特許第5652849号(P5652849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5652849
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】酸化チタンおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/047 20060101AFI20141218BHJP
   C01G 23/053 20060101ALI20141218BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C01G23/047
   C01G23/053
   B01J35/02 J
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-548896(P2009-548896)
(86)(22)【出願日】2008年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2008073957
(87)【国際公開番号】WO2009087951
(87)【国際公開日】20090716
【審査請求日】2011年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2008-204(P2008-204)
(32)【優先日】2008年1月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100089705
【弁理士】
【氏名又は名称】社本 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100080137
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】真下 茂
(72)【発明者】
【氏名】オムルザク ウル エミル
(72)【発明者】
【氏名】スライマンクロワ サーダット
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真人
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−076798(JP,A)
【文献】 特開2005−298316(JP,A)
【文献】 特開2005−298317(JP,A)
【文献】 Emil OMURZAK et al.,Synthesis method for nanomaterials by pulsed plasma in liquid,日本金属学会・日本鉄鋼協会九州支部合同学術講演会講演概要集,日本,2007年 8月24日,Vol.2007,p.B14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/047
B01J 35/02
C01G 23/053
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
400nm〜700nmの波長の光反射率が80%以下であり、
400℃から800℃での熱重量減少率が1.0%以下であり、
アナターゼ構造のみを有する
ことを特徴とするアナターゼ型二酸化チタン。
【請求項2】
水中で、チタン電極間に5アンペア未満でパルスプラズマを発生させ、チタンを酸化することを特徴とする、400nm〜700nmの波長の光反射率が80%以下であり、400℃から800℃での熱重量減少率が1.0%以下であり、アナターゼ構造のみを有するアナターゼ型二酸化チタンの製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法で得られたアナターゼ型二酸化チタンを加熱することを特徴とするアナターゼ構造およびルチル構造複合二酸化チタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質除去、悪臭物質消臭分解、防汚、滅菌などの環境浄化材として有用である光触媒の一つとして、特に光触媒活性の大きい新規なアナターゼ型酸化チタンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、紫外線が表面に照射されたときに発生するラジカル物質(ヒドロキシラジカル、スーパーオキサイドアニオン)により、有害物質(アルデヒド類等)の吸着、酸化分解、悪臭物質(悪臭防止法で規制されている物質)の消臭分解、防汚、滅菌などの機能を持つ物質である。近年、この光触媒をコートすることにより、これらの機能を利用する展開が図られている。多くの金属酸化物が光触媒として利用可能であるが、これらの中でも、活性が一般に高い酸化チタンが光触媒として利用されることが多い。酸化チタンには、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の3種類の結晶体とアモルファス体(無定形)とがあるが、中でもアナターゼ型の酸化チタンが機能性及び安全性の両面で優れている。
アナターゼ型酸化チタン粉末を得る方法として、一般的には、気相法と液相法がある。気相法で作製された代表的なアナターゼ型酸化チタンとして、Degussa(登録商標)P−25(日本アエロジル株式会社製)があるが、酸素雰囲気下、1000℃程度の高温で塩化チタンを加水分解、加水分解物の縮合をすることにより、比表面積が40m/g(BET法)の酸化チタン粉末を製造するとされている。また、炉内温度が600℃から800℃の範囲でCVD(化学気相蒸着)法により酸化チタンを調製する方法が開示されている(非特許文献1参照)。
液相法によりアナターゼ型酸化チタンを得る方法では、ゾル−ゲル法、HyCOM法(Hydrothermal Crystalization in Organic Media)、及び硫酸法が関連技術文献に開示されている。
ゾル−ゲル法での酸化チタンは、常圧下に、チタンアルコキシドから加水分解で水酸化チタンを得る工程と、加熱により水酸化チタンを重縮合させ酸化チタンとする焼結工程の2工程が必要である(非特許文献2参照)。
HyCOM法は、アルコキシドの加水分解に必要な水分として、圧力(10kg/cmG)以上のガス中の水分又は蒸気状の水分を、チタンアルコキシドを溶解させた溶媒に供給することにより、酸化チタンを得る方法として知られている(非特許文献3参照)。
また、硫酸法は、硫酸チタンを加熱、加水分解、焼成することによって、酸化チタンが得られることを開示している(特許文献1参照)。
チタニアゾル、チタニアゲル又はチタニアゾル・ゲル混合体を、密閉容器内で加熱処理する方法も開示されている(特許文献2参照)
更に、パルスプラズマ法を用いて、一酸化チタンが生成することに関しても開示されている(非特許文献4参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
気相法によりアナターゼ型酸化チタン粉末を得る場合、上記のいずれの方法でも、アナターゼ型酸化チタンを調製する際に、反応雰囲気を高温(気相法では、通常800℃以上)にすることを必要とし、高熱源装置を必要とすること、操作性、安全性の観点から、実施が難しいこと、原料として反応性の高い塩化チタンを使用することのために、特別な装置が必要となる等の欠点がある。また、CVD法においても、原料上の問題はまったく同じであり、且つ生成物中にハロゲンなどの不純物を有するなどの問題点もある。
アナターゼ型の酸化チタンをゾル−ゲル法で得る場合、焼結工程が必須であり、焼結のための加熱温度は300℃から700℃の範囲内とする必要がある。加熱処理が300℃未満の場合、得られる酸化チタンはアモルファスのままであり、一方、700℃を超える温度で加熱処理した場合、アナターゼ型の酸化チタンが光触媒機能の低いルチル型へ結晶転移する。加えて、300℃以上でも、焼成する粒子の大きさや、使用する加熱機器の構造、加熱方法によっては、アナターゼ型とルチル型酸化チタンが混合物となってしまう場合がある。
HyCOM法で得られた酸化チタンは、900℃を超える焼成後でもアナターゼ型であり、高耐熱性であるという特徴があるが、原料中の水分管理に著しく注意しなければならず、また高い圧力のスチームなどを発生させるために、特殊な反応装置を必要とする欠点がある。
硫酸法で酸化チタンを得るには、硫酸チタンを加熱・加水分解して得た酸性チタンゾルに水酸化ナトリウムを加え、pH7に調節した後、濾過、洗浄を行って結晶化させる。ついで、得られた酸化チタン湿ケーキに水を加えて、酸化チタンスラリーを調製し、さらに水酸化ナトリウムを加えて、pHを7とした後、オートクレーブで150℃、3時間の水熱処理を行っている。その後、水熱処理後のスラリーに硝酸を加え、pH7に調節した後、濾過、水洗、乾燥(110℃、3時間)という多工程を要し、非常に煩雑な作業を行わなければならない問題点を有している。且つ、ナトリウムなどの中和に用いた金属が混入しやすいため、純粋なアナターゼ型酸化チタンを得るには、洗浄などの工程を強化せざるを得ず、排水など廃棄物が多いという問題点も有する。
チタニアゾル、ゲルおよび混合物を用いる方法でも、アルコールなど有機物の存在下にゾルまたはゲルを調製する工程、加圧装置内で、200℃以上の高温下に反応させる特殊な装置が必要であり、また、有機物を除去する工程や、排水などの廃棄物が多いという問題点を有している。
非特許文献4には、高い電流量でパルスプラズマ法による一酸化チタンの製法に関しての開示はあるものの、酸化チタンに対する開示は無く、酸化チタンの製法にかかわる記載も無い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討を重ね、水中で、低い電流量下に、チタン金属極を入れ、金属極間にパルスプラズマを発生することで、金属酸化物である酸化チタンを得ることができることを見出し、本発明に至った。
本発明によれば、以下のものが提供される。
[1] 400nm〜700nmの波長の光反射率が80%以下である酸化チタン。
[2] 400℃から800℃の熱重量減少率が、1.0%以下である酸化チタン。
[3] アナターゼ構造を有する[1]又は[2]記載の酸化チタン。
[4] アナターゼ構造およびルチル構造を有する[1]又は「2]記載の酸化チタン、
[5] 水中で、チタン電極間に5アンペア未満でパルスプラズマを発生させ、チタンを酸化することを特徴とするアナターゼ型酸化チタンの製造方法。
[6] [5]記載の方法で得られたアナターゼ型酸化チタンを加熱するアナターゼ構造およびルチル構造複合酸化チタンの製造方法。
[7] ラマンスペクトル測定において、350cm−1から700cm−1の間に少なくとも2つのピークを有し、450cm−1から550cm−1の間のピークが、他のピークよりも強度が低い[4]記載の酸化チタン。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、400nm〜700nmの波長の光反射率が80%以下の光吸収性が高い酸化チタンを提供することができる。このような酸化チタンは、紫外域のみならず、可視光線域においても光を吸収するため、顔料や光触媒として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は、実施例1で得られた酸化チタンのX線結晶解析図である。
図2は、実施例1で得られた酸化チタンの透過電子顕微鏡写真である。a)は低分解能、b)は高分解能における写真である。
図3は、実施例1で得られた酸化チタンの熱重量分析結果を示すグラフである。
図4は、実施例1〜5及び参考例で得られた酸化チタンの紫外−可視反射スペクトルである。1は実施例1で得られた酸化チタンの紫外−可視反射スペクトルであり、2は実施例2で得られた酸化チタンの紫外−可視反射スペクトルであり、3は実施例3で得られた酸化チタンの紫外−可視反射スペクトルであり、4は実施例4で得られた酸化チタンの紫外−可視反射スペクトルであり、5は実施例5で得られた酸化チタンの紫外−可視反射スペクトルであり、6は参考例で得られた酸化チタンの紫外−可視反射スペクトルである。
図5は、参考例で得られた酸化チタンの熱重量分析結果を示すグラフである。
図6は、実施例1〜5及び参考例で得られた酸化チタンのX線結晶解析図である。
図7は、実施例1〜5及び参考例で得られた酸化チタンのラマンスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明では、水中で、チタン電極を用いたパルスプラズマを発生させる方法で、酸化チタンを得る。本方法で得られた酸化チタンでは、アナターゼ型酸化チタンが選択的に生成する。生成した酸化チタンは、青色を呈しており、一次粒子としては、数から数十ナノメートルの粒径を有しており、凝集物として得ることができる。青色を呈している理由は定かではないが、吸収波長域が一般のアナターゼ型酸化チタンと異なり、紫外域から、可視、更には赤外域まで達していることに由来することが考えられる。このため、紫外域のみならず、可視光線域においても、光を吸収するため、新たな顔料として、更に、光触媒としての効果が発現することが期待できる。
特に、光触媒としては、一般のアナターゼ型酸化チタンが紫外光しか吸収しないため、紫外線が有効に使用できない場所、用途では効果が小さいために、可視光域の使用が可能となることで有効性が高まり、空気中のみならず水中などの使用も可能になる。よって、光触媒として、脱臭、殺菌、光電変換などの用途での活用が期待できる。
本発明で使用される電極であるチタンとしては、特に制限されるものではなく、通常入手できる金属チタンを使用してかまわない。不純物による構造歪、光吸収性への影響を考慮して、通常、99%以上の純度の物を用いられるが、より好ましくは、99.5%以上の純度の物を用いることができる。使用する形態としては、棒状、針金状、板状などいずれの形態であってもかまわない。両極の大きさに関しても、どちらかの大きさが異なるなどの形状を有していてもかまわない。
本発明では、酸化剤として、水を使用する。使用する水としては得に限定されるものではなく、蒸留水、精製水などを使用することができるが、生成する酸化チタンへの異種金属の混入を考慮して、イオン交換水の使用が好ましい。
本発明での実施温度としては、特に制限されるものではなく、室温から300℃の範囲で実施される。高すぎる温度では、水の蒸気圧が上がり、特殊な反応容器が必要になるため好ましくなく、低すぎる温度では、プラズマ発生時の酸化チタンの生成効率が低下するため好ましくない。よって、好ましくは、60℃以上200℃以下、より好ましくは、80℃以上120℃以下で実施される。
本発明では、プラズマを発生させることで、酸化チタンを製造する。プラズマを発生させる電圧としては、特に制限されるものではなく、50Vから500Vの範囲、安全性、特殊な装置の必要性を考慮して、60Vから400Vの範囲、より好ましくは、80Vから300Vの範囲で実施される。低すぎる電圧では、チタンの酸化が十分に進まず、複合酸化物が得られる場合があるので、注意が必要である。
本発明では、プラズマを発生させる電流としては、特に制限されるものではなく、0.1から5A未満の範囲、特に0.2から5A未満の範囲、エネルギー効率を考慮して、0.2から4Aの範囲、より好ましくは、0.5から3.5Aの範囲で実施することが好ましい。高すぎる電流量では、反応中に分解し、一酸化チタンなどの酸化物が生成する場合があるので、注意が必要である。
パルスプラズマを与える間隔に関しては特に、制限されるものではないが、パルスプラズマのサイクルは特に限定されるものではなく、5から100ミリ秒、単位時間当たりの効率を向上させるためには、3から80ミリ秒、より好ましくは、1から50ミリ秒のサイクルで実施される。
パルスプラズマ一回あたりの持続時間もまた、与える電圧および電流によって異なることはいうまでも無いが、通常1から1000マイクロ秒、放電の効率を考慮して、好ましくは2から500マイクロ秒、より好ましくは、5から100マイクロ秒、特に1から50マイクロ秒、好ましくは2から30マイクロ秒の範囲で実施される。
本発明では、電極に振動を与えることも可能である。振動を与えることで、電極間に析出する酸化チタンの滞留もなく、放電が効率的に行われるため好ましい。振動を与える方法としては、特に限定されるものではなく、バイブレータ、アクチュエータなどの装置を用いて、定期的に振動を与えても、間欠的に振動を与える方法でもかまわない。
本発明を実施する雰囲気としては特に限定するものではなく、減圧下、加圧下、常圧下いずれの状態でも実施することができるが、水の電気分解により、酸素、水素の発生が懸念されるため、通常、安全、操作性を考慮して、窒素、アルゴンなどの不活性ガス流通雰囲気下で実施する。
本発明で得られた酸化チタンは、水中に堆積する。親水性が高いため、水に浮遊している粒子も多いため、遠心分離器などを用いて強制的に沈降させることもできる。水をデカンテーションなどの方法で除去し、堆積物を得ることで、酸化チタンを得ることができる。
本発明で得られた酸化チタンは、熱的に安定である。よって、必要な乾燥度、可視光反射率に応じて、800℃までの加熱処理をすることができる。加熱しても、光反射率は、80%を超えることなく可視光を吸収することができ、熱的に安定である。
加熱処理する方法としては、バッチ処理、連続処理いずれの方法で処理することもでき、大気下、又は不活性ガス下で実施することができる。昇温速度に関しては、特に制限されるものではないが、通常、毎分0.1℃〜100℃の範囲、好ましくは、1℃〜50℃の範囲で昇温される。
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
300mlビーカーにイオン交換水200gを取り、90℃に昇温した。水中に、直径5ミリメートル、長さ100ミリメートルの金属チタン電極(純度99%以上)を挿入し、電極間を1ミリメートルに固定し、電極表面に反応生成物が堆積することを防止して反応効率を高めるために200Hzの振動を与えた。各電極を交流電源に接続し、200V、3Aでパルス放電した。放電間隔を20ミリ秒、放電時間を20マイクロ秒とした。放電開始と同時に、電極間に酸化チタンの析出が観測された。5時間放電を連続して行い、沈降した大きな粒子(TiO粒子)をデカンテーションにより除き、その後の懸濁液を遠心分離機にて、4000rpm、30分遠心して、目的物(TiO粒子)を沈降させた。遠心分離により沈降した酸化チタンを、回収し、イオン交換水200mlで洗浄、110℃熱風にて3時間乾燥し、目的のアナターゼ型酸化チタン5gを得た。
得られた酸化チタンを900℃で焼成し、X線結晶解析が、ルチル型酸化チタンと一致したことから、得られた物質が酸化チタン(TiO)であることを確認した。
また、110℃熱風乾燥後の酸化チタンの透過電子顕微鏡の格子イメージから、熱風乾燥後に得られた酸化チタンはアナターゼ酸化チタンであることを確認した。得られた酸化チタンのX線結晶解析(XRD Cu Kα radiation,Rigaku RINT−2500VHF)結果を図1および図6に示す。
また、110℃熱風乾燥後に得られた酸化チタンの透過電子顕微鏡(TEM Philips Tecnai F20 S−Twin)イメージを図2に、110℃熱風乾燥後に得られた酸化チタンの熱重量分析(SII製 EXSTAR6000)結果を図3に、110℃熱風乾燥後に得られた酸化チタンの紫外―可視反射スペクトル(JASCO製 V−550 UV/VIS spectrometer)を図4に示す。熱重量分析における重量減少率および紫外可視反射スペクトルにおける反射率を表1に示す。
得られた酸化チタンのラマンスペクトル(日本分光社製 NRS−3100で測定)を図7に示す。
25mlのガラス製サンプル管にメチレンブルー10μmol/L水溶液20mlに、実施例1で得られた酸化チタン10mgを添加し、超音波を用いて分散させた。得られた溶液の630nmの光の透過度を測定し、酸化チタン未添加溶液を標準として、酸化チタン未添加溶液の透過度を0とした色調の変化率を測定した。結果を表2に示す。
【実施例2】
【0009】
110℃で3時間熱風乾燥後に、さらに300℃で3時間焼成した以外は実施例1と同様にして酸化チタンを得た。得られた酸化チタンの紫外―可視反射スペクトルを図4に示す。熱重量分析における重量減少率および紫外可視反射スペクトルにおける反射率を表1に示す。得られた複合酸化チタンのX線結晶解析(XRD Cu Kα radiation,Rigaku RINT−2500VHF)結果を図6に示す。
得られた酸化チタンのラマンスペクトル(日本分光社製 NRS−3100で測定)を図7に示す。
25mlのガラス製サンプル管にメチレンブルー10μmol/L水溶液20mlに、実施例2で得られた酸化チタン10mgを添加し、超音波を用いて分散させた。得られた溶液の630nmの光の透過度を測定し、酸化チタン未添加溶液を標準として、酸化チタン未添加溶液の透過度を0とした色調の変化率を測定した。結果を表2に示す。
【実施例3】
【0010】
110℃で3時間熱風乾燥後に、さらに400℃で3時間焼成した以外は実施例1と同様にして酸化チタンを得た。得られた酸化チタンの紫外―可視反射スペクトルを図4に示す。熱重量分析における重量減少率および紫外可視反射スペクトルにおける反射率を表1に示す。得られた複合酸化チタンのX線結晶解析(XRD Cu Kα radiation,Rigaku RINT−2500VHF)結果を図6に示す。
得られた酸化チタンのラマンスペクトル(日本分光社製 NRS−3100で測定)を図7に示す。
25mlのガラス製サンプル管にメチレンブルー10μmol/L水溶液20mlに、実施例3で得られた酸化チタン10mgを添加し、超音波を用いて分散させた。得られた溶液の630nmの光の透過度を測定し、酸化チタン未添加溶液を標準として、酸化チタン未添加溶液の透過度を0とした色調の変化率を測定した。結果を表2に示す。
【実施例4】
【0011】
110℃で3時間熱風乾燥後に、さらに500℃で3時間焼成した以外は実施例1と同様にして酸化チタンを得た。得られた酸化チタンの紫外―可視反射スペクトルを図4に示す。熱重量分析における重量減少率および紫外可視反射スペクトルにおける反射率を表1に示す。得られた複合酸化チタンのX線結晶解析(XRD Cu Kα radiation,Rigaku RINT−2500VHF)結果を図6に示す。
得られた酸化チタンのラマンスペクトル(日本分光社製 NRS−3100で測定)を図7に示す。
25mlのガラス製サンプル管にメチレンブルー10μmol/L水溶液20mlに、実施例4で得られた酸化チタン10mgを添加し、超音波を用いて分散させた。得られた溶液の630nmの光の透過度を測定し、酸化チタン未添加溶液を標準として、酸化チタン未添加溶液の透過度を0とした色調の変化率を測定した。結果を表2に示す。
【実施例5】
【0012】
110℃で3時間熱風乾燥後に、さらに800℃で3時間焼成した以外は実施例1と同様にして酸化チタンを得た。得られた酸化チタンの紫外―可視反射スペクトルを図4に示す。熱重量分析における重量減少率および紫外可視反射スペクトルにおける反射率を表1に示す。得られた複合酸化チタンのX線結晶解析(XRD Cu Kα radiation,Rigaku RINT−2500VHF)結果を図6に示す。
得られた酸化チタンのラマンスペクトル(日本分光社製 NRS−3100で測定)を図7に示す。
25mlのガラス製サンプル管にメチレンブルー10μmol/L水溶液20mlに、実施例5で得られた酸化チタン10mgを添加し、超音波を用いて分散させた。得られた溶液の630nmの光の透過度を測定し、酸化チタン未添加溶液を標準として、酸化チタン未添加溶液の透過度を0とした色調の変化率を測定した。結果を表2に示す。
【実施例6】
【0013】
実施例1において、電流を1Aとした以外は、実施例1と同様におこなった。得られた酸化チタンは、0.2gであった。得られた酸化チタンのXRDスペクトル、ラマンスペクトルは実施例1と同様であった。
【実施例7】
【0014】
実施例1において、電流を2Aとした以外は、実施例1と同様におこなった。得られた酸化チタンは、2.8gであった。得られた酸化チタンのXRDスペクトル、ラマンスペクトルは実施例1と同様であった。
【実施例8】
【0015】
実施例1において、電流を4Aとした以外は、実施例1と同様におこなった。得られた酸化チタンは、6.0gであった。得られた酸化チタンのXRDスペクトル、ラマンスペクトルは実施例1と同様であった。さらに、電極に黒色付着物があり、凝集物が得られた。XRDによる分析の結果、凝集物は一酸化チタンであり、生成量は1.1gであった。
【実施例9】
【0016】
実施例1において、電圧を150Vとした以外は、実施例1と同様におこなった。得られた酸化チタンは、1.2gであった。得られた酸化チタンのXRDスペクトル、ラマンスペクトルは実施例1と同様であった。
【実施例10】
【0017】
実施例1において、電圧を300Vとした以外は、実施例1と同様におこなった。得られた酸化チタンは、6.2gであった。得られた酸化チタンのXRDスペクトル、ラマンスペクトルは実施例1と同様であった。さらに、電極に黒色付着物があり、凝集物が得られた。XRDによる分析の結果、凝集物は一酸化チタンであり、生成量は2.1gであった。
【実施例11】
【0018】
実施例1において、放電間隔を10ミリ秒とした以外は、実施例1と同様におこなった。得られた酸化チタンは、5.9gであった。得られた酸化チタンのXRDスペクトル、ラマンスペクトルは実施例1と同様であった。
【実施例12】
【0019】
実施例1において、放電時間を40マイクロ秒とした以外は、実施例1と同様に行った。得られた酸化チタンは、6.1gであった。得られた酸化チタンのXRDスペクトル、ラマンスペクトルは実施例1と同様であった。
参考例
石原産業株式会社製アナターゼ型酸化チタン(商品名:ST−01)の紫外―可視反射スペクトルを図4に示す。熱重量分析における重量減少率および紫外可視反射スペクトルにおける反射率を表1に示す。
得られた酸化チタンのラマンスペクトル(日本分光社製 NRS−3100で測定)を図7に示す。
25mlのガラス製サンプル管にメチレンブルー10μmol/L水溶液20mlに、参考例の酸化チタン10mgを添加し、超音波を用いて分散させた。得られた溶液の630nmの光の透過度を測定し、酸化チタン未添加溶液を標準として、酸化チタン未添加溶液の透過度を0とした色調の変化率を測定した。結果を表2に示す。
比較例1
電流値を5Aで実施した以外は、実施例1と同様に行った。二酸化チタン(TiO)は得られず、一酸化チタン(TiO)が得られた。
比較例2
実施例1において、電圧を45Vとした以外は、実施例1と同様に行ったが、チタンの酸化物を得ることは出来なかった。
【表1】


【表2】

表1のデータから、本発明の酸化チタンは400nm〜700nmの波長の光反射率が80%以下であるために、即ち、可視光を吸収するために、顔料の他、光触媒として利用できることがわかる。酸化チタンの使用される環境、使用される形態への加工時によっては高温環境に曝される場合があり、性質を保つ必要があり、そのためには熱安定性が高いことが求められる。本発明の酸化チタンは400〜800℃における重量減少率(%)が0.1〜0.2%と低く、熱安定性が高く、顔料や光触媒として利用、加工する際に分解するなどの形状変化がないなどの特性を有していることがわかる。
表2のデータからわかるように、本発明の酸化チタンを使用した実施例1〜5では時間の経過と共にメチレンブルーの色調が大きく変化したが、市販のアナターゼ型酸化チタンではほとんど変化しなかった。本発明の酸化チタンは特に可視光を吸収して有機物を酸化することが示された。
また図1より、実施例1で得られた粒子を構成する結晶がナノサイズであり、大きな結晶子を有しないことがわかる。
図2より実施例1で得られた粒子が微細な粒子であることがわかる。更に高精細なTEM画像により、結晶間距離が0.35nmであり、アナターゼ骨格を有していることがわかる。
図3より、実施例1で得られた粒子が400〜800℃の間の熱重量減少が小さいことがわかる。一方図5より、参考例の酸化チタンは、400〜800℃の間の熱重量減少が大きく、実施例1の酸化チタンよりも熱安定性が低いことがわかる。
図4より、実施例1〜5および参考例で得られた粒子の紫外〜可視光領域における光反射率の違いがわかる。参考例の粒子の光反射率はほぼ1(=100%)であり、入射光のほとんど全てが反射されているのに対して、実施例1〜5の粒子は400nm〜700nmの波長の光反射率が0.8(=80%)以下であり、可視光を吸収していることがわかる。
図6より、実施例1〜5の熱処理により結晶が成長し、これら例ではアナターゼ型からルチル型を含む酸化チタンが得られていることがわかる。
図7より、実施例1〜5の熱処理により結晶が成長するものの、これら例の酸化チタンは、表層構造として、従来のアナターゼ型酸化チタン(参考例)とは異なる構造を有することがわかる。
従来の酸化チタンでは紫外〜可視光領域で光触媒などの性質が得られていない。本発明では新規な表面構造を有する酸化チタンを提供することによって、可視光吸収性、高い熱安定性などの従来の酸化チタンでは達成できなかった特性が実現した。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明による酸化チタンは光吸収性が高く、紫外域のみならず、可視光線域においても光を吸収するため、顔料の他、光触媒としても好適であり、有害物質の除去、悪臭物質の消臭分解、防汚、滅菌などの環境浄化材に有用である。
図4
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図6
図7