特許第5652402号(P5652402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652402
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】半導体製造用治具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20141218BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20141218BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   H01L21/31 F
   C23C16/42
   C23C16/458
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-536184(P2011-536184)
(86)(22)【出願日】2010年10月14日
(86)【国際出願番号】JP2010068095
(87)【国際公開番号】WO2011046191
(87)【国際公開日】20110421
【審査請求日】2013年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2009-237502(P2009-237502)
(32)【優先日】2009年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】紙透 洋一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 新二
(72)【発明者】
【氏名】深澤 寧司
(72)【発明者】
【氏名】川口 將徳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 篤人
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−111686(JP,A)
【文献】 特表2007−505509(JP,A)
【文献】 特開2002−097092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
C23C 16/42
C23C 16/458
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造工程でのCVD装置に用いられる、治具基材と治具基材に形成されたSiC被膜を有する半導体製造用治具であって、
前記SiC被膜は、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われており、
前記SiC結晶子は、角錐の高さHと、角錐の底辺の最小長Lとのアスペクト比(高さH/底辺の最小長L)の平均値が0.5〜1.5であり、
表面が凹凸の無い平滑なものとみなして算出した見かけ上の表面積S1と、実際の表面積S2との表面積比(表面積S2/表面積S1)が、1.4〜3.2である、半導体製造用治具。
【請求項2】
前記SiC被膜は、α型の結晶構造を少なくとも含み、X線回折により測定されるピークにおいて、
2θ=59.5°〜60.5°の範囲でのピーク強度(I−60°)と、2θ=65°〜66°のピーク強度(I−65°)との比率(I−65°)/(I−60°)が0.1以上であり、
2θ=35°〜36°の範囲でのピーク強度(I−35°)と、2θ=41°〜42°の範囲でのピーク強度(I−41°)及び2θ=65°〜66°のピーク強度(I−65°)の和との比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が50以上である、請求項に記載の半導体製造用治具。
【請求項3】
前記SiC被膜は、表面を覆う角錐状のSiC結晶子の底辺の最小長Lの平均が0.5〜10.0μmである、請求項1又は2に記載の半導体製造用治具。
【請求項4】
前記SiC被膜の厚みが20〜150μmである、請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体製造用治具。
【請求項5】
前記SiC被膜の平均表面粗さRaが0.5〜3.0μmである、請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体製造用治具。
【請求項6】
前記SiC被膜の金属不純物濃度が0.005〜0.5ppmである、請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体製造用治具。
【請求項7】
前記SiC被膜の異常粒子の数が1個/cm未満である、請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体製造用治具。
【請求項8】
前記治具基材がSi含浸SiCからなる、請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体製造用治具。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体製造用治具の製造方法であって、
治具基材を収容したCVD装置内にSiC被膜を形成する原料化合物を導入し酸素ガス濃度が10000ppm以下の非酸素雰囲気中、1100℃〜1350℃、0.1kPa〜2.6kPaの条件下でSiC被膜を形成する、半導体製造用治具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程でのCVD装置に用いられる治具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DRAMやMPU等の超高集積の半導体デバイスの製造工程において、半導体ウエハの表面に、ゲート絶縁膜やキャパシタとしてSiやポリシリコン等の薄膜を形成することが重要な工程の一つである。半導体ウエハの表面にこのような被膜を形成するには、通常、低圧CVD装置を用いて行われている。かかる低圧CVD装置には、SiC等を治具基材としたウエハボート等の各種治具が使用されている。
【0003】
例えば、SiCを治具基材とした治具としては、原料のSiC粉末にバインダを加えて成形・仮焼・脱脂して得た多孔質SiC焼成体に、溶融金属シリコン(Si)を含浸せしめてその空隙をSiで完全に充填してガス不透過性としたものが主に使用されている。そして、かかる治具表面をSiC被膜などの保護膜でコートし、治具内部から外方への不純物の拡散を抑制することが行われている。
【0004】
半導体製造工程では、このような治具に半導体ウエハを載置して、CVD法によりウエハ表面にSiやポリシリコン等の薄膜(以下、デポジット膜という)を形成するが、その際に治具表面にもデポジット膜が不可避的に形成される。
【0005】
SiC被膜等で表面をコートした治具は、デポジット膜が比較的早期の段階で治具表面から剥離し、パーティクル等を発生するという問題があることから、治具表面をフッ酸やフッ硝酸等で頻繁に洗浄して、表面に付着したデポジット膜を除去する必要があった。そこで、半導体の生産効率を高め、製品精度を向上させるには、これらのデポジット膜を治具表面から剥離し難くする必要があり、治具表面を粗化してデポジット膜の被着力を高める試みが従来より行われている。
【0006】
例えば、下記特許文献1には、半導体製造工程での低圧CVD装置に用いられるCVDによるSiC被膜がコートされたSi含浸SiC治具において、当該コートされたSiC被膜の厚さが20〜150μmであり、かつ、SiC被膜の平均表面粗さRaが1.5〜5.0μmであることを特徴とするSiC治具が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、半導体製造工程において用いられる半導体処理用部材の基体表面に炭化珪素膜を形成した、もしくは炭化珪素膜のみからなる半導体処理用部材において、前記炭化珪素膜表面の表面粗さが、表面粗さ測定機を用いた不感帯幅を0.3μmとし、測定長を4mmとした際のピークカウント(Pc)で150/cm以上であって、前記炭化珪素膜表面が、X線光電子分光分析でのフッ素元素量が0.3原子%以下、有機系窒素量が0.7原子%以下、炭化水素成分量が29原子%以下で、かつ有機系CO量が4原子%以下であることを特徴とする半導体処理用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2000−327459号公報
【特許文献2】日本国特許第3956291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の半導体デバイスのパターニングの微細化に伴い、製品欠陥の原因となりうる異物(パーティクル)のサイズも微細化傾向にある。このため、半導体デバイスの製造工程において、パーティクルの発生を可能な限り抑制することが求められている。
【0010】
しかしながら、表面粗さを規定してもデポジット膜の密着性が十分確保できず、例えば、パーティクル管理レベルを0.1μm以上とした場合、パーティクルの発生を抑制することが困難であった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、治具表面からのデポジット膜の剥離を効果的に防止できる半導体製造用治具及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の各形態の発明を提供する。
[1] 半導体製造工程でのCVD装置に用いられる、治具基材と治具基材に形成された(コートされた)SiC被膜を有する半導体製造用治具であって、
前記SiC被膜は、表面が凹凸の無い平滑なものとみなして算出した見かけ上の表面積S1と、実際の表面積S2との表面積比(表面積S2/表面積S1)が、1.4〜3.2である、半導体製造用治具。
[2] 前記SiC被膜は、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われており、
該SiC結晶子は、角錐の高さHと、角錐の底辺の最小長Lとのアスペクト比(高さH/底辺の最小長L)の平均値が0.5〜1.5である、[1]に記載の半導体製造用治具。
[3] 前記SiC被膜は、α型の結晶構造を少なくとも含み、X線回折により測定されるピークにおいて、
2θ=59.5°〜60.5°の範囲でのピーク強度(I−60°)と、2θ=65°〜66°のピーク強度(I−65°)との比率(I−65°)/(I−60°)が0.1以上であり、
2θ=35°〜36°の範囲でのピーク強度(I−35°)と、2θ=41°〜42°の範囲でのピーク強度(I−41°)及び2θ=65°〜66°のピーク強度(I−65°)の和との比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が50以上である、[1]又は[2]に記載の半導体製造用治具。
[4] 前記SiC被膜は、表面を覆う角錐状のSiC結晶子の底辺の最小長Lの平均が0.5〜10.0μmである、[1]〜[3]のいずれかに記載の半導体製造用治具。
[5] 前記SiC被膜の厚みが20〜150μmである、[1]〜[4]のいずれかに記載の半導体製造用治具。
[6] 前記SiC被膜の平均表面粗さRaが0.5〜3.0μmである、[1]〜[5]のいずれかに記載の半導体製造用治具。
[7] 前記SiC被膜の金属不純物濃度が0.005〜0.5ppmである、[1]〜[6]のいずれかに記載の半導体製造用治具。
[8] 前記SiC被膜の異常粒子の数が1個/cm未満である、[1]〜[7]のいずれかに記載の半導体製造用治具。
[9] 前記治具基材がSi含浸SiCからなる、[1]〜[8]のいずれかに記載の半導体製造用治具。
[10] [1]〜[9]のいずれかに記載の半導体製造用治具の製造方法であって、
治具基材を収容したCVD装置内にSiC被膜を形成する原料化合物を導入し、酸素ガス濃度が10000ppm以下の非酸素雰囲気中、1100℃〜1350℃、0.1kPa〜2.6kPaの条件下でSiC被膜を形成する、半導体製造用治具の製造方法。
ここにおいて、1100℃〜1350℃の温度は、CVD装置のSiC被膜を成膜するCVDチャンバー内の温度を示し、また0.1kPa〜2.6kPaは、反応の際の同チャンバー内の圧力を示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の半導体製造用治具によれば、治具基材表面をコートするSiC被膜の表面積比(表面積S2/表面積S1)を1.4〜3.2としたことにより、CVD装置において、ウエハボート等の治具に載置した半導体ウエハ表面にSiやポリシリコン等のデポジット膜を形成する際、治具表面にも不可避的に形成されるこれらのデポジット膜が、治具表面に強固に密着する。このため、治具表面のデポジット膜の膜厚が厚くなっても剥離し難くなり、パーティクル等の発生を効果的に防止できる。更には、治具に形成されるデポジット膜を除去するために要する洗浄頻度を低減できるので、半導体の生産性を向上できる。
【0014】
そして、本発明の半導体製造用治具の製造方法によれば、治具基材を収容したCVD装置内にSiC被膜を形成する原料化合物を導入し、非酸化性雰囲気中、1100℃〜1350℃、0.1kPa〜2.6kPaの条件下でSiC被膜を形成することにより、SiC被膜の表面に、c軸が膜面に対して所定割合以上で揃った角錐状のSiC結晶子が露出して、表面積比が1.4〜3.2であるSiC膜でコートされ、且つ治具基材とSiC膜との密着性が良好な半導体製造用治具を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1の治具のSiC被膜の膜表面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図2図2は、側線A−Bを設定して六角錐状結晶の断面を取る場合の説明図である。
図3図3は、図1の側線A−Bに沿った膜断面のプロファイルである。
図4図4は、比較例1の治具のSiC被膜の膜表面側から撮影した光学顕微鏡写真である。
図5図5は、図4の側線A−Bに沿った膜断面のプロファイルである。
図6図6は、比較例2の治具のSiC被覆の膜表面側から撮影した異常粒子の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の半導体製造用治具は、治具基材表層が、SiC被膜でコートされた、すなわち形成されたものである。
【0017】
治具基材の材質としては、焼成SiC、Siが含浸されたSiC(以下、Si含浸SiCという)、C(カーボン)、Si(シリコン)、石英ガラス、アルミナ等が挙げられる。なかでも、Si含浸SiCは、緻密かつ高純度であり、ガス透過性、強度に優れた治具とすることができるので好ましい。
【0018】
上記焼成SiCからなる治具基材は、例えば以下のようにして製造できる。すなわち、α型SiC粉末や、β型SiC粉末にアクリル樹脂水性エマルションやポリビニルアルコールなどのバインダを加えて冷間等方プレスや鋳込み成形して成形体を形成し、これを非酸化性雰囲気下で仮焼・脱脂して得られる。
【0019】
また、上記Si含浸SiCからなる治具基材は、例えば、上述のようにして得られたSiC焼成体に、溶融金属Siを含浸せしめてその空隙や毛細管をSiで充填して得られる。
【0020】
本発明の半導体製造用治具は、これらの治具基材の表面がSiC被膜でコートされてなるものである。以下、治具基材の表面をコートするSiC被膜について説明する。
【0021】
本発明の半導体製造用治具のSiC被膜は、表面が凹凸の無い平滑なものとみなして算出した見かけ上の表面積S1と、実際の表面積S2との表面積比(表面積S2/表面積S1)が、1.4〜3.2である。
本明細書において、「〜」とは、特段の定めがない限り、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0022】
本発明者らは、SiC被膜の表面に、c軸が膜面に対して所定割合以上で揃った角錐状のSiC結晶子を露出させることで、SiC被膜の表面積を従来のものよりも高めることができ、表面積比(表面積S2/表面積S1)を1.4〜3.2にすることができることを見出した。そして、表面積比を上記範囲とすることで、SiC被膜上に形成されるデポジット膜との密着性が向上し、治具表面のデポジット膜の膜厚が厚くなっても剥離し難くなる。このため、例えば、パーティクル管理レベルが0.1μm以上であっても、パーティクル等の発生を効果的に抑制できる。表面積比(表面積S2/表面積S1)が1.4未満であると、SiC被膜上に形成されるデポジット膜との密着性をさほど向上できず、3.2を超えると、SiC被膜の強度が低下してハンドリング性が低下する。表面積比は1.7〜3.0が好ましく、2.0〜2.5がより好ましい。
【0023】
上記表面積比は、以下のようにして測定できる。すなわち、共焦点光学系を有するレーザー顕微鏡を用い、1500倍の倍率で試料表面をレーザースキャンして、得られた3次元画像をもとに解析を行なう。このように高い倍率を選ぶのは、できるだけ治具基材やSiC膜のマクロスケールのうねり(うねりの周期が数十μm以上のもの)の影響を避けるためである。そして、結晶粒子自身の凹凸以外には突起がない場所を視野に選ぶのが好ましい。また、得られた高さデータには結晶のエッジによって散乱されたレーザー光によるスパイク状のノイズが載っているため、そのまま上記表面積S2の計算を行うと誤差が大きくなる。誤差を小さくするために、通常の3画素×3画素の単純平均による平滑化を3回かけ、ノイズを消した後に表面積S2の計算を行なう。上記角錐状としては、特に六角錐状が好ましい。
そして、このようにして算出した表面積S2を、画面面積、すなわち、見掛け上の表面積S1で割った値を表面積比として求める。
【0024】
SiC被膜は、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われており、該SiC結晶子の角錐の高さHと角錐の底辺の最小長Lとのアスペクト比(高さH/底辺の最小長L)の平均値が、0.5〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.3がより好ましい。アスペクト比の平均値が0.5未満であると、表面積比が小さくなる傾向があり、1.5を超えると、SiC被膜の強度が低下してハンドリング性が低下し易くなる。
【0025】
SiC結晶子のアスペクト比は、例えば、SiC被膜の結晶構造や、SiC結晶子の配向性を変えることにより制御できる。SiC膜の結晶構造及びSiC結晶子の配向性を変えるには、SiC被膜を形成する際の成膜条件、具体的には、成膜温度、成膜圧力、ガス流量、ガス濃度を制御することにより調整できる。そして、アスペクト比を高めるには、α型結晶の比率を増やしたり、SiC結晶子の配向性を高めることにより可能となる。例えば、α型結晶の比率を増やしたり、SiC結晶子の配向性を高めるには、結晶の核生成を抑え、成長を遅くすることにより可能となる。これは、成膜温度を一定の範囲に保ち、成膜圧力を下げたり、ガス濃度を薄くしていくことにより可能となる。
【0026】
SiC結晶子のアスペクト比(高さH/底辺の最小長L)及び底辺の最小長Lは、例えば、共焦点レーザー顕微鏡を用いた膜表面の3次元形状データを用いて測定することができる。以下、具体例を用いて説明する。
【0027】
図1に、本発明の半導体製造用治具(後述する実施例1の治具)のSiC被膜の膜表面側から撮影した光学顕微鏡写真を示す。図1から明らかなように、このSiC被膜の表面は、多数の六角錐状結晶(すなわちα型結晶)で覆われている。次に、レーザー顕微鏡の(断面)プロファイル測定モードで、測定したい角錐状結晶の頂点を通るように側線A−Bを設定する。その際に、図2に示すように、側線A−Bの方向を、対向する二つの錐面のそれぞれを2等分するように調整する。なお、図2は、六角錐状結晶の断面を取る場合の例を示したが、他の多角形状結晶の場合も同様にして側線A−Bを設定して断面をとる。
【0028】
図3に、図1の側線A−Bに沿った膜断面のプロファイルを示す。着目する結晶の断面は水平座標の2μm〜3.5μmに見られる。ここで、錐面に沿うように補助線(点線)をプロファイルが5%離れる点まで引き、さらに2本の補助線の交点にできる頂点角を2等分するように基準線(一点鎖線)を引く。2本の補助線のうち長い方の線の下端部を通るように、基準線に垂直な線を引き、その交点をOとする。その垂線において、一方の錐面(該補助線の下端部)からもう一方の錐面(他方の補助線の延長線との交点)までの長さ(l)を測る。着目する結晶における(l)の最小値を角錐の底辺の最小長Lとする。また、位置(O)から補助線の交点までの長さ(h)を測ってこの(h)を角錐の高さHとする。そして、上述のようにして求めた角錐の高さHを、角錐の底辺の最小長Lで割った値をアスペクト比とする。そして、このようにして、任意に選択した50個の角錐状結晶の、最小長L及びアスペクト比を測定し、その平均値をそれぞれ、最小長Lの平均値、アスペクト比の平均値とする。
【0029】
なお、同様な計測は、機械的な研磨で膜断面が観察可能な試料を作成し、それを光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)などで観察することで代替可能ではあるが、必ずしも頂点を通る断面になっていない場合や、対向する錐面を2等分するような断面になっていない場合が多いため測定誤差が生じ易い。
【0030】
SiC被膜は、α型の結晶構造を少なくとも含み、X線回折により測定されるピークにおいて、2θ=59.5°〜60.5°の範囲でのピーク強度(以下、ピーク強度(I−60°)とする)と、2θ=65°〜66°のピーク強度(以下、ピーク強度(I−65°)とする)との比率(I−65°)/(I−60°)が0.1以上であり、2θ=35°〜36°の範囲でのピーク強度(以下、ピーク強度(I−35°)とする)と、2θ=41°〜42°の範囲でのピーク強度(以下、ピーク強度(I−41°)とする)及びピーク強度(I−65°)の和との比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が50以上であることが好ましい。
【0031】
X線回折パターンは、結晶を構成する原子の配列パターン、結晶粒子の大きさ、結晶粒子の配向などによって様々に変化するが、X線回折ピークが観測される角度(回折角)は原子配列(結晶格子の種類と大きさ)によって一義的に決まる。そのため、原子配列が似た結晶ではほぼ同じ回折角に強度ピークが出現する場合が多い。
【0032】
例えば、表1に示すように、従来の成膜条件で得られる無配向性のSiC膜の結晶構造は、α型(六方晶及び菱面体晶:4H、6H、51Rなど)及びβ型(立方晶:3C)の数種類の結晶が出現するが、これらの結晶は、原子層の積層の順番が異なるだけで基本の原子配列が似ているため、同じような角度に強い回折線のピークが出現する。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の2θ=65.7°のピーク(ピーク強度(I−65°))に着目すると、この角度にはβ型の回折線が存在しないことから、試料の測定パターンにこの反射が観測される場合にはα型の結晶が必ず存在することになる。
【0035】
そこで、本発明では、ピーク強度(I−65°)を、ピーク強度(I−60°)で割った値(以下、比率(I−65°)/(I−60°)とする)を、α型結晶が存在することの指標として用いることとした。
【0036】
表1から明らかなように、比率(I−65°)/(I−60°)は、α型の種類によって0.4〜0.7の間の値をとり、β型の場合には0となる。そして、現実的には、CVD法でSiC被膜を作成した場合、何種類かの結晶相が混じっている場合が殆どであり、実効上六方晶(α型結晶)が30%以上存在すれば、表面積S2を高めることができ、表面積比を1.4〜3.2に調整し易くなるので、比率(I−65°)/(I−60°)は0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
【0037】
次に、SiC結晶子の配向性について説明する。通常の2θ/θスキャンでX線回折ピークを測定する場合、ピーク強度を与えるのは結晶の反射面が膜面に平行な場合である。例えば、2θ=35.6°のピーク(ピーク強度(I−35°))は、α型の場合、6回(もしくは3回)対称軸に垂直な面((00L)面)による反射、立方晶の場合は3回対称軸に垂直な面((111)面)による反射であるが、膜中の結晶の方位が揃ってこれらの反射面が膜面に平行になると、他の角度の回折線に対してこの角度への回折が強くなる。
【0038】
一方、ピーク強度(I−41°)は、β型の結晶で(111)面が膜面と平行に配向していない結晶の数に比例して強くなり、ピーク強度(I−65°)は上記α型の結晶で(00L)面が膜面と平行に配向していない結晶の数に比例して強くなる。したがって、これらのピーク強度の和は、α型、β型にかかわらず配向していない結晶の総数に比例することになる。
【0039】
そこで、本発明では、ピーク強度(I−35°)を、ピーク強度(I−41°)とピーク強度(I−65°)の和で割った値(以下、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}とする)を、SiC結晶子の配向性の指標として用いることとした。
【0040】
表1より、無配向性の膜の場合、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}は、結晶相の種類によって1.5〜5.0まで変化する。本発明では、好ましい配向の比率として50以上であることを規定しているが、これは例えば立方晶が主体の結晶相の場合、90%以上が(111)面に配向していることを示している。また、α型が混じった場合には更に配向が高いことを意味している。すなわち、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が50以上であることは、SiC結晶子の90%以上が、膜面に対して垂直なc軸を有するSiC結晶子であることを示す指標となる。そして、結晶の配向性を高めることで、α型の(112)面、(114)面や、立方晶の(111)面などの角錐面が発達し易くなるので、SiC被膜の表面積比を大きくし易くできる。比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}は、50以上が好ましく、200以上がより好ましい。
【0041】
本発明において、SiC結晶子の底辺の最小長Lの平均は、0.5〜10.0μmが好ましく、2.0〜6.0μmがより好ましい。最小長Lの平均がこの範囲よりも小さい場合、SiC被膜上に形成されるデポジット膜との密着性が十分得られず、最小長Lの平均がこの範囲よりも大きい場合、SiC基材とSiC被膜の密着性が十分得られないためである。
【0042】
本発明において、SiC被膜の厚みは、20〜150μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。20μm未満であると、治具内部から不純物が膜面に拡散することがある。また、SiC被膜の厚みを必要以上に厚くすることは、無駄であるのみならず、その被膜形成に長時間を要するのでその上限厚みは150μmで十分である。
【0043】
本発明において、SiC被膜の平均表面粗さRaは、0.5〜3.0μmが好ましく、0.8〜2.0μmがより好ましい。平均表面粗さRaが0.5μm未満であると、CVD薄膜の密着力が十分得られないことがあり、3.0μmを越えると、治具から剥離するCVD薄膜による初期ダストが多発することがある。なお、本発明における平均表面粗さRaは、電子式表面粗さ計を用いてJISB−0601−2001にしたがって測定した値である。
【0044】
本発明において、SiC被膜の金属不純物濃度は、0.005〜0.5ppmが好ましく、0.005〜0.1ppmがより好ましい。この金属不純物は、主に治具基材内部からの拡散や、治具表面のサンドブラスト処理等により由来する、Fe、Cu、Mg、Al、V、Ni、Mn、Na、K、Ca、Cr等であり、ウエハに取り込まれると、半導体デバイスに対し、絶縁抵抗の低下やSiOの耐電圧低下さらにはpn接合リーク不良等を引き起こす可能性のある有害な元素である。金属不純物濃度が0.5ppm以下であれば、治具に載置するウエハが、膜中の金属不純物によって汚染されることを防止できる。金属不純物濃度を0.5ppm以下にするには、例えば、SiC被膜形成工程において、金属不純物濃度の低い、原料化合物(金属不純物10ppm未満が好ましい)やキャリヤガスを使用すること、炉内を事前に成膜温度以上の温度で真空加熱を行っておくこと、炉内の構成部材である黒鉛の金属不純物濃度の低いもの(0.2ppm未満が好ましい)を使用すること、などにより可能となる。SiC被膜の金属不純物濃度は、例えば、原子吸光分析法、SIMS(二次イオン質量分析法)、全反射蛍光X線分析法、GDMS(グロー放電質量分析法)等の方法で測定できる。なお、本明細書において、金属不純物濃度とは、SiC被膜に含まれた金属不純物が複数種ある場合、これら金属不純物の合計の濃度を意味する。
【0045】
本発明において、SiC被膜の異常粒子の数は、1個/cm未満が好ましく、0.5個/cm未満がより好ましい。異常粒子とは、図6に示すようなものであり、他の面よりも局所的に10μm以上高くなっているものである。異常粒子は気相中や治具基材表面の粉の存在や不純物が由来するものであることが知られている。異常粒子の数が1個/cm未満であれば、デポジット膜内部の応力集中によるクラックの発生を抑制できる。異常粒子の数を1個/cm未満にするには、SiC被膜形成工程において、炉内のガス流れの澱み部分を無くすこと、炉内や治具基材表面をクリーンに保っておくこと、または核発生させない条件(例えば温度を上げすぎない)に制御することなどで達成できる。SiC被膜の異常粒子は、例えば、レーザー顕微鏡を用いて試料表面をレーザースキャンすることで測定できる。
【0046】
次に、本発明の半導体製造用治具の製造方法について説明する。
【0047】
上述した治具基材の表面に、CVD法によりSiC被膜を形成する。使用するCVD装置としては特に限定するものではない。ガスの導入口・導出口を備えた、縦型バッチ式や横型バッチ式の電気炉等の加熱手段で加熱する熱拡散炉タイプのものが好ましい。これらのCVD装置内に治具基材を収容し、SiC被膜を形成する原料化合物を導入して、この気相分解反応によりSiC被膜を成膜する。そして、SiOの形成を避けるため、反応は酸素ガス濃度が10000ppm以下の非酸素雰囲気中で行う。
【0048】
SiC被膜を形成する原料化合物としては、Si源とC源とを含むものであればよい。
例えば、以下の(1)、(2)が挙げられる。
【0049】
(1)トリクロロメチルシラン(CHSiCl)、ジクロロジメチルシラン((CH)SiCl)などのSi源とC源を有する化合物
(2)シラン(SiH)、ジシラン(Si)、テトラクロロシラン(SiCl)、トリシラン(Si)等のSi源を有する化合物と、メタン(CH)、エタン(C)等のC源を有する化合物との混合物
【0050】
これらは希釈することなく導入してもよいし、キャリヤガス(水素、あるいはヘリウム、アルゴン等の不活性ガス)で希釈して導入してもよい。キャリヤガスで希釈する場合は、原料化合物の濃度は、キャリヤガスに対するモル比は1〜10mol%が好ましく、2〜6mol%がより好ましい。原料化合物のキャリヤガスに対するモル比を上記範囲に調整することで、所望の膜が得られると共に、工業的に実用的な成長速度が得られる。
【0051】
CVD装置のガス導入口から供給される原料化合物を含むガスの供給速度は、10〜50リットル/分が好ましく、20〜40リットル/分がより好ましい。供給ガスの供給速度を上記範囲に調整することで、工業的に実用的な膜の成長速度が得られる。
【0052】
上記気相反応分解反応によりSiC被膜を成膜する際の反応条件は、反応温度を1100℃〜1350℃とし、反応圧力を0.1kPa〜2.6kPaとして行う。反応温度は、1150〜1330℃が好ましく、1200〜1300℃がより好ましい。この反応温度とは、CVD装置の反応チャンバーの雰囲気温度をいう。また、反応圧力は0.5〜2.0kPaが好ましく、1.0〜1.5kPaがより好ましい。この反応圧力とは、CVD装置の反応チャンバーの圧力をいう。反応温度が1100℃未満であると成長速度が遅く、コストが高くなってしまい、1350℃を超えると異常粒子が発生し易くなると共に、必要な表面積比の膜が得られないおそれがある。治具基材にSi含浸SiCを用いる場合には、その治具基材表面への反応温度は1100〜1250℃が好ましい。1250℃を超えると治具基材のSi含浸SiCとの間にポーラス層が発生し、SiC膜と治具基材との密着性が低下するためである。この場合、複数回コートを行い、その1回目の温度をこの温度内に調整する方法や、コート開始温度をこの温度に調整し、途中で昇温させる方法などがある。反応圧力が0.1kPa未満であると高い能力のポンプが必要となり、高い設備費用が必要となり、2.6kPaを超えると必要な表面積比の膜が得られない。
【実施例】
【0053】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
[測定方法]
・表面積比の測定
レーザー顕微鏡を用い、1500倍の倍率で実施例1〜5、比較例1〜5の試料表面をレーザースキャンし、得られた3次元画像を3画素×3画素の単純平均による平滑化を3回かけ、ノイズを消した後に表面積S2の計算を行なった。そして、得られた表面積S2を、画面面積で割って、表面積比を算出した。
【0055】
・アスペクト比の平均値の測定
レーザー顕微鏡の(断面)プロファイル測定モードで、測定したい角錐状結晶の頂点を通り、かつ、対向する二つの錐面のそれぞれを2等分するように側線を設定し、断面プロファイルを観測した。そして、断面プロファイルの着目する結晶の断面において、錐面に沿うように補助線を引き、さらに2本の補助線の交点にできる頂点角を2等分するように基準線を引いた。基準線上の適当な位置(O)で基準線に垂直な線を引き、一方の錐面(補助線)からもう一方の錐面までの長さ(l)を測って角錐の底辺の最小長Lを求めた。また、位置(O)から補助線の交点までの長さ(h)を測って角錐の高さHを求めた。そして、上述のようにして求めた角錐の高さHを、角錐の底辺の最小長Lで割った値をアスペクト比として算出した。
このようにして、任意に選択した50個の角錐状結晶のアスペクト比を測定し、その平均値をアスペクト比の平均値とした。
【0056】
・X線回折
X線回折装置として理学電機社製のGEIGERFLEX RAD−IIAを用い、以下の条件により測定を行った。X線源としてはCuKα線を使用し、X線管球の加速電圧は40kV、加速電流は20mAとした。発散スリット(DS)は1°、受光スリット(RS)は0.15mm、散乱スリット(RS)は1°とした。2θ=10°〜75°の範囲において測定を行った。なお、ピーク強度はスムージング処理(適応化平滑法でバックグラウンド部の雑音を除去した後、Savitzky−Golay法で平滑化を行う)した後、Sonneveld法によりバックグラウンドを除去して得た。
【0057】
・平均表面粗さRaの測定
電子式表面粗さ計を用い、JISB−0601にしたがって各4点ずつ測定した。
【0058】
・金属不純物濃度の測定
GDMS(グロー放電質量分析)法により、SiC被膜中の金属不純物の分析を行い、その合計量を求めた。
【0059】
・異常粒子数の測定
光学顕微鏡及びレーザー顕微鏡を用いて試料表面を100倍の倍率で5000画面観察し、高さが10μmを超える異常粒子の個数を数えた。
【0060】
・治具基材のポーラス層の有無の観察
サンプルの断面を光学顕微鏡を用いて500倍の倍率で観察した。
【0061】
・Si薄膜の形成試験
SiC被膜が形成された治具に12インチシリコンウエハを設置し、これを低圧CVD装置にセットした。そして、Siを成膜原料として、SiHClとNHとを、SiHCl/NH=15/60(モル比)で供給し、反応チャンバーの雰囲気温度750℃において25PaでSi薄膜を形成した。
シリコンウエハにSi薄膜を100nm形成する毎に、シリコンウエハをCVD装置から取り出し、シリコンウエハ表面にレーザービームを照射してシリコンウエハ上全面のパーティクル数をカウントした。直径0.1μm以上のパーティクルの個数が50個になった時点で成膜を停止し、その時の治具表面に形成されたSi薄膜(デポジット膜)の膜厚を測定した。
【0062】
(実施例1)
α型SiC粉末を原料とし、ポリビニルアルコールをバインダとして、フィルタプレスにより成型体を形成し、これを焼成してSiC焼結体を得た。このSiC焼結体に溶融Siを含浸させ、Si含浸SiCを得た。このSi含浸SiC材の支持溝部を機械加工することにより、12インチウエハー用の治具基材であるSiCボート基材を作製した。
次いで、このボート基材を減圧熱CVD炉に入れ、10Paの真空下で基材に含まれるガスを脱気した後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1000℃に昇温した後、炉内へ水素ガスを導入して圧力を13.2kPaに60分保持し、ダスト等のクリーニング処理を行った。
次いで、減圧熱CVD炉を15℃/分の昇温速度で加熱して炉内温度を1230℃まで昇温させた後、反応圧力を0.5kPaに調整し、SiC被覆形成用の原料ガスとしてCHSiClを導入し、キャリヤガスとして水素ガスを導入した。CHSiClは、キャリヤガスである水素ガスに対するモル比を10%として供給した。以上の条件で180分成膜を行い、実施例1の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が2.4で、膜厚が50μmで、平均表面粗さRaが2.4μmで、金属不純物濃度が0.025ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。また、アスペクト比の平均値は1.1で、底辺の最小長Lの平均値が3.5μmであった。実施例1の治具のSiC被膜の膜表面側から撮影した光学顕微鏡写真を図1に示し、図1の側線A−Bに沿った膜断面のプロファイルを図3に示す。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてα型とβ型が混在していた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率((I−65°)/(I−60°))が0.71であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が350であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が6.5μmまで堆積可能であった。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様にして作製したSiCボート基材を、減圧熱CVD炉に入れ、実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1230℃まで昇温させた後、反応圧力を1kPaに調整し、実施例1と同様の条件で原料ガス及びキャリヤガスを供給し、90分間成膜を行った。一度、冷却した後、再び実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、減圧熱CVD炉を15℃/分の昇温速度で加熱して1350℃まで昇温させた後、反応圧力を0.5kPaに調整した。そして、実施例1と同様の条件で原料ガス及びキャリヤガスを供給して90分間成膜を行い、実施例2の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が3.1で、膜厚が50μmで、平均表面粗さRaが2.9μmで、金属不純物濃度が0.008ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。この角錐のアスペクト比の平均値は1.5で、底辺の最小長Lの平均値が4.2μmであった。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてα型とβ型が混在していた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が1.22であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が720であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が6.8μmまで堆積可能であった。
【0064】
(実施例3)
実施例1と同様にして作製したSiCボート基材を、減圧熱CVD炉に入れ、実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1230℃まで昇温させた後、反応圧力を2.5kPaに調整した。そして、実施例1と同様の条件で原料ガス及びキャリアガスを供給して180分間成膜を行い、実施例3の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が1.7で、膜厚が50μmで、平均表面粗さRaが1.3μmで、金属不純物濃度が0.032ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。この角錐のアスペクト比の平均値は0.7で、底辺の最小長Lの平均値が1.0μmであった。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてα型とβ型が混在していた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が0.37であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が120であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が4.3μmまで堆積可能であった。
【0065】
(実施例4)
実施例1と同様にして作製したSiCボート基材を、減圧熱CVD炉に入れ、実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1230℃まで昇温させた後、反応圧力を1kPaに減圧した。そして、SiC被覆形成用の原料ガスとしてSiClとCHを導入し、キャリヤガスとして水素ガスを導入した。なお、SiCl及びCHは、キャリヤガスである水素ガスに対するモル比をそれぞれ10%、3%として供給した。以上の条件で200分間成膜を行い、実施例4の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が1.6で、膜厚が50μmで、平均表面粗さRaが1.8μmで、金属不純物濃度が0.015ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。この角錐のアスペクト比の平均値は0.7で、底辺の最小長Lの平均値が1.1μmであった。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてα型とβ型が混在していた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が0.64であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が280であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が4.5μmまで堆積可能であった。
【0066】
(実施例5)
実施例1と同様にして作製したSiCボート基材を、減圧熱CVD炉に入れ、実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1230℃まで昇温させた後、反応圧力を1kPaに調整し、実施例4と同様の条件で原料ガス及びキャリヤガスを供給し、90分間成膜を行った。一度、冷却した後、再び実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、15℃/分の昇温速度で加熱して1350℃まで昇温させた後、反応圧力を1kPaに調整した。そして、実施例4と同様に原料ガス及びキャリヤガスを導入し、90分間成膜を行い、実施例5の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が2.1で、膜厚が50μmで、平均表面粗さRaが2.9μmで、金属不純物濃度が0.014ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。この角錐のアスペクト比の平均値は1.0で、底辺の最小長Lの平均値が7.5μmであった。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてα型とβ型が混在していた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が1.08であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が650であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が5.2μmまで堆積可能であった。
【0067】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製したSiCボート基材を、減圧熱CVD炉に入れ、実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1230℃まで昇温させた後、反応圧力を10kPaに調整し、実施例1と同様の条件で原料ガス及びキャリヤガスを供給し、180分間成膜を行い、比較例1の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が1.3で、膜厚が60μmで、平均表面粗さRaが1.0μmで、金属不純物濃度が0.025ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。この角錐のアスペクト比の平均値は0.2で、底辺の最小長Lの平均値が0.3であった。比較例1の治具のSiC被膜の膜表面側から撮影した光学顕微鏡写真を図4に示し、図4の側線A−Bに沿った膜断面のプロファイルを図5に示す。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてβ型のみの構造となっていた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が0であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が5であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が2.5μmまで堆積可能であった。
【0068】
(比較例2)
実施例1と同様にして作製したSiCボート基材を、減圧熱CVD炉に入れ、実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1380℃まで昇温させた後、反応圧力を1kPaに調整した。そして、実施例1と同様の条件で原料ガス及びキャリヤガスを供給し、90分間成膜を行い、比較例2の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が1.3で、膜厚が60μmで、平均表面粗さRaが3.2μmで、金属不純物濃度が0.025ppmで、異常粒子数が26個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。この角錐のアスペクト比の平均値は0.8で、底辺の最小長Lの平均値が3.1であった。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてα型とβ型が混在していた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が0.03であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が30であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層が見られた。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が2.9μmまで堆積可能であった。
【0069】
(比較例3)
実施例1と同様にして作製したSiCボート基材を、減圧熱CVD炉に入れ、実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1200℃まで昇温させた後、反応圧力を4kPaに調整し、SiC被覆形成用の原料ガスとしてSiClとCHを導入し、キャリヤガスとして水素ガスを導入した。なお、SiCl及びCHは、キャリヤガスである水素ガスに対するモル比をそれぞれ5%、1.6%として供給した。以上の条件で180分間成膜を行った。そして、治具表面に形成されたSiC被膜を、フッ硝酸(HF=4.0mol%、HNO3=3.7mol%)で酸洗浄し、60分間温水でシャワーリングして、比較例3の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が1.2で、膜厚が55μmで、平均表面粗さRaが1.0μmで、金属不純物濃度が0.010ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。この角錐のアスペクト比の平均値は0.3で、底辺の最小長Lの平均値が0.4μmであった。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてα型とβ型が混在していた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が0.02であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が4であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が2.8μmまで堆積可能であった。
【0070】
(比較例4)
実施例1と同様にして作製したSiCボート基材を、減圧熱CVD炉に入れ、実施例1と同一条件でクリーニング処理を行った。その後、炉内を15℃/分の昇温速度で加熱して1230℃まで昇温させた後、反応圧力を30kPaに調整し、SiC被覆形成用の原料ガスとしてSiClとCHを導入し、キャリヤガスとして水素ガスを導入した。なお、SiCl及びCHは、キャリヤガスである水素ガスに対するモル比をそれぞれ5%、1.6%として供給した。
以上の条件で180分間成膜を行い、比較例4の治具を製造した。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が1.3で、膜厚が58μmで、平均表面粗さRaが2.0μmで、金属不純物濃度が0.018ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が角錐状のSiC結晶子で覆われていた。この角錐のアスペクト比の平均値は0.2で、底辺の最小長Lの平均値が0.3μmであった。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてα型とβ型が混在していた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が0.04であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が8であった。
また、断面の観察を行ったところ、治具基材表面にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が2.9μmまで堆積可能であった。
【0071】
(比較例5)
比較例1で作成した治具表面のSiC被膜を、#250のSiC砥粒によりサンドブラスト処理を行った。
この治具の治具基材表面に形成されたSiC被膜は、表面積比が1.2で、膜厚が55μmで、平均表面粗さRaが3.5μmで、金属不純物濃度が0.025ppmで、異常粒子数が0個/cmあった。
また、SiC被膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、角錐状の結晶子は見られなかった。
また、SiC被膜のX線回折を行ったところ、結晶構造としてβ型のみの構造となっていた。そして、X線回折により測定されるピークにおいて、比率(I−65°)/(I−60°)が0であり、比率{(I−35°)/[(I−41°)+(I−65°)]}が5であった。
また、断面の観察を行ったところ、SiC被膜と治具基材との界面(治具基材側)にポーラス層は見られなかった。
そして、この治具はSi薄膜(デポジット膜)が2.7μmまで堆積可能であった。
【0072】
以上の結果を表2,3にまとめて記す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2009年10月14日出願の日本特許出願2009−237502に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の半導体製造用治具を半導体製造工程における使用されるCVD装置において用いると、半導体ウエハ表面にSiやポリシリコン等のデポジット膜を形成する際、治具表面にも不可避的にこれらのデポジット膜が形成されるが、このデポジット膜の膜厚が厚くなっても剥離し難くなり、パーティクル等の発生を効果的に防止でき、更には、治具に形成されたデポジット膜を除去するために要する洗浄頻度を低減できるので、半導体製造においての生産性を向上でき、有用である。
また、本発明の半導体製造用治具の製造方法によれば、治具基材とSiC膜との密着性が高められ、パーティクル等の発生を効果的に防止でき、更には、治具に形成されたデポジット膜を除去するために要する洗浄頻度を低減できる、良好な半導体製造用治具を製造でき、有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6