、pHを3.0〜8.0の範囲内に調整した後、オートクレーブ等により殺菌して用いる。培養は、10〜40℃、好ましくは15〜35℃にて、1〜14日間、通気撹拌培養、振とう培養、あるいは静置培養で行えば良い。
【0014】
また、脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質としては、好ましくはΔ5脂肪酸不飽和化酵素および/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質として用いられるものであれば特に限定されないが、特に好ましくはセサミンまたはクルクミンが用いられ、またこれらを組み合わせても用いても良い。ここで、本発明においてΔ5脂肪酸不飽和化酵素(delta-5-desaturase)および/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素(delta-6-desaturase)を阻害する物質とは、各種脂肪酸のカルボキシル末端から数えて5または6位の位置に二重結合を導入する能力を有する酵素、すなわちΔ5脂肪酸不飽和化酵素および/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素の活性を阻害する物質を指す。
【0015】
また、Δ5脂肪酸不飽和化酵素および/またはΔ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質は、培地に10ng/ml〜1g/ml、好ましくは100ng〜100μg/ml添加する。
【0016】
ストラメノパイルを培地で生育し、その培地から得た微生物細胞を処理し、細胞内脂質(長鎖高度不飽和脂肪酸を含む油脂含有物あるいは長鎖高度不飽和脂肪酸)を放出させ、 その放出された細胞内脂質を含む培地から脂質を回収する。すなわち、このようにして培養したストラメノパイルを遠心分離等回収し、細胞を破砕し定法に従い適当な有機溶媒を用いて細胞内の脂肪酸を抽出することにより、高度不飽和脂肪酸、特に好ましくはドコサヘキサエン酸含有率の増加した油脂を得ることができる。ストラメノパイルを、培地に脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を添加して培養することで、ストラメノパイルの高度不飽和脂肪酸産生能を増強することができ、油脂含有物あるいは油脂中のドコサヘキサエン酸含有率を増加する。よって、得られた油脂は高度不飽和脂肪酸、特に好ましくはドコサヘキサエン酸含有率の高い油脂である。
【0017】
ストラメノパイルを培養して、高度不飽和脂肪酸を生産させる際に、培地に脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を添加することにより、従来の該物質を添加しない培地の場合に比べ、ドコサヘキサエン酸の生産性が向上する。ストラメノパイルを栄養源および海水を含む基本培地に脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を添加して培養して、ストラメノパイルの高度不飽和脂肪酸産生能を増強することができる。すなわち、ストラメノパイルを脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質を含有する培地で培養するストラメノパイルの高度不飽和脂肪酸産生能の増強方法により得られた高度不飽和脂肪酸産生能が増強されたストラメノパイルである。
【0018】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。実施例で用いたラビリンチュラ綱に分類される微生物の入手方法、分離方法は周知の一般的な方法による。
入手方法:ラビリンチュラ類は、一般に海域に普遍的に生息する微生物であり、特に海洋沿岸域に生息する水草、海藻やマングローブ汽水域の落ち葉、沈殿物等から分離される。
分離方法:ラビリンチュラ類は馬血清海水寒天培地、松花粉寒天培地、コレステロール寒天培地等を用いて分離される。
【実施例1】
【0019】
本発明方法による高度不飽和脂肪酸の製造・1
Δ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質の存在下での、ラビリンチュラ綱に分類される微生物による高度不飽和脂肪酸を製造した。
すなわち、沖縄県石垣市周辺のマングローブ林、海水などから分離したラビリンチュラ綱に分類された微生物33株について、Δ6脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質としてクルクミン(ナカライテスク社製)を1μg/ml加えたGY培地(日本水産学会誌、68巻、5号、674-678(2002)に記載の方法「3%グルコース、1%酵母エキスを含むGY培地を50%人工海水で調製しpHを6.0に調整後、液体培地あるいは1.5%寒天で平板培地として使用した。」にしたがって製造)にて28℃、4日間培養した。培養後、微生物を遠心分離(1500Xg,10min)によって回収し、細胞を超音波破砕後、クロロホルム/メタノール(2:1,V/V)で抽出し、総脂質を得た。得られた総脂質を10%塩化水素−メタノール溶液でメタノリシス後、脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製;モデルGC-2014)によって測定した。なお、クルクミンを添加せずに前述同様に行ったものを対照とした。4株(株名 mh295,313,314,375)について、脂肪酸組成のガスクロマトグラフィーのチャートから測定したドコサヘキサエン酸のピーク面積の百分率を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
この結果、本実施例により得られた油脂は、対照と比較してドコサヘキサエン酸の含有率が有意に上昇した。したがって本発明は高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸を効率的に製造する優れた方法であることが確認された。
【実施例2】
【0022】
本発明方法による高度不飽和脂肪酸の製造・2
実施例1のΔ6脂肪酸不飽和化酵素をΔ5脂肪酸不飽和化酵素に替え、実施例1と同様にしてΔ5脂肪酸不飽和化酵素を阻害する物質の存在下でのラビリンチュラ綱に分類される微生物による高度不飽和脂肪酸を製造した。なお、セサミンを添加せずに前述同様に行ったものを対照とした。4株(株名mh295,313,314,375)について、脂肪酸組成のガスクロマトグラフィーのチャートから測定したドコサヘキサエン酸のピーク面積の百分率を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
この結果、本実施例により得られた油脂は、対照と比較してドコサヘキサエン酸の含有率が有意に上昇した。したがって本発明は高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸を効率的に製造する優れた方法であることが確認された。
【実施例3】
【0025】
本発明方法により生産された高度不飽和脂肪酸の定量
実施例1及び2で培養された菌体から抽出した総脂質約40mgに、内部標準物質としてノナデカン酸(C19:0) 0.5mgを加え、10%塩化水素−メタノール溶液でメタノリシス後、脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、モデルGC-2014)によって測定した。DHAはじめ、各脂肪酸のピーク面積とC19:0のピーク面積の比から、各脂肪酸を定量した。DHAの結果を表3に示す。
【0026】
【表3】
【0027】
この結果、実施例1あるいは2により得られた油脂は、対照と比較してドコサヘキサエン酸の含有量が有意に上昇した。したがって本発明は高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸を効率的に製造する優れた方法であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、医薬品あるいは食品素材として用いられる高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸を効率的に生産する方法、およびドコサヘキサエン酸含有率が高い油脂が提供される。さらに、ストラメノパイル、特にラビリンチュラ綱に分類される微生物の高度不飽和脂肪酸産生能、特にドコサヘキサエン酸産生能を増強する方法、また高度不飽和脂肪酸産生能、特にドコサヘキサエン酸産生能が増強されたストラメノパイルが提供される。