特許第5654613号(P5654613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5654613成膜装置及び成膜装置のクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5654613
(24)【登録日】2014年11月28日
(45)【発行日】2015年1月14日
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜装置のクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/44 20060101AFI20141218BHJP
【FI】
   C23C16/44 J
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-545758(P2012-545758)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2011076883
(87)【国際公開番号】WO2012070560
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2013年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2010-260896(P2010-260896)
(32)【優先日】2010年11月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】豊田 聡
(72)【発明者】
【氏名】岡村 吉宏
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4459329(JP,B2)
【文献】 特開2009−108390(JP,A)
【文献】 特開2000−150498(JP,A)
【文献】 特開2010−016086(JP,A)
【文献】 特開2009−194125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00〜16/56
C23C 14/00〜14/58
WPI
JSTPlus(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に導入された成膜ガスと接触して成膜種を生成する発熱体を備えた成膜装置において、
前記成膜ガスを前記チャンバ内に供給する成膜ガス供給系と、
前記チャンバ内に付着した成膜残渣を排出するクリーニングの際にタングステンの発熱体を非加熱状態にする制御部と、
ClFを含むクリーニングガスを前記チャンバ内に供給するクリーニングガス供給系と、
前記クリーニングの際に前記チャンバ内を100℃以上200℃以下の目標温度に調整する温度調整部と、
前記成膜残渣と前記クリーニングガスとが反応して生成された反応生成物を前記チャンバから排出する排出系とを備え
前記温度調整部は、前記目標温度以上の沸点を有する熱媒を用いて該熱媒と前記チャンバとの間で熱交換を行う温度調整機構を含み、
前記温度調整機構は、前記熱媒を冷却する冷却部と、クリーニングの際に前記熱媒が前記目標温度未満である場合に前記熱媒を加熱する加熱部とを備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記成膜ガス供給系は、TiN、TaN、WF、HfCl、Ti、Ta、Tr、Pt、Ru、Si、SiN、SiC及びGeのうち、少なくともいずれか一つを含む薄膜、又は有機系薄膜を形成するための前記成膜ガスを供給することを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記チャンバ内を密封状態に封止するシール部材をさらに備え、
前記シール部材は、パーフロロゴム系、又はパーフロロエラストマー系からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
チャンバ内に設けられた発熱体に成膜ガスを接触させて成膜種を生成することにより基板に薄膜を形成する成膜工程の後に、前記チャンバ内に付着した成膜残渣を除去するクリーニング工程を行う成膜装置のクリーニング方法において、
タングステンの発熱体を非加熱状態にする工程と、
前記チャンバ内を100℃以上200℃以下の目標温度に調整する温度調整工程と、
ClFを含むクリーニングガスを前記チャンバ内に導入し、前記クリーニングガスと前記チャンバ内に付着した成膜残渣とを反応させて、生成された反応性生物を排出する工程とを備え
前記温度調整工程は、前記目標温度以上の沸点を有する熱媒と前記チャンバとの間で熱交換を行う温度調整部を用いて、クリーニングの際に前記チャンバ内の温度を前記目標温度に調整することを特徴とする成膜装置のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜装置のクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を利用して基板に薄膜を形成する化学的気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)としては、プラズマCVD法、熱CVD法、ホットワイヤCVD法及び触媒CVD法が知られている。ホットワイヤCVD法及び触媒CVD法は、加熱したタングステン等の金属ワイヤに原料ガスを接触させて成膜種に分解する方法であって、基板や下地膜への電気的損傷及び熱的損傷を大幅に抑制できるといった利点を有する。
【0003】
ところで、CVD法を用いて連続的に成膜処理を実行する場合、成膜に関わる化学反応が成膜室内で繰り返されるため、成膜種の一部がチャンバ内部に残渣として堆積し続けてしまう。成膜室内に堆積する成膜残渣は、壁面から剥離して、パーティクルの要因となったり、薄膜中に混入して歩留まりを低下させたり、成膜プロセスの変動を招いたりする虞がある。そのため、CVD装置では、成膜室にハロゲン等の活性種を含むクリーニングガスを供給して成膜残渣を化学的に除去するクリーニングが定期的に行われている。このクリーニング法では、クリーニング後、成膜室内を大気に曝すことなく成膜処理を続けて実行できる利点を有する。
【0004】
しかし、このクリーニング方法をホットワイヤCVD装置又は触媒CVD装置に採用した場合、触媒線としてのワイヤがクリーニングガスによって浸食され、徐々に線径が小さくなる。浸食された触媒線を交換する際には、成膜室を大気に曝さなくてはならないが、触媒線の交換の度に成膜室を大気に曝すと、成膜室の真空度や温度等が大きく変動し、メンテナンス時間に多大な時間が費やされる。
【0005】
これに対し、特許文献1では、触媒線である発熱体を2000℃以上に加熱保持することにより、クリーニングガスと触媒線との反応性を低下させる方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2では、触媒線を成膜室から退避させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4459329号公報
【特許文献2】特開2009−108390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された方法では、2000℃以上といった高温で触媒線発熱体を加熱するため、触媒線中の金属原子や不純物が飛散し、成膜工程の際に薄膜中に混入する虞がある。
【0009】
特許文献2の方法では、装置が複雑化する問題がある。さらに、基板上方に触媒を退避させる稼動部があると、パーティクルが発生したり、成膜プロセスの変動が生じることがあり好ましくない。
【0010】
本発明は、上記した従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、歩留りを低下させることなく発熱体の浸食を抑制することができる成膜装置及び成膜装置のクリーニング方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、装置を複雑化させることなく発熱体の浸食を抑制することができる成膜装置及び成膜装置のクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様は、成膜装置である。成膜装置は、チャンバ内に導入された成膜ガスと接触して成膜種を生成する発熱体と、前記成膜ガスを前記チャンバ内に供給する成膜ガス供給系と、前記チャンバ内に付着した成膜残渣を排出するクリーニングの際にタングステンの発熱体を非加熱状態にする制御部と、ClFを含むクリーニングガスを前記チャンバ内に供給するクリーニングガス供給系と、前記クリーニングの際に前記チャンバ内を100℃以上200℃以下の目標温度に調整する温度調整部と、前記成膜残渣と前記クリーニングガスとが反応して生成された反応生成物を前記チャンバから排出する排出系とを備え、前記温度調整部は、前記目標温度以上の沸点を有する熱媒を用いて該熱媒と前記チャンバとの間で熱交換を行う温度調整機構を含み、前記温度調整機構は、前記熱媒を冷却する冷却部と、前記熱媒が前記目標温度未満である場合に前記熱媒を加熱する加熱部とを備える
【0013】
この構成によれば、クリーニングの際に発熱体が非加熱状態に制御されるため、クリーニングガスによる発熱体の浸食を抑制することができる。つまり、本構成では、チャンバ内を上記温度範囲にすることにより、クリーニングガスが、発熱体から熱を吸収しなくても自発的に熱分解するので、発熱体を、構成原子が飛散するような高温に加熱する必要がない。このため、発熱体から飛散した構成原子が不純物として薄膜内に混入することを防止することができる。従って、クリーニングの際に発熱体の浸食を抑制しつつ、歩留まりの低下を抑制することができる。また、発熱体を非加熱状態としてもチャンバの温度調整を行うことで発熱体の浸食を抑制しながらクリーニングを行うことができるため、発熱体を退避させる機構のような装置が不要となり、装置の複雑化を抑制できる。
また、この構成によれば、チャンバを冷却する冷却機構と、チャンバを加熱する加熱機構とを一体化することができるため、装置の大型化を抑制することができる。
【0016】
好ましくは、前記成膜ガス供給系は、TiN、TaN、WF、HfCl、Ti、Ta、Tr、Pt、Ru、Si、SiN、SiC及びGeのうち、少なくともいずれか一つを含む薄膜、又は有機系薄膜を形成するための前記成膜ガスを供給する。
【0017】
この構成によれば、成膜装置によって形成される薄膜残渣を、ClFを含むクリーニングガスを用い且つチャンバ内を上記目標温度にすることによって効率的に除去することができる。
【0018】
好ましくは、前記成膜装置は前記チャンバ内を密封状態に封止するシール部材をさらに備え、前記シール部材は、パーフロロゴム系、又はパーフロロエラストマー系からなる。
【0019】
この構成によれば、チャンバを封止するシール部材は、クリーニングガスに含まれるClFに対して耐食性を有し、かつ100℃以上200℃以下に調整されるチャンバ内の温度に対して耐熱性を有するものとなる。これにより、クリーニングの実施によるシール部材の浸食を抑制して好適なシール性を提供することができる。
【0020】
本発明の第二の態様は、成膜工程とクリーニング工程とを実施する成膜装置のクリーニング方法である。成膜工程では、成膜装置は、チャンバ内に設けられた発熱体に成膜ガスを接触させて成膜種を生成することにより基板に薄膜を形成する。クリーニング工程は、前記チャンバ内に付着した成膜残渣を除去するために成膜工程の後に実施される。本発明の第二の態様によるクリーニング方法は、タングステンの発熱体を非加熱状態にする工程と、前記チャンバ内を100℃以上200℃以下の目標温度に調整する温度調整工程と、ClFを含むクリーニングガスを前記チャンバ内に導入し、前記クリーニングガスと前記チャンバ内に付着した成膜残渣とを反応させて、生成された反応性生物を排出する工程とを備える。前記温度調整工程は、前記目標温度以上の沸点を有する熱媒と前記チャンバとの間で熱交換を行う温度調整部を用いて、クリーニングの際に前記チャンバ内の温度を前記目標温度に調整する
【0021】
この方法によれば、クリーニングの際に発熱体が非加熱状態に制御されるため、クリーニングガスによる発熱体の浸食を抑制することができる。つまり、本方法では、チャンバ内を上記温度範囲にすることにより、クリーニングガスが、発熱体から熱を吸収しなくても自発的に熱分解するので、発熱体を、構成原子が飛散するような高温に加熱する必要がない。このため、発熱体から飛散した構成原子が不純物として薄膜内に混入することを防止することができる。従って、クリーニングの際に発熱体の浸食を抑制しつつ、歩留まりの低下を抑制することができる。また、発熱体を非加熱状態としてもチャンバの温度調整を行うことで発熱体の浸食を抑制しながらクリーニングを行うことができるため、発熱体を退避させる機構のような装置が不要となり、装置の複雑化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】触媒CVD装置の模式図。
図2】触媒CVD装置の温調機構を示す模式図。
図3】各種ゴムをClFガスに曝した際の重量変化を示すグラフ。
図4】ClFガスによるエッチングレートの温度依存性を示すグラフ。
図5】クリーニング前後の触媒線の電圧変化を示すグラフ。
図6】ClFガスによるエッチングレートの温度依存性を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1図6にしたがって説明する。
【0024】
図1に示すように、成膜装置1は、触媒CVD装置であって、内側に成膜室11を有するチャンバ10を備えている。チャンバ10は、筒状のチャンバ本体10aと、チャンバ本体10aの上部開口を覆う蓋部10bとを備えている。蓋部10bとチャンバ本体10aとの間には、成膜室11を密閉状態に封止するシール部材10fが介装されている。
【0025】
また、チャンバ本体10aには、成膜室11に各種ガスを導入するためのガス導入部10dが設けられている。ガス導入部10dには、ガス供給路10eが貫通形成されている。チャンバ本体10aの側壁には、チャンバ本体10aを介して成膜室11の温度を上昇させるヒータ10hが設けられている。ヒータ10hは図示しない電源に接続され、電流を供給されることでチャンバ本体10aを介して成膜室11内を加熱する。
【0026】
またチャンバ10内には、ヒータ10hによる熱が直接伝達されないような位置に、温度センサS1が設けられている(図2参照)。温度センサS1は、成膜室11内の温度を検出する。
【0027】
このチャンバ10は、支持体12に固定されている。チャンバ10と支持体12との間には、環状のシール部材10cが介装されている。このシール部材10cは、成膜室11内を密閉状態に封止する。
【0028】
この支持体12には、ガス供給路12aが形成されている。このガス供給路12aは、支持体12にチャンバ10を固定した際に、チャンバ10のガス供給路10eと連結される。
【0029】
支持体12のガス供給路12aには、成膜ガス供給系13が接続されている。成膜ガス供給系13は、四塩化チタン(TiCl)ガス、アンモニア(NH)ガス、窒素(N)ガス等の成膜ガスをそれぞれ充填した各種ガス供給源14a〜14cと、マスフローコントローラ15と、供給バルブ16とを含む。
【0030】
また支持体12には、成膜室11内の気体を排気する排出路12bが設けられている。排出路12bには図示しないターボ分子ポンプ等のポンプが接続され、ポンプが駆動することにより成膜室11内の流体が吸引排気される。排出路12bは排出系の一例である。
【0031】
また、成膜室11内には、クリーニングガスを成膜室11内に噴射するシャワープレート20が設けられている。シャワープレート20は、略円盤状に形成されており、底壁部20aと、該底壁部20aを囲むように設けられた側壁部20bとから構成されている。底壁部20a及び側壁部20bによって囲まれる内側の空間は、クリーニングガスを一時貯留するバッファ20cとして機能する。また底壁部20aには、複数のノズル20nが貫通形成されている。
【0032】
このシャワープレート20は、チャンバ10の外側に設けられたクリーニングガス供給系21に接続されている。クリーニングガス供給系21は、三フッ化塩素(ClF)ガス、及びアルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガス等の不活性ガスをそれぞれ充填したクリーニングガス供給源22a〜22bと、マスフローコントローラ23と、供給バルブ24とを含む。尚、不活性ガスの種類は特に限定されない。
【0033】
ClFガスは高い腐食性を有する。また、本実施形態では、クリーニング工程や成膜工程の際には成膜室11内が100℃〜200℃程度に加熱される。このため、クリーニングガスとしてClFガスが用いられる場合、成膜室11を封止する上記シール部材10cには、耐食性及び耐熱性が要求される。シール部材の材料について検討した結果を図3に示す。図3は、従来使用されていたフッ素ゴムと、一般的に耐食性を有するとされているパーフロロエラストマ及びパーフロロゴムとを比較したものであり、各種ゴムを同じ形状及び大きさにした試料をClFガスに120℃程度の温度下で2時間曝して、各資料の重量変化を測定したものである。尚、パーフロロゴムの測定にはそれぞれ組成が異なる2つのものを用いた。パーフロロエラストマー、パーフロロゴムA,Bは、フッ素ゴムよりも重量変化率が低かった。パーフロロエラストマーはパーフロロゴムA,Bよりも重量変化率が大きいが、その差はわずかであるため、パーフロロエラストマー、パーフロロゴムA,Bのいずれも使用可能であることがわかった。
【0034】
このシャワープレート20の下方には、図1に示すように、触媒線30が設けられている。触媒線30は、発熱体の一例である。触媒線30の材料と形状は特に限定されないが、本実施形態では触媒線30はタングステンから形成され、2つの屈曲部を有するように折り曲げられている。触媒線30の両端はチャンバ10の蓋部10bに固定されている。触媒線30は2つの屈曲部の間に位置する直線部を含み、この直線部は成膜室11の上方を水平方向に横切るように配置されている。この触媒線30の直線部は、シャワープレート20の下面に近接している。触媒線30は、定電流電源31に接続され、定電流電源31は制御部1Cによってオン及びオフされる。触媒線30は、定電流電源31から電流を供給されることで発熱し、成膜時には1700℃〜2000℃に到達する。高温加熱された触媒線30にアンモニアガスを接触させてアンモニアガスを加熱分解し、ラジカル種を生成する。そして、このラジカル種とTiClとを反応させることにより成膜種を生成する。
【0035】
また、成膜室11の底部には基板ステージ35が設けられている。基板ステージ35は、基板Sを静電気力で吸着する静電チャック(図示略)を備えるとともに、基板ステージ35を所定温度に加熱するヒータ36を内蔵している。このヒータ36及びチャンバ10のヒータ10hは、制御部1Cによって通電及び非通電を制御される。
【0036】
さらにシャワープレート20とチャンバ10の蓋部10bとの間には、チャンバ10等を冷却、加熱するための温度調整プレート25が設けられている。シャワープレート20の上面は、温度調整プレート25に密着し、温度調整プレート25はチャンバ10の蓋部10bに固定されている。このため、温度調整プレート25とチャンバ10との間、温度調整プレート25とシャワープレート20との間で効率よく熱交換を行うことができる。
【0037】
図2は温度調整プレート25を含む温度調整機構26の模式図である。温度調整機構26は、略円盤状の温度調整プレート25の他に、熱媒を貯留する熱媒貯留部27と、熱媒を圧送するポンプ28と、熱媒を冷却する第1熱交換器29Aと、熱媒を加熱する第2熱交換器29Bと、熱媒貯留部27、温度調整プレート25等を連結し、熱媒を循環させる熱媒管26aとを含む。第1熱交換器29Aは冷却部の一例であり、第2熱交換器29は加熱部の一例である。
【0038】
熱媒貯留部27は、熱媒を流入する入口と熱媒を流出する出口とを備える液槽である。熱媒管26aの途中に設けられたポンプ28は、熱媒貯留部27に貯留された熱媒を温度調整プレート25に圧送する。また、熱媒管26aの管路内であって熱媒貯留部27と温度調整プレート25との間には、温度センサS2が設けられている。温度センサS2は、温度調整プレート25へと送出される熱媒の温度を検出し、温度検出信号を温度コントローラ26cに出力する。
【0039】
温度調整プレート25は、シャワープレート20の形状に合わせて略円盤状に形成されている。また、温度調整プレート25は、熱媒導入口25aと熱媒導出口25bとを備え、その内側には熱媒を流す流路を備えている。この流路の形状は特に限定されないが、例えば、熱媒を貯留する空間のみから構成してもよいし、温度調整プレート25内を複数回折れ曲がる屈曲形状(又はつづら折形状)でもよい。
【0040】
また、温度調整プレート25と熱媒貯留部27との間には、熱媒との間で熱交換を行う第1熱交換器29A及び第2熱交換器29Bが設けられている。第1熱交換器29Aの構成は特に限定されないが、例えば冷媒が循環する管路と、気体状の冷媒を圧縮して液状にするコンプレッサ、高圧の冷媒の圧力を開放する減圧バルブ、液状の冷媒を気化させて冷却する蒸発器等を備え、冷媒と熱媒との間で熱交換するように構成してもよい。
【0041】
第1熱交換器29Aは、温度センサS2から温度検出信号を入力した温度コントローラ26cから、温度検出信号に応じて生成されたフィードバック信号を入力する。そして、このフィードバック信号に基づいて、熱媒を目標温度に調整する。例えば、成膜工程の際には、熱媒を成膜用温度T1(120℃程度)に調整する必要があるが、管路内の熱媒が成膜用温度T1よりも高い場合には、第1熱交換器29Aには熱媒の温度を降下させるようにフィードバック信号が出力される。成膜用温度T1付近に温度を保持された熱媒は、成膜時に1700℃〜2000℃に昇温された触媒線30によって高温となった蓋部10bやシャワープレート20を冷却して成膜室11の温度をほぼ一定に保ち、成膜プロセス変動を抑制する。尚、熱媒を冷却する第1熱交換器29Aが駆動されている際には、第2熱交換器29Bは駆動されず熱媒を通過させるのみである。
【0042】
一方、第2熱交換器29Bは、第1熱交換器29Aが熱媒を冷却するのに対し、熱媒を加熱する。第2熱交換器29Bの構成は特に限定されないが、例えば熱媒が流れる管路に対し伝熱板を接触させて、伝熱板から発せられる熱を管路を介して熱媒に供給する構成でもよい。この第2熱交換器29Bもまた、温度コントローラ26cからフィードバック信号を入力し、該フィードバック信号に基づいて熱媒の温度を調整する。例えば、クリーニング工程の際には、熱媒をクリーニング用温度T2にするため、管路内の熱媒がクリーニング用温度T2よりも低い場合には、第2熱交換器29Bに対して熱媒の温度を上昇させるようにフィードバック信号が出力される。クリーニング用温度T2付近に温度調整された熱媒は、成膜室11内の温度を上昇させてクリーニングに適した温度に調整する。尚、熱媒を加熱する第2熱交換器29Bが駆動されている際には、第1熱交換器29Aは駆動されない。
【0043】
また、温度コントローラ26cは、チャンバ10に設けられた温度センサS1から温度検出信号を入力して、成膜室11が各工程に対して設定された目標温度に保持されているか否かを判断する。温度センサS1の検出温度が目標温度に対して所定温度以上離れている場合には、各熱交換器29A,29Bや、各ヒータ10h,36を制御することにより、成膜室11の温度を調整する。本実施形態では、温度調整機構26及びヒータ10h,36はそれぞれ、温度調整部の一例である。
【0044】
クリーニング工程の際に、TiNからなる成膜残渣を除去するには、成膜室11の温度を、クリーニングガスが熱分解し、且つ少なくとも分解したガスと触媒線30との反応速度が小さく、複数回クリーニングを繰り返しても触媒線30が劣化しない温度に調整することが好ましい。図4は、TiN膜をClFでエッチングした際のエッチング速度と成膜室11の温度との相関関係を示している。ここでの例では、ClFを200sccmで供給するとともに、Arガスを200sccmで成膜室11内に供給した。また、圧力を667Paとした。
【0045】
熱媒の温度を上昇させると、成膜室11の温度が上昇する。成膜室11の温度が100℃以上で、ClFガスによりTiNがエッチングされる。100℃〜160℃付近までは成膜室11の温度が上昇するに従いエッチング速度は大きくなり、160℃を超えると1000nm/min付近に収束する。このため、チャンバ10内、即ち成膜室11の温度は100℃以上が好ましい。しかしながら、200℃を超えると、シール部材10cが劣化する速度が大きくなる。また、200℃を越える温度域では、液状を維持して温度調整機構26に安定供給できる熱媒が少ない。よって熱媒のクリーニング用温度T2としては、100℃以上200℃以下が好ましい。また、プロセス上、効率的なエッチング速度は、100nm/min以上であり、このエッチング速度に到達する際の熱媒温度は120℃程度である。このため、クリーニング工程の際の目標温度は120℃以上160℃以下がより好ましい。
【0046】
また、図6に、100nmの厚さに形成したTaN薄膜をClFでエッチングした際のエッチング速度と成膜室11の温度との相関関係を示した。エッチング条件はTiN膜の場合と同じである。成膜室11の温度が40℃では、TaN薄膜は殆どエッチングされないが、100℃以上において、下地であるSi層が露出された。このため、TaN薄膜においても100℃以上200℃以下の温度が好ましい。
【0047】
また熱媒は、温度調整機構26内を安定して循環するために、クリーニング用温度T2でも、液状であることが好ましい。従って、熱媒が水である場合、循環させる際の安定性を確保できない。このため、例えばガルデンHT(登録商標)といった、沸点bpが150℃以上のパーフルオロポリエーテル系のフッ素系熱媒を好適に用いることができる。また、アルキルジフェニール系熱媒、シリコーンオイル系熱媒も好適に用いることができる。尚、沸点bpは、成膜室11の目標温度よりも高いものとする。
【0048】
<成膜工程>
次に、成膜工程の一例として、TiN薄膜を形成する工程について説明する。まず、排出路12bに接続されたポンプ(図示略)を駆動して、成膜室11内を所定の真空度に到達するまで真空排気する。そして、成膜装置1に連結されたゲートバルブ(図示略)を介して外部から基板Sを搬入し、基板ステージ35上に載置する。そして静電チャック(図示略)を駆動して、基板Sを静電チャックに吸着させる。
【0049】
さらにゲートバルブを閉状態とし、再び上記ポンプを駆動して成膜室11内を真空排気する。そして、制御部1Cの制御により、定電流電源31から触媒線30に電流が供給される。この通電より触媒線30は発熱し、その温度は1700℃〜2000℃に到達する。
【0050】
また、チャンバ10に設けられたヒータ10hを通電することにより、ヒータ10hを例えば120℃程度に加熱する。また、基板ステージ35に設けられたヒータ36にも通電してこのヒータ36の温度を例えば120℃程度にする。
【0051】
さらに、熱媒の温度を成膜用の成膜用温度T1に保持するために、温度コントローラ26cにより、第1熱交換器29A又は第2熱交換器29Bを駆動する。本実施形態では、成膜用温度T1は120℃に設定されている。例えば、熱媒の温度が成膜用温度T1よりも低い場合には、第2熱交換器29Bを駆動して熱媒の温度を上昇させ、熱媒の温度が成膜用温度T1よりも高い場合には、第1熱交換器29Aを駆動して、熱媒の温度を降下させる。成膜用温度T1に到達した熱媒は、触媒線30の発熱により熱せられたチャンバ10の蓋部10b、シャワープレート20等を冷却し、それらの部材を120℃付近に保持して温度平衡状態を保つ。
【0052】
触媒線30及びヒータ10h,36が上記温度にそれぞれ到達すると、成膜ガス供給系13が駆動されて、TiCl,NHといった成膜ガスが、ガス供給路10eを介して成膜室11内に供給される。成膜室11内に供給された成膜ガスのうち、NHガスは、高温に熱せられた触媒線30に接触して分解されてラジカル種となる。このラジカル種は、TiClとラジカル反応を連鎖的に進行させ、最終的に成膜種になる。そしてその成膜種は、成膜室11を拡散しつつ、基板Sの表面に堆積してTiN薄膜を形成する。このとき、ラジカル反応における中間生成物や、成膜室11を拡散した成膜種が、チャンバ10の内壁等に付着してTiNからなる成膜残渣を形成する。また、触媒線30は1700℃以上の高温になるため、成膜ガスは触媒線30の表面に付着せず、接触してもすぐに分解されて成膜室11内へ拡散する。
【0053】
成膜が完了すると、成膜ガス供給系13からの成膜ガス供給が停止されるとともに、静電チャックの駆動が解除され、基板Sがゲートバルブを介してチャンバ外へと搬送されて、1ロットの成膜工程が終了する。
【0054】
<クリーニング工程>
この成膜工程を複数ロット繰り返し、ロット数が所定回数に到達すると、クリーニング工程が実行される。本実施形態では、クリーニングガスとして、ClFガス及びArガスを用い、成膜室11の目標温度を130℃にした場合について説明する。
【0055】
まず、成膜工程の際に導入された成膜ガスを排出するために、上記ポンプを駆動して排気を行う。排気により成膜室11内が所定の真空度に到達すると、制御部1Cにより触媒線30への通電を停止して非通電状態とする。通電が停止されると、触媒線30は成膜室11の温度とほぼ同じ温度まで急速に冷却される。尚、排気段階と触媒線30への通電の停止段階は、順番を逆にしてもよい。
【0056】
さらに、チャンバ10に設けられたヒータ10hを通電して、ヒータ10hを目標温度付近の温度(例えば130℃)とするとともに、基板ステージ35のヒータ36もヒータ10hの温度付近に保持する。尚、ヒータ10h,35の温度は、成膜室11の目標温度に応じて設定されており、100℃以上200℃以下が好ましい。
【0057】
さらに、温度コントローラ26cの制御により、熱媒を、本実施形態のクリーニング用温度T2である例えば130℃に保持する。これにより成膜室11内は130℃付近に保たれる。本実施形態では、成膜工程が終了した後では、熱媒は成膜用温度T1である120℃付近であり、クリーニング用温度T2に到達させるためには熱媒を加熱する必要がある。このため温度コントローラ26cは、第2熱交換器29Bを駆動して、熱媒を加熱する。
【0058】
温度コントローラ26cは、チャンバ内に設けられた温度センサS1により、成膜室11内が目標温度付近に保持されているか否かを判断する。温度センサS1の検出温度が目標温度よりも所定温度以上高い場合、第1熱交換器29Aを制御して、熱媒の温度を下げるか、又はヒータ10h,36の少なくとも一方をオフ状態にするための信号を制御部1Cに出力する。検出温度が目標温度よりも所定温度以上低い場合、第2熱交換器29Bを制御して、熱媒の温度を上げる。このように温度コントローラ26cがフィードバック制御することにより、成膜室11は130℃付近に保持される。
【0059】
成膜室11が130℃付近に保持されると、制御部1Cにより、クリーニングガス供給系21を駆動し、シャワープレート20を介して、ClFガス及びArガスを成膜室11内に導入する。ClFガスの流量は100sccm以上500sccm以下が好ましい。100sccm未満の場合、成膜残渣に対するClFガスのエッチング速度が遅くなり、500sccmを超えるとエッチング速度は変わらない状態でガス消費量が多くなる。また、Arガス等の不活性ガスは、調圧のために用いられるため、0sccm以上500sccm以下の流量が好ましい。また圧力は、665Pa以上が好ましい。
【0060】
このとき成膜室11は、130℃付近に保持されているため、ClFガスは成膜室11内の熱エネルギーを吸収するのみによって分解する。熱分解したガスは、チャンバ内壁等に付着した成膜残渣と反応して、TiF、TiCl等といった反応生成物となる。この反応生成物は、成膜室11内を拡散した後、上記ポンプの駆動により排出路12bから成膜室11外へと排出される。
【0061】
このとき、触媒線30とクリーニングガスとは殆ど反応しないため、数回のクリーニングでは触媒線30は殆ど浸食されない。図5に、クリーニング工程の前後の触媒線30の電圧変化について検証した結果を示す。ここでは触媒線30には定電流(例えば14.2A)を供給しているため、触媒線30が浸食された場合には、その抵抗が大きくなり、触媒線30に印加される電圧が変化する。1ロット〜25ロットの間は触媒線30の電圧は変化が見られなかった。そして、25ロットの後にクリーニング工程を行った後に電圧を測定したが、クリーニング工程前と変化がみられなかった。即ち、120℃以上の温度下でClFガスを導入すると、熱分解されたClFガスは主にTiNとの間で反応が進み、タングステンからなる触媒線30は殆ど浸食されない。これは、上記温度範囲では、熱分解されたClFとTiNとの反応が主であり、タングステンと熱分解されたClFガスの反応は進みにくいためであると想定される。このため、触媒線30の構成分子を成膜室11に飛散させたり、触媒線30を浸食することなくクリーニング工程を行うことができる。
【0062】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0063】
(1)上記実施形態では、成膜装置1は、TiNからなる薄膜を形成するための成膜ガスを供給する成膜ガス供給系13と、ClFを含むクリーニングガスを供給するクリーニングガス供給系21と、チャンバ10内に付着した成膜残渣を排出するクリーニングの際に、触媒線30を非加熱状態にする制御部1Cとを備えた。また、チャンバ10内を、目標温度(100℃以上200℃以下)に温度調整する温度調整機構26と、成膜残渣とクリーニングガスとが反応して生成された反応生成物をチャンバから排出する排出路12bとを備えた。即ち、チャンバ10内を上記目標温度にすることにより、クリーニングガスによる触媒線30の浸食を抑制することができる。また、チャンバ10内を目標温度にすることにより、クリーニングガスが、触媒線30から熱を吸収しなくても自発的に熱分解するので、触媒線30を金属原子が飛散するような高温に加熱する必要がない。このため、触媒線30から飛散した構成原子が不純物として薄膜内に混入することを防止することができる。従って、クリーニングの際に触媒線30の浸食を抑制しつつ、歩留まりの低下を抑制することができる。また、クリーニングの際には、触媒線30を非加熱状態とし、チャンバ10の温度調整を行うのみでよいため、触媒線30を退避させる機構のような装置が不要となり、装置の複雑化を抑制できる。
【0064】
(2)上記実施形態では、温度調整機構26は、少なくとも目標以上の沸点を有する熱媒を備え、この熱媒とチャンバ10との間で熱交換を行う。温度調整機構26は、成膜工程の際に熱媒を冷却して、加熱されたチャンバ10を冷却する第1熱交換器29Aと、クリーニングの際に熱媒を加熱してチャンバ10を加熱する第2熱交換器29Bとを備えた。このため、チャンバを冷却する冷却機構と、チャンバを加熱する加熱機構とを一体化することができるため、装置の大型化を抑制することができる。
【0065】
(3)上記実施形態では、成膜室11を密封状態に封止するシール部材10cをパーフロロゴム系(又はパーフロロエラストマー系)から形成した。このため、クリーニングの際にClFガスを用いても、シール部材が浸食される速度を抑制することができる。
【0066】
尚、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
【0067】
・上記実施形態では、温度調整機構26により、チャンバ10等の冷却及び加熱を行うようにしたが、冷却部及び加熱部はそれぞれ別に設けてもよい。例えば、シャワープレート20上方の温度調整機構26を冷却部のみとして機能させ、チャンバ10内のヒータ10hや或いはヒータ36を加熱部として機能させてもよい。また、温度調整機構26の熱媒は、安定性が確保できる場合には気体でもよい。
【0068】
・上記実施形態では、成膜工程の際の熱媒の成膜用温度T1が、クリーニング工程の際のクリーニング用温度T2よりも低い場合について説明したが、成膜用温度T1がクリーニング用温度T2よりも高くてもよい。この場合、成膜工程において熱媒に蓄えられた熱エネルギーを利用して、成膜工程の後のクリーニング工程の際に熱媒に蓄えられた熱を放出させて、成膜室11の温度をクリーニング用温度T2に保つようにしてもよい。
【0069】
・上記実施形態では、温度調節機構26の冷却部及び加熱部を、熱媒管26aの途中に設けたが、熱媒貯留部27内に設けてもよい。また、温度センサS2は熱媒管26aの管路内に設けたが、熱媒貯留部27内に設けてもよい。
【0070】
・上記実施形態では、成膜装置1は、TiNを成膜する装置に具体化したが、TaN、WF、HfCl、Ti、Ta、Tr、Pt、Ru、Si、SiN、SiC及びGeのうち少なくともいずれか一つを含む薄膜、又は有機系薄膜を成膜する装置に具体化してもよい。この場合でも、ClFを含むクリーニングガスを用いて、成膜残渣を除去することができる。
【0071】
・上記実施形態では、本発明の成膜装置を触媒CVD装置として具体化したが、触媒作用のない発熱線(ホットワイヤ)を備え、該発熱線により成膜ガスを分解するホットワイヤ装置に具体化してもよい。ホットワイヤ装置は、触媒CVD装置と同様な構成である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6