特許第5652795号(P5652795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5652795皮膚疾患を処置するための外用薬およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652795
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】皮膚疾患を処置するための外用薬およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20141218BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20141218BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20141218BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20141218BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20141218BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   A61K31/436
   A61K9/06
   A61K47/10
   A61K47/08
   A61K47/32
   A61P17/00
【請求項の数】12
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2012-555873(P2012-555873)
(86)(22)【出願日】2012年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2012052047
(87)【国際公開番号】WO2012105521
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2013年7月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-18273(P2011-18273)
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】金田 眞理
(72)【発明者】
【氏名】片山 一朗
【審査官】 ▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−525294(JP,A)
【文献】 片山一朗,結節性硬化症の顔面血管線維症に対するラパマイシン軟膏外用療法に関する研究,厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 神経皮膚症候群に関する調査報告 平成21年度 総括,2010年 3月31日,第63−65頁
【文献】 金田眞理,結節性硬化症の分子病態と新しい治療法,医学のあゆみ,2009年 9月12日,Vol.230, No.11,981-986
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてシロリムス、エベロリムスまたはテンシロリムスを含有しているゲル組成物または、該有効成分を該有効成分と相溶しない溶媒中に分散させた軟膏組成物であり、
処置の対象が先天性白斑であり、メラノサイトのメラニン生産量を増加させることを特徴とする皮膚疾患を局所的に処置するための外用薬。
【請求項2】
前記ゲル組成物は、イソプロパノールおよびエタノールからなる群より選ばれる少なくとも1つの溶媒に前記有効成分を溶解させた溶液をゲル化したものであることを特徴とする請求項1に記載の外用薬。
【請求項3】
前記溶媒の量は、前記有効成分の量の100〜300倍の量であることを特徴とする請求項2に記載の外用薬。
【請求項4】
前記ゲル組成物は、ゲル化剤、水およびpH調整剤を含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の外用薬。
【請求項5】
前記軟膏組成物は、前記有効成分を、該有効成分を溶解させる溶媒に溶解させた溶液と、該有効成分と相溶しない溶媒とを混合して、該有効成分を該有効成分と相溶しない溶媒中に分散させた軟膏組成物であることを特徴とする請求項1に記載の外用薬。
【請求項6】
前記有効成分を溶解させる溶媒が炭酸プロピレンであることを特徴とする請求項5に記載の外用薬。
【請求項7】
前記有効成分と相溶しない溶媒、固形パラフィン、白色ワセリンおよび流動パラフィンを含んでいることを特徴とする請求項5または6に記載の外用薬。
【請求項8】
前記有効成分を0.03〜1質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の外用薬。
【請求項9】
前記有効成分がシロリムスであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の外用薬。
【請求項10】
前記先天性白斑が、結節性硬化症の患者の白斑であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の外用薬。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか1項に記載の外用薬を調製するための、シロリムス、エベロリムスまたはテンシロリムスを備えていることを特徴とするキット。
【請求項12】
有効成分としてシロリムス、エベロリムスまたはテンシロリムスを含有しているゲル組成物または、該有効成分を該有効成分と相溶しない溶媒中に分散させた軟膏組成物を作製する工程を包含していることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の外用薬を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患を処置するための外用薬およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境などの変化に伴って、皮膚疾患の発症が増加している。皮膚疾患を治療するためには、皮膚疾患の発症の分子メカニズムを知ることが重要である。バイオテクノロジーを駆使した、皮膚疾患の発症の分子メカニズムの研究が行われており、これまでに、種々の皮膚疾患の原因遺伝子が特定されている。
【0003】
例えば、結節性硬化症(TSC)と呼ばれる遺伝病が知られている。この遺伝病は、皮膚腫瘍などの全身性の腫瘍に加えて、中枢神経障害(てんかん、精神発達の遅延、自閉症など)および白斑を生じる疾患である。この遺伝病の原因遺伝子は、hamartinタンパク質をコードするTSC1、およびtuberinタンパク質をコードするTSC2であることが知られている。hamartinタンパク質およびtuberinタンパク質の複合体は、mTORの上流に位置しており、mTORの機能を抑制している。hamartinタンパク質およびtuberinタンパク質の少なくとも1つが機能しなくなることによってmTORに対する抑制が消失し、その結果として、結節性硬化症が発症すると考えられている。このようなメカニズムによって発症する結節性硬化症の治療には、mTORの抑制が有効であり、mTORの阻害剤であるシロリムスを用いることが試みられている。
【0004】
海外では、結節性硬化症の患者の脳腫瘍、腎腫瘍および肺腫瘍を治療する目的で、シロリムスがこの患者に対して全身性に投与されており、良好な治療成績が得られたことが報告されている。しかし、シロリムスの投与を中止すると、上述した腫瘍が再び増大したことが確認されたので、腫瘍の縮小化を維持するにはシロリムスの全身性投与を長期間続けることが必要であると考えられている。この結果は、脳腫瘍、腎腫瘍および肺腫瘍だけでなく、皮膚腫瘍に対しても当てはまり、この皮膚腫瘍を治療するには、シロリムスの全身性投与を長期間にわたって行うことが必要である。
【0005】
しかし、シロリムスの全身性投与は副作用を引き起こすという欠点があり、長期間続けることが困難である。そこで、副作用を引き起こすことなく結節性硬化症の皮膚腫瘍を治療するために、シロリムスを皮膚腫瘍に対して局所的に適用することが考えられており、シロリムスの外用薬の開発が行われている(非特許文献1〜3参照)。非特許文献1および2には、結節性硬化症の患者の顔に形成されている血管線維腫に、シロリムスの外用薬を塗布することが記載されている。非特許文献3には、結節性硬化症の動物モデルにおける皮膚腫瘍に、シロリムスを含んでいる軟膏を塗布することが記載されている。
【0006】
また、結節性硬化症の皮膚腫瘍以外の皮膚疾患を、シロリムスの外用薬を用いて治療することも試みられている(非特許文献4および5参照)。非特許文献4には、ヒトの尋常性乾癬に、シロリムスを含んでいる処方物を塗布することが記載されている。非特許文献5には、ヒトのポートワイン母斑に、シロリムスを局所的に適用することが記載されている。
【0007】
また、シロリムスなどのマクロライドを、様々な形態にて患者に投与使用とする試みもなされている(特許文献1および非特許文献6参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国公表特許公報「特表2008−533153(2008年8月21日公表)」
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Anna K. Haemel, et. al., Arch Dermatol. Jul;146(7):715-8, 2010
【非特許文献2】Elizabeth Kaufman Mcnamara, et. al., Journal of Dermatological Treatment, Early Online, 1-3, 2010
【非特許文献3】Aubrey Rauktys, et. al., BMC Dermatology, 8:1, 2008
【非特許文献4】A. D. Ormerod, et. al., British Journal of Dermatology, 152, p.758-764, 2005
【非特許文献5】Thuy L. Phung, et. al., Lasers in Surgery and Medicine 40:1-5, 2008
【非特許文献6】第61回日本皮膚科学会 要旨集、2010年9月11日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に、外用薬に用いられる化合物は、分子量が大きいと、分子サイズが大きくなったり、拡散性が低下したりするので、該化合物の皮膚からの吸収が低下することが知られている(大谷道輝、ぬり薬の薀蓄、Vol. 2、maruho、マルホ株式会社、第4頁、2009年)。このため、外用薬に用いられる化合物は分子量が500Dalton以下であることが推奨されている。
【0011】
しかし、シロリムスの分子量は914Daltonであるので、皮膚からの吸収が悪い。非特許文献1および2には、シロリムスの外用薬を用いることによって、血管線維腫が改善されたことが記載されているが、実用レベルではないといえる。シロリムスの皮膚からの吸収をより増加させることができる外用薬の開発が求められる。
【0012】
非特許文献3には、0.4質量%のシロリムスを含んでいる軟膏を皮膚腫瘍に塗布してから24時間後のシロリムスの血中濃度が、6.3±0.6ng/mLであったことが記載されている。同様に、0.8質量%のシロリムスを含んでいる軟膏を皮膚腫瘍に塗布してから24時間後のシロリムスの血中濃度が、12.3±1.5ng/mLであったことが記載されている。このようなシロリムスの血中濃度は、シロリムスを全身性投与するときの一般的な血中濃度(5〜10ng/mL)とほぼ等しい。このように、非特許文献3に記載の技術では、局所的に適用されたにもかかわらずシロリムスが血中にも移行し、シロリムスの全身性投与と同様の影響を受けることになり、その結果、副作用が生じることになる。
【0013】
また、非特許文献3によれば、0.4質量%のシロリムスを含んでいる軟膏を皮膚腫瘍に塗布してから24時間後の皮膚腫瘍中のシロリムスの濃度が13.8±0.7ng/mLである。この濃度は上記血中濃度(6.3±0.6ng/mL)の約1.9〜2.5倍である。0.8質量%のシロリムスを含んでいる軟膏を皮膚腫瘍に塗布してから24時間後の、皮膚腫瘍中のシロリムスの濃度は、59.6±23.5ng/mLである。この濃度は上記血中濃度(12.3±1.5ng/mL)の約2.6〜7.7倍である。このように、非特許文献3に開示されている軟膏を用いた場合、皮膚腫瘍中に存在するシロリムスの濃度は、血中に移行するシロリムスの濃度のわずか数倍である。このことから、非特許文献3に開示されている軟膏は局所的な適用に適していないといえる。
【0014】
非特許文献4に開示されている処方物は、シロリムス、カプリン酸、ミリスチン酸イソプロピルおよびベンジルアルコールから構成されたローションである。この処方物におけるシロリムスの含有量は2.2質量%または8質量%であり、これらの処方物を患部に塗布することによって、接触皮膚炎や刺激感という副作用が引き起こされている。また、2.2質量%のシロリムスを含んでいる処方物を患部に塗布しても、患部が改善されなかった患者がいたことが報告されている。さらに、8質量%というシロリムス濃度は、当業者の技術常識を逸脱した濃度であり、このような濃度のゲルを外用薬として用いることは実用的でない。また、非特許文献5に記載の技術では、ポートワイン母斑を治療するために、シロリムスを患部に局所的に適用するだけでは不十分であり、シロリムスを用いることに加えて患部へのレーザーの照射が必要である。このように、非特許文献4および5に記載の技術では、上述したようにシロリムスの皮膚からの吸収が悪いため、患部に塗布する量を増加させたり、別の治療法と組み合わせたりすることが必要とされる。
【0015】
特許文献1では、シロリムスが様々な疾患に対して実際に治療効果を発揮するか否かに関して何ら検討されていない。
【0016】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、副作用を引き起こすことなく、皮膚疾患を処置するに十分な量のシロリムスを患部へ吸収させることが可能な外用薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討したところ、シロリムスおよびその誘導体(有効成分)の少なくとも1つを含有している溶液をゲル化したもの、または有効成分の少なくとも1つを、有効成分と相溶しない溶媒に分散させたものを皮膚に適用することによって、従来のシロリムスを含んでいる外用薬を皮膚に適用した場合よりも顕著に、シロリムスの皮膚から患部への吸収を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明の皮膚疾患を局所的に処置するための外用薬は、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つを含有しているゲル組成物または軟膏組成物を含んでいる。
本明細書中において、「局所的に処置する」は、局所的に適用された外用薬に起因する全身性の作用が示されないことが意図される。上記構成を有する外用薬を皮膚に適用することによって、シロリムスおよびその誘導体の皮膚から患部への吸収が顕著に向上されるだけでなく、シロリムスおよびその誘導体が血中に漏出することなく患部に留まる。すなわち、本発明の外用薬を用いれば、皮膚疾患を効果的に処置できる上に、シロリムスおよびその誘導体による全身性の作用が示されない(副作用が生じない)。
【発明の効果】
【0019】
本発明の外用薬は、皮膚に適用されることによって、副作用を引き起こすことなく、皮膚疾患を処置するに十分な量のシロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つを患部へ吸収させることができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】各種外用薬を用いて得られた結果を示す図である。
図2】(a)〜(d)は、各種外用薬を用いて得られた結果を示す図である。
図3】(a)は、外用薬を塗布する前の血管線維腫を示す図であり、(b)は、外用薬を塗布した後の血管線維腫を示す図である。(c)は(a)の一部の拡大図であり、(d)は(b)の一部の拡大図である。
図4】(a)は、外用薬を塗布する前の血管線維腫を示す図であり、(b)は、外用薬を塗布した後の血管線維腫を示す図である。
図5】(a)は、外用薬を塗布する前の血管線維腫を示す図であり、(b)は、外用薬を塗布した後の血管線維腫を示す図である。
図6】(a)は、外用薬を塗布する前の血管線維腫を示す図であり、(b)は、外用薬を塗布した後の血管線維腫を示す図である。(c)は(a)の一部の拡大図であり、(d)は(b)の一部の拡大図である。
図7】(a)は、外用薬を塗布する前の血管線維腫を示す図であり、(b)は、外用薬を塗布した後の血管線維腫を示す図である。
図8】(a)〜(d)は、外用薬を用いて得られた結果を示すグラフである。
図9】(a)〜(d)は、外用薬を用いて得られた結果を示すグラフである。
図10】MITFのmRNAの相対的な発現量を示すグラフである。
図11】TYRのmRNAの相対的な発現量を示すグラフである。
図12】TYRPのmRNAの相対的な発現量を示すグラフである。
図13】(a)は、外用薬を塗布する前の白斑を示す図であり、(b)は、外用薬を塗布した後の白斑を示す図である。
図14】(a)は、外用薬を塗布する前の白斑を示す図であり、(b)は、外用薬を塗布した後の白斑を示す図である。
図15】(a)〜(c)は、外用薬を用いて得られた結果を示すグラフである。
図16】外用薬を用いて得られた結果を示すグラフである。
図17】(a)〜(d)は、マウスの背中の図であり、(e)〜(h)は、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したマウスの皮膚の切片の図であり、(i)〜(l)は、トルイジンブルーで染色した皮膚の切片の図である。
図18】重症、中等症、または軽症の血管線維腫の細胞にて発現されたVEGFの濃度を示す図である。
図19】(a)は血管線維腫の細胞をそれぞれ0nM(未処理)、1nM、10nMのシロリムスで処理した各細胞から発現されたVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフであり、(b)は上記シロリムスで処理する前および後の、血管線維腫の細胞(TSC AF fibro)、ヒト線維芽細胞(normal fibro)、およびHaCatから発現されたVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフであり、(c)は、これらの3種類の細胞をシロリムスで処理したことよって引き起こされたVEGFの濃度の減少割合(比:20nMのシロリムスで処理した後のVEGFの濃度/20nMのシロリムスで処理する前のVEGFの濃度)を示すグラフであり、(d)はHaCatをそれぞれ0nM(未処理)、1nM、10nMのシロリムスで処理した各細胞から発現されたVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフである。
図20】(a)は、本発明の外用薬を塗布する前の紅斑を示す図であり、(b)は、本発明の外用薬を塗布した後の紅斑を示す図である。
図21】(a)は、炭酸プロピレンを、本実施例にて調製した軟膏の成分、または白色ワセリンに添加したときの様子を示す図であり、(b)は、炭酸プロピレンを添加した軟膏の成分、または炭酸プロピレンを添加した白色ワセリンを攪拌したときの様子を示す図である。
図22】(a)は本実施例にて調製した軟膏の成分を用いて調製した軟膏を顕微鏡にて観察した図であり、(c)は(a)の拡大図であり、(b)は白色ワセリンを用いて調製した軟膏の顕微鏡にて観察した図であり、(d)は(b)の拡大図である。
図23】メラノサイトによって生産されるメラニンの量を示すグラフである。
図24】メラノサイトによって生産されるメラニンの量を示すグラフである。
図25】前額部(露光部)に白斑が発症している4人の患者の症状の推移を示すグラフである。
図26】腹部(非露光部)に白斑が発症している4人の患者の症状の推移を示すグラフである。
図27】尋常性白斑の症状の推移を示す図である。
図28】尋常性白斑の症状の推移を示す図である。
図29】メラノサイトにて発現しているHIF1αの量を示すグラフである。
図30】本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量に関して、基剤の組成が及ぼす影響を示すグラフである。
図31】本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量に関して、基剤の組成が及ぼす影響を示すグラフである。
図32】本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量に関して、基剤の組成が及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0022】
〔実施形態1:ゲル組成物を含んでいる外用薬〕
本発明は、皮膚疾患を局所的に処置するための外用薬を提供する。本明細書中にて使用される場合、用語「処置」は、症状の軽減または排除が意図され、治療的(発症後)に行われ得るものだけでなく、予防的(発症前)に行われ得るものもまた包含される。
【0023】
本実施形態の外用薬は、皮膚疾患を局所的に処置するための有効成分を含有している溶液をゲル化したゲル組成物を含んでいる。本明細書中にて使用される場合、「ゲル組成物」は、有効成分を、該有効成分を溶解させる溶媒に溶解させた溶液が、ゼリー状に固化したものが意図される。
【0024】
有効成分は、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つであればよい。シロリムスの誘導体としては、特に限定されないが、例えば、42−O−(2−ヒドロキシエチル)シロリムス(エベロリムス、RAD001)、およびシロリムス42−[3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノアート(テンシロリムス)が挙げられる。
【0025】
このような、シロリムスおよびその誘導体は、mTORを抑制することによって、以下の効果を発揮することが知られている:(i)タンパク質の翻訳および合成の抑制、細胞周期の停止、ならびにアポトーシスを引き起こし、腫瘍および血管新生を抑制する;(ii)IL2受容体が関与するシグナル伝達経路を遮断して、T細胞の活性化および増殖を抑制し、免疫を抑制する;(iii)肥満細胞を介した炎症を抑制する。このため、シロリムスおよびエベロリムスはそれぞれ、腎臓移植後または心臓移植後に用いられる免疫抑制剤として内服されている。また、エベロリムスは、腎の悪性腫瘍に対する内服剤としての使用が日本国においても認められている。テンシロリムスは、末期の肝癌に対する内服剤として開発されている。
【0026】
このように、シロリムスおよびその誘導体は、主に内服薬として使用されている。一方、上述したように、シロリムスの外用薬が開発されているが、皮膚に対する吸収性が悪かったり、局所的に適用されているにもかかわらず作用が全身性に発現することによって副作用を引き起こしたりするため、実用レベルの外用薬は得られていない。これに対して、本発明では、有効成分(シロリムスおよびその誘導体)を含有している溶液をゲル化することによって、有効成分の皮膚から患部への吸収効率が向上し、有効成分による皮膚疾患の局所的な処置が可能となる。
【0027】
このように、皮膚疾患を局所的に処置するには、有効成分を含んでいる溶液がゲル化されていればよい。溶液のゲル化を行うには、この溶液を、ゲル化剤を用いてゲル化すればよい。例えば、ゲル化剤としてカーボポール(登録商標)934NFを用いた場合、上記溶液にカーボポール(登録商標)934NFを添加し、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどのpH調整剤によって溶液のpHを中性に調整することによって、溶液のゲル化を誘導することができる。
【0028】
本実施形態の外用薬は、ゲル組成物からなるものであってもよいし、ゲルの形態が維持されるのであれば、後述する他の成分がさらに含まれていてもよい。ゲル組成物も同様に、有効成分を含有している溶液およびゲル化を誘導する成分(ゲル化剤など)からなるものであってもよいし、ゲルの形態が維持されるのであれば、他の成分がさらに含まれていてもよい。このように、本実施形態に用いられるゲル組成物は、有効成分を含んでいる溶液をゲル化したものであり、ゲル化が誘導される前の、有効成分が該有効成分を溶解させる溶媒に溶解されている組成物(有効成分を溶解した溶液)もまた、本発明に含まれる。同様に、有効成分、該有効成分を溶解させる溶媒、およびゲル化を誘導する成分が別々に備えられているキットも、本発明に含まれる。このような組成物およびキットは、上記ゲル組成物(および本実施形態の外用薬)を調製するために用いることができる。もちろん、ゲル組成物を調製するための上記組成物が他の成分をさらに含んでいてよいし、ゲル組成物を調製するための上記キットが他の成分をさらに備えていてもよい。
【0029】
本明細書中にて使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは、上記材料を使用するための指示書を備えている。本明細書中にてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。また、本発明のキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装であってもよく、容器中に内包された溶液形態の組成物を梱包していてもよい。本発明のキットは、異なる2つ以上の物質を同一の容器に混合して備えても別々の容器に備えてもよい。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明のキットは、上述した組成物を構成するためにもちいられてもよく、上述した組成物に含まれる物質を別々に備えていても、上述した組成物とさらなる成分とを別々に備えていてもよい。
【0030】
上述した有効成分を溶解させる溶媒は、特に限定されないが、例えば、イソプロパノール、エタノールおよび炭酸プロピレンが挙げられるが、ゲル組成物の場合、イソプロパノールおよびエタノールの少なくとも1つが好ましい。
【0031】
本発明において、有効成分を有効成分を溶解させる溶媒に溶解し、生じた溶液をゲル状にしたことによって、有効成分の皮膚から患部への吸収が顕著に向上する。本発明を用いれば、皮膚疾患の処置が、従来の外用薬におけるシロリムスの量よりもはるかに少ない量で実現する。また、本発明において、有効成分を含んでいる溶液がゲル化していることによって、有効成分が血中に漏出することなく患部に留まる可能性も考えられる。本発明を用いれば、上記「背景技術」にて示した従来の外用薬のように副作用を生じることなく、皮膚疾患を処置することができる。
【0032】
本実施形態の外用薬に含まれる有効成分の量は、外用薬の総質量を基準として、0.01〜2質量%であることが好ましく、0.03〜1質量%であることがより好ましい。有効成分の量がこの範囲内であれば、副作用を引き起こすことなく、皮膚疾患を処置することができる。なお、外用薬を調製するための組成物に含まれる有効成分の量も、外用薬に含まれる有効成分の量と同様である。外用薬を調製するためのキットに備えられる有効成分の量は任意であり、製造される外用薬に最終的に含まれる有効成分の量が、上記範囲内となればよい。また、ゲル組成物に含まれる有効成分の量は、外用薬に含まれる有効成分の量が上記範囲内となる量であればよく、当業者が適宜設定することができる。
【0033】
本実施形態の外用薬(またはゲル組成物)に含まれる、有効成分を溶解させる溶媒の量は、特に限定されず、有効成分を十分に溶解することができる量であればよい。例えば、用いるこの溶媒の量は、有効成分の量の100〜300倍であり、120〜250倍であることが好ましく、121.5〜244倍であることがより好ましい。なお、外用薬を調製するための組成物に含まれる、有効成分を溶解させる溶媒の量も、外用薬に含まれる、有効成分を溶解させる溶媒の量と同様である。外用薬を調製するためのキットに備えられる、有効成分を溶解させる溶媒の量は任意であり、有効成分を十分に溶解することができる量であればよい。
【0034】
本実施形態の外用薬(またはゲル組成物)に含まれるゲル化を誘導する成分の量は、特に限定されず、有効成分を含有している溶液がゲル化する(外用薬または組成物がゲルの形態になる)に十分な量であればよい。例えば、ゲル化を誘導する成分として、カーボポール(登録商標)のようなゲル化剤と、ゲル化を誘導するためのpH調整剤(トリスヒドロキシメチルアミノメタンなど)とを用いる場合、ゲル化剤の量が外用薬の総質量を基準として例えば1.6質量%であり、pH調整剤が外用薬の総質量を基準として例えば0.4質量%である。なお、外用薬を調製するためのキットに備えられる、ゲル化を誘導する成分の量は任意であり、製造される外用薬をゲルの形態にする量であればよい。
【0035】
後述する実施例では、本実施形態の外用薬を、結節性硬化症の皮膚腫瘍、白斑および紅斑の処置に用いている。また、実施形態2にて示す軟膏の剤形の外用薬を、結節性硬化症の皮膚腫瘍、白斑および紅斑の処置、ならびにアトピー性皮膚炎の処置に用いている。このような効果は、本実施形態(および実施形態2)の外用薬が有効成分(シロリムスおよびその誘導体)を皮膚内に効率よく浸透させていることに基づいているので、本明細書を読んだ当業者は、これらの外用薬が、「mTORの活性化によって引き起こされた任意の皮膚疾患」に適用可能であることを容易に理解し得る。本実施形態の外用薬を適用し得る皮膚疾患には、表皮、真皮、および皮下組織などの皮膚組織に生じる疾患だけでなく、皮膚組織内の血管系に生じる疾患も含まれる。このような皮膚疾患としては、特に限定されないが、例えば、皮膚腫瘍、アトピー性皮膚炎、酒さ、ケロイド、色素斑、脱色素斑、皮膚における血管系の形成異常、皮膚における血管系の良性腫瘍、および上皮系母斑が挙げられる。
【0036】
皮膚腫瘍は、結節性硬化症の皮膚腫瘍、脂漏性角化症、およびレックリングハウゼン病の皮膚腫瘍からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。皮膚における血管系の形成異常は単純性血管腫、クモ状血管腫または被角血管腫であることが好ましい。皮膚における血管系の良性腫瘍はイチゴ状血管腫または老人性血管腫であることが好ましい。上皮系母斑は、疣状母斑、列序性母斑、炎症性線状疣状表皮母斑、および脂腺母斑からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。色素斑は褐色斑であることが好ましく、褐色斑は扁平母斑またはカフェオレ斑であることがより好ましい。脱色素斑は白斑であることが好ましい。
【0037】
このように本実施形態の外用薬は、種々の皮膚疾患を処置することができる。なお、アトピー性皮膚炎、白斑、酒さ、ケロイド、および脂漏性角化症の皮膚腫瘍が、シロリムスおよびその誘導体を用いて処置可能であることは、本発明者らが初めて見出したことであり、これまでに報告されていない。
【0038】
アトピー性皮膚炎に対する外用薬としては、ステロイド、およびタクロリムスを含んでいる軟膏が知られている。アトピー性皮膚炎の治療に用いられた場合、ステロイドは副作用を引き起こす。一方、タクロリムスを含んでいる軟膏は、ステロイドの副作用は引き起こさないが、腫瘍を発生させるという副作用を引き起こす。本実施形態の外用薬は、ステロイドの副作用を引き起こさず、タクロリムスを含んでいる軟膏が有する効果をほぼ有しており、さらに抗腫瘍効果も有している。よって、本実施形態の外用薬をアトピー性皮膚炎に用いれば、タクロリムスを含んでいる軟膏の副作用を回避することができる。すなわち、本実施形態の外用薬は、タクロリムスを含んでいる軟膏よりも安全性の高い、アトピー性皮膚炎の外用薬である。アトピー性皮膚炎は、近年、増加傾向にあり、発症の頻度が極めて高い疾患であり、長期間の処置を必要とし、患者のQOLが低下させてしまう。
【0039】
本実施形態の外用薬が処置の対象とする白斑は、結節性硬化症の白斑などの先天性白斑に限定されず、尋常性白斑などの後天性白斑も含まれる。本邦における先天性白斑の患者は5万人程度であり、そのうち1/3を結節性硬化症の白斑の患者が占めている。結節性硬化症の白斑に対する治療法は現在存在しない。それ故、本実施形態の外用薬が結節性硬化症の白斑を処置できることは、画期的である。
【0040】
また、後天性白斑の患者は、およそ20万人であり、そのうち75〜80%を尋常性白斑の患者が占めている。尋常性白斑は、生命を脅かす疾患ではないが、この疾患に罹患することによって患者のQOLは低下する。尋常性白斑に対する治療法として、ステロイドやビタミンDの軟膏が外用されるが、このような軟膏の処置効果が弱く、十分な治療成績が得られない。このため、尋常性白斑を治療するために、エキシマレーザーの照射、PUVAの照射(メトキシソラレンと紫外線Aの併用による治療法)、nbUVB(ナローバンドUVB)の照射などが行われる。しかし、このようなレーザーまたは紫外線の使用は、通院が必要になったり、発癌の危険性があったりする。本実施形態の外用薬は、このような必要性および危険性を伴うことなく、尋常性白斑を有効に処置することができる。
【0041】
酒さの患者は極めて多く、特に海外において酒さの発症の頻度が高い。酒さは、症状がひどくなれば、患者のQOLを低下させる。このため、酒さの治療が求められていたが、酒さに対する有効な治療剤がなかった。それ故、本実施形態の外用薬が酒さを処置できることは、医薬業界において極めて重大な影響を与える。
【0042】
脂漏性角化症などの皮膚の良性腫瘍は、生命を脅かすものではないが、加齢に伴い全てのヒトに出願する病変である。この良性腫瘍の症状がひどければ、患者のQOLを低下させる。
【0043】
上述したように、アトピー性皮膚炎、白斑、酒さ、および皮膚の良性腫瘍は、患者のQOLを低下させてしまい、この患者の労働生産力も低下させてしまう。本実施形態の外用薬を用いれば、これらの疾患を、副作用を引き起こすことなく有効に処置することができるので、患者の労働生産力を向上させることができる。すなわち、本実施形態の外用薬は、社会経済的、医療経済的にも役立つ。
【0044】
上述したように、本実施形態の外用薬、ゲル組成物、ならびに本実施形態の外用薬(ゲル組成物)を調製するためのキットは、上記有効成分、有効成分を溶解させる溶媒およびゲル化を誘導する成分以外に、他の成分を含んでいてもよい。また、本実施形態の外用薬(ゲル組成物)を調製するための組成物は、上記有効成分および有効成分を溶解させる溶媒以外に、他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、水溶性高分子、pH調整剤、水、および目的の皮膚疾患を処置するに有効な他の有効成分が挙げられる。
【0045】
水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。なお、ヒドロキシプロピルセルロースを本実施形態の外用薬に配合することによって、本実施形態の外用薬の粘着度を向上させることができる。すなわち、ヒドロキシプロピルセルロースを本実施形態の外用薬に配合することによって、外用薬が皮膚から剥がれにくくすることができる。
【0046】
pH調整剤としては、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどが挙げられる。
【0047】
皮膚疾患を処置するに有効な他の有効成分としては、例えば、ステロイド剤、タクロリムスなどが挙げられる。
【0048】
本実施形態の外用薬、ゲル組成物ならびに本実施形態の外用薬(ゲル組成物)を調製するための組成物が上述した他の成分を含んでいる場合、これらに含まれる他の成分の総量は、製造される外用薬がゲルの形態となる点および有効成分の効果が抑制されない点などを考慮して、当業者が適宜設定することができる。例えば、外用薬に含まれる他の成分の総量は、外用薬の総質量を基準として例えば49質量%である。外用薬(ゲル組成物)を調製するためのキットが他の成分を備えている場合、この他の成分の総量は任意であり、製造される外用薬に最終的に含まれる他の成分の総量が、上記量となればよい。
【0049】
また、本発明は、皮膚疾患を処置するための外用薬を製造する方法を提供する。本実施形態の外用薬が、ゲル組成物からなるものである場合、上記方法はゲル組成物を製造する方法であり得る。ゲル組成物を製造する方法は、ゲル組成物を作製する工程を包含していればよい。ゲル組成物を作製する工程は、有効成分を含有している溶液をゲル化することを含んでいればよい。ゲル化の手順は、例えば、有効成分を、有効成分を溶解させる溶媒に溶解し、生じた溶液をゲル化を誘導する成分と混合すればよい。なお、上記他の成分をゲル組成物に含有させる場合、有効成分と他の成分とを有効成分を溶解させる溶媒に溶解し、生じた溶液を、ゲル化を誘導する成分と混合すればよい。また、本実施形態の外用薬が、ゲル組成物および他の成分を含んでいる場合、ゲル組成物および他の成分を従来公知の方法によって混合し、生じた混合物をゲルの形態に剤形化すればよい。
【0050】
本実施形態の外用薬は、ヒトおよび非ヒト動物に適用することができる。「非ヒト動物」としては、例えば、ヒトを除く哺乳類、および鳥類を挙げることができる。ヒトを除く哺乳類としては、特に限定されるものではなく、例えば、ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの偶蹄類、ウマなどの奇蹄類、マウス、ラット、ハムスター、リスなどのげっ歯類、ウサギなどのウサギ目、イヌ、ネコ、フェレットなどの食肉類などを挙げることができる。また、鳥類としては、特に限定されるものではなく、例えば、アヒル、ニワトリ、ハト、インコなどを挙げることができる。また、これらの非ヒト動物は、家畜またはコンパニオンアニマル(愛玩動物)であることに限定されるものではなく、野生動物であってもよい。
【0051】
また、本発明は上述した皮膚疾患の処置方法を提供する。本発明の処置方法は、本実施形態の外用薬を皮膚疾患の患部に適用する工程を含んでいればよい。本明細書において「適用」は、本実施形態の外用薬を患部に付着させることが意図される。「外用薬を患部に適用すること」は、例えば、外用薬を患部に塗布すること、外用薬を患部にスプレーすること、および外用薬を貼付剤として患部に貼り付けることを包含する。
【0052】
本実施の形態の外用薬(ゲル組成物)は、以下のように構成することも可能であるが、本発明はこれらに限定されない。
【0053】
例えば、本実施の形態の外用薬(ゲル組成物)は、有効成分の他に、カーボポール(登録商標)934NF、水、イソプロパノールおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタンを含むことが可能である。
【0054】
このとき、有効成分、カーボポール(登録商標)934NF、水、イソプロパノールおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタンの質量の比は、有効成分:カーボポール(登録商標)934NF:水:イソプロパノール:トリスヒドロキシメチルアミノメタン=2〜4:16:490〜833:145〜488:4であり得る。但し、上記比において、有効成分、水およびイソプロパノールの合計は、980となる。
【0055】
更に具体的には、上記比は、有効成分:カーボポール(登録商標)934NF:水:イソプロパノール:トリスヒドロキシメチルアミノメタン=2:16:833:145:4であってもよく(以下、比率1と呼ぶ)、有効成分:カーボポール(登録商標)934NF:水:イソプロパノール:トリスヒドロキシメチルアミノメタン=2:16:490:488:4であってもよい(以下、比率2と呼ぶ)。上述した比率1と比率2とを比較した場合、比率2にて作製された外用薬の方が、比率1にて作製された外用薬よりも透明度が高い。
【0056】
〔実施形態2:軟膏組成物を含んでいる外用薬〕
本実施形態の外用薬は、皮膚疾患を局所的に処置するための有効成分を含有している軟膏組成物を含んでいる。本明細書中にて使用される場合、「軟膏組成物」は、有効成分が、有効成分と相溶しない溶媒中に分散しているものが意図される。軟膏組成物を含んでいる外用薬は、軟膏剤であるといえる。
【0057】
このように、本実施形態の外用薬では、有効成分を、有効成分と相溶しない溶媒中に分散させることによって、有効成分の皮膚から患部への吸収効率が向上し、有効成分による皮膚疾患の局所的な処置が可能となる。このような分散を行うには、例えば、有効成分を、有効成分を溶解させる溶媒に溶解し、生じた溶液と、有効成分と相溶しない溶媒とを混合すればよい。
【0058】
本実施形態の外用薬は、軟膏組成物からなるものであってもよいし、軟膏の形態が維持されるのであれば、上述した他の成分がさらに含まれていてもよい。軟膏組成物も同様に、有効成分、有効成分を溶解させる溶媒および有効成分と相溶しない溶媒からなるものであってもよいし、軟膏の形態が維持されるのであれば、他の成分がさらに含まれていてもよい。このように、本実施形態の外用薬は、有効成分と相溶しない溶媒中に有効成分が分散している。また、有効成分と、有効成分を溶解させる溶媒、有効成分と相溶しない溶媒と含んでおり、有効成分が有効成分と相溶しない溶媒中に分散される前の組成物も、本発明に含まれる。同様に、有効成分、有効成分を溶解させる溶媒、および有効成分と相溶しない溶媒が別々に備えられているキットも、本発明に含まれる。このような組成物およびキットは、上記軟膏組成物(および本実施形態の外用薬)を調製するために用いることができる。もちろん、軟膏組成物を調製するための上記組成物が他の成分をさらに含んでいてよいし、軟膏組成物を調製するための上記キットが他の成分をさらに備えていてもよい。
【0059】
上述した有効成分を溶解させる溶媒は、実施形態1にて説明したように、例えば、イソプロパノール、エタノールおよび炭酸プロピレンが挙げられるが、本実施形態2(軟膏組成物)の場合、炭酸プロピレンが好ましい。
【0060】
上述した有効成分と相溶しない溶媒は、特に限定されないが、例えば、ロウ類、パラフィン類、ワセリンなどが挙げられる。ロウ類としては、例えば、サラシミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、鯨ロウなどの天然ロウ、モンタンロウなどの鉱物ロウ、合成ロウなどが挙げられる。パラフィン類としては、例えば、流動パラフィン、固形パラフィンなどが挙げられる。ワセリンとしては、白色ワセリン、黄色ワセリンなどが挙げられる。
【0061】
本実施形態において、有効成分を、有効成分を溶解させる溶媒に溶解し、生じた溶液と、有効成分と相溶しない溶媒とを混合したことによって、有効成分が、有効成分と相溶しない溶媒中に細かな粒子として均一に分散する。このような分散によって、有効成分の皮膚から患部への吸収が顕著に向上する。本実施形態の外用薬を用いれば、皮膚疾患の処置が、従来の外用薬におけるシロリムスの量よりもはるかに少ない量で実現する。また、有効成分が上述したように分散していることによって、有効成分が血中に漏出することなく患部に留まる可能性も考えられる。本実施形態の外用薬を用いれば、従来の外用薬のように副作用を生じることなく、皮膚疾患を処置することができる。
【0062】
本実施形態の外用薬に含まれる有効成分の量は、外用薬の総質量を基準として、0.01〜2質量%であることが好ましく、0.03〜1質量%であることがより好ましい。有効成分の量がこの範囲内であれば、副作用を引き起こすことなく、皮膚疾患を処置することができる。なお、外用薬を調製するための組成物に含まれる有効成分の量も、外用薬に含まれる有効成分の量と同様である。外用薬を調製するためのキットに備えられる有効成分の量は任意であり、製造される外用薬に最終的に含まれる有効成分の量が、上記範囲内となればよい。また、軟膏組成物に含まれる有効成分の量は、外用薬に含まれる有効成分の量が上記範囲内となる量であればよく、当業者が適宜設定することができる。
【0063】
本実施形態の外用薬(または軟膏組成物)に含まれる、有効成分を溶解させる溶媒の量は、特に限定されず、有効成分を十分に溶解することができる量であればよい。例えば、有効成分を溶解させる溶媒の量は、有効成分の量の2〜100倍であり、3〜50倍であることが好ましく、5〜29倍であることがより好ましい。なお、外用薬を調製するための組成物に含まれるこの溶媒の量も、外用薬に含まれる、有効成分を溶解させる溶媒の量と同様である。外用薬を調製するためのキットに備えられる、有効成分を溶解させる溶媒の量は任意であり、有効成分を十分に溶解することができる量であればよい。
【0064】
本実施形態の外用薬(または軟膏組成物)に含まれる、有効成分と相溶しない溶媒の量は、特に限定されず、有効成分が、有効成分と相溶しない溶媒に微粒子として均一に分散するに十分な量であればよい。例えば、用いる、有効成分と相溶しない溶媒の量は、有効成分の量の50〜1000倍であり、70〜500倍であることが好ましく、94〜470倍であることがより好ましい。なお、外用薬を調製するための組成物に含まれるこの溶媒の量も、外用薬に含まれる、有効成分と相溶しない溶媒の量と同様である。外用薬を調製するためのキットに備えられる、有効成分と相溶しない溶媒の量は任意であり、有効成分を十分に分散させることができる量であればよい。
【0065】
上述したように、実施形態の外用薬、軟膏組成物、ならびに本実施形態の外用薬(軟膏組成物)を調製するための組成物およびキットは、上記有効成分、有効成分を溶解させる溶媒、有効成分と相溶しない溶媒以外に、他の成分を含んでいてもよい。他の成分については、上述した実施形態1の説明を援用することができ、ここでは省略する。
【0066】
また、本発明は、皮膚疾患を処置するための外用薬を製造する方法を提供する。本実施形態の外用薬が、軟膏組成物からなるものである場合、上記方法は軟膏組成物を製造する方法であり得る。軟膏組成物を製造する方法は、軟膏組成物を作製する工程を包含していればよい。軟膏組成物を作製する工程は、有効成分を、有効成分と相溶しない溶媒に分散させることを包んでいればよい。有効成分を、有効成分と相溶しない溶媒に分散させる手順は、有効成分を、有効成分を溶解させる溶媒に溶解し、生じた溶液を有効成分と相溶しない溶媒と混合すればよい。
【0067】
具体的には、有効成分が溶解した上記溶液を、有効成分と相溶しない溶媒に添加し、シンキ株式会社製の自転公転ミキサーまたはプライミクス株式会社製のホモミキサーを用いて、攪拌することによって、有効成分をエマルジョンの形態にて分散させることができる。これらのミキサーを用いることによって、有効成分の粒子の大きさを均一化し、かつ均一化された有効成分を、有効成分と相溶しない溶媒中に首尾よく分散させることができる。自転公転ミキサーを用いる場合、例えば、室温で、1分間、2000rpmにて攪拌し、次いで5分間、1000rpmにて攪拌し、そして3分間、500rpmにて攪拌を行えばよい。ホモミキサーを用いる場合の攪拌の条件は、例えば、ホモミキサーに添付された説明書等に基づいて当業者が適宜設定することができる。特に、このホモミキサーを用いることによって、本実施形態の外用薬を大量に調製することができる。
【0068】
なお、有効成分と相溶しない溶媒が室温において固体である場合、この溶媒が液体になるまで加温し、生じた液体の溶媒と、有効成分が溶解した溶液と混合すればよい。例えば、室温において固体である各種成分(ロウ類、パラフィン類、ワセリン)などを融点(例えば70℃)に加温して溶解し、混合する。そして、この混合物を室温付近にまで(例えば40℃)に冷却し、この混合物を有効成分が溶解した溶液に添加し、上記攪拌を行うことによって軟膏組成物を製造する。
【0069】
上記他の成分を軟膏組成物に含有させる場合、有効成分と他の成分とを、有効成分を溶解させる溶媒に溶解し、生じた溶液を、有効成分と相溶しない溶媒と混合すればよい。また、本実施形態の外用薬が、軟膏組成物および他の成分を含んでいる場合、軟膏組成物および他の成分を従来公知の方法によって混合し、生じた混合物を軟膏の形態に剤形化すればよい。
【0070】
なお、実施形態2にて説明した本発明の構成以外の構成(有効成分、キット、他の成分、外用薬が適用される疾患、外用薬が適用される動物、皮膚疾患の処置方法など)は、上述した実施形態1と同じであるか、実施形態1に基づいて当業者が適宜改変して援用することができる。
【0071】
本実施の形態の外用薬(軟膏組成物)は、以下のように構成することも可能であるが、本発明はこれらに限定されない。
【0072】
例えば、本実施の形態の外用薬(軟膏組成物)は、有効成分の他に、炭酸プロピレン、固形パラフィンおよび白色ワセリンを含むことが可能である。本実施の形態の外用薬(軟膏組成物)は、炭酸プロピレン、固形パラフィンおよび白色ワセリンに加えて、更に流動パラフィンを含むことも可能である。本実施の形態の外用薬(軟膏組成物)は、炭酸プロピレン、固形パラフィン、白色ワセリンおよび流動パラフィンに加えて、更にサラシミツロウを含むことが可能である。
【0073】
このとき、有効成分、炭酸プロピレン、固形パラフィン、白色ワセリン、流動パラフィンおよびサラシミツロウの質量の比は、有効成分:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=0.3〜10:50〜59.4:30〜45:895:0〜10:0〜5であり得る。但し、上記比において、有効成分、炭酸プロピレン、固形パラフィンおよび流動パラフィンの合計は、105となる。
【0074】
更に具体的には、上記比は、有効成分:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:30:895:10:5であってもよく(以下、比率3と呼ぶ)、有効成分:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:45:895:0:0であってもよく(以下、比率4と呼ぶ)、有効成分:炭酸プロピレン:固形パラフィン:白色ワセリン:流動パラフィン:サラシミツロウ=2:58:35:895:10:0であってもよい(以下、比率5と呼ぶ)。上述した比率3と比率4とを比較した場合、比率3にて作製された外用薬の方が、比率4にて作製された外用薬よりも、透明度が高いとともに、外用薬の表面に存在する水の量を少なくすることができる。上述した比率3と比率5とを比較した場合、比率3にて作製された外用薬の方が、比率5にて作製された外用薬よりも、滑らかであるとともに、外用薬の表面に存在する水の量を少なくすることができる。
【0075】
本発明は、以下のように構成することも可能である。
【0076】
ゲル組成物は、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つを含有している溶液をゲル化したものであることが好ましい。
【0077】
本発明において、溶液は、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つを、イソプロパノールおよびエタノールの少なくとも1つに溶解させたものであることが好ましい。
【0078】
本発明が適用される皮膚疾患は、皮膚腫瘍、アトピー性皮膚炎、酒さ、ケロイド、色素斑、脱色素斑、皮膚における血管系の形成異常、皮膚における血管系の良性腫瘍、および上皮系母斑からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、結節性硬化症の皮膚腫瘍、脂漏性角化症、およびレックリングハウゼン病の皮膚腫瘍からなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。皮膚における血管系の形成異常は単純性血管腫、クモ状血管腫または被角血管腫であることが好ましく、皮膚における血管系の良性腫瘍はイチゴ状血管腫または老人性血管腫であることが好ましく、上皮系母斑は、疣状母斑、列序性母斑、炎症性線状疣状表皮母斑、および脂腺母斑からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、色素斑は褐色斑であることが好ましく、褐色斑は扁平母斑またはカフェオレ斑であることがより好ましく、脱色素斑は白斑であることが好ましい。
【0079】
ゲル組成物は、カーボポール(登録商標)934NF、水、イソプロパノールおよびトリスヒドロキシメチルアミノメタンの少なくとも1つを含んでいることが好ましい。
【0080】
ゲル組成物は、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つと、カーボポール(登録商標)934NFと、水と、イソプロパノールと、トリスヒドロキシメチルアミノメタンとの質量の比が、2〜4:16:490〜833:145〜488:4であり、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つの比と、水の比と、イソプロパノールの比との合計が、980であることが好ましい。
【0081】
ゲル組成物は、前記シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つと、カーボポール(登録商標)934NFと、水と、イソプロパノールと、トリスヒドロキシメチルアミノメタンとの質量の比が、2:16:490:488:4であることが好ましい。
【0082】
軟膏組成物は、炭酸プロピレン、固形パラフィン、白色ワセリン、流動パラフィンおよびサラシミツロウの少なくとも1つを含んでいることが好ましい。
【0083】
軟膏組成物は、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つと、炭酸プロピレンと、固形パラフィンと、白色ワセリンと、流動パラフィンと、サラシミツロウとの質量の比が、0.3〜10:50〜59.4:30〜45:895:0〜10:0〜5であり、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つの比と、炭酸プロピレンの比と、固形パラフィンの比と、流動パラフィンの比と、サラシミツロウの比との合計が、105であることが好ましい。
【0084】
軟膏組成物は、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つと、炭酸プロピレンと、固形パラフィンと、白色ワセリンと、流動パラフィンと、サラシミツロウとの質量の比が、2:58:30:895:10:5であることが好ましい。
【0085】
また、本発明の組成物は、皮膚疾患を局所的に処置するための外用薬を調製するための、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つを含んでいることを特徴としている。
【0086】
また、本発明のキットは、皮膚疾患を局所的に処置するための外用薬を調製するための、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つを備えていることを特徴としている。
【0087】
また、本発明の外用薬を製造する方法は、シロリムスおよびその誘導体の少なくとも1つを含有しているゲル組成物または軟膏組成物を作製する工程を包含していることを特徴としている。上記溶液は、上述した組成物またはキットを用いて調製されてもよい。
【0088】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。以下実施例を示し、本発明についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0089】
〔本発明の外用薬の調製〕
<調製例1:0.4質量%のシロリムスを含むゲルの調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)4mgをイソプロパノール(和光純薬工業株式会社製、166-04836)486mgに溶解させた。得られた溶解物490mgをカーボポール(登録商標)934NFポリマー(Lubrizol社製)16mgとHO490mgとの混合物と混合した。得られた混合物に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(和光純薬工業株式会社製、203-06272)4mgを混合した。このようにして、0.4質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル1)を調製した。
【0090】
<調製例2:0.2質量%のシロリムスを含むゲルの調製1>
シロリムスの試薬2mgをイソプロパノール488mgに溶解させたことを除いて、調製例1と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル2)を調製した。
【0091】
<調製例3:0.2質量%のシロリムスを含むゲルの調製2>
シロリムスの試薬の代わりにRapamuneを用いたことを除いて、調製例2と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル3)を調製した。具体的には、2mgのRapamuneの錠剤を粉砕し、不純物(賦形剤など)を取り除くために75μmのメッシュを通してから、粉砕物をイソプロパノール488mgに溶解させた。
【0092】
<調製例4:1質量%のシロリムスを含む軟膏の調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)10mgを炭酸プロピレン(和光純薬工業株式会社製、168-04972)50mgに溶解させた。サラシミツロウ5mg、流動パラフィン(和光純薬工業株式会社製、128-04375)10mg、固形パラフィン(和光純薬工業株式会社製、415-25791)30mg、および白色ワセリン(プロペト)(丸石製薬株式会社製、Merck社製、またはアストラジャパン株式会社製)895mgを、70℃に加熱し溶解させながら混合した。
【0093】
この混合物の温度が40℃になるまで冷却した後、上述したシロリムスの試薬と炭酸プロピレンとの溶解物を添加した。これによって生じた混合物を自転公転ミキサー(シンキ株式会社製、Nano Pulverizer NP-100)を用いて常温で、1分間、2000rpmにて攪拌し、次いで5分間、1000rpmにて攪拌し、そして3分間、500rpmにて攪拌した。このようにして、1質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏1)を調製した。
【0094】
なお、この調製例4では、自転公転ミキサーを用いたが、プライミクス株式会社製のホモミキサーを用いてもよい。このホモミキサーを用いることによって、軟膏を大量に調製することができる。
【0095】
<調製例5:0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製1>
シロリムスの試薬2mgを炭酸プロピレン58mgに溶解させたことを除いて、調製例4と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏2)を調製した。
【0096】
<調製例6:0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製2>
シロリムスの試薬の代わりにRapamune(ファイザー社製、29269)を用いたことを除いて、調製例5と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏3)を調製した。具体的には、2mgのRapamuneの錠剤を粉砕し、不純物を取り除くために75μmのメッシュを通してから、粉砕物を炭酸プロピレン58mgに溶解させた。
【0097】
<参考例1:市販の軟膏を基剤として用いた0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製>
プロトピック(登録商標)軟膏0.03%小児用(アステラス製薬株式会社)を基剤として0.2質量%のシロリムスを含んでいる軟膏(参考例1)を調製した。
【0098】
<参考例2:市販の軟膏を基剤として用いた0.2質量%のシロリムスを含む別の軟膏の調製>
プロトピック(登録商標)軟膏0.03%小児用の代わりに、プロトピック(登録商標)軟膏0.1%を用いたことを除いて、参考例1と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含んでいる軟膏(参考例2)を調製した。
【0099】
〔本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量の確認〕
本実施例では、以下のような試験を実施して、本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量を確認した。
【0100】
<試験方法>
TESTSKIN(登録商標)LSE−d、およびTESTSKIN(登録商標)LSE−high(TOYOBO)の各トランスウェル内の皮膚に、上述の本発明の外用薬(軟膏2および3、並びに、ゲル2および3)をそれぞれ塗布した。なお、リング内の吸収面の直径は、1cmであった。
【0101】
培地(TESTSKIN(登録商標)LSE(登録商標)ASSAY MEDIUM(TOYOBO))を添加したアッセイトレイ上にトランスウェルを移動させ、インキュベーター内にて24時間インキュベートした。インキュベーター内の温度は、37℃であり、COの濃度は5%であった。
【0102】
インキュベート後に、トランスウェルの表面の外用薬をろ紙でふき取り、さらにこの表面を培地で洗浄した。これによって、表面に残存する外用薬を除去した。
【0103】
ラップを敷いたヒートトレイにトランスウェルを載せた。ヒートトレイの温度を60℃に設定し、トランスウェルを60秒〜90秒間加温した。
【0104】
トランスウェルから組織を取り出した。この組織から表皮を除去し、次いで真皮層を採取した。採取した真皮層をエッペンドルフチューブに入れた。
【0105】
LC/ESI/MSシステムを用いて、真皮層中のシロリムスの濃度を測定した。LC/ESI−MSシステムとして、HPLC P4000,AS3000 thermostat(Thermo Fisher KK, San Jose, CA, USA)を使用した。ESI/MSの検出器として、LCQ Finigan Mat(Thermo Fisher KK, San Jose, CA, USA)を使用した。オートサンプラーとしてHTC−Pal(AMR Inc, Tokyo, Japan)を使用した。データの解析処理には、X caliber ver1.2 (Thermo Fisher KK, San Jose, CA, USA)を使用した。
【0106】
上述した試験方法を各外用薬について3回行い、真皮層中のシロリムスの濃度の平均値および標準偏差を算出した。各外用薬を用いて得られた試験の結果に統計的有意差があるか否かを、対応のないstudent t検定を用いてp値を算出することによって確認した。p値が0.05未満であれば、統計的有意差があるとみなした。
【0107】
<試験結果>
ゲル2、軟膏2および参考例1を用いて得られた試験の結果を図1に示す。図1に示すように、ゲル2を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が8.08±3.85ng/mgであり、軟膏2を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が10.03±2.68ng/mgであり、タクロリムスの軟膏基剤を用いた場合、真皮中のタクロリムスの濃度が1.82±0.319ng/mgであった。また、ゲル2と参考例1との間のp値および軟膏2と参考例1との間のp値は、どちらも0.05未満であった。このp値から、ゲル2および軟膏2と参考例1との間に有意差があることが確認された。以上のことから、参考例1よりもゲル2および軟膏2の方が、有効成分をより効率よく皮膚へ浸透できることが分かった。
【0108】
ゲル2、ゲル3、軟膏2、および軟膏3を用いた試験の結果を図2に示す。図2の(a)〜(d)に示すように、ゲル2を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が1.823±0.146ng/mgであり、ゲル3を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が1.073±0.199ng/mgであり、軟膏2を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が1.087±0.073ng/mgであり、軟膏3を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が0.26±0.098ng/mgであった。
【0109】
図2の(a)に示すように、ゲル2と軟膏2との間のp値は0.05未満であり、ゲル2と軟膏2との間に有意差があることが確認された。また、図2の(b)に示すように、ゲル3と軟膏3との間のp値は0.05未満であり、ゲル3と軟膏3との間に有意差があることが確認された。これらの結果から、軟膏よりもゲルの方が、シロリムスをより効率よく皮膚へ浸透させることが分かった。これは、ゲルを作製する際に、シロリムスを溶媒(イソプロパノール)に溶解させたためであると考えられる。したがって、糜爛部分が多く、外用薬の吸収が良く、刺激を受けやすい病変(アトピー性皮膚炎など)に対しては軟膏を使用することが好ましく、外用薬の吸収が悪く、刺激を受けにくい病変(白斑など)に対してはゲルを使用することが好ましいと考えられる。
【0110】
図2の(c)に示すように、ゲル2とゲル3との間のp値は0.05未満であり、ゲル2とゲル3との間に有意差があることが確認された。また、図2の(d)に示すように、軟膏2と軟膏3との間のp値は0.05未満であり、軟膏2と軟膏3との間に有意差があることが確認された。これらの結果から、錠剤のシロリムス(Rapamune)を用いて調製した外用薬よりも、試薬のシロリムスを用いて調製した外用薬の方が、シロリムスをより効率よく皮膚へ浸透できることが分かった。したがって、試薬のシロリムスを用いることによってより効果の高い外用薬を調製できることが分かった。
【0111】
〔軟膏の外用薬をマウスの皮膚に複数回塗布した後に、マウスの皮膚内に吸収されるシロリムスの量の確認〕
<試験方法>
上述した調製例5に従い、0.03質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏4)、0.06質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏5)、0.1質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏6)を調製した。
【0112】
Rapamuneを用いて作製した軟膏3、ならびにシロリムスの試薬を用いて作製した軟膏2、軟膏4、軟膏5および軟膏6を、それぞれマウスの皮膚に複数回塗布し、皮膚内に吸収されたシロリムスの量を測定した。具体的には、これらの軟膏をマウスの皮膚に1週間当たり2回、4週間塗布した。4週間後にマウスの皮膚を回収し、LC-ESI/MS 法を用いて、皮膚内のシロリムスの量を測定した。
【0113】
<試験結果>
軟膏3(0.2質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、294.2±100.7pg/mLであり、軟膏2(0.2質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、333.1±123pg/mLであり、軟膏4(0.03質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、67.59±22.1pg/mLであり、軟膏5(0.06質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、80.31±20.6pg/mLであり、軟膏6(0.1質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、103.06±22.3pg/mLであった。
【0114】
上述した人工皮膚に外用薬を一回塗布するという試験では、錠剤のシロリムス(Rapamune)を用いて調製した外用薬よりも、試薬のシロリムスを用いて調製した外用薬の方が、シロリムスをより効率よく皮膚へ浸透できるという結果が得られた。一方、マウスの皮膚に複数回塗布することによって、錠剤のシロリムスを用いて調製した軟膏3が真皮中に吸収される量を、シロリムスの試薬を用いて調製した軟膏2が真皮中に吸収される量に近づけることができることが分かった。よって、錠剤のシロリムスを用いて調製した軟膏であっても、複数回塗布することによって、疾患を処置するに十分な量のシロリムスを患部へ送達することができるといえる。なお、これは、軟膏だけに当てはまるものではなく、ゲルについても当てはまると考えられる。
【0115】
〔本発明の外用薬を用いた結節性硬化症の患者の血管線維腫の処置〕
本実施例では、以下のような試験を実施して、本発明の外用薬の、結節性硬化症の皮膚腫瘍に対する効果を確認した。したがって、結節性硬化症以外の皮膚の良性腫瘍(脂漏性角化症など)に対しても効果が期待される。
【0116】
<試験方法>
結節性硬化症の患者を、上記軟膏3を用いて処置される患者のグループ(4人)、および上記ゲル3を用いて処置される患者のグループ(8人)に分けた。各患者に対して、上述した外用薬を1日2回、12週間塗布した。具体的には、患者の顔面の左側および右側のどちらか一方の血管線維種に外用薬を塗布し、他方の血管線維腫に、有効成分(シロリムス)を含まない基剤のみ(コントロール)を塗布した。処置の開始から12週間後に処置を中止した。そして、処置を中止してから3ヶ月間、血管線維腫の経過観察を行った。なお、ゲル3を用いて処置される患者の一人が、決められた通りの外用を適切に行わなかったため、試験中に除外された。
【0117】
処置の開始前、処置の開始から12週間後に、血管線維腫の写真を撮影し、血管線維腫の評価を行った。血管線維腫の評価は、潮紅の軽快、丘疹の縮小化、および局面の平坦化の程度、ならびに総合的な観点(総合的なスコア)を4段階のスコアに割り当てることによって行った。
【0118】
すなわち、潮紅の軽快については、潮紅が処置の開始前と比べて軽快していない場合、スコアを0とし、潮紅が処置の開始前と比べて49%軽快された場合、スコアを1とし、潮紅が処置の開始前と比べて50〜80%軽快された場合、スコアを2とし、潮紅が処置の開始前と比べて80%以上軽快された場合、スコアを3とした。
【0119】
丘疹の縮小化については、丘疹が処置の開始前と比べて縮小していない場合、スコアを0とし、丘疹が処置の開始前と比べて49%縮小化された場合、スコアを1とし、丘疹が処置の開始前と比べて50〜80%縮小化された場合、スコアを2とし、丘疹が処置の開始前と比べて80%以上縮小化された場合、スコアを3とした。
【0120】
局面の平坦化については、局面が処置の開始前と比べて平坦化されていない場合、スコアを0とし、局面が処置の開始前と比べて49%平坦化された場合、スコアを1とし、局面が処置の開始前と比べて50〜80%平坦化された場合、スコアを2とし、80%以上平坦化された場合、スコアを3とした。
【0121】
総合的なスコアについては、上述した潮紅、丘疹および局面のスコアを合計したものの平均を総合スコアとした。
【0122】
<試験結果>
図3〜5に、ゲル3を用いた処置の開始前および処置の開始から12週間後の血管線維腫の写真を示す。図3〜5に示すように、患者の左頬の血管線維腫には、ゲル3を塗布し、患者の右頬の血管線維腫には、コントロールを塗布した。
【0123】
図3の(a)、図4の(a)、および図5の(a)は、上記ゲル3を用いた処置の開始前の血管線維腫を示す写真であり、図3の(b)、図4の(b)、および図5の(b)は、上記ゲル3を用いた処置の開始から12週間後の血管線維腫を示す写真である。図3の(c)および(d)は、それぞれ図3の(a)および(b)の左頬の拡大図である。図3の(a)と(b)、図3の(c)と(d)、図4の(a)と(b)、および図5の(a)と(b)を比較すれば分かるように、ゲル3を塗布した血管線維腫は軽快したが、コントロールを塗布した血管線維腫は変化しなかった。
【0124】
図6〜7に、軟膏3を用いた処置の開始前および処置の開始から12週間後の血管線維腫の写真を示す。図6に示すように、患者の左頬の血管線維腫には、軟膏3を塗布し、患者の右頬の血管線維腫には、コントロールを塗布した。また、図7に示すように、患者の右頬の血管線維腫には、軟膏3を塗布し、患者の左頬の血管線維腫には、コントロールを塗布した。
【0125】
図6の(a)および図7の(a)は、軟膏3を用いた処置の開始前の血管線維腫を示す写真であり、図6の(b)および図7の(b)は、軟膏3を用いた処置の開始から12週間後の血管線維腫を示す写真である。図6の(c)および(d)は、それぞれ図6の(a)および(b)の左頬の拡大図である。図6の(a)と(b)、図6の(c)と(d)、図7の(a)と(b)を比較すれば分かるように、軟膏3を塗布した血管線維腫は軽快したが、コントロールを塗布した血管線維腫は変化しなかった。
【0126】
上述した血管線維腫の評価の結果を図8〜9に示す。
【0127】
図8は、ゲル3またはコントロールを用いた処置から12週間後の各患者のスコアを示すグラフである。図8の(a)は、総合的なスコアを示すグラフであり、(b)は、潮紅のスコアを示すグラフであり、(c)は、丘疹のスコアを示すグラフであり、(d)は局面のスコアを示すグラフである。図8の(a)〜(d)の左側にゲル3の塗布によって得られたスコアを示し、同図の右側にコントロールの塗布によって得られたスコアを示す。
【0128】
図8の(a)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、ゲル3を用いた場合、4、4、4、3、および3.75であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。図8の(b)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、ゲル3を用いた場合、4、4、4、3、および3.75であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。図8の(c)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、ゲル3を用いた場合、3、3、4、2、および3であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。図8の(d)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、ゲル3を用いた場合、いずれも4であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
【0129】
なお、図8の(a)〜(d)のそれぞれにおいて、ゲル3を用いた場合の平均のスコアとコントロールを用いた場合の平均のスコアとに統計的有意差があるか否かを、対応のあるstudent t検定を用いてp値を算出することによって確認した。その結果、いずれのp値も0.05未満であり、統計的有意差があることが明らかになった。
【0130】
図9は、軟膏3またはコントロールを用いた処置から12週間後の各患者のスコアを示すグラフである。図9の(a)は、総合的なスコアを示すグラフであり、(b)は、潮紅のスコアを示すグラフであり、(c)は、丘疹のスコアを示すグラフであり、(d)は局面のスコアを示すグラフである。図9の(a)〜(d)の左側に軟膏3の塗布によって得られたスコアを示し、同図の右側にコントロールの塗布によって得られたスコアを示す。
【0131】
図9の(a)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、軟膏3を用いた場合、4、4、2、1.5、および2.9であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。図9の(b)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、軟膏3を用いた場合、4、4、2、1.5、および2.9であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。図9の(c)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、軟膏3を用いた場合、3、1.5、1、1、および1.7であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。図9の(d)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、軟膏3を用いた場合、4、4、2、1.5、および2.9であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
【0132】
なお、図9の(a)〜(d)のそれ場合の平均のスコアとコントロールを用いた場合の平均のスコアとに統計的有意差があるか否かを、対応のあるstudent t検定を用いてp値を算出することによって確認した。その結果、いずれのp値も0.05未満であり、統計的有意差があることが明らかになった。
【0133】
以上の結果から、ゲル3および軟膏3を用いることによって、血管線維腫が軽快することが分かった。
【0134】
また、ゲル3または軟膏3を用いた処置の開始前および処置の終了日(処置から12週間)後に患者の血液を採取して、血液検査を行い、血中の成分を測定した。患者1および患者2に対して行った血液検査の結果を以下の表に示す。
【0135】
【表1】
「WBC」は白血球数を示す。「RBC」は赤血球数を示す。「Hb」は血色素量を示す。「Ht」はヘマトクリットを示す。「Plat」は血小板を示す。「Neu」は好中球を示す。「Lym」はリンパ球を示す。「Eo」は好酸球を示す。「ba」は好塩基球を示す。「Cr」はクレアチニンを示す。「AST」はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを示す。「ALT」はアラニンアミノトランスフェラーゼを示す。「γGTP」は、ガンマグルタミルトランスフェラーゼを示す。「Tchl」は総コレステロールを示す。「TG」トリグリセリドを示す。「Glu」は血糖を示す。「CRP」は、C反応蛋白質を示す。
【0136】
表1に示すように、各患者の各血液成分は、処置の開始前と処置の開始から12週間後とにおいて顕著に変化していなかった。
【0137】
処置の開始から12週間後のゲル3または軟膏3を塗布した皮膚において、接触皮膚炎が発症しているか否かを調べた。その結果、接触皮膚炎は発症していなかった。
【0138】
処置の開始から12週間後の患者の血液を採取し、LC-ESI-MS法を用いて血中のシロリムスの検出を試みた。しかし、血中のシロリムスを検出することができなかった。この結果から、ゲル3または軟膏3を皮膚に塗布した場合、シロリムスが真皮中に浸透することができるが、血中に放出されないことが分かった。
【0139】
上述した血液成分が変化していなかったこと、接触皮膚炎が発症していなかったこと、シロリムスが血中に放出されなかったことは、ゲルおよび軟膏33の適用に起因する副作用が生じなかったことを示している。
【0140】
以上の結果から、本発明の外用薬を用いれば、副作用を生じることなく、結節性硬化症の血管線維腫を効果的に処置できることが分かった。これは、本発明の外用薬が、mTORの調節異常に基づく他の皮膚腫瘍(例えば、皮膚の良性腫瘍)に対しても有効であることを示している。また、結節性硬化症の顔面の血管線維腫が処置されたことによって、本発明の外用薬の真皮内へ浸透したことが示された。
【0141】
〔本発明の外用薬を用いた白斑の処置〕
白斑が発症する原因の一つは、メラノサイトがメラニンを産生しなくなることによって生じる。メラノサイトにおけるメラニンの産生に関与するタンパク質は、MITF、TYR、DCT、TYRP1である。
【0142】
白斑が、mTORの活性化に起因する疾患(結節性硬化症など)に罹患した患者においてしばしば発生することが知られている。このような患者において白斑が発生するメカニズムは、以下のとおりであると本発明者らは考えている。上記患者のメラノサイト内においてmTORが活性化された結果、S6K1の活性が上昇する。そして、このS6K1の活性の上昇によって、PI3Kの活性が抑制される。PI3KはAktのシグナル伝達経路を活性化するだけでなく、MAPKのシグナル伝達経路も活性化するので、PI3Kの活性の抑制によって、Aktのシグナル伝達経路およびMAPKのシグナル伝達経路が抑制される。これにより、Aktのシグナル伝達経路の下流にあるp38およびMAPKのシグナル伝達経路の下流にあるMEKの活性が抑制される。その結果、p38およびMEKを介した、MITFの発現が抑制されたり、MITFの活性化が抑制されたりする。
【0143】
MITFが発現しなくなったり、MITFの活性が低下したりすることによって、TYRおよびTYRP1の活性が低下し、メラノサイトにおいてメラニンが産生されなくなる。このようにして、白斑が生じる。
【0144】
このように、本発明者らは、白斑の発生にmTORの活性化が関与しているので、本発明の外用薬が白斑の処置に有効であると考えた。そこで、本実施例では、以下のような試験を実施して、シロリムスの上述したタンパク質の発現に対する影響を調べ、白斑の発生にmTORの活性化が関与していることを確認した。そして、本発明の外用薬の白斑に対する効果を確認した。
【0145】
<シロリムスによるMITF、TYR、TYRP1の発現量の増加の確認>
(試験方法)
1.4×10個のメラノサイトを6ウェルのカルチャープレートのウェルに播種し、medium 254(倉敷紡績株式会社製、M254500)をウェルに添加した。次いで、このプレートを、37℃および5%COの環境下にて24時間インキュベートした。
【0146】
シロリムスを終濃度が0nM(すなわち、シロリムスを培地に加えない。)、1、10および20nmol/Lのシロリムスをそれぞれウェルに添加し、プレートを37℃および5%COの環境下にて24時間または48時間インキュベートした。
【0147】
インキュベート後のウェルからmedium 254を除去した。そして、このウェルにPBSを添加し、ウェルからPBSを除去するという操作を3回行った。この操作によって、メラノサイトをPBSで洗浄した。
【0148】
PBSを除去したウェルに175μLのRNA lysis bufferを添加した。このRNA lysis bufferは、SV Total RNA Solution Systemのキット(Promega社製、Z3105)に付属されていたものである。
【0149】
セルスクレーパーを用いて、メラノサイトをプレートから剥がした。
【0150】
メラノサイトを含んでいるRNA lysis bufferを1.5mLのエッペンドルフチューブに回収した。そして、回収したbufferからRNAを抽出した。
【0151】
このRNAを用いて、リアルタイムRT−PCRを行い、MITFのmRNA、TYRのmRNA、およびTYRP1のmRNA、GAPDHのmRNAの発現を検出した。そして、MITFのmRNA、TYRのmRNA、およびTYRP1のmRNAの発現量をそれぞれGAPDのmRNAの発現量に対する相対的な発現量として算出した。
【0152】
このような実験を3回行い、各mRNAの相対的な発現量の平均値および標準偏差を算出した。また、各外用薬を用いて得られた試験の結果に統計的有意差があるか否かを、対応のないstudent t検定を用いてp値を算出することによって確認した。p値が0.05未満であれば、統計的有意差があるとみなした。
【0153】
MITFのmRNAの発現を検出するために、TagMan(登録商標)Gene Expression Assays(Applied biosystems社製、Hs00165156_m1)を用いた。TYRのmRNAの発現を検出するために、TagMan(登録商標)Gene Expression Assays(Applied biosystems社製、Hs00165976_m1)を用いた。TYRP1のmRNAの発現を検出するために、TagMan(登録商標)Gene Expression Assays(Applied biosystems社製、Hs00167051_m1)を用いた。GAPDHのmRNAの発現を検出するために、TagMan(登録商標)Gene Expression Assays(Applied biosystems社製、Hs99999905_m1)を用いた。
【0154】
(試験結果)
上述した試験の結果を図10〜12に示す。
【0155】
図10は、MITFのmRNAの相対的な発現量の平均値および標準偏差を示すグラフである。図10における「1」は、シロリムスで処理されることなく24時間インキュベートされたメラノサイトを示し、「2」は、1nMのシロリムスで24時間処理されたメラノサイトを意味し、「3」は、20nMのシロリムスで24時間処理されたメラノサイトを意味し、「4」は、シロリムスで処理されることなく48時間インキュベートされたメラノサイトを意味し、「5」は、1nMのシロリムスで48時間処理されたメラノサイトを意味し、「6」は、20nMのシロリムスで48時間処理されたメラノサイトを意味する。
【0156】
図10に示すように、「1」では、MITFの相対的な発現量は100.00±3.37であり、「2」では、MITFの相対的な発現量は152.48±3.47であり、「3」では、MITFの相対的な発現量は152.18±14.75であり、「4」では、MITFの相対的な発現量は107.95±1.38であり、「5」では、MITFの相対的な発現量は129.41±3.43であり、「6」では、MITFの相対的な発現量は141.56±3.52であった。図10中の**は、それぞれの発現量の間のp値が0.01未満であることを示しており、***は、それぞれの発現量の間のp値が0.001未満であることを示す。
【0157】
図10に示されるように、「2」および「3」におけるMITFのmRNAの相対的な発現量は、「1」におけるMITFのmRNAの相対的な発現量よりも有意に高い。同様に、「5」および「6」におけるMITFのmRNAの相対的な発現量は、「4」におけるMITFのmRNAの相対的な発現量よりも有意に高い。よって、1nMまたは20nMのシロリムスでメラノサイトを24時間または48時間処理することによって、MITFのmRNAの発現量が増加したことが確認された。
【0158】
図11および図12は、それぞれTYRおよびTYRPのmRNAの相対的な発現量の平均値および標準偏差を示すグラフである。図11および図12における「1」は、シロリムスで処理されることなく24時間インキュベートされたメラノサイトを示し、「2」は、1nMのシロリムスで24時間処理されたメラノサイトを示し、「3」は、20nMのシロリムスで24時間処理されたメラノサイトを意味し、「4」は、シロリムスで処理されることなく48時間処理されたメラノサイトを意味し、「5」は、1nMのシロリムスで48時間処理されたメラノサイトを意味し、「6」は、20nMのシロリムスで48時間処理された別のメラノサイトを意味する。
【0159】
図11に示すように、「1」では、TYRの相対的な発現量は0.640±0.036であり、「2」では、TYRの相対的な発現量は0.820±0.047であり、「3」では、TYRの相対的な発現量は0.921±0.029であり、「4」では、TYRの相対的な発現量は0.771±0.009であり、「5」では、TYRの相対的な発現量は0.760±0.044であり、「6」では、TYRの相対的な発現量は0.858±0.022であった。
【0160】
図12に示すように、「1」では、TYRPの相対的な発現量は1.031±0.027であり、「2」では、TYRPの相対的な発現量は1.333±0.055であり、「3」では、TYRPの相対的な発現量は1.652±0.031であり、「4」では、TYRPの相対的な発現量は1.338±0.029であり、「5」では、TYRPの相対的な発現量は1.450±0.028であり、「6」では、TYRPの相対的な発現量は1.514±0.124であった。
【0161】
図11に示すように、1nMまたは20nMのシロリムスで24時間メラノサイトを処理するか、20nMのシロリムスで48時間メラノサイトを処理することによって、TYRの発現量が増加したことが確認された。また、図12に示すように、1nMまたは20nMのシロリムスで24時間または48時間メラノサイトを処理することによって、TYRPの発現量が増加したことが確認された。
【0162】
このように、メラノサイトをシロリムスで処理することによって、MITF、TYRおよびTYRPの発現量が増加することは、メラニンの産生が増加することを示している。
【0163】
<シロリムスによるメラニン生産量の増加の確認>
(試験方法)
6ウェルに対して、メラノサイト(2人の正常な人に由来するメラノサイト(以下、各々をメラノサイト1およびメラノサイト2と呼ぶ))を播種した。なお、メラノサイトの数は、1ウェルあたり2×10個であり、培地としてはmedium254/HMGS2(PMA(−)(抗生剤無し)を用いた。
【0164】
24時間後、各ウェルに対して0nM、1nMまたは10nMとなるようにシロリムスを添加し、4日間の培養を行った。
【0165】
4日間の培養の後、各ウェルをPBSにて2回洗浄した。
【0166】
PBSによる洗浄の後、各ウェルに対して1mLのEDTA/トリプシン(2:1)溶液を加えて、メラノサイトをウェルから剥がした。メラノサイトを含む溶液を1.5mLのチューブへ入れた後、当該チューブを1500rpm、4℃にて5分間、遠心分離した。
【0167】
遠心分離の後、チューブ内の上清を捨てた後、ペレット(メラノサイト)を1mLのPBS中にけん濁した。30μLのけん濁液を用いて、けん濁液中のメラノサイトの数をカウントした。
【0168】
残りの970μLのけん濁液を1500rpm、4℃にて5分間、遠心分離した。
【0169】
遠心分離の後、チューブ内の上清を捨ててペレットを得た後、当該ペレットに対して1mLのNaOH(1N)を添加した。当該溶液を100℃にて30分間煮沸した後、室温にまで冷却した。
【0170】
冷却の後、溶液を16000gにて20分間遠心分離した後、上清の400nmにおける吸光度を測定した。なお、このとき同時に、スタンダードの吸光度も測定した。
【0171】
市販のメラニンを1NのNaOHに溶解し、様々な濃度のメラニン含有NaOH(1μg/mL〜100μg/mL)を作製した。様々な濃度のメラニン含有NaOHの400nmにおける吸光度を測定して標準曲線を作製した。
【0172】
上記標準曲線から、メラノサイトを溶解したNaOHに含有されるメラニンの量を計算した。そして、当該メラニンの量を、細胞数1×10当りの量に補正した。
【0173】
(試験結果)
細胞数1×10当りの量に補正したメラニンの量を、図23および図24に示す。なお、図23は、メラノサイト1のデータを示し、図24は、メラノサイト2のデータを示している。
【0174】
図23および24から明らかなように、シロリムスにて処理されたメラノサイトでは、メラニンの生産量が増加していた。また、シロリムスの濃度が上昇するのに伴って、メラニンの生産量も増加していた。
【0175】
<本発明の外用薬の白斑に対する効果の確認−1>
結節性硬化症の患者における白斑に、上記ゲル3または上記軟膏3を1日当たり2回、6週間塗布した。図13に、ゲル3の塗布開始前の白斑の写真(a)、およびゲル3の塗布開始から6週間後の白斑の写真(b)を示す。図14に、軟膏3の塗布開始前の白斑の写真(a)、および軟膏3の塗布開始から6週間後の白斑の写真(b)を示す。図13および図14中の矢印は白斑を示す。図13の(b)および図14の(b)では、同図の(a)に示された白斑が消退している。また、丘疹および紅色局面も軽快している。よって、ゲル3または軟膏3を塗布することによって白斑を処置できることが示された。
【0176】
前額部(露光部)に発症している白斑、または、腹部(非露光部)に発症している白斑に、上記ゲル3または上記軟膏3を1日当たり2回、3ヶ月間塗布した。白斑が発症している箇所を分光測色計(コニカミノルタ社製の分光測色計:M−2600d)によって白斑の症状を判定し、白斑の症状の推移を確認した。
【0177】
図25に、前額部(露光部)に白斑が発症している4人の患者のデータを示し、図26に腹部(非露光部)に白斑が発症している4人の患者のデータを示す。
【0178】
図25および図26から明らかなように、何れの患者においても、時間が経過するに従って、白斑が小さくなった。つまり、本発明の外用薬は、様々な体の部位に発症した白斑に対して治療効果を有していることが明らかになった。また、本発明の外用薬は、腹部(非露光部)に発症している白斑よりも、前額部(露光部)に発症している白斑に対する治療効果がより高いことが明らかになった。
【0179】
<本発明の外用薬の白斑に対する効果の確認−2>
尋常性白斑(頚部または腹部に発症した尋常性白斑)に、上記ゲル3または上記軟膏3を1日当たり2回、2ヶ月間塗布した。図27および図28に、2人の患者の尋常性白斑の写真を示す。図27および図28から明らかなように、2人の患者の何れにおいても、尋常性白斑が消退した。
【0180】
〔本発明の外用薬を用いたアトピー性皮膚炎の処置〕
アトピー性皮膚炎の処置薬としては、タクロリムスまたはピメクロリムスが使用されている。タクロリムスなどのアトピー性皮膚炎に対する効果は、タクロリムスなどがFKBP12(イムノフィリン)と結合して、カルシニューリンを抑制することによって発揮されることが知られている。しかし、タクロリムスなどは、腫瘍を発生させるという副作用を有している。
【0181】
一方、シロリムスは、タクロリムスと同様にFKBP12に結合するが、カルシニューリンではなくmTORを抑制する。このように、シロリムスとタクロリムスとでは、抑制の対象となる分子が異なっている。シロリムスによるmTORの抑制によって、マストセルを介した炎症が抑制されることが知られている。さらに、このmTORの抑制によって、細胞増殖の抑制やアポトーシスの誘導などの抗腫瘍効果も発揮される。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明の外用薬がアトピー性皮膚炎の処置に有効であると考えた。本発明の外用薬は、タクロリムスなどと異なり、腫瘍を発生させることがないため、より安全なアトピー性皮膚炎の治療薬になり得る。そこで、本実施例では、以下のような試験を実施して、本発明の外用薬のアトピー性皮膚炎に対する効果を確認した。
【0182】
<試験方法>
マウスの背中の皮膚に、ダニの抗原を含んでいる軟膏(ビオスタAD、ビオスタ株式会社製、AD001)を2週間塗布することによってこの皮膚にアトピー性皮膚炎を誘発した。具体的には、マウスの背中の毛を剃り、背中の皮膚を露出させた。そして、ダニの抗原を含んでいる軟膏を、この軟膏の塗布開始日(0日目)、この塗布開始日から4日目、7日目、11日目、14日目、18日目、21日目、および25日目に、背中の露出した皮膚に塗布した。
【0183】
ダニの抗原を含んでいる軟膏の塗布開始日から13日目に、上記軟膏2、シロリムスを含んでいないことを除いて軟膏2と同一である軟膏(コントロール)、および0.1質量%のタクロリムスを含む軟膏(プロトピック(登録商標)軟膏0.1%、ポジティブコントロール)を、それぞれアトピー性皮膚炎が誘発された皮膚の部位に、週2回、2週間塗布した。具体的には、これらの軟膏を、それぞれ13日目、17日目、20日目、24日目および27日目に上記皮膚の部位に塗布した。0日目、7日目、13日目、14日目、17日目、21日目、24日目および28日目に、上記軟膏を塗布した皮膚の部位を観察し、アトピー性皮膚炎の評価を行った。
【0184】
アトピー性皮膚炎の評価は、紅斑、浮腫および糜爛の程度に4段階のスコアを割り当てることによって行った。
【0185】
すなわち、紅斑については、紅斑が処置の開始前と比べて変化しなかった場合、スコアを0とし、軽度の紅斑の場合、スコアを1とし、中程度の紅斑の場合、スコアを2とし、重度の紅斑の場合、スコアを3とした。浮腫については、浮腫が処置の開始前と比べて変化しなかった場合、スコアを0とし、軽度の浮腫の場合、スコアを1とし、中程度の浮腫の場合、スコアを2とし、重度の浮腫の場合、スコアを3とした。糜爛については、糜爛が処置の開始前と比べて変化しなかった場合、スコアを0とし、軽度の糜爛の場合、スコアを1とし、中程度の糜爛の場合、スコアを2とし、重度の糜爛の場合、スコアを3とした。紅斑、浮腫および糜爛のスコアの合計を総合的なスコアとした。
【0186】
28日目にマウスを殺傷し、マウスの背中の写真を撮影した。また、アトピー性皮膚炎を誘発した皮膚を採取した。採取した皮膚の切片を作製し、切片に対してヘマトキシリン−エオシン染色を行うか、またはトルイジンブルー染色を行った。
【0187】
<試験結果>
アトピー性皮膚炎の評価の結果を図15および図16に示す。図15は、上述した軟膏を用いた処置の各時点における、3匹のマウスのそれぞれにおける総合的なスコアを示すグラフである。図15の(a)は、ポジティブコントロールを用いた場合の各マウスにおける総合的なスコアを示すグラフであり、(b)は、軟膏2を用いた場合の各マウスにおける総合的なスコアを示すグラフであり、(c)は、ネガティブコントロールを用いた場合の各マウスにおける総合的なスコアを示すグラフである。図15の(a)〜(c)における「A」〜「I」は、試験に用いたマウスを示す。図15の(a)〜(c)において、横軸の「1」〜「5」は、それぞれ処置の開始(0日目)、処置の開始から7日目、処置の開始から14日目、処置の開始から21日目、および処置の開始から28日目を示す。
【0188】
図15の(a)に示すように、1、2、3、4、および5において、Aのマウスのスコアは、それぞれ0、2、4.5、7.5および5.5であり、Bのマウスのスコアは、それぞれ0、4、7.5、7.5および5であり、Cのマウスのスコアは、それぞれ0、2.5、7.5、7.5および4であった。図15の(b)に示すように、1、2、3、4、および5において、Dのマウスのスコアは、それぞれ0、3、8、8.5、および7.5であり、Eのマウスのスコアは、それぞれ0、4.5、5.5、5.5、および4.5であり、Fのマウスのスコアは、それぞれ0、2、6、5、および5であった。図15の(c)に示すように、1、2、3、4、および5において、Gのマウスのスコアは、それぞれ0、4、5、6、および7.5であり、Hのマウスのスコアは、それぞれ0、5.5、7、9、および8.5であり、Iのマウスのスコアは、それぞれ0、3.5、6.5、7、および8であった。
【0189】
また、図16は、図15の(a)に示した各スコアの平均値(×)、同図の(b)に示した各スコアの平均値(正方形)および同図の(c)に示した各スコアの平均値(菱形)を示すグラフである。図16に示すように、1、2、3、4、および5において、軟膏2を用いたマウスのスコアは、それぞれ0、3.16、6.5、6.3、および5.66であり、ポジティブコントロールを用いたマウスのスコアは、それぞれ0、2.83、6.5、7.5、および4.83であり、コントロールを用いたマウスのスコアは、それぞれ0、4.33、6.16、7.33、および8であった。
【0190】
図15および図16に示すように、ネガティブコントロールを用いた場合、時間経過と共にスコアが大きくなったが、軟膏2およびポジティブコントロールを用いた場合、時間経過と共にスコアが小さくなった。これは、ネガティブコントロールを塗布することによってアトピー性皮膚炎が処置されないが、軟膏2またはポジティブコントロールを塗布することによってアトピー性皮膚炎が処置されることを示している。なお、軟膏2を用いた場合のスコアとポジティブコントロールを用いた場合のスコアとが同様の値であるので、軟膏2とポジティブコントロールとがアトピー性皮膚炎に対して同等の効果を有していることが認められる。
【0191】
図17に、マウスの背中の写真((a)〜(d))、ヘマトキシリン−エオシン染色を行った皮膚の切片の写真((e)〜(h))、トルイジンブルー染色を行った皮膚の切片の写真((i)〜(l))を示す。図17において、(a)、(e)および(i)はダニの抗原を含んでいる軟膏も上述した外用薬も塗布されていない未処置のマウスの写真であり、(b)、(f)および(j)はダニの抗原を含んでいる軟膏および上記コントロールを塗布したマウスの写真であり、(c)、(g)および(k)はダニの抗原を含んでいる軟膏および上記軟膏2を塗布したマウスの写真であり、(d)、(h)および(l)はダニの抗原を含んでいる軟膏およびポジティブコントロールを塗布したマウスの写真である。図17の(e)〜(h)では、表皮を矢印で示し、真皮への細胞を矢じりで示す。図17の(i)〜(l)では、マストセルを矢印で示す。
【0192】
図17の(a)〜(d)を対比すると、ダニの抗原を含んでいる軟膏が塗布されたマウスでは、紅斑、浮腫および糜爛が生じている(アトピー性皮膚炎が発症している)。軟膏2またはポジティブコントロールが塗布されたマウスは、ネガティブコントロールが塗布されたマウスと比べて、紅斑、浮腫および糜爛の程度が低減されていることが分かる。
【0193】
図17の(e)〜(h)を対比すると、ネガティブコントロールが塗布されたマウスは、未処置のマウスに比べて著明な真皮への細胞の浸潤が認められる。一方、軟膏2またはポジティブコントロールが塗布されたマウスは、ネガティブコントロールが塗布されたマウスと比べて、表皮への細胞の浸潤が少ない。
【0194】
図17の(i)〜(l)を対比すると、ネガティブコントロールが塗布されたマウスは、未処置のマウスには見られないマストセルの浸潤が認められる。一方、軟膏2またはポジティブコントロールが塗布されたマウスは、ネガティブコントロールが塗布されたマウスに見られるようなマストセルの浸潤が少ない。
【0195】
以上の結果から、軟膏2を塗布することによって、アトピー性皮膚炎が軽快することが分かった。軟膏2を塗布したマウスとポジティブコントロールを塗布したマウスとでは、アトピー性皮膚炎の同等の症状の軽快が認められる。
【0196】
〔本発明の外用薬を用いた結節性硬化症の患者の紅斑の処置〕
紅斑は、血管新生の盛んな部位である。このような紅斑が、mTORの活性化に起因する疾患(結節性硬化症など)に罹患した患者においてしばしば発生することが知られている。本発明者らは、このような疾患において紅斑が発生するメカニズムが以下のとおりであると考えた。
【0197】
すなわち、上記患者の細胞内においてmTORが活性化された結果、HIF1αの活性が上昇し、活性化したHIF1αがHIF1βとヘテロダイマーを形成する。このヘテロダイマーがDNAのHRE配列に結合することによって、VEGFの転写を誘導して、VEGFの発現を増加させる。発現されたVEGFによって血管新生が引き起こされる。このようにして、紅斑が発生する。
【0198】
このように、本発明者らは、紅斑の発生にmTORの活性化が関与しているので、本発明の外用薬が紅斑の処置に有効であると考えた。そこで、本実施例では、以下のような試験を実施して、結節性硬化症の患者の細胞においてVEGFが発現していること、およびシロリムスがこのVEGFの発現を抑制することを見出した。そして、本発明の外用薬の結節性硬化症の患者の紅斑に対する効果を確認した。
【0199】
<結節性硬化症の患者から単離した血管線維腫がVEGFを発現することの確認>
(試験方法)
重症の血管線維腫を有する患者、中等症の血管線維腫を有する患者、および軽症の血管線維腫を有する患者からそれぞれ、重症、中等症、または軽症の血管線維腫の細胞を単離した。血管線維腫の細胞は、線維芽細胞の一般的な初代培養法(黒木登志男他編:分子生物学研究のための新培養細胞実験法 実験医学 別冊 バイオマニュアルUPシリーズ 改定第2版、羊土社 参照)にしたがって各患者の顔面から単離した。患者から取得した細胞はいずれも患者の同意を得た上で用いた。
【0200】
単離した各細胞をDME培地を用いて37℃および5%COの環境下にて48時間培養し、培養上清を回収した。そして、培養上清中のVEGFの濃度を、VEGFを検出するキット(Quantikine(登録商標) Human VEGF、R&D SYSTEMS(登録商標)社製)を用いて測定した。
【0201】
(試験結果)
上述した試験の結果を図18に示す。図18において、Aは重症の血管線維腫の細胞を示し、Bは中等症の血管線維腫の細胞を示し、Cは軽症の血管線維腫の細胞を示す。図18に示すように、重症の血管線維腫の細胞を用いた場合のVEGFの濃度は468.857pg/mLであり、中等症の血管線維腫の細胞を用いた場合のVEGFの濃度は260.286pg/mLであり、軽症の血管線維腫の細胞を用いた場合のVEGFの濃度は147.429pg/mLである。このように、血管線維腫の細胞においてVEGFが発現しており、血管線維腫の症状が重くなるほど、VEGFの発現量が高くなることが分かった。
【0202】
<シロリムスによるVEGFの発現の抑制の確認>
(試験方法)
結節性硬化症の患者から単離した血管線維腫の細胞、ヒト線維芽細胞、HaCatを用いた。血管線維腫の細胞の単離は、この血管線維腫の切除を希望する患者から血管線維腫を切除し、上述した初代培養法を用いて行った。ヒト線維芽細胞は、結節性硬化症(TSC)でない患者の組織から、上述した初代培養法を用いて取得した。HaCatは、ドイツ連邦共和国癌研究センター(dkfz)から購入した。患者から取得した細胞はいずれも患者の同意を得た上で用いた。
【0203】
血管線維腫の細胞、ヒトの線維芽細胞、およびHaCatを、DME培地を用いて37℃および5%COの環境下にて培養した。これらの細胞の培養中に、シロリムスを終濃度が0nM(すなわち、シロリムスを培地に加えない(コントロール)。)、1nM、10nMまたは20nMとなるように培地に加えた。再び、細胞を37℃および5%COの環境下にてインキュベートし、シロリムスを加えてから48時間後または72時間後に培養上清を回収した。VEGFを検出するキット(Quantikine(登録商標) Human VEGF、R&D SYSTEMS(登録商標)社製)を用いて、回収した培養上清中のVEGFの濃度を測定した。
【0204】
(試験結果)
上述した試験の結果を図19に示す。
【0205】
図19の(a)は血管線維腫の細胞の培養中にシロリムスを加えてから48時間後の、培養上清中のVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフである。図19の(b)は、HaCat、ヒト線維芽細胞(normal fibro)、および血管線維腫の細胞(TSC AF fibro)の培養中にシロリムスを加えてから72時間後の培養上清中のVEGFの濃度(pg/mL)と、これらの細胞の培養中にシロリムスを加えないで同様に72時間培養したときの培養上清中のVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフである。図19の(c)は、これらの3種類の細胞をシロリムスで処理したことによって引き起こされたVEGFの濃度の減少割合(比:20nMのシロリムスで処理した後のVEGFの濃度/20nMのシロリムスで処理する前のVEGFの濃度)を示すグラフである。図19の(d)はHaCatの培養中にシロリムスを加えてから48時間後の、培養上清中のVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフである。
【0206】
図19の(a)に示すように、シロリムスで血管線維腫の細胞を処理しない場合(0nM)、VEGFの濃度が260.2857pg/mLであり、1nMのシロリムスで血管線維腫の細胞を処理した場合、VEGFの濃度が113.1428pg/mLであり、10nMのシロリムスで血管線維腫の細胞を処理した場合、VEGFの濃度が92.4285pg/mLであった。
【0207】
図19の(a)によれば、シロリムスの濃度を増加させるほど、VEGFの発現量が低減されることが示された。
【0208】
図19の(b)に示すように、シロリムスでHaCatを処理しない場合(コントロール)、VEGFの濃度が1849.9pg/mLであり、20nMのシロリムスでHaCatを処理した場合、VEGFの濃度が749.9pg/mLであり、シロリムスでヒト線維芽細胞を処理しない場合(コントロール)、VEGFの濃度が1492.7pg/mLであり、20nMのシロリムスでヒト線維芽細胞を処理した場合、VEGFの濃度が501.3pg/mLであり、シロリムスで血管線維腫の細胞を処理しない場合(コントロール)、VEGFの濃度が858.4pg/mLであり、20nMのシロリムスで血管線維腫の細胞を処理した場合、VEGFの濃度が168pg/mLであった。
【0209】
図19の(c)は、図19の(b)に示す、20nMのシロリムスで細胞を処理した場合のVEGFの濃度をシロリムスで細胞を処理しない場合のVEGFの濃度で除した結果を示すグラフである。図19の(c)に示すように、HaCatの場合、20nMのシロリムスで処理することによってVEGFの濃度が0.4053pg/mLとなり(約40%に低下し)、ヒト線維芽細胞の場合、20nMのシロリムスで処理することによってVEGFの濃度が0.3358pg/mLとなり(約30%に低下し)、血管線維腫の細胞の場合、20nMのシロリムスで処理することによってVEGFの濃度が0.1957pg/mLとなった(約20%に低下した)。
【0210】
図19の(d)によれば、シロリムスの濃度を増加させるほど、VEGFの発現量が低減されることが示された。
【0211】
図19の(b)および(c)によれば、ヒト線維芽細胞およびHaCatよりも血管線維腫の細胞の方が、シロリムスによるVEGFの発現抑制の影響を受けやすいことが分かった。
【0212】
また、メラノサイトを様々な濃度のシロリムスにて処理したときの、HIF1αの発現量の変化を検討した。具体的には、メラノサイトを、37℃および5%COの環境下にて培養した。これらの細胞の培養中に、シロリムスを終濃度が0nM(すなわち、シロリムスを培地に加えない(コントロール)。)、1nMまたは10nMとなるように培地に加えた。再び、細胞を37℃および5%COの環境下にてインキュベートし、シロリムスを加えてから48時間後にメラノサイトを回収した。メラノサイトにて発現しているHIF1αのmRNAの量をreal time PCRによって測定し、当該mRNAの量を、GAPDHのmRNAの量に基づいて補正した。
【0213】
図29に測定結果を示す。図29から明らかなように、シロリムスによって処理されたメラのノサイトでは、HIF1αの発現量が低下していた。
【0214】
<本発明の外用薬の紅斑に対する効果の確認>
結節性硬化症の患者の紅斑に、上記軟膏3を1日当たり2回、12週間塗布した。図20に、軟膏3の塗布開始前の紅斑の写真(a)、および軟膏3の塗布開始から12週間後の紅斑の写真(b)を示す。図20中の矢印は紅斑を示す。図20(b)では、同図の(a)に示された紅斑が消退している。よって、軟膏3を塗布することによって紅斑を処置できることが確認された。
【0215】
このように、実際に、軟膏3によってヒトにおける血管新生が盛んな局面がほぼ消失した。したがって、同様に血管新生が盛んな酒さに対しても本発明の外用薬が有効であるといえる。
【0216】
〔軟膏中のシロリムスの状態〕
本実施例にて調製した軟膏中にてシロリムスがどのような状態であるのかを確認するために、シロリムスの溶媒である炭酸プロピレンが軟膏中にてどのような状態であるのかを調べた。
【0217】
炭酸プロピレンを青色に着色した。次いで、着色した炭酸プロピレンを、本実施例にて調製した軟膏の成分である流動パラフィン、固形パラフィンおよび白色ワセリンの混合物に添加した。また、コントロールとして、着色した炭酸プロピレンを、白色ワセリンに添加した。着色した炭酸プロピレンを上記混合物に添加した場合、図21の(a)の左側の試薬ビンに示すように、炭酸プロピレンは微粒子になり沈殿した。一方、着色した炭酸プロピレンを白色ワセリンに添加した場合、図21の(a)の右側の試薬ビンに示すように、炭酸プロピレンは微粒子を形成することなく沈殿した。
【0218】
次いで、着色した炭酸プロピレンが沈殿した混合物を、自転公転ミキサーを用いて常温で、2000rpmにて1分間攪拌し、次いで、1000rpmにて5分間攪拌し、そして500rpmにて3分間攪拌した。同様の操作を、着色した炭酸プロピレンが沈殿した白色ワセリンに対しても行った。攪拌の結果を図21の(b)に示す。図21の(b)において、左側の試薬ビンは、着色した炭酸プロピレンが沈殿した混合物を攪拌した結果を示し、右側の試薬ビンは、着色した炭酸プロピレンが沈殿した白色ワセリンを攪拌した結果を示す。図21の(b)に示すように、炭酸プロピレンを白色ワセリンと一緒に攪拌した場合の方が、炭酸プロピレンを上記混合物と一緒に攪拌した場合よりも、炭酸プロピレンの粒子が大きいことが肉眼でも確認できる。
【0219】
また、炭酸プロピレンを上記混合物と一緒に攪拌することによって調製した軟膏、および炭酸プロピレンを白色ワセリンと一緒に攪拌することによって調製した軟膏を、顕微鏡を用いて観察した。観察の結果を図22に示す。図22の(a)は、混合物を用いて調製した軟膏の顕微鏡写真であり、図22の(c)は、図22の(a)の拡大図である。図22の(b)は、白色ワセリンを用いて調製した軟膏の顕微鏡写真であり、図22の(d)は、図22の(b)の拡大図である。図22の(c)および(d)におけるバーは、25μmを示す。図22にて炭酸プロピレンの粒子を矢印で示し、水(黒色)を矢じりで示す。
【0220】
図22の(a)および(c)から分かるように、混合物を用いて調製した軟膏では、炭酸プロピレンが軟膏中において10μm以下の均一な微粒子になって分散している。一方、図22の(b)および(d)から分かるように、白色ワセリンを用いて調製した軟膏では、炭酸プロピレンが軟膏中において様々な大きさの微粒子になって分散しており、均一ではない。
【0221】
このような結果は、炭酸プロピレンのみを用いた場合だけでなく、シロリムスが溶解した炭酸プロピレンを用いた場合にも得られると考えられる。すなわち、本実施例にて調製した軟膏中にてシロリムスは、均一な微粒子として分散していると考えられる。このように、シロリムスが均一な微粒子として分散しているため、本実施例にて調製した軟膏を皮膚に塗布することによって、シロリムスの皮膚から患部への吸収が顕著に向上し、シロリムスが血中に漏出することなく患部に留まると考えられる。
【0222】
〔基剤に関する検討〕
<調製例7:0.2質量%のシロリムスを含むゲルの調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)2mgをイソプロパノール(和光純薬工業株式会社製、166-04836)145mgに溶解させた。得られた溶解物147mgをカーボポール(登録商標)934NFポリマー(Lubrizol社製)16mgとHO833mgとの混合物と混合した。得られた混合物に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(和光純薬工業株式会社製、203-06272)4mgを混合した。このようにして、0.2質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル4)を調製した。
【0223】
<調製例8:0.2質量%のシロリムスを含むゲルの調製>
シロリムスの試薬の代わりにRapamuneを用いたことを除いて、調製例7と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル5)を調製した。具体的には、2mgのRapamuneの錠剤を粉砕し、不純物(賦形剤など)を取り除くために75μmのメッシュを通してから、粉砕物をイソプロパノール145mgに溶解させた。
【0224】
<調製例9:0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)2mgを炭酸プロピレン(和光純薬工業株式会社製、168-04972)58mgに溶解させた。固形パラフィン(和光純薬工業株式会社製、415-25791)45mg、および白色ワセリン(プロペト)(丸石製薬株式会社製、Merck社製、またはアストラジャパン株式会社製)895mgを、70℃に加熱し溶解させながら混合した。
【0225】
この混合物の温度が40℃になるまで冷却した後、上述したシロリムスの試薬と炭酸プロピレンとの溶解物を添加した。これによって生じた混合物を自転公転ミキサー(シンキ株式会社製、Nano Pulverizer NP-100)を用いて常温で、1分間、2000rpmにて攪拌し、次いで5分間、1000rpmにて攪拌し、そして3分間、500rpmにて攪拌した。このようにして、0.2質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏7)を調製した。
【0226】
<調製例10:0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)2mgを炭酸プロピレン(和光純薬工業株式会社製、168-04972)50mgに溶解させた。流動パラフィン(和光純薬工業株式会社製、128-04375)10mg、固形パラフィン(和光純薬工業株式会社製、415-25791)35mg、および白色ワセリン(プロペト)(丸石製薬株式会社製、Merck社製、またはアストラジャパン株式会社製)895mgを、70℃に加熱し溶解させながら混合した。
【0227】
この混合物の温度が40℃になるまで冷却した後、上述したシロリムスの試薬と炭酸プロピレンとの溶解物を添加した。これによって生じた混合物を自転公転ミキサー(シンキ株式会社製、Nano Pulverizer NP-100)を用いて常温で、1分間、2000rpmにて攪拌し、次いで5分間、1000rpmにて攪拌し、そして3分間、500rpmにて攪拌した。このようにして、0.2質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏8)を調製した。
【0228】
<本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量の確認−2>
(試験方法および試験結果−1)
Rapamuneを用いて作製した本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量に対して、基剤の組成が及ぼす影響を検討した。具体的には、軟膏3、軟膏7、ゲル3およびゲル5について、外用薬が人工皮膚から吸収される量を測定した。
【0229】
具体的な測定方法は、〔本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量の確認〕の欄にて既に説明したので、ここではその説明を省略し、試験結果について説明する。なお、本実施例では、40mgの軟膏3、軟膏7、ゲル3およびゲル5を用いて、各々3つのサンプルについて試験を行っている。
【0230】
上述した試験の結果を図30に示すとともに、当該試験の実際の数値データを表2に示す。
【0231】
【表2】
図30および表2から明らかなように、Rapamuneを用いて作製した本発明の外用薬の場合、軟膏3、軟膏7、ゲル3およびゲル5の中では、ゲル3が、人工皮膚から吸収されるシロリムスの量が最も多かった。
【0232】
(試験方法および試験結果−2)
シロリムスの試薬を用いて作製した本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量に対して、基剤の組成が及ぼす影響を検討した。具体的には、軟膏2、軟膏8、ゲル2およびゲル4について、外用薬が人工皮膚から吸収される量を測定した。
【0233】
具体的な測定方法は、〔本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量の確認〕の欄にて既に説明したので、ここではその説明を省略し、試験結果について説明する。なお、本実施例では、40mgの軟膏2、軟膏8、ゲル2およびゲル4を用いて、各々3つのサンプルについて試験を行っている。
【0234】
上述した試験の結果を図31に示すとともに、当該試験の実際の数値データを表3に示す。
【0235】
【表3】
図31および表3から明らかなように、シロリムスの試薬を用いて作製した本発明の外用薬の場合、軟膏2、軟膏8、ゲル2およびゲル4の中では、ゲル2が、人工皮膚から吸収されるシロリムスの量が最も多かった。
【0236】
(試験方法および試験結果−3)
上述した(試験方法および試験結果−1)および(試験方法および試験結果−2)に記載したゲル2〜5の試験結果を1つのグラフにまとめた結果を図32に示す。
【0237】
図32から明らかなように、シロリムスの試薬を用いて作製した本発明の外用薬と、Rapamuneを用いて作製した本発明の外用薬とを比較すれば、シロリムスの試薬を用いて作製した本発明の外用薬の方が、人工皮膚から吸収されるシロリムスの量が多かった。
【0238】
〔皮膚への影響の検討〕
様々な濃度のシロリムス(0質量%、0.05質量%、0.2質量%、0.4質量%)を含有するゲルおよび軟膏100mgをBALB/cマウスの両耳に単回塗布して、1時間、8時間、24時間、48時間および7日後に炎症を生じているか否か確認した。更に、BALB/cマウスの背部に1日1回、5日間連続塗布して外用による局所の皮膚炎の有無を観察した。
【0239】
上述したゲルおよび軟膏では、全ての時間において、皮膚の異常は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0240】
本発明は、皮膚疾患を局所的に処置することができる。このため、本発明の医薬品業界だけでなく、化粧品業界にも利用できる。
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