【実施例】
【0089】
〔本発明の外用薬の調製〕
<調製例1:0.4質量%のシロリムスを含むゲルの調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)4mgをイソプロパノール(和光純薬工業株式会社製、166-04836)486mgに溶解させた。得られた溶解物490mgをカーボポール(登録商標)934NFポリマー(Lubrizol社製)16mgとH
2O490mgとの混合物と混合した。得られた混合物に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(和光純薬工業株式会社製、203-06272)4mgを混合した。このようにして、0.4質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル1)を調製した。
【0090】
<調製例2:0.2質量%のシロリムスを含むゲルの調製1>
シロリムスの試薬2mgをイソプロパノール488mgに溶解させたことを除いて、調製例1と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル2)を調製した。
【0091】
<調製例3:0.2質量%のシロリムスを含むゲルの調製2>
シロリムスの試薬の代わりにRapamuneを用いたことを除いて、調製例2と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル3)を調製した。具体的には、2mgのRapamuneの錠剤を粉砕し、不純物(賦形剤など)を取り除くために75μmのメッシュを通してから、粉砕物をイソプロパノール488mgに溶解させた。
【0092】
<調製例4:1質量%のシロリムスを含む軟膏の調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)10mgを炭酸プロピレン(和光純薬工業株式会社製、168-04972)50mgに溶解させた。サラシミツロウ5mg、流動パラフィン(和光純薬工業株式会社製、128-04375)10mg、固形パラフィン(和光純薬工業株式会社製、415-25791)30mg、および白色ワセリン(プロペト)(丸石製薬株式会社製、Merck社製、またはアストラジャパン株式会社製)895mgを、70℃に加熱し溶解させながら混合した。
【0093】
この混合物の温度が40℃になるまで冷却した後、上述したシロリムスの試薬と炭酸プロピレンとの溶解物を添加した。これによって生じた混合物を自転公転ミキサー(シンキ株式会社製、Nano Pulverizer NP-100)を用いて常温で、1分間、2000rpmにて攪拌し、次いで5分間、1000rpmにて攪拌し、そして3分間、500rpmにて攪拌した。このようにして、1質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏1)を調製した。
【0094】
なお、この調製例4では、自転公転ミキサーを用いたが、プライミクス株式会社製のホモミキサーを用いてもよい。このホモミキサーを用いることによって、軟膏を大量に調製することができる。
【0095】
<調製例5:0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製1>
シロリムスの試薬2mgを炭酸プロピレン58mgに溶解させたことを除いて、調製例4と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏2)を調製した。
【0096】
<調製例6:0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製2>
シロリムスの試薬の代わりにRapamune(ファイザー社製、29269)を用いたことを除いて、調製例5と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏3)を調製した。具体的には、2mgのRapamuneの錠剤を粉砕し、不純物を取り除くために75μmのメッシュを通してから、粉砕物を炭酸プロピレン58mgに溶解させた。
【0097】
<参考例1:市販の軟膏を基剤として用いた0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製>
プロトピック(登録商標)軟膏0.03%小児用(アステラス製薬株式会社)を基剤として0.2質量%のシロリムスを含んでいる軟膏(参考例1)を調製した。
【0098】
<参考例2:市販の軟膏を基剤として用いた0.2質量%のシロリムスを含む別の軟膏の調製>
プロトピック(登録商標)軟膏0.03%小児用の代わりに、プロトピック(登録商標)軟膏0.1%を用いたことを除いて、参考例1と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含んでいる軟膏(参考例2)を調製した。
【0099】
〔本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量の確認〕
本実施例では、以下のような試験を実施して、本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量を確認した。
【0100】
<試験方法>
TESTSKIN(登録商標)LSE−d、およびTESTSKIN(登録商標)LSE−high(TOYOBO)の各トランスウェル内の皮膚に、上述の本発明の外用薬(軟膏2および3、並びに、ゲル2および3)をそれぞれ塗布した。なお、リング内の吸収面の直径は、1cmであった。
【0101】
培地(TESTSKIN(登録商標)LSE(登録商標)ASSAY MEDIUM(TOYOBO))を添加したアッセイトレイ上にトランスウェルを移動させ、インキュベーター内にて24時間インキュベートした。インキュベーター内の温度は、37℃であり、CO
2の濃度は5%であった。
【0102】
インキュベート後に、トランスウェルの表面の外用薬をろ紙でふき取り、さらにこの表面を培地で洗浄した。これによって、表面に残存する外用薬を除去した。
【0103】
ラップを敷いたヒートトレイにトランスウェルを載せた。ヒートトレイの温度を60℃に設定し、トランスウェルを60秒〜90秒間加温した。
【0104】
トランスウェルから組織を取り出した。この組織から表皮を除去し、次いで真皮層を採取した。採取した真皮層をエッペンドルフチューブに入れた。
【0105】
LC/ESI/MSシステムを用いて、真皮層中のシロリムスの濃度を測定した。LC/ESI−MSシステムとして、HPLC P4000,AS3000 thermostat(Thermo Fisher KK, San Jose, CA, USA)を使用した。ESI/MSの検出器として、LCQ Finigan Mat(Thermo Fisher KK, San Jose, CA, USA)を使用した。オートサンプラーとしてHTC−Pal(AMR Inc, Tokyo, Japan)を使用した。データの解析処理には、X caliber ver1.2 (Thermo Fisher KK, San Jose, CA, USA)を使用した。
【0106】
上述した試験方法を各外用薬について3回行い、真皮層中のシロリムスの濃度の平均値および標準偏差を算出した。各外用薬を用いて得られた試験の結果に統計的有意差があるか否かを、対応のないstudent t検定を用いてp値を算出することによって確認した。p値が0.05未満であれば、統計的有意差があるとみなした。
【0107】
<試験結果>
ゲル2、軟膏2および参考例1を用いて得られた試験の結果を
図1に示す。
図1に示すように、ゲル2を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が8.08±3.85ng/mgであり、軟膏2を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が10.03±2.68ng/mgであり、タクロリムスの軟膏基剤を用いた場合、真皮中のタクロリムスの濃度が1.82±0.319ng/mgであった。また、ゲル2と参考例1との間のp値および軟膏2と参考例1との間のp値は、どちらも0.05未満であった。このp値から、ゲル2および軟膏2と参考例1との間に有意差があることが確認された。以上のことから、参考例1よりもゲル2および軟膏2の方が、有効成分をより効率よく皮膚へ浸透できることが分かった。
【0108】
ゲル2、ゲル3、軟膏2、および軟膏3を用いた試験の結果を
図2に示す。
図2の(a)〜(d)に示すように、ゲル2を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が1.823±0.146ng/mgであり、ゲル3を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が1.073±0.199ng/mgであり、軟膏2を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が1.087±0.073ng/mgであり、軟膏3を用いた場合、真皮中のシロリムスの濃度が0.26±0.098ng/mgであった。
【0109】
図2の(a)に示すように、ゲル2と軟膏2との間のp値は0.05未満であり、ゲル2と軟膏2との間に有意差があることが確認された。また、
図2の(b)に示すように、ゲル3と軟膏3との間のp値は0.05未満であり、ゲル3と軟膏3との間に有意差があることが確認された。これらの結果から、軟膏よりもゲルの方が、シロリムスをより効率よく皮膚へ浸透させることが分かった。これは、ゲルを作製する際に、シロリムスを溶媒(イソプロパノール)に溶解させたためであると考えられる。したがって、糜爛部分が多く、外用薬の吸収が良く、刺激を受けやすい病変(アトピー性皮膚炎など)に対しては軟膏を使用することが好ましく、外用薬の吸収が悪く、刺激を受けにくい病変(白斑など)に対してはゲルを使用することが好ましいと考えられる。
【0110】
図2の(c)に示すように、ゲル2とゲル3との間のp値は0.05未満であり、ゲル2とゲル3との間に有意差があることが確認された。また、
図2の(d)に示すように、軟膏2と軟膏3との間のp値は0.05未満であり、軟膏2と軟膏3との間に有意差があることが確認された。これらの結果から、錠剤のシロリムス(Rapamune)を用いて調製した外用薬よりも、試薬のシロリムスを用いて調製した外用薬の方が、シロリムスをより効率よく皮膚へ浸透できることが分かった。したがって、試薬のシロリムスを用いることによってより効果の高い外用薬を調製できることが分かった。
【0111】
〔軟膏の外用薬をマウスの皮膚に複数回塗布した後に、マウスの皮膚内に吸収されるシロリムスの量の確認〕
<試験方法>
上述した調製例5に従い、0.03質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏4)、0.06質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏5)、0.1質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏6)を調製した。
【0112】
Rapamuneを用いて作製した軟膏3、ならびにシロリムスの試薬を用いて作製した軟膏2、軟膏4、軟膏5および軟膏6を、それぞれマウスの皮膚に複数回塗布し、皮膚内に吸収されたシロリムスの量を測定した。具体的には、これらの軟膏をマウスの皮膚に1週間当たり2回、4週間塗布した。4週間後にマウスの皮膚を回収し、LC-ESI/MS 法を用いて、皮膚内のシロリムスの量を測定した。
【0113】
<試験結果>
軟膏3(0.2質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、294.2±100.7pg/mLであり、軟膏2(0.2質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、333.1±123pg/mLであり、軟膏4(0.03質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、67.59±22.1pg/mLであり、軟膏5(0.06質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、80.31±20.6pg/mLであり、軟膏6(0.1質量%)を用いた場合、真皮中のシロリムスの量は、103.06±22.3pg/mLであった。
【0114】
上述した人工皮膚に外用薬を一回塗布するという試験では、錠剤のシロリムス(Rapamune)を用いて調製した外用薬よりも、試薬のシロリムスを用いて調製した外用薬の方が、シロリムスをより効率よく皮膚へ浸透できるという結果が得られた。一方、マウスの皮膚に複数回塗布することによって、錠剤のシロリムスを用いて調製した軟膏3が真皮中に吸収される量を、シロリムスの試薬を用いて調製した軟膏2が真皮中に吸収される量に近づけることができることが分かった。よって、錠剤のシロリムスを用いて調製した軟膏であっても、複数回塗布することによって、疾患を処置するに十分な量のシロリムスを患部へ送達することができるといえる。なお、これは、軟膏だけに当てはまるものではなく、ゲルについても当てはまると考えられる。
【0115】
〔本発明の外用薬を用いた結節性硬化症の患者の血管線維腫の処置〕
本実施例では、以下のような試験を実施して、本発明の外用薬の、結節性硬化症の皮膚腫瘍に対する効果を確認した。したがって、結節性硬化症以外の皮膚の良性腫瘍(脂漏性角化症など)に対しても効果が期待される。
【0116】
<試験方法>
結節性硬化症の患者を、上記軟膏3を用いて処置される患者のグループ(4人)、および上記ゲル3を用いて処置される患者のグループ(8人)に分けた。各患者に対して、上述した外用薬を1日2回、12週間塗布した。具体的には、患者の顔面の左側および右側のどちらか一方の血管線維種に外用薬を塗布し、他方の血管線維腫に、有効成分(シロリムス)を含まない基剤のみ(コントロール)を塗布した。処置の開始から12週間後に処置を中止した。そして、処置を中止してから3ヶ月間、血管線維腫の経過観察を行った。なお、ゲル3を用いて処置される患者の一人が、決められた通りの外用を適切に行わなかったため、試験中に除外された。
【0117】
処置の開始前、処置の開始から12週間後に、血管線維腫の写真を撮影し、血管線維腫の評価を行った。血管線維腫の評価は、潮紅の軽快、丘疹の縮小化、および局面の平坦化の程度、ならびに総合的な観点(総合的なスコア)を4段階のスコアに割り当てることによって行った。
【0118】
すなわち、潮紅の軽快については、潮紅が処置の開始前と比べて軽快していない場合、スコアを0とし、潮紅が処置の開始前と比べて49%軽快された場合、スコアを1とし、潮紅が処置の開始前と比べて50〜80%軽快された場合、スコアを2とし、潮紅が処置の開始前と比べて80%以上軽快された場合、スコアを3とした。
【0119】
丘疹の縮小化については、丘疹が処置の開始前と比べて縮小していない場合、スコアを0とし、丘疹が処置の開始前と比べて49%縮小化された場合、スコアを1とし、丘疹が処置の開始前と比べて50〜80%縮小化された場合、スコアを2とし、丘疹が処置の開始前と比べて80%以上縮小化された場合、スコアを3とした。
【0120】
局面の平坦化については、局面が処置の開始前と比べて平坦化されていない場合、スコアを0とし、局面が処置の開始前と比べて49%平坦化された場合、スコアを1とし、局面が処置の開始前と比べて50〜80%平坦化された場合、スコアを2とし、80%以上平坦化された場合、スコアを3とした。
【0121】
総合的なスコアについては、上述した潮紅、丘疹および局面のスコアを合計したものの平均を総合スコアとした。
【0122】
<試験結果>
図3〜5に、ゲル3を用いた処置の開始前および処置の開始から12週間後の血管線維腫の写真を示す。
図3〜5に示すように、患者の左頬の血管線維腫には、ゲル3を塗布し、患者の右頬の血管線維腫には、コントロールを塗布した。
【0123】
図3の(a)、
図4の(a)、および
図5の(a)は、上記ゲル3を用いた処置の開始前の血管線維腫を示す写真であり、
図3の(b)、
図4の(b)、および
図5の(b)は、上記ゲル3を用いた処置の開始から12週間後の血管線維腫を示す写真である。
図3の(c)および(d)は、それぞれ
図3の(a)および(b)の左頬の拡大図である。
図3の(a)と(b)、
図3の(c)と(d)、
図4の(a)と(b)、および
図5の(a)と(b)を比較すれば分かるように、ゲル3を塗布した血管線維腫は軽快したが、コントロールを塗布した血管線維腫は変化しなかった。
【0124】
図6〜7に、軟膏3を用いた処置の開始前および処置の開始から12週間後の血管線維腫の写真を示す。
図6に示すように、患者の左頬の血管線維腫には、軟膏3を塗布し、患者の右頬の血管線維腫には、コントロールを塗布した。また、
図7に示すように、患者の右頬の血管線維腫には、軟膏3を塗布し、患者の左頬の血管線維腫には、コントロールを塗布した。
【0125】
図6の(a)および
図7の(a)は、軟膏3を用いた処置の開始前の血管線維腫を示す写真であり、
図6の(b)および
図7の(b)は、軟膏3を用いた処置の開始から12週間後の血管線維腫を示す写真である。
図6の(c)および(d)は、それぞれ
図6の(a)および(b)の左頬の拡大図である。
図6の(a)と(b)、
図6の(c)と(d)、
図7の(a)と(b)を比較すれば分かるように、軟膏3を塗布した血管線維腫は軽快したが、コントロールを塗布した血管線維腫は変化しなかった。
【0126】
上述した血管線維腫の評価の結果を
図8〜9に示す。
【0127】
図8は、ゲル3またはコントロールを用いた処置から12週間後の各患者のスコアを示すグラフである。
図8の(a)は、総合的なスコアを示すグラフであり、(b)は、潮紅のスコアを示すグラフであり、(c)は、丘疹のスコアを示すグラフであり、(d)は局面のスコアを示すグラフである。
図8の(a)〜(d)の左側にゲル3の塗布によって得られたスコアを示し、同図の右側にコントロールの塗布によって得られたスコアを示す。
【0128】
図8の(a)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、ゲル3を用いた場合、4、4、4、3、および3.75であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
図8の(b)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、ゲル3を用いた場合、4、4、4、3、および3.75であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
図8の(c)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、ゲル3を用いた場合、3、3、4、2、および3であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
図8の(d)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、ゲル3を用いた場合、いずれも4であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
【0129】
なお、
図8の(a)〜(d)のそれぞれにおいて、ゲル3を用いた場合の平均のスコアとコントロールを用いた場合の平均のスコアとに統計的有意差があるか否かを、対応のあるstudent t検定を用いてp値を算出することによって確認した。その結果、いずれのp値も0.05未満であり、統計的有意差があることが明らかになった。
【0130】
図9は、軟膏3またはコントロールを用いた処置から12週間後の各患者のスコアを示すグラフである。
図9の(a)は、総合的なスコアを示すグラフであり、(b)は、潮紅のスコアを示すグラフであり、(c)は、丘疹のスコアを示すグラフであり、(d)は局面のスコアを示すグラフである。
図9の(a)〜(d)の左側に軟膏3の塗布によって得られたスコアを示し、同図の右側にコントロールの塗布によって得られたスコアを示す。
【0131】
図9の(a)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、軟膏3を用いた場合、4、4、2、1.5、および2.9であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
図9の(b)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、軟膏3を用いた場合、4、4、2、1.5、および2.9であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
図9の(c)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、軟膏3を用いた場合、3、1.5、1、1、および1.7であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
図9の(d)に示すように、患者1、患者2、患者3、患者4、および患者1〜患者4の平均のスコアは、それぞれ、軟膏3を用いた場合、4、4、2、1.5、および2.9であり、コントロールを用いた場合、いずれも0であった。
【0132】
なお、
図9の(a)〜(d)のそれ場合の平均のスコアとコントロールを用いた場合の平均のスコアとに統計的有意差があるか否かを、対応のあるstudent t検定を用いてp値を算出することによって確認した。その結果、いずれのp値も0.05未満であり、統計的有意差があることが明らかになった。
【0133】
以上の結果から、ゲル3および軟膏3を用いることによって、血管線維腫が軽快することが分かった。
【0134】
また、ゲル3または軟膏3を用いた処置の開始前および処置の終了日(処置から12週間)後に患者の血液を採取して、血液検査を行い、血中の成分を測定した。患者1および患者2に対して行った血液検査の結果を以下の表に示す。
【0135】
【表1】
「WBC」は白血球数を示す。「RBC」は赤血球数を示す。「Hb」は血色素量を示す。「Ht」はヘマトクリットを示す。「Plat」は血小板を示す。「Neu」は好中球を示す。「Lym」はリンパ球を示す。「Eo」は好酸球を示す。「ba」は好塩基球を示す。「Cr」はクレアチニンを示す。「AST」はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを示す。「ALT」はアラニンアミノトランスフェラーゼを示す。「γGTP」は、ガンマグルタミルトランスフェラーゼを示す。「Tchl」は総コレステロールを示す。「TG」トリグリセリドを示す。「Glu」は血糖を示す。「CRP」は、C反応蛋白質を示す。
【0136】
表1に示すように、各患者の各血液成分は、処置の開始前と処置の開始から12週間後とにおいて顕著に変化していなかった。
【0137】
処置の開始から12週間後のゲル3または軟膏3を塗布した皮膚において、接触皮膚炎が発症しているか否かを調べた。その結果、接触皮膚炎は発症していなかった。
【0138】
処置の開始から12週間後の患者の血液を採取し、LC-ESI-MS法を用いて血中のシロリムスの検出を試みた。しかし、血中のシロリムスを検出することができなかった。この結果から、ゲル3または軟膏3を皮膚に塗布した場合、シロリムスが真皮中に浸透することができるが、血中に放出されないことが分かった。
【0139】
上述した血液成分が変化していなかったこと、接触皮膚炎が発症していなかったこと、シロリムスが血中に放出されなかったことは、ゲルおよび軟膏33の適用に起因する副作用が生じなかったことを示している。
【0140】
以上の結果から、本発明の外用薬を用いれば、副作用を生じることなく、結節性硬化症の血管線維腫を効果的に処置できることが分かった。これは、本発明の外用薬が、mTORの調節異常に基づく他の皮膚腫瘍(例えば、皮膚の良性腫瘍)に対しても有効であることを示している。また、結節性硬化症の顔面の血管線維腫が処置されたことによって、本発明の外用薬の真皮内へ浸透したことが示された。
【0141】
〔本発明の外用薬を用いた白斑の処置〕
白斑が発症する原因の一つは、メラノサイトがメラニンを産生しなくなることによって生じる。メラノサイトにおけるメラニンの産生に関与するタンパク質は、MITF、TYR、DCT、TYRP1である。
【0142】
白斑が、mTORの活性化に起因する疾患(結節性硬化症など)に罹患した患者においてしばしば発生することが知られている。このような患者において白斑が発生するメカニズムは、以下のとおりであると本発明者らは考えている。上記患者のメラノサイト内においてmTORが活性化された結果、S6K1の活性が上昇する。そして、このS6K1の活性の上昇によって、PI3Kの活性が抑制される。PI3KはAktのシグナル伝達経路を活性化するだけでなく、MAPKのシグナル伝達経路も活性化するので、PI3Kの活性の抑制によって、Aktのシグナル伝達経路およびMAPKのシグナル伝達経路が抑制される。これにより、Aktのシグナル伝達経路の下流にあるp38およびMAPKのシグナル伝達経路の下流にあるMEKの活性が抑制される。その結果、p38およびMEKを介した、MITFの発現が抑制されたり、MITFの活性化が抑制されたりする。
【0143】
MITFが発現しなくなったり、MITFの活性が低下したりすることによって、TYRおよびTYRP1の活性が低下し、メラノサイトにおいてメラニンが産生されなくなる。このようにして、白斑が生じる。
【0144】
このように、本発明者らは、白斑の発生にmTORの活性化が関与しているので、本発明の外用薬が白斑の処置に有効であると考えた。そこで、本実施例では、以下のような試験を実施して、シロリムスの上述したタンパク質の発現に対する影響を調べ、白斑の発生にmTORの活性化が関与していることを確認した。そして、本発明の外用薬の白斑に対する効果を確認した。
【0145】
<シロリムスによるMITF、TYR、TYRP1の発現量の増加の確認>
(試験方法)
1.4×10
5個のメラノサイトを6ウェルのカルチャープレートのウェルに播種し、medium 254(倉敷紡績株式会社製、M254500)をウェルに添加した。次いで、このプレートを、37℃および5%CO
2の環境下にて24時間インキュベートした。
【0146】
シロリムスを終濃度が0nM(すなわち、シロリムスを培地に加えない。)、1、10および20nmol/Lのシロリムスをそれぞれウェルに添加し、プレートを37℃および5%CO
2の環境下にて24時間または48時間インキュベートした。
【0147】
インキュベート後のウェルからmedium 254を除去した。そして、このウェルにPBSを添加し、ウェルからPBSを除去するという操作を3回行った。この操作によって、メラノサイトをPBSで洗浄した。
【0148】
PBSを除去したウェルに175μLのRNA lysis bufferを添加した。このRNA lysis bufferは、SV Total RNA Solution Systemのキット(Promega社製、Z3105)に付属されていたものである。
【0149】
セルスクレーパーを用いて、メラノサイトをプレートから剥がした。
【0150】
メラノサイトを含んでいるRNA lysis bufferを1.5mLのエッペンドルフチューブに回収した。そして、回収したbufferからRNAを抽出した。
【0151】
このRNAを用いて、リアルタイムRT−PCRを行い、MITFのmRNA、TYRのmRNA、およびTYRP1のmRNA、GAPDHのmRNAの発現を検出した。そして、MITFのmRNA、TYRのmRNA、およびTYRP1のmRNAの発現量をそれぞれGAPDのmRNAの発現量に対する相対的な発現量として算出した。
【0152】
このような実験を3回行い、各mRNAの相対的な発現量の平均値および標準偏差を算出した。また、各外用薬を用いて得られた試験の結果に統計的有意差があるか否かを、対応のないstudent t検定を用いてp値を算出することによって確認した。p値が0.05未満であれば、統計的有意差があるとみなした。
【0153】
MITFのmRNAの発現を検出するために、TagMan(登録商標)Gene Expression Assays(Applied biosystems社製、Hs00165156_m1)を用いた。TYRのmRNAの発現を検出するために、TagMan(登録商標)Gene Expression Assays(Applied biosystems社製、Hs00165976_m1)を用いた。TYRP1のmRNAの発現を検出するために、TagMan(登録商標)Gene Expression Assays(Applied biosystems社製、Hs00167051_m1)を用いた。GAPDHのmRNAの発現を検出するために、TagMan(登録商標)Gene Expression Assays(Applied biosystems社製、Hs99999905_m1)を用いた。
【0154】
(試験結果)
上述した試験の結果を
図10〜12に示す。
【0155】
図10は、MITFのmRNAの相対的な発現量の平均値および標準偏差を示すグラフである。
図10における「1」は、シロリムスで処理されることなく24時間インキュベートされたメラノサイトを示し、「2」は、1nMのシロリムスで24時間処理されたメラノサイトを意味し、「3」は、20nMのシロリムスで24時間処理されたメラノサイトを意味し、「4」は、シロリムスで処理されることなく48時間インキュベートされたメラノサイトを意味し、「5」は、1nMのシロリムスで48時間処理されたメラノサイトを意味し、「6」は、20nMのシロリムスで48時間処理されたメラノサイトを意味する。
【0156】
図10に示すように、「1」では、MITFの相対的な発現量は100.00±3.37であり、「2」では、MITFの相対的な発現量は152.48±3.47であり、「3」では、MITFの相対的な発現量は152.18±14.75であり、「4」では、MITFの相対的な発現量は107.95±1.38であり、「5」では、MITFの相対的な発現量は129.41±3.43であり、「6」では、MITFの相対的な発現量は141.56±3.52であった。
図10中の**は、それぞれの発現量の間のp値が0.01未満であることを示しており、***は、それぞれの発現量の間のp値が0.001未満であることを示す。
【0157】
図10に示されるように、「2」および「3」におけるMITFのmRNAの相対的な発現量は、「1」におけるMITFのmRNAの相対的な発現量よりも有意に高い。同様に、「5」および「6」におけるMITFのmRNAの相対的な発現量は、「4」におけるMITFのmRNAの相対的な発現量よりも有意に高い。よって、1nMまたは20nMのシロリムスでメラノサイトを24時間または48時間処理することによって、MITFのmRNAの発現量が増加したことが確認された。
【0158】
図11および
図12は、それぞれTYRおよびTYRPのmRNAの相対的な発現量の平均値および標準偏差を示すグラフである。
図11および
図12における「1」は、シロリムスで処理されることなく24時間インキュベートされたメラノサイトを示し、「2」は、1nMのシロリムスで24時間処理されたメラノサイトを示し、「3」は、20nMのシロリムスで24時間処理されたメラノサイトを意味し、「4」は、シロリムスで処理されることなく48時間処理されたメラノサイトを意味し、「5」は、1nMのシロリムスで48時間処理されたメラノサイトを意味し、「6」は、20nMのシロリムスで48時間処理された別のメラノサイトを意味する。
【0159】
図11に示すように、「1」では、TYRの相対的な発現量は0.640±0.036であり、「2」では、TYRの相対的な発現量は0.820±0.047であり、「3」では、TYRの相対的な発現量は0.921±0.029であり、「4」では、TYRの相対的な発現量は0.771±0.009であり、「5」では、TYRの相対的な発現量は0.760±0.044であり、「6」では、TYRの相対的な発現量は0.858±0.022であった。
【0160】
図12に示すように、「1」では、TYRPの相対的な発現量は1.031±0.027であり、「2」では、TYRPの相対的な発現量は1.333±0.055であり、「3」では、TYRPの相対的な発現量は1.652±0.031であり、「4」では、TYRPの相対的な発現量は1.338±0.029であり、「5」では、TYRPの相対的な発現量は1.450±0.028であり、「6」では、TYRPの相対的な発現量は1.514±0.124であった。
【0161】
図11に示すように、1nMまたは20nMのシロリムスで24時間メラノサイトを処理するか、20nMのシロリムスで48時間メラノサイトを処理することによって、TYRの発現量が増加したことが確認された。また、
図12に示すように、1nMまたは20nMのシロリムスで24時間または48時間メラノサイトを処理することによって、TYRPの発現量が増加したことが確認された。
【0162】
このように、メラノサイトをシロリムスで処理することによって、MITF、TYRおよびTYRPの発現量が増加することは、メラニンの産生が増加することを示している。
【0163】
<シロリムスによるメラニン生産量の増加の確認>
(試験方法)
6ウェルに対して、メラノサイト(2人の正常な人に由来するメラノサイト(以下、各々をメラノサイト1およびメラノサイト2と呼ぶ))を播種した。なお、メラノサイトの数は、1ウェルあたり2×10
5個であり、培地としてはmedium254/HMGS2(PMA(−)(抗生剤無し)を用いた。
【0164】
24時間後、各ウェルに対して0nM、1nMまたは10nMとなるようにシロリムスを添加し、4日間の培養を行った。
【0165】
4日間の培養の後、各ウェルをPBSにて2回洗浄した。
【0166】
PBSによる洗浄の後、各ウェルに対して1mLのEDTA/トリプシン(2:1)溶液を加えて、メラノサイトをウェルから剥がした。メラノサイトを含む溶液を1.5mLのチューブへ入れた後、当該チューブを1500rpm、4℃にて5分間、遠心分離した。
【0167】
遠心分離の後、チューブ内の上清を捨てた後、ペレット(メラノサイト)を1mLのPBS中にけん濁した。30μLのけん濁液を用いて、けん濁液中のメラノサイトの数をカウントした。
【0168】
残りの970μLのけん濁液を1500rpm、4℃にて5分間、遠心分離した。
【0169】
遠心分離の後、チューブ内の上清を捨ててペレットを得た後、当該ペレットに対して1mLのNaOH(1N)を添加した。当該溶液を100℃にて30分間煮沸した後、室温にまで冷却した。
【0170】
冷却の後、溶液を16000gにて20分間遠心分離した後、上清の400nmにおける吸光度を測定した。なお、このとき同時に、スタンダードの吸光度も測定した。
【0171】
市販のメラニンを1NのNaOHに溶解し、様々な濃度のメラニン含有NaOH(1μg/mL〜100μg/mL)を作製した。様々な濃度のメラニン含有NaOHの400nmにおける吸光度を測定して標準曲線を作製した。
【0172】
上記標準曲線から、メラノサイトを溶解したNaOHに含有されるメラニンの量を計算した。そして、当該メラニンの量を、細胞数1×10
4当りの量に補正した。
【0173】
(試験結果)
細胞数1×10
4当りの量に補正したメラニンの量を、
図23および
図24に示す。なお、
図23は、メラノサイト1のデータを示し、
図24は、メラノサイト2のデータを示している。
【0174】
図23および24から明らかなように、シロリムスにて処理されたメラノサイトでは、メラニンの生産量が増加していた。また、シロリムスの濃度が上昇するのに伴って、メラニンの生産量も増加していた。
【0175】
<本発明の外用薬の白斑に対する効果の確認−1>
結節性硬化症の患者における白斑に、上記ゲル3または上記軟膏3を1日当たり2回、6週間塗布した。
図13に、ゲル3の塗布開始前の白斑の写真(a)、およびゲル3の塗布開始から6週間後の白斑の写真(b)を示す。
図14に、軟膏3の塗布開始前の白斑の写真(a)、および軟膏3の塗布開始から6週間後の白斑の写真(b)を示す。
図13および
図14中の矢印は白斑を示す。
図13の(b)および
図14の(b)では、同図の(a)に示された白斑が消退している。また、丘疹および紅色局面も軽快している。よって、ゲル3または軟膏3を塗布することによって白斑を処置できることが示された。
【0176】
前額部(露光部)に発症している白斑、または、腹部(非露光部)に発症している白斑に、上記ゲル3または上記軟膏3を1日当たり2回、3ヶ月間塗布した。白斑が発症している箇所を分光測色計(コニカミノルタ社製の分光測色計:M−2600d)によって白斑の症状を判定し、白斑の症状の推移を確認した。
【0177】
図25に、前額部(露光部)に白斑が発症している4人の患者のデータを示し、
図26に腹部(非露光部)に白斑が発症している4人の患者のデータを示す。
【0178】
図25および
図26から明らかなように、何れの患者においても、時間が経過するに従って、白斑が小さくなった。つまり、本発明の外用薬は、様々な体の部位に発症した白斑に対して治療効果を有していることが明らかになった。また、本発明の外用薬は、腹部(非露光部)に発症している白斑よりも、前額部(露光部)に発症している白斑に対する治療効果がより高いことが明らかになった。
【0179】
<本発明の外用薬の白斑に対する効果の確認−2>
尋常性白斑(頚部または腹部に発症した尋常性白斑)に、上記ゲル3または上記軟膏3を1日当たり2回、2ヶ月間塗布した。
図27および
図28に、2人の患者の尋常性白斑の写真を示す。
図27および
図28から明らかなように、2人の患者の何れにおいても、尋常性白斑が消退した。
【0180】
〔本発明の外用薬を用いたアトピー性皮膚炎の処置〕
アトピー性皮膚炎の処置薬としては、タクロリムスまたはピメクロリムスが使用されている。タクロリムスなどのアトピー性皮膚炎に対する効果は、タクロリムスなどがFKBP12(イムノフィリン)と結合して、カルシニューリンを抑制することによって発揮されることが知られている。しかし、タクロリムスなどは、腫瘍を発生させるという副作用を有している。
【0181】
一方、シロリムスは、タクロリムスと同様にFKBP12に結合するが、カルシニューリンではなくmTORを抑制する。このように、シロリムスとタクロリムスとでは、抑制の対象となる分子が異なっている。シロリムスによるmTORの抑制によって、マストセルを介した炎症が抑制されることが知られている。さらに、このmTORの抑制によって、細胞増殖の抑制やアポトーシスの誘導などの抗腫瘍効果も発揮される。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明の外用薬がアトピー性皮膚炎の処置に有効であると考えた。本発明の外用薬は、タクロリムスなどと異なり、腫瘍を発生させることがないため、より安全なアトピー性皮膚炎の治療薬になり得る。そこで、本実施例では、以下のような試験を実施して、本発明の外用薬のアトピー性皮膚炎に対する効果を確認した。
【0182】
<試験方法>
マウスの背中の皮膚に、ダニの抗原を含んでいる軟膏(ビオスタAD、ビオスタ株式会社製、AD001)を2週間塗布することによってこの皮膚にアトピー性皮膚炎を誘発した。具体的には、マウスの背中の毛を剃り、背中の皮膚を露出させた。そして、ダニの抗原を含んでいる軟膏を、この軟膏の塗布開始日(0日目)、この塗布開始日から4日目、7日目、11日目、14日目、18日目、21日目、および25日目に、背中の露出した皮膚に塗布した。
【0183】
ダニの抗原を含んでいる軟膏の塗布開始日から13日目に、上記軟膏2、シロリムスを含んでいないことを除いて軟膏2と同一である軟膏(コントロール)、および0.1質量%のタクロリムスを含む軟膏(プロトピック(登録商標)軟膏0.1%、ポジティブコントロール)を、それぞれアトピー性皮膚炎が誘発された皮膚の部位に、週2回、2週間塗布した。具体的には、これらの軟膏を、それぞれ13日目、17日目、20日目、24日目および27日目に上記皮膚の部位に塗布した。0日目、7日目、13日目、14日目、17日目、21日目、24日目および28日目に、上記軟膏を塗布した皮膚の部位を観察し、アトピー性皮膚炎の評価を行った。
【0184】
アトピー性皮膚炎の評価は、紅斑、浮腫および糜爛の程度に4段階のスコアを割り当てることによって行った。
【0185】
すなわち、紅斑については、紅斑が処置の開始前と比べて変化しなかった場合、スコアを0とし、軽度の紅斑の場合、スコアを1とし、中程度の紅斑の場合、スコアを2とし、重度の紅斑の場合、スコアを3とした。浮腫については、浮腫が処置の開始前と比べて変化しなかった場合、スコアを0とし、軽度の浮腫の場合、スコアを1とし、中程度の浮腫の場合、スコアを2とし、重度の浮腫の場合、スコアを3とした。糜爛については、糜爛が処置の開始前と比べて変化しなかった場合、スコアを0とし、軽度の糜爛の場合、スコアを1とし、中程度の糜爛の場合、スコアを2とし、重度の糜爛の場合、スコアを3とした。紅斑、浮腫および糜爛のスコアの合計を総合的なスコアとした。
【0186】
28日目にマウスを殺傷し、マウスの背中の写真を撮影した。また、アトピー性皮膚炎を誘発した皮膚を採取した。採取した皮膚の切片を作製し、切片に対してヘマトキシリン−エオシン染色を行うか、またはトルイジンブルー染色を行った。
【0187】
<試験結果>
アトピー性皮膚炎の評価の結果を
図15および
図16に示す。
図15は、上述した軟膏を用いた処置の各時点における、3匹のマウスのそれぞれにおける総合的なスコアを示すグラフである。
図15の(a)は、ポジティブコントロールを用いた場合の各マウスにおける総合的なスコアを示すグラフであり、(b)は、軟膏2を用いた場合の各マウスにおける総合的なスコアを示すグラフであり、(c)は、ネガティブコントロールを用いた場合の各マウスにおける総合的なスコアを示すグラフである。
図15の(a)〜(c)における「A」〜「I」は、試験に用いたマウスを示す。
図15の(a)〜(c)において、横軸の「1」〜「5」は、それぞれ処置の開始(0日目)、処置の開始から7日目、処置の開始から14日目、処置の開始から21日目、および処置の開始から28日目を示す。
【0188】
図15の(a)に示すように、1、2、3、4、および5において、Aのマウスのスコアは、それぞれ0、2、4.5、7.5および5.5であり、Bのマウスのスコアは、それぞれ0、4、7.5、7.5および5であり、Cのマウスのスコアは、それぞれ0、2.5、7.5、7.5および4であった。
図15の(b)に示すように、1、2、3、4、および5において、Dのマウスのスコアは、それぞれ0、3、8、8.5、および7.5であり、Eのマウスのスコアは、それぞれ0、4.5、5.5、5.5、および4.5であり、Fのマウスのスコアは、それぞれ0、2、6、5、および5であった。
図15の(c)に示すように、1、2、3、4、および5において、Gのマウスのスコアは、それぞれ0、4、5、6、および7.5であり、Hのマウスのスコアは、それぞれ0、5.5、7、9、および8.5であり、Iのマウスのスコアは、それぞれ0、3.5、6.5、7、および8であった。
【0189】
また、
図16は、
図15の(a)に示した各スコアの平均値(×)、同図の(b)に示した各スコアの平均値(正方形)および同図の(c)に示した各スコアの平均値(菱形)を示すグラフである。
図16に示すように、1、2、3、4、および5において、軟膏2を用いたマウスのスコアは、それぞれ0、3.16、6.5、6.3、および5.66であり、ポジティブコントロールを用いたマウスのスコアは、それぞれ0、2.83、6.5、7.5、および4.83であり、コントロールを用いたマウスのスコアは、それぞれ0、4.33、6.16、7.33、および8であった。
【0190】
図15および
図16に示すように、ネガティブコントロールを用いた場合、時間経過と共にスコアが大きくなったが、軟膏2およびポジティブコントロールを用いた場合、時間経過と共にスコアが小さくなった。これは、ネガティブコントロールを塗布することによってアトピー性皮膚炎が処置されないが、軟膏2またはポジティブコントロールを塗布することによってアトピー性皮膚炎が処置されることを示している。なお、軟膏2を用いた場合のスコアとポジティブコントロールを用いた場合のスコアとが同様の値であるので、軟膏2とポジティブコントロールとがアトピー性皮膚炎に対して同等の効果を有していることが認められる。
【0191】
図17に、マウスの背中の写真((a)〜(d))、ヘマトキシリン−エオシン染色を行った皮膚の切片の写真((e)〜(h))、トルイジンブルー染色を行った皮膚の切片の写真((i)〜(l))を示す。
図17において、(a)、(e)および(i)はダニの抗原を含んでいる軟膏も上述した外用薬も塗布されていない未処置のマウスの写真であり、(b)、(f)および(j)はダニの抗原を含んでいる軟膏および上記コントロールを塗布したマウスの写真であり、(c)、(g)および(k)はダニの抗原を含んでいる軟膏および上記軟膏2を塗布したマウスの写真であり、(d)、(h)および(l)はダニの抗原を含んでいる軟膏およびポジティブコントロールを塗布したマウスの写真である。
図17の(e)〜(h)では、表皮を矢印で示し、真皮への細胞を矢じりで示す。
図17の(i)〜(l)では、マストセルを矢印で示す。
【0192】
図17の(a)〜(d)を対比すると、ダニの抗原を含んでいる軟膏が塗布されたマウスでは、紅斑、浮腫および糜爛が生じている(アトピー性皮膚炎が発症している)。軟膏2またはポジティブコントロールが塗布されたマウスは、ネガティブコントロールが塗布されたマウスと比べて、紅斑、浮腫および糜爛の程度が低減されていることが分かる。
【0193】
図17の(e)〜(h)を対比すると、ネガティブコントロールが塗布されたマウスは、未処置のマウスに比べて著明な真皮への細胞の浸潤が認められる。一方、軟膏2またはポジティブコントロールが塗布されたマウスは、ネガティブコントロールが塗布されたマウスと比べて、表皮への細胞の浸潤が少ない。
【0194】
図17の(i)〜(l)を対比すると、ネガティブコントロールが塗布されたマウスは、未処置のマウスには見られないマストセルの浸潤が認められる。一方、軟膏2またはポジティブコントロールが塗布されたマウスは、ネガティブコントロールが塗布されたマウスに見られるようなマストセルの浸潤が少ない。
【0195】
以上の結果から、軟膏2を塗布することによって、アトピー性皮膚炎が軽快することが分かった。軟膏2を塗布したマウスとポジティブコントロールを塗布したマウスとでは、アトピー性皮膚炎の同等の症状の軽快が認められる。
【0196】
〔本発明の外用薬を用いた結節性硬化症の患者の紅斑の処置〕
紅斑は、血管新生の盛んな部位である。このような紅斑が、mTORの活性化に起因する疾患(結節性硬化症など)に罹患した患者においてしばしば発生することが知られている。本発明者らは、このような疾患において紅斑が発生するメカニズムが以下のとおりであると考えた。
【0197】
すなわち、上記患者の細胞内においてmTORが活性化された結果、HIF1αの活性が上昇し、活性化したHIF1αがHIF1βとヘテロダイマーを形成する。このヘテロダイマーがDNAのHRE配列に結合することによって、VEGFの転写を誘導して、VEGFの発現を増加させる。発現されたVEGFによって血管新生が引き起こされる。このようにして、紅斑が発生する。
【0198】
このように、本発明者らは、紅斑の発生にmTORの活性化が関与しているので、本発明の外用薬が紅斑の処置に有効であると考えた。そこで、本実施例では、以下のような試験を実施して、結節性硬化症の患者の細胞においてVEGFが発現していること、およびシロリムスがこのVEGFの発現を抑制することを見出した。そして、本発明の外用薬の結節性硬化症の患者の紅斑に対する効果を確認した。
【0199】
<結節性硬化症の患者から単離した血管線維腫がVEGFを発現することの確認>
(試験方法)
重症の血管線維腫を有する患者、中等症の血管線維腫を有する患者、および軽症の血管線維腫を有する患者からそれぞれ、重症、中等症、または軽症の血管線維腫の細胞を単離した。血管線維腫の細胞は、線維芽細胞の一般的な初代培養法(黒木登志男他編:分子生物学研究のための新培養細胞実験法 実験医学 別冊 バイオマニュアルUPシリーズ 改定第2版、羊土社 参照)にしたがって各患者の顔面から単離した。患者から取得した細胞はいずれも患者の同意を得た上で用いた。
【0200】
単離した各細胞をDME培地を用いて37℃および5%CO
2の環境下にて48時間培養し、培養上清を回収した。そして、培養上清中のVEGFの濃度を、VEGFを検出するキット(Quantikine(登録商標) Human VEGF、R&D SYSTEMS(登録商標)社製)を用いて測定した。
【0201】
(試験結果)
上述した試験の結果を
図18に示す。
図18において、Aは重症の血管線維腫の細胞を示し、Bは中等症の血管線維腫の細胞を示し、Cは軽症の血管線維腫の細胞を示す。
図18に示すように、重症の血管線維腫の細胞を用いた場合のVEGFの濃度は468.857pg/mLであり、中等症の血管線維腫の細胞を用いた場合のVEGFの濃度は260.286pg/mLであり、軽症の血管線維腫の細胞を用いた場合のVEGFの濃度は147.429pg/mLである。このように、血管線維腫の細胞においてVEGFが発現しており、血管線維腫の症状が重くなるほど、VEGFの発現量が高くなることが分かった。
【0202】
<シロリムスによるVEGFの発現の抑制の確認>
(試験方法)
結節性硬化症の患者から単離した血管線維腫の細胞、ヒト線維芽細胞、HaCatを用いた。血管線維腫の細胞の単離は、この血管線維腫の切除を希望する患者から血管線維腫を切除し、上述した初代培養法を用いて行った。ヒト線維芽細胞は、結節性硬化症(TSC)でない患者の組織から、上述した初代培養法を用いて取得した。HaCatは、ドイツ連邦共和国癌研究センター(dkfz)から購入した。患者から取得した細胞はいずれも患者の同意を得た上で用いた。
【0203】
血管線維腫の細胞、ヒトの線維芽細胞、およびHaCatを、DME培地を用いて37℃および5%CO
2の環境下にて培養した。これらの細胞の培養中に、シロリムスを終濃度が0nM(すなわち、シロリムスを培地に加えない(コントロール)。)、1nM、10nMまたは20nMとなるように培地に加えた。再び、細胞を37℃および5%CO
2の環境下にてインキュベートし、シロリムスを加えてから48時間後または72時間後に培養上清を回収した。VEGFを検出するキット(Quantikine(登録商標) Human VEGF、R&D SYSTEMS(登録商標)社製)を用いて、回収した培養上清中のVEGFの濃度を測定した。
【0204】
(試験結果)
上述した試験の結果を
図19に示す。
【0205】
図19の(a)は血管線維腫の細胞の培養中にシロリムスを加えてから48時間後の、培養上清中のVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフである。
図19の(b)は、HaCat、ヒト線維芽細胞(normal fibro)、および血管線維腫の細胞(TSC AF fibro)の培養中にシロリムスを加えてから72時間後の培養上清中のVEGFの濃度(pg/mL)と、これらの細胞の培養中にシロリムスを加えないで同様に72時間培養したときの培養上清中のVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフである。
図19の(c)は、これらの3種類の細胞をシロリムスで処理したことによって引き起こされたVEGFの濃度の減少割合(比:20nMのシロリムスで処理した後のVEGFの濃度/20nMのシロリムスで処理する前のVEGFの濃度)を示すグラフである。
図19の(d)はHaCatの培養中にシロリムスを加えてから48時間後の、培養上清中のVEGFの濃度(pg/mL)を示すグラフである。
【0206】
図19の(a)に示すように、シロリムスで血管線維腫の細胞を処理しない場合(0nM)、VEGFの濃度が260.2857pg/mLであり、1nMのシロリムスで血管線維腫の細胞を処理した場合、VEGFの濃度が113.1428pg/mLであり、10nMのシロリムスで血管線維腫の細胞を処理した場合、VEGFの濃度が92.4285pg/mLであった。
【0207】
図19の(a)によれば、シロリムスの濃度を増加させるほど、VEGFの発現量が低減されることが示された。
【0208】
図19の(b)に示すように、シロリムスでHaCatを処理しない場合(コントロール)、VEGFの濃度が1849.9pg/mLであり、20nMのシロリムスでHaCatを処理した場合、VEGFの濃度が749.9pg/mLであり、シロリムスでヒト線維芽細胞を処理しない場合(コントロール)、VEGFの濃度が1492.7pg/mLであり、20nMのシロリムスでヒト線維芽細胞を処理した場合、VEGFの濃度が501.3pg/mLであり、シロリムスで血管線維腫の細胞を処理しない場合(コントロール)、VEGFの濃度が858.4pg/mLであり、20nMのシロリムスで血管線維腫の細胞を処理した場合、VEGFの濃度が168pg/mLであった。
【0209】
図19の(c)は、
図19の(b)に示す、20nMのシロリムスで細胞を処理した場合のVEGFの濃度をシロリムスで細胞を処理しない場合のVEGFの濃度で除した結果を示すグラフである。
図19の(c)に示すように、HaCatの場合、20nMのシロリムスで処理することによってVEGFの濃度が0.4053pg/mLとなり(約40%に低下し)、ヒト線維芽細胞の場合、20nMのシロリムスで処理することによってVEGFの濃度が0.3358pg/mLとなり(約30%に低下し)、血管線維腫の細胞の場合、20nMのシロリムスで処理することによってVEGFの濃度が0.1957pg/mLとなった(約20%に低下した)。
【0210】
図19の(d)によれば、シロリムスの濃度を増加させるほど、VEGFの発現量が低減されることが示された。
【0211】
図19の(b)および(c)によれば、ヒト線維芽細胞およびHaCatよりも血管線維腫の細胞の方が、シロリムスによるVEGFの発現抑制の影響を受けやすいことが分かった。
【0212】
また、メラノサイトを様々な濃度のシロリムスにて処理したときの、HIF1αの発現量の変化を検討した。具体的には、メラノサイトを、37℃および5%CO
2の環境下にて培養した。これらの細胞の培養中に、シロリムスを終濃度が0nM(すなわち、シロリムスを培地に加えない(コントロール)。)、1nMまたは10nMとなるように培地に加えた。再び、細胞を37℃および5%CO
2の環境下にてインキュベートし、シロリムスを加えてから48時間後にメラノサイトを回収した。メラノサイトにて発現しているHIF1αのmRNAの量をreal time PCRによって測定し、当該mRNAの量を、GAPDHのmRNAの量に基づいて補正した。
【0213】
図29に測定結果を示す。
図29から明らかなように、シロリムスによって処理されたメラのノサイトでは、HIF1αの発現量が低下していた。
【0214】
<本発明の外用薬の紅斑に対する効果の確認>
結節性硬化症の患者の紅斑に、上記軟膏3を1日当たり2回、12週間塗布した。
図20に、軟膏3の塗布開始前の紅斑の写真(a)、および軟膏3の塗布開始から12週間後の紅斑の写真(b)を示す。
図20中の矢印は紅斑を示す。
図20(b)では、同図の(a)に示された紅斑が消退している。よって、軟膏3を塗布することによって紅斑を処置できることが確認された。
【0215】
このように、実際に、軟膏3によってヒトにおける血管新生が盛んな局面がほぼ消失した。したがって、同様に血管新生が盛んな酒さに対しても本発明の外用薬が有効であるといえる。
【0216】
〔軟膏中のシロリムスの状態〕
本実施例にて調製した軟膏中にてシロリムスがどのような状態であるのかを確認するために、シロリムスの溶媒である炭酸プロピレンが軟膏中にてどのような状態であるのかを調べた。
【0217】
炭酸プロピレンを青色に着色した。次いで、着色した炭酸プロピレンを、本実施例にて調製した軟膏の成分である流動パラフィン、固形パラフィンおよび白色ワセリンの混合物に添加した。また、コントロールとして、着色した炭酸プロピレンを、白色ワセリンに添加した。着色した炭酸プロピレンを上記混合物に添加した場合、
図21の(a)の左側の試薬ビンに示すように、炭酸プロピレンは微粒子になり沈殿した。一方、着色した炭酸プロピレンを白色ワセリンに添加した場合、
図21の(a)の右側の試薬ビンに示すように、炭酸プロピレンは微粒子を形成することなく沈殿した。
【0218】
次いで、着色した炭酸プロピレンが沈殿した混合物を、自転公転ミキサーを用いて常温で、2000rpmにて1分間攪拌し、次いで、1000rpmにて5分間攪拌し、そして500rpmにて3分間攪拌した。同様の操作を、着色した炭酸プロピレンが沈殿した白色ワセリンに対しても行った。攪拌の結果を
図21の(b)に示す。
図21の(b)において、左側の試薬ビンは、着色した炭酸プロピレンが沈殿した混合物を攪拌した結果を示し、右側の試薬ビンは、着色した炭酸プロピレンが沈殿した白色ワセリンを攪拌した結果を示す。
図21の(b)に示すように、炭酸プロピレンを白色ワセリンと一緒に攪拌した場合の方が、炭酸プロピレンを上記混合物と一緒に攪拌した場合よりも、炭酸プロピレンの粒子が大きいことが肉眼でも確認できる。
【0219】
また、炭酸プロピレンを上記混合物と一緒に攪拌することによって調製した軟膏、および炭酸プロピレンを白色ワセリンと一緒に攪拌することによって調製した軟膏を、顕微鏡を用いて観察した。観察の結果を
図22に示す。
図22の(a)は、混合物を用いて調製した軟膏の顕微鏡写真であり、
図22の(c)は、
図22の(a)の拡大図である。
図22の(b)は、白色ワセリンを用いて調製した軟膏の顕微鏡写真であり、
図22の(d)は、
図22の(b)の拡大図である。
図22の(c)および(d)におけるバーは、25μmを示す。
図22にて炭酸プロピレンの粒子を矢印で示し、水(黒色)を矢じりで示す。
【0220】
図22の(a)および(c)から分かるように、混合物を用いて調製した軟膏では、炭酸プロピレンが軟膏中において10μm以下の均一な微粒子になって分散している。一方、
図22の(b)および(d)から分かるように、白色ワセリンを用いて調製した軟膏では、炭酸プロピレンが軟膏中において様々な大きさの微粒子になって分散しており、均一ではない。
【0221】
このような結果は、炭酸プロピレンのみを用いた場合だけでなく、シロリムスが溶解した炭酸プロピレンを用いた場合にも得られると考えられる。すなわち、本実施例にて調製した軟膏中にてシロリムスは、均一な微粒子として分散していると考えられる。このように、シロリムスが均一な微粒子として分散しているため、本実施例にて調製した軟膏を皮膚に塗布することによって、シロリムスの皮膚から患部への吸収が顕著に向上し、シロリムスが血中に漏出することなく患部に留まると考えられる。
【0222】
〔基剤に関する検討〕
<調製例7:0.2質量%のシロリムスを含むゲルの調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)2mgをイソプロパノール(和光純薬工業株式会社製、166-04836)145mgに溶解させた。得られた溶解物147mgをカーボポール(登録商標)934NFポリマー(Lubrizol社製)16mgとH
2O833mgとの混合物と混合した。得られた混合物に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(和光純薬工業株式会社製、203-06272)4mgを混合した。このようにして、0.2質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル4)を調製した。
【0223】
<調製例8:0.2質量%のシロリムスを含むゲルの調製>
シロリムスの試薬の代わりにRapamuneを用いたことを除いて、調製例7と同様の作業を行い、0.2質量%のシロリムスを含むゲル(ゲル5)を調製した。具体的には、2mgのRapamuneの錠剤を粉砕し、不純物(賦形剤など)を取り除くために75μmのメッシュを通してから、粉砕物をイソプロパノール145mgに溶解させた。
【0224】
<調製例9:0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)2mgを炭酸プロピレン(和光純薬工業株式会社製、168-04972)58mgに溶解させた。固形パラフィン(和光純薬工業株式会社製、415-25791)45mg、および白色ワセリン(プロペト)(丸石製薬株式会社製、Merck社製、またはアストラジャパン株式会社製)895mgを、70℃に加熱し溶解させながら混合した。
【0225】
この混合物の温度が40℃になるまで冷却した後、上述したシロリムスの試薬と炭酸プロピレンとの溶解物を添加した。これによって生じた混合物を自転公転ミキサー(シンキ株式会社製、Nano Pulverizer NP-100)を用いて常温で、1分間、2000rpmにて攪拌し、次いで5分間、1000rpmにて攪拌し、そして3分間、500rpmにて攪拌した。このようにして、0.2質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏7)を調製した。
【0226】
<調製例10:0.2質量%のシロリムスを含む軟膏の調製>
シロリムスの試薬(Calbiochem社製、553210)2mgを炭酸プロピレン(和光純薬工業株式会社製、168-04972)50mgに溶解させた。流動パラフィン(和光純薬工業株式会社製、128-04375)10mg、固形パラフィン(和光純薬工業株式会社製、415-25791)35mg、および白色ワセリン(プロペト)(丸石製薬株式会社製、Merck社製、またはアストラジャパン株式会社製)895mgを、70℃に加熱し溶解させながら混合した。
【0227】
この混合物の温度が40℃になるまで冷却した後、上述したシロリムスの試薬と炭酸プロピレンとの溶解物を添加した。これによって生じた混合物を自転公転ミキサー(シンキ株式会社製、Nano Pulverizer NP-100)を用いて常温で、1分間、2000rpmにて攪拌し、次いで5分間、1000rpmにて攪拌し、そして3分間、500rpmにて攪拌した。このようにして、0.2質量%のシロリムスを含む軟膏(軟膏8)を調製した。
【0228】
<本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量の確認−2>
(試験方法および試験結果−1)
Rapamuneを用いて作製した本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量に対して、基剤の組成が及ぼす影響を検討した。具体的には、軟膏3、軟膏7、ゲル3およびゲル5について、外用薬が人工皮膚から吸収される量を測定した。
【0229】
具体的な測定方法は、〔本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量の確認〕の欄にて既に説明したので、ここではその説明を省略し、試験結果について説明する。なお、本実施例では、40mgの軟膏3、軟膏7、ゲル3およびゲル5を用いて、各々3つのサンプルについて試験を行っている。
【0230】
上述した試験の結果を
図30に示すとともに、当該試験の実際の数値データを表2に示す。
【0231】
【表2】
図30および表2から明らかなように、Rapamuneを用いて作製した本発明の外用薬の場合、軟膏3、軟膏7、ゲル3およびゲル5の中では、ゲル3が、人工皮膚から吸収されるシロリムスの量が最も多かった。
【0232】
(試験方法および試験結果−2)
シロリムスの試薬を用いて作製した本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量に対して、基剤の組成が及ぼす影響を検討した。具体的には、軟膏2、軟膏8、ゲル2およびゲル4について、外用薬が人工皮膚から吸収される量を測定した。
【0233】
具体的な測定方法は、〔本発明の外用薬が人工皮膚から吸収される量の確認〕の欄にて既に説明したので、ここではその説明を省略し、試験結果について説明する。なお、本実施例では、40mgの軟膏2、軟膏8、ゲル2およびゲル4を用いて、各々3つのサンプルについて試験を行っている。
【0234】
上述した試験の結果を
図31に示すとともに、当該試験の実際の数値データを表3に示す。
【0235】
【表3】
図31および表3から明らかなように、シロリムスの試薬を用いて作製した本発明の外用薬の場合、軟膏2、軟膏8、ゲル2およびゲル4の中では、ゲル2が、人工皮膚から吸収されるシロリムスの量が最も多かった。
【0236】
(試験方法および試験結果−3)
上述した(試験方法および試験結果−1)および(試験方法および試験結果−2)に記載したゲル2〜5の試験結果を1つのグラフにまとめた結果を
図32に示す。
【0237】
図32から明らかなように、シロリムスの試薬を用いて作製した本発明の外用薬と、Rapamuneを用いて作製した本発明の外用薬とを比較すれば、シロリムスの試薬を用いて作製した本発明の外用薬の方が、人工皮膚から吸収されるシロリムスの量が多かった。
【0238】
〔皮膚への影響の検討〕
様々な濃度のシロリムス(0質量%、0.05質量%、0.2質量%、0.4質量%)を含有するゲルおよび軟膏100mgをBALB/cマウスの両耳に単回塗布して、1時間、8時間、24時間、48時間および7日後に炎症を生じているか否か確認した。更に、BALB/cマウスの背部に1日1回、5日間連続塗布して外用による局所の皮膚炎の有無を観察した。
【0239】
上述したゲルおよび軟膏では、全ての時間において、皮膚の異常は観察されなかった。