特許第5653374号(P5653374)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5653374リン含有エポキシ樹脂、該樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物、該樹脂を含有する硬化性エポキシ樹脂組成物、及びそれらから得られる硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5653374
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】リン含有エポキシ樹脂、該樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物、該樹脂を含有する硬化性エポキシ樹脂組成物、及びそれらから得られる硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20141218BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20141218BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20141218BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20141218BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20141218BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20141218BHJP
【FI】
   C08G59/20
   C08G59/14
   H01L23/30 R
   H01L23/14 R
   H05K1/03 610L
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-22288(P2012-22288)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2012-180511(P2012-180511A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2013年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-24181(P2011-24181)
(32)【優先日】2011年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089406
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100096563
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 榮四郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−309624(JP,A)
【文献】 特開2004−010867(JP,A)
【文献】 特開2010−095727(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/143309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00−59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1で表される構造を有する、エポキシ当量が105〜700g/eqであり、全塩素量が0.6%以下のリン含有エポキシ樹脂。
【化1】
式中Xは一般式2を示し、窒素と酸素が1つずつ結合した芳香環を示し、式中Y、Y、Yは各々独立に一般式3または一般式4を示すが、一般式3および一般式4を必須として含有する。nは0〜5の整数を示す。式中Zは一般式5または一般式6を示し、式中Y、Yは各々独立に一般式3または一般式4を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
一般式2においてRは水素原子、または炭素数1〜6の炭化水素基を示し、一般式4中のR、Rは水素または炭化水素基を示し、各々は異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、RとRが結合して環状構造となっても良い。mは0または1の整数を示す。一般式5においてXは一般式2を示し、一般式6においてQは一般式7を示す。
【化7】
一般式7中のR、Rは水素または炭化水素基を示し、各々は異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、RとRが結合して環状構造となっても良い。kは0または1の整数を示す。Arはベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びこれらの炭化水素置換体のいずれかを示す。
【請求項2】
前記一般式1で表され、リン含有率が1.2〜8重量%である事を特徴とする請求項1に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のリン含有エポキシ樹脂のエポキシ基1molに対して、硬化剤の活性基を0.4mol〜2.0molの範囲で含有することを特徴とする硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
100℃において液状である請求項3記載の硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載の硬化性エポキシ樹脂組成物を用いて得られる電子回路基板用材料。
【請求項6】
請求項3または請求項4記載の硬化性エポキシ樹脂組成物を用いて得られる半導体封止用材料。
【請求項7】
請求項3もしくは請求項4記載の硬化性エポキシ樹脂組成物、請求項5記載の電子回路基板用材料、または請求項6記載の半導体封止用材料を硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低粘度であることから流れ性、基材への含浸性に優れ、絶縁性、難燃性、耐熱性にも優れたエポキシ樹脂に関するものであり、該エポキシ樹脂を用いた液状エポキシ樹脂組成物およびその硬化物は、繊維強化プラスチック、半導体用液状封止材やプリント配線板の電子回路基板絶縁材料、特には液状封止材、接着剤、穴埋め材等に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は工業的に幅広い用途で使用されてきているが、その要求性能は近年ますます高度化している。例えば、エポキシ樹脂を主剤とする樹脂組成物の代表的分野としてプリント配線板材料が挙げられるが、廃棄焼却時に生じる有害物質であるダイオキシンの発生寄与問題を回避する方法として、近年ではエポキシ樹脂のハロゲンフリー難燃化の要求が強まっている。電気・電子部品の筐体として使用される複合材分野においてもハロゲンフリー難燃化への動きが強まっている。
【0003】
このようなエポキシ樹脂へのハロゲンフリー難燃化であるが、代表材料としてエポキシ樹脂組成物にリン化合物を併用する難燃機構が現在主流となっている。そのなかでもエポキシ基と反応する基を持ったリン化合物をエポキシ樹脂と変性反応させて骨格中に取り込む手法が数多く提案されている。エポキシ基と反応する基を持ったリン化合物としては加水分解性や使用実績の点から、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン10−オキシド(DOPO)や、それからの誘導体であるフェノール基を持つリン化合物等とエポキシ樹脂とを変性反応させる技術が多く報告されている。
【0004】
この様なリン化合物による変性反応はリン化合物の活性水素とエポキシ基の反応を行うわけであるが、このことにより1分子中のエポキシ基数が減り、また変性反応後での分子量を増大させることから、得られるリン含有エポキシ樹脂はエポキシ当量が大きくなり架橋密度が低下することから硬化物のガラス転移温度の低下を招くといった問題が指摘されていた。
【0005】
これら問題を克服するべく特許文献1において、窒素を含有する多官能芳香族アミンを変性反応に用いる手法が報告されている。この手法はDOPOやその誘導体であるフェノール基を持つリン化合物に依存する難燃性を、窒素とリンとの併用効果により向上させ、リン化合物の使用量を減らすことが出来、更には多官能芳香族アミンによる変性によって耐熱性を向上させるものである。
【0006】
このような多官能化合物による変性反応は、難燃性と耐熱性を向上させる上では効果的な手法であるが、その反面で生成物の溶融粘度を高めてしまい、液状の封止材料としては流れ埋め込み性を低下させてしまう。また積層板用材料としては、有機溶剤希釈による樹脂組成物の低粘度化を行いワニスとして使用することがきるが、溶融粘度の増加は乾燥時での十分な溶剤除去が難しくなり、溶剤が揮発する際にプリプレグ表面の状態悪化を招く等の問題も生じている。このようなプリプレグを使用した積層板は、残存溶剤による硬化物の難燃性の低下や更には積層板中にボイドを生成させてしまう。よって難燃性と耐熱性に加えて、新たに低粘度性を兼ね備えたハロゲンフリーのリン含有エポキシ樹脂材料が求められている。特に有機溶剤を用いずとも低粘度作業が可能となる組成物にすることで、今まで溶剤回収に要した設備や多大なエネルギーを省くことができ、環境問題を考慮すれば極めてその効果は大きいといえる。
【0007】
特許文献2には絶縁材料や積層板などの電気、電子材料として有用な、低粘度で加水分解性塩素含有率の低い高純度のアミノフェノール型エポキシ樹脂について報告されている。しかし、これらは作業性の問題からみて低粘度であることが望ましいとされているのみであり、難燃性の付与に関しては全く考慮されていない。
【0008】
特許文献3では難燃性を有するリン含有エポキシ樹脂が提案されているが、芳香族骨格を有する2官能エポキシ樹脂とリン含有フェノール樹脂から得られるリン含有エポキシ樹脂であって、低粘度化という要求には全く対応できていない。
【0009】
特許文献4ではリン含有エポキシ樹脂組成物の難燃性について言及しており、脂肪族エポキシ樹脂もその組成物の原料として使用可能とは記載しているが、その使用効果としての粘度に関する特徴の着想や性状についての記載はない。
【0010】
特許文献5ではグリシジルアクリレート等との反応物である低粘度で難燃性を付与したリン含有モノエポキシ樹脂とその組成物を提案しているが、反応性希釈剤を配合することを前提とした組成物の低粘度性を唱っており、この樹脂組成物単独においての難燃性や耐熱性などの特性値についても触れていない。
【0011】
特許文献6では酸性リン酸エステルを液状エポキシ樹脂と反応させ、溶剤を不必要とする繊維基材への含浸用難燃性樹脂を提案しているが、そのリンの含有量に応じた粘度の上昇は著しく、また硬化物における耐熱性については全く触れられていない。
【0012】
特許文献7ではリン含有エポキシ樹脂のエポキシ原料としてグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂を挙げているが、これらエポキシ樹脂の中ではグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましいとして、硬化物における耐熱性、あるいはリン含有エポキシ樹脂のエポキシ原料としてアミノフェール型のエポキシは全く候補にすら挙げられていない。
【0013】
特許文献8ではアミノ基含有芳香族リン酸エステル型の新たな多官能エポキシ樹脂が提案されている。この樹脂は高い耐熱性を発現する上に従来のリン含有エポキシ樹脂よりも低粘度化できることを特徴としているが、著しく低い粘度領域までの対応は困難であり、低粘度化する際での組成物配合の自由度が制限される問題もある。
【0014】
特許文献9では芳香環を有する2価アルコールによるエポキシ樹脂やシクロヘキサン環を有する2価アルコールによるエポキシ樹脂、環を有さない3価または4価アルコールによるエポキシ樹脂を低粘度エポキシ樹脂と有機リン化合物を反応させた難燃性の液状リン含有エポキシ樹脂が公開されている。ここでは組成物の耐熱性がデラミネーション時間で提示されており、ガラス転移温度という明確な耐熱値の記載がされておらず、耐熱性の付与を唱う発明とはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】JP WO2008/143309号公報
【特許文献2】特開2000−44651号公報
【特許文献3】特開2001−288247号公報
【特許文献4】特開2002−249540号公報
【特許文献5】特開2001−106766号公報
【特許文献6】特開2007−302746号公報
【特許文献7】特開2007−291227号公報
【特許文献8】特開2010−241872号公報
【特許文献9】特開2011−162621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このようにハロゲンフリー難燃性を保有しつつ、流れ性や基材への含浸性の良好な低粘度低軟化点を兼ね備え、更には硬化物の耐熱性をも発現することは非常に困難であり、そのようなエポキシ樹脂を提供する方法は知られていなかった。よって、本発明の目的は、優れた難燃性と耐熱性を有する硬化物を与える低粘度、低軟化点のエポキシ樹脂と、それを用いた液状のエポキシ樹脂組成物およびその硬化物を提供することにあり、これらは樹脂付銅箔材料、複合材料用マトリックス樹脂、電子回路基板絶縁材料、液状封止材料、接着剤、穴埋め材などの回路実装基板分野にも広く応用が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は前記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、硬化物の高耐熱特性を損なうことなく、有効な難燃性を有する低粘度あるいは低軟化点のエポキシ樹脂に必須な構造骨格を見出し、その新規なリン含有エポキシ樹脂を完成したものである。また、本発明のリン含有エポキシ樹脂の全塩素を0.6%以下とすることで貯蔵安定性が非常に安定していることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)一般式1で表される構造を有する、エポキシ当量が105〜700g/eqであり、全塩素量が0.6%以下のリン含有エポキシ樹脂。
【0019】
【化1】
【0020】
式中Xは一般式2を示し、窒素と酸素が1つずつ結合した芳香環を示し、式中Y、Y、Yは各々独立に一般式3または一般式4を示すが、一般式3および一般式4を必須として含有する。nは0〜5の整数を示す。式中Zは一般式5または一般式6を示し、式中Y、Yは各々独立に一般式3または一般式4を示す。
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
一般式2においてRは水素原子、または炭素数1〜6の炭化水素基を示し、一般式4中のR、Rは水素または炭化水素基を示し、各々は異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、RとRが結合して環状構造となっても良い。mは0または1の整数を示す。一般式5においてXは一般式2を示し、一般式6においてQは一般式7を示す。
【0027】
【化7】
【0028】
一般式7中のR、Rは水素または炭化水素基を示し、各々は異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、RとRが結合して環状構造となっても良い。kは0または1の整数を示す。Arはベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びこれらの炭化水素置換体のいずれかを示す。
【0029】
(2)リン含有率が1.2〜8重量%である前記(1)のリン含有エポキシ樹脂。
【0030】
(3)前記(1)または前記(2)記載のリン含有エポキシ樹脂のエポキシ基1molに対して、硬化剤の活性基を0.4mol〜2.0molの範囲で含有することを特徴とする硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0031】
(4)100℃において液状である前記(3)記載の硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0032】
(5)前記(3)または前記(4)記載の硬化性エポキシ樹脂組成物を用いて得られる電子回路基板用材料または半導体封止用材料。
【0033】
(6)前記(3)または前記(4)記載のエポキシ樹脂組成物または、前記(5)記載の電子回路基板用材料または半導体封止用材料を硬化してなる硬化物。
【発明の効果】
【0034】
本発明のリン含有エポキシ樹脂は低粘度であることから流れ性、基材含浸性に優れ、かつハロゲンフリー難燃性を有するエポキシ樹脂である。該エポキシ樹脂を含有した本発明の液状樹脂組成物は無溶剤でも液状とすることができ、成形物の評価を行った結果、難燃性を有してなおかつ、高いガラス転移温度の硬化物を得ることが可能であった。更に全塩素を0.6%以下とすることによって粘度上昇を抑えることが出来、作業性にも優れていることを確認した。よって該エポキシ樹脂組成物及びその硬化物は、樹脂付銅箔材料、複合材料用マトリックス樹脂、電子回路基板絶縁材料、液状封止材料、接着剤、穴埋め材などの回路実装基板分野電子回路基板に用いられる樹脂組成物として有用であることがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明について更に詳細に述べる。本発明のリン含有エポキシ樹脂は、一般式1で示され、窒素と酸素を結合した芳香環骨格を有する一般式2の構造をその骨格内に有し、一般式4や一般式7のリン含有構造も有することを特徴とするエポキシ樹脂である。
【0036】
本発明のリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量は105g/eq〜700g/eqに制御する必要がある。エポキシ当量が105g/eq未満の場合は、一般式4及び/または一般式7の構造が少ないために樹脂粘度は低くなるが、リン含有率も下がることから硬化物としての難燃性の発現が著しく劣る。一方、一般式4や一般式7の構造が増えることに伴い、エポキシ当量が700g/eqを越えた場合では、リン含有率は高まり十分な難燃性が得られるが、エポキシ樹脂の分子量が増大して樹脂溶融粘度も非常に高くなる。また、エポキシ基量も減少するために硬化剤との反応後における硬化物の耐熱性は大きく損なわれる。そのためエポキシ当量は105g/eq〜700g/eqに調整することが好ましく、より好ましくは110g/eq〜500g/eq、更には110g/eq〜250g/eqが好ましいが、特別に低粘度品質としては110g/eq〜150g/eqの範囲が最も好ましい。
【0037】
本発明のリン含有エポキシ樹脂の全塩素量は得られる硬化物の電気的信頼性の低下と相関する。電気電子分野の絶縁材料として用いる場合は、全塩素量が増加した場合には硬化物の電気的信頼性を低下させ、逆に少なければ電気的信頼性は向上する。
【0038】
一方、該エポキシ樹脂はその骨格にアミノグリシジル基を含むため、自己重合反応を生じやすい。その要因としてはエポキシ樹脂中に含まれるクロルヒドリン体やクロルメチル体、αグリコール体、重合反応などを由来とするアルコール性水酸基によって、3級アミノ基とエポキシ基との反応が促進されるためと考えられる。よって本発明のリン含有エポキシ樹脂の貯蔵安定性を得るためにも、含有する全塩素量を減らす必要がある。この貯蔵安定性と更に電気電子分野用途を考慮すれば、許容できる塩素含有量は0.6重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以下であり、更に好ましくは0.2重量%以下である。
【0039】
塩素量の低減方法としては、塩素が多く含有されるエポキシ樹脂原料の精製反応、蒸留処理、溶剤抽出分離、あるいはこれらの手法の組合せ等公知の方法によって、更なる低塩素化の対応が可能である。
【0040】
本発明のリン含有エポキシ樹脂のリン含有率は、好ましくは1.2重量%〜8重量%とする必要がある。難燃性の観点からはリン含有率が高い方が好ましいが、リン含有率が高くなるにつれて一般式3で示されるエポキシ基量が減少するため、得られる硬化物の耐熱性が大きく損なわれる。よって1.2重量%〜8重量%に調整することが好ましく、より好ましくは2重量%〜4重量%であり、更に好ましくは2重量%〜3重量%である。
【0041】
本発明のリン含有エポキシ樹脂はその用途から、好ましくは100℃における樹脂粘度を5〜10000mPa・sに制御する必要がある。カーボンファイバーやガラスファイバーを用いた複合材やガラスクロスを用いた積層材料など基材への含浸や、封止材料、接着剤、穴埋め材など回路埋込み性や流れ性を要する用途には、エポキシ樹脂の粘度は低い方が望ましい。5mPa・s未満をこの樹脂で得ようとする場合は、リン含有率を下げる必要があり、難燃性が得られにくくなる。また100,000mPa・sより高粘度では、加熱時の溶融粘度が高くなり、これを組成物として使用した場合はボイドによる不具合等、正常な成形物を得ることが困難となる。よって多量の溶剤や反応性希釈剤が必要となるが、この場合は溶剤の除去が難しいため難燃性を低下させるばかりか、希釈剤による耐熱性の低下をも招くこととなる。よって組成物の作業性を考慮した場合、100℃における好ましい樹脂粘度は5mPa・s〜100,000mPa・sの範囲、より好ましくは5mPa・s〜20,000mPa・sの範囲、更に好ましくは5mPa・s〜500mPa・sの範囲である。
【0042】
本発明の一般式1で示されるリン含有エポキシ樹脂は、一般式2で示される骨格を持つエポキシ樹脂類(A)と、エポキシ基と反応する基を持った有機リン化合物類(B)を反応させることで得ることができる。
【0043】
一般式2で示される骨格を持つエポキシ樹脂類(A)は、リン含有エポキシ樹脂の低粘度化や高純度化、更には貯蔵安定性の確保として全塩素量を低減する上でも蒸留処理や溶媒抽出処理等による高純度化したものを使用することが好ましい。特に重合を繰り返した多核体成分を含むエポキシ樹脂を反応に用いた場合には、樹脂の溶融粘度が著しく高まるばかりか、安定性も悪化して一般式7で示される骨格をもつ有機リン化合物を反応に用いるとゲル化を招く恐れもある。その為、多核体成分の含有率は少ない方が望まれる。例えばゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)分析による面積比として、3官能エポキシ樹脂の単量体成分が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上が望ましい。
【0044】
一般式2で示される骨格を持つエポキシ樹脂類(A)において、窒素と酸素の置換位置はオルソ位、メタ位、パラ位の各々単独でも、あるいは何れの異性体を含む混合体でも良い。また、Rは水素原子、または炭素数1〜6の炭化水素基を示し、炭化水素の置換基も酸素の結合位に対してオルソ位、メタ位、パラ位の各々単独でも、あるいは何れの異性体を含む混合体でも良い。また一般式1におけるXとしては、上記の炭化水素の置換基の異なる成分や置換位置の異なる異性体成分が混在した場合であっても良い。このような一般式2で表されるエポキシ樹脂類(A)の具体的な例を一般式8に示した。
【0045】
【化8】
【0046】
一般式2で示される骨格を持つエポキシ樹脂類(A)と反応させる有機リン化合物類(B)として、具体的な例を一般式9と一般式10に示した。
【0047】
【化9】
【0048】
【化10】
【0049】
一般式9で表される有機リン化合物(B1)は活性水素を1個もつ有機リン化合物であり、式中のR、Rは水素または炭化水素基を示し、各々は異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良く、また、RとRが結合して環状構造となっても良いものである。R、Rの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が挙げられる。また、RとRが結合して環状構造を形成しているものの例としては、例えば、テトラメチレン、シクロペントレン、シクロヘキシレン、シクロヘブチレン、シクロオクチレン、シクロデシレン、ノルボルニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。また、mの数は0または1である。これらの中では、式11で表されるDOPOが特に好ましい。
【0050】
【化11】
【0051】
一般式10で示される有機リン化合物(B2)は活性水素を2個もつ有機リン化合物であり、式中のR、Rは水素または炭化水素基を示し、各々は異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良く、また、RとRが結合して環状構造となっても良いものである。R、Rの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が挙げられる。また、R
が結合して環状構造を形成しているものの例としては、例えば、テトラメチレン、シク
ロペントレン、シクロヘキシレン、シクロヘブチレン、シクロオクチレン、シクロデシレン、ノルボルニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。Arはアリーレン基であり、具体例な例としては、フェニレン基、トルイレン基、キシリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。また、kの数は0または1である。
【0052】
これらの有機リン化合物(B2)は特許文献3に開示されている技術により一般式9の有機リン化合物(B1)と単環又は多環キノン化合物との反応によって容易に得ることができる。本発明に使用できる好ましい有機リン化合物(B2)としては、一般式11で表される有機リン化合物であるDOPOとベンゾキノンの付加反応物である一般式12で示されるリン含有化合物(以下、DOPO−HQ略記する)または、DOPOとナフトキノンの付加反応物である一般式13で示される有機リン化合物(以下、DOPO−NQ略記する)が例として挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
【化12】
【0054】
【化13】
【0055】
DOPOは、商品名「HCA」(三光株式会社製)として入手することができるし、DOPO−HQは、商品名「HCA−HQ」(三光株式会社製)として入手することができる。
【0056】
有機リン化合物類(B)は、あらかじめ合成しておいた一般式10で示される有機リン化合物(B2)と一般式9で示される有機リン化合物(B1)とを混合して用いても良い。また、一般式9で示される有機リン化合物(B1)とキノン類とを反応させたものを用いても良いが、キノン類は、一般式9で示される有機リン化合物(B1)1モルに対し、0.01モル〜0.50モル、より好ましくは0.01モル〜0.10モルのモル比で反応させることが好ましい。一般式9で示される有機リン化合物(B1)1モルに対し、キノン類が0.50モルを超えて使用された場合は、有機リン化合物(B2)の含有量が増えるため、反応後に得られるリン含有エポキシ樹脂の高分子化を招き、リン含有エポキシ樹脂の溶融粘度が増加する為エポキシ樹脂組成物としての作業性を悪化させる場合がある。
【0057】
本発明で表されるリン含有エポキシ樹脂においては、有機リン化合物(B1)と有機リン化合物(B2)の総和モル数に対して、有機リン化合物(B2)の含有モル比を0〜0.50で制御することが好ましい。有機リン化合物(B2)が0.50以上のモル比で反応すると、得られるリン含有エポキシ樹脂の高分子化を招くものであり、一般式2で示される骨格を持つエポキシ樹脂との架橋反応によりゲル化を招く場合がある。また、難燃性を損なわない程度にリン含有率を低く抑えて、上記モル比以上の配合によりゲル化を免れたとしても、その溶融粘度は高いためエポキシ樹脂組成物としての作業性は著しく悪化する。一方、有機リン化合物(B2)の含有モル比が低くなるにつれ、低い溶融粘度のリン含有エポキシ樹脂を与える傾向にあるが、好ましくは有機リン化合物(B2)の構造を有機リン化合物(B1)と有機リン化合物(B2)の総和モル数に対して0.01〜0.50以下、より好ましくは0.01〜0.10のモル比で含有させることで、接着性や可撓性の向上に対して効果的である。したがって、一般式1で表されるリン含有エポキシ樹脂の繰り返し単位のnの好ましい範囲は、n=0〜5であるが、より好ましくはn=1〜5である。
【0058】
本発明に用いる一般式2で示される骨格を持つエポキシ樹脂類(A)と反応させる有機リン化合物類(B)との反応は公知の方法で行うことが可能であり、反応温度は100℃〜200℃、より好ましくは120℃〜180℃の攪拌下において反応が可能である。反応終点はエポキシ当量の測定を行い決定することができ、理論エポキシ当量との比較によって反応終点が判断できる。
【0059】
また、反応の速度が遅い場合には、必要に応じて触媒を使用して生産性の改善を計ることができる。具体的にはベンジルジメチルアミン等の第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等各種触媒が使用可能である。
【0060】
本発明のリン含有エポキシ樹脂はリン変性率を低くすることで液状のエポキシ樹脂を得ることが出来る。液状とはエポキシ樹脂を入れたガラス瓶を100℃において倒した時に、10秒以内に目視で流動するものを言う。
【0061】
本発明のエポキシ樹脂組成物には耐熱性や粘度、貯蔵安定性を損なわない範囲で本発明のリン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂類を配合しても良い。但し、高分子量エポキシ樹脂や全塩素の高いエポキシ樹脂、αグリコール基の多いエポキシ樹脂は貯蔵安定性を著しく悪化させることから好ましくない。具体的にはエポトート YD−128、YD−127、YD−8125、YD−8125G、YD−825GS(新日鐵化学株式会社 BPA型エポキシ樹脂)エポトート YDF−170、YDF−8170、YDF−8170G、YDF−870GS(新日鐵化学株式会社 BPF型エポキシ樹脂)エポトート YDPN−638(新日鐵化学株式会社 フェノールノボラック型エポキシ樹脂)等が挙げられるが、1種類でも2種類以上併用してもよく、また、アルコール性水酸基の低いものであれば特に限定されない。
【0062】
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤としては、アリル化フェノールノボラック樹脂を代表とする各種液状の多価フェノール樹脂類や、液状酸無水物類、ジシアンジアミドやジエチルジアミノジフェニルメタン等の電子回路基板用に通常使用される代表的なエポキシ樹脂用硬化剤も使用することができ、これらの硬化剤は1種類だけ使用しても2種類以上使用しても良く、100℃において液状組成物とすることができれば固形硬化剤との併用も可能である。特に液状の硬化剤は、本発明リン含有エポキシ樹脂の組成物において有機溶剤を用いずとも含浸成形が可能となり、無溶剤且つ液状難燃性エポキシ樹脂組成物として好ましい。
【0063】
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物における硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1molに対して硬化剤の官能基0.4〜2.0molが好ましく、0.5〜1.5molがより好ましく、特に好ましくは0.5〜1.0molである。エポキシ基1molに対して硬化剤が0.4molに満たない場合、あるいは2.0molを超える場合は硬化が不完全になり良好な硬化物性が得られない場合がある。
【0064】
また、本発明エポキシ樹脂組成物は必要に応じて硬化促進剤を使用することができる。硬化促進剤としては、ホスフィン類、四級ホスホニウム塩類、三級アミン類、四級アンモニウム塩類、イミダゾール化合物類、三フッ化ホウ素錯体類等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0065】
これら硬化促進剤の使用量は、併用するエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤の種類、成形方法、硬化温度、硬化物に求められる要求特性により異なるが、エポキシ樹脂100部に対して0.01重量部〜20重量部の範囲が好ましく、より好ましくは0.05重量部〜10重量部、更に0.10重量部〜1重量部が好ましい。
【0066】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤や有機充填剤を、本発明の特性を損なわない程度まで配合することができる。充填剤の例としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、窒化ホウ素、炭素、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、アラミド繊維等が挙げられるが、種類や粒径等は作業性を満足すればこれらに限定されるものではない。
【0067】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、更に必要に応じてシランカップリング剤、酸化防止剤、離型剤、消泡剤、乳化剤、揺変性付与剤、平滑剤、難燃剤、顔料等の各種添加剤を配合することができる。これら添加剤はエポキシ樹脂組成物全量中の0.01重量%〜20重量%の範囲が好ましい。
【0068】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、公知のエポキシ樹脂組成物と同様な方法により成形硬化して硬化物とすることができる。即ち、成形方法や硬化方法は公知のエポキシ樹脂組成物と同様の方法をとることができ、本発明エポキシ樹脂組成物固有の方法は不要である。
【0069】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は塗膜、接着層、成型物、積層物、フィルム等の形態をとることができる。
【実施例】
【0070】
一般的事項
実施例及び比較例を挙げて以下に本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例と比較例における各成分の配合部数は、特に断らない限り重量部を示すものである。
【0071】
本発明では以下に示す分析方法や測定方法を使用した。
エポキシ当量:JIS K−7236に記載の方法。即ち、試料をクロロホルム10mLに溶解し、無水酢酸20mL、20%の臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液10mLを各々加えて、電位差滴定装置を用いて0.1mol/L過塩素酸酢酸標準液で滴定を行い、各試薬の濃度と添加量ならびに滴定量から、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ当量を測定した。
【0072】
全塩素量:JIS K−7243−3に記載の方法。即ち、試料をジエチレングリコールモノブチルエーテル25mLに溶解し、1mol/L水酸化カリウムの1,2−プロパンジオール溶液25mLを加えて、ホットプレート上にて10分間加熱還流下で反応させる。室温まで冷却後、50mLの無水酢酸を加えて、電位差滴定装置を用いて0.01mol/L硝酸銀溶液で滴定を行い、各試薬の濃度と添加量ならびに滴定量から、エポキシ樹脂に含まれる全塩素量を測定した。
【0073】
リン含有率:試料に硫酸、塩酸、過塩素酸を加え、加熱して湿式灰化し、全てのリン原子を正リン酸とした。硫酸酸性溶液中でメタバナジン酸塩及びモリブデン酸塩を反応させ、 生じたリンバナードモリブデン酸錯体の420nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線により求めたリン原子含有量を重量%で表し、エポキシ樹脂に含まれるリン含有率を測定した。
【0074】
窒素含有率:JIS M−8819の元素分析測定法に準じて、窒素含有量を測定した。
【0075】
分子量分布測定:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製 HLC−8220GPC)を用いて測定した。
【0076】
溶融粘度:コーンプレート型粘度計(東亜工業株式会社製、MOEDL CV−1S)を用い、ローターは5〜40ポアズコーンを使用して、100℃の測定温度で測定した。
【0077】
貯蔵後粘度:50℃の熱風循環式オーブン中で30日間貯蔵後、溶融粘度を上記コーンプレート型粘度計とローターコーンを使用して、100℃の測定温度で測定した。
【0078】
組成物の性状:無溶剤であるエポキシ樹脂を入れたガラス瓶を100℃において倒した時に、10秒以内に目視で流動するものを液状と示し、流動のないものを固形とする。また、溶剤を含むワニスは判断の実施をせず、−として示す。
【0079】
難燃性:UL(Underwriters Laboratories Inc.)規格、UL94垂直試験法に準じて測定を行い、同規格の判定基準である、V−0、V−1、V−2、NG(難燃性なし)の4水準で判定した(後になるほど難燃性が悪い)。
【0080】
ガラス転移温度:TMA装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS120U)を使用したJIS C−6481に準じて測定した。
【0081】
銅箔引き剥がし強さ:JIS C6481 5.7に準じた方法、即ち、成形基板から幅10mmの銅箔を直角方向に50mm/minの速度で剥離を行い測定した。
【0082】
吸水率:JIS C6481 5.14に準じた方法、即ち、銅箔を除去した乾燥処理を施した一辺が50mm幅の成形基板を、23℃の蒸留水中に24時間浸漬する前後の重量変化を測定して算出した。
【0083】
リン含有エポキシ樹脂の合成に先立ち、次の合成例1と合成例2によって3官能エポキシ樹脂類(A)であるエポキシ樹脂AP(4−アミノフェノール型エポキシ樹脂)とエポキシ樹脂AC(4−アミノ−m−クレゾール型エポキシ樹脂)の2種類を合成した。
【0084】
合成例1
撹拌機、温度計、滴下装置、窒素導入管、油水分離器付きコンデンサーを装置した4つ口のガラス製セパラブルフラスコにエピクロロヒドリン6,790部 及び1−ブタノール1,090部を仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら75℃まで加熱した。75℃を保ちながら4−アミノフェノール80部(東京化成工業株式会社製、試薬)を4分割して30分毎に添加した。4−アミノフェノールの投入開始から4時間、75℃でクロロヒドリン化反応を行った後、フラスコ内を110torr〜120torrまで減圧し、溶液の温度が60℃の温度で還流状態を保った。次に49%水酸化ナトリウム水溶液1,800部を4時間かけて滴下した。滴下中、油水分離器の上層の水を除去、下層のエピクロロヒドリンは系内に戻した。滴下終了後、60℃、110torr〜120torrで1時間反応を続けた。反応終了後、120℃、5torrまで減圧してエピクロロヒドリンを回収した。内容物にメチルイソブチルケトン2,030部を加えて溶解し、次に49%水酸化ナトリウム水溶液290部及び水1,150部を加え、80℃で2時間反応を行った。反応終了後、水3,310部に副生食塩を溶解し、分液により除去した後、水層のpHが中性になるまで水洗を繰り返した。加熱減圧下でメチルイソブチルケトンを除去した後、n−ヘキサン、トルエン混合溶液を5,920部加え加熱溶解して重合成分を沈降分離し、最後に溶剤を除去してエポキシ当量:97g/eq、全塩素:0.56重量%、窒素含有率:5.05%、25℃粘度:710mPa・sなる茶褐色液状のエポキシ樹脂APを1,560部得た。
得られたエポキシ樹脂APは、分子量分布測定の結果より単量体成分を96.0面積%以上含有する3官能エポキシ樹脂であることを確認した図1
分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置(東ソー株式会社製 HLC−8220GPC、カラム:TSK−gel GMHXL、TSK−gel GMHXL、TSK−gel G2000HXLの直列配置、溶出溶剤:テトラヒドロフラン、流速:1ml/min、カラム温度:40℃、検出:RI検出器、標準ポリスチレン検量線)を用いた測定において、溶出される全分子量分布中での単量体成分の分子量が占める溶出分布の面積比率(面積%)を求めた。図のAで示される単量体成分は、測定により95%以上で有ることが確認された。
【0085】
合成例2
実施例1と同様な装置に、にエピクロロヒドリン6,380部 及び1−ブタノール1,020部を仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら75℃まで加熱した。75℃を保ちながら4−アミノ−m−クレゾール850部(東京化成工業株式会社製、試薬)を4分割して30分毎に添加した。アミノ−m−クレゾールの投入開始から4時間、75℃でクロロヒドリン化反応を行った後、フラスコ内を110torr〜120torrまで減圧し、溶液の温度が60℃の温度で還流状態を保った。次に49%水酸化ナトリウム水溶液1,690部を4時間かけて滴下した。滴下中、油水分離器の上層の水を除去、下層のエピクロロヒドリンは系内に戻した。滴下終了後、60℃、110torr〜120torrで1時間反応を続けた。反応終了後、120℃、5orrまで減圧してエピクロロヒドリンを回収した。内容物にメチルイソブチルケトン2,010部を加えて溶解し、次に49%水酸化ナトリウム水溶液280部及び水1,080部を加え、80℃で2時間反応を行った。反応終了後、水3,120部に副生食塩を溶解し、分液により除去した後、水層のpHが中性になるまで水洗を繰り返した。加熱減圧下でメチルイソブチルケトンを除去した後、n−ヘキサン、トルエン混合溶液を5,850部加え加熱溶解して重合成分を沈降分離し、最後に溶剤を除去してエポキシ当量:107g/eq、全塩素:0.46重量%、窒素含有率:4.81%、25℃粘度:1,350mPa・sなる茶褐色液状のエポキシ樹脂ACを1,540部得た。実施例1と同様に得られたエポキシ樹脂ACも、分子量分布測定の結果より単量体成分を95.1面積%以上含有する3官能エポキシ樹脂であることを確認した。
【0086】
以下に本発明のリン含有エポキシ樹脂の実施例および比較例について、それら合成方法
の詳細を記し、表1にはそれら実施例1〜実施例7、比較例1〜比較例5で合成された樹脂の性状について示す。
【0087】
実施例1
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、合成例1で得たエポキシ樹脂APを257.7部、有機リン化合物としてHCA(三光株式会社製、DOPO、リン含有率:14.2%、活性水素当量:216.2g/eq)42.3部を仕込み、反応発熱に注意しながら反応温度を130℃〜135℃に保ちながら4時間反応して、リン含有率2重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−1)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0であった。リン含有エポキシ樹脂(E−1)のGPCチャートをフーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー社製 Spectum One)を用い、液膜法(KBr)により測定した。リン含有エポキシ樹脂(E−1)のGPCチャートを図に示す。
【0088】
実施例2
実施例1と同様な装置に、合成例1で得たエポキシ樹脂APを131部、有機リン化合物としてHCAを169部仕込み、実施例1と同様な反応条件により、リン含有率8重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−2)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0であった。
【0089】
実施例3
実施例1と同様な装置に、合成例2で得たエポキシ樹脂ACを257.7部、有機リン化合物としてHCAを42.3部仕込み、実施例1と同様な反応条件により、リン含有率2重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−3)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0であった。
【0090】
実施例4
実施例1と同様な装置に、HCAを250部、トルエン582.5部を仕込み加熱して溶解した後、1,4−ナフトキノン186部を反応発熱に注意しながら投入し、還流温度で2時間保持して反応を終了させた。その後、生成したスラリーの乾式濾過と熱トルエンによる洗浄を数回繰り返し、最後にメチルエチルケトンによる洗浄を経た後、80℃で乾燥を行い白色結晶のDOPO−NQ(リン含有率:8.2%、活性水酸基当量:187.2g/eq)を得た。その後、再び実施例1と同様な装置に合成例1で得たエポキシ樹脂APを254.7部、有機リン化合物としてHCAを38.0部と、先の合成で得たDOPO−NQを7.3部仕込み、トリフェニルホスフィン0.007部を触媒に用いて、反応温度を150℃〜155℃に保ちながら6時間反応し、リン含有率2重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−4)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0.1である。
【0091】
実施例5
実施例1と同様な装置に、合成例2で得たエポキシ樹脂ACを254.7部、有機リン化合物としてHCAを38.0部と、実施例4で得たDOPO−NQを7.3部仕込み、トリフェニルホスフィン0.007部を触媒に用いて、実施例4同様な反応温度条件で6時間反応し、リン含有率2重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−5)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0.1である。
【0092】
実施例6
実施例1と同様な装置に、合成例1で得たエポキシ樹脂APを242.3部、有機リン化合物としてHCAを21.1部と、実施例4で得たDOPO−NQを36.6部仕込み、トリフェニルホスフィン0.037部を触媒に用いて、実施例4と同様な反応温度条件で6時間反応し、リン含有率2重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−6)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0.5である。
【0093】
実施例7
実施例1と同様な装置に、実施例1と同様なエポキシ樹脂APを278.9部、有機リン化合物としてHCAを21.2部仕込み、実施例1と同様な反応条件により、リン含有率1重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−7)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0である。
【0094】
比較例1
実施例1と同様な装置に、実施例1と同様なエポキシ樹脂APを109.9部、有機リン化合物としてHCAを190.1部仕込み、実施例1と同様な反応条件により、リン含有率9重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−8)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0である。
【0095】
比較例2
実施例1と同様な装置に、エポキシ樹脂として、オキシメチレン鎖を有するエポキシ樹脂TX−0929(新日鐵化学製、パラキシリレングリコール型エポキシ樹脂、エポキシ当量:142g/eq、全塩素:0.14重量%、25℃粘度:49mPa・s)を205.3部、有機リン化合物としてHCA−HQ(三光株式会社製、商品名:DOPO−HQ、リン含有率:9.5%、活性水素当量:162.1g/eq)を94.8部仕込み、トリフェニルホスフィン0.095部を触媒に用いて、反応温度を150℃〜155℃に保ちながら4時間反応して、リン含有率3重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−9)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は1.0である。
【0096】
比較例3
実施例1と同様な装置に、エポキシ樹脂としてYH−434L(新日鐵化学製、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:118g/eq、全塩素:0.71重量%、窒素含有率:6.6%、50℃粘度:8500mPa・s)を257.8部、有機リン化合物としてHCAを42.3部仕込み、実施例3と同様な反応条件により、リン含有率2重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−10)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0である。
【0097】
比較例4
実施例1と同様な装置に、エポキシ樹脂としてYD−128(新日鐵化学製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:188g/eq、全塩素:0.16重量%、25℃粘度:13400mPa・s)を90部、YDPN−638(新日鐵化学製、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:177g/eq、全塩素:0.14重量%)を150.1部、BPA(新日鐵化学製、ビスフェノールA)を4.5部、エタキュアー100(エチルコーポレーション製、ジエチルトルエンジアミン、25℃粘度:155mPa・s、活性水素当量:44.6g/eq、窒素含有率:15.7%)を9.0部、HCAを46.4部仕込み、トリフェニルホスフィン0.005部を触媒に用いて、150℃で4時間反応し、リン含有率2.2重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−11)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は0である。
【0098】
比較例5
実施例1と同様な装置に、エポキシ樹脂としてYDF−170(新日鐵化学製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:168g/eq、全塩素:0.15重量%、25℃粘度:3000mPa・s)を205.3部、有機リン化合物としてHCA−HQを94.8部仕込み、トリフェニルホスフィン0.095部を触媒に用いて、反応温度を150℃〜155℃に保ちながら5時間反応して、リン含有率3重量%のリン含有エポキシ樹脂(E−12)を得た。ここでの有機リン化合物類(B)の総和モル数に対しての有機リン化合物(B2)の使用モル比は1.0である。
【0099】
【表1】
【0100】
リン含有エポキシ樹脂を用いた実施例8〜実施例18の配合処方と、それら組成物から得られた各々の積層板についての各物性試験の結果を表2に示す。
【0101】
これら配合処方や積層板の成形方法としては、リン含有エポキシ樹脂等とその硬化剤、さらに必要に応じて硬化促進剤等を配合して下記の方法により硬化物の作製を行った。
【0102】
実施例8〜実施例11
実施例で得られたE−1、E−3〜E−5のリン含有エポキシ樹脂に対して、硬化剤H−1(日本化薬製、商品名:カヤハードAA、ジエチルジアミノジフェニルメタン、活性水素当量:63.5g/eq、窒素含有率:11.0%、25℃粘度:2,500mPa・s)を配合して、60℃〜80℃で均一に脱泡混合を行った。その後、これをガラスクロス(日東紡績製、WEA2116 106 S136、厚さ:100μm)一枚ずつに含浸させたものを4枚用いて銅箔(三井金属鉱業製、3EC−III、厚さ:35μm)間に積ね、更に金型間にそれらを挟み込んでから真空脱泡を実施して、150℃で2時間、更に180℃で1時間の硬化により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0103】
実施例12
実施例で得られたE−2のリン含有エポキシ樹脂に対して、硬化剤H−2(明和化成製、商品名:MEH−8000H、アリル化フェノールノボラック、フェノール性水酸基当量:141.0g/eq、25℃粘度:1,600mPa・s)を80℃において加熱溶融配合し、冷却後、硬化促進剤C−1(2E4MZ:四国化成株式会社製、2エチル4メチルイミダゾール、窒素含有率:25.4%)を加えてゲル化時間を調整した。その後その液状樹脂組成物を脱泡した後、ガラスクロス(日東紡績製、WEA2116 106 S136、厚さ:100μm)一枚ずつに含浸させたものを4枚用いて銅箔(三井金属鉱業製、3EC−III、厚さ:35μm)間に積ね、更に金型間にそれらを挟み込んでから真空脱泡を実施して、150℃で2時間、更に180℃で1時間の硬化により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0104】
実施例13
実施例で得られたE−2のリン含有エポキシ樹脂に対して、硬化剤H−3(日立化成工業製、商品名:HN−2200R、メチル化テトラヒドロキシフタル酸無水物、酸無水物当量166g/eq、粘度61mP・s)を60℃において加熱溶融配合し、冷却後、硬化促進剤C−1(2E4MZ:四国化成株式会社製、2エチル4メチルイミダゾール、窒素含有率:25.4%)を加えてゲル化時間を調整した。その後その液状樹脂組成物を脱泡した後、ガラスクロス(日東紡績製、WEA2116 106 S136、厚さ:100μm)一枚ずつに含浸させたものを4枚用いて銅箔(三井金属鉱業製、3EC−III、厚さ:35μm)間に積ね、更に金型間にそれらを挟み込んでから真空脱泡を実施して、150℃で2時間、更に180℃で1時間の硬化により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0105】
実施例14〜実施例17
実施例で得られたE−1、E−2、E−4、E−6のリン含有エポキシ樹脂に対して、硬化剤H−4(日本カーバイド工業製、ジシアンジアミド、活性水素当量:21.0g/eq、窒素含有率:66.6%)をメチルセロソルブとジメチルホルムアミド、メチルエチルケトンに溶解して配合し、硬化促進剤C−1(2E4MZ:四国化成株式会社製、2エチル4メチルイミダゾール、窒素含有率:25.4%)を加えてゲル化時間を調整し、不揮発分が80重量%になるように液状の樹脂組成物ワニスを配合した。その後、このワニスを基材であるガラスクロスに含浸させた後、これを150℃の熱風循環式オーブンで8分間乾燥を行い、プリプレグを得た。次いで得られたプリプレグ4枚を銅箔2枚間に重ね130℃で15分及び170℃×2.0MPa×70分間の条件で加熱と加圧を行い、厚み0.55mmの積層板を得た。
【0106】
実施例18
実施例で得られたE−7のリン含有エポキシ樹脂に対して、実施例8と同様な硬化剤、方法により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0107】
【表2】
【0108】
表1に示される比較例1〜比較例5でのリン含有エポキシ樹脂を用いた比較例6〜比較例12での配合処方と、それら組成物から得られた各々の積層板についての各物性試験の結果を表3に示す。
【0109】
これら配合処方や積層板の成形方法としては、リン含有エポキシ樹脂等とその硬化剤、更に必要に応じて硬化促進剤等を配合して下記の方法により硬化物の作製を行った。
【0110】
比較例6
比較例1で得られたE−8のリン含有エポキシ樹脂に対して、実施例12と同様な硬化剤、方法により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0111】
比較例7
比較例1で得られたE−8のリン含有エポキシ樹脂に対して、実施例13と同様な硬化剤、方法により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0112】
比較例8
比較例1得られたE−8のリン含有エポキシ樹脂に対して、実施例14と同様な硬化剤、方法により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0113】
比較例9
比較例2で得られたE−9のリン含有エポキシ樹脂に対して、実施例8と同様な硬化剤、方法により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0114】
比較例10
比較例3で得られたE−10のリン含有エポキシ樹脂に対して、実施例8と同様な硬化剤、方法により厚み0.56mmの積層板を得た。
【0115】
比較例11〜比較例12
比較例4、比較例5で得られたE−11、E−12のリン含有エポキシ樹脂に対して、不揮発分が50重量%になるように樹脂組成物ワニスを調製した以外は、実施例14と同様な硬化剤と硬化促進剤、方法により厚み0.55mmの積層板を得た。
【0116】
【表3】
【0117】
実施例1〜実施例7で示す様に一般式1で示されるリン含有エポキシ樹脂は低粘度であり、実施例8〜18で示す様に接着力の向上、難燃性の付与をすることが出来る。特に実施例8〜実施例13に示す液状エポキシ樹脂組成物の硬化物は比較例6,比較例7で示す液状リン含有エポキシ樹脂組成物の硬化物と比較して高いガラス転移温度が得られている。また、比較例1に示すリン含有エポキシ樹脂は本願の一般式1と同様な化学構造であるが、エポキシ当量が本願請求項の範囲よりも大きくなっており、本願の特徴である低粘度エポキシ樹脂、低粘度エポキシ樹脂組成物とは異なる高い粘度となっている。また、比較例1のエポキシ樹脂を用いた比較例6〜比較例8のエポキシ樹脂組成物はガラス転移温度も低くなっている。また、比較例2〜比較例5で示される本願と異なる構造のリン含有エポキシ樹脂は、比較例2、比較例3のエポキシ樹脂が低粘度であるもののその他は固形である。比較例2のエポキシ樹脂を用いた比較例9のエポキシ樹脂組成物は液状であるもののその硬化物のガラス転移温度は低く限定的な使用とならざるを得ない。また、比較例3のエポキシ樹脂は全塩素が高いことから貯蔵安定性が非常に悪いことがわかり50℃で30日の促進試験下でゲル化を生じた。また、硬化物のガラス転移温度は非常に高く良好であるが、組成物としても粘度安定性に乏しく、加熱保温作業時での高粘度化によって硬化物の含浸不良に伴う難燃性悪化や銅箔の接着不良が顕著に確認された(比較例10)。比較例〜比較例でのリン含有エポキシ樹脂は、何れも溶融粘度の高い室温下で固形のエポキシ樹脂であるため、基材であるガラスクロスへの含浸は、エポキシ樹脂組成物の低粘度化として有機溶剤を用いて50%程度の不揮発分に調整を図らないと使用不可能であった。また十分な硬化物の難燃性は得られているが、高分子化したエポキシ樹脂成分による影響でガラス転移温度が低下した(比較例11〜比較例12)。
【0118】
上記の様に本願発明のリン含有エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、及びその硬化物は難燃性を確保しながら良好な接着性と高いガラス転移温度が得られ、無溶剤あるいは揮発分の少ない組成物として積層板作成における取り扱いが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のエポキシ樹脂は従来のリン含有エポキシ樹脂と比べ、エポキシ樹脂そのもの、
あるいは樹脂組成物としても低粘度な組成物を与えることができ、特に極めて低粘度のエポキシ樹脂組成物では有機溶剤等による希釈を行わない基材含浸が可能となる。また硬化物での難燃性、耐熱性、吸湿性にも優れるため、樹脂付銅箔材料、積層板材料などの回路基板分野や半導体用液状封止分野にも広く応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
図1】本発明の合成例1に係る3官能エポキシ樹脂類(A)であるエポキシ樹脂APのGPCチャートである。横軸は溶離時間(分)を、左軸はmVを、右軸は標準ポリスチレン検量線の分子量(M)の対数を各々表している。
【0121】
図2】本発明の実施例1に係るリン含有エポキシ樹脂(E−1)のGPCチャートである。
【0122】
図3】本発明の実施例1に係るリン含有エポキシ樹脂(E−1)の赤外吸収スペクトルである。
図1
図2
図3