特許第5651142号(P5651142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5651142
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月7日
(54)【発明の名称】D/A変換器
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/08 20060101AFI20141211BHJP
   H03M 1/66 20060101ALI20141211BHJP
【FI】
   H03M1/08 B
   H03M1/66 C
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-132998(P2012-132998)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-258543(P2013-258543A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2014年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】中西 豊
(72)【発明者】
【氏名】中西 純弥
【審査官】 柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−55121(JP,A)
【文献】 特開2010−193089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M1/00−1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル信号を入力するデジタル部と、該デジタル部によって入力されたデジタル信号に基づく入力信号をサンプリングして、サンプリングされた前記入力信号を保持して転送するサンプル・ホールド部と、該サンプル・ホールド部によって転送された信号をアナログ信号として出力するコンテニアス部とを備えたサンプリング回路と、
前記コンテニアス部に対しては第1クロック信号を供給し、前記サンプル・ホールド部に対しては第2クロック信号を供給するクロック信号供給部と、
少なくとも前記第2クロック信号に対して動作タイミングが互いに異なる複数のクロック信号を生成するクロック遅延変換部と、
該クロック遅延変換部によって生成される遅延量を制御するクロック遅延制御回路とを備え、
前記サンプル・ホールド部は、前記入力信号によって生じる電荷を蓄積する複数の容量素子と、該複数の容量素子にそれぞれ蓄積された電荷を前記コンテニアス部に転送する複数のスイッチング素子とを備え
前記クロック遅延制御回路は、前記サンプル・ホールド部に供給される入力信号の周波数特性から、サンプリングされた前記入力信号に混入されるノイズがピークを持つピーク周波数を検出する検出器と、該検出器によって検出されたノイズのピーク周波数を任意の遅延量に変換する遅延量変換部とを備えていることを特徴とするD/A変換器。
【請求項2】
前記サンプル・ホールド部は、前記入力信号によって生じる電荷を蓄積する複数の容量素子と、該複数の容量素子にそれぞれ蓄積された電荷を前記コンテニアス部に転送する複数のスイッチング素子とを備え、該複数のスイッチング素子は、それぞれ供給された動作タイミングが互いに異なる複数の前記第2クロック信号に基づいてオン・オフ動作をすることを特徴とする請求項1に記載のD/A変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D/A変換器に関し、より詳細には、電子機器に搭載される電子部品が受けるノイズの影響を低減することができるD/A変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子機器に対する小型化の要求はますます強くなっていて、電子機器に搭載される電子部品は小型化され、電子部品同士はより近接して配置されるようになっている。電子部品同士を近接して配置すると、電子部品で発生したノイズが直接又は搭載基板や配線を介して他の電子部品に伝わり、他の電子部品の正常な動作を妨げる可能性がある。このため、近年の電子機器には、小型化と共に、ノイズの影響を抑止することが求められている(以下、ノイズ対策ともいう)。
【0003】
電子部品が発生するノイズが他の電子部品に影響することを防ぐには、一般的に、電子部品同士をノイズの影響が小さくなる程度に離して配置することや、電子部品を製造する際のプロセスにおいて、素子同士の配置や分離を工夫することが考えられる。また、入出力端子を電子部品の個々に分けて設けることも考えられる。
しかし、電子部品を離して配置することは、上述した電子機器の小型化を妨げるために好ましくない。また、電子部品のプロセスによってノイズが外部に影響することを防ぐためには、高度なプロセス技術が必要になり、製造コストの上昇を招くために好ましくない。さらに、電子部品の入力端子や出力端子を分けることは、電子機器の多ピン化が起こり、電子部品を小型化することに不利になる。
【0004】
ところで、電子機器に搭載される電子部品に、D/A変換器がある。D/A変換器は、電子機器のオーディオの機能等に多く利用される電子部品であり、特にノイズ対策が必要とされる電子部品である。
D/A変換器のノイズ対策の従来技術としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載のものは、D/A変換器の入力信号の同期信号(制御用クロック信号)にジッタを付加している。このような特許文献1に記載のD/A変換器によれば、出力信号を出力するための同期信号(変換用クロック信号)と制御用クロック信号とに起因するビートノイズの輻射を拡散させることが可能になる。
【0005】
このような従来技術は、D/A変換器が発生する輻射ノイズを低減させ、ノイズの他の機器に対する影響を低減するという発想に基づいてなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−6536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術のように、D/A変換器が発生する輻射ノイズを低減しても、D/A変換器外から発生したノイズがD/A変換器に与える影響を十分に低減することはできない。
また、従来技術はデジタル部にのみジッタを加えるため、アナログ部の突入電流起因の周期ノイズを拡散することはできない。このため、従来技術の拡散効果は限定的なものになる。
【0008】
また、従来技術を用いて、個々の電子部品が発生する輻射ノイズが、直接、あるいは間接的にD/A変換器に与える影響を低減するためには、電子機器内に搭載される複数の他の部品にジッタを入力する回路を設けなければならない。このような構成では、ジッタを入力する回路を多数設ける必要が生じ、電子機器の小型化が妨げられることが考えられる。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、電子部品の小型化を妨げることがなく、プロセス技術の高度化を回避しながら、電子機器に搭載される電子部品が受けるノイズの影響を低減することができるD/A変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、デジタル信号を入力するデジタル部(図11の150c)と、該デジタル部によって入力されたデジタル信号に基づく入力信号をサンプリングして、サンプリングされた前記入力信号を保持して転送するサンプル・ホールド部(図10の150b)と、該サンプル・ホールド部によって転送された信号をアナログ信号として出力するコンテニアス部(図10の150a)とを備えたサンプリング回路(図10及び図11の150)と、前記コンテニアス部に対しては第1クロック信号を供給し、前記サンプル・ホールド部に対しては第2クロック信号を供給するクロック信号供給部(図10図11の159)と、少なくとも前記第2クロック信号に対して動作タイミングが互いに異なる複数のクロック信号を生成するクロック遅延変換部(図11の141)と、該クロック遅延変換部によって生成される遅延量を制御するクロック遅延制御回路(図11の171)とを備え、前記サンプル・ホールド部は、前記入力信号によって生じる電荷を蓄積する複数の容量素子(図10の111_1,111_2)と、該複数の容量素子にそれぞれ蓄積された電荷を前記コンテニアス部に転送する複数のスイッチング素子(101_1,101_2,102_1,102_2)とを備え、前記クロック遅延制御回路は、前記サンプル・ホールド部に供給される入力信号の周波数特性から、サンプリングされた前記入力信号に混入されるノイズがピークを持つピーク周波数を検出する検出器(図11の170)と、該検出器によって検出されたノイズのピーク周波数を任意の遅延量に変換する遅延量変換部(図11の141)とを備えていることを特徴とする。(図10
【0011】
また、請求項に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記サンプル・ホールド部は、前記入力信号によって生じる電荷を蓄積する複数の容量素子と、該複数の容量素子にそれぞれ蓄積された電荷を前記コンテニアス部に転送する複数のスイッチング素子とを備え、該複数のスイッチング素子は、それぞれ供給された動作タイミングが互いに異なる複数の前記第2クロック信号に基づいてオン・オフ動作をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電子機器に搭載される電子部品が受けるノイズの影響を低減することができるサンプリング回路と、このサンプリング回路を備えたD/A変換器を実現することができる。そして、このような効果を、単一の動作タイミングで動作する第1クロック信号に基づいてコンテニアス部を動作させ、異なる2つ以上の動作タイミングを持つ第2クロック信号群に基づいてサンプル・ホールド部を動作させることによって得られるので、電子部品の小型化が妨げられることがない。また、プロセス技術を高度化する必要もない。
【0014】
また、アナログ部の突入電流起因の輻射ノイズを拡散できるため、輻射ノイズを効果的に抑制できる。
さらに、検出器によって検出されたノイズ周波数のピークに対して、サンプル・ホールド部において複数の動作タイミングによるサンプリング動作によって得られるFIRフィルタの零点を合わせることにより、効果的にノイズを抑制し所望の周波数帯域(例えば、in−band帯域)において最適な特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るD/A変換器におけるサンプリング回路を説明するための回路構成図である。
図2】(a)〜(e)は、図1に示したサンプリング回路の、参照信号Vrefに周期ノイズがない場合の動作を説明するための図である。
図3】(a)〜(c)は、図1に示したキャパシタから出力される信号を説明するための図である。
図4】(a)〜(e)は、図1に示したサンプリング回路の、参照信号Vrefに周期ノイズがある場合の動作を説明するための図である。
図5】(a)〜(c)は、図4に示した周期ノイズについて説明するための図である。
図6】(a)〜(c)は、図5(a)に示したキャパシタから出力される信号を説明するための図である。
図7】(a)〜(e)は、図1に示したサンプリング回路の、参照信号Vrefに周期ノイズがある場合の動作を説明するための図である。
図8】(a)〜(c)は、本発明に係るサンプリング回路におけるノイズと周波数との関係を説明するための図である。
図9】(a)〜(c)は、図8(a)に示した信号をさらに説明するための図である。
図10】本発明に係るD/A変換器の一実施形態を説明するための回路構成図である。
図11】本発明に係るD/A変換器の機能ブロック図である。
図12図11に示したクロック遅延制御回路を説明するための回路構成図である。
図13図12に示した遅延素子の一例としてトランジスタレベルの回路構成図である。
図14図12に示した遅延制御器の一例を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態の説明に先立って、まず、本発明を構成するサンプリング回路の考え方について説明する。なお、以下の説明では、サンプリング回路を用いたD/A変換器を例にしている。
以下、デジタル部は、一般的なデジタル回路で構成され、量子化され、標本化された信号を伝達することを意味している。サンプル・ホールド部は、一般的なスイッチトキャパシタ回路(SC回路)で構成され、量子化されず、標本化された信号を伝達することを意味している。コンテニアス部は、一般的な連続信号回路(Continuous回路;コンテニアス回路)で構成され、量子化されず、標本化されていない信号を伝達することを意味している。
【0017】
なお、上述した信号の「伝達」とは、信号を他の回路に出力することを意味するものとする。また、本明細書では、標本化とは、連続信号(アナログ信号)を時間的に区切る、所謂サンプリング処理することをいい、量子化とは、信号を振幅値で区切る処理をいうものとする。
図1は、本発明に係るD/A変換器におけるサンプリング回路を説明するための回路構成図である。このサンプリング回路150は、デジタル部150c(図11参照)とサンプル・ホールド部150bとコンテニアス部150aとによって構成されている。デジタル部150cは、一般的なデジタル回路で構成され、量子化され、標本化された信号を伝達する構成である。サンプル・ホールド部150bは、一般的なスイッチトキャパシタ回路(SC回路)で構成され、量子化されず、標本化された信号を伝達する構成である。コンテニアス部150aは、一般的な連続信号回路(Continuous回路)で構成され、量子化されず、標本化されていない信号を伝達する構成である。
【0018】
図1では、上記した構成のうち、デジタル信号を扱うデジタル部150cは、図示されておらず、コンテニアス部150aとサンプル・ホールド部150bとが示されている。デジタル部150cは、図1に示したサンプル・ホールド部150bのさらに前段に設けられている。
サンプル・ホールド部150bは、スイッチ101_1、101_2、102_1、102_2と、キャパシタ111_1、111_2と、を含んでいる。スイッチ101_1、キャパシタ111_1、スイッチ102_1は互いに直列に接続されていて、スイッチ101_2、キャパシタ111_2、スイッチ102_2は互いに直列に接続されている。スイッチ101_1及び101_2はスイッチユニット101を構成し、スイッチ102_1及び102_2はスイッチユニット102を構成する。
【0019】
コンテニアス部150aは、キャパシタ111_1と直列に接続されたスイッチ104_1、キャパシタ111_2と直列に接続されたスイッチ104_2と、スイッチ104_1及び104_2の一端に反転入力端子が接続された演算増幅器121と、演算増幅器121の出力端子とスイッチ101_1、キャパシタ111_1間とに接続されたスイッチ103_1と、演算増幅器121の出力端子とスイッチ101_2、キャパシタ111_2間とに接続されたスイッチ103_2と、演算増幅器121の出力端子と反転入力端子との間に接続されたキャパシタ112とを含んでいる。スイッチ103_1及び103_2はスイッチユニット103を構成し、スイッチ104_1及び104_2はスイッチユニット104を構成する。
【0020】
なお、キャパシタ112を有することによって、コンテニアス部150aにはLPF(Low−pass filter)が形成され、キャパシタ112とキャパシタ111_1、111_2の容量比とスイッチング周波数によってLPFのカットオフ周波数が決まる。なお、このようなキャパシタ112は、本発明に係るサンプリング回路に必須の構成ではない。
【0021】
また、サンプリング回路150は、キャパシタ113を備えている。キャパシタ113は、演算増幅器121のアナログ出力信号Aoutを反転入力端子に入力するフィードバック経路158_1、158_2上において、アナログ出力信号Aoutによって生じる電荷を蓄積する。
演算増幅器121の出力端子は端子106に接続されていて、端子106からはアナログ信号VAoutが出力される。演算増幅器121の非反転入力端子と反転入力端子とには、直接、またはスイッチ102_1、102_2、104_1、104_2を介してコモンモード(common mode)電圧による基準信号Vcom1が供給されている。
【0022】
さらに、図1に示したサンプリング回路150では、サンプル・ホールド部150bとコンテニアス部150aとがキャパシタ111_1、111_2を共有している。つまり、キャパシタ111_1、111_2は、サンプル・ホールド部150bとしても、コンテニアス部150aとしても機能する。
以上のサンプリング回路150には、端子105から参照信号Vrefが入力される。参照信号Vrefは、スイッチ101_1、102_1によってサンプリングされる。サンプリングにより、キャパシタ111_1に電荷が蓄積される。また、参照信号Vrefは、スイッチ101_2、102_2によってサンプリングされ、キャパシタ111_2には電荷が蓄積される。スイッチ101_1、101_2、102_2、102_2によってサンプリングされた参照信号Vrefを入力信号Vinと記す。
【0023】
キャパシタ111_1、111_2に蓄積された電荷は、スイッチ101_1、102_1、104_1及び、101_2、102_2、104_2の切り替えにしたがって演算増幅器121の反転入力端子に入力される。演算増幅器121は、基準電圧信号Vcom1を非反転入力端子から入力し、アナログの出力信号VAoutを出力する。
以上説明した図1に示したサンプリング回路150では、サンプル・ホールド部150bのキャパシタ111_1、111_2が複数(図1に示した例では2つ)設けられている。コンテニアス部150aのスイッチユニット103、104に含まれるスイッチの個数は、キャパシタ111_1、111_2の数に対応している。キャパシタ111_1に蓄積される電荷の量は、スイッチ103_1、104_1によって決定される。また、キャパシタ111_2に蓄積される電荷の量は、スイッチ103_2、104_2によって決定される。
【0024】
なお、サンプル・ホールド部150bのキャパシタ111_1、111_2の個数は、当然のことながら、2個に限定されるものでなく、自然数Mであればよい。このとき、コンテニアス部150aのスイッチユニット103、104には、それぞれM個のスイッチが含まれるようにする。
図1に示したサンプリング回路150では、キャパシタ111_1、111_2の個数Mが増えるにしたがって、スイッチユニット103、104に含まれるスイッチの数が同様に増加する。なお、キャパシタ111_1、111_2の個数が増加した場合、コンテニアス部150aの構成は、スイッチユニット103、104に含まれるスイッチの数が増加する以外、図1に示した構成から変更されることがない。
【0025】
また、図1に示したサンプリング回路150では、キャパシタ111_1、111_2の個数Mが増えるにしたがって、スイッチユニット101、102に含まれるスイッチの数も同様に増加する。なお、キャパシタ111_1、111_2の個数が増加した場合、サンプル・ホールド部150bの構成は、スイッチユニット101、102に含まれるスイッチの数が増加する以外、図1に示した構成から変更されることがない。
【0026】
また、図1に示したコンテニアス部150aにキャパシタをさらに追加する場合、追加後のキャパシタの合計の容量と、キャパシタ111_1、111_2の合計の容量とが等しくなるようにする。このようにすることにより、キャパシタ111_1、111_2の容量の大きさと、動作タイミングとを適当に配分し、出力信号VAoutに含まれる特定の周波数のゲインを下げるアナログFIR(Finite Impulse Response)フィルタを形成することができる。
【0027】
また、スイッチ101_1とスイッチ101_2とが、互いに異なるクロック信号で駆動され、スイッチ102_1とスイッチ102_2とが、互いに異なるクロック信号で駆動される。また、スイッチ103_1、103_2及びスイッチ104_1、104_2は、スイッチ101_1、101_2のいずれとも異なるクロック信号φIで駆動される。
【0028】
以下に、図1に示した回路構成の作用について説明する。つまり、入力信号に周期ノイズ(アナログ信号を処理する回路への突入電流に起因するノイズ:以下、単にノイズともいう)が重畳されている場合であっても、図1に示したサンプリング回路150を用いたD/A変換器が発生するノイズを低減できる効果を得ることについて説明する。
以下の説明では、本実施形態の効果を理解しやすくするため、先ず、図1に示したサンプリング回路150のスイッチ101_1とスイッチ101_2とを同一タイミングのクロック信号で駆動し、スイッチ102_1とスイッチ102_2とを同一タイミングのクロック信号で駆動し、スイッチ103_1とスイッチ103_2とを同一タイミングのクロック信号で駆動し、スイッチ104_1とスイッチ104_2とを同一タイミングのクロック信号で駆動(以下、「一般的なクロック信号による駆動」という)する場合について説明する。
【0029】
以下、図1に示したサンプリング回路150を、一般的なクロック信号によって駆動した場合の出力信号VAoutを、参照信号Vrefに周期ノイズが重畳されていない場合と、周期ノイズが重畳されている場合とに分けて説明する。
なお、図1に示したサンプリング回路150では、参照信号Vref、基準信号Vcom1に周期ノイズが重畳した場合、この周期ノイズがゲイン0dBで出力波形に現れるため、サンプリング回路150のノイズに対する感度が最も高い。本実施形態では参照信号Vrefに周期ノイズが重畳した場合について述べるが、参照信号Vref以外に周期ノイズが重畳した場合でも同様の考察が適応できる。なお、参照信号Vref以外に周期ノイズが重畳される信号としては、例えば、基準信号Vcom1があげられる。ノイズ混入経路としては、サンプリング動作の経路が考えられ、参照信号Vref、基準信号Vcom1に限るものではない。
【0030】
(i)周期ノイズが重畳されていない場合
図2(a)〜(e)は、図1に示したサンプリング回路の、参照信号Vrefに周期ノイズがない場合の動作を説明するための図で、参照信号Vrefに周期ノイズがない場合の、図1に示したサンプリング回路150の動作を説明するための図である。図2(a)は、スイッチ101_1、スイッチ102_1を駆動するクロック信号φS1を示す。クロック信号φS1は、キャパシタ111_1における参照信号Vrefのサンプリングタイミングと一致する。図2(b)は、スイッチ101_2、スイッチ102_2を駆動するクロック信号φS2を示す。クロック信号φS2は、キャパシタ111_2における参照信号Vrefのサンプリングタイミングと一致する。図2に示したクロック信号φS1とクロック信号φS2とが等しいことにより、図1に示したサンプリング回路150では、キャパシタ111_1とキャパシタ111_2とが、同一タイミングで動作する。
【0031】
また、図2(c)は、スイッチユニット103、104に含まれるスイッチを駆動するクロック信号φIを示している。クロック信号φIは、キャパシタ111_1、111_2が入力信号Vinによってそれぞれ蓄積された電荷をホールド、放出するタイミングと一致する。クロック信号φIは、クロック信号φS1、φS2のいずれとも同時にHigh(以下、Hという)にならない、ノンオーバーラップ信号である。
【0032】
図2(d)は、直流電圧である参照信号Vrefを示し、図2(e)は、演算増幅器121から出力される、アナログ信号である出力信号VAoutを示している。なお、図2(e)において、実線で示した信号がキャパシタ111_1、111_2から転送されてきた電荷によって生じる入力信号Vinであり、サンプリング回路150において、フィードバックによって破線で示した出力信号VAoutが生成される。
【0033】
図3(a)〜(c)は、図1に示したキャパシタから出力される信号を説明するための図である。図3(a)に示したグラフは、図1に示したキャパシタ111_1、111_2から出力される信号を説明するための図であり、入力信号Vinをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示す。図3(b)に示したグラフは、キャパシタ111_1、111_2が入力信号Vinによって蓄積された電荷をホールド、放出するタイミングを律するクロック信号をフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示す。図3(c)に示したグラフは、出力信号VAoutをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示している。図3(a)〜(c)に示したグラフのいずれにおいても、縦軸は信号のスペクトルの強度を示し、横軸は周波数を示している。図3(a)〜(c)のグラフ中に矢線で示した縦軸の位置は、周波数の基準(「0」)を示している。
【0034】
図3に示したように、キャパシタ111_1、111_2から出力された信号(図中にスペクトルpで示す)は一定の周波数を有している。スペクトルqは入力信号Vinにおけるノイズシェープされたフロアノイズを示す。スペクトルp、qがスイッチ101_1、102_1、及び、101_2、102_2によってそれぞれサンプリングされ、ホールド、放出されると、畳み込によって図3(c)に示す出力信号VAoutが生成される。出力信号VAoutにおいて、スペクトルp、qが対称にミラーされている。
【0035】
(ii)周期ノイズが重畳されている場合
次に、参照信号Vrefに周期ノイズがある場合について説明する。なお、この場合であっても、スイッチ101_1、101_2は同一タイミングのクロック信号で駆動され、スイッチ102_1、102_2は同一タイミングのクロック信号で駆動され、スイッチ103_1、103_2は同一タイミングのクロック信号で駆動され、スイッチ104_1、104_2は同一タイミングのクロック信号で駆動されるものとする。
【0036】
図4(a)〜(e)は、図1に示したサンプリング回路の、参照信号Vrefに周期ノイズがある場合の動作を説明するための図で、図1に示したサンプリング回路150において、参照信号Vrefに周期ノイズがある場合のD/A変換器の動作を説明するための図である。
図4(a)は、キャパシタ111_1における参照信号Vrefのサンプリングタイミングを示している。図4(b)は、キャパシタ111_2における参照信号Vrefのサンプリングタイミングを示している。図4(c)は、キャパシタ111_1、111_2が参照信号Vrefによってそれぞれ蓄積された電荷をホールド、放出するタイミングを示し、図4(d)は、直流電圧である参照信号Vrefを示し、図4(e)は、演算増幅器121から出力される、アナログ信号である出力信号VAoutを示している。ここでは、図4(a)と図4(b)は同一タイミングで動作する。図4(d)、図4(e)から明らかなように、図4(d)に示した参照信号Vrefに周期ノイズN1が重畳されている場合、D/A変換器では、出力信号VAoutにも周期ノイズN1に対応する周期ノイズN2が発生することになる。次に、図4(d)、図4(e)に示した周期ノイズを、図5(a)〜(c)を使って説明する。
【0037】
図5(a)〜(c)は、図4に示した周期ノイズについて説明するための図で、図5(a)に示したグラフは、図1に示したキャパシタ111_1、111_2から出力される信号を説明するための図であり、入力信号Vinをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示す。図5(b)に示したグラフはキャパシタ111_1、111_2が入力信号Vinによってそれぞれ蓄積された電荷をホールド、放出するタイミングを律するクロック信号をフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示し、図5(c)に示したグラフは出力信号VAoutをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示している。図5(a)〜(c)に示したグラフのいずれにおいても、縦軸は信号のスペクトルの強度を示し、横軸は周波数を示している。図5(a)〜(c)のグラフ中に矢線で示した縦軸の位置は、周波数の基準(「0」)を示している。
【0038】
図5(a)で示したスペクトルを図1に示したスイッチ101_1、102_1、及び、101_2、102_2でそれぞれサンプリングし、ホールド、放出すると、周期ノイズN2は折り返され、周期ノイズN2’がDC付近に現れる。そして、図5(c)のグラフのように、畳み込みによって周期ノイズN2’が対称にミラーされ出力信号VAoutが生成される。周期ノイズN2’は、D/A変換器が例えばオーディオ機器に用いられる場合、出力音声に使用される周波数領域(以下、in−bandとも記す)内に現れる。
【0039】
本実施形態は、サンプリング回路等の機器を動作させる複数の異なるクロック信号を備えることにより、他の機器が出力する信号によってin−band内に現れる周期ノイズを拡散し、音声等の出力信号の信号品質が損なわれることを防ぐという技術思想に基づいてなされたものである。
図6(a)〜(c)は、図5(a)に示したキャパシタから出力される信号を説明するための図である。ここで、図6(a)〜(c)を用い、図5(a)に示したキャパシタ111_1、111_2から出力される信号を、さらに説明する。図6(a)に示したグラフは、図4(d)に示した基準信号Vrefの周波数特性であり、周期ノイズが重畳したVrefをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示す。図6(a)の破線で示す周波数はナイキスト周波数を表し、サンプリング動作周波数の半分の周波数である。図6(b)に示したグラフはキャパシタ111_1、111_2が入力信号Vinを蓄積する、サンプリングタイミングを律するクロック信号をフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示す。図6(b)の破線で示す周波数f1はナイキスト周波数を表し、サンプリング動作周波数の半分の周波数である。図6(b)の破線Lb1で示した周波数特性(F特性)は、サンプリング動作によって得られるFIRフィルタの周波数特性である。
【0040】
ここでは、1つのクロック信号によってサンプリング動作が行われるため、FIRフィルタの周波数特性はオールパスフィルタ(全周波数に対してゲイン抑制効果がない)となる。図6(c)に示したグラフは、出力信号VAoutをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示している。図6(a)〜(c)に示したグラフのいずれにおいても、縦軸は信号のスペクトルの強度を示し、横軸は周波数を示している。図6(a)〜(c)のグラフ中に矢線で示した縦軸の位置は、周波数の基準(「0」)を示している。
【0041】
図6(c)で示したように、図1のキャパシタ111_1、111_2のサンプリング動作においては、FIRフィルタによるフィルタ効果が得られない。このため、周期ノイズN2のスペクトルは、そのまま折り返されて周期ノイズN2’となる。
本実施形態は、上述した周期ノイズN2’を分散することにより、in−band内の信号品質を高めることができることに着目してなされたものである。そして、このため、サンプリング回路150のサンプル・ホールド部が、複数のクロック信号によって動作するようにした。以下に、本実施形態の複数のクロック信号について説明する。
【0042】
図7(a)〜(e)は、図1に示したサンプリング回路150において、参照信号Vrefに周期ノイズがある場合の動作を説明するための図である。図7(a)は、図1に示したサンプリング回路150のスイッチ101_1、102_1に入力されるクロック信号φS3を示す。クロック信号φS3は、キャパシタ111_1における参照信号Vrefのサンプリングタイミングと等しい。図7(b)は、図1に示したサンプリング回路150のスイッチ101_2、102_2に入力されるクロック信号φS4を示す。クロック信号φS4は、キャパシタ111_2における参照信号Vrefのサンプリングタイミングと等しい。
【0043】
また、図7(c)は、キャパシタ111_1、111_2が参照信号Vrefによってそれぞれ蓄積された電荷をホールド、放出するタイミングを示し、図7(d)は、直流電圧である参照信号Vrefを示し、図7(e)は、演算増幅器121から出力される、アナログ信号である出力信号VAoutを示している。
本実施形態では、図7(a)、(b)に示したように、クロック信号φS3とクロック信号φS4とが異なるタイミングでHからLow(以下、Lという)、またはLからHに切り替わる。このタイミングの相違は、クロック信号φS4が、クロック信号φ3よりも遅延して切り替わることによって発生する。本実施形態では、クロック信号φS4のクロック信号φS3に対する遅延量Tを、10nsとする。なお、当然のことながら、本実施形態のクロック信号φS4の遅延量は、10nsに限定されるものでなく、任意に設定することができる。
【0044】
図7(d)に示す周期ノイズN1が参照信号Vrefに重畳されている場合、本発明に係るサンプリング回路150を用いたD/A変換器では、出力信号VAoutにも周期ノイズN1に対応する周期ノイズN3が重畳されることになる。ただし、サンプリング回路150は、クロック信号φS3と、クロック信号φS3に対して遅延するクロック信号φS4で駆動するため、2つのサンプリングタイミングを持つことになる。このため、図4の周期ノイズN2と比較すると明らかなように、周期ノイズN3が平均化され、その値が抑制される。
【0045】
図8(a)〜(c)は、本発明に係るサンプリング回路におけるノイズと周波数との関係を説明するための図で、本発明に係るサンプリング回路におけるノイズN3と周波数との関係を説明するための図である。図8(a)に示したグラフは、図1に示したキャパシタ111_1、111_2から出力される信号を説明するための図であり、入力信号Vinをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示す。図8(b)に示したグラフはキャパシタ111_1、111_2が入力信号Vinによってそれぞれ蓄積された電荷をホールド、放出するタイミングを律するクロック信号をフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示し、図8(c)のグラフは出力信号VAoutをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示している。図8(a)〜(c)に示したグラフのいずれにおいても、縦軸は信号のスペクトルの強度を示し、横軸は周波数を示している。図8(a)〜(c)のグラフ中に矢線で示した縦軸の位置は、周波数の基準(「0」)を示している。
【0046】
図8(a)に示したように、図1に示したサンプリング回路150は、サンプル・ホールド部150bのサンプリングタイミングが複数あるため、アナログ部の突入電流起因の周期ノイズを拡散することができる。このため、本実施形態では、周期ノイズN3のスペクトルのピークを、図5に示した周期ノイズN2のスペクトルのピークより小さくすることができる。
【0047】
また、本実施形態においても、周期ノイズN3が折り返されて周期ノイズN3’が発生する。しかし、サンプリングタイミングを複数持つ本実施形態では、折り返し時にFIRフィルタによるフィルタ効果がかかり、周期ノイズN3’のスペクトルが、周期ノイズN3のスペクトルよりもさらに小さくなっている。このことから、本実施形態は、in−band内に発生する周期ノイズを一般的なクロック信号で動作するサンプリング回路150よりも低減することができる。
【0048】
図9(a)〜(c)は、図8(a)に示した信号をさらに説明するための図である。図9(a)に示したグラフは、図7(d)に示した参照信号Vrefに重畳されるノイズN3の周波数特性を示した図であって、周期ノイズN3が重畳したVrefをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示す。図9(a)の破線で示す周波数はナイキスト周波数を表し、サンプリング動作周波数の半分の周波数である。
【0049】
図9(b)に示したグラフは、キャパシタ111_1、111_2が入力信号Vinを蓄積する、サンプリングタイミングを律するクロック信号をフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示す。図9(b)の破線で示す周波数f2はナイキスト周波数を表し、サンプリング動作周波数の半分の周波数である。図9(b)の破線Lb2で示した周波数特性は、サンプリング動作によって得られるFIRフィルタの周波数特性である。
【0050】
本実施形態では、クロック信号φ3、クロック信号φS3に対して10nsの遅延を持つクロック信号φS4によってサンプリング動作が行われる。このため、本実施形態のFIRフィルタの周波数特性fcは、以下の式(1)で表される。
fc=1/(2×T)+X/T(Hz) ・・・式(1)
ただし、式(1)中のXは整数
ここでは、本実施形態では、遅延時間Tが10nsであるため、fc=50MHz+100×XMHz(図9ではX=0における解であるfc=50MHzのみ記載)に零点を持つFIRフィルタが形成される。
【0051】
図9(c)に示したグラフは出力信号VAoutをフーリエ変換により周波数軸に変換したスペクトルを示している。図9(a)〜(c)に示したグラフのいずれにおいても、縦軸は信号のスペクトルの強度を示し、横軸は周波数を示している。図9(a)〜(c)のグラフ中に矢線で示した縦軸の位置は、周波数の基準(「0」)を示している。
図9(a)で示した通り、図1のキャパシタ111_1、111_2へのサンプリング動作においてFIRフィルタによるフィルタ効果によるサンプリング時にノイズ成分が抑制され、周期ノイズN3のスペクトルは減衰し折り返して周期ノイズN3’となる。
【0052】
このような本実施形態によれば、図8(a)に示した周期ノイズN3から周期ノイズN3’への変調においてフィルタ効果が得られるため、D/A変換器においてin−band内に発生する周期ノイズを小さくすることができる。このような周期ノイズは、D/A変換器のみならず、例えば、D/A変換器と同一基板上に搭載されたA/D変換器においても発生する。このため、本実施形態のサンプリング回路150は、特に周期ノイズが動作に影響する電子部品に適用すると、この電子部品の周期ノイズ低減に顕著な効果を奏する。このような本実施形態は、電子機器の小型化、構成の簡易化において有利である。
【0053】
次に、上述した考え方に基づく、本発明の実施形態について説明する。
図10は、本発明に係るD/A変換器の一実施形態を説明するための回路構成図であって、図1に示したサンプリング回路150と、このサンプリング回路150を駆動するためのクロック信号φS3、φS4、φIを出力する制御回路(クロック信号供給部)159と、検出器170とを示している。なお、図10において、図1に示した構成と同様の構成については同様の符号を付し、その説明を一部省略している。
【0054】
本発明のD/A変換器におけるサンプリング回路150は、デジタル信号を入力するデジタル部(後述する図11の150c)と、このデジタル部によって入力されたデジタル信号に基づく入力信号をサンプリングして、サンプリングされた入力信号を保持して転送するサンプル・ホールド部150bと、このサンプル・ホールド部150bによって転送された信号をアナログ信号として出力するコンテニアス部150aとを備えている。
【0055】
また、クロック信号供給部159は、コンテニアス部150aに対しては第1クロック信号を供給し、サンプル・ホールド部150bに対しては第2クロック信号を供給するものである。
また、サンプル・ホールド部150bは、入力信号によって生じる電荷を蓄積する複数の容量素子111_1,111_2と、この複数の容量素子111_1,111_2にそれぞれ蓄積された電荷をコンテニアス部150aに転送する複数のスイッチング素子101_1,101_2,102_1,102_2とを備え、この複数のスイッチング素子101_1,101_2,102_1,102_2は、それぞれ供給された動作タイミングが互いに異なる複数の第2クロック信号に基づいてオン・オフ動作をする。
【0056】
つまり、サンプリング回路150は、図1において説明したように、図示しないデジタル部と、コンテニアス部150aと、サンプル・ホールド部150bとを含んでいる。
制御回路159は、図7(a)〜(c)に示したクロック信号φS3、φS4、φIを生成し、出力する。クロック信号φIはコンテニアス部150aに入力され、クロック信号φS3は、サンプル・ホールド部150bのスイッチ101_1、102_1に入力される。また、クロック信号φS4は、サンプル・ホールド部150bのスイッチ101_2、102_2に入力される。なお、クロック信号φS3、φS4、φIは、いずれもHのときにスイッチをオンし、Lのときにはスイッチをオフするように各スイッチを駆動する。
【0057】
検出器170は、ノイズ混入経路である参照信号Vrefのノイズピークの周波数特性を検出し、サンプル・ホールド部150bの複数の動作タイミングによるサンプリング動作によって得られるFIRフィルタの零点をノイズピーク周波数と合わせるよう制御回路159にて付加されるクロック遅延量を変化させる。なお、本実施形態では、図10に示した構成を半導体集積回路として構成しているが、検出器170は、半導体集積回路の外部に設けてもよい。検出器170を半導体集生起回路の外側に設ける場合、検出器170は、例えば、スペクトルアナライザーで実現される。
【0058】
図11は、本発明に係るD/A変換器(DAC)の機能ブロック図である。図11に示すように、本実施形態のD/A変換器は、デジタル部(図中にDigital部という)150c、サンプル・ホールド部(図中にS/H部という)150b、コンテニアス部(図中にCont.部という)150aを含むサンプリング回路150と、制御回路159とを備えている。
【0059】
クロック遅延変換部141は、少なくとも第2クロック信号に対して動作タイミングが互いに異なる複数のクロック信号を生成するものである。また、クロック遅延制御回路171は、クロック遅延変換部141によって生成される遅延量を制御するものである。
また、クロック遅延制御回路171は、サンプル・ホールド部150bに供給される入力信号の周波数特性から、サンプリングされた入力信号に混入されるノイズがピークを持つピーク周波数を検出する検出器170と、この検出器170によって検出されたノイズのピーク周波数を任意の遅延量に変換する遅延量変換部141とを備えている。
【0060】
制御回路159は、クロック信号φS3、φIを生成するクロック信号生成部143と、クロック信号生成部143によって生成されたクロック信号φS3に対して遅延したクロック信号φS4を生成するクロック遅延変換部(図11中にDelay_Gen.という)141と、クロック信号φS3、φS4、φIを入力し、クロック信号φS3、φS4を選択してサンプル・ホールド部150bに出力し、クロック信号φIを選択してコンテニアス部150aに出力するクロック信号選択部162と、を含んでいる。クロック信号選択部162は、クロック信号φS3、φS4、φIからいずれかを選択し、デジタル部150cに出力してもよく、デジタル部150cは選択されたクロック信号により駆動される。
【0061】
なお、本実施形態は、クロック信号選択部162を備える構成に限定されるものでなく、クロック信号選択部162を設けない構成にすることができる。クロック信号選択部162を設けない場合、本実施形態は、クロック遅延変換部141からクロック信号φS3、φS4をサンプル・ホールド部150bに直接出力する。クロック信号生成部143は、クロック信号φIをコンテニアス部150aに直接出力する。クロック遅延変換部141、あるいはクロック信号生成部143はクロック信号φS3、φS4、φIのいずれかをデジタル部150cに直接出力する。
【0062】
検出器170は、ノイズ混入経路である参照信号Vrefのノイズピークの周波数特性を検出する。クロック遅延変換部141は、検出器170から出力される制御信号に基づいて遅延が加えられたクロック信号を生成する。クロック遅延量の変化は、参照信号Vrefに重畳したノイズピーク周波数とFIRフィルタの零点が合うように行われる。本実施形態では、検出器170とクロック遅延変換部141とが、本実施形態のクロック遅延制御回路171として機能する。
【0063】
図12は、図11中に示したクロック遅延制御回路を説明するための回路構成図であり、クロック遅延変換部141の構成を具体的に示している。クロック遅延変換部141は、遅延素子144と、クロック遅延制御器148と、から構成される。図11に示したクロック信号生成部143から出力されたクロック信号φS3は遅延素子144に入力され、クロック遅延変換部141からクロック信号φS4として出力される。
【0064】
図13は、図12中に示した遅延素子の一例としてトランジスタレベルの回路構成図である。遅延素子144は、CMOSインバータ144_1と、CMOSインバータのVDD側に直列に接続されたPMOSトランジスタ144_2と、CMOSインバータのVSS側に直列に接続されたNMOSトランジスタ144_3と、と含む遅延量制御CMOSインバータを2段縦続接続している。遅延素子144の入力信号VBPは、CMOSインバータVDD側に直列に接続されたPMOSトランジスタの制御信号であり、入力信号VBNは、CMOSインバータのVSS側に直列に接続されたNMOSトランジスタの制御信号である。PMOSトランジスタ144_2、NMOSトランジスタ144_3は、制御信号VBP,VBNの電圧レベルにしたがって定電流源として機能し、CMOSインバータの電流制御を行う。制御信号VBPはクロック信号の立ち上がりエッジの遅延量を制御し、制御信号VBNはクロック信号の立下りエッジの遅延量を制御する。検出器170には参照信号Vrefが入力され、検出器170は、参照信号Vrefのノイズピークの周波数特性を検出する。検出された周波数特性に基づいて、検出器170からはコントロール信号173が出力される。コントロール信号173は、遅延制御器148に入力される。
【0065】
図14は、図12中に示した遅延制御器の一例を示す回路構成図である。遅延制御器148は、コントロール信号173に基づいて遅延素子144の遅延量を制御するための制御信号VBP,VBNを出力する。遅延制御器148は、直列に接続された抵抗素子群145_1、145_2と、スイッチ群146_1〜146_4、147_1〜147_4とを含み、スイッチ群146_1〜146_4、147_1〜147_4は、直列に接続された抵抗素子群に接続されている。スイッチ群146_1〜146_4、およびスイッチ群147_1〜147_4では、コントロール信号173にしたがって、常に一つの信号のみが選択されHとなり、残りの3つの信号がLとなる。なお、当然のことながら、本実施形態のスイッチ群146_1〜146_4、およびスイッチ群147_1〜147_4は、4個に限定されるものでなく、任意に設定することができる。
【0066】
なお、上述した図12図13図14の構成は、一例であり、別の構成でも同等の効果が得られる構成であればよい。
このような本実施形態によれば、サンプル・ホールド部150bは、標本化された信号をコンテニアス部150aに伝達する。伝達される信号成分はDC成分であるから、サンプル・ホールド部150bが複数の動作クロックを持ってもその成分は平均化による減衰が起こらない。しかし、D/A変換器自身が発生する周期ノイズ、または、他の電子機器から混入する周期ノイズはAC成分である。このため、サンプル・ホールド部150bが動作クロックを複数持つことによって周期ノイズの成分は平均化により減衰する。このため、本実施形態のD/A変換器では、周期ノイズの抑制効果が得られる。換言すれば、本実施形態は、STF(Signal Transfer Function)は変化させず、NTF(Noise Transfer Function)のみに平均化による減衰係数をかけることができるものといえる。
【0067】
また、本実施形態によれば、参照信号Vrefに50MHzのピークを持つ周期ノイズが重畳した場合、検出器170によりクロック遅延変換部141においてクロック信号に付加される遅延量を例えば10nsと設定する。このような設定によれば、D/A変換器はクロック信号φS3、クロック信号φS3に対して10nsの遅延を持つクロック信号φS4によってサンプリング動作が行われる。このため、本実施形態のFIRフィルタの周波数特性fcは、遅延時間が10nsであるため、fc=50MHz+100×XMHzに零点を持つFIRフィルタが形成される。そのため、本実施形態は、D/A変換器に重畳する周期ノイズを効率的に抑制することができる。
【0068】
このような本実施形態では、D/A変換器の出力信号に混入する周期ノイズを信号成分と効率的に分離することができる。このため、本実施形態は、伝達すべき信号にノイズを加えることなく、in−band内のノイズだけを平均化し、そのスペクトルを低減することができる。
以上説明した本実施形態は、D/A変換器周辺の機器から発生するノイズを低減するのみではなく、D/A変換器自身のノイズに対する耐性を強化することができる。このため、D/A変換器周辺の他の機器の構成を変更することなく、D/A変換器のみを変更してD/A変換器に対するノイズの影響を低減することができる。
【0069】
また本実施形態は、クロック信号を複数発生させる回路を追加することのみによって実現することができる。このため、高度な半導体プロセス技術やチップの多ピン化が不要になって、D/A変換器の高コスト化を防ぐことができる。さらに、本実施形態によれば、ノイズの影響を考慮することなくD/A変換器を他の機器に充分近接させて配置することができるから、D/A変換器を含む機器の小型化に効果を奏する。
【0070】
また、本実施形態では、D/A変換器周辺の機器から発生するノイズを低減することを目的として一般的に具備されるデカップリングコンデンサへのノイズ抑制要求を低減することが可能となる。このとき、ノイズ低減の十分な効果が得られれば、デカップリングコンデンサそのものを不要とすることが可能となる可能性がある。
また、本実施形態は、以上説明した構成に限定されるものではない。すなわち、本実施形態では、クロック遅延変換部141によって加えられる遅延量を遅延素子1個で生成する場合を説明したが、これは図9に示したFIRフィルタの零点を1個持つ場合の構成であり、当然のことながら1個に限定されるものではなく、自然数Mであればよい。
【0071】
FIRフィルタの零点をM個持つ場合、図10に示したサンプリング回路150では、キャパシタ111_1、111_2の個数Mが増えるにしたがって、サンプル・ホールド部150bのスイッチユニット103、104に含まれるスイッチの数が同様に増加する。また、コンテニアス部150aのスイッチユニット101、102に含まれるスイッチの数も同様に増加する。このとき、図12に示したクロック遅延変換部141の構成は、遅延素子144がM個に増加し、遅延素子144が縦続接続される以外、変更されることがない。このような場合においても本実施形態は同様の効果を得ることができる。
【0072】
なお、本実施形態では、D/A変換器を単体の構成とする場合、図10に示した制御回路159が1つのサンプリング回路に対応付けて設けられる。また、本実施形態は、D/A変換器の制御回路159をD/A変換器の外部に設けるものであってもよい。さらに、本実施形態は、図1に示したD/A変換器のサンプリング回路を他の機器として構成する場合に、制御回路159を機器の外部に設けるものであってもよい。
【0073】
次に、本実施形態のD/A変換器と、既存のA/D変換器とを混載したCODECについて考える。
本実施形態のD/A変換器は、A/D変換器とD/A変換器とのサンプリング周波数が等しい(横軸の動作周波数差0)場合であっても、A/D変換器とD/A変換器とのサンプリング周波数が約±25Hz程度の差を有する場合であっても、出力信号のディストーションが小さい。このような本実施形態では、A/D変換器とD/A変換器とが異なるクロック信号で動作する非同期動作時においても、同一のクロック信号で動作する同期動作時においても、出力信号のディストーションを低減することができる。
【0074】
本実施形態の上記効果は、D/A変換器のサンプル・ホールド部の動作クロック信号を異なる4個のクロック信号で動作させた場合に得られたものである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、D/A変換器及びこのD/A変換の機能を持った電子機器全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
101、102、103、104 スイッチユニット
101_1、101_2、102_1、102_2、103_1、103_2、104_1、104_2 スイッチ
105、106 端子
111_1、111_2、112、113 キャパシタ
121 演算増幅器
141 クロック遅延変換部
143 クロック信号生成部
144 遅延素子
144_1 CMOSインバータ
144_2 PMOSトランジスタ
144_3 NMOSトランジスタ
145_1、145_2 抵抗素子群
146_1〜146_4、147_1〜147_4 スイッチ群
148 クロック遅延制御器
150a コンテニアス部
150b サンプル・ホールド部
150c デジタル部
159 制御回路(クロック信号供給部)
150 サンプリング回路
158_1、158_2 フィードバック経路
162 クロック信号選択部
170 検出器
171 クロック遅延制御回路
1391、1591 クロック信号生成部
1392、1392 クロック信号選択部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14