(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の蛍光検出装置及び蛍光検出方法を適用したフローサイトメータについて、詳細に説明する。
<第1実施形態>
(フローサイトメータの構成)
まず、
図1を参照して、第1実施形態のフローサイトメータの構成について説明する。
図1は、本実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。フローサイトメータは、測定対象物12にレーザ光を照射し、レーザ光が照射された測定対象物12から発せられる蛍光を受光することにより、測定対象物12の情報を取得することができる。
フローサイトメータは、フローセル10と、レーザ光源部20と、第1受光部30と、第2受光部40と、制御部50と、分析装置60と、出力部70と、を備える。また、フローセル10の下流には、測定対象物12を回収するための容器16が配置される。以下、各構成について詳細に説明する。
【0013】
細胞、DNA(Deoxyribonucleic Acid)、RNA(Ribonucleic Acid)、酵素、蛋白等の測定対象物12は、シース液に囲まれてフローセル10の内部を流れる。後述するように、レーザ光源部20が測定対象物12にレーザ光を照射し、その際に発せられる蛍光から測定対象物12の情報を取得するため、測定対象物12には、蛍光色素14が予め付与されている。蛍光色素14は、例えば、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)等が用いられる。フローセル10の内部では、シース液に囲まれた測定対象物12が、流体力学的絞り込みを受けることにより細い液流となって、フローセル10の内部を流れる。
【0014】
レーザ光源部20は、例えば、350nm〜800nmの可視光帯域の波長を有し、所定の変調信号を用いて強度変調されたレーザ光を測定対象物12に照射する。
図2に示すように、レーザ光源部20は、レーザ光源21と、レンズ系22と、レーザドライバ23とを有している。
レーザ光源21は、強度が一定のCW(連続波)レーザ光を強度変調して出射する。
レンズ系22は、レーザ光源21から出射されたレーザ光を、フローセル10中の所定の測定点(測定場)に集束させる。
レーザドライバ23は、後述する制御部50と電気的に接続されており、制御部50から供給された変調信号の周波数(変調周波数)でレーザ光の強度を変調するように構成されている。
なお、レーザ光源部20は、1つのレーザ光源を用いてもよいし、複数のレーザ光源を用いてもよい。複数のレーザ光源が用いられる場合には、複数のレーザ光源からのレーザ光がダイクロイックミラー等を用いて合成されることにより、測定場に向けて出射されるレーザ光が形成されることが好ましい。
【0015】
レーザ光を出射する光源として、例えば、半導体レーザを用いることができる。レーザ光の出力は、例えば、5mW〜100mWである。また、変調周波数は、その周期が蛍光緩和時間に比べてやや長く、例えば、10MHz〜200MHzである。
【0016】
第1受光部30は、フローセル10の測定場を基準として、レーザ光源部20と反対側に配置される。第1受光部30は、フローセル10の測定場を通過する測定対象物12にレーザ光が照射されたときに生じる前方散乱光を受光する。
第1受光部30は、例えば、フォトダイオード等の光電変換器を備える。光電変換器は、受光した前方散乱光を電気信号に変換する。
第1受光部30の光電変換器によって変換された電気信号は分析装置60へ出力され、当該電気信号は、測定対象物12がフローセル10の測定場を通過するタイミングを知らせるためのトリガ信号として用いられる。
また、第1受光部30は、例えば、前方散乱光を光電変換器に集束させるレンズ系(図示省略)と、レーザ光が光電変換器に直接入射しないようにレンズ系の測定対象物12側前面に設けられた遮蔽板(図示省略)とを有してもよい。
【0017】
第2受光部40は、レーザ光源部20から出射されるレーザ光の出射方向に対して垂直方向であって、且つ、フローセル10中の測定対象物12の移動方向に対して垂直方向に配置されている。第2受光部40は、フローセル10の測定場を通過する測定対象物12にレーザ光が照射されたときに測定対象物12から発せられる蛍光と、レーザ光の側方散乱光とを、光増幅器で増幅して受光する。
図3に示すように、第2受光部40は、レンズ系41と、ダイクロイックミラー42と、ハーフミラー43と、バンドパスフィルタ(BPF)44a,44bと、光増幅器45a,45bと、信号処理部46a,46bと、パワースプリッタ47と、90度位相シフタ48と、を有する。
レンズ系41は、第2受光部40に入射した光を集光する。
ダイクロイックミラー42は、レンズ系41を透過した光のうち、レーザ光の側方散乱光の波長領域の光を反射し、蛍光の波長領域を含む波長領域の光を透過させるミラーである。なお、レーザ光の側方散乱光の波長領域の光は、ダイクロイックミラー42によって反射された後、光吸収素子42aによって吸収される。
ハーフミラー43は、ダイクロイックミラー42を透過した蛍光の一部を透過させるとともに、残りの蛍光を反射することにより、蛍光を2方向に分配するミラーである。なお、ハーフミラー43の代わりに、ビームスプリッタを用いてもよい。
BPF44a,44bは、光増幅器45a,45bそれぞれの前面に設けられ、所定の波長帯域の蛍光のみを透過させるフィルタである。なお、透過させる蛍光の波長帯域は、蛍光色素14が発する蛍光の波長帯域に対応して設定されている。また、BPF44a,44bの代わりに、バンドリジェクトフィルタを用いてもよい。
【0018】
光増幅器45a,45bは、例えば半導体光増幅器であり、後述するように、入射した蛍光の光信号の増幅を行う。また、光増幅器45a,45bは、レンズ系41から入射口までの光の光路長が互いに同一になるように配置されている。これは、後述するように、光増幅器45a,45bのそれぞれで光増幅したとき、光増幅器45a,45bが、変調信号を用いたバイアス信号で誘導放出を行うことにより、変調信号に対する蛍光の位相差の情報を含む光信号を出力するためである。
また、光増幅器45a,45bは、パワースプリッタ47を介して制御部50と電気的に接続されており、制御部50から送信された変調信号でバイアスされている。また、光増幅器45bは、90度位相シフタ48を介してパワースプリッタ47と接続されている。制御部50から送信された変調信号は、パワースプリッタ47により分配される。そして、光増幅器45aには、制御部50から送信された変調信号と同相の信号が供給される。一方、光増幅器45bに供給される信号は、90度位相シフタ48によって、制御部50から送信された変調信号に対して90度位相がシフトしている。これにより、光増幅器45a,45bのそれぞれを構成するレーザ媒質の原子あるいは分子は、変調信号により励起される。そして、蛍光が入射すると、レーザ媒質の原子あるいは分子が誘導放出することにより、光増幅器45a,45bに入射した蛍光は増幅される。
光増幅器45a,45bを用いることにより、蛍光の光信号が電気信号に変換される前に蛍光の光信号を増幅することができる。
【0019】
次に、蛍光の光信号の増幅について詳細に説明する。蛍光の光信号の増幅は、変調信号及び変調信号を90度位相シフトした信号をバイアス信号として用いて、光増幅器45a,45bに光の誘導放出を行わせることにより、行われる。以降では、光増幅器45aを用いて蛍光の光信号の増幅を行う場合について説明する。
光増幅器45aを構成するレーザ媒質の原子あるいは分子は、変調信号のエネルギーを吸収すると、基底状態から励起状態に遷移し、一定時間後に光を放出(自然放出)して、再び基底状態に戻る。また、励起状態の原子あるいは分子は、変調信号と同じ周波数の光信号(蛍光信号)が入射されると、同一方向に向けて連鎖反応的に光を放出(誘導放出)する。レーザ媒質の原子あるいは分子が単位時間あたりに自然放出、吸収または誘導放出する確率は、それぞれA、B
12W、B
21Wで表される。ここで、Wは入射光のエネルギー密度であり、A,B
12,B
21は状態が遷移する確率である。また、原子あるいは分子の集団が熱平衡状態にある場合、B
12=B
21であることから、以降ではB
12及びB
21のそれぞれを単にBと表す。
基底状態の原子あるいは分子の密度(占位数)をN
1、励起状態の原子あるいは分子の密度(占位数)をN
2としたとき、N
1,N
2の時間変化を表す微分方程式(レート方程式)は、以下の式(1)のように示される。下記の式(1)では、励起状態の原子あるいは分子の密度の時間変化(式(1)の左辺)は、励起状態の原子あるいは分子の自然放出の発生頻度(式(1)の右辺第1項)と、誘導放出の発生頻度(式(1)の右辺第2項)に応じて低減することを示している。
【0020】
【数1】
また、N
1+N
2=Nとすると、式(1)は、以下の式(2)のように示される。
【0022】
ここで、光増幅器45aのバイアス信号の電圧を、変調信号と同じ角周波数ωで変化させた場合には、確率A,BはそれぞれA=acosωt、B=bcosωtで表される。なお、a,bは確率値であるため、a,b≦1である。また、蛍光は変調信号で強度変調されたレーザ光により発するので、光増幅器45aに入射する入射光(蛍光)も角周波数ωで変調されていることから、変調信号に対する蛍光の位相差をθとすると、入射光のエネルギー密度Wは、W=wcos(ωt+θ)で表される。なお、wは入射光の強度である。A、B及びWの値を式(2)に代入し、三角関数の加法定理を用いると、式(2)は以下の式(3)のように示される。
【0024】
式(3)において、tは入射光が光増幅器45aを通過する時間である。また、
【0026】
【数5】
としたとき、式(3)の一般解は、定数変化法を用いることにより、以下の式(6)のように示される。
【0027】
【数6】
なお、式(6)において、∫p(t)dtは、式(4)より以下の式(7)のように示される。
【0028】
【数7】
ここで、変調信号の変調周波数は、例えば、10
8Hz程度であることから、角周波数ω>>1となる。また、入射光の強度wは、例えば、数mW〜数十mW程度である。これにより、(a/ω)・sinωtの値と、(bw/2ω)・sin(2ωt+θ)の値は、極めて小さくなることから、ほぼ影響が無いと考えられる。したがって、式(7)は、以下の式(8)のように近似することができる。
【0030】
また、式(6)の∫dt´q(t´)exp(∫p(t)dt)は、以下の式(9)のように示される。
【0031】
【数9】
ここで、入射光が進行する方向の光増幅器45aの長さは、数cm〜数十cm程度であることから、t<<1とすることができる。したがって、式(9)のexp{(bwcosθ)t}は、以下の式(10)のように近似することができる。
【0032】
【数10】
さらに、Nの値はアボガドロ数程度の大きさと考えられることから、式(9)は、以下の式(11)のように近似することができる。
【0033】
【数11】
したがって、式(6)の右辺第2項は、以下の式(12)のように示される。
【0035】
よって、式(6)は、式(12)を用いて以下の式(13)のように示される。
【0036】
【数13】
そして、光増幅器45aから出力される蛍光は、N
2の時間微分で表すことができることから、式(13)を用いて以下の式(14)のように示される。
【0037】
【数14】
式(14)より、光増幅器45aから出力される蛍光の光信号には、入射光(蛍光)の周波数と変調信号の周波数との加算周波数を成分とする高周波成分と、入射光の周波数と変調信号の周波数との差分周波数を成分とする低周波成分とが含まれている。すなわち、変調信号を用いたバイアス信号で誘導放出が行われることにより、光増幅器45aは、入射光すなわち蛍光の光信号と、変調信号とをミキシングした結果を得ることができる。また、蛍光の光信号と、蛍光の光信号と同じ周波数を有する変調信号とをミキシングした結果が得られることによって、レーザ光によって変調された蛍光を復調することができる。さらに、蛍光の光信号は、Nb/2(>1)倍に増幅されている。
このようにして、光増幅器45aは、変調信号を用いたバイアス信号で誘導放出を行うことにより、蛍光の光信号の増幅し、これによりミキシングした結果を得ることができる。なお、光増幅器45aから出力された蛍光の光信号の低周波成分は、後述する信号処理部46aにおいて、変調信号に対する蛍光の位相差の情報である実数部成分(Re成分)として得られる。
また、光増幅器46bは、制御部50から送信された変調信号に対して90度位相シフトした信号を用いたバイアス信号で誘導放出を行うことにより、光増幅器45aと同様に、蛍光の光信号を増幅する。このとき、光増幅器46bは、蛍光の光信号とバイアス信号とをミキシングした結果を得ることができる。なお、光増幅器45bから出力された蛍光の光信号の低周波成分は、後述する信号処理部46bにおいて、変調信号に対する蛍光の位相差の情報である虚数部成分(Im成分)として得られる。
【0038】
次に、
図4を参照して、信号処理部46a,46bの構成について説明する。
図4は、信号処理部46a,46bの構成の一例を示す図である。信号処理部46aは、光増幅器45aから出力された蛍光の光信号を電気信号に変換し、信号処理部46bは、光増幅器45bから出力された蛍光の光信号を電気信号に変換する。
図4に示すように、信号処理部46a,46bは、BPF461と、光電変換器462と、ローパスフィルタ(LPF)463と、A/D変換器464と、を有している。
【0039】
BPF461は、光電変換器462の前面に設けられ、所定の波長帯域の蛍光の光信号を透過させるフィルタである。これにより、迷光を抑制することができる。なお、BPF461の代わりに、バンドリジェクトフィルタを用いてもよい。
光電変換器462は、例えばフォトダイオードや光電子増倍管等であり、光信号を受光し、光信号を電気信号に変換して出力する受光素子を有している。ここで、フォトダイオードは、光電子増倍管と比べて、量子効率が優れている一方で、増幅率が劣るという特性を有している。このため、蛍光の光信号を増幅する光電変換器を用いて蛍光を検出する従来技術の構成では、フォトダイオードを光電変換器に用いることが困難であった。一方、本実施形態では、蛍光の光信号が光増幅器45a,45bによって増幅されていることから、光電変換器で光信号を増幅させなくてもよい。これにより、本実施形態では、従来技術において光電変換器に用いることが困難であったフォトダイオードを、光電変換器462に用いることができる。
LPF463は、光電変換器462から出力された蛍光の電気信号のうち、変調信号の周波数と蛍光信号の周波数との加算周波数を成分とする高周波成分を除去し、変調信号の周波数と蛍光信号の周波数との差分周波数を成分とする低周波成分を通過させるためのフィルタである。これにより、蛍光の電気信号の実数部成分(Re成分)が、信号処理部46aのLPF463から出力され、蛍光の電気信号の虚数部成分(Im成分)が、信号処理部46bのLPF463から出力される。また、LPF463から低周波信号が出力されることにより、LPF463以降の信号処理において、高周波回路よりも製作するのが容易な低周波回路を用いてフローサイトメータを構成することができる。
なお、光電変換器462に低速な受光素子を用いた場合、電気信号の高周波成分が受光素子において自ずと除去されるので、例えば、光電変換処理後に、電気信号用のフィルタを用いて電気信号の高周波成分を除去する処理を行なくてもよい。これにより、信号処理部46a,46bの部品点数を低減することができるので、結果として、フローサイトメータの製造コストを低減することができる。
信号処理部46aのA/D変換器464は、LPF463から出力された蛍光の電気信号のRe成分をデジタルデータに変換する。信号処理部46bのA/D変換器464は、LPF463から出力された蛍光信号のIm成分をデジタルデータに変換する。変換されたデジタルデータのそれぞれは、分析装置60に供給される。
【0040】
次に、
図5を参照して、制御部50の構成について説明する。
図5は、制御部50の構成の一例を示す図である。制御部50は、変調信号の変調周波数を制御する。
図5に示すように、制御部50は、発振器51と、パワースプリッタ52と、アンプ(AMP)53,54と、を有している。
【0041】
発振器51は、所定の周波数の正弦波信号を生成し、出力する。発振器51から出力される正弦波信号は変調信号として用いられる。正弦波信号の周波数は、例えば、10〜200MHzである。
発振器51から出力された所定の周波数の正弦波信号(変調信号)は、パワースプリッタ52により、2つのアンプ53,54に分配される。アンプ53で増幅された変調信号
は、レーザ光源部20へ出力される。また、アンプ54で増幅された変調信号は、第2受光部40へ出力される。アンプ54で増幅された変調信号を第2受光部40へ出力するのは、前述したように、変調信号を、第2受光部40の光増幅器45a,45bのバイアス信号として用いるためである。
【0042】
次に、
図6を参照して、分析装置60の構成について説明する。
図6は、分析装置60の構成の一例を示す図である。分析装置60は、CPUを主体として構成されたコンピュータであり、第2受光部40の信号処理部46a,46bそれぞれから出力された電気信号を用いて、変調信号に対する蛍光の位相差を算出し、この位相差から蛍光の蛍光緩和時間を求める。分析装置60は、位相差算出部61と、蛍光緩和時間算出部62とを有している。位相差算出部61及び蛍光緩和時間算出部62は、コンピュータが実行可能なプログラムを実行することで形成されるモジュールである。
なお、分析装置60は、本発明における処理部の一例である。
【0043】
位相差算出部61は、第2受光部40の信号処理部46aから受信したRe成分のデータと、第2受光部40の信号処理部46bから受信したIm成分のデータとを用いてtan
−1(Im/Re)(ImはIm成分のデータの値、ReはRe成分のデータの値である)を算出することにより、変調信号に対する蛍光の位相差θを算出する。算出された位相差θは、蛍光緩和時間算出部62に送信される。
なお、位相差算出部61は、算出された位相差θの代わりに、補正された位相差θ
1を算出して、位相差θ
1を蛍光緩和時間算出部62に送信してもよい。ここで、補正された位相差θ
1は、位相差θと補正位相θ´とを用いてθ−θ´を算出することにより求められる。また、補正位相θ´は、分析装置60に設けられた記憶装置(図示省略)に予め記憶保持されており、以下のように求められる。すなわち、既知の蛍光緩和時間で蛍光を発する既知の蛍光色素を測定対象物12として、この測定対象物12の蛍光が測定される。このとき、補正された位相差θ−θ´から求められる蛍光緩和時間τが、蛍光色素の持つ既知の蛍光緩和時間に一致するように、補正位相θ´が定められる。このように、補正位相θ´は、計測結果が、既知の蛍光緩和時間に一致するように較正するための補正量である。
蛍光緩和時間算出部62は、位相差算出部61から受信した位相差θ(または、補正された位相差θ
1)を用いて、蛍光緩和時間τをτ=tanθ/(2πf)に従って求める。蛍光緩和時間τを、上記式に従って求めることができるのは、蛍光は、略1次遅れの緩和応答に従うからである。
【0044】
出力部70は、例えば、表示装置やプリンタ等であり、分析装置60が算出した結果、具体的には蛍光緩和時間等を出力する。
以上が本実施形態のフローサイトメータの概略構成である。
【0045】
(蛍光検出方法)
図7は、本実施形態の蛍光検出方法のフローの一例を説明する図である。本実施形態の蛍光検出方法は、測定対象物12にレーザ光を照射し、レーザ光が照射された測定対象物12から発せられる蛍光を受光することにより、測定対象物12の情報を取得することができる。
まず、制御部50の発振器51は、所定の周波数の正弦波信号を変調信号として生成し(ステップS1)、生成された変調信号をレーザ光源部20及び第2受光部40に供給する(ステップS2)。
【0046】
次に、レーザ光源部20のレーザドライバ23は、制御部50から変調信号が供給されると、変調信号の変調周波数でレーザ光の強度を変調する。強度変調されたレーザ光は、レーザ光源21から出射され、フローセル10中の測定場を通過する測定対象物12にレーザ光が照射される(ステップS3)。
一方、第2受光部40の光増幅器45a,45bは、発振器51から供給された変調信号を用いたバイアス信号でバイアスされている。測定場を通過する測定対象物12にレーザ光が照射された際に発せられる蛍光が第2受光部40に受光されると、光増幅器45a,45bは、蛍光の光信号の増幅を行う(ステップS4)。これにより、変調信号に対する蛍光の位相差の情報であるRe成分を含む光信号と、変調信号に対する蛍光の位相差の情報であるIm成分を含む光信号とがそれぞれ増幅される。また、光増幅器45a,45bにて増幅された光信号は、信号処理部46a,46bにおいてデジタルデータに変換される。このとき、蛍光信号のRe成分及びIm成分のデジタルデータが出力される。
【0047】
次に、分析装置60の位相差算出部61は、第2受光部40から受信したRe成分及びIm成分のデジタルデータを用いて、変調信号に対する蛍光信号の位相差θを算出する(ステップS5)。
そして、蛍光緩和時間算出部62は、位相差算出部61が算出した位相差θを用いて、蛍光緩和時間τを求める(ステップS6)。
出力部70は、求められた蛍光緩和時間τ等の情報を出力する。
【0048】
このように、本実施形態によれば、光増幅部45a,45bを用いて蛍光の光信号を増幅しているので、蛍光の光信号が電気信号に変換される前に蛍光の光信号を増幅することができる。これにより、入射する蛍光の光子数が少ない場合であっても、蛍光の強度を高めることができるので、蛍光の光信号が電気信号に変換された後に、蛍光の電気信号が他の電気信号に埋もれて抽出困難となり、またノイズとして除去される可能性を低減することができる。したがって、蛍光の強度が低い場合であっても、蛍光を検出することができ、ひいては精度の高い蛍光緩和時間を取得することができる。
また、変調信号を用いたバイアス信号でバイアスされた光増幅部45a,45bが蛍光の光信号を増幅することにより、蛍光の光信号とバイアス信号とがミキシングされる。このため、例えば、電気信号を混合するためのミキサー等の混合器を設ける必要がない。したがって、光信号を増幅するための装置と、混合器とを個別に設ける必要がないので、部品点数を低減することができ、フローサイトメータの製造コストを低減することができる。
【0049】
(変形例)
図8を参照して、上記実施形態の変形例について説明する。
図8は、
図3に示した第2受光部の変形例を説明する図である。
上記実施形態では、蛍光の光信号を2つに分配して光増幅器45a,46bに入射することにより、蛍光の位相差のRe成分を含む光信号が光増幅器45aから出力され、蛍光の位相差のIm成分を含む光信号が光増幅器45bから出力されるように構成されている。本変形例では、
図8に示すように、蛍光の光信号を1つの光増幅器45aに入射するように構成した点において上記実施形態と異なる。
本変形例の光増幅器45aは、位相シフタ49を介して制御部50と電気的に接続されている。位相シフタ49は、制御部50から受信した変調信号を光増幅器45aに送信する。また、位相シフタ49は、所定時間(例えば数マイクロ秒)経過する毎に制御部50から所定の制御信号を受信すると、変調信号の位相を切替えて光増幅器45aに送信する。具体的には、位相シフタ49は、制御部50から送信された変調信号と同相の正弦波信号を光増幅器45aに送信し、制御部50から制御信号を受信すると、制御部50から送信された変調信号に対して90度位相シフトした余弦信号を光増幅器45aに送信する。
これにより、蛍光の位相差のRe成分を含む光信号と、蛍光の位相差のIm成分を含む光信号とを、1つの光増幅器45aから出力することができる。
また、本変形例では、蛍光の光信号を2つに分配する必要がないので、上記実施形態のハーフミラー43、BPF44b、光増幅器45b、信号処理部46b、パワースプリッタ47を設ける必要がない。このため、部品点数を低減して、フローサイトメータの製造コストを低減することができる。
【0050】
(第2実施形態)
以下に、第2実施形態の蛍光検出装置及び蛍光検出方法を適用したフローサイトメータについて説明する。第2実施形態のフローサイトメータの構成は、第1実施形態のフローサイトメータの構成とほぼ同じである。第2実施形態のフローサイトメータが第1実施形態のフローサイトメータと異なる点は、信号値が符号化された信号(符号化系列信号)を、レーザ光を強度変調するための変調信号及びバイアス信号として用いる点にある。具体的には、本実施形態の発振器51の構成が、第1実形態の発振器51の構成と異なっている。
【0051】
図9を参照して、本実施形態の発振器51の構成について説明する。
図9は、第2実施形態のフローサイトメータに含まれる発振器51の構成の一例を説明する図である。
発振器51は、所定の符号化系列信号を生成し、この符号化系列信号を、アンプ53,54に供給する。発振器51は、変調信号としてレーザ光源部20に供給される符号化系列信号の生成と、光増幅器45a,45bのバイアス信号として第2受光部40に供給される符号化系列信号の生成を繰り返し行う。
なお、符号化系列信号として、信号値が所定長さで符号化された信号であって、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交するように構成された信号が用いられる。ビット方向とは、信号値の配列方向をいう。このような符号化系列信号として、例えば、PN符号化系列信号が好適に用いられる。PN符号化系列信号は、M系列あるいはGold系列の符号を用いた信号であることが好ましく、特に、M系列が後述する相関特性の点で好ましい。
なお、M系列とは、発振器20が、シフトレジスタ符号発生器を有し、このシフトレジスタ符号発生器は、m段(mは自然数)のシフトレジスタと、シフトレジスタの各段の状態の論理結合をシフトレジスタの入力へフィードバックする論理回路とで構成されるとき、信号長さLが2m−1で表されたものをいう。Gold系列は、2つのM系列を、同期してビットごとに加算したものである。従って2つの符号発生器の位相関係は不変であり、生成される系列の長さはもとになる系列の長さと同じ長さであるが、M系列にはならないものである。
【0052】
PN符号化系列信号は、値が0および1からなる1ビット信号で、ビット方向にビット単位でシフトすることによってできる自己相関関数の値が0又は−1/n(nは後述する系列符号の長さ)となる信号である。
PN符号化系列信号は、一例を挙げると以下のように作成されるPN系列符号のデータを用いて信号化したものである。
次数k=5、符号系列の長さn=31とし、係数h
1=1,h
2=1,h
3=0,h
4=1,h
5=1とし、初期値a
0=1,a
1=1,a
2=0,a
3=1,a
4=0としたとき下記式(15)に示す漸化式で一意的にPN系列符号C={a
k}(kは自然数)を求めることができる。
【0054】
さらに、系列符号C={a
0,a
1,a
2,………,a
n−1}を用いて基準となる符号化系列信号を生成するとともに、さらにこの系列符号Cをq1ビット、ビット方向にビットシフトさせた系列符号T
q1・C(T
q1は、ビット方向にq1ビット、ビットシフトする作用素である)を用いて符号化系列信号を生成する。ここで、系列符号T
q1・Cは、{a
q1,a
q1+1,a
q1+2,………,a
q1+N−1}である。さらに、系列符号Cをq2ビット(例えば、q2=2×q1)、ビット方向にビットシフトさせた系列符号T
q2・Cを用いて符号化系列信号を生成する。
この符号化系列信号を生成するために用いられる系列符号C,T
q1・C,T
q2・Cは、互いに直交する特性を有するので、生成される符号化系列信号も互いに直交する性質を有する。
【0055】
具体的に説明すると、長さnの系列符号をC={b
0,b
1,b
2,………,b
n−1}とし、上記作用素T
qを系列符号Cに作用させた系列符号をC´=T
q・C、すなわちC´={b
q,b
q+1,b
q+2,………,b
q+n−1}としたとき、系列符号CとC´との間の相関関数R
cc´(q)は下記式(16)のように定義される。ここで、N
Aは系列符号における項b
iと項b
q+i(iは0以上n−1以下の整数)の値が一致する数であり、N
Dは系列符号における項b
iと項b
q+iの値の不一致の数である。また、N
AとN
Dの和は系列符号長さnとなる(N
A+N
D=n)。ここで、iとq+iはmod(n)で考える。
【0057】
上記PN符号化系列において2つの系列を項毎にmod(2)で加算した結果はもとのPN系列符号を巡回シフトしたPN系列符号になる性質があり、PN系列符号の値が0となる個数は値が1となる個数より1つだけ少ないので、N
A−N
D=−1となる。これより、PN系列符号において下記式(17)および(18)に示す値となる。
【0060】
上記式(17)より、ビットシフト量が0、すなわちq=0(mod(n))の場合、式(17)に示すようにR
cc´(q)の値は1となり自己相関性を有する。一方、ビットシフト量が0でない、すなわちq≠0(mod(n))の場合、式(18)に示すようにR
cc´(q)の値は−1/nとなる。ここで系列符号長さnを大きくすることにより、R
cc´(q)(q≠0)の値は0に近づく。
すなわち、系列符号CとC´は自己相関性を持ち、かつ略直交性を有するといえる。
このようなPN系列符号の値を0,1として時系列信号としたのがPN符号化系列信号である。
発振器51は、このようなPN符号化系列信号を生成する。
【0061】
次に、本実施形態の発振器51の構成について、
図9を参照して説明する。変調信号に対する蛍光の位相差θの分解能を高めるためには、符号化系列信号のデータ間の時間間隔Δtを極めて狭くする必要がある。すなわち、上記PN符号化系列信号の1ビットシフトする時間幅が小さくなるようにする必要がある。このため、発振器51は、高速の符号化系列信号を発振させる必要があることから、
図9に示すように、FPGA(Field Programmable Gate Array)51a、パラレル・シリアル(P/S)変換器51b,51c、同期信号分割器51d,51e、クロック信号発生器51fを用いて構成することが好ましい。
パラレル・シリアル変換器51b,51cを用いるのは、符号化系列信号を高速化させるためである。また、クロック信号発生器51fを用いるのは、パラレル・シリアル変換器51b,51cのシリアル信号として生成され、アンプ53及びアンプ54に送られる2つの符号化系列信号を同期あるいは遅延時間を制御するためである。同期あるいは遅延時間を制御するのは、光増幅器45a,45bを用いた増幅処理のとき、アンプ54に送られる符号化系列信号が、光増幅器45a,45bにて蛍光の光信号とミキシングされることにより、光増幅器45a,45bに入射する蛍光の光信号との間で相関関数を作成するためである。なお、光増幅器45a,45bに入射する蛍光の光信号は、アンプ53に送られる符号化系列信号によって変調されている。
発振器51は、分析装置60からのパルス信号、あるいは図示されない制御装置からのパルス信号、に応じて、符号化系列信号を繰り返し生成する。
【0062】
バイアス信号として光増幅器45a,45bに供給される符号化系列信号は、発振器51で繰り返し生成され、しかも、生成されるタイミングが、符号化系列信号のデータ間の時間間隔Δtずつ、すなわち、符号化系列信号の1ビットずつ、ビット方向にシフトしている。このときのシフトによる遅延は、変調信号としてレーザ光源部20に供給される符号化系列信号の生成のタイミングを基準とした遅延である。
光増幅器45a,45bでの増幅時におけるミキシングでは、遅延した符号化系列信号をa(t+Δ)とし、入射光(蛍光)の光信号をb(t)としたとき、a(t+Δ)×b(t)の演算を行う。ここでΔは、遅延時間であり、Δ=k・Δt(kは自然数であり、データポイント上の1ビットのシフト量を表す)である。
【0063】
信号処理部46a,46bそれぞれのLPF463は、光増幅器45a,45bにてミキシングされた蛍光の信号のうち、符号化系列信号に応じて設定される周波数をカットオフ周波数として高周波成分の信号成分を除去して、低周波成分の信号を通過させる。
【0064】
分析装置60の位相差算出部61は、発振器51で繰り返し生成される符号化系列信号の生成のタイミングに同期して、上記低周波成分の信号を、符号化系列信号の1周期の時間、積算する。これにより、遅延時間Δにおける相関関数の値を求めることができる。この遅延時間Δが順次変更されることにより、相関関数を求めることができる。
また、位相差算出部61は、符号化系列信号の1周期の時間のうち相関関数の値が最大となる遅延時間Δ
1を求め、求められた遅延時間Δ
1を用いて2πf・Δ
1(fは変調周波数の値である)を算出することにより、変調信号に対する蛍光の位相差θを算出する。なお、位相差算出部61において求められる相関関数は、回路の帯域が無限大である場合、自己相関関数となる。
蛍光緩和時間算出部62は、位相差算出部61から受信した位相差θを用いて、蛍光緩和時間τをτ=tanθ/(2πf)に従って求める。
【0065】
このように、本実施形態によれば、変調信号が、信号値が符号化された信号であって、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交するように構成された信号である。このため、位相差算出部61にて相関関数が求められるとき、相関がない状態では、近似的に値が0になる。このため、蛍光の遅延時間を示す相関関数のピーク位置が明確に形成される。したがって、蛍光の位相差θを精度良く求めることができ、精度の高い蛍光緩和時間を取得することができる。
【0066】
なお、相関関数のSN比を高めることにより、遅延時間Δ
1を求めやすくするためには、相関関数の最大値以外の値(=−1/n)が0に近くなる、すなわち近似的に直交性を実現する(略直交する)ことが必要である。このためには、符号化系列信号の1周期のデータ数nを大きくする必要がある。しかし、データ数nを大きくすることにより、1周期に対応する時間T(=n・Δt)が増大し、相関関数を0〜Tの遅延時間の範囲で算出するには多くの計算時間を要する。
したがって、符号化系列信号を用いて蛍光検出を行う場合、測定場における測定対象物12の滞在時間を長くすることが好ましく、例えば、蛍光顕微鏡に本実施形態の蛍光検出装置及び蛍光検出方法を適用することが好ましい。
【0067】
以上、本発明の蛍光検出装置及び蛍光検出方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態および変形例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。