特許第5651410号(P5651410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5651410シリコンカーバイドショットキーバリアダイオードおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5651410
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】シリコンカーバイドショットキーバリアダイオードおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/47 20060101AFI20141218BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   H01L29/48 E
   H01L29/48 F
   H01L29/48 D
   H01L29/86 301E
   H01L29/86 301F
   H01L29/86 301D
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-190414(P2010-190414)
(22)【出願日】2010年8月27日
(65)【公開番号】特開2012-49347(P2012-49347A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2013年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 修一
(72)【発明者】
【氏名】新井 学
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/101668(WO,A1)
【文献】 特開2006−339396(JP,A)
【文献】 特開2000−188406(JP,A)
【文献】 特開2005−079339(JP,A)
【文献】 特開2010−068008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/26−21/288、21/322−21/326、
21/42−21/445、21/477−21/479、
29/00−29/49、29/86−29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N型のシリコンカーバイド層表面にショットキー電極を備え、該ショットキー電極の周囲に一部が重畳するように形成されたガードリング層を備えたシリコンカーバイドショットキーバリアダイオードにおいて、
前記ガードリング層は、前記N型のシリコンカーバイド層にP型となる不純物イオンが注入された領域が900℃〜1300℃の熱処理により再結晶化した領域からなり、かつ注入された前記不純物イオンの活性化率が1%以下のP型を示す領域であることを特徴とするシリコンカーバイドショットキーバリアダイオード。
【請求項2】
N型のシリコンカーバイド層表面にショットキー電極を備え、該ショットキー電極の周囲に一部が重畳するように形成されたガードリング層を備えたシリコンカーバイドショットキーバリアダイオードの製造方法において、
前記N型のシリコンカーバイド層表面の前記ガードリング層形成予定領域に、P型となる不純物イオンを、少なくとも前記シリコンカーバイド層に結晶欠陥が生じる注入条件でイオン注入する工程と、
該イオン注入領域を再結晶化すると共に、注入された前記不純物イオンの活性化率が1%以下となる温度範囲で熱処理し、P型の前記ガードリング層を形成する工程と、
前記N型のシリコンカーバイド層表面に、ショットキー接触するショットキー電極を、該ショットキー電極の周囲が前記P型のガードリング層と一部重畳するように形成する工程と、を含み、
前記不純物イオンが、ホウ素あるいはアルミニウムであり、
注入量が、5×1013cm-2〜5×1015cm-2であり、
前記熱処理の温度範囲が、900℃〜1300℃であることを特徴とするシリコンカーバイドショットキーバリアダイオードの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコンカーバイドショットキーバリアダイオードおよびその製造方法に関し、特に、ガードリング層を備えたシリコンカーバイドショットキーバリアダイオードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンカーバイド(SiC)は、絶縁破壊電界がシリコンの約10倍、熱伝導率がシリコンの約3倍、電子の飽和速度がシリコンの約2倍と大きいことから、シリコンを用いたパワーデバイスと比較して、デバイスの高耐圧化が容易であり、更に、デバイス能動層を薄層かつ高濃度化することによって低損失パワーデバイスを実現できる材料として着目されている。特に、SiCショットキーバリアダイオードは、2000年代初頭に、SiCデバイス中で最も早く実用化され、スイッチング回路に搭載した場合に、同性能の耐圧を持つシリコンバイポーラ型のファーストリカバリーダイオードと比較して、逆回復時間と回復電流が小さいために、回路の低損失化が実現できるデバイスとなっている。
【0003】
一方SiCの物性を活かして、高い耐圧特性を示すショットキーバリアダイオードを実現するためには、逆方向バイアス動作時にシリコンパワーデバイスと同様にショットキー接合終端部に集中する電界を緩和する必要がある(非特許文献1参照)。
【0004】
図5に従来のこの種のSiCショットキーバリアダイオードの構造を示す。高不純物濃度のn型六方晶SiCからなるn+型SiC基板1上に、不純物濃度がn+型SiC基板より低い不純物濃度のn型SiCエピタキシャル層2と、n型SiCエピタキシャル層2よりも不純物濃度の低いn-型SiCエピタキシャル層3が形成されている。n-型SiCエピタキシャル層3上には、n-型SiCエピタキシャル層にショットキー接触するショットキー電極5が形成され、n+型SiC基板1の裏面側にはオーミック電極6が形成されている。そして、ショットキー電極5の外周部に、一部が重なるように、ガードリング層9が形成されている。なお、7はパッド電極、8はパッシベーション膜である。
【0005】
一般的にSiCショットキーバリアダイオードでは、JTE(Junction Termination Extension)のようなP型のイオン注入層(P型ガードリング層)を用いたガードリング構造が形成されている。このようなガードリング構造としては、SiCに対してP型の不純物となるホウ素やアルミニウムを、500℃程度の高温でイオン注入し、その後、1500℃以上の熱処理を行うことで形成されるのが一般的である(非特許文献2参照)。
【0006】
また、ガードリング構造の別の例として、アルゴンイオンを注入することにより結晶欠陥領域(高抵抗ガードリング層)を形成して高抵抗ガードリング構造を形成する方法も知られている。アルゴンは、SiCに対してP型やN型の不純物とならないため、イオン注入によって結晶構造を崩し、SiCのバンドギャップ内で、伝導帯から深いエネルギー準位にアクセプター型トラップを形成することによって、電界が緩和される。このような高抵抗ガードリング構造は、逆方向動作におけるリーク電流が大きいという課題があることも知られている(非特許文献3参照)。
【0007】
以上説明したような従来のP型ガードリング構造では、P型層が空乏化することで、ガードリング構造の外周端に集中する電界を緩和し、所望の耐圧を確保している。そのため、注入した不純物イオンを十分に活性化させるための1500℃以上の高温の活性化処理を行う必要があった。
【0008】
また高抵抗ガードリング構造では、高抵抗層に電界が集中した際、ショットキー電極端とガードリング層の外周端の高抵抗層を介してリーク電流を流すことで、過度の電界集中が発生しないようにしている。従って、ショットキー電極端からガードリング層の外周端までに寸法を所望の耐圧が得られる程度長く設定する必要があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】B Jayant Baliga、「Silicon Carbide Power Devices」、(米国)、World Scientific、2005年、p.38−70
【非特許文献2】松波弘之編著、「半導体SiC技術と応用」、日刊工業新聞社、2003年、p.143−185
【非特許文献3】Dev Alok他, IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS、Vol.15、No.10、1994年、p.394−395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来提案されているガードリング構造の内、P型ガードリング構造は、1500℃以上の熱処理を行う必要があり、低温で形成できる方法が望まれている。一方、高抵抗ガードリング構造では、逆方向リーク抵抗の低減が望まれている。さらに、高抵抗ガードリング構造では、ガードリング構造の小型化が望まれている。
【0011】
本発明は、上記のようなに実状に鑑み、低温の熱処理で形成することができ、かつ所望の特性を得ることができるSiCショットキーバリアダイオードとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、型のシリコンカーバイド層表面にショットキー電極を備え、該ショットキー電極の周囲に一部が重畳するように形成されたガードリング層を備えたシリコンカーバイドショットキーバリアダイオードにおいて、前記ガードリング層は、前記N型のシリコンカーバイド層にP型となる不純物イオンが注入された領域が900℃〜1300℃の熱処理により再結晶化した領域からなり、かつ注入された前記不純物イオンの活性化率が1%以下のP型を示す領域であることを特徴とする。
【0013】
本願請求項2に係る発明は、N型のシリコンカーバイド層表面にショットキー電極を備え、該ショットキー電極の周囲に一部が重畳するように形成されたガードリング層を備えたシリコンカーバイドショットキーバリアダイオードの製造方法において、前記N型のシリコンカーバイド層表面の前記ガードリング層形成予定領域に、P型となる不純物イオンを、少なくとも前記シリコンカーバイド層に結晶欠陥が生じる注入条件でイオン注入する工程と、該イオン注入領域を再結晶化すると共に、注入された前記不純物イオンの活性化率が1%以下となる温度範囲で熱処理し、P型の前記ガードリング層を形成する工程と、前記N型のシリコンカーバイド層表面に、ショットキー接触するショットキー電極を、該ショットキー電極の周囲が前記P型のガードリング層と一部重畳するように形成する工程と、を含み、前記不純物イオンが、ホウ素あるいはアルミニウムであり、注入量が、5×1013cm-2〜5×1015cm-2であり、前記熱処理の温度範囲が、900℃〜1300℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法により形成したSiCショットキーバリアダイオードは、従来報告されている高抵抗ガードリング構造と、P型ガードリング構造の中間的特性を持ったガードリング層を備えることにより、従来の高抵抗ガードリング構造と比較して、逆方向リーク電流を低減し、1500℃程度の高温処理を必要とする従来方法より低温の熱処理しか行っていないにもかかわらず、同等の逆方向リーク電流特性を有するSiCショットキーダイオードを得ることができる。
【0017】
さらに本発明のSiCショットキーバリアダイオードは、従来の高抵抗ガードリング構造ほど、ショットキー電極端からガードリング外周端までの距離を長くする必要はなく、半導体装置の小型化ができるという利点もある。
【0018】
本発明の製造方法によれば、従来よりも数100度以上低い温度で処理すればよいので、通常のシリコン半導体装置の製造工程で使用する製造装置を用意するだけでよく、SiCショットキーバリアダイオードを低コストで製造できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例のSiCショットキーバリアダイオードの断面図である。
図2】本発明のガードリング層と従来の高抵抗ガードリング層を用いたSiCショットキーバリアダイオードの逆方向電圧-流特性を示す図である。
図3】本発明のガードリング構造と従来の高抵抗ガードリング構造を用いたSiCショットキーバリアダイオードの逆方向耐圧を示す図である。
図4】本発明のガードリング層の電圧−電流特性を示す図である。
図5】従来のSiCショットキーバリアダイオードの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のSiCショットキーバリアダイオードのガードリング層は、従来報告されている高抵抗ガードリング構造と、イオン注入されたP型不純物を十分に活性化した場合のP型ガードリング構造との中間的特性を示す層で構成される。即ち、本発明のガードリング層は、イオン注入によって生じた結晶欠陥は、熱処理によって回復(再結晶化)している。さらにイオン注入された不純物イオンの活性化率は1%以下程度のため、不純物イオン濃度が非常に低い領域となっている。従って、本発明のガードリング層は、不純物イオンの注入量を低く設定すると共に、注入した不純物イオンの活性化率を高くして形成した不純物イオン濃度の低い領域、即ち、注入量が少ないためイオン注入によって結晶欠陥がほとんど発生しない領域に、活性化したイオン種が低濃度で存在する領域とは異なる。
【0021】
また本発明のSiCショットキーバリアダイオードの製造方法は、通常のP型ガードリング層を形成するためのイオン注入を行った後、このイオン注入によって生じた結晶欠陥は再結晶化するが、注入された不純物イオンは、ほとんど活性化しない温度範囲で熱処理することで形成することができる。以下、本発明の実施例について、製造工程に従い説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施例のSiCショットキーバリアダイオードの断面図である。高不純物濃度のn型六方晶SiCからなるn+型SiC基板1上に、不純物濃度がn+型SiC基板より低いn型SiCエピタキシャル層2と、n型SiCエピタキシャル層2よりも不純物濃度の低いn-型SiCエピタキシャル層3が形成されている。n-型SiCエピタキシャル層3上には、n-型SiCエピタキシャル層にショットキー接触するショットキー電極5が形成されている。そして、ショットキー電極5の外周部に、一部が重なるように本発明のガードリング層4が形成されている。ショットキー電極5上には、パッド電極7が形成されており、更にn-型SiCエピタキシャル層3の露出する表面、ショットキー電極5、パッド電極7を覆うようにパッシベーション層8が形成されている。このパッシベーション層8は、本発明のショットキーダイオードをパッケージに組立てる際に、パッド電極7上にワイヤーボンディングを行なうため開口が形成されている。また、n+型SiC基板1の裏面側には、オーミック電極6が形成されている。
【0023】
なお、ガードリング層4は、通常の半導体装置の製造方法に従い、例えば、n-型SiCエピタキシャル層3に、フォトレジストやCVD酸化膜等のマスクをパターニングすることによる選択イオン注入する。注入するイオン種としてホウ素を用いる場合、注入エネルギー30keV、注入量1×1015cm-2を、室温でイオン注入する。その後、イオン注入によって生じた結晶欠陥を回復させるために、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で、1050℃で90分程度の熱処理を行う。この熱処理によって、イオン注入によって結晶欠陥が生じた部分は再結晶化する。一方、1050℃程度の熱処理では、注入されたイオンの活性化率は非常に低く、一般的には1%以下と言われ、P型の導電型は示すが、非常に不純物濃度の低い領域となる。
【0024】
このような構造のSiCショットキーバリアダイオードの耐圧は、n-型SiCエピタキシャル層3の不純物濃度と厚さに依存し、図1に示す構造の場合、不純物濃度が5×1015cm-3から2×1016cm-3、深さが5μm以上となるように設定することで、耐圧1000V以上の動作が可能である。
【0025】
また、不純物濃度5×1015cm-3、厚さ10μmの場合、1200V以上の逆方向耐圧を得ることができた。
【0026】
図2は、本発明と従来の高抵抗ガードリング層を備えたSiCショットキーバリアダイオードの逆方向電流―電圧特性を比較した図である。図2に示すように、本発明の方が、逆方向のリーク電流が小さいことがわかる。このような特性は、注入するイオン種はアルミニウムであっても同様であることが確認されている。
【0027】
本発明のガードリング層を形成するためには、上記実施例に限定されず、SiCショットキーバリアダイオードの所望の特性が得られる範囲で、以下の条件を適宜設定すればよい。まず、注入するイオン種はホウ素あるいはアルミニウムとし、注入エネルギーは30〜180eV、注入量は5×1013cm-2〜5×1015cm-2の範囲に設定する。注入エネルギーを一定として注入量を増加させると、不純物イオンが注入された領域のアモルファス化の度合いが強まり、熱処理による結晶性の回復が悪くなる傾向となる。そこで、本発明では、以下に説明する熱処理条件で所望の再結晶化が生じるように、上記の注入量に設定している。注入エネルギーは、注入深さを決めるために設定している。
【0028】
次に熱処理温度範囲は、イオン注入によって結晶に欠陥を生じさせた後、再結晶化させると共に、注入した不純物イオンの活性化率の低い温度範囲に設定している。イオン注入後の熱処理温度の下限は、再結晶化するといわれている800℃(例えば、T.NakamuraらによってMaterials Science Forum Vols.389-393、2002年、p839-842に、イオン注入された領域が800℃以上で再結晶化すると報告されている)より高い温度である900℃に設定することにより、確実に再結晶化させている。さらに、熱処理温度の上限は、注入した不純物イオンがアクセプターとして活性化する活性化率が1%程度となる1500℃(例えば、J.Appl.Phys.,Vol.91,No.7,1 April 2002年p.4242-4248に、アルミニウムイオンおよびホウ素イオンは、1500℃ではほとんど活性化していないと報告されている)より低い1300℃に設定することで、注入した不純物イオンのほとんどがアクセプターとして活性化しないことになる。従って本発明では、熱処理温度を900℃〜1300℃の温度範囲としている。
【0029】
なお、結晶性が十分に回復していないと、従来の高抵抗ガードリング構造と同一となり、逆方向バイアス時のリーク電流が増加してしまうので、本発明の効果は得られない。上述の通り、本発明では、逆方向バイアス時のリーク電流が低減されるため、本発明のガードリング構造は、従来の高抵抗ガードリング構造とは相違することがわかる。
【0030】
次に本発明のガードリング層が、従来のP型ガードリング層と異なることを説明する。まず、本発明のガードリング層と従来のガードリング層は、不純物濃度が異なる。先に説明したとおり、従来のガードリング層は、イオン注入によって形成したP型層を空乏化することによって、電界集中を緩和している。従って、P型層は、ある程度不純物濃度が高くなっている。これに対し本発明のガードリング層は、注入したイオンは、一部しか活性化されていない。従って、不純物濃度は低いことがわかる。
【0031】
ところで、低不純物濃度のイオン注入領域を形成する場合、注入量を少なくし、注入した不純物の活性化率を高くして形成することもできる。このように活性化率を高くしてイオン注入領域を形成する場合は、活性化のための熱処理は、当然高くなる。すなわち、1500℃程度の熱処理を行う必要がある。その結果、イオン注入領域は、イオン注入によって発生した結晶欠陥(注入量が少ないため、結晶欠陥は少ない)は回復し、不純物濃度の低いイオン注入領域となる。しかし、このように不純物濃度の低い領域をガードリング層とすると、低濃度のP型層は、空乏化されず、十分な耐圧を得ることができない。
【0032】
これに対し、本発明のガードリング層は、低濃度のP型層でありながら、十分な耐圧を得ることができた。つまり、本発明のガードリング層は、従来のP型ガードリング層とは全く異なる構成であることがわかる。
【0033】
次に、本発明のガードリング構造が、従来の高抵抗ガードリング構造とは異なることを説明する。先に説明したように、高抵抗ガードリング構造では、高抵抗ガードリング層を微少な電流が流れる。従って、十分な耐圧を確保するためには、図5にW3で示す寸法を長く設定する必要がある。図3は、ガードリング層の横方向の寸法と耐圧の関係を説明する図で、従来例の場合、W3に相当する寸法が横軸となり、ショットキー電極と重畳する寸法は20μmとしている。高抵抗ガードリング構造では、高抵抗ガードリング層に電流を流すことによって、過度の電界集中が発生しないようにしている。従って、ある程度W3の寸法を大きくしないと高耐圧が得られないことになる。
【0034】
これに対して本発明のガードリング構造は、図1に示すW2の寸法、即ちショットキー電極と重なり合う寸法をある程度大きくすれば、十分な耐圧が得られることを確認した。図3には、W1=20μmとして、W2の寸法を横軸として耐圧との関係を示している。図3に示すように、本発明のガードリング構造ではW2=5μmで、800V以上の耐圧が得られることが確認された。
【0035】
つまりW1+W2=25μmあれば、十分な耐圧が得られることがわかる。さらにW1=10μm程度まで寸法を小さくできることも確認され、ショットキーバリアダイオードを小型化するこも可能となる。
【0036】
本発明のガードリング層について、さらに詳細に説明するため、ガードリング層を構成する半導体領域の特性について、以下に説明する。
【0037】
まず、図1で説明したSiCショットキーバリアダイオードを形成した半導体基板を使用し、不純物濃度が5×1015cm-3のn-型SiCエピタキシャル層3の全面に、ホウ素イオンを注入エネルギー30keV、注入量1×1015cm-2、室温でイオン注入する。その後、活性化のため、1050℃の加熱処理を行う。このように形成したイオン注入領域表面に、ショットキー電極としてチタン電極を形成し、このショットキー特性を調べた。SiC基板の裏面には、オーミック電極を形成した。
【0038】
図4は、オーミック電極6側を接地し、ショットキー電極側に正バイアスと負バイアスを印加した場合に電圧―電流特性を示している。測定温度は、25℃、100℃、175℃とした。図3に示すように、正バイアス時には、測定温度を上昇させた場合、電流の立ち上がり電圧が徐々に小さくなっている。さらに負バイアス時には、測定温度を上昇させた場合、ブレークダウン電圧が次第に大きくなっている。図4に示すように、本発明のガードリング層は、n-型SiCエピタキシャル層3との間で、PN接合が形成されていることが確認された。
【0039】
しかしながら、本発明では、注入した不純物イオンを活性化するための熱処理温度は、通常より非常に低く設定しているため、イオン注入されたホウ素がアクセプターとして活性化する割合は、非常に低い。一般的には、ホウ素がアクセプターとして活性化される割合は、1500℃で、1%未満であること、さらにSiCに対してP型の不純物となるホウ素は、イオン化エネルギーが0.3eV程度と大きいため、室温におけるホール密度はさらに小さくなる。
【符号の説明】
【0040】
1:n+型SiC基板、2:n型SiCエピタキシャル層、3:n-型SiCエピタキシャル層、4:ガードリング層、5:ショットキー電極、6:オーミック電極、7:パッド電極、8:パッシベーション膜、9:ガードリング層
図1
図2
図3
図4
図5