【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施例のSiCショットキーバリアダイオードの断面図である。高不純物濃度のn型六方晶SiCからなるn
+型SiC基板1上に、不純物濃度がn
+型SiC基板より低いn型SiCエピタキシャル層2と、n型SiCエピタキシャル層2よりも不純物濃度の低いn
-型SiCエピタキシャル層3が形成されている。n
-型SiCエピタキシャル層3上には、n
-型SiCエピタキシャル層にショットキー接触するショットキー電極5が形成されている。そして、ショットキー電極5の外周部に、一部が重なるように本発明のガードリング層4が形成されている。ショットキー電極5上には、パッド電極7が形成されており、更にn
-型SiCエピタキシャル層3の露出する表面、ショットキー電極5、パッド電極7を覆うようにパッシベーション層8が形成されている。このパッシベーション層8は、本発明のショットキーダイオードをパッケージに組立てる際に、パッド電極7上にワイヤーボンディングを行なうため開口が形成されている。また、n
+型SiC基板1の裏面側には、オーミック電極6が形成されている。
【0023】
なお、ガードリング層4は、通常の半導体装置の製造方法に従い、例えば、n
-型SiCエピタキシャル層3に、フォトレジストやCVD酸化膜等のマスクをパターニングすることによる選択イオン注入する。注入するイオン種としてホウ素を用いる場合、注入エネルギー30keV、注入量1×10
15cm
-2を、室温でイオン注入する。その後、イオン注入によって生じた結晶欠陥を回復させるために、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で、1050℃で90分程度の熱処理を行う。この熱処理によって、イオン注入によって結晶欠陥が生じた部分は再結晶化する。一方、1050℃程度の熱処理では、注入されたイオンの活性化率は非常に低く、一般的には1%以下と言われ、P型の導電型は示すが、非常に不純物濃度の低い領域となる。
【0024】
このような構造のSiCショットキーバリアダイオードの耐圧は、n
-型SiCエピタキシャル層3の不純物濃度と厚さに依存し、
図1に示す構造の場合、不純物濃度が5×10
15cm
-3から2×10
16cm
-3、深さが5μm以上となるように設定することで、耐圧1000V以上の動作が可能である。
【0025】
また、不純物濃度5×10
15cm
-3、厚さ10μmの場合、1200V以上の逆方向耐圧を得ることができた。
【0026】
図2は、本発明と従来の高抵抗ガードリング層を備えたSiCショットキーバリアダイオードの逆方向電流―電圧特性を比較した図である。
図2に示すように、本発明の方が、逆方向のリーク電流が小さいことがわかる。このような特性は、注入するイオン種はアルミニウムであっても同様であることが確認されている。
【0027】
本発明のガードリング層を形成するためには、上記実施例に限定されず、SiCショットキーバリアダイオードの所望の特性が得られる範囲で、以下の条件を適宜設定すればよい。まず、注入するイオン種はホウ素あるいはアルミニウムとし、注入エネルギーは30〜180eV、注入量は5×10
13cm
-2〜5×10
15cm
-2の範囲に設定する。注入エネルギーを一定として注入量を増加させると、不純物イオンが注入された領域のアモルファス化の度合いが強まり、熱処理による結晶性の回復が悪くなる傾向となる。そこで、本発明では、以下に説明する熱処理条件で所望の再結晶化が生じるように、上記の注入量に設定している。注入エネルギーは、注入深さを決めるために設定している。
【0028】
次に熱処理温度範囲は、イオン注入によって結晶に欠陥を生じさせた後、再結晶化させると共に、注入した不純物イオンの活性化率の低い温度範囲に設定している。イオン注入後の熱処理温度の下限は、再結晶化するといわれている800℃(例えば、T.NakamuraらによってMaterials Science Forum Vols.389-393、2002年、p839-842に、イオン注入された領域が800℃以上で再結晶化すると報告されている)より高い温度である900℃に設定することにより、確実に再結晶化させている。さらに、熱処理温度の上限は、注入した不純物イオンがアクセプターとして活性化する活性化率が1%程度となる1500℃(例えば、J.Appl.Phys.,Vol.91,No.7,1 April 2002年p.4242-4248に、アルミニウムイオンおよびホウ素イオンは、1500℃ではほとんど活性化していないと報告されている)より低い1300℃に設定することで、注入した不純物イオンのほとんどがアクセプターとして活性化しないことになる。従って本発明では、熱処理温度を900℃〜1300℃の温度範囲としている。
【0029】
なお、結晶性が十分に回復していないと、従来の高抵抗ガードリング構造と同一となり、逆方向バイアス時のリーク電流が増加してしまうので、本発明の効果は得られない。上述の通り、本発明では、逆方向バイアス時のリーク電流が低減されるため、本発明のガードリング構造は、従来の高抵抗ガードリング構造とは相違することがわかる。
【0030】
次に本発明のガードリング層が、従来のP型ガードリング層と異なることを説明する。まず、本発明のガードリング層と従来のガードリング層は、不純物濃度が異なる。先に説明したとおり、従来のガードリング層は、イオン注入によって形成したP型層を空乏化することによって、電界集中を緩和している。従って、P型層は、ある程度不純物濃度が高くなっている。これに対し本発明のガードリング層は、注入したイオンは、一部しか活性化されていない。従って、不純物濃度は低いことがわかる。
【0031】
ところで、低不純物濃度のイオン注入領域を形成する場合、注入量を少なくし、注入した不純物の活性化率を高くして形成することもできる。このように活性化率を高くしてイオン注入領域を形成する場合は、活性化のための熱処理は、当然高くなる。すなわち、1500℃程度の熱処理を行う必要がある。その結果、イオン注入領域は、イオン注入によって発生した結晶欠陥(注入量が少ないため、結晶欠陥は少ない)は回復し、不純物濃度の低いイオン注入領域となる。しかし、このように不純物濃度の低い領域をガードリング層とすると、低濃度のP型層は、空乏化されず、十分な耐圧を得ることができない。
【0032】
これに対し、本発明のガードリング層は、低濃度のP型層でありながら、十分な耐圧を得ることができた。つまり、本発明のガードリング層は、従来のP型ガードリング層とは全く異なる構成であることがわかる。
【0033】
次に、本発明のガードリング構造が、従来の高抵抗ガードリング構造とは異なることを説明する。先に説明したように、高抵抗ガードリング構造では、高抵抗ガードリング層を微少な電流が流れる。従って、十分な耐圧を確保するためには、
図5にW3で示す寸法を長く設定する必要がある。
図3は、ガードリング層の横方向の寸法と耐圧の関係を説明する図で、従来例の場合、W3に相当する寸法が横軸となり、ショットキー電極と重畳する寸法は20μmとしている。高抵抗ガードリング構造では、高抵抗ガードリング層に電流を流すことによって、過度の電界集中が発生しないようにしている。従って、ある程度W3の寸法を大きくしないと高耐圧が得られないことになる。
【0034】
これに対して本発明のガードリング構造は、
図1に示すW2の寸法、即ちショットキー電極と重なり合う寸法をある程度大きくすれば、十分な耐圧が得られることを確認した。
図3には、W1=20μmとして、W2の寸法を横軸として耐圧との関係を示している。
図3に示すように、本発明のガードリング構造ではW2=5μmで、800V以上の耐圧が得られることが確認された。
【0035】
つまりW1+W2=25μmあれば、十分な耐圧が得られることがわかる。さらにW1=10μm程度まで寸法を小さくできることも確認され、ショットキーバリアダイオードを小型化するこも可能となる。
【0036】
本発明のガードリング層について、さらに詳細に説明するため、ガードリング層を構成する半導体領域の特性について、以下に説明する。
【0037】
まず、
図1で説明したSiCショットキーバリアダイオードを形成した半導体基板を使用し、不純物濃度が5×10
15cm
-3のn
-型SiCエピタキシャル層3の全面に、ホウ素イオンを注入エネルギー30keV、注入量1×10
15cm
-2、室温でイオン注入する。その後、活性化のため、1050℃の加熱処理を行う。このように形成したイオン注入領域表面に、ショットキー電極としてチタン電極を形成し、このショットキー特性を調べた。SiC基板の裏面には、オーミック電極を形成した。
【0038】
図4は、オーミック電極6側を接地し、ショットキー電極側に正バイアスと負バイアスを印加した場合に電圧―電流特性を示している。測定温度は、25℃、100℃、175℃とした。
図3に示すように、正バイアス時には、測定温度を上昇させた場合、電流の立ち上がり電圧が徐々に小さくなっている。さらに負バイアス時には、測定温度を上昇させた場合、ブレークダウン電圧が次第に大きくなっている。
図4に示すように、本発明のガードリング層は、n
-型SiCエピタキシャル層3との間で、PN接合が形成されていることが確認された。
【0039】
しかしながら、本発明では、注入した不純物イオンを活性化するための熱処理温度は、通常より非常に低く設定しているため、イオン注入されたホウ素がアクセプターとして活性化する割合は、非常に低い。一般的には、ホウ素がアクセプターとして活性化される割合は、1500℃で、1%未満であること、さらにSiCに対してP型の不純物となるホウ素は、イオン化エネルギーが0.3eV程度と大きいため、室温におけるホール密度はさらに小さくなる。