(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の受信信号を一定レベルに保つ方式は、いずれも連続的なデータ伝送を前提としており、連続した受信信号レベルを監視し、あるいはパイロット信号や固有のデータパターンを挿入することにより、その受信レベルや符号誤り率を監視して受信機を最適制御し、あるいはデータを補正する方式である。例えば、特許文献1に記載のAGC回路の制御では、受信信号のレベルを検出する必要があるが、AGC回路の高速制御が必要であり、また短パルスを使用するバースト信号の受信信号レベルの検出は、検波器の特性上困難である。
【0007】
また、非特許文献1に示す、パイロット信号により主信号の伝送状態を推定し、増幅器や閾値を制御する方法では、主信号とは別の周波数で伝送されるパイロット信号をモニタする必要があり、専用のモニタ回路が必要となる。
【0008】
さらに、特許文献2に示すユニークワードを送信機で挿入して伝送し、受信機でユニークワードを抽出する方式では、一定間隔で繰り返しユニークワードを挿入する必要があり、バースト通信には適さない。
【0009】
そこで、本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、バースト信号を受信してその復号成功回数が所定値以上となるように判定閾値を制御することで、符号誤り率を目標値以下に低減してバースト信号を復号することが可能なパルス受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のパルス受信機の第1の態様は、伝送すべき情報を含んだバースト信号を入力して前記情報を復号して出力するパルス受信機であって、前記バースト信号を基準電圧と比較して前記バースト信号に対応したパルス列を出力するコンパレータと、前記コンパレータから前記パルス列を入力し、該パルス列を所定の基本データに順次復号して前記情報として出力するとともに、前記パルス列が前記基本データに復号された回数である復号成功回数を所定のカウント時間にわたってカウントするデコード部と、前記デコード部から前記復号成功回数を入力し、所定の復号目標回数から前記復号成功回数を減算した乖離数を算出し、該乖離数が0以上の所定の第1判定値より大きいときは前記基準電圧の設定値を前記乖離数が小さくなるように更新して前記コンパレータに出力し、前記基準電圧の設定値の更新を前記乖離数が前記第1判定値以下となるまで繰り返す制御部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
復号目標回数と復号成功回数との乖離数に基づいてコンパレータの基準電圧を前記乖離数が小さくなるように更新することにより、符号誤り率を目標値以下に低減してバースト信号を復号することが可能となる。
【0012】
本発明のパルス受信機の第2の態様は、前記パルス受信機の第1の態様において、前記制御部は、前記乖離数が前記第1判定値より大きいときは、前記乖離数に所定の比例制御定数を乗じた比例成分と前記乖離数の蓄積値に所定の積分制御定数を乗じた積分成分とをそれまでの前記設定値に加算することで前記設定値を更新し、前記乖離数が前記第1判定値以下でかつ前記乖離数の蓄積値が0以上の所定の第2判定値より大きいときに、前記設定値から所定のオフセット電圧に対応するオフセット値を減じるとともに、前記乖離数の前記蓄積値を0にリセットすることを特徴とする。
【0013】
基準電圧の設定値を乖離数の比例成分と積分成分を用いて更新することにより、基準電圧の設定値を高速にかつ安定的に収束させることができるとともに、所定のオフセット電圧を減じた基準電圧の設定値を用いることで、符号誤り率をさらに低減することが可能となる。
【0014】
本発明のパルス受信機の第3の態様は、前記パルス受信機の第1の態様において、前記制御部は、前記乖離数が前記第1判定値より大きいときは、前記乖離数に所定の比例制御定数を乗じた比例成分と前記乖離数の蓄積値に所定の積分制御定数を乗じた積分成分とをそれまでの前記設定値に加算することで前記設定値を更新することを特徴とする。
【0015】
基準電圧の設定値を乖離数の比例成分と積分成分を用いて更新することにより、基準電圧の設定値を高速にかつ安定的に収束させることができる。
【0016】
本発明のパルス受信機の第4の態様は、前記パルス受信機の第2の態様において、前記制御部は、前記コンパレータに入力される前記バースト信号に比べて大きな正の前記基準電圧に対応する設定値を前記設定値の初期値とし、前記比例制御定数及び前記積分制御定数がともに負であり、前記オフセット電圧が正であることを特徴とする。
【0017】
本発明のパルス受信機の第5の態様は、前記パルス受信機の第3の態様において、前記制御部は、前記コンパレータに入力される前記バースト信号に比べて大きな正の前記基準電圧に対応する設定値を前記設定値の初期値とし、前記比例制御定数及び前記積分制御定数がともに負であることを特徴とする。
【0018】
本発明のバースト信号の受信方法の第1の態様は、(a)伝送すべき情報を含んだバースト信号を入力するステップと、(b)前記バースト信号を基準電圧と比較して前記バースト信号に対応したパルス列を生成するステップと、(c)前記パルス列を所定の基本データに順次復号して前記情報として出力するとともに、前記パルス列が前記基本データに復号された回数である復号成功回数を所定のカウント時間にわたってカウントするステップと、(d)所定の復号目標回数から前記復号成功回数を減算した乖離数を算出し、該乖離数が0以上の所定の第1判定値より大きいときは前記基準電圧の設定値を前記乖離数が小さくなるように更新し、前記基準電圧を前記設定値に設定するステップと、を含み、前記(a)〜(d)のステップを前記乖離数が前記第1判定値以下となるまで繰り返すことを特徴とする。
【0019】
本発明のバースト信号の受信方法の第2の態様は、前記バースト信号の受信方法の第1の態様において、前記ステップ(d)は、前記乖離数が前記第1判定値より大きいときは、前記乖離数に所定の比例制御定数を乗じた比例成分と前記乖離数の蓄積値に所定の積分制御定数を乗じた積分成分とをそれまでの前記設定値に加算することで前記設定値を更新するものであり、さらに、(e)前記乖離数が前記第1判定値以下でかつ前記乖離数の蓄積値が0以上の所定の第2判定値より大きいときに、前記設定値から所定のオフセット電圧に対応するオフセット値を減じるとともに、前記乖離数の前記蓄積値を0にリセットするステップを有することを特徴とする。
【0020】
本発明のバースト信号の受信方法の第3の態様は、前記バースト信号の受信方法の第1の態様において、前記ステップ(d)は、前記乖離数が前記第1判定値より大きいときは、前記乖離数に所定の比例制御定数を乗じた比例成分と前記乖離数の蓄積値に所定の積分制御定数を乗じた積分成分とをそれまでの前記設定値に加算することで前記設定値を更新するものであることを特徴とする。
【0021】
本発明のバースト信号の受信方法の第4の態様は、前記バースト信号の受信方法の第2の態様において、前記バースト信号に比べて大きな正の前記基準電圧に対応する設定値を前記設定値の初期値とし、前記比例制御定数及び前記積分制御定数がともに負であり、前記オフセット電圧が正であることを特徴とする。
【0022】
本発明のバースト信号の受信方法の第5の態様は、前記バースト信号の受信方法の第3の態様において、前記バースト信号に比べて大きな正の前記基準電圧に対応する設定値を前記設定値の初期値とし、前記比例制御定数及び前記積分制御定数がともに負であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のパルス受信機によれば、バースト信号を受信してその復号成功回数が所定値以上となるように判定閾値を制御することで、符号誤り率を目標値以下に低減してバースト信号を復号することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の好ましい実施の形態におけるパルス受信機について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0026】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るパルス受信機の構成を、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態のパルス受信機100の構成を示すブロック図である。本実施形態のパルス受信機100は、バンドパスフィルタ(BPF)110、低ノイズ増幅器(LNA)120、コンパレータ130、デコード部140、制御部150、及びD/A変換器160を備えている。図示しない送信機から無線あるいは有線にて送信されるデジタル情報を含むバースト信号10は、伝送路で減衰や雑音等の影響を受けた後、本実施形態のパルス受信機100で受信される。
【0027】
パルス受信機100で受信されるバースト信号10は、1パルスの幅が数ns(ナノ秒)以下の複数のパルスからなるパルス列を含み、そのパルス列の位置関係によって情報を変調するパルス位置変調(PPM)が行われている。バースト信号は、例えば
図2に示すように、「1」の基本データに対応するパルスパターン10aと、「0」の基本データに対応するパルスパターン10bで構成されている。
【0028】
図2において、同図(a)に示す「1」の基本データに対応するパルスパターンには、2つのパルス列11、12を割り当てているのに対し、同図(b)に示す「0」の基本データに対応するパルスパターンにはパルス列11のみが割り当てられ、「1」の基本データに対応するパルスパターンにおけるパルス列12に相当する位置にはパルス列が割り当てられていない。これにより、パルス列11を基準に所定の位置にパルス列12があるか否かで、「1」または「0」の基本データに復号できる。なお、
図2において、パルス列11と12はともに同じパルス列とされているが、異なったパルス列であってもよい。
【0029】
パルス受信機100で受信されたバースト信号10は、まずBPF110に入力され、ここで帯域が制限された後、LNA120に出力される。LNA120では、BPF110を通過した信号が一定レベルまで増幅され、次にコンパレータ130に出力される。コンパレータ130では、LNA120から入力した信号が基準電圧Vthと比較され、該入力信号が基準電圧Vthを超えるときは「High」に相当する信号を出力する一方、該信号が基準電圧Vth以下のときは「Low」に相当する信号を出力する。このようにして、コンパレータ130は受信波形に対応するパルス列20を出力する。
【0030】
コンパレータ130から出力されるパルス列20は、デコード部140に入力され、ここで順次「1」または「0」の基本データに復号され、情報30として出力される。
図1では、パルス受信機100に接続される外部機器としてパソコン(PC)1が接続されており、デコード部140から出力される情報30がPC1に出力される。デコード部140で基本データに復号されなかったパルス列の情報は、外部機器に出力されないようにしている。
【0031】
パルス受信機100において、デコード部140で情報が適切に復号されるためには、コンパレータ130から入力されるパルス列20が、受信したバースト信号10を正確に再生したものとなっている必要がある。パルス受信機100に入力されるバースト信号10は、
図2に示すようなパルス列11、12を有しているが、パルス受信機100に受信されるまでの伝送路で減衰や雑音等の影響を受けると、コンパレータ130で受信したバースト信号10を正確に再生できなくなる場合がある。
【0032】
たとえば、
図3に示すように、パルス列11、12にノイズ13が混入し、このノイズ13が重畳された信号がコンパレータ130に入力されたとき、コンパレータ130に入力される基準電圧Vthが適切に設定されていないと、ノイズ13をバースト信号10のパルスと誤検知してしまうおそれがある。
図3に示す例では、基準電圧Vthとして符号14の設定値を用いたときは、ノイズ13に影響されずに基本データに正しく復号することが可能であるが、符号15の設定値を基準電圧Vthに用いたときは、ノイズ13をパルスと判定し、基本データを誤って復号してしまうか、
図2(a),(b)に示したパルスパターンのいずれにも一致しないパターンに再生されるために復号そのものができなくなる。その結果、デコード部140において、バースト信号10で送信される情報が適切に復号されなかったり、誤った情報に復号されてしまうおそれがある。
【0033】
上記説明のように、バースト信号10で送信される情報をデコード部140で適切に復号するためには、コンパレータ130でパルス有無の判定閾値に用いる基準電圧Vthを好適に設定しておく必要がある。本実施形態のパルス受信機100では、デコード部140からの情報を基に、制御部150が基準電圧Vthを適切な値に制御する。パルス受信機100における基準電圧Vthの制御方法を以下に説明する。
【0034】
デコード部140は、上記説明のようにパルス列20を情報30に復号するとともに、所定の時間(カウント時間Ts)にわたって復号に成功した回数をカウントし、そのカウント数(復号成功回数DR)を制御部150に出力する。デコード部140においてカウントされる復号成功回数とは、復号された情報の真偽とは関係なく、カウント時間Tsにわたって復号に成功した回数をいう。ここで、復号に成功したとされるのは、コンパレータ130から入力したパルス列を、
図2に示すような予め記憶している基本データのパルスパターンと照らし合わせ、「1」または「0」の基本データのパルスパターンに一致した場合である。そのため、ノイズ13等の影響によって、例えば「0」が「1」と誤って復号された場合も、復号に成功したものとして復号成功回数にカウントされる。これに対し、ノイズ13等の影響によって、再生されたパルスパターンが予め記憶している基本データのパルスパターンと一致せず、「1」にも「0」にも復号できなかった場合は、復号成功回数には含まれない。
【0035】
デコード部140は、カウント時間Ts(一例として、Ts=500ms)の間に、上記の復号に成功したとされる回数をカウントし、これを復号成功回数DRとして制御部150に出力している。制御部150は、デコード部140から通知される復号成功回数DRをもとに、コンパレータ130で用いる基準電圧の設定値Vthを制御する。
【0036】
制御部150において、カウント時間Tsにわたってカウントした復号成功回数DRをデコード部140から入力し、これを用いてコンパレータ130に出力する基準電圧の設定値Vthを算出する方法を、以下に説明する。
【0037】
デコード部140による復号が適切であるとされる復号成功回数DRの目標値を復号目標回数DR
TGTとする。復号目標回数DR
TGTは次式のように表せる。
DR
TGT=Br・Ts (1)
ここで、Brはデータ伝送速度を表す。一例として、データ伝送速度Brを100kbpsとし、カウント時間Tsを500msとするとき、復号目標回数DR
TGTは50000回となる。
【0038】
上記の復号目標回数DR
TGTとデコード部140でカウントされた復号成功回数DRとの差を乖離数Errとする。乖離数Errは次式で算出される。
Err=DR
TGT−DR (2)
【0039】
制御部150では、上記の式(2)で算出される乖離数Errを用いて、基準電圧の設定値Vthを次式により更新する。(なお、以下では、記号Vthは、文脈に応じ、コンパレータ130に供給されるアナログ値としての基準電圧、または制御部150内で更新操作の対象となる(基準電圧の)設定値を意味するものとする。)
Vthnew=Vth+P・Err+I・ΣErr (3)
ここで、Vthnewは、更新後の基準電圧設定値を表し、Vthは更新前の現在の基準電圧設定値を表している。また、ΣErrは乖離数の累積値を表し、P、Iは、あらかじめ設定された定数の比例制御定数及び積分制御定数である。
【0040】
式(3)は、基準電圧の設定値Vthを乖離数Errの比例成分P・Errと積分成分I・ΣErrで更新することを示している。式(3)に基づく基準電圧設定値Vthの更新では、比例制御定数Pと積分制御定数Iを適切に設定することにより、設定値Vthを速やかにかつ安定的に好適な値に更新することができる。
【0041】
式(3)に基づいて更新された基準電圧の設定値Vthnewは、制御部150からD/A変換器160に出力され、ここでアナログ信号に変換される。このアナログ信号は、コンパレータ130で用いる基準電圧VthとしてD/A変換器160からコンパレータ130に出力される。
【0042】
式(3)に基づいて行われる基準電圧の設定値Vthの更新は、乖離数Errが第1の判定値P1以下になるまで繰り返し行われる。これにより、基準電圧設定値Vthが好適な値に制御され、符号誤り率を小さくして良好な受信機を提供することが可能となる。好適な例として、第1の判定値P1として0が設定される。この場合、デコード部140における復号の失敗がないように基準電圧Vthが更新制御される。
【0043】
好ましくは、基準電圧設定値Vthの初期値として、コンパレータ130に入力される増幅された(正極性の)バースト信号に比べて大きな正の電圧値に対応する値が設定され、式(3)に用いられている比例制御定数P及び積分制御定数Iをともに負の定数とする。これにより、制御部150は、基準電圧の設定値Vthを初期値から徐々に小さくしていくことで、乖離数Errが第1の判定値P1以下になるように制御する。コンパレータ130に設定される基準電圧設定値Vthの初期値としては、例えば250mVとすることができる(後述の
図5を参照。)。
【0044】
本実施形態のパルス受信機100において、コンパレータ130に用いられる基準電圧Vthを更新する制御部150の制御の流れを、
図4を用いて説明する。
図4は、制御部150により行われる制御の流れを示すフロー図である。
【0045】
まず、ステップS1において、制御部150の制御に用いるパラメータに初期値を設定する。まず、制御部150からD/A変換器160を介してコンパレータ130に出力する基準電圧の設定値Vthnewに、初期値として所定の大きな電圧値に対応する設定値Vthmaxを設定する。Vthmaxは、上記のように、コンパレータ130に入力される増幅された(正極性の)バースト信号に比べて大きな正の基準電圧に対応する設定値である。さらに、乖離数Err及び乖離数の積分値ΣErrには0を設定する。
【0046】
ステップS2では、パルス受信機100が通信中か否かを判定している。通信中か否かの判定は、バースト信号10を受信したか否かで行うことができる。パルス受信機100が通信中と判定したときは、次のステップS3に進む一方、通信中でないと判定したときは制御を終了する。
【0047】
ステップS3では、現在の基準電圧設定値Vthに最後に更新された基準電圧の設定値Vthnewを設定し、これをD/A変換器160に出力する。ステップS4では、デコード部140からカウント時間Tsの間の復号成功回数DRを入力し、ステップS5で式(2)より乖離数Errを算出する。
【0048】
ステップS6では、乖離数Errが第1の判定値P1以下であるか否かを判定し、乖離数Errが第1の判定値P1以下のときはステップS7に進む一方、乖離数Errが第1の判定値P1より大きいときはステップS8に進む。ステップS7では、復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTに達したことになるので、乖離数の積分値ΣErrを0にリセットする。
【0049】
一方、ステップS8に進んだときは、式(3)より基準電圧の更新値Vthnewを算出する。この更新された基準電圧の設定値Vthnewは、次のサイクルのステップS3でD/A変換器160に出力され、さらにコンパレータ130に出力されて基準電圧Vthに用いられる。ステップS9では、それまでに蓄積された乖離数Errの積分値ΣErrに、ステップS5で算出された乖離数Errを加算して積分値ΣErrを更新する。更新された積分値ΣErrは、次の周期のステップS8の基準電圧の更新値Vthnewの算出に用いられる。
【0050】
図4に示すフロー図では、ステップS6で乖離数Errが第1の判定値P1以下であると判定されるまでは、ステップS2からステップS9までの処理が繰り返し行われる。これにより、基準電圧Vthは、復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTを達成するように更新制御される。その結果、符号誤り率を目標値以下に低減してバースト信号を復号させるようにすることが可能となる。
【0051】
パルス受信機100において、制御部150を用いて基準電圧Vthを更新制御する代わりに、基準電圧Vthの値を種々の固定値に設定した場合の復号成功回数DR、及び符号誤り率BERの変化を、
図5に示す。ここで、符号誤り率BERは、バースト信号10が正しい情報に復号されなかった割合を示している。復号成功回数DRには誤って復号された場合も成功回数として含まれており、符号誤り率BERには、復号できなかった回数と誤って復号した回数の両方が含まれる。
図5では、復号目標回数DR
TGTを50000回とし、復号成功回数DRを符号51で示し、符号誤り率BERを符号52で示している。
【0052】
図5より、基準電圧Vthが185mV以下のときに、復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTに達している。また、符号誤り率BERも、基準電圧Vthが185mV以下のとき良好な通信に必要な符号誤り率(BER=10
−3程度以下)を確保することが可能になることがわかる。
【0053】
上記の通り、本実施形態のパルス受信機100では、復号目標回数DR
TGTを適切に設定し、復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTに達するように制御部150で基準電圧の設定値Vthを制御することにより、通信を行うのに良好な符号誤り率BERを確保することが可能となる。本実施形態のパルス受信機では、受信信号の復号状況をもとに、良好な符号誤り率BERを確保して受信することが可能となり、別の信号を付加したり別の受信回路を設けたりする必要がない。これにより、小型・低コストで安定したパルス受信性能を持つパルス受信機を提供することができる。
【0054】
なお、基準電圧Vthが80mV以下で復号成功回数DRが大幅に低下しているが、これは基準電圧Vthが低すぎるとノイズを適切に処理できなくなることを示している。また、基準電圧Vthが185mVを超えても復号成功回数DRが大幅に低下しているが、これは基準電圧Vthが高すぎるとバースト信号10に含まれるパルス信号を検知できなくなることを示している。
【0055】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るパルス受信機の構成を、以下に説明する。
図5によると、基準電圧Vthを高いレベルVthmaxから順次低下させていき、基準電圧Vthが185mVにおいて復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTに達してから、さらに基準電圧Vthを低下させたときに符号誤り率BERが最良となっている。
【0056】
そこで、本実施形態では、復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTに達したときの電圧から、所定の正のオフセット電圧Voffsetをさらに減ずるようにする。
図5に示す例では、復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTに達したときの電圧185mVから、オフセット電圧Voffsetとして例えば15mVを減ずることで、基準電圧Vthを170mVとする。このとき、符号誤り率BERは、良好な通信に必要な値(BER=10
−3程度以下)に比べて十分低い値(1×10
−6程度以下)となる。なお、復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTに達したときであって、乖離数の積分値ΣErrも十分小さいとき(後述の第2の判定値P2以下であるとき)は、オフセット電圧Voffsetを減ずる必要はない。
【0057】
第2の実施形態における制御部150の処理の流れを、
図6を用いて説明する。
図6は、制御部140により行われる制御の流れを示すフロー図である。本実施形態では、第1の実施形態における
図4のフロー図と比較して、ステップS6で乖離数Errが第1の判定値P1以下であると判定されたときの処理が異なっている。すなわち、ステップS6で乖離数Errが第1の判定値P1以下であると判定されると、ステップS21で乖離数の積分値ΣErrが第2の判定値P2以下であるか否かの判定が行われる。ここで、第2の判定値P2としては、0以上の値を設定する。
【0058】
ステップS21で、乖離数の積分値ΣErrが第2の判定値P2以下であると判定されると、制御部150は基準電圧の更新値Vthnewを算出することなくその周期の処理を終了する。この場合には、それまでの更新値Vthnewはさらに更新されることなく、ステップS3でD/A変換器160に出力される。
【0059】
一方、乖離数の積分値ΣErrが第2の判定値P2より大きいと判定されると、ステップS22で乖離数の積分値ΣErrが0にリセットされ、ステップS23で次式により基準電圧の設定値を更新する。
Vthnew=Vth−Voffset (4)
この基準電圧Vthnewは、ステップS3でD/A変換器160に出力され、さらにコンパレータ130に設定されて用いられる。
【0060】
上記説明のように、第2実施形態では、第1実施形態で得られる基準電圧よりもさらに正のオフセット電圧Voffsetを減じることにより、第1実施形態よりもさらに小さい符号誤り率BERで情報を復号することが可能となっている。オフセット電圧Voffsetを減じない第1の実施形態で算出される基準電圧を用いたときと、オフセット電圧Voffsetを減じた第2の実施形態で算出される基準電圧を用いたときとで、符号誤り率BERを比較した結果を
図7に示す。
【0061】
図7では、横軸を伝送路におけるバースト信号10の損失(減衰量)とし、縦軸を符号誤り率BERとしており、第1の実施形態の基準電圧を用いたときの符号誤り率を符号61で示し、第2の実施形態の基準電圧を用いたときの符号誤り率を符号62で示している。また、第2の実施形態で減じられる正のオフセット電圧Voffsetを15mVとしている。
図7に示すように、オフセット電圧Voffsetを減じた第2の実施形態の基準電圧を用いたときの方が、伝送路におけるバースト信号10の損失によらず、符号誤り率BERが大幅に低減されている。
【0062】
伝送路の状態を変化させてバースト信号10の受信レベルを変化させたとき、受信レベルに応じて符号誤り率BERがどのように変化するかを、第2実施形態を適用したときと適用しないときとで比較した結果を
図8に示す。ここでは、第2実施形態を適用しないときの基準電圧Vthとして、固定値を用いている。
図8において、符号70は、第2実施形態を適用したときの符号誤り率を示し、符号71〜75は、基準電圧Vthをそれぞれ120、160、180、190,195mVに固定したときの符号誤り率を示している。同図より、第2実施形態を適用した場合には、基準電圧としていずれの固定値を用いた場合よりも、広範囲の受信レベルにわたって符号誤り率BERが低減されており、バースト信号10の良好な復号が実現されていることがわかる。
【0063】
上記の通り、第2実施形態では、復号成功回数DRが復号目標回数DR
TGTに達するときの基準電圧Vthからさらに正のオフセット電圧Voffsetを減ずることにより、符号誤り率BERをさらに小さくすることが可能となる。本実施形態のパルス受信機では、第1の実施形態よりもさらに良好な符号誤り率BERを確保して受信することが可能となり、別の信号を付加したり別の受信回路を設けたりする必要がない。これにより、小型・低コストで安定したパルス受信性能を持つパルス受信機を提供することができる。
【0064】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るパルス受信機の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるパルス受信機の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。