(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、銀行券、旅券、商品券及び各種証明書等の偽造防止印刷物は、偽造防止技術を付与することが求められ、それらについて、様々な技術が開示されている。例えば、基材となる紙の製造工程で偽造防止技術を付与する、すかし又はスレッドや、印刷工程で偽造防止技術を付与する微凹版印刷又はパール印刷、更には印刷工程後の別工程で偽造防止技術を付与するホログラム又はレーザ穿孔等が代表的である。
【0003】
これら技術のうち、比較的コストが安価で偽造抵抗力の高い偽造防止技術の一つとして、凹版印刷が挙げられる。その理由としては、偽造者の多くは、プリンタ等の簡易的な出力機によって偽造品を作製することが多いため、インキ膜厚の低い、二次元的な構成の偽造品しか作製することができないこととなる。一方、凹版印刷物は、盛り上がった画線となり、触感によって判別できるため、容易に真偽判別が可能である。
【0004】
また、凹版印刷を利用した潜像凹版も有効な技術である。ここで、公知の潜像凹版1´の印刷物P´の構成について、図面を用いて説明する。
図23は、凹版印刷で形成した潜像凹版1の印刷物P´の構成を示したもので、紙等の基材に潜像凹版1´を形成している。印刷物P´は、
図24に示すように、潜像部A´と背景部B´から成り、潜像部A´の複数の横画線aL´及び背景部B´の複数の縦画線bL´は、規則的に配置され、かつ、盛り上がりのある画線で形成されている。なお、
図24は、
図23の矩形部を拡大したものである。
【0005】
次に、
図25及び
図26を用いて、印刷物P´の潜像画像について説明する。
図25は、印刷物P´に対する観察方向を示しており、観察方向U´は、潜像凹版1´を真上から観察しており、一方、観察方向N´は、潜像凹版1´に対して斜め方向から観察している。このとき、観察方向U´(真上方向)では、潜像部A´と背景部B´の単位面積あたりの画線面積率が同一のため、潜像画像「T」は観察することができない。
【0006】
一方、観察方向N´(斜め方向)から観察した場合、
図26に示すように、潜像部A´の横画線aL´は、観察方向と垂直となり、盛り上がった横画線aL´が非画線部の一部又は全部を隠ぺいすることで、見かけ上の視認濃度が高くなる。一方、背景部B´の縦画線bL´は、観察方向と平行となるため、非画線部の濃度の変化は生じない。その結果、各領域で濃度差を生じ、潜像部A´から成る潜像画像「T」を観察することができる。したがって、本発明の潜像画像とは、潜像凹版1´を斜め方向から観察し潜像部A´を観察することができる画像をいう。このように潜像凹版の技術は、種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
ところで、印刷物に立体画像を作製することで立体的に観察される印刷物を作製する技術も印刷雑誌等で広く開示されている。例えば、立体視することができる画像を形成する方法としては、右目で観察する画像(以下「右目画像」という。)と左目で観察する画像(以下「左目画像」という。)を夫々配置し、各画像を並べてオフセット印刷等で印刷することで、交差視により、立体画像を観察することができる方法が開示されている。また、裸眼で立体視することができる技術や、カラーフィルタやレンチキュラーレンズ等の道具を使用して立体画像を観察することができる技術が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の潜像凹版1´を有する印刷物は、
図25のように、潜像凹版1´を観察方向N´(斜め方向)から観察する場合、潜像部A´と背景部B´との互いの濃度差により潜像画像を観察することができるものであるため、潜像画像は、単純な濃度差のみの「平面画像」で真偽判別することとなり、より高度に真偽判別することができる方法が求められていた。
【0010】
また、潜像凹版1´を有する印刷物は、
図25のように、潜像凹版1´を観察方向U´(真上方向)及び観察方向N´(斜め方向)から観察した場合に、
図27に示すように「通常視」によって観察することができるものであるため、新たな真偽判別方法も求められていた。さらに、潜像凹版1´を有する印刷物は、潜像凹版1´を形成する潜像部A´と背景部B´の2つの領域を形成する必要があるため、比較的大きな領域を必要とし、既存の有価証券類のデザイン、例えば、料額、記号又は図柄を流用して、潜像凹版又は立体画像を設けることはできないという課題があった。
【0011】
また、立体的な画像が観察される技術については、右目画像と左目画像との各画像をオフセット印刷やグラビア印刷等の一般的な印刷方法で作製した立体印刷物P´を、カラーフィルタ及びレンチキュラーレンズ等の道具を使用した状態で、
図28に示すような交差視によって立体視することができるものであるため、立体印刷物P´を複写した複写物についても、立体印刷物P´と同一の効果を得ることができる。よって、複写、複製防止効果がないという課題があった。また、立体画像を形成する場合についても、立体画像は、右目画像と左目画像との各画像を配置して構成するため、比較的大きな領域を必要とするという課題があった。
【0012】
また、立体印刷物P´は、どの観察方向でも立体画像を観察することができるものであるため、潜像凹版のように、所定の観察角度では潜像画像を観察することができないが、所定の観察角度のみで潜像画像を観察することができるという判別方法は有していないため、新たな真偽判別方法を備えた印刷物が求められていた。
【0013】
本発明は、前述した課題にかんがみなされたものであり、盛り上がりを有する画線によって右目画像及び左目画像を形成することで、複写、複製防止効果及び所定の観察方向のみで立体画像を観察することができ、かつ、従来の潜像凹版を有する印刷物及び立体画像を有する印刷物と比較して、大きな領域を必要せずに立体画像を形成することができる立体印刷物である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の立体印刷物は、基材の少なくとも一部に、盛り上がりを有する画線によって立体な画像が形成された立体印刷物であって、前述の立体画像は、同一の形状によって配置された一対の第1の画像領域と第2の画像領域が第1の方向に沿って、各々の画像の中心を起点に相対する方向に所定の角度傾けた状態で重畳して配置され、第1の画像領域は、盛り上がりのある画線によって規則的に所定の画線幅で形成された同心円弧又は放射状の画線によって形成された右目画像又は左目画像のいずれか一方が形成され、前記第2の画像領域は、盛り上がりのある画線によって規則的に所定の画線幅で形成された同心円弧又は放射状の画線によって形成された右目画像又は左目画像の他方が形成され、立体画像を真上から観察すると右目画像と左目画像が重複した2次元画像が観察され、立体画像を所定の角度傾けて観察すると右目画像と左目画像が交差して観察されることで立体的な3次元画像が観察できる立体印刷物であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の立体印刷物は、右目画像と左目画像との中心軸が、3.7〜7.4度異なっていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の立体印刷物は、同心円弧又は放射状の画線幅が、0.005〜0.05mmであることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の立体印刷物は、同心円弧の画線ピッチが、0.1〜1.0mmであることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の立体印刷物は、同心円弧又は放射状の画線高さが、0.1〜1.0mmであることを特徴としている。
【0019】
さらに、本発明の立体印刷物における右目画像及び左目画像は、各々の画像の輪郭を形成したフレーム画像が形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の立体印刷物における立体画像は、真上方向から観察すると立体視することができないが、所定の観察方向から、「交差視」で観察した場合のみ立体視することができることから、高度な真偽判別方法を有する印刷物を得る。
【0021】
また、本発明の立体印刷物は、凹版印刷等の盛り上がりを有する画線構成で形成しているため、真上方向から観察すると2次元画像を観察することができ、斜め方向から観察すると3次元画像が観察されるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明の立体印刷物を複写機又はプリンタ等で複写、複製した場合に盛り上がりを有する画線は再現されないため、斜め方向から観察すると、本発明の立体画像は黒く視認濃度が変化するが、真上から観察した際の視認濃度を維持し視認濃度は変化しない。したがって、複写物においては、立体画像が観察されないため、高度な複写、複製防止効果を得るという効果を奏する。
【0023】
また、本発明の立体印刷物の立体画像は、従来の潜像凹版のように、潜像部と背景部を形成するという2つの大きな領域を必要としないため、デザインの自由度が高いという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0026】
本発明の特徴は、既存の有価証券類の料額、記号、マーク及び図柄等の形態及び領域を利用して、立体画像を作製し、所定の観察方向から観察すると立体的に観察される画像を得るものである。このため、例えば、既存の商品券の料額を用いて、本発明の立体画像に展開する方法で説明する。本発明の立体画像は、有価証券類の新しい料額、記号、マーク及び図柄をデザインし作製しても良い。なお、本発明の「立体視」とは、所定の観察方法によって立体的な画像を観察することができるものであり、画像が3次元的に立体感や奥行き感を得るものである。
【0027】
図1は、既存の商品券P´の料額S´を示したものであり、料額S´は、凹版印刷で設けた一般的な画線構成のため、2次元的な画像として観察される。
図2(a)は、
図1の料額S’の「1000」のうち、一つの「0」のみを拡大した図であり、
図2(b)は、「0」の輪郭(以下「フレーム画像F」という。)のみを抽出している。
図2(c)は、同一の大きさを有する2つのフレーム画像Fを用意し、右目画像Lとして形成する第1のフレーム画像1Fと、左目画像Rとして形成する第2のフレーム画像2Fを、第1の方向に沿って中心を起点に相対する方向に角度を変えて重ねた図である。各フレーム画像内には、盛り上がった画線を設けることで立体印刷物を作製することができる。なお、本発明における右目画像Lと左目画像Rの中心とは、基準画像の縦方向及び横方向の中心をとおる画線を引いた際に交差する点をいう。また、以降の説明では、本発明の構成をより理解できるように、以下「0」のみの構成で説明する。
【0028】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態における立体印刷物の構成を説明する。
図3は、右目画像L、
図4は、左目画像Rの構成を示している。まず、右目画像Lの作製方法は、
図3(a)のように、右目Mを中心に設けられた複数の同心円弧Lgで配置する。次に、第1のフレーム画像1F内に同心円弧Lgを配置するが、まず、
図3(b)のように、フレーム画像1Fの縦方向の中心線1FLを右目Mの真上方向に配置した後、フレーム画像1Fを角度θ分傾け、フレーム画像1F内の同心円弧Lgのみを選択することで、
図3(c)に示す右目画像Lとなる。このとき、X軸方向の移動距離xと右目Mとフレーム画像1Fの中心までの観察距離をdとすると、以下の式でフレーム画像1Fを傾ける角度が求められる。
【0030】
次に、
図4(a)〜(c)の左目画像Rの作製方法は、右目画像Lと同様の方法で作製し、第2のフレーム画像2F内の同心円弧Rgを選択することで、
図4(c)に示す左目画像Rとなる。
図5(a)は、
図3(c)に示す右目画像Lと
図4(c)に示す左目画像Rとを合成した図であり、
図5(b)の合成した立体画像3Dの料額Sを凹版印刷等の盛り上がった画線で設けることで、本発明の立体印刷物Pを作製することができる。なお、右目画像Lと左目画像RとのX軸方向の移動距離xは同一であり、右目Mと左目Hの距離Xの1/2である。また、左目画像Rと右目画像Lとの合成は、夫々の画像の中心を、右目Mと左目Hの距離Xの中間位置から真上方向に一致させることが望ましい。理由は、後述する真上からの立体画像の読み取り性を一致させることで、より高度な読取適性を得るためである。ただし、夫々の画像の中心が若干異なっていても、真上方向からの立体画像の読み取り性を考慮しなければ、夫々の画像の中心を必ずしも一致させなくても良い。
【0031】
また、右目画像Lの同心円弧Lgと左目画像Rの同心円弧Rgの画線幅は、0.005〜0.05mmの範囲とすることができ、好ましくは、0.01〜0.025mmが望ましい。次に、同心円弧Lg及び同心円弧Rgの画線ピッチPは、0.1〜1.0mmの範囲とすることができ、好ましくは、0.02〜0.05mmが望ましい。さらに、同心円弧Lg及び同心円弧Rgの画線高さTは、0.1〜1.0mmの範囲とすることができ、好ましくは、0.02〜0.08mmが望ましい。また、右目Mと左目Hの間隔Kは、一般的に62〜68mmといわれているため、適宜選択すれば良い。また、観察距離dは、250mm〜500mmの範囲とすることができ、好ましくは、300mm〜450mmが望ましい。なお、本発明の「同心円弧」とは、左目H又は右目Mを中心とした同心円の画線であり、「画線ピッチ」とは、隣り合う同心円弧の画線間隔をいう。
【0032】
次に、第1の実施の形態における立体画像の視認原理について
図6を用いて説明する。
図6(a)に示すように、
図5(b)に示す料額Sを
図6(a)に示す斜め方向Nから
図6(b)の「交差視」で観察すると、右目Mでは、右目画像Lの盛り上がった同心円弧Lgが非画線部を隠蔽し、右目画像Lを黒く観察することができる。一方、左目Hでは、左目画像Rの盛り上がった同心円弧Rgが非画線部を隠蔽し、左目画像Rを黒く観察することができる。したがって、右目Mでは、右目画像Lのみが観察され、左目Mでは、左目画像Rのみが観察される状態であるが、脳内では、双方の目で観察された画像が組み合わされた状態として認識される。その結果、
図7に示すように、画像に立体感や奥行き感を得ることができることから、料額Sを立体視することができる。
【0033】
前述したように、右目画像L及び左目画像Rに同心円弧を用いることで、料額Sを斜め方向Nから「交差視」で観察した場合、右目Mと左目Hでは、どの観察位置でも同心円弧の画線高さが非画線部を同等に隠蔽し、右目画像Lと左目画像Rとが同一画像で、かつ、同一濃度となることで立体視することができる。また、右目画像Lのフレーム画像1F及び左目画像Rのフレーム画像2Fがなくても立体視することができるため、フレーム画像を設けなくて構わない。なお、観察距離とは、右目M及び左目Mから、交差視で観察したときの交差点までの距離をいう。
【0034】
また、
図6(a)に示す真上方向Uから立体画像3Dの料額Sを「交差視」や「通常視」で観察した場合について説明する。料額Sは、同一の画線幅及び画線ピッチの同心円弧で形成された右目画像Lと左目画像Rが形成されているが、料額Sを真上方向Uから「交差視」や「通常視」で観察した場合、同心円弧が非画線部を隠蔽しないため、料額Sを立体視することができず、一般的な2次元画像として観察される。
【0035】
また、立体画像3Dの料額Sを真上方向から観察した場合は、画像としての読み取り性も重要である。そこで、観察距離と右目画像L及び左目画像Rのズレ量による画像の読み取り性について説明する。
図8は、本発明の構成で作製した立体画像3Dの料額Sの「0」を3つ配置した模式図である。3つの「0」は、観察距離dが異なり、上段の「0」は、観察距離dが400mm、中段の「0」は、観察距離dが300mm、下段の「0」は、観察距離dが200mmである。また、
図9(a)は、
図8の上段の「0」を観察した状態を示すものであり、
図9(b)は、
図8の中段の「0」を観察した状態を示すものであり、
図9(c)は、
図8の下段の「0」を観察した状態を示したものである。
【0036】
前述した、
図9(a)〜(c)の観察される画像を比較すると、観察距離dが大きくなるにつれて、右目画像Lと左目画像Rのズレ量が小さくなり、
図2(b)のフレーム画像Fに近づくことから情報として読み取りやすくなる。逆をいえば、右目画像Lと左目画像Rのズレ量が大きいと情報としての読み取り性が悪くなり、有価証券のデザインとして相応しない。したがって、観察距離dは、250mm〜500mmとすることでデザイン性を保つことができ、好ましくは、300mm〜450mmが望ましい。一方、観察距離dを500mm以上にすると、右目画像Lと左目画像Rのズレ量が更に小さくなり、真上方向Uから観察した場合の画像の読み取り性は高いが、斜め方向Nから観察すると、観察距離が遠くなることで、同心円弧の画線を正確に観察することができなくなり、画像を立体的に観察しづらい状態となる。
【0037】
図10は、右目画像Lの中心線1FLと左目画像Rの中心線2FLを示し、右目Mと左目Hの距離を65mmとした場合、中心線1FLと中心線2FLとの角度2θは、
図3及び
図4と、前述した式から算出される。例えば、観察距離dが250mmでは、角度2θは約3.7度、観察距離dが500mmでは、角度2θは約7.4度である。
【0038】
なお、本発明の構成を「0」のみの構成で説明してきたが、以上の構成により料額全体の「1000」を作製すると、
図1の既存の商品券P’の料額S’は、
図11に示すように、本発明の構成で立体画像3Dの料額Sを商品券Pとして作製することで、所定の観察角度で交差視により観察される立体的な画像「1000」が出現する。
【0039】
本発明の立体印刷物Pの立体画像3Dは、真上方向Uからは立体視することができないが、斜め方向Nから「交差視」で観察すると立体的な画像を観察することができる。そこで、立体画像3Dの立体視をより向上させる構成は、立体視した場合の画像のコントラストを高くすれば良い。具体的には、立体画像の内側に空白部を備える図柄、例えば、文字数字であれば「0」、「8」「9」、「A」、「D」、記号であれば「○」、「△」、「☆」等が挙げられる。理由は、立体視した場合の画像内部の視認濃度が下がることで、画像輪郭における見かけ上の視認濃度が上がり、立体視しやすくなるからである。
【0040】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態における立体印刷物Pについて説明する。なお、本発明の第1の実施の形態と同様の構成については、説明を省略する。
図12は、右目画像L、
図13は、左目画像Rの構成を示したものである。まず、右目画像Lの作製方法は、
図12(a)のように、右目Mを中心に設けられた複数の放射線Lgで配置する。次に、第1のフレーム画像1F内に放射線Lgを配置するが、まず、フレーム画像1Fの縦方向の中心線1ALを右目Mの真上方向に配置し、
図12(b)のように、フレーム画像1Fを角度θ分傾けた後、フレーム画像1F内の放射線Lgのみを選択することで、
図12(c)に示す右目画像Lとなる。このとき、X軸方向の移動距離xと右目Hとフレーム画像1Fの中心までの観察距離をdとすると、前述した式により角度θを求めることができる。
【0041】
次に、
図13(a)〜(c)の左目画像Rの作製方法は、右目画像Lと同様の方法で作製し、第2のフレーム画像2F内の放射線Rgを選択することで左目画像Rとなる。さらに、
図14(a)は、
図12の右目画像Lと
図13の左目画像Rとを合成した図であり、
図14(b)は、合成した立体画像3Dの料額Sを凹版印刷等の盛り上りを有する画線で設けることで、本発明の立体印刷物Pを作製することができる。
【0042】
また、右目画像Lの放射線Lgと左目画像Rの放射線Rgの画線幅は、0.005〜0.05mmの範囲とすることができ、好ましくは、0.01〜0.025mmが望ましい。放射線Lg及び放射線Rgの画線ピッチPは、0.1〜1.0mmの範囲とすることができ、好ましくは、0.02〜0.05mmが望ましい。放射線Lg及び放射線Rgの画線高さTは、0.1〜1.0mmの範囲とすることができ、好ましくは、0.02〜0.05mmが望ましい。なお、本発明の「放射線」とは、左目H又は右目Mを中心として、所定の角度ずつ異ならせた直線群の画線であり、「画線ピッチ」とは、右目画像L内及び左目画像R内の隣り合う放射線の画線間隔をいう。
【0043】
次に、第2の実施の形態における立体画像の視認原理について
図6及び
図15を用いて説明する。
図6(a)に示すように、
図14(b)に示す料額Sを
図6(a)の斜め方向Nから
図6(b)の「交差視」で観察すると、右目Mでは、右目画像Lの盛り上がった放射線Lgが規則的に直線状に配列することで視認濃度が高くなり、右目画像Lを黒く観察することができ、左目Hでは、左目画像Rの盛り上がった放射線Rgが規則的に直線状に配列することで視認濃度が高くなり、左目画像Rを黒く観察することができる。したがって、右目Mでは、右目画像Lのみが観察され、左目Mでは、左目画像Rのみが観察される状態であるが、脳内では、双方の目で観察された画像が組み合わされた状態として認識される。その結果、
図15に示すように、画像が立体感や奥行きを感じることができることから、本発明の料額Sは、立体的な画像として観察される。なお、右目画像L及び左目画像Rに放射線を用いることで、斜め方向Nから「交差視」で観察した場合、料額Sは、どの観察位置でも放射線を規則的な直線状として観察することができることで、右目画像Lと左目画像Rとが同一画像で、かつ、同一濃度の立体画像として観察することができる。なお、真上方向Uからの2次元画像の視認性及び画像の読み取り性及び最適な立体視の構成については、第1の実施の形態における構成と同一であるため、説明を省略する。
【0044】
以下に本発明の実施例を説明するが、実施例1及び実施例2は、料額部分に立体画像を形成したものであり、実施例3及び実施例4は、文字部分に立体画像を形成したものである。また、実施例1と実施例3は前述した第1の実施の形態で説明した構成であり、実施例2と実施例4は、前述した第2の実施の形態で説明した構成で立体印刷物を作製したものである。
【実施例1】
【0045】
実施例1は、前述した第1の実施の形態における商品券Pの料額Sを立体画像3Dとした立体印刷物である。例えば、
図11に示すように、白色の用紙に凹版印刷で黒色インキを用いて料額Sを立体画像3Dとした。
図15は、料額Sを拡大した図であり、右目画像Lの同心円弧Lg及び左目画像Rの同心円弧Rgの画線幅を0.12mm、同心円弧Lg及び同心円弧Rgの画線ピッチPを0.25mm、同心円弧Lg及び同心円弧Rgの画線高さTを0.03mmとした。なお、観察距離dは、400mmとし、右目Mと左目Hの間隔Kは65mmである。
【0046】
実施例1の商品券Pにおける料額Sを真上方向Uから観察した場合、料額Sは、2次元画像として観察されるため、立体的な画像として観察することができない。一方、料額Sを斜め方向Nから「交差視」で観察した場合、
図17に示すように、料額Sを立体的に観察することができた。したがって、実施例1における立体印刷物は、凹版印刷によって盛り上がりのある画線構成とすることで、レンチキュラーレンズ等を用いることなく、真上方向Uから観察すると2次元画像が観察され、斜め方向Nから「交差視」で観察すると立体的な3次元画像を観察することができるという、高度な真偽判別を行うことができた。
【0047】
また、実施例1における立体印刷物を複写機又はプリンタ等で複写、複製すると、同心円弧Lg及び同心円弧Rgの盛り上がった画線は平坦な画線となるため、斜め方向から観察した場合であっても料額Sに形成された非画線部が隠蔽されないため、真上方向Uから観察した場合の視認濃度を維持し、視認濃度は変化しない。したがって、複写物の料額Sにおける立体的な画像を観察することができるという立体視効果は著しく低下するため、高度な複写防止効果を有することが分かった。なお、本発明の立体画像を盛り上がりのない、例えば、オフセット印刷のような平坦な画線で作製しても、視認性が低いが立体的な画像を観察することができるが、複写、複製した場合に、真正な印刷物と同様の構成となるため、立体的な画像の視認効果が同一となることから、複写、複製防止効果はない。
【実施例2】
【0048】
実施例2における立体印刷物は、実施例1の料額Sを前述した第2の実施の形態における画線構成により商品券Pを作製したものである。このため、実施例1と同様の構成については、説明を省略する。
図18は、料額Sを拡大した図であり、右目画像Lの放射線Lgと左目画像Rの放射線Rgの画線幅を0.12mmとし、放射線Lg及び放射線Rgの画線ピッチPを0.25mmとし、放射線Lg及び放射線Rgの画線高さTを0.03mmとした。各観察方向の視認画像及びその効果は実施例1と同様である。なお、料額Sを斜め方向から、「交差視」で観察した場合、
図17に示すように、料額Sを立体的な画像として観察することができた。
【実施例3】
【0049】
実施例3における立体印刷物は、
図19に示すように、「千円」の文字Jを立体画像3Dとして形成したものであり、
図20は、
図19における文字Jを拡大した図である。なお、右目画像Lのフレーム画像と左目画像Rのフレーム画像及びその他の構成については、実施例1と同様なため、説明を省略する。
【0050】
実施例3における立体印刷物を真上方向Uから観察した場合、文字Jは、2次元画像として観察されるが、斜め方向Nから「交差視」で観察した場合、
図21に示すように、文字Jを立体的な画像として観察することができた。
【実施例4】
【0051】
実施例4における立体印刷物は、
図22の立体画像3Dの拡大図に示すように、実施例3の文字Jを第2の実施の形態における構成とした例である。なお、右目画像Lのフレーム画像と左目画像Rのフレーム画像及びその他の構成については、実施例1と同様なため、説明を省略する。
【0052】
実施例4における立体印刷物を真上方向Uから観察した場合、文字Jは、2次元画像として観察されるが、斜め方向Nから「交差視」で観察した場合、
図21に示すように、文字Jを立体的な画像として観察することができた。