特許第5651470号(P5651470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5651470リチウムイオンキャパシタ用バインダー、リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5651470
(24)【登録日】2014年11月21日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】リチウムイオンキャパシタ用バインダー、リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/22 20130101AFI20141218BHJP
【FI】
   H01G9/00 301A
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-523897(P2010-523897)
(86)(22)【出願日】2009年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2009064011
(87)【国際公開番号】WO2010016568
(87)【国際公開日】20100211
【審査請求日】2012年3月26日
【審判番号】不服2014-1613(P2014-1613/J1)
【審判請求日】2014年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2008-205412(P2008-205412)
(32)【優先日】2008年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智一
【合議体】
【審判長】 酒井 朋広
【審判官】 関谷 隆一
【審判官】 萩原 義則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−19108(JP,A)
【文献】 特開2005−166756(JP,A)
【文献】 特開2008−98590(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/84245(WO,A1)
【文献】 特開2003−100298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G11/06,H01G11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート、二塩基酸およびアクリロニトリルを含んでなる重合性モノマーを重合してなる(メタ)アクリレート重合体であり、
(メタ)アクリレート由来の単量体単位を60重量%以上90重量%以下含んでなり、
前記重合性モノマー中の二塩基酸の量が、(メタ)アクリレート100重量部に対して0.1〜50重量部であり、
前記重合性モノマー中のアクリロニトリルの量が、(メタ)アクリレート100重量部に対して0.1〜40重量部である、
リチウムイオンキャパシタ用バインダー。
【請求項2】
前記重合性モノマー中の二塩基酸の量が、(メタ)アクリレート100重量部に対して0.5〜20重量部である請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ用バインダー。
【請求項3】
前記二塩基酸が、イタコン酸である請求項1記載のリチウムイオンキャパシタ用バインダー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ用バインダー、電極活物質および導電材を含んでなる電極組成物層が、集電体上に形成されてなるリチウムイオンキャパシタ用電極。
【請求項5】
電極活物質、導電材および請求項1〜3のいずれかに記載のバインダーを含んでなるペースト状の電極形成用組成物を調製し、これを集電体上に塗布し、乾燥する工程を含むリチウムイオンキャパシタ用電極の製造方法。
【請求項6】
電極活物質、導電材および請求項1〜3のいずれかに記載のバインダーを含んでなる複合粒子を調製し、これを集電体上に供給し、シート成形する工程を含むリチウムイオンキャパシタ用電極の製造方法。
【請求項7】
正極、負極、セパレータ及び電解液を有し、前記正極又は負極が、請求項4に記載のリチウムイオンキャパシタ用電極であるリチウムイオンキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンキャパシタ用バインダー、リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタに関する。より詳しくは、電極強度に優れ、耐久性の高いリチウムイオンキャパシタ用バインダー、リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能なリチウムイオンキャパシタは、その特性を活かして急速に需要が拡大している。また、リチウムイオンキャパシタは、エネルギー密度、出力密度が大きいことから、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータの小型用途から、車載などの大型用途での利用が期待されている。そのため、リチウムイオンキャパシタには、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、高耐電圧、機械的特性の向上など、よりいっそうの改善が求められている。
【0003】
リチウムイオンキャパシタは、正極に分極性電極、負極に非分極性電極を備え、有機系電解液を用いることで作動電圧を高め、エネルギー密度を高めることができるが、耐久性(耐電圧)が低いという問題点があった。
【0004】
そこで、耐電圧を向上する目的で、ニトリル基を有するアクリレート重合体を含むバインダーを用いることが提案されている(特許文献1)。特許文献1におけるリチウムイオンキャパシタ用バインダーは、メタクリロニトリル、アクリル酸およびアクリル酸2−エチルヘキシルからなるもので、集電体上に、該バインダーと電極活物質として活性炭、導電材としてカーボンブラックからなる電極組成物層を形成させたものを電極としている。しかし、かかるバインダーでは、電解液に対する膨潤度が高く、電極強度に劣り、耐電圧が低く、不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−019108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、リチウムイオンキャパシタの耐久性を高めることに加え、電解液に対する膨潤度を低減し、電極強度を高めることを可能とするリチウムイオンキャパシタ用バインダー、該バインダーを使用したリチウムイオンキャパシタ用電極および該電極を使用したリチウムイオンキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、リチウムイオンキャパシタ用バインダーとして、(メタ)アクリレート、二塩基酸およびアクリロニトリルを含んでなる重合性モノマーを重合してなる(メタ)アクリレート重合体を用いることにより、電解液に対する膨潤度を低減し、また該バインダー、電極活物質、および導電材を含む電極組成物層が集電体上に形成されてなるリチウムイオンキャパシタ用電極が、電極強度を高め、さらに該電極を用いてなるリチウムイオンキャパシタの耐久性を高めることを見出した。
【0008】
本発明者は、これらの知見に基いて、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば、(メタ)アクリレート、二塩基酸およびアクリロニトリルを含んでなる重合性モノマーを重合してなる(メタ)アクリレート重合体からなることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ用バインダーが提供される。
また前記重合性モノマー中の二塩基酸の量は、(メタ)アクリレート100重量部に対して0.5〜20重量部であることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、前記リチウムイオンキャパシタ用バインダー、電極活物質、および導電材を含んでなる電極組成物層が集電体上に形成されてなるリチウムイオンキャパシタ用電極が提供される。
【0011】
本発明によれば、電極活物質、導電材および前記リチウムイオンキャパシタ用バインダーを含んでなるペースト状の電極形成用組成物を調製し、これを集電体上に塗布し、乾燥する工程を含むリチウムイオンキャパシタ用電極の製造方法が提供される。
【0012】
本発明によれば、電極活物質、導電材および前記リチウムイオンキャパシタ用バインダーを含んでなる複合粒子を調製し、これを集電体上に供給し、シート成形する工程を含むリチウムイオンキャパシタ用電極の製造方法が提供される。
【0013】
本発明によれば、正極、負極、セパレータ及び電解液を有し、前記正極又は負極が、前記リチウムイオンキャパシタ用電極であるリチウムイオンキャパシタが提供される。
【発明の効果】
【0014】
かくして本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーによれば、電解液に対する膨潤度を低減し、電極強度および耐久性を高めるリチウムイオンキャパシタを容易に製造できる。また、本発明のリチウムイオンキャパシタは、パソコンや携帯端末等のメモリのバックアップ電源、パソコン等の瞬時停電対策用電源、電気自動車又はハイブリッド自動車への応用、太陽電池と併用したソーラー発電エネルギー貯蔵システム、電池と組み合わせたロードレベリング電源等の様々な用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーは、(メタ)アクリレート、二塩基酸およびアクリロニトリルを含んでなる重合性モノマーを重合してなる(メタ)アクリレート重合体からなる。
【0016】
((メタ)アクリレート)
本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーに用いる(メタ)アクリレートは、一般式(1):CH=CR−COOR(式中、Rは水素原子またはメチル基を、Rはアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物由来の単量体単位である。具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリレート;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。これらの(メタ)アクリレートは、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。本発明において、(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタクリレートを意味する。
【0017】
(二塩基酸)
本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーに用いる二塩基酸は、水中で2つのプロトンを分離できる構造をもつ酸のことであり、具体的には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。なかでも、イタコン酸が、集電体との結着性を高め、電極強度を向上できる点で、好ましい。これらの二塩基酸は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。共重合の際の重合性モノマー中の二塩基酸の量は、一般式(1)で表される化合物100重量部に対して、通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。二塩基酸の量がこの範囲であると、集電体との結着性に優れ、得られる電極の強度が高まる。
【0018】
(アクリロニトリル)
本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーに用いるアクリロニトリルの共重合の際の重合性モノマー中の量は、一般式(1)で表される化合物100重量部に対して、通常は0.1〜40重量部、好ましくは0.5〜35重量部、より好ましくは1〜30重量部の範囲である。アクリロニトリルの量がこの範囲であると、集電体との結着性に優れ、得られる電極の強度が高まる。
【0019】
((メタ)アクリレート重合体)
本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーは、(メタ)アクリレート、二塩基酸およびアクリロニトリルから形成される(メタ)アクリレート重合体であり、具体的には、一般式(1)で表される化合物由来の単量体単位を合計で60重量%以上、好ましくは80重量%以上含む重合体である。なお、前記単量体単位の合計の上限は90重量%である。
【0020】
(メタ)アクリレート重合体は、一般式(1)で表される化合物と、前記二塩基酸およびアクリロニトリルを共重合して得られる。重合の方法は、特に制限されず、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合に用いる重合開始剤としては、特に制限されず、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどがあげられる。
【0021】
本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーの形状は、特に制限はないが、結着性が良く、また、作成した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができるため、粒子状であることが好ましい。粒子状のバインダーとしては、例えば、ラテックスのごときバインダーの粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0022】
本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは−40〜0℃である。バインダーのガラス転移温度(Tg)がこの範囲にあると、少量の使用で結着性に優れ、電極強度が強く、柔軟性に富み、電極形成時のプレス工程により電極密度を容易に高めることができる。
【0023】
本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーの数平均粒子径は、格別な限定はないが、通常は0.0001〜100μm、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは0.01〜1μmである。バインダーの数平均粒子径がこの範囲であると、少量のバインダーの使用でも優れた結着力をリチウムイオンキャパシタ用電極に与えることができる。ここで、数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだバインダー粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。これらのバインダーは単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。バインダーの量は、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。バインダーの量がこの範囲にあると、得られる電極組成物層と集電体との密着性が充分に確保でき、リチウムイオンキャパシタの容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0024】
本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極は、前記リチウムイオンキャパシタ用バインダー、電極活物質、および導電材を含む電極組成物層が集電体上に形成されてなる。
【0025】
(電極活物質)
本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極に用いる電極活物質は、リチウムイオンキャパシタ用電極内で電子の受け渡しをする物質である。
【0026】
リチウムイオンキャパシタ用電極に用いる電極活物質には、正極用と負極用がある。
リチウムイオンキャパシタ用電極の正極に用いる電極活物質としては、リチウムイオンと、例えばテトラフルオロボレートのようなアニオンとを可逆的に担持できるものであればよい。具体的には、通常、炭素の同素体が用いられ、電気二重層キャパシタで用いられる電極活物質が広く使用できる。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン(PAS)、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末または繊維を使用することができる。この中でも、活性炭が好ましい。活性炭は、具体的にはフェノール樹脂、レーヨン、アクリロニトリル樹脂、ピッチ、およびヤシ殻等を原料とする活性炭を挙げることができる。また、炭素の同素体を組み合わせて使用する場合は、平均粒径又は粒径分布の異なる二種類以上の炭素の同素体を組み合わせて使用してもよい。また、正極に用いる電極活物質として、上記物質の他に、芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であって、水素原子/炭素原子の原子比が0.50〜0.05であるポリアセン系骨格構造を有するポリアセン系有機半導体(PAS)も好適に使用できる。
【0027】
リチウムイオンキャパシタ用電極の負極に用いる電極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に担持できる物質であればよい。具体的には、リチウムイオン二次電池の負極で用いられる電極活物質が広く使用できる。中でも、黒鉛、難黒鉛化炭素等の結晶性炭素材料、ハードカーボン、コークス等の炭素材料、上記正極の電極活物質としても記載したポリアセン系物質(PAS)が好ましい。これらの炭素材料及びPASは、フェノール樹脂等を炭化させ、必要に応じて賦活され、次いで粉砕したものが用いられる。
【0028】
リチウムイオンキャパシタ用電極に用いる電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。
【0029】
リチウムイオンキャパシタ用電極に用いる電極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは1〜20μmである。これらの電極活物質は、それぞれ単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
(導電材)
本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極に用いる導電材は、導電性を有し、電気二重層を形成し得る細孔を有さない粒子状の炭素の同素体からなり、具体的には、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびファーネスブラックが好ましい。
【0031】
本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極に用いる導電材の体積平均粒子径は、電極活物質の体積平均粒子径よりも小さいものが好ましく、その範囲は通常0.001〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmである。導電材の体積平均粒子径がこの範囲にあると、より少ない使用量で高い導電性が得られる。これらの導電材は、単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。導電材の量は、電極活物質100重量部に対して通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。導電材の量がこの範囲にあると、得られるリチウムイオンキャパシタ用電極を使用したリチウムイオンキャパシタの容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0032】
(電極組成物層)
本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極の電極組成物層は、集電体上に設けられるが、その形成方法は制限されない。具体的には、1)電極活物質、導電材およびバインダーを混練してなる電極形成用組成物を、シート成形し、得られたシート状電極層組成物を、集電体上に積層する方法(混練シート成形法)、2)電極活物質、導電材およびバインダーを含んでなるペースト状の電極形成用組成物を調製し、これを集電体上に塗布し、乾燥する方法(湿式成形法)、3)電極活物質、導電材およびバインダーを含んでなる複合粒子を調製し、これを集電体上に供給し、シート成形し、必要に応じてロールプレスし得る方法(乾式成形法)などが挙げられる。中でも、2)湿式成形法、3)乾式成形法が好ましく、3)乾式成形法が得られるリチウムイオンキャパシタの容量を高く、且つ内部抵抗を低減できる点でより好ましい。
【0033】
前記電極形成用組成物には、本発明のバインダー、電極活物質、及び導電材を必須成分として、必要に応じてその他の分散剤および添加剤を配合することができる。その他の分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。これらの分散剤の量は、本発明の効果を損ねない範囲で用いることができ、格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜2重量部の範囲である。
【0034】
また、シート状電極層組成物を作成し、該シート上に導電性接着剤を形成し、さらに集電体を積層してリチウムイオンキャパシタ用電極を得ることもできる。
【0035】
本発明に用いる電極組成物層を、前記2)湿式成形法で形成する場合において、ペースト状の電極形成用組成物(以下、「電極組成物層用スラリー」と記載することがある。)は、バインダー、電極活物質、及び導電材の必須成分と、分散剤および添加剤などの他の成分とを、水またはN−メチル−2−ピロリドンやテトラヒドロフランなどの有機溶媒中で混練することにより製造することができる。ペースト状の電極形成用組成物は、電極組成物層の乾燥の容易さと環境への負荷に優れる点から水を分散媒とした水系スラリーが好ましい。
【0036】
水系スラリーの製造方法としては、水および前記の各成分を、混合機を用いて混合して製造できる。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、およびホバートミキサーなどを用いることができる。また、電極活物質と導電材とを擂潰機、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、およびオムニミキサーなどの混合機を用いて先ず混合し、次いで(メタ)アクリレート重合体からなるバインダー及びカルボキシメチルセルロース塩等の分散剤を添加して均一に混合する方法も好ましい。この方法を採ることにより、容易に均一なスラリーを得ることができる。
【0037】
本発明に使用されるスラリーの粘度は、塗工機の種類や塗工ラインの形状によっても異なるが、通常100〜100,000mPa・s、好ましくは、1,000〜50,000mPa・s、より好ましくは5,000〜20,000mPa・sである。
【0038】
スラリーの集電体上への塗布方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。スラリーの塗布厚は、目的とする電極活物質層の厚みに応じて適宜に設定される。
【0039】
乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。中でも、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。本発明における乾燥温度と乾燥時間は、集電体に塗布したスラリー中の溶媒を完全に除去できる温度と時間が好ましく、乾燥温度としては100〜300℃、好ましくは120〜250℃である。乾燥時間としては、通常10分〜100時間、好ましくは20分〜20時間である。
【0040】
本発明に用いる電極組成物層を前記3)乾式成形法で形成する場合において、用いられる複合粒子は、電極活物質、導電材及びバインダー、並びにその他の分散剤や添加剤が一体化した粒子をさす。
【0041】
複合粒子の製造方法は特に制限されず、噴霧乾燥造粒法、転動層造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出し造粒法、破砕型造粒法、流動層造粒法、流動層多機能型造粒法、パルス燃焼式乾燥法、および溶融造粒法などの公知の造粒法により製造することができる。中でも、表面付近に結着剤および導電材が偏在した複合粒子を容易に得られる点で、噴霧乾燥造粒法が好ましい。噴霧乾燥造粒法で得られる複合粒子を用いると、本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極を生産性高く得ることができる。また、該電極の内部抵抗をより低減することができる。
【0042】
前記噴霧乾燥造粒法では、まず上記したバインダー、電極活物質、及び導電材の必須成分と、分散剤および添加剤などの他の成分とを溶媒に分散または溶解して、バインダー、電極活物質、及び導電材の必須成分と、分散剤および添加剤などの他の成分とが分散または溶解されてなるスラリーを得る。
【0043】
スラリーを得るために用いる溶媒は、特に限定されないが、上記の分散剤を用いる場合には、分散剤を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできるし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。この中でも有機溶媒としては、アルコール類が好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用すると、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水と併用する有機溶媒の量または種類によって、バインダーの分散性または分散剤の溶解性が変わる。これにより、スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0044】
スラリーを調製するときに使用する溶媒の量は、スラリーの固形分濃度が、通常1〜50質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%の範囲となる量である。固形分濃度がこの範囲にあるときに、バインダーが均一に分散するため好適である。
【0045】
バインダー、電極活物質、及び導電材の必須成分と、分散剤および添加剤などの他の成分とを溶媒に分散または溶解する方法または手順は特に限定されず、例えば、溶媒に電極活物質、導電材、バインダーおよび他の成分を添加し混合する方法;溶媒に分散剤を溶解した後、溶媒に分散させたバインダーを添加して混合し、最後に電極活物質および導電材を添加して混合する方法;溶媒に分散させたバインダーに電極活物質および導電材を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた分散剤を添加して混合する方法等が挙げられる。混合の手段としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0046】
スラリーの粘度は、室温において、通常10〜3,000mPa・s、好ましくは30〜1,500mPa・s、より好ましくは50〜1,000mPa・sの範囲である。スラリーの粘度がこの範囲にあると、複合粒子の生産性を上げることができる。また、スラリーの粘度が高いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる複合粒子の体積平均粒子径が大きくなる。
【0047】
次に、上記で得たスラリーを噴霧乾燥して造粒し、複合粒子を得る。噴霧乾燥は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥することにより行う。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーは、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置がある。回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる複合粒子の体積平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。一方、加圧方式は、スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式である。
【0048】
噴霧されるスラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温以上にしたものであってもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、例えば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0049】
また、前記複合粒子は、球状であることが好ましい。前記複合粒子が球状であるか否かの評価は、複合粒子の短軸径をLs、長軸径をLlとしたときに(Ll−Ls)/{(Ls+Ll)/2}で算出される値(以下、「球状度」という。)又はLa=(Ls+Ll)/2とし、(1−(Ll−Ls)/La)×100で算出される値(以下、「球形度」という。)により行う。ここで、短軸径Lsおよび長軸径Llは、反射型電子顕微鏡を用いて複合粒子を観察した写真像より測定される100ケの任意の複合粒子についての平均値である。球状度の数値が小さいほど、又は球形度の数値が大きいほど、複合粒子が真球に近いことを示す。
【0050】
たとえば、上記写真像で正方形として観察される粒子は、上記球状度は34.4%と計算されるので、34.4%を超える球状度を示す複合粒子は、少なくとも球状とはいえない。複合粒子の球状度は、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。一方、複合粒子の球形度は、80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0051】
上記の製造方法で得られた複合粒子は、必要に応じて粒子製造後の後処理を実施することもできる。具体例としては、複合粒子に上記の電極活物質、導電材、(メタ)アクリレート重合体、あるいはカルボキシメチルセルロース塩等と混合することによって、粒子表面を改質して、複合粒子の流動性を向上または低下させる、連続加圧成形性を向上させる、複合粒子の電気伝導性を向上させることなどができる。
【0052】
本発明に好適に用いる複合粒子の体積平均粒径は、通常は0.1〜1,000μm、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜100μmの範囲である。複合粒子の体積平均粒径がこの範囲にあるとき、複合粒子が凝集を起こしにくく、重力に対して静電気力が大きくなるので好ましい。体積平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0053】
本発明において、複合粒子を供給する工程で用いられるフィーダーは、特に限定されないが、複合粒子を定量的に供給できる定量フィーダーであることが好ましい。ここで、定量的に供給できるとは、かかるフィーダーを用いて複合粒子を連続的に供給し、一定間隔で供給量を複数回測定し、その測定値の平均値mと標準偏差σmから求められるCV値(=σm/m×100)が4以下であることをいう。本発明に好適に用いられる定量フィーダーは、CV値が好ましくは2以下である。定量フィーダーの具体例としては、テーブルフィーダー、ロータリーフィーダーなどの重力供給機、スクリューフィーダー、ベルトフィーダーなどの機械力供給機などが挙げられる。これらのうちロータリーフィーダーが好適である。
【0054】
次いで、集電体と供給された複合粒子とを一対のロールで加圧して、前記集電体上に電極組成物層を形成する。この工程では、必要に応じ加温された前記複合粒子が、一対のロールでシート状の電極組成物層に成形される。供給される複合粒子の温度は、好ましくは40〜160℃、より好ましくは70〜140℃である。この温度範囲にある複合粒子を用いると、プレス用ロールの表面で複合粒子の滑りがなく、複合粒子が連続的かつ均一にプレス用ロールに供給されるので、膜厚が均一で、電極密度のばらつきが小さい、電極組成物層を得ることができる。
【0055】
成形時の温度は、通常0〜200℃であり、バインダーである(メタ)アクリレート重合体の融点またはガラス転移温度より高いことが好ましく、融点またはガラス転移温度より20℃以上高いことがより好ましい。ロールを用いる場合の成形速度は、通常0.1m/分より大きく、好ましくは35〜70m/分である。またプレス用ロール間のプレス線圧は、通常0.2〜30kN/cm、好ましくは0.5〜10kN/cmである。
【0056】
上記製法では、前記一対のロールの配置は特に限定されないが、略水平または略垂直に配置されることが好ましい。略水平に配置する場合は、前記集電体を一対のロール間に連続的に供給し、該ロールの少なくとも一方に複合粒子を供給することで、集電体とロールとの間隙に複合粒子が供給され、加圧により電極組成物層を形成できる。略垂直に配置する場合は、前記集電体を水平方向に搬送させ、前記集電体上に複合粒子を供給し、供給された複合粒子を必要に応じブレード等で均した後、前記集電体を一対のロール間に供給し、加圧により電極組成物層を形成できる。
【0057】
成形した電極組成物層の厚みのばらつきを無くし、密度を上げて高容量化をはかるために、必要に応じて更に後加圧を行っても良い。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませ加圧する。ロールは加熱又は冷却等、温度調節しても良い。
【0058】
本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極の電極組成物層の密度は、特に制限されないが、通常は0.30〜10g/cm、好ましくは0.35〜5.0g/cm、より好ましくは0.40〜3.0g/cmである。また、電極組成物層の厚みは、特に制限されないが、通常は5〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは30〜300μmである。
【0059】
(集電体)
本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極に用いる集電体は、具体的には、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましい。
【0060】
集電体の形状は、特に制限されないが、フィルム状またはシート状であり、シート状集電体は、空孔を有していてもよい。シート状集電体は、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状などの形状を有していてもよい。空孔を有するシート状集電体を用いると、得られる電極の体積あたりの容量を高くすることができる。シート状集電体が空孔を有する場合の空孔の割合は、好ましくは10〜79面積%、より好ましくは20〜60面積%である。
【0061】
集電体の厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常は1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。
【0062】
前記集電体は、その表面上に導電性接着剤層が形成されていると、電極組成物層と集電体との密着性を高め、得られるリチウムイオンキャパシタの内部抵抗を低減できるので好適である。
【0063】
導電性接着剤層は、必須成分として導電材とバインダーとを含有するものであり、導電材と、バインダーと、必要に応じ添加される分散剤とを水または有機溶媒中で混練して得られる導電性接着剤スラリーを、集電体に塗布、乾燥することにより形成できる。導電性接着剤層を形成することで、電極組成物層と集電体との間の結着性を向上させるとともに内部抵抗の低下に寄与する。
【0064】
導電性接着剤層に用いられる導電材、バインダーおよび分散剤としては、前記電極組成物層に用いられる成分として例示したものをいずれも用いることができる。導電性接着剤層中の各成分の量は、導電材100重量部に対してバインダーが乾燥重量基準で5〜20重量部、分散剤が乾燥重量基準で1〜5重量部であることが好ましい。導電性接着剤層中の上記バインダーの量が少なすぎると電極組成物層と集電体との接着が不十分になる場合がある。逆に、導電性接着剤層中のバインダーの量が多すぎると導電材の分散が不十分になり、内部抵抗が大きくなる場合がある。また、導電性接着剤層中の分散剤の量が少なすぎても導電材の分散が不十分になる場合がある。逆に、導電性接着剤層中の分散剤の量が多すぎると導電材が分散剤によって被覆され、内部抵抗が大きくなる場合がある。
【0065】
導電性接着剤層の集電体への形成方法は、特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどによって形成される。
【0066】
導電性接着剤層の厚さは、通常0.5〜10μm、好ましくは2〜7μmである。
【0067】
(リチウムイオンキャパシタ)
本発明のリチウムイオンキャパシタは、正極、負極、セパレータ及び電解液を有し、前記正極又は負極が、前記リチウムイオンキャパシタ用電極であることを特徴とする。本発明のリチウムイオンキャパシタにおいては、正極及び負極が、前記リチウムイオンキャパシタ用電極であることが好ましい。正極及び負極が、前記リチウムイオンキャパシタ用電極であることにより、リチウムイオンキャパシタの耐久性をより向上させることができる。
【0068】
セパレータは、リチウムイオンキャパシタ用電極の間を絶縁でき、陽イオンおよび陰イオンを通過させることができるものであれば特に限定されない。具体的には、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、レーヨン、アラミドもしくはガラス繊維製の微孔膜または不織布、一般に電解コンデンサ紙と呼ばれるパルプを主原料とする多孔質膜などを用いることができる。セパレータは、上記一対の電極組成物層が対向するように、リチウムイオンキャパシタ用電極の間に配置され、素子が得られる。セパレータの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常は1〜100μm、好ましくは10〜80μm、より好ましくは20〜60μmである。
【0069】
電解液は、通常、電解質と溶媒で構成される。電解質は、カチオンとしては、リチウムイオンを用いることができる。アニオンとしては、PF、BF、AsF、SbF、N(RfSO2−、C(RfSO3−、RfSO(Rfはそれぞれ炭素数1〜12のフルオロアルキル基を表す)、F、ClO、AlCl、AlF等を用いることができる。これらの電解質は単独または二種類以上として使用することができる。
【0070】
電解液の溶媒は、一般に電解液の溶媒として用いられるものであれば特に限定されない。具体的には、プロピレンカーボート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;スルホラン類;アセトニトリルなどのニトリル類;が挙げられる。これらの溶媒は単独または二種以上の混合溶媒として使用することができる。中でも、カーボネート類が好ましい。
【0071】
上記の素子に電解液を含浸させて、リチウムイオンキャパシタが得られる。具体的には、素子を必要に応じ捲回、積層または折るなどして容器に入れ、容器に電解液を注入して封口して製造できる。また、素子に予め電解液を含浸させたものを容器に収納してもよい。容器としては、コイン型、円筒型、角型などの公知のものをいずれも用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定する。
【0073】
(バインダーの膨潤度)
実施例および比較例で用いるバインダーをフィルム状に成形、乾燥して、面積S1に切り出す。エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートおよびプロピレンカーボネートを重量比で3:4:1とした混合溶媒に、LiPFを1.0mol/リットルの濃度で溶解させて得られる電解液に、切り出したバインダーフィルムを浸し、そのまま70℃で、72時間保存した後、バインダーフィルムを取りだし、再びバインダーフィルムの面積S2を測定する。測定したS1、S2より、膨潤度(=S2/S1)を算出する。膨潤度が小さいほど、電解液に浸されたときの電極組成物層の集電体への結着力が大きいことを示す。
【0074】
(リチウムイオンキャパシタの電池特性および耐久性)
実施例および比較例で製造するリチウムイオンキャパシタ用電極を用いて積層型ラミネートセルのリチウムイオンキャパシタを作製する。作製したリチウムイオンキャパシタの電池特性として、容量と内部抵抗について、24時間静置させた後に充放電の操作を行うことにより測定する。ここで、充電は2Aの定電流で開始し、電圧が3.6Vに達したらその電圧を1時間保って定電圧充電とする。また、放電は充電終了直後に定電流0.9Aで1.9Vに達するまで行う。
【0075】
容量は、放電時のエネルギー量から電極活物質の重量あたりの容量として算出する。内部抵抗は、放電直後の電圧降下から算出する。
【0076】
また、耐久性は、作製したリチウムイオンキャパシタを、70℃の恒温槽内で3.6V、1000時間連続印加後の初期容量に対する容量維持率を算出し、この値で評価を行う。容量維持率が大きいほど耐久性に優れる。
【0077】
(電極のピール強度)
電極組成物層の塗布方向が長辺となるようにリチウムイオンキャパシタ用電極を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、電極組成物層面を下にして電極組成物層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引張って剥がしたときの応力を測定する(なお、セロハンテープは試験台に固定されている。)。この測定を3回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とした。ピール強度が大きいほど電極組成物層の集電体への結着力、すなわち電極強度が大きいことを示す。
【0078】
(実施例1)
正極の電極活物質として、フェノール樹脂を原料とするアルカリ賦活活性炭である体積平均粒子径が8μmの活性炭粉末(MSP−20;関西熱化学社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(DN−800H;ダイセル化学工業社製)を固形分相当で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状;電気化学工業社製)5部、バインダーとして膨潤度が2.3倍、ガラス転移温度が−17℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル80部、アクリロニトリル15部、マレイン酸5部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を固形分相当で3.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が35%となるように混合し、正極の電極組成物層用スラリーを調製する。
【0079】
厚さ30μmのアルミニウム集電体上に、前記正極の電極組成物層用スラリーをドクターブレードによって、10m/分の電極成形速度で塗布し、まず60℃で20分間、次いで120℃で20分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、厚さ100μmの正極のリチウムイオンキャパシタ用電極を得る。
【0080】
負極の電極活物質として、体積平均粒子径が4μmであるグラファイト(KS−6;ティムカル社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(DN−800H;ダイセル化学工業社製)を固形分相当で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状;電気化学工業社製)5部、バインダーとして膨潤度が2.3倍、ガラス転移温度が−17℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル80部、アクリロニトリル15部、マレイン酸5部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を固形分相当で3.0部、およびイオン交換水を、全固形分濃度が40%となるように混合し、負極の電極組成物層用スラリーを調製する。
【0081】
厚さ20μmの銅集電体上に、前記負極の電極組成物層用スラリーをドクターブレードによって、10m/分の電極成形速度で塗布し、まず60℃で20分間、次いで120℃で20分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、厚さ100μmの負極のリチウムイオンキャパシタ用電極を得る。
【0082】
前記正極、負極のリチウムイオンキャパシタ用電極及びセパレータとしてセルロース/レーヨン不織布を、室温で1時間電解液に含浸する。次いで前記正極のリチウムイオンキャパシタ用電極と負極のリチウムイオンキャパシタ用電極とが、セパレータを介して対向するように、かつ、それぞれのリチウムイオンキャパシタ用電極が電気的に接触しないように、正極10組、負極10組を配置して、積層型ラミネートセル形状のリチウムイオンキャパシタを作製する。電解液としてはエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートおよびプロピレンカーボネートを重量比で3:4:1とした混合溶媒に、LiPFを1.0mol/リットルの濃度で溶解させたものを用いる。
【0083】
積層型ラミネートセルのリチウム極として、リチウム金属箔(厚さ82μm、縦5cm×横5cm)を厚さ80μmのステンレス網に圧着したものを用い、該リチウム極を最外部の負極と完全に対向するように積層した電極の上部および下部に各1枚配置する。なお、リチウム極集電体の端子溶接部(2枚)は負極端子溶接部に抵抗溶接する。リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタの各特性について測定結果を表1に示す。
【0084】
(実施例2)
実施例1において、バインダーとして、ガラス転移温度が−17℃で、膨潤度が2.3倍、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体のかわりに、膨潤度が1.5倍、ガラス転移温度が−20℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル80部、アクリロニトリル15部、イタコン酸5部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を用いる他は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ用電極(正極、負極)、リチウムイオンキャパシタを作製する。リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタの各特性について、測定結果を表1に示す。
【0085】
(実施例3)
実施例1において、バインダーとして、ガラス転移温度が−17℃で、膨潤度が2.3倍、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体のかわりに、膨潤度が1.9倍、ガラス転移温度が−28℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル84部、アクリロニトリル15部、イタコン酸1部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を用いる他は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ用電極(正極、負極)、リチウムイオンキャパシタを作製する。リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタの各特性について、測定結果を表1に示す。
【0086】
(実施例4)
実施例1において、バインダーとして、ガラス転移温度が−17℃で、膨潤度が2.3倍、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体のかわりに、膨潤度が1.1倍、ガラス転移温度が−12℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル70部、アクリロニトリル15部、イタコン酸15部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を用いる他は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ用電極(正極、負極)、リチウムイオンキャパシタを作製する。リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタの各特性について、測定結果を表1に示す。
【0087】
(実施例5)
正極の電極活物質として、フェノール樹脂を原料とするアルカリ賦活活性炭である体積平均粒子径が8μmの活性炭粉末(MSP−20;関西熱化学社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(DN−800H;ダイセル化学工業社製)を固形分相当で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状;電気化学工業社製)5部、バインダーとして膨潤度が1.5倍、ガラス転移温度が−20℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル80部、アクリロニトリル15部、イタコン酸5部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を固形分相当で3.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が35%となるように混合し、正極の電極組成物層用スラリーを調製する。
【0088】
次いで、このスラリーをスプレー乾燥機(OC−16;大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)の回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度が90℃の条件で、噴霧乾燥造粒を行い、体積平均粒子径56μm、球形度93%の球状の正極の電極組成物層用複合粒子(電極組成物)を得る。
【0089】
上記複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール;ヒラノ技研社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧3.9kN/cm)に、厚さ30μmのアルミニウム集電体とともに供給し、成形速度20m/分でシート状の電極組成物層を集電体上に成形し、これを5cm正方に打ち抜いて、片面厚さ200μmの電極組成物層を有する正極のリチウムイオンキャパシタ用電極を得る。
【0090】
負極の電極活物質として、体積平均粒子径が4μmであるグラファイト(KS−6;ティムカル社製)100部、、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(DN−800H;ダイセル化学工業社製)を固形分相当で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状;電気化学工業社製)5部、バインダーとして膨潤度が1.5倍、ガラス転移温度が−20℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル80部、アクリロニトリル15部、イタコン酸5部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を固形分相当で3.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が35%となるように混合し、負極の電極組成物層用スラリーを調製する。
【0091】
次いで、このスラリーをスプレー乾燥機(OC−16;大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)の回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度が90℃の条件で、噴霧乾燥造粒を行い、体積平均粒子径56μm、球形度93%の球状の負極の電極組成物層用複合粒子(電極組成物)を得る。
【0092】
上記複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール;ヒラノ技研社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧3.9kN/cm)に、厚さ20μmの銅集電体とともに供給し、成形速度25m/分でシート状の電極組成物層を集電体上に成形し、これを5cm正方に打ち抜いて、片面厚さ100μmの電極組成物層を有する負極のリチウムイオンキャパシタ用電極を得る。
【0093】
実施例1において、正極のリチウムイオンキャパシタ用電極、負極のリチウムイオンキャパシタ用電極として、上記で得られた電極を用いた他は、実施例1と同様にして、リチウムイオンキャパシタを作製する。リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタの各特性について、測定結果を表1に示す。
【0094】
(比較例1)
バインダーとして、膨潤度が2.3倍、ガラス転移温度が−17℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体のかわりに、膨潤度が4.0倍、ガラス転移温度が−35℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル80部、メタクリロニトリル15部、アクリル酸5部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を用いる他は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ用電極(正極、負極)、リチウムイオンキャパシタを作製する。リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタの各特性について、測定結果を表1に示す。
【0095】
(比較例2)
バインダーとして、膨潤度が2.3倍、ガラス転移温度が−17℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体のかわりに、膨潤度が3.1倍、ガラス転移温度が−22℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル80部、メタクリロニトリル15部、マレイン酸5部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を用いる他は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタ用電極(正極、負極)、リチウムイオンキャパシタを作製する。リチウムイオンキャパシタ用電極およびリチウムイオンキャパシタの各特性について、測定結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
以上の実施例および比較例より明らかなように、本発明のリチウムイオンキャパシタ用バインダーを用いると、電解液に対する膨潤度が低減され、このバインダーを用いた電極は電極強度に優れ、さらにこの電極を用いたリチウムイオンキャパシタの耐久性を高めることが可能となる。