【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 JOUNAL OF CHEMICAL ENGINEERING OF JAPAN,VOL.43,No.4の355〜362ページ及び奥付のコピー 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
いわゆるローター・ステータータイプのミキサーは、一般的に、
図1に示すように、複数個の開口部1を備えているステーター2と、ステーター2の内側に所定の隙間δを空けて配置されるローター3とからなるミキサーユニット4を備えている。このようなローター・ステータータイプのミキサーは、高速で回転するローター3と、固定されているステーター2との間の隙間近傍で、高い剪断応力が発生することを利用して、流体などに対して、乳化、分散、微粒化、混合などの処理を行うものであり、食品、医薬品、化学品などの分野において、処理液の調合、調製などの用途で広く使用されている。
【0003】
ローター・ステータータイプのミキサーは、処理される流体の循環方式に応じて、
図2の矢印5aで示すように処理液が循環する外部循環式ミキサー、
図2の矢印5bで示すように処理液が循環する内部循環式ミキサーに分類されることがある。
【0004】
このようなローター・ステータータイプのミキサーに関して多種多様な形状や循環方式が提供されている。例えば、特許文献1(粒子形成のための回転子固定子装置および方法)には、複数個の開口部を備えているステーターと、当該ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとを備えているミキサーを薬剤、栄養補助食品、食品、化学品、化粧品などの幅広い分野で利用される、粒子の形成に適用する微細粒子の生成のための装置、方法が提案されている。これによれば、効率的で、簡単で、容易にスケールアップすることができるとされている。
【0005】
また、以前から種々の形状のミキサーの性能評価方法として、幾つかの指標(理論)が報告されている。
【0006】
例えば、前述したローター・ステータータイプのミキサーに限らず、液-液分散操作に着目してみると、液滴径の寸法は、平均的なエネルギー消散率の計算値(大小)で議論できることが報告されている(非特許文献1、2)。ただし、非特許文献1、2では、平均的なエネルギー消散率の計算方法は殆ど明らかにされていない。
【0007】
個別のミキサーに適用でき、その実験結果を整理した研究例は幾つか報告されている(非特許文献3〜6)。ただし、これらの研究例(非特許文献3〜6)では、ミキサーの微粒化効果に対して、ローターとステーターの隙間(ギャップ)のみの影響や、ステーターの開口部(ホール)のみの影響などを考察しており、各ミキサーで異なる内容しか報告されていない。
【0008】
ローター・ステータータイプのミキサーの微粒化機構(メカニズム)を考察した研究例は幾つか報告されている(非特許文献7、8)。これらでは、液滴の微粒化効果には、乱流のエネルギー消散率が寄与することや、その微粒化効果には、処理液の剪断応力を受ける頻度(剪断頻度)が影響することが示唆されている。
【0009】
ローター・ステータータイプのミキサーの スケールアップ方法では、長時間で運転して得られる最終的な液滴径(最大安定の液滴径)に関して幾つか報告されている(非特許文献9)。しかし、実際の製造現場では実用的ではなく、あまり有用ではない。つまり、ミキサーの処理(撹拌、混合)時間を考慮し、所定の時間で運転して得られる液滴径を推定した有用な研究例は殆ど報告されていない。仮に、ミキサーの処理時間を考慮して、液滴径を推定していても、それは単なる実測値(実験値)に基づく現象(事実)を報告しているのみであり、理論的に解析した研究例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2005−506174号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Davies, J. T.; “Drop Sizes of Emulsions Related to Turbulent Energy Dissipation Rates,” Chem. Eng. Sci., 40, 839−842 (1985)
【非特許文献2】Davies, J. T.; “A Physical Interpretation of Drop Sizes in Homogenizers and Agitated Tanks, Including the Dispersion of Viscous Oils,” Chem. Eng. Sci., 42, 1671−1676 (1987)
【非特許文献3】Calabrese, R. V., M. K. Francis, V. P. Mishra and S. Phongikaroon; “Measurement and Analysis of Drop Size in Batch Rotor-Stator Mixer,” Proc. 10th European Conference on Mixing, pp. 149−156, Delft, the Netherlands (2000)
【非特許文献4】Calabrese, R. V., M. K. Francis, V. P. Mishra, G. A. Padron and S. Phongikaroon; “Fluid Dynamics and Emulsification in High Shear Mixers,” Proc. 3rd World Congress on Emulsions, pp. 1−10, Lyon, France (2002)
【非特許文献5】Maa, Y. F., and C. Hsu; “Liquid−Liquid Emulsification by Rotor/Stator Homogenization,” J. Controlled. Release, 38, 219−228 (1996)
【非特許文献6】Barailler, F., M. Heniche and P. A. Tanguy; “CFD Analysis of a Rotor-Stator Mixer with Viscous Fluids,” Chem. Eng. Sci., 61, 2888−2894 (2006)
【非特許文献7】Utomo, A. T., M. Baker and A. W. Pacek; “Flow Pattern, Periodicity and Energy Dissipation in a Batch Rotor-Stator Mixer,” Chem. Eng. Res. Des., 86, 1397−1409 (2008)
【非特許文献8】Porcelli, J.; “The Science of Rotor/Stator Mixers,” Food Process, 63, 60−66 (2002)
【非特許文献9】Urban K.; “Rotor-Stator and Disc System for Emulsification Processes,” Chem. Eng. Technol., 29, 24−31 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述した特許文献1には所定のミキサーの優位性(性能)や設計の数値範囲などが記載されているが、高性能なミキサーの設計の数値範囲などに関して理論的な根拠が記載されておらず、高性能なミキサーの種類や形状などに関して記載されていない。
【0013】
前述したように、以前から種々の形状のミキサーの性能評価方法として、幾つかの指標(理論)が報告されているが、これらの指標は、あくまでも形状の同じ個別のミキサーにしか適用できない場合が多く、実際には形状の異なる多種多様なミキサーには適用できない場合が殆どである。
【0014】
このように、ローター・ステータータイプのミキサーの性能評価方法やスケールアップ方法に関する研究例は殆ど存在せず、形状の異なる多種多様なミキサーに適用でき、その実験結果を包括的に整理した研究例も殆ど存在していない。
【0015】
ローター・ステータータイプのミキサーの性能評価方法やスケールアップ方法に関して、従来技術では、(1)個別のミキサー毎に、(2)小規模の装置を使用し、(3)長時間で運転して得られる最終的な液滴径(最大安定の液滴径)を評価している場合が殆どであった。つまり、従来技術では、(A)多種多様なミキサーに、(B)大規模(実製造規模)の装置を適用し、(C)所定の時間で運転して得られる液滴径や、所定の液滴径が得られるまでの処理(撹拌)時間を評価や推定していなかった。
【0016】
そのため、現実的には、実際の処理液を使用して試行錯誤しながら、ミキサーを性能評価し、設計(開発、作製)していた。
【0017】
そこで、本発明では、特にステーターの孔部での影響力が大きい多種多様な形状のミキサーに適用できる包括的な性能評価方法を確立すること、そのミキサーの運転条件(処理時間)を考慮したスケールアップ方法を確立すること、さらに、それらの性能評価方法やスケールアップ方法を利用した食品、医薬品、化学品などの製造方法(微粒化方法)を確立することを課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1記載の発明は、
複数個の開口部を備えているステーターと、ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとからなる、ミキサーユニットを備えているローター・ステータータイプのミキサーであって、当該ミキサーの構造が、
式1を用いて計算して、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を
計算することにより
当該ミキサーにより被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すときに、所定の運転時間で、被処理流体の所定の液滴径を得ることができるように
、
設計され、
前記ステーターが前記ローターに対して、前記ローターの回転軸が延びている方向で近付く、又は離れることができるように構成されていることを特徴とするミキサー。
【数1】
【0019】
ここで、式1中、
ε
t:全エネルギー消散率 [m
2/s
3]
ε
l:ステーターの開口部の局所エネルギー消散率 [m
2/s
3]
f
s_h:剪断頻度
t
m :混合時間 [s]
A:ステーターの開口率 [-]
n
r :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
h :ステーターの高さ [m]
l :ステーターの厚み [m]
d :ステーターの孔径 [m]
N
p :動力数 [-]
N
qd :流量数 [-]
N :回転数 [1/s]
V :液量 [m
3]
C
h:ステーターにおける形状依存項 [m
5]
である。
【0021】
請求項
2記載の発明は、
前記ミキサーは、周径の異なる複数のステーターを備えており、各ステーターの内側にそれぞれ前記ローターが所定の隙間を空けて配置されることを特徴とする請求項
1記載のミキサーである。
【0022】
請求項
3記載の発明は、
前記被処理流体は、前記ステーターとその内側に所定の隙間を空けて配置される前記ローターとの間の隙間部に導入されることを特徴とする請求項1
又は2記載のミキサーである。
【0023】
請求項
4記載の発明は、
前記ローターは、回転中心から放射状に延びる複数枚の攪拌翼を供えていることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか一項記載のミキサーである。
請求項5記載の発明は、
複数個の開口部を備えているステーターと、ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとからなる、ミキサーユニットを備えているローター・ステータータイプのミキサーを製造する方法であって、当該ミキサーの構造を、
式1を用いて計算して、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を計算することにより
当該ミキサーにより被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すときに、所定の運転時間で、被処理流体の所定の液滴径を得ることができるように、ミキサーを製造することを特徴とする、ミキサーの製造方法。
【数2】
ここで、式1中、
εt:全エネルギー消散率 [m2/s3]
εl:ステーターの開口部の局所エネルギー消散率 [m2/s3]
fs_h:剪断頻度
tm :混合時間 [s]
A:ステーターの開口率 [-]
nr :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
h :ステーターの高さ [m]
l :ステーターの厚み [m]
d :ステーターの孔径 [m]
Np :動力数 [-]
Nqd :流量数 [-]
N :回転数 [1/s]
V :液量 [m3]
Ch:ステーターにおける形状依存項 [m5]
である。
請求項6記載の発明は、
前記ステーターと、ローターとが、ローターの回転軸が延びている方向で相互に近付く、又は離れることができるようにミキサーを製造することを特徴とする請求項5記載のミキサー製造方法である。
請求項7記載の発明は、
前記ミキサーが、周径の異なる複数のステーターを備えており、各ステーターの内側にそれぞれ前記ローターが所定の隙間を空けて配置されるようにミキサーを製造することを特徴とする請求項5又は6記載のミキサー製造方法である。
請求項8記載の発明は、
前記被処理流体が、前記ステーターとその内側に所定の隙間を空けて配置される前記ローターとの間の隙間部に導入されるようにミキサーを製造することを特徴とする請求項5乃至7の何れか一項に記載のミキサー製造方法である。
請求項9記載の発明は、
前記ローターが、回転中心から放射状に延びる複数枚の攪拌翼を供えているようにミキサーを製造することを特徴とする請求項5乃至8の何れか一項に記載のミキサー製造方法である。
【0024】
請求項
10記載の発明は、
複数個の開口部を備えているステーターと、ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとからなる、ミキサーユニットを備えているローター・ステータータイプのミキサーの性能を評価する方法であって、
以下の式1により全エネルギー消散率:ε
tを求め、この式1に含まれる、ローター・ステーターの寸法と運転時の動力・流量を測定することにより得られる各ミキサーに固有の数値であるステーターにおける形状依存項の値の多寡を評価することにより、
被処理流体に対する微粒化、乳化、分散、混合、溶解、撹拌処理におけるミキサーの性能を評価する
ことを特徴とする、ミキサーの性能の評価方法である。
【数3】
【0025】
ここで、式1中、
ε
t:全エネルギー消散率 [m
2/s
3]
ε
l:ステーターの開口部の局所エネルギー消散率 [m
2/s
3]
f
s_h:剪断頻度
t
m :混合時間 [s]
A:ステーターの開口率 [-]
n
r :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
h :ステーターの高さ [m]
l :ステーターの厚み [m]
d :ステーターの孔径 [m]
N
p :動力数 [-]
N
qd :流量数 [-]
N :回転数 [1/s]
V :液量 [m
3]
C
h:ステーターにおける形状依存項 [m
5]
である。
【0026】
請求項
11記載の発明は、
複数個の開口部を備えているステーターと、ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとからなる、ミキサーユニットを備えているローター・ステータータイプのミキサーをスケールアップ、あるいはスケールダウンする方法であって、
式1で求められる当該ミキサーの実験機規模及び/又はパイロットプラント規模における全エネルギー消散率:ε
tの値と、スケールアップあるいはスケールダウンする当該ミキサーの実製造機における全エネルギー消散率:ε
tの計算値とを一致させることにより、スケールアップあるいはスケールダウンすることを特徴とする
、ミキサーのスケールアップ方法あるいはスケールダウン方法である。
【数4】
【0027】
ここで、式1中、
ε
t:全エネルギー消散率 [m
2/s
3]
ε
l:ステーターの開口部の局所エネルギー消散率 [m
2/s
3]
f
s_h:剪断頻度
t
m :混合時間 [s]
A:ステーターの開口率 [-]
n
r :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
h :ステーターの高さ [m]
l :ステーターの厚み [m]
d :ステーターの孔径 [m]
N
p :動力数 [-]
N
qd :流量数 [-]
N :回転数 [1/s]
V :液量 [m
3]
C
h:ステーターにおける形状依存項 [m
5]
である。
【0028】
請求項
12記載の発明は、
複数個の開口部を備えているステーターと、ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとからなる、ミキサーユニットを備えているローター・ステータータイプのミキサーを利用し、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すことにより製造した食品、医薬品あるいは化学品であって、
式1を用いて計算することにより、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を
計算して、前記ミキサーにより、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施して製造した
、望ましい液滴径を有している、食品、医薬品あるいは化学品である。
【数5】
【0029】
ここで、式1中、
ε
t:全エネルギー消散率 [m
2/s
3]
ε
l:ステーターの開口部の局所エネルギー消散率 [m
2/s
3]
f
s_h:剪断頻度
t
m :混合時間 [s]
A:ステーターの開口率 [-]
n
r :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
h :ステーターの高さ [m]
l :ステーターの厚み [m]
d :ステーターの孔径 [m]
N
p :動力数 [-]
N
qd :流量数 [-]
N :回転数 [1/s]
V :液量 [m
3]
C
h:ステーターにおける形状依存項 [m
5]
である。
【0030】
請求項
13記載の発明は、
複数個の開口部を備えているステーターと、ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとからなる、ミキサーユニットを備えているローター・ステータータイプのミキサーを利用し、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すことにより、食品、医薬品あるいは化学品を製造する方法であって、
式1を用いて計算することにより、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を
計算して、
望ましい液滴径を有している、食品、医薬品あるいは化学品を製造する
ことを特徴とする、食品、医薬品あるいは化学品の製造方法である。
【数6】
【0031】
ここで、式1中、
ε
t:全エネルギー消散率 [m
2/s
3]
ε
l:ステーターの開口部の局所エネルギー消散率 [m
2/s
3]
f
s_h:剪断頻度
t
m :混合時間 [s]
A:ステーターの開口率 [-]
n
r :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
h :ステーターの高さ [m]
l :ステーターの厚み [m]
d :ステーターの孔径 [m]
N
p :動力数 [-]
N
qd :流量数 [-]
N :回転数 [1/s]
V :液量 [m
3]
C
h:ステーターにおける形状依存項 [m
5]
である。
【発明の効果】
【0032】
本発明においては、全エネルギー消散率:ε
tという指標を適用している。各社から提供される多種多様な形状や循環方式のミキサーの全エネルギー消散率:ε
tは、ローター(回転子)とステーター(固定子)の幾何学的な寸法、運転の動力と流量の測定値から個別に計算される。そして、この全エネルギー消散率:ε
tは、各ミキサーのステーターにおける形状依存項と運転条件依存項とに分離して表現される。
【0033】
全エネルギー消散率:ε
tという指標を用いることにより、各ミキサーの性能を評価する場合、例えば、液滴径の微粒化傾向によって性能を評価するときには、ステーターにおける形状依存項の計算値(大小)を使用することができる。
【0034】
また、各ミキサーのスケールアップ・スケールダウンにおいては、ステーターにおける形状依存項と運転条件依存項とを併せた全エネルギー消散率:ε
tの計算値を使用し、その計算値を一致させることで設計することができる。
【0035】
これらの知見によって、理論的かつ実験的に従来品よりも微粒化効果や乳化効果の高いミキサー(高性能のミキサー)を開発(設計)するようにしたものである。
【0036】
すなわち、本発明においては、各ミキサーの性能評価方法へ適用できる全エネルギー消散率:ε
tの数値で、高性能の範囲を指定する。具体的には、全エネルギー消散率:ε
tを導き出すために、本発明が提案する計算式におけるステーターの形状依存項(係数)の数値で、従来のミキサー(従来品)を含まない範囲を設定したり、従来の指標(理論)では容易に計算できない(実測しないと困難な)範囲を設定することができる。
【0037】
そして、ローター・ステータータイプのミキサーを利用し、被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すことにより、食品、医薬品あるいは化学品を製造する方法において、本発明が提案する計算式に基づいて、全エネルギー消散率:ε
t[m
2/s
3]を計算することにより、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を推定して、望ましい液滴径を有している食品、医薬品あるいは化学品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明においては、ローター・ステータータイプのミキサーにおける微粒化効果(微粒化傾向)を議論(比較や評価)する目的で、本発明が提案する下記の式1によって導き出される全エネルギー消散率:ε
tを用いている。
【数6】
【0040】
ここで、式1中、
ε
t:全エネルギー消散率 [m
2/s
3]
ε
l:ステーターの開口部の局所エネルギー消散率 [m
2/s
3]
f
s_h:剪断頻度
t
m :混合時間 [s]
A:ステーターの開口率 [-]
n
r :ローターブレードの枚数 [-]
D :ローターの直径 [m]
δ :ローターとステーターの隙間 [m]
h :ステーターの高さ [m]
l :ステーターの厚み [m]
d :ステーターの孔径 [m]
N
p :動力数 [-]
N
qd :流量数 [-]
N :回転数 [1/s]
V :液量 [m
3]
C
h:ステーターにおける形状依存項 [m
5]
である。
【0041】
上記の通り、全エネルギー消散率:ε
tは、ローターとステーターの隙間(ギャップ)における局所エネルギー消散率:ε
1 と、剪断頻度:f
s_hの積(掛け算)として表現できる。
【0042】
本発明においては、前述する全エネルギー消散率:ε
tを導き出す本発明が提案する計算式に含まれる、ローター・ステーターの寸法と運転時の動力・流量を測定することにより得られる各ミキサーに固有の数値であるステーターにおける形状依存項:C
h [-]の値の多寡を評価することにより、ミキサーの性能を評価している。
【0043】
前述する全エネルギー消散率:ε
t を導き出す本発明が提案する計算式に明らかなように、ステーターにおける形状依存項:C
h [-]は、ステーターの開口率:A [-]、ローターブレードの枚数:n
r [-]、ローターの直径:D [m]、ローターとステーターの隙間:δ [m] 、ステーターの高さ:h [m]、ステーターの孔径:d [m]、ステーターの厚み:l [m]、流量数:N
qd [-]、動力数:N
p [-]に基づく各ミキサーに固有の数値である。
【0044】
そこで、この値の大きさを比較(評価)することで、多種多様なミキサーの性能を評価できる。
【0045】
そこで、全エネルギー消散率:ε
tを導き出す本発明が提案する計算式中のステーターにおける形状依存項:C
h [-]の値の大きさを比較(評価)することで、多種多様なミキサーの性能を評価できる。
【0046】
すなわち、全エネルギー消散率:ε
tを導き出す本発明提案の計算式に含まれる、各ミキサーに固有の数値である、ステーターにおける形状依存項:C
h [-]の値の大きさを比較(評価)することで、多種多様なミキサーの性能を評価できると共に、高性能のミキサーを設計(開発、作製)できる。
【0047】
また、ローター・ステータータイプのミキサーの実験機規模及び/又はパイロットプラント規模における全エネルギー消散率:ε
tの値と、スケールアップあるいはスケールダウンする実製造機におけるε
tの値の計算値とを一致させることでスケールアップあるいはスケールダウンを行うことができる。
【0048】
更に、ローター・ステータータイプのミキサーを利用して被処理流体に対して、乳化、分散、微粒化あるいは混合の処理を施すことにより、食品(乳製品・飲料などを含む)、医薬品(医薬部外品などを含む)あるいは化学品(化粧品などを含む)を製造する際に、全エネルギー消散率:ε
tを導き出す本発明が提案する計算式を用いて計算することにより、当該ミキサーの運転時間と、これによって得られる被処理流体の液滴径を推定して、食品、医薬品あるいは化学品を製造することができる。
【0049】
なお、実施例で実証された通り、本発明に基づいて、栄養組成物(流動食、乳幼児用調製粉乳などの組成に相当する)を製造すると、風味、食感、物性、品質などが良好であり、衛生面や作業性などにも優れていたことから、本発明は、食品や医薬品へ適用することが好ましく、食品へ適用することがより好ましく、栄養組成物や乳製品へ適用することが更に好ましく、高濃度で配合された栄養組成物や乳製品へ適用することが特に好ましい。
【0050】
<全エネルギー消散率:ε
t と液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)>
微粒子化の評価を行う対象として、乳製品を想定した模擬液を準備した。この乳化製品疑似液は、ミルクタンパク質濃縮物(MPC、TMP(トータルミルクプロテイン))、ナタネ油、水から構成されている。その配合や比率などを表1に示した。
【表1】
【0051】
ミキサーの性能は、液滴径の微粒化傾向を実験的に検討して評価した。
図3に示すように、外部循環式のユニットを準備し、流路の途中で液滴径を、レーザー回折式粒度分布計(島津製作所:SALD−2000)により計測した。
【0052】
なお、本発明において、液滴径の微粒化傾向を実験的に検討して、ミキサーの性能を評価するにあたり、内部循環式ミキサーに関しては、液滴径の微粒化傾向を把握することが難しい。しかし、内部循環式ミキサーも、外部循環式ミキサーも、
図1に示すように、複数個の開口部1を備えているステーター2と、ステーター2の内側に所定の隙間δを空けて配置されるローター3とからなるミキサーユニット4を備えている点で共通している。そこで、内部循環式ミキサーについて評価する場合には、
図4に示すように、外部循環式ミキサーに備えられているミキサーユニットと同一の寸法(サイズ)、形状、構造を有するローター、ステーターからなるミキサーユニットが内部循環式ミキサーに配備されていると考えて、当該外部循環式ミキサーを評価した試験の結果を内部循環式ミキサーの評価に用いた。
【0053】
ここでは、3種類のミキサーに関して、その性能を比較した。なお、ここで使用したミキサーの概要を表2に示した。
【表2】
【0054】
ミキサーAは、収容量:100リットル、ミキサーBは、収容量:500リットル、ミキサーCは、収容量:10キロリットルで、同一のメーカー品であり、、市場に提供されているものである。なお、ミキサーAに関しては、表2の通り、隙間(ギャップ)δの寸法(大きさ)、開口部1の数が相違する5種類のミキサー(ステーターNo.1〜ステーターNo.5)について検討した。
【0055】
ミキサーAにおける実験条件と全エネルギー消散率の計算値は、表3の通りであった。
【表3】
【0056】
ここで、ミキサーAにおける表3の運転条件での処理(混合)時間と、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図5に示した。
そして、ミキサーAにおける本発明で提案している全エネルギー消散率と、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図6に示した。
【0057】
また、ミキサーAのステーター番号1、2、3における表3の運転条件での処理(混合)時間と、液滴径の関係(微粒化傾向)(実測値)と、表3のステーター番号2に基づく、ステーター番号1、3の推定値(理論値)との関係を
図7に示した。
【0058】
さらに、ミキサーAのステーター番号4、5における表3の運転条件での処理(混合)時間と、液滴径の関係(微粒化傾向)(実測値)と、表3のステーター番号4に基づく、ステーター番号5の推定値(理論値)との関係を
図8に示した。
【0059】
表3において、ステーター番号4の形状依存項:C
h で正規化した C
h / C
h_stdを計算し、
図5〜
図8の結果と比較したところ、それぞれの推定値(理論値)と測定値(実測値)とは同様な傾向を示し、あらゆるステーター番号において、C
h / C
h_stdの値が大きいほどに、微粒化効果(微粒化の性能)が高くなることが分かった。
【0060】
また、同程度のC
h / C
h_stdの値であるステーター番号3と4では、ほぼ同等の微粒化傾向を示していることから、C
h / C
h_stdと全エネルギー消散率:ε
t により、ミキサーの性能を予測すると、定性的な傾向を捉えるだけでなく、定量的な傾向を説明(評価)できることが分かった。
【0061】
なお、処理(混合)時間を横軸にして、実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できないことが分かった。
【0062】
一方、本発明で提案している全エネルギー消散率:ε
t を横軸にして、実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できることが分かった。
【0063】
具体的には、運転条件(回転数、混合時間)と、ミキサーの形状(隙間、ステーターの孔径、ステーターの開口面積比)が異なっても、液滴径は同じように減少する傾向を辿ることが分かった。
【0064】
すなわち、本発明で提案している計算式で求められる全エネルギー消散率:ε
t は、ローター・ステータータイプのミキサーにおいて、運転条件や形状の違いを包括的に考慮して、その性能を評価できる指標であると言える。
【0065】
また、中型のミキサーであるミキサーB、大型のミキサーであるミキサーCについて、本発明で提案している全エネルギー消散率:ε
t と、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図9に示した。 ミキサーの規模(寸法)が容量で200〜700リットルと異なっても、液滴径は全エネルギー消散率:ε
t の値(大きさ)に依存していることが分かった。そして、ミキサーの規模が異なっても、同様の微粒化傾向を示すことが分かった。
【0066】
以上より、ローター・ステータータイプのミキサーでは、本発明で提案している全エネルギー消散率: e
t の値(大きさ)を一致させることで、運転条件や形状の違いを包括的に考慮して、スケールアップできると言える。
【0067】
本発明では、開口部依存のミキサーについて、その微粒化効果や乳化効果を包括的に考慮しながら、その性能評価やスケールアップできるようになった。つまり、本発明では、これまで限定的にしか使用できなかった性能評価方法とスケールアップ方法に基づいて、 より広範囲のミキサーに適用できる理論を開発することができた。
【0068】
(高性能ミキサーの形状と設計)
本発明の計算式に基づいて導き出される全エネルギー消散率:ε
t を指標としたミキサーの性能評価と、その検証結果を参考にして、高性能のミキサーの形状を定義した。そして、その定義に基づいて、高性能のミキサーを設計し、そのミキサーの概要を
図10〜
図12に示した。
【0069】
(ムービングステーター(可動式の固定子))
ローター・ステータータイプのミキサーを使用し、粉体原料や液体原料を溶解(調合)して、乳化状製品を製造する場合、粉体原料と共に持ち込まれた気体(空気)を分離しないままで、ミキサーにより処理すると、調合液に微細な気泡が混入(発生)した状態となる。この微細な気泡が混入した調合液をそのまま乳化処理した場合、気泡が混入していない調合液を乳化処理した場合と比較して、微粒化や乳化の性能(効果)が劣ってしまうことが以前から知られている。
【0070】
そこで、粉体原料を溶解する初期段階において、微細な気泡の発生を抑制するためには、ミキサーにムービング・ステーターの機構を持たせることが望ましい。特に、泡立ちしやすい乳化状製品を処理する場合、ムービング・ステーターの機構を持たせることが望ましい。粉体原料を溶解する初期段階では、ステーターをローターから離すことで、高いエネルギーを消散させることなく、粉体原料を調合液へ素早く分散させる。そして、その後にステーターをローターの近傍まで移動させ、本格的に溶解・微粒化・乳化する手順が良い。
【0071】
(マルチ・ステージ・ホモゲナイザー(多段階式の乳化機構))
上述したように、本発明の計算式に基づいて導き出される全エネルギー消散率:ε
t [m
2/s
3] の値が大きい程、微粒化や乳化の性能(効果)が優れていることを確認できている。
【0072】
そこで、ローターとステーターとの間の隙間部に形成される混合部を複数個備えているミキサーにすることが望ましい。
【0073】
例えば、一段目のローターとステーターとの間の隙間部で予備の微粒化を行い、次に、二段目のローターとステーターとの間の隙間部で本格的な微粒化を行うものである。
【0074】
(ダイレクト・インジェクション(直接注入式の添加機構))
本発明の計算式に基づいて導き出される全エネルギー消散率:ε
t を指標としたミキサーの性能評価と、その検証結果により、本発明の計算式に基づいて導き出される全エネルギー消散率:ε
t の値が大きい程、微粒化や乳化の性能(効果)が優れていることを確認できている。
【0075】
そこで、油脂、不溶成分、微量成分などを混合部分(ミキサー部)へ直接で投入(添加)することで、より効果的に乳化や分散される。特に一段目のステーター(径方向で内側のステーター)部分へ直接で投入(注入)すれば、一段目のステーターで予備乳化してから、さらに二段目のステーター(径方向で外側のステーター)で本格的に乳化・分散できる。
【0076】
(高性能のステーターの形状)
本発明の計算式に基づいて導き出される全エネルギー消散率:ε
tの値が大きい程、微粒化や乳化の性能(効果)が優れていることを確認できている
ステーターに形成されている開口部(孔)の形状は、くし歯状ではなく、円形状が望ましい。
【0077】
なお、ステーターの孔径が2mm以下になると、粉体原料などが閉塞するリスクがある。したがって、粉体原料の溶解と乳化処理を同時に達成しようとする場合、ステーターの孔径として2〜4mm程度が良い。
【0078】
また、ステーターが備えている開口部は、ステーターの円周状の周壁に全体の開口面積比率として20%以上で穿設されていることが望ましい。
【0079】
ステーターの孔数(開口面積比)が多い程、剪断頻度が高くなる。一方、ステーターの開口部の強度の問題がある。従来では一般的には、開口面積比として18〜36%を採用している場合が多いが、開口面積比として30%以上が望ましく、40〜50%がより望ましい。
【0080】
更に、ローターは、回転中心から放射状に延びる複数枚の攪拌翼を供えていることが望ましい。攪拌翼は6枚以上、望ましくは8枚である。
【実施例1】
【0081】
以下では、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について幾つかの実施例を説明するが、本発明は、これらの実施形態、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【0082】
本発明が提案する計算式に基づいて導き出される全エネルギー消散率:ε
t を指標としたミキサーの性能評価と、その検証結果を参考にして定義した高性能のミキサーの形状および、その定義に基づいて設計した高性能のミキサーの概要を
図10〜
図12を用いて説明する。
【0083】
本発明の提案するローター・ステータータイプのミキサーは、複数個の開口部を備えているステーターと、ステーターの内側に所定の隙間を空けて配置されるローターとからなるミキサーユニット14の部分に特徴を有するものであり、その他の構造は従来のローター・ステータータイプのミキサーと同一である。そこで、本発明のミキサーにおいてその特徴的構造、機構になっているミキサーユニット14のみについてその一例を図示して説明する。
【0084】
本発明のローター・ステータータイプのミキサーにおけるミキサーユニット14は、
図12、
図13に図示した構造のローター13と、ステーター12、22とからで構成される。
【0085】
ステーター12、22は
図1に例示した従来のミキサーユニット4におけるステーター2と同じく、円形状の複数個の開口部11a、11bをそれぞれ備えている。
【0086】
ステーター12、22は、ステーター22の周径の方が、ステーター12の周径より大きく、
図12(a)図示のように、ミキサーユニット14に同心円状に配置される。
【0087】
ステーター12、22の内側に所定の隙間を空けて配置されるローター13は、回転中心になる回転軸17から放射状に延びる複数枚の攪拌翼を備えている。図示の実施形態では、8枚の攪拌翼13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13hを備えている。
【0088】
各攪拌翼13a〜13hの径方向中心と、径方向外端16との間の同一径の位置に縦溝15がそれぞれ形成されている。
【0089】
図12(a)、(b)図示のようにミキサーユニット14が形成されたときには、各攪拌翼13a〜13hに形成されている縦溝15にステーター12が装入される。そして、各攪拌翼13a〜13hの径方向外端16の壁面16aと、ステーター22の内周壁面22aとの間に隙間δ2が形成される。また、各攪拌翼13a〜13hの縦溝15における外周面15aと、ステーター12の内周壁面12aとの間及び、各攪拌翼13a〜13hの縦溝15における内周面15bと、ステーター12の外周壁面12bとの間に隙間が形成される。
【0090】
このように、本発明のローター・ステータータイプのミキサーのミキサーユニット14においては、周径の異なる複数のステーター12、22の内側にそれぞれローターが所定の隙間を空けて配置される構造になる。
【0091】
ローター13が回転軸17を回転中心にして矢印20で示すように回転すると、径方向内側の混合部分と、径方向外側の混合部分という二段階の混合部が形成されることになる。このような多段式(マルチステージ)での混合により高性能を実現することが可能になる。
【0092】
図示の実施形態では、径方向内側の混合部分は、各攪拌翼13a〜13hの縦溝15における外周面15aと、ステーター12の内周壁面12aとの間及び、各攪拌翼13a〜13hの縦溝15における内周面15bと、ステーター12の外周壁面12bとの間に形成される。また、径方向外側の混合部分は、各攪拌翼13a〜13hの径方向外端16の壁面16aと、ステーター22の内周壁面22aとの間に形成される。
【0093】
本発明のミキサーでは、ステーター12、22と、ローター13とは、ローター13の回転軸17が延びている方向で相互に接近する、又、離れることができるようになっている。図示の実施形態では、ローター13において回転軸17が延びている方向で、
図12(b)の矢印22、23で示すように移動可能になっている。
【0094】
そこで、本発明のミキサーでは、ローター13が
図12(b)の矢印22方向に移動して、前述したように、各攪拌翼13a〜13hに形成されている縦溝15にステーター12が装入されてミキサーユニット14が形成されている状態と、ローター13が
図12(b)に仮想線で示すようにステーター12、22から離れている状態とを採れるようになっている。
【0095】
ミキサーによって粉体原料を溶解する初期段階では、ローター13を
図12(b)の矢印23で示すようにしてステーター12、22から離すことで、高いエネルギーを消散させることなく、粉体原料を調合液へ素早く分散させることができる。
【0096】
そして、その後にローター13を
図12(b)の矢印22で示すように移動させて、上述した径方向内側と、径方向外側の混合部分という二段階の混合部を形成し、ローター13を
図12(b)の矢印20方向に回転させて、本格的に溶解・微粒化・乳化する手順が良い。
【0097】
本発明のミキサーでは、
図12(a)のように、ミキサーユニット14を構成するステーター12、22の上端に沿って、ノズル18が径方向で中心側に向かって延びており、処理される流体は、ノズル18を介してノズル開口19から
図14(b)の矢印21で示すように混合部分(ミキサー部)へ直接で投入される。
【0098】
すなわち、処理される流体は内側の混合部分である、各攪拌翼13a〜13hの縦溝15における外周面15aと、ステーター12の内周壁面12aとの間に、ノズル開口19から矢印21のように、直接で、投入され、そこで第一段目の混合(予備混合)が行われる。引き続いて、外側の混合部分である、各攪拌翼13a〜13hの径方向外端16の壁面16aと、ステーター22の内周壁面22aとの間で本格的な混合が行われるようになっている。
【0099】
このように、処理すべき流体を混合部分(ミキサー部)へ直接で投入(添加)することによって、より効果的に乳化や分散を行うことが可能になる。
【実施例2】
【0100】
明治乳業(株)の栄養調製食品(メイバランス 1.0 HP(商標))を用いて、微粒化試験を行った。
【0101】
このメイバランス 1.0 HP(商標))の組成や物性は表4の通りである。
【表4】
【0102】
この実施例では、2種類のミキサー(収容量:9キロリットルと、400リットル)を用いて、ローターの回転速度、積算時間を変化させて実験を行った。これら2種類のミキサーは、実施の形態の欄で実証したミキサーA、B、Cと同じメーカー品である。
【0103】
実験条件と全エネルギー消散率:ε
tの計算値などを表5に示した。
【表5】
【0104】
全エネルギー消散率:ε
tと、液滴径の関係(微粒化傾向)を
図13に示した。
【0105】
本発明で提案している全エネルギー消散率:ε
t [m
2/s
3]を横軸にして実験結果を整理すると、液滴径の変化(液滴の微粒化傾向)を一括して表現(評価)できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、以下に述べる優れた効果・機能を発揮できることから、乳化、分散、微粒子化工程が行われる種々の産業分野、例えば、食品、医薬品、化学品などの製造分野で利用することが可能である。
【0107】
(1)市場に存在する既存のローター・ステータータイプのミキサーに対して、実際の処理液を使用せず、水を使用して運転(水運転)するだけで、それらミキサーの性能を評価できる。水運転という簡便な検討により、各ユーザーの用途に合った最適なローター・ステータータイプのミキサーを選定できる。これによって、ミキサーの選定のための検討のコストを削減でき、その検討の期間を短縮できる。
【0108】
(2)全エネルギー消散率:ε
t のステーターにおける形状依存項を最大化するように、幾何学的な寸法を採用することで、新規のローター・ステータータイプのミキサーでは、その性能を向上して(高めて)設計・製造でき、既存のミキサーでは、その性能を改善できる。
【0109】
(3)小型から大型まで多種多様なローター・ステータータイプのミキサーに対して、その処理(製造)時間を考慮した上で、スケールアップやスケールダウンできる。
【0110】
(4)各ユーザーの目的に合った微粒化効果(液滴径)を得るために、その必要な処理(撹拌)時間を推定でき、その必要な最低時間で運転(処理)すれば良いこととなる。ローター・ステータータイプのキミサーの運転時間を短縮でき、省エネルギーを達成できる。
【0111】
(5)従来の典型的な高性能(高剪断式)のローター・ステータータイプのミキサーよりも、微粒化効果や乳化効果が高く、高品質な製品を製造できるローター・ステータータイプのミキサーを提供することができる。
【0112】
(6)本発明によるローター・ステータータイプのミキサーは、微粒化効果や乳化効果が高く、従来の同等以上の品質の製品を従来よりも短時間で製造できる。
【0113】
(7)小型から大型まで多種多様なローター・ステータータイプのミキサーに対して、その処理(製造)時間を考慮した上で、スケールアップやスケールダウンできる。